上記特許文献1においては、プラズマによりシリコン基板上にカーボンナノウォールを形成することが開示されているが、シリコン基板上に金属触媒をコーティングしなければ、カーボンナノウォールは形成されない。また、CF4、CHF3ガスを用いて、カーボンナノウォールを成長させることや、CH4ガスとC2F6、CF4,またはCHF3ガスを混合したガスを用いてカーボンナノウォールを形成することは開示がない。また、Hラジカルを反応領域に注入することは開示していない。さらに、壁の長さ方向が一定方向に向いた(配向した)カーボンナノウォールは知られていない。特許文献2においては、ダイヤモンド薄膜を形成することを開示しているが、カーボンナノウォールの形成については開示がない。また、原料ガスとして、炭素とフッ素を含むガス(例えば、C2F6 、CF4 、CHF3など)を用いることは開示がない。また、CH4ガスとC2F6、CF4,またはCHF3ガスを混合したガスを用いてカーボンナノウォールを形成することは開示がない。 カーボンナノウォールは、多くの用途が期待されるが、未だ、精度良く且つ効率良くカーボンナノウォールを形成する方法は確立されていない。 そこで、本発明の一つの目的は、カーボンナノウォールを製造する新規な方法を提供することである。 本発明の他の一つの目的は、そのような製造方法の実施に適した製造装置を提供することである。本発明の他の一つの目的は、性状および/または特性の制御が容易なカーボンナノウォールの製造方法を提供することである。また、かかる製造方法の実施に適した製造装置を提供することである。 さらに、他の目的は、新規な構造の配向したカーボンナノウォールを提供することである。また、他の目的は、金属触媒を有しないカーボンナノウォールを提供することである。さらに、他の目的は、プラズマを用いた薄膜形成やアッシングやエッチングに用いられる高精度の加工が可能なプラズマ処理装置を提供することである。 これらの発明の目的は、それぞれの発明が個々に達成するものであって、それぞれの発明が全ての目的を同時に果たすものと解釈されるべきではない。
本発明者らは、炭素を構成元素とする原料物質がプラズマ化してなるプラズマ雰囲気中に、そのプラズマ雰囲気の外部からラジカルを供給することによってカーボンナノウォールを製造し得ることを見出した。
すなわち、この出願により提供されるカーボンナノウォール製造方法では、少なくとも炭素を構成元素とする原料物質がプラズマ化したプラズマ雰囲気を反応室の少なくとも一部に形成する。そのプラズマ雰囲気中に、該雰囲気の外部で生成したラジカルを注入する。そして、該反応室中に配置した基材の表面にカーボンナノウォールを形成する。 このような製造方法によると、プラズマ雰囲気中に注入するラジカルの組成、供給量等のうち一または二以上の条件を、他の一または二以上の製造条件と独立して、あるいは該他の製造条件に関連させて調整し得る。すなわち、外部からのラジカル注入を行わない場合に比べて製造条件の調整の自由度が高い。このことは、目的に応じた性状(例えば、壁の厚さ、高さ、形成密度、平滑性、表面積等)および/または特性(例えば、電界放出特性のような電気的特性等)を有するカーボンナノウォールを製造するという観点から有利である。
なお、この出願に係る「カーボンナノウォール」は、二次元的な広がりをもつカーボンナノ構造体である。二次元的広がりのあるグラフェンシートが基材表面上に立設されたものであり、単層、多重層で壁を構成しているものである。二次元の意味は、壁の厚さ(幅)に比べて面の縦および横方向の長さが十分に大きいという意味で用いている。面が多層であっても、単層であっても、一対の層(中に空隙のある層)で構成されたものでも良い。また、上面が覆われもの、したがって、内部に空洞を有するものであっても良い。例えば、ウォールの厚さは0.05〜30nm程度で、面の縦横の長さは、100nm〜10μmで程度である。一般的には、面の縦方向と横方向が幅に比べて非常に大きく、制御の対象となることから二次元と表現している。 上記製造方法により得られるカーボンナノウォールの典型例は、基材の表面からほぼ一定の方向に立ち上がった壁状の構造を有するカーボンナノ構造体である。なお、フラーレン(C60等)は0次元のカーボンナノ構造体とみることができ、カーボンナノチューブは一次元のカーボンナノ構造体とみることができる。また、上記「プラズマ雰囲気」とは、当該雰囲気を構成する物質の少なくとも一部が電離した状態(すなわち、原子や分子のイオンや電子などの荷電粒子や、原子や分子のラジカルなどの中性粒子などが混在した状態(プラズマ化した状態))にある雰囲気をいう。
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、原料物質を反応室内でプラズマ化することによって該プラズマ雰囲気を形成する。あるいは、反応室の外部で原料物質をプラズマ化し、そのプラズマを反応室に導入して該反応室内にプラズマ雰囲気を形成してもよい。 そのプラズマ雰囲気中に、該雰囲気の外部からラジカルを注入する。反応室を形成するチャンバーの外部のラジカル発生室でラジカル源物質を分解してラジカルを生成し、それを反応室内のプラズマ雰囲気中に注入することが好ましい。あるいは、反応室と同一チャンバー内のラジカル発生室であって前記プラズマ雰囲気の外部でラジカル源物質を分解し、これにより生成したラジカルをプラズマ雰囲気中に注入してもよい。要は、原料物質のプラズマにより成膜したり処理したりする加工領域とは、異なる領域でラジカルを生成して、このラジカルのみを加工領域に注入して、成膜や処理を制御してカーボンナノウォールを成長させ、または、加工処理をすることが本件発明の特徴である。なお、特許請求の範囲および本明細書において、反応室と反応領域、ラジカル発生室とラジカル発生領域とは、同一意味で用いている。両者が区画される領域の意味である。
ラジカル源物質からラジカルを生成する好ましい方法としては、該ラジカル源物質に電磁波を照射する方法が挙げられる。この方法に使用する電磁波としては、マイクロ波および高周波(UHF波、VHF波またはRF波)のいずれも選択可能である。VHF波またはRF波を照射することが特に好ましい。かかる方法によると、例えば周波数および/または入力電力を変更することによって、ラジカル源物質の分解強度(ラジカルの生成量)を容易に調整することができる。したがって、カーボンナノウォールの製造条件(プラズマ雰囲気中へのラジカルの供給量等)を制御しやすいという利点がある。 ここで、周知のように、「マイクロ波」とは1GHz程度以上の電磁波を指すものとする。また、「UHF波」とは300〜3000MHz程度の、「VHF波」とは30〜300MHz程度の、「RF波」とは3〜30MHz程度の電磁波を、それぞれ指すものとする。 ラジカル源物質からラジカルを生成する他の好ましい方法としては、該ラジカル源物質に直流電圧を印加する方法が挙げられる。また、該ラジカル源物質に光(例えば可視光、紫外線)を照射する方法、電子線を照射する方法、該ラジカル源物質を加熱する方法等を採用することも可能である。あるいは、触媒金属を有する部材を加熱し、その部材にラジカル源物質を接触させて(すなわち、熱と触媒作用によって)ラジカルを生成してもよい。上記触媒金属としては、Pt,Pd,W,Mo,Ni等から選択される一種または二種以上を用いることができる。
プラズマ雰囲気中に注入するラジカルは、少なくとも水素ラジカル(すなわち水素原子。以下、「Hラジカル」ということもある。)を含むことが好ましい。少なくとも水素を構成元素とするラジカル源物質を分解してHラジカルを生成し、そのHラジカルをプラズマ雰囲気中に注入することが好ましい。このようなラジカル源物質として特に好ましいものは水素ガス(H2)である。 特に、Hラジカルのみを供給すると、カーボンナノウォールを良好に生成することができる。特に、OHラジカルやOラジカルが存在するとカーボンナノウォールは形成されない。
原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。好ましい原料物質の一例としては、少なくとも炭素と水素を構成元素とする物質(ハイドロカーボン等)が挙げられる。好ましい原料物質の他の例としては、少なくとも炭素とフッ素を構成元素とする物質(フルオロカーボン等)が挙げられる。
また、炭素と水素とフッ素を必須構成元素とする物質(フルオロハイドロカーボン等)が挙げられる。後述するように、特に、炭素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、C2F6やCF4を用いる時、良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。また、炭素と水素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、CHF3を用いる時も良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。炭素と水素を構成元素とする物質、例えば、CH4を用いると、壁の形状が乱れたものとなり、壁に垂直な方向にひげのようなものが形成され、カーボンナノウォールは不完全なものとなる。しかしながら、水素の貯蔵など、この目的に適合した用途もある。特に、少なくともフッ素と炭素とを構成元素に含むガスを用いることで、形状が良好で確実なカーボンナノウォールが形成されることを、本発明者らは発見した。この時、Fの量が多いと壁の間隔が広くなる。 また、成長過程中において、原料物質の種類を切り換える場合、生成されるカーボンナノウォールの形状は、成長過程おいて用いられた原料物質の種類に依存することを、本件発明者らは発見した。このことを利用して、炭素と水素を構成元素とするガスを用いて成長させた領域と炭素とフッ素を構成元素とするガスを用いて成長させた領域とを多段的に構成したカーボンナノウォールを形成できる。この構造は、燃料電池における水素貯蔵能力を増大させることが期待される。また、カーボンナノウォールの成長種が成長過程の最初の段階で形成され、成長後の形状は、成長初期の成長種の分布形状に依存することも考えられる。よって、このことを利
用して、カーボンナノウォールの成長過程において、原料物質を切り換えて、カーボンナノウォールを成長させても良い。 カーボンナノウォールが形成されるメカニズムは次の通りである。例えば、C2F6ガスプラズマ中でCFX ラジカルやCxFyラジカルとなり、それらのフルオロカーボンラジカルとHラジカルとの反応によりフルオロカーボンラジカルのF原子がHラジカルにより引き抜かれ、グラファイト構造を形成し、カーボンナノウォールが形成される。
また、基材をアースしたり、または、基材を絶縁したりして、成長させると、カーボンナノウォールの性状が変化することを発明者らは発見している。 また、Hラジカルの反応領域への注入量はラジカル源物質であるH2ガスの流量と原料物質ガスの流量との比により、形成されるカーボンナノウォールの形状や壁面間隔、壁の厚さや壁面の大きさが制御できることを、本件発明者は発見している。したがって、ラジカルの反応領域への供給量を制御することで、カーボンナノウォールの性状を制御する製造方法が発明されている。 また、主として、C2F6、CF4、CHF3 を用いた場合のカーボンナノウォールの性状と、CH4を用いた場合のカーボンナノウォールの性状とは明らかに異なることを本件発明者らは発見している。したがって、少なくとも炭素とフッ素を構成元素とする原料物質と、少なくとも炭素と水素を構成元素とする構成物質の流量比を変化させることで、製造されるカーボンナノウォールの性状を所望の性状に変化させる製造方法が発明されている。この時、フッ素を含むガスの比率が高い程、壁間の間隔が大きくなり、壁も厚くなることを発見している。これらのカーボンナノウォールの性状制御は燃料電池としての水素の貯蔵能力を最適化でき、また、電界放出トランジスタの電子放出の特性を最適化できる。
また、基材表面の法線方向を、プラズマを発生する電界方向に対して相対的に傾斜させることにより、カーボンナノウォールの壁の長さ方向の平均的な向きが電界方向に揃うという配向現象が現れることを本件発明者らは初めて発見した。 また、基板表面の法線方向に対して、Hラジカルを傾斜した方向から注入することにより、基材表面に成長するカーボンナノウォールの壁の長さ方向の平均的な向きがラジカルの照射される方向に揃うことも期待される。 したがって、基材表面の法線方向を、プラズマを発生する電界方向に対して相対的に傾斜させることにより、または、基材表面の法線に対して相対的に傾斜した方向からラジカルを基材の表面に向かって注入することで、配向したカーボンナノウォールを得る製造方法が発明されている。 また、上記のように多数の壁の長さ方向が平均的に所定方向に揃った状態、すなわち、配向した状態のカーボンナノウォールは、従来、存在しなかった。したがって、カーボンナノ構造体が配向したカーボンナノウォールは新規物質であり、特許性を有する。 また、カーボンナノウォールを成長させる前に、基材を加熱して、原料物質のプラズマを生成することなく(望ましくは、原料物質の供給を停止して)、ラジカル(最も望ましくは、Hラジカル)を基材表面に照射した後に、原料物質をプラズマ化して、カーボンナノウォールを成長させる。この時、成長するカーボンナノウォールは基材に対して強固に接合することになり、機械的接合強度が向上することを本件発明者らは初めて発見した。よって、このようにラジカルを基材の表面に照射して基材を前処理する製法が発明されている。
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、前記反応室内における少なくとも一種類のラジカルの濃度(例えば、炭素ラジカル、水素ラジカル、フッ素ラジカルのうち少なくとも一種類のラジカルの濃度)に基づいて、カーボンナノウォール製造条件の少なくとも一つを調整する。かかるラジカル濃度に基づいて調整し得る製造条件の例としては、原料物質の供給量、原料物質のプラズマ化強度(プラズマ化条件の厳しさ)、ラジカル(典型的にはHラジカル)の注入量等が挙げられる。このような製造条件を、上記ラジカル濃度をフィードバックして制御することが好ましい。かかる製造方法によると、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを、より効率よく製造することが可能である。
本方法発明の望ましい形態では、基材の上には、金属触媒が存在しない。本製造方法を用いると、基材の表面に金属触媒がなくとも、カーボンナノウォールが良好に形成される。金属触媒を用いなくともカーボンナノウォールを製造できるのは、本発明方法が初めてである。金属触媒は、通常、カーボンナノチューブの生成に使用されているが、本製造方法によると、金属触媒なにし、形状が良好で確実なカーボンナノウォールを製造することが可能となる。金属触媒を用いた場合には、カーボンナノウォールの底面や上面に金属が残留するが、用途によっては、この金属の存在が欠点となる。本発明では、金属が存在しないカーボンナノウォールを提供することが、初めて可能となった。したがって、金属触媒を有していない二次元的な広がりをもつカーボンナノ構造体から成るカーボンナノウォールは、新規物質であり、多くの用途があり、特許性がある。 また、この発明によると、基材の表面にカーボンナノウォールを製造する装置が提供される。その装置は、少なくとも炭素を構成元素とする物質を含む原料物質が供給され、前記基材が配置される反応室を含む。また、該反応室内の原料物質をプラズマ化するプラズマ放電手段を含む。また、所定のラジカル源物質(典型的には、少なくとも水素を構成元素とするラジカル源物質)が供給されるラジカル発生室を含む。また、該ラジカル発生室内のラジカル源物質からラジカルを生成するラジカル発生手段を含む。そして、前記ラジカル発生手段により生成したラジカルを前記反応室に導入し得るように構成されている。 かかる製造装置によると、反応室に導入するラジカルの組成、供給量等のうち一または二以上の条件を、他の一または二以上のカーボンナノウォール製造条件(例えば、原料物質のプラズマ化条件)と独立して、あるいは該他の製造条件に関連させて調整し得る。すなわち、高い自由度をもってカーボンウォールの製造条件を調整することができる。このような製造装置は、上述したいずれかのカーボンナノウォール製造方法を実施する装置として好適である。
上記製造装置の好ましい一つの態様では、前記ラジカル発生手段が、前記ラジカル発生室にマイクロ波、UHF波、VHF波またはRF波を照射し得るように構成されている。このラジカル発生手段は、誘導結合プラズマ(ICP)発生機構として構成されていることが好ましい。あるいは、触媒金属(Pt,Pd,W,Mo,Ni等)を有する部材を前記ラジカル発生室に面して配置し、その触媒金属部材を加熱し得るように上記ラジカル発生手段を構成してもよい。例えば、波状のNi製ワイヤ(触媒金属部材)をラジカル発生室の内部に配置した構成とすることができる。上記ワイヤに電流を流したヒータに、ラジカル源物質としてのH2を導入して接触させる。これにより、Niの触媒作用によってHラジカルを発生させることができる。触媒金属の加熱温度は、例えば300〜800℃程度とすることができ、通常は400〜600℃程度とすることが好ましい。また、前記プラズマ放電手段は、容量結合プラズマ(CCP)発生機構として構成されていることが好ましい。
上記製造装置の他の一つの好ましい態様では、前記ラジカル発生手段が、前記基材のカーボンナノウォール形成面に向かって広がって設けられたラジカル導入口から前記反応室にラジカルを導入し得るように構成されている。他の一つの好ましい態様では、前記反応室内に配置された前記基材のカーボンナノウォール形成面に対向する位置に、複数のラジカル導入口が分散配置されている。このような構成によると、上記形成面にカーボンナノウォールを、より効率よく形成することが可能である。基材の比較的広い範囲にカーボンナノウォールを形成する場合には、このような構成とすることによる効果が特によく発揮される。
ここで開示されるカーボンナノウォール製造装置は、前記反応室内における炭素ラジカルの濃度(密度)を測定する濃度測定手段をさらに備えることができる。その測定手段は、該ラジカルの発光線(すなわち炭素原子の発光線)を反応室内に出射する発光線出射手段を含む。また、該出射手段から出射された発光線を受光する受光手段を含む。かかる構成の装置によると、反応室内の炭素ラジカルの濃度に基づいて製造条件を、より的確に調整することができる。あるいは、反応室内の炭素ラジカルの濃度を、より高精度に管理することができる。したがって、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを効率よく製造することができる。上記発光線出射手段は、例えば、少なくとも炭素を構成元素とするガスに適当なエネルギーを加えて炭素ラジカル(炭素原子)に固有の発光線を出射するように構成することができる。
上記製造装置はまた、前記反応室内におけるHラジカル(水素原子)の濃度を測定する濃度測定手段を備えることができる。また、前記反応室内におけるフッ素ラジカル(フッ素原子)の濃度を測定する濃度測定手段を備えることができる。このような測定手段は、測定対象となるラジカルの種類に対応した発光線を出射する発光線出射手段と、その出射部から出射された発光線を受光する受光手段とを含む構成とすることができる。 モニタ、制御対象としては、C,H,Fラジカルに限定されず、この他、対象ラジカルとしてC2,CF,CF2,CF3,CxFy(x≧1,y≧1)でも良い。
上記製造装置は、前記測定機構によるラジカル濃度測定結果に基づいて少なくとも一つのカーボンナノウォール製造条件を調整する制御手段を備える。かかる測定結果に基づいて調整し得る製造条件の例としては、原料物質の供給量、原料物質のプラズマ化強度、ラジカル(典型的にはHラジカル)の注入量、ラジカル源物質の供給量、ラジカル源物質のラジカル化強度等が挙げられる。このような製造条件を、上記ラジカル濃度測定結果をフィードバックして制御することが好ましい。かかる製造方法によると、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを、より効率よく製造することが可能である。
同様に、注入するラジカルを発生するラジカル発生室内や反応室にラジカルを注入する注入口におけるラジカル、特に、Hラジカルを測定して、反応室に注入されるラジカルの量が所定値になるように、ラジカル源物質の供給量やラジカル源物質に印加する電力を制御することが望ましい。このようにすれば、反応室内へ注入されるラジカル、特に、Hラジカルの量を成長過程においてリアルタイムに制御することができ、良質なカーボンナノウォールを生成することができる。 一方、この装置を、他の成膜やアッシングやエッチング等の基板の処理に用いた場合には、このような手法により反応室に注入されるラジカルの量を処理過程においてリアルタイムに精度良く制御することにより、精度の高い加工が実現される。
また、反応室において、放電が形成され原料物質のプラズマが生成される。一方、ラジカル発生室においては、反応室に注入すべきラジカルを生成するために、ラジカル源物質がプラズマ化される。この時、反応室に設けられた電極に高周波電力を印加すると、ラジカル発生手段との間に放電が発生し、発生するラジカルを制御できない。また、基材が設けられた電極との間では放電が発生しないか弱い放電しか生じないおそれがある。そのために、反応室とラジカル発生室との間に多数の孔を有したアースされたシールド部材を設けることで、ラジカル発生手段とプラズマ放電手段との間での
干渉が防止される。このアースされたシールド部材を設けると、このシールド部材と高周波電力が印加される電極との間隔は、その電極と基材が設置される電極との間隔よりも狭く、内部のガス圧も低いので、シールド部材と高周波電極との間には放電が発生しない。
また、ラジカルをプラズマが生成された反応領域に注入して、精度の高い成長か加工を行うプラズマ処理装置として、以下の構成を採用することができる。 電力を印加する第一電極とこの第一電極に対面し処理部材を設置する第二電極とを平行に配置した平行平板型のプラズマ処理装置において、多数の孔が形成された第一電極と、ガスが供給され、第一電極と第二電極間にプラズマが発生される反応領域と、第一電極と第二電極との間に高周波を印加して、ガスをプラズマ化する高周波電源と、第一電極に対して第2の電極と反対側の領域に設けられ、ラジカル源物質が供給されるラジカル発生領域と、このラジカル発生領域のラジカル源物質からラジカルを生成するラジカル発生手段と、第一電極とラジカル発生領域との間において、ラジカル発生領域を区画し、ラジカルが第一電極に形成された孔を通過するように多数の孔を有し、アースされたシールド部材とを有し、ラジカル発生手段により生成したラジカルをシールド部材に形成された孔と第一電極に形成された孔を介して、反応領域に導入するように構成したプラズマ処理装置である。
すなわち、本発明は、平行平板容量結合型のプラズマ発生装置を用いてラジカルを反応領域に注入できるようにした装置である。第一電極と第二電極との間で放電を発生させて、原料物質のプラズマを生成する。また、第一電極には高周波電力が印加されるが、シールド部材が第一電極とラジカル発生手段との間に存在するので、この高周波電力がラジカル発生手段に影響を与えることが防止される。このため、反応領域におけるプラズマを安定化でき、また、ラジカル発生領域におけるプラズマを安定して発生でき、安定してラジカルを反応領域に注入することが可能となる。このように反応領域における原料物質のプラズマの発生と、ラジカル発生領域におけるラジカルの発生とを独立して制御することが可能となる。
ラジカルを発生する領域とガスのプラズマを発生させる領域とを区画することで、印加させる電力を異なるものとして、ラジカルとプラズマのそれぞれを独立して最適化できる。例えば、ラジカルがHラジカルとすると、H2の電離エネルギーは、炭素とフッ素を構成元素とするガスの電離エネルギーよりは遥かに大きい。このため、第一電極と第二電極との間に、H2と炭素とフッ素を構成元素とするガスを流して、プラズマ化しても、Hラジカルの量は多くはならない。しかし、ラジカルを生成する領域をプラズマを生成する領域と異なる領域とすると、ラジカルを生成する領域には大きな電力を印加できるので、例えば、Hラジカルを高密度に生成できる。このHラジカルを反応領域に注入することで、反応領域におけるHラジカルの密度を飛躍的に向上させることができる。このことが、成膜や加工処理を精度良く実行できる原因となる。
また、ラジカル発生装置は、多数の小孔を同一位置に形成した2枚の電極板を離間して設け、内側の電極を陰極、反応領域に近い方の外側の電極をアースして前記シールド部材とし、多数の小孔にプラズマを生成するマイクロホロープラズマ発生装置とすることも可能である。この構成にすると、マイクロホロープラズマ発生装置の外側の電極をシールド部材として用いることができるために、装置が簡単となる。 さらに、第一電極の孔を介して、ガス(原料物質ガス)を反応室に供給すると、ラジカルもこの孔を通過して反応室に供給されるので、原料物質ガスに対する注入されるラジカルの量を正確に制御することが可能となる。また、基材面に対して均一にラジカルと原料物質ガスとを供給することが可能となり、基材面一様に成膜や加工が可能となる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
カーボンナノウォールの製造に用いる原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。炭素とともに原料物質を構成し得る元素の例としては、水素、フッ素、塩素、臭素、窒素、酸素等から選択される一種または二種以上が挙げられる。好ましい原料物質としては、実質的に炭素と水素から構成される原料物質、実質的に炭素とフッ素から構成される原料物質、実質的に炭素と水素とフッ素から構成される原料物質が例示される。飽和または不飽和のハイドロカーボン(例えばCH4)、フルオロカーボン(例えばC2F6)、フルオロハイドロカーボン(例えばCHF3)等を好ましく用いることができる。直鎖状、分岐状、環状のいずれの分子構造のものも使用可能である。通常は、常温常圧において気体状態を呈する原料物質(原料ガス)を用いることが好ましい。原料物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。使用する原料物質の種類(組成)は、カーボンナノウォールの製造段階(例えば成長過程)の全体を通じて一定としてもよく、製造段階に応じて異ならせてもよい。目的とするカーボンナノ構造体の性状(例えば壁の厚さ)および/または特性(例えば電気的特性)に応じて、使用する原料物質の種類(組成)や供給方法等を適宜選択することができる。
ラジカル源物質としては、少なくとも水素を構成元素とする物質を好ましく用いることができる。常温常圧において気体状態を呈するラジカル源物質(ラジカル源ガス)を用いることが好ましい。特に好ましいラジカル源物質は水素ガス(H2)である。また、ハイドロカーボン(CH4等)のように、分解によりHラジカルを生成し得る物質をラジカル源物質として用いることも可能である。ラジカル源物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。
ここで開示される製造方法では、原料物質がプラズマ化されたプラズマ雰囲気中にラジカルを注入する。これにより原料物質のプラズマとラジカル(典型的にはHラジカル)とを混在させる。すなわち、原料物質のプラズマ雰囲気中に高密度のラジカル(Hラジカル)を形成することができる。その混在領域から基材上に堆積した炭素によりカーボンナノウォールが形成される(成長する)。使用し得る基材の例としては、少なくともカーボンナノウォールの形成される領域がSi、SiO2、Si3N4、GaAs、Ai2O3等の材質により構成されている基材が挙げられる。基材の全体が上記材質により構成されていてもよい。上記製造方法では、ニッケル鉄等の触媒を特に使用することなく、上記基材の表面に直接カーボンナノウォールを作製することができる。また、Ni,Fe,Co,Pd,Pt等の触媒(典型的には遷移金属触媒)を用いてもよい。例えば、上記基材の表面に上記触媒の薄膜(例えば厚さ1〜10nm程度の膜)を形成し、その触媒被膜の上にカーボンナノウォールを形成してもよい。使用する基材の外形は特に限定されない。典型的には、板状の基材(基板)が用いられる。
<第1実施例> この出願に係るカーボンナノウォール(カーボンナノ構造体)製造装置の一構成例を図1に示す。この装置1は、反応室10と、その反応室10内でプラズマを生じさせるプラズマ放電手段20と、反応室10に接続されたラジカル供給手段40とを備える。
プラズマ放電手段20は、平行平板型容量結合プラズマ(CCP)発生機構として構成されている。本実施例のプラズマ放電手段20を構成する第一電極22および第二電極24は、いずれも略円板状の形状を有する。これらの電極22,24は、互いにほぼ平行になるようにして反応室10内に配置されている。典型的には、第一電極22が上側に、第二電極24がその下側になるようにして配置する。 第一電極(カソード)22には、マッチング回路(matching network)26を介して電源28が接続されている。これらの電源28およびマッチング回路26により、RF波(例えば13.56MHz)、UHF波(例えば500MHz)、VHF波(例えば、27MHz,40MHz,60MHz,100MHz,150MHz)、またはマイクロ波(例えば2.45GHz)の少なくともいずれかを発生することができる。本実施例では、少なくともRF波を発生し得るように構成されている。 第二電極(アノード)24は、反応室10内で第一電極22から離して配置される。両電極22,24の間隔は、例えば0.5〜10cm程度とすることができる。本実施例では約5cmとした。第二電極24は接地されている。カーボンナノウォールの製造時には、この第二電極24上に基板(基材)5を配置する。例えば、基材5のうちカーボンナノウォールを製造しようとする面が露出する(第一電極22に対向する)ようにして、第二電極24の表面上に基板5を配置する。第二電極24には、基材温度調節手段としてのヒータ25(例えばカーボンヒータ)が内蔵されている。必要に応じてこのヒータ25を稼動させることによって基板5の温度を調節することができる。
反応室10には、図示しない供給源から原料物質(原料ガス)を供給可能な原料導入口12が設けられている。好ましい一つの態様では、第一電極(上部電極)22と第二電極(下部電極)24との間に原料ガスを供給し得るように導入口12を配置する。また、反応室10には、後述するラジカル供給手段40からラジカルを導入可能なラジカル導入口14が設けられている。好ましい一つの態様では、第一電極22と第二電極24との間にラジカルを導入し得るように導入口14を配置する。さらに、反応室10には排気口16が設けられている。この排気口16は、反応室10内の圧力を調節する圧力調節手段(減圧手段)としての図示しない真空ポンプ等に接続されている。好ましい一つの態様では、この排気口16は第二電極24の下方に配置されている。
ラジカル供給手段40は、ラジカル発生室41と、そのラジカル発生室41内でラジカル源物質からラジカルを生じさせるラジカル発生手段50とを含む。このラジカル発生手段50は、誘導結合プラズマ(ICP)発生機構として構成されている。例えば、ラジカル発生室41の周囲にコイル52を配置した構成とすることができる。本実施例では、内径26mm、長さ20mmの石英管を用いて形成されたラジカル発生室41の周囲に、1/4インチの銅管を螺旋状に5周捲回させてコイル52を形成した。このコイル52は流水等により冷却可能である。ラジカル発生手段50(コイル52)には、マッチング回路56を介して電源58が接続されている。これにより、RF波(13.56MHz)、UHF波(例えば500MHz)、VHF波(例えば100MHz)の少なくともいずれかを発生することができる。本実施例では、少なくともRF波を発生し得るように構成されている。なお、マイクロ波(例えば2.45GHz)を直接導入してプラズマを生成させ、これによりラジカルを発生する構成としてもよい。この場合にはコイル52を省略することができる。
ラジカル発生室41には、図示しない供給源からラジカル源物質36を導入可能なラジカル源導入口42が設けられている。また、ラジカル発生室41は反応室10のラジカル導入口14に接続されている。好ましい一つの態様では、管状のラジカル発生室41の長手方向の一端側にラジカル導入口42が設けられ、他端側が反応室10のラジカル導入口14に接続され、その間にコ
イル52が配置されている。なお、本実施例ではラジカル発生室41を反応室10の側方に配置しているが、ラジカル発生室の配置位置はこれに限られるものではない。例えば、反応室の上方に配置してもよく、下方に配置してもよい。あるいは、反応室の内部にラジカル発生室を配置(収容)した構成とすることもできる。
このような構成の装置1を用いて、例えば以下のようにしてカーボンナノウォールを製造することができる。 すなわち、第二電極24の上に基材5をセットし、原料導入口12から反応室10にガス状の原料物質(原料ガス)32を所定の流量で供給する。また、ラジカル源導入口42からラジカル発生室41にガス状のラジカル源物質(ラジカル源ガス)36を所定の流量で供給する。排気口16に接続された図示しない真空ポンプを稼動させ、反応室10の内圧(原料ガスの分圧とラジカル源ガスの分圧との合計圧力)を10〜1000mTorr程度に調整する。 なお、原料ガスおよびラジカル源ガスの好ましい供給量の比は、それらのガスの種類(組成)、目的とするカーボンナノウォールの性状、特性等によって異なり得る。例えば原料ガスとして炭素数1〜3のハイドロカーボンまたはフルオロカーボンを使用し、ラジカル源ガスとして水素ガスを使用する場合には、原料ガス/ラジカル源ガスの供給量比(例えば、温度を同程度としたときの流量の比)が2/98〜60/40の範囲となるように供給することができる。この供給量比を5/95〜50/50の範囲とすることが好ましく、10/90〜30/70の範囲とすることがより好ましい。
そして、電源28から例えば13.56MHz、5W〜2KW程度のRF電力を入力する。これにより、主として第一電極22と第二電極24との間で原料ガス32をプラズマ化してプラズマ雰囲気34を形成する。また、電源58から例えば13.56MHz、10〜1000W程度のRF電力を入力する。これによりラジカル発生室41内のラジカル源ガス36を分解してラジカル38を生成する。生成したラジカル38は、ラジカル導入口14から反応室10に導入され、プラズマ雰囲気34中に注入される。これにより、プラズマ雰囲気34を構成する原料ガスのプラズマと、その外部から注入されたラジカル38とが混在する。このようにして、第二電極24上に配置された基板5の表面にカーボンナノウォールを成長させることができる。このとき、ヒータ25等を用いて基板5の温度を100〜800℃程度(より好ましくは200〜600℃程度)に保持しておくことが好ましい。
<第2実施例> この第2実施例は、第1実施例の装置とはラジカル供給手段の構成が異なる例である。以下、第1実施例と同様の機能を果たす部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。 図2に示すように、本実施例に係る装置2に備えられたラジカル供給手段40は、反応室10の上方にプラズマ生成室46を有する。プラズマ生成室46と反応室10とは、基板5のカーボンナノウォール形成面に対向して設けられた隔壁44によって仕切られている。この隔壁44には、マッチング回路26を介して電源28が接続されている。すなわち、本実施例における隔壁44は、第一電極22としての機能をも果たすものである。また、この装置2は、プラズマ生成室46の壁面と隔壁44との間にRF波、VHF波またUHF波を印加する高周波印加手段60を有する。これによりラジカル源ガス36からプラズマ33を生成することができる。なお、図2に示す高周波印加手段60において、符号62は交流電源を、符号63はバイアス電源を、符号64はフィルタをそれぞれ示している。 このプラズマ33から生じたイオンは、隔壁44で消滅し、中性化してラジカル38となる。このとき、適宜隔壁44に電界を印加して中性化率を高めることができる。また、中性化ラジカルにエネルギーを与えることもできる。隔壁44には多数の貫通孔が分散して設けられている。これらの貫通孔が多数のラジカル導入口14となって、反応室10にラジカル38が導入され、そのまま拡散してプラズマ雰囲気34中に注入される。図示するように、これらの導入口14は基板5の上面(第一電極22に対向する面、すなわちカーボンナノウォール形成面)の面方向に広がって配置されている。 このような構成を有する装置2によると、反応室10内のより広い範囲に、より均一にラジカル38を導入することができる。このことによって、基板5のより広い範囲(面積)に効率よくカーボンナノウォールを形成することができる。また、面方向の各部で構造(性状、特性等)がより均一化されたカーボンナノウォールを形成することができる。本実施例によると、これらの効果のうち一または二以上の効果を実現し得る。
隔壁44は、Pt等の触媒機能性の高い材質が表面にコーティングされたもの、あるいはそのような材質自体により形成されたものとすることができる。かかる構成の隔壁44とプラズマ雰囲気34との間に電界を印加する(典型的には、隔壁44に負のバイアスを印加する)ことによって、プラズマ雰囲気34中のイオンを加速し、隔壁44をスパッタリングする。これにより、触媒機能を有する原子(Pt等)あるいはクラスターをプラズマ雰囲気34中に注入することができる。 カーボンナノウォールを形成するプロセスにおいて、プラズマ生成室46から注入されるラジカル(典型的にはHラジカル)38、プラズマ雰囲気34において発生する少なくとも炭素を含むラジカルおよび/またはイオン、および、上述のように隔壁44のスパッタリングにより発生して注入される触媒機能を有する原子またはクラスターを用いる。これにより、得られるカーボンナノウォールの内部および/または表面に、触媒機能を有する原子、クラスターまたは微粒子を堆積させることができる。このようにな原子、クラスターまたは微粒子を具備するカーボンナノウォールは、高い触媒性能を発揮し得ることから、燃料電池の電極材料等として応用することが可能である。
なお、図2に示す装置2は高周波によりラジカル源ガス36からプラズマ33を生成するように構成されているが、このプラズマ33をマイクロ波により生成する構成としてもよい。例えば、図3に示す装置3のように、プラズマ生成室46の上方にマイクロ波39を導入する導波路47を設ける。そして、スロットアンテナ49を用いて石英窓48からプラズマ生成室46にマイクロ波を導入し、高密度のプラズマ332を生成する。このプラズマ332をプラズマ生成室46内に拡散させ(プラズマ334)、そこからラジカル38を生じさせることができる。なお、図3ではプラズマ放電手段20の図示を部分的に省略している。また、図3に示す隔壁44には適宜バイアスを印加することができる。例えば、プラズマ生成室46内のプラズマ334と隔壁44との間、または反応室10内のプラズマ雰囲気34と隔壁44との間へバイアスを印加する。バイアスの向きは適宜可変である。隔壁44に負のバイアスを印加し得る構成とすることが好ましい。
カーボンナノウォール形成面に向けて広がって設けられたラジカル導入口14を有する装置の他の構成例を図4に示す。図示するように、この装置4に備えられたラジカル供給手段40は、ラジカル発生室41と、そのラジカル発生室41で生成したラジカル38が導入されるラジカル拡散室43とを有する。このラジカル拡散室43は、反応室10の外周に隔壁44を介して筒状に設けられている。この隔壁44の各部に(すなわち、基材5の周方向に広がって)設けられたラジカル導入口14から反応室10にラジカル38を導入することができる。 あるいは、図5に示す装置6のように、装置2(図2参照)の構成におけるプラズマ生成室46を、反応室10の上方から外周にかけて連続的に設けてもよい。かかる構成とすることにより、より広範な周囲空間(側方および上方の全体)からラジカル38を供給し、プラズマ雰囲気34に注入することができる。なお、図5では高周波印加手段60およびプラズマ放電手段20の一部の図示を省略している。これらの装置4、装置6(図4、図5参照)は、図3に示す装置3と同様に、隔壁44に適宜バイアスを印加し得る構成とすることができる。装置6においては、反応室10の上部および周囲のいずれの箇所に位置する隔壁44にバイアスを印加してもよい。
<第3実施例> この第3実施例は、第1実施例の装置にラジカル濃度測定手段を設けた例である。以下、第1実施例と同様の機能を果たす部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。 図6に示すように、本実施例に係る装置7には、反応室10内のCラジカル(炭素原子)の濃度を測定するラジカル濃度測定手段70が設けられている。この測定手段70は、炭素原子(炭素ラジカル)に固有の発光線75(例えば、波長296.7nmの発光線)を反応室10内に射出する発光線射出手段としての発光線射出器72と、その発光線75を受光(検出)する受光手段としての受光器74とを含む。そして、発光線射出器72から射出された発光線75が第一電極22と第二電極24との間を通過して受光器74に到達するように構成されている。あるいは、射出器72から射出された発光線75が反応室10内の他の箇所を通過して受光器74に到達するように構成してもよい。例えば、図6に仮想線で示すように、発光線75が第二電極24の下方(排気口16側)を通過して受光器74に至るような構成とすることができる。
この炭素原子の発光線75は、射出器72から受光器74に至る間に、これらの間に存在する炭素ラジカル(炭素原子)の濃度に応じて吸収される。したがって、例えば、任意の測定時期に受光器74で検出される発光線75の強度と、その発光線75の経路に炭素ラジカルが実質的に存在しないときに受光器74で検出される発光線75の強度との違いから、当該測定時期における炭素ラジカルの濃度(密度)を把握することができる。また、発光線75の検出強度が例えば製造開始時と同程度に維持されるように製造条件を制御することにより、製造中における炭素ラジカル濃度の変動を抑制することができる。このように炭素ラジカルの濃度をモニタすることにより、反応室10内の炭素ラジカルの濃度および/または他の製造条件を、より的確に調整することができる。例えば、図示しない原料ガス供給量調節機構(例えば電磁弁)に接続された制御回路76に、受光器74により検出された炭素ラジカル濃度検出信号を送出し、この信号の強度が所定の範囲となるように原料ガス32の供給量を調節することができる。このように、反応室内のラジカル濃度に応じて製造条件を調節可能な構成とすることにより、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを、より効率よく製造することができる。例えば、カーボンナノウォールの収率の向上、形状(性状)精度の向上、形状(性状)の再現性の向上、原料ガスおよび/またはラジカル源ガスの使用量の節約、製造条件の制御の容易化等のうち一または二以上の効果を実現することができる。
また、装置7は、反応室10内のHラジカル(水素原子)の濃度を測定するように構成されたラジカル濃度測定手段70を備えた構成とすることができる。この場合には、水素原子(Hラジカル)に固有の発光線75を出射する発光線出射器72と、その発光線75を検出する受光器74とを用いる。あるいは、フッ素原子(フッ素ラジカル)に固有の発光線75を出射する発光線出射器72と、その発光線75を検出する受光器74とにより、反応室10内のFラジカル(フッ素原子)の濃度を測定するように構成されたラジカル濃度測定手段70を備えた構成としてもよい。また、同様の手法によりC2ラジカルの濃度を測定するラジカル濃度測定手段70を備えた構成としてもよい。このように、測定対象とするラジカルの種類に対応した発光線75を出射する発光線出射器72と、その発光線75を検出する受光器74とを有するラジカル濃度測定手段70を備えた構成とすることができる。例えば、C
,C2,H,F,CF3,CF2およびCFのうち少なくとも一種のラジカルの濃度を測定可能な測定手段を備えることができる。これらのうち二種以上を測定可能な複数の測定手段を備えてもよい。
なお、水素原子(Hラジカル)に固有の発光線を出射する発光線出射器と、その発光線を検出する受光器とを有するラジカル濃度測定手段を、ラジカル発生室41内のHラジカルの濃度を測定し得るように設けてもよい。あるいは、このようなHラジカル濃度測定手段を、プラズマ生成室46またはラジカル拡散室43内のHラジカルの濃度を測定し得るように設けてもよい。
次に、上述した装置1を用いてカーボンナノ構造体を作製した実験例、および、得られたカーボンナノ構造体の特性を評価した実験例につき説明する。<実験例1> 本実験例では、原料ガス32としてC2F6を使用した。ラジカル源ガス36としては水素ガス(H2)を使用した。基板5としては厚さ約0.5mmのシリコン(Si)基板を用いた。なお、このシリコン基板5は触媒(金属触媒等)を実質的に含まない。 第二電極24上にシリコン基板5を、その(100)面が第一電極22側に向くようにしてセットした。原料導入口12から反応室10にC2F6(原料ガス)32を供給するとともに、ラジカル源導入口42から水素ガス(ラジカル源ガス)36を供給した。また、反応室10内のガスを排気口16から排気した。そして、反応室10内におけるC2F6の分圧が約20mTorr、H2の分圧が約80mTorr、全圧が約100mTorrとなるように、原料ガス32およびラジカル源ガス36の供給量(流量)ならびに排気条件を調節した。 この条件で原料ガス32を供給しながら、電源28から第一電極22に13.56MHz、100WのRF電力を入力し、反応室10内の原料ガス(C2F6)32にRF波を照射した。これにより原料ガス32をプラズマ化し、第一電極22と第二電極24との間にプラズマ雰囲気34を形成した。また、上記条件でラジカル源ガス36を供給しながら、電源58からコイル52に13.56MHz、50WのRF電力を入力し、ラジカル発生室40内のラジカル源ガス(H2)36にRF波を照射した。これにより生成したHラジカルを、ラジカル導入口14から反応室10内に導入した。このようにして、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を成長(堆積)させた。本実験例では構造体の成長時間を2時間とした。その間、必要に応じてヒータ25および図示しない冷却装置を用いることにより、基板5の温度を約500℃に保持した。
<実験例2〜4> 実験例1の条件から、ラジカル(ここではHラジカル)38を発生させる条件を変更した。すなわち、電源58からコイル52へのRF入力電力をそれぞれ100W(実験例2)、200W(実験例3)、400W(実験例4)とした。その他の点については実験例1と同様にして、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を作製した。 以上の実験条件を表1にまとめて示す。なお、「圧力比」とは本装置に供給される原料ガス/ラジカル源ガスの分圧の比(すなわち供給量の比)を表す。
実験例1〜4により形成された構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図7〜10は、実験例1〜4により形成された構造体を上面から観察したSEM像である。また、図11〜14は各構造体を断面から観察したSEM像、図15〜18は各構造体をさらに高倍率で観察したSEM像である。また、図19は、実験例4に係る構造体を断面から、図18よりもさらに高倍率で観察したSEM像である。図20は、実験例4に係る構造体を上面から、図10よりもさらに高倍率で観察したSEM像である。 これらの図から判るように、実験例1〜4によると、いずれも基板5の(100)面に対してほぼ垂直に、二次元のカーボンシート(カーボンナノウォール)が形成されていた。これらの実験例により形成されたカーボンナノウォールの平均厚さ(カーボンシートの平均厚さ)は、いずれも10〜30nm程度であった。カーボンナノウォールの形状(性状)は、Hラジカルを発生させる条件(電源58からコイル52へのRF入力電力)によって大きく異なっていた。また、実験例1〜4の条件では、Hラジカルの発生条件がカーボンナノウォールの高さに及ぼす影響は比較的少なかった。すなわち、これらの実験例により形成されたカーボンナノウォールの平均高さは、いずれも300nm程度であった。これらの観察結果は、Hラジカルの発生量(反応室10に供給されるHラジカルの量)を調節することによって、得られるカーボンナノウォールの形状を制御し得ることを示唆している。
<実験例5〜8> 実験例4において、基板上に構造体を成長させる時間をそれぞれ0.5時間(実験例5)、1時間(実験例6)、2時間(実験例7)、3時間(実験例8)とした。その他の点については実験例4と同様にして、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を作製した。これらの実験条件を表2にまとめて示す。なお、実験例7は実験例4と実質的に同条件である。
実験例5〜7により形成された構造体をSEMにより観察した。図21〜24は、実験例5〜7により形成された構造体を上面から観察したSEM像である。また、図25〜28は各構造体の断面を観察したSEM像である。 これらの図から判るように、基板5上に形成される構造体の性状は成長時間によって異なる。また、図25〜28によく示されるように、成長時間が長くなるにしたがって構造体の高さは大きくなる。図29に示すように、実験例5〜8の条件では、成長時間の長さと構造体の高さとの間にほぼ直線的な関係(比例関係)がみられた。逆に、成長時間が2〜3時間経過すると、壁の厚さは約30nmで飽和し、壁間間隔は約180nmで飽和することが理解される。<実験例9〜10> 原料ガス32としてC2F6(実験例9)またはCH4(実験例10)を用い、その他の点については実験例4と同様の条件で、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を作製した。これらの実験条件を表3にまとめて示す。なお、実験例9は実験例4と実質的に同条件である。
実験例9により形成された構造体を上面から観察したSEM像を図30に、実験例10により形成された構造体を上面から観察したSEM像を図31にそれぞれ示す。フルオロカーボン(ここではC2F6)を原料ガスとして作製した実験例9に係るカーボンナノウォール(図30)は、その壁の平均厚さが約10〜30nm程度である。これに対して、ハイドロカーボン(ここではCH4)を原料ガスとして作製した実験例10に係るカーボンナノウォール(図31)は、その壁の平均厚さが数nm程度である。このように、原料ガスとしてC2F6を用いた場合には、原料ガスとしてCH4を用いた場合に比べて明らかに壁の厚いカーボンナノウォールが形成された。C2F6の量によって壁の厚さを制御することができる。また、実験例9に係るカーボンナノウォールと実験例10に係るカーボンナノウォールとでは、厚さ以外の点(例えば壁の平坦さ)においても形状が異なっている。これらの観察結果は、原料ガスの種類および/または組成を適切に選択することによって、得られるカーボンナノウォールの性状を制御し得ることを示唆している。 また、原料ガスの種類によってカーボンナノウォールの壁間の間隔を制御することができる。
<実験例11> 実験例9により得られたカーボンナノウォールに電圧を印加して電子放出特性を評価した。その結果を図32に示す。図示するように、電界強度が5.5〜6V/μm程度以上になると測定電流が急激に上昇した。この結果は、実験例9により得られたカーボンナノウォールが電界放出型電子源(電極)の構成材料等として有用なものとなり得ることを示唆している。また、このようなカーボンナノウォールの表面にPt等を被覆させて、高効率の触媒作用を示す構造体とすることができる。このように触媒を備えるカーボンナノウォールは、例えば燃料電池の電極等に応用可能である。
<実験例12> 基板はSi(100)、反応室におけるプラズマを生成する電力は100W、ラジカルを生成する電力は400W、C2F6/H2の流量比15/30sccm、基板温度500℃として、カーボンナノウォールを成長させた。この時の表面と断面のSEM像を成長時間を変化させて測定した。図35から図36に示す。カーボンナノウォールの厚さと間隔は、2時間の成長時間程度で約30nmの厚さ、180nmの間隔で飽和するが、高さは成長時間に比例して増大しているのが理解される(図29)。高さとしては、8時間成長させて、1400nmが得られた。この時の表面の30万倍のTEM像を図54に示す。グラフェンシートが多層になっており、多層カーボンナノウォールが形成されていることが理解される。
<実験例13> 実験例12と同一条件にて、原料ガスをC2F6からCH4に代えて実験した。CH4/H2の流量比は1/2で実験例12と同一である。成長時間と共に変化するSEM像を図37、図38に示す。C2F6ガスを用いた場合に比べて、カーボンナノウォールの壁の厚さは小さく、密度が大きいが形状が崩れているように思われる。壁に対して垂直方向に多数の枝分かれした壁が形成されている。高さは成長時間に比例していることが理解される。枝分かれした壁を有するカーボンナノウォールは、用途によっては、利点となる。電界電子放出や水素吸蔵などにおいて、利点を発揮することも考えられる。
<実験例14> 実験例12と同一条件にて、原料ガスをC2F6からCF4に代えて実験したCF4/H2流量比は1/2で実験例12と同一である。成長時間と共に変化するSEM像を図39、図40に示す。C2F6ガスを用いた場合と同様に、形状の定まったカーボンナノウォールが形成されていることが理解される。Fを含む原料ガスを用いた実験列12、14から、FラジカルやCFラジカルの存在により、形状の定まったカーボンナノウォールが形成されると思われる。したがって、原料ガスにF原子を含むガスを用いることは、カーボンナノウォールの形成に有効であると判断される。
<実験例15> 実験例12と同一条件にて、原料ガスをCHF3に代えて実験したCHF3/H2流量比は1/2で実験例12と同一である。成長時間と共に変化するSEM像を図41、図42に示す。C2F6ガスを用いた場合と同様に、形状の定まったカーボンナノウォールが形成されていることが理解される。Fを含む原料ガスを用いた実験列12、14、15から、FラジカルやCFラジカルの存在により、形状の定まったカーボンナノウォールが形成されると思われる。したがって、原料ガスにF原子を含むガスを用いることは、カーボンナノウォールの形成に有効であると判断される。また、この実験例では原料ガスにCH結合が存在する。これは実験例13でも存在するが、実験例13と同様にカーボンナノウォールの厚さが薄いことが理解される。ただし、この実験例では、実験例13と異なり垂直な壁面形状を呈していることが理解される。したがって、CHの存在は壁の厚さを薄くし、Fの存在は壁の枝分
かれを阻止して、壁の垂直形状を確実なものとすると思われる。
<実験例16> 原料ガスとして、CH4,C2F6,CF4,CHF3を用いて8時間成長させた時の表面のSEM像を図43に示す。Fを含む原料ガスを用いた場合には、カーボンナノウォールの垂直壁の形成が確実となり、一様になるものと思われる。また、CHの存在により壁の形状の崩れがみられ、壁の厚さは薄くなることが理解される。いずれにしても、Fを含むガスを用いることで、より効果的にカーボンナノウォールを形成することができる。
<実験例17> 次に、基板の材料を変化させて、カーボンナノウォールを成長させた時の上面のSEM像を測定した。図44、図45に示す。ステンレスとSiO2は、Siと同様に確実に且つ一様にカーボンナノウォールが形成されていることが理解される。しかし、グラファイトの場合には、一様性がなく、壁の垂直性もないことが分かる。また、Ni基板の場合には、他の基板に比べて一様に蜜に形成されており、しかも、配向性(壁面の長さ方向が平均的に一定方向を向いている程度)があることが理解される。
<実験例18> 次に、注入するHラジカルの量を変化させた時の成長面上面のSEM像を測定した。図46、47、48に示す。ただし、図46、48は、C2F6ガスを用いた場合であり、図47はCH4ガスを用いた場合である。ラジカルの発生量はラジカルを生成するための電力に比例するので、印加電力は反応室へのHラジカルの注入量に比例している。反応室へ注入するHラジカルの量が多い程、壁面の間隔が広くなり、カーボンナノウォールは疎くなり、壁の厚さも厚くなることが理解される。この特性は、原料ガスの種類には依存しないことが理解される。また、ラジカルを発生させる時の電力と反応領域における水素原子密度との関係を測定した。この特性を図58に示す。供給電力が増加するに連れて水素原子密度が増加、400Wでは、Hラジカルを注入しない状態に比べて水素原子密度は2倍に向上していることが理解される。Hラジカルを注入しない場合には、水素原子密度は1.5×1011/cm3 であり、カーボンナノウォールは形成されなかったが、カーボンナノウォールが形成される環境では、水素原子密度は、2倍の3×1011/cm3 であることが理解される。このように、カーボンナノウォールの形成には、Hラジカルの注入が大きく寄与していることが理解される。
<実験例19> 次に、成長の前半と後半とで、原料ガスを切り換えた場合の成長面上面のSEM像を測定した。それを図49に示す。C2F6ガスで成長させて、後半をCH4ガスとした場合の性状は、全体としては、C2F6ガスで成長させた場合に得られる性状に類似している。逆に、CH4ガスで成長させて、後半をC2F6ガスとした場合の性状は、全体としては、CH4ガスで成長させた場合に得られる性状に類似している。このことから、得られるカーボンナノウォールの性状は、最初に用いた原料ガスにより支配されることが理解される。このことから、炭素とフッ素を構成元素とするガスと炭素と水素を構成元素とするガスとを切り換えて成長させることで、所望の形状のカーボンノナウォールを形成することが可能となる。 一方、成長中のガスの影響も受けていると思われる。したがって、炭素とフッ素を構成元素とするガスと、炭素と水素を構成元素とするガスとを多段階に切り換えることにより、それぞれの性状を有したカーボンナノウォールが多段階に形成されるものと思われる。この場合にも、水素吸臓に効果的であると考えられる。
<実験例20> 原料ガスの対H2ガス流量比を変化させた場合に得られるカーボンナノウォールの成長面上面のSEM像を測定した。図50に示す。C2F6/H2流量比が7.5/30sccmの場合は、24/24sccmの場合に比べて、形成されたカーボンナノウォールが大きく確実性を有し、壁面間隔が粗く壁の厚さが厚いものが得られることが理解される。このことから、Hラジカルの注入量が増大する程、カーボンナノウォールの形成が確実、一様に、且つ壁の長さが長く、幅が太いものが得られることが理解される。
<実験例21>図1の装置を用いて、C2F6/H2流量比を20/80sccmとして、反応室でのプラズマ化の電力CCPを100W、Hラジカルを発生せるための電力ICPを400W、基板はSi(100)、基板温度は600℃として、8時間成長させた。ただし、基板の法線をプラズマを発生するRF電界の向きに対して90度傾斜させた。すなわち、基板面が外部から供給されるHラジカル流に垂直に向くように第二電極24上に基板を立設した。この場合のカーボンナノウォールの上面のSEM像を測定した。図51、図52、図53(順次、倍率が小さくなる)に示す。同様に実験した他の試料については、図59に示す。これらのSEM像から、壁の長さ方向が一定の方向(垂直方向のRF電界方向と思われる)に揃っていることが分かる。すなわち、所定方向に配向したカーボンナノウォールが得られたことが理解される。また、上記のように、基板法線ベクトルの水平面上の射影成分を、Hラジカル流に平行となるように維持した状態で、基板の法線方向をRF電界の向きに対して、10度、60度、90度傾斜させて成長させた場合のカーボンナノウォールのSEM像を図55に示す。90度の場合が最も配向度が高いことが理解される。なお、図55で、(ICP側)とあるのは、Hラジカル流に向いた基板面に成長したカーボンナウウォールのSEM像を意味する。また、(逆ICP側)とあるのは、Hラジカル流が供給される側とは反対側の基板面に成長したカーボンナウウォールのSEM像である。カーボンナノウォールの配向性は、Hラジカル流に面した基板面上に成長するカーボンナノウォールに見られ、それとは反対側の面に成長するカーボンナノウォールには配向性はみられなかった。カーボンナノウォールの配向方向は垂直方向、すなわち、RF電界の方向であることが理解される。 一方、基板面を外部から供給されるHラジカル流に平行(基板法線をHラジカル流とRF電界に垂直)にして、基板を配置(基板をHラジカル流に平行に第二電極上に立設)した場合に成長されるカーボンナノウォールのSEM像を図60に示す。この状態で基板の法線ベルトルがRF電界に対して90度と異なる角度となるように基板を傾斜させたが、カーボンナノウォールの配向性は得られなかった。このことから、Hラジカルの基板面への流れが、配向に影響を与えると思われる。 このようにして、カーボンナノウォールの形成に当たっては、注入されるラジカル流と電界方向の影響を大きく受けることが理解される。また、基板面に対するラジカルの注入方向によっても、壁の配向性が得られる。 なお、Hラジカルの照射方向に対して基板の法線を傾斜させた場合にも、配向したカーボンナノウォールが形成されるものと思われる。
<第4実施例> 図3の装置において、シールド部材を設けた装置の例である。図56A、Bにその構成を示す。図3と同一符号で示された部材は、図3と同一機能を果たす。第一電極200と第二電極24との間が反応領域であり、シールド部材100の上部がラジカル発生領域である。供給される原料ガス32やHラジカル38は排気口16から吸引されて、基板5の方向に流れる。第一電極200には多数の孔202が設けられており、発生したプラズマがこの第一電極200の孔202の側壁に衝突して電子は吸収され、イオンはラジカルに変換されて、元々存在するラジカルは、孔202をそのまま通過して、反応室10に注入される。第一電極200と導波管47との間に多数の孔102を有したシールド部材100が第一電極202に平行に設けられている。この孔102は孔202と同一位置に形成されており、ラジカルは孔102と202を通過して反応領域10に至る。このシールド部材100はチャンバー筐体に接続され、アースされている。この結果、第一電極200にRF電力が印加された時、第一電極200と導波管47との間で放電することが防止される。すなわち、第一電極200とシールド部材100の間隔(約10mm程度)は、第一電極200と第二電極24との間隔よりも狭く、雰囲気の圧力は低い。このため、第一電極200とシールド部材100の間隔では、雪崩現象は発生しないので、放電は発生せず、第一電極200と第二電極24の間にのみ放電を発生させることができる。このように、RF電力が導波管47に与える影響を防止することができる。また、第一電極200には、原料ガス32を供給する通路204が形成されており、この通路204は孔202に開口している。よって、原料ガス32も、Hラジカルもこの孔202から反応領域10に供給される。この構成により、ラジカル38と原料ガス32との混合比率を精度良く制御することができ、両者の基材に対する供給方向を同一として、一様にカーボンナノウォールを成長させることができる。 本装置はこのようにシールド部材100をラジカル発生手段とプラズマ放電手段との間に設けたことが特徴である。
<第5実施例> 次に、カーボンナノウォールを生成する装置に限定されずに、ラジカルを反応室に注入して、薄膜を成膜し、アッシングし、または、エッチングするためのプラズマ処理装置を説明する。図57に示すように、RF電力が印加される第一電極200は多数の孔202が形成されている。この孔は202は前述したようにイオンをラジカルに変換するように機能する。第一電極200の上部には多数の孔302を有したシールド部材300が設けられている。このシールド部材300は筒状に構成されており、ラジカル発生領域を反応領域から完全に区画するように構成されている。シールド部材300の底面308に平行にホローカソード320が設けられており、これには多数の孔322が孔302、202と同一位置に設けられている。ホローカソード320とシールド部材300との間はセラミクスから成る絶縁板340が設けられており、この絶縁板340にも多数の孔342が孔322、302、202と同一位置に形成されている。ホローカソード320に直流の負電圧が印加されることで、孔322、342、302にプラズマが生成される。このプラズマが第一電極200に向かって加速されて、その孔202でラジカルに変換されて、反応領域150にラジカルが注入される。第一電極200に高周波電力を印加しても、シールド板300が存在するので、この高周波電力はホローカソード320には誘導されない。よって、孔322、342、302には安定してプラズマを生成することができ、ラジカルを安定して供給することが可能となる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。 例えば、図1〜6に示す製造装置等において、第二電極(下部電極)24に高周波(例えば、400KHz,1.5MHz,13.56MHz等)を印加し得る構成とすることができる。かかる構成によると、入射する荷電粒子のエネルギーを制御することが可能である。図33および図34は、第二電極24に高周波を印加する構成の具体例を模式的に示したものである。図33中の符号242は、例えば400KHz,1.5MHzまたは13.56MHzの高周波を発生する交流電源である。また、図34中の符号244は、例えば13.56MHzの高周波を発生する交流電源である。同図中の符号246は、例えば400KHzの高周波を発生する交流電源である。これらの電源244,246
の間にはローパスフィルタ248が接続されている。なお、交流電源246に代えて直流電源を用いてもよい。 上記の例は、主として、低圧でのカーボンナノウォールの成長について述べたが、大気圧の下でもカーボンナノウォールを上記方法または装置により製造することも可能である。 また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
1,2,3,4,6,7 カーボンナノウォール製造装置 5 基板(基材) 10 反応室 14 ラジカル導入口 20 プラズマ放電手段 22 第一電極 24 第二電 200 第一電極 100,300 シールド部材 102,202,302,342 孔 340 絶縁部材 320 ホローカソード