以上の技術的課題を解決するため、本発明に係る圧入接合用の締結部材は、図1,13,20等に示すように、基部から螺子部とともにかつこの螺子部より大径に突出形成され、板材に設けた孔部に電気抵抗熱を伴う圧入により固相接合され、かつこの孔部と相似形状の断面を形成して所定の圧入代が設けられた突出部を有する構成である。ここで、締結部材にはナット、ボルト等が含まれ、また上記突出部はボルトの場合、頭部と軸部との間に形成された拡径部が該当する。
また、本発明に係る圧入接合構造は、図11,17,24に示すように、所定の位置に孔部が設けられた板材と、この孔部に接合される上記突出部を有する上記締結部材との接合構造であって、上記板材を一の電極で保持する一方、上記締結部材を他の電極で保持し、これら両部材間に通電して両者の接合部位に電気抵抗熱を発生させるとともに、圧入により上記両部材間に接合界面を形成しつつ接合し、かつこの接合を固相状態の接合とした構造である。
本発明に係る圧入接合用のナットは、図1に示すように、基部と、この基部の中心部を貫通する螺孔と、この螺孔の周囲部から筒状に突出形成され、プレートに設けた孔部に電気抵抗熱を伴う圧入により固相接合され、かつこの孔部と相似形状の断面を形成して所定の圧入代を設けた突出部とを有する構成である。
また本発明に係る圧入接合用のナットは、上記基部の裏面部に、上記突出部を囲む状態で形成され、環状の溝部からなるバリ収納部を設けた構成である。
本発明に係る圧入接合用のナットは、図13に示すように、中心部に螺孔が設けられた基部と、この基部の裏面部側に基部と一体に形成され中央に上記螺孔と連続する孔部が設けられたフランジ部と、このフランジ部の孔部の周囲部から筒状に突出形成され、プレートに設けた孔部に電気抵抗熱を伴う圧入により固相接合され、かつこの孔部と相似形状の断面を形成して所定の圧入代を設けた突出部と、を有する構成である。
また本発明に係る圧入接合用のナットは、上記フランジ部の裏面部に、上記突出部を囲む溝状のバリ収納部を設けた構成である。
また本発明に係る圧入接合用のナットは、上記フランジ部の外側端部の板厚を1.0mm程度とし、かつフランジ部の裏面部における座面の全体を凹球面状に形成した構成である。
また本発明に係る圧入接合用のナットは、図1,13に示すように、上記突出部の筒の肉厚(s)を1.0mm以上に形成し、かつこの突出部の突出高さ幅(h)を0.5mmから2.0mm程度の範囲とした構成である。
本発明に係る圧入接合構造は、図11,17に示すように、所定の位置に孔部が設けられたプレートと、この孔部に接合される突出部を有する上記何れの圧入接合用のナットとの接合構造であって、上記プレートを一の電極で保持する一方、上記圧入接合用のナットを他の電極で保持し、これら両部材間に通電して両者の接合部位に電気抵抗熱を発生させるとともに、圧入により上記両部材間に接合界面を形成しつつ接合し、かつこの接合を固相状態の接合とした構造である。
また本発明に係る圧入接合構造は、上記プレートに高張力鋼材、又は表面処理をした鋼材を用いた構造である。さらに、本発明に係る圧入接合構造は、図1,13に示すように、上記突出部の突出高さ幅(h)を、上記プレートの板厚(t)と同じか又はより小さくした構造である。
本発明に係る圧入接合用のボルトは、図20に示すように、頭部と螺子溝が設けられた軸部とを有するボルトにおいて、上記頭部と軸部との間に、この軸部より太い径の拡径部を形成し、パネルに設けた孔部とこの拡径部との間で所定の圧入代を設け、両者間に通電し電気抵抗熱を伴う圧入により上記拡径部を上記孔部に固相接合する構成である。
また本発明に係る圧入接合用のボルトは、上記拡径部の径を上記軸部の径より1mm以上大きく形成し、かつ上記拡径部の高さ幅を1mmから5mm程度の範囲とした構成である。
また本発明に係る圧入接合用のボルトは、上記頭部の裏面部に、上記拡径部を囲む溝状のバリ収納部を設けた構成である。
また本発明に係る圧入接合用のボルトは、高張力鋼材を構成材料に用いた構成である。
本発明に係る圧入接合構造は、図24に示すように、所定の位置に孔部が設けられたパネルと、この孔部に接合される上記拡径部を有する上記圧入接合用のボルトとの接合構造であって、上記パネルを一の電極で保持する一方、上記圧入接合用のボルトを他の電極で保持し、これら両部材間に通電して両者の接合部位に電気抵抗熱を発生させるとともに、圧入により上記両部材間に接合界面を形成しつつ接合し、かつこの接合を固相状態の接合とした構造である。
また本発明に係る圧入接合構造は、図20に示すように、上記拡径部の高さ幅(h)を、上記パネルの板厚(t)と同じか又はより小さく形成した構造である。
また本発明に係る圧入接合構造は、上記パネルに高張力鋼材、又は表面処理をした鋼材を用いた構造である。
〔発明の効果〕
本発明に係る圧入接合用の締結部材によれば、基部から螺子部とともにかつこの螺子部より大径に突出形成され、板材に設けた孔部に電気抵抗熱を伴う圧入により固相接合される突出部を有する構成としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた効果がある。さらに、この圧入による固相接合はスパッタが殆ど見られないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
本発明に係る圧入接合構造によれば、所定の位置に孔部が設けられた板材と、この孔部に接合される上記締結部材との接合構造であって、これら両部材間に通電して両者の接合部位に電気抵抗熱を発生させ、かつこの接合を固相状態の接合としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた接合構造が得られるという効果がある。さらに、この圧入接合は固相接合であるため、プロジェクション溶接時に発生するスパッタが殆ど見られないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
本発明に係る圧入接合用のナットによれば、基部と、この基部の中心部を貫通する螺孔と、この螺孔から筒状に突出形成され、プレートに設けた孔部に圧入により固相接合される突出部とを有する構成としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた効果がある。さらに、この圧入による固相接合はスパッタが殆ど見られないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
また、本発明に係る圧入接合用のナットによれば、バリ収納部を設けたから、圧入により削られて生じたバリがこのバリ収納部に収められ、これによりナットの裏面がプレートの表面に密着し、品質の良い接合構造の部品が得られるという効果がある。
本発明に係る圧入接合用のナットによれば、基部の裏面部側に形成されたフランジ部、及びこのフランジ部から筒状に突出形成され、プレートに設けた孔部に固相接合される突出部を有する構成としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた効果がある。また、フランジ付のナットの座面がプレートに均一に密着するので、高荷重性の発揮、及び広い座面の確保が図れ、揺さ振り、曲げ捩れなどが確実に補強され、長期使用時のネジのゆるみも防止でき、また接合部に加わる微小な左右動などによる表面の喰い込みの防止が図れるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合用のナットによれば、フランジ部の裏面部に突出部を囲む溝状のバリ収納部を設けた構成としたから、圧入により削られて生じたバリがこのバリ収納部に収められ、フランジ付のナットの裏面がプレートの表面により確実に密着し、品質の良い接合構造の部品が得られるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合用のナットによれば、フランジ部の外側端部の板厚を1.0mm程度とし、かつ座面の全体を凹球面状に形成したから、溶接時の発熱によって、フランジ面をプレートの形状になじませることができ、プレートに多少の屈曲があっても比較的均一に圧力を加えることができ、また外周部における加圧力が強く緩みが防止されるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合用のナットによれば、突出部の筒の肉厚を1.0mm以上に形成し、かつこの突出部の突出高さ幅を0.5mmから2.0mm程度の範囲とした構成したから、強度的に優れた効果が得られる。
本発明に係る圧入接合構造によれば、孔部が設けられたプレートと上記圧入接合用のナットとの間に通電し、両者の接合部位に電気抵抗熱を発生させるとともに、圧入により両部材間に接合界面を固相状態の接合とした構造としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行え、かつ接合条件の自由度が高いなど製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた接合構造が得られるという効果がある。さらに、この圧入接合は固相接合であるため、プロジェクション溶接時に発生するスパッタが殆ど見られないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合構造によれば、プレートに高張力鋼材、又は表面処理をした鋼材を用いた構造としても、酸化被膜の影響を受けない良好な接合が行え、高張力鋼材の強度と相まって強度的に優れた接合構造が得られ、また表面処理をした鋼材であっても接合部に表面処理材が混入しないため、従来のプロジェクション溶接のように表面処理の影響を受けることがなく、優れた強度が確保できる。
また本発明に係る圧入接合構造によれば、突出部の突出高さ幅を、プレートの板厚と同じか又はより小さくした構造としたから、良好な接合界面が形成されて優れた接合強度が得られ、またプレートから突出部が突出して他の部品の組み付けに不都合をきたすこともない。
本発明に係る圧入接合用のボルトによれば、頭部と軸部との間に、この軸部より太い径の拡径部を形成し、パネルに設けた孔部とこの拡径部との間で所定の圧入代を設け、両者間に通電し電気抵抗熱を伴う圧入により固相接合する構成としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた効果がある。また、この圧入による固相接合は、スパッタが殆ど発生しないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合用のボルトによれば、拡径部の径を軸部の径より1mm以上大きく形成し、かつ拡径部の高さ幅を1mmから5mm程度の範囲とした構成としたから、強度的に優れた効果が得られる。
また本発明に係る圧入接合用のボルトによれば、頭部の裏面部に、拡径部を囲む溝状のバリ収納部を設けた構成としたから、圧入により削られて生じたバリがこのバリ収納部に収められ、これによりボルトの裏面がパネルの表面に密着し、品質の良い接合構造の部品が得られるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合用のボルトによれば、高張力鋼材を構成材料に用いた構成としても、軟鋼材と同様の強固な接合が行なえ、また接合部が溶融しないため高張力鋼のボルトに水素が浸入せず、遅れ破壊、応力破壊、水素脆性などの鋼中水素に起因するトラブルから開放され、安心して高張力材料を使用できるという効果がある。
本発明に係る圧入接合構造によれば、所定の位置に孔部が設けられたパネルと、この孔部に接合される上記圧入接合用のボルトとの接合構造であって、圧入により両部材間に接合界面を形成しつつ接合し、かつこの接合を固相状態の接合とした構造としたから、圧入と通電のみの簡単な工程で迅速に接合が行えて製造が容易で経済性に優れ、また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れた接合構造が得られるという効果がある。また、この圧入による固相接合は、プロジェクション溶接のように接合部における材料の温度が急激に高まり溶融して爆発するように飛散することがなく、このためスパッタが殆ど発生しないので良好な作業環境が維持され、作業性に優れるという効果がある。
また本発明に係る圧入接合構造によれば、拡径部の高さ幅を、パネルの板厚と同じか又はより小さく形成したから、良好な接合界面が形成されて優れた接合強度が得られ、またパネルから拡径部が突出して他の部品の組み付けに不都合をきたすこともない。
また本発明に係る圧入接合構造は、パネルに高張力鋼材、又は表面処理をした鋼材を用いた構造としても、酸化被膜の影響を受けない良好な接合が行え、高張力鋼板の強度と相まって強度的に優れた接合構造が得られ、また表面処理をした鋼材であっても接合部に表面処理材が混入しないため、従来のプロジェクション溶接のように表面処理の影響を受けることがなく、優れた強度が確保できる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、第一の実施の形態に係り、圧入接合用の締結部材としてのナット及びその圧入接合構造を図面に基づいて説明する。図1は、上記ナット2を示したものである。このナット2は、外形が六角形状の基部3、中心部を貫通する螺孔4、及び上記基部3の螺孔の周囲部から下方に筒状に突出形成された突出部6(インロー部)を有している。この突出部6は、所定の肉厚(s)を有する円形筒状(円環状)の形状をなし、内部には上記螺孔4と連続する螺孔4が形成されている。上記突出部6は、基部3の裏面部5から下方に所定の高さ幅(h)突出形成されている。
図2は、他の形態の圧入接合用のナット12を示したものである。このナット12についても、基部3の螺孔4の周囲部から下方に突出部6が形成され、さらに基部3の裏面部5に、上記突出部6を囲む状態で環状の溝からなるバリ収納部9が形成されている。また、このナット12の成型に際しては、基部3の上面の中央部をプレス加工により押圧し(凹部13)、下方にこの突出部6を押出し成形したものである。
上記バリ収納部9は、図3に示すように種々の形態があるが、例えば同図(a)に示すバリ収納部9は、突出部6の近傍に沿って溝部を設けた形態である。同図(b)に示すバリ収納部9は、突出部6近傍の溝部の上端部から外側下方に向けてテーパ状に形成したものであり、これはナット2の裏面部の全面に凹空間が形成される形態である。
ナットの形状については、あらゆる形態の六角ナットが使用可能であり、また四角ナットの使用も可能である。その他の、多角形のナット或いは筒状で周囲の複数箇所に窪み部が形成された丸溶接ナット、JISに規定されている多角形のナット、溶接部が円板状のT形溶接ナット等、何れの形態のナットについても使用が可能である。これらナットの裏面部5に突出部6を形成することで、圧入接合用のナットが得られる。なお、多角形のナットは、ナットのねじ切り(螺孔)の際に固定が容易である。
また、上記突出部6の外径は、角ナット(四角、六角など)の場合はナットの平行な二面の幅寸法と同じか、或いは同幅寸法以下とする。他のナットについても、基部の径方向のサイズよりも突出部の外径を小さくする。この範囲の基部3の大きさであれば、通電、圧入の際に電極が良好に配置でき電気抵抗が低減できる。一般のプロジェクション溶接用のナットは、溶接部に突起を設けることからナットの裏面部を広くする必要があり、このためナットの形状が大きくなる。しかし、この実施の形態に係るナット2は、原理的にはナットの基部3は突出部6の大きさと同程度(軸と直交する断面)まで小さくすることが可能であり、小型化及び軽量化にも貢献する。また、ナット2,12等は鋼製である。
上記プレート8は、特に自動車のシャーシーなどの構造部品として採用されている高張力鋼板を用いる。この高張力鋼板としては、C、Si、Ti、Nb等の合金元素が含まれた鋼板或いはこれを熱処理したデュアルフェーズ(DP)鋼板があり、引張強度が80kgf/mm2以上の強度を有する。抵抗溶接において、酸化被膜の影響が発生するのは引張強度が80kgf/mm2以上のものであり、この実施の形態に係る圧入接合の威力が発揮されるところである。
このプレート8には、所定の位置に円形の孔部10を穿設する。この孔部10は、プレート8面に直交し且つストレートな孔である。このプレート8における上記ナット2との接合部は平坦であるが、プレート8の孔部10近傍は多少の屈曲があってもその程度が僅かであれば、接合に問題はない。
上記ナット2の突出部6には、図1等に示すように面取り部7が形成されており、この面取り部の高さ幅は0.3mm程度である。この面取り部7は金型成形の都合上形成されるものであり、また圧入の際のガイドとしても有効である。なお、圧入の際には、所定の圧入代があることから、上記面取り部7は侵食され圧入後にはほとんど原形は無くなる。上記ナット2の突出部6の高さ幅(h)については、上記面取り部7を含めた概念である。突出部6の肉厚(s)は、上記螺孔4の螺子溝の谷と突出部6の外径部との間の寸法である。
また、上記プレート8の板厚(t)と、上記ナット2の突出部6の高さ幅(h)との関係については、板厚(t)は高さ幅(h)と同程度よりも大きい(t>h、t=h)寸法とする。逆に、ナットの突出部6の高さ幅が大きいと、接合後にプレート8から突出部6が突出して、他の部品をボルト締めで組み付ける際に不都合となる場合がある。
上記ナット2及びプレート8の材料に関しては、特に高張力鋼板からなるプレート8に鋼製のナット2を接続する場合には、酸化被膜の影響が少なく一般のプロジェクション溶接のナットの溶接に比べて、溶接不良は発生しないので好適である。もちろん、プレート8及びナット2の材料として、一般の鋼板、自動車用高張力鋼板、その他の金属材料、SUS(ステンレス鋼)、SUSと炭素鋼とを組み合わせたもの、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼、耐熱鋼、工具鋼、バネ鋼、鋳鉄、快削鋼、軸受鋼、一般加工用鋼材、圧力容器用鋼材、チタン、アルミニウムなどの軽金属等が適用可能である。また、自動車に用いられる亜鉛メッキなどの表面処理をした高張力鋼板にも適用可能である。
ここで、上記ナット2の上記プレート8への圧入接合について説明する。この圧入接合は、図4に示すように、クローム銅製の下型14と上型16を有する冶具を用い、母材としてプレート8に上記ナット2の突出部6を接合するものである。この冶具の上型16には中央に、上記ナット2を密着保持する穴部18が設けられており、また下型14、上型16はそれぞれ電極として機能する。上記上型16の穴部18は、ナット2の上面部及び側面部に密着して電気の伝導抵抗の低減を図っている。また、電極同士の接触防止のため、穴部18の下端部はナットの裏面部5から少し上寄りの位置とする。なお、上記上型16は穴部18がなくても使用可能である。
図4に示すように、突出部6とプレート8の孔部10との間には、所定の圧入代(d)が形成されている。この圧入代(d)は直径に対する寸法であり、半径に対しては(d/2)となる。圧入接合の条件として、印加電流は22kAとし、加圧力は400kgfから450kgfの範囲とした。この加圧力は、母材であるプレートの応力(ここではナットがプレートに突入することを妨げる抵抗力)よりも低い圧力としている。したがって、この加圧力が、プレートの軟化により低下した応力を上回った時点から、圧入が開始されることになる。
この圧入工程においては、上記下型14の上面に上記プレート8を載置する一方、上型16の穴部18に保持したナット2を上型16とともに降下させる。そして上型16を一定の加圧力を付勢して押圧し、同時に下型14及び上型16を介してナット2とプレート8間に通電する。すると、電気抵抗熱の発生とともにナットの突出部6の圧入が開始され、この突出部6がプレート8の孔部10内を降下移動し、突出部6の先端部がプレート8の孔部の中間位置に到達する。このような製造工程により、ナット2とプレート8からなる圧入接合構造の部品が得られる。この接合構造は、ナット2の突出部6の全周がプレート8の孔部10に接合される全周接合となる。
さらに上記圧入工程に先立って、予めナット2及びプレート8を温める予熱工程を組み入れた(予熱パターン)の接合方法を採用することができる。この予熱工程は、上記圧入を開始する前に、上記圧入時よりも通電電流を低く抑え(圧入のときの1/2程度の予熱電流)、両部材を接触させた状態で通電する。この予熱工程では、上記圧入工程と同様に上型16を降下させるとともに予熱電流を通電する。ここでは、接合する部材としてのナット2、プレート8に予熱を持たせるのが目的であるから、両部材の接合部が軟化しない状態に両部材の温度を上昇させる。この予熱工程の後、直ちに通電電流を増加して上記圧入工程に移る。
上記圧入工程では、電気抵抗熱の発生とともにナット2の圧入が開始され、突出部6がプレート8の孔部10内を降下移動する。この場合、両部材の接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による製造工程により圧入接合が行われる。そして、一定の加圧力、一定の降下速度で圧入接合が行われ、瞬時に接合部が発熱され短時間でナット2の裏面部5はプレート8の表面部に至り接合を完了する。そして、ナット2の突出部6とプレートの孔部とは、両者間に固相溶接の接合界面が形成された状態で接合される。
固相溶接においては、その接合面に清浄な表面組織が得られていることが、接合の良否を左右する。この実施の形態に係る圧入接合によれば、上記接合界面にはナット2の突出部とプレート8の孔部10との各壁面同士の間が滑り方向の移動によりしごかれ、これにより表面の不純物質層が削られて表面が清浄化され、接合部は清浄な組織になる。
その後、圧入が進むにつれて、接合面部の接合面積が増加し、反対に断面積差が減少するので電流密度が下がり、結果的に抵抗熱の発生が減少し、接合面部の温度は低下する。上記圧入接合による接合状態は、圧入による塑性変形(熱塑性)を伴った固相溶接に至ったものとなる。そして、圧入の完了後、冷却により接合部の母材の硬さが回復して強固に接合する。ここで、上記圧入接合では、加圧→通電→圧入→冷却の経過をたどる。また、上記削られて生じたバリは、上記バリ収納部9に収められ、これによりナット2の裏面部5がプレート8の表面に密着し、品質の良い接合構造の部品が得られる。
図5、図6は、社内における上記圧入接合の試験結果を示したものである。ここで用いたプレート8としては高張力鋼板(引張強度80kgf/mm2)を用いた。このプレート8の板厚(t)は2.8mmのものと1.8mmのものを使用した。また、圧入代(d)は直径に対して0.3mmとした。
図5に示す社内試験Aは、ナット2の突出部6の突出高さ幅(h)を変化させて、突出部6の内径の収縮の程度を測定した。ここで、ナット2はM8規格の大きさのものを用い、突出部6の外径は11mmとし、これから肉厚(s)は(11−8)/2=1.5mmとした。同図(1)は、接合後の突出部6の内径の変化を測定したものである。判定は、ネジプラグゲージ(JIS規格)を用いて行い、突入前のナットのねじ込み加減を確認し、圧入後のナットへのボルト限界ゲージの螺入の良否を調べた。
測定結果で、(〇)は、問題なくゲージが螺入でき、突出部6の内径の収縮が生じていないことを示す。(△)は、ある程度の抵抗があるもののゲージの螺入は可能であったもので、僅かに突出部6の内径が収縮したことを表している。(×)は、ゲージが螺入できなかったもので、突出部6の内径収縮がある程度生じていたことを示す。
結果は、突出部6の突出高さ幅(h)が0.5mm〜1.2mmでは、何れの板厚のプレート8についても(〇)で良好であった。突出高さ幅(h)が1.5mmでは、何れの板厚のプレート8についても(△)で良好であった。突出高さ幅(h)が2mmでは、板厚(t)が2.8mmのものは(△)、1.8mmのものは(×)であった。これから、ナット2の突出部6の突出高さ幅(h)は、0.5mm〜2.0mmの範囲内では、突出部6の内径の収縮程度は概ね良好と考えられる。
同図(2)は、上記社内試験Aにおいて強度の計測結果を示したものである。ここでの試験条件は上記と同様であり、ナット2の突出部6の突出高さ幅(h)を変化させて、接合強度を計測した。なお接合強度は、JIS規格(B1196)に基づく押込み剥離強度(KN)により測定した。
結果は、突出部6の突出高さ幅(h)が0.5mm〜2.0mmでは、板厚2.8mmのプレートでは14.5〜26.6KN、板厚1.8mmのプレートでは8.2〜20.1KNであり、何れの板厚のプレート8についても良好な強度が得られた。ちなみに、JIS規格(B1196)におけるM8ナットの押込み剥離強度(KN)は、6.03KNである。これから、ナット2の突出部6の突出高さ幅(h)は、0.5mm〜2.0mmの範囲内では、十分かつ強力な強度が確保されることが確認できた。
このように、ナット2の突出部6の突出高さ幅(h)は0.5mm程度以上で2mm程度以下が好ましい。この高さ幅が2.0mm以上になると、接合強度は略母材の強度のレベルとなるが、必要以上に深いとかえってバリの量を増加させることになる。なお試験結果で示されるように、この高さ幅(h)は0.8mm以上あれば、相当な強度が確保され、好適である。この突出高さ幅(h)は、突出部6がプレート8の孔部10に圧入される圧入の深さに該当する。
図6は、社内試験Bを示したものであり、同図(1)はナット2の突出部6の肉厚(s)を変化させて、突出部6の内径の収縮の程度を測定し、その試験結果を示したものである。ここで用いたプレート8は、上記社内試験Aのものと同様である。またナット2はM8規格の大きさのものを用い、圧入代(d)は直径に対して0.3mmとした。突出部6の突出高さ幅(h)は、0.8mmとした。この社内試験Bでは、突出部6の外径を10mm〜13mmの範囲で変えて肉厚(s)を変化させた。このとき肉厚(s)は、(突出部の外径−8)/2となる。判定は、社内試験Aと同様ネジプラグゲージ(JIS規格)を用いて行った。
内径の収縮程度の測定結果は、肉厚(s)が1mmでは、何れの板厚のプレート8についても(△)であった。また、肉厚(s)が1.5mm〜2.5mmでは、何れの板厚のプレート8についても(〇)で良好であった。これから、ナット2の突出部6の肉厚(s)は、1.0mm以上の範囲内では、突出部6の内径の収縮程度は概ね良好と考えられる。
同図(2)は、上記社内試験Bにおいて強度の計測結果を示したものである。ここでの試験条件は上記収縮試験と同様であり、ナット2の突出部6の肉厚(s)を変化させて、接合強度を計測した。なお接合強度は、JIS規格(B1196)に基づく押込み剥離強度(KN)により測定した。
結果は、突出部6の肉厚(s)が1.0mm〜2.5mmでは、板厚2.8mmのプレートでは15.1〜23.2KN、板厚1.8mmのプレートでは8.8〜12.7KNであり、何れの板厚のプレート8についても良好な強度が得られた。これから、ナット2の突出部6の肉厚(s)は、1mm〜2.5mmの範囲内では、十分かつ強力な強度が確保されることが確認できた。
ここで、上記ナット2の突出部6とプレート8の孔部10との圧入代(d)について説明する。上記社内試験では、圧入代(d)は0.3mmとした。この圧入代(d)は、社内試験によれば、0.2mmから0.6mm(好適には0.3mmから0.5mm)の範囲では良好な結果が得られている。この圧入代(d)は径に対する圧入代であり、突出部6の外径がφ1、孔部10の内径がφ2としたとき、d=φ1−φ2である。社内試験では、圧入代dが0.1mm程度だと、圧入の際の圧入代の削り量が少なく接合が不安定である。また、圧入代dが0.6mm以上の場合には、圧入代による削り量が多くなり仕上がりにむらができる。
なお、この実施の形態では、加工容易等からプレート8の孔部10の形状、及びナット2の突出部6の外形を円形としたが、これは他の形状であっても両者が相似の関係にあれば圧入の条件は満足され、例えば、楕円形状、六角形状、八角形状等の形態についても適用は可能である。
図7は、社内における上記圧入接合の他の試験結果を示したものである。ここでは、プレート8として、高張力鋼板(引張強度80kgf/mm2)を用いた。またナット2はM10規格のもので、圧入代(d)は0.3mmとした。この試験は、通電時の電流値に対する接合強度を測定したものである。通電のパターンとして、基本パターン(圧入時のみに通電)、予熱パターン(圧入の通電に先立って予熱を発生させるための通電を行う)について試験した。また、接合強度は、JIS規格(B1196)に基づく押込み剥離強度(KN)により測定した。
試験の結果、電流値が18KA以上では、強度は20KNを越えて略30KN程度に収束している。また、予熱パターンの接合形態の方が、基本パターンのよりも良好な結果が得られている。これは、予熱工程を設けることで、圧入の際、抵抗熱が接合部分の全体に均等に分布することになって安定かつ良好な接合環境が得られ、優れた強度が得られたものと考えられる。
ここで社内試験により、上記圧入接合と従来のプロジェクション溶接との押込み剥離強度について比較したのでその結果を示す。この試験では、上記圧入接合によりナットを引張強度の異なる鋼板(プレート)に接合したもの(圧入接合ナット)の押込み剥離強度と、従来のプロジェクション溶接によりナットを同様の鋼板に溶接したもの(一般溶接ナット)の押込み剥離強度とを、通電時の種々の印加電流値について測定し比較した。
上記ナットを接合する鋼板として、SPCC鋼板(引張強度270MPa(28kgf/mm2))、780MPa鋼板(引張強度780MPa(80kgf/mm2))及び980MPa鋼板(引張強度980MPa(100kgf/mm2))の3種類の異なる引張強度の鋼板を用いた。この内、780MPa鋼板及び980MPa鋼板はいわゆる高張力鋼板である。
また、ナットはM6規格(ねじの呼び)のサイズのものを用い、圧入接合では鋼板の孔部との圧入代を0.3mmとし、また圧入時の加圧力は400kgfとしてプレートに圧入接合した。一方プロジェクション溶接では、上記M6ナットに4箇所のプロジェクションを設けてプレートに溶接した。そして各鋼板について、それぞれ溶接の際の印加電流に対する剥離強度の測定を行い、電流と剥離強度との関係を調べた。
図8(a)は、プレートとして上記SPCC鋼板にナットを接合溶接した場合の印加電流(kA)と押込み剥離強度(kN)とを、上記圧入接合ナット及び一般溶接ナットについて比較したグラフである。このグラフからすれば、圧入接合ナットの場合は、押込み剥離強度がJIS規格で規定される3.24kN以上が確保される印加電流以上で、且つ溶接電流限界までの溶接可能と考えられる電流の範囲(S)(溶接可能電流範囲)は略6.5kAである。この溶接限界電流とは、これ以上の電流を流すと接合部が発熱しすぎてオーバーヒートし、圧入接合に支障をきたす電流の限界である。また、一般溶接ナットの場合は、押込み剥離強度が上記JIS規格の3.24kN以上が確保される電流以上で、且つスパッタ発生による電流限界までの溶接可能電流範囲(P)は略3kAである。このスパッタ発生限界電流は、これ以上の電流を流すと溶接部で爆飛が発生して安定した溶接性能が得られなくなる電流の限界である。
図8(b)は、上記ナットを上記780MPa鋼板に接合溶接した上記圧入接合ナット及び一般溶接ナットについての比較グラフであり、図8(c)は、上記ナットを上記980MPa鋼板に接合溶接した上記圧入接合ナット及び一般溶接ナットについての比較グラフである。図9は、上記溶接可能電流範囲及び最大接合強度について比較結果をまとめた表である。
これから、上記圧入接合ナットは一般溶接ナットの溶接可能電流範囲(P)に比べて、溶接可能電流範囲(S)が広く(約2倍)、溶接条件の自由度が大きい。これは、圧入接合は接合温度を低く抑えることができるためであり、また接合時にスパッタ或いは爆飛などが発生しないためと考えられる。このように、圧入接合においては、溶接条件の自由度が大きいため、接合部材の大きさ等による溶接条件が変化しても一定の幅をもって電流コントロールが行えるため、制御が容易であり作業性が良い。
また、上記圧入接合ナットの押込み剥離強度は、上記3種類の鋼板を比較した場合、引張強度が低い鋼板に接合したもの(SPCC鋼板では10kN)より、引張強度が高い鋼板に接合したもの(780MPa鋼板、980MPa鋼板ではともに12kN)の方が剥離強度が高い傾向にある。一方、上記一般溶接ナットの押込み剥離強度は、上記3種類の何れの鋼板についても略10kNと同程度であり、上記グラフからは引張強度が低い鋼板に接合した方が剥離強度が高い傾向にある。このように、圧入接合ナットの押込み剥離強度は、上記鋼板の引張強度に比例して高くなるのは、母材の強度がそのまま剥離強度の高さに表れているためと考えられる。また、一般溶接ナットにおける押込み剥離強度が高張力鋼板の引張強度に応じて高くならないのは、ナットを高張力鋼板に溶接する際、溶接部に酸化皮膜が発生し易いこと、溶接温度が高く溶接部が焼鈍されることなどが考えられる。
このように上記社内試験から、圧入接合ナットは一般溶接ナットに比べて、接合時の印加電流等の接合条件の自由度が高く、このため電流コントロールの制御などが容易で作業性が良く、またナットを鋼板へ接合した場合に高い剥離強度が得られ、特に高張力鋼板との接合において優れた接合強度が得られる等、種々の点において圧入接合が優れた特性を有することが確認できた。
また社内試験により、プレートとしてメッキ鋼板にナットを接合溶接した場合の押込み剥離強度を比較したのでその結果を示す。この試験では、上記圧入接合によりナットを590MPaGA鋼板(合金化溶融亜鉛メッキ鋼板)に接合したもの(圧入接合ナット)の押込み剥離強度と、従来のプロジェクション溶接によりナットを同様の鋼板に溶接したもの(一般溶接ナット)の押込み剥離強度とを、種々の印加電流値について測定し比較した。これ以外の溶接条件は、上記社内試験の場合と同様である。
図10は、上記GA鋼板にナットを接合溶接した場合の印加電流(kA)と押込み剥離強度(kN)とを、上記圧入接合ナット及び一般溶接ナットについて比較したグラフである。このグラフからすれば、圧入接合ナットの場合は、押込み剥離強度が上記JIS規格値以上確保される印加電流以上で、且つ溶接電流限界までの溶接可能電流範囲(S)は略4.5kAである。また、一般溶接ナットの場合は、押込み剥離強度が上記JIS規格値以上確保される電流以上で、且つスパッタ発生による電流限界までの溶接可能電流範囲(P)は略2kAである。
これから、上記圧入接合ナットは一般溶接ナットの溶接可能電流範囲(P)に比べて、溶接可能電流範囲(S)が広く(2倍以上)、溶接条件の自由度が大きい。特に、一般溶接ナットの場合にはスパッタ発生による電流限界(略9kA)が上記メッキのされてない鋼板(上記780MPa鋼板の電流限界(略10kA))と比べて低下している。これは、一般溶接によりナットをGA鋼板に溶接したとき、スパッタの火花の発生が著しく溶接に支障をきたすためである。このような大量のスパッタは、ナットの螺子部を不良にするなど製品品質に悪影響を及ぼし、作業も危険で安全面についても問題である。このため、メッキ鋼板にナットを一般溶接する場合、スパッタが大量に発生して溶接条件の自由度が小さくなり、電流コントロールの制御が困難で作業性も悪い。
一方、圧入接合の場合、スパッタは殆ど発生しないことから広い電流範囲で溶接が良好に行え、このため圧入接合ナットの押込み剥離強度は、溶接可能電流範囲(S)内において安定した高い強度特性が得られている。このように上記社内試験によれば、プレートにメッキ鋼板を用いた場合であっても、圧入接合ナットは広い電流範囲で高い剥離強度が得られ、上記メッキのされてない鋼板と同様の剥離強度が得られ、また一般溶接ナットに比べて、接合時の印加電流等の接合条件の自由度が高く、このため電流コントロールの制御などが容易で作業性が良いことが確認できた。
自動車等の構造体においては、骨組み組織或いはボディ等に鋼板を成形したものが要素部材として用いられている。この要素部材としてプレート8に上記ナット2を固定したものを用いる。図11に示すように、上記ナット2を接合したプレート8は、自動車のフレーム等の構造体を構成する要素部品として組み付けられ、これにボルト19締めにより他の構成部品20を固定する等、の用途に用いられる。
従って上記実施の形態に係る圧入接合によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速に接合が行えて製造が容易に行えて製造コストが安価で経済性に優れる。また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、母材に与える熱影響範囲が少ないことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良いという効果がある。
また上記圧入接合では、全周にわたって接合されるため、接合部の気密性が確保できる。このような気密性の確保は従来のプロジェクション溶接では構造的に困難とされ、機密性確保のために別途シールを行なう必要があった。また、従来のプロジェクション溶接用ナットには中央部にガイド突起を設けたものがあるが、このガイド突起とプレートの孔部とは規格的にも隙間があり、このためガイド突起を突入してもナットの中心位置が孔部の中心とズレルことがあり、この場合ボルト止めの際に座面が変形することがあった。この点、上記圧入接合では、ナット2の位置精度についても、孔部に突入させる構造から自動的に位置決めが行え、かつ高精度で中心位置が孔部の中心と一致するので良好である。
次に、他の実施の形態について説明する。図12に示すように、この実施の形態に用いるナット22は、突出部26の外周部に複数の凸条部25を形成したものである。このナット22は、上記ナット2の上記突出部6の外径部分の4箇所を平坦に切り欠いた結果、等間隔の4箇所の位置に凸条部25が形成された形態である。したがって、圧入の際には、プレート8の孔部10の壁面に対して、これら凸条部25が部分的に接合する。このため、この接合構造は、ナット22の突出部26の複数部分がプレート8の孔部10に接合される部分接合となる。
この圧入接合の基本的な接合工程は、上記全周接合と同様であるが、両部材が接触する面積が小さくなるため、通電時の電気抵抗が高くなり、通電の際の電流値を低下しても同様の抵抗熱が得られる点で異なる。この接合工程における圧入時の印加電流は22kA、加圧力は400kgfである。
上記ナット22の突出部26とプレート8の孔部10との間には、径に対して0.2mmから1.0mm(好適には0.3mmから0.7mm)の範囲の圧入代が形成されている。これにより、プレート8の孔部10と突出部26とは、4箇所の凸条部25で接し圧入が行われる。
接合に際しては、上記下型14の上面に上記プレート8を載置する一方、ナット22を穴部18に嵌入して取付けた上型16をナット22とともに降下させる。そして上型16を一定の加圧力を付勢して押圧し、同時に下型14と上型16を介してナット22とプレート8間に通電する。すると、電気抵抗熱の発生とともに突出部26の圧入が開始され、凸条部25がプレート8の孔部10内を降下移動し、突出部26の先端部がプレート8の孔部10の中間位置に到達する。この場合、凸条部25とプレート8の孔部10の内壁との接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による圧入接合が行われる。このような製造工程により、ナット22とプレート8からなる圧入接合構造の部材が得られる。
上記部分接合の他の形態として、突出部26の外径を円形とする一方、プレート8の孔部10の内周部を複数部分切り欠き、上記突出部26との接合箇所が複数形成される構成としてもよく、この構成についても上記部分接合と同様の効果が得られる。
従って上記実施の形態に係る圧入接合によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速に接合が行えて製造が容易に行えて製造コストが安価で経済性に優れる。また、接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良いという効果がある。
次に、第二の実施の形態に係り、圧入接合用の締結部材としてのフランジ付のナット及びその圧入接合構造を図面に基づいて説明する。図13は、上記フランジ付のナット32を示したものである。このナット32は、外形が六角形状の基部33、この基部33の下部に一体に形成され基部より外径が大きな中空円盤状のフランジ部41、上記基部33の中心部を貫通する螺孔34、及び上記フランジ部41の孔部の周囲部から下方に筒状に突出形成された突出部36を有している。この突出部36は、所定の肉厚(s)を有する円形筒状(円環状)の形状をなし、内部には上記螺孔34、フランジ部41の孔部と連続する孔が形成されている。上記突出部36は、フランジ部41の裏面部35から下方に所定の高さ幅(h)突出形成されている。
図14は、他の形態の圧入接合用のフランジ付のナット42を示したものである。このナット42についても、上記ナット32と同様にフランジ部41の裏面部35から突出部36が突出形成され、さらにフランジ部41の裏面部35に、上記突出部36を囲む状態で環状の溝からなるバリ収納部39が形成されている。またこのナット42は、基部33の上面の中央部をプレス加工により押圧し(凹部43)、下方にこの突出部36を押出し成形したものである。
また、上記フランジ付のナット32,42は、基部33、フランジ部41及び突出部36の全体にわたって螺子溝を刻設したが、これは基部33とフランジ部41のみに螺子溝を刻設し、突出部36の孔部には螺子溝を刻設しないこととしても良い。このとき、突出部36の孔部の内径は、基部33の螺子の谷間の内径程度或いは少し大きい径とする。これにより、ナット32,42をボルトで締結する際にボルトのとおりが良くなる。また、基部33の孔部のみに螺子溝を刻設し、フランジ部31及び突出部36の孔部には螺子溝を刻設しない形態とすることもでき、この場合にはさらにボルトのとおりが良くなる。
上記バリ収納部39は、図15に示すように種々の形態があるが、例えば同図(a)に示すバリ収納部39は、フランジ部41の裏面部35に、突出部36の近傍に沿う状態に溝部を設けた形態である。同図(b)に示すバリ収納部39は、フランジ部41の裏面部35に、突出部36の近傍から外側に向けて下方に傾斜するテーパ状の溝部を設けた形態である。
フランジ付のナットの基部33の形状については、六角或いは四角などあらゆる形態の多角形の形状の採用が可能であり、また円形状の形態の採用も可能である。これらの基部にフランジ部を一体形成し、このフランジ部の裏面部に突出部36を形成することで、圧入接合用のナットが得られる。また、フランジ部41の大きさは、基部33の外径(最大径)より大きく形成して座面の面積を確保する。このフランジ部41の形状についても、円形、楕円形、花形など種々の形状のものを採用することができる。また、ここでのフランジ部41の裏面部35の座面は平坦である。
図13(c)は上記ナット32を圧入接合するプレート38を示したものである。このプレート38は所定の板厚(t)からなる板材であり、所定の位置に円形の孔部40が穿設されている。この孔部40は、プレート38面に直交し且つストレートな孔である。このプレート38における上記ナット32との接合部位は平坦であるが、プレート38の孔部40近傍は多少の屈曲があってもその程度が僅かであれば、接合に問題はない。
上記ナット32の突出部36には、図13等に示すように面取り部37が形成されており、この面取り部の高さ幅は0.3mm程度である。この面取り部37は金型成形の都合上形成されるものであり、また圧入の際のガイドとしても有効である。なお、圧入の際には、所定の圧入代があることから、上記面取り部37は侵食され圧入後にはほとんど原形は無くなる。上記ナット2の突出部36の高さ幅(h)については、上記面取り部37を含めた概念である。突出部36の肉厚(s)は、上記螺孔34の螺子溝の谷と突出部36の外径部との間の寸法であり、螺子溝が設けられていない場合には突出部36の筒の肉厚である。
この実施の形態では、上記プレート38の板厚(t)と、上記ナット32の突出部36の高さ幅(h)との関係については、高さ幅(h)は板厚(t)とは同程度かより小さい(h=t、h<t)寸法としている。これは、突出部36がプレート38の板厚(t)以上に圧入されると、両部材の接合範囲以上に圧入が行なわれることになり、これでは圧入によりせっかく形成された良好な接合界面を潰して、さらに新たな接合界面を造ることになって接合強度が低下することになるからである。また、ナット32の突出部36の高さ幅(h)が板厚(t)より大きいと、接合後にプレート38から突出部36が突出して、他の部品をナット締めで組み付ける際にこの突出部位が邪魔になって不都合となる場合がある。
上記プレート38は、特に自動車のメンバ、パネルなどの構造部品として採用されている高張力鋼板を用いる。この高張力鋼板としては、C、Si、Ti、Nb等の合金元素が含まれた鋼板或いはこれを熱処理したデュアルフェーズ(DP)鋼板があり、引張強度が780N/mm2以上の強度を有する。抵抗溶接において、酸化被膜の影響が発生するのは引張強度が780N/mm2以上のものであり、この実施の形態に係る圧入接合の優れた効果が発揮されるところである。
上記ナット32及びプレート38の材料に関しては、特に高張力鋼板からなるプレート38に鋼製或いは高張力鋼製のナット32を接続する場合には、酸化被膜などの影響が少なく一般のプロジェクション溶接のナットの溶接に比べて、溶接不良は発生しないので好適である。もちろん、プレート38及びナット32の材料として、一般加工用鋼材、自動車用高張力鋼材、その他の金属材料、SUS(ステンレス鋼)、SUSと炭素鋼とを組み合わせたもの、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼、耐熱鋼、工具鋼、バネ鋼、鋳鉄、快削鋼、軸受鋼、一般加工用鋼材、圧力容器用鋼材、チタン、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属、軽金属合金等が適用可能である。また、自動車に用いられる亜鉛メッキなどの表面処理をした高張力鋼板にも適用可能であり、表面処理をしたナットにも適用可能である。
ここで、上記フランジ付のナット32を上記プレート38へ接合する圧入接合について説明する。この圧入接合は、図16に示すように、クローム銅製の下型44と上型46を有する冶具を用い、母材としてのプレート38に上記ナット32の突出部36を接合する。この冶具の上型46の中央部には、上記ナット32を密着保持する穴部48が設けられており、また下型44、上型46はそれぞれ電極として機能する。
上記上型46の穴部48は、ナット32の上面部及び側面部に密着して電気抵抗の低減を図っている。また、電極同士の接触防止のため、穴部48の下端部はナット32の裏面部35から少し上寄りの位置としている。なお、上記上型46は穴部48のない平坦な形態でも使用可能である。
図16に示すように、突出部36とプレート38の孔部40との間には、所定の圧入代(d)が形成されている。この圧入代(d)は直径に対する寸法(d=突出部36の直径−孔部40の直径)であり、半径に対しては(d/2)となる。上記圧入代を確保するために、プレート38の孔部40の直径を、ナット32の突出部36の直径より小さい寸法とする。圧入接合の条件として、基部がM8規格のナットを用い、プレートとして板厚2.8mmの780N/mm2の高張力鋼板を用いた場合において、印加電流は16kAとし、加圧力は2kNとした。この加圧力は、母材であるプレート38の応力(ここでは突出部がプレートの孔部に突入することを妨げる抵抗力)よりも低い圧力としている。したがって、この加圧力が、プレートの軟化により低下した応力を上回った時点から圧入が開始されることになる。
この圧入工程の一例においては、上記下型44の上面に上記プレート38を載置し、上型46の穴部48にナット32を保持させ、上型46とともにこのナット32を降下させる。そして、突出部36の下端部が孔部40の縁に接する状態で位置合わせを行う。次に、上型46を一定の加圧力を付勢して押圧し、その後(約1秒後)に下型44及び上型46を介してナット32とプレート38間に接合電流を通電する。
すると、電気抵抗熱の発生とともに突出部36の孔部40への圧入が開始され、この突出部36がプレート38の孔部40内を垂直に降下移動する。そして、突出部36の先端部が孔部40の中間位置に到達し、同時にナット32の裏面部35(座面)がプレート38の表面に密着する。このような製造工程により、ナット32とプレート38からなる圧入接合構造の部品が得られる。この接合構造は、ナット32の突出部36の全周がプレート38の孔部40に接合される全周接合となる。なお、上記各工程におけるタイミング、及び工程間の移行タイミングは、時間でコントロールされている。
ナット32及びプレート38に炭素当量0.35以上の高張力鋼材を使用する場合、この実施の形態に係る圧入接合法を用いたときには、圧入接合後の急冷効果により、接合部及び熱影響部にマルテンサイト組織が発生することがある。この金属組織は非常に硬く、脆いため、接合部の靭性に問題が生じる。これを防ぐ手段として、圧入接合工程に引き続き、同一の接合治具を用いて二次電流を流し、接合部を通電過熱しこの部分を焼鈍することが有効である。この焼き戻し通電により、上記マルテンサイトは焼き戻しマルテンサイトに変化し、接合部に靭性が回復する。
また、上記圧入工程に先立って、予めナット32及びプレート38を温める予熱工程を組み入れた(予熱パターン)の接合方法を採用することができる。この予熱の目的は接合後の接合部の急冷を防ぎマルテンサイトの発生を抑えるためである。この予熱工程は、上記圧入を開始する前に、上記圧入時よりも通電電流を低く抑え(圧入のときの1/2程度の予熱電流)、両部材を接触させた状態で通電する。この予熱工程では、上記圧入工程と同様に上型46を降下させ、突出部36の下端部が孔部40の縁に接する状態で予熱電流を通電する。ここでは、接合する部材としてのナット32、プレート38に予熱を持たせるのが目的であるから、両部材の接合部が軟化しない状態に両部材の温度を上昇させる。この予熱工程の後、直ちに通電電流を増加して上記圧入工程に移る。
上記圧入工程では、電気抵抗熱の発生とともにナット32の圧入が開始され、突出部36がプレート38の孔部40内を降下移動する。この場合、両部材の接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による製造工程により圧入接合が行われる。そして、一定の加圧力、一定の降下速度で圧入接合が行われ、瞬時に接合部が発熱して短時間でナット32が圧入接合され、ナット32の裏面部35がプレート38の表面部に当接して接合を完了する。そして、ナット32の突出部36とプレートの孔部40とは、両者間に固相接合の接合界面が形成された状態で接合される。固相溶接によれば接合面に清浄な表面組織が得られ、これにより接合が良好に行われ高い接合強度が得られる。
固相溶接においては、その接合界面に清浄な組織が得られるかどうかが接合の良否を左右する。この実施の形態に係る圧入接合によれば、上記接合界面にはナット32の突出部とプレート38の孔部40との各壁面同士の間が滑り方向の移動によりしごかれ、これにより表面の不純物質層が排除されて表面が清浄化され、接合部は清浄な組織になる。
その後、圧入が進むにつれて、接合面部の接合面積が増加し、反対に断面積差が減少するので 電気抵抗が下がり、結果的に抵抗熱の発生が減少し接合面部の温度は低下する。上記圧入接合による接合状態は、圧入による塑性変形(熱塑性)を伴った固相接合に至ったものとなる。そして、圧入の完了後、冷却により接合部の母材の硬さが回復して強固に接合する。これにより、ナット32とプレート38の孔部40との間は金属間結合されるので、完全なシール性が得られる。ここで、上記圧入接合では、加圧→通電→圧入→冷却の経過をたどる。また、上記削られて生じたバリは、上記バリ収納部39に収められ、これによりナット32の裏面部35がプレート38の表面に密着し、シール性及び品質の良い接合構造の部品が得られる。
このように、ナットの座面がプレートに均一に密着するので、フランジ付のナット特有の、高荷重性の発揮、及び広い座面の確保が図れ、揺さ振り、曲げ、捩れなどに対する補強というフランジ付のナットの本来の目的が達成され、特にプレート38の板厚が薄い場合(1.0mm程度)には、プレート38がフランジ部41の座面によって効果的に補強される。また、ナットのフランジ部41はプレート38に固着していないため、接合部に加わる微小な左右動などによる表面の喰い込みの防止が図れ、これについても特にプレート8が薄い場合には有効である。
ここで、フランジ付きナットの強度等の問題であるが、上記第一の実施の形態で説明した、社内試験A及び社内試験Bで用いたナットは、フランジ部の無いナットに突出部を設けた形態のものについて行なったものであるが、これらの試験は、ナットの突出部の高さ幅(h)及び肉厚(s)に係る内径の収縮及び強度の試験であり、何れもフランジ部の有無とは関係がないものであるため、フランジ付のナットの場合であっても試験結果は同様である。
したがってフランジ付のナットについても、上記実施の形態と同様に、ナットの突出部の突出高さ幅(h)は、0.5mm〜2.0mmの範囲内では、突出部36の内径の収縮程度は概ね良好と考えられる。また、ナットの突出部36の肉厚(s)は、1.0mm〜2.5mmの範囲内では、十分かつ強力な強度が確保される。これから、ナットの突出部36の肉厚(s)は、1.0mm以上の範囲内では、突出部36の内径の収縮程度は概ね良好と考えられる。また、ナットの突出部36の肉厚(s)は、1.0mm〜2.5mmの範囲内では、十分かつ強力な強度が確保される。また、圧入代dが0.1mm程度だと、圧入の際の圧入代の削り量が少なく接合が不安定である。また、圧入代dが0.6mm以上の場合には、圧入代による削り量が多くなり仕上がりにむらができる。
なお、この実施の形態では、加工容易等から、ナット32の突出部36の外形及びプレート38の孔部40の形状を円形としたが、これらは他の形状であっても両者が相似の関係にあれば圧入の条件は満足され、例えば、楕円形状、六角形状、八角形状等の形態についても適用は可能である。
また、上記社内試験(圧入接合と従来のプロジェクション溶接との押込み剥離強度について比較)により確認された結果はフランジ付のナットについても同様であり、圧入接合ナットは一般溶接ナットに比べて、接合時の印加電流等の接合条件の自由度が高く、このため電流コントロールの制御などが容易で作業性が良く、また特に高張力鋼板との接合において優れた接合強度が得られ、さらにプレートにメッキ鋼板を用いた場合であっても、圧入接合ナットは広い電流範囲で高い剥離強度が得られる。
自動車等の構造体においては、骨組みメンバなどの組織或いはボディ等に鋼板(板厚は1.2mm〜2.3mmのものが多用されている)を成形したものが要素部材として用いられている。この要素部材としてプレート38に上記ナット32を固定したものが用いられる。図17に示すように、上記ナット32を接合したプレート38は、自動車のメンバ、フレーム等の構造体を構成する要素部品として組み付けられ、これにボルト19締めにより他の構成部品20を固定する等の用途に用いられる。このとき、ナット32の座面はプレート38に密着していることから、取付位置、ねじの直角度の精度が確保され、ボルト19がスムーズに螺入できて、締結時のねじのかみつきが防止され良好に締結が行なえる。
従って上記実施の形態によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速かつ容易に製造が行なえ経済性に優れ、また接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良いという効果がある。また、ナットの座面がプレートに均一に密着するので、フランジ付のナット特有の、高荷重性の発揮、及び広い座面の確保が図れ、揺さ振り、曲げ、捩れなどに対する補強という本来の目的が確実に達成され、長期使用時のネジのゆるみも防止できる。また、この圧入接合構造により接合の中心部で全周にわたり部材同士が一体化するので、応力が分散して安定した強度が維持される。また、ナットのフランジ部は固着していないため、接合部に加わる微小な左右動などによる表面の喰い込みの防止が図れる。
さらに、プレート、ナットに高張力鋼材を使用した場合であっても、強固な接合が行なえ軟鋼板と同様な強度を得ることができ、また接合部が溶融しないため材料に水素が浸入せず、遅れ破壊、応力破壊、水素脆性などの鋼中水素に起因するトラブルから開放され、安心してこれらの高張力材料を使用できる。また、この圧入接合では、プロジェクション溶接のようにスパッタが発生することもなく、スパッタ、酸化物が原因の螺子不良、強度低下、溶接不良等の心配がなく、良好な品質が確保できる。
また上記圧入接合では、全周にわたって完全に接合されるため、接合部のシール性、気密性が確保でき、長期使用による振動、はがれなどに起因するシール性の低下もない。また、この圧入接合では、ナットの位置精度についても孔部にナットを突入させる構造からして自動的に位置決めが行え、かつ高精度に中心位置が孔部の中心と一致するので良好である。さらに、プレートとして亜鉛めっき鋼板を使用した場合であっても、この圧入接合法は接合部位に入り込む亜鉛は少なく、しごき作用によって接合部が浄化されるため、接合強度のバラツキは小さく良好な接合強度が得られ、また電極が溶けた亜鉛に接触するのではなく低温の亜鉛に接触するため、電極が損耗することも少ない。
図18は、他の形状のフランジ部を有するフランジ付のナット62を示したものである。このナット62は、上記ナット32と同様に突出部36を形成し、さらにフランジ部61の端部の板厚を1.0mm程度とし、かつこのフランジ部61の基部33との境界部分の板厚を1.5mm程度としている。また、フランジ部61の裏面部65は、座面の全体を凹球面状に形成している。この場合、上記裏面部65の凹球面の中央部付近と外縁部との高さの差は0.5mm以下とし、圧入初期のフランジ部61とプレート38とのショートを防止する。なお、圧入の後半においては上記ショートが発生しても、圧入部分は十分に加熱されていることから圧入接合自体に与える影響は少ない。そして、ナット62の突出部36全体をプレート38の孔部40に圧入する。このように、フランジ部61を薄くしたことにより溶接時の発熱によって、フランジ面をプレート38の形状になじませることができ、プレート38に多少の屈曲があっても比較的均一に圧力を加えることができる。また、フランジ部61の座面を凹球面状に形成することで、プレート38の面が多少凸凹していても比較的フランジ部の全体に均一に圧力が加えられ、また外周部への加圧力が強くなり緩みが防止される。
次に、他の実施の形態に係るフランジ付のナットについて説明する。図19に示すように、この実施の形態に用いるフランジ付のナット52は、突出部56として外周に複数の凸条部55を形成したものであり、これ以外の形状は上記ナット32と同様である。このナット52は、上記ナット32の上記突出部36の外径部分の4箇所を平坦に切り欠いた結果、等間隔の4箇所の位置に上下向きの凸条部55が形成された形態である。したがって、圧入の際には、プレート38の孔部40の壁面に対して、上記凸条部55が部分的に接合する。このため、この接合構造はナット52の突出部56の複数部分がプレート38の孔部40に接合される部分接合となる。この実施の形態に係る圧入接合用のフランジ付のナット及びプレートの材料は上記実施の形態のものと同様である。
この圧入接合の基本的な接合工程は、上記実施の形態の圧入接合と同様であるが、ここでは両部材が接触する面積が小さくなるため、通電時の電気抵抗が高くなり、通電の際の電流値を低下しても必要な抵抗熱が得られる点で異なる。上記ナット52の突出部56とプレート38の孔部40との間には、径に対して0.2mmから1.0mm(好適には0.3mmから0.7mm)の範囲の圧入代が形成されている。
接合に際しては、上記下型44の上面に上記プレート38を載置する一方、ナット52を穴部48に嵌入して取付けた上型46をナット52とともに降下させる。そして上型46を一定の加圧力を付勢して押圧し、さらに下型44と上型46を介してナット52とプレート38間に通電する。すると、電気抵抗熱の発生とともに突出部56の圧入が開始され、凸条部55がプレート38の孔部40内を降下移動し、突出部56の先端部がプレート38の孔部40の中間位置に到達する。この場合、凸条部55とプレート38の孔部40の内壁との接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による圧入接合が行われる。このような製造工程により、ナット52とプレート38からなる圧入接合構造の部材が得られる。
上記部分接合の他の形態として、ナット52の突出部56の外径を円形とする一方、プレート38の孔部40の内周部を複数部分切り欠き、上記突出部56との接合箇所が複数形成される構成としてもよく、この構成についても上記部分接合と同様の効果が得られる。この実施の形態に係る圧入では、ナットの突出部とプレートの孔部とはこれらが互いに接する部分が相似形状の関係にあれば、両者を圧入接合することが可能である。
従って上記実施の形態によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速かつ容易に製造が行なえ経済性に優れ、また接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良いという効果がある。また、ナットの座面がプレートに均一に密着するので、フランジ付のナット特有の、高荷重性の発揮、及び広い座面の確保が図れ、揺さ振り、曲げ、捩れなどが防止でき、またナットのフランジ部は固着していないため、接合部表面の喰い込みの防止が図れる。さらに、母材に高張力鋼版を使用した場合であっても、強固な接合が行なえ軟鋼板と同様な強度を得ることができ、また亜鉛めっき鋼板を使用した場合であっても、良好な接合強度が得られる。
次に、第三の実施の形態に係り、圧入接合用の締結部材としてのボルト及びその圧入接合構造を図面に基づいて説明する。図20(a)は、上記ボルト72を示したものである。このボルト72は、六角形状の頭部73と軸部81とを有し、この軸部81は頭部73の下部位置に断面円形状の拡径部76が所定の高さ幅(h)で形成され、これと連続して螺子溝が設けられた軸部74が形成されている。上記拡径部76の直径(D)は、上記軸部74の直径(E)よりも大きく形成されている。
図20(b)は上記ボルト72を圧入接合するパネル78を示したものである。このパネル78は所定の板厚(t)からなる板材であり、所定の位置に円形の孔部80が穿設されている。この孔部80は、パネル78面に直交し且つストレートな孔である。
ここで、上記ボルト72の拡径部76の直径(D)と、軸部74の螺子山部の直径(E)との差(D−E)は1mm以上大きく形成するものとした。社内試験によれば、圧入接合における圧入代(拡径部76の直径と孔部80の直径との差)は、0.2mm〜0.6mmが好適である。このため上記差(D−E)は、上記圧入代より大きい値であり、かつこれに治具の精度等を加味して、上記のように1mm以上と定めた。
また、上記拡径部76の高さ幅(h)は1mmから5mm程度の範囲とした。社内試験によれば、圧入接合における高さ幅(圧入深)は、1mmから5mmの範囲では強度及び仕上品質ともに良好な結果が得られている。この高さ幅(h)が1mm以下だと、圧入接合に伴うしごきによる表面の不純物質層の清浄化が不十分となって高い接合強度が得られないことになり、また5mm以上だとしごきにより削られたバリの量が多くなり品質が劣ることになる。
固相溶接においては、その接合界面に清浄な組織が得られるかどうかが接合の良否を左右する。この実施の形態に係る圧入接合によれば、上記接合界面にはボルト72の拡径部76とパネル78の孔部80との各壁面同士の間が滑り方向の移動によりしごかれ、これにより表面の不純物質層が排除されて表面が清浄化され、接合部は清浄な組織になる。
この実施の形態では、上記パネル78の板厚(t)と、上記ボルト72の拡径部76の高さ幅(h)との関係については、高さ幅(h)は板厚(t)とは同程度かより小さい(h=t、h<t)寸法とした。これは、拡径部76がパネル78の板厚(t)以上に圧入されると、両部材の接合部以上に圧入が行なわれることになり、これでは上述した圧入によりせっかく形成された良好な接合界面を潰して、さらに新たな接合界面を造ることになって接合強度が低下することになるからである。また、ボルト72の拡径部76の高さ幅(h)が板厚(t)より大きいと、接合後にパネル78から拡径部76が突出して、他の部品をナット締めで組み付ける際にこの突出部位が邪魔になって不都合となる場合があるからである。
図21(a)(b)は、他の形態の圧入接合用のボルト82を示したものである。このボルト82の頭部83は円形状であり、この頭部83の裏面部75から軸部として拡径部76及び軸部74が形成されている。さらにこのボルト82は、頭部83の裏面部75に上記拡径部76を囲む状態で環状の溝からなるバリ収納部79が形成されている。上記ボルト72,82等の材料は鋼材或いは高張力鋼材からなる。
上記バリ収納部79は、図22に示すように種々の形態があるが、例えば同図(a)に示すバリ収納部79は、拡径部76の近傍に沿って溝部を設けた形態である。同図(b)に示すバリ収納部79は、拡径部76の近傍を深くしてここから外側に向けて浅くなるテーパ状の溝部を形成したものであり、これはボルト72の裏面部の全面に凹空間が形成される形態である。
上記ボルト72の形状については、頭部が六角、四角、円形、また軸部81が短尺、長尺などのあらゆる形態のボルトが使用可能であり、軸部81の全体に螺子溝が設けられたもの、軸部の一部が螺子溝の無い柱状で一部に螺子溝が設けられたボルトの使用も可能である。これらボルトの頭部と軸部との間に拡径部を形成することで、圧入接合用のボルトが得られる。なお、多角形のボルトは、ボルトのねじ切りの際に固定が容易である。
また、上記拡径部76の外径は、角ボルト(四角、六角など)の場合はボルトの平行な二面の幅寸法と同じか或いは同幅寸法以下に形成し、他のボルトについても、頭部の径方向のサイズよりも拡径部76の外径を小さく形成する。この範囲の頭部の大きさであれば、通電、圧入の際に電極が良好に配置でき電気抵抗が低減できる。一般のプロジェクション溶接用のボルトは、頭部の座面部(裏面部)に溶接突起を設けることからこの頭部を広く形成する必要があり、このためボルトの頭部形状が大きくなる。しかし、この実施の形態に係るボルトは、原理的にはボルトの頭部は拡径部76の大きさと同程度(軸と直交する断面)まで小さくすることが可能であり、小型化及び軽量化にも貢献する。
上記パネル78は、特に自動車のメンバなどの構造部品として採用されている高張力鋼板を用いる。この高張力鋼板としては、C、Si、Ti、Nb等の合金元素が含まれた鋼板或いはこれを熱処理したデュアルフェーズ(DP)鋼板があり、引張強度が780N/mm2以上の強度を有する。抵抗溶接において、酸化被膜の影響が発生するのは引張強度が780N/mm2以上のものであり、この実施の形態に係る圧入接合の優れた効果が発揮されるところである。
上記パネル78に穿設された孔部80は、パネル78面に直交し且つストレートな孔である。このパネル78における上記ボルト72との接合部位は平坦であるが、パネル78の孔部80近傍は多少の屈曲があってもその程度が僅かであれば、接合に問題はない。
また、上記ボルト72の拡径部76には、上記軸部74との間に面取り部77が形成されており、この面取り部の高さ幅は0.3mm程度である。この面取り部77は金型成形の都合上形成されるものであり、またパネル78の孔部80への圧入の際のガイドとしても有効である。なお、圧入の際には、所定の圧入代があることから、上記面取り部77は侵食され圧入後にはほとんど原形は無くなる。上記ボルト72の拡径部76の高さ幅(h)については、上記面取り部77を含めた概念である。
上記ボルト72及びパネル78の材料に関しては、特に高張力鋼板からなるパネル78に鋼製或いは高張力鋼製のボルト72を接続する場合には、酸化被膜などの影響が少なく一般のプロジェクション溶接のボルトの溶接に比べて、溶接不良は発生しないので好適である。もちろん、パネル78及びボルト72の材料として、一般加工用鋼板、線材、自動車用高張力鋼板、その他の金属材料、SUS(ステンレス鋼)、SUSと炭素鋼とを組み合わせたもの、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼、耐熱鋼、工具鋼、バネ鋼、鋳鉄、快削鋼、軸受鋼、一般加工用鋼材、圧力容器用鋼材、チタン、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属、軽金属合金等が適用可能である。また、自動車に用いられる亜鉛メッキなどの表面処理をした高張力鋼板にも適用可能であり、表面処理をしたボルトにも適用可能である。
ここで、上記ボルト72を上記パネル78へ接合する圧入接合について説明する。この圧入接合は、図23に示すように、クローム銅製の下型84と上型86を有する冶具を用い、母材としてのパネル78に上記ボルト72の拡径部76を接合するものである。この冶具の上型86の中央部には、上記ボルト72を密着保持する穴部88が設けられており、また下型84、上型86はそれぞれ電極として機能する。
上記上型86の穴部88は、ボルト72の上面部及び側面部に密着して電気抵抗の低減を図っている。上記下型84の中央にも、ボルト72の軸部74が突入する穴部87が設けられている。また、電極同士の接触防止のため、上型86の穴部88の下端部はボルト72の裏面部75から少し上寄りの位置としている。なお、上記上型86は穴部88のない平坦な形態でも使用可能である。
図23に示すように、拡径部76とパネル78の孔部80との間には、所定の圧入代(d)が形成されている。この圧入代(d)は直径に対する寸法(d=拡径部76の直径−孔部80の直径)であり、半径に対しては(d/2)となる。上記圧入代を確保するために、パネル78の孔部80の直径を、ボルト72の軸部74の直径より大きくして挿通可能とし、かつボルト72の拡径部76の直径より小さい寸法とする。圧入接合の条件として、M8規格のボルト、板厚2.8mmの780N/mm2の高張力鋼板の場合では、印加電流は16kAとし、加圧力は2kNとした。この加圧力は、母材であるパネル78の応力(ここでは拡径部がパネルの孔部に突入することを妨げる抵抗力)よりも低い圧力としている。したがって、この加圧力が、パネルの軟化により低下した応力を上回った時点から圧入が開始されることになる。
この圧入工程の一例においては、上記下型84の上面に上記パネル78を載置し、上型86の穴部88にボルト72を保持させ、上型86とともにこのボルト72を降下させる。そして、ボルト72の軸部74をパネル78の孔部80に突入して降下させ、拡径部76の下端部が孔部80の縁に接する状態で位置合わせを行う。次に、上型86を一定の加圧力を付勢して押圧し、その後(約1秒後)に下型84及び上型86を介してボルト72とパネル78間に接合電流を通電する。
すると、電気抵抗熱の発生とともに拡径部76の孔部80への圧入が開始され、この拡径部76がパネル78の孔部80内を垂直に降下移動する。そして、拡径部76の先端部が孔部80の中間位置に到達し、同時にボルト72の頭部73の裏面部75(座面)がパネル78の表面に密着する。このような製造工程により、ボルト72とパネル78からなる圧入接合構造の部品が得られる。この接合構造は、ボルト72の拡径部76の全周がパネル78の孔部80に接合される全周接合となる。なお、上記各工程におけるタイミング、及び工程間の移行タイミングは、時間でコントロールされている。
ボルト72及びパネル78に炭素当量0.35以上の高張力鋼材を使用する場合、この実施の形態に係る圧入接合法を用いたときには、圧入接合後の急冷効果により、接合部及び熱影響部にマルテンサイト組織が発生することがある。この金属組織は非常に硬く、脆いため、接合部の靭性に問題が生じる。これを防ぐ手段として、圧入接合工程に引き続き、同一の接合治具を用いて二次電流を流し、接合部を通電過熱しこの部分を焼鈍することが有効である。この焼き戻し通電により、上記マルテンサイトは焼き戻しマルテンサイトに変化し、接合部に靭性が回復する。
また、上記圧入工程に先立って、予めボルト72及びパネル78を温める予熱工程を組み入れた(予熱パターン)の接合方法を採用することができる。この予熱の目的は接合後の接合部の急冷を防ぎマルテンサイトの発生を抑えるためである。この予熱工程は、上記圧入を開始する前に、上記圧入時よりも通電電流を低く抑え(圧入のときの1/2程度の予熱電流)、両部材を接触させた状態で通電する。この予熱工程では、上記圧入工程と同様に上型86を降下させ、拡径部76の下端部が孔部80の縁に接する状態で予熱電流を通電する。ここでは、接合する部材としてのボルト72、パネル78に予熱を持たせるのが目的であるから、両部材の接合部が軟化しない状態に両部材の温度を上昇させる。この予熱工程の後、直ちに通電電流を増加して上記圧入工程に移る。
上記圧入工程では、電気抵抗熱の発生とともにボルト72の圧入が開始され、拡径部76がパネル78の孔部80内を降下移動する。この場合、両部材の接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による製造工程により圧入接合が行われる。そして、一定の加圧力、一定の降下速度で圧入接合が行われ、瞬時に接合部が発熱して短時間でボルト72が圧入接合され、ボルト72の裏面部75がパネル78の表面部に当接して接合を完了する。そして、ボルト72の拡径部76とパネルの孔部80とは、両者間に固相溶接の接合界面が形成された状態で接合される。固相溶接によれば接合面に清浄な表面組織が得られ、これにより接合が良好に行われ高い接合強度が得られる。
その後、圧入が進むにつれて、接合面部の接合面積が増加し、反対に断面積差が減少するので 電気抵抗が下がり、結果的に抵抗熱の発生が減少し接合面部の温度は低下する。上記圧入接合による接合状態は、圧入による塑性変形(熱塑性)を伴った固相溶接に至ったものとなる。そして、圧入の完了後、冷却により接合部の母材の硬さが回復して強固に接合する。これにより、ボルト72とパネル78の孔部80との間は金属間結合されるので、完全なシール性が得られる。ここで、上記圧入接合では、加圧→通電→圧入→冷却の経過をたどる。また、上記削られて生じたバリは、上記バリ収納部79に収められ、これによりボルト72の裏面部75がパネル78の表面に密着し、シール性及び品質の良い接合構造の部品が得られる。
ここで社内における上記圧入接合の試験及びその結果について説明する。この試験では、パネル78として板厚(t)が2.8mmの高張力鋼板(引張強度780N/mm2)を用いた。また、圧入代(d)は直径に対して0.3mmとした。ボルト72はM8規格の大きさのものを用い、この拡径部76の外径を略11mmとし、拡径部76の突出高さ幅(h)は2.5mmとした。なお接合強度は、JIS規格(B1196)に基づく押込み剥離強度(kN)により測定した。試験結果は、剥離強度が10.2kNであり良好な強度が得られた。ちなみに、JIS規格(B1196)におけるM8ボルトの押込み剥離強度(kN)は、6.24kNである。
上記社内試験では、上記圧入代(d)を0.3mmとしたが、この圧入代(d)は、0.2mmから0.6mm(好適には0.3mmから0.5mm)の範囲では良好な結果が得られることが社内試験で確認されている。この圧入代dが0.1mm程度だと、圧入の際の圧入代の削り量が少なく接合が不安定であり、また圧入代dが0.6mm以上の場合には、圧入代による削り量が多くなり仕上がりにむらができる。
自動車等の構造体においては、骨組みメンバなどの組織或いはボディ等に鋼板(板厚は1.2mm〜2.3mmのものが多用されている)を成形したものが要素部材として用いられている。この要素部材としてパネル78に上記ボルト72を固定したものが用いられる。図24に示すように、上記ボルト72を接合したパネル78は、自動車のメンバ、フレーム等の構造体を構成する要素部品として組み付けられ、これにナット89締めにより他の構成部品90を固定する等、の用途に用いられる。
従って上記実施の形態に係る圧入接合によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速に接合が行えかつ製造が容易であり経済性に優れる。また、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われるので強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、母材に与える熱影響範囲が少なく高精度な接合が確保され仕上り精度が良く高品質の製品が得られるという効果がある。加えて、この圧入接合ではボルトの頭部の座面がパネル面に密着するので、この部分の変形、へたり等もなくねじのゆるみ発生も防止できる。また、この圧入接合では、プロジェクション溶接のようにスパッタが発生することもなく、スパッタ、酸化物が原因の螺子不良、強度低下、溶接不良等の心配がなく、良好な品質が確保できる。
また上記圧入接合では、全周にわたって完全に接合されるため、接合部のシール性、気密性が確保でき、長期使用による振動、はがれなどに起因するシール性の低下もない。このような気密性の確保は従来のプロジェクション溶接では構造的に困難とされ、気密性確保のために別途シールを行なう必要があった。また、この圧入接合では、ボルトの位置精度についても孔部にボルトを突入させる構造からして自動的に位置決めが行え、かつ高精度に中心位置が孔部の中心と一致するので良好である。
さらに、母材に高張力鋼材を使用した場合であっても、強固な接合が行なえ軟鋼板と同様な強度を得ることができる。また、上記圧入接合は固相接合であるため、接合部が溶融するアーク溶接などとは異なり接合部に水素が侵入しない。このため、この圧入接合においては高張力鋼板のパネル、或いは高張力鋼のボルトに水素が浸入せず、遅れ破壊、応力破壊、水素脆性などの鋼中水素に起因するトラブルから開放され、安心してこれらの高張力材料を使用できる。
亜鉛めっき鋼板を使用した場合であっても、この圧入接合法は接合部位に入り込む亜鉛は少なく、しごき作用によって接合部が浄化されるため、接合強度のバラツキは小さく良好な接合強度が得られ、また電極が溶けた亜鉛に接触するのではなく低温の亜鉛に接触するため、電極が損耗することも少ない。また、パネルの板厚が比較的厚い場合は、孔部にボルトを直交方向に圧入接合することによって自動的に矯正が行われてボルトとパネルとの直角精度が向上し、また位置精度も良好である。
なお、上記ボルト72の拡径部76及びパネル78の孔部80の断面は加工容易等からともに円形としたが、これは他の形状、例えば楕円、六角形などであってもよく、両者を相似形状とすることで上記圧入接合が行なえ上記と同様の効果が得られる。
次に、他の実施の形態に係る圧入ボルトついて説明する。図25に示すように、この実施の形態に用いるボルト92は、拡径部96として外周に複数の凸条部95を形成したものである。このボルト92は、上記ボルト72の上記拡径部76の外径部分の4箇所を平坦に切り欠いた結果、等間隔の4箇所の位置に上下向きの凸条部95が形成された形態である。したがって、圧入の際には、パネル78の孔部80の壁面に対して、上記凸条部95が部分的に接合する。このため、この接合構造はボルト92の拡径部96の複数部分がパネル78の孔部80に接合される部分接合となる。この実施の形態に係る圧入接合用のボルト及びパネルの材料は上記実施の形態のものと同様である。
この圧入接合の基本的な接合工程は、上記全周接合と同様であるが、両部材が接触する面積が小さくなるため、通電時の電気抵抗が高くなり、通電の際の電流値を低下しても必要な抵抗熱が得られる点で異なる。上記ボルト92の拡径部96とパネル78の孔部80との間には、径に対して0.2mmから1.0mm(好適には0.3mmから0.7mm)の範囲の圧入代が形成されている。
接合に際しては、上記下型84の上面に上記パネル78を載置する一方、ボルト92を穴部88に嵌入して取付けた上型86をボルト92とともに降下させる。そして上型86を一定の加圧力を付勢して押圧し、さらに下型84と上型86を介してボルト92とパネル78間に通電する。すると、電気抵抗熱の発生とともに拡径部96の圧入が開始され、凸条部95がパネル78の孔部80内を降下移動し、拡径部96の先端部がパネル78の孔部80の中間位置に到達する。この場合、凸条部95とパネル78の孔部80の内壁との接合界面にしごきの作用が生じ、しごき加工による圧入接合が行われる。このような製造工程により、ボルト92とパネル78からなる圧入接合構造の部材が得られる。
上記部分接合の他の形態として、ボルト92の拡径部96の外径を円形とする一方、パネル78の孔部80の内周部を複数部分切り欠き、上記拡径部96との接合箇所が複数形成される構成としてもよく、この構成についても上記部分接合と同様の効果が得られる。この実施の形態に係る圧入では、ボルトの拡径部とパネルの孔部とはこれらが互いに接する部分が相似形状の関係にあれば、両者を圧入接合することが可能である。
従って上記実施の形態に係る圧入接合によれば、圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速かつ容易に製造が行なえ経済性に優れる。また、接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて接合を固相状態の溶接としたことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良いという効果がある。さらに、母材に高張力鋼版を使用した場合であっても、強固な接合が行なえ軟鋼板と同様な強度を得ることができ、また遅れ破壊、応力破壊、水素脆性などの鋼中水素に起因するトラブルから開放され、安心してこれらの高張力材料を使用できる。亜鉛めっき鋼板を使用した場合であっても、良好な接合強度が得られる。