JP4793180B2 - 高窒素鋼の溶接方法 - Google Patents
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Description
さらに、溶接金属中に上記窒素ガスが混入したまま凝固する等して、溶接欠陥であるピットやブローホールが発生するという問題点もあった。
高窒素鋼の溶接において、高窒素鋼中のNがガス化しないようにする為に、母材溶融部体積を小さくして溶接材料を充分に供給し、溶接1パス毎における溶接材料を含めた溶融金属全体の体積に対する母材溶融部体積比(以下「希釈率」ともいう)を一定範囲の値となるようにして、溶接をしている(例えば、特許文献1参照)。
他の目的は、高窒素鋼に対して肉盛溶接をする場合、ピットやブローホールの発生が抑制でき、高品質の溶接製品を提供することができる高窒素鋼の溶接方法を提供しようとするものである。
他の目的は、高窒素鋼に対して肉盛溶接をする場合、上記希釈率を考慮しながらの溶接作業のように「熟練溶接技術者」によることなく、溶接作業を単純化できる高窒素鋼の溶接方法を提供しようとするものである。
他の目的及び利点は図面及びそれに関連した以下の説明により容易に明らかになるであろう。
次に、上記肉盛溶接の予定場所3に対して、溶加材10を用い、かつ、上記高窒素鋼を溶融する工程において上記肉盛溶接の予定場所3における高窒素鋼に対して供給された入熱量よりも少ない入熱量を高窒素鋼に加えて肉盛溶接をするものであればよい。
この特長は、従来のように希釈率を考慮しながらの肉盛作業を行う為「熟練溶接技術者」によらなければならないという制約を解除し、従来の問題点を解決するものである。
図1は、高窒素鋼の溶接方法を説明する為の模式図で、(A)は肉盛溶接に先立ち、高窒素鋼表面における肉盛溶接の予定場所に非消耗電極を用いて高窒素鋼を溶融する工程を説明する為の模式図、(B)は肉盛溶接の予定場所に対して、溶加材を用いて肉盛溶接をする作業を説明する為の模式図である。
図2(A)〜(C)は、図1(A)に示される工程により溶融された肉盛溶接予定場所の一部分の外観を示す拡大図で、(A)は1回目の溶接操作をした後の外観、(B)は(A)に示される溶融部に対して2回目の溶接操作をした後の外観、(C)は(B)に示される溶融部に対して3回目の溶接操作をした後の外観を示す。
図3は、図2(F)に示される肉盛溶接予定場所の全域に対して、図1(B)に示される工程により肉盛溶接された後の外観を示す拡大図である。
図4は、母材がプラスチック金型用高窒素鋼の例を説明する為の拡大図で、(A)は図1(A)に示される工程により溶融された肉盛溶接予定場所の全域の外観を示す拡大図、(B)は図4(A)に示される肉盛溶接予定場所の全域に対して、図1(B)に示される工程により肉盛溶接された後の外観を示す拡大図である。
3は高窒素鋼の表面2における肉盛溶接の予定場所を示し、3aは肉盛溶接予定場所3の溶接区間を示す。4は、肉盛溶接予定場所3における溶融部を示し、周知の非消耗電極8を用いて高窒素鋼1の母材を溶融させた部分を示す。
次に、13は肉盛溶接の予定場所3に施された肉盛溶接による肉盛金属を示す。
以下の説明において対象とする高窒素鋼1としては、例えば上記ダイキャスト金型用高窒素鋼を対象とし、その大きさは約L 52 mm×W 52 mm×t 30 mmとした。図2(A)〜(C)に表れる溶接方法においては溶接長さ(溶接区間3a)を約30 mmとし、図2(D)〜(F)に表れる溶接方法においては溶接面積を約30 mm×30 mmにした。溶接方法はTIG溶接を行い、溶接条件としては、溶接電流を120A、溶接速度を40 mm/min、シールドガスとしてはAr(アルゴン)7l/minとした。
この工程は、図1(A)に示されるように肉盛溶接の予定場所3に対し、溶接区間3aを矢印20方向へ、上記40 mm/minの溶接速度で通常行われる溶接操作を施すことにより高窒素鋼1の表面を溶融させ、そこに「脱窒素層4(溶融部4)」を形成する。
なお本件の説明においては、当業者において通常用いられているように「母材表面を溶接する場合の一方向へ向けての1回当たりの溶接操作」のことを「1パス」という。従って、並行する位置に並べた状態で2回目、3回目の溶接操作を行う場合は「1パス」「2パス」「3パス」という。さらに1回目の溶接操作を行い、その後1回目の溶接部分の上に積み重ねる状態で2回目、3回目の溶接操作を行う場合は「1回目又は1層」「2回目又は2層」「3回目又は3層」という。
上記溶融部4の深さDは、肉盛溶接において溶加材10を融合させるに必要な深さD2に亘っておればよく、肉盛溶接時、母材側が肉盛溶接の熱によって加熱され、高窒素鋼中の窒素ガスが放出されない程度の深さまで予め窒素ガスが放出されていればよい。
従って、上記溶融された部分、即ち脱窒素層4の深さDは、肉盛溶接時の肉盛量、或いは肉盛溶接時の入熱量によっても種々条件は異なるが、溶加材10を融合させるに必要な深さを目安に定めることになる。通常の作業においては、溶接技術者の技術上のバラツキを考慮して、図1(B)に示されるように、余裕を見て、余分な深さ寸法4aを加味した状態にしておけば安全である。
例えば、現場において500μmの肉盛高さを得ようとする場合には、脱窒素層4の深さDは500μm程度にすれば良い。さらに、その場合、脱窒素層4の深さDが1mm程度であれば、溶接時のトラブル(溶加材の供給が不足するような場合)があっても適切に溶接を行うことができる。本実施例では肉盛高さ2mm溶接を行うのに対し脱窒素層の深さを約2mmとなるように形成した。
1層目の溶接操作によって、肉盛溶接の予定場所3における高窒素鋼1中の過飽和な窒素がガス化し、窒素ガスが放出された。即ち、この1層目の溶接操作においてはスプラッシュは多く発生した。
1層目の溶接操後のビードの外観は図2(A)に示されるようになり、溶融部4(ビード)表面にはピット5、5・・・5が多数存在する状態になった。また、ビードの内部にはブローホールも多数生じていた。
この溶接操作によって、肉盛溶接の予定場所3から高窒素鋼1中の残存する過飽和な窒素がガス化し、放出された。この2層目の溶接操作において、スプラッシュは1層目の溶接操作時に比較して減少したが、未だ発生する。2層目の溶接操作後のビード外観は図2(B)に示されるように、ビード表面のピットは認め難くなる。ブローホールは1層後に比較して減少した。
溶接方法:溶接電流を120A、溶接長を30mmとし、溶接速度を40mm/min、60mm/min、120 mm/min の場合について夫々行った。
結果:
上記[表1]から、本溶接条件においては、溶接続度40mm/minで3層の溶接操作を行うことで、スプラッシュ、ブローホールは激減することが分かる。つまり、3層の溶接操作で、肉盛溶接前の良好な脱窒素層が形成される。
図2(D)、図2(E)、図2(F)は夫々、1層後、2層後、3層後のビード外観を示すものである。
なお、溶接条件は、上述の高窒素鋼1を溶融する工程(以下「脱窒素工程」とも言う)と同様に、溶接電流を120A、溶接速度を40 mm/min、シールドガスとしてはAr(アルゴン)7l/minとした。用いられる機材等としての溶接トーチ7、非消耗電極8、アーク9等は周知の通りであり、前述した説明と同旨である。さらに溶加材10としては、一般的に使用される鋼材、例えばJIS SKD61、マルエーシング鋼等を利用し、直径2.0 mmのものを用いる。なお、前述のように肉盛高さは2mmである。本実施例では、肉盛の溶込み深さが約1mmとなり、脱窒素層の深さ2mmを考慮すると約1mmの余裕代がある。
この肉盛工程において、上記脱窒素工程と溶接条件が同じであっても、肉盛工程では投入した入熱量の一部は溶加材の溶融に用いられる為、肉盛工程で母材に供給される入熱量は、脱窒素工程の入熱量よりも小さくなる。
さらに、図3から理解できるようにビード表面にピットは見当たらず、さらに、X線透過試験によるブローホールの発見は殆ど見当たらない等高品質のものが得られる。
次に、上述した「高窒素鋼表面2における肉盛溶接の予定場所3に非消耗電極8を用いる溶接法によって高窒素鋼1を溶融する工程」において3層(3回)溶融を行う例を説明したが、溶融させる層の数(溶接回数)は、肉盛溶接の予定場所3における高窒素鋼1の過飽和の窒素が放出されるようにすれば良く、高窒素鋼1の種類、溶接条件等によって任意選択的に増減すればよい。
即ち、上記高窒素鋼の表面を溶融する工程において上記肉盛溶接の予定場所3の高窒素鋼に供給される入熱量は、肉盛溶接の予定場所3における高窒素鋼の溶加材融合予定部分から予め窒素ガスを放出する手段である為、母材に充分な熱量が入るようにして行われる。このように大きな入熱量を母材の表面部分に加えることにより高窒素鋼の表面部分は充分に溶融され窒素ガスは放出される。
従って、次段の肉盛溶接作業に際しては、窒素ガスの放出に関しては配慮する必要がなく、高窒素鋼の表面における上記溶融工程を施した部分に対する溶加材10の融合に気配りする程度の気軽な配慮で作業が行われる。
さらに、前述したように、脱窒素工程と肉盛工程を同一の溶接条件で行うことができ、作業が容易となる。
プラスチック金型用高窒素鋼1d(図4参照)は、通常知られているダイキャスト金型用高窒素鋼に比較して比較的低圧(例えば3atm)の高加圧溶解によって窒素が添加された高窒素鋼である。
このプラスチック金型用高窒素鋼1dを対象とする工程は、図1(A)、(B)を用いて説明した高窒素鋼1を溶融する工程と肉盛溶接の工程とは一部異なる。即ち、高窒素鋼の組成が異なることにより、[0019]〜[0021]で説明した溶接回数が以下に説明するように異なり、また図1(B)を用いて説明した場合とは溶加材10が異なる。
この場合の溶接方法及び溶接条件は、[0016]で説明したと同様にするとよい。なお、対象とする高窒素鋼1の大きさは約L 45mm×W40mm×t10mmとした。溶接方法においては溶接面積を約30mm×25mmにした。
この溶接操作によって、肉盛溶接の予定場所3における高窒素鋼1d中の過飽和な窒素がガス化し放出される。この1層目の溶接操作において、スプラッシュは少し発生する。1層後の溶融部4においては、図4(A)に表れる高窒素鋼1dの表面から理解できるように、ビード表面のピットは認め難い。ブローホールも発見できなくなり、「脱窒素層4」が形成された。
図1(B)に示されるように肉盛溶接の予定場所3に対し、溶接区間3aを矢印20方向へ、通常行われるように溶接操作を行う。すると、肉盛金属13が形成される(図4(B)参照)。
なお、用いられる機材等は上記[0025]で説明したと同様にするとよい。溶加材10としては、一般的に用いられる鋼材、例えばJIS SUS420J2、直径2.0 mmのものを用いるとよい。
この肉盛溶接作業においては、スプラッシュの発生が無く、肉盛溶接の作業を良好に行うことができる。さらに、図4(B)から理解できるようにビード表面にピットは無く、さらに、X線透過試験によるブローホールの発見は殆ど見あたらない。
上記のプラスチック金型用高窒素鋼1dを対象とする場合は、「上記高窒素鋼表面2における肉盛溶接の予定場所3に非消耗電極8を用いる溶接法によって高窒素鋼1を溶融する工程」における層の数は1層(溶接回数が1回)であっても、肉盛溶接する場合のスプラッシュ発生は無くなり、ピット及びブローホールの発生も抑制することができる。
なお、図4において前述の図2、図3のものと機能、性質又は特徴等が同一又は均等構成と考えられる部分には、前述の図2、図3と同一の符号を付して重複する説明を省略した。
Claims (3)
- 高窒素鋼の表面に溶加材を用いて肉盛溶接をする高窒素鋼の溶接方法において、肉盛溶接に先立ち、上記高窒素鋼表面における肉盛溶接の予定場所に非消耗電極を用いて高窒素鋼を溶融する工程を施して脱窒素層を形成し、
次に、上記肉盛溶接の予定場所における脱窒素層に対して、溶加材を用いて肉盛溶接をすることを特徴とする高窒素鋼の溶接方法。 - 上記脱窒素層の深さを、肉盛溶接において溶加材を融合させるに必要な深さに亘って形成することを特徴とする請求項1記載の高窒素鋼の溶接方法。
- 高窒素鋼の表面に溶加材を用いて肉盛溶接をする高窒素鋼の溶接方法において、肉盛溶接に先立ち、上記高窒素鋼表面における肉盛溶接の予定場所に非消耗電極を用いて高窒素鋼を溶融する工程を施し、
次に、上記肉盛溶接の予定場所に対して、溶加材を用い、かつ、上記高窒素鋼を溶融する工程において上記肉盛溶接の予定場所における高窒素鋼に対して供給された入熱量よりも少ない入熱量を高窒素鋼に加えて肉盛溶接をすることを特徴とする高窒素鋼の溶接方法。
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