JP4848112B2 - 易重合性物質の蒸留方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分子中に二重結合を有するビニル化合物で代表される易重合性物質の蒸留方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
易重合性物質は光や熱等によって重合しやすい性質を有するため、蒸留工程のような高温下ではきわめて重合しやすくなる。蒸留塔内で重合が生じると、ロスにつながるのみならず、連続運転に支障を来し、生産性が低下する。従って易重合性物質の蒸留精製においては、重合防止は非常に重要な技術であり、従来より重合禁止剤の種類、量、組み合わせ等に関する数多くの重合防止方法が提案されている。
【0003】
図2は、易重合性物質の蒸留に通常使用される蒸留装置を示している。この蒸留装置は、内部に充填物を充填した充填層11、12、…、18を備える蒸留塔、排出された蒸気を凝縮するためのコンデンサー21等からなる。この蒸留塔において供給液は、充填層15の上部に設けられた供給口19から塔内に供給される。なお、供給口19は、通常、エネルギー的に有利で効率的であることから蒸留塔内の液組成が供給液の組成と近いところに設けられる。本発明においては、前記供給口19が存在する部位を供給段と定義する。一方、下部の蒸気入口8からは蒸気が導入され、充填層内を流下する供給液および還流液と向流接触しながら上昇し、上部の塔頂部6から排出される。
【0004】
排出された蒸気は、配管20を通じて、コンデンサー21に送られ、冷却されて凝縮液となる。凝縮液はポンプ22により送液され、その一部は配管24を通じて留出液として回収され、残りは配管26を通じて還流液入口7から還流液として塔内へ還流される。還流液と留出液との比率は調整弁23、25により調整される。なお、9は缶出液を排出する缶出液出口である。
【0005】
前記の蒸留装置を用いて易重合性物質の蒸留を行う際に、充填層内において重合物が生成することがあった。重合物が充填層内において生成すると、それが次第に成長蓄積して、塔内の圧力を上昇させ、遂には塔内が閉塞されてしまうことになる。これが製品のロスを増加させるのみならず、蒸留装置の連続運転を妨げ生産性を低下させる大きな要因になっている。また、生成した重合物を除去するのは非常に困難であり、除去費用は多大となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ビニル化合物に代表される易重合性物質の蒸留を行うに際して、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所は、易重合性物質を含む蒸気が凝縮して、重合禁止剤が存在しない状態で液溜まりをつくりやすい部位であることを見出した。そして、易重合性物質を蒸留塔にて蒸留するに際し、易重合性物質を含む供給液を供給する供給段とは別に、前記供給段よりも上部にも前記供給液の一部を供給することで蒸留塔内を流下する液量を増加せしめ、これにより、蒸留塔内の液濡れ性を向上させることにより、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所の形成を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明における易重合性物質の蒸留方法は、易重合性物質を蒸留塔にて蒸留するに際し、易重合性物質を含む供給液を供給する供給段とは別に、前記供給段よりも上部にも前記供給液の一部を供給することを特徴とする。
【0009】
重合禁止剤は、通常、還流液に混合して蒸留塔の塔頂より供給される。重合禁止剤は、実質的に不揮発性であるため、蒸留塔内で蒸気が凝縮しただけでは凝縮液中には重合禁止剤が含まれていない。したがって、凝縮液は非常に不安定で重合しやすい。この凝縮液は、蒸留塔上部より流下する重合禁止剤を含む液と接触、混合されることによって安定化され、重合防止が図られる。よって、前記の通り、蒸留塔内で蒸気が凝縮して、重合禁止剤が存在しない状態で液溜まりをつくりやすい部位が易重合性物質が重合しやすい部位となる。
【0010】
蒸留装置はトレー塔と充填塔に大別されるが、易重合性物質の蒸留装置としては、トレー塔と充填塔の両方の装置が提案されている。トレー塔と充填塔はそれぞれ長所と短所があり、目的と用途により使い分けられている。
充填塔は圧力損失が小さく、低温で操作できる点が長所であるが、充填物の表面が塔頂より流下した重合禁止剤を含む液で濡れていないと、濡れていない部位で蒸気が凝縮して、重合禁止剤が存在しない状態となり、重合しやすくなる点が短所である。この問題を解決するためには、充填層に重合禁止剤を含む液を均一に分散させることが非常に重要であるが、供給液および還流液の偏流や充填層内を流下する液量が少ないことが原因で、充填物の表面の一部に前記供給液および還流液が行き渡らず、濡れない箇所(液濡れ性のわるい箇所)が生じることがある。この箇所には重合禁止剤が存在しないため、ここに凝縮による液溜まりが生じると、重合が生じ易くなる。
【0011】
本発明者らは、蒸留塔内で重合が生じる原因についてさらに鋭意検討した結果、図2に示すような従来の蒸留装置を用いて蒸留する際には、前記したように、偏流や液量不足により充填物表面に液濡れ性のわるい箇所が生じ、重合禁止剤を含まない凝縮液の液溜まりができ、前記の易重合性物質が重合しやすい部位を形成することを見出した。供給液および/または還流液は充填層11、12、…、18内部を流下する際に、徐々に偏流を生じ、充填層の下部になるほど均一に流下せず、液の流れが偏ってしまい、液濡れ性の悪い箇所が生じる。特に、供給口19よりも上部に位置する充填層11、12、13、14を流下する液は、前記還流液のみであるため、供給口19よりも下部に位置する充填層15、16、17、18と比較して流下する液量が少なく、液濡れ性のわるい箇所がより生じ易い傾向にある。本発明においては、易重合性物質を蒸留塔にて蒸留するに際し、易重合性物質を含む供給液を供給する供給段とは別に、前記供給段よりも上部にも前記供給液の一部を供給することで蒸留塔内を流下する液量を増加せしめ、これにより、蒸留塔内の液濡れ性を向上させることにより、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所の形成を防止して、蒸留塔内での重合を防止する。
【0012】
本発明の易重合性物質の蒸留方法における前記供給段よりも上部の供給位置は、分離性能を極端に低下せしめない限り、より上部が好ましく、すなわち、前記供給液の一部を塔頂に供給するのが最も好ましい。また、前記供給段よりも上部の供給位置に供給する供給量は、分離性能の低下が許容できる範囲でより多量であることが好ましい。これにより、蒸留塔内全域において十分な液量を供給することができ、蒸留塔内の液濡れ性を向上させ、易重合性物質の重合を防止することができる。
【0013】
さらに、本発明の易重合性物質の蒸留方法は、還流液だけでなく、前記供給液にも重合禁止剤を添加することで、蒸留塔内を流下する液(供給液と還流液の混合液)に含まれる重合禁止剤濃度をより高濃度でより均一に維持することができるので、易重合性物質の重合をより確実に防止することができる。
【0014】
本発明の易重合性物質の蒸留方法は、前記蒸留塔として充填塔を用いる場合には、充填層を流下する液量の合計が1時間に充填塔の断面積1m2当たり2m3以上となるように前記液量を制御するのが好ましい。分離性能面から要求される最低液量は充填物の種類や大きさによって異なるが、工業スケールで使用される充填物においては、1時間に充填塔の断面積1m2当たり0.5〜1m3が最低液量である。しかし、この液量では充填層内に重合禁止剤を十分に分散させて易重合性物質の重合を防止するには不十分であり、1時間に充填塔の断面積1m2当たり2m3以上となるように制御することが好ましく、これにより充填塔内部の充填物の液濡れ性を向上させることができ、易重合性物質の重合を防止することができる。
【0015】
また、本発明の易重合性物質の蒸留方法は、前記蒸留塔として充填塔を用いる場合には、前記充填塔の1段当たりの充填層高さを6m以下とするのが好ましい。工業スケールの蒸留塔では、前記充填層高さは最大約8〜10mで設計される。前記充填層高さは高いほど設備費が安くなり有利であるが、高くなりすぎると充填層内の特に下部において偏流を起こしやすくなる。充填塔の1段当たりの充填層高さは6m以下とすることが好ましく、これにより充填層内部における液の偏流を防止し、易重合性物質の重合を防止することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態で用いられる蒸留装置の概略図を図1に示す。
【0017】
図1に示すように、本発明で用いられる蒸留装置は、内部に充填物を充填した充填層11、12、…、18を備える充填塔、排出された蒸気を凝縮するためのコンデンサー21等からなる。前記充填物としては、例えばラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、カスケードミニリング、ベルサドル、インタロックサドル、テラレット等を使用することができる。
【0018】
この蒸留塔は原料を供給するための供給口を2箇所備えている。供給口1aは充填層15の上部に設けられ、供給口1bは塔頂に設けられている。これら供給口1a、1bから供給される供給液と還流液入口7から塔内へ還流される還流液は充填塔内を流下する。一方、蒸気入口8から導入される蒸気は、充填塔内を前記供給液および還流液と向流接触しながら上昇し、上部の塔頂部6から排出される。
【0019】
供給口1a、1bから供給される前記供給液には、還流液と同様に、重合禁止剤を添加することが好ましく、これにより充填塔内を流下する液中の重合禁止剤がより高濃度でより均一となるため、易重合性物質の重合をより確実に防止することができる。
【0020】
前記重合禁止剤としては、例えばジブチルジチオカルバミン酸金属塩(銅、マンガン等)、フェノチアジン、メトキノン、ハイドロキノン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0021】
充填層を流下する液量は、1時間に充填塔の断面積1m2当たり2m3以上となるように制御されるのが好ましい。充填層を流下する液量が1時間に充填塔の断面積1m2当たり2m3未満となると、液濡れ性が低下し、充填物表面の一部に前記供給液および還流液で濡れない箇所が生じやすくなるため好ましくない。
【0022】
前記充填塔に備えられている充填層11、12、…、18は、充填層1段当たりの高さが6m以下であるのが好ましい。前記高さが6mを越えると、前記供給液および還流液が充填層内を流下する際に、偏流が生じて充填層内の液濡れ性が低下し、重合が生じ易くなるため好ましくない。
【0023】
本発明の他の実施形態で用いられる蒸留装置は、原料の供給口として図1に示す供給口1bのみを備えている。この場合、供給液の全量が塔頂から供給される。この実施形態の場合も、前記と同様に、充填層内を流下する液量は、1時間に充填塔の断面積1m2当たり2m3以上となるように制御されることが好ましく、前記充填塔に備えられている充填層11、12、…、18は、充填層1段当たりの高さが6m以下であるのが好ましい。
【0024】
以上の実施形態で示したような方法で易重合性物質の蒸留を行うことにより、充填層内を流下する液量が増加し、かつ供給液および還流液が充填層内を流下する際に偏流が生じにくくなり、充填物表面の液濡れ性を向上させることができる。また、重合禁止剤が還流液だけでなく供給液にも添加されているので、充填塔内を流下する液中の重合禁止剤がより高濃度でより均一となるため、易重合性物質の重合をより確実に防止することができる。これにより、易重合性物質の重合を防止することができ、蒸留装置の連続運転が可能となる。
【0025】
前記易重合性物質としては、アクリル酸、メタクリル酸等の共役酸またはそのエステル、アミド、ニトリル等の誘導体(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリルアミド、アクリロニトリル等)、共役アルデヒドおよびケトン(アクロレイン、メタクロレイン、メチルビニルケトン等)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ビニル基置換芳香族化合物(スチレン等)、カルボン酸ビニル(酢酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル等)、1,3―ジオレフィン(ブタジエン、イソプレン等)、エチレンおよびアルキル置換エチレン(プロピレン等)が挙げられる。
【0026】
また、本発明において、供給段としては、エネルギー的に有利で効率的であることから、蒸留塔内の液組成が供給液の組成と近いところが選ばれる。このとき、前記供給段よりも上部に位置する充填層に液濡れ性のわるい箇所が生じた場合、この液濡れ性のわるい箇所よりも上部に他の供給位置が設けられる。前記他の供給位置に供給する供給液量は、特に限定されることはなく、液濡れ性と分離性能を考慮して決めればよい。
【0027】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
理論段22段の充填層を備えた蒸留塔を用いて、塔頂圧力50torr、留出率35%、還流比3の条件でアクリル酸の蒸留を行った。原料の供給口は上から3段目と塔頂部の2箇所に設けた。供給液には重合禁止剤としてフェノチアジン(PZ)360ppm、メトキノン(MQ)120ppmおよびジブチルジチオカルバミン酸銅(CBSC)60ppmがそれぞれ含まれていた。
前記供給液は、上から3段目の供給口から1時間に充填塔の断面積1m2当たり1.9m3供給し、塔頂から同様に1.1m3供給した。また、還流液には、フェノチアジン(PZ)100ppm、メトキノン(MQ)33ppmおよびジブチルジチオカルバミン酸銅(CBSC)17ppmを添加し、還流液量は1時間に充填塔の断面積1m2当たり3.2m3とした。
上記条件で蒸留塔の連続運転を行い、定期的に蒸留塔の圧力上昇傾向と、蒸留塔内部の重合物生成状況を調べた。
【0029】
比較例1
蒸留塔の上から3段目に原料の供給口を1箇所設け、供給液を1時間に充填塔の断面積1m2当たり3m3供給した他は、実施例1と同様にして蒸留塔の連続運転を行った。その際、定期的に蒸留塔の圧力上昇傾向と、蒸留塔内部の重合物生成状況を調べた。
【0030】
実施例1および比較例1の連続運転結果を表1に示す。
【表1】
Figure 0004848112
【0031】
実施例1について
連続運転の結果、3ヶ月経過時点において蒸留塔の圧力上昇および重合物の生成は見られず、3ヶ月以上の連続運転が可能であった。
【0032】
比較例1について
連続運転の結果、3週間経過時点において蒸留塔の圧力上昇が見られ、蒸留塔内に多量の重合物が生成していたため、これ以上の連続運転は不可能であった。
【0033】
実施例2
理論段12段の充填層を備えた蒸留塔を用いて、塔頂圧力55torr、留出率50%、還流比1.1の条件でアクリル酸の蒸留を行った。原料の供給口は上から11段目と上から6段目の2箇所に設けた。供給液には重合禁止剤としてフェノチアジン(PZ)500ppm、メトキノン(MQ)167ppmおよびジブチルジチオカルバミン酸銅(CBSC)83ppmがそれぞれ含まれていた。
前記供給液は、上から11段目の供給段から1時間に充填塔の断面積1m2当たり2.52m3供給し、上から6段目の供給段から同様に0.28m3供給した。また、還流液には、フェノチアジン(PZ)200ppm、メトキノン(MQ)50ppmを添加し、還流液量は1時間に充填塔の断面積1m2当たり2.10m3とした。
上記条件で蒸留塔の連続運転を行い、定期的に蒸留塔の圧力上昇傾向と、蒸留塔内部の重合物生成状況を調べた。
【0034】
比較例2
蒸留塔の上から11段目に原料の供給口を設け、供給液を1時間に充填塔の断面積1m2当たり2.4m3供給した他は、実施例2と同様にして充填塔の連続運転を行った。その際、定期的に蒸留塔の圧力上昇傾向と、蒸留塔内部の重合物生成状況を調べた。
【0035】
実施例2および比較例2の連続運転結果を表2に示す。
【表2】
Figure 0004848112
【0036】
実施例2について
連続運転の結果、3ヶ月経過時点において蒸留塔の圧力上昇および重合物の生成は見られず、3ヶ月以上の連続運転が可能であった。
【0037】
比較例2について
連続運転の結果、1.5ヶ月経過時点において蒸留塔の圧力上昇が見られ、蒸留塔内に多量の重合物が生成していたため、これ以上の連続運転は不可能であった。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、蒸留塔内を流下する液量が多くかつ偏流が生じにくいため、蒸留塔内部の充填物の表面の液濡れ性を向上させることができ、また、重合禁止剤が還流液だけでなく供給液にも添加されているので、蒸留塔内を流下する液(供給液と還流液の混合液)に含まれる重合禁止剤濃度を高濃度でかつより均一に維持することができるため、易重合性物質の重合を防止し、蒸留塔の長期連続運転が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蒸留装置を示す概略図である。
【図2】通常の蒸留装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1a 原料供給口
1b 原料供給口

Claims (3)

  1. 内部に充填物を充填した充填層を備える蒸留塔にて易重合性物質を蒸留するに際し、前記蒸留塔から排出された蒸気の凝縮液の一部を還流液として塔頂より塔内へ還流させながら、易重合性物質を含む供給液を供給する供給段とは別に、前記供給液の一部を塔頂に供給することを特徴とする易重合性物質の蒸留方法。
  2. 前記供給液および還流液に重合禁止剤を添加する請求項1に記載の易重合性物質の蒸留方法。
  3. 易重合性物質がビニル化合物である請求項1、2のいずれかに記載の易重合性物質の蒸留方法。
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