JP5708350B2 - プロジェクション溶接継手およびその製造方法 - Google Patents
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Description
一般に、上述した静的強度は、プロジェクション溶接した接合部および熱影響部の硬さの値が適度に高く十分な強度があり、かつ靭性も高い場合には、十分に高い値が得られるが、接合部および熱影響部の硬さの値が高過ぎて靭性が低い場合には著しく低下する。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・・・(2)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)式において、SJ:ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積(mm2)、SR:ナットまたはボルトの呼び径部分の面積(mm2)を示す。
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・・・(3)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・・・(4)
Ht ≦ 160 ・・・・・(5)
但し、上記(3)〜(5)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:通電時間(ms)、Ht:溶接後の電極保持時間(ms)を示す。
16 ≦ USt ≦ 80 ・・・(6)
但し、上記(6)式において、USt:アップスロープ時間(ms)を示す。
[4] 上記[2]に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、前記溶接通電を行う前に、下記(7)、(8)式を満たす条件で予備通電を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
0.2×WC ≦ PRC ≦ 0.6×WC ・・・(7)
16 ≦ PRt ≦ 80 ・・・(8)
但し、上記(7)式において、WC:プロジェクション溶接電流(kA)、PRC:予備通電電流(kA)を示し、上記(8)式において、PRt:予備通電時間(ms)を示す。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(9)
但し、上記(9)式において、PEF:溶接通電後の電極保持加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。
以下、本発明のプロジェクション溶接継手およびその製造方法の第1の実施形態について、主に図1〜図3を適宜参照しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明のプロジェクション溶接継手およびその製造方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・・・(2)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)式において、SJ:ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積(mm2)、SR:ナット2の呼び径部分の面積(mm2)を示す。
本発明において説明するプロジェクション溶接とは、被接合物の接合箇所に大電流を流し、この接合箇所を抵抗発熱によって加熱しながら圧力を加えて接合を行う、いわゆる抵抗溶接法の一種である。具体的には、図2(a)、(b)に示す例のように、ナット2の、高強度鋼板1と接合される接合面2aにプロジェクション部21を設け、このプロジェクション部に電流を集中して流すことで、加熱すると同時に加圧を行って接合する方法である。また、プロジェクション溶接は、重ね合わせた被接合物を電極の先端で挟持し、通電と同時に電極で加圧することで接合を行う、いわゆるスポット溶接法の装置を用い、電極を変更して行うことができる方法である。
以下、本実施形態における各限定理由について詳述する。
本実施形態のプロジェクション溶接継手10は、図1に例示するように、高強度鋼板1とプロジェクション溶接されるナット(溶接ナット)2として、図2(a)、(b)に示すような、接合面2aにプロジェクション部21が備えられたものを採用することができる。また、図1においては、上記構成のプロジェクション溶接継手10が備えられてなる、自動車部品等の分野において適用可能な構造部材50を例示している。
本実施形態で用いられるナット2は、上述したように、質量%で、C:0.07〜0.28%、Si:0.007〜0.35%、Mn:0.20〜1.20%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cu:0.30%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とされたものである。
以下、ナット2の成分中における各元素の限定理由について説明するが、以下の説明における含有量「%」は、特に指定がない限り「質量%」を表すものとする。
Cは、鋼の強度を確保するために必要な元素であり、その含有量が0.07%未満ではナットの強度が不足するため、下限を0.07%とした。一方、Cを過剰に添加すると、接合部の硬さが増加し過ぎて靱性が低下し、また、高温割れや低温割れが生じやすくなるため、その上限を0.28%に制限した。
Siは、脱酸や強度の確保に必要な元素であり、このような効果を得るためには0.007%以上の添加が必要である。一方、Siを過剰に添加すると、ナットの溶接性や靱性が低下することから、その上限を0.35%に制限した。
Mnは、焼入れ性の向上や、ナットの強度向上に必要な元素であり、このような効果を得るためには0.20%以上の添加が必要である。一方、Mnを過剰に添加すると、ナットの溶接性や靱性が低下することから、その上限を1.20%に制限した。
Pは、ナットをなす鋼中に不可避的に混入してくる元素であり、その含有量は少ないほうが好ましい。Pの含有量が多くなると、ナットの靭性低下や接合部の高温割れを引き起こすことから、その上限を0.020%以下に制限した。
Sは、Pと同様、ナットをなす鋼中に不可避的に混入してくる元素である。Sの含有量が多くなると、ナットの靭性低下や接合部の高温割れを引き起こすため、その上限を0.035%以下に制限した。
Cuは、ナットの強度向上に必要な元素であることから、ある程度の量で添加されていることが好ましい。しかしながら、Cuを過剰に添加すると熱間加工性が低下し、また、高温割れを引き起こすことから、その上限を0.30%に制限した。一方、Cuの含有量は、溶接性を確保する観点から、強度向上効果が得られる範囲内で可能な限り少量とすることがより好ましく、具体的には0.1%以下とすることが好ましい。
本実施形態で用いられるナット2の強度レベルとしては、特に制限されるものではなく、一般的な強度レベル、例えば、5T(490MPa相当)や、8T(785MPa相当)のものを好適に用いることができる。
またさらに、ナット2のビッカース硬さも特に制限されるものではなく、適宜、設定することが可能である。
以下に、本実施形態のプロジェクション溶接継手10をなす高強度鋼板1の鋼板特性について詳述する。
本実施形態において、プロジェクション溶接によってナット2と接合される高強度鋼板1は、引張強さが750〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲とされている。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示す。
本実施形態のプロジェクション溶接継手10においては、母材強度、すなわち、高強度鋼板1の引張強さを750〜1600MPaの範囲に規定する。
鋼板の強度は、プロジェクション溶接後のプロジェクション溶接継手10の静的強度や、割れの抑制等に対して大きな影響を及ぼす。本実施形態においては、まず、鋼板として、引張強さが750〜1600MPaの範囲とされた高強度鋼板1を用いることで、ナット2とプロジェクション溶接することで得られるプロジェクション溶接継手10の静的強度が高められ、また、高温割れや低温割れが発生するのを抑制できる。
また、高強度鋼板の引張強さが1600MPaを超えると、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きいため、高温割れや低温割れが発生し易くなるので、本発明の適用範囲外である。
本実施形態において用いられる高強度鋼板1の板厚を、0.8〜3.0mmの範囲に規定する。高強度鋼板1の板厚が上記範囲であれば、本発明の適用による静的強度の向上、ならびに、高温割れや低温割れを抑制する十分な効果が得られる。
また、高強度鋼板の板厚が3.0mmを超えると、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きいため、高温割れや低温割れが発生し易くなるので、本発明の適用対象外である。
(鋼組織)
本実施形態のプロジェクション溶接継手10において用いられる高強度鋼板1の鋼種については、特に限定されず、例えば、2相組織型(例えば、フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織等)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、焼入れ型(マルテンサイト組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)等、何れの型の鋼板であっても良い。何れの鋼種からなる高強度鋼板を用いた場合であっても、鋼板の特性を失うことなく、本発明を適用することによる上記効果が確実に得られる。
高強度鋼板1の成分組成としても、特に限定されるものではなく、この分野で一般的に用いられている炭素鋼や合金鋼等を採用することが可能である。但し、本実施形態の高強度鋼板1としては、以下に詳述するように、上記(1)式で表される炭素当量Ceqと各元素との関係を満足する組成のものを採用することが必須となる。
本実施形態においては、下記(1)式で規定される、高強度鋼板1の炭素当量Ceqを、0.22〜0.50質量%の範囲に規定する。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示す。
また、高強度鋼板の炭素当量Ceqが0.50質量%を超えると、接合部の強度低下や高温割れ、低温割れの発生が顕著となり、本発明の適用対象外である。
Ceqh = [C]+[Si]/40+[Cr]/20 ・・・・・(6)
Ceqt = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・・・(7)
但し、上記(6)、(7)式において、[C]、[Si]、[Mn]、[P]および[S]は、それぞれ高強度鋼板中のC、Si、Mn、P、Sの各含有量(質量%)を示す。
本実施形態において用いられる高強度鋼板1は、表面処理を施さずに、冷間圧延・熱間圧延後の状態で使用することもできるが、必要に応じてめっき処理を施しても良い。また、この際のめっき層の種類についても、例えば、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系、Pb−Sn系、Sn−Zn系、Al-Si系等、何れのめっき層であっても良い。また、めっき層の表層に無機系、有機系の皮膜(例えば、潤滑皮膜等)が施されていても良い。
高強度鋼板1の表面に上述のようなめっき処理を施すことにより、鋼板の耐食性を確保することが可能となる。
本実施形態においては、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が下記(2)式で表される関係を満たすことが必要である。
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・・・(2)
但し、上記(2)式において、SJ:ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積(mm2)、SR:ナット2の呼び径部分の面積(mm2)を示す。
本実施形態においては、上記(2)式で表されるSJ/SRを規定したうえで、さらに、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値を550Hv以下に規定する。接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hvを超えると、靭性低下による接合部の強度低下や割れの発生が顕著に起こるようになるので好ましくない。また、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値は、接合強度の観点からは、300Hv以上であることが好ましい。
以下に、上述したような本実施形態のプロジェクション溶接継手を製造する方法の一例について説明する。
本実施形態のプロジェクション溶接継手の製造方法は、上記化学成分を有するナット2と、上記引張強さ、板厚、ならびに、上記(1)式で表される炭素当量Ceqを有する高強度鋼板1とを、加圧しながら通電加熱を行うプロジェクション溶接によって接合する方法であり、通電時の電極(図3中に示す上部電極81および下部電極82)の加圧力EF、通電時間Wt、および、溶接後の電極保持時間Htが、それぞれ下記(3)〜(5)式を満たす条件として、ナット2と高強度鋼板1とを加圧しながら通電を行うことにより、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が上記(2)式で表される関係となるようにし、かつ、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値が550Hv以下になるようにプロジェクション溶接する方法を採用している。
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・・・(3)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・・・(4)
Ht ≦ 160 ・・・・・(5)
但し、上記(3)〜(5)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:通電時間(ms)、Ht:溶接後の電極保持時間(ms)を示す。
本実施形態においては、プロジェクション溶接による通電を行う際の、上部電極81および下部電極82による加圧力EF(kN)を、上記(3)式で表される範囲、すなわち、1.96〜5.88(kN)の範囲に規定する。
電極による加圧力EFは、溶接後の接合部面積SJや接合部の残留応力に影響を与え、接合部の強度、特に剥離方向の強度や、接合部における割れの発生に大きな影響を及ぼす。本実施形態においては、通電時間Wtや、溶接後の電極保持時間Htを所定範囲に規定するとともに、上部電極81および下部電極82による加圧力EFを上記範囲に規定することにより、ナット2に備えられるプロジェクション部21を十分に潰しながら、溶接後の接合部面積を適正に制御し、接合部の強度向上や、割れの発生を防止する顕著な効果が得られる。
一方、電極による加圧力EFが5.88kNを超えると、プロジェクション部の変形が大きくなり過ぎ、溶接途中で電流密度が下がり、拡散が不十分になって接合部の強度が低下する。また、過度な加圧により、接合部等に割れが生じることがある。
本実施形態では、プロジェクション溶接による通電時間Wtを、上記(4)式で表される範囲、すなわち、50〜240msの範囲に規定する。
本実施形態では、通電時の電極の加圧力EFおよび溶接後の電極保持時間Htを所定範囲に規定するとともに、通電時間Wtを上記範囲とすることにより、ナット2に備えられるプロジェクション部21を十分に潰しながら、溶接後の接合部のビッカース硬さを適正に制御し、接合部の強度向上や、割れの発生を防止する顕著な効果が得られる。
一方、通電時間Wtが240msを超えると、溶接入熱が大きくなり過ぎて、熱影響部において軟化(HAZ軟化)等が起こり、ナットや鋼板の強度低下を招き、さらに、作業効率も低下するという問題が生じる。
本実施形態においては、プロジェクション溶接通電を行った後の電極保持時間Htを、上記(5)式で表される範囲、すなわち、160ms以下に規定する。なお、上記範囲の電極保持時間Htで、上部電極81および下部電極82によってナット2および高強度鋼板1を加圧する際の加圧力は、上記(3)式で表される範囲とすることができる。
溶接後の電極保持時間Htが160msを超えると、接合部、特に、鋼板側の冷却速度が早くなるため、接合部近傍の硬さが過剰に増加する。また、工程時間が長くなるため、作業効率も低下するという問題が生じる。強度のばらつき低下や強度向上の観点からは、保持時間Htは出来るだけ短い方が好ましい。
本実施形態においては、ナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接する際の基本通電パターンとしては、従来からこの分野において採用されている通電パターンを何ら制限なく採用することができる。
また、本実施形態においては、その他、大電流・短時間通電や、小電流・長時間通電等、様々な通電パターンも想定されるが、上記した通電時の電極の加圧力EFと通電時間Wtは、適宜最適条件に調整することが好ましい。
以下に、本実施形態のプロジェクション溶接継手10の製造方法における、プロジェクション溶接の手順について概略を説明する。
本実施形態においてプロジェクション溶接で用いる溶接機としては、例えば、従来公知の通電方式で、電源としては単相交流、直流インバータ、交流インバータ等、何れの電源も使用することができる。また、溶接に用いられる電極としては、例えば、ナットと鋼板との接合に一般的に用いられる、クロム銅合金やアルミナ分散銅等からなる、プロジェクション溶接用電極を採用することができる。
プロジェクション溶接継手10を製造する手順について、図3に示すプロジェクション溶接機80を用いてナット2と高強度鋼板1とを接合し、プロジェクション溶接継手10を備える構造部材50を製造する場合を例に挙げて以下に説明する。
また、高強度鋼板1の表面1aには、必要に応じて、予め、合金化溶融亜鉛めっきまたは溶融亜鉛めっき等が、溶接の障害とならない程度の目付量で施されていても良い。さらに、めっきの表層には、無機系、有機系の皮膜等が形成されていても良い。
次に、ねじ孔22に位置決めピン85を挿入して位置合わせしながら、ナット2を高強度鋼板1上にセットする。これにより、高強度鋼板1に形成されたピアス孔11の中心11aと、ナット2のねじ孔22の中心22aとが概略一致した状態でセットされる。また、この際、ナット2の接合面2aに設けられたプロジェクション部21が高強度鋼板1の表面1aと接触するようにセットされる。
本発明に係るプロジェクション溶接継手およびその製造方法の第2の実施形態について、図7〜図9を参照しながら以下に説明する。なお、本実施形態は、本発明のプロジェクション溶接継手およびその製造方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
また、本実施形態では、上記第1の実施形態と共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
なお、本実施形態では、第1の実施形態で用いたナット2に代わり、ボルト12を用いた点以外の条件、具体的には、高強度鋼板1の各特性は第1の実施形態と同様であり、また、ボルト12の成分組成についても、第1の実施形態におけるナット2と同様である。またさらに、本実施形態では、ボルト12と高強度鋼板1との接合部A1の面積SJと、ボルト12の呼び径部分の面積SRとの比が、上記の(2)式で表される関係を満たし、かつ、接合部A1および熱影響部B1のビッカース硬さの最大値が550Hv以下とされている点についても、第1の実施形態と同様である。
また、高強度鋼板1の表面1aには、第1の実施形態と同様、必要に応じて、予め、合金化溶融亜鉛めっきや溶融亜鉛めっき等が施されていても良く、さらに、めっきの表層に、無機系や有機系の皮膜等が形成されていても良い。
このような概略手順により、図9に示すような、ボルト12と高強度鋼板1とが接合された、プロジェクション溶接継手10Aを備える構造部材50Aを製造することができる。
本発明におけるプロジェクション溶接継手およびその製造方法の第3の実施形態について、以下に説明する。
なお、本実施形態では、上記第1、2の実施形態と同じ図面を参照してその構成を説明するとともに、共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
16 ≦ USt ≦ 80 ・・・(6)
但し、上記(6)式において、USt:アップスロープ時間(ms)を示す。
本発明におけるプロジェクション溶接継手およびその製造方法の第4の実施形態について、以下に説明する。
なお、本実施形態では、上記第1〜3の実施形態と同じ図面を参照してその構成を説明するとともに、共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
0.2×WC ≦ PRC ≦ 0.6×WC ・・・(7)
16 ≦ PRt ≦ 80 ・・・(8)
但し、上記(7)式において、WC:プロジェクション溶接電流(kA)、PRC:予備通電電流(kA)を示し、上記(8)式において、PRt:予備通電時間(ms)を示す。
本発明におけるプロジェクション溶接継手およびその製造方法の第5の実施形態について、以下に説明する。
なお、本実施形態では、上記第1〜4の実施形態と同じ図面を参照してその構成を説明するとともに、共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(9)
但し、上記(9)式において、PEF:溶接通電後の電極保持加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。
したがって、例えば、自動車用部品や車体、ならびにそれらの製造、組立工程において本発明のプロジェクション溶接継手10、10Aおよびその製造方法を適用することにより、高強度鋼板の採用による安全性の向上の他、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO2)の排出量削減等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
以下、本発明に係るプロジェクション溶接継手およびその製造方法の実施例1について、図1〜図6を適宜参照しながら説明する。
本実施例では、まず、下記表1に示すような成分組成を有する各種のナットを準備した。そして、これらのナットを、以下に説明するような条件ならびに手順により、下記表2および表3に示すような鋼板特性を有する各種の高強度鋼板にプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。
実施例1においては、図3に示すようなプロジェクション溶接機80を用いてナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接した。このプロジェクション溶接機80は、上部電極81、下部電極82、位置決めピン85を備えている。
(1)溶接機:定置式60kVAエアー加圧型(単相交流)
(2)電極:F型、φ25、Cu−Cr合金製
(3)冷却水流量:上下2l/分
(4)初期加圧時間:600ms
(5)電極による加圧力EF:1.76〜6.08kN
(6)溶接電流WC:8.5〜15.5kA
(7)通電時間Wt:40〜260ms
(8)溶接後の電極保持時間Ht:60〜180ms
このようなプロジェクション溶接を行った際の、各溶接条件の一覧を下記表2および表3に示す。
次に、上記手順で得られた、プロジェクション溶接後の試験片について、以下に説明するような各種評価試験を行ない、結果を表2および表3に示した。
上記手順で得られた各試験片について、接合部をマイクロカッターで切断して研磨し、ピクリン酸でエッチングした後、その組織を光学顕微鏡で観察して、接合状態(圧接または溶融接合)、および割れの有無を観察した。
図4は、プロジェクション溶接継手の接合部、熱影響部のビッカース硬さの分布を測定する方法を説明するための概略図であり、図1や図2(a)、(b)等と対応する部分には同一の符号を付している。図1に示すように、ナット2のプロジェクション部21と高強度鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中Aで示す部分)およびその周囲にHAZ部(熱影響部:図中Bで示す部分)が形成されるが、本実施例では、この部分の硬さを、接合部の断面から垂直方向および水平方向に向かって測定した。なお、各試験片での測定にあたっては、4箇所の突起(プロジェクション部)のうち、対角の位置にある2つの突起について硬さ分布を測定した。
図5は、プロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を説明するための概略図である。図5に示すように、本試験では、ナット2と高強度鋼板1とを接合した試験片におけるナット2に、トルクレンチ110付きのソケット111を嵌め込み、トルクレンチ110によって、ナット2のねじ孔22の中心(軸心)22aに垂直な平面内で回転力を与え、ナット2が剥離した際、すなわち、図1等に示すプロジェクション部21が高強度鋼板1から剥離した際のトルク(トルク剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、トルク剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験におけるトルク剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。
図6は、プロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を説明するための概略図である。図6に示すように、本試験では、ナット2と高強度鋼板1を接合した試験片における高強度鋼板1側から、ピアス孔11を通じてボルト108をねじ込み、ボルト108の頭部から圧縮荷重Fを付与し、ナット2が剥離した際、すなわち、図1等に示すプロジェクション部21が高強度鋼板1から剥離した際の荷重(押込み剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、押込み剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験における押込み剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。また、上記条件および手順による押込み剥離試験の後、接合部の面積(SJ)ならびに呼び径部分の面積(SR)を測定し、その比を計算した。
表1は、本実施例において用いたナットの化学成分組成の一覧を示すものであり、また、表2および表3は、ナット仕様ならびに高強度鋼板の特性、プロジェクション溶接条件、各評価結果の一覧を示すものである。ここで、表2および表3には、溶接時の散り発生有無、ナット/高強度鋼板間の隙間、接合状態、接合率(SJ/SR)、接合部における割れの有無、接合部・熱影響部(HAZ)における最高硬さとともに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきも示している。なお、ナットと高強度鋼板の接合状態(圧接または溶接)については、光学顕微鏡で観察した。また、表2および表3中における各評価結果では、本発明で規定する要件を満足し、良好な値を示したものの評価を「○」で示しており、やや特性が劣るものの評価を「△」で示し、また、特性がかなり劣るものを「×」で示している。
これに対し、表3に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.A−44〜A−60)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。なお、表3中に示すように、ナットの成分であるC、Si、Mnが本発明の規定範囲外である場合(A−41〜A−43)には、ナットの強度が不足するという問題はあるものの、プロジェクション溶接された接合部としては問題がないことが確認された。
実験No.A−45では、ナットの化学成分中におけるSi量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−46では、ナットの化学成分中におけるMn量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−48では、ナットの化学成分中におけるS量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって強度が低下し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−49では、ナットの化学成分中におけるCu量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−51では、上記同様、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えているため、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生している。また、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−54、55では、鋼板の板厚が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−58、59では、溶接電流が高めであることから、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、溶接時に散りが発生するとともに、接合状態が溶融接合となっており、さらに、接合部に割れが発生したことから、総合評価が劣っている。
以下、本発明の実施例2について、図7〜図12を適宜参照ながら説明する。
本実施例では、まず、上記表1に示すような成分組成を有する各種のボルトを準備した。そして、これらのボルトを、以下に説明するような条件ならびに手順により、下記表4および表5に示すような鋼板特性を有する各種の高強度鋼板にプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。
実施例2においては、図9に示すようなプロジェクション溶接機90を用いてボルト12と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接した。このプロジェクション溶接機90は、上部電極91、下部電極92、位置決め孔94を備えている。
(1)溶接機:定置式60kVAエアー加圧型(単相交流)
(2)電極:F型、φ25、Cu−Cr合金製
(3)冷却水流量:上下2l/分
(4)初期加圧時間:600ms
(5)電極による加圧力EF:1.76〜6.08kN
(6)溶接電流WC:8.5〜15.5kA
(7)通電時間Wt:40〜260ms
(8)溶接後の電極保持時間Ht:60〜180ms
このようなプロジェクション溶接を行った際の、各溶接条件の一覧を下記表4および表5に示す。
次に、上記手順で得られた、プロジェクション溶接後の試験片について、以下に説明するような各種評価試験を行ない、結果を表4および表5に示した。
上記手順で得られた各試験片について、接合部をマイクロカッターで切断して研磨し、ピクリン酸でエッチングした後、その組織を光学顕微鏡で観察して、接合状態(圧接または溶融接合)、および割れの有無を観察した。
図10は、プロジェクション溶接継手の接合部、熱影響部のビッカース硬さの分布を測定する方法を説明するための概略図であり、図7や図8(a)、(b)等と対応する部分には同一の符号を付している。図10に示すように、ボルト12のプロジェクション部12aと高強度鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中A1で示す部分)およびその周囲にHAZ部(熱影響部:図中B1で示す部分)B1が形成されるが、本実施例では、この部分の硬さを、接合部の断面から垂直方向および水平方向に向かって測定した。なお、各試験片での測定にあたっては、4箇所の突起(プロジェクション部)のうち、対角の位置にある2つの突起について硬さ分布を測定した。
図11は、プロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を説明するための概略図である。図11に示すように、本試験では、ボルト12と高強度鋼板1とを接合した試験片におけるボルト12に、トルクレンチ210付きのソケット211a、211bを嵌め込み、トルクレンチ210によって、ボルト12の軸心に垂直な平面内で回転力を与え、ボルト12が剥離した際、すなわち、図7等に示すプロジェクション部12aが高強度鋼板1から剥離した際のトルク(トルク剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、トルク剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験におけるトルク剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。
図12は、プロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を説明するための概略図である。図12に示すように、本試験では、ボルト12と高強度鋼板1を溶接した試験片におけるボルト12のねじ切り部側から、荷重中心が軸芯と一致するように、ねじ切り部側軸端に圧縮荷重Fを徐々に付与し、ボルト12が剥離した際、すなわち、プロジェクション部12aが高強度鋼板1から剥離した際の荷重(押込み剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、押込み剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験における押込み剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。また、上記条件および手順による押込み剥離試験の後、接合部の面積(SJ)ならびに呼び径部分の面積(SR)を測定し、その比を計算した。
表1は、本実施例において用いたボルトの化学成分組成の一覧を示し、また、表4および表5は、ボルト仕様ならびに高強度鋼板の特性、プロジェクション溶接条件、各評価結果の一覧を示すものである。ここで、表4および表5には、溶接時の散り発生有無、ボルト/高強度鋼板間の隙間、接合状態、接合率(SJ/SR)、接合部における割れの有無、接合部・熱影響部(HAZ)における最高硬さ、とともに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきも示している。なお、ボルトと高強度鋼板の接合状態(圧接または溶接)については、光学顕微鏡で観察した。また、表4および表5中における各評価結果では、本発明で規定する要件を満足し、良好な値を示したものの評価を「○」で示しており、やや特性が劣るものの評価を「△」で示し、また、特性がかなり劣るものを「×」で示している。
これに対し、表5に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.B−44〜B−60)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。なお、表4中に示すように、ボルトの成分であるC、Si、Mnが本発明の規定範囲外である場合(B−41〜B−43)には、ボルトの強度が不足するという問題はあるものの、プロジェクション溶接された接合部としては問題がないことが確認された。
実験No.B−45では、ボルトの化学成分中におけるSi量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−46では、ボルトの化学成分中におけるMn量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−48では、ボルトの化学成分中におけるS量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって強度が低下し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−49では、ボルトの化学成分中におけるCu量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−51では、上記同様、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えているため、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生している。また、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−54、55では、鋼板の板厚が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−58、59では、溶接電流が高めであることから、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、溶接時に散りが発生するとともに、接合状態が溶融接合となっており、さらに、接合部に割れが発生したことから、総合評価が劣っている。
実施例3においては、実施例1と同様の方法で、表2および表3に示した溶接条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。
表2に示すように、本発明で規定する各要件を満足する本発明例(実験No.A−26〜A−40)においては、何れの例においても優れた特性を示すことが明らかである。
これに対し、表3に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.A−61〜A−75)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。
実験No.A−64では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、総合評価が劣っている。
実験No.A−65では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−66では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、また、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えていることから、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−70では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生し、総合評価が劣っている。
実験No.A−71、72では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実施例4においては、実施例2と同様の方法で、表4および表5に示した溶接条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例2と同様の評価を行った。
表4に示すように、本発明で規定する各要件を満足する本発明例(実験No.B−26〜B−40)においては、何れの例においても優れた特性を示すことが明らかである。
これに対し、表5に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.B−61〜B−75)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。
実験No.B−64では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、総合評価が劣っている。
実験No.B−65では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−66では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、また、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えていることから、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−70では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生し、総合評価が劣っている。
実験No.B−71、72では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、接合部に割れが発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実施例5においては、実施例1、3と同様の方法で、下記表6および表7に示した溶接通電条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例5においては、溶接通電を行う前に、下記表6および表7に示す条件のアップスロープ通電を行うとともに、各条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。
表6に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行う前に、本発明の請求項3で規定する条件でアップスロープ通電を行った本発明例(実験No.C−1〜C−40)においては、何れの例においても、ナットと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、散りの発生が目視確認の範囲では認められず、上記実施例1〜4の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
実施例6においては、実施例2、4と同様の方法で、下記表8および表9に示した溶接通電条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例6においては、溶接通電を行う前に、下記表8および表9に示す条件のアップスロープ通電を行うとともに、各条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。
表8に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行う前に、本発明の請求項3で規定する条件でアップスロープ通電を行った本発明例(実験No.D−1〜D−40)においては、何れの例においても、ボルトと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、散りの発生が目視確認の範囲では認められず、上記実施例1〜4の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
実施例7においては、実施例1、3と同様の方法で、下記表10および表11に示した溶接通電条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例7においては、溶接通電を行う前に、下記表10および表11に示す条件の予備通電を行うとともに、各条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。
表10に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行う前に、本発明の請求項4で規定する条件で予備通電を行った本発明例(実験No.E−1〜E−40)においては、何れの例においても、ナットと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、散りの発生が目視確認の範囲では認められず、上記実施例1〜4の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
実施例8においては、実施例2、4と同様の方法で、下記表12および表13に示した溶接条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例2と同様の評価を行った。なお、実施例8においては、溶接通電を行う前に、下記表12および表13に示す条件の予備通電を行うとともに、各条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。
表12に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行う前に、本発明の請求項4で規定する条件で予備通電を行った本発明例(実験No.F−1〜F−40)においては、何れの例においても、ボルトと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、散りの発生が、目視確認の範囲では認められず、上記実施例1〜4の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
実施例9においては、実施例1、3と同様の方法で、下記表14および表15に示した溶接通電条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。また、耐低温割れ(耐遅れ破壊)性を調査するために、溶接試験片を0.2Nの硫酸中に24時間浸漬し、取り出した後に水洗して断面組織を観察し、割れが発生しているかどうかを調べた。なお、実施例9においては、溶接通電を行った後に電極を保持する際、電極保持加圧力PEFを下記表14および表15に示す条件とした。
表14に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行った後、本発明の請求項5で規定する条件で電極保持を行った本発明例(実験No.G−1〜G−40)は、何れの例においても、ナットと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、上記実施例1、3の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
実施例10においては、実施例2、4と同様の方法で、下記表16および表17に示した溶接通電条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例2と同様の評価を行った。また、実施例9と同様、耐低温割れ(耐遅れ破壊)性を調査するために、溶接試験片を0.2Nの硫酸中に24時間浸漬し、取り出した後に水洗して断面組織を観察し、割れが発生しているかどうかを調べた。なお、実施例10においては、溶接通電を行った後に電極を保持する際、電極保持加圧力PEFを下記表16および表17に示す条件とした。
表16に示すように、本発明で規定する条件で溶接通電を行った後、本発明の請求項5で規定する条件で電極保持を行った本発明例(実験No.H−1〜H−40)は、何れの例においても、ボルトと鋼板間の隙間が小さく、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、上記実施例2、4の各々における本発明例と比較しても、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
1a…表面
11…ピアス孔、
11a…ピアス孔の中心、
2…ナット、
2a…接合面、
21…プロジェクション部、
22…ねじ孔、
22a…ねじ孔の中心、
10、10A…プロジェクション溶接継手、
12…ボルト、
12A…下面、
12a…プロジェクション部、
50、50A…構造部材(プロジェクション溶接継手を備える構造部材)、
80、90…プロジェクション溶接機、
81、91…上部電極、
82、92…下部電極(固定電極)、
94…位置決め穴、
85…位置決めピン、
A、A1…接合部、
B、B1…熱影響部(HAZ)、
SJ…ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積、
SR…ナットまたはボルトの呼び径部分の面積、
Claims (5)
- 質量%で、
C :0.07〜0.28%、
Si:0.007〜0.35%、
Mn:0.20〜1.20%、
P :0.020%以下、
S :0.035%以下、
Cu:0.30%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるナットまたはボルトと、引張強さが750〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲である高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなる溶接継手であって、
前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比が下記(2)式で表される関係を満たし、かつ、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hv以下であることを特徴とするプロジェクション溶接継手。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・・・(2)
{但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)式において、SJ:ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積(mm2)、SR:ナットまたはボルトの呼び径部分の面積(mm2)を示す。} - 請求項1に記載の化学成分を有するナットまたはボルトと、請求項1に記載の引張強さ、板厚、ならびに、請求項1に記載の(1)式で表される炭素当量を有する高強度鋼板とを、加圧しながら通電加熱を行うプロジェクション溶接によって接合する、プロジェクション溶接継手の製造方法であって、
前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比を、請求項1に記載の(2)式で表される関係とし、かつ、通電時の電極の加圧力EF、通電時間Wt、および、溶接後の電極保持時間Htが、それぞれ下記(3)〜(5)式を満たす条件として、前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板とを加圧しながら溶接通電を行うことにより、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値を550Hv以下に制御しながらプロジェクション溶接することを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・・・(3)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・・・(4)
Ht ≦ 160 ・・・・・(5)
{但し、上記(3)〜(5)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:通電時間(ms)、Ht:溶接後の電極保持時間(ms)を示す。} - 請求項2に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、
前記溶接通電を行う前に、下記(6)式を満たす条件でアップスロープ通電を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
16 ≦ USt ≦ 80 ・・・(6)
{但し、上記(6)式において、USt:アップスロープ時間(ms)を示す。} - 請求項2に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、
前記溶接通電を行う前に、下記(7)、(8)式を満たす条件で予備通電を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
0.2×WC ≦ PRC ≦ 0.6×WC ・・・(7)
16 ≦ PRt ≦ 80 ・・・(8)
{但し、上記(7)式において、WC:プロジェクション溶接電流(kA)、PRC:予備通電電流(kA)を示し、上記(8)式において、PRt:予備通電時間(ms)を示す。} - 請求項2〜請求項4の何れか1項に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、
前記溶接通電の後、電極保持時間Htで電極を保持する際の電極保持加圧力PEF(kN)を、下記(9)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(9)
{但し、上記(9)式において、PEF:溶接通電後の電極保持加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。}
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