発明の背景
発明の分野
本発明は、光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法に用いられる、センサセルおよび測定装置に関する。
背景技術
生体試料中のDNAを解析する遺伝子診断法が、各種病気の新たな予防および診断法として、有望視されている。このようなDNA解析を簡便かつ正確に行う技術として、以下のものが提案されている。
被検体DNAを、これと相補的な塩基配列を有し、かつ蛍光物質を標識されたDNAプローブとハイブリダイズさせ、その際の蛍光シグナルを検出する、DNAの分析方法が知られている(例えば、特許文献1(特開平7−107999号公報)および特許文献2(特開平11−315095号公報)参照)。この方法にあっては、ハイブリダイゼーションによる二本鎖DNAの形成を色素の蛍光により検出する。
また、一本鎖に変性された遺伝子サンプルを、これに相補性を有する一本鎖の核酸プローブとハイブリダイゼーションさせた後、インターカレータ等の二本鎖認識体を添加して電気化学的に検出する方法が知られている(例えば、特許文献3(特許公報第2573443号)および非特許文献1(表面科学Vol. 24, No. 11. Pp. 671-676, 2003)参照)。この方法に使用されるセルは、セル容器に試料溶液を注入した後に電極を浸漬させる等のセンサセルの構築が行われるため、構築されたセンサセル内を電解液が流れる、いわゆるフローセル構造を有するものではない。
ところで、増感色素を用いて光から電気エネルギーを発生させる太陽電池が知られている(例えば、特許文献4(特開平1−220380号公報)参照)。この太陽電池は、多結晶の金属酸化物半導体を有し、かつその表面積に広範囲にわたり増感色素の層が形成されてなるものである。しかしながら、このような電極を生物化学的な分析に応用しようとする試みは未だなされていない。
特開平7−107999号公報
特開平11−315095号公報
特許公報第2573443号
特開平1−220380号公報
表面科学Vol. 24, No. 11. Pp. 671-676, 2003
発明の概要
本発明者らは、被検物質とプローブ物質との直接または間接的な特異的結合を介して作用電極に増感色素を固定させ、この増感色素を光励起させて発生する光電流を検出することにより、被検物質を高感度で簡便かつ正確に検出および定量出来るとの知見を得ている。そして、本発明者らは、今般、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるセンサセルとして、電解液等が流れるための流路を設けたセルを使用することにより、上記方法による被検物質の測定精度をさらに向上でき、なおかつ洗浄等の各種処理を簡単に行えるとの知見を得た。
したがって、本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる、高い測定精度を有し、かつ洗浄等の各種処理を簡便に行えるセンサセルおよび測定装置を提供することをその目的としている。
そして、本発明による、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるセンサセルは、
導電性基材と、その上に設けられた、前記増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層とを備えてなる作用電極と、
前記作用電極と対向して設けられる対電極と、
前記作用電極および対電極と組み合わせられることにより流路を構成するセル基材と、
前記作用電極、前記対電極、および前記セル基材の少なくともいずれか一つに形成される、前記流路に連通する供給口と、
前記作用電極、前記対電極、および前記セル基材の少なくともいずれか一つの、前記供給口と異なる位置に形成される、前記流路に連通する排出口と
を備えてなり、前記電子受容層および前記対電極が前記流路に露出してなるものである。
また、本発明による、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置は、
上記センサセルと、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と
前記流路内への液の供給および停止を制御する送液手段と
を備えたものである。
発明の具体的説明
センサセル
本発明によるセンサセルは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものである。図1および2に本発明のセンサセルの一例を示す。図1および2に示されるように、本発明のセンサセル1は、セル基材2と、作用電極3と、対電極4とを備えてなる。本発明においてセル基材とは、作用電極および対電極と組み合わせられることにより流路を構成する部材であれば限定されず、流路を構成するための溝または開口部を備えた部材であることができる。ここで、流路とは、電解液等の液を流し、かつ収容するための空間である。本発明に用いる作用電極は、導電性基材と、その上に設けられた電子受容層とを備えた電極であり、電子受容層側が流路に露出するように配置される。また、この作用電極は、光励起のための光を容易に電子受容層に照射できるように透光性を有しているのが好ましい。この作用電極は、そして、作用電極および対電極は互いに対向して、なおかつ、セル基材との組み合わせにより流路を形成するように設けられる。すなわち、図2に示されるように、流路2aは、セル基材2、作用電極3、および対電極4によって区画されてなる。上記構成によれば、作用電極の電子受容層および対電極が互いに対向された状態で流路内に露出するので、流路内が電解液で満たされることによりこの組立物は光電流測定用のセンサセルとして機能することができる。
そして、作用電極、対電極、およびセル基材の少なくともいずれか一つには、流路に連通する供給口および排出口とがそれぞれ形成されることにより、流路内に電解液等の各種処理液を流すことができるようにされてなる。すなわち、図2に示されるように、電解液等の液が供給口2bからセンサセル内に供給され、流路2aを流れた後、排出口2cから排出されることができる。したがって、本発明のセンサセルによれば、作用電極および対電極を備えたセンサセルを構築した後に、電気化学的測定のための電解液を流路に流し込むことができる。これにより、セル容器に電解液を注入した後に電極等の配置が行なわれる従来型のセンサセルにおいて起こりがちな、セル構築時における電解液の漏れを効果的に防止することが出来る。特に上記従来型のセンサセルにあっては、所定量の電解液を充填させたセル容器に電極を浸漬し、あるいは電極で電解液を挟持させなければならないため、電解液がこぼれたり、漏れたりする可能性がある。このような電解液の損失があると、測定毎にセンサセル内の電解液の量にばらつきが生じてしまい、測定精度を低下しかねない。これに対し、本発明のセンサセルによれば、セル内に電解液を隙間無く充填させ、かつ、セル内に充填された電解液の漏れを効果的に防止出来るので、セル内の電解液量を高い精度で一定に保つことができる。その結果、測定精度を向上させることが出来るものと考えられる。
さらに、本発明のセンサセルによれば、流路には電解液のみならず、センサセルに使用可能な各種処理液を流すことができる。例えば、被検物質を含む試料液、または試薬を含む試薬溶液を流路に流すことができる。また、測定後には洗浄液を流路に流すことができる。したがって、本発明のセンサセルによれば、サンプルの交換に伴う電解液の交換、被検物質を含む試料液の供給、試薬溶液の供給、洗浄液にセル内(特に作用電極)よる洗浄等の各種処理を、処理液を系内に流すだけという極めて簡単な手法により行うことが出来る。すなわち、測定に使用する試料液あるいは試薬溶液の電極への送液を自動的に行うことができるので、溶液と電極の接触時間の制御を容易に行うことができ、各測定間のバラツキを低減して測定精度を向上できる。
本発明の好ましい態様によれば、センサセルはフローセルとするのが好ましい。フローセルの採用により、容積を小さくすればするほど液交換が容易になり、溶液間の不要な混合を低減することができる。本発明のより好ましい態様によれば、異なる溶液に交換する際にはエアセグメントを入れて異なる溶液間の混合を防止するのが好ましい。このエアセグメントの導入は、空気を採り入れる分岐管を送液手段に設ける等、バルブ機構を適宜工夫することにより行うことができる。
本発明の好ましい態様によれば、図1および2に示されるように、セル基材2が、流路を構成するための溝2a、流路に連通する供給口2bおよび排出口2cを備えた基板であり、溝2aの底部に対電極4が配置されるとともに、溝2aが作用電極3で覆われてなるのが好ましい。すなわち、溝2aが作用電極3で覆われることにより形成される空間が流路となる。これら供給口2bおよび排出口2cを介して電解液等の液を流路内に効率的に供給しかつ排出させることができる。
本発明の好ましい態様によれば、センサセルの最上部に、作用電極、対電極、および/またはセル基材に互いに密着させるように下方に押さえる押さえ部材を設けるのが好ましい。図1および2に示されるセンサセル1にあっては、作用電極3上に作用電極3をセル基材2に密着させるための押さえ部材5が載置されている。この押さえ部材を用いることにより、セルの各構成部材を押さえつけて密着させることができるので、電解液等の液の漏れを効果的に防止することができる。また、押さえ部材を設けることによって、作用電極を容易に着脱できるので、操作性やメンテナンス性に優れた装置を提供できる。
本発明の好ましい態様によれば、図1および2に示されるように、押さえ部材5が、光励起のための光を通すための開口部5aをさらに備えてなるのが好ましい。また、開口部に代えて、透光性を有する部材からなる透光部を備えるものであってもよい。本発明の好ましい態様によれば、開口部または透光部を複数個設けて、複数スポットの被検物質をスポット毎に個別に光照射できるようにしてもよく、この場合、他のスポットへの光の漏洩を防ぐために、押さえ部材は開口部および透光部を除いて遮光性を有するのが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、図1および2に示されるように、押さえ部材5の開口部5aまたは透光部の外側に光源6をさらに備えることができる。本発明に用いる光源としては、標識色素を光励起できる波長の光を照射できるものであれば限定されず、好ましい例としては、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光を用いることができ、より好ましくは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、太陽光等を挙げることができる。また、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルターを用いて特定波長領域の光のみを照射してもよい。本発明に用いる光源としては、光源位置が固定されたもののみならず、光源位置が作用電極の面に対して平行に移動可能なものも包含される。
本発明の好ましい態様によれば、作用電極と対電極との間隔が3〜3000μmであるのが好ましく、より好ましくは5〜2000μmであり、さらに好ましくは10〜1000μmである。電極間の距離は酸化還元のサイクルを効率良く行わせるためには短い方が好ましいが、工作的な精度を確保するためには上記範囲内とすることが望ましい。また、いわゆるMEMS 的な製造方法を利用するのであれば、より近接した電極間距離とすることも可能である。
本発明の好ましい態様によれば、リード線3aが作用電極3に電気的に接続され、作用電極外に延出されるとともに、リード線4aが対電極4に電気的に接続され、対電極4外に延出されることにより、電気的な接続を容易に確保出来るように構成されることができる。
溝を備えたセル基材を使用したセンサセルの他の一例を図3に示す。図3に示されるセンサセル101は、流路を構成するための溝を備えたセル基材を用いる点で図1および2に示されるセンサセルと同様であるが、溝の底部には作用電極が配置される。具体的には、セル基材102は、流路を構成するための溝102a、流路に連通する供給口102bおよび排出口102cを備えた基板であり、溝102aの底部に作用電極103が配置されるとともに、溝102aが対電極104で覆われてなる。したがって、溝102aが対電極104で覆われることにより形成される空間が流路となる。これら供給口102bおよび排出口102cを介して電解液等の液を流路内に効率的に供給しかつ排出させることができる。この態様のセンサセルによれば、作用電極およびセル基材を一体化させた状態で、サンプル交換等の取り扱いが可能となる。この態様にあっては、作用電極に光励起のための光が照射される必要があるので、セル基材は透光性を有する。
また、セル基材102上には押さえ部材105が載置されており、これにより、セル基材102および対電極104が互いに密着させるように下方に押さえられている。押さえ部材105は、セル基材の供給口102bおよび排出口102cに対応する位置に送液手段108を備えるとともに、作用電極103に対応する位置に光源106を備えてなる。さらに、リード線103aが作用電極103に電気的に接続され、押さえ部材105内を経由して作用電極外に延出されるとともに、リード線104aが対電極104に電気的に接続され、対電極104外に延出されることにより、電気的な接続が確保されている。
溝内に作用電極を備えたセル基材を使用したセンサセルの他の一例を図4に示す。図4に示されるセンサセル201は、溝202aの底に作用電極203が配置されたセル基材202を用いる点で図3に示されるセンサセルと同様であるが、セル基材202および作用電極203の下方に光源206および送液手段208が配置されるとともに、セル基材202および作用電極203の上方に対電極204および押さえ部材205が配置されている。すなわち、光源は、透光性を有する透光性を有するセル基材の外側下方に配置される。このように光源を下方に配置することにより、光源およびそれを制御する機構の重量および大きさの制約が緩和されるので、光源の設計の自由度が高まる。したがって、この態様は、縦横方向に移動させる移動型光源等、複雑な制御を要する光源の使用に適する。
本発明の別の好ましい態様によるセンサセルを図5および6に示す。図5および6に示されるセンサセル11にあっては、セル基材12として、流路を構成するための開口部12aを備えたスペーサを用い、スペーサ12が作用電極13と対電極14との間に挟持されてなる。すなわち、スペーサの開口部12aが作用電極13および対電極14で挟まれて形成される空間が流路となる。本発明に用いるスペーサは、作用電極と対電極との間隔を規定することができる、絶縁性を有する部材であれば限定されないが、効果的に液漏れを防止出来る点でパッキンを用いるのが好ましい。パッキンを構成する好ましい材料としては、シリコーンゴムシート、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、水素化ニトリルゴム、多硫化ゴム、およびポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、図5および6に示されるように、対電極14を裏面から支持する支持基材17をさらに設けることにより、対電極の強度を補強するのが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、図5および6に示されるように、支持基材17および対電極14が、流路に連通する供給口17a,14aおよび排出口17b,14bを備えてなるのが好ましい。これら供給口および排出口を介して電解液等の液を流路内に効率的に供給しかつ排出させることができる。
本発明の好ましい態様によれば、図5および6に示されるセンサセル21にあっては、作用電極13上に、セル基材12、作用電極13、対電極14、および支持基材17を互いに密着させるように下方に押さえる押さえ部材15が載置されている。この押さえ部材を用いることにより、セルの各構成部材を押さえつけて密着させることができるので、電解液等の液の漏れを効果的に防止することができる。また、作用電極および光源を押さえ部材の側に設けることにより、作用電極を容易に着脱できるので、操作性やメンテナンス性を向上できる。また、押さえ部材15は、光励起のための光を通すための開口部15aをさらに備えてなる。また、開口部に代えて、透光性を有する部材からなる透光部を備えるものであってもよい。
本発明の好ましい態様によれば、図5および6に示されるように、押さえ部材15の開口部上方15aに光源16をさらに備えるものであることができる。本発明に用いる光源については、既に述べた通りである。
本発明の好ましい態様によれば、押さえ部材が、ねじ、バネ、および磁石からなる群から選択される少なくとも1種の固定手段をさらに備えてなり、固定手段を介して押さえ部材、作用電極、対電極、セル基材、および/または支持基材に着脱可能に固定されてなるのが好ましい。この結合手段を用いることにより、セルの各構成部材をより強力に密着させることができるので、電解液の漏れをより一層効果的に防止することができる。しかも、上記結合手段は容易に取り外し可能なものであるため、サンプル交換およびメンテナンスも容易に行うことができる。
本発明のさらに別の好ましい態様によるセンサセルを図7および8に示す。図7および8に示されるセンサセル111にあっては、押さえ部材として遮光性押さえ部材115を用い、作用電極113の電気的接続を確保するためのコンタクトプローブ119を支持基材117に設け、対電極114を支持基材117に固定するための固定手段120,121、さらには光源として移動型光源116が用いたこと以外は、図5および6に示されるセンサセルと同様の構成を基本的に有する。
図7および8に示される遮光性押さえ部材115は、開口部115aを複数個有し、かつ開口部を除いて遮光性を有する部材であり、遮光性を有する公知の材料を用いて作製することができる。これにより、一つの開口部115aに光源116により光を照射した際に、他の開口部115aへの光の漏洩による照射対象以外の被検物質に起因する光電流の発生を有効に防止して、複数スポットの被検物質について正確に個別測定を行うことができる。つまり、複数の開口部115aに対応する作用電極上の位置に電子受容層および/または被検物質113aをスポット状に複数形成しておくことにより、一つのスポットのみを、他のスポットに影響を及ぼすことなく個別かつ正確に光照射し、その結果、スポット毎の正確な測定を行うことができる。
図7に示されるコンタクトプローブ119は、支持基材117の表面の対電極114と離れた位置に露出または突出して、作用電極113と電気的に接続可能に設けられ、支持基材117外に延出されてなる。すなわち、この支持基材外に延出されたコンタクトプローブの一端にリード線119を取り付けることにより、電気的な接続を確保することができる。図示例にあっては、コンタクトプローブ119は支持基材117を貫通して設けられており、一端が作用電極113と接触可能とされてなり、かつ多端にはリード線119が取り付けられる。このような態様によれば、装置を組み立てるだけで作用電極とリード線との電気的接続が容易に確保されるため、作用電極の交換の度に作用電極にリード線を配線する必要が無くなり、測定のための準備を簡便に行うことができる。本態様に用いるコンタクトプローブは電気的に接続可能なものであれば限定されず、市販のコンタクトプローブ、スプリングプローブを好ましく使用することができる。
図7に示される固定手段120,121は、対電極114の位置を固定するための手段であり、そのうち一つの固定手段120を介してリード線120aが対電極114に電気的に接続される。図9に固定手段120の拡大図を示す。図9に示されるように、固定手段120は対電極114を高さ方向の位置を規制するための突起状の上部120aと、対電極114の水平方向の位置を規制するための下部120bとを有し、下部120bにリード線122の一端が巻き付けられて固定されることにより、このリード線122が対電極144の端部に接触する。こうして、対電極144の位置を固定しながら、対電極144とリード線122との電気的接続を確保することができる。この固定手段を用いることにより対電極にリード線をはんだ付けしなくて済むため、グラッシーカーボン(GC)等のはんだ付けが不可能な材料であっても対電極として使用することが可能となる。
図7および8に示される移動型光源116は、作用電極113に対して平行方向に移動させるためのモータ等の駆動手段(図示せず)を備えた光源であり、押さえ部材115の複数個の開口部115a上を順次移動しながら個別に光照射可能とされてなる。これにより、複数スポットの被検物質についての正確な個別的測定を自動的に効率良く行うことができる。また、別の好適態様として、光源を移動型とする代わりに、作用電極が光源に対して相対移動するように、作用電極またはセル基材を作用電極に対して平行方向に移動させるための駆動手段をセンサセル中にさらに設けてもよい。さらに別の好適態様としては、光源を移動型とする代わりに、押さえ部材が、複数個の開口部または透光部の各々に対して、光照射が必要な時にのみ開放されるように制御される複数の遮光シャッターをさらに設けてもよい。あるいは別の好適態様として、光源を移動型とする代わりに、複数個の開口部または透光部の各々に対して複数個の光源を個別に設けてもよい。上記いずれの好適態様であっても、図7および8に示される態様と同様に、複数スポットの被検物質についての正確な個別的測定を自動的に効率良く行うことができる。
本発明の別の好ましい態様によるセンサセルを図10および11に示す。図10および11に示されるセンサセルは、支持基材137上に、その側面に供給口132aおよび排出口132bを形成可能な程度の十分な高さを有するスペーサ132と、対電極134と、コンタクトプローブ139とが設けられた一体型のカートリッジとして構成されており、対電極134がこのカートリッジ内部(すなわちスペーサ132の開口部内)の支持基材上に、作用電極133がこのカートリッジ上(すなわちスペーサ132上)にそれぞれ配置され、その作用電極133上に押さえ部材135が配置される。そして、スペーサ132の側面の供給口132aおよび排出口132bに対応する位置に送液手段138,138が配置されることで、これら供給口および排出口を介して電解液等の液を流路内に効率的に供給しかつ排出させることができる。また、コンタクトプローブ139が支持基材137を貫通して設けられており、一端が作用電極133と接触可能とされてなり、かつ多端にはリード線(図示せず)が取り付けられる。この態様によれば、スペーサ、対電極、および支持基材が一体化されたカートリッジ単位で取り扱うことができるので、サンプル交換の際には、作用電極を取り替えるだけで次の測定を行うことができ、操作が簡便となる。本発明の好ましい態様によれば、図10および11に示されるように、押さえ部材135が開口部135aを有し、この開口部135aの上方に光源136を設けることができる。
光電流を用いた被検物質の特異的検出
前述の通り、本発明のセンサセルは増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものである。この増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法について、以下に具体的に説明する。
この方法にあっては、まず、被検物質を含む試料液と、作用電極と、対電極とを用意する。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接、特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質あるいは媒介物質に予め標識させておくか、あるいは被検物質およびプローブ物質の結合体にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には試料液に単に添加すればよい。
そして、作用電極と対電極とをセンサセル内において電解液に接触させた後、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度で検出することができる。また、この検出電流は試料液中の被検試料濃度との高い相関関係を有しているので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
被検物質およびプローブ物質
本発明における被検物質としては、特異的な結合性を有する物質であれば限定されず、種々の物質であってよい。このような被検物質であれば、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
すなわち、本発明にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、一本鎖の核酸および核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸の組合せ、ならびに抗原および抗体の組合せが挙げられる。
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質を一本鎖の核酸とし、プローブ物質を核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸とするのが好ましい。プローブ物質は核酸に対して15bp以上の相補性部分を有するのがより好ましい。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図12(a)および(b)に示す。これらの図に示されるように、被検物質としての一本鎖の核酸21は、作用電極23上に担持されたプローブ物質としての相補性を有する一本鎖の核酸24とハイブリダイズされて、二本鎖の核酸27を形成する。
被検物質としての一本鎖の核酸を含む試料液は、末梢静脈血のような血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞等の、核酸を含有する各種検体試料から、公知の方法により核酸を抽出して作製することができる。このとき、検体試料中の細胞の破壊は、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて担体を振動させることにより行なうことができる。また、核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。核酸溶出溶液の例としては、SDS、Triton-X、Tween-20のような界面活性剤、サポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液が挙げられる。これらの溶液を用いて核酸を溶出する場合、37℃以上の温度でインキュベ−トすることにより反応を促進することができる。
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質とする遺伝子の含有量が微量である場合には、公知の方法により遺伝子を増幅した後検出を行なうのが好ましい。遺伝子を増幅する方法としては、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR)等の酵素を用いる方法が代表的であろう。ここで、遺伝子増幅法に用いられる酵素の例としては、DNAポリメラ−ゼ、Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ、RNAポリメラ−ゼIのようなDNA依存型RNAポリメラ−ゼ、Qβレプリカ−ゼのようなRNA依存型RNAポリメラ−ゼが挙げられ、好ましくは温度を調節するだけで連続して増幅を繰り返すことができる点で、Taqポリメラ−ゼを用いるPCR法である。
本発明の好ましい態様によれば、上記増幅時に特異的に核酸を増感色素で標識することが出来る。一般的には、DNAにアミノアリル修飾dUTPを取り込ませることにより行うことができる。この分子は未修飾の dUTP と同じ効率で取り込まれる。次のカップリング段階において、N−ヒドロキシサクシンイミド(N-hydroxysuccinimide)により活性化された蛍光色素が修飾 dUTP と特異的に反応し、均一に増感色素で標識された被検物質が得られる。
本発明の好ましい態様によれば、上記のようにして得られた核酸の粗抽出液あるいは精製した核酸溶液をまず90〜98℃、好ましくは95℃以上の温度で熱変性を施し、一本鎖核酸を調製することができる。
本発明にあっては、被検物質とプローブ物質が間接的に特異的に結合するものであってもよい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、この被検物質と特異的に結合する物質を媒介物質として共存させ、この媒介物質と特異的に結合可能な物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、プローブ物質に特異的に結合できない物質であっても、媒介物質を介して作用電極上に間接的に特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質、媒介物質、およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、リガンド、このリガンドを受容可能な受容体蛋白質分子、およびこの受容体蛋白質分子と特異的に結合可能な二本鎖の核酸の組合せが挙げられる。リガンドの好ましい例としては、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が挙げられる。外因性内分泌撹乱物質とは、受容体蛋白質分子を介してDNAに結合し、その遺伝子発現に影響して毒性を生じる物質であるが、本発明の方法によれば、被検物質によりもたらされる受容体等のタンパク質のDNAに対する結合性を簡便にモニタリングすることができる。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図13に示す。図13に示されるように、被検物質としてのリガンド30は、まず、媒介物質である受容体蛋白質分子31に特異的に結合する。そして、リガンドが結合された受容体蛋白質分子33が、プローブ物質としての二本鎖の核酸34に特異的に結合する。
本発明の好ましい態様によれば、被検物質は二種以上であることができる。本発明の方法によれば、複数の増感色素を用いて、各増感色素毎に異なる励起波長の光を照射することにより、複数種類の被検物質を個別に検出することが可能である。
増感色素
本発明にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明にあっては、図12(a)および図13に示されるように被検物質21あるいは媒介物質31に予め増感色素22,32で標識しておくことができる。また、図12(b)に示されるように被検物質およびプローブ物質の結合体27(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素28を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより、プローブ物質に増感色素を固定させることができる。
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380 号公報や特表平5−504023 号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2 ’−ビピリジル−4、4 ’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。
二本鎖核酸にインターカレーション可能な増感色素の好ましい例としては、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイドが挙げられる。このような増感色素を用いる場合、核酸のハイブリダイゼーション後に試料液に添加するだけで増感色素で標識された二本鎖核酸が形成されるので、予め一本鎖の核酸を標識する必要が無い。
作用電極およびその製造
本発明に用いる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。この態様の電極は図12および13に示される。図12および13に示される作用電極23は、導電性基材25と、この導電性基材上に形成され、電子受容物質を含んで成る電子受容層26とを備えてなる。そして、電子受容層26の表面にプローブ物質が担持される。
本発明における電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド:CB)を意味し、電子受容性材料として金属を用いる場合には、フェルミ準位を意味し、電子受容性材料として有機物もしくはC60等の分子状無機物を用いる場合には、最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
電子受容物質の好ましい例としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物半導体;カドミウムのテルル化物半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物半導体;ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物の化合物半導体;金、白金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、ニッケル等の金属;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の有機物ポリマー;C60、C70等の分子状無機物が挙げられ、より好ましくは、シリコン、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、酸化インジウム、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe、C60であり、さらに好ましくは、TiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2であり、最も好ましくはTiO2である。なお、上記の列挙した半導体は、真性半導体および不純物半導体のいずれであってもよい。
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質は半導体であるのが好ましく、より好ましくは酸化物半導体であり、さらに好ましくは金属酸化物半導体であり、最も好ましくはn型金属酸化物半導体である。この態様によれば、半導体のバンドギャップの利用により、色素から効率良く電子を取り出すことができる。また、多孔体あるいは表面の凹凸形状といった構造を有する半導体の使用により、表面積の大きい作用電極を作製することができ、プローブ固定化量を増加させることができる。
本発明の好ましい態様によれば、半導体の伝導帯の電位は、増感色素のLUMOの電位よりも低いことが好ましく、より好ましくは、増感色素のLUMO>半導体の伝導帯>電解質の酸化還元電位>増感色素のHOMOの関係を満たす電位である。このような関係にあることで、効率良く電子を取出すことが可能となる。
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体からなる場合、層表面をカチオン化処理しても良い。カチオン化により、プローブ物質(DNA,タンパク質など)を高い効率で電子受容層に吸着させることが可能となる。カチオン化は、例えばアミノシランなどのシランカップリング剤、カチオンポリマー、4級アンモニウム化合物、などを電子受容層表面に作用させることにより行うことができる。
また、本発明の別の好ましい態様によれば、電子受容物質として、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)またはフッ素がドープされた酸化スズ(FTO)を用いることができる。ITOおよびFTOは電子受容層のみならず導電性基材としても機能する性質を有するため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
電子受容物質として半導体または金属を用いる場合、その半導体または金属は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基板としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基板を使用する場合、電子受容層はその導電層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)である。ただし、前述した通り、電子受容層自体が導電性基材としても機能する場合にあっては導電性基材は省略可能である。また、本発明において、導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば限定されず、それ自体では支持体としての強度を有しない薄膜状またはスポット状の導電材層も包含するものとする。
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm2以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm2以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm2程度であろう。
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m2当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質がインジウム-スズ複合酸化物(ITO)または酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)を含んでなる場合、電子受容層の膜厚が1nm以上であるのが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700℃であり、より好ましくは100〜600℃である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プロ−ブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プロ−ブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3'末端、5'末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブの作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、拡散プローブを作用電極に強固に固定化するためには、作用電極と拡散プローブの間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、核酸プロ−ブの固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面への核酸プロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極を核酸プロ−ブを含有する緩衝液に挿入して核酸プロ−ブを担体表面に吸着させる。
また、核酸プローブの吸着後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。使用可能なブロッキング剤としては、核酸プローブが吸着していない電子受容層表面のサイトを埋めることができ、かつ電子受容物質に対して化学吸着あるいは物理吸着等により吸着可能な物質であれば限定されないが、好ましくは化学結合を介して吸着可能な官能基を有する物質である。例えば、酸化チタンを電子受容層として用いる場合における好ましいブロッキング剤の例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、ピリジル基、アミド等の酸化チタンに吸着可能な官能基を有する物質が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が互いに分離された複数の領域毎に区分されて担持されてなり、光源による光照射が各領域に対して個別に行われるのが好ましい。これにより、複数の試料を一枚の作用電極上で測定することができるので、DNAチップの集積化等が可能となる。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が担持された、互いに分離された複数の領域がパターニングされており、光源から照射される光でスキャニングしながら、各領域の試料について被検物質の検出または定量を一度の操作で連続的に行うことが好ましい。
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域に複数種類のプローブ物質を担持させることができる。これにより、領域の個数に、各領域毎のプローブ物質の種類数を乗じた数の、多数のサンプルの測定を同時に行うことができる。
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域毎に異なるプローブ物質を担持させることができる。これにより、区分された領域の数に相当する種類数のプローブ物質を担持させることができるので、多種類の被検物質の測定を同時に行うことができる。この態様は、各領域毎に異なる被検物質の分析が可能なため、一塩基多型の解析(SNPs)の多項目解析に好ましく利用することができる。
対電極
本発明に用いる対電極は、電解液に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、セラミックス等が使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。これらの材料は電子受容層の形成方法と同様の方法により薄膜形成が可能である。
測定方法および装置
本発明のセンサセルを用いた測定方法にあっては、先ず、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を前記作用電極に固定させる。
本発明の好ましい態様によれば、増感色素で予め標識された一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である一本鎖核酸との間でハイブリダイゼーション反応を行なうことができる。ハイブリダイゼーション反応の好ましい温度は37〜72℃の範囲であるが、その最適温度は使用するプロ−ブの塩基配列や長さ等により異なる。
本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質およびプローブ物質の結合体(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより結合体を特異的に増感色素で標識することができる。
こうして被検物質が増感色素と共に固定された作用電極を、対電極と共に電解液に接触させ、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。その際のセンサセルとして、本発明のセンサセルを使用する。
図1および2に示されるセンサセルを用いた測定方法の一例について説明する。先ず、セル基材2、被検物質が増感色素と共に固定された作用電極3、および対電極4を用いて、図2に示されるセル構造となるように組み立てる。このとき、作用電極3は、電子受容層側を電解液に接触させるように配置される。こうして、セル基材2の溝2aの上面が作用電極3により覆われて形成された空間が流路として機能する。なお、対電極4はセル基材の溝2aの底部に配置されている。そして、セル基材の供給口2bおよび排出口2cには送液ポンプおよび逆止弁等の送液手段8が設けられ、測定に先立ち、電解液が流路内に充填された後、送液を停止する。その結果、測定時には、流路内に一定量の電解液が確実に充填されていることになる。すなわち、本発明のセンサセルによれば、セル内に電解液を隙間無く充填させ、かつ、セル内に充填された電解液の漏れを効果的に防止出来るので、セル内の電解液量を高い精度で一定に保つことができ、測定精度を向上させることが出来る。
本発明において用いる電解液は、電解質、溶媒、および所望により添加物を含んでなるものであることができる。電解質の好ましい例としては、ヨウ化物単独、あるいはI2とヨウ化物の組み合わせ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KI、CsI、CaI2などの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩など);臭化物単独、あるいはBr2と臭化物の組み合わせ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2などの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など);フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体;ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物;ビオロゲン色素;ヒドロキノン−キノン等が挙げられ、より好ましくは、I2とLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を組み合わせた電解質である。上述した電解質は混合して用いてもよい。また、電解質は、酸化還元電位が増感色素のHOMOよりも高いことが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、電解液の電解質濃度は0.1〜15Mであるのが好ましく、より好ましくは0.2〜10Mである。また、電解質にヨウ素を添加する場合における、好ましいヨウ素の添加濃度は0.01〜0.5Mである。
好ましい溶媒の例としては、水、アルコール(メタノール、エタノール等)、非プロトン性の極性溶媒(例えばアセトニトリルなどのニトリル類、炭酸プロピレンや炭酸エチレンなどのカーボネート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチルイミダゾリノンや3−メチルオキサゾリジノン、ジアルキルイミダゾリウム塩などの複素環化合物、等)が挙げられる。電子受容層に酸化物半導体を用いた系において、電解質にヨウ化物、溶媒に非プロトン性の極性溶媒を用いた場合、検知精度が高くなり、DNAの一塩基多型(SNPs)の解析を行なうことが可能となる。
図2に示されるように作用電極3の上方には光源6が押さえ部材5を介して配置される。本発明に用いる光源については、既に述べた通りである。
本発明の好ましい態様によれば、互いに異なる光波長で励起可能な二種以上の増感色素を用いて複数種類の被検物質を個別に検出する場合、光源から波長選択手段を介して特定波長の光を照射することにより、複数の色素を個別に励起することが可能である。波長選択手段の例としては、分光器、色ガラスフィルター、干渉フィルター、バンドパスフィルター等が挙げられる。また、増感色素の種類に応じて異なる波長の光を照射可能な複数の光源を用いてもよく、この場合の好ましい光源の例としては、特定波長の光が照射されるレーザー光やLEDを用いてもよい。また、作用極に光を効率よく照射するため、石英、ガラス、液体ライトガイドを用いて導光してもよい。
図2に示されるように、作用電極3および対電極4間にはリード線3aおよび4aを介して電流計9が接続され、光照射により系内を流れる光電流が電流計により測定される。これにより、被検物質を検出することができる。その際の電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量を反映する。例えば、被検物質が核酸の場合、相補性のある核酸間で形成された二本鎖の量が、電流値となり反映される。したがって、得られた電流値から被検物質を定量することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電流計が、得られた電流量または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出する手段をさらに備えてなるのが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、光電流を検出する工程が、電流値を測定し、得られた電流値または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出することができる。この被検物質濃度の算出は、予め作成された被検物質濃度と電流値または電気量との検量線と、得られた電流値または電気量とを対比することにより行うことができる。本発明の方法にあっては、電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量が反映されるので、被検物質濃度に対応した正確な電流値が得られるため、定量測定に適する。
本発明の別の好ましい態様によれば、予め増感色素で標識された被検物質を競合物質として用いて、増感色素で標識されていない、プローブ物質に特異的に結合可能な第二の被検物質を定量することができる。第二の被検物質はプローブ物質に標識済被検物質よりも特異的に結合しやすい性質を有するのが好ましい。これら二種類の被検物質を競合させてプローブ物質に特異的に結合させると、検出される電流値と第二の被検物質の濃度との間に相関関係が得られる。つまり、色素標識されていない第二の被検物質の数が増加するにつれ、プローブ物質に特異的に結合する競合物質の数が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。したがって、増感色素で標識されていない第二の被検物質の検出および定量が可能となる。
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体であるのが好ましい。この態様における被検物質および第二の被検物質のプローブ物質への固定化工程を図14に示す。図14に示されるように、増感色素で標識された抗原41と、色素標識されていない抗原42とが競合して抗体43に特異的に結合する。したがって、色素標識されていない抗原42が増加するにつれ、抗体に特異的に結合する色素標識された抗原43が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。
本発明の方法および装置の好ましい実施態様の一例として、フロー型測定用セルを用いた測定方法および装置について説明する。図15に、装置の全体構造を示す。図6に示される装置50は、フロー型測定用セル51と、光源52と、電解液タンク53と、洗浄液タンク54と、供給ポンプ55と、電流計56と、排出ポンプ57とを備えてなる。フロー型測定用セル51は、作用電極58と、作用電極に対向する対電極59とを備えてなり、作用電極58および対電極59の間に、電解液または洗浄液を収容しかつ流すことができる流路が形成される。すなわち、供給ポンプ55により測定用セル51内に供給された電解液または洗浄液は、作用電極58および対電極59に接触しながら流路を通過した後、排出ポンプ57により測定用セル51外に排出されるように構成されている。これら一連の動作の制御および光電流値の解析は図示しない制御解析装置により行われることができる。
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
例1:作用電極の作製
まず、以下の配合を有する原料を自動乳鉢を用いて充分に混合した後、150℃で6時間乾燥させて混合物を得た。
α−テルピネオール 60重量%
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール 15重量%
エチルセルロース 25重量%
得られた混合物0.5gに粒状酸化チタン(日本エアロゾル社製P25、平均粒径20〜25nm)1gを添加して混合した後、先に得られた混合物0.5gをさらに添加して混合した。その後、α−テルピネオールを加えて再度混合して、ペーストを得た。これら一連の混合は自動乳鉢を用いて合計3時間行った。
フッ素ドープされたSnO2膜が形成されたガラス基板(旭硝子製)の縁枠を幅約63μmのテープでマスキングし、上記ペーストをスキージ印刷した後、60℃で2時間乾燥させた。得られたガラス基板を焼成炉内に入れ、約17分間かけて500℃まで炉内温度を上昇させ、この温度で30分間保持した後、放冷した。炉内温度が100℃に達した時点でガラス基板をエタノールに浸漬した。こうして、酸化チタンを含んでなる電子受容層が形成された作用電極を得た。
次いで、105−NH2−AACGTCGTGACTGGGの塩基配列を有するNH2修飾DNAをバッファ(3X SSC)に溶解して、286μMのNH2修飾DNA溶液を調製した。この溶液を、予め95℃で3分間保持した後、氷上で冷却させることにより、変性させておいた。
先に得られた作用電極の電子受容層上に、5mm×5mm角の大きさの開口部が形成された、厚さ700μmのシリコンシールを載置した。この開口部に286μMのNH2修飾DNA溶液35μl注入した。このとき、ピペットチップの先端を用いて、シリコンシールの開口部の四隅まで充分にDNA溶液が行き渡るようにした。続いて、DNA溶液中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から覆い、湿らせた紙等で蒸気圧が調整されたプラスチック容器に収容した。この容器中に60℃で2時間保持して、NH2修飾DNAをインキュベートした。その後、DNA溶液を除去し、流水で軽く電極表面を洗浄した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。こうして、プローブ物質が担持された作用電極を得た。
例2:ローダミン修飾DNAの検出
105−Rho−CCCAGTCACGACGTTの塩基配列を有するローダミン修飾DNAをバッファ(2X SSC、0.03% SDS)に溶解して、28.6μMおよび286μMの各濃度を有するローダミン修飾DNA溶液を作製した。
例1で使用したものと同様のシリコンシールを作用電極表面に載置し、各濃度のローダミン修飾DNA溶液を35μlずつ、開口部に注入した。溶液中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から覆い、湿らせた紙等で蒸気圧を調整したプラスチック容器に入れた。こうして、60℃で一晩(12時間)インキュベートさせて、ハイブリダイゼーションを行った。
こうしてハイブリダイゼーションが施された作用電極を洗浄液に浸し、ゆっくりと揺らしながら洗浄した。洗浄液としては下記表に示されるものを使用し、各洗浄液について下記表に示される洗浄時間、洗浄回数、および温度で洗浄を行った。なお、洗浄液を変更する毎に洗浄容器を交換した。
表 1
洗浄液 1回当たりの 洗浄回数 温度
洗浄時間
2X SSC、0.2% SDS 6分間 3回 室温
0.2X SSC、0.2% SDS 6分間 3回 室温
0.2X SSC、0.2% SDS 13分間 1回 60℃
0.2X SSC、0.2% SDS 6分間 2回 室温
0.2X SSC 6分間 1回 室温
注)2X SSC:0.3M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム含有水溶液(pH7.0)
SDS:硫酸ドデシルナトリウム
さらに、作用電極をエタノールで軽く液中で上下させることにより、2回洗浄を行った。2回目の洗浄後は紙等で拭き取らずに、素早く空気を吹き付けて残水を飛散させた。
こうして得られた作用電極と、対電極としての白金電極とを用いて、センサセルを以下のようにして組み立てた。
まず、白金電極として、ガラス基板上に白金薄膜をスパッタリングにより形成したものを用意した。白金電極の白金膜上に、厚さ500μmのシリコンシートを載置した。このシリコンシートは作用電極と対電極との接触による短絡を防ぐためのスペーサーである。このとき、白金電極の白金で被膜された端部にリード線を接続して、電流を取り出し可能に構成した。作用電極もリード線を介して電流計と接続した。
電解液として、体積比が8:2のエチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶媒にヨウ素0.05Mとテトラプロピルアンモニウムヨーダイド0.5Mを溶解した混合液を用意した。この電解液を白金電極に5μL滴下した後、作用電極をその電子受容層が白金電極と対向するように、載置した。こうして、スペーサーおよび電解液を作用電極および対電極とで挟持されてなる、サンドイッチ型のセンサセルを得た。
作用電極のリード線と対電極のリード線とを電流計(ALSモデル832A、ディアル電気化学アナライザー)に接続した。光源(林時計社製、LA−250XE)から液体ライトガイドを用いて導光し、紫外線カットフィルター(Y-43、旭テクノグラス)を介して作用電極表面の1.5cm上方から白色光を30秒間作用電極表面に照射した。このとき、作用電極と対電極との間に流れる電流値を電流計により経時的に測定した。
図16に28.6μMローダミン修飾DNA溶液を用いた場合の検出電流の経時変化を、図17に286μMローダミン修飾DNA溶液を用いた場合の検出電流の経時変化を示す。これらの図に示されるように、増感色素で標識づけられたDNAと、これと相補性を有するDNAとをハイブリダイゼーションさせると、光の照射により大きな電流が流れることが分かる。
また、28.6μMおよび286μMの各ローダミン修飾DNA溶液を用いた場合について、電流値が定常状態になった時点における電流値を別途測定したところ、図16に示される通りの結果が得られた。また、参照のため、ローダミン修飾DNAの固定化を行わなかった場合についても同様にして測定を行った。その結果も図18に併せて示す。図18に示されるように、ローダミン修飾DNAの濃度に依存して電流値が変化した。したがって、本発明の方法によれば定量分析が可能なことが分かる。
例3:プローブ物質を担持させない作用電極を使用した測定
また、比較のため、例1で作製された、NH2修飾DNAを担持させる前の、酸化チタンを含んでなる電子受容層のみが形成された作用電極を用いてセンサセルを構成して、例2と同様に測定を行った。図16に28.6μMローダミン修飾DNA溶液を用いた場合の検出電流の経時変化を、図17に286μMローダミン修飾DNA溶液を用いた場合の検出電流の経時変化を示す。これらの図に示されるように、紫外線カットフィルターで除去できなかった若干量の紫外線によって酸化チタン自身が励起され、光電流が観測されるものの、ローダミン修飾DNA溶液を用いた例2の場合と比べて、光電流は著しく低かった。
例4:作用電極にブロッキングを施した場合の測定
例1と同様にして、プローブ物質が担持された作用電極を得た。この電極表面に例1で使用したものと同様のシリコンシールを再度載置して、開口部にブロッキング剤として10μMのジエタノールアミン35μlを注入した。ブロッキング剤中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から覆い、湿らせた紙等で蒸気圧を調整したプラスチック容器に入れた。そして、60℃で30分間保持して、ブロッキング剤をインキュベートした。電極表面を再度流水で軽く洗浄した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。
こうしてプローブ物質がブロッキングされた作用電極を用いて、例2と同様にして、ローダミン修飾DNAのインキュベーションによるハイブリダイゼーション、および光電流測定を行った。その結果は図16および図17に示される通りであった。これらの図に示されるように、ブロッキングが施された作用電極を用いた場合には、それが施されない例2の場合と比べて、著しく電流値が低下した。
例5:競合物質PNAとの共存下におけるローダミン修飾DNAの検出
105−Rho−CCCAGTCACGACGTTの塩基配列を有するローダミン修飾DNAと、競合物質として105−CCCAGTCACGACGTTTの塩基配列を有するPNAとをバッファ(2X SSC、0.03% SDS)に溶解して、28.6μMローダミン修飾および200μM PNA含有溶液と、286μMローダミン修飾および200μM PNA含有溶液とを作製した。
この試料溶液を用いたこと以外は、例2と同様にして、ローダミン修飾DNAのインキュベーションによるハイブリダイゼーション、および光電流測定を行った。その結果は図16および図17に示される通りであった。これらの図に示されるように、ハイブリダイゼーション時に競合すると考えられる塩基配列を有するPNAを共存させた場合、PNAが共存しない例2の場合と比べて、電流値が低下した。
例6:遮光性押さえ部材を用いた複数スポットにおける被検物質の個別測定
(1) 色素標識プローブDNAの準備
色素標識されたプローブDNAとして、3’末端をCy5で標識された、以下の塩基配列を有する15塩基の核酸塩基(Cy5標識ssDNA、プロリゴ社製)を用意した。
色素標識プローブDNA(Cy5標識ssDNA):
5’NH2−AACGTCGTGACTGGG−Cy5−3’
(2) 作用電極の作製および色素標識プローブDNAの担持
まず、チタニア微粉末(昭和タイタニウム社製、F2、平均粒径60nm、アナターゼ:ルチル=4:6)1gと、以下の配合を有する有機ビヒクル1gとを自動乳鉢で混練しながら、徐々に溶媒(αテルピネオール:ブチルカルビトール=重量比60:40)1gを添加して、酸化チタンペーストを得た。これら一連の混合は合計5時間行われた。
α−テルピネオール 65重量%
ブチルカルビトール 15重量%
ポリビニルブチラール 20重量%
フッ素ドープされた酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:15Ω/□)の導電面上を金属メタルスクリーンマスクでマスキングし、上記ペーストを用いて、図19に示されるように直径3mmの円形スポット膜を2mm間隔で6箇所形成した。得られた膜を60℃で3時間乾燥させた後、500℃で30分間焼成を行い、酸化チタン多孔質膜を電子受容層として備えた図19に示される作用電極を得た。こうして得られた作用電極にBLBランプで一晩紫外線照射を施し、汚れおよび残存有機物の除去を行った。
次いで、色素標識プローブDNAとしてCy5標識ssDNAを50mM HEPES(pH7.0)に溶解させて、Cy5標識ssDNA濃度が0μM、1μM、および10μMの水溶液を調製した。この溶液を、予め95℃で5分間保持した後、直ちに氷上で10分間以上冷却させることにより、熱変性させておいた。
先に得られた作用電極の電子受容層上に、スペーサー用穴あきテープ(穴の直径:3mm、スポット数;6、厚さ:50μm)を貼り、ピンセットの先を用いてテープ接着面に残存する空気を除去した。このテープ上に、直径3mmの大きさの開口部が6箇所形成されたシリコンシート(厚さ:1mm)を載置して密着させた。この開口部に先に調製した各濃度のCy5標識ssDNA溶液を3μl装填した。なお、図19に示されるように6箇所のスポットには番号がそれぞれ付されており、各スポットに装填したCy5標識ssDNA溶液の濃度は下記表2の通りとした。
表 2
スポット番号 1 2 3 4 5 6
DNA濃度 0μM 1μM 10μM 0μM 1μM 10μM
このとき、ピペットチップの先端を用いて、シリコンシールの開口部の四隅まで充分にDNA溶液が行き渡るようにした。続いて、DNA溶液中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から蓋をして、湿らせた紙等で蒸気圧が調整されたプラスチック容器に収容した。この容器中に50℃で一晩保持して、Cy5標識ssDNAをインキュベートした。その後、DNA溶液を除去し、流水で軽く電極表面を洗浄した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。こうして、色素標識プローブDNAが担持された作用電極を得た。
こうして色素標識プローブDNAが担持された作用電極を洗浄液に浸し、ゆっくりと揺らしながら洗浄した。洗浄液としては下記表3に示されるものを使用し、各洗浄液について下記表に示される洗浄時間、洗浄回数、および温度で洗浄を行った。なお、洗浄液を変更する毎に洗浄容器を交換した。さらに、作用電極を水で5秒間洗い流し、素早く空気を吹き付けて残水を飛散させた。
表 3
洗浄液 1回当たりの 洗浄回数 温度
洗浄時間
HEPES、0.1%Tween20 6分間 6回 室温
HEPES、0.1%Tween20 13分間 1回 60℃
HEPES 6分間 2回 室温
超純水 15分間 1回 室温
注)HEPES:2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(同仁化学研究所製)の50mM、pH7.0の溶液
0.1%Tween20:SERVA社製の界面活性剤を超純水に0.1vol%で希釈したもの
(3)測定用セルの組み立て
こうして得られた作用電極と、対電極としての白金電極とを用いて、図7および図8に示されるような測定用セルを以下のようにして組み立てた。
まず、白金電極として、厚さ1mmのガラス基板上に、密着性確保のためのクロム層を介して、白金薄膜をスパッタリングにより形成したものを用意した。作用電極と白金対電極と対向させ、その間に膜厚が500μmのシリコンシートを挿入した。シリコンシートは、両電極間に接触による短絡を防止し、電解液を充填するための空間を作り出すためのものであり、全スポットを包含するのに十分な大きさの開口部を有しており、この開口部が送液された電解液が溜まる流路を構成する。作用電極は電気的に接触しているスプリングプローブを介して、白金電極は端部に接続されたリード線を介して、それぞれポテンシオスタット(ビー・エー・エス株式会社 ALS Modl832A)に接続した。作用電極上には、図20に示されるような6つの開口スポットが形成された遮光性の押さえ部材を載置して、更にその上に光源移動用アリ式ステージ(駿河精機社製、B05-41M)を介して赤色レーザー光源(オーディオテクニカ製、SU-31:波長635nm)を取り付けた。こうして、スペーサーおよび電解液を作用電極および対電極とで挟持されてなる、サンドイッチ型の測定用セルを得た。
次いで、電解液として、体積比が4:6のアセトニトリルと炭酸エチレンの混合溶媒にヨウ素0.06Mとテトラプロピルアンモニウムヨーダイド0.6Mを溶解した混合液を用意した。この電解液が作用電極と白金電極との間に充填させた。
(4)光電流の測定
光源移動用アリ式ステージに固定した赤色レーザーからなる移動型光源を用いて作用電極表面の3cm上方から、各スポット毎に個別に光を照射して、作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。電流値の測定は180秒間行ったが、光の照射は電流の測定開始60秒後から60秒間のみ行った。観測した光電流は120秒後の光電流値から180秒後の光電流値を差し引くことで補正を行った。
その結果、各スポット毎の光照射の際に検出した光電流は図21に示される通りであった。図21に示されるように、各スポットを光照射した際に検出された光電流の値は、光照射したスポットに装填したCy5標識ssDNA水溶液の濃度と高い相関性を有していることが分かる。すなわち、各スポットを光照射した際に、押さえ部材の遮光性によって、照射対象以外のスポットの被検試料への光の漏洩が有効に防止され、照射対象以外のスポットに起因する電流がほとんど無い、照射スポットにのみ起因する極めて精度の高い検出電流が得られた。
例7:自動ステージを用いた複数スポットにおける被検物質の個別測定
(1) 色素標識プローブDNAの準備
色素標識されたプローブDNAとして、3’末端をCy5で標識された、以下の塩基配列を有する15塩基の核酸塩基(Cy5標識ssDNA、プロリゴ社製)を用意した。
色素標識プローブDNA(Cy5標識ssDNA):
5’NH2−AACGTCGTGACTGGG−Cy5−3’
(2) 作用電極の作製および色素標識プローブDNAの担持
フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:15オーム/□)を、アセトン、0.1容量% Tween20を含む超純水、さらには超純水中でそれぞれ15分間の超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラスを5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムを除去するため、超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。このガラスを取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、無水メタノールに浸漬させて脱水した。
一方、溶媒としての95%メタノール5%超純水に3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2容量%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行うことにより、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラスを浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。それからガラスを取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、110℃で30分間保持してカップリング剤をガラスと結合させた。室温下で冷却した後、15mm平方内に直径1mmの大きさの開口部が1mmの間隔で49スポット形成されたPDMSシート(厚さ:1.5mm)を載置して密着させた。
続いて、2×SSCに溶かして1μMに調製したCy−5標識ssDNA(30mer)を95℃で5分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させ、先に用意したガラス上のPDMSシートの49開口部に2μlずつ充填した。これを75℃で1時間保持して溶媒を蒸発させた後、PDMSシートを剥がし、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射した。こうして、Cy−5標識ssDNAを49個のスポット毎に固定化した図22に示される作用電極を得た。
得られた作用電極を超純水中で10回ほど振盪させてSSC成分(NaClとクエン酸ナトリウム)を除く操作を、超純水を2回換えて行った。それから沸騰水に2分間浸漬させ、取り出してから空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残エタノールを飛散させた。
(3)測定用セルの組み立て
こうして得られた作用電極を図15に示されるフロー型測定セルに組み込み、フロー型測定セル上には光源自動移動用XYステージを取り付けた。なお、光源を移動させる代わりに、セルを移動させる構成であってもよいのは言うまでもない。XYステージは、測定対象とするスポットに任意に位置決めすることができるように、位置きめ制御機能を持つ制御解析装置と接続される。また、センサ出力電流を測定するための高感度な電流計も同時に制御解析装置と接続され、測定するスポットの位置決めと同期して、センサ出力データを取り込むことができるようにした。測定セルは、作用電極と白金対電極とを対向させ、その間に接触に膜厚が500μmのシリコンシートを挿入することにより作製した。すなわち、シリコンシートには全スポットが入る十分な大きさの開口部が形成されており、この開口部に送液された電解液が溜まり、作用電極上に固定化されたDNAと接触する構造となっている。電解液としては、アセトニトリル溶媒にテトラプロピルアンモニウムヨーダイド100mMを溶解した溶液を用いた。作用電極および対電極と高感度な電流計との電気的な接続はスプリングプローブを介して行った。
(4)光電流の測定
自動移動用XYステージに固定した移動型光源により、作用電極表面の上方から直径1mm未満の励起光を49スポット(間隔1mm)に照射して、各スポットについて作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。光源としては、出力20mW程度の赤色半導体を用いたが、さらにセンサ出力を大きくするために大きい出力または緑や青色等短波長のレーザーを用いてもよい。このとき、自動移動用XYステージにより、図22に矢印で示される順序に従ってスポットを順次走査し、同時にスポットでの電流出力を制御装置に接続された高感度電流計を介して制御装置に記憶させた。このように記憶された各スポットの電流出力から、必要に応じて出力の平均処理等をさらに行ってもよい。スポットの走査は、各スポットで停止させることなく連続的にデータを取り込み、このデータから各スポットのデータの算出を行ったが、各スポットで停止させながら間欠的にデータを取ってもよい。
得られた光電流波形は図23に示される通りであった。なお、図23において楕円で囲った部分の拡大図を図24に示す。図23および24に示されるように、自動移動ステージを用いて、5秒間という短い光照射時間で。同一基板上の複数スポットに固定化された1本鎖DNA−Cy5に起因する光電流を高い再現性で検出できることが分かる。
本発明のセンサセルの一例を示す図であり、組み立て前の状態を示す図である。
図1に示されるセンサセルの組み立て後の状態を示す図である。
本発明のセンサセルの他の一例を示す図である。
本発明のセンサセルの他の一例を示す図である。
本発明のセンサセルの他の一例を示す図であり、組み立て前の状態を示す図である。
図4に示されるセンサセルの組み立て後の状態を示す図である。
本発明のセンサセルの他の一例を示す図であり、組み立て前の状態を示す図である。
図7に示されるセンサセルの組み立て後の状態を示す図である。
図7に示されるセンサセルの対電極および固定手段の拡大図である。
本発明のセンサセルの他の一例を示す図であり、組み立て前の状態を示す図である。
図10に示されるセンサセルの組み立て後の状態を示す図である。
被検物質が一本鎖の核酸であり、プローブ物質が前記核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図であり、(a)は被検物質が予め増感色素で標識されてなる場合を、(b)は二本鎖の核酸にインターカレーション可能な増感色素を添加した場合をそれぞれ示す。
被検物質がリガンドであり、媒介物質が受容体蛋白質分子であり、プローブ物質が二本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
互いに競合する特異的結合性を有する被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体である場合の、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
フロー型測定用セルを用いた装置の一例を示す図である。
例2〜5において得られた、28.6μMローダミン修飾DNA溶液を試料液とし手用いた場合の検出電流の経時変化を示す図である。
例2〜5において得られた、286μMローダミン修飾DNA溶液を試料液として用いた場合の検出電流の経時変化を示す。
例2において得られた、0μM、28.6μM、および286μMの各濃度のローダミン修飾DNA溶液を試料液として用いた場合の、定常状態にある検出電流を示す図である。
例6において使用された遮光性押さえ板を示す図である。
例6において使用された作用電極を示す図である。
例6において得られた、各スポット作用電極における、検出電流の値を示す図である。
例7において作製された複数スポット作用電極を示す図である。
例7において得られた各スポットについて連続的に測定された光電流波形である。
図23において楕円で囲まれた部分の光電流波形を拡大した図である。