しかしながら、上記スクロール圧縮機において、駆動軸の貫通孔から供給される潤滑油は、潤滑油の供給が必要な摺動部分だけでなく、上記可動スクロール(若しくは固定スクロール)とフレームとの間に形成された背圧空間内にも溜まって、可動スクロールやオルダム継手などの可動部品を潤滑油中に浸漬させることになる。そうすると、可動部品によって潤滑油を攪拌することになるため、該可動部品は潤滑油の粘性に起因する流体抵抗(攪拌抵抗)を受けて損失が大きくなり、圧縮機の運転効率の悪化を招くという問題があった。
これに対し、上記特許文献1では、オルダム継手の断面を楕円形状にして周囲の潤滑油を円滑に流通させることで、該潤滑油に起因する攪拌抵抗の低減を図っている。しかしながら、このようにオルダム継手の断面形状を抵抗の少ない形状に変えた場合でも、潤滑油を攪拌していることに変わりはなく、攪拌抵抗によって損失は生じてしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、オルダム継手や可動スクロールなどの可動部材を有するスクロール圧縮機において、可動部材に対する潤滑油の攪拌抵抗をほとんどなくすことにより、運転効率をさらに向上することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係るスクロール圧縮機(1)では、潤滑油の供給される可動スクロール(22)とフレーム(23)との間の背圧空間(S3)内に、オルダム継手(26)よりも低い位置に油溜まり部(23c)を形成し、該油溜まり部(23c)内の潤滑油を排出油路(43)によって背圧空間(S3)よりも低圧の空間(S1)に排出するようにした。
具体的には、第1の発明では、ケーシング(10)内に、固定スクロール(21)と該固定スクロール(21)に噛合する可動スクロール(22)とが収納される一方、上記可動スクロール(22)と該可動スクロール(22)の背面側に位置するフレーム(23)との間に形成された背圧空間(S3)内には、上記可動スクロール(22)の自転を阻止するためのオルダム継手(26)が設けられ、上記背圧空間(S3)内に潤滑油が供給されるように構成されたスクロール圧縮機(1)を対象とする。
そして、上記フレーム(23)の背圧空間(S3)側には、上記オルダム継手(26)よりも低い位置に潤滑油の油溜まり部(23c)が設けられると共に、該油溜まり部(23c)と上記オルダム継手(26)のキーに対応して設けられたキー溝(23a)とを連通させる連通溝(23d)が形成され、上記油溜まり部(23c)に溜まった潤滑油を上記ケーシング(1)内における背圧空間(S3)よりも低圧の空間(S1)へ排出するための排出油路(43)を有しているものとする。
この構成により、背圧空間(S3)内に潤滑油が供給されると、潤滑油はオルダム継手(26)よりも低い位置に位置する油溜まり部(23c)に一旦溜められた後、排出油路(43)によってより低圧の空間(S1)へ排出されるため、可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などの可動部品が潤滑油に浸漬されて該潤滑油を攪拌することで攪拌抵抗となるのを防止することができる。
さらに、潤滑油を供給する必要があるオルダム継手(26)のキー溝(23a)と油溜まり部(23c)とを連通溝(23d)によって連通することで、該キー溝(23a)には所定量の潤滑油量を供給しつつ、余分な潤滑油は油溜まり部(23c)に溜めることが可能になる。これにより、オルダム継手(26)のキー溝(23a)に対する潤滑性を確保しつつ、可動部材が潤滑油の中に浸漬されて該潤滑油を攪拌するのを防止できる。
また、上記油溜まり部(23c)は、底面が上記オルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも下方に位置するように設けられているのが好ましい(第2の発明)。このように、油溜まり部(23c)の底面を上記オルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも低くすることで、該キー溝(23a)からあふれた潤滑油は確実に油溜まり部(23c)に溜まることになる。よって、該キー溝(23a)内に必要以上に潤滑油が貯留されるのを防止できるため、オルダム継手(26)に対し、潤滑油の粘性に起因する大きな攪拌抵抗が作用するのを防止できる。
さらに、上記低圧空間(S1)は、上記背圧空間(S3)よりも上方に設けられていて、上記排出油路(43)の少なくとも一部は、上下方向に延び且つ上記油溜まり部(23c)内に下端部が位置付けられた排油管(42)によって構成されているのが好ましい(第3の発明)。これにより、油溜まり部(23c)内に溜まった潤滑油は、排油管(42)を介して背圧空間(S3)よりも圧力の低い低圧空間(S1)へ排出されることになる。しかも、上記油溜まり部(23c)内における上記排油管(42)の下端部の位置を調整することによって、該排油管(42)から排出される潤滑油量を調整することも可能となり、潤滑に必要な所定量を背圧空間(S3)に残して余分な潤滑油のみを排出することができる。
特に、上記排油管(42)は、下端部が上記オルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも上方に位置するように配設されているのが好ましい(第4の発明)。このように、排油管(42)の下端部をオルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも高い位置に位置付けることで、該キー溝(23a)内に所定量の潤滑油が貯留された状態を維持しつつ、余分な潤滑油のみを排油管(42)から排出することができる。これにより、オルダム継手(26)の潤滑と潤滑油の攪拌抵抗の低減との両立を図れる。
以上の構成において、上記ケーシング(10)内は、上記固定スクロール(21)及び上記可動スクロール(22)を挟んで低圧部(S1)と高圧部(S2)とに区画されていて、上記排出油路(43)は、上記油溜まり部(23c)から上記低圧部(S1)へ潤滑油を排出するように設けられているものとする(第5の発明)。このように、ケーシング(10)内が高圧空間(S2)と低圧空間(S1)とに区画される高低圧ドーム型のスクロール圧縮機(1)に、上述の各発明のような油溜まり部(23c)及び該油溜まり部(23c)から低圧空間(S1)へ潤滑油を排出する排出油路(43)を設けることで、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機(1)でも上述の各発明と同様の作用が得られる。
上記第1の発明によれば、オルダム継手(26)よりも低い位置に潤滑油の油溜まり部(23c)を設け、該油溜まり部(23c)内の潤滑油を背圧空間(S3)よりも低圧の空間(S1)へ排出するための排出油路(43)を設けたため、背圧空間(S3)内に供給される潤滑油を油溜まり部(23c)に集めて、該油溜まり部(23c)に溜められた潤滑油を排出油路(43)を介して排出することができ、オルダム継手(26)や可動スクロール(22)などの可動部品が潤滑油に浸漬されるのを防止できる。したがって、可動部品による潤滑油の攪拌によって該可動部品に攪拌抵抗が作用して損失となるのを防止でき、これにより、圧縮機(1)の運転効率の向上を図れる。
また、上記第1の発明によれば、上記油溜まり部(23c)とオルダム継手(26)のキー溝(23a)とを連通溝(23d)によって連通させることで、該オルダム継手(26)のキーの摺動部分に潤滑油を確実に供給しつつ、余分な潤滑油を油溜まり部(23c)に溜めて排出することができる。すなわち、オルダム継手(26)の潤滑と、潤滑油の攪拌抵抗の低減との両立を図れる。
また、上記第2の発明によれば、油溜まり部(23c)は、底面がオルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも下方に位置するように設けられているため、オルダム継手(26)のキー溝(23a)で余分な潤滑油は確実に油溜まり部(23c)に溜められることになり、オルダム継手(26)による潤滑油の攪拌を確実に防止でき、圧縮機(1)の運転効率の向上を図れる。
また、上記第3の発明によれば、上記排出油路(43)は、その少なくとも一部が油溜まり部(23c)内に下端部の位置する排油管(42)によって構成されるため、油溜まり部(23c)から排出される潤滑油の油量を、排油管(42)の下端部の高さ位置によって調整することができ、背圧空間(S3)内の潤滑油量を、回動部材の潤滑に適していて且つ大きな攪拌抵抗の生じないような油量に設定することができる。特に、上記第4の発明によれば、上記排油管(42)の下端部をオルダム継手(26)のキー溝(23a)の底面よりも上方に位置付けることで、該オルダム継手(26)のキー溝(23a)に対して潤滑油を確実に供給しつつ、余分な潤滑油を排出できる。これにより、摺動部分の焼き付きを防止しつつ、運転効率の向上を図れる。
さらに、上記第5の発明によれば、ケーシング(10)内に低圧部(S1)及び高圧部(S3)が設けられた高低圧ドーム型のスクロール圧縮機(1)であれば、該低圧部(S1)に潤滑油を排出するように構成することで、上述の各発明の効果が確実に得られる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機(1)は、例えば、空気調和装置の蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられ、冷媒を圧縮するものである。
図1に示すように、上記スクロール圧縮機(1)は、ケーシング(10)を備えている。該ケーシング(10)内には、冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮機構(20)を駆動する駆動機構(30)とが収納されている。該駆動機構(30)は、圧縮機構(20)の下方に配置され、駆動軸(32)を介して圧縮機構(20)に連結されている。
上記ケーシング(10)は、上下方向に延びる円筒状部材の両端を塞いだもので、これにより、該ケーシング(10)が密閉ドーム型の圧力容器を構成している。
上記圧縮機構(20)は、固定スクロール(21)と、該固定スクロール(21)に噛合する可動スクロール(22)とを備えると共に、固定スクロール(21)を固定支持するフレーム(23)を備えている。
上記フレーム(23)は、その全周に亘ってケーシング(10)の上部内面に気密状に接合されている。これにより、上記ケーシング(10)内は、フレーム(23)上方の比較的低圧な空間(S1,S3)と、フレーム(23)下方の高圧空間(S2)とに区画されている。すなわち、本実施形態のスクロール圧縮機(1)は、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)とを備えた、いわゆる高低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。なお、後述するように、上記フレーム(23)上方の比較的低圧な空間(S1,S3)は、固定スクロール(21)及び可動スクロール(22)によってさらに上下に区画されていて、上側がより低圧の低圧空間(S1)に、下側がより高圧の背圧空間(S3)になっている。ここで、上記低圧空間(S1)が本発明の低圧部に、上記高圧空間(S2)が本発明の高圧部に、それぞれ、対応している。
上記フレーム(23)は、図2にも拡大して示すように、フレーム凹部(24)と軸受部(25)とを備えている。上記フレーム凹部(24)は、フレーム(23)の上面に上面視でリング状に設けられた第1凹陥部(24a)と、該第1凹陥部(24a)の内側に設けられた第2凹陥部(24b)とにより構成されている。一方、上記軸受部(25)は、上記第2凹陥部(24b)の設けられたフレーム(23)中央部の下面側が下方に向かって膨出するように形成されたものである。この軸受部(25)には、貫通孔(25a)が形成されていて、該貫通孔(25a)の内周面に設けられた軸受(25b)によって該貫通孔(25a)を挿通する上記駆動軸(32)を回転自在に支持するように構成されている。
上記固定スクロール(21)は、略円板状の鏡板(21a)と、該鏡板(21a)の下面に立設された渦巻き状の固定側ラップ(21b)とを備えている。
一方、上記可動スクロール(22)は、略円板状の鏡板(22a)と、該鏡板(22a)の上面に立設された渦巻き状の可動側ラップ(22b)とを備えている。上記鏡板(22a)の下面には、下方に延設された略円筒状のボス(22d)が形成されている。上記可動側ラップ(22b)は、固定スクロール(21)のラップ(21b)に噛合するように構成されている。上記ボス(22d)には、駆動軸(32)の上端部に形成された偏心部(32a)が滑り軸受(22c)を介して挿入されていて、これにより該駆動軸(32)と駆動連結されている。
上記可動スクロール(22)の鏡板(22a)は、フレーム(23)の第2凹陥部(24b)の上方を覆いつつ、その外周端部が第1凹陥部(24a)内に位置している一方、上記ボス(22d)は第2凹陥部(24b)内に位置している。なお、上記フレーム(23)の第1凹陥部(24a)と第2凹陥部(24b)との間には、該第2凹陥部(24b)の外周を囲むように上面視でリング状の溝(23b)が形成されていて、該溝(23b)内には、シールリング(41)が配設されている(図2参照)。
上記可動スクロール(22)の鏡板(22a)と第1凹陥部(24a)の底面との間には、可動スクロール(22)の自転を阻止するためのオルダム継手(26)が配設されている。
上記オルダム継手(26)は、環状のリング(図1には断面のみ示す)からなる。リングにおいて互いに対向する位置で且つ該リングの上側には、それぞれ、スクロールキー(図示省略)が突設されている一方、該スクロールキーに対してそれぞれ周方向に90度ずれた位置で且つ該リングの下側には、一対のフレームキー(図示省略)が突設されている。すなわち、上記スクロールキーおよびフレームキーは、リング径方向に延びるそれぞれの中心線が上面視で直角をなすように設けられている。
上記可動スクロール(22)の鏡板(22a)の下面には、上記オルダム継手(26)のスクロールキーに対応して径方向に延びる第1ガイド溝(図示省略)が形成されている。一方、上記フレーム(23)の第1凹陥部(24a)の底面にも、図3及び図4に示すように、上記オルダム継手(26)のフレームキーに対応して径方向に延びる本発明のキー溝としての第2ガイド溝(23a)が形成されている。そして、上記第1ガイド溝および第2ガイド溝(23a)は、該第1ガイド溝にスクロールキーが、該第2ガイド溝(23a)にフレームキーが、それぞれ嵌合して摺動するように構成されている。すなわち、上記両キーおよび両ガイド溝は、可動スクロール(22)が自転運動を行うのを防止することができ、これにより、該可動スクロール(22)がフレーム(23)に対して公転運動を行うように構成されている。
図1に示すように、上記ケーシング(10)は、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(20)に導く吸入管(14)と、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出するための吐出管(15)とを備えている。上記吸入管(14)は、低圧空間(S1)に連通し、上記吐出管(15)は、高圧空間(S2)に連通するように設けられている。このように、上記吸入管(14)を低圧空間(S1)に連通させることで、該吸入管(14)から吸入された冷媒は、一旦、該低圧空間(S1)内に入り、その後、圧縮機構(20)へ流れることになる。
上記圧縮機構(20)において、固定スクロール(21)に吸入口(Pi)および吐出口(Po)が形成されている一方、固定スクロール(21)の固定側ラップ(21b)と可動スクロール(22)の可動側ラップ(22b)との接触部同士の間隙には、圧縮室(C)が区画形成されている。ここで、特に図示しないが、上記吸入口(Pi)は、圧縮室(C)の外周端から低圧空間(S1)に連通している一方、上記吐出口(Po)は、圧縮室(C)の内周端から吐出凹部(28a)及び連通路(図示省略)を介して高圧空間(S2)に連通している。
すなわち、上記圧縮機構(20)は、可動スクロール(22)の公転運動により、低圧空間(S1)の冷媒が吸入口(Pi)を通じて圧縮室(C)内に吸入され、該圧縮室(C)内で圧縮された後、吐出口(Po)から吐出され、吐出凹部(28a)及び連通路(図示省略)を通じて高圧空間(S2)へ流れるように構成されている。
上記駆動機構(30)は、高圧空間(S2)内に配設されたモータ(31)により構成されている。該モータ(31)は、ステータ(33)とロータ(34)とを備えていて、円筒状のロータ(34)内には駆動軸(32)が挿入された状態で固定されている。
上記ケーシング(10)内の底部には、潤滑油が貯留される貯留部(59)が形成されている。上記駆動軸(32)は、その下端部が該貯留部(59)に浸漬された状態で配設されている。そして、上記ケーシング(10)内においてフレーム(23)よりも下方に位置し、高圧になっている貯留部(59)では、その圧力によって、潤滑油は上記駆動軸(32)を軸方向に貫通する給油孔としての貫通孔(32b)内を上昇して、該駆動軸(32)の偏心部(32a)と可動スクロール(22)のボス(22d)との隙間から背圧空間(S3)へ供給されるようになっている。これにより、潤滑油は、上記背圧空間(S3)内に位置する各滑り軸受(22c,25a)や両スクロール(21,22)の摺動面、オルダム継手(26)の各キーに対応して設けられたガイド溝(23a)などに供給される。
ところで、上記可動スクロール(22)は、該可動スクロール(22)が公転運動を行っている間、鏡板(22a)の外周部と第1凹陥部(24a)の内周壁面とが接近及び離隔を繰り返す構成となっている。そのため、上記接近及び離隔を繰り返す間、可動スクロール(22)は、鏡板(22a)の外周部と第1凹陥部(24a)の内周壁面との間に存在する潤滑油を可動スクロール(22)の鏡板(22a)によって撹拌する。
一方、上記オルダム継手(26)は、可動スクロール(22)が公転運動を行っている間、つまり、オルダム継手(26)がフレーム(23)および可動スクロール(22)に対してそれぞれ往復直線運動を行っている間、オルダム継手(26)の周囲に存在する潤滑油を該オルダム継手(26)のリング、スクロールキー及びフレームキーによって撹拌する。
そうすると、潤滑油の粘性によって上記可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などに大きな攪拌抵抗が生じて、損失が大きくなるため、圧縮機の運転効率が低下するという問題が生じる。
これに対し、本発明の特徴部分として、上記フレーム(23)の上面(背圧空間に面する側)に、油溜まり部(23c)を設け、上記可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などの可動部材が背圧空間(S3)内に供給される潤滑油に浸漬されないようにすることで、これらの可動部材に攪拌抵抗が生じて損失となるのを防止するようにした。
具体的には、図2に示すように、上記フレーム(23)の上面に、オルダム継手(26)のフレームキーが位置する第2ガイド溝(23a)に対し、上面視円弧状に形成された連通溝(23d)によって連通するように、油溜まり部(23c)が設けられている。この油溜まり部(23c)は、底面が上記第2ガイド溝(23a)の底面よりも低くなるように形成されていて、上記連通溝(23d)は、上記第2ガイド溝(23a)及び油溜まり部(23c)よりも底が浅く形成されている。
これにより、上記背圧空間(S3)内に流入した潤滑油は、該背圧空間(S3)内で最も低い位置に底面の設けられた上記油溜まり部(23c)内に溜まることになる。このとき、上記第2ガイド溝(23a)に対して摺動し、或る程度の潤滑油が必要なオルダム継手(26)のフレームキーに対しては、該第2ガイド溝(23a)内に潤滑油を溜めることができるため、該キーの焼き付きを確実に防止することができる。
また、上記油溜まり部(23c)に対応するように、上記固定スクロール(21)には、低圧空間(S1)と背圧空間(S3)とを連通させる連通孔(21c)が形成されていて、この連通孔(21c)の背圧空間(S3)側には、下方に向かって延びる排油管(42)の一端が内嵌状態で配設されている。この排油管(42)は、その下端が上記油溜まり部(23c)内に位置付けられていて、該油溜まり部(23c)内に溜まって該排油管(42)の下端部よりも上方に潤滑油が位置している場合に、該油溜まり部(23c)内の潤滑油を上記連通孔(21c)を介して低圧空間(S1)へ排出するように構成されている。
すなわち、上記駆動軸(32)の貫通孔(32b)から供給される高圧の潤滑油は、上記背圧空間(S3)へ流れ込むと、油中に溶け込んでいた冷媒が発泡して、該背圧空間(S3)内の圧力が上昇する。そうすると、上記油溜まり部(23c)内の潤滑油の油面にかかる圧力が大きくなって、該潤滑油は、上記排油管(42)内を上昇して低圧空間(S1)へ排出される。つまり、上記油溜まり部(23c)内に下端が位置付けられた上記排油管(42)と上記固定スクロール(21)内の連通孔(21c)とにより、上記油溜まり部(23c)内の潤滑油を低圧空間(S1)へ排出するための排出油路(43)が構成されている。
−運転動作−
次に、上述のような構成を有するスクロール圧縮機(1)の運転動作について説明する。
まず、モータ(31)を駆動させると、駆動軸(32)が回転し、可動スクロール(22)が固定スクロール(21)に対して公転運動を行う。その際、オルダム継手(26)において、スクロールキーが可動スクロール(22)の第1ガイド溝内で摺動する一方、フレームキーがフレーム(23)の第2ガイド溝(23a)内で摺動するので、可動スクロール(22)の自転が防止される。したがって、可動スクロール(22)は、駆動軸(32)の偏心部(32a)の所定偏心量を公転半径とする公転運動を行う。
上記可動スクロール(22)の公転運動に伴って、圧縮室(C)の容積が周期的に増減を繰り返す。上記圧縮室(C)の容積が増大すると、冷媒回路の冷媒が吸入管(14)から低圧空間(S1)に吸入される。この低圧空間(S1)内に吸入された冷媒は、固定スクロール(21)の吸入口(Pi)から圧縮室(C)に吸い込まれる。次に、圧縮室(C)に吸い込まれた冷媒は、圧縮室(C)の容積が減少することにより、圧縮され、吐出口(Po)から吐出される。その後、圧縮された冷媒は、連通路を介して高圧空間(S2)へ流入して、吐出管(15)から冷媒回路に戻る。
一方、貯留部(59)の潤滑油は、該貯留部(59)が高圧空間(S2)内にあることから、その圧力によって駆動軸(32)の貫通孔(32b)内を上方へ押し上げられて、該駆動軸(32)の上端部から各滑り軸受(22c,25a)や両スクロール(21,22)の摺動面などに供給される。そして、このように供給された潤滑油は、第1凹陥部(24a)内や第2凹陥部(24b)内に溜まる。
上記油溜まり部(23c)は、可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などの可動部材よりも低い位置に設けられているため、上述のように、上記第1凹陥部(24a)や第2凹陥部(24b)内に溜まった潤滑油は、上記フレーム(23)の上面に形成された油溜まり部(23c)内に溜められる。また、上記油溜まり部(23c)は、連通溝(23d,23d)によって上記オルダム継手(26)の第2ガイド溝(23a)と繋がっているため、該第2ガイド溝(23a)内の余分な潤滑油も該油溜まり部(23c)に集められる。そして、該油溜まり部(23c)内に下端部が位置する排油管(42)によって、該油溜まり部(23c)内の潤滑油は低圧空間(S1)に排出される。
これにより、上記可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などの可動部材が、潤滑油に浸漬されて、潤滑油を攪拌するのを防止することができる。したがって、可動部材に潤滑油の粘性によって攪拌抵抗が作用して損失となるのを防止することができる。
上述のようにして、上記低圧空間(S1)へ排出された潤滑油は、固定スクロール(21)の吸入口(Pi)から冷媒とともに吸入されて、圧縮機構(20)内で圧縮された後、吐出口(Po)から高圧空間(S2)の貯留部(59)に戻る。
−実施形態の効果−
以上説明したように、本実施形態によれば、上記フレーム(23)の背圧空間(S3)側の面上で上記可動スクロール(22)やオルダム継手(26)よりも低い位置に、油溜まり部(23c)を設けたため、該可動スクロール(22)やオルダム継手(26)などの可動部材が潤滑油に浸漬されて該潤滑油を攪拌するのを防止することができる。これにより、潤滑油の粘性によって可動部材に攪拌抵抗が作用して損失となるのを防止できる。その分、損失が減るので圧縮機の運転効率を向上することができる。
また、上記油溜まり部(23c)を、連通溝(23d,23d)によって、上記オルダム継手(26)のフレームキーの摺動する第2ガイド溝(23a)と連通させることで、該第2ガイド溝(23a)内に潤滑油を供給しつつ、余分な潤滑油は油溜まり部(23c)に溜めることができる。これにより、上記オルダム継手(26)のフレームキーの摺動部分には潤滑用の油を確実に供給して該キーの焼き付きを防止しつつ、オルダム継手(26)や可動スクロール(22)が潤滑油中に浸漬されて該潤滑油を攪拌するのを防止できる。特に、上記油溜まり部(23c)の底面を上記第2ガイド溝(23a)の底面よりも低い位置に設けることで、該油溜まり部(23c)内に潤滑油を確実に溜めることができ、可動スクロール(22)やオルダム継手(26)による潤滑油の攪拌をより確実に防止することができる。
さらに、潤滑油の溜められた上記油溜まり部(23c)内に、低圧空間(S1)との連通孔(21c)に内嵌された排油管(42)の下端部が位置付けられて、該低圧空間(S1)と背圧空間(S3)との圧力差等に起因して該排油管(42)内を潤滑油が通って該低圧空間(S1)へ排出されるため、該油溜まり部(23c)から確実に潤滑油を低圧空間(S1)へ排出できるとともに、該油溜まり部(23c)に対する排油管(42)の下端部の高さ位置によって、該低圧空間(S1)へ排出する潤滑油量を調整することができる。これにより、排油管(42)の下端部の高さ位置によっては、上記オルダム継手(26)などの回転部材の潤滑に必要な油量を確保しつつ、背圧空間(S3)内の潤滑油量が、該回転部材が浸漬されて該回転部材に潤滑油の攪拌によって大きな攪拌抵抗が作用するような油量にならないように、潤滑油を低圧空間(S1)へ排出することが可能となる。
特に、上記排油管(42)の下端部は、上記油溜まり部(23c)内において、上記オルダム継手(26)のフレームキーが摺動する第2ガイド溝(23a)の底面よりも上方に位置するように該排油管(42)を設ければ、摺動部分を有する該第2ガイド溝(23a)内には十分な潤滑油を確保しつつ、余分な潤滑油のみを上記油溜まり部(23c)から排油管(42)によって低圧空間(S1)へ排出することができる。これにより、上記オルダム継手(26)の潤滑と、潤滑油の攪拌抵抗の増大防止との両立を図れる。
《その他の実施形態》
上記実施形態は、以下のような構成としてもよい。
上記実施形態では、圧縮機構(20)とモータ(31)とが上下方向に延びる駆動軸(32)によって連結された縦置き型のスクロール圧縮機であるが、この限りではなく、例えば、圧縮機構とモータとが横方向に延びる駆動軸によって連結された横置き型のスクロール圧縮機であってもよい。
さらに、上記実施形態では、ケーシング(10)内に低圧空間(S1)と高圧空間(S2)とが設けられた高低圧ドーム型のスクロール圧縮機を前提としているが、この限りではなく、例えば、圧縮機構に直接、冷媒が吸入され、ケーシング内全体が高圧になる高圧ドーム型のスクロール圧縮機であってもよい。なお、このような高圧ドーム型のスクロール圧縮機の場合には、背圧空間よりも低い圧力の吸入管へ潤滑油を排出するように構成すればよい。
さらにまた、上記実施形態では、油溜まり部(23c)から低圧空間(S1)へ潤滑油を排出するために、排油管(42)を用いているが、この限りではなく、低圧空間(S1)へ潤滑油を排出できればどのような構成であってもよい。すなわち、例えば、油溜まり部(23c)の底面に開口する排出通路を設けて、該排出通路から低圧空間(S1)へ排出するように構成してもよい。