JP4853392B2 - 回転子用無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0 (1)
(ここで、式(1)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
Cu:0.01%以上8.0%以下 Ni:0.01%以上2.0%以下
Cr:0.01%以上15.0%以下 Mo:0.005%以上4.0%以下
Co:0.01%以上4.0%以下 W:0.01%以上4.0%以下
上記元素の高強度化作用により、鋼板の強度をより高めることが可能となるからである。
Sn:0.5%以下 Sb:0.5%以下 Se:0.3%以下 Bi:0.2%以下
Ge:0.5%以下 Te:0.3%以下 B:0.01%以下
上記元素の粒界偏析により、効果的に再結晶を抑制することができるからである。
Ca:0.03%以下 Mg:0.02%以下 REM:0.1%以下
上記元素の硫化物形態制御作用により、磁気特性をさらに改善することができるからである。
Nb/93−C/12>0 (2)
(ここで、式(2)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
固溶Nbにより均熱処理中の転位の消滅および再結晶の進行を抑制することができ、鋼板の強度を効果的に高めることができるからである。
Nb/93−C/12≦0 (3)
(ここで、式(3)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
以下、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
本発明の回転子用無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.06%以下、Si:3.5%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%超6.0%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下、Nb:0.02%超を含有し、Nb、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記式(1)を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなり、再結晶部分の面積比率が90%未満であることを特徴とするものである。
Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0 (1)
(ここで、式(1)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
以下、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板における鋼組成および再結晶部分の面積比率について説明する。
(1)C
CはNb,Zr,TiまたはVと結びついて析出物を形成するため、冷間圧延後の均熱処理において進行する転位の消滅および再結晶を抑制する効果を有する固溶Nb,Zr,TiおよびVの含有量の減少に繋がる。したがって、C含有量は低減することが好ましい。しかしながら、過度のC含有量の低減は製鋼コストが増加する点や、C含有量が多くても最終の冷間圧延前に所定の条件で焼鈍を施すことにより析出物を再固溶させれば冷間圧延後の均熱処理中における転位の消滅および再結晶を抑制する効果を得られる点を鑑み、C含有量の上限値は0.06%とする。好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。特に、C含有量が0.01%以下であれば、Nb/93−C/12>0になる条件を満たすのに必要なNb含有量が少なくてすむので製造コストの観点から望ましい。
Siは電気抵抗を高め、渦電流損失を低減する効果を有する元素である。しかしながら、多量のSiを含有させた場合には冷間圧延時の割れを誘発し、鋼板の歩留まり低下により製造コストが増加する。そのためSi含有量は3.5%以下とする。また、割れ抑制の観点からは3.0%以下が好ましい。さらに好ましくは2.0%未満である。Siを脱酸剤として使用する場合は0.01%以上含有させることが必要であるが、本発明では脱酸剤としての作用も有するAlを積極的に含有させるため、Si含有量の下限値は特に限定しない。固溶強化による鋼板の高強度化という観点からは、望ましくは0.2%以上、さらに望ましくは1.0%以上である。
MnはSiと同様に電気抵抗を高め、渦電流損失を低減する効果がある。しかしながら、Mnを多量に含有させると合金コストが増加するため、Mn含有量の上限は3.0%とする。一方、Mn含有量の下限はSを固定する観点から定められるものであり、0.05%とする。
Alは電気抵抗を高めるためSiと同様に渦電流損失を低減する。さらに、比重を大幅に低減する効果を有しており、回転子の軽量化に寄与することを目的とした本発明では極めて重要な合金元素である。また、AlはNを固定する効果も有する。しかしながら、多量にAlを含有させると合金コストが増加するとともに、Siと同様に冷間圧延時の割れを誘発し、鋼板の歩留まり低下により製造コストが増加する。ただし、冷間圧延性劣化への寄与はSiよりも低いため、比較的多い量で含有させることが許容され、比重低減および渦電流損失低減の観点からAl含有量は2.5%超とする。好ましくは3.0%以上である。引張強さで800MPa以上を確保した上で、所望の電気抵抗を得て渦電流損失低減を達成するためには3.5%以上が好ましい。コスト増加と冷間圧延性劣化を抑制する観点から、Al含有量の上限値は6.0%とする。
Pは固溶強化により鋼板の強度を高める効果があるが、多量にPを含有する場合には冷間圧延時の割れを誘発する。そのためP含有量は0.30%以下とする。強度を確保する観点からP含有量は0.01%以上、好ましくは0.02%超とするのが望ましい。
Sは鋼中に不可避的に混入する不純物であるが、製鋼段階で低減するにはコストが増加するためS含有量としては0.04%を上限とする。
NはNb,Zr,TiまたはVと結びついて析出物を形成するため、冷間圧延後の均熱処理において進行する転位の消滅および再結晶を抑制する効果を有する固溶Nb,Zr,TiおよびVの含有量の減少に繋がる。しかしながら、Alを多量に含有させることを基本とした本発明では、N含有量が多くてもAlによりNを析出物として固定することができ、転位の消滅および再結晶を抑制する効果が非常に大きい固溶Nbの含有量が確保されることを鑑み、N含有量の上限は0.02%とする。好ましくは0.01%以下である。一方、N含有量が低すぎると上記式(1)の関係を満たすために必要なNb含有量が極端に減少するため、均熱処理中の転位の消滅および再結晶を抑制する効果が得られないおそれがある。そのため、N含有量は0.0015%超が好ましい。より好ましくは0.0026%超である。
均熱処理中の転位の消滅および再結晶を抑制し、回復組織を得るためには析出物を形成していない固溶した状態のNb,Zr,TiまたはVを含有させることが必要であるが、これらの元素を多量に含有させると合金コストが増加する。コスト低減のためには、Nb,Zr,TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、下記式(1)を満足する範囲で含有させることが必要である。
Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0 (1)
(ここで、式(1)中、Nb,Zr,Ti,V,CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
Nb/93−C/12>0 (2)
(ここで、式(2)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
本発明においては、再結晶粒径の細粒化ではなく再結晶そのものを抑制することにより磁気特性と機械特性の両立を図っているため、この再結晶抑制効果を損なわない範囲でCu,Ni,Cr,Mo,CoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることができる。これらの元素は鋼板を高強度化する作用を有するので、鋼板の強度をさらに高めるのに有効であり好ましい。
本発明は再結晶を抑制することにより磁気特性と機械特性の両立を図っているため、粒界偏析により再結晶を抑制する効果を有するSn,Sb,Se,Bi,Ge,TeおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることが好ましい。これらの元素を含有させる場合には、熱間圧延工程での割れの発生およびコスト増加を抑制する観点から、各元素の含有量をSn:0.5%以下、Sb:0.5%以下、Se:0.3%以下、Bi:0.2%以下、Ge:0.5%以下、Te:0.3%以下、B:0.01%以下とすることが好ましい。これらの元素による再結晶抑制効果を確実に得るには、各元素の含有量をSn:0.001%以上、Sb:0.0005%以上、Se:0.0005%以上、Bi:0.0005%以上、Ge:0.001%以上、Te:0.0005%以上、B:0.0002%以上とすることが好ましい。
本発明で規定するS含有量の範囲内では再結晶抑制効果に及ぼすSの影響は認められなかったため、本発明においては硫化物の形態制御による磁気特性改善を目的としてCa,MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種を含有させることができる。
ここでREMとは、原子番号57〜71の15元素、ならびに、ScおよびYの2元素の合計17元素をさす。
これらの元素を含有させる場合には、各元素の含有量をCa:0.03%以下、Mg:0.02%以下、REM:0.1%以下とすることが好ましい。上記効果を確実に得るためには、各元素の含有量をCa:0.0001%以上、Mg:0.0001%以上、REM:0.0001%以上とすることが好ましい。
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で上述した元素以外の元素を含有させることが可能である。本発明は、再結晶組織を前提とした従来技術とは異なり、多くの転位が残存した回復組織とすることにより強度を高めるものであるから、再結晶組織を前提とした従来技術において制限されていた元素の含有をより高いレベルまで許容することができる。例えば、Ta,Hf,As,Au,Be,Zn,Pb,Tc,Re,Ru,Os,Rh,Ir,Pd,Pt,Ag,Cd,HgおよびPoを総和で0.1%以下含有することができる。
次に、本発明における再結晶部分の面積比率の限定理由について説明する。
再結晶の前段階である回復の進行とともに、再結晶部分の面積比率はゼロのまま降伏点および引張強さは低下する。再結晶開始後は、再結晶部分の面積比率の増加とともに降伏点および引張強さはさらに低下する。ここで、再結晶部分の面積比率は回転子用に必要な機械特性を確保する観点から定まるものである。安全率を考慮すれば、高速回転時の変形抑制の観点から、再結晶部分の面積比率は90%未満となる。好ましくは70%以下である。疲労破壊を抑制する観点からは40%以下が好ましく、さらに好ましくは25%未満である。機械特性の観点からは再結晶部分の面積比率は低いほど好ましく、再結晶部分の面積比率をゼロとし、完全に未再結晶状態(回復組織)とすることが好ましい。
次に、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の回転子用無方向性電磁鋼板を製造するに際して、好ましい3つの態様を挙げることができる。以下、各態様について説明する。
本態様の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備え、かつ、上記鋼組成が下記式(2)を満足する鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を820℃以下で均熱する均熱処理工程とを有することを特徴とするものである。
Nb/93−C/12>0 (2)
(ここで、式(2)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
以下、本態様の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
本態様における熱間圧延工程は、上述した鋼組成を備え、かつ、鋼組成が上記式(2)を満足する鋼塊または鋼片に(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施す工程である。
なお、鋼塊または鋼片の鋼組成については、上述した「A.回転子用無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
スラブ加熱温度は特に限定されるものではないが、コストおよび熱間圧延性の観点から1000℃〜1300℃とすることが好ましい。より好ましくは1050℃〜1250℃である。
また、熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、例えば仕上げ温度が700℃〜950℃、巻き取り温度が750℃以下など、一般的な条件に従って行えばよい。
本態様における冷間圧延工程は、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施す工程である。このような冷間圧延工程を行うことにより、鋼板を所定の板厚に仕上げる。本工程においては、一回の冷間圧延で所定の板厚まで仕上げてもよいし、中間焼鈍を含む二回以上の冷間圧延によって仕上げてもよい。
なお、冷間圧延のままの引張強さは、圧延方向を長手方向として採取した引張試験片にて測定することができる。
本態様における均熱処理工程は、上述した冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を820℃以下で均熱する工程である。
本態様においては、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を行ってもよい。この熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に行われる工程である。
本態様においては、上記均熱処理工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁皮膜を鋼板表面に塗布するコーティング工程を行うことが好ましい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁皮膜を塗布しても構わない。また、コーティング工程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す工程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
次に、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法の第2の態様について説明する。
本態様の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備え、かつ、上記鋼組成が下記式(3)を満足する鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施し、かつ、最終の冷間圧延前の鋼板に850℃以上1200℃以下の温度で10秒間以上5分間以下の連続焼鈍を施す冷間圧延工程と、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を820℃以下で均熱する均熱処理工程とを有することを特徴とするものである。
Nb/93−C/12≦0 (3)
(ここで、式(3)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。)
本態様における熱間圧延工程は、上述した鋼組成を備え、かつ、鋼組成が上記式(3)を満足する鋼塊または鋼片に(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施す工程である。
なお、鋼塊または鋼片の鋼組成については、上述した「A.回転子用無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であり、熱間圧延条件等については、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明における冷間圧延工程は、熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施し、かつ、最終の冷間圧延前の鋼板に850℃以上1200℃以下の温度で10秒間以上5分間以下の連続焼鈍を施す工程である。このような冷間圧延工程を行うことにより、鋼板を所定の板厚に仕上げる。本工程においては、一回の冷間圧延で所定の板厚まで仕上げてもよいし、中間焼鈍を含む二回以上の冷間圧延によって仕上げてもよい。
なお、上述の均熱処理工程後に冷間加工を施すことにより製品の機械特性や板厚などを調整する場合があるが、その冷間加工は冷間圧延ではなく、上記の冷間圧延の回数には数えない。
次に、本発明の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法の第3の態様について説明する。
本態様の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述の鋼組成を備える鋼塊または鋼片を、1100℃以上1300℃以下としたのちに、累積圧下率が80%以上の粗熱間圧延を施して粗バーを得る粗熱間圧延工程と、上記粗バーに仕上熱間圧延を施す仕上熱間圧延工程とを有し、上記仕上熱間圧延工程前の粗バーの温度を950℃以上とする熱間圧延工程を備えることを特徴とするものである。
したがって本態様によれば、従来のように高価な鋼成分を用いることも、特殊な工程を経ることもなく、例えば駆動モータの回転子として必要な磁気特性および機械特性を満足し、かつ回転子の軽量化に寄与し、しかも表面性状の良好な回転子用無方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。
以下、本態様の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
本態様における熱間圧延工程は、上述した鋼組成を有する鋼塊または鋼片を、1100℃以上1300℃以下としたのちに、累積圧下率が80%以上の粗熱間圧延を施して粗バーを得る粗熱間圧延工程と、上記粗バーに仕上熱間圧延を施す仕上熱間圧延工程とを有し、上記仕上熱間圧延工程前の粗バーの温度を950℃以上とする工程である。以下、熱間圧延工程における各工程について説明する。
本態様における粗熱間圧延工程は、上述した鋼組成を有する鋼塊または鋼片を、1100℃以上1300℃以下としたのちに、累積圧下率が80%以上の粗熱間圧延を施す工程である。
本工程においては、上述した鋼組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、所定の温度としたのちに粗熱間圧延を施す。粗熱間圧延に供するスラブ温度を所定の温度とすることができるのであれば、スラブを加熱炉に装入して所定の温度まで加熱する場合のほか、連続鋳造後や分塊圧延後の高温状態にあるスラブを加熱炉に装入しないで直接粗熱間圧延を行ってもよい。
ここで、等軸晶率とは、スラブ厚に占める等軸晶部分の厚みの割合であり、スラブの鋳込み方向垂直断面をエッチングして得られる凝固組織のマクロ組織より等軸晶か柱状晶かを判別し、各部分の厚みを測定して算出すればよい。平均等軸晶率としては、スラブの幅方向の1/4、2/4、3/4位置における等軸晶率を平均した値を採用すればよい。
ここで、粗熱間圧延での累積圧下率は、粗熱間圧延機入側のスラブの厚さAと出側の粗バーの厚さBを用いて、次式で表される数値である。
(1−B/A)×100[%]
なお、粗熱間圧延を施す前にスラブの幅方向に圧下もしくは圧延を施してスラブ厚さを増加させても本発明の効果は全く失われない。この場合における粗熱間圧延での累積圧下率は、スラブの幅方向への圧下もしくは圧延後のスラブの厚さを用いて算出した数値とする。
本態様における仕上熱間圧延工程は、上記粗バーに仕上熱間圧延を施す工程である。
仕上熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、例えば仕上げ温度が700〜950℃、巻き取り温度が750℃以下など、一般的な条件に従って行えばよい。
(i)冷間圧延工程
本発明においては、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程を行うことができる。このような冷間圧延工程を行うことにより、鋼板を所定の板厚に仕上げる。本工程においては、一回の冷間圧延で所定の板厚まで仕上げてもよいし、中間焼鈍を含む二回以上の冷間圧延によって仕上げてもよい。
なお、これらの理由については、上記第1の態様および第2の態様にてそれぞれ詳しく記載し、上記連続焼鈍については、上記第2の態様にて詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
本発明においては、上記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を所定の温度で均熱する均熱処理工程を行うことができる。
なお、均熱処理工程については、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明においては、上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を行ってもよい。この熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に行われる工程である。
熱延板焼鈍工程は、上述した表面欠陥の発生を軽減する効果も有する。
なお、熱延板焼鈍工程については、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
熱間圧延鋼板の鋼組成がNb/93−C/12≦0を満たす場合には、上記第2の態様に記載したように、熱延板焼鈍条件の適正化が重要となる。
本発明においては、上記均熱処理工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁皮膜を鋼板表面に塗布するコーティング工程を行うことが好ましい。
なお、コーティング工程については、上記第1の態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
[実施例1〜26]
下記の表1に示す鋼組成を有する鋼を真空溶製し、これらの鋼を1150℃に加熱し、仕上げ温度820℃で熱間圧延を行い580℃で巻き取り、厚さが2.0mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板のうち一部を除いて水素雰囲気中にて10時間保持する箱焼鈍、あるいは種々の温度で種々の時間保持する連続焼鈍による熱延板焼鈍を施し、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmまで仕上げた。また、一部の熱間圧延鋼板については、上記の熱延板焼鈍後、中間板厚まで冷間圧延した後、水素雰囲気中にて750℃または800℃で10時間保持する箱焼鈍、あるいは種々の温度で種々の時間保持する連続焼鈍による中間焼鈍を実施し、二回目の冷間圧延で0.35mmに仕上げた。さらに、一部の熱間圧延鋼板については熱延板焼鈍を施すことなく、一回あるいは中間焼鈍を含む二回の冷間圧延にて0.35mmに仕上げた。その後、実施例1〜9および11〜26には種々の温度で30秒間保持する連続焼鈍による均熱処理を施した。実施例10には500℃で10時間保持する箱焼鈍による均熱処理を施した。このようにして、鋼板を作製した。
上記表1に示す鋼組成を有する鋼を用いて、実施例1〜26と同様にして鋼板を作製した。
実施例1〜26および比較例1〜8の鋼板について、均熱処理の前段階における鋼板の機械特性、ならびに、均熱処理後の再結晶部分の面積比率、機械特性、磁気特性および比重を評価した。
機械特性は、圧延方向を長手方向としたJIS5号試験片を用いた引張試験を行い評価した。均熱処理の前段階の鋼板については引張強さ:TSにて、均熱処理後の鋼板については降伏点:YPおよび引張強さ:TSにて評価した。
磁気特性については、55mm角の単板試験片にて、最大磁束密度:1.0T、励磁周波数:400Hzでの鉄損W10/400と、磁化力5000A/mでの磁束密度B50とを測定した。測定は圧延方向と圧延直角方向について実施し、それらの平均値を採用した。
比重については、水中の重量と空気中の重量を測定し、測定温度における水の密度も考慮したアルキメデス法にて評価した。
また、実施例4,5,6および7を比較することにより、最終の冷間圧延前の鋼板に対する焼鈍(ここでは中間焼鈍)を連続焼鈍とすることによって再結晶を抑制する効果が高まり、均熱温度を高くしても同等の降伏点および引張強さが得られることがわかった。
さらに、実施例12および26より、Nb/93−C/12<0である鋼であっても、最終の冷間圧延前の鋼板に対する焼鈍(実施例12では熱延板焼鈍、実施例26では中間焼鈍)を連続焼鈍とすることによって、優れた磁気特性および機械特性が得られることがわかった。
また、実施例17〜25に示されるように、Cu,Ni,Cr,Mo,Co,W,Sn,Sb,Se,Bi,Ge,Te,B,Ca,Mg,REMを適正量含有する場合も、本発明の効果が得られることがわかった。さらに、実施例26より、Ta,Hf,As,Au,Be,Zn,Pb,Tc,Re,Ru,Os,Rh,Ir,Pd,Pt,Ag,Cd,Hg,Poの含有量が適正である場合にも、本発明の効果が得られることがわかった。
下記の表3に示す鋼組成を有する連続鋳造スラブを、下記の表4に示す条件にて加熱して、粗熱間圧延を施し、仕上げ温度850℃、巻き取り温度550℃で仕上熱間圧延を行って、厚さが2.0mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板に対して750℃で10時間保持する箱焼鈍による熱延板焼鈍を施し、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmまで仕上げた。その後、均熱温度700℃の連続焼鈍による均熱処理を施し、鋼板の表面に平均厚さ0.4μmの絶縁皮膜をコーティングした。
なお、再結晶部分の面積比率、機械特性、および比重については、実施例1〜26と同様にして測定した。
また、磁気特性および占積率については、JIS C 2550に準じて試験片を採取し、評価した。磁気特性としては、最大磁束密度:1.0T、励磁周波数:400Hzでの鉄損W10/400を測定した。また、占積率の評価については、98%以上をA、95%以上98%未満をB、95%未満をCとした。
スラブの平均等軸晶率は、上述した方法により測定した。
評価結果を表4に示す。
これに対して、鋼組成が本発明範囲である鋼b,c,dおよびeを用いたNo.1-2〜1-5,1-7〜1-10,1-12〜1-15,1-17〜1-20の鋼板は、機械特性が良好であった。中でも、スラブ加熱条件および粗熱間圧延条件が適正化されている場合(No.1-2〜1-5,1-17〜1-20)には、占積率も良好であった。
下記の表5に示す鋼組成を有する連続鋳造スラブを1150℃に加熱し、粗熱間圧延での累積圧下率を86%とし、粗熱間圧延出側温度が980℃となるように粗熱間圧延を施し、仕上げ温度820℃、巻き取り温度580℃で仕上熱間圧延を行って、厚さが2.0mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板に対して750℃または800℃で10時間保持する箱焼鈍、あるいは1050℃で90秒間保持する連続焼鈍による熱延板焼鈍を施し、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmまで仕上げた。その後、下記の表6に示す種々の均熱温度で連続焼鈍による均熱処理を施し、鋼板の表面に平均厚さ0.4μmの絶縁皮膜をコーティングした。
なお、いずれの鋼板もスラブの平均等軸晶率は25%〜30%の範囲であった。
評価結果を表6に示す。
Claims (10)
- 質量%で、C:0.06%以下、Si:3.5%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、Al:2.5%超6.0%以下、P:0.30%以下、S:0.04%以下、N:0.02%以下、Nb:0.02%超を含有し、Nb、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記式(1)を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなり、再結晶部分の面積比率が90%未満であることを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板。
Nb/93+Zr/91+Ti/48+V/51−(C/12+N/14)≦0 (1)
(ここで、式(1)中、Nb、Zr、Ti、V、CおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。) - 前記Feの一部に代えて、Cu、Ni、Cr、Mo、CoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
Cu:0.01%以上8.0%以下 Ni:0.01%以上2.0%以下
Cr:0.01%以上15.0%以下 Mo:0.005%以上4.0%以下
Co:0.01%以上4.0%以下 W:0.01%以上4.0%以下 - 前記Feの一部に代えて、Sn、Sb、Se、Bi、Ge、TeおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
Sn:0.5%以下 Sb:0.5%以下 Se:0.3%以下 Bi:0.2%以下
Ge:0.5%以下 Te:0.3%以下 B:0.01%以下 - 前記Feの一部に代えて、Ca、MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種の元素を下記の質量%で含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
Ca:0.03%以下 Mg:0.02%以下 REM:0.1%以下 - 鋼組成が下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の回転子用無方向性電磁鋼板。
Nb/93−C/12>0 (2)
(ここで、式(2)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。) - 請求項5に記載の鋼組成を備える鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を820℃以下で均熱する均熱処理工程とを有することを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記熱間圧延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項6に記載の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の鋼組成を備え、かつ、前記鋼組成が下記式(3)を満足する鋼塊または鋼片に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板に一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延を施し、かつ、最終の冷間圧延前の鋼板に850℃以上1200℃以下の温度で10秒間以上5分間以下の連続焼鈍を施す冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程により得られた冷間圧延鋼板を820℃以下で均熱する均熱処理工程とを有することを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
Nb/93−C/12≦0 (3)
(ここで、式(3)中、NbおよびCはそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。) - 請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の鋼組成を備える鋼塊または鋼片を、1100℃以上1300℃以下としたのちに、累積圧下率が80%以上の粗熱間圧延を施して粗バーを得る粗熱間圧延工程と、前記粗バーに仕上熱間圧延を施す仕上熱間圧延工程とを有し、前記仕上熱間圧延工程前の粗バーの温度を950℃以上とする熱間圧延工程を備えることを特徴とする回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼塊または鋼片の断面組織における平均等軸晶率が25%以上であることを特徴とする請求項9に記載の回転子用無方向性電磁鋼板の製造方法。
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