機関の始動時の回転速度が常に一定であれば、特許文献3に記載された発明のように、機関の始動時の回転速度(クランキング速度)に相当する回転周期のデータを固定値としても、始動時の初回の点火位置を的確に定めることができる。
しかしながら実際には、機関のクランキング速度は一定とは限らないため、特許文献3に示された始動装置では、始動操作開始後最初に点火を行わせる位置を的確に定めることができないことがあり、機関の始動性が悪くなることがあった。特に始動装置としてリコイルスタータを用いる場合には、運転者がスタータのロープを引っ張る際の力の加え加減により、クランク軸の回転速度が大幅に変動する。また機関のクランキング速度は、機関の潤滑油の粘度の影響を大きく受けるため、機関の始動時の周囲温度によってもクランキング速度が大きく異なる。
そのため、特許文献3に示された始動装置によった場合には、始動操作開始後最初に点火を行わせるクランク角位置が、適正な範囲から大幅にずれることが多く、機関の始動性が悪くなるのを避けられない。
本発明の目的は、機関の始動時の点火位置を正確に定めて機関の始動性を向上させることができるようにした内燃機関用点火装置を提供することにある。
本発明は、内燃機関と同期回転する交流発電機内に設けられて、正方向電圧からなる半波と該正方向電圧からなる半波の前後にそれぞれ現れる第1及び第2の負方向電圧からなる半波とを有する交流電圧を内燃機関のクランク軸の1回転当たり1回発生するエキサイタコイルと、点火コイルの一次側に設けられて正方向電圧により一方の極性に充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられたときに導通して点火用コンデンサに蓄積された電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させるように設けられた放電用スイッチと、エキサイタコイルの第1及び第2の負方向電圧により電源コンデンサを充電して制御用直流電圧を生成する電源回路と、電源回路が出力する直流電圧を電源電圧として動作するマイクロプロセッサを用いて内燃機関の点火位置を制御する点火制御部とを備えた内燃機関用点火装置を対象とする。
本発明においては、上記点火制御部が、電源回路の出力が確立してマイクロプロセッサが動作を開始したときにタイマに計時動作を開始させる計時動作開始手段と、エキサイタコイルが出力する負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する負方向電圧判定手段と、内燃機関が始動時の状態にあるときに負方向電圧判定手段が第1の負方向電圧を検出してから第2の負方向電圧を検出するまでの時間T1から求めた回転速度で第2の負方向電圧が検出されたクランク角位置から始動時に適した点火位置まで内燃機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データとして第2の負方向電圧が検出されたときに演算して、演算した点火位置検出用計時データの計測を直ちに開始させることにより内燃機関の点火位置を始動時に適したクランク角位置とするように点火信号の発生位置を制御する始動時点火制御手段を備えている。
上記始動時点火制御手段は、内燃機関の始動操作開始後最初に負方向電圧が検出されたときに、該最初に検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定して、第2の負方向電圧であると判定したときに、タイマの計測値(マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が検出されるまでの時間)Tsを第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データの演算を行うように構成されている。
上記のように、内燃機関が始動時の状態にあるときに、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1を計測して、この時間から得られる機関の回転速度の情報を用いて機関の始動時の点火位置を検出するための計時データをして求め、この計時データの計測を直ちに開始させることにより始動時の点火信号を発生させるようにすると、機関のクランク軸の回転速度が細かく変動する機関の始動時に、点火位置をその直前に求めた回転情報に基づいて検出することができるため、始動時の点火位置を正確に検出して、機関の始動性を向上させることができる。
また始動時点火制御手段を上記のように構成すると、機関の始動時の点火位置を第2の負方向電圧の発生位置よりも遅れた位置(エキサイタコイルが交流電圧を発生する区間を越えた位置)に設定することができるため、点火位置の進角幅を広くとることができる。
特に、上記のように、内燃機関の始動操作開始後、最初に検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定して、最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定したときに、マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が検出されるまでの時間Tsを第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるするまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データの演算を行うように始動時点火制御手段を構成しておくと、始動操作開始後最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であるときに、始動操作開始直後から、機関の実際の回転速度にほぼ等しい回転速度に対して点火位置を検出して点火動作を行わせることができるため、始動操作開始後のクランク軸の1回転目から、適正なクランク角位置で点火を行わせることができる確率を高くして、機関の始動性を向上させることができる。
本発明の好ましい態様では、上記点火制御部が、以下の要素により構成される。
(a)電源回路の出力が確立してマイクロプロセッサが動作を開始したときにタイマに計時動作を開始させる計時動作開始手段。
(b)点火位置検出用計時データを計測する点火タイマを備えて該点火タイマが点火位置検出用計時データの計測を完了したときに点火信号を発生する点火信号発生手段。
(c)エキサイタコイルが出力する負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する負方向電圧判定手段。
(d)第1の負方向電圧の発生位置と第2の負方向電圧の発生位置とを検出する負方向電圧発生位置検出手段。
(e)内燃機関が始動時の状態にあるか始動を完了した状態にあるかを判定する始動完了判定手段。
(f)始動完了判定手段により内燃機関が始動時の状態にあると判定されているときに第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間と第1の負方向電圧が検出された位置から第2の負方向電圧が検出された位置までの角度とから求まる内燃機関の回転速度で第2の負方向電圧が検出された位置から始動時に適した点火位置まで内燃機関が回転するのに要する時間を始動時の点火位置検出用計時データとして求める演算を、負方向電圧判定手段により検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定されたときに行って、演算した点火位置検出用計時データの計測を前記点火タイマに直ちに開始させることにより、内燃機関の点火位置を始動時に適した位置とするように制御する始動時点火制御手段。
(g)内燃機関の始動完了直後のアイドル回転を安定化するために内燃機関の始動完了直後のアイドル時の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角させるアイドル進角制御を行うことを許可するための条件であるアイドル進角制御条件が成立しているか否かを判定するアイドル進角制御条件判定手段。
(h)アイドル進角制御条件判定手段によりアイドル進角制御条件が成立していると判定されているときに前記内燃機関の始動完了直後のアイドル時の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角させるように前記点火信号の発生位置を制御するアイドル進角制御手段。
(i)始動完了判定手段により内燃機関が始動を完了した状態にあると判定され、かつアイドル進角制御条件判定手段によりアイドル進角制御条件が成立していないと判定されているときに点火位置を内燃機関の定常運転時に適した位置とするように点火信号の発生位置を制御する定常運転時点火制御手段。
上記始動時点火制御手段は、負方向電圧判定手段により内燃機関の始動操作開始後最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定されたときに、負方向電圧が最初に検出されたときのタイマの計測値を第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間と見なして点火位置検出用計時データの演算を行うように構成される。
上記始動完了判定手段は、内燃機関の回転速度が始動判定速度未満の時に内燃機関が始動時の状態にあると判定し、内燃機関の回転速度が始動判定速度以上を一定期間継続したときに内燃機関が始動を完了した状態にあると判定するように構成することができる。始動判定速度は、内燃機関が始動を完了した状態にあるときの回転速度に等しく設定しておく。
上記始動完了判定手段はまた、内燃機関の回転速度が始動判定速度未満で、かつ内燃機関の始動操作が開始された後の該機関のクランク軸の回転回数が設定回数以下であるときに内燃機関が始動時の状態にあると判定し、内燃機関の回転速度が始動判定速度以上を一定期間継続したとき、及び内燃機関の回転速度が始動判定速度未満であるが内燃機関の始動操作が開始された後の該機関のクランク軸の回転回数が前記設定回数を超えているときには前記内燃機関が始動を完了した状態にあると判定するように構成することもできる。この場合、上記設定回数は、内燃機関が始動できない状態で(例えば、点火装置の点火動作を停止させた状態で)人力によりクランキングを行なった際のクランク軸の最大回転回数に相当する値に設定する。
上記のように始動完了判定手段を構成すると、リコイルスタータ等の人力による始動装置により機関を始動させる場合には、内燃機関の始動操作が開始された後のクランク軸の回転回数が設定回数を超えることはないため、機関の回転速度が始動判定速度未満のときに機関が始動状態にあると判定され、機関の回転速度が始動判定速度以上を一定期間継続したときに始動が完了している(定常運転時の状態にある)と判定される。従って人力により機関を始動させる場合には、始動時の点火位置を上死点位置付近の始動時に適した位置として、機関の始動性を向上させることができる。
これに対し、スタータモータを用いてクランキングを行なうことにより機関を始動させる場合には、機関は自発的に回転しなくても、スタータモータによりその回転が維持される。この場合、始動時に適した点火位置(始動時用点火位置)を上死点位置に近い位置に一つだけ設定しておいて、始動時に回転速度が設定回転速度未満であると判定されているときに設定された始動時用点火位置で点火を行なわせ、回転速度が設定回転速度に達したときに定常時の点火に移行させるようにすると、クランキングの脈動により、ケッチン(ピストンが上死点を越えることができなくなって押し戻される現象)が発生する可能性が高くなる。
上記のような問題が生じるのを防ぐためには、始動時用点火位置を予め複数個設定しておいて、第1の負方向電圧が検出される周期から演算された回転速度に応じて始動時用点火位置として設定されている複数の点火位置の中から最適の点火位置を選択するようにするのが好ましい。
例えば、始動時に適した点火位置として、上死点位置に近い第1の始動時用点火位置と、この第1の始動時用点火位置よりも進角した第2の始動時用点火位置(アイドル回転時の点火位置として適した点火位置)との2つの始動時用点火位置を設定するとともに、始動時用点火位置を切り換える点火位置切換回転速度IGCHNEと、機関が始動時の運転状態にあるか否かを判定するための始動判定速度SNCHNEとを設定しておいて、IGCHNE<回転速度のときに上死点位置に近い第1の始動時用点火位置で点火を行なわせ、IGCHNE≦回転速度<SNCHNEのときに第2の始動時用点火位置で点火動作を行なわせるようにするのが好ましい。
上記のように構成すると、例えば、始動開始時の点火位置と初爆が行なわれた後の点火位置とを異ならせて、始動開始時の点火位置及び初爆後の点火位置をそれぞれ最適の位置に設定することができるため、機関の始動性を向上させるとともに、機関が始動した後アイドル運転に移行する過程での機関の回転を安定にすることができる。
本発明の好ましい態様では、上記アイドル進角制御条件判定手段が、アイドル進角制御手段による点火回数が設定値以下のときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、アイドル進角制御手段による点火回数が設定値を超えているときにアイドル進角制御条件が成立していないと判定するように構成される。
本発明の他の好ましい態様では、上記アイドル進角制御条件判定手段が、アイドル進角制御手段による点火位置の制御が開始されてからの経過時間が設定時間以下のときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、アイドル進角制御手段による点火位置の制御が開始されてからの経過時間が設定時間を超えているときにアイドル進角制御条件が成立していないと判定するように構成される。
本発明の更に他の好ましい態様では、上記アイドル進角制御条件判定手段が、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達していないときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達したときにアイドル進角制御条件が成立しなくなったと判定するように構成される。
本発明の更に他の好ましい態様では、内燃機関の回転速度が継続して設定されたアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達しておらず、かつアイドル進角制御手段による点火回数が設定値以下のときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達したとき、及び内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達してはいないが、アイドル進角制御手段による点火回数が設定値に達したときにアイドル進角制御条件が成立しなくなったと判定するように上記アイドル進角制御条件判定手段が構成される。
本発明の好ましい態様では、上記アイドル進角制御手段が、第1の負方向電圧が検出される周期から求められた内燃機関のアイドル回転速度で第1の負方向電圧が検出された位置から内燃機関の定常運転時の当該アイドル回転速度における点火位置よりも進角した位置に設定されたアイドル進角制御時の点火位置まで内燃機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データとして第2の負方向電圧の発生位置で演算して、演算した点火位置検出用計時データの計測を点火タイマに直ちに開始させることにより、内燃機関の点火位置を定常運転時のアイドル状態での点火位置よりも進角させる制御を行うように構成されている。
本発明の他の好ましい態様では、上記アイドル進角制御手段が、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間と第1の負方向電圧が検出される位置から第2の負方向電圧が検出される位置までの角度とから求まる内燃機関の回転速度で第2の負方向電圧が検出される位置から内燃機関の定常運転時の当該アイドル回転速度における点火位置よりも進角した位置に設定されたアイドル進角制御時の点火位置まで内燃機関が回転するのに要する時間をアイドル進角制御時の点火位置検出用計時データとして第2の負方向電圧が検出された位置で演算して、演算した点火位置検出用計時データの計測を点火タイマに直ちに開始させることにより、内燃機関の点火位置を定常運転時のアイドル状態での点火位置よりも進角させる制御を行うように構成される。
上記のように、始動完了判定手段により内燃機関が始動を完了した状態にあると判定され、かつアイドル進角制御条件判定手段によりアイドル進角制御を行う条件が成立していると判定されているときに内燃機関の点火位置を定常運転時のアイドル状態での点火位置よりも進角させるように点火信号の発生位置を制御するアイドル進角制御手段を設けておくと、始動完了直後のアイドル回転時に機関の回転速度が落ち込むのを防いで、機関の回転を維持することができるため、寒冷時など、機関の回転が不安定になる状況下でも、機関の始動直後のアイドル運転を短時間で安定化することができる。
本発明においては、所定のアイドル進角制御条件(始動直後のアイドル回転を安定化するために点火位置を定常運転時のアイドル状態での点火位置よりも進角させる制御を許可するための条件)が成立しているときにのみアイドル進角制御を行わせるので、始動直後のアイドル回転速度が必要以上に上昇するなどの事態を生じさせることなく、始動直後のアイドル回転を安定化することができる。
特に、本発明において、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達するようになるまでの間だけアイドル進角制御を行わせるようにした場合、または内燃機関の回転速度が継続して設定されたアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達しておらず、かつアイドル進角制御手段による点火回数が設定値以下のときにアイドル進角制御を行わせるようにした場合には、アイドル進角制御を行うことにより機関の回転速度が急上昇する状態が生じるのを確実に防ぐことができるため、運転者に違和感を与えることなく、始動直後のアイドル回転の安定化を図ることができる。
定常運転時の点火位置検出用計時データの演算も第2の負方向電圧の発生位置で行なわせるようにしてもよいが、演算された定常運転時の点火位置の計測を正確に行なわせるためには、点火位置の計測を開始する位置の直前に求めた回転速度から機関の点火位置を検出するための計時データを演算するのが好ましい。従って、定常運転時に点火位置検出用計時データの演算と、点火タイマに該計時データの計測を開始させるための処理とを行なうタイミングは、第1の負方向電圧が発生するタイミングとするのが好ましい。
そのため、本発明の好ましい態様では、上記定常運転時点火制御手段が、第1の負方向電圧の発生周期から求められた内燃機関の回転速度に対して演算された内燃機関の定常運転時の点火位置と第1の負方向電圧の発生周期から求められた内燃機関の回転速度で第1の負方向電圧の発生位置から演算された定常運転時の点火位置まで機関が回転するのに要する時間を定常運転時の点火位置検出用計時データとして演算する過程と該定常運転時の点火位置検出用計時データの計測を前記点火タイマに開始させる過程とを第1の負方向電圧が検出されたときに行なうように構成される。
上記のように、機関の始動時の点火位置を計測するための処理を行なう第2の負方向電圧の発生位置よりも前の第1の負方向電圧の発生位置で定常時の点火位置を計測するための処理を行なう(第1の負方向電圧の発生位置を定常運転時の点火位置を定めるための基準クランク角位置とする)ようにすると、点火位置の進角幅を広くとることができるだけでなく、演算された点火位置の検出を正確に行なわせて、点火位置の制御を高精度で行なわせることができる。
本発明の好ましい態様では、始動時点火制御手段が、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるときに点火信号の発生を無条件で許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱した状態にあるときには第2の負方向電圧が検出されてから次の第1の負方向電圧が検出されるまでの時間T0と前記第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1との比T0/T1が設定値以上であるときに前記始動時の点火信号の発生を許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱していて、前記比T0/T1が設定値未満であるときに前記始動時の点火信号の発生を禁止する点火許否手段を備えている。
上記点火拒否手段は、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるときに点火信号の発生を無条件で許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱した状態にあるときには第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1が設定値以下であるときに始動時の点火信号の発生を許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱していて、時間T1が設定値を超えているときに始動時の点火信号の発生を禁止するように構成してもよい。
始動時点火制御手段に上記のような点火許否手段を設けておくと、始動操作を開始した後、操作力の不足によりクランキング速度が不足する場合に点火動作が行なわれるのを禁止することができるため、リコイルスタータやキックスタータを用いて人力により機関を始動する際にピストンが上死点を越えることができなくなって押し戻される現象(ケッチン)が生じるのを防ぐことができる。
本発明の好ましい態様で用いる負方向電圧判定手段は、正方向電圧が検出されたときに正方向電圧検出フラグをセットし、負方向電圧が発生した後に正方向電圧検出フラグをクリアする手段を備えていて、フラグがセットされていない状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であると判定し、フラグがセットされている状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定するように構成される。
本発明の他の好ましい態様で用いる負方向電圧判定手段は、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるか否かを判定する始動初期判定手段と、始動初期判定手段により内燃機関が始動時の初期状態にあると判定されているときに負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する第1の判定手段と、始動初期判定手段により内燃機関が始動時の初期状態を脱したと判定されているときに負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する第2の判定手段とにより構成される。
この場合、第1の判定手段は、正方向電圧が検出されたときに正方向電圧検出フラグをセットし、負方向電圧が検出された後に前記正方向電圧検出フラグをクリアする手段を備えていて、前記フラグがセットされていない状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であると判定し、前記フラグがセットされている状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定するように構成される。
また第2の判定手段は、経過時間を計測しているタイマの計測値を各負方向電圧が検出される毎に読み込んで前回の負方向電圧が検出されてから今回の負方向電圧が検出されるまでの経過時間を計測する経過時間計測手段が前回計測した経過時間Toldと今回計測した経過時間Tnewとを比較して、Tnew<Told/k(kは1以上の定数)の関係が成立しないときに今回検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であると判定し、Tnew<Told/kの関係が成立したときに今回検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定するように構成される。
上記定数kの値は、1よりは大きく、内燃機関の正転時に発生する第2の負方向電圧の発生位置から次の第1の負方向電圧の発生位置までの角度を第1の負方向電圧の発生位置から第2の負方向電圧の発生位置までの角度で除した値よりは小さく設定する。定数kの値を適当な値に設定することにより、機関の急加速時や急減速時に第1の負方向電圧の発生位置と第2の負方向電圧の発生位置とを誤って検出するおそれを無くすことができる。
本発明の好ましい態様では、上記始動初期判定手段が、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が設定値未満のときに前記内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が設定値以上であるときに初期状態を脱したと判定するように構成される。
本発明の他の好ましい態様では、上記始動初期判定手段が、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値未満であるときに内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値以上であるときに内燃機関が始動時の初期状態を脱したと判定するように構成される。
本発明の好ましい態様では、内燃機関の始動時にエキサイタコイルに最初に誘起した負方向電圧がピークに達するまでの間に電源回路の出力電圧がマイクロプロセッサを動作させるのに必要なレベルに達するように電源回路の電源コンデンサの静電容量と充電時定数とが設定される。
上記のように電源回路を構成しておくと、始動操作開始後、エキサイタコイルが最初に負方向電圧を発生したときに、その負方向電圧がピークに達するまでの間にマイクロプロセッサが動作を開始してタイマの計時動作を開始させるので、エキサイタコイルが第1の負方向電圧を発生した後、マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が発生するまでの時間Tsと、第1の負方向電圧が発生してから第2の負方向電圧が発生するまでの時間T1との差は僅かである。従って、上記のように構成すると、最初に発生した負方向電圧が第1の負方向電圧である場合に、機関の始動操作開始直後の回転速度をほぼ正確に検出して、始動時の最初の点火を行うクランク角位置を正確に検出することができる。
なお本明細書において、エキサイタコイルが出力する交流電圧の各半波の電圧の正負の極性は、波形図上の極性(絶対的な極性)を意味するのではなく、エキサイタコイルが出力する交流電圧の一方の極性の半波の電圧及び他方の極性の半波の電圧の内、点火回路の点火用コンデンサを充電するために用いられる極性の半波の電圧を正方向電圧とし、点火用コンデンサを充電するために用いられる極性と反対の極性の半波の電圧を負方向電圧としている。
以上のように、本発明によれば、内燃機関の始動操作開始後最初に負方向電圧が発生したときに、最初に発生した負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定して、最初に発生した負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定したときに、マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が発生するまでの時間Tsを第1の負方向電圧が発生してから第2の負方向電圧が発生するまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データの演算を行うように始動時点火制御手段を構成したので、始動操作開始後最初に発生する負方向電圧が第1の負方向電圧であるときに、始動操作開始直後から、機関の実際の回転速度にほぼ等しい回転速度に応じて点火位置を検出して点火動作を行わせることができる。従って本発明によれば、始動操作開始後、クランク軸の1回転目から適正なクランク角位置で点火を行わせることができる確率を高くして、機関の始動性を向上させることができる。
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本実施形態のハードウェアの構成を概略的に示したもので、同図において1は図示しない内燃機関により駆動される磁石発電機、2はコンデンサ放電式の点火回路、3はマイクロプロセッサ、4a及び4bはそれぞれ第1及び第2の波形整形回路、5はマイクロプロセッサ3及び波形整形回路4に電源電圧Vccを与える電源回路である。
図2(A)に示されているように、本実施形態で用いている磁石式交流発電機1は、内燃機関(図示せず。)のクランク軸10に取り付けられた磁石回転子11と、固定子12とからなっている。磁石回転子11は、クランク軸10に取り付けられたアルミニウム製のフライホイール13と、フライホイールの径方向に着磁されてN極及びS極をそれぞれ外部に露呈させた状態でフライホイール13内に鋳込まれた永久磁石14及び15と、永久磁石14及び15とともにフライホイール13内に鋳込まれて永久磁石14のS極と永久磁石15のN極との間を接続する図示しない磁路構成部材とからなっている。また固定子12は、磁石14及び15の磁極に対向する磁極部16a,16bを両端に有するコの字形の電機子鉄心16と、電機子鉄心16に巻回されたエキサイタコイルEXとからなっていて、内燃機関のケースやカバーなどに設けられた固定子取付部に固定されている。
エキサイタコイルEXは、図4(A)に示されているように、機関が正回転しているときに、正方向電圧Vpからなる半波と、正方向電圧Vpからなる半波の前後にそれぞれ現れる第1及び第2の負方向電圧Vn1及びVn2からなる半波とを有する交流電圧を内燃機関の正転時に該機関のクランク軸の1回転当たり1回発生する。本実施形態では、機関の上死点位置(機関のピストンが上死点に達したときのクランク角位置)TDCよりも十分に進角した位置で第2の負方向電圧Vn2が発生するように固定子12の取り付け位置が設定されている。
エキサイタコイルEXの一端はアノードが接地されたダイオードD1のカソードに接続され、エキサイタコイルの他端は、同じくアノードが接地されたダイオードD2のカソードに接続されている。図1に示した点火回路2は、一次コイルW1及び二次コイルW2の一端が接地された点火コイルIGと、点火コイルIGの一次コイルの非接地側の端子に一端が接続された点火用コンデンサCiと、点火用コンデンサCiの他端と接地間にカソードを接地側に向けて接続された放電用スイッチとしてのサイリスタThiと、点火火花の放電時間を延ばすためにサイリスタThiの両端に逆並列接続されたダイオードD3とからなっている。エキサイタコイルEXの一端が、アノードを該エキサイタコイル側に向けたダイオードD4を通して点火用コンデンサCiの他端に接続され、エキサイタコイルが正方向電圧を出力したときに、エキサイタコイルEX−ダイオードD4−点火用コンデンサCi−点火コイルの一次コイルW1−ダイオードD2−エキサイタコイルEXの回路からなるコンデンサ充電回路に電流が流れて点火用コンデンサCiが図示の極性に充電される。
放電用スイッチを構成するサイリスタThiのゲートは、マイクロプロセッサ3のポートBに接続されている。後述するように、マイクロプロセッサ3は、エキサイタコイルEXの負方向電圧から内燃機関の回転情報を得て内燃機関の点火位置(点火動作を行なわせるクランク角位置)を定め、定めた点火位置を検出したときにポートBからサイリスタThiのゲートに点火信号Siを与える。サイリスタThiに点火信号Siが与えられると、サイリスタThiが導通して点火用コンデンサCiに蓄積されている電荷を点火コイルの一次コイルW1を通して放電させるため、点火コイルIGの一次コイルに高い電圧が誘起し、この電圧が更に点火コイルの一次、二次間の昇圧比により昇圧されて点火コイルの二次コイルW2に点火用の高電圧が誘起する。この高電圧は、内燃機関の気筒に取り付けられた点火プラグPLに印加されるため、該点火プラグで火花放電が生じて機関が点火される。
本実施形態では、説明を簡単にするために、内燃機関が単気筒であるとしている。機関が多気筒である場合には、例えば、点火回路2を気筒数分設けるとともに、エキサイタコイルEXを備えた固定子を気筒数分設けて、各気筒用のエキサイタコイルが出力する正方向電圧で各気筒用の点火回路の点火用コンデンサを充電するとともに、各気筒用のエキサイタコイルからマイクロプロセッサ3に各気筒用の回転情報を与えて、マイクロプロセッサ3から各気筒の点火位置で各気筒用の点火回路のサイリスタに点火信号を与えるようにすればよい。また内燃機関が2気筒である場合には、点火コイルIGの二次コイルW2の一端及び他端をそれぞれ異なる気筒の点火プラグの非接地側端子に接続して、機関の2つの気筒の点火プラグで同時に火花放電を生じさせる同時発火コイルの構成をとるようにしてもよい。
電源回路5は、エキサイタコイルEXが出力する負方向電圧で電源コンデンサを充電する回路と、該電源コンデンサの両端の電圧を一定値に保つように制御するレギュレータとからなっていて、マイクロプロセッサ3と波形整形回路4a,4bとに与える電源電圧Vccを出力する。本発明においては、内燃機関の始動時にエキサイタコイルに最初に誘起した負方向電圧がピークに達するまでの間に電源回路5の出力電圧がマイクロプロセッサ3を動作させるのに必要な一定値に達するように電源回路の電源コンデンサの静電容量と充電時定数とが設定されている。従って、電源電圧Vccの波形は、図4(B)に示したように、エキサイタコイル3が最初に出力する負電圧(図示の例では、第1の負電圧Vn1)がピークに達するまでの間に一定の電圧に達した後、ほぼ一定値を保持する波形となる。
図1に示した第1の波形整形回路4aは、エキサイタコイルEXが出力する負方向電圧Vn1及びVn2をマイクロプロセッサ3が認識し得る信号に変換する回路である。本実施形態の波形整形回路4aは、図4(C)に示したように、エキサイタコイルEXが発生する負の半波の電圧を波形整形して負方向電圧Vn1及びVn2が発生している期間低レベル(Lレベル)を保持し、負方向電圧Vn1及びVn2が発生していないときに高レベル(Hレベル)を保持する第1の矩形波信号Vqnを発生する。矩形波信号Vqnは、マイクロプロセッサ3のポートAに入力されている。マイクロプロセッサ3は、矩形波信号Vqnの立下がりをクランク信号として認識する。矩形波信号Vqnは、例えば、負方向電圧Vn1及びVn2が発生している間だけオン状態を保持するスイッチ手段の両端に得ることができる。
第1の矩形波信号Vqnは、エキサイタコイルが出力する第1の負方向電圧Vn1の発生位置及び第2の負方向電圧Vn2の発生位置で立下がり、第1の負方向電圧Vn1及び第2の負方向電圧Vn2がそれぞれ消滅する位置で立上がる信号となる。本実施形態では、機関のクランク軸が1回転する間に2回現れる第1の矩形波信号Vqnの立下がりをクランク信号としてマイクロプロセッサに認識させることにより、機関の回転情報を得る。第1の負方向電圧Vn1の発生位置(第1のクランク信号の発生位置)及び第2の負方向電圧Vn2の発生位置(第2のクランク信号の発生位置)にそれぞれ符号CRin及びCRoutを付けて2つの負方向電圧の発生位置(クランク信号の発生位置)を識別するものとする。
本実施形態では、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinを、機関の回転速度を求めるための時間データの取り込みと、機関の定常運転時の点火位置の計測の開始とを行なうタイミングを定める基準クランク角位置として用い、第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutを機関の始動時の点火位置の計測を開始する位置として用いる。
第2の波形整形回路4bは、図4(D)に示すように、エキサイタコイルが出力する正方向電圧Vpの発生位置で立ち下がり、正方向電圧Vpが消滅する位置で立ち上がる第2の矩形波信号Vqpを出力する。第2の矩形波信号Vqpは、マイクロプロセッサ3のポートCに入力されている。本実施形態では、矩形波信号Vqpの立ち下がりをマイクロプロセッサに認識させることにより、エキサイタコイルが正方向電圧Vpを出力したことの情報を得る。
なお磁石発電機の構成によっては、図20に示されているように、エキサイタコイルEXが第1の負方向電圧Vn1を出力する前に、波高値が低い正方向電圧Vp′を出力するが、波形整形回路4bのしきい値を高く設定しておくことにより、正方向電圧Vp′は検出しないようにすることができる。
マイクロプロセッサ3は、所定のプログラムを実行することにより各種の機能実現手段を構成して、内燃機関の点火位置で放電用スイッチに点火信号を与える点火制御部を構成する。点火制御部の構成例を示すブロック図を図3に示した。図3において1は図2(A)に示すように構成されて内燃機関ENGにより駆動される磁石式交流発電機、2は点火コイルIGと点火用コンデンサCiとサイリスタからなる放電用スイッチThiとを備えた点火回路、2aは磁石式交流発電機内に設けられたエキサイタコイルの正方向電圧により点火用コンデンサCiを充電するコンデンサ充電回路である。
20は点火制御部で、この点火制御部は、点火信号発生手段21と、経過時間計測手段22と、負方向電圧発生位置検出手段23と、始動完了判定手段24と、回転速度演算手段25と、始動時点火制御手段26と、アイドル進角制御条件判定手段27と、アイドル進角制御手段28と、定常運転時点火制御手段29と、計時動作開始手段38とにより構成される。
更に詳細に説明すると、点火信号発生手段21は、点火位置検出用計時データを計測する点火タイマを備えていて、該点火タイマが点火位置検出用計時データの計測を完了したときに点火信号Siを発生する。
計時動作開始手段38は、電源回路5の出力電圧がマイクロプロセッサ3を動作させるために必要な電圧値に達したときに、経過時間計測手段22に計時動作開始指令を与える手段である。
経過時間計測手段22は、計時動作開始手段38から計時動作開始指令が与えられたときにマイクロプロセッサに設けられているタイマに計時動作を開始させ、以後第1の矩形波信号Vqnの各立ち下がり(クランク信号)が検出される毎に、タイマの計測値を読み込んで、電源回路の出力電圧が確立してマイクロプロセッサ3が動作を開始したタイミングから始動操作開始後最初に発生した負方向電圧が検出されるまでの間の経過時間時間、及び第1の矩形波信号Vqnの各立ち下がり(クランク信号)が検出されてから次の立ち下がりが検出されるまでの間の経過時間(クランク信号の発生周期)を検出する手段である。
本実施形態で用いる経過時間計測手段22は、内燃機関の始動操作が開始された後、波形整形回路4が出力する矩形波信号Vqnの立ち下がり(クランク信号)を最初に検出したとき(始動操作開始後最初に負方向電圧を検出したとき)に、タイマの現在の(始動操作開始後最初に負方向電圧が発生したときの)計測値を、エンジンの始動操作が開始された後、マイクロプロセッサが動作を開始してから負方向電圧が最初に検出されるまでの経過時間Tsとして読み込む。
経過時間計測手段22はまた、始動操作開始後、矩形波信号Vqnの2番目以降の立ち下がりが検出される毎に矩形波信号Vqnの今回の立下がりが検出された際に読み込んだタイマの計測値から、矩形波信号Vqnの前回の立ち下がりが検出された際に読み込んだタイマの計測値を差し引くことにより、矩形波信号Vqnの前回の立ち下がり(CRinまたはCRout)が検出されてから今回の立下がり(CRoutまたはCRin)が検出されるまでの時間を計測する。始動操作開始後、矩形波信号Vqnの2番目以降の立ち下がりが検出される毎に経過時間計測手段22により計測される時間のうち、第1の負方向電圧Vn1の発生位置(CRin)が検出されてから第2の負方向電圧の発生位置(CRout)が検出されるまでの時間をT1とし、第2の負方向電圧Vn2の発生位置(CRout)が検出されてから第1の負方向電圧の発生位置(CRin)が検出されるまでの時間をT0とする。
負方向電圧判定手段23は、検出された(マイクロプロセッサのポートAに入力された)負方向電圧が、第1の負方向電圧Vn1であるか第2の負方向電圧Vn2であるかを判定する手段である。本実施形態で用いる負方向電圧判定手段23は、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるか否かを判定する始動初期判定手段と、この始動初期判定手段により内燃機関が始動時の初期状態にあると判定されているときに負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する第1の判定手段と、始動初期判定手段により内燃機関が始動時の初期状態を脱したと判定されているときに負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定する第2の判定手段とからなっている。
上記始動初期判定手段は、例えば、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が設定値未満のときに内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が設定値以上であるときに初期状態を脱したと判定するように構成するのが好ましい。
上記始動初期判定手段はまた、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値未満であるときに内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値以上であるときに内燃機関が始動時の初期状態を脱したと判定するように構成することもできる。
本実施形態で用いる第1の判定手段は、正方向電圧が検出されたときに正方向電圧検出フラグをセットし、負方向電圧が発生した後に正方向電圧検出フラグをクリアする手段を備えていて、正方向電圧検出フラグがセットされていない状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第1の負方向電圧Vn1であると判定し、正方向電圧検出フラグがセットされている状態で負方向電圧が検出されたときに検出された負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であると判定するように構成されている。
また第2の判定手段は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出されてから第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutが検出されるまでの時間T1と第2の負方向電圧の発生位置CRoutが検出されてから次の第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されるまでの時間T0との長短から、検出された負方向電圧が第1の負方向電圧Vn1であるか第2の負方向電圧Vn2であるかを判定する手段である。
本実施形態で用いる第2の判定手段は、経過時間計測手段22が前回検出した時間Toldと今回検出した時間Tnew(図4参照)とを比較して、Tnew<Told/k(kは1以上の定数)の関係が成立しないときに今回検出された負方向電圧が第1の負方向電圧である(矩形波信号の今回の立下がり位置が第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinである)と判定し、Tnew<Told/kの関係が成立したときに今回検出された負方向電圧が第2の負方向電圧である(矩形波信号の今回の立下がり位置が第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutである)と判定する。
経過時間計測手段22は、負方向電圧判定手段23により、今回検出した負方向電圧が第1の負方向電圧Vn1であると判定されたときに、今回取り込んだ経過時間がT0であることを認識し、今回検出された負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であると判定されたときに、今回取り込んだ経過時間がT1であることを認識する。
始動完了判定手段24は、内燃機関が始動時の状態にあるのか始動を完了した状態にあるのかを判定する手段である。図示の始動完了判定手段24は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置(CRin)が検出される回数から内燃機関の始動操作が開始された後機関のクランク軸の回転回数Pulse−cntを検出して、この回転回数Pulse_cntが設定値STARTNUM以下のとき(Pulse_cnt≦STARTNUMのとき)に内燃機関が始動時の状態にある(始動が完了していない)と判定し、内燃機関の始動操作が開始された後該機関のクランク軸の回転回数Pulse_cntが設定値STARTNUMを超えたとき(STARTNUM<Pulse_cntのとき)に内燃機関が始動を完了した状態にあると判定するように構成されている。
回転速度演算手段25は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される周期T2から内燃機関の回転速度を演算する手段である。図示の回転速度演算手段25は、第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出される毎に経過時間計測手段22が計測した時間T0とT1とを加算して前回第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されてから今回第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されるまでの経過時間T2(第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出される周期)を求め、この経過時間T2から機関の回転速度を演算する。
始動時点火制御手段26は、始動完了判定手段24により内燃機関が始動時の状態にあると判定されているときに点火信号の発生位置を制御する手段で、この始動時点火制御手段は、始動完了判定手段24により内燃機関が始動時の状態にあると判定されているときに第1の負方向電圧Vn1の発生位置が検出されてから第2の負方向電圧Vn2の発生位置が検出されるまでの時間T1と第1の負方向電圧Vn1の発生位置から第2の負方向電圧Vn2の発生位置までの角度(発電機の構成により決まる角度。)とから求まる内燃機関の回転速度で内燃機関が第2の負方向電圧Vn2の発生位置から始動時に適した点火位置θigs(図5参照)まで回転するのに要する時間Tigsを点火位置検出用計時データとして演算して該点火位置検出用計時データTigsの計測を点火タイマに直ちに開始させる過程を、第2の負方向電圧Vn2の発生位置が検出されたときに行なって、内燃機関の点火位置を始動時に適した位置とするように制御する。
図示の始動時点火制御手段26は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出されてから第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutが検出されるまでの経過時間T1と第1の負方向電圧の発生位置CRinから第2の負方向電圧の発生位置CRoutまでの角度α(図5参照)とから求まる内燃機関の回転速度で内燃機関が第2の負方向電圧の発生位置から始動時に適した点火位置まで回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTigsとして演算する始動時点火位置検出用計時データ演算手段30と、点火許否手段31と、点火位置検出用計時データTigsを点火信号発生手段21を構成する点火タイマにセットしてその計測を開始させる点火タイマ制御手段32とにより構成されている。
上死点位置TDCから第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutまでの角度をθoutとし、始動時の点火位置θigsを上死点位置TDCから進角側に測った進角度で表すものとすると、始動時点火位置検出用計時データTigsは下記の式により演算される。
Tigs=T1・(θout−θigs)/α …(1)
本発明においては、負方向電圧判定手段23により、内燃機関の始動操作開始後最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であると判定されたときには、負方向電圧が最初に発生したときのタイマの計測値(マイクロプロセッサが動作を開始してから負方向電圧が最初に発生するまでの間の経過時間)Tsを、第1の負方向電圧Vn1が発生してから第2の負方向電圧Vn2が発生するまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データの演算を行うように、上記始動時点火位置検出用計時データ演算手段30が構成されている。
点火許否手段31は、機関の始動時に点火動作を許可するか否かを決定する手段で、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるときに点火信号の発生を無条件で許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱した状態にあるときには第2の負方向電圧が検出されてから次の第1の負方向電圧が検出されるまでの時間T0と第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1との比T0/T1が設定値以上であるときに始動時の点火信号の発生を許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱していて、前記比T0/T1が設定値未満であるときに始動時の点火信号の発生を禁止する。
本実施形態では、始動時に適した点火位置として、始動開始時に適した点火位置(上死点位置付近の位置)θigs1と、始動開始後アイドル運転に移行する際の点火位置として適した点火位置(上死点位置よりも僅かに進んだ位置)θigs2との2つの点火位置が予め設定されてROMに記憶されている。始動時点火位置検出用計時データ演算手段30は、回転速度演算手段25により演算された回転速度に応じて、始動時に適した点火位置として設定された2つの点火位置θig1及びθig2の中から最適の点火位置をθigsとして選択して、(1)式により始動時点火位置検出用計時データTigsを演算する。始動時点火位置検出用計時データTigsが演算されると、点火タイマ制御手段32が直ちに点火タイマにその計時データTigsをセットしてその計測を開始させる。
時間T1を取り込んでから始動時点火位置検出用計時データTigsを演算するまでの過程は瞬時に行なわれるため、計時データTigsの計測は、第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutで開始されると見なすことができる。従って、機関の始動時には、図4に示したように、第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutが検出された時刻から始動時点火位置検出用計時データTigsにより与えられる時間が経過した時点のクランク角位置θigsで点火回路2のサイリスタThiに点火信号が与えられて点火動作が行なわれる。
上記のように、内燃機関の始動操作開始後最初に負方向電圧が検出されたときに、最初に検出された負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定して、最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定されたときに、マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が検出されるまでの時間Tsを第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データTigsの演算を行うように始動時点火制御手段を構成しておくと、図4に示したように、始動操作開始後最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であるときに、始動操作開始直後から、機関の実際の回転速度にほぼ等しい回転速度に対して初回の点火位置を検出して点火動作を行わせることができる。従って、始動操作開始後のクランク軸の1回転目から、適正なクランク角位置で点火を行わせることができる確率を高くして、機関の始動性を向上させることができる。
アイドル進角制御条件判定手段27は、内燃機関の始動完了直後のアイドル回転を安定化するために内燃機関の始動完了直後のアイドル時の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角した位置とするアイドル進角制御を行うことを許可するための条件であるアイドル進角制御条件が成立しているか否かを判定する手段である。
本実施形態では、このアイドル進角制御条件判定手段27が、アイドル進角制御手段28による点火回数が設定値以下のときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、アイドル進角制御手段28による点火回数が設定値を超えているときにアイドル進角制御条件が成立していないと判定するように構成される。即ち、本実施形態では、点火回数によりアイドル進角制御に制限をかけ、アイドル進角制御による点火回数が設定値に達したときに該アイドル進角制御を終了させるようにしている。
アイドル進角制御手段28は、アイドル進角制御条件判定手段27によりアイドル進角制御条件が成立している(アイドル進角制御を行うことが許可されている)と判定されているときに内燃機関の始動完了直後のアイドル時の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角させるように点火信号の発生位置を制御する。
図示のアイドル進角制御手段28は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される周期T2から求められた内燃機関のアイドル回転速におけるアイドル進角制御用の点火位置θigiを、内燃機関の定常運転状態での当該アイドル回転速度における点火位置よりも進角した位置として演算するアイドル進角制御時点火位置演算手段33と、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される周期T2から求められた内燃機関のアイドル回転速度で第1の負方向電圧Vn1が検出される位置からアイドル進角制御用点火位置θigiまで内燃機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTigiとして演算するアイドル進角制御用の点火位置検出用計時データ演算手段34と、第2の負方向電圧Vn2の発生位置が検出された時に点火位置検出用計時データTigiを点火タイマにセットして、該計時データTigiの計測を開始させる点火タイマ制御手段35とにより構成されていて、アイドル進角制御条件が成立しているときに、始動完了直後のアイドル時の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角させる制御を行う。
本実施形態で用いるアイドル進角制御時点火位置演算手段33は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される周期T2から求められた内燃機関のアイドル回転速度に対して定常運転時の点火位置を演算する定常運転時用の点火位置演算用マップを検索して求めた定常運転状態での当該アイドル回転速度における点火位置を与える進角度(上死点から進角側に測った角度)に一定の進み角度を加算することによりアイドル進角用の点火位置θigiを演算する。
定常運転時点火制御手段29は、始動完了判定手段24により内燃機関が始動を完了した状態にあると判定され、かつアイドル進角制御条件判定手段27によりアイドル進角制御条件が成立していないと判定されているときに点火位置を内燃機関の定常運転時に適した位置とするように点火信号の発生位置を制御する。
定常運転時点火制御手段29は、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される周期T2から求められた内燃機関の回転速度に対して内燃機関の定常運転時の点火位置θignを演算する過程と、周期T2から求められた内燃機関の回転速度で第1の負方向電圧Vn1の発生位置から演算された定常運転時の点火位置θignまで機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTignとして演算する過程と、該点火位置検出用計時データTignの計測を点火タイマに開始させる過程とを第1の負方向電圧が検出されたときに行なうように構成されている。
図示の定常運転時点火制御手段29は、1回転前に検出された周期T2を用いて回転速度演算手段25により演算された回転速度に対して内燃機関の定常運転時の点火位置θignを演算する点火位置演算手段(図示せず。)と、新たに計測された周期T2から求められる現在の内燃機関の回転速度で第1の負方向電圧の発生位置CRinから演算された定常運転時の点火位置θignまで機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTignとして演算する定常時点火位置検出用計時データ演算手段36と、演算された点火位置検出用計時データTignの計測を点火信号発生手段21を構成する点火タイマにセットしてその計測を開始させる点火タイマ制御手段37とにより構成されている。
上死点位置TDCから第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinまでの角度をθinとし、点火位置θignが上死点位置から進角側に測った角度で表されるとすると、定常運転時点火位置検出用計時データTignは下記の式により演算される。
Tign=T2・(θin−θign)/360 …(2)
点火タイマ制御手段35は、上記点火位置検出用計時データTignを点火信号発生手段21を構成する点火タイマにセットしてその計測を開始させる。点火信号発生手段21は点火タイマがセットされた計時データTignの計測を完了したときに放電用スイッチに点火信号Siを与えて点火回路2に点火動作を行なわせる。
従って、機関の定常運転時には、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出された時刻から定常運転時点火位置検出用計時データTignにより与えられる時間が経過した時点のクランク角位置θignで点火回路のサイリスタThiに点火信号Siが与えられて点火動作が行なわれる。点火位置θignは機関の回転速度等の制御条件の変化に応じて変化する。
なお図4においてθimaxは定常運転時の点火位置の最大進角位置を示している。最大進角位置で点火動作を支障なく行なわせるようにするため、最大進角位置θimaxにおいて、エキサイタコイルの正方向電圧Vpの瞬時値が、点火用コンデンサCiを点火動作が可能な電圧値まで充電し得る値を有しているように、エキサイタコイルの出力電圧の位相と最大進角位置との関係を設定しておく。本実施形態では、エキサイタコイルが出力する正方向電圧Vpのピーク位置が最大進角位置となるように設定している。
本実施形態において、マイクロプロセッサ3に実行させるプログラムの要部のアルゴリズムを示すフローチャートを図5ないし図12に示した。図5は、マイクロプロセッサのリセット時(電源確立時)に実行される処理のアルゴリズムを示したもので、この処理においては先ずステップS101でメモリを初期化した後、ステップS102に移行してメインルーチンの処理を行なう。
メインルーチンでは、後記する図10のCRin処理で演算された回転速度Neに対する定常時の点火位置θignの演算等を行なう。点火位置θignの演算は例えば、回転速度Neに対してROMに記憶された点火位置演算用マップを検索して、検索した値に補間演算を施すことにより行なう。また必要に応じてスロットルバルブ開度などの他の制御条件に対して点火位置を補正する演算を行なう。
図6はメモリ初期化処理のアルゴリズムを示したもので、この初期化処理では、先ずステップS201で、マイクロプロセッサに設けられているタイマの計時動作を開始させる。次いで、ステップS202で、内燃機関の始動操作が開始された後の機関のクランク軸の回転回数Puls_cntを0にクリアするとともに、アイドル進角制御点火回数カウンタの計数値Idle_cntを0にクリアする。本実施形態では、第1の負方向電圧Vn1の発生位置(CRin)が検出される回数を回転回数Pulse_cntとして計数する。ステップS202で回転回数Pulse_cnt及びアイドル進角制御点火回数カウンタの計数値Idle_cntを0とした後、ステップS203で始動時判定フラグを「始動時」にセットし、アイドル進角制御判定フラグをクリアする。ステップS204でその他のメモリの初期化をする。
図7は、内燃機関がストールしたか否かを判定するためにマイクロプロセッサが2msec毎に実行する2msec毎処理(エンスト時メモリ初期化処理)のアルゴリズムを示したものである。この処理においては、先ずステップS301で、前回の2msec毎処理から今回の2msec毎処理までの間に後記するCRin処理が行なわれたか否かを判定する。その結果、前回の2msec毎処理から今回の2msec毎処理までの間にCRin処理が行なわれなかったと判定された場合には、ステップS302に移行してエンスト(エンジンストール)の回数を計数するエンストカウンタの計数値をインクリメントする。またステップS301において前回の2msec毎処理から今回の2msec毎処理までの間にCRin処理が行なわれたと判定されたときには、ステップS303に移行してエンストカウンタの計数値をクリアする。ステップS302またはS303を実行した後、ステップS304に移行してエンストカウンタの計数値が設定回数を超えたか否かを判定し、超えていない場合には機関がストールしていないとしてメインルーチンに復帰する。またステップS304において、エンストカウンタの計数値が設定回数を超えたと判定されたときには、ステップS305に移行して図6のメモリ初期化処理を行なった後メインルーチンに復帰する。
図8は、第2の波形整形回路4bが出力する矩形波信号Vqpの立下がりを検出する毎に(正方向電圧が発生する毎に)マイクロプロセッサが実行する正方向割り込み処理で、この割り込み処理では、正方向電圧検出フラグVpFをセットした後メインルーチンに復帰する。
図9はエキサイタコイルが負方向電圧Vn1,Vn2を発生したことが検出される毎に実行される負方向割込み処理を示し、図10は、図9の負方向割込み処理において今回発生した負方向電圧が第1の負方向電圧であると判定されたとき(第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されたとき)に実行されるCRin処理を示している。また図11は、図9の負方向割込み処理において、機関の状態が始動時の初期状態(始動操作開始直後の状態)にあって、マイクロプロセッサが動作を開始した後最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であると判定されたとき(第2の負方向電圧の発生位置CRoutが検出されたとき)に実行される第1のCRout処理であり、図12は、機関が始動時の初期状態を脱している状態で、図9の負方向割込み処理において、マイクロプロセッサが検出した負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であると判定されたとき(第2の負方向電圧の発生位置CRoutが検出されたとき)に実行される第2のCRout処理を示している。
マイクロプロセッサ3が第1の負方向電圧の発生位置CRinを検出したとき及び第2の負方向電圧の発生位置CRoutを検出したときに、メインルーチンに割込みがかけられて、図9に示した負方向割込み処理が開始される。この割込み処理のステップS401においては、前回の負方向割込み処理が行われてから今回の負方向割込み処理が行われるまでの経過時間をTnewとしてRAMに記憶させる。次いでステップS402に進んで、現在の機関の状態が始動時の初期状態であるか否かを判定する。
機関の状態が始動時の初期状態であるか否かの判定においては、例えば、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が十分に小さい値に設定された設定値未満のときに内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、内燃機関の始動操作が開始された後に行われた点火動作の回数が設定値以上であるときに初期状態を脱したと判定する。
機関の状態が始動時の初期状態であるか否かの判定を行う際に用いる点火動作回数の設定値は、例えば1に設定する。
ステップS402での判定においては、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値未満であるときに内燃機関が始動時の初期状態にあると判定し、第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間から求められた内燃機関の回転速度が設定値(例えば300rpm)以上であるときに内燃機関が始動時の初期状態を脱したと判定するようにしてもよい。
ステップS402において、機関が始動時の初期状態にあると判定されたときには、ステップS403に移行して、正方向電圧検出フラグVpFがセットされているか否かを判定する。その結果、正方向電圧検出フラグVpFがセットされていると判定されたときには、ステップS404で第1のCRout処理を行わせた後、ステップS405で正方向電圧検出フラグVpFをクリアしてメインルーチンに復帰する。
図9の負方向割り込み処理のステップS403において、正方向電圧検出フラグVpFがセットされていないと判定されたときには、ステップS406に進んで図10に示したCRin処理を行わせた後、メインルーチンに復帰する。図9のステップS402において、機関が始動時の初期状態を脱していると判定されたときには、ステップS407に移行して、今回計測された経過時間Tnewを、前回の負方向割込み処理において同じように計測されて記憶されてこの割込み処理終了時にToldとされた時間に1/kを乗じた時間Told/kと比較する。この比較の結果、Tnew<Told/kではない(Tnew≧Told/kである)と判定された場合には、今回の負方向割込み処理が開始されたクランク角位置が第1の負方向電圧の発生位置であるとして、ステップS406に進んで図10に示されたCRin処理を行なう。ステップS407でTnew<Told/kであると判定された場合には、今回の割込み処理が開始されたクランク角位置が第2の負方向電圧の発生位置であるとして、ステップS408に進み、図12に示した第2のCRout処理を行なわせた後、メインルーチンに復帰する。
図10のCRin処理においては、先ずステップS501において図9の割込み処理のステップ1で計測された時間TnewをToldとして保存し、ステップS502で前回のCRin処理から今回のCRin処理が行なわれるまでの経過時間をT2として演算する。次いでステップS503で経過時間T2(クランク軸が1回転するのに要した時間)から機関の回転速度Neを演算し、ステップS504で始動時判定フラグが「始動時」にセットされているか否かを判定する。ステップS504で「始動時」にセットされていると判定された場合には、ステップS505に進んで機関の回転速度が始動判定速度SNCHNE以上である状態が一定期間継続しているか否かを判定する。その結果、機関の回転速度が始動判定速度以上である状態が一定期間継続していないと判定されたときには、ステップS506に進んで機関の始動操作開始後のクランク軸の回転回数Pulse_cntを1だけインクリメントし、ステップS507で回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えているか否かを判定する。その結果、回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えていないときには、以後何もしないでこのCRin処理を終了してメインルーチンに復帰する。
ステップS507で回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えていると判定されたときには、ステップS508で始動時の点火制御を終了し、アイドル進角制御フラグをセットしてアイドル進角制御を開始する。またステップS505で機関の回転速度が始動判定速度以上である状態が一定期間継続していると判定されたときには、ステップS509で始動時判定フラグをクリアして始動時の点火制御を終了し、アイドル進角制御フラグをセットしてアイドル進角制御を開始させる。
ステップS508でアイドル進角制御を開始したとき、ステップS509においてアイドル進角制御を開始したとき、及びステップS504で、始動時判定フラグが始動時にセットされていないと判定されときには、次いでS510においてアイドル進角制御フラグが設定されているか否か(アイドル進角制御であるか否か)を判定する。その結果、アイドル進角制御フラグがセットされていると判定された場合には、ステップS511に移行する。ステップS511では、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntを1だけインクリメントし、次いでステップS512でアイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUMを超えているか否かを判定する。その結果、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUMを超えていないと判定されたとき(アイドル進角制御条件が成立しているとき)には、ステップS513に進んで、第1の負方向電圧Vn1の発生位置が検出される周期T2とクランク軸の1回転の角度360°とから求められる回転速度と、アイドル進角制御時の点火位置θigiとから、クランク軸が第1の負方向電圧Vn1の発生位置から点火位置θigiまで回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTigiとして演算する。続いてステップS514で点火位置検出用計時データTigiを点火タイマにセットして図10のCRin処理を終了する。上死点位置TDCから第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinまでの角度をθinとし、点火位置θigiが上死点位置から進角側に測った角度で表されるとすると、アイドル進角制御時の点火位置検出用計時データTigiは下記の式により演算される。
Tigi=T2・(θin−θigi)/360 …(3)
ステップS512で、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUMを超えていると判定されたときには、ステップS515に進み、アイドル進角制御フラグをクリアしてアイドル進角制御を終了する。ステップS515でアイドル進角制御を終了するための処理(アイドル進角制御フラグのクリア)を行った後、ステップS516に移行して第1の負方向電圧Vn1の発生周期T2(クランク軸が1回転する間の経過時間)と、前回のCRin処理で演算された回転速度Neと、メインルーチンで演算されている定常運転時の点火位置θignとを用いて、前記(2)式により点火位置検出用計時データTignを演算し、ステップS517でこの計時データTignを点火タイマにセットしてその計測を開始させる。点火タイマがセットされた計時データの計測を完了すると図示しない割込み処理が実行されて、点火回路の放電用スイッチ(サイリスタThi)に点火信号が与えられる。
上記のように、本実施形態では、機関の回転速度が始動判定速度に達していない状態でも、始動操作開始後のクランク軸の回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えていると判定されたときには、機関が始動時の状態にはないと判定して、始動時の点火制御を終了し、アイドル進角制御を開始させる。
次に図11の第1のCRout処理においては、ステップS601において、今回計測したクランク信号間経過Tnew(マイクロプロセッサが動作を開始した後最初に負方向電圧が検出されるまでの経過時間)を、前回計測されたクランク信号間経過時間Toldとして保存する。次いでステップS602において、マイクロプロセッサが動作を開始した後最初に負方向電圧が検出されるまでの経過時間を第1の負方向電圧が発生してから第2の負方向電圧が発生するまでの経過時間T1と見なして、この経過T1と第1の負方向電圧の発生位置から第2の負方向電圧の発生位置までの区間の角度(一定値)とから求めた機関の回転速度と、上死点位置付近に設定された始動時用点火位置θigs1とを用いて初回の点火位置を検出するための点火位置検出用計時データTigsを演算する。次いでステップS603において、点火位置検出用計時データTigsを点火タイマにセットしてその計測を開始させた後メインルーチンに復帰する。点火タイマがセットされた計時データの計測を終了したときに図示しない割り込み処理を実行させて、初回の点火信号Siを発生させる。
また図12の第2のCRout処理においては、先ずステップS701において今回計測したクランク信号間経過Tnewを、前回計測されたクランク信号間経過時間Toldとして保存する。次いでステップS702に進んで、始動時判定フラグが「始動時」にセットされているか否かを判定し、「始動時」にセットされていると判定されたとき(機関が始動時の状態にあると判定されたとき)にステップS703に進んで、演算されている回転速度Neが設定回転速度IGCHNE未満であるか否かを判定する。その結果、回転速度Neが設定回転速度IGCHNE未満であると判定されたときには、ステップS704に進んで第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの経過時間T1(図12のクランク割込み処理を開始する際に計測されたクランク信号間経過時間)と機関の上死点位置付近に設定された第1の始動時用点火位置θigs1とを用いて始動時の点火位置検出用計時データTigsを演算する。これに対し、ステップS703で回転速度Neが設定回転速度IGCHNE以上になっていると判定されたときには、ステップS705に進んで経過時間T1と機関の上死点位置よりも僅かに進角した位置(アイドル回転時の点火位置として適した点火位置)に設定された第2の始動時用点火位置θigs2とを用いて始動時の点火位置検出用計時データTigsを演算する。
ステップS704またはS705を行なった後、ステップS706に進んで、第2の負方向電圧が検出されてから次の第1の負方向電圧が検出されるまでの時間T0と第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1との比T0/T1が設定値DISIGRT未満であるか否かを判定する。その結果、比T0/T1が設定値DISIGRT未満ではないと判定されたときにはステップS707に進んで、ステップS704またはS705で演算された計時データTigsを点火タイマにセットしてこのCRout処理を終了する。ステップS706で比T0/T1が設定値DISIGRT未満であると判定されたときにはステップS708に進んで、ステップS704またはS705で演算された計時データTigsを点火タイマにセットするのを禁止して、点火動作を停止した後このCRout処理を終了する。ステップS702で始動時判定フラグが「始動時」にセットされていないと判定されたときには、以後何もしないでこのCRout処理を終了する。
本実施形態では、図6のステップS201により図3の計時動作開始手段38が構成され、図9の割込み処理のステップS401により図3に示した経過時間計測手段22が、また図9の割込み処理のステップS403及びS407により、負方向電圧判定手段23がそれぞれ構成される。更に、図6のメモリ初期化処理のステップS202と、図10のCRin処理のステップS504,S505,S506及びS507と、図12の第2のCRout処理のステップS702及びS703とにより、始動完了判定手段24が構成され、図10のCRin処理のステップS503により回転速度演算手段25が構成される。
また図12のCRout処理のステップS704及びS705により始動時点火位置検出用計時データ演算手段30が構成され、図12のCRout処理のステップS706及びS708により点火許否手段31が構成されている。更に図12のCRout処理のステップS707により点火タイマ制御手段32が構成されている。また図10のCRin処理のステップS516により定常時点火位置検出用計時データ演算手段36が構成され、図10のステップS517により、点火タイマ制御手段37が構成されている。
更に、図10のCRin処理のステップS512により、アイドル進角制御条件判定手段27が構成され、図10のCRin処理のステップS513により、アイドル進角制御用の点火位置検出用計時データ演算手段34が構成される。また図10のCRin処理のステップS514により、点火タイマ制御手段35が構成される。
上記のように、本実施形態の点火装置においては、機関の始動操作が開始され、電源回路5の出力電圧が確立した後、最初に負方向電圧が検出されたときに、その負方向電圧が第1の負方向電圧であるか第2の負方向電圧であるかを判定して、最初に検出された負方向電圧が第2の負方向電圧であると判定されたときに、マイクロプロセッサが動作を開始してから最初に第2の負方向電圧が発生するまでの時間Tsを第1の負方向電圧が発生してから第2の負方向電圧が発生するまでの時間T1と見なして点火位置検出用計時データTigsの演算を行う。従って、図4に示したように、始動操作開始後最初に検出される負方向電圧が第2の負方向電圧Vn2であるときに、始動操作開始直後から、機関の実際の回転速度にほぼ等しい回転速度に応じて初回の点火位置を検出して点火動作を行わせることができ、始動操作開始後のクランク軸の1回転目から、適正なクランク角位置で点火を行わせることができる確率を高くして、機関の始動性を向上させることができる。
また本発明においては、内燃機関が始動時の状態にあるときに、第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されてから第2の負方向電圧の発生位置CRoutが検出されるまでの経過時間T1から得られる機関の回転速度の情報を用いて機関の始動時の点火位置を検出するための計時データTigsを求め、この計時データTigsの計測を直ちに開始させることにより始動時の点火位置を検出して始動時の点火信号を発生させるため、機関のクランク軸の回転速度が細かく変動する機関の始動時に、始動時の点火位置の直前に求めた機関の回転速度情報に基づいて始動時の点火位置を検出するることができる。そのため、始動時の点火位置を正確に検出して、機関の始動性を向上させることができる。
また上記のように構成すると、機関の始動時の点火位置を、第2の負方向電圧の発生位置CRoutよりも更に遅れた位置(エキサイタコイルが交流電圧を発生する区間を越えた位置)に設定できるため、点火位置の進角幅を広くとることができる。
また本実施形態では、機関が始動時の状態にあると判定されているときに、点火許否手段31が、内燃機関の状態が始動時の初期状態にあるときに点火信号の発生を無条件で許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱した状態にあるときには第2の負方向電圧が検出されてから次の第1の負方向電圧が検出されるまでの時間T0と第1の負方向電圧が検出されてから第2の負方向電圧が検出されるまでの時間T1との比T0/T1が設定値以上であるときに始動時の点火信号の発生を許可し、内燃機関の状態が始動時の初期状態を脱していて、前記比T0/T1が設定値未満であるときに始動時の点火信号の発生を禁止する。従って、始動操作を開始した後、操作力の不足によりクランキングの速度が低くなったときに点火動作が行なわれるのを禁止することができ、人力により機関を始動する際にピストンが上死点を越えることができなくなって押し戻される現象(ケッチン)が生じるのを防いで安全性を高めることができる。上記経過時間の比T0/T1と比較する設定値は、ケッチンが生じるおそれがある程度にクランキング速度が不足したときに、T0/T1<設定値の関係が成立するような値に設定しておく。
なお点火許否手段は、第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出されてから第2の負方向電圧の発生位置CRoutが検出されるまでの時間T1が設定値以下であるときに始動時の点火信号の発生を許可し、時間T1が設定値を超えているときに始動時の点火信号の発生を禁止するように構成してもよい。
本実施形態においては、内燃機関が始動を完了した状態にあると判定されたとき、及び機関の始動は完了していないが、始動操作開始後の機関の回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えていると判定されたときに、定常運転時の点火制御に移行する前に、アイドル進角制御を開始させて、第1の負方向電圧の発生位置CRin(基準クランク角位置)で計測された第1の負方向電圧の発生位置の検出周期T2から検出した現在の回転速度を用いて、基準クランク角位置からアイドル進角制御時の点火位置θigiまで機関が回転するのに要する時間を点火位置検出用計時データTigiとして演算し、この計時データを点火タイマに計測させることによりアイドル進角制御用の点火信号を発生させる。
本実施形態では、第1の負方向電圧Vn1の発生位置が検出される周期T2から求められた内燃機関のアイドル回転速度に対して既に演算されている定常運転時の当該アイドル回転速度での点火位置を与える進角度に一定の進み角度を加算した進角度を有する点火位置(内燃機関の定常運転時の当該アイドル回転速度における点火位置よりも進角した位置)をアイドル進角制御用の点火位置θigiとしている。
なお、本発明は、アイドル進角制御時点火位置演算手段33を上記のように構成する場合に限定されない。例えば、アイドル進角制御専用の点火位置演算マップを用意しておいて、第1の負方向電圧Vn1の発生位置が検出される周期T2から求められた内燃機関のアイドル回転速度に対して該アイドル進角制御専用の点火位置演算マップを検索することにより、アイドル進角用の点火位置θigiを演算するように構成してもよい。またアイドル進角制御時点火位置演算手段33を特に設けることなく、アイドル進角制御時の点火位置を固定値としてもよい。
アイドル進角制御は、アイドル進角制御点火回数カウンタの計数値Idle_cntが設定値IDLENUMに達するまで(アイドル進角制御用の点火位置θigiでの点火が設定回数行われるまでの間)実行される。アイドル進角制御点火回数カウンタの計数値Idle_cntが設定値IDLENUMを超えたときに、図10のCRin処理のステップS515でアイドル進角制御フラグをクリアしてアイドル進角制御を終了し、定常運転時の点火制御に移行する。
定常運転時の点火制御では、第1の負方向電圧Vn1の発生位置から、既に演算されている定常運転時の点火位置(1回転前に演算された回転速度を含む制御条件に対して演算されている点火位置)θignまで機関が回転するのに要する時間を、今回の第1の負方向電圧Vn1の発生位置で周期T2から求めた回転速度を用いて、点火位置検出用計時データTignとして演算し、この計時データを点火タイマに計測させることにより点火信号を発生させる。従って、機関の定常運転状態では、回転速度に対して演算され、必要に応じて他の制御条件に対して修正された点火位置で機関が点火される。
上記のように、内燃機関が始動を完了した状態にあると判定され、かつアイドル進角制御条件判定手段によりアイドル進角制御を行う条件が成立していると判定されているときに内燃機関の点火位置を定常運転状態でのアイドル時の点火位置よりも進角させるように点火信号の発生位置を制御するアイドル進角制御手段を設けておくと、始動完了直後のアイドル回転時に機関の回転速度が落ち込むのを防いで、機関の回転を維持することができるため、寒冷時など、機関の回転が不安定になる状況下でも、機関の始動直後のアイドル運転を短時間で安定化することができる。
またアイドル進角制御は、所定のアイドル進角制御条件が成立しているとき(上記の例では、アイドル進角制御用の点火位置での点火回数が設定値を超えていないという条件が成立しているとき)にのみ行うので、始動直後のアイドル回転速度が不必要に上昇するのを防ぐことができる。
本実施形態においては、図12に示されているように、始動時に適した点火位置として、上死点位置に近い第1の始動時用点火位置θigs1と、この第1の始動時用点火位置よりも進角した第2の始動時用点火位置(アイドル回転時の点火位置として適した点火位置)θigs2との2つの始動時用点火位置を設定するとともに、これらの始動時用点火位置を切り換える点火位置切換回転速度IGCHNEと、機関が始動時の運転状態にあるか否かを判定するための始動判定速度SNCHNEとを設定して、IGCHNE>回転速度であるときに上死点位置に近い第1の始動時用点火位置θigs1で点火を行なわせ、IGCHNE≦回転速度<SNCHNEのときに第2の始動時用点火位置θigs2で点火動作を行なわせるようにしたので、スタータモータを用いてクランキングを行なうことにより機関を始動させる場合に、クランキングの脈動により、ケッチンが発生するのを防ぐことができる。しかしながら、本発明は、上記のように始動時用点火位置を複数個設定する場合に限定されるものではなく、上死点位置に近い位置に始動時に適した点火位置を一つだけ設定するようにしても良い。
上記の実施形態では、アイドル進角制御用の点火位置での点火回数が設定値を超えていないことをアイドル進角制御条件(アイドル進角制御を許可するための条件)としたが、アイドル進角制御が行われている時間が設定時間を超えていないこと、またはアイドル進角制御時に機関の回転速度が設定速度を超えないことをアイドル進角制御条件としても良い。
図13ないし図15は、アイドル進角制御が行われている時間が設定時間を超えていないことをアイドル進角制御条件とする本発明の第2の実施形態において、マイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示したものである。図13はマイクロプロセッサが起動した直後に実行されるメモリ初期化処理のアルゴリズムを示したフローチャートであり、図14は、本発明の第2の実施形態において2msec毎にマイクロプロセッサが実行する2msec毎処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。また図15は、同実施形態において、エキサイタコイルが出力する第1の負方向電圧の発生位置CRinが検出される毎にマイクロプロセッサが実行するCRin処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。本実施形態において、電源投入時の処理、正方向割り込み処理、負方向割り込み処理、第1のCRout処理及び第2のCRout処理はそれぞれ図5、図8、図9、図11及び図12に示したものと同一である。
図13に示したメモリ初期化処理では、ステップS203でアイドル進角制御時間カウンタIdlet_cntの計数値をクリアする。図13に示した処理のその他の点は、図6に示したメモリ初期化処理と同様である。
図14の2msec毎処理において、ステップS301からS305までの処理は図7に示した2msec毎処理と同様である。図14のステップS305でメモリの初期化を行った後、ステップS306で現在の制御がアイドル進角制御であるか否か(アイドル進角制御フラグがセットされているか否か)を判定し、アイドル進角制御である場合には、ステップS307でアイドル進角制御時間カウンタの計数値Idlet_cntを1だけインクリメントした後、ステップS308でIdlet_cnt>IDLETIMEであるか否かを判定する。その結果、アイドル進角制御時間カウンタの計数値Idlet_cntが設定値IDLETIME以下であると判定されたときにはこの処理を終了してアイドル進角制御を続行させ、アイドル進角制御時間カウンタの計数値Idlet_cntが設定値IDLETIMEを超えたときにステップS309を実行してアイドル進角制御を終了する。
図15のCRin処理において、ステップS501ないしS510の処理は図10のCRin処理と同様である。図15のステップS510において現在の制御がアイドル進角制御であると判定されたときには、ステップS513に移行して、第1の負方向電圧Vn1の発生周期T2から検出した機関の回転速度とアイドル進角制御時の点火位置θigiとから、点火位置検出用計時データTigiを演算し、ステップS514で点火位置検出用計時データTigiを点火タイマにセットしてこのCRin処理を終了する。またステップS510で現在の制御がアイドル進角制御でないと判定されたときには、ステップS516で第1の負方向電圧の発生周期T2と既に演算されている定常運転時の点火位置θignとから点火位置検出用計時データTignを演算し、ステップS517においてこの計時データTignを点火タイマにセットしてこのCRin処理を終了する。
本実施形態では、図14の2msec毎処理のステップS308により、アイドル進角制御条件判定手段27が構成される。また、図15のCRin処理のステップS513により、アイドル進角制御用の点火位置検出用計時データ演算手段34が構成され、ステップS514により、点火タイマ制御手段35が構成される。
図16は本発明の第3の実施形態において、エキサイタコイルが発生した第1の負方向電圧Vn1が検出される毎にマイクロプロセッサに実行させるCRin処理のアルゴリズムを示したものである。電源投入時の処理、メモリ初期化処理、2msec毎処理、正方向割り込み処理、負方向割り込み処理、第1のCRout処理及び第2のCRout処理のアルゴリズムはそれぞれ図5、図6、図7、図8、図9、図11及び図12に示したものと同様である。
図16に示したCRin処理は、図10に示したCRin処理にステップS518を追加したものである。図16に示したCRin処理による場合には、ステップS510で現在の制御がアイドル進角制御であると判定されたときにステップS518で機関の回転速度が設定された一定期間の間継続してアイドル進角制御判定速度以上になっているか否かを判定する。その結果、機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が未だ一定の期間に達していないと判定されたときに、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntを1だけインクリメントするステップS511に進む。ステップS518で機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達していると判定されたときにはステップS515に移行してアイドル進角制御を終了する。その他の点は図12に示したCRin処理と同様である。
本実施形態では、ステップS518とステップS511とステップS512とによりアイドル進角制御条件判定手段27が構成される。このアイドル進角制御条件判定手段は、内燃機関の回転速度が継続して設定されたアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達しておらず、かつアイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUM以下であるときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達したとき、及び内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達してはいないが、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUMを超えたときにアイドル進角制御条件が成立しなくなったと判定する。
図17は、本発明の第4の実施形態においてマイクロプロセッサに実行させるCRin処理のアルゴリズムを示したものである。本実施形態において、電源投入時の処理、正方向割り込み処理、負方向割り込み処理、第1のCRout処理及び第2のCRout処理のアルゴリズムは、第1の実施形態のものと同様である。またメモリ初期化処理は、図13に示した第2の実施形態のメモリ初期化処理と同一であり、2msec毎処理は、図14に示した第2の実施形態の2msec毎処理と同一である。
図17に示したCRin処理は、図16に示したCRin処理からステップS511及びS512を省略して、ステップS518において、機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達していないと判定されたときにアイドル進角制御時の点火位置検出用計時データTigiを演算するステップS513に移行させ、ステップS518において、機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が一定の期間に達したと判定されたときにアイドル進角制御を終了させるステップS515に移行させるようにしたものである。その他の点は第1の実施形態におけるCRin処理と同様である。
図17に示すようにCRin処理を構成した場合には、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達していないときにアイドル進角制御条件が成立していると判定し、内燃機関の回転速度が継続してアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達したときにアイドル進角制御条件が成立しなくなったと判定するようにアイドル進角制御条件判定手段27が構成される。
上記第3の実施形態のように、内燃機関の回転速度が継続して設定されたアイドル進角制御判定速度以上になっている期間が設定された一定の期間に達しておらず、かつアイドル進角制御手段による点火回数が設定値以下のときにのみアイドル進角制御を行わせるようにするか、または第4の実施形態のように、内燃機関の回転速度がアイドル進角制御判定速度以上になっている状態が設定された判定時間の間継続するようになるまでの間だけアイドル進角制御を行わせるようにすると、アイドル進角制御を行うことにより機関の回転速度が急上昇する事態が生じるのを確実に防ぐことができるため、運転者に違和感を与えることなく、機関の始動直後のアイドル運転を短時間で安定化することができる。
図18及び図19は、本発明の第5の実施形態において、マイクロプロセッサに実行させるCRin処理及び第2のCRout処理のアルゴリズムを示したものである。本実施形態において、電源投入時の処理、メモリ初期化処理、2msec毎処理、正方向割り込み処理、負方向割り込み処理及び第1のCRout処理のアルゴリズムはそれぞれ図5、図6、図7、図8、図10及び図11に示した第1に実施形態のものと同一である。本実施形態では、第2の負方向電圧Vn2の発生位置がアイドル進角制御時の点火位置よりも進角した位置に設定されている。
図18に示したCRin処理は、図10に示したCRin処理からステップS513及びS514を省略したものに相当する。図18に示したCRin処理では、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntをインクリメントするステップS511と、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUM以下の時にアイドル進角制御を行わせ、アイドル進角制御カウンタの計数値Idle_cntがアイドル進角制御回数設定値IDLENUMを超えたときにアイドル進角制御を終了する過程のみを行わせる。即ち、本実施形態のCRin処理では、アイドル進角制御の開始及び終了の判定のみを行わせる。
図19に示した第2のCRout処理では、ステップS702で始動時ではないと判定されたときにステップS709を実行して現在の制御がアイドル進角制御であるか否か(アイドル進角制御フラグがセットされているか否か)を判定する。その結果、アイドル進角制御であると判定されたときにステップ710を実行して第1の負方向電圧Vn1が発生してから第2の負方向電圧Vn2が発生するまでの時間T1と、アイドル進角制御時の点火位置θigiとによりアイドル進角制御時の点火位置検出用計時データTigiを演算し、ステップS711で演算した点火位置検出用計時データTigiを直ちに点火タイマにセットする。その他の点は第1の実施形態と同様である。
図19に示したように、第2の負方向電圧Vn2の発生位置をアイドル進角制御時の点火位置θigiよりも進角した位置に設定しておいて、第2の負方向電圧Vn2の発生位置でアイドル進角制御時の点火位置検出用計時データTigiの計測を開始させるようにすると、点火位置検出用計時データTigiを点火タイマにセットしてから点火動作を行わせるまでの時間を短縮することができるため、機関の回転の脈動の影響を少なくして、アイドル進角制御時の点火位置を正確に定めることができ、アイドル進角制御を的確に行うことができる。
図18及び図19に示した実施形態においては、図18のステップS512によりアイドル進角制御条件判定手段27が構成され、図19のステップS710及びS711によりそれぞれアイドル進角制御時点火位置検出用計時データ演算手段34及び点火タイマ制御手段35が構成される。
上記の各実施形態においては、始動時に適した点火位置として、上死点位置に近い第1の始動時用点火位置θigs1と、この第1の始動時用点火位置よりも進角した第2の始動時用点火位置(アイドル回転時の点火位置として適した点火位置)θigs2との2つの始動時用点火位置を設定するとともに、これらの始動時用点火位置を切り換える点火位置切換回転速度IGCHNEと、機関が始動時の運転状態にあるか否かを判定するための始動判定速度SNCHNEとを設定して、IGCHNE>回転速度のときに上死点位置に近い第1の始動時用点火位置θigs1で点火を行なわせ、IGCHNE≦回転速度<SNCHNEのときに第2の始動時用点火位置θigs2で点火動作を行なわせるようにしたので、スタータモータを用いてクランキングを行なうことにより機関を始動させる場合に、クランキングの脈動により、ケッチンが発生するのを防ぐことができる。しかしながら、本発明は、上記のように始動時用点火位置を複数個設定する場合に限定されるものではなく、上死点位置に近い位置に始動時に適した点火位置を一つだけ設定するようにしても良い。
図1に示した例では、エキサイタコイルが負方向電圧を発生したときにHレベルからLレベルに立ち下がる波形の矩形波信号Vqnを用いているが、エキサイタコイルが負方向電圧を発生したときにLレベルからHレベルに立上がる波形の矩形波信号Vqnを発生させて、この矩形波信号の立上がりで負方向電圧の発生を検出するようにしてもよいのはもちろんである。
上記の実施形態では、図2(A)に示したように、非磁性材料からなるフライホイールに永久磁石と磁路構成部材とを鋳込んで2極の磁石界磁を構成したフライホイール磁石回転子11を備えた磁石式交流発電機を用いたが、図2(B)に示したように、鉄製のフライホイール13′の外周に形成した凹部13a内に永久磁石17を固定して、該永久磁石をフライホイールの径方向に着磁することにより3極の磁石界磁を構成したフライホイール磁石回転子11′と、磁石界磁の磁極に対向する磁極部16a,16bを両端に有するコの字形鉄心16にエキサイタコイルEXを巻回した固定子12とからなる磁石式交流発電機1を用いる場合にも本発明を適用することができる。
図3に示した実施形態では、始動時点火制御手段26に点火許否手段を設けているが、この点火許否手段は省略することもできる。
上記の各実施形態では、CRin処理において、機関の始動開始時からのクランク軸の回転回数Pulse_cntを設定回数STARTNUMと比較して、回転回数Pulse_cntが設定回数STARTNUMを超えているときには機関の回転速度が始動判定速度に達していなくても定常運転時の制御に移行させるようにしているが、CRin処理において、ステップS506及びS507を省略して、回転回数Pulse_cntを設定回数STARTNUMと比較する過程を行なうことなく、単に機関の回転速度が始動判定速度に達しているか否かを判定することにより機関の運転状態が始動時の状態にあるか定常運転時の状態にあるのかを判定するようにしてもよい。
上記の実施形態では、内燃機関が定常運転状態になった後もエキサイタコイルの第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutでの処理を行なうようにしているが、機関が定常運転状態になった後は、第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutでの処理を行なわないように、ソフトウェアまたはハードウェアを構成してもよい。
上記の実施形態では、第1の負方向電圧Vn1の発生位置CRinが検出される回数をカウントすることにより始動操作開始時からのクランク軸の回転回数を検出するようにしているが、第2の負方向電圧Vn2の発生位置CRoutが検出される回数をカウントすることにより始動操作開始時からのクランク軸の回転回数を検出するようにしてもよい。