JP4812980B2 - Ag合金薄膜電極、有機EL素子及びスパッタリング用ターゲット - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は、液晶、有機EL(OLED)等の表示素子用その他の(透明)薄膜配線、電極等に用いられるAg(銀)合金薄膜に関するものである。特に、この薄膜からなるAg合金薄膜電極、この薄膜電極を用いた有機EL素子及びこの薄膜電極を形成するためのスパッタリング用ターゲットに関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来のAg合金薄膜(例えば、特開2000-109943号公報、特開2000-285517号公報に記載されるAgPdCu合金)は、下地もしくはその上に積層される膜との密着性があまり良くなかった。例えば、ガラス基板上に直接Ag合金薄膜を形成したり、あるいはアモルファス状ITO(本明細書中では、a−ITOと略す。)膜/Ag合金膜/a−ITO膜を順次スパッタリングにて積層した後、これをフォト工程を経てウエットエッチングしてパターニングすると、ガラス基板とa−ITO膜との界面及びa−ITO膜とAg合金膜との界面で膜はがれが生じ易いという問題があった。この膜はがれは、特に、超音波やブラシ洗浄による仕上げ時に顕著である。そのため適当な密着層を必要としていた。
この発明の課題は、密着性に優れたAg合金薄膜を見出し、この薄膜からなる電極、この薄膜を用いた有機EL素子、及びこの薄膜の合金組成と同じ組成を有するスパッタリング用ターゲットを提供することにある。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Agに、Auと共にCu、Ti、Snのうちの少なくとも1つの金属を添加することにより、低い抵抗、良好な耐食性を保ったままで、従来のものよりも良好な密着性を有する薄膜が得られることを知見し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。この発明のAg合金薄膜電極は、Agに、0.1〜2.1at%のAuと、0.1〜1.0at%のTi又は0.1〜1.0at%のSnとを添加してなるAg合金から形成されたAg合金薄膜からなることを特徴とする。このAg合金は、0.1〜1.4at%のCuが更に添加されたものであることが好ましい。
【0004】
前記Ag合金薄膜の合金組成が膜厚方向に変化していてもよい。この薄膜は、ガラスやプラスチック等の板状やフィルム状の基板に、金属酸化物や導電性の良い金属、ぬれ性改善コーティング(いわゆる「トップコート」)等の密着層を介して形成されてもよく、また、このように形成された薄膜の表面に、更に金属酸化物や導電性の良い金属、ぬれ性改善コーティング等の密着層を設けてもよい。金属酸化物からなる密着層は、高透過率又は高反射率の点から、a−ITO、IZO等からなる透明導電膜であることが望ましく、これらは結晶、微結晶でもよい。導電性の良い金属としては、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Co、Ti、Ta、Pd、Pt、Ru、Si、Sn、Zn等の金属を使用できる。
【0005】
前記密着層が一層の場合はその層が、また、二層の場合はそのいずれか又は両方の層が、H20又はH2添加雰囲気の低電圧スパッタ法により形成されたa−ITOからなる透明導電膜であることが望ましい。この透明導電膜のうち片方又は両方がアニール処理により低抵抗化したものであってもよい。この場合のアニール法は、通常の大気又は雰囲気制御もしくは真空のオーブンの他、レーザーやランプ集光を用いたり、誘導電流加熱を用いたアニールでもよい。
また、Ag合金薄膜電極は、前記薄膜のうち少なくとも2つ以上の膜を積層した積層タイプであってもよい。
上記したような合金組成を有するAg合金薄膜は、これと同じ合金組成を有するスパッタリング用ターゲットを用いて通常のプロセスにより形成され、得られた薄膜の密着性は良好である。上記したAg合金薄膜電極を用いて有機EL素子をはじめとする各種電子素子や光学素子等を作成することができる。
【0006】
【実施例】
本発明をさらに詳細に説明するために、公知のインターバック式通過成膜スパッタ装置(以下、「スパッタ成膜装置」と称す。)により、種々の組成を有するAg合金ターゲットを使用して、公知のプロセス条件の下で、該ターゲットの組成に応じたAg合金薄膜をガラス基板上に形成した。
形成された薄膜の電気抵抗(比抵抗)、密着性、耐食性、反射率等を評価し、この発明によるAg合金薄膜を従来品のAgPdCu合金薄膜と比較した。
(実施例1)
上記スパッタ装置により、以下の表1に示す種々の膜組成と同じ組成を有するAg合金ターゲットを用い、各種組成のAg合金薄膜(膜厚:1000Å)を形成した。基板として、素ガラス(コーニング#7059)及びこの素ガラスにa−ITOを厚さ300〜1000Åでスパッタ成膜したものを用いた。成膜を室温及び150℃で行ったが、結果は同様であったので、以下、室温で行った場合について述べる。
【0007】
得られた合金薄膜の評価は、比抵抗についてはガラス基板上の合金薄膜を四端子測定により行い、密着性については、各基板に形成した合金薄膜をナイフで5mm角の碁盤目状に5X5=25個に区切り、セロハンテープ及びそれより強力な粘着力を有するスコッチテープを用いるピールテストにより行った。ピールテストの場合、25個の碁盤目のうちの残った数を密着性の指針とした。ナイフによるキズ部(溝部)が若干はがれたものは0.5減じた。また、耐食性については、塩水テストにより評価した。Ag合金薄膜の形成された各基板を5wt%NaCl水溶液中に96時間浸漬し、目視により腐食の有無を判定した。
【0008】
表1に、AgにAu、Cuを添加して得たAg合金から形成した薄膜の膜組成を示すと共に、比抵抗、密着性テスト及び塩水テストの結果を示す。
表1中、密着性において、▲1▼/ガラスの欄は、素ガラス上にAg合金膜を形成したものについて、セロファンテープにより剥離せずに残った数を示し、▲2▼/ガラスの欄は、素ガラス上にAg合金膜を形成したものについて、スコッチテープにより剥離せずに残った数を示し、▲2▼/ITOの欄は、a−ITO膜を約300〜1000Å成膜済のガラスのa−ITO上にAg合金を形成したものについて、スコッチテープにより剥離せずに残った数を示す。塩水テストにおいて、○は腐食なし、Xは腐食ありを示す。
【0009】
【表1】
【0010】
表1から明らかなように、Auの組成が0.8〜3.2at%の場合において、従来のAg金属、AgPdCu合金の場合よりも密着性の改善が見られた。特に、素ガラス上に直接Ag合金膜を形成した場合において、Auが約0.8〜1.6at%付近で密着性効果が良い。比抵抗も約5μΩcm以下であり、配線に用いることのできる実用的な値である。塩水テストによる耐食性も問題なかった。
(実施例2)
Ag合金ターゲットとして、AgにAuを添加したものに、さらにTi又はSnを添加したものを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。ただし、Auの添加量は実施例1で効果の良かった約1.6at%として、Ti及びSnの添加量を種々変えて効果を調べた。
得られた結果を表2に示す。Ti、Sn共に添加量に対する比抵抗の上昇は著しいものの、それぞれ約1.0at%以下であれば、実用上配線として使用できる約5μΩcm以下であり、密着性も従来のAg金属、AgPdCu合金(表1記載)と同等以上であり、耐食性も十分であった。
【0011】
【表2】
【0012】
(実施例3)
Ag合金ターゲットとして、AgにAuとCuを添加したものに、さらにTi又はSnを添加したものを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。ただし、AuとCuの添加量は実施例1で効果の良かったAu約1.6at%、Cu1.4〜3.6at%とし、Ti及びSnの添加量を種々変えて効果を調べた。
結果を表3に示す。Ti、Sn共に1.0at%以下でCuの添加量が少なければ、比抵抗約5μΩcm以下であり、実用配線として使用できる。密着性も向上しており、耐食性も良好であった。
【0013】
【表3】
【0014】
(実施例4)
実施例1と同じスパッタ成膜装置を使用し、ガラス基板上にH20添加雰囲気中での低電圧スパッタ法(電圧:約250〜300V)によりa−ITO膜を約300Åの膜厚で形成し、その上に1.6at%のAu、1.4at%のCuを含有するAg合金薄膜又は1.5at%のAu、1.4at%のCu、0.2at%のSnを含有するAg合金薄膜をAr等の不活性ガス雰囲気中で約300Åの膜厚で形成した後に、さらにH2O雰囲気中で前記a−ITO膜を約300Åの膜厚で形成し、これをフォト工程によりエッチング・パターニングして配線を形成した。
前記したように、Ag合金薄膜とa−ITO膜との密着性が良好なので、エッチング後もAg合金薄膜の剥離を生じることは無かった。
これらはいずれの工程も室温で成膜した結果であり、下地のa−ITO膜へのAg合金薄膜の成膜は真空中で連続して行った。また、いずれの工程も加熱成膜(150℃)により行った場合も、室温の場合と同様の結果が得られた。さらにまた、a−ITO成膜後に基板を一旦大気中へ取出した後でAg合金薄膜を成膜しても同様の結果が得られた。
【0015】
【発明の効果】
この発明によれば、AgにAuと共にCu、Ti、Snのうちいずれか1つの金属を適宜添加したAg合金から薄膜を形成することにより、従来技術よりも密着性が向上し、パターニングのためのフォト工程を経ても、この合金薄膜が剥離すること無く、実用に耐える低抵抗、高耐食性、高反射率を有するAg合金薄膜が得られる。従って、この発明によれば、所望のAg合金薄膜電極、この薄膜電極を形成するためのスパッタリング用ターゲット、及びこの薄膜電極を用いた有機EL素子を提供できる。
Claims (11)
- Agに、0.1〜2.1at%のAuと、0.1〜1.0at%のTi又は0.1〜1.0at%のSnとを添加してなるAg合金から形成されたAg合金薄膜からなることを特徴とするAg合金薄膜電極。
- 前記Ag合金は、0.1〜1.4at%のCuが更に添加されたものであることを特徴とする請求項1記載のAg合金薄膜電極。
- 請求項1又は2記載の薄膜のうち少なくとも2つの膜を積層した積層薄膜からなることを特徴とするAg合金薄膜電極。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のAg合金薄膜であって、ガラスやプラスチックの板状やフィルム状の基板に、金属酸化物、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Co、Ti、Ta、Pd、Pt、Ru、Si、Sn及びZnから選択される金属、又はぬれ性改善コーティングの密着層を介して形成されたことを特徴とするAg合金薄膜電極。
- 請求項4記載のAg合金薄膜の表面に、更に金属酸化物、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Co、Ti、Ta、Pd、Pt、Ru、Si、Sn及びZnから選択される金属、又はぬれ性改善コーティングの密着層を設けたことを特徴とするAg合金薄膜電極。
- 前記密着層が、a−ITO、IZOから選ばれた金属酸化物の透明導電膜であることを特徴とする請求項4又は5記載のAg合金薄膜電極。
- 前記密着層の何れか又は両方が、H20又はH2添加雰囲気の低電圧スパッタ法により形成されたa−ITOの透明導電膜であることを特徴とする請求項4又は5記載のAg合金薄膜電極。
- 前記透明導電膜のうち基板側に設けられた透明導電膜は、アニール処理により低抵抗化したものであることを特徴とする請求項6記載のAg合金薄膜電極。
- 請求項1乃至8のいずれか1項に記載のAg合金薄膜電極を用いた有機EL素子。
- Agに、0.1〜2.1at%のAuと、0.1〜1.0at%のTi又は0.1〜1.0at%のSnとを添加してなるAg合金組成を有するスパッタリング用ターゲット。
- 0.1〜1.4at%のCuを更に添加してなることを特徴とする請求項10記載のスパッタリング用ターゲット。
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