JP4830109B2 - 鶏の暑熱ストレス又は熱死の抑制 - Google Patents

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本発明は、鶏の暑熱ストレス又は熱死を抑制する技術に関する。
日本だけでなく世界中において夏期にはブロイラー、採卵鶏の熱死が頻発している。現在は、実用的、効果的な対処法がなく、熱死により一農場で飼育される数万羽のほとんどが死亡するので経済的損失は極めて大きい。現在のところ、ブロイラーの熱死に対して特に効果的な技術はなく、暑熱の厳しいときには鶏舎の屋根に水を散布することなどが行われている。
鶏の暑熱ストレス又は熱死を抑制する技術として、特許文献1には、ユビキノン等のキノン類を投与する方法、特許文献2には、グリシンを含有する飼料組成物を投与する方法が知られている。
しかしながら、鶏の暑熱ストレス又は熱死を抑制する目的でホルモン類を投与した例は報告されていない。
特開2000−53565号公報 特開2002−27920号公報
本発明は、従来使用されている有効成分とは異なるタイプの活性成分を用いることにより鶏の暑熱ストレス又は熱死を抑制することを目的とする。
本発明者は、暑熱ストレスに関する研究を行う中で、解糖系によるエネルギー産出が暑熱適応に重要であることに気づいた。動物がストレスを受けたとき心臓及び筋肉でエネルギーとして用いられるグルコースは主としてグリコーゲン分解により得られる。ノルエピネフリン及びエピネフリンは副腎髄質から分泌されるホルモンであり、グリコーゲンあるいは脂肪の分解促進作用を有する。暑熱ストレス時には、交感神経が優位な状態になり、エネルギー消費量が増加するが、この反応にノルエピネフリン及びエピネフリンが深く関与していると考え、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)副腎髄質ホルモン及びそのアナログ又はアゴニストから選ばれる少なくとも1種を鶏に投与することを含む鶏の飼育方法。
(2)暑熱ストレス又は熱死を抑制するために副腎髄質ホルモンを投与する前記(1)に記載の方法。
(3)夏期に副腎髄質ホルモンを投与する前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)鶏がブロイラーである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)副腎髄質ホルモンがノルエピネフリン及び/又はエピネフリンである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)副腎髄質ホルモン及びそのアナログ又はアゴニストから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する鶏用暑熱ストレス又は熱死抑制剤。
(7)副腎髄質ホルモン及びそのアナログ又はアゴニストから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する鶏用飼料。
本発明によれば、鶏の暑熱ストレス又は熱死を抑制することができる。
本発明は、ブロイラー、採卵鶏のいずれにも適用できるが、好ましくはブロイラーに適用する。
本発明の有効成分としては、副腎髄質ホルモン及びそのアナログ(類似体)又はアゴニストから選ばれる少なくとも1種が用いられる。
本発明に用いる副腎髄質ホルモンとしては、ノルエピネフリン、エピネフリンを単独で、又は組み合わせて用いる。
本発明において、副腎髄質ホルモンのアナログとは、次式:
Ar−CH(X)−C(R)(R)−N(R)(R
(式中、Arは1以上の水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、Rは水素原子、C1−6アルキル基、カルボキシル基、1以上の水酸基で置換されていてもよいフェニル基を表し、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、C1−6アルキル基を表し、Rは水素原子又はカルボキシル基を表し、Xは水素原子又は水酸基を表す。)
で示される化合物又はその塩もしくはエステル(プロドラッグ)が挙げられる。
前記式で表される化合物には、ノルエピネフリン及びエピネフリンも包含され、これらの化合物は、すべて本発明に用いることができる。
前記式で示される副腎髄質ホルモンのアナログとしては、例えば3,4−ジヒドロキシフェニルセリン(好ましくはスレオ形)、エフェドリン、フェニレフリン、エチレフリン、ドパミン、チラミンが挙げられる。
副腎髄質ホルモンのアゴニストとは、アドレナリン作動薬をいい、好ましくは、α受容体及びβ受容体のうち、少なくともα受容体に作用する薬物を用いる。副腎髄質ホルモンのアゴニストとしては、例えばクロニジン(αアゴニスト)、オキシメタゾンが挙げられる。
前記式で示される副腎髄質ホルモンのアナログのほとんどは、副腎髄質ホルモンのアゴニストでもある。
前記の副腎髄質ホルモン及びそのアナログ又はアゴニスト(以下場合により「副腎髄質ホルモン類」という。)は、d−体、l−体、dl−体のいずれを用いてもよい。経口投与する場合には、消化管内での分解を抑制するため、適宜コーティングしてもよい。副腎髄質ホルモン類の投与経路は、制限はなく、経口投与、静脈内注射、皮下注射、噴霧吸入などいずれでもよい。
経口投与の場合には、副腎髄質ホルモン類を飲み水に、例えば3〜300mg%(mg/100g)の濃度に溶解して与えることができる。また、必要に応じて適宜担体や賦形剤、またビタミンやミネラルなどの添加剤を加え、粉末、顆粒あるいはペレット等として用いてもよい。これらは飼料中に混合して用いてもよい。更に、高濃度の溶液を噴霧して吸入させるのも効果的である。
副腎髄質ホルモン類の投与時期あるいは投与期間は、投与の目的、週令等により異なる。通常、夏期に用いるが、暑熱ストレス又は熱死のおそれがある時期であれば特に制限はない。
副腎髄質ホルモン類の投与量は、投与の目的、対象動物の体重、週令、供与飼料、飼育環境等により異なる。通常、0.2〜10mg/kg体重、好ましくは0.5〜5mg/kg体重を投与する。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
1.方法
供試動物として、1日齢の雄ブロイラー(Cobb種)を導入し、32、33日齢において暑熱曝露を行った。室温は予備飼育期間は25℃とし、明暗周期は12時間(6:00〜18:00)とした。供試飼料は、27日齢、あるいは28日齢までパワーチキンP(くみあい飼料より購入)を用い、それ以降、暑熱曝露当日までCP(粗蛋白)20%の試験用飼料を給与した。区分は、対照(Cont)区、ノルエピネフリン(NE)区、(n=6)とした。尚、暑熱曝露前日の17時から翌9時まで絶食させ、再給餌2時間後(暑熱曝露の1時間前(12:00))に、試験区には生理食塩水に溶解したノルエピネフリン(1mg/ml/kgBW)を皮下注射した。
暑熱曝露直前に体重及び体温を測定した後、38℃のチャンバーで暑熱曝露した(相対湿度60±10%、13:00〜16:00)。暑熱曝露期間中は30分毎に直腸温を測定した。その後、体温が46℃を超えた個体もしくは自力で立てなくなった個体は不適応個体として、断頭により殺し解剖した。また、適応個体は暑熱曝露終了時に直ちに断頭、解剖に供した。暑熱曝露中、水は自由摂取させた。
また、絶食・再給餌は、多量の飼料を摂取させ、特異動的作用による熱エネルギーの発生を増大させて、暑熱ストレスの影響を受けやすくすることを目的としている。
2.結果
各区6羽中、Cont区でわずかに1羽が適応できただけであったが、NE区で5羽が適応した。肝臓、心臓重量にはNE投与によって有意な変化はなかった。暑熱適応率(体温変化)はNE投与により劇的に改善された(図1)。肝臓・心臓重量、肝臓・心臓中グリコーゲン含量、肝臓・心臓中TG含量、血中グルコース濃度に有意な変化はなかったが、心臓グリコーゲン含量がNE投与により増加する傾向を示した。また、甲状腺ホルモン(T)濃度が有意に減少した(図2)。Tは熱生産を高めるホルモンであり、これは興味深い知見である。グリコーゲンの分解が促進されると、通常、血中遊離グルコース量が増加するが、血中グルコース濃度は増加していない。生成されたグルコースは素早く心臓に取り込まれ、暑熱適応のためのエネルギーとして利用された可能性が考えられる。
また、血中中性脂肪(TG)濃度が有意に減少していることから(図3)、中性脂肪が暑熱適応のエネルギー源として利用されたと思われる。以上の結果は、ノルエピネフリンは暑熱ストレス時のエネルギー産生において重要な役割を果たしていることを示している。
(実施例2)
ノルエピネフリンの代わりにエピネフリンを用いた以外は実施例1と同様に実験を行ったところ、各区6羽中、対照区でわずかに1羽が適応できただけであったが、エピネフリン区で3羽が適応し、ノルエピネフリンの場合と同様の結果が得られた。
暑熱ストレス時の体温変化に対するノルエピネフリン投与の影響を示す図である。 暑熱ストレス時の血漿T濃度に対するノルエピネフリン投与の影響を示す図である。 暑熱ストレス時の血漿TG濃度に対するノルエピネフリン投与の影響を示す図である。 暑熱ストレス時の体温変化に対するエピネフリン投与の影響を示す図である。

Claims (4)

  1. 暑熱ストレス又は熱死を抑制するためにノルエピネフリン及び/又はエピネフリンを鶏に投与することを含む鶏の飼育方法。
  2. 夏期にノルエピネフリン及び/又はエピネフリンを投与する請求項記載の方法。
  3. 鶏がブロイラーである請求項1又は2記載の方法。
  4. ノルエピネフリン及び/又はエピネフリンを有効成分として含有する鶏用暑熱ストレス又は熱死抑制剤。
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