従来のガンダイオードは、例えば図6(a)に平面図で、図6(b)にそのB−B’線断面図で示すように、半導体から成る基体11の表面に薄膜半導体の第1のn+型層12a、n型層12bおよび第2のn+型層12cと電極層13とを順次積層して成る複数個のガンダイオード素子14が、基体11の表面と第1のn+型層12aとの界面の結晶格子が整合した状態で形成されて構成されていた。
また、この構成において、電極層13は、同一平面上に形成されたアノード電極13aおよびカソード電極層13bから構成されていた。これによって、ミリ波発振器の基板へのフリップチップ実装を可能とするものである。
また、このような構成の従来のガンダイオードは、例えば基板上に薄膜半導体の第1のn+型層12a、n型層12bおよび第2のn+型層12cを順次エピタキシャル成長させる工程と、この薄膜半導体の第2のn+型層12c上に電極層13a,13bを形成する工程と、これら電極層13a,13bが形成された領域を除く第1のn+型層12a、n型層12bおよび第2のn+型層12cの所定領域を除去して複数個の薄膜半導体部12d,12eを形成する工程とを順次行なうといった製造方法で作製されていた。
そして、このガンダイオードは、例えば図7(a)に一部を透視した上面図で、図7(b)にそのC−C’線断面図で示すようなミリ波発振器の構成要素として用いられていた。
図7に示すミリ波発振器は第1の半導体層(図示せず)、ガンダイオード活性層(図示せず)および第2の半導体層(図示せず)が順に積層されて作製されたガンダイオード101を、信号電極103および一対の接地電極104を形成し、ミリ波共振器が形成された半絶縁性の平板基板102上に、導体バンプ105および106を介してフリップチップボンディングすることによって実装するといった構成のものとして作製されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような構成の従来のガンダイオードを用いたミリ波発振器によれば、フェースダウン姿勢にして、導体バンプ105および106を信号電極103および接地電極104に直接接続しており、ガンダイオード101と信号電極103および接地電極104との接続に金リボンを使用しないので、金リボンによる接続に起因して発生していた寄生インダクタンスの発生がなくなり、特性のばらつきの少ないミリ波発振器を実現することが可能になるというものである。
また、図6に示す従来のガンダイオードでは、図7に示すように、ガンダイオード101を半絶縁性の平板基板102上に、導体バンプ105および106を介してフリップチップボンディングすることによって実装する構成であることから、導体バンプ105および106の熱抵抗のために平板基板102側への熱放散が不十分となっている。この構成では、平板基板102側にしか熱を逃さない構造となっているが、その熱放散が不十分なので、ガンダイオード101で発生した熱を実装時に上側に位置する基体11の表面(上面)からも効率良く放散することが特に重要となる。
一方、これと同様の課題を解決しようとするものとして、従来から、例えばレーザダイオードのような駆動時に高温となる半導体素子では、発生する熱を効率よく逃がし、半導体素子の温度上昇を抑制するため、構造面で工夫がなされてきた。例えば、フリップチップ実装する誘電体基板に対して材料の高熱伝導率化やサーマルビア構造を設けるといった工夫をする一方で、ガンダイオード側の工夫としては、半導体素子形成用の基板として熱伝導に優れた半導体基板の上面に単結晶膜を付着した膜付基板を用いることが知られている。
このような膜付基板をガンダイオードの作製に使用した従来のガンダイオードの製造方には、例えば、膜付基板としてSiCから成る単結晶基板の上面に砒化ガリウム(GaAs)系の半導体単結晶膜である、例えば、アルミニウム・ガリウム・砒素(AlGaAs)単結晶膜を被着させたものを用いて、この膜付基板のAlGaAs単結晶膜上に複数の単結晶半導体膜を積層し、さらにこの複数の単結晶半導体膜上にアノード電極およびカソード電極を形成するといった例がある。
また、特許文献2には、異種基板を接合(貼り合わせ)することによって、膜付基板を作製する方法が提案されている。この方法を適用した従来のガンダイオードの製造方法には、例えば、
(1)まずGaAs単結晶膜を格子定数がそれと同じであるGaAs単結晶から成る第1基板の上面にエピタキシャル成長させ、
(2)次に、GaAs単結晶膜の上面に、炭化硅素(SiC)から成る第2基板を貼り合わせるとともに、これらを600℃〜1000℃の温度で熱処理することによって、GaAs単結晶膜が形成されたGaAs単結晶から成る第1基板にSiCから成る第2基板を固着し、
(3)最後に、GaAs単結晶から成る第1基板をエッチング除去する、
といった例がある。
また、この従来のガンダイオードの製造方法においては、上記製造工程の(2)および(3)において、第1および第2基板同士を貼り合わせた後、両者を熱処理する前に第1基板を完全に除去するといった他の例もある。
特開2000−22241号公報
特開平6−90061号公報
しかしながら、図6に示したような従来のガンダイオードにおいては、基体11の材質が、複数個のガンダイオード素子14と同種のものまたは格子定数が整合した一部ものに限られているため、基体11に対して望まれている特性である、熱伝導特性,電気伝導特性および機械的特性を考慮に入れたガンダイオードを得ることが困難であるという問題点があった。
また、通常は、ガンダイオード101を構成する半導体基板の放熱性が悪く、動作中にガンダイオード活性層の温度が130℃程度にまで上昇してしまうという問題点があった。これは、ガンダイオード101に発生する熱の一部は、導体バンプ105および106を介してヒートシンクとしても機能する平板基板102に放散され、その他のものは半導体基板に伝達し空気中へ放散されるが、平板基板102と半導体基板内での熱伝導が低いことによるものである。
そして、このようにガンダイオード活性層の温度が130℃程度にまで上昇すると、図8にガンダイオード活性層の温度T(単位:K)を横軸に、電子の移動度μHn(単位:cm2/V・s)を縦軸にとった線図で示すように、ガンダイオード活性層の内部における電子のドリフト速度が104cm2/V・s以下にまで著しく減少する。その結果、発振周波数は電子のドリフト速度に比例するため、発振可能な周波数帯域のうち最も発振出力が大きくなる中心周波数が低周波数側へ移動する。従って、外部に共振器構造があり発振周波数が固定されている場合には、共振器によって決められる周波数とガンダイオードの中心周波数とがずれていくことで、ミリ波出力が著しく低下してしまうという問題点があった。また、発振出力を一定にするには、注入電力を増加させる必要があるが、その場合には、発熱量がさらに大きくなり、ガンダイオード101が破壊することがあるという問題点もあった。
また、前述のような、結晶成長によって単結晶膜を被着させた膜付基板を用いた従来のガンダイオードの製造方法においては、通常、膜付基板を構成する単結晶基板と単結晶膜との間でそれぞれの格子定数が大きく異なっており(例えば、SiC単結晶基板とAlGaAs単結晶膜との間では、AlGaAs単結晶膜の格子定数はSiC単結晶基板の格子定数と比べて約30%大きい。)、そのような条件では、単結晶基板上に単結晶膜をエピタキシャル成長させることは極めて困難であるという問題点があった。
また、特許文献2に開示されている技術を用いた従来のガンダイオードの製造方法の例においては、第1基板と第2基板との間で熱膨張係数に大きな差があることから、熱処理後の冷却中に発生する大きな熱応力により、得られた膜付基板が反ってしまうという問題点があった。例えば、SiC基板とGaAs半導体膜との組み合わせでは、2インチサイズの基板で200μm以上の反りが発生する。
また、特許文献2に開示されている技術を用いた従来のガンダイオードの製造方法の他の例においては、熱処理前に第1基板を完全に除去することから、熱処理後に発生する熱応力により膜付基板が反るという問題点は解決されるものの、単結晶半導体膜の形成時に単結晶半導体膜の内部に蓄積された応力が、第1基板の除去に伴って第1基板側の表面で一度に開放されてしまうため、この応力開放時の反動に伴って単結晶半導体膜に割れ等が生じ、場合によっては単結晶半導体膜が粉々に破壊されてしまうという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑み完成されたものであり、その目的は、良質な薄膜単結晶から成るガンダイオード素子を、その薄膜単結晶とは元は別である基体上に接合させることによって、基体として望まれている熱伝導特性,電気伝導特性および機械的特性等を考慮に入れることが可能であり、基体の材質の選択の自由度が高くて、例えば、基体に熱伝導率の高いものを選択して、動作中に発生した熱を、外部へ放熱することができ、ガンダイオード活性層の温度上昇を抑制してミリ波出力の強度を安定させることができ、しかもミリ波変換効率が高く高出力であるため注入電力を低く抑えることができ、その結果、ガンダイオード素子の結晶に欠陥発生を抑制できる、長期間動作の信頼性も高いガンダイオードおよびその製造方法を提供することにある。
本発明のガンダイオードは、表面が導電性の基体の前記表面に、薄膜半導体の第1のn+型層、n型層および第2のn+型層と電極層とを順次積層して成る複数個のガンダイオード素子の前記第1のn+型層が接合されており、前記基体の熱伝導率が前記薄膜半導体の熱伝導率よりも高いことを特徴とするものである。
また、本発明のガンダイオードは、上記構成において、前記電極層はアノード電極層とカソード電極層とから成るとともに前記アノード電極層が形成された前記ガンダイオード素子と前記カソード電極層が形成された前記ガンダイオード素子とはそれぞれ独立に前記基体に電気的に接続されていることを特徴とするものである。
また、本発明のミリ波発振器は、上記ガンダイオードが、誘電体基板に形成された共振器上に実装されていることを特徴とするものである。
本発明のガンダイオードの製造方法は、基板上に選択除去層と薄膜半導体の第2のn+型層、n型層および第1のn+型層とを順次エピタキシャル成長させる工程と、前記第2のn+型層、n型層および第1のn+型層の所定領域を前記選択除去層が露出するまで除去して複数個の薄膜半導体部を形成する工程と、前記薄膜半導体部の前記第1のn+型層を、表面が導電性を有するとともに前記薄膜半導体部の熱伝導率よりも高い熱伝導率を持つ基体の前記表面に接合する工程と、前記選択除去層を除去して前記基板を前記薄膜半導体部から分離する工程と、前記薄膜半導体部の前記第2のn+型層上に電極層を形成する工程とを順次行なうことを特徴とするものである。
本発明のガンダイオードによれば、表面が導電性の基体のその表面に、薄膜半導体の第1のn+型層、n型層および第2のn+型層と電極層とを順次積層して成る複数個のガンダイオード素子の第1のn+型層が接合されていることから、基体の材質の選択の自由度が高くなるため、基体として、例えば熱伝導性として放熱性が、電気伝導特性として導電性が、および機械的特性として応力に対する強度がいずれも最適になるような基体を選択することができるものとなる。また、ガンダイオードにおいては、ガン効果を生じさせる主要部であるガンダイオード活性層となるn型層がコンタクト層である第1のn+型層上にあり、この第1のn+型層によってn型層が保護されるものとなる。しかも、この第1のn+型層自体は高い導電性を有しており、基体に接合された場合にもその導電性が損なわれるようなことはないので、ガンダイオード素子の第1のn+型層を基体に接合しても、そのガンダイオード素子において良好な発振特性を得ることができる。
また、本発明のガンダイオードによれば、基体の熱伝導率が薄膜半導体の熱伝導率よりも高いときには、基体によって、発熱部であるガンダイオード活性層からの熱を周囲に効率よく伝導して放散させることができるものとなるので、基体はガンダイオード素子に対して良好な放熱体として働き、ガンダイオード活性層の温度上昇を良好に抑制することができ、ミリ波出力の安定化および高出力化を行なうことができるものとなる。さらに、ミリ波変換効率が高く高出力であるため注入電力を低く抑えることができ、その結果、ガンダイオード素子の結晶における欠陥発生を抑制できるので、ガンダイオードの長期間の動作について高信頼性を得ることができるものとなる。
また、本発明のガンダイオードによれば、電極層はアノード電極層とカソード電極層とから成るとともにアノード電極層が形成されたガンダイオード素子とカソード電極層が形成されたガンダイオード素子とはそれぞれ独立に基体に電気的に接続されているときには、アノード電極層が形成されたガンダイオード素子とカソード電極層が形成されたガンダイオード素子とは、基体によってアノード電極層とカソード電極層との間に電気的に直列接続されるとともに、同一平面上にアノード電極層およびカソード電極層が位置することとなり、このガンダイオードをミリ波発振器を構成する平板基板上にフェースダウン姿勢で容易に実装できる。しかも、基体に脆性の低い材質を選ぶことにより、実装の際もしくは実装後に、基体のガンダイオード素子との接合部またはガンダイオード素子間に応力がかかりやすくなるのに対して、それらの部位を壊れにくくすることができるものとなる。さらに、アノード電極層とカソード電極層との間には、電流が基体を通して流れるため、ガンダイオード素子の動作に必要な領域以外の半導体薄膜領域での発熱を抑制でき、ミリ波出力の安定化および高出力化を行なうことが可能となり、さらにはガンダイオードの長期間の動作について高信頼性が得られることができるものとなる。
また、本発明のガンダイオードの製造方法によれば、基板上に選択除去層と薄膜半導体の第2のn+型層、n型層および第1のn+型層とを順次エピタキシャル成長させる工程
と、第2のn+型層、n型層および第1のn+型層の所定領域を選択除去層が露出するまで除去して複数個の薄膜半導体部を形成する工程と、薄膜半導体部の第1のn+型層を、表面が導電性を有するとともに前記薄膜半導体部の熱伝導率よりも高い熱伝導率を持つ基体のその表面に接合する工程と、選択除去層を除去して基板を薄膜半導体部から分離する工程と、薄膜半導体部の第2のn+型層上に電極層を形成する工程とを順次行なうことから、複数の薄膜半導体部を形成することが、薄膜半導体と基板との接合部の面積を減少させて、基板全体に加わる応力を緩和するように働くため、薄膜半導体部と基体との接合時に熱処理を行なってもガンダイオードの反りや薄膜半導体の劈開の発生を抑えることができ、結晶性の優れた薄膜半導体部を基体上に接合できるものとなる。また、基板と薄膜半導体部との間に介在している選択除去層を除去するため、基板をガンダイオード素子から除去する際に、薄膜半導体部にダメージを与えることがなく、薄膜半導体部の結晶性を良好に維持できるので、良好な発振特性が得られるものとなる。
以下、本発明のガンダイオードおよびその製造方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明のガンダイオードの実施の形態の一例を示す模式図であり、(a)は平面図であり、(b)はそのA−A’線断面図である。また、図2乃至図5は本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例を示す、工程毎の模式的な断面図である。
図1乃至図5において、1は表面が導電性の導電性基体である。2は薄膜半導体であり、2aは薄膜半導体の第1のn+型層、2bは薄膜半導体のn型層、2cは薄膜半導体の第2のn+型層である。また、薄膜半導体2において、2dおよび2eは薄膜半導体部であって、それぞれアノード部およびカソード部である。3は電極層であり、3aおよび3bはそれぞれアノード電極層およびカソード電極層である。4は薄膜半導体2および電極層3から成るガンダイオード素子である。5は薄膜半導体をエピタキシャル成長するための単結晶基板である。6は単結晶基板5を薄膜半導体2から分離するための選択除去層である。
図1に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードは、表面が導電性の導電性基体1の表面に、薄膜半導体2の第1のn+型層2a、n型層2bおよび第2のn+型層2cと電極層3a,3bとを順次積層して成る複数個のガンダイオード素子4の第1のn+型層2aが接合されている構成である。
上記構成において、薄膜半導体2は独立したアノード部2dおよびカソード部2eから成り、アノード部2d上およびカソード部2e上のそれぞれにアノード電極層3aおよびカソード電極層3bが形成されている。すなわち、アノード部2dおよびアノード電極層3aから成るアノードのガンダイオード素子4aとカソード部2eおよびカソード電極層3bから成るカソードのガンダイオード素子4bとの少なくとも2つのガンダイオード素子4が構成されている。これによって、アノードのガンダイオード素子4aとカソードのガンダイオード素子4bとは、導電性基体1によってアノード電極層3aとカソード電極層3bとの間に電気的に直列接続されるとともに、ほぼ同一平面上にアノード電極層3aおよびカソード電極層3bが位置することとなり、これによってガンダイオードをミリ波発振器を構成する平板基板上にフェースダウン姿勢で容易に実装でき、実装性が良好であり発振特性が安定するものとなる。
また、薄膜半導体2の材料としてはGaAs,インジウム燐(InP),窒化ガリウム(GaN)等を用いれば、良好なガンダイオード動作を得ることができて、好適である。
図1に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードは、アノード電極層3aとカソード電極層3bとの間に、薄膜半導体2のn型層2bにバルク負性抵抗効果が発生するのに十分な電圧値の電圧を印加することによって、5〜100GHzの発振電流がアノード電極層3aとカソード電極層3bとの間から出力されるといった動作をする。
図1に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードは、表面が導電性の導電性基体1の表面に、薄膜半導体2の第1のn+型層2a、n型層2bおよび第2のn+型層2cとアノード電極層3a,カソード電極層3bとを順次積層して成る複数個のガンダイオード素子4の第1のn+型層2aが接合されていることから、導電性基体1の材質の選択の自由度が高くなるため、導電性基体1として、放熱性,導電性および応力に対する強度が最適になるような材質のものを選択することができるものとなる。また、ガンダイオードにおいては、ガン効果を生じさせる主要部であるガンダイオード活性層となるn型層2bがコンタクト層である第1のn+型層2a上にあり、導電性基体1との接合の際にこの第1のn+型層2aによってn型層2bが保護されるものとなる。しかも、この第1のn+型層2a自体は高い導電性を有しており、基体に接合された場合にもその導電性が損なわれるようなことはないので、ガンダイオード素子4の第1のn+型層2aを導電性基体1に接合しても、このガンダイオード素子4において良好な発振特性を得ることができるものとなる。
また、図1に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードは、上記構成において、導電性基体1の材質はガンダイオード素子4の薄膜半導体2よりも熱伝導率が高いものが好ましく、例えば、薄膜半導体2がGaAsもしくはInPである場合に対しては、導電性基体1にはシリコン(Si),炭化珪素(3C−SiC,6H−SiC,4H−SiC),銅(Cu),金(Au),アルミニウム(Al)等が好適である。これにより、GaAsの熱伝導率は54W/m・Kであり、InPの熱伝導率は70W/m・Kであるのに対して、Siは148W/m・Kであり、3C−SiCおよび6H−SiCおよび4H−SiCは490W/m・Kであり、Cuは398W/m・Kであり、Auは約313W/m・Kであり、Alは約240W/m・Kであるので、それぞれガンダイオード素子4からの熱を効率的に導電性基体1に伝導させて導電性基体1の表面から放散させることができ、ガンダイオード素子4の温度上昇を抑えることができるものとなる。また、Cuは3C−SiCもしくは6H−SiCもしくは4H−SiCよりも熱伝導率が若干低いものの、3C−SiCもしくは6H−SiCもしくは4H−SiCの比抵抗が約1×10−4Ω・m〜1×10−5Ω・mであるのに対して、Cuの比抵抗は約2×10−8Ω・mと小さく、導電性基体1での電流の損失を小さくすることができるとともに、導電性基体1自体の抵抗による発熱を抑制できるものとなる利点がある。さらに、GaAsもしくはInPは、シリコン(Si),炭化珪素(3C−SiC,6H−SiC,4H−SiC),銅(Cu),金(Au),アルミニウム(Al)に比べて大変脆いので、導電性基体1にシリコン(Si),炭化珪素(6H−SiC,4H−SiC),銅(Cu),金(Au),アルミニウム(Al)を用いれば、GaAsもしくはInPを用いるよりも、実装の際もしくは実装後に、導電性基体1のガンダイオード素子4との接合部またはガンダイオード素子4間に応力がかかっても、ガンダイオードのそれらの部位が壊れにくいものとなる。
また、導電性基体1の材質は、電気的には、単に複数個のガンダイオード素子4のそれぞれの間を接続する導体として働けばよく、単結晶でなくても構わない。むしろ、導電性基体1の材質は、結晶性の低いものや、非晶質もしくは多結晶質であった方が、導電性基体1が単結晶であれば劈開性のある結晶軸に沿って応力が働いたときに導電性基体1が劈開性のある結晶軸に沿って破壊されやすいといった問題が少なくなり好適である。
また、図1に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードは、上記構成において、アノード部2dは第1のn+型層2a、n型層2bおよび第2のn+型層2cの3層構造から成るメサ構造のものとして形成されており、その直径はガンダイオード素子4にそれが動作する適切な電流密度の電流が流れるように適宜設定すればよく、例えば、φ20μm〜100μmが好適である。
また、図1に示すようにアノード部2dは複数個から成るものとしてもよく、その個数は要求される発振出力によって適宜選択して設定すればよい。複数個のアノード部2dを用いることによって、個々のアノード部2d内の電流密度を適切なものとしつつ、複数個のアノード部2dの全電流の電流値を増大できるので高出力な発振出力が得られるものとなる。また、複数個のアノード部2dが分散して配置されることから、熱源が分散されて放熱が良好なものとなる。一方、カソード部2eはアノード部2dと同じ3層構造である第1のn+型層2a、n型層2bおよび第2のn+型層2cから成り、アノード部2dより大きい面積が好適である。これにより、カソード部2eの電流密度を下げて、カソード部2eではガンダイオードとして動作しないようにすることができ、アノード部2dに限ってガンダイオードとして動作させて、アノード電極層3aに接続される共振器に発振出力できる。また、アノード部2dおよびカソード部2eは、導電性基体1の表面全体に比べてはるかに小さい領域で導電性基体1の表面に接合されていることから、貼り合わせ時に発生するガンダイオード素子4の内部応力が抑制されるため、ガンダイオード素子4においてクラックや欠陥を含まない良好な結晶性が維持されたものとなる。
次に、図2乃至図5に示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードの製造方法について詳細に説明する。
図2乃至図5に工程毎の模式的な断面図で示す本発明の実施の形態の一例のガンダイオードの製造方法は、基板5上に選択除去層6と薄膜半導体2の第2のn+型層2c、n型層2bおよび第1のn+型2a層とを順次エピタキシャル成長させる工程1と、第2のn+型層2c、n型層2bおよび第1のn+型層2aの所定領域を選択除去層6が露出するまで除去して複数個の薄膜半導体部2d,2eを形成する工程2と、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合する工程3と、選択除去層6を除去して基板5を薄膜半導体部2d,2eから分離する工程4と、薄膜半導体部2d,2eの第2のn+型層2c上に電極層を形成する工程5とを順次行なう構成である。
なお、図2,図3,図4および図5は、本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例において、それぞれ、工程1終了後,工程2終了後,工程3終了後および工程4終了後の同じ部分の断面模式図を示している。また、図1は工程5終了後の完成品であるガンダイオードの図2乃至図5と同じ部分の断面模式図を示している。
まず、図2に工程1終了後の様子を示す本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例の工程1においては、有機金属化学気相成長(MOCVD)法によって薄膜半導体2を単結晶基板5上にエピタキシャル成長を行なうことによって、薄膜半導体2から成る第2のn+型層2c,n型層2bおよび第1のn+型層2aを順次積層する。
その際に、薄膜半導体2から成る第2のn+型層2c,n型層2bおよび第1のn+型層2aのそれぞれの不純物濃度については、マスフローコントローラによる原料ガス流量の高精度な制御によって調整すればよい。また、分子線エピタキシー(MBE)法によって薄膜半導体2を単結晶基板5上にエピタキシャル成長を行なっても構わない。この場合には、薄膜半導体2の原料坩堝を加熱して分子線を発生させ、その分子線を高温に保持された単結晶基板5上に照射することによって単結晶である薄膜半導体2が形成される。その際には、不純物濃度については、不純物材料が保持された坩堝を高精度に温度制御して決められた分量の不純物分子線を結晶成長中に同時に基板に照射することによって調整すればよい。
また、単結晶基板5には、薄膜半導体2の材質として用いるGaAs,InPもしくはGaN等の格子定数と整合するものを用いる。例えば、GaAsの場合には、GaAs単結晶基板を用いると好適である。また、InPの場合にはInP単結晶基板を用いると好適である。また、GaNの場合にはGaN単結晶基板、サファイア単結晶基板、SiC単結晶基板もしくはSi単結晶基板等を用いることができる。GaNの場合には、GaN単結晶基板が好適である。なお、それ以外のものでも、ガンダイオード素子4と単結晶基板5との間に横成長を施してバッファ層を形成することにより、格子定数差を緩和し、格子定数が整合しなくても結晶性が改善された薄膜半導体2を成長させることができる。
次に、図3に工程2終了後の様子を示す本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例の工程2においては、ガンダイオード素子4は、アノードのガンダイオード素子4aおよびカソードのガンダイオード素子4bに分離するために、図2に示す第2のn+型層2c、n型層2bおよび第1のn+型層2aの所定領域を、フォトリソグラフィ技術を用いて、選択除去層6の表面が露出するまでエッチングすることによって選択的に除去し、アノード部2dおよびカソード部2eを形成する。
このエッチング用のエッチング溶液としては、単結晶基板5の材質がGaAsの場合には、例えば、硫酸(H2SO4)と過酸化水素水(H2O2)との混合溶液が好適である。また、単結晶基板5の材質がInPの場合には、例えば、臭化水素(HBr)とフッ酸(HF)との混合溶液が好適である。これらのエッチング溶液を用いれば、選択除去層6にエッチング作用を与えずに、ガンダイオード素子4のみがエッチングされるため、選択除去層6がエッチングストッパ(エッチング停止層)として働き、選択除去層6の表面が完全に露出するまで薄膜半導体2の所定領域を均一にエッチングすることができるものとなる。
また、アノード部2dおよびカソード部2eは、それらが形成される単結晶基板5の表面に比べるといずれも小さい領域となるため、後述する選択除去層6のエッチングの際に、エッチング溶液がガンダイオード素子4の下部にも十分に行き渡りやすくなり、単結晶基板5をガンダイオード素子4から確実に分離できるものとなる。
次に、図4に工程3終了後の様子を示す本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例の工程3においては、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合する。これには、例えば、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aの表面と導電性基体1の表面とを親水化処理した後、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aの表面と導電性基体1の表面とを対向させた状態で重ね合わせ、これらを圧着することにより貼り合わせて、しかる後、熱処理をすればよい。
より詳細には、例えば、まず、4H−SiC単結晶から成る導電性基体1を準備し、GaAsから成るガンダイオード素子4の第1のn+型層(n+GaAs層)2aの表面および4H−SiC単結晶から成る導電性基体1の表面をそれぞれ親水化処理する。この親水化処理には、液温が15℃〜25℃で濃度が10%〜50%のフッ酸(HF)溶液を用いて、この溶液にガンダイオード素子4の第1のn+型層2aの表面および4H−SiC単結晶から成る導電性基体1の表面を0.5分〜5分程度浸漬すればよい。これにより、それら両者の表面には水酸(OH)基が存在することとなる。
そして、GaAsから成るガンダイオード素子4の第1のn+型層(n+GaAs層)2aおよび4H−SiC単結晶から成る導電性基体1のそれぞれのOH基が存在する表面を接近させれば、それらOH基が存在する表面同士にファン・デア・ワールス相互作用(Van・Der・Waals interaction)が働き、それら両者が引き合って、GaAsから成るガンダイオード素子4の第1のn+型層2aおよび4H−SiC単結晶から成る導電性基体1が仮に接合される。このとき、導電性基体1のこの接合面は、好ましくは表面が算術平均粗さRaで0.0005μm以下になるまで予め表面研磨されているとよい。これより粗い表面粗さでは、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aおよび導電性基体1のそれぞれ接合しようとしている2つの表面の間に大きな隙間が生じてしまって貼り合わせが良好に行なえなくなる傾向がある。
また、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aの表面と導電性基体1の表面との圧着には、両者が均一に合わさるように2×105N/m2〜20×105N/m2の圧力で5分〜20分間、両者を押圧すればよい。これにより、ファン・デア・ワールス相互作用が圧着面に対して均一に強く働く。この相互作用は距離の6乗に反比例することから、導電性基体1もしくは単結晶基板5が破損しない程度に強く押圧することが好ましい。
また、工程3の最後に、仮に接合されたGaAsから成るガンダイオード素子4の第1のn+型層(n+GaAs層)2aと4H−SiC単結晶から成る導電性基体1との界面に熱処理を施す。この熱処理によって、GaAsから成るガンダイオード素子4の第1のn+型層2aと4H−SiC単結晶から成る導電性基体1との界面に存在した水素やその他の吸着ガスは外部に放出され、さらには、その界面で、原子の再配列が起こり強固な結合を形成することができる。この熱処理には、アニール炉を用いて窒素または水素雰囲気中、GaAsから成るガンダイオード素子4の第2のn+型層2aの表面に1×104N/m2〜10×104N/m2の圧力をかけながら、400℃〜700℃で1時間〜3時間程度、より好ましくは400〜500℃で1時間程度行なうと好適である。その温度範囲よりも高温(>700℃)で熱処理したときには、接合強度は増加するが、GaAs結晶から砒素が気化し、ガンダイオード素子4の結晶性が劣化するので、ガンダイオードの発振特性が不十分なものとなる傾向がある。また、その温度範囲よりも低温(<400℃)で熱処理したときには、十分な接合強度が得られなくて、導電性基体1に弱い力が加わっても導電性基体1がガンダイオード素子4から取れてしまってガンダイオード動作しなくなることがあり信頼性の低いものとなる傾向がある。
また、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合する別の方法としては、半田等の低融点金属接合材を用いてそれら両者を接合してもよい。この場合には、ファン・デア・ワールス相互作用を用いた接合方法よりも強固な接合を得ることができるものとなる。また、導電性基体1の表面粗さをRaで0.0005μm以下とする必要もない。
半田等の低融点金属接合材を用いて薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合するには、例えば、予め表面に低融点金属接合材を3〜5μmの厚みで形成した導電性基体1と、ガンダイオード素子4が形成された単結晶基板5の第1のn+型層2a側の表面とを、低融点金属接合材を挟んで接触させた状態で、低融点金属接合材が溶融する温度まで昇温することで両者を接合する。低融点金属接合材は、例えばCrとAuとの二層構造、またはTiとPtとAuとの三層構造である。第1のn+型層2aと接触するCrもしくはTiは、次層の低融点金属層と第1のn+型層2aとの接着強度を高める働きがある。また、表面側のAu層の働きは、電気的に低抵抗にすることである。また、少なくとも2μm以上の厚みを必要とし、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合する際に、Au−Au接合となるので接合しやすいという利点もある。また、三層構造においてPt層を入れる目的は、下地のTiが表面側のAu層に拡散するのを防ぐことにある。なお、薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1の表面に接合する際に、熱的に良好に接合するためには、表面の金属はAuよりもAuSn合金やInが好ましい。この理由は、融点が150℃から350℃程度の低融点金属接合材を介して接合することによって、作製時には低いエネルギーで薄膜半導体部2d,2eの第1のn+型層2aを導電性基体1と接合することができ、ガンダイオード素子4の動作時における密着性と電気的導通とを良好に保つことが可能となるからである。
また、以上のような熱的な接合方法に限らず、両者の表面を接触させた状態で外部から超音波により接触部の金属にエネルギーを与えて、分子再配置を起こさせることによって接合しても構わない。また、これらの接合方法の一つを単独で用いるのではなく、二つを併用しても構わない。
次に、図5に工程4終了後の様子を示す本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例の工程4においては、選択除去層6にはエッチング作用し薄膜半導体部2d,2eにはエッチング作用しないエッチング溶液を用いて選択除去層6をエッチングすることによって、単結晶基板5をガンダイオード素子4から分離する。例えば、薄膜半導体部2d,2eの材質としてGaAsを用いる場合には、選択除去層6の材質として砒化アルミニウム(AlAs)を用い、エッチング溶液にはフッ酸(HF)溶液を用いればよい。また、薄膜半導体部2d,2eの材質としてInPを用いる場合には、選択除去層6の材質としてはインジウム・ガリウム・砒素・燐(InGaAsP)を用い、エッチング溶液にはフッ酸(HF)と硝酸(HNO3)との混合溶液を用いればよい。これによって、薄膜半導体部2d,2eに物理的,化学的,熱的なダメージを与えることがなく、薄膜半導体部2d,2eの良好な結晶性を維持できるので、良好な発振特性が得られるものとなる。さらに、単結晶基板5もエッチング時にダメージを受けないので、単結晶基板5を薄膜半導体部2d,2eから分離後に再度、単結晶基板5をエピタキシャル成長用の基板として繰り返し使用することができるものとなる。
最後に、図1に工程5終了後の様子を示す本発明のガンダイオードの製造方法の実施の形態の一例の工程5においては、ガンダイオード素子4の第2のn+型層(n+GaAs層)2cの表面に電極層3をオーミックに形成する。電極層3は、例えば、金ゲルマニウム(AuGe)層とニッケル(Ni)層と金(Au)層との三層構造である。n+GaAs層と接触するAuGeはGaAsと混晶を作りオーミック特性を発現するためのものであり、NiはGeの拡散を防ぐためのものであり、Auは電極として電気的に低抵抗にするためのものである。Au層上には、さらに金(Au)から成るバンプ電極を蒸着法や電界メッキ法等により形成してもよい。この場合には、ガンダイオードをミリ波発振器の平板基板等にフリップチップ実装する際に、接合が容易であるAu−Au接合を用いることができるので、ガンダイオードの実装がしやすいものとなる利点がある。
次に、本発明のガンダイオードおよびその製造方法の実施例について、その製造工程の例に沿って順に説明する。
まず、図2に断面図で示すように、単結晶基板5としてのGaAs単結晶基板上に、MOCVD装置を用いて選択除去層6としてのAlAs層,第2のn+型層2cとしてのn+型GaAs層,n型層2bとしてのn型GaAs活性層および第1のn+型層2aとしてのn+型GaAs層の薄膜半導体を順次結晶成長させて積層した。この層構成における各層の厚みは、例えばAlAs層6は100nm,n+型GaAs層2cは200nm,n型GaAs活性層2bは1.6μm,n+型GaAs層2aは0.6μmとした。また、各薄膜半導体におけるキャリア濃度は、AlAs層6では1×1014/cm3以下,n+型GaAs層2cでは2×1018/cm3以下,n型GaAs活性層2bでは1×1016/cm3〜3×1016/cm3の範囲で直線的に変化させ、n+型GaAs層2aでは2×1018/cm3以下とした。
なお、薄膜半導体2となるn+型GaAs層2c,n型GaAs活性層2b,n+型GaAs層2aの総厚みは、50μm程度まで大きくすることが可能である。しかし、総厚みが50μmを超えると、n型GaAs活性層2bで発生した熱を熱伝導率の高い導電性基体1へ良好に伝達あるいは放射することが十分に行なえなくなるため、ガンダイオード活性層であるn型GaAs活性層2bの温度が上昇してしまい、ミリ波出力強度の低下を引き起こしたり、ガンダイオードの発振周波数の安定性について信頼性を低下させたりするようになる傾向がある。
次に、図3に断面図で示すように、積層した第2のn+型GaAs層2c、n型GaAs層2bおよび第1のn+型GaAs層2aを、硫酸と過酸化水素水との混合溶液からなるエッチング液(H2SO4:H2O2:H2O=1:5:5)により選択的にエッチングすることによって除去し、アノード部としてのφ30μmのアノードメサ2dを6個、さらにカソード部として、アノードメサ2dの両端に、長さが300μmであり、幅が150μmであるカソードメサ2eを2個形成した。このとき、AlAs層6がエッチングストッパとなり、アノードメサ2dおよびカソードメサ2e以外の領域の第2のn+型GaAs層2c、n型GaAs層2bおよび第1のn+型GaAs層2aは、AlAs層6が完全に露出するまで除去された。
なお、円柱状のアノードメサ2dの直径は、100μm程度まで大きくすることが可能である。しかし、100μmを超えて大きくなると、ガンダイオード素子4の発熱量が大きくなり、特に円柱状のアノードメサ2dの中心部で発生する熱は、導電性基体1への熱放射が十分でなくなるため、ガンダイオード活性層の温度が上昇してしまい、ミリ波発振出力強度の低下やガンダイオードの発振周波数の安定性について信頼性を著しく低下させてしまうこととなる。このため、より大きなミリ波発振出力が望まれる場合には、円柱状のアノードメサ2dの直径を100μmを超えるような大きさにまで大きくすることなく、複数個の小径の円柱状のアノードメサ2dを設けて、それらの出力を合計することによってより大きなミリ波発振出力を得るようにすればよい。
次に、図4に断面図で示すように、GaAs単結晶基板5上に形成されたガンダイオード素子4の表面と、熱伝導率がGaAsよりも高く、表面粗さが算術平均粗さRaで0.0005μm以下の導電性基体1としての4H−SiC単結晶基板の表面とを接合した。
予め4H−SiC単結晶基板1の表面とガンダイオード素子4が形成されたGaAs単結晶基板5の表面とは、液温が15℃で濃度が10%の沸酸溶液に約1分程度浸漬し、水素化処理をした。なお、濃度10%以上の沸酸溶液に長時間浸漬すると、全てのAlAs層6がエッチングされ薄膜半導体部2d,2eが剥離してしまう不具合が生じる。
次に、GaAs単結晶基板5上に形成されたガンダイオード素子4の表面と4H−SiC単結晶基板1の表面とを重ね合わせて、それら界面に押圧が加わるようにして仮接合した。そして、この仮接合したものを、アニール炉を用いて水素雰囲気中にて、100N/cm2〜200N/cm2の圧力を加えながら400℃〜450℃で1時間熱処理した。これにより、4H−SiC単結晶基板1とガンダイオード素子4のGaAs単結晶半導体膜との接合界面では、原子の再配列が起こり強固な結合が形成され、圧力を開放しても接合界面は離れなかった。
次に、図5に断面図で示すように、濃度50%以上のフッ酸溶液に浸し、AlAs層6のみをエッチングし、ガンダイオード素子4からGaAs単結晶基板1を除去した。このとき、ガンダイオード素子4のカソードメサ2eおよびアノードメサ2dのみでガンダイオード素子4と4H−SiC単結晶基板1とが接合されている状態とした。ガンダイオード素子4のカソードメサ2eおよびアノードメサ2aは、4H−SiC単結晶基板1の表面に離散的に存在するので、両者の熱膨張係数および格子定数差に起因するクラックは発生せず、また、2インチサイズの4H−SiC単結晶基板1の反りは50μm以下に抑制できた。
最後に、図1に断面図で示すように、ガンダイオード素子4の第2のn+GaAs層2cの表面にオーミック電極である電極層3とバンプ電極(図示せず)を形成してガンダイオードを完成させた。電極層3は、AuGe層とNi層とAu層との三層構造として、AuGe層の厚みは150nm、Ni層の厚みは30nm、Au層の厚みは150nmとした。また、バンプ電極は厚さ5μmのAuバンプとした。また、電極層3およびバンプ電極の作製には、真空蒸着法で薄膜を作製し、リフトオフ法を用いて、その薄膜をパターン形成する方法を用いた。
そして、図7に示すように、この完成させたガンダイオードであるガンダイオード101を窒化アルミニウムから成る誘電体基板102上に形成された厚みが3μmのAu層からなる共振器103上へ、熱および超音波接合によって実装した。このとき、温度は150℃〜200℃、超音波出力は50W〜150Wとした。これらの範囲外の実装条件では、共振器103とガンダイオード101との密着が不十分でミリ波発振しない場合があった。
以上のようにして得られた本発明の実施例のガンダイオード素子の活性層部位の温度は、駆動時に80℃〜90℃となり、GaAs基板上に作製したGaAsガンダイオード素子の活性層温度と比べて30℃〜40℃の温度降下が確認された。
かくして、本発明によれば、良質な薄膜単結晶から成るガンダイオード素子を、その薄膜単結晶とは元は別である表面が導電性の基体上に接合させることによって、基体に対して望まれている熱伝導特性,電気伝導特性および機械的特性等を考慮に入れた基体の材質の選択の自由度が高くて、例えば、基体に熱伝導率の高いものを選択して、動作中に発生した熱を外部へ放熱することができ、ガンダイオード活性層の温度上昇を抑制してミリ波出力の強度を安定させることができ、しかも、ミリ波変換効率が高く高出力であるため注入電力を低く抑えることができ、その結果、ガンダイオード素子の結晶に欠陥発生を抑制できる、長期間動作の信頼性も高いガンダイオードおよびその製造方法を提供することができるものとなる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例または実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何等差し支えない。例えば、選択除去層にAlGaAs層を用いてもよい。この場合には、GaAs基板の表面に水素化処理を行なう際に、弗酸溶液による選択除去層のエッチング速度が遅くなり、GaAs単結晶基板5の表面が水素化し易く、基板接合を強固にすることができるものとなる。