以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は自動車用の多気筒内燃機関であり、より具体的には並列4気筒の火花点火式内燃機関即ちガソリンエンジンである。但し本発明が適用可能な内燃機関はこのようなものに限られず、多気筒内燃機関であれば気筒数、形式等は特に限定されない。
図示しないが、内燃機関1のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒ごとに配設されており、各吸気弁および各排気弁はカムシャフトによって開閉させられる。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管4を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式のスロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは排気マニフォールド14に接続される。排気マニフォールド14は、その上流部をなす気筒毎の枝管14aと、その下流部をなす排気集合部14bとからなる。排気集合部14bの下流側には排気管6が接続されている。排気ポート、排気マニフォールド14及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒11,19が直列に取り付けられている。上流触媒11の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ、即ち触媒前空燃比センサ17及び触媒後空燃比センサ18が設置されている(以下、それぞれを単に触媒前センサ17及び触媒後センサ18という)。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は、上流触媒11の直前及び直後の位置の排気通路に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。このように上流触媒11の上流側の排気合流部に単一の触媒前センサ17が設置されている。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ16、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2には触媒前センサ17の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ17は、検出した排気空燃比(触媒前空燃比A/Ff)に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキであるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)であり、このストイキを境に空燃比−電圧特性の傾きが変化する。
他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図3には触媒後センサ18の出力特性を示す。図示するように、触媒後センサ18の出力電圧Vrはストイキを境に過渡的に変化し、排気空燃比(触媒後空燃比A/Fr)がストイキよりリーンのときには0.1V程度の低い電圧を示し、排気空燃比がストイキよりリッチのときには0.9V程度の高い電圧を示す。これらのほぼ中間の電圧Vrefr=0.45Vをストイキ相当値とし、センサ出力電圧がVrefrより高いときには排気空燃比はストイキよりリッチ、センサ出力電圧がVrefrより低いときには排気空燃比はストイキよりリーンというように、排気空燃比を検出している。
上流触媒11及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/F=14.6)近傍のときに排気中の有害成分であるNOx ,HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。加えて、上流触媒11及び下流触媒19は、排気中に混入する水素H2も酸化(燃焼)して浄化する。
上流触媒11に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、空燃比制御がECU20により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ17によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるような主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ18によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
一方、本実施形態では、特に車載状態(オンボード;onboard)で、上流触媒11の劣化を診断する装置が具備されている。ここで診断対象となる上流触媒11について詳しく述べる。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。
図4に示すように、触媒11においては、担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で保持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸収放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。例えば、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この結果、放出された酸素によりHCおよびCOといった未燃成分が酸化され、浄化される。逆に、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元浄化される。
このような酸素吸放出作用により、通常の空燃比制御の際に触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比に対し多少ばらついたとしても、NOx、HCおよびCOといった三つの排気ガス成分を同時浄化することができる。よって通常の空燃比制御において、触媒前空燃比A/Ffを敢えて理論空燃比を中心に微小振動させ、酸素の吸放出を繰り返させることにより排ガス浄化を行うことも可能である。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように細かい粒子状の触媒成分32が多数均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率の低下を引き起こし、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の持つ酸素吸蔵能の低下度とは相関関係にある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出することとしている。ここで、触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
本実施形態の触媒劣化診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして触媒11の劣化診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。アクティブ空燃比制御において、混合気の空燃比ひいては触媒前空燃比A/Ffは、所定の中心空燃比であるストイキを境にリッチ側及びリーン側にアクティブに(強制的に)交互に切り替えられる。このアクティブ空燃比制御実行中に触媒11の吸蔵酸素量と放出酸素量とが複数ずつ計測され、その平均値が最終的な酸素吸蔵容量OSCとして求められる。そしてこの酸素吸蔵容量OSCの値が所定の劣化判定値OSCsと比較され、OSC>OSCsなら触媒11は正常、OSC≦OSCsなら触媒11は劣化と診断される。
なお、触媒11の劣化診断は、内燃機関1の定常運転時で且つ触媒11が活性温度域にあるときに実行される。触媒11の温度(触媒床温)の計測については、温度センサを用いて直接検出してもよいが、本実施形態の場合内燃機関の運転状態から推定することとしている。例えばECU20は、エアフローメータ5によって検出される吸入空気量Gaに基づいて、予め設定されたマップ等を利用し、触媒11の温度Tcを推定する。なお、吸入空気量Ga以外のパラメータ、例えばエンジン回転速度Ne(rpm)などを触媒温度推定に用いるパラメータに含めてもよい。アクティブ空燃比制御時には目標空燃比A/Ftをストイキよりリッチ又はリーンな値とする主空燃比制御のみが行われており、補助空燃比制御は行われない。
吸蔵酸素量と放出酸素量との計測について図5を参照しつつ説明する。(A)は目標空燃比A/Ft(破線)と、触媒前センサ17で検出された触媒前空燃比A/Ff(実線)を示す。また(B)は触媒後センサ出力電圧Vrを示す。(C)は触媒11から放出された酸素量即ち放出酸素量OSAaの積算値を示し、(D)は触媒に吸蔵された酸素量即ち吸蔵酸素量OSAbの積算値を示す。
図示するように、アクティブ空燃比制御の実行により、触媒に流入する排気ガスの空燃比は所定のタイミングで強制的にリーン及びリッチに交互に切り替えられる。例えば時刻t1より前では目標空燃比A/Ftがストイキよりリーン(例えば15.1)に設定され、触媒11にはリーンガスが流入されている。このとき触媒11では酸素を吸収し続け、排気中のリーン成分(NOx)を還元して浄化するが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸収した時点でそれ以上酸素を吸収できなくなり、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に反転し、触媒後センサ18の出力がストイキ相当値Vrefrに達する(時刻t1)。この時点で、目標空燃比A/Ftがストイキよりリッチ(例えば14.1)に切り替えられる。
そして今度は触媒11にリッチガスが流入される。このとき触媒11では、それまで吸蔵していた酸素を放出し続け、排気中のリッチ成分(HC,CO)を酸化して浄化するが、やがて触媒11から全ての吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比がリッチ側に変化し、触媒後センサ18の出力がストイキ相当値Vrefrに達する(時刻t2)。この時点で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比に切り替えられる。このようにして、空燃比のリッチ・リーンへの切替えが繰り返し実行される。
(C)に示すように、時刻t1〜t2の放出サイクルでは、極短い所定周期毎の放出酸素量OSAaが順次積算されていく。より詳しくは、触媒前センサ17の出力がストイキ相当値に達した時刻t11から、触媒後センサ18の出力がリーン側に反転した(Vrefrに達した)時刻t2まで、1演算周期毎の放出酸素量dOSA(dOSAa)が次式(1)により計算され、この1演算周期毎の値が周期毎に積算されていく。こうして1放出サイクルで得られた最終的な積算値が、触媒の酸素吸蔵容量に相当する放出酸素量OSAaの計測値となる。
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じると過剰又は不足分の空気量を計算できる。Kは空気に含まれる酸素割合(約0.23)である。
時刻t2〜t3の吸蔵サイクルでも同様に、(D)に示すように、触媒前センサ17の出力がストイキ相当値に達した時刻t21から、触媒後センサ18の出力がリッチ側に反転した(Vrefrに達した)時刻t3まで、1演算周期毎の吸蔵酸素量dOSA(dOSAb)が前式(1)により計算され、この1演算周期毎の値が周期毎に積算されていく。こうして1吸蔵サイクルで得られた最終的な積算値が、触媒の酸素吸蔵容量に相当する吸蔵酸素量OSAbの計測値となる。こうして放出サイクルと吸蔵サイクルを繰り返すことにより、複数ずつの放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとが計測、取得される。
触媒が新品に近いほど、触媒が酸素を放出或いは吸蔵し続けることのできる時間が長くなり、大きな放出酸素量OSAa或いは吸蔵酸素量OSAbの計測値が得られる。また、原理上は、触媒が放出できる酸素量と吸蔵できる酸素量とが等しいので、放出酸素量OSAaの計測値と吸蔵酸素量OSAbの計測値も等しい。
相隣接する一対の放出サイクルと吸蔵サイクルとで計測された放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとの平均値が求められ、これが1吸放出サイクルに係る1単位の酸素吸蔵容量の計測値とされる。そして複数の吸放出サイクルについて複数単位の酸素吸蔵容量計測値が求められ、その平均値が最終的な酸素吸蔵容量の計測値として算出される。なお、より単純に、複数の放出酸素量OSAaの平均値と複数の吸蔵酸素量OSAbの平均値との平均値を最終的な酸素吸蔵容量計測値としてもよい。
次に、この酸素吸蔵容量計測値を用いて触媒の劣化判定がなされる。即ち、酸素吸蔵容量計測値OSCが所定の劣化判定値OSCsと比較され、酸素吸蔵容量計測値OSCが劣化判定値OSCsより大きければ触媒は正常、酸素吸蔵容量計測値OSCが劣化判定値OSCs以下ならば触媒は劣化と判定される。なお、触媒が劣化と判定された場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置を起動させるのが好ましい。
ところで、例えば全気筒のうちの一部の気筒のインジェクタ12が劣化或いは故障するなどして、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生したとする。例えば#1気筒が他の#2、#3及び#4気筒よりも燃料噴射量が多くなり、その空燃比がリッチ側にずれる場合等である。こうした場合、気筒間空燃比ばらつきが無い場合に比べ、より少ない値の酸素吸蔵容量計測値OSCが得られることが本発明者らの研究結果により判明した。
図6に示すように、気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル間(=720°CA)での排気空燃比の変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス割合でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス割合でリッチずれの場合の触媒前空燃比A/Ffの検出値を示す。見られるように、ばらつきの程度が大きくなるほど、ストイキを中心とした空燃比変動の振幅が大きくなる。
ここでインバランス割合(%)とは、気筒間空燃比のばらつき度合いに関するパラメータである。即ち、インバランス割合とは、全気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量即ち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス割合をIB、インバランス気筒の燃料噴射量をQib、バランス気筒の燃料噴射量即ち基準噴射量をQsとすると、IB=(Qib−Qs)/Qsで表される。インバランス割合IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
かかる排気空燃比の変動が生じると、アクティブ空燃比制御時に空燃比をリッチ又はリーンの目標値に制御していても、触媒に供給される実際のガスが微視的に見てリーン・リッチと変動するので、その影響で触媒後センサ18の出力Vrが空燃比ばらつきが無いときより早く反転してしまう。そしてその結果、空燃比ばらつきが無いときに比べ、より少ない値の酸素吸蔵容量OSCが計測されてしまう。こうなる理由は、インバランス気筒から極端にリッチ又はリーンのガスが排出されたとき、特に酸素の放出又は吸蔵終了直前において、触媒の反応速度がそのような極端にリッチ又はリーンのガスに追いつかず、リッチガス又はリーンガスが触媒下流に漏れ出して触媒後センサ出力Vrがより早く反転するからと考えられる。
図7にはインバランス割合(%)と酸素吸蔵容量計測値OSC(g)との関係を示す。図示の結果は正常な触媒についてのものであり、図中の三角及び丸は、インバランス気筒を異なる気筒に設定したときのデータである。見られるように、インバランス割合が0%からずれるほど、即ち空燃比ばらつき度合いが大きくなるほど、酸素吸蔵容量計測値OSCは低下する傾向にある。
そこで本実施形態では、インバランス割合を検出すると共にこの検出値に基づいて酸素吸蔵容量計測値OSCを補正し、この補正された酸素吸蔵容量計測値OSCを劣化判定値OSCsと比較して、触媒11の劣化を判定する。この補正により、空燃比ばらつきに起因した酸素吸蔵容量計測値OSCの低下分を補償し、本来の空燃比ばらつきが無いとした場合の酸素吸蔵容量計測値OSCを得、診断時の誤判定、特に正常な触媒を誤って劣化とする誤判定を未然に防止することができる。
図7の結果によれば、空燃比ばらつき度合いが増大するほど、即ちインバランス割合が0%から離れるほど、酸素吸蔵容量計測値OSCがより低下する。そこで本実施形態では、インバランス割合が0%から離れるにつれ、酸素吸蔵容量計測値OSCをより増大側に補正する。これにより空燃比ばらつき度合いに応じた適切な補正を実行し、空燃比ばらつきに起因した誤判定を一層防止することが可能となる。
[インバランス割合の検出]
ここで、インバランス割合の検出について説明する。
まず、インバランス割合検出の第1の態様について説明する。図6に示したように、気筒間空燃比ばらつきの度合いが大きくなるほど、触媒前空燃比A/Ffの変動の振幅が大きくなる。そこで触媒前センサ17の出力の所定時間当たりの軌跡長又は軌跡面積に基づきインバランス割合が検出される。空燃比センサ出力の所定時間当たりの軌跡長とは、図6に示すように、所定のサンプリング間隔Δ間における触媒前センサ出力の変化量ΔA/Ffを所定時間Δt積算して得られる値である。また空燃比センサ出力の所定時間当たりの軌跡面積とは、所定の基準値(本実施形態ではストイキ)と実際の空燃比センサ出力との差の絶対値ΔA/Ff’をサンプリング間隔Δ毎に所定時間Δt積算して得られる値である。空燃比ばらつき度合いが大きくなるほど、触媒前センサ出力の所定時間当たりの軌跡長又は軌跡面積が大きくなっていく。そこで当該軌跡長又は軌跡面積を計測し、予め定められたマップ又は関数を用いて、インバランス割合の値が求められる。なおここでは触媒前センサ出力として、触媒前センサ出力電圧Vfを空燃比に換算して得られる触媒前空燃比A/Ffの値を用いたが、触媒前センサ17の出力電圧Vf自身を直接用いてもよい。
次に、インバランス割合検出の第2の態様について説明する。この態様では、気筒間空燃比ばらつき度合いが大きくなるほど補助空燃比制御における制御量が、空燃比をよりリッチ側に補正するような増大側の値に更新されていくという特性を利用して、その制御量に基づきインバランス割合の値を検出する。
補助空燃比制御における制御量を取得する際には、ストイキをそれぞれ目標空燃比とする主空燃比制御及び補助空燃比制御が実行される。ここでこれら空燃比制御について説明する。
図8に空燃比制御のメインルーチンを示す。このルーチンはECU20により1エンジンサイクル(=720°クランク角)毎、もしくは所定のサンプリング間隔毎に繰り返し実行される。
まずステップS101では、燃焼室内混合気の空燃比をストイキとするような基本の燃料噴射量即ち基本噴射量Qbが算出される。基本噴射量Qbは例えば、エアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaに基づき、式:Qb=Ga/14.6により算出される。
ステップS102では触媒前センサ17の出力(出力電圧)Vfが取得される。ステップS103では、このセンサ出力Vfとストイキ相当センサ出力Vreff(図2参照)との差、即ち触媒前センサ出力差ΔVf=Vf−Vreffが算出される。
ステップS104では、この触媒前センサ出力差ΔVfに基づき、図9に示したようなマップ(関数でもよい、以下同様)から主空燃比補正量(補正係数)Kfが算出される。触媒前センサ出力差ΔVf及び主空燃比補正量Kfは、主空燃比制御のための制御量をなす。例えばゲインをPfとするとKf=Pf×ΔVfで表される。そしてステップS105では、図10に示すような別ルーチンで設定された補助空燃比補正量Krの値が取得される。最後に、ステップS106にて、各気筒のインジェクタ12から噴射すべき最終的な燃料噴射量即ち最終噴射量Qfnlが式:Qfnl=Kf×Qb+Krにより算出される。
図9のマップによれば、触媒前センサ出力Vfがストイキ相当センサ出力Vreffより大きい(ΔVf>0)ほど、即ち実際の触媒前空燃比がストイキからリーン側に離れるほど、1に対しより大きな補正量Kfが得られ、基本噴射量Qbは増量補正される。反対に、触媒前センサ出力Vfがストイキ相当センサ出力Vreffより小さい(ΔVf<0)ほど、即ち実際の触媒前空燃比がストイキからリッチ側に離れるほど、1に対しより小さな補正量Kfが得られ、基本噴射量Qbは減量補正される。こうして、触媒前センサ17によって検出された触媒前空燃比をストイキに一致させるような主空燃比フィードバック制御が実行される。
ステップS106で得られた最終噴射量Qfnlの値は、全気筒に対し一律に用いられる。即ち、1エンジンサイクルもしくは所定のサンプリング間隔の間、最終噴射量Qfnlに等しい量の燃料が各気筒のインジェクタ12から順次噴射され、次のエンジンサイクルもしくはサンプリング間隔では新たに計算された最終噴射量Qfnlの燃料が各気筒のインジェクタ12から順次噴射される。
なお、周知のように、最終噴射量Qfnlの算出に当たっては他の補正(水温補正、バッテリ電圧補正等)を追加することも可能である。
図10には補助空燃比補正量の設定ルーチンを示す。このルーチンはECU20により所定の演算周期(例えば16ミリ秒)で繰り返し実行される。
まずステップS201では、ECU20に装備されたタイマのカウントが実行され、ステップS202では、触媒後センサ17の出力(出力電圧)Vrが取得される。ステップS203では、このセンサ出力Vrとストイキ相当センサ出力Vrefr(図3参照)との差、即ち触媒後センサ出力差ΔVr=Vrefr−Vrが算出され、この触媒後センサ出力差ΔVrが前回積算値に積算される。図11には触媒後センサ出力差ΔVrとその積算の様子を示す。
ステップS204では、タイマ値が所定値tsを超えたか否かが判断される。所定値tsを超えていなければルーチンが終了される。
タイマ値が所定値tsを超えている場合、ステップS205で、この時点での触媒後センサ出力差積算値ΣΔVrが、触媒後センサ学習値ΔVrgとして更新記憶される。そしてステップS206で、この触媒後センサ学習値ΔVrgに基づき、図12に示したようなマップから、補助空燃比補正量Krが算出され、この補助空燃比補正量Krが更新記憶される。触媒後センサ学習値ΔVrg及び補助空燃比補正量Krは、補助空燃比制御のための制御量をなす。例えばゲインをPrとするとKr=Pr×ΔVrgで表される。最後に、ステップS207にて、触媒後センサ出力差積算値ΣΔVr及びタイマがリセットされる。
触媒後センサ出力差ΔVrを所定時間tsの間積算する理由は、触媒後センサ出力Vrのストイキ相当センサ出力Vrefrに対する時間平均的なズレ量を検知するためである。積算時間を規定する所定値tsは1エンジンサイクル若しくは1サンプリング間隔より遙かに長い時間であり、よって触媒後センサ学習値ΔVrg及び補助空燃比補正量Krの更新は1エンジンサイクル若しくは1サンプリング間隔より遙かに長い周期で行われる。
図12のマップによれば、触媒後センサ出力Vrが時間平均的にストイキ相当センサ出力Vrefrより小さい(ΔVrg>0)ほど、即ち実際の触媒後空燃比がストイキからリーン側に離れるほど、0に対しより大きな補正量Krが得られ、最終噴射量算出の際に基本噴射量Qbは増量補正される。反対に、触媒後センサ出力Vrが時間平均的にストイキ相当センサ出力Vrefrより大きい(ΔVrg<0)ほど、即ち実際の触媒後空燃比がストイキからリッチ側に離れるほど、0に対しより小さな補正量Krが得られ、基本噴射量Qbは減量補正される。こうして、触媒後センサ18によって検出された触媒後空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比フィードバック制御が実行される。触媒前センサ17の劣化等の理由で主空燃比フィードバック制御を実行してもその結果がストイキからズレることがあるので、このズレを補正する目的で、補助空燃比フィードバック制御が実行される。
ところで、インジェクタ等の燃料供給系やエアフローメータ等の空気系に全気筒に影響を及ぼすような異常が発生し、全気筒の空燃比が等しく一律にズレた場合、主空燃比制御によってそのズレを解消できる。例えば、燃料噴射量が全体的にストイキ相当量より+5%ずれている(即ち、全ての気筒において燃料噴射量がストイキ相当量より+5%ずつずれている)と、主空燃比制御におけるフィードバック補正量はその+5%ズレを補正するような値、即ち−5%相当の補正量となり、これにより全気筒の空燃比ズレを解消できる。
一方、燃料供給系や空気系が全体的にずれているのではなく、気筒間にばらつきが発生している場合を考える。図13は、1気筒(#1気筒)のみが他の3気筒(#2〜#4気筒)よりも空燃比リッチ側にずれている場合を示す。例えば、#1気筒のインジェクタに異常が発生し、#1気筒の燃料噴射量がストイキ相当量から大きく20%ずれており、他方、#2〜#4気筒では正常で、燃料噴射量がストイキ相当量であるとする。このときトータルで見れば20%のずれであり(20+0+0+0=20)、これは、全気筒が5%ずつずれているときと同じとなるはずである(5+5+5+5=20)。
しかし、1気筒のみ大きくリッチ側にずれているときの方が、全気筒で少なく均等にリッチ側にずれているときよりも、燃焼室から発生する水素量が多くなる。そしてこの水素量が多くなった分、排気中の酸素濃度が減少することから、触媒前センサ17の出力Vfは、1気筒のみずれているときの方が全気筒均等にずれているときよりもリッチ側にずれることとなる。
図14には、ストイキ相当量を基準噴射量Qsとした場合のある1気筒におけるインバランス割合(%)と、当該1気筒の燃焼室で発生する水素量(g)との関係を示す。図示するように、インバランス割合が増加するほど、発生水素量は二次関数的に増加する。よって1気筒のみリッチ側に20%ずれた場合の方が、全気筒が5%ずつずれた場合よりトータルでの発生水素量が多くなり、触媒前センサ出力Vfはよりリッチ側の値を示すようになる。
トータルとして同等のずれであっても、気筒間に空燃比ばらつきのある場合の方が、全体がずれている場合よりもエミッションが悪化する。例えば後者で、全気筒が5%ずつずれている場合には、例えば主空燃比フィードバック制御で−5%の補正を行えば、全気筒一律に5%ずれを解消することができる。しかし前者で、1気筒のみ20%ずれている場合には、主空燃比フィードバック制御で−5%の補正をしても、#1気筒=15%、#2気筒=−5%、#3気筒=−5%、#4気筒=−5%のずれとなり、トータルではズレが解消しているように見えるが(15+(−5)+(−5)+(−5)=0)、気筒別に見ればズレているのであり、よって気筒単位でエミッションが悪化する。
一方、主空燃比フィードバック制御では、トータルとしての触媒前空燃比を検出してこれをストイキとするよう制御するため、主空燃比フィードバック制御の補正量からは、気筒間空燃比ばらつきが発生していることを検出することができない。つまり気筒間空燃比ばらつきが発生していても、トータルでのズレ量がゼロであれば補正量もゼロとなり、見掛け上はあたかも主空燃比フィードバック制御が問題なく正常に行われているように見えてしまう。
そこで、気筒間空燃比ばらつきがある場合に全体がずれている場合よりも水素量が多くなり、触媒前センサ出力Vfがリッチ側にずれるという特性を利用して、以下のようにしてインバランス割合を検出することとしている。
排気中に水素が含まれている場合、この排気に触媒を作用させることにより、排気中の水素を酸化(燃焼)して浄化することができる。そして、触媒を通過せず水素が浄化されていない排気の空燃比(触媒前空燃比A/Ff)を触媒前センサ17で検出し、触媒を通過し水素が浄化された排気の空燃比(触媒後空燃比A/Fr)を触媒後センサ18で検出する。触媒前センサ17で検出された空燃比は、触媒後センサ18で検出された空燃比よりも、水素の影響でリッチ側にずれる。逆に言えば、触媒後センサ18で検出された空燃比は、触媒前センサ17で検出された空燃比よりも、水素の影響でリーン側にずれる。そこでこのリーン側へのずれ(乖離)状態に基づき、インバランス割合が検出される。
分かり易くいうと、触媒後センサ18で検出された空燃比が真の排気空燃比と言えるものであり、触媒前センサ17で検出された空燃比は、真の排気空燃比に水素分が加わって見掛け上リッチにずれた排気空燃比である。言ってしまえば、触媒前センサ17が騙されているのである。一部気筒の残部気筒に対する空燃比リッチずれ量が多いほど、水素分は二次関数的に多くなる。よって触媒後センサ18の検出空燃比に対する触媒前センサ17の検出空燃比のリッチ側へのズレ量、即ち触媒前センサ17の検出空燃比に対する触媒後センサ18の検出空燃比のリーン側へのズレ量に基づき、インバランス割合を検出できるのである。
図13に示すように、例えば#1気筒のみでインジェクタに異常が発生し、#1気筒の空燃比が他の#2〜#4気筒の空燃比より大きくリッチ側にずれているとする。このとき主空燃比フィードバック制御が実行されているので、全気筒の排ガスが合流した後のトータルの排ガスの空燃比は、図13(A)に示すように、ストイキ近傍に制御されている。即ち、触媒前センサ出力Vfはストイキ相当センサ出力Vreffの近傍となっている。しかしながら、#1気筒の空燃比はストイキより大きくリッチであり、#2〜#4気筒の空燃比はストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキ近傍になっているに過ぎない。しかも#1気筒から水素が多量に発生される結果、触媒前センサ17の出力Vfは、真の空燃比よりもリッチ側にずれた空燃比を誤ってストイキとして表示している。
他方、水素を含む排ガスが触媒11を通過すると、水素が浄化されてその影響が取り除かれる。従って、図13(B)に示すように、触媒後センサ18の出力Vrは、真の空燃比、即ちストイキよりリーンの空燃比を表示することとなる。即ち、触媒後センサ出力Vrはストイキ相当センサ出力Vrefrよりリーン側の低い値となる。
別の見方をすると、例えば全体で25という触媒前空燃比検出値のリッチズレを補正するため、主空燃比フィードバック制御で−25のリーン補正を行い、触媒前空燃比検出値のリッチズレを0とする。しかし、25のうちの5は純粋な空燃比ずれではなく水素の影響によるもので、主空燃比フィードバック制御は5だけリーン側に補正しすぎである。よって触媒後空燃比はリーンに5だけずれる結果となる。
よって、主空燃比フィードバック制御により触媒前空燃比がストイキに制御されているにも拘わらず、触媒後センサ18からは、ストイキよりリーンの触媒後空燃比が継続的に検出されるようになる(即ち、触媒後センサ出力がリーンに張り付く)。
なお、触媒後センサ18がストイキよりリーンの排気空燃比を検出すると、補助空燃比フィードバック制御によるリッチ補正がなされ、燃料噴射量が全気筒一律に増量される。すると触媒前空燃比検出値のリッチずれはさらに大きくなり、触媒後空燃比はリーンに維持される。こうしてやがては、ばらつきの程度に見合った主空燃比補正量及び補助空燃比補正量に収束していく。
ところで、図10〜図12を用いて説明したように、補助空燃比フィードバック制御においては、所定時間毎に(即ち所定の更新速度で)、触媒後センサ学習値ΔVrgと補助空燃比補正量Krとが学習ないし更新される。ここで一部気筒のインジェクタの故障等により気筒間空燃比ばらつきが発生すると、触媒後センサ出力Vrが継続的にリーンな値となるので、触媒後センサ学習値ΔVrg及び補助空燃比補正量Krは、大きなリーンずれをストイキに戻すような大きな正の値となる。
これを示すのが図15である。図15は、インバランス割合と触媒後センサ学習値ΔVrgとの関係を調べた試験結果である。インバランス割合はリッチずれのときが正、リーンずれのときが負である。図示するように、インバランス割合がリッチずれ方向に大きくなるほど、触媒後センサ学習値ΔVrgはより大きな値、即ち空燃比をよりリッチ側に補正するような値となる。なお、インバランス割合がリーンずれ方向に大きくなるときにも同様の傾向が見られる。
そこで、触媒後センサ学習値ΔVrgがばらつきの程度に見合った一定値に収束した後の触媒後センサ学習値ΔVrgの値を取得し、この値と、図15に類似の予め定められたマップから、インバランス割合の値が求められる。
なお、代替的に、触媒後センサ学習値ΔVrgに基づいて算出される補助空燃比補正量Krに基づいてインバランス割合の値を求めてもよい。
このインバランス割合検出方法によれば、触媒前後の空燃比センサに高い応答性が要求されず、高速のデータサンプルや処理能力の高いECUも不要である。また外乱に強く、ロバスト性が高く、機関運転条件やセンサ設置位置にも制約がない。従って非常に実用的であり、高精度な検出が可能である。
次にインバランス割合検出の第3の態様について説明する。図5を用いて説明したように、原理的には、触媒における吸蔵可能な酸素量と放出可能な酸素量とは等しく、従ってアクティブ空燃比制御の実行に伴って計測される放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとは等しいはずである。つまり両者は対称の関係にある。ところが、気筒間空燃比ばらつきが発生すると、この対称関係が崩れ、両者は非対称となる。即ち、触媒前センサ17の出力は水素の影響で真の値よりリッチ側にずれた値である。このため触媒に実際に与えられている排気ガスの空燃比は、触媒前センサ17で検出される見掛け上の空燃比より若干リーンである。よって、放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとの計測値は等しくならず、前者は後者より大きくなる。
よってこのことを利用してインバランス割合の検出を行う。即ち、放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとをそれぞれ計測すると共に、これら計測値の比R=OSAa/OSAbを算出し、この比Rと、予め定められたマップから、インバランス割合の値が求められる。比Rが大きくなるほどインバランス割合も大きくなる。なお、比Rの代わりに両者の差(OSAa−OSAb)を用いてもよいし、複数の放出酸素量OSAaの平均値と複数の吸蔵酸素量OSAbの平均値とに基づいてこれら比又は差を算出してもよい。
上記第1〜第3の態様のほか、代替的に、触媒上流側の排気ガス中の水素濃度を水素濃度センサにより検出してその検出値に基づいてインバランス割合を検出しても良い。気筒間空燃比ばらつきが発生すると排気中水素濃度が急増し、インバランス割合と排気中水素濃度との間に相関関係が見られるからである。
[触媒劣化診断]
次に、図16を参照しつつ、ECU20によりなされる触媒劣化診断処理について説明する。
まずステップS301では、診断を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は、例えば、エンジンの暖機が終了しており、触媒前後のセンサ17,18が活性化しており、且つ上下流の触媒11,19が活性化しているときに成立となる。エンジン暖機終了の条件は例えば検出水温が所定値(例えば75℃)以上となっていることである。触媒前後センサ活性化の条件は、ECU20により検出される両センサのインピーダンスがそれぞれ所定の活性温度相当の値になっていることである。上下流触媒活性化の条件は、両触媒の推定触媒温度が所定の活性温度になったことである。
前提条件が成立していない場合には、前提条件が成立するまで待機状態となる。他方、前提条件が成立した場合、ステップS302において酸素吸蔵容量OSCが計測される。この酸素吸蔵容量OSCの計測は、前記前提条件の成立に加え、エンジンが定常運転状態になっているときに実行される。例えば、検出された吸入空気量Gaと機関回転速度Neとの変動幅が所定範囲内にあるとき、エンジンが定常運転状態になっていると判断される。
次いでステップS303では、上述の第1〜第3の態様のいずれかに従って、インバランス割合IBの値が検出、取得される。ここで第3の態様に従う場合、ステップS302で既に計測された放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbの値を流用することが可能である。例えば複数の放出酸素量の平均値OSAa’と、複数の吸蔵酸素量の平均値OSAb’との比R=OSAa’/OSAb’に基づいて、インバランス割合IBの値を求めることができる。
次いで、ステップS304に進み、検出されたインバランス割合IBの値に対応した酸素吸蔵容量補正係数(以下OSC補正係数という)K1の値が、図17に示したような所定のマップから算出、取得される。このOSC補正係数K1は、酸素吸蔵容量計測値OSCを補正すべく、酸素吸蔵容量計測値OSCに乗じられる補正値である。図17に示すように、インバランス割合が0(%)のときはOSC補正係数K1が1で、実質的に補正は行われない。しかし、インバランス割合が0(%)からプラス側或いはマイナス側に離れるほど、OSC補正係数K1は1よりも増加していき、結果的に酸素吸蔵容量計測値OSCはより増大側に補正される。OSC補正係数K1は、酸素吸蔵容量計測値OSCを、空燃比ばらつきが無い(即ちインバランス割合が0(%))のときの値にするように予め設定されている。これにより補正後の酸素吸蔵容量計測値OSCに気筒間空燃比ばらつきの影響が加味されるようになり、また、実際の空燃比ばらつき度合いに応じた酸素吸蔵容量計測値OSCの低下分を適切に補償することが可能となる。
次いでステップS305において、酸素吸蔵容量計測値OSCにOSC補正係数K1が乗じられて酸素吸蔵容量計測値OSCが補正され、即ち補正後の酸素吸蔵容量計測値OSC’=K1・OSCが算出される。
次いでステップS306では、補正後の酸素吸蔵容量計測値OSC’が所定の劣化判定値OSCsと比較される。補正後の酸素吸蔵容量計測値OSC’が劣化判定値OSCsより大きい場合、ステップS307において上流触媒11は正常と判定される。他方、補正後の酸素吸蔵容量計測値OSC’が劣化判定値OSCs以下の場合、ステップS308において上流触媒11は劣化と判定される。以上で診断処理が終了する。
[他の実施形態]
次に、他の実施形態について説明する。以下、前記実施形態との相違点を中心に説明を行う。
前記実施形態では、空燃比ばらつき度合いに応じた酸素吸蔵容量計測値OSCの低下分を補償するよう、酸素吸蔵容量計測値OSCを増大側に補正した。これに対し、当該他の実施形態では、空燃比ばらつき度合いに応じた酸素吸蔵容量計測値OSCの低下分だけ、劣化判定値OSCsを減少側に補正する。これによっても、空燃比ばらつきにより低下した酸素吸蔵容量計測値OSCが誤って劣化判定値OSCs以下となるのを防止でき、診断時の誤判定、特に正常な触媒を誤って劣化とする誤判定を未然に防止することができる。
以下、図18を参照しつつ、ECU20によりなされる触媒劣化診断処理の別の例について説明する。
ステップS401〜S403は前記ステップS301〜S303と同様である。次のステップS404では、検出されたインバランス割合IBの値に対応した劣化判定値補正係数K2の値が、図19に示したような所定のマップから算出、取得される。この補正係数K2は、劣化判定値OSCsを補正すべく、劣化判定値OSCsに乗じられる補正値である。図19に示すように、インバランス割合が0(%)のときは補正係数K2が1で、実質的に補正は行われない。しかし、インバランス割合が0(%)からプラス側或いはマイナス側に離れるほど、補正係数K2は1よりも減少していき、結果的に劣化判定値OSCsはより減少側に補正される。劣化判定値補正係数K2は、空燃比ばらつき度合い(即ちインバランス割合の0(%)からのズレ量)に応じた酸素吸蔵容量計測値OSCの低下分だけ、劣化判定値OSCsを減少するような値に予め設定されている。これにより補正後の劣化判定値OSCsに気筒間空燃比ばらつきの影響が加味されるようになる。
次いでステップS405において、劣化判定値OSCsに補正係数K2が乗じられて劣化判定値OSCsが補正され、即ち補正後の劣化判定値OSCs’=K2・OSCsが算出される。
次いでステップS406では、酸素吸蔵容量計測値OSCが補正後の劣化判定値OSCs’と比較される。酸素吸蔵容量計測値OSCが補正後の劣化判定値OSCs’より大きい場合、ステップS407において上流触媒11は正常と判定される。他方、酸素吸蔵容量計測値OSCが補正後の劣化判定値OSCs’以下の場合、ステップS408において上流触媒11は劣化と判定される。以上で診断処理が終了する。
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、上述の内燃機関は吸気ポート(吸気通路)噴射式であったが、直噴式エンジンや両噴射方式を兼ね備えたデュアル噴射式エンジンにも、本発明は適用可能である。前記実施形態では触媒前に広域空燃比センサを用い、触媒後にO2センサを用いたが、例えば触媒後に広域空燃比センサを用いたり、触媒前にO2センサを用いてもよい。これら広域空燃比センサ及びO2センサを含め、広く、排気の空燃比を検出するためのセンサを空燃比センサというものとする。インバランスパラメータは前記インバランス割合以外のパラメータであってもよい。前記実施形態では酸素吸蔵容量計測値OSC又は劣化判定値OSCsに補正係数を乗じてそれらを補正したが、それらに補正値を加算或いは減算することによりそれらを補正しても良い。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。