製鉄所等で、高炉(溶鉱炉)を用いて鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する工程において副生する高炉スラグの中で、溶融状態のスラグに加圧水を噴射して急冷、粒状化した高炉水砕スラグ(以下、「水砕スラグ」と記載することがある。)は、粉末状にして水分とアルカリを加えると短時間で硬化する潜在水硬性という性質を有することから、古くからセメント原料(高炉セメント)やセメント混和材、地盤改良材等、広く有効に使用されてきた。
また、近年では、環境保護の観点から海砂の採取規制がなされる等、天然の砂が枯渇しつつあり、この天然砂の代わりに、土木工事用材料やコンクリート用細骨材として利用される機会が増えてきている。
しかし、水砕スラグを長期間、大気下に放置しておくと、アルカリを添加しなくてもゆっくりと硬化する自硬性ともいうべき性質も有することから、製鉄所からの出荷までの間、あるいは船舶等によって長距離を輸送され荷卸されるまでの間、または現場にてサイロなどの貯蔵槽や野積みされた状態で使用されるまでの間に長期間保管されると、スラグ同士が固結するといった不都合が生じることがある。
特に、コンクリートやアスファルト用細骨材として、整粒ないしは粒度調整のための軽い破砕処理(以下、破砕処理と略する)がなされた加工水砕スラグは、この破砕処理によって新たな破面が生じるために、より短い期間に固結しやすいという問題を有している。
この固結現象は、気温が高く、かつ降雨量の多い梅雨から夏季にかけて問題になりやすいことが知られており、その現象は以下のような反応機構によって進行すると考えられている。
まず、降雨や結露等によって水砕スラグが水分と接触すると、スラグ中のカルシウムといったアルカリ成分の溶出に伴い、スラグ周辺あるいはスラグ粒子間の液相のpHが上昇し、このアルカリ刺激に伴いさらにスラグ中のシリコンやアルミニウム等の成分が溶出する。
この成分溶出によって、水砕スラグ粒子近傍の液相中のカルシウムやシリコン、アルミニウム等の成分濃度が、エトリンガイトや珪酸カルシウム等に代表される各種水和生成物の飽和溶解条件まで増加すると、液相中に水和物が析出し、時間経過とともに次第に析出物が成長して、隣接するスラグ粒子同士の固結へ至ってしまう。
このような水砕スラグの、とりわけ破砕処理がなされた加工水砕スラグの有する問題点を改善し、有効利用を拡大する目的から、非特許文献1に代表されるような自硬性に関する硬化現象やそのメカニズムに関する検討がなされ、その結果、この水砕スラグの固結反応を防止ないしは抑制するいくつかの方法が従来から提案されてきた。
例えば、スラグ粒子表面に難溶性の炭酸カルシウムの皮膜を形成し、この皮膜によってスラグからのカルシウムなどの溶出が抑制され、水和反応ひいては固結反応を抑制するという原理に基づき、まず始めに、水砕スラグを破砕したものに炭酸ガスを接触させる方法(炭酸ガス処理法)として、特許文献1〜3が開示されている。
次に、炭酸ガスを溶解させた炭酸水溶液と水砕スラグを破砕したものを接触させる方法(炭酸水処理法)として、特許文献4が開示されている。
3番目に、破砕した水砕スラグを炭酸水溶液と接触させた後、さらに炭酸ガスと接触させる方法(炭酸水および炭酸ガスの併用処理法)として、特許文献5〜6が開示されている。
上記の炭酸ガスや炭酸水による炭酸カルシウム皮膜形成とは異なる原理として、4番目に、破砕された水砕スラグ中の活性なカルシウムを一旦中和する目的から酸性溶液を散布する方法(酸性溶液処理法)として、特許文献7が開示されている。
同様に5番目に、破砕された水砕スラグと水との接触性(濡れ性)を低下させ水和反応を遅延させる目的から、水砕スラグの表面に脂肪族オキシカルボン酸塩といった、各種の無機酸塩水溶液を散布・塗布する方法(界面活性材処理法)として、特許文献8〜9など、多数が開示されている。
また、水砕スラグの固結抑制方法とは異なるものの、本発明者らは同じく製鉄所などで副生するスラグからのアルカリ溶出を抑制するため、とりわけ製鋼スラグと炭酸ガスを接触させる方法について、その反応速度に及ぼすスラグ添加水分量、雰囲気相対湿度や温度といった各種要因の影響に関する研究室レベルでの実験や机上検討を経て、工業的にこの炭酸化処理を迅速に行うための現場実機レベルにおける試験を重ね、先に特許文献10に示す発明を出願するに至った。この特許文献10に記載されている製鋼スラグの処理方法は、スラグ間に自由水が存在し始める水分値未満で、かつ該水分値よりも10質量%少ない値以上の範囲となるように添加水分量を調整して通気性を確保した後に、炭酸ガスを含有し相対湿度75〜100%のガスを流すことによって、スラグ粒同士を固結させることなく常温下で従来よりもはるかに短時間に炭酸化処理を行うものである。
特開昭54−112304号公報
特開昭54−127895号公報
特開昭55−162454号公報
特開2003−327456号公報
特開2002−179441号公報
特開2003−313054号公報
特開昭54−71793号公報
特公昭58−35944号公報
特公昭58−35735号公報
特開2005−97076号公報
製鉄研究、301(1980)、p.19−28(新日本製鐵株式会社)
しかし、前記のさまざまな従来技術においては、以下のような問題点がある。
1番目の、特許文献1〜3に記載されている破砕された水砕スラグに気相状態の炭酸ガスを接触させる方法においては、例えば、払い出しのために一時的にスラグを貯蔵するホッパー内に充填された水砕スラグに炭酸ガスを均一に行き渡らせることが困難であり、ガスが行き渡らない箇所においては十分な水和反応ないしは固結反応の抑制効果を得ることができない。
より詳細には、特許文献1に記載の方法によれば、水砕スラグを破砕時、あるいは破砕後24時間以内に炭酸ガスと接触させることを特徴としており、その技術説明ならびに実施例によれば、破砕処理の6時間後に当該スラグを15分以上、望むらくは高温下において30分以上、炭酸ガスを含有する燃焼排ガスと接触させることや、破砕後の水砕スラグと炭酸ガスを接触させる具体的な方法としては、破砕工程内において例えば払い出し用ホッパー内にスラグを充填させて炭酸ガスと接触させる方法や、破砕されたスラグがヤードに山積みされた後にこのスラグ山に炭酸ガスを吹き込む方法があること等が示されている。
但し、その後の同じ発明者からの特許文献2によれば、この特許文献1に記載の具体的接触方法に関して、「前者は連続処理に近いものになって炭酸ガスとの接触が均一にできるものの、特に生産量が多いラインでは十分な接触時間が得られない可能性がある。これに対して後者は炭酸ガスとの接触時間は十分とれるものの、山積みの場所による炭酸ガスとの接触斑、或いはヤードへの配管等作業性の問題がある。」とも明記されている。
これに対して、特許文献2に記載の方法では、特許文献1の問題点を克服し、より短時間に処理を行うために、破砕工程において水砕スラグの含水量を7〜15質量%、好ましくは10〜15質量%に調整することで、5〜10分程度の接触時間に短縮できることが推定できるとあり、この程度の接触時間ならば破砕後の水砕スラグをヤードに山積みしてから炭酸ガスと接触させなくても破砕工程内で処理することが十分に可能なことから、具体的な例として破砕した水砕スラグの払い出しホッパーの底部に排ガスを導入して反応させる方法が示されている。
しかしながら、この特許文献2に記載の方法については、その後、水砕スラグの含水量を増やしても相当の反応時間を要するため連続処理には不適当であるとの報告もなされ、実際に本発明者らが確認実験を行ってみても、破砕された水砕スラグに指定条件の含水量になるように水分を添加しても直ぐにはスラグに水分が吸水されずに表面を覆うため、特許文献10で説明しているようにスラグ粒子間に自由水が存在して通気性が低下する部分が存在して炭酸ガスとスラグの接触が阻害されてしまい、全体が均一かつ速やかに炭酸ガスと反応しない場合があることを確認した。
2番目の、特許文献4に記載されている破砕された水砕スラグを炭酸水溶液と接触させる方法においても、実際には炭酸水を水砕スラグに均一に散布させることが難しく、仮に均一に散布できたとしても、炭酸水と水砕スラグの炭酸化反応によって水溶液中の炭酸イオン濃度が低下し、水和反応や固結反応の防止効果が減少してしまうおそれがある。
3番目の、特許文献5〜6に記載されている破砕された水砕スラグを炭酸水溶液に接触させた後に、さらに炭酸ガスと接触させる方法においては、炭酸水と水砕スラグの炭酸化反応によって水溶液中の炭酸イオン濃度が低下することを補える点からは望ましいものであるが、実際には炭酸水溶液が散布された水砕スラグをホッパー内やヤード等に山積みに充填した状態において水砕スラグ粒子間に炭酸水の液相が存在してしまうと、この部分の通気性が低下するために炭酸ガスを均一に行き渡らせることがなお一層困難になり、この点からも十分な水和反応ないしは固結反応の抑制効果を得ることができない。
以上の理由から、炭酸ガス処理法や炭酸水処理法、炭酸水および炭酸ガスの併用処理法は、いずれも実際にはさほど実用化されていないのが実情である。
また4番目の、特許文献7に記載されている破砕された水砕スラグに酸性溶液を散布させる方法においては、処理後のスラグをセメント原料やコンクリート用骨材として使用する際に、残留する酸イオンがコンクリートの性状に悪影響を及ぼす場合があることがわかっており、その添加量を十分に管理しなければならないため、この方法もあまり普及していない。
これに対し、5番目の、特許文献8〜9に記載されている界面活性材(ないしは撥水材)として各種の無機酸塩水溶液を、破砕された水砕スラグに散布・塗布する方法は、前述の4つの方法に比べるともっとも実用化されているものである。しかしながら、やはり固結抑制材たる無機酸塩を溶かした水溶液を水砕スラグに均一に散布させることには工業的に相当の工夫を要する。また、仮に水溶液を水砕スラグに均一に散布できても、例えば、処理後スラグがヤードに山積みされた状態の間に雨が降ると、処理後スラグの表面から固結抑制材が洗われて溶離してしまうため、その管理を慎重に行わなければ十分な固結抑制効果を発揮することができない。また、港湾工事用材料や覆砂用材料といった、水や海水に浸る条件で使用される場合も同様に、固結抑制材が水や海水中に流出してしまうと固結抑制効果は低減してしまう。
なお、特許文献10に記載されている方法は、先に説明してきた5種類に大別される破砕された水砕スラグの固結抑制方法とは異なる、とりわけ製鋼スラグからのアルカリ溶出を抑制する目的から本発明者らが考案したもので、製鋼スラグと炭酸ガスを効率良く接触させる、持続的かつ迅速な炭酸化処理の方法に関するものである。
しかるに本発明は、破砕された水砕スラグの固結抑制のため、現在、主流である各種の無機酸塩水溶液を散布・塗布する界面活性材処理法における問題点を克服し、はるかに簡便かつ確実に破砕された水砕スラグの固結を抑制することが可能な、高炉水砕スラグの処理方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、近年考案した特許文献10に記載の、製鋼スラグからのアルカリ溶出を抑制するために製鋼スラグと炭酸ガスを効率的に接触させる処理方法の開発段階において得られた知見に基づき、様々な水砕スラグの固結抑制方法の中でも、特許文献1〜3に記載されている水砕スラグを破砕したものに炭酸ガスを接触させる方法(炭酸ガス処理法)に関して更なる改良の余地がないか、とりわけ特許文献2の条件のように破砕工程において水砕スラグの含水量を制御することなく、破砕された水砕スラグと炭酸ガスとの必要接触時間をより短くする方策について、制御可能な因子を変化させた研究室レベルでの実験や机上検討を行った。その結果、水砕スラグの含水量を調整せず、むしろスラグ粒子間の通気性を確保した状態で、炭酸ガスを含有し相対湿度75〜100容量%のガスを破砕処理において新たな破面が生成する瞬間から接触させることによって、常温下でも10分程度の短い接触時間で、破砕した水砕スラグからのアルカリ溶出が低減できることを確認した。
但し、本知見を数100トン/hr規模の実機での操業に展開することを考えると、破砕工程において、水砕スラグと炭酸ガスを含有する相対湿度75〜100%のガスを10分程度接触させるためには、例えばガスへの加湿装置やそのガス配管の適所への敷設や接続が必要であり、加えて、破砕直後から10分程度の接触時間を確保するためには、破砕装置から始まり最終の払い出し用ホッパーに至るまで全ての搬送用ベルトコンベア部の雰囲気をシールする必要がある等、工業的に大掛かりとなることは避けられない。
そこで、より現実的で簡便な実機処理方法について更なる検討を重ねた結果、炭酸ガス含有ガスの代わりに、必要な接触時間に見合う大きさの固体状の二酸化炭素(ドライアイス)を破砕した水砕スラグに添加することで、大掛かりな付加設備を用いなくとも同様の効果が得られるという新たな知見を経て、以下の発明にて従来の課題を解決するに至った。
第1の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、高炉水砕スラグを破砕する工程において、質量ならびに比重から換算した球相当直径15mm以上の固体状の二酸化炭素(ドライアイス)を破砕後の高炉水砕スラグに添加することを特徴としている。
第2の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、高炉水砕スラグを破砕する工程において、破砕の前に質量ならびに比重から換算した球相当直径50mm以上の塊状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を高炉水砕スラグに添加した後に、これらの(高炉水砕スラグと固体状二酸化炭素との)混合物を破砕することを特徴としている。
第3の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、第1または第2の発明において、高炉水砕スラグを破砕する工程において、前記の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を1kg/トン−水砕スラグ以上、添加することを特徴としている。
本発明によれば、破砕された水砕スラグにおいて十分な水和反応および固結反応の抑制効果を発揮することができる水砕スラグの処理方法を提供でき、大規模な設備を必要としないことから、現状の水砕スラグの破砕加工プラントにおいても簡便に適用できるという極めて大きな効果が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
発明者らは既に、先に特許文献10で示した発明において、水ないしは海水への製鋼スラグ中の遊離CaOやCa(OH)2成分からのアルカリ溶出を炭酸化処理によって抑制する安定化処理方法に関して、(i)スラグへ添加する水分量、(ii)供給する炭酸ガスを含有するガスの相対湿度や炭酸ガス濃度、(iii)供給する炭酸ガス含有ガス流量、(iv)炭酸化処理を行う際の温度、といった種々の因子が炭酸化速度に及ぼす影響について詳細な研究開発を行い、その結果、スラグ間に自由水が存在し始める水分値未満で、かつ該水分値よりも10質量%少ない値以上の範囲となるように添加水分量を調整して通気性を確保した後に、炭酸ガスを含有し相対湿度75〜100容量%のガスを流すことによって、常温下にもかかわらず従来よりもはるかに短時間に炭酸化処理が可能となるという有益な知見を得てきた。
このように蓄積してきた知見に基づき、様々な水砕スラグの固結抑制方法の中で現時点ではあまり実用化されていない、特許文献1〜3に記載の水砕スラグを破砕したものに炭酸ガスを接触させる方法(炭酸ガス処理法)に関して、水砕スラグと炭酸ガスとの接触時間をより短くする目的から、以下の各種調査を実施した。
まず始めに、水砕スラグの固結抑制に重要な水砕スラグからのアルカリ溶出挙動に及ぼす、水砕スラグへの水分添加の影響やアルカリ溶出抑制のために必要な水砕スラグと炭酸ガスとの接触時間についての基礎実験を行った。
具体的には、初期含水率が約5質量%の水砕スラグ10gを簡易の破砕装置(市販のボールミル)に入れて3分間、破砕処理を行った後に、任意量の水分を添加し1分間、攪拌し、該破砕装置に適切にシールを施した上で、炭酸ガスを含有するガス(炭酸ガス濃度:100体積%、相対湿度100%)を一定量(10Nm3/hr・トン−水砕スラグ)スラグに吹き付けながら、常温下において水砕スラグと炭酸ガス含有ガスの接触時間を変化させた。こうして、任意の接触時間後に該破砕装置内から水砕スラグを取り出し、このスラグからのアルカリ溶出挙動について、社団法人 地盤工学会の「土濁懸液のpH試験方法」(JGS0211−2000)に基づき、水砕スラグの質量に対して水の質量比が5になるように蒸留水を加え、試料を攪拌棒で懸濁させ30分以上静置させた後に、市販の卓上型pH計を用いて溶液のpH値の測定を行った。
図1は、添加する水分を0質量%,2質量%,5質量%と変化させ、また水砕スラグと炭酸ガス含有ガスとの接触時間を0秒〜20分と変化させた場合の、処理後スラグからのアルカリ溶出結果としてのpH測定値を示したものである。この図から、任意時間におけるpH測定値は水分を添加しない方が低くなることがわかる。この理由としては、水を添加した後の水砕スラグの表面状態を観察すると、直ぐには水分が水砕スラグに吸収されずにスラグ粒子間に自由水が存在する部分が散見され、本発明者らが特許文献10で説明してきたように、局所的に通気性が確保できずに、炭酸ガス含有ガスと水砕スラグの接触が阻害されていることが考えられる。
同じくこの図1から、水砕スラグに水分添加を行わず、相対湿度を高位に維持した炭酸ガス含有ガスを吹き付けることによって、吹き付け開始から30秒後でもすでにpH値には減少が見られ、10分後には特許文献3で固結しにくい水砕スラグで測定された結果と同様のpH値9まで下がり、水砕スラグからのアルカリ溶出が抑制できていることが判明した。
このように破砕を行った水砕スラグについて、炭酸ガスとの接触時間が10分程度でも効果的に固結が抑制できる処理条件を知見することができたが、本知見を、毎時数100トン/hr規模の実機操業に適用するために、実際の破砕工程において破砕直後から10分程度の接触時間を確保することが可能かどうかを調査した。その結果、破砕工程の規模にもよるが、破砕装置から最終の払い出し用ホッパーに至るまでの時間は数分程度のため、払い出し用ホッパー内の貯留時間までも考慮する必要があることや、破砕装置から払い出し用ホッパーに至る全ての搬送用ベルトコンベア部の雰囲気をシールする必要があること、さらにガスへの加湿装置やその配管を適所へ敷設し、複数本を接続しなければならないこと等が判明し、やはり炭酸ガス含有ガスとの接触方式は、工業的には相当に大掛かりな設備が必要となることもわかった。
そこで、より現実的な炭酸ガス処理方法について更なる検討を進めた結果、固体状の二酸化炭素(以下、ドライアイスと略す)の利用という新たなシーズに到達した。このドライアイス利用については、特許文献1の中に「炭酸ガスの供給方法は、例えばドライアイスの粉末を水砕スラグに混入する方法もあるが、経済的には炭酸ガス濃度の高い燃焼ガスを利用することが好ましい。」との記載があるものの、そもそもドライアイスを用いた場合の処理条件に関する詳細な従来文献は皆無に等しいという事実に至った。
そこで改めて、本発明者らはこのドライアイスを用いた最適な処理条件を確立するために、まずドライアイスの大きさと該ドライアイスが昇華するまでの時間(ガス供給可能時間)を把握するための基礎実験を行った。
図2は、任意の質量の塊状ドライアイスが常温下において昇華反応に伴って消失するまでの時間を測定し、その質量と比重から換算した球相当の直径(以下、球相当直径と記載する)と昇華時間の関係を示したものである。ここで、球相当直径は次の換算式から導出した。
球相当直径 = 2×(0.239×質量/比重)1/3
(なお、比重はドライアイスの製造法により異なることから、その都度、測定値を使用)
図2から、ドライアイスの球相当直径が15mm以上(質量で約1.4gに相当)であれば、まずは上述の水砕スラグと炭酸ガスとの接触に必要な10分という時間を確保できることが判明した。
引き続き、先に本発明者らが炭酸ガス含有ガスを用いた実験から知見した破砕した水砕スラグの固結抑制と同様の効果が、炭酸ガス供給源としてドライアイスを用いた場合でも果たして得られるかどうかを確認する基礎実験を行った。
具体的には水砕スラグ量を100gに増やし、簡易破砕装置(ボールミル)で3分間の破砕を行った直後10秒以内に、あらかじめ準備しておいた大きさを任意の球相当直径に揃えたドライアイスを総質量5gで一定として上部から分散するように添加し、10分間放置(質量と接触時間からの炭酸ガス原単位換算で2.4Nm3/hr・トン−水砕スラグに相当)した後に水砕スラグを取り出して、どの程度のアルカリ溶出抑制挙動が得られるか、前述と同じ条件で該スラグと接触させた溶液のpH値を測定した。
図3は、あらかじめ準備したドライアイスの平均的な球相当直径と、このドライアイスを添加して10分間放置した水砕スラグに対するpH測定結果の関係を示したものである。この図から、平均的な球相当直径の増加に伴い水溶液のpH値は低下し、球相当直径が15mm以上の場合に、先に示した炭酸ガス含有ガスの吹き付け実験に比べて炭酸ガス換算での原単位が1/4程度と少ないにもかかわらず、先に図1で示した結果と同様に、水溶液のpH値を9以下にできることが判明し、ドライアイスから発生する炭酸ガスと水砕スラグの接触時間を10分間確保することにより、炭酸ガス含有ガスの接触実験と同様のアルカリ抑制効果が得られることが知見できた。
以上のことから、前記第1の発明は、水砕スラグを破砕する工程において、質量ならびに比重から換算した球相当直径15mm以上の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を、破砕後の水砕スラグに添加することと規定した。
ここで、水砕スラグを破砕後に固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加するまでの時間は、短いほど好ましいが、30秒以内であれば、本発明の効果は発揮される。
また、固体状二酸化炭素(ドライアイス)の球相当直径の上限は特に規定するものではないが、実際に水砕スラグに均等にドライアイスを分散させる作業性の観点から100mm以下とすることが好ましい。
ここで、使用するドライアイスの条件については、その純度が高い方が原単位的に好ましいことは言うまでもないが、現在、食料用として市販されている純度(99.5体積%)で十分であり、工業的には、例えば、製鉄所内で発生する燃焼排ガス等を対象に、一般的に知られる種々の精製方法(例えば、セラミックス膜による分離吸着法やエタノールアミンを用いた化学反応法、等)によって排ガス中の二酸化炭素を分離・濃縮し、それを原料として製造したドライアイスを用いても構わない。
これまで述べた少量の水砕スラグを対象とした基礎実験では、水砕スラグ上部から適切な直径の塊状ドライアイスを分散させる方法でも、炭酸ガスが空気よりも重たいため、ドライアイスから気化した炭酸ガスを水砕スラグの底部まで十分に浸透させることができたが、実際のスラグ破砕工程で大量のスラグを対象としてより効率的に処理を行なうには、例えば、破砕直後の水砕スラグへ機械的な攪拌を付与しながらドライアイスを添加し、より均等に水砕スラグ中にドライアイスを分散させることが好ましい。
そこで2番目に、実際の水砕スラグを対象とした現場での破砕工程において、このドライアイスを破砕後の水砕スラグに効率的に分散させる方法について検討を行った。
まず、実際の水砕スラグの破砕工程を詳しく調査したところ、破砕装置としては、工業的にはハンマー方式のハンマークラッシャーやインパクトクラッシャー、投射型バーマッククラッシャー、圧力方式のコーンクラッシャーやロールクラッシャー、剪断方式のローラーミルと称される、様々な方式が用いられており、いずれも高速で回転したり、高圧で圧縮したりすることから密閉式のものが多く、水砕スラグがこれらの装置で破砕された直後にドライアイスを外部から添加するには、少なからず時間差が生じることが懸念された。
そこで、破砕後の水砕スラグとドライアイスの接触開始までの時間、すなわち破砕終了時からの水砕スラグの放置時間、が固結抑制に必要な水砕スラグとドライアイスの接触時間に及ぼす影響についての基礎実験を行った。
具体的には、先と同じ簡易破砕装置(ボールミル)を用いて、質量100gの水砕スラグを3分間、破砕してから、水分の添加は行わずそのまま装置内に0〜30分の任意時間、放置した後に、あらかじめ準備しておいた球相当直径で15mmに大きさを揃えたドライアイスを総質量5gで一定として上部から分散するように添加して10分間放置(質量と接触時間からの炭酸ガス原単位換算で2.4Nm3/hr・トン−水砕スラグに相当)した後に水砕スラグを取り出して、どの程度のアルカリ溶出抑制挙動が得られるか、前述と同じ条件で該スラグと接触させた溶液のpH値を測定した。
図4は、水砕スラグの破砕終了時からの放置時間と、該スラグを所定時間放置後に、ドライアイスと10分間接触させた場合の水砕スラグからのアルカリ溶出結果(pH測定値)の関係を示したものである。
この図から、先に図3に示した、破砕後すぐに球相当直径で15mmという同じ大きさで同じ質量のドライアイスと接触させた場合の10分後のpH値である9.0に比べ、破砕終了時からドライアイス添加までの放置時間が増加するととともにpH値も増加すること、言い換えれば、同様のアルカリ抑制効果を得るためには、より長い時間ドライアイスと接触させなければならないことがわかり、破砕によって水砕スラグの新生面が生じた場合、先にも述べたように30秒以内、好ましくはその瞬間に炭酸ガスと接触させることが固結抑制処理の効率から極めて重要であることが判明した。
この新たな知見を、前述の実機での破砕工程内においていかに具現化すべきか試行錯誤を繰り返した結果、破砕装置よりも前で大きなドライアイスの塊を適宜、水砕スラグに混ぜてこの混合物を破砕装置に導入すれば、水砕スラグと同時にドライアイスも破砕されることにより、破砕された水砕スラグに効率よくドライアイスが分散し、水砕スラグの新生面が生じてもすぐにドライアイスから昇華した炭酸ガスと接触できるのではないかという発想に到達した。そこで、実際に複数の破砕工程において確認試験を実施したところ、各破砕装置の破砕力に見合った添加前のドライアイスの大きさを個別に設定する必要は生じたが、球相当直径50mm以上のドライアイスを破砕前水砕スラグに添加することによって、破砕装置の直下で球相当直径が15mm以上のドライアイスとして水砕スラグに分散できていることが確認できた。
以上の考察から、前記第2の発明は、水砕スラグを破砕する工程において、破砕の前に質量ならびに比重から換算した球相当直径50mm以上の塊状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加することとした。
ここで、破砕の前に添加する固体状二酸化炭素(ドライアイス)の球相当直径の上限は特に規定するものではないが、実際の破砕工程で、破砕前の水砕スラグに対し、均等にドライアイスを添加する設備的な添加場所の制約や作業性といった観点から200mm以下とすることが好ましい。
また、破砕装置よりも前で大きなドライアイスの塊を適宜、水砕スラグに混ぜる方法としては、水砕スラグを破砕装置に連続供給するための既設のベルトコンベアの一部分において、例えばベルトコンベアをもう一つ準備してドライアイス塊を合流させてもよいし、あるいは一部分が開閉する専用の容器に入れたドライアイスの塊を上方から適宜、物理的に落下させるといった単純な方式で十分である。
3番目に、これまでに述べた水砕スラグに添加するドライアイスの必要量についての検討を行った。
前述の基礎実験では、100gの水砕スラグに対して、固結抑制に必要な10分という接触時間の確保に必要な、球相当直径で15mmのドライアイス塊(質量で約1.4gに相当)を5g分(最低で3個程度)、分散させて添加した結果、原単位としてドライアイス50kg/トン−水砕スラグ程度で十分な効果が確認できた。
但し、実際の破砕工程においてはこのような原単位のドライアイスを添加する必要もなく、炭酸化の化学反応の物質収支からすれば1kg/トン−水砕スラグ以上の添加で十分であり、実機でも充分に本発明の効果を発揮することを確認している。
そこで、前記第3の発明は、前記第1または第2の発明において、水砕スラグを破砕する工程において、固体状二酸化炭素(ドライアイス)を1kg/トン−水砕スラグ以上、添加することとした。
また、破砕装置が有するドライアイスの破砕力にも依存するが、破砕装置の前に添加する球相当直径50mm以上の大きなドライアイス塊が破砕後に球相当直径15mm以上となってスラグ中に効率良く分散できれば、好ましくは20kg/トン−水砕スラグ、さらに好ましくは10kg/トン−水砕スラグ以下の原単位で処理を行うことが、現実的な処理コストの観点から望ましい。
水砕スラグを150トン/hrの供給速度で破砕する投射型バーマッククラッシャー装置を設置した破砕工程において、処理前の水砕スラグを破砕装置に連続供給するベルトコンベアの一箇所に、ドライアイスを適量ずつ定常的に供給できるもう一つのベルトコンベアを設置し、表1に示すようなドライアイス塊の径ならびに添加量を変化させた種々の条件で水砕スラグに添加して、この水砕スラグとドライアイスが混合した状態で破砕装置に供給した。
比較例としては、本発明の請求範囲を外れるもの、ならびに通常のドライアイス添加を行わない条件とした。
以上のように処理を施した各破砕水砕スラグを、内径100mm、高さ127mm(内容積1リットル)の容器に充填し、容器ごとに80℃の恒温水槽中に浸漬して、所定期間養生を施した後に、その固結状態を観察した。(室内規模評価)
また、各処理スラグ、約200トンをヤードに同じ程度の高さに山積みし、定期的な散水を行いながら自然放置し、定期的にショベルで山の一部を掘り返すことによって、実際の固結状態を観察した。(現場規模評価)
このようにして得られた破砕水砕スラグの固結評価結果を、表2に示す。
この表2に示すように、本実施例1〜8では、室内規模評価で6ヶ月の間、現場規模評価でも2年間、固結が生じず、ドライアイス供給原単位が1kg/トン−水砕スラグとわずかでも、優れた固結抑制効果を得ることができた。
一方、本発明の範囲を外れる場合、十分なドライアイスの原単位でもドライアイス塊の球相当直径が30mm程度と小さな比較例1〜2では、室内規模評価で6ヶ月、現場規模評価では2年目には固結が生じてしまった。また、比較例3〜4のように原単位の低下に伴い、固結抑制効果も低下する結果が得られた。さらに、ドライアイスを添加しない比較例5では、室内規模評価で1ヶ月、現場規模評価でも3ヶ月という短い期間で固結現象が生じた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。