JP4788113B2 - 燃料電池 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池に関し、特に、フラッディングを抑制することが可能であるとともに低温始動性を向上させることが可能な燃料電池に関する。
固体高分子型燃料電池(以下において、「PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)」と記述する。)は、各種の燃料電池の中でも、低温領域での運転が可能であり、通常50〜100℃の運転温度で使用される。また、50〜60%の高いエネルギー変換効率を示し、起動時間が短く、かつシステムが小型軽量であることから、電気自動車や携帯用電源の最適な動力源として注目されている。
PEFCのユニットセルは、電解質膜、触媒層と拡散層とを備えるカソード及びアノード、並びに、セパレータを含み、その理論起電力は1.23Vである。しかし、かかる低起電力では、電気自動車等の動力源として不十分であるため、通常は、ユニットセルを直列に積層して積層体を構成し、この積層体における積層方向の両端にエンドプレート等を配置して構成されるスタック形態の燃料電池が使用されている。
燃料電池における電気発生の源となる電気化学反応は、以下の工程で進行する。まず、セパレータに形成された溝を通して燃料極へと届けられた水素は、触媒の存在下、水素イオンと電子とに分解される。
燃料極(アノード)側:H→2H+2e (式1)
そして、発生した水素イオンは、イオン伝導体である電解質膜を通過して空気極へと移動する。電解質膜はイオンのみを通過させる性質を有するため、発生した電子は電解質膜を通過することができず、外部の回路を通って空気極へと移動する。燃料電池においては、かかる電子の移動により、電気が発生する。一方で、空気極へと届けられた酸素が、空気極へと移動してきた水素イオン及び電子と反応することにより、水が生成される。
空気極(カソード)側:2H+2e+(1/2)O→HO (式2)
電気自動車の用途に対して、燃料電池は、起動後直ちに電気エネルギーを発生すること、すなわち、良好な始動性を有することが要求される。しかし、例えば氷点下の寒冷環境では、セル内における滞留水の凍結等が生じる結果、良好な始動性が得られ難い。かかる滞留水の凍結は、特に、外気により冷却されやすいスタックの端部に配置されたユニットセル(以下において、「端部セル」と記述することがある。)内で発生しやすいことが知られている。一方、セル内における滞留水は、フラッディングを招き、燃料電池の発電性能を低下させることが知られている。したがって、当該端部セル内における滞留水を低減させることで、フラッディングを抑制するとともに、寒冷環境下における始動性(以下において、「低温始動性」と記述する。)を向上させることが望まれている。
特許文献1には、端部セルのカソードにおける拡散層の撥水性を、スタックの端部以外に配置されるセルのカソードにおける拡散層の撥水性よりも低くする技術が開示されている。
特開2001−357869号公報
しかし、特許文献1に開示されている技術により、端部セル内における拡散層の撥水性を低下させたとしても、触媒層から拡散層へと水が移動する間に、当該水が凍結してしまうため、低温始動性の充分な向上を図り難いという問題があった。
そこで本発明は、フラッディングを抑制することが可能であるとともに低温始動性を向上させることが可能な燃料電池を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
請求項1に記載の発明は、電解質及び当該電解質の両側に設けられる触媒層を備える電解質・触媒構造体と、電解質・触媒構造体の両側に設けられる拡散層と、拡散層の外側に設けられるセパレータと、を備えるユニットセルを積層した積層体を備える燃料電池であって、少なくとも積層体の端部に配置されるユニットセルの電解質・触媒構造体から当該ユニットセルの拡散層へと移動する水の移動速度が、積層体の中央部に配置されるユニットセルの電解質・触媒構造体から当該ユニットセルの拡散層へと移動する水の移動速度よりも、大きく、端部に配置されるユニットセルの触媒層に含まれる撥水材の割合が、中央部に配置されるユニットセルの触媒層に含まれる撥水材の割合よりも大きいことを特徴とする、燃料電池により、上記課題を解決する。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池において、電解質・触媒構造体と、拡散層との間に、親水層が設けられていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池において、端部に配置されるユニットセルの触媒層に含まれる撥水材の質量が、該触媒層に含まれる触媒の質量の50%未満であることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、端部セルの電解質・触媒構造体から当該セルの拡散層へと移動する水の移動速度が大きいため、端部セルにおける触媒層内の反応場で生成された水が拡散層へと速やかに移動することができる。したがって、端部セルの触媒層における水の滞留を低減することが可能になり、低温始動時に端部セル内で発生する水の凍結を抑制することが可能になるため、フラッディングを抑制することが可能であるとともに低温始動性を向上させることが可能な燃料電池を提供できる。また、端部セルの触媒層が中央部に配置されているセルの触媒層よりも多くの撥水材を含有することで、端部セルにおける触媒層の反応場で生成された水を速やかに拡散層へと移動させることができる。したがって、端部セルにおいて触媒層の触媒近傍における水の量が低減し、触媒が電気化学反応に寄与しやすくなる結果、燃料電池の低温始動性をより一層向上させることが可能になる。
請求項2に記載の発明によれば、触媒層と拡散層との間に親水層が設けられているため、触媒層から拡散層へと移動する水の移動速度を一層大きくすることができる。したがって、フラッディングをより一層抑制することが可能であるとともに低温始動性をより一層向上させることが可能な燃料電池を提供できる。
請求項3に記載の発明によれば、低温始動性を向上させることが可能であるともに発電効率の低下を防止することが可能な燃料電池を提供できる。
以下に図面を参照しつつ、本発明の燃料電池を構成するユニットセル、及び各実施形態の燃料電池についてさらに具体的に説明する。
図1は、本発明の燃料電池の外観図であり、図2は、本発明の燃料電池を構成するユニットセルを概略的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の燃料電池100は、ユニットセル10、10、…が積層された積層体と、当該積層体の両側に配置された集電板20、20及び電気絶縁板30、30とを備えている。一方で、図2に示すように、ユニットセル10は、電解質1と当該電解質1の両側に設けられる触媒層2、3とを備える電解質・触媒構造体5、該構造体5の両側に設けられる拡散層6、7、及び、当該拡散層6、7の外側に設けられるセパレータ8、9を備えている。そして、セパレータ8及び9には、反応ガス流路8a、8a、…、及び、9a、9a、…、並びに、冷却水流路8b、8b、…、及び、9b、9b、…が形成されており、セパレータ8及び9は、冷却水流路8b、8b、…、及び、9b、9b、…を流れる冷却水により冷却されている。
ユニットセルの積層体を備える燃料電池100では、通常、積層体の端部に配置されているセル10A、10Aは、中央部に配置されているセル10B、10B、…よりも放熱しやすい。したがって、セル10A、10Aでは、電気化学反応で生成された水が冷やされて水滴になりやすく、当該水滴がセル10A、10A内に滞留することで生じるフラッディングが起こりやすい。そのため、特に、端部セル10A、10Aでは、滞留水を低減することでフラッディングを防止することが望まれている。一方、氷点下の寒冷環境では、端部セル10A、10Aにおいて、セル内部に存在する水及び/又はセル内の電気化学反応により生成された水が凍結しやすい。セル内部において水が凍結すると、当該セルの発電性能(起動性)が著しく低下することが知られており、特に寒冷環境では、端部セルの起動性低下が問題となる。したがって、燃料電池の起動性を向上させるためには、セル内部に存在する水及び/又はセル内の電気化学反応により生成される水の凍結を防ぐことが必要となる。本発明は、このような観点からなされたものであり、本発明の燃料電池100では、少なくとも端部セル10A、10Aの電解質・触媒構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度が、中央部セル10B、10B、…における当該移動速度よりも大きくなるように構成されている。このような構成とすることで、触媒層3の反応場で生成された水を拡散層7へと速やかに移動させることができるため、端部セル10A、10Aにおけるフラッディングの発生及び低温始動時における水の凍結を防ぐことが可能になる。
本発明の燃料電池100において、端部セル10A、10Aの電解質・触媒構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度を大きくする方法は、特に限定されるものではないが、例えば、触媒層2及び/又は触媒層3に撥水材を含有させる形態や、電解質・触媒構造体5と拡散層7との間に親水層を設ける形態により、上記移動速度を大きくすることが好ましい。このような構成とすることにより、触媒層3の反応場において生成された水を拡散層7へと移動させやすくなるため、上記構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度を容易に大きくすることができる。
ここで、触媒層2及び/又は触媒層3に撥水材を含有させることにより水の移動速度を大きくする場合、触媒層2、3に含有させることができる撥水材は特に限定されない。撥水材の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、若しくは、四フッ化エチレン樹脂等に代表されるフッ素樹脂系の撥水材、又は、シリコーン樹脂系の撥水材等を挙げることができる。
また、触媒層2、3に撥水材を含有させる方法も特に限定されるものではなく、例えば、触媒層の製造過程において、上記撥水材を触媒層に分散混入させる等の方法を採ることができる。さらに、含有させる撥水材の量は、特に限定されるものではないが、燃料電池の低温起動性を向上させるとともに発電効率の低下を防止するという観点から、触媒層中に含まれる触媒(例えば、白金坦持カーボン)の質量に対して1〜50%とすることが好ましい。
なお、触媒層に撥水材を含有させる場合、カソード側とアノード側とを問わずいずれか一方の触媒層、又は、双方の触媒層に撥水材を含有させれば良いが、ユニットセル内部の電気化学反応によって生ずる水は、カソード側の触媒層内で生成されるため、少なくともカソード側の触媒層3に撥水材を含有させることが好ましい。
他方、本発明の燃料電池100では、端部セル10A、10Aの電解質・触媒構造体5と拡散層7との間に親水層が設けられていることが好ましい。このような構成とすることにより、電解質・触媒構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度を容易に大きくすることができる。ここで、親水層は、層の形態を有する親水層を構造体5と拡散層7との間に介在させても良いが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば、少なくとも構造体5に当接している拡散層の表面に親水層が形成されている形態等であっても良い。少なくとも拡散層の上記表面に親水層を形成させる場合、その方法は特に限定されるものではなく、例えば、プラズマCVD等による表面改質や、シランカップリング剤等に代表される親水性樹脂を拡散層の上記表面にコーティングする等の方法を採ることができる。
上記構造体5と拡散層7との間に層の形態を有する親水層を介在させる場合、当該親水層は、構造体5から親水層への水の移動速度を増加させるという観点から親水材を含有していることが好ましい。さらに、当該親水層は、親水層から拡散層7への水の移動速度を増加させるという観点から撥水材を、加えて、燃料電池の発電性能の低下を防止するという観点から導電性物質をそれぞれ含有していることが好ましい。ここで、上記親水層に含有される親水材、撥水材、及び、導電性物質は、特に限定されるものではないが、例えば、親水材としては酸化チタンやシランカップリング剤等の親水性樹脂を、撥水材としてはPTFEに代表されるフッ素樹脂等を、導電性物質としてはカーボン等を、それぞれ挙げることができる。一方、親水層を介在させる形態も特に限定されるものではなく、その形態の具体例としては、拡散層7に当接している触媒層3の面に親水層を塗布する形態、触媒層3に当接している拡散層7の面に親水層を塗布する形態、触媒層3と拡散層7との間に親水層を介在させる形態、拡散層7に当接している触媒層3の面又は触媒層3に当接している拡散層7の面に転写法により親水層を形成させる形態、等を挙げることができる。
なお、電解質・触媒構造体と拡散層との間に親水層を設ける場合、当該親水層が設けられるべき箇所は、構造体5の少なくとも一方の側に設けられていれば特に限定されるものではない。ここで、ユニットセル内部の電気化学反応によって生ずる水は、カソード側の触媒層内で生成される。そのため、少なくとも、カソード側の触媒層3が拡散層7に当接する面、拡散層7が触媒層3に当接する面、又は、触媒層3と拡散層7との間、のいずれかに親水層が設けられていることが好ましい。
本発明の燃料電池100において、電解質・触媒構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度が大きくなるように構成されているセルは、少なくとも端部セル10A、10Aが含まれていればよく、端部セル10A、10Aのみが当該構成を備えるセルである形態に限定されるものではない。本発明の燃料電池100内に設けられる、上記形態を備えるセルの数は、燃料電池の性能を考慮したうえで、適当な数を選択することができる。
本発明の燃料電池100において、電解質・触媒構造体5から拡散層7へと移動する水の移動速度が大きくなるように構成されているセルの配置形態は、特に限定されるものではない。配置形態の具体例としては、端部セル10A、10Aのみが当該構成を備える形態や、積層体の両端部に配置されている任意の数のセルが上記構成を備える形態(例えば、積層体における両端の数セルずつが、当該構成を備えるセルである形態)等を挙げることができる。また、本発明の燃料電池100は、端部セル10A、10Aにおける電解質・触媒構造体5から拡散層7への水の移動速度が最大であり、かつ、中央部セル10Bにおける電解質・触媒構造体5から拡散層7への水の移動速度が最小となるように、当該水の移動速度が、両端部のセルから中央部のセルに向かって徐々に変化するように構成されている形態であっても良い。
複数のユニットセルを積層した積層体を備えるPEFCにおいて、両端部に配置されている各々のユニットセルにおけるカソード側の触媒層に、フッ素樹脂系の撥水材を混入させ、触媒層における触媒の質量に対する撥水材の混入量とセル電圧との関係を調べた。その結果を図3に示す。図3において、縦軸及び横軸は、1.0A/cmの電流密度下におけるセル電圧(V)、及び、触媒層における触媒の質量に対する撥水材の混入量の割合(質量%)である。
図3より、撥水材の混入量が触媒質量の50%を超えると、セル電圧が低下した。したがって、本実施例より、触媒層に含有させる撥水材は、触媒層における触媒質量の50%以下が好ましいことが確認された。
本発明の燃料電池を概略的に示す図である。 本発明の燃料電池におけるユニットセルを概略的に拡大して示す断面図である。 撥水材の混入量とセル電圧との関係を示す図である。
符号の説明
1 電解質
2、3 触媒層
5 電解質・触媒構造体
6、7 拡散層
8、9 セパレータ
10、10A、10B ユニットセル
20 集電板
30 電気絶縁板
100 燃料電池

Claims (3)

  1. 電解質及び前記電解質の両側に設けられる触媒層を備える電解質・触媒構造体と、前記電解質・触媒構造体の両側に設けられる拡散層と、前記拡散層の外側に設けられるセパレータと、を備えるユニットセルを積層した積層体を備える燃料電池であって、
    少なくとも前記積層体の端部に配置されるユニットセルの前記電解質・触媒構造体から該ユニットセルの前記拡散層へと移動する水の移動速度が、前記積層体の中央部に配置されるユニットセルの前記電解質・触媒構造体から該ユニットセルの前記拡散層へと移動する水の移動速度よりも、大きく、
    前記端部に配置されるユニットセルの前記触媒層に含まれる撥水材の割合が、前記中央部に配置されるユニットセルの前記触媒層に含まれる撥水材の割合よりも大きいことを特徴とする、燃料電池。
  2. 前記電解質・触媒構造体と、前記拡散層との間に、親水層が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
  3. 前記端部に配置されるユニットセルの前記触媒層に含まれる撥水材の質量が、該触媒層に含まれる触媒の質量の50%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池。
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