JP4814152B2 - 風味評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、風味評価方法に関する。さらに詳しくは、飲食物を飲食する際の脳血流の変化を測定して飲食物の風味の適性を評価する方法において、コントロールと試料を一組とした比較呈示法を利用することを特徴とする風味評価方法に関する。
飲食物の風味の評価方法としては、もっぱらヒトの感覚にたよった官能評価が重用されている。官能評価は、総合的な評価には適しているが個人差、感覚疲労、体調変化などの主観的要素が影響する欠点がある。その主観的な評価に客観性を与えた手法としてQDA法(定量的記述分析法)があるが、共通用語の選定やパネルの訓練などに時間を要する。
また、液体クロマトグラフをはじめとする種々のクロマトグラフや匂いセンサ、味センサなどの機器による評価が利用されている。液体クロマトグラフなどの機器による評価は客観的であるが、対象項目ごとの分析が必要であり総合的な評価を行うにはかなりの時間を要する。そして、ヒトの嗅覚、味覚を代用したセンサは、測定時間は短いが、安定性や再現性、被験者による官能評価との相関性に問題がある。
そこで、ヒトによる主観評価を客観化するために、これらに加えて、生体内に生じている生理応答を観察・計測する精神生理学の手法を採用することが試みられている。精神生理学とは、瞳孔の大きさ、心拍数、血圧、脳波、脳磁波、脳血流、ストレスホルモン濃度など計測できる生体反応の指標を手がかりにして、心の状態や動きを研究する心理学の新しい領域である。ヒトは匂いを嗅ぐことによって感覚や情動が変化すると同時に、血圧の変動や心拍数、唾液中ストレス物質の変化といった生理応答を示す。これらの生理応答の観察・計測は、従来の機器分析や官能評価とは異なった角度から風味を評価する方法であり、新たな風味評価の一手法となる。
ほとんどの感情情報を最終受容する場、演算処理の場、対応する出力を指示する場である大脳皮質には毛細血管が密に存在しており、血液中のヘモグロビンには近赤外線を吸収しやすいという性質がある。これを利用して近赤外線を頭皮上に照射して反射光を検出すれば、大脳皮質の血流量がわかり、ひいてはその活性の状態もわかることとなる。
非特許文献1は、近赤外線を使用してヘモグロビン量を計測する装置(以下、光トポグラフィ装置という)を開示している。この計測装置は、特定の波長域にある近赤外線(NIR)を光ファイバーを用いて被験者頭部の一方の側から入射する。被験者の頭部内に入射された近赤外線は一部が頭部内の組織により吸収され、残の部分は大脳皮質を経由して頭皮上の検出器で検出される。検出された近赤外線の強度を測定して被験者頭部内の吸収率が測定される。光トポグラフィ装置は、陽電子放射断層撮影法(PET法)や機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)のように大がかりで拘束性が強いものではないという利点がある。
非特許文献2には、光トポグラフィ装置を用いて茶のフレーバーを官能評価する際の脳活動をモニタリングし、脳のどの部位が活動しているかを開示している。
電気学会誌,Vol.123,No.3,2003,160−163頁 Appetite,Vol.7,2006,220−232頁
本発明は、官能評価等に基づく欠点を解決し、上記した光トポグラフィ装置を使用し、飲食物を飲食する際の脳血流の変化を測定して飲食物の風味の適性を評価する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、先に、光トポグラフィ装置の有する上記特性に着目し、該光トポグラフィ装置を使用し、風味改良剤を添加した味覚物質又は飲食物を飲食したときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて該風味改良剤の種類若しくは添加量を選択する味覚物質又は飲食品の風味改良方法を提案し、同じ試料を連続して飲用するとその順応性により前頭葉機能の賦活は次第に小さくなる傾向があることを開示した(特願2006−84781)。
本発明者らは、コントロールと試料を一組とした比較呈示法において、コントロール−試料を飲用したときの脳血流の変化を測定する検討を連続して行った場合、1回目のコントロール(以下、コントロール1と略称する)と2回目のコントロール(以下、コントロール2と略称する)の脳血流の変化が試料の種類によって変化し、コントロール2の脳血流の変化の割合により試料の風味の適性を評価できるのではないかと考え、検討を進めた結果、各コントロールの脳血流の変化を比較評価することにより試料の風味の適性を評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、飲食物を飲食する際の脳血流の変化を測定して飲食物の風味の適性を評価する方法において、
(a)ターゲットとする風味をコントロールとして飲用する工程、
(b)次いで、試料を飲用する工程、
(c)次いでさらに、2回目のコントロールを飲用する工程、
を含み、(a)〜(c)のそれぞれの工程における脳血流の変化を測定し、2回目のコントロールを飲用したときの脳血流の変化が、1回目のコントロールを飲用したときの脳血流の変化より小さいほど試料がターゲットとする風味に近似しているものとして評価することを特徴とする風味評価方法を提供するものである。
また、本発明は、脳血流が、大脳皮質の血流である前記の風味評価方法を提供するものである。
本発明はさらに、脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定する前記の風味評価方法を提供するものである。
本発明によれば、飲食品などの風味の適性を効率的かつ客観的に評価することができる風味評価方法を提供することができる。
本発明において、評価対象となる「風味」とは、特に制限されるものではなく、甘味、酸味、苦味、旨味、辛味などの味覚や香りなどが挙げられ、これらの「風味」を発現する物質として具体的には、甘味物質としては、砂糖などの糖類、カンゾウ抽出物、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物等、あるいはアスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどの人工甘味料等が挙げられる。酸味物質としては、レモン等に含まれる有機酸等であり、苦味物質としては、ホップ抽出物(フムロン類)、カフェイン、キナ抽出物(キニン)、ナリンジン、テオブロミン、ニガキ抽出物、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物などの食品に使用されるもの、オウレンのベルベリン、センブリのスエルティアマリン、ニガキのカシン、ゲンチアナのゲンチオピクロシド、キハダのオバクノンなどの生薬中の苦味物質、アルカロイドなどの医薬用途の物質、ポリフェノール類(カテキン、イソフラボン、クロロゲン酸)などの食品含有物質などがあり、さらに香料成分の中でもメントール、ハッカ油などは後味に苦味を感じるものもある。旨味物質としては、イノシン酸、グアニル酸などの核酸類、グルタミン酸、アラニン、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸類等が挙げられ、辛味物質としては、唐辛子中のカプサイシン、胡椒中のピペリン、生姜中の6−ジンゲロールなどを挙げることができる。また、香りを発現する物質としては、天然香料、合成香料、並びにこれらの香料成分を含有する香料組成物(調合香料等)などを挙げることができる。
「風味の適性の評価」とは、試料の風味がターゲットとするコントロールの風味に近いかどうかを評価することをいう。
本発明の風味評価方法は、被験者が風味物質を希釈した飲食物を官能評価している際に、被験者に装着した光トポグラフィ装置を用いて脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。具体的には、被験者に、コントロール(ターゲットとする風味物質賦香品)と試料を1セットとして呈示し、被験者が官能評価している際の脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。測定は、1日に数回連続して行うことができ、日を代えて測定する場合は、同一時間帯に測定することが好ましい。このようにして得られる光トポグラフィ装置の各チャンネル(CH)ごとの脳血流量のデータを統計処理することにより試料の風味の良否を評価することができる。本発明で使用する光トポグラフィ装置としては、例えば、日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル,合計52チャンネル)を例示することができる。
実施例1
コントロール1→試料→コントロール2の順に飲用した場合、コントロール2の脳血流の変化の割合は試料の種類により影響を受けるとの仮説を立て、この仮説が成り立つか検証を行った。試料、被験者、測定装置および測定方法を次に示す。
[試料]
コントロール1:6重量%砂糖水溶液
コントロール2:6重量%砂糖水溶液
試料1:6重量%砂糖水溶液
試料2:0.036重量%アスパルテーム水溶液(甘味度は6重量%砂糖水溶液に合わせた)
試料3:試料2に対して、シュガーフレーバー(長谷川香料社製)を配合した
[被験者]
砂糖とアスパルテームとの味の差が識別できることをあらかじめ確認した被験者48名(20歳代から40歳までの男女)
[測定装置]
日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル、合計52チャンネル)
[測定方法]
光トポグラフィ装置に連結された多数のセンサを備えたプローブを被験者の頭部に装着した後、常にコントロールと試料とを比較する比較呈示法により試料を呈示し、測定を行った。
図1に示すタイムスケジュールに従って1分間の安静後、コントロール1を飲用し、その1分後に試料を飲用し、試料飲用30秒後に官能的な判断、すなわちコントロールとの差の有無を知覚できたか否かについて、挙手により判断を呈示させた。さらに90秒後に図2に示す官能評価シートにより官能評価を行った(3〜4分間)。その後、さらに1分間の安静後、コントロール2を飲用した。被験者による測定は、日を代えて、かつ同じ時間帯で行った。
[結果]
図3には、コントロール1を飲んだ後に、試料1としてコントロールと同じもの(6重量%砂糖水溶液)を飲用し、その後、さらにコントロール2を飲んだときの光トポグラフィ装置で測定した酸素化ヘモグロビンの経時的な変化量を示している(被験者No.18の実験1日目のチャンネル(CH)41)。コントロール1を飲んだ後に、試料としてコントロールと同じもの(6重量%砂糖水溶液)を飲んだときは自己順応により酸素化ヘモグロビンの変化割合は小さくなり、さらにコントロール2を飲んだときの酸素化ヘモグロビンの変化割合は、コントロール1の変化割合に比べて小さくなっており、コントロールピーク上昇率(([コントロール2のピークの高さ]−[コントロール1のピークの高さ])/[コントロール1のピークの高さ])は−39.7%であった(実験1)。
図4には、コントロール1を飲んだ後に、試料2(0.036重量%アスパルテーム水溶液)を飲用し、その後、さらにコントロール2を飲んだときの光トポグラフィ装置で測定した酸素化ヘモグロビンの経時的な変化量を示している(被験者No.18の実験2日目のチャンネル(CH)41)。コントロール1を飲んだ後に、試料2としてアスパルテーム水溶液を飲んだときは交差順応により酸素化ヘモグロビンの変化割合は、試料1の場合に比べて大きくなり、さらにコントロール2を飲んだときの酸素化ヘモグロビンの変化割合は、実験1のコントロール2の変化割合に比べて大きくなっており、コントロールピーク上昇率(([コントロール2のピークの高さ]−[コントロール1のピークの高さ])/[コントロール1のピークの高さ])は13.7%であった(実験2)。
図5には、コントロール1を飲んだ後に、試料3(試料2にシュガーフレーバーを配合したもの)を飲用し、その後、さらにコントロール2を飲んだときの光トポグラフィ装置で測定した酸素化ヘモグロビンの経時的な変化量を示している(被験者No.18の実験3日目のチャンネル(CH)41)。コントロール1を飲んだ後に、試料3としてアスパルテーム水溶液にシュガーフレーバーを配合したものを飲んだときは交差順応により酸素化ヘモグロビンの変化割合は、試料2の場合に比べ小さくなり、試料1の変化割合に近くなっていた。さらにコントロール2を飲んだときの酸素化ヘモグロビンの変化割合は、実験2のコントロール2の変化割合に比べ小さくなり、コントロールピーク上昇率(([コントロール2のピークの高さ]−[コントロール1のピークの高さ])/[コントロール1のピークの高さ])は−46.7%であり実験1のコントロールピーク上昇率に近い値を示した(実験3)。
以上の結果より、コントロール1→試料→コントロール2の順に飲用した場合、コントロール2の脳血流の変化の割合は試料の種類により影響を受けるとの仮説が支持された。
[官能評価結果]
図6は試料1、試料2および試料3に対する官能評価の結果において、試料3であるシュガーフレーバーにより、試料2であるアスパルテームの苦渋味と甘さの後残りの減少に改善効果を認めた被験者10人の官能評価結果を示す。これらの被験者はいずれもコントロール1→試料→コントロール2を飲用した際の酸化ヘモグロビンの経時的な変化量は、図1〜図3に示した傾向が見られ、官能評価と脳血流量の変化傾向に相関が認められ、コントロール2の脳血流の変化割合により試料の風味の適性を評価できることがわかった。
比較呈示法を実施したときのタイムスケジュールを示す説明図である。 試料を飲用したときの官能評価シートである。 コントロール1→試料1→コントロール2を飲用したときの酸素化ヘモグロビンの変化量を示すグラフである。 コントロール1→試料2→コントロール2を飲用したときの酸素化ヘモグロビンの変化量を示すグラフである。 コントロール1→試料3→コントロール2を飲用したときの酸素化ヘモグロビンの変化量を示すグラフである。 比較呈示法により試料1〜3を飲用したときの被験者10人の官能評価の平均値を示す説明図である。

Claims (3)

  1. 飲食物を飲食する際の脳血流の変化を測定して飲食物の風味の適性を評価する方法において、
    (a)ターゲットとする風味をコントロールとして飲用する工程、
    (b)次いで、試料を飲用する工程、
    (c)次いでさらに、2回目のコントロールを飲用する工程、
    を含み、(a)〜(c)のそれぞれの工程における脳血流の変化を測定し、2回目のコントロールを飲用したときの脳血流の変化が、1回目のコントロールを飲用したときの脳血流の変化より小さいほど試料がターゲットとする風味に近似しているものとして評価することを特徴とする風味評価方法。
  2. 脳血流が、大脳皮質の血流であることを特徴とする請求項1記載の風味評価方法。
  3. 脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の風味評価方法。
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