JP4873999B2 - 高炉スラグの処理方法および処理装置 - Google Patents

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Description

本発明は、製鉄所等の鉄鋼製造プロセスのうち、高炉における銑鉄製造工程において副生する高炉スラグ、中でも溶融スラグを水で急冷した高炉水砕スラグの固結を抑制する方法に関するものである。
製鉄所等で、高炉(溶鉱炉)を用いて鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する工程において副生する高炉スラグの中で、溶融状態のスラグに加圧水を噴射して急冷、粒状化した高炉水砕スラグ(以下、「水砕スラグ」と記載することがある。)は、粉末状にして水分とアルカリを加えると短時間で硬化する潜在水硬性という性質を有することから、古くからセメント原料(高炉セメント)やセメント混和材、地盤改良材等、広く有効に使用されてきた。
また、近年では、環境保護の観点から海砂の採取規制がなされる等、天然の砂が枯渇しつつあり、この天然砂の代わりに、土木工事用材料やコンクリート用細骨材として利用される機会が増えてきている。
しかし、水砕スラグを長期間、大気下に放置すると、アルカリを添加しなくてもゆっくりと硬化する自硬性ともいうべき性質も有することから、製鉄所からの出荷までの間、またはトラックや船舶等によって長距離を輸送され荷卸されるまでの間、あるいは荷卸された後に現場にてサイロなどの貯蔵槽や、野積みされた状態で工事に使用されるまで長期間、保管されると、水砕スラグ同士が固結するといった不都合が生じることがある。
この固結現象は、気温が高く、かつ降雨量の多い梅雨から夏季にかけて問題になりやすいことが知られており、その現象は以下のような反応機構によって進行すると考えられている。
まず、降雨や結露等によって水砕スラグが水分と接触すると、スラグ中のカルシウムといったアルカリ成分の溶出に伴い、スラグ周辺あるいはスラグ粒子間の液相のpHが上昇し、このアルカリ刺激に伴いさらにスラグ中のシリコンやアルミニウム等の成分が溶出する。
この成分溶出によって、水砕スラグ粒子近傍の液相中のカルシウムやシリコン、アルミニウム等の成分濃度が、エトリンガイトや珪酸カルシウム等に代表される各種水和生成物の飽和溶解条件まで増加すると、液相中に水和物が析出し、時間経過とともに次第に析出物が成長して、隣接するスラグ粒子同士の固結へ至ってしまう。
このような水砕スラグの有する問題点を改善し、有効利用を拡大する目的から、非特許文献1に代表される自硬性に関する硬化現象やその反応機構に関する検討がなされ、当該文献の中に、例えばスラグ粒子表面に難溶性の炭酸カルシウムの皮膜を形成し、この皮膜によってスラグからのカルシウムなどの溶出を抑制し、水和反応ひいては固結反応を抑制させるという原理に基づいた水砕スラグに炭酸ガスを接触させる方法(炭酸ガス処理法)や、水砕スラグ中の活性なカルシウムを一旦中和する目的から酸性溶液を散布する方法(酸性溶液処理法)、あるいは水砕スラグと水との接触性(濡れ性)を低下させて水和反応を遅延させる目的から、水砕スラグの表面に脂肪族オキシカルボン酸塩といった各種の無機酸塩水溶液を散布・塗布する方法(界面活性材処理法)が記載されており、これ以降、水砕スラグの固結反応を防止ないしは抑制する上記各方法についての特許が多数、出願されている。
例えば、スラグ粒子表面に難溶性の炭酸カルシウムの皮膜を形成させて、水和反応ひいては固結反応を抑制させる炭酸ガス処理法としては、特許文献1〜2が開示されている。
2番目の、水砕スラグ中の活性なカルシウムを一旦中和させる酸性溶液を散布する方法(酸性溶液処理法)としては、特許文献3が開示されている。
同様に3番目の、水砕スラグと水との接触性(濡れ性)を低下させて水和反応を遅延させる界面活性材処理法として、特許文献4〜5に代表される、多数の特許が開示されている。
また、前記の水砕スラグの固結抑制方法とは対象となるスラグの種類が異なるものの、本発明者らは同じく製鉄所などで副生するスラグからのアルカリ溶出を抑制するため、とりわけ製鋼スラグと炭酸ガスを接触させる方法について、その反応速度に及ぼすスラグ添加水分量、雰囲気相対湿度や温度といった各種要因の影響に関する研究室レベルでの実験や机上検討を経て、工業的にこの炭酸化処理を迅速に行うための現場実機レベルにおける試験を重ね、先に特許文献6に示す発明を出願するに至った。この特許文献6に記載されている製鋼スラグの処理方法は、スラグ間に自由水が存在し始める水分値未満で、かつ該水分値よりも10質量%少ない値以上の範囲となるように添加水分量を調整して通気性を確保した後に、炭酸ガスを含有し相対湿度75〜100%のガスを流すことによって、スラグ粒同士を固結させることなく常温下で従来よりもはるかに短時間に炭酸化処理を行うものである。
特開昭54−131504号公報 特開昭54−112304号公報 特開昭54−71793号公報 特公昭58−35944号公報 特公昭58−35735号公報 特開2005−97076号公報 製鉄研究、301(1980)、p.19−28(新日本製鐵株式会社)
しかし、前記のさまざまな従来技術においては、以下のような問題点がある。
1番目の、特許文献1〜2に記載されている水砕スラグに気相状態の炭酸ガスを接触させる方法については、特許文献1の記載によれば詳細には、水砕スラグを製造後3日以内に炭酸ガスと接触させることを特徴としており、その技術説明や実施例によれば、水砕スラグを製造直後ないしは3日以内に約5〜10分程度、熱風炉排ガスのような炭酸ガスを含有する燃焼排ガスと接触させることや、水砕スラグと炭酸ガスを接触させる具体的な手段として、水砕スラグ製造直後の切り出しホッパー内にスラグを充填させて炭酸ガスと接触させる方法や、製造されたままの水砕スラグの山をヤードに作り、この山積みされた水砕スラグ中に炭酸ガスを吹き込む方法があること等が示されている。
また、同じ発明者からの特許文献2に記載の方法によれば、水砕スラグの製造後3日以内ではなく、水砕スラグをコンクリートやアスファルト用細骨材として用いるための整粒ないし粒度調整を目的とした破砕時、あるいは破砕後24時間以内に炭酸ガスと接触させることを特徴としており、その技術説明や実施例によれば、破砕処理の6時間後に当該スラグを15分以上、望むらくは高温下において30分以上、炭酸ガスを含有する燃焼排ガスと接触させることや、破砕後の水砕スラグと炭酸ガスを接触させる具体的手段として、破砕工程内において例えば払い出し用ホッパー内にスラグを充填させて炭酸ガスと接触させる方法や、破砕されたスラグがヤードに山積みされた後にこのスラグ山に炭酸ガスを吹き込む方法があること等が示されている。
しかしながら、これらの方法において、ヤードに山積みされた水砕スラグに均等に炭酸ガスを流すためには、その底部にできる限り均一に炭酸ガス配管を設置する必要があり、このような設備の上に水砕スラグを山積みにした状態において、ないしは、払い出しのために一時的にスラグを貯蔵する小さな容量の閉ざされたホッパー内においてさえも、水砕スラグの充填状態がよほど均一でなければ、炭酸ガスは通気性が良くガスが流れやすい通路を選択的に流れてしまい、水砕スラグ中に炭酸ガスを均一に行き渡らせることは難しく、ガスが行き渡らない箇所においては十分な水和反応ないしは固結反応の抑制効果を得ることができない。
このような理由から、炭酸ガス処理法は現実にはさほど実用化されていない。
2番目の、特許文献3に記載されている水砕スラグに酸性溶液を散布させる方法については、処理後のスラグをセメント原料やコンクリート用骨材として使用する際に、残留する酸イオンがコンクリートの性状に悪影響を及ぼす場合があることがわかっており、その添加量を十分に管理しなければならないことから、本方法もあまり普及していない。
これに対し、3番目の、特許文献4〜5に記載されている界面活性材(ないしは撥水材)として各種無機酸塩水溶液を水砕スラグに散布・塗布する方法は、前述の2つの方法に比べるともっとも実用化されているものであるが、やはり固結抑制材たる無機酸塩を溶かした水溶液を水砕スラグに均一に散布させることについては、工業的に相当、様々な工夫を要している。
また、本方法において水溶液が水砕スラグに均一に散布できても、例えば水溶液の散布後、スラグがヤードに山積みされた状態の間に雨が降ると、当該スラグの表面から固結抑制材が洗われて溶離してしまうため、その管理を慎重に行わなければ十分な固結抑制効果を発揮することができないという問題点を有する。
なお、特許文献6に記載されている方法は、先に説明してきた3種類に大別される水砕スラグの固結抑制方法とは異なる目的、とりわけ製鋼スラグからのアルカリ溶出を抑制する目的から本発明者らが考案したもので、製鋼スラグと炭酸ガスを効率良く接触させる、持続的かつ迅速な炭酸化処理の方法に関するものである。
しかるに本発明は、水砕スラグの固結抑制のために、現在、主流である各種の無機酸塩水溶液を散布・塗布する界面活性材処理法における問題点を克服して、簡便かつ確実に破砕された水砕スラグの固結を抑制することが可能な、高炉水砕スラグの処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、現在の主流である各種の無機酸塩水溶液を散布・塗布する界面活性材処理法等の水砕スラグの固結抑制方法を用いても、現実にはなかなか水砕スラグの固結現象の抑制が難しい事象について、実際の現場で生じている現象を細かに調査した。この結果、水砕スラグの製造後、なるべく早い段階に、水砕スラグの表面にアルカリ成分が溶出しにくいような各種の処理を施しても、前述のようにその後の保管時に雨が降ると、表面の固結抑制材が洗い流されてしまうこと以外にも、i)製鉄所の構内でベルトコンベアなどを用いて該水砕スラグを移動・搬送させる際や、ii)出荷まで一時的にサイロ内に貯留したりヤードに山積みしたりする際、あるいはiii)出荷のためにトラックや船舶等に荷積みする際や、iv)工事現場にてサイロなどの貯蔵槽や野積み状態に荷卸する際、といった様々な局面において、水砕スラグ同士が擦れ合ったり、重機によって衝撃を受けたりして、わずかなりとも水砕スラグの表面が削れたり、割れたりして新生面が生じる結果、そこからアルカリ溶出が始まり、初期に施した固結抑制処理の効果が低下してしまうという原因を突き止めるに至った。
そこで、水砕スラグを搬送したり、貯留したり、あるいは多少の加工のために攪拌したりするといった、多少なりとも水砕スラグ同士が触れ合ったり、衝撃を受けたりする工程において、適宜に追加の固結抑制処理を施すことが重要であると考え、その際に適用する固結抑制方法について検討した。この際に、本発明者らが、近年、考案した特許文献6に記載の製鋼スラグからのアルカリ溶出を抑制するために製鋼スラグと炭酸ガスを効率的に接触させる方法の開発段階において得られた知見に基づき、種々の水砕スラグの固結抑制方法の中でも特許文献1〜2に記載されている水砕スラグに炭酸ガスを接触させる方法(炭酸ガス処理法)に改めて着目し、本法を実機規模でより簡便に行うため改良の余地がないか検討を重ねた。その結果、炭酸ガス含有ガスに代わり、固結抑制処理に必要な水砕スラグと炭酸ガスの接触時間に見合う大きさの固体状二酸化炭素(ドライアイス)を適宜、水砕スラグに添加することで、ガス配管といった大掛かりな付加設備を用いなくても、長期に亘って効果が持続できる固結抑制効果が得られるという新たな知見を経て、以下の発明にて従来の課題を解決するに至った。
第1の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、質量ならびに比重から換算した球相当直径5mm以上の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を、高炉水砕スラグに添加することを特徴としている。
第2の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、第1の発明において、高炉水砕スラグを搬送する工程、高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、前記の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加することを特徴としている。
第3の発明に係る高炉水砕スラグの処理方法は、第2の発明において、高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のいずれか一方または双方の工程において、前記高炉水砕スラグを輸送可能な装置を利用して前記高炉水砕スラグを撹拌及び/又は貯留することを特徴としている。
第4の発明に係る水砕スラグの処理方法は、第1〜第3のいずれかの発明において、高炉水砕スラグを搬送する工程、高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、前記の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を1kg/トン−水砕スラグ以上、添加することを特徴としている。
第5の発明に係る水砕スラグの処理装置は、スラグを攪拌及び/又は貯留する装置と、質量ならびに比重から換算した球相当直径5mm以上の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)をスラグに添加する装置と、を有し、前記高炉水砕スラグを輸送可能な機能を有することを特徴としている。
本発明によれば、ガス配管の敷設や専用の容器といった大掛かりな追加設備を必要とせず、水砕スラグにおいて十分な水和反応および固結反応の抑制効果を発揮することができる水砕スラグの処理方法を提供でき、現状の水砕スラグに関するあらゆる処理工程においても簡便に適用できるという極めて大きな効果が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
水砕スラグの固結を抑制する従来技術のうち、特許文献1〜2に記載されている水砕スラグに気相状態の炭酸ガスを接触させる方法において、特許文献1に記載の方法によれば、水砕スラグを製造直後ないしは3日以内に約5〜10分程度、熱風炉排ガスのような炭酸ガスを含有する燃焼排ガスと接触させることを特徴としている。また、同じ発明者からの特許文献2によれば、水砕スラグをコンクリートやアスファルト用細骨材として用いるための、整粒ないし粒度調整を目的とした水砕スラグの破砕時、あるいは破砕後24時間以内に炭酸ガスと接触させるとあり、その技術説明によれば、破砕処理の6時間後に当該スラグを15分以上、望むらくは高温下において30分以上、炭酸ガスを含有する燃焼排ガスと接触させることを特徴としている。いずれについても、水砕スラグと炭酸ガスを接触させる具体的な手段として、水砕スラグの払い出し用ホッパー内にスラグを充填させて炭酸ガスと接触させる方法や、水砕スラグの山をヤードに作り、この山積みされた水砕スラグ中に炭酸ガスを吹き込む方法があること等が示されている。
このような従来知見に基づき、先にも述べた固結抑制処理を施した水砕スラグを、その後、搬送したり、貯留したり、あるいは多少の加工のために攪拌したりするといった、多少なりとも水砕スラグ同士が触れ合ったり、衝撃を受けたりする工程において、適宜、炭酸ガスを含有するガスを吹きつけるためには、考えられる場所に個別に炭酸ガスを含有するガスを供給するための新たな配管設備等が必要となってしまう。
そこで、より現実的な炭酸ガス処理方法について検討を進めた結果、固体状の二酸化炭素(以下、ドライアイスと略す)の利用という新たなシーズに到達した。
このドライアイスの利用については、特許文献2の中に「炭酸ガスの供給方法は、例えばドライアイスの粉末を水砕スラグに混入する方法もあるが、経済的には炭酸ガス濃度の高い燃焼ガスを利用することが好ましい。」と記載されているものの、そもそもドライアイスを用いる具体的な処理条件に関して、詳細な従来文献は皆無に等しいという事実に至り、本発明者らは基礎的な実験に着手した。
ここで「粉末」に関する厳密な定義はないが、例えば、マグローヒル科学技術用語大辞典(日刊工業新聞社)によれば、「粉体とは、通常、直径が1000μmよりも小さな固体粒子のゆるい集合体または凝集体」と記載されていることから、ドライアイスを1mm以下に粉砕し、製造後2日経過した水砕スラグ100gに対して5g(原単位でドライアイス50kg/トン−水砕スラグに相当)を分散させて添加したが、ドライアイスは瞬くまに昇華、消滅してしまい、この結果、所望の固結抑制効果は得られないことが判明した。
そこで改めて、このドライアイスを用いた最適な処理条件を確立するために、ドライアイスの大きさと該ドライアイスが昇華するまでの時間(ガス供給可能時間)を把握するための基礎実験を行った。
図1は、任意の質量の塊状ドライアイスが常温下において、昇華反応に伴って消失するまでの時間を測定し、その質量と比重から換算したドライアイスの球相当の直径(以下、球相当直径と記載する)と昇華時間の関係を示したものである。ここで、球相当直径は次の換算式から導出した。
球相当直径 = 2×(0.239×質量/比重)1/3
(なお、比重はドライアイスの製造法により異なることから、その都度、測定値を使用)
この図から、球相当直径1mm以下のドライアイスの粉末については、個々の粉末はやはり10秒程度しか存在せず、固結抑制処理に必要な水砕スラグと炭酸ガスの接触時間には不十分であることがわかり、例えば、特許文献1に記載されている、製造直後の水砕スラグと炭酸ガスを含有するガスとの接触に最低でも必要な5分という時間を確保するためには、ドライアイスは球相当直径として10mm以上(質量で約0.4gに相当)でなければならないこと、あるいは特許文献2に記載されている、水砕スラグの破砕時、あるいは破砕後24時間以内に炭酸ガスと接触させる場合に最低、必要な15分という時間を確保するには、ドライアイスは球相当直径として18mm以上(質量で約2.5gに相当)でなければならないことが判明した。
さらに、この新たな知見に基づき、製造後3日以内に、現在、主流である各種の無機酸塩水溶液を散布する界面活性材処理法等の固結抑制処理を施した水砕スラグに対し、多少なりとも水砕スラグ同士が触れ合ったり、衝撃を受けたりする搬送や、貯留、あるいは整粒加工のために攪拌といった後の工程において追加的な固結抑制処理を施す条件を把握するために、現場の様々な工程において任意の球相当直径の粒状ドライアイスを、原単位換算で10kg/トン−水砕スラグ添加して、実際に水砕スラグを長期間、放置して固結状況を観察した結果、半年以上にわたって水砕スラグの固結を抑制するためには、水砕スラグと炭酸ガスを含有するガスとの接触時間を2分以上確保しなければならないということを確認し、これを先の図1の基礎実験結果と照らし合わせると、この時間を確保するためには、ドライアイスは球相当直径として5mm以上(質量で約0.1gに相当)でなければならないことを知見した。
以上のことから、前記第1の発明は、水砕スラグの処理方法として、質量ならびに比重から換算した球相当直径5mm以上の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加することと規定した。
尚、粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)の球相当直径の上限は特に規定するものではないが、実際の工程で極力、水砕スラグに均等にドライアイスを分散させる観点からは、100mm以下とすることが好ましい。
ここで、使用するドライアイスの条件については、その純度が高い方が原単位的に好ましいことは言うまでもないが、現在、食料用として市販されている純度(約99.5体積%)で十分であり、工業的には、例えば、製鉄所内で発生する燃焼排ガス等を対象に、一般的に知られる種々の精製方法(例えば、セラミックス膜による分離吸着法やエタノールアミンを用いた化学反応法、等)によって排ガス中の二酸化炭素を分離・濃縮し、それを原料として製造したドライアイスを用いても構わない。
前述の少量の水砕スラグを対象とした基礎実験では、水砕スラグの上部から適切な直径の塊状ドライアイスを分散させる方法でも、炭酸ガスが空気よりも重たいためドライアイスから気化した炭酸ガスを水砕スラグの底部まで十分に浸透させることができたが、実際のスラグ破砕工程で大量のスラグを対象としてより効率的に処理を行なうためには、より均等に水砕スラグ中にドライアイスを分散させることが好ましい。
そこで次に、実際の水砕スラグを対象とした現場での様々な工程において、このドライアイスを水砕スラグに効率的に分散させる方法について検討を行った。
水砕スラグが製鉄所において製造され、製品として出荷、納品されるまでの間には、i)製鉄所の構内でベルトコンベアなどを用いて該水砕スラグを移動・搬送させる工程や、ii)出荷まで一時的にサイロ内に貯留やヤードに山積みする工程、あるいはiii)出荷のためにトラックや船舶等に荷積みする工程、といった工程があることは先にも述べた。このような、水砕スラグを次の工程に動かさなければならない時に、水砕スラグ同士が擦れ合ったり、重機等によって衝撃を受け、わずかでも水砕スラグの表面が削れたり、割れたりして新生面が生じる結果、そこからアルカリ溶出が始まる訳であるが、言い換えれば、このように水砕スラグを物理的に移動させなければならない場合こそが、必要な大きさのドライアイスを添加できる最も効率よい条件であり、この際に新たな新生面が生じても、ドライアイスが昇華して生じる炭酸ガスに効率よく接触できるわけである。
また、搬送や貯留、攪拌、出荷のための荷積みなど、水砕スラグは複数の工程を経るため、製造後3日以内に初期の固結抑制処理を施した以降も、様々な工程を通過する際に、各箇所で追加の固結抑制処理を組み合わせることが有効であることは言うまでもない。
以上の考察から、前記第2の発明は、前記第1の発明において、高炉水砕スラグを搬送する工程、攪拌する工程、貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加することとした。
ここで、粒状のドライアイスを適宜、水砕スラグに混ぜる方法としては、例えば、水砕スラグの搬送や貯留、荷積みするための既設ベルトコンベアの一部分にベルトコンベアをもう一つ準備してドライアイスを合流させてもよいし、トラックや船舶に荷積み、あるいは該輸送容器から荷卸する際に、一部分が開閉する専用の容器に入れた粒状のドライアイスを、上方から適宜、物理的に落下させるといった単純な方式でも十分である。
これまで述べてきた本発明による固結抑制処理は、必要な接触時間に見合う大きさのドライアイスを水砕スラグに添加すればよいため、従来技術のようにガス配管が敷設された固定された設備や場所で行う必要はないことから、例えば、コンクリートミキサー車、冷凍のコンテナ車、荷台にカバーをかけたダンプカー、鉄道の貨車といった、攪拌及び/又は貯留機構を有して水砕スラグを輸送可能な既存の装置を処理容器に見立てることも可能であり、該容器に水砕スラグを挿入し、専用の大型容器に粒状のドライアイスを貯留したドライアイスの供給設備まで、該容器が移動し、そこで必要量のドライアイスを挿入しながら、とりわけコンクリートミキサー車であれば水砕スラグとドライアイスの混合物をゆっくりと攪拌させることにより、より均一に水砕スラグとドライアイスを接触させながら、工事現場まで輸送を行うことも可能である。
以上の考察から、前記第3の発明は、前記第2の発明において、高炉水砕スラグを攪拌する工程、貯留する工程のいずれか一方または双方の工程において、高炉水砕スラグを輸送可能な装置を利用して高炉水砕スラグを撹拌及び/又は貯留することとした。
上記の発明においては、攪拌及び/又は貯留機構を有する水砕スラグを輸送可能な装置の容器内に水砕スラグを挿入し、専用の大型容器に粒状のドライアイスを貯留したドライアイスの供給設備まで該容器が移動し、そこで必要量のドライアイスを挿入しながら水砕スラグにドライアイスを供給するとしたが、事前にこの装置にドライアイスの貯留が可能な簡易の容器を設置し、ある程度のドライアイスを搭載しておけば、任意の場所で水砕スラグを挿入する際に、この水砕スラグに粒状のドライアイスを添加することができ、固結抑制処理の機動性をより高めることができる。同様に、大量の水砕スラグを遠方の工事現場まで輸送するには、大型の船舶を利用することが多いが、この船舶へ荷積みする際に、水砕スラグには衝撃が加わり、わずかでも水砕スラグの表面が削れたり、割れたりして新生面が生じる結果、そこからアルカリ溶出が始まり、輸送中に固結が進行することも十分に想定されることから、このような船舶に、ドライアイスを貯留した簡易の容器を設置し、荷積みの際に水砕スラグに粒状のドライアイスを添加することも有効である。
以上の考察から、前記第5の発明は、スラグを攪拌及び/又は貯留する装置と、粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)をスラグに添加する装置と、を有し、高炉水砕スラグを輸送可能な機能を有することを特徴としているスラグの処理(貯留・攪拌)装置とした。
最後に、これまでに述べてきた水砕スラグに添加するドライアイスの必要量についての検討を行った。
前述の現場での効果確認試験では、ドライアイスを原単位として20kg/トン−水砕スラグ、添加して、十分な効果が確認できた。
また、その後の更なる追加実験で、製造後3日以内の水砕スラグに対してドライアイスの粒をより均等に混入することによって、初期の確認実験よりも少ないドライアイス10kg/トン−水砕スラグ程度の原単位でも固結抑制の効果が得られることが確認でき、さらには、製造直後に種々の固結抑制処理を施した水砕スラグを、搬送したり、貯留したり、あるいは多少の加工のために攪拌したりするといったその後の工程において追加的に固結抑制処理を施す場合には、各工程における水砕スラグにかかる衝撃の程度にもよるが、1kg/トン−水砕スラグ程度の添加でも十分な固結抑制効果が発揮できることも確認できた。
そこで、前記第4の発明は、前記第1、第2ないしは第3の発明において、水砕スラグを搬送する工程、攪拌する工程、保管のために貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を1kg/トン−水砕スラグ以上、添加することとした。
また、上限は特に規定するものではないが、現実的な処理コストの観点からすれば10kg/トン−水砕スラグ以下とすることが好ましい。
以下、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。なお、本実施例は本発明に基く水砕スラグへのドライアイスの添加方法の一例を示すものであり、添加方式については、実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図2に示すような貯留用ホッパー1に、製鉄所にて製造後1日放置した水砕スラグ2を詰め、搬送部3(ベルトコンベア)上に50トン/hrの速度で供給しつつ、ドライアイス(固結処理材)用容器4内に、事前に整粒した球相当直径5mmの粒状ドライアイス5を500kg/hr(ドライアイス原単位で10kg/トン−水砕スラグ、水砕スラグ質量に対する添加率1質量%)の速度で添加し、そのままヤードに約200トン山積みした。
同様に比較のために、図2に示す同じ設備にて、ドライアイス用容器4に市販の界面活性系固結抑制材(無機酸塩水溶液、濃度3質量%)を2.5トン/hr(水砕スラグ質量に対する添加率5質量%)で散布し、そのままヤードに約200トン山積みした。
ここで、用いた水砕スラグの化学成分の分析結果は表1に示すとおりであり、また、含水比は6.5質量%であった。なお、水砕スラグの成分分析はJIS R5202に基き測定を行い、また、含水比はJIS A1203に基き測定を行なった。
Figure 0004873999
こうしてヤードに山積みした各水砕スラグについて、定期的な散水を行いながら自然放置し、1か月ごとにショベルで山の一部を掘り返すことによって、実際の固結状態を観察(現場規模評価)した。
その結果、界面活性材を散布した水砕スラグの山では4ヶ月経過時点から一部に固結が観察されたが、ドライアイスを添加した水砕スラグの山では6ヶ月経過しても固結現象が観察されず、固結抑制効果が確認された。
(実施例2)
実施例1と同様に、図2に示すような貯留用ホッパー1に、製鉄所にて製造後1日放置した表1に示す組成の水砕スラグ2(含水率6質量%)を詰め、搬送部3(ベルトコンベア)上に50トン/hrの速度で供給しつつ、ドライアイス用容器4から、市販の界面活性系固結抑制材(無機酸塩水溶液、濃度3質量%)を2.5トン/hr(水砕スラグ質量に対する添加率5質量%)で散布し、そのままヤードに約400トン山積みし、人為的な散水などは行わずに3ヶ月間放置した。
3ヶ月放置後、特段の固結現象は見られなかったことから、この山積みした固結抑制処理を施した水砕スラグを、2トンのパワーショベルで切り出し、10トントラックに払い出して別のヤードまで搬送した。水砕スラグを新たなヤードに荷卸ししてベルトコンベアを用いて20トン/hrの速度で新たに山積みする際に、該ベルトコンベアの途中に、別のベルトコンベアを用いて球相当直径10mmのドライアイスを同様に、40kg/hr(ドライアイス原単位で2kg/トン−水砕スラグ、水砕スラグ質量に対する添加率0.2質量%)の速度で添加し、そのままヤードに約100トン山積みした。
比較として、全く同様の条件でドライアイスの添加のみ行わず、同じくヤードに約100トンの水砕スラグを山積みした。
こうしてヤードに山積みした各水砕スラグについて、定期的な散水を行いながら自然放置し、1か月ごとにショベルで山の一部を掘り返すことによって、実際の固結状態を観察(現場規模評価)した。
この結果、ドライアイスを添加せず、切り出し、搬送、荷卸しがされた水砕スラグの山は、初期に固結抑制処理を施したにもかかわらず、二度目の山積みから2ヶ月経過した時点で、一部に固結が観察されたが、ドライアイスを添加し追加の固結抑制処理を施した水砕スラグの山では6ヶ月経過しても固結現象が観察されず、固結抑制効果が確認された。
(実施例3)
実施例2と同様に、図2に示すような貯留用ホッパー1に、製鉄所にて製造後1日放置した表1に示す組成の水砕スラグ2(含水率6質量%)を詰め、搬送部3(ベルトコンベア)上に50トン/hrの速度で供給しつつ、ドライアイス用容器4から、市販の界面活性系固結抑制材(無機酸塩水溶液、濃度3質量%)を2.5トン/hr(水砕スラグ質量に対する添加率5質量%)で散布し、そのままヤードに約2000トン山積みし、人為的な散水などは行わずに3ヶ月間放置した。
3ヶ月放置後、特段の固結現象は見られなかったことから、この山積みした固結抑制処理を施した水砕スラグを、20トンの大型パワーショベルで切り出し、ベルトコンベアに払い出した後に、複数のベルトコンベアを用いて、製鉄所構内の製品出荷ヤードまで搬送し、最終的に大型の船舶に50トン/hrの速度で荷卸しした。この際の、船舶内の仕切られたデッキへ水砕スラグを荷卸する際の、水砕スラグの落下差は、約10mとなったが、この荷卸し時の落下する水砕スラグの流れに、別のベルトコンベアを用いて球相当直径5mmのドライアイスを、50kg/hr(ドライアイス原単位で1kg/トン−水砕スラグ、水砕スラグ質量に対する添加率0.1質量%)の速度で添加し、そのままデッキ内に約1000トン荷卸しした。
比較として、全く同様の条件でドライアイスの添加のみ行わず、同じくデッキに約1000トンの水砕スラグを荷卸しした。
こうして荷卸しが完了した水砕スラグを積載した船舶が、約40日航海ののち、目的の港に入港し、水砕スラグの荷卸しを開始した際に、固結状況を観察したところ、ドライアイスを添加せず、切り出し、搬送、荷卸しがされた水砕スラグは、一部に荷卸しができないほどの固結が観察されたが、ドライアイスを添加し追加の固結抑制処理を施した水砕スラグでは著しい固結現象もなく、問題なく荷卸しを完了し、固結抑制効果が確認された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
質量ならびに比重から換算した塊状ドライアイスの球相当直径と、該ドライアイスが常温下において消失するまでの時間(昇華時間)との関係を示すグラフである。 本発明の実施方法の一例として、水砕スラグに粒状のドライアイスを添加する装置の概要を示す説明図である。
符号の説明
1 水砕スラグ貯留用ホッパー
2 水砕スラグ
3 ベルトコンベア
4 ドライアイス(固結処理材)容器
5 粒状ドライアイス

Claims (5)

  1. 質量ならびに比重から換算した球相当直径5mm以上の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を、高炉水砕スラグに添加することを特徴とする、高炉水砕スラグの処理方法。
  2. 高炉水砕スラグを搬送する工程、高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、前記の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を添加することを特徴とする、請求項1に記載の高炉水砕スラグの処理方法。
  3. 高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のいずれか一方または双方の工程において、前記高炉水砕スラグを輸送可能な装置を利用して前記高炉水砕スラグを撹拌及び/又は貯留することを特徴とする、請求項2に記載の高炉水砕スラグの処理方法。
  4. 高炉水砕スラグを搬送する工程、高炉水砕スラグを攪拌する工程、高炉水砕スラグを貯留する工程のうち、1つ以上の工程において、前記の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)を1kg/トン−水砕スラグ以上添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高炉水砕スラグの処理方法。
  5. スラグを攪拌及び/又は貯留する装置と、質量ならびに比重から換算した球相当直径5mm以上の粒状の固体状二酸化炭素(ドライアイス)をスラグに添加する装置と、を有し、前記高炉水砕スラグを輸送可能な機能を有することを特徴とする、高炉水砕スラグの処理装置。

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