JP4800909B2 - コンクリートの診断方法 - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリート建造物の健全性を診断するコンクリート診断方法に関する。
トンネルや橋梁などのコンクリート建造物の劣化の原因は、施工不良の他に、中性化、塩害、アルカリ骨材反応などが挙げられる。
中性化は、コンクリートが大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と化学反応を起こして、炭酸カルシウムに変化することによって起こる。この中性化が鉄筋部分まで進むと、鉄筋の表面の保護被膜が失われて鉄筋腐食が生じてしまう。
塩害による鉄筋の腐食は、海水などによりコンクリートの表面から塩化物が浸透する等、コンクリート内に多量の塩化物を含み、塩化物イオンの作用により鉄筋の保護被膜が破壊され、鉄筋腐食が生じてしまう。
アルカリ骨材反応は、骨材中のある種反応性成分がセメント中に含まれているアルカリ分と反応し、生成物がコンクリート中の水分で吸収膨張することで、コンクリートにひび割れを発生させるものである。
このようなコンクリートの診断方法としては、ひび割れの目視調査を行った後、躯体コンクリートから試験体を切り取り、その試験片の圧縮強度試験を行ったり、コンクリートの表面を打撲、反発度を測定し強度を推定する等の手法がある。しかし、コンクリートから試験体を切り取ったり、コンクリートに直接ダメージを与えるものであり、構造物に損傷を与えてしまう。
そこで、測定対象とするコンクリート面に対して、劣化因子が吸収する波長帯を含む光を照射し、そのコンクリート面での反射光(散乱光)を受光し、特定の物質の反射光が劣化因子の濃度に依存して特定波長域で減衰する現象を利用した分光分析法を利用して、コンクリート構造物の劣化因子の濃度分布状況を非破壊・非接触的に検出する方法が提案されている。すなわち、炭酸カルシウム等の中性化因子は1.42μmに、塩化物は2.26μmに吸収ピークがあり、この波長ピークを差スペクトルを用いて解析することで、その吸光度差から劣化度を診断するものである。
特開2005−291881号公報
コンクリートの劣化は、中性化や塩害が単独に発生するのではなく、中性化や塩害等の複数の劣化因子に起因するものである。これらの劣化因子は、他の劣化因子の影響を受ける場合がある。
例えば、塩害と中性化が同時に発生した場合には、コンクリートに近赤外線を照射して劣化因子を検出する従来の方法では、塩化物の検出を正確に行うことができない可能性が高いことを、発明者らは発見した。すなわち、中性化が進行すると、塩化物の吸収ピークが影響を受けて塩化物濃度が同じでも塩害の吸収ピークが小さくなるため、従来の技術では、中性化が進行したコンクリートに対しては劣化因子の定量的な評価が困難であるという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、コンクリート面に照射した近赤外線の反射光を分光分析して劣化成分を検出するコンクリート診断方法において、第一劣化成分の影響を排除して、第二劣化成分を正確に検出することができるコンクリートの診断方法を提案することを目的とする。
本発明に係るコンクリートの診断方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明は、コンクリート面に照射した近赤外線の反射光を分光分析して劣化成分を検出するコンクリート診断方法において、複数の吸収スペクトルを採取する第一工程と、前記第一工程で採取した吸収スペクトルから第一劣化成分の影響を排除する第二工程と、前記因子の影響を排除した吸収スペクトルに統計的手法を適用して第二劣化成分を検出する第三工程と、を有することを特徴とする。
前記第一劣化成分は、水酸化カルシウムであることを特徴とする。
前記第二劣化成分は、塩化物イオンであることを特徴とする。
前記第二工程は、前記第一劣化成分と前記第二劣化成分に関連する第三成分の影響を排除する工程を含むことを特徴とする。
前記第三成分は、水酸化イオンであることを特徴とする。
前記第二工程は、前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記第三成分の吸収ピークを基準に相対化する相対化工程を含むことを特徴とする。
前記相対化工程は、前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記第三成分の吸収ピークを含む所定範囲の吸収スペクトルを抽出する工程と、抽出された吸収スペクトルの最大値と最小値をそれぞれ所定値に一致させる補正値をそれぞれ求める工程と、前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記補正値で補正する工程と、を含むことを特徴とする。
前記統計的手法は、多変量解析法であることを特徴とする。
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
コンクリート面に光を照射して採取した反射光を分光分析して劣化成分を検出する評価方法において、採取した吸収スペクトルから第一劣化成分の影響を排除することで、第二劣化成分を検出することが可能となる。
しかも、採取した吸収スペクトルを、第三成分の吸収ピークを基準にして相対化するだけなので、特別な装置やコスト上昇を伴わずに、容易かつ確実に、正確な分析が可能となる。
以下、本発明に係るコンクリートの診断方法の実施形態について図面を参照して説明する。
分光分析法を用いたコンクリート診断方法は、測定対象とする構造物のコンクリート面Cに光Lを照射し、その反射光を測定して、コンクリート面の劣化を光学的に検出する方法である。
本実施形態のコンクリート診断方法では、コンクリートを劣化させる原因となる成分(劣化因子)として、例えば、塩害因子、中性化因子、硫酸塩因子等があり、それら劣化因子が赤外領域(特に近赤外〜中間赤外)に吸収ピークを有するので、その吸収ピークの吸光度から劣化因子の濃度を求める分光分析法を用いている。
図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法に用いる分光分析装置10の概略構成を示す模式図である。
図1(a)に示すように、分光分析装置10は、測定の対象となるコンクリート面Cに光Lを照射して、その反射光L1からコンクリート面Cにおける劣化因子等の2次元分布を計測するシステムであり、光源11と、スキャニング装置12と、マルチチャンネル分光器(以下、分光器)14と、演算手段15とを備える。
光源11は、コンクリート面Cに光Lを照射する部材である。光源11から出射される光(光源出射光)Lとしては、塩害因子、中性化因子、硫酸塩因子の劣化因子を検出するため、これらの劣化因子が吸収ピークを有する赤外線(特に、近赤外線〜中間赤外線)を含む光であればよい。
スキャニング装置12は、分光器14と光ファイバ13を介して光学的に接続され、コンクリート面Cから反射された光Lのうち、コンクリート面C内に並ぶ複数の点のうち一点(計測点p)からの反射光L1を順次分光器14に取り込むものである。
具体的には、図1(b)に示すように、スキャニング装置12は、ポリゴンミラー16及びガルバノミラー17を備えている。ポリゴンミラー16は、回転軸の周囲に一連の平面ミラーを備えた回転多面体からなる偏向器であり、ガルバノミラー17は、単一のミラーに軸を付け、電気信号に応じてミラーの回転角を変えられるようにした偏向器である。
分光分析装置10では、ポリゴンミラー16が図1(b)中紙面に垂直な軸を回転軸として回転して、コンクリート面Cを横方向(図1(a)中i方向)に走査し、ガルバノミラー17が図1(b)中紙面に平行な軸を回動軸として回動して、コンクリート面Cを縦方向(図1(a)中j方向)に走査するように構成している。
演算手段15は、分光器14に電気的に接続され、分光器14から出力されるデータを演算処理するものである。
図2は、分光器14の概略構成を示す模式図である。
分光器14は、光ファイバ13の他端側に光学的に接続され、光の伝搬方向上流側から、回折格子31、光反射偏向手段32、アパチャ33、集光手段34、光検出器35の順に設けられてなる。
回折格子31には、光ファイバ13を経て出射された光L1が照射され、反射されると共に、各所定の波長ごとに分光される。ここで、光L1は、光源11から出射された光がコンクリート面Cに照射され、そのコンクリート面Cで反射(或いは散乱)されてスキャニング装置12から導かれる。
光反射偏向手段32には、回折格子31で分光された光L1が照射され、反射、偏向される。この光反射偏向手段32は、分光された光L1を所定の波長ごとに掃引、変調するMEMSアクチュエータを有する。
アパチャ33は、偏向された光L1の通過/遮断を行う遮光絞りである。偏向された光L1が、遮断体33aに照射されると伝搬遮断となる。また、偏向された光L1が、隣接する遮断体33a間の開口部に向けて照射されると通過となる。遮断体33aの形状は、特に限定するものではなく、矩形状の他に、円形状であってもよい。開口部は、遮断体33a自体に設けた溝(スリット)であってもよい。
集光手段34は、分光器14内で拡径した光を光検出器35に集光させる部材であり、慣用の集光レンズを用いている。
光検出器35は、集光手段34によって集光された光L1を検出し、光L1の光強度を出力するものである。光検出器35には、ACアンプ等を介して演算手段(例えば、データ演算装置)15が電気的に接続されており、演算手段15は光検出器35の出力値を記憶し、その出力値に基づいて、コンクリート面Cの二次元分布を算出する。
次に、本実施形態のコンクリート診断方法について説明する。まず、劣化因子に基づく吸光度の求め方について説明する。
コンクリート面Cに光強度I0の光Lを照射し、反射させると、光Lの一部の波長バンドがコンクリート面C内の劣化因子により吸光され、光強度I1の反射光L1として出射される。
この時、光源出射光Lと反射光L1との間には、
L1(λ)=L(λ)×T(λ)
ここで、T(λ)は反射率
の関係が成り立つ。
反射率T(λ)が小さい程、反射光L1(λ)の光強度は減衰し、光強度が減衰された波長帯から劣化因子の種類を、吸光度から劣化因子の濃度を、求めることができる。
ここで、吸光度とは、光源出射光Lの光強度と反射光L1の光強度との比を対数で表したものと定義されている。
コンクリート構造物の中性化による劣化を診断する場合には、反射光L1の波長1420nm,2390nm或いは3980nm付近の波長帯の吸光度を計測する。CaCO等の中性化因子は、波長1420nm,2390nm或いは3980nm付近に吸収ピークを有するからである。
コンクリート構造物の塩害(塩化物イオンの浸透による劣化)を診断する場合には、反射光L1の波長2260nm付近の波長帯の吸光度を計測する。塩害因子(塩化物イオン)は、波長2260nm付近に吸収ピークを有するからである。
コンクリート構造物の硫酸塩による劣化を診断する場合には、反射光L1の波長1410nm或いは1750nm付近の波長帯の吸光度を計測する。硫酸塩因子は、波長1410nm或いは1750nm付近に吸収ピークを有するからである。
したがって、従来は、採取した吸収スペクトルから、波長1420nm,2390nm或いは3980nm付近に存在する吸収ピークの吸光度から中性化因子の濃度を計測し、塩害因子の濃度については波長2260nm付近に存在する吸収ピークの吸光度から濃度を計測していた。
これは、図3は、中性化と塩害が同時に発生したコンクリートの断面図である。
しかしながら、塩害と中性化が同時に発生した場合には、波長2260nm付近に存在するはずの吸収ピークが殆どなくなってしまい、塩害の検出が困難である。
図3に示すように、塩害により内部に塩化物が浸透しているコンクリートが、その後にコンクリート表面から中性化が進行し、表面側に存在した塩化物が減少してしまう現象が見られるからである。
コンクリートが中性化すると,以下の反応が起こることが知られている。
Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O・・・(1)
このように、中性化が進行すると、水酸化カルシウムは減少し、炭酸カルシウムは増大する。
したがって、中性化が進行するに従って、水酸化カルシウムの特性を示す1420nmの吸光度は減少し、炭酸カルシウムの特性を示す3980nmが増大するようになる。
一方、塩害(塩化物イオン)に起因する吸収のピークは、セメント中のC3A(アルミン酸三カルシウム)に依存していると考えられる。このために,CA水和物が塩化物イオンを固定化し2260nmにピークが現れると考えられる。また、コンクリート中に塩化物イオンがあると固定化されて、フリーデル氏塩(3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O)として存在する。
しかし、二酸化炭素と介在することにより,以下のような化学反応が起こる。
3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O+3CO2→3CaCO3+2Al(OH)3+CaCl2+7H2O・・・(2)
この反応は,中性化することにより、コンクリート表面付近にあったフリーデル氏塩が二酸化炭素と反応して溶解することを示す。そして、コンクリートの年数が経つに従って、表面付近はフリーデル氏塩が存在しない状態となる。
このように、コンクリート内部に塩化物が存在する場合であっても、中性化の進行により表面付近の塩化物が減少するため、コンクリートの表面に光を照射して劣化因子を検出する分光分析では、塩化物の検出が困難となる。つまり、2260nm付近に適切な吸収ピークが現れない可能性が高くなる。
したがって、コンクリートの塩害に関しては、単に2260nm付近の吸収ピークを観察するのみでは正確な情報を得ることはできないので、他の吸収ピークの変動等も観察して、総合判断しなければならない。
ところで、式(1)に示すように、中性化は、水酸化カルシウム中の水酸化イオン(OH-)が失われる反応である。同様に、塩害も水酸化イオン(OH-)が介在する反応である。そして、水酸化イオン(OH-)の増減と、塩化物の増減に関連性が見られる。
そこで、水酸化イオン(OH-)、つまり、水の吸収ピークに注目し、採取した吸収スペクトルのデータから水の吸収ピークの影響を減らす(水の吸収ピークを基準に、採取した吸収スペクトルのデータを相対化(規格化)する)ことで、中性化の影響を排除して、コンクリートの塩害を判断する。
以下、本発明の実施形態に係るコンクリートの診断方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法を示すフローチャート図である。図5〜図10は、本実施形態に係るコンクリート診断方法(ステップS1〜ステップS7)において得られるデータを示す。
まず、ステップS1では、測定対象であるコンクリート構造物のコンクリート面Cに対して光Lを照射して、その反射光L1を取得する。
具体的には、分光分析装置10の光源11からコンクリート面Cに光Lを照射する。その光Lは、コンクリート面Cで反射され、反射光L1として出射する。
その際、スキャニング装置12は、ポリゴンミラー16及びガルバノミラー17の角度を調整してコンクリート面C内の計測点p(1,1)からの反射光L1を捉える。具体的には、光ファイバ13に反射光L1が入射されるようポリゴンミラー16及びガルバノミラー17と反射光L1の光軸が合致するように光軸の調整がなされる。
スキャニング装置12によって光軸の合わせられた反射光L1は光ファイバ13を経由して分光器14へ入射される。分光器14内へ入射した光L1は回折格子31で所定波長ごとの光に分光されて、光反射偏向手段32へ向かう。
分光された反射光L1は光反射偏向手段32で反射、偏向される。光反射偏向手段32は、例えば、MEMS型プログラマブル回折格子であり、このMEMS型プログラマブル回折格子はMEMSアクチュエータを備える。
MEMSアクチュエータに到達した光L1は、所定の角度範囲で高速で反射、偏向されアパチャ33へと向かう。この反射、偏向によって、反射光L1のうち、分光された各波長の光ごとに光強度が調整される。
アパチャ33を通過した光L1は集光手段34に入射する。集光手段34に入射した光L1は、集光して、所定の波長帯ごとの光が光検出器35で受光される。受光された光L1は、演算手段15に電気信号として出力される。
そして、演算手段15では、採取した電気信号を処理して、図5に示すような吸収スペクトルの波形データが求められる。
次に、ステップS2では、採取した吸収スペクトルの各波形データから、水の吸収ピークと塩化物の吸収ピークを含む範囲のみを取り出す(抽出、フィルタリング)する。
具体的には、図6に示すように、1850nm〜2400nmの範囲のデータのみを抽出する。
更に、ステップS3において、図6に示すように、抽出された1850nm〜2400nmの範囲の吸収スペクトルの各波形データについて、ベースライン補正を行う。
ベースライン補正は、コンクリート面Cの光散乱の影響等で、吸収スペクトルの波形に生じるベースラインの傾きやうねりを矯正するための処理である。ここで、ベースライン補正とは、選択した波長範囲の両端を結んだ線(通常は直線であり、これをベースラインと呼ぶ)が0になるようにする補正である。
そして、ステップS4において、抽出された1850nm〜2400nmの範囲の吸収スペクトルの各波形データから、更に水の吸収ピークを含む範囲のみを取り出す(抽出、フィルタリング)する。
具体的には、図7に示すように、1850nm〜2150nmの範囲のデータのみを抽出する。
次に、ステップS5において、抽出された1850nm〜2150nmの範囲の吸収スペクトルの各波形データについて、ベースライン補正を行う。更に、図8に示すように、各波形データについて、最大値が1.0となるように相対化(規格化)する。つまり、吸収スペクトルの波形データ毎に、
相対化係数Q=1.0/(当該波形データの最大値)
を乗算する。
そして、この波形データ毎の相対化係数Q値を記憶しておく。
一方、ステップS6では、ステップS3において採取したベースライン補正後の1850nm〜2400nmの範囲の吸収スペクトルの各波形データに対して、図9に示すように、最小値が0となるように、ベース合わせ(非負化)を行う。データの非負化により、その後の演算を容易にするためである。
そして、ステップS7において、ステップS6において採取した吸収スペクトルの各波形データに対して、ステップS5において採取した相対化係数Qを乗算する。
これにより、図10に示すように、相対化後の吸収スペクトルの各波形データが得られる。この吸収スペクトルの波形データは、水の吸収ピークを基準にして相対化(規格化)させた波形データである。
すなわち、各吸収スペクトルの波形データは、その最大値(水の吸収ピーク)と最小値が略一致するようなっている。つまり、相対化された各吸収スペクトルにおいては、水の吸収ピークの影響が略同一となっている。
そして、最後に、ステップS8において、ステップS7において採取した吸収スペクトルの各波形データに対して、ケモメトリックス(chemometric)分析を行う。
ケモメトリックス分析は、スペクトルのような多変量データに、数学的、統計的手法を適用するものであって、スペクトル解析法として有効な手法であり、特に多変量データなど、その背後にある情報を直接読み取ることは困難なデータの解析において大きな効果を発揮する。 代表的な手法としてPCR(Principal Component Regression)、PLSR(Partial Least Squares Regression)がある。
更に、PCA(Principal Component Analysis)、LDA(Linear Discriminant Analysis)、ANNs(Artificial Neural Networks)、SVM(Support Vector Machine)、K-means、SOM(Self-Organizing Map)、Self Modeling Curve Resolution(SMCR)等がある。
以上の処理を行うことで、採取した吸収スペクトルの各波形データから中性化の影響を排除(水の吸収ピークを基準に相対化(規格化))して、コンクリートの塩害を正確に判断することが可能となる。
以下、本実施形態のコンクリート診断方法を用いた分析結果について説明する。
分光分析装置10として、PCX(Polychromix)社製分光器を用い、コンクリート面Cとして、粉砕および未粉砕のセメントペースト,モルタル,コンクリートの中性化および塩害を模擬した試験体の劣化度を計測した。
コンクリート面Cにハロゲンランプを当て,その反射光をMEMSアクチュエータにより分光してスキャンした。
主に塩化物イオンの吸収ピーク(2260nm)を検出するため、波長域として、1700nm〜2500nmの分光分析を行った。
〔試験体概要〕
a)中性化および塩害測定用試験体
試験体種類:セメントペースト,モルタル,コンクリート
水セメント比:48.5%
形状:4×4×16cm(セメントペースト,モルタル),10×10×40cm(コ
ンクリート)それぞれ粉砕および未粉砕で使用
塩化物イオン濃度:0,1,3,5,10,20kg/m
中性化促進期間:0,1,3ヶ月(二酸化炭素濃度:7%,温度40℃,湿度50%)
b)実構造物試験体
配合強度:30N/mm
スランプ:10cm
空気量:3.9%
形状:0.5×0.5×0.1m 4体,1×1×0.1m 1体
塩化物イオン濃度:0,1,5,10kg/m
(形状:0.5×0.5×0.1mに混入)
〔実験結果〕
図11は、上記コンクリート試験体のはつり面に対して、本実施形態に係る診断方法を行った結果を示す図である。横軸に試験体の塩化物濃度、縦軸に求めた塩分濃度をプロットしたものである。なお、図11(b)に、従来方法の結果を示す。
図11(a)に示すように、本実施形態のコンクリート診断方法を用いた場合には、コンクリート試験体の塩化物濃度と求めた塩分濃度とには、相関性が認められる。
一方、図11(b)に示すように、従来方法では、このような相関性が認められない。
すなわち、本実施形態のコンクリート診断方法によれば、中性化の影響を排除して、コンクリートの塩害を正確に判断することが可能であることが明らかである。
図12は、本実施形態に係る診断方法により求めた解析結果であって、図12(a)は回帰ベクトル図、図12(b)は相関スペクトル図である。
本実施形態に係るコンクリート診断方法によれば、中性化の影響が排除されているので、回帰ベクトル図及び相関スペクトル図から、塩害以外の他の劣化要因も、正確に判断することが可能である。これを基に、図11(a)の結果を導くものである。
図13は、コンクリートペースト及びモルタルに対して、本実施形態に係る診断方法を行った結果を示す図である。
コンクリートペースト(図13(a))及びモルタル(図13(b))においても、試験体の塩化物濃度と求めた塩分濃度とには、相関性が認められる。
図14は、上述したステップS2において、吸収スペクトルの各波形データから抽出する範囲を、1350nm〜2500nmとした場合の結果を示す図である。
吸収スペクトルの各波形データから抽出する範囲を変化させた場合であって、各試験体(コンクリート、コンクリートペースト及びモルタル)の塩化物濃度と求めた塩分濃度とには、相関性が認められる。
図15,16は、実構造物試験体における塩化濃度の分析結果を示すものである。
図15(a)は吸収スペクトルの波形データ、図15(b)は差スペクトル法を用いて波長2600nmの吸収ピークを分析した結果、図15(c)は本実施形態の分析方法を用いて塩化物濃度を求めた結果である。
差スペクトル法を用いた場合には、試験体毎に波長2600nmの吸収ピークがばらついていることが分かる。
実構造物試験体においても、本実施形態の分析方法を用いることで、試験体毎の塩化物濃度のばらつきが少なくなり、正確な測定が行われていることが分かる。
以上、説明したように、本実施形態の分析方法によれば、コンクリート面に光を照射して採取した反射光を分光分析して劣化成分を検出する評価方法において、採取した吸収スペクトルの波形データから中性化の影響を排除することで、コンクリートの塩害を正確に判断することが可能となる。
しかも、採取した吸収スペクトルの波形データに対して、水の吸収ピークを基準にデータの相対化(規格化)を行うだけなので、特別な装置やコスト上昇を伴わずに、容易かつ確実に、正確な分析が可能となる。
なお、上述した実施の形態において示した動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において計測条件等に基づき種々変更可能である。
上述した本実施形態では、コンクリートの塩害について主に説明したが、これに限らない。図12に示すように、本実施形態のコンクリート診断方法によれば、中性化の影響を排除することで、回帰ベクトル図及び相関スペクトル図から、他の劣化要因も正確に判断することが可能だからである。
ここで、今回、ステップS3において、1850nm〜2400nmの範囲の抽出をしたが、1410nmmも水(OH基)の吸収帯であるので、ここでも1900nmの代わりに水の規格化ができる。また、ステップS8において、1400nm〜2400nmの波長を抽出することもできる。
本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法に用いる分光分析装置10の概略構成を示す模式図である。 分光器14の概略構成を示す模式図である。 中性化と塩害が同時に発生したコンクリートの断面図である。 本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法を示すフローチャート図である。 採取された吸収スペクトルの波形データを示す。 ステップS3における吸収スペクトルの波形データを示す。 ステップS4における吸収スペクトルの波形データを示す。 ステップS5における吸収スペクトルの波形データを示す。 ステップS6における吸収スペクトルの波形データを示す。 相対化後の吸収スペクトルの波形データを示す。 本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法の結果を示す図(a)、及び従来例を示す図(b)である。 本発明の実施形態に係るコンクリート診断方法の結果を示す図である。 コンクリートペースト及びモルタルに対して本発明の実施形態に係る診断方法を行った結果を示す図である。 ステップS2の処理を変更した場合の結果を示す図である。 実構造物試験体における差スペクトル法による吸光度と本発明の実施形態における塩化濃度の分析結果を示すものである。
符号の説明
10…分光分析装置
L…出射光
L1…反射光
C…コンクリート面

Claims (6)

  1. コンクリート面に照射した近赤外線の反射光を分光分析して劣化成分を検出するコンクリート診断方法において、
    複数の吸収スペクトルを採取する第一工程と、
    前記第一工程で採取した吸収スペクトルから第一劣化成分の影響を排除する第二工程と、
    前記影響を排除した吸収スペクトルに統計的手法を適用して第二劣化成分を検出する第三工程と、
    を有し
    前記第二工程は、前記影響を排除するために、前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記第一劣化成分と前記第二劣化成分に関連する第三成分の吸収ピークを基準に相対化する相対化工程を含むことを特徴とするコンクリートの診断方法。
  2. 前記第一劣化成分は、水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの診断方法。
  3. 前記第二劣化成分は、塩化物イオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリートの診断方法。
  4. 前記第三成分は、水酸化イオンであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のコンクリートの診断方法。
  5. 前記相対化工程は、
    前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記第三成分の吸収ピークを含む所定範囲の吸収スペクトルを抽出する工程と、
    抽出された吸収スペクトルの最大値と最小値をそれぞれ所定値に一致させる補正値をそれぞれ求める工程と、
    前記第一工程で採取した吸収スペクトル毎に前記補正値で補正する工程と、
    を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のコンクリートの診断方法。
  6. 前記統計的手法は、多変量解析法であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載のコンクリートの診断方法。
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