JP4846013B2 - 磁気共鳴イメージング装置及びその残留磁場の消磁方法 - Google Patents

磁気共鳴イメージング装置及びその残留磁場の消磁方法 Download PDF

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Description

この発明は、磁気共鳴現象を利用して被検体の断層像やスペクトルを得る磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に関し、特に傾斜磁場の印加によってもたらされた残留磁場の影響をリアルタイムで補正する手段を備えたMRI装置に関する。
MRI装置は、静磁場中に置かれた被検体に高周波磁場を印加し、それによって被検体から発生する核磁気共鳴信号を収集し画像化する装置であり、NMR信号に位置情報を付加するために、静磁場に重畳して傾斜磁場を印加する。傾斜磁場は通常3軸方向の傾斜磁場が用いられ、撮影方法によって、それら傾斜磁場を印加するタイミングや傾斜磁場の波形や印加量が決められている。
一方、MRI装置において静磁場を発生する磁石装置としては、永久磁石や超伝導磁石などが用いられているが、永久磁石を用いたMRI装置では、上述した傾斜磁場の印加によってヒステリシスを伴う残留磁場が発生する。残留磁場は強磁性体物質が示す物理的特性である残留磁化に起因するものであり、傾斜磁場の印加を止めても、その印加履歴に応じた強度、方向の磁場として残っている。このような残留磁場は、傾斜磁場の印加によって構造体に発生する渦電流とともに、撮影空間の磁場を複雑にし画質劣化の原因となる。
残留磁場がMRI装置に与える影響を取り除く技術として、例えば、特許文献1には、撮影シーケンスを実行する前にMRI装置の最大傾斜磁場を準備パルスとして印加し、予め残留磁場を一定にしておく手法が提案されている。この方法は、永久磁石が呈する残留磁場のヒステリシス曲線上で最大領域を走査することにより、残留磁場を一定値に初期化することを目的としている。また特許文献2には、事前に傾斜磁場波形毎の残留磁場を計測し、波形に応じた傾斜磁場の補正量をテーブル化し或いは関数化し、撮影を行う際に、テーブルを参照して波形に応じて補正された磁場を印加する手法が提案されている。
これら手法の実施にあたって残留磁場を計測するためには、既に発生している残留磁場を消去する必要がある。消磁パルスについては、例えば特許文献3に例示されている。
米国特許6043656号公報 特開2000-157509号公報 米国特許6291997号公報
しかし、特許文献1に記載された技術は、準備パルスである最大傾斜磁場と同極性を持つ傾斜磁場の印加については有効であるが、極性が反対である傾斜磁場を印加した時点で残留磁場は初期状態から逸脱してしまう。MRI撮影において傾斜磁場の極性を反転することは必須であり、したがって、この手法の有効性は低い。また撮影シーケンスの繰り返し毎に準備パルスを付加するため、撮影時間が延長するという問題もある。
また特許文献2に記載された技術は次の点で問題がある。まず傾斜磁場の補正テーブル或いは補正用関数は、事前に種々の傾斜磁場波形に対して残留磁場を計測することにより作成されるとしているが、実際の撮影シーケンスを想定した全ての波形に対して計測を行うことは多大の時間と煩雑な作業を伴い、実現性が低い。また、残留磁場は傾斜磁場の印加履歴によって逐次変動するものであるが、特許文献2に記載された技術では印加履歴が考慮されていない。例えば、特許文献2に記載された技術では、補正テーブルを作成するために、消磁パルス印加後にテスト傾斜磁場を印加し残留磁場を計測している。しかし、このとき発生する残留磁場は、あくまで消磁パルスに続いて3発目にテスト傾斜磁場を印加したときに生じるものであり、任意の傾斜磁場波形で生じる残留磁場とは一致しない。即ち補正テーブルの基礎となる残留磁場は、補正すべき傾斜磁場によって生じる残留磁場とは一致しない可能性がある。さらにこの文献では、傾斜磁場を印加した後に補正傾斜磁場を印加しているが、この手法では撮影条件および撮影シーケンスに制約を生じ、且つ撮影時間が延長する。
また消磁パルスについては、特許文献3に、極性が交互に反転し且つ振幅が単調に減少するようなパルス列が提案されているが、ここでは装置の特性を考慮した定量的且つ系統的な検討はなされていない。無作為な消磁パルスを用いると正しく残留磁場を消去できないばかりか、撮影時間が無意味に延長する可能性がある。
そこで本発明は、煩雑で多大な時間がかかる作業を必要とすることなく、また撮影の延長を招くことなく、印加されるすべての傾斜磁場をその時々の残留磁場を用いてリアルタイムで補正することが可能なMRI装置を提供することを目的とする。
また本発明は、磁石の特性に応じて、残留磁場を最小限の時間で消去することが可能な消磁方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者らは、MRI装置で発生する残留磁場を測定するとともに、残留磁場の応答曲線(ヒステリシス)をモデル化し、傾斜磁場の印加履歴によって変化する残留磁場応答曲線の変更アルゴリズムを確立した。このMRI装置では、この応答曲線モデルを用いて、傾斜磁場の印加履歴、印加強度および印加時間をもとに発生する残留磁場を逐次算出し、撮影に用いられる全ての傾斜磁場をリアルタイムで補正する。残留磁場の応答曲線は、傾斜磁場が新たに印加されることにより更新される。
本発明は、モデル化した残留磁場の応答曲線をもとに、効率よく残留磁場を消去することができる消磁パルス列を提供するとともに、このような消磁パルス列の算出を行うとともにこれを傾斜磁場の印加パターンとして備えたMRI装置を提供する。
本発明のMRI装置は、静磁場を発生する磁石装置、前記磁石装置が発生する静磁場中に傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生手段、前記静磁場内に置かれた被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段、前記傾斜磁場発生手段および検出手段を制御する制御手段、および前記磁気共鳴信号を用いて前記被検体の画像を再構成し、表示する信号処理手段を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、磁石装置の残留磁場応答特性を記憶する記憶手段と、残留磁場応答特性をもとに、磁石装置に存在する残留磁場を消去するための消磁パルス列を算出する消磁パルス列算出手段、前記制御手段からの指令に基づき前記消磁パルス列の印加を実行する消磁手段とを備えている。
このMRI装置によれば、磁石装置の残留磁場応答特性をもとに消磁パルス列(強度、極性、パルス数、印加時間)を算出するので、最小限の時間で効率よく残留磁場の消去或いは任意の残留磁場強度までの低減を図ることができる。
本発明によるMRI装置用磁石の消磁方法は、所定の磁場強度の磁場パルスを始まりとし、極性が交互に反転し且つ強度が漸減する複数の磁場パルスを含む消磁パルス列を用いた消磁方法であって、消磁パルス列として、次式(1)で表わされる強度のパルスを用いることを特徴とする。
Figure 0004846013
(式中、Gmaxは磁気共鳴イメージング装置が許容する最大傾斜磁場強度、rは装置固有の特性値でr<1を満たす値、nは1,2,3・・・Nで表わされる整数、Nは消磁パルス列のパルス数を表わす)
本発明によれば、磁石の特性に応じて、残留磁場を最小限の時間で消去することができる。
本発明が適用されるMRI装置の全体概要を示す図 残留磁場補正手段の一実施形態を示す図 MRI装置への残留磁場補正機能の組み込み手順を示す図 磁石装置の消磁パルスおよびテストパルスの例を示す図 消磁後の磁石装置の残留磁場応答曲線モデルを示す図 消磁後にMRI装置が可能な最大傾斜磁場(+Gmax)を印加した後の残留磁場応答曲線 消磁後にMRI装置が可能な最大傾斜磁場(−Gmax)を印加した後の残留磁場応答曲線 傾斜磁場印加による残留磁場応答曲線の変化を説明する図 傾斜磁場印加による残留磁場応答曲線の変化を説明する図 傾斜磁場印加による残留磁場応答曲線の変化を説明する図 傾斜磁場印加による残留磁場応答曲線の変化を説明する図 本発明による残留磁場応答曲線の作成手順を示す図 本発明による残留磁場応答曲線の作成手順を示す図 本発明による残留磁場応答曲線の作成手順を示す図 本発明による残留磁場応答曲線の作成手順を示す図 残留磁場補正手段が保持する較正データの一例を示す図 MRI装置を初期化するための準備パルスの例を示す図 リアルタイムで更新される残留磁場応答曲線を適用して残留磁場補正を行うシーケンスの一実施形態を示す図 本発明によるMRI装置のアップグレードの手順を示す図 本発明の消磁方法の手順を示す図 本発明の消磁パルスによる消磁の原理を説明する図 本発明の消磁パルスによる消磁の原理を説明する図 本発明の消磁方法を適用した場合の残留磁場の振る舞いを示す図
以下、本発明のMRI装置を図面を参照して説明する。
図1は、本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示す図である。このMRI装置は、主として、静磁場発生系1と、傾斜磁場発生系2と、送信系3と、受信系4と、信号処理系5と、制御系(CPU7)とを備えている。
静磁場発生系1は、被検体9の周りの空間に均一な静磁場を発生させるもので、永久磁石方式、常電導方式或いは超電導方式の磁石装置からなる。本発明においては、残留磁場を生じる強磁性体材料を含む磁石装置を備えている。具体的には、強磁性体を用いた永久磁石方式の磁石装置或いは強磁性体の鉄芯或いは磁気回路を用いた常電導方式或いは超電導方式の磁石装置に適用される。静磁場の方向は、通常、被検体の体軸方向或いはそれと直交する方向である。
傾斜磁場発生系2は、静磁場の方向を例えばZ方向とし、それと直交する2方向をX,Yとするとき、これら3軸方向の傾斜磁場を発生する3つの傾斜磁場コイル10と、それらをそれぞれ駆動する傾斜磁場電源11とからなる。傾斜磁場電源11を駆動することにより、X,Y,Zの3軸或いはこれらを合成した方向の傾斜磁場を発生することができる。傾斜磁場は、被検体9から発生するNMR信号に位置情報を付与するために印加される。また図1には示していないが、磁石装置が発生する静磁場の均一性を上げるためにシミング手段が備えられている。シミング手段は、複数のシムコイルとシム電源とからなり、シム電源を駆動し、シムコイルに電流を流すことにより、装置に固有の磁場不均一や外的要因によって生じる磁場不均一を取り除くことができる。
送信系3は、高周波発振器12と、変調器13と、高周波増幅器14と、送信用の高周波コイル15とから成る。高周波発振器12が発生した高周波パルスを変調器13で所定のエンベロープの信号に変調した後、高周波増幅器14で増幅し、高周波コイル15に印加することにより、被検体を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる電磁波(高周波信号)が被検体に照射される。高周波コイル15は、通常、被検体に近接して配置されている。
受信系4は、受信用の高周波コイル16と、増幅器17と、直交位相検波器18と、A/D変換器19とから成る。送信用高周波コイル15から照射された電磁波の応答として被検体が発生したNMR信号は、受信用の高周波コイル16により検出され、増幅器17で増幅された後、直交位相検波器18を介してA/D変換器19によりデジタル量に変換され、二系列の収集データとして信号処理系5に送られる。
信号処理系5は、CPU7と、記憶装置20と、操作部30とから成り、CPU7において受信系4が受信したデジタル信号にフーリエ変換、補正係数計算、画像再構成等の種々の信号処理を行う。記憶装置20は、ROM21、RAM22、光磁気ディスク23、磁気ディスク24等を備え、例えば、経時的な画像解析処理および計測を行うプログラムやその実行において用いる不変のパラメータなどをROM21に、全計測で得た計測パラメータや受信系で検出したエコー信号などをRAM22に、再構成された画像データを光磁気ディスク23や磁気ディスク24にそれぞれ格納する。操作部30は、トラックボール或いはマウス31、キーボード32などの入力手段と、入力に必要なGUIを表示するとともに信号処理系5における処理結果などを表示するディスプレイ33とを備えている。CPU7が行う各種処理や制御に必要な情報は、操作部30を介して入力される。また撮影により得られた画像はディスプレイ33に表示される。
制御系は、CPU7とシーケンサ6とから成り、上述した傾斜磁場発生系2、送信系3、受信系4および信号処理系5の動作を制御する。特に傾斜磁場発生系2および送信系3が発生する傾斜磁場パルスおよび高周波パルスの印加タイミングならびに受信系4によるエコー信号の取得タイミングは、シーケンサ6を介して撮影方法によって決まる所定のパルスシーケンスにより制御される。
また本実施の形態のMRI装置では、傾斜磁場パルスを磁石装置1の残留磁場に応じて補正する傾斜磁場補正手段を備えている。この傾斜磁場補正手段は、制御系の一部として備えてもよいし、傾斜磁場系に付随するものとして備えていてもよい。
図2に、傾斜磁場補正手段の一例を示す。図示する実施形態において、傾斜磁場補正手段は、シーケンサ6と傾斜磁場発生系2およびシミング手段8との間に設けられる残留磁場補正装置25と、後述する装置の初期値である残留磁場応答曲線を較正値として記憶する記憶部26とから成る。残留磁場補正装置25は、シーケンサ6から送られる傾斜磁場パルスの波形、強度を読み取り、その時点の残留磁場応答曲線をもとに、残留磁場の影響をキャンセルする補正をシーケンサ6からの傾斜磁場情報に加え、これを傾斜磁場電源11およびシム電源に渡す。
本実施の形態のMRI装置において、残留磁場補正は、残留磁場応答曲線(以下、RM曲線ともいう)をモデル化したものを基礎にし、与えられる傾斜磁場のRM曲線上の位置を求めることにより、残留磁場を直ちに求めるというものである。こうして求めた残留磁場を補償する補正磁場を、傾斜磁場に重畳して印加する。これと並行して、印加する傾斜磁場強度をもとに残留磁場応答曲線を更新し、次に印加される傾斜磁場の残留磁場補正に備える。
以下、残留磁場補正手段が適用する残留磁場応答曲線と、その更新アルゴリズムについて説明する。
本実施形態において採用する残留磁場応答曲線は、本発明者らが行った測定に基づきモデル化したものであり、次の特徴を備えている。検討の詳細は後述する。
1.全く傾斜磁場履歴のない状態(消磁後)に、傾斜磁場強度をMRI装置で可能な最大幅で変えて残留磁場を測定することにより得られる傾斜磁場強度と残留磁場との関係は、磁石装置固有の残留磁場曲線であり、傾斜磁場強度ゼロ近傍を直線で近似することができる。これを基本の残留磁場応答特性(R1)とする。
2.残留磁場応答曲線は、傾斜磁場履歴によって決まるマイナーループを含む曲線で表現することができる。強磁性体である磁石装置において、マイナーループは、それを決定する傾斜磁場の次に印加される傾斜磁場が同極性で強度が小さいところでは、変動しないプラトーで近似することができ、極性が反転すると磁石装置固有の残留磁場特性(R2)に従い変化する。残留磁場特性(R2)は、磁石装置の消磁後にMRI装置が許容する最大の傾斜磁場を印加した後の残留磁場応答曲線を測定することにより求めることができる。
3.マイナーループは、その両端の値よりも強度の大きい傾斜磁場が印加されたときに更新される。マイナーループのプラトーの範囲の傾斜磁場が印加されたときには、更新されない。
4.マイナーループの両端の値よりも強度の小さい傾斜磁場が印加された場合には、その強度および極性に応じてマイナーループに所定の規則に従った変形が与えられる。
本実施形態のMRI装置では、このような残留磁場応答曲線とその変更アルゴリズムに基づく残留磁場補正を実現するために、まず基本となるRM曲線および残留磁場特性を測定し、これを較正値として保持する。この操作は、変更アルゴリズムを含むプログラムの搭載とともに、MRI装置の出荷前処理として行ってもよいし、既存のMRI装置のアップグレード処理として行ってもよい。以下、その手順を図3(a)、(b)を参照して説明する。
1.基本の残留磁場応答曲線の決定(図3(a))
上述したように基本となるRM曲線は、装置によって固有のものであり、次のような手順で測定することができる。
まず磁石装置が保持する残留磁場を消磁する(ステップ301)。残留磁場の消磁は公知の手法を採用することができ、例えば、消磁パルスを用いることができる。この消磁パルスは、図4(a)に示すように、装置が印加可能な最大強度の傾斜磁場から順次振幅が減衰し且つ極性が交互に反転する一連のパルス列からなる。このような消磁パルスを3方向の傾斜磁場すべてについて印加することにより、装置の強磁性体(例えば永久磁石)が保持する残留磁場を打ち消すことができる。なお、図では一例として8個のパルスからなる消磁パルス列を示しているが、必要に応じて傾斜磁場パルスの個数および印加時間を変更することができる。
このように残留磁場を消磁した後、任意の波形を有するテスト傾斜磁場によって発生した残留磁場を測定する(ステップ302)。テスト傾斜磁場は、例えば、図4(b)、(c)に示すような単一のパルスでも、同図(d)に示すような複数のパルスの組み合わせであってもよい。テスト傾斜磁場によって発生した残留磁場の測定は、例えば、テスラメータを用いて共鳴周波数から算出することができる。或いはMRIファントムをRF励起し、残留磁場の影響が無視できるような強度の傾斜磁場を用いて画像化する。この画像の位相マップはそのまま残留磁場を反映したものとなるので、その位相変化から残留磁場を算出することができる。
このようなテスト傾斜磁場の強度を、印加する傾斜磁場パルスの強度を装置が印加できる傾斜磁場の正の最大強度(+Gmax)から負の最大強度(-Gmax)まで変化させて(ステップ303)、そのときに発生した残留磁場を測定し、傾斜磁場強度とそれによって発生する残留磁場応答との関係を表す曲線、即ちRM曲線を作成する(ステップ304)。
図4(b)および(c)に示すテスト磁場を用いて作成したRM曲線の一例を図5に示す。図中、横軸は傾斜磁場強度、縦軸は残留磁場を表し、黒丸は測定結果である。図中、右下に用いたテスト傾斜磁場501を示す。このRM曲線502は、図示するように、残留磁場を生じる最小の傾斜磁場(Gmin)における残留磁場と最大強度(Gmax)における残留磁場とを結ぶ直線で近似できる。このRM曲線の特性R1(勾配および切片)は、残留磁場補正装置25の記憶部26に格納される。
2.残留磁場特性(図3(b))
上述のように基本のRM曲線を作成した後、磁石装置の残留磁場特性を求める。
磁石装置の残留磁場特性とは、消磁後に印加される1発の傾斜磁場パルスによって生じた基本のRM曲線が受ける変形を特徴付ける装置の因子であり、次のように求めることができる。消磁後(ステップ311)、例えば図6の右下に示すような最大強度(+Gmax)の傾斜磁場601を印加し(ステップ312)、次いで傾斜磁場パルス602を印加した場合に生じる残留磁場を計測する(ステップ313)。ここでも2発目の傾斜磁場パルス602の強度を、装置が許容する正の最大強度(+Gmax)から負の最大強度(-Gmax)まで変化させたときに発生した残留磁場を測定する(ステップ314)。これによって基本RM曲線と同様に、横軸を傾斜磁場強度、縦軸を残留磁場強度とするRM曲線603が得られる(ステップ315)。
このRM曲線は、図6に示すように、1発目の傾斜磁場601と同極性の傾斜磁場602を印加した場合に発生する残留磁場は最大強度の傾斜磁場によって生じる残留磁場と同じである。2発目の傾斜磁場602の極性が、1発目の傾斜磁場601と反転しているところでは、その絶対値が大きくなるにつれ残留磁場は減少し、ある値を超えたところでは基本のRM曲線(R1)に等しくなる。
1発目の傾斜磁場として負の最大強度の傾斜磁場を印加した場合には、これと原点対称な現象となる。すなわち、図7に示すように、消磁後、負の最大強度(-Gmax)の傾斜磁場701を印加した後に、傾斜磁場パルス702を印加した場合のRM曲線703は、2発目の傾斜磁場702の極性が1発目の傾斜磁場701と同じである間は、最大強度の傾斜磁場によって生じる残留磁場と同じであるが、極性が反転すると残留磁場は減少し、ある値を超えたところでは基本のRM曲線(R1)に等しくなる。
ここで2つのRM曲線603および703において、2発目の傾斜磁場による残留磁場の極性が、1発目の傾斜磁場の極性と反転した後の残留磁場の変化は、静磁場発生用の磁石装置の素性に依存し、直線で近似することができる。すなわち、曲線603、703の側壁の勾配R2は装置固有の値であり、これを較正値として上述した残留磁場補正装置25の記憶部26に格納する。
残留磁場応答曲線は、傾斜磁場の強度とそれによって発生する残留磁場の大きさとの関係を示すものであり、残留磁場応答曲線が決まれば、印加する傾斜磁場に応じて残留磁場とそれを補償する補正磁場を算出することができる。しかし、残留磁場応答曲線は、傾斜磁場の印加に伴い、それ自体、逐次変更される。このため本実施形態の残留磁場補正装置25には、印加すべき傾斜磁場の強度および極性を入力とし、上述のようにして求めた基本のRM曲線の特性R1および残留磁場特性R2を用いて残留磁場応答曲線を逐次変更し、残留磁場補正に用いる。残留磁場応答曲線を逐次変更するためのアルゴリズムは、プログラムとして残留磁場補正装置25に搭載されている。
3.残留磁場応答曲線の変更アルゴリズムの設定
以下、残留磁場応答曲線の変更アルゴリズムを作成するために、本発明者らが行った検討結果を図8〜図11を参照して説明する。
まず図8に示すように、消磁後、最大強度(+Gmax)の1/2の強度の傾斜磁場801を印加した後に傾斜磁場パルス802を印加した場合に生じる残留磁場を測定した。この場合にも傾斜磁場パルス802の強度を変化させて残留磁場を測定し、RM曲線803を作成した。この場合、傾斜磁場パルス802が1発目の傾斜磁場801と同極性であってその絶対値が1発目の傾斜磁場801より大きいところでは、基本のRM曲線502と等しくなるが、絶対値が小さいところでは、1発目の傾斜磁場801による残留磁場の影響を受けているため、RM曲線502とは異なる応答曲線になる。すなわち、傾斜磁場パルス802の極性が1発目の傾斜磁場801と同極性であってその絶対値が1発目の傾斜磁場801より小さいところでは、残留磁場は変化しないプラトーが形成され、傾斜磁場802の極性が反転すると、装置固有の傾斜R2で残留磁場が減少し、ある値を超えるとRM曲線502と等しくなる。このように、2発目の傾斜磁場パルス802によってもたらされる残留磁場の応答(RM曲線)は、1発目の傾斜磁場の強度(G1)と装置の残留磁場特性R2に依存するマイナーループ(ML)が形成されたものとなる。このマイナーループをCDML(G1)と定義し、マイナーループの正側の端部をMLPA(G1)、負側の端部をMLNA(G1)と定義する。
なお図示しないが、図8における1発目の傾斜磁場パルス801として負の最大強度の1/2の傾斜磁場パルスを用いた場合には、図8のRM曲線と原点対称な曲線となる。
次に、図9および図10の右下に示すように消磁後に、2発の傾斜磁場パルス901、902を印加した後に傾斜磁場パルス903を印加した場合に生じる残留磁場のRM曲線904、905を求めた。1発目の傾斜磁場パルス901は最大強度の1/2の傾斜磁場パルスを用い、2発目の傾斜磁場パルス902はそれと逆極性の傾斜磁場パルスを用いた。3発目の傾斜磁場パルス903によるRM曲線904は、1発目の傾斜磁場に依存して形成されるRM曲線(図8、803)と比較すると、2発目の傾斜磁場パルス902によって生じている残留磁場変化を含むことになる。そして、その変化の仕方は、2発目の傾斜磁場パルス902の強度(G2)に依存する。
図9に示すRM曲線904は、2発目の傾斜磁場902がMLNA(G1)の絶対値よりも小さい場合(極性を考慮するとMLNA(G1)<G2<0)の結果である。この場合には、2発目の傾斜磁場902の強度(G2)によって決まるCDML(G1)の側壁上の点PとCDML(G1)のプラトー側の端部MLPA(G1)を結ぶ線Lとすると、傾斜磁場強度が点Pからゼロまでは残留磁場は変化せず、極性が反転するとR2に従って変化し、その後Lに従って変化する。つまり2発目の傾斜磁場902が印加されたことにより、その強度に依存して図8のRM曲線803のマイナーループCDML(G1)は変形し、その内側にさらに小さいマイナーループが形成されている。2発目の傾斜磁場902の強度(G2)によって決まるCDML(G1)の側壁上の点PをPOSWと定義する。
図10は、2発目の傾斜磁場パルス902の絶対値がMLNA(G1)よりも大きい場合(極性を考慮するとG2<MLNA(G1)<0)の結果であり、この場合には、3発目の傾斜磁場パルス903による残留磁場は2発目の傾斜磁場パルスの応答曲線とは関係なく、新たな応答曲線905となる。ここでは3発目の傾斜磁場パルス903の極性が2発目の傾斜磁場902と同じで、その絶対値(G3)が2発目の傾斜磁場パルス902の強度(G2)の絶対値より小さいところでは0までは残留磁場は変化しない。そして0を超えると、装置固有の傾斜R2で変化する。この応答曲線905は、強度がG2である1発の傾斜磁場パルスに依存して形成されるマイナーループと同等である。このように応答曲線は更新され、MLNA(G2)、MLPA(G2)によって特徴付けられる新たなマイナーループCDML(G2)が形成される。
さらに3発の傾斜磁場パルス911、912、913を印加した後に印加される傾斜磁場パルス914によって生じる残留磁場の応答曲線915を求めた結果を図11に示す。ここで最初の2発の傾斜磁場パルス911、912は、図9に示す条件(MLNA(G1)<G2<0)を満たし、3発目の傾斜磁場パルス913の強度G3は、0<G3<MLPA(G1)の関係を満たすものとした。この場合、4発目の傾斜磁場パルス914によって生じる残留磁場は、3発目の傾斜磁場パルス913の強度(G3)によって決まるRM曲線904上の点Pからゼロまでは変化せず、極性が反転すると、2発目の傾斜磁場パルス912の強度(G2)によって決まるCDML(G1)上の点POSWまで直線的に変化する。
以上のような検討結果から、傾斜磁場パルスによって生じる残留磁場の残留磁場応答曲線は、印加される傾斜磁場の強度と極性に依存して更新或いは変形され、変形される仕方は装置の特性に依存することがわかる。このような残留磁場応答曲線更新の規則を更新アルゴリズムとして一般化したものを図12〜図16に示す。
まず図12に示すように、n発目の傾斜磁場パルス印加の指令があると、その傾斜磁場パルスの強度G(n)(n=1,2,3・・・)を入力し(ステップ1001)、その時点で最新の残留磁場応答曲線RMC(n-1)において、強度G(n)の位置P(n)を求める(ステップ1002)。この手順における残留磁場応答曲線の初期値は、例えば図5に示すような単一の傾斜磁場パルス印加による残留磁場応答曲線R1或いは図6および図7に示すようなRM曲線である。残留磁場応答曲線R1の場合、傾斜磁場強度0前後の残留磁場が変化しない範囲をMLNAおよびMLPAの初期値とする。
ここでステップ1001で読み込まれたG(n)が0の場合には、残留磁場応答曲線RMC(n-1)を変更することなく、この回のRMC(n)とする(ステップ1003)。またP(n)がRMC(n-1)のプラトー上にある場合にも残留磁場応答曲線RMC(n-1)を変更することなく、この回のRMC(n)とする(ステップ1004)。P(n)がRMC(n-1)のプラトー外にある場合には、図13の手順Bに従う。
手順Bでは、まずP(n)が最新の残留磁場応答曲線RMC(n-1)に存在する支配マイナーループCDML(n-1)の上にあるか否かを判断する(ステップ1005)。すなわちG(n)の絶対値が始点MLNAおよびMLPAのG値の絶対値より大きい場合には、P(n)は支配マイナーループML(n-1)上にはないので、図14の手順Cに進み、支配マイナーループCDMLを更新して新たなRMC(n)を作成する。最新の残留磁場応答曲線RMC(n-1)に支配マイナーループCDMLが存在しない初期の状態では、G(n)の絶対値は始点MLNAおよびMLPAのG値の絶対値より大きくなるので、同様に図14の手順Cに進むことになる。
一方、ステップ1005において、P(n)が支配マイナーループCDML内にあると判断された場合には、さらにP(n)の極性が支配マイナーループCDMLのプラトーと同じ極性か否かを判断する(ステップ1006)。そして、P(n)の極性に応じて異なる作成処理(D又はE)を行う。
図14の手順Cは、新たな支配マイナーループCDML(n)を作成する手順であり、P(n)と同極性側は、P(n)からゼロまでをプラトーとし、ゼロ切片から支配マイナーループCDML (n-1)の側壁と平行に(勾配R2で)引いた直線とR1を結び、これを新しい支配マイナーループCDML(n)とする(ステップ1007、1008)。更新された支配マイナーループCDML(n)とR1を組み合わせてRMC(n)とする(ステップ1009)。支配マイナーループが更新されたことにより、従前のマイナーグループ上で定義されたPOSWをクリアする(ステップ1010)。この処理は、例えば、図5に示す初期値R1から図8に示すようなマイナーループを作成する処理、或いは図8に示す状態から図10に示すようにマイナーループを更新する処理に当たる。
図13のステップ1005において、P(n)の極性が支配マイナーループCDMLのプラトーと逆極性の場合には、図15に示す手順Dに進み、CDML(n-1)プラトーの頂点とP(n)とを結んだ直線をLとし、P(n)と同極性側は、ゼロまで結びプラトーとする(ステップ1011、1012)。ゼロ切片からCDML(n-1)の側壁と平行に(勾配R2で)引いた線とLを結び、これをRMC(n)とする(ステップ1013)。そして、P(n)を新たなPOSWとし、POSWを更新する(ステップ1014)。この処理は、例えば、図8に示す支配マイナーループ内にさらにマイナーループを作成し、図9に示すような状態にする処理に当たる。
また、P(n)の極性が支配マイナーループCDMLのプラトーと同極性の場合には、図15の手順Eに進み、P(n)と同極性側は、ゼロまで結びプラトーとし、ゼロ切片からPOSWを結び、これをRMC(n)とする(ステップ1015、1016)。この処理は、例えば、図9に示す状態から、図11に示すようなRMCを作成する処理に当たる。
以上、説明した一連のステップを行うことにより、傾斜磁場履歴に応じたRM曲線が作成され、更新される。こうして作成されたRM曲線RMC(n)は、n番目の傾斜磁場が印加された後に印加される傾斜磁場に適用され、この(n+1)番目の傾斜磁場の残留磁場を補償する補正磁場の算出に用いられる。例えば、図11に示すRMCを例にすると、傾斜磁場パルス914によって発生する残留磁場は、それ以前の傾斜磁場履歴(例えば、傾斜磁場パルス911、912、913)によって算出されたRMC915を用いて一義的に決定することができ、この残留磁場を補償する補正磁場を傾斜磁場パルス914に重畳して印加することにより残留磁場の影響を排除することができる。
次に、本実施の形態のMRI装置において、上述した残留磁場応答モデルの更新アルゴリズムを用いた傾斜磁場の残留磁場補正を説明する。
前提として、残留磁場補正装置25の記憶部26には磁石装置の残留磁場特性(R1、R2)が格納されている。図16はその一例であり、例えば図中の黒丸で示す数点のみを予め計測しておけばよい。図示する例では、R1、R2それぞれについて正側の特性R1p、R2pと負側の特性R1n、R2nを較正データとして保持している。
撮影に際しては、全ての撮影シーケンスを開始する前に、図17(a)〜(f)に示すような複数のパルス列からなる準備パルスを印加する。これら準備パルスの最後のパルスは、装置が印加できる最大の傾斜磁場強度を有する。このような準備パルスを印加することにより、残留磁場応答曲線は、図6に示すRM曲線603或いは図7に示すRM曲線703のように初期化される。
このように装置の残留磁場の状態を初期化した後、撮影シーケンスを開始する。撮影シーケンスを実行する過程で、傾斜磁場パルスの印加毎に、直前の傾斜磁場履歴を含むRMCを適用して残留磁場補正を行うとともに、上述したRM曲線更新アルゴリズムに従いリアルタイムでRM曲線を作成、更新し、次の傾斜磁場パルスに適用する。
図18は、一連(ここでは4つ)の傾斜磁場パルス印加を含むシーケンスの実行における残留磁場補正の様子を示した図である。図中、(b)はシーケンサからの傾斜磁場印加の命令を表し、(a)は実際に印加される傾斜磁場を表している。また(c)は補正磁場、(d)は参照する残留磁場曲線を示している。まず(n+1)番目の傾斜磁場パルス1801印加の指令があると、それまでの履歴に応じて作成されている最新のRMC(n)と(n+1)番目の傾斜磁場パルスの強度G(n+1)から残留磁場を求める。そしてこの残留磁場を補償する補正磁場1802を、その傾斜磁場パルス1801に重畳して印加する。これと並行して、傾斜磁場パルス1801の印加履歴を含むようにRM曲線が更新される。即ち、図12のステップ1001において傾斜磁場パルスの強度G(n+1)を入力し、それがRMC(n)上で対応する点Pの位置、極性に応じて、手順B〜Eいずれかの処理によりRMC(n+1)が算出される。
傾斜磁場パルス1801の印加が終了した時点では、RMC(n+1)を適用した補正磁場が印加されるとともに、RMCが更新される。図示する例では、傾斜磁場パルス1801の印加終了から次の傾斜磁場パルス1803印加までに印加される傾斜磁場の強度G(n+1)はゼロであるので、図11のステップ1003より、RMC(n+1)は更新されず(RMC(n)=RMC(n+1))、RMC(n)から求めた補正磁場が印加される。次に傾斜磁場パルス1803印加の指令があると、このRMC(n+1)と傾斜磁場パルス1803の強度G(n+2)から、傾斜磁場パルス1803によって生じる残留磁場とそれを補正磁場を求め、傾斜磁場パルス1803に重畳して印加する。以下、同様に、傾斜磁場パルスの立ち上げ、立ち下げの指令の度に、最新のRMCを適用して補正磁場を印加するとともに、そのRMCを更新する。
このように本実施形態では、傾斜磁場パルスの印加時に、その傾斜磁場パルス直前までの傾斜磁場履歴を考慮した残留磁場応答曲線を用いて補正するとともに、その傾斜磁場パルス印加を履歴として含む残留磁場応答曲線に更新していくので、リアルタイムで常に直前の傾斜磁場履歴を反映した残留磁場補正を行うことができる。
なお以上の実施形態では、撮影に先立ってMRI装置が可能な最大の傾斜磁場強度を有する準備パルスを用いて初期化する場合を説明したが、このような準備パルスを用いる代わりに図4(a)に示すような消磁パルスを用いて消磁してから撮影を開始するようにしてもよい。その場合、RMC変更アルゴリズムの初期値は、図5に示すような基本の残留磁場応答曲線となる。
また以上の説明では、傾斜磁場パルスの印加軸については触れていないが、RMCはX、Y、Zの3軸についてそれぞれ算出することが好ましい。さらにX、Y、Z軸以外に派生する成分(例えば、XY軸、Z2軸など)についても、残留磁場の空間依存性としてあらかじめ計測して、残留磁場補正装置25内に保持しておき、シムコイル8を利用して補正することも可能である。
また傾斜磁場の印加時間や印加数によっても、残留磁場は変化するので、これらの特性を予め測定して残留磁場補正装置25内に保持しておき、傾斜磁場の印加時間および印加数に応じて適当なスケールファクターを用いて微調整してもよい。
以上、残留磁場応答曲線を更新しながら傾斜磁場補正を行う機能を備えたMRI装置の実施形態を説明したが、本発明によれば、既存のMRI装置をアップグレードし、これら機能を付加することも可能である。既存のMRI装置が、シーケンサ6と傾斜磁場電源11との間に、図2に示すような残留磁場補正装置25および記憶部26を備えていない場合には、図1の制御系(CPU7)、シーケンサ6および記憶手段20でこれら機能を実現することができる。
図19に、既存のMRI装置のアップグレード手順を示す。まずMRI装置の磁石装置の残留磁場を消磁して初期化した後(ステップ191)、磁石装置の応答特性を計測する(ステップ192)。計測した応答特性を装置固有の較正値として記憶手段(例えば磁気ディスク24)20に保存する(ステップ193)。初期化、応答特性の計測および保存は、図3に示す手順で行うことができる。次いで、図12〜図15に示す残留磁場応答曲線作成アルゴリズムを用いて残留磁場を算出するプログラムをCPU7の記憶手段20にインストールする(ステップ194)。
一般にMRI装置の制御には、入力装置30から入力された撮影パラメータに基き撮影のパルスシーケンスを計算し、管理する機能を有しているので、このパルスシーケンスの計算および制御において、上記プログラムの実行により算出された残留磁場をリアルタイムで読み込む機能を追加する(ステップ195)。実際の撮影に際しては、磁石装置を初期化或いは消磁した後、設定したパルスシーケンスに基く撮影を開始する。これにより制御系は、印加される傾斜磁場に応じて残留磁場応答曲線を更新するとともに、その際存在する残留磁場応答曲線から求めた補正磁場を本来の傾斜磁場に重畳して印加するようにシーケンサ6に指令を送る。こうして残留磁場応答曲線の更新と傾斜磁場の補正が、撮影が終了するまでリアルタイムで行われる。
なお、以上はソフトウェア側のアップグレード方法であるが、図2に示す残留磁場補正装置25を搭載した基板をシーケンサ6と傾斜磁場駆動系との間に組み込むことにより、ハードウェア側でアップグレードすることも可能である(ステップ196)。この場合には、基板上にCPUも搭載し、組み込んだソフトが動作する。
これらの実施形態によれば、既存のMRI装置においても、傾斜磁場の印加によってもたらされる残留磁場の影響をリアルタイムで排除し、良好な画質を実現することができる。
次に本発明の消磁方法及びそれを実行するためのMRI装置について説明する。
装置の構成としては図1或いは図2に示す構成と同様であるが、このMRI装置は、その信号処理系の機能として、以下説明する手順で求められた装置の残留磁場特性に基づき消磁パルスを算出する機能及びその消磁パルスを実行する機能を備えている。消磁パルスの印加による消磁の指令は、操作部30を介して入力することができ、制御系の制御のもとで実行される。このMRI装置においても残留磁場特性は信号処理系の記憶装置或いは傾斜磁場系の記憶部に保存される。
本発明の消磁方法は、図4(a)に示すような、MRI装置の最大強度の正負の傾斜磁場パルス対を始まりとして、極性が交互に反転し且つ振幅が漸減する傾斜磁場パルス列を印加する。ここで傾斜磁場パルスの振幅を、MRI装置固有の磁場特性であるRM曲線(R1)及び残留磁場特性(R2)をもとに決定することが特徴である。
図20に本発明の消磁方法を実施するための手順を示す。まず図4(a)に示すような消磁パルスを用いてMRI装置の残留磁場を消磁する(ステップ2001)。この消磁はMRI装置の残留磁場特性が未知の状態でなされるものであり、仮の消磁である。図4(a)には8発のパルス列が例示されているが、パルスの数及び印加時間はこれに限らず必要に応じて変更することができる。また消磁パルスは、x、y、z全方向に印加する。
次にMRI装置の固有のRM曲線(R1)及び残留磁場特性(R2)を求める(ステップ2002)。このステップ2002は、図3(a)及び(b)に示す手順(302〜304,312〜315)とほぼ同様であり、所定のテスト磁場を印加した後の残留磁場を計測する。残留磁場の計測は、例えばテスラメータを用いて共鳴周波数から算出することができる。或いは適当なMRIファントムを励起して残留磁場の影響が無視できるような強度の傾斜磁場を用いて画像化し、その位相変化から算出してもよい。RM曲線は、図5に示したように、MRI装置のテスト傾斜磁場501を印加した場合の残留磁場を計測するという手順を、テスト傾斜磁場の強度を装置の最大幅の範囲で順次変えながら繰り返すことにより生じた残留磁場をプロットした曲線502である。
次に図6及び図7に示したように、最大強度の傾斜磁場601、701を印加した後、テスト傾斜磁場602、702を印加した場合の残留磁場を計測するという手順を、テスト傾斜磁場の強度を装置の最大幅の範囲で順次変えながら繰り返すことにより残留磁場曲線603、703を得る。残留磁場曲線603、703は原点対称とみなしてよいので、一方のみを求めてもよい。
このように基本となるRM曲線502及び残留磁場曲線603(703)を求めたならば、残留磁場曲線603の側壁部がもとのRM曲線と交わる点の傾斜磁場の強度(G0)の絶対値よりわずかに大きい強度(G0')を設定し、この強度(G0')と最大強度(Gmax)との比(r)を求める。この比(r)を用いて消磁パルスの強度を次式(1)により算出する(ステップ2003)。
Figure 0004846013
式中、nは1,2,3・・・N(パルス数)のいずれかの整数で、消磁パルス列の印加順を示す。
消磁パルス列におけるパルス数Nは、所定の値を装置の仕様値として予め設定していてもよいし、G(n)が予め設定した閾値以下となるときのnをパルス数Nとしてもよい。これにより消磁パルス列が決定される。こうして決定された消磁パルス列をMRI装置の信号処理系5(図1)或いは傾斜磁場発生系2の記憶部26(図2)に保存する。
消磁の実行は、例えば、操作部30を介した撮像開始の指令の入力により自動的に、或いは消磁のみの指令(ステップ2005)を入力することにより開始され、上述の保存された消磁パルス列が印加される(ステップ2004)。
次に式(1)に示す強度条件の消磁パルスにより、効果的に残留磁場を消去できることを説明する。図21に示すように、仮消磁後に、例えば、最大強度の1/2の強度の傾斜磁場2101を印加した後にテスト傾斜磁場2102を最大幅で(即ち、±Gmaxの範囲で順次変化させて)印加した場合の残留磁場を測定すると、その残留磁場曲線は、基本となるRM曲線の上に、MLPA及びMLNAを端部とするマイナーループCDMLが形成されたものとなる。このマイナーループCDMLの端部は、1つ目のパルスの強度によって決まり、その側壁部(逆極性の傾斜磁場によって形成される残留磁場曲線のMLNAまでの部分)は、装置固有の残留磁場特性R2に従う。このマイナーループをCDML(G1)とする。
さらに図22に示すように、2つの傾斜磁場パルス2201、2202を印加した後にテスト傾斜磁場2203を最大幅で(即ち、±Gmaxの範囲で順次変化させて)印加した場合の残留磁場を測定すると、この場合には、マイナーループCDML(G1)を持つ残留磁場曲線(点線)に対して、2つ目の傾斜磁場パルス2202の強度に応じた変更が加えられる。ここで2つ目の傾斜磁場2202の強度G2の絶対値が、端部MLNAにおける傾斜磁場強度の絶対値よりも大きい場合には、図22に実線に示すように、G2で決まる端部MLNA、MLPAを持つ新たなマイナーループCDML(G2)で更新される。一方、2つ目の傾斜磁場強度の絶対値が、MLNAにおける傾斜磁場強度の絶対値よりも大きい場合には、もとのマイナーループCDML(G1)が変形された複雑な形状となる(例えば、図9)。
従って、連続する複数の傾斜磁場パルスを印加するとき、傾斜磁場強度Gnの絶対値を直前に印加された傾斜磁場の強度Gn-1(絶対値)より小さく且つGn-1で決まるマイナーループCDML(Gn-1)の端部の傾斜磁場強度(絶対値)よりも大きい値とすることにより、順次マイナーループCDMLが更新され、且つ端部をゼロに収束させることができる。ここでCDML(Gn)の端部の傾斜磁場強度とGnとの比は、CDMLの傾斜部の傾斜(R2)が装置固有の値であって一定であることから、図6或いは図7の残留磁場曲線における、RM曲線との交点における傾斜磁場強度G0と最大強度(Gmax)との比と同じ値となる。従って、式(1)の「r」として、この比よりもわずかに大きい値を設定することにより(G0よりわずかに大きいG0'とGmaxとの比を取ることにより)、上述のマイナーループを更新しながらゼロに収束させる条件が実現できることになる。原理的には「r」はG0/Gmaxを超える値であって1以下であれば上記条件は実現できるが、できるだけ少ないパルス数で効率よく消磁するためには、できるだけG0/Gmaxに近いことが好ましい。G0を求める際の残留磁場の測定精度や残留曲線近似の誤差を考慮し、それら誤差を許容する範囲で「r」を設定する。
このような連続する消磁パルス列の印加による残留磁場の振る舞い(マイナーループ更新の様子)を図23に示す。図示する例は、式(1)におけるr値として、本発明者らが残留磁場の実測に用いたMRI装置の値0.84を用いた場合を示している。なお、消磁パルスの数は多いほど残留磁場をゼロに近づけることができるが、10数発〜20発程度で実用的なレベルに低下させることができる。既に述べたように、このような消磁パルス数を予め設定しておいてもよいし、操作部30を介した消磁の指令に際し、ユーザーがその所要時間や求められる残留磁場の程度などを考慮して適宜設定するようにしてもよい。また消磁パルスとして用いる傾斜磁場はx、y、zの全方向に印加することが好ましい。
このように本発明の消磁方法によれば、極性が反転し且つ振幅が漸減する傾斜磁場パルス列を用いた消磁方法において、消磁パルスの振幅を装置の残留磁場特性をもとに所定の値に設定することにより、確実に且つ効率よく残留磁場の消去を行うことができる。これにより消磁後に撮影を行う場合には、消磁に要する時間を大幅に短縮し、撮影時間の延長を最小限に抑えることができる。また撮影後に消磁すれば、次の撮影において消磁のための時間を設ける必要はない。その結果、患者を待たせることもなくなる。また患者を撮影していないときに消磁をすませておくこともできる。更に本発明の消磁方法を適宜実施することにより、最大強度の傾斜磁場の使用を増やすことができ、より高分解能かつ高機能の撮影が可能となる。
本発明によれば、磁石の残留磁場特性を考慮して最適な消磁パルス列を決定することにより、最小限の時間で消磁或いは所望の程度の磁場状態とすることができるので、撮影時間の延長を防止すると共に、強度の大きい傾斜磁場の使用頻度を高めることができ、撮影の高分解能化、高機能化が可能である。
1・・・磁石装置、2・・・傾斜磁場発生系、3・・・送信系、4・・・受信系、5・・・信号処理系、6・・・シーケンサ、7・・・CPU(制御系)、8・・・シムコイル、25・・・残留磁場補正装置、26・・・記憶手段

Claims (4)

  1. 静磁場を発生する磁石装置、前記磁石装置が発生する静磁場中に傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生手段、前記静磁場内に置かれた被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する検出手段、前記傾斜磁場発生手段および検出手段を制御する制御手段、および前記磁気共鳴信号を用いて前記被検体の画像を再構成し、表示する信号処理手段を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
    前記磁石装置の残留磁場応答特性を記憶する記憶手段と、前記残留磁場応答特性をもとに、磁石装置に存在する残留磁場を消去するための消磁パルス列を算出する消磁パルス列算出手段、前記制御手段からの指令に基づき前記消磁パルス列の印加を実行する消磁手段とを備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
  2. 請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって
    前記消磁パルス列算出手段が算出する消磁パルス列は、所定の磁場強度の磁場パルスを始まりとし、極性が交互に反転し且つ強度が漸減する複数の磁場パルスを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
  3. 所定の磁場強度の磁場パルスを始まりとし、極性が交互に反転し且つ強度が漸減する複数の磁場パルスを含む消磁パルス列を用いた磁気共鳴イメージング装置用磁石の消磁方法であって、前記消磁パルス列として、次式(1)で表わされる強度のパルスを用いることを特徴とする消磁方法。
    Figure 0004846013
    (式中、Gmaxは磁気共鳴イメージング装置が許容する最大傾斜磁場強度、rは装置固有の特性値でr<1を満たす値、nは1,2,3・・・Nで表わされる整数、Nは消磁パルス列のパルス数を表わす)
  4. 請求項3に記載の消磁方法であって、
    前記特性値rは、装置固有の磁場応答曲線と、最大強度の傾斜磁場Gmax印加後の残留磁場曲線との交点の傾斜磁場強度をG0としたとき、G0/Gmaxにできるだけ近い値に設定されることを特徴とする消磁方法。
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