JP4788045B2 - 自動車の前部車体構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フロントサイドフレームの下方にペリメータフレームを配設した車体前部の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種の自動車の前部車体構造として、例えば、特開2000−53022号公報に開示されるように、自動車の前面衝突の際にフロントサイドフレームの変形モードを潰れ変形から屈曲変形へ切り換えることにより、衝突初期に車体に対し相対的に大きい減速度を生じさせ、その後、一旦、車体減速度を降下させるようにしたものが知られている。
【0003】
すなわち、図8及び図9に示すように、車体前部の左右両側にそれぞれ設けられるフロントサイドフレーム80,80の前端に、車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント81の左側及び右側がそれぞれ取り付けられ、さらに、該両フロントサイドフレーム80,80の前後方向の中央部から前方へ向かって、車体外方へ傾斜して延びる斜方向ビーム82,82がそれぞれ設けられている。その斜方向ビーム82,82のそれぞれの前端部は、前記バンパーレインフォースメント81に対して前後方向に所定距離離れた状態で、かつ、車体前後方向から見て、該バンパーレインフォースメント81の車幅方向の両端部とそれぞれ重複するように位置付けられている。
【0004】
そして、この構造では、前面衝突時の衝撃は、まず、バンパーレインフォースメント81からフロントサイドフレーム80,80に伝達されて、図9に示すように、該フロントサイドフレーム80,80の前端側が比較的、変形荷重の大きい潰れ変形を起こす。続いて、バンパーレインフォースメント81の車幅方向の両端部が前記斜方向ビーム82,82の前端部に当接して、該斜方向ビーム82,82を介して側方荷重が加えられることによって、前記フロントサイドフレーム80,80の中央部が車体内方へ屈曲変形し、それ以降の変形荷重が比較的、小さなものとなる。このことにより、衝突初期に車体減速度を急峻に立ち上がらせて、その後、車体減速度を降下させることができる。
【0005】
ここで、衝突時の乗員には、該乗員を拘束するシートベルト等の拘束手段からの反力によって減速度が作用するため、衝突の初期のようにシートベルトの伸びが少ない状態では乗員減速度は極めて小さい。その一方で、車体には衝突初期から大きな減速度が作用しているため、前記乗員と車体との相対移動距離は次第に大きくなって、シートベルトの伸びが最大に達した時点で乗員がシートベルトから受ける反力も最大となり、大きな衝撃荷重を受けることになる。
【0006】
前記従来例では、この乗員への衝撃荷重を低減させるべく、衝突後にシートベルトの伸びが最大となる直前に、フロントサイドフレームの変形モードを切り換えて、車体減速度を降下させるようにしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来の構造では、一対のフロントサイドフレームの間に搭載されるパワープラントが、該各フロントサイドフレームの車体内方への屈曲変形を阻害することがあり、この場合には、上述したように車体減速度を降下させることができないため、乗員減速度の最大値、即ち衝撃荷重を狙い通りに低減できないという問題がある。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、主にフロントサイドフレームの構造に工夫を凝らし、衝突の途中で確実に変形モードを切り換えて、狙い通りに車体減速度を降下させることにより、乗員に作用する衝撃荷重を低減することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の解決手段では、フロントサイドフレームとその下方に配設したペリメータフレームとを連結部材により連結し、自動車の前面衝突時にフロントサイドフレームの変形の途中で該連結部材を分離させることにより、該フロントサイドフレームの変形モードを切り換えるようにした。
【0010】
具体的には、請求項1の発明では、自動車の前部に設けられたエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、車体前部の左右両側において各々前記ダッシュパネルから車体前方へ延びるように設けられた一対のフロントサイドフレームと、前記各フロントサイドフレームの下方においてそれぞれ車体前後方向に延びる一対のサイドメンバ部を有するペリメータフレームと、前記車室内に設けられ、乗員を拘束するためのシートベルトとを備え、前記ペリメータフレームの各サイドメンバ部の前端側が各フロントサイドフレームの前端側に設けられた前端側固定部に固定される一方、各サイドメンバ部の後端側が各フロントサイドフレームの後端側ないしその近傍の車体構成部材に設けられた後端側固定部に固定された自動車の前部車体構造を前提とする。そして、前記フロントサイドフレームには、前記前端側固定部と前記後端側固定部との間に、圧縮荷重を受けた際に屈曲変形する起点となる脆弱な部位が設けられ、前記ペリメータフレームの各サイドメンバ部を、それぞれ、前記前端側及び後端側固定部の中間部分において各フロントサイドフレームに連結する連結部材を設け、前記各サイドメンバ部を、前記フロントサイドフレームが圧縮荷重を受けて変形するときに、前記中間部分において下方へ折れ曲がるように構成し、前記連結部材には、前記各サイドメンバ部の折れ曲がりによって作用する引張荷重が設定値よりも大きくなったときに分離する分離起点部を設け、前記連結部材で連結されたフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重に対して、前記分離起点部が分離した状態のフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重が低く設定される構成とする。
【0011】
この構成によれば、例えば、自動車の前面衝突時には、まず、フロントサイドフレームが圧縮荷重を受けて潰れ変形を開始する。この際、該フロントサイドフレームとペリメータフレームとが連結部材により連結されていて、全体として高い剛性を有するので、衝突の初期には車体減速度が急峻に立ち上がり、シートベルトが早期に伸びて乗員を強く拘束するようになる。
【0012】
また、前記フロントサイドフレームの潰れ変形に伴い、ペリメータフレームのサイドメンバ部が下方へ折れ曲がることになり、これにより連結部材に引張荷重が作用する。そして、前記シートベルトの伸びが最大となる前に、連結部材に作用する引張荷重が設定値よりも大きくなって、該連結部材が分離起点部から分離し、このことを契機として、フロントサイドフレームが屈曲変形を開始する。
【0013】
つまり、フロントサイドフレームの変形の途中で前記連結部材を分離させることにより、変形モードを狙い通りのタイミングで潰れ変形から屈曲変形に切り換えて、その変形荷重を減少させることができ、これにより、シートベルトが延びきるときに車体減速度を低下させて、該シートベルトの反力による乗員への衝撃荷重を十分に低減することができる。
【0014】
請求項2の発明では、フロントサイドフレームは、側面視でダッシュパネルから上方へ延びた後、屈曲して略水平に車体前方へ延びるように形成され、この屈曲部位が脆弱な部位とされているものとする。
【0015】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、前記各フロントサイドフレームの前端側固定部よりも前側に、圧縮荷重を受けて潰れ変形することで衝撃吸収する衝撃吸収部を設け、前記衝撃吸収部の潰れ変形荷重は、連結部材で連結されたフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重よりも小さく、かつ、分離起点部が分離した状態のフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重よりも大きく設定するものとする。
【0016】
このことで、フロントサイドフレームの前端側固定部よりも前側に、衝突初期に潰れ変形することにより連結部材に作用する荷重を設定値以下に保つ衝撃吸収部を設けたので、衝突初期の車体減速度を急峻に立ち上げながら、かつ該衝突初期に連結部材に作用する過大な衝撃荷重を吸収して該連結部材の破断を防止できる。
【0017】
請求項4の発明では、請求項1から3のいずれか1つの発明における連結部材の分離起点部を、切り欠き部とする。このことにより、連結部材の分離起点部を相対的に脆弱な切り欠き部として、該分離起点部を確実に分離させることができる。また、切り欠き部の形状や大きさを変更するだけで前記設定値の変更を行えるため、分離タイミングの設定を容易に行うことができる。
【0018】
請求項5の発明では、請求項から3のいずれか1つの発明における連結部材の分離起点部を、孔部とする。このことにより、前記請求項4と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、前記連結部材の分離起点部を確実に分離させることができ、また、分離タイミングの設定を容易に行うことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1〜図4は、本発明の実施形態に係る自動車の前部車体構造を示すものである。尚、図1及び図2は、それぞれ垂直方向の断面図及び下面図であり、図3及び図4は、それぞれ車体上方及び車体下方から見た斜視図である。
【0021】
この車両は、図1に示すように、前側にエンジンルーム1が設けられ、該エンジンルーム1内にエンジン2及びミッションケース(変速装置等を収容する)3からなるパワープラント4を搭載し、該パワープラント4によって前輪(図示しない)を駆動するようにしている。前記エンジンルーム1の後側はダッシュパネル5によって仕切られており、このダッシュパネル5の後側が車室6とされ、その車室6の下側はフロアパネル7によって仕切られている。このフロアパネル7は、ダッシュパネル5下端縁部から、後方へ向かって下方へ傾斜して車体の下端部まで達した後に、そこから略水平に後方へ延びるように形成され、その車幅方向両端縁部には、図2に示すように、該縁部に沿って延びる閉断面のサイドシル10がそれぞれ設けられている。
【0022】
また、前記エンジンルーム1の車幅方向両側には、前記ダッシュパネル5からそれぞれ前方へ突出して延びる一対のフロントサイドフレーム11,11が設けられている。この一対のフロントサイドフレーム11,11は、それぞれ略矩形状の閉断面を有し、前記車体の下端部からフロアパネル7の傾斜部に沿って前方へ延び、エンジンルーム1の上下方向の中央部近傍まで達してそこから略水平方向へ屈曲して、パワープラント4の前端部よりも前方へ延びるように形成されている。
【0023】
前記パワープラント4のエンジン2は、図示しないが、クランク軸が延びる方向に複数のシリンダが直線的に並ぶように構成されている。また、このエンジン2は、クランク軸が略車幅方向を向くように車体に対して横置きとされ、ミッションケース3の車体右側の側面がエンジン2のシリンダブロックの車体左側の側面に締結されている。尚、図1に示す符号12は、ミッションケース3の出力軸と前輪とを回転一体に連結するドライブシャフトである。
【0024】
このように構成されたパワープラント4は、図3及び図4に示すように、エンジンルーム1において該パワープラント4の車幅方向の両端部近傍をそれぞれ前記フロントサイドフレーム11,11に対して、一対のマウント部材13、14を介して弾性支持されている。
【0025】
この一対のマウント部材13、14のうちの車体左側に位置するマウント部材13は、ミッションケース3の上面に固定されるミッション側ブラケット15と、車体左側のフロントサイドフレーム11の上面及び車体内方の側面に固定される車体側ブラケット16と、該ミッション側及び車体側ブラケット15、16の間に介在され、例えばゴム等の振動を減衰する部材とを備えるものである。一方、車体右側に位置するマウント部材14は、エンジン2に固定されるエンジン側ブラケット17と、右側のフロントサイドフレーム11の上部に固定される車体側ブラケット18と、該エンジン側及び車体側ブラケット17、18の間に介在され、振動を減衰する部材とを備えるものである。
【0026】
前記一対のフロントサイドフレーム11,11は、車体上下方向から見て、その後端部から前方へ向かって略中央部までは前側ほど互いに離れるように形成される一方、該中央部から前端部までは互いに略平行となるように形成されている。さらに、図3に示すように、このフロントサイドフレーム11,11の車体外方の側面は、その後端部から前後方向の略中央部に亘って、車体内方側へ向かって窪んだ凹部が形成され、前記前輪の操舵時における該前輪との干渉を防ぐようになっている。このため、フロントサイドフレーム11,11の後側は、前側に比べて小さい断面を有することになり、若干、脆弱である。
【0027】
また、前記一対のフロントサイドフレーム11,11の後端側は、図2に示すように、前記フロアパネル7の下面に沿って前記サイドシル10と平行に後方へ延びるように設けられた一対のフロアフレーム20,20の前端側にそれぞれ連続している。この各フロアフレーム20,20は、上方が開放したコ字状断面を有し、その上端部が前記フロアパネル7の下面に溶接されている。また、該一対のフロアフレーム20,20に挟まれた略中央位置に対応するフロアパネル7には、その前端から後端に亘るように車室6側へ向かって膨出したフロアトンネル部21が形成され、該フロアトンネル部21の前端側の部分はその前側ほど大きく膨出している。
【0028】
前記フロアトンネル部21と各フロアフレーム20,20との間には、それぞれ該フロアフレーム20,20の車体内方側からフロアトンネル部21の車体外方側に亘ってダッシュパネル5下端側とフロアパネル7前端側とに溶接されるダッシュロアレインフォースメント22,22が設けられている。さらに、左側及び右側のそれぞれのフロアフレーム20,20の車体外方側からサイドシル10,10の車体内方側に亘って、前記ダッシュロアレインフォースメント22,22と同様に、ダッシュパネル5とフロアパネル7とに溶接されるトルクボックス23,23がそれぞれ設けられている。
【0029】
一方、前記フロントサイドフレーム11,11のそれぞれの前端側には、車幅方向及び上下方向にそれぞれ延出した矩形のフランジ部24,24が設けられている。このフランジ部24,24には、後端部にこのフランジ部24,24と略同形状のフランジ部25,25を有するクラッシュボックス26,26(衝撃吸収部)が取り付けられて、フロントサイドフレーム11,11の前端部分を構成している。該クラッシュボックス26,26は、前側ほど小さい矩形断面を有するように形成され、前面衝突時の衝撃により圧縮荷重を受けて前後方向に潰れ変形して、このことにより衝撃を吸収するものであり、この衝突の際の潰れ変形を確実に起こすように、その上面及び両側面には、それぞれ車幅方向及び上下方向に長い略だ円形のビードが形成されている。さらに、この左右両側のクラッシュボックス26,26の前端部には、バンパーレインフォースメント27の車幅方向両端部がそれぞれ固定されている。このクラッシュボックス26,26の衝撃吸収特性は、詳しくは後述する衝突時に、乗員を拘束するシートベルトの伸びが最大となる前に潰れ変形が終了するように設定されている。
【0030】
次に、前記フロントサイドフレーム11,11の下方に配設されるペリメータフレーム30について説明する。このペリメータフレーム30は、鋼板製とされ、前記パワープラント4や操舵装置(図1に出力軸31のみを図示する)等を支持するものであり、全体として略矩形の枠状をなすように一体構造とされている。このペリメータフレーム30の前端側は、パワープラント4よりも前方で、左側のフロントサイドフレーム11の真下位置から右側のフロントサイドフレーム11の真下位置に亘るように車幅方向に直線的に延びるフロントメンバ部32とされ、このフロントメンバ部32の左右両端側には、それぞれ該フロントメンバ部32と略同形状の断面を有するとともに該両端側から後方へ延びるサイドメンバ部33,33が設けられている。
【0031】
この各サイドメンバ部33,33は、上下方向から見て、後端部が前端部よりも若干、車体内方側に位置するように全体として傾斜して配置され、それぞれの後端部から所定距離前方の部位には、前記フロントメンバ部32の断面よりも大きい断面を有するサスペンションクロスメンバ部34が2つのサイドメンバ部33,33に架け渡された状態で溶接されている。また、前記サイドメンバ部33,33は、図1に示すように車幅方向から見て、その後端部から前後方向の略中央部まで略水平に延びるように形成される一方、この中央部分において上方へ傾斜するように屈曲して、さらにその傾斜方向に前端まで延びている。
【0032】
前記の如く構成されたペリメータフレーム30をフロントサイドフレーム11,11に取り付けた状態では、それら両フレーム11、30の中間部分が互いに上下方向に離間している。すなわち、フロントサイドフレーム11の前側は略水平で後側が後方へ向かって下方へ傾斜するような形状を有する一方、ペリメータフレーム30は後側が略水平で前側が前方へ向かって上方へ傾斜するような形状を有するため、それぞれの前端部から後方へ向かってペリメータフレーム30の屈曲部位までは後側ほど互いに離れるようになる。そして、該ペリメータフレーム30の屈曲部位からフロントサイドフレーム11,11の屈曲部位までは略同間隔を保ち、この屈曲部位よりも後側はそれぞれの後端部に向かって後側ほど互いに近接するようになる。
【0033】
前記ペリメータフレーム30の取り付けについては、該ペリメータフレーム30の前端が前記一対のフロントサイドフレーム11,11の前端側の固定部11a,11aにそれぞれ固定される一方、該ペリメータフレーム30の後端が前記パワープラント4よりも後方側の位置で前記ダッシュロアレインフォースメント22,22にそれぞれ固定されている。詳しくは、前記ペリメータフレーム30の前側の左右の隅部には、該隅部の上面から車体外方へかつ前方へ向かって緩やかに傾斜しながら、上方へ突出するように取付ブラケット36,36が設けられている。この取付ブラケット36,36の下端部は前記ペリメータフレーム30に溶接される一方、上端部には軸線が上下方向に延びる円筒部37,37が設けられ、この円筒部37,37の内側には円筒状のゴムブッシュ(図示せず)が嵌合されている。さらに、このゴムブッシュには、前記円筒部37,37と同軸に位置するようにパイプ部材(図示せず)が固着されており、そのパイプ部材を軸線方向に貫通するボルト38,38によって該パイプ部材の上端部がフロントサイドフレーム11,11の前端側固定部11a,11aに締結されるようになっている。
【0034】
一方、前記ペリメータフレーム30のサイドメンバ部33,33の後端部には、該ペリメータフレーム30を前記ダッシュロアレインフォースメント22,22に取り付けるための取付部39,39が、それぞれ設けられている。この取付部39,39にも、前記したペリメータフレーム30の前側の取付ブラケット36,36の上端部と同様に円筒部40,40が設けられ、この円筒部40,40の内側にゴムブッシュが嵌合されている。そして、該ゴムブッシュにパイプ部材が固着されていて、ボルト41,41によって該パイプ部材の上端部がダッシュロアレインフォースメント22,22の固定部22a,22a(後端側固定部)に締結されるようになっている。
【0035】
前記のようにフロントサイドフレーム11,11とペリメータフレーム30とが、それぞれの中間部分が互いに上下方向に離間するように構成されているため、前面衝突時の衝撃荷重によりフロントサイドフレーム11,11の変形が起こると、前記ペリメータフレーム30のサイドメンバ部33,33には、その前側の取付ブラケット36,36と後側の取付部39,39との中間部分に対し下方へ変位するような曲げ荷重が作用する。続いて、前記フロントサイドフレーム11,11は、その車体外方の側面に形成された凹部近傍を起点として上方へ大きく変位するように折れ曲がり、一方、前記ペリメータフレーム30の中間部分は、サイドメンバ部33,33の屈曲部位近傍を起点として下方へ大きく変位するように折れ曲がることになる。
【0036】
この衝突時のフロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30の屈曲変形に対し、この実施形態では、その屈曲変形のタイミングを制御するために、前記フロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30のそれぞれの中間部分を連結する連結部材50,50を設けるようにしている。
【0037】
この連結構造について、図1に基づいて説明すると、前記ペリメータフレーム30のサイドメンバ部33,33における屈曲部位と該サイドメンバ部33,33におけるサスペンションクロスメンバ部34の溶接部位との略中央部を、鋼板からなる連結部材50,50によって、前記フロントサイドフレーム11,11に連結するようにしている。該連結部材50,50は、両者11、33を連結した状態で車幅方向から見て、全体として上下に長い略矩形状に形成されるとともに、上端縁部及び下端縁部は略半円形状とされている。また、該連結部材50の上下方向の略中央部には、車体前後方向の長さが相対的に短くなるように、前側及び後側にそれぞれ同形状の切り欠き部50a,50aが設けられている。また、該連結部材50の上端部近傍にはボルト孔50bが形成され、このボルト孔50bを貫通するボルト51により該連結部材50がフロントサイドフレーム11へ締結されるようになっている。
【0038】
前記のような形状とされた連結部材50,50は、それぞれ長手方向が前記ペリメータフレーム30のサイドメンバ部33,33に対し略直交するように、その下端側が該サイドメンバ部33,33の車体外方の側面に溶接されている。一方、フロントサイドフレーム11,11の車体内方側の壁部には、図示しないが、それぞれ前記連結部材50,50のボルト孔50b,50bに対応する部分に、予め貫通孔が形成され、かつその裏側にはナットが溶接されている。そして、エンジンルーム1内から連結部材50,50のボルト孔50b,50b及びフロントサイドフレーム11,11の貫通孔にボルト51,51を挿通して該ボルト51,51をナットに螺合させることにより、連結部材50,50の上端側をフロントサイドフレーム11,11に固定する。
【0039】
前記のように、連結部材50,50の下端側をペリメータフレーム30に溶接して両者50、30を一体化しておけば、該連結部材50,50のフロントサイドフレーム11,11への取り付けを容易に行うことができる。
【0040】
そして、前記のようなフロントサイドフレーム11,11とペリメータフレーム30との連結構造によって、衝突時には前記連結部材50,50に対して引張荷重が作用することになる。この引張荷重が連結部材50,50の切り欠き部50a,50aにおける破断荷重に達すると、連結部材50,50は、該切り欠き部50a,50aが分離起点部となって該分離起点部よりも上側の部分と下側の部分とに分離し、その後、フロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30がそれぞれ屈曲変形を起こすようになる。すなわち、前記フロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30の屈曲変形のタイミングを、前記連結部材50,50の切り欠き部50a,50aにおける破断荷重によって設定することができ、この実施形態の場合は、前記クラッシュボックス26,26の潰れ変形が終了した直後に連結部材50,50が分離して、両フレーム11、30が屈曲変形を開始するように切り欠き部50a,50aの破断荷重が設定されている。この破断荷重の大きさは、前記連結部材50,50の切り欠き部50a,50aの大きさ、数並びに形状等によって自由に設定できる。
【0041】
次に、この車両が前面衝突したときのフロントサイドフレーム11やペリメータフレーム30の変形について、図5に基づいて詳しく説明する。尚、図5は、衝突後の車体前部の状態を概略的に示すものである。まず、衝突初期では、衝突時の衝撃荷重がバンパーレインフォースメント27を介してクラッシュボックス26,26に入力し、該クラッシュボックス26,26が潰れ変形を開始する。一方、前記フロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30は、前記の如く破断荷重が設定された切り欠き部50a,50aを有する連結部材50,50により連結されていて、全体として高い剛性を保っているため、この段階では大きな変形は起こらず、前記クラッシュボックス26,26の潰れ変形のみによって相対的に大きい車体減速度が発生する。つまり、前記クラッシュボックス26,26の衝撃吸収特性は、衝突初期の車体減速度を急峻に立ち上がらせながら、かつ該衝突初期の衝撃により前記連結部材50,50の切り欠き部50a,50aが破断しないようなものとされている。
【0042】
そして、前記クラッシュボックス26,26の潰れ変形が終了して衝突荷重がさらに上昇すると、前記連結部材50,50の切り欠き部50a,50aが破断して前記フロントサイドフレーム11,11及びペリメータフレーム30のそれぞれの中間部分が上側及び下側へ変位するように折れ曲がるようになる。つまり、クラッシュボックス26を含むフロントサイドフレーム11の変形モードが潰れ変形から屈曲変形に切り換わって、変形荷重が低下し、このことにより、車体減速度が一旦、降下する。この際、両フレーム11、30は、それぞれの中間部分が互いに上下方向に離れるように屈曲変形するため、両フレーム11、30の干渉やエンジンルーム1内のパワープラント4との干渉を回避して、十分な変形ストロークを確保することができる。
【0043】
図6は、この実施形態に係る車両の減速度特性a(実線)及び該車両の乗員減速度特性b(一点鎖線)と、この前部車体構造を有さない比較例の車両減速度特性c(破線)及び乗員減速度特性d(二点差線)とを対比して示す特性図である。尚、この特性図では、横軸に車体潰れ量をとり、縦軸に減速度をとっている。
【0044】
まず、比較例の車体及び乗員の減速度特性c、dについて説明すると、車体減速度特性cは衝突初期に立ち上がって略一定の減速度を保った状態で車体の潰れ変形が進行し、衝突終盤にパワープラント4がダッシュパネル5に底付きすることで急激に上昇して、その後、車体の潰れ変形が終了して減速度は0となる。この比較例における乗員減速度特性dについては、車体減速度特性cよりも緩やかに立ち上がり、徐々に上昇度合いが高くなる。そして、乗員を拘束するシートベルトの伸びが最大に達して乗員減速度が最大となる領域でも、車体減速度が前記の如く高いため、シートベルトによる乗員への反力が極めて大きなものとなる。
【0045】
これに対し、本実施形態の車体及び乗員の減速度特性a、b場合、車体減速度特性aは、前記の如くクラッシュボックス26,26の潰れ変形が開始されると急峻に立ち上がり、このことで、比較的早期にシートベルトが伸ばされて、乗員減速度も車体減速度にあまり遅れずに上昇する(乗員減速度特性b参照)。そして、該シートベルトの伸びが最大となる直前に、前記したようにクラッシュボックス26,26の潰れ変形が終了し、連結部材50,50が破断して両フレーム11、30の屈曲変形が開始されることで、車体減速度が一旦、降下することになり、この車体減速度の降下する領域においてシートベルトの伸びが最大となることで、乗員が受けるシートベルトからの反力を前記比較例と比べて大幅に減少させることができる。
【0046】
以上、説明したように、この実施形態では、自動車の前面衝突初期に連結部材によってフロントサイドフレーム11とペリメータフレーム30とを連結しつつ、クラッシュボックス26,26の潰れ変形によって車体減速度を安定的にかつ急峻に立ち上がらせ、その潰れ変形の終了直後に連結部材50を破断させて、前記両フレーム11、30が屈曲変形を開始するようにしたので、衝突時にシートベルトからの反力によって乗員減速度が過度に大きくなることを確実に防止できる。
【0047】
(他の実施形態)
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他の種々の実施形態を包含するものである。すなわち、前記実施形態では、連結部材50の分離起点部として該連結部材50の前後方向の長さが相対的に短くなるような切り欠き部50aを形成しているが、これに限らず、例えば、該連結部材50を拡大して示す図7の(a)のように、車幅方向に相対的に薄くなるような切り欠き部50cを形成してもよい。また、同図(b)に示すように、連結部材50の上下方向の略中央部に、車幅方向に貫通するような孔部50dを形成してもよい。
【0048】
また、図示しないが、連結部材50上端側を固定するボルト51に、該連結部材50へ作用する引張荷重が設定値よりも大きくなったときに、該ボルト51の頭部が軸部から分離するような脆弱部を予め設けておき、この部位を前記分離起点部とするようにしてもよい。
【0049】
また、同図(c)に示すように、前記連結部材50の分離起点部としては、該連結部材50の上端縁部から下方へ向かって、前後方向の長さが前記ボルト孔50bと同寸法となるような溝部50eを形成して、この溝部50e近傍をボルト51によってフロントサイドフレーム11に締結するようにしてもよい。このものでは、ボルト51の締結力によって、分離時の荷重を自由に設定することができる。
【0050】
また、前記実施形態では、連結部材50を鋼板製としているが、これに限らず、例えば、樹脂製としてもよく、また、ワイヤ等の可撓性を有する部材でもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、連結部材50の固定手段として上端側及び下端側をそれぞれ締結具51による固定及び溶接による固定としているが、これに限らず、例えば両方を締結固定もしくは溶接固定としてもよい。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明に係る自動車の前部車体構造によると、フロントサイドフレームに対してペリメータフレームの前後方向の中間部分を連結する連結部材を設けるとともに、ペリメータフレームをフロントサイドフレームが圧縮荷重を受けて変形するときにその中間部分が下方に折れ曲がるように構成し、そのペリメータフレームの折れ曲がりによって連結部材に作用する引張荷重が設定値よりも大きくなったときに該連結部材を分離させるようにしたので、自動車の衝突時の車体減速度を狙い通りに変化させて、乗員への衝撃荷重を確実に低減することができる。
【0053】
請求項3記載の発明によると、衝突初期において連結部材に作用する荷重を設定値以下に保つ衝撃吸収部を設けたので、衝突初期の車体減速度を安定的にかつ急峻に立ち上げながら、このときの連結部材の破断を防止することができる。
【0054】
請求項4記載の発明によると、連結部材の分離起点部を相対的に脆弱な切り欠き部としたので、該分離起点部を確実に分離させることができ、また、分離タイミングの設定を容易に行うことができる。
【0055】
請求項5記載の発明によると、前記請求項4と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る車体前部の断面図である。
【図2】 車体前部の構造を示す下面図である。
【図3】 車体前部の構造を示す上方から見た斜視図である。
【図4】 車体前部の構造を示す下方から見た斜視図である。
【図5】 前面衝突後の車体前部の状態を示す図1相当図である。
【図6】 車体潰れ量に対する車体減速度の変化を示す特性図である。
【図7】 他の実施形態に係る連結部材の拡大図である。
【図8】 従来の自動車の車体前部構造を示す平面図である。
【図9】 前面衝突後の車体前部の状態を示す図8相当図である。
【符号の説明】
11 フロントサイドフレーム
11a 前端側固定部
22 ダッシュロアレインフォースメント(車体構成部材)
22a 後端側固定部
26 クラッシュボックス(衝撃吸収部)
30 ペリメータフレーム
33 サイドメンバ部
50 連結部材
50a 切り欠き部(分離起点部)
50d 孔部
Claims (5)
- 自動車の前部に設けられたエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、
車体前部の左右両側において各々前記ダッシュパネルから車体前方へ延びるように設けられた一対のフロントサイドフレームと、
前記各フロントサイドフレームの下方においてそれぞれ車体前後方向に延びる一対のサイドメンバ部を有するペリメータフレームと、
前記車室内に設けられ、乗員を拘束するためのシートベルトとを備え、
前記ペリメータフレームの各サイドメンバ部の前端側が各フロントサイドフレームの前端側に設けられた前端側固定部に固定される一方、各サイドメンバ部の後端側が各フロントサイドフレームの後端側ないしその近傍の車体構成部材に設けられた後端側固定部に固定された自動車の前部車体構造において、
前記フロントサイドフレームには、前記前端側固定部と前記後端側固定部との間に、圧縮荷重を受けた際に屈曲変形する起点となる脆弱な部位が設けられ、
前記ペリメータフレームの各サイドメンバ部を、それぞれ、前記前端側及び後端側固定部の中間部分において各フロントサイドフレームに連結する連結部材が設けられ、
前記各サイドメンバ部は、前記フロントサイドフレームが圧縮荷重を受けて変形するときに、前記中間部分において下方へ折れ曲がるように構成され、
前記連結部材には、前記サイドメンバ部の折れ曲がりによって作用する引張荷重が設定値よりも大きくなったときに分離する分離起点部が設けられ、
前記連結部材で連結されたフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重に対して、前記分離起点部が分離した状態のフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重が低く設定されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。 - 請求項1において、
フロントサイドフレームは、側面視でダッシュパネルから上方へ延びた後、屈曲して略水平に車体前方へ延びるように形成され、この屈曲部位が脆弱な部位とされていることを特徴とする自動車の前部車体構造。 - 請求項1又は2において、
前記各フロントサイドフレームの前端側固定部よりも前側には、圧縮荷重を受けて潰れ変形することで衝撃吸収する衝撃吸収部が設けられ、
前記衝撃吸収部の潰れ変形荷重は、連結部材で連結されたフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重よりも小さく、かつ、分離起点部が分離した状態のフロントサイドフレームとペリメータフレームとの車体前後方向の変形荷重よりも大きく設定されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。 - 請求項1から3のいずれか1つにおいて、
前記連結部材の分離起点部は、切り欠き部とされていることを特徴とする自動車の前部車体構造。 - 請求項1から3のいずれか1つにおいて、
前記連結部材の分離起点部は、孔部とされていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
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