JP4785098B2 - 地中熱交換器埋設構造 - Google Patents

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Description

本発明は、地中熱交換器の埋設構造に関し、より詳しくは、建造物の空調や給湯などにおいて地熱を利用する際に、熱交換率が高く、且つ、低コストで実施可能な地熱利用を実現するための、地中熱交換器埋設構造に関する。
近年、環境問題やエネルギー問題の重要性に関する認識が高まるとともに、地熱利用に対する関心が高まってきている。地熱利用の代表的な技術としては、地中熱交換器を地盤に埋設し、該地中熱交換器に熱媒体を流通させ、地中の熱と熱媒体とにおいて熱交換をさせて、地熱を回収する方法が挙げられる。上記熱交換器には、長身の地中熱交換器を地盤面に対し略垂直に埋設し、比較的深度の深い地盤領域における地熱を利用する垂直型のタイプ及び、地表付近の浅い深度において地盤面に対して水平に配置される水平型のタイプの2つに大別され、杭の内部に熱媒体を内蔵させるもの、あるいは杭の周囲に地中熱交換器を配置させるものも垂直型に分類される。
上記垂直型の地中熱交換器の例としては、例えば、特許文献1に、同心二重管を、複数、地中に垂直に埋設し、熱媒を内管の上端部から供給し、その下端部で反転させて外管内を上方に向かって通過させる際に地中熱を採集する地中熱交換器の発明(以下、「従来技術1」ともいう)が開示されている。従来技術1は、同心二重管の埋設の間隔及び内部を流通する熱媒の流量などを特定することによって地中熱の採集効率を向上させることを試みている。また特許文献2には、既成杭の本体中空部内に、熱媒体が流動する熱交換用配管を設置し、その配管の少なくとも一部が蛇腹状であることを特徴とする地中熱交換器の発明(以下、「従来技術2」ともいう)が開示されている。従来技術2は、杭の内部空間に、熱媒体が流動する配管を有し、その配管の少なくとも一部を蛇腹上にすることにより、配管の表面積を拡大させて熱交換率を向上させることを試みている。
一方、水平型の地中熱交換器の例としては、例えば、特許文献3に、地中において地下水位よりも深い位置まで設けられる地中連続壁と、地中連続壁に設けられた通水口と、地中連続壁の地下水流下流側の地中に設けられた熱交換手段とを有し、熱交換手段が、通水口を通過する地下水流と熱交換を行うことを特徴とする熱交換システムの発明において、水平型の地中熱交換器を用いた態様(以下、「従来技術3」ともいう)が開示されている。従来技術3は、地盤中において、地中の土の熱ではなく地下水流と熱交換を行うことを目的とした熱交換システムである。
特開2003−307352号公報 特開2004−177013号公報 特開2008−275263号公報
ところで地盤中の温度は、地域にもよるが、一般的に、地表より深度約10m付近までは、地上の外気温度に大きく影響を受け、一年を通じて温度の高低差があり、特に深度約5m付近までは温度の高低差が顕著である。一方、深度10m以下は、一年を通じて地盤の温度が安定していることが知られている。したがって上述の地盤の温度を勘案すると、冬季には、熱媒体により地熱を回収し、また夏季には、熱媒体の温度を地熱に吸収させ、高い熱交換率を実現するためには、深度10m以下の深い地点において熱交換をすることが望ましく、この観点では、長身の地中熱交換器をその先端が深度10mを超える領域に到達するよう、垂直に埋設する垂直型の地中熱交換器の使用が適している。しかしながら、深度10mを越える深さに地中熱交換器を埋設するには、設置のための作業労力および設置費用が高く、また長身の地中熱交換器内において上下に熱媒体を流動させるためのランニングコストも高いという問題があった。加えて、装置内部が複雑になる場合が多く、これにともない故障が生じやすく、またメンテナンスを要する場合があるなどの問題もあった。尚、本明細書において「夏」及び「冬」というときは、北半球における夏と冬を指すものとする。
一方、水平型の地中熱交換器は、一般的に地表近くに埋設されるために設置費用が安く、また水平に配置されることから内部の熱媒体の流通にかかるエネルギーが少なくて済むためにランニングコストも安いという利点がある。また装置の機構も垂直型に比べると単純である。しかしながら、地表近くの地盤温度は、上述のとおり安定しておらず、夏には温度があがり、冬には温度が下がってしまうため、熱交換率が低く、垂直型の地中熱交換器に比べて、一定面積当たりの熱交換率が低いという問題があった。また熱媒体として水を使用する場合には、冬季においてパイプ内で熱媒体である水が凍結してしまう恐れもあった。上記従来技術3のように、地下水流と熱交換するという技術も提案されているが、利用可能な地下水流の有無や地下水流の流速などに熱交換率が左右されるなど、汎用且つ安定な技術の提供には至っていない。また一般的に、敷地に水平型の地熱交換器を埋設する場合には、敷地に制約がある上に、埋設後に当該敷地を掘削した場合に、埋設された地熱交換器を損傷する虞があるため、実用化の例がほとんど知られていない。
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、設置コストが安く、且つ、熱交換率に優れた地熱利用を実現するための地中熱交換器埋設構造を提供することを目的とする。
本発明者は、建造物の基礎構造として一般的に実施されるベタ基礎の底面に接して、あるいは杭基礎における基礎スラブの底面に接して、発泡樹脂盤を敷設することによって、上記発泡樹脂盤が断熱層の役割を果たし、この結果、地表付近の地盤温度が安定するという知見を得た。そして、このように地表付近において地盤温度が安定した環境であれば、水平型の地中熱交換器を埋設することによっても、非常に高い熱交換率で地熱を回収することができることを見出し、本発明を達成した。
即ち本発明は、
(1)建造物の基礎構造として設けられるベタ基礎と、上記ベタ基礎の底面に接して敷設される発泡樹脂盤と、上記発泡樹脂盤の下方に埋設される水平型の地中熱交換器と、から構成され、上記水平型の地中熱交換器が、上記発泡樹脂盤の下方における地盤と熱交換して採熱する地中熱交換器であり、上記ベタ基礎と、上記発泡樹脂盤とを設けることにより、上記発泡樹脂盤の下方に位置する地盤温度を安定させることを特徴とする地中熱交換器埋設構造、
(2)上記水平型の地中熱交換器は、両端に熱媒体の流入口及び排出口を備え、内部に該熱媒体を流通させることが可能であり、地盤面に対し略水平方向に伸長するパイプであることを特徴とする上記(1)に記載の地中熱交換器埋設構造、
(3)上記水平型の地中熱交換器は、地盤面に対し略水平方向に伸長し、内部において熱媒体を循環させることが可能なパイプであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の地中熱交換器埋設構造、
(4)上記水平型の地中熱交換器と地盤との間にグラウト材が充填されていることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造、
(5)上記ベタ基礎あるいは上記ベタ基礎上に建造される建造物の外側側面から連続して設けられる地盤被覆用コンクリートが、該ベタ基礎あるいは該建造物の周囲の少なくとも一部において設けられ、且つ、発泡樹脂盤が、上記地盤被覆用コンクリートの底面の少なくとも一部に接してさらに敷設されており、上記水平型の地中熱交換器が、上記地盤被覆用コンクリートの下方においても埋設されていることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造、
(6)建造物の基礎構造として設けられる、基礎スラブと杭体とを備える杭基礎と、上記杭体部分を除いた領域であって上記基礎スラブの底面に接して敷設される発泡樹脂盤と、上記杭体部分を除いた領域であって上記発泡樹脂盤の下方に埋設される水平型の地中熱交換器と、から構成され、上記水平型の地中熱交換器が、上記発泡樹脂盤の下方における地盤と熱交換して採熱する地中熱交換器であり、上記基礎スラブと、上記発泡樹脂盤とを設けることにより、上記発泡樹脂盤の下方に位置する地盤温度を安定させることを特徴とする地中熱交換器埋設構造、
(7)上記水平型の地中熱交換器は、両端に熱媒体の流入口及び排出口を備え、内部に該熱媒体を流通させることが可能であり、地盤面に対し略水平方向に伸長するパイプであることを特徴とする上記(6)に記載の地中熱交換器埋設構造、
(8)上記水平型の地中熱交換器は、地盤面に対し略水平方向に伸長し、内部において熱媒体を循環させることが可能なパイプであることを特徴とする上記(6)または(7)に記載の地中熱交換器埋設構造、
(9)上記水平型の地中熱交換器と地盤との間にグラウト材が充填されていることを特徴とする上記(6)乃至(8)のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造、
を要旨とするものである。
本発明によれば、ベタ基礎あるいは杭基礎における基礎スラブの下に設けられる発泡樹脂盤が、地盤に対し外気温を断熱するための断熱層の役割を果たし、地表から深度10m未満の浅い地盤においても、一年を通じて安定した地盤温度が示される。したがって、従来のように、地中熱交換器を地盤温度の安定した深度10m以上の深い地盤に垂直型の地中熱交換器を埋設することなく、水平型の地中熱交換器を、上記発泡樹脂盤の下に埋設することにより、非常に優れた熱交換率を実現することができる。
また本発明の地熱交換器埋設構造では、地熱交換器を埋設するためだけの土地を確保するのではなく、主として建造物の基礎構造の下方に地熱交換器が埋設されるため、土地の有効利用が図られる。したがって、垂直型の地熱交換器よりも埋設面積を必要とする水平型の地熱交換器であっても、敷地の確保を勘案する必要なく実施することができる。
水平型の地中熱交換器は、設置コストが安い上、パイプなどの単純な構成の地中熱交換器の内部に熱媒体を流通させるだけで、地熱との熱交換を行うことができるので、メンテナンスも必要ない、というメリットを有する。また地表からの地盤深度10m以内(あるいは、上記発泡樹脂盤の下方2m以内)という浅い領域において、水平型の地中熱交換器を埋設した場合には、装置内を流通する熱媒体の抵抗が小さいため圧送のエネルギーが小さくてすみ、その結果、エネルギー効率がよく、垂直型に比べて安いランニングコストで実施することができるというメリットも有する。しかして、上記メリットを有する水平型の地中熱交換器を、高い熱交換率で使用することを可能とした点が、本発明の達成によりなされた飛躍的な技術的進歩といえる。
しかも、本発明における副次的な効果として、本発明の地熱交換器埋設構造によれば、ベタ基礎あるいは杭基礎における基礎スラブが蓄熱層の役割を果たすこととなり、当該ベタ基礎あるいは基礎スラブの上方に建造される建造物の空調をより安定したものとすることができる(以下、単に「ベタ基礎あるいは基礎スラブの蓄熱効果」ともいう)。即ち、ベタ基礎あるいは基礎スラブの下に発泡樹脂盤を敷設することにより、地盤からの温度がベタ基礎あるいは基礎スラブに直接伝わらない構造となったため、冬季においては、室内の温度がベタ基礎あるいは基礎スラブを通して地盤に放熱され難く、暖房使用時には吸熱作用を発揮し、暖房不使用時には放熱作用を発揮する。その結果、安価な夜間電力を利用して夜間に蓄熱を行う方法も有効に実施することが可能である。また一方、夏季においては、冷房使用時には、若干の放熱作用を発揮し、冷房不使用時には、吸熱作用を発揮するため、空調を安定に保ち、冷房効率を上げる作用効果を発揮する。
したがって、本発明は、水平型の地中熱交換器の熱交換率を高効率なものとし、且つ、ベタ基礎あるいは基礎スラブが蓄熱層として作用するため、建造物の空調の熱効率が非常に安定しており、光熱費を著しく下げることができる。したがって、エネルギー消費量の節約、二酸化炭素排出量の削減の観点で、非常に優れた効果を発揮する。
さらに、発泡樹脂盤は、ベタ基礎あるいは基礎スラブから伝達される建造物の荷重を分散させ、安定に支持する効果も発揮し得る上、地震等の振動が発生した際には、当該振動が、発泡樹脂盤において減衰可能であるため、耐震性をも発揮し得る。そのため、発泡樹脂盤の下に水平型の熱交換器が埋設される本埋設構造であれば、地震等により振動が発生した場合であっても、建造物の荷重や、地盤変動などの外部からの影響を受けにくく、破損などの危険性が従来に比べて著しく軽減されている(以下、単に「地熱交換器の保護効果」ともいう)。また特に、杭基礎構造の場合には、基礎スラブの底面に接し、且つ、杭体の側面にも接して発泡樹脂盤を敷設することによって、地震などの振動の発生時において杭体自体の保護効果をも発揮する。また、建造物などが構築されない敷地において地熱交換器が埋設される場合には、埋設後において、下水工事や土地の整備などで地熱交換器が埋設された敷地が掘り起こされる場合があり、掘削時におけてパイプが損傷される場合があり問題であった。しかし、本発明は、建造物の基礎の下方における地盤に地盤交換器を埋設しているので、敷地の掘削などをする可能性がなく、後日の工事によってパイプを損傷させる虞がないことも実質的には非常に有利な効果である。
本発明の地熱交換器埋設構造の実施態様を示す断面概略説明図である。 図2Aは、図1に示す本発明の地熱交換器埋設構造のX−X断面概略図であり、図2Bは、地熱交換器と地盤との間にグラウト材が充填された態様示すX−X断面概略図である。 本発明の地熱交換器埋設構造の実施態様を示す断面概略説明図である。 本発明の地熱交換器埋設構造の実施態様を示す断面概略説明図である。 本発明埋設構造が実施された地盤における1月と8月の地中温度をシミュレーションした結果を示すグラフである。 比較埋設構造が実施された地盤における1月と8月の地中温度をシミュレーションした結果を示すグラフである。
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は、2種類の態様の地熱交換器を用いた本発明の地中熱交換器埋設構造を示す断面概略説明図である。本発明の地中熱交換器埋設構造1は、図面左側に示されるように、フラットに形成された鉄筋コンクリート面5と、コンクリート面5から下方向に伸びる地中梁6とから構成されるベタ基礎2と、ベタ基礎2の下面に接して敷設される発泡樹脂盤3と、発泡樹脂盤3の下方に埋設される水平型の地熱交換器4Aとから構成される。また発泡樹脂盤3の底面に接して、表層地盤における雨水などの浸透水に対応するための排水層7が設けられている。排水層7は、発泡樹脂盤3側から砂層、砕石層、土木シートの3層で構成される層であって、地盤の水はけを良くし、地盤の軟弱化を防止するために設けられる層である。排水層7は、本発明において任意の構成である。
図2Aは、図1に示す地熱交換器埋設構造1のX−X断面図である。図2Aに示されるように、本発明の地熱交換器埋設構造1は、地熱交換部分が地盤面に略水平になるよう埋設されたパイプ13よりなる地熱交換器4Aと、その上方に敷設された発泡樹脂盤3と、発泡樹脂盤3の上面と接するよう構築されたベタ基礎2とから構成されている。上記地熱交換器4Aは、図2Aに示すように、直接、地盤に埋設してもよいが、図2Bに示すように、地盤と地熱交換器4Aとの間に、グラウト材104を充填してもよい。このとき、グラウト材は、従来公知の材料を適宜選択して用いることができるが、地熱交換の際の熱交換率をより高いものとするためには、特に、砂や砕石に比べて熱伝導率の高いカラ練りモルタルをグラウト材として用いることが望ましい。
地熱交換器4Aは、端部に外気流入口11と外気排出口12を有するパイプ13からなる地熱交換器であって、熱媒体として外気を使用するタイプの地熱交換器である。図1に示されるように、パイプの一端である外気流入口11は、地盤から屋外へと伸びており、一方、パイプの他端は、発泡樹脂盤3とベタ基礎2を貫通して、ベタ基礎2の上方に建造された建造物101の室内に伸びている。尚、図1の断面図において、水平型の地熱交換器4Aの理解を容易にするために、地熱交換器だけは、斜視の視点から図示してある。以下に示す断面概略説明図についても同様に、地熱交換器だけは、断面を図示するのではなく斜視の視点で図示すものとする。
地中熱交換器埋設構造1では、屋外に露出する外気流入口11から外気が取り入れられ、適宜設置される外気を送るための圧送機などによって内部への外気が送り込まれ、発泡樹脂盤3の下方において、パイプ13内を流通する間に、外気と地熱とで熱交換が行われる。そして地熱との熱交換により適度の温度になった外気を外気排出口12から室内に送り込むことができる。また建造物101には一般的に、排気ファン102などの排気口が設けられ、これによって室内の空気が排気される。したがって、本発明の地熱交換器埋設構造において地熱交換された外気を室内に送り込み、これに伴い、室内の空気を排気する地熱利用システムによれば、充分な換気を、熱効率良く行うことができて望ましい。即ち、室内換気は、季節を問わず必要であるが、外気をそのまま取り込んで換気する場合には、冬季にはいたずらに室温を下げることになり、一方、夏季においてはいたずらに室温を上げることになり、暖房効率あるいは冷房効率を落とす結果となっていた。しかし、図1に示す本発明の地熱交換器埋設構造1において、地熱交換後の外気を室内に取り入れる場合には、冬季であれば、地熱により暖められた外気を室内に取り入れることができ、また夏期であれば、地熱により熱が吸収されて冷やされた外気を室内に取り入れることができるため、エネルギー効率を落とすことなく換気を行うことができる。
また図1右側に示される本発明の地熱交換器埋設構造1’は、ベタ基礎2と、これに接して敷設される発泡樹脂盤3と、発泡樹脂盤3の下方に埋設される水平型の地熱交換器4Bとからなる。地熱交換器4Bは、両端が空調機14に接続された密閉系のパイプ15よりなり、内部を熱媒体が循環するタイプの地熱交換器である。地熱交換器4Bにおける熱媒体は、主として水、不凍水、オイルなどの液体が用いられる。
地熱交換器埋設構造1’は、地熱交換器4B内を循環する熱媒体が、パイプ15内を循環しながら地熱と熱交換した後、床105とベタ基礎2との間に設けられた空間に設置される空調機14において当該熱媒体の熱をエアにより回収し、空調機14に設けられたエア吹き出し口16から、室内にエアを流入させることによって、室内空調を行うことができる。
上述する地熱交換器埋設構造1及び1’は、図1に示すとおり、1つの建造物を支持するベタ基礎の下方において、併用されてもよいし、あるいは、いずれか一方だけが実施されていてもよい。また上述する地熱交換器埋設構造は、本発明の実施態様の例示に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、異なる水平型地熱交換器を採用した別の態様の埋設構造とすることができる。
次に杭基礎を採用する本発明について図3を用いて説明する。図3は、本発明の別の態様を示す地熱交換器埋設構造41、および41’を示す断面概略説明図である。地熱交換器埋設構造41及び41’は、図1で示す地熱交換器埋設構造1及び1’に対し、採用される基礎構造がベタ基礎2から杭基礎44に変わったこと、および床105の下に地下ピット106が設けられたこと以外は、同様に構築される。より詳しく述べると、地熱交換器埋設構造41は、基礎スラブの一種であるコンクリートスラブ43と、コンクリートスラブ43に杭頭部が埋設されている支持杭体42とからなる杭基礎44が建造物101の下方に設けられており、支持杭体42を除いた部分であってコンクリートスラブ43の下面に接し発泡樹脂盤3が敷設されており、発泡樹脂盤3の下面には排水層7が形成されており、その下方に地熱交換器4Aが埋設され、本発明の地熱交換器埋設構造41が完成されている。一方、地熱交換器埋設構造41’は、地熱交換器埋設構造41における地熱交換器4Aから地熱交換器4Bに変更した以外は、同様に完成される。杭基礎を採用する本発明は、特に、荷重の大きい高層ビルなどの建造物の下方において好ましく実施される。
上述する地熱交換器埋設構造41及び41’は、図3に示すとおり、1つの建造物を支持する杭基礎の下方において、併用されてもよいし、あるいは、いずれか一方だけが実施されていてもよい。また上述する地熱交換器埋設構造は、本発明の実施態様の例示に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、異なる態様を採用することができる。
本発明において、最も重要な点は、建造物の基礎構造としてベタ基礎、あるいは基礎スラブと杭体とを備える杭基礎が選択され、当該ベタ基礎あるいは基礎スラブの底面に接して発泡樹脂盤が敷設されることにより、該発泡樹脂盤の下方の地盤温度が、深度10m未満であっても一年を通じて安定化され、これによって、発泡樹脂盤の下方に埋設された水平型の地熱交換器において高効率な熱交換が実施される点にある。尚、本発明において発泡樹脂盤の下に、排水層などの任意の層が設けられる場合には、当該任意の層の下方に地熱交換器が埋設されていればよい。
以上のとおり、ベタ基礎あるいは基礎スラブの底面に接して発泡樹脂盤を敷設した場合には、地表からの深度が10m未満の浅い領域であっても、夏季、冬季を問わずに地盤温度が一定に維持される。このように単純な構造によって、地盤温度を望ましく維持できるということは驚くべき知見である。かかる知見を得たことにより、非常に安いコストで、且つ構築作業も簡易な本発明の地熱交換器埋設構造において、深度の浅い地盤において水平型の地熱交換器を使用することによっても高効率な熱交換の実現に成功した。
以下に、本発明の構成について、ベタ基礎、杭基礎、発泡樹脂盤、水平型の地熱交換器の順に、さらに詳細に説明する。
[ベタ基礎]
本発明におけるベタ基礎は、建造物の基礎構造として知られるベタ基礎として理解される基礎構造であれば、適宜選択して実施することができる。より詳細に述べれば、建造物の下面略全面に相当する面積を含む地盤を必要量だけ掘り、そこに鉄筋を配筋しコンクリートを流し込んで作られる基礎構造であって、鉄筋コンクリート面全面で建造物の荷重を分散し支持する構造を主体とする基礎構造である。必要に応じて、図1におけるベタ基礎2に設けられるように、底面において任意の箇所に地中梁6を設けてもよいし、地中梁を設けない、所謂、マットスラブであってもよい。尚、ベタ基礎の耐震性能と断熱性能を向上させるために、図1における地中梁6の下面に沿って、コンクリート層22、発泡樹脂層23、排水層7からなるベタ基礎補助構造25が設けられている。ベタ基礎補助構造25の実施は、本発明において任意である。
また図4に示すように、本発明の地中熱交換器埋設構造上に構築される建造物において、地下ピット106が設けられてもよい。また図示しないが、地下室を備える建造物の基礎構造としてのベタ基礎も、本発明のベタ基礎に含められる。地下ピットや地下室が設けられる建造物の場合にも、必要に応じて掘り下げた地盤に水平型の地熱交換器を埋設し、その上方に発泡樹脂盤を敷設し、さらに発泡樹脂盤の上面とベタ基礎の底面が接するようベタ基礎を構築することにより、本発明の地中熱交換器埋設構造が完成される。
本発明に地中熱交換器埋設構造は、図4に示すようにベタ基礎2に連続して、建造物の周囲の少なくとも一部を覆う地盤被覆用コンクリート31がさらに設けられ、該地盤被覆用コンクリート31の底面の少なくとも一部に接してさらに発泡樹脂盤3’が敷設され、その下方に、水平型の地中熱交換器が設けられていてもよい。図4においては、地盤被覆用コンクリート31および発泡樹脂盤3’の下方に埋設される水平型の地熱交換器として、図1に示す地熱交換器4Aと同様の、外気流入口11と外気排出口12とを備えるパイプ13からなる地熱交換器4Aが示され、地熱交換器4Aと発泡樹脂盤3’と地盤被覆用コンクリート31とからなる地熱交換器埋設補助構造1’’が示されている。本発明の地熱交換器埋設構造は、主としてベタ基礎およびこの底面に接して敷設される発泡樹脂盤の下方に水平型の地熱交換器が埋設されてなるが、ベタ基礎の面積が小さく、所望の地熱量が、当該ベタ基礎の下方に設置する地熱交換器では賄えないことが予想される場合などには、上述のとおり地熱交換器埋設補助構造1’’を設けることにより、所望の地熱量を確保することができる。
上記地盤被覆コンクリート31は、所謂、犬走りといわれる、建造物の周囲を囲んで打設されるコンクリート面を含むが、これに限定されず、水平型の地熱交換器の埋設領域を覆う位置に打設されたコンクリート面であればよい。即ち、ベタ基礎から連続して(建造物が地下ピットあるいは地下室を有する場合には、当該建造物の外側側面から連続して)設けられるコンクリート面であって、その底面に接して発泡樹脂盤を敷設されていれば、上述のとおり発泡樹脂盤の下方の地盤温度が安定するため、水平型の地熱交換器を埋設した場合に、本発明の地中熱交換器埋設構造と同様の効果を発揮することができる。
尚、図1及び図4に示すベタ基礎は、本発明におけるベタ基礎を限定するものではなく、少なくとも鉄筋コンクリート面からなるベタ基礎が面であって、その下面の少なくとも一部に接して発泡樹脂盤が敷設可能なベタ基礎構造であれば、特に限定されるものではない。
即ち、ベタ基礎とこれに接する発泡樹脂盤とを構成することによって、その下方に位置する地盤温度が安定させることが本発明において重要であり、これを可能とする態様であれば、適宜選択して実施することができる。
[杭基礎]
本発明における杭基礎は、建造物の基礎構造として知られる杭基礎として理解される基礎構造であって、少なくとも杭体と、基礎スラブを備える杭基礎であれば、適宜選択して実施することができる。より詳細に述べれば、建造物の下面に位置する地盤において、適宜決定された位置に、杭体を埋設し、且つ、地盤の表層を必要だけ掘り下げ、上記杭体と直接または間接に結合される基礎スラブが構築される杭基礎構造であればよい。必要に応じて、図3における杭基礎44に設けられるように、コンクリートスラブ43等の基礎スラブに連続して地中梁46を設けてもよい。尚、杭基礎44の耐震性能と断熱性能を向上させるために、図3におけるコンクリートスラブ43などの基礎スラブの外側側面及び、支持杭体42などの杭体であって、発泡樹脂盤3と接していない任意の側面部分において、透水板21が設けられよい。また発泡樹脂盤3の下には、任意に、排水層7を設けることができる。
本発明において、基礎スラブとは、公知の杭基礎において、杭の頭部と直接または間接に結合され、且つ建造物の底面略全面において構築されるスラブであれば、特に限定されない。たとえば、杭頭の頭部が基礎スラブに埋め込まれることにより両者が直接結合されていてもよいし、あるいは、杭の頭部を補強するために、杭の頭部の周囲をコンクリートなどで覆う杭頭処理を行った後で、杭頭処理部の一部または全部を含めて基礎スラブに埋め込むことによって、杭体と基礎スラブを間接的に結合させてもよい。あるいはまた、上記杭頭処理部を梁と結合させ、さらに梁を介して基礎スラブと結合させてもよい。 より具体的には、上記基礎スラブとは、建造物底面略全面において杭基礎構造の一部として形成されるスラブ構造を意味し、所謂、コンクリートスラブ、あるいは土間コンクリートを含む。また基礎スラブには、任意で地中梁を設けることもできる。また本発明において、杭体とは、公知の杭基礎構造において採用される杭体であればいずれのものであってもよい。より具体的には、上記杭体は、支持杭体および摩擦杭体のいずれかであってもよいし、あるいはこれらの組合せであってもよい。すなわち、本発明において、上記基礎スラブとこれに接する発泡樹脂盤とを構成することによって、その下方に位置する地盤温度が安定させることが重要であり、これを可能とする態様であれば、適宜選択して実施することができる。
[発泡樹脂盤]
本発明における発泡樹脂盤3は、上述するベタ基礎の底面の少なくとも一部に接して地盤中に敷設される部材である。従来のベタ基礎は、直下に地盤が存在しており、表層地盤の温度は、一年を通じ、外気温度に左右されて温度の高低差が大きく、またその地盤温度がベタ基礎を通じて、室内温度にも影響を及ぼしていた。これに対し、本発明では、ベタ基礎に接して発泡樹脂盤を積層することにより、外気の温度(室内温度)が地盤に伝達されるのを遮ることができ、地盤温度を、通年を通して安定に維持する効果を発揮することができる。またベタ基礎を蓄熱層として作用させて、一日を通して室内温度の高低差をより小さくすることができることも、上記ベタ基礎と発泡樹脂盤の積層構造により発揮される効果である。上記効果を望ましく得るためには、ベタ基礎の底面が直接地盤に接する量を減らし、ベタ基礎と地盤との間において、より広い面積で発泡樹脂盤が敷設されていることが望ましく、具体的には、ベタ基礎2底面面積の70%以上に接して発泡樹脂盤3が設けられていることが望ましく、80%以上であることがさらに望ましく、90%以上であることがより望ましく、実質的にベタ基礎2の底面全面に発泡樹脂盤の上面が接して敷設されていることが最も望ましい。尚、ベタ基礎の底面全面に発泡樹脂盤の上面が接して敷設されない埋設構造においては、建造物支持や耐震性能において不十分な場合があるので、その点に留意する必要がある。
また、図3に示すようにコンクリートスラブにさらに支持杭体が併用されている場合など、基礎構造に必要な構造部分は除いて発泡樹脂盤がコンクリートスラブ底面と接して敷設されていればよい。また、図4に示す地盤被覆用コンクリート31の底面積と、その下に敷設される発泡樹脂盤3’の敷設量についても、上記ベタ基礎2の下面に敷設される発泡樹脂盤3とベタ基礎2底面積の関係に倣って決定してよい。以下に述べる本発明に発泡樹脂盤の説明には、特に断りがない限り、図4に示される発泡樹脂盤3’も含まれる。
本発明における発泡樹脂盤は、一般的には、適当な形状に形成された複数の発泡樹脂ブロック体を地盤中に並べて形成することができるが、これに限定されず、公知の技術を適用し、地盤の所望の領域に発泡樹脂盤の層を形成してよい。
上記発泡樹脂盤の厚みは、建造物の荷重や、実施される土地の気候などによって、適宜決定してよい。一般的には発泡樹脂盤の10cm〜50cm程度の厚みにすることによって、多くの環境に適用させることができる。ただし、これに限定されるものではない。
本発明に用いられる発泡樹脂盤は、地盤に対し外気温度を断熱し、地中において所望の熱交換を実現するためには、好ましい熱抵抗値を示すよう形成されることが望ましい。発泡樹脂盤の熱抵抗値は、発泡樹脂盤の厚みを熱伝導率で除した値に相当する。本発明に用いられる発泡樹脂盤の熱抵抗値は特に限定されないが、一般的には、熱抵抗値が、1.0〜20.0m・K/Wであることが好ましく、2.0〜15.0m・K/Wであることがより好ましい。上記熱抵抗値の数値範囲は、本発明の発泡樹脂盤を限定するものではないが、かかる数値範囲内に発泡樹脂盤を構成することによって、該発泡樹脂盤において充分な断熱効果を発揮させることが可能となり、地盤の温度の年較差を非常に小さくすることができる。
また上記発泡樹脂盤は、上記観点から、熱伝導率λは、0.02408〜0.0387(kcal/m・hr・℃)の範囲にあることが好ましい。ただしこれに限定されるものではない。尚、本明細書においては、熱伝導率λは単位として「kcal/m・hr・℃」を使用するが、適宜、1W/m・K=0.86kcal/m・hr・℃により、SI単位に換算される。また本明細書では熱量の単位として「kcal」を使用するが、1kcal=1000cal、1cal≒4.2Jで換算される。
また、本発明においてさらなる付加的な効果である、耐震性能をも発揮させるためには、建造物の荷重を勘案して適切な圧縮強度の発泡樹脂盤を使用することがさらに望ましい。上記圧縮強度の望ましい値は、建造物の荷重によって著しくことなるために一概には言えないが、一般的には、3〜50t/mであることが好ましい。上記圧縮強度は、JIS K7220に示される短期圧縮強度の計測方法を用いて計測することができる。
[水平型の地熱交換器]
本発明において用いられる水平型の地熱交換器は、従来公知の水平型の地熱交換器を適宜選択して用いることができる。本発明において「水平型の地熱交換器」とは、地盤面に対して垂直に埋設される杭などを利用した垂直型の地熱交換器と区別される地熱交換器であって、地熱交換部分が、地盤面に対して略水平に設けられている地熱交換器を意味する。
水平型の地熱交換器の代表的な例としては、図1に示す地熱交換器4Aあるいは4Bのように熱媒体が内部において流通可能なパイプ13あるいはパイプ15によって構成されるものが挙げられる。上記パイプは、樹脂性であってもよいし、ステンレス、アルミ、鋼、または銅などの金属材料により形成されたものであってもよい。ただし、金属性のパイプには、腐食の問題、継ぎ目からの熱媒体の漏れの問題、あるいは地盤形状が変形したときに破断しやすいなどの問題があるため、この観点からは、樹脂性のパイプが望ましい。
本発明において水平型の地熱交換器の埋設位置は、発泡樹脂盤の下方であって、発泡樹脂盤の面積内に収まる範囲に埋設されることが望ましい。より具体的には、地盤面に対して垂直方向から観察した場合に、発泡樹脂盤の下方であって、且つ、発泡樹脂盤の外縁より内側に1m以上入った領域に、地熱交換器の地熱交換部分のパイプが存在することが望ましい。発泡樹脂盤の外縁より1m未満の領域は、外気温度の影響を受け易いためである。
また水平型の地熱交換器の地表からの距離は、上記発泡樹脂盤との距離を勘案して決定されるが、本発明では上述で説明するとおり、地表から深度10m未満であっても、通年を通して地盤温度が安定しているので、このような表層地盤において地熱交換器を埋設しても高効率な地熱交換が実現される。ただし、本発明において地熱交換器を深度10mを超えてさらに深い地中に埋設することを除外するものではない。たとえば、地下ピットを含む地下室構造を有する建造物を支持するためのベタ基礎を備える本発明の地熱交換器埋設構造では、上記地下室構造の規模により、必然的に地熱交換器の埋設される地盤深度が10mを超える場合がある。このように、発泡樹脂盤の存在によらず地盤温度が安定すると思われる深度に地熱交換器を埋設する場合にであっても、さらに本発明の副次的効果であるベタ基礎あるいは基礎スラブの蓄熱効果、あるいは地熱交換器の保護効果が発揮されるため、本発明の実施により充分に有益性が発揮される。
一方、発泡樹脂盤下面から地熱交換器の上面までの距離は特に限定されるものではないが、両者の距離は、接触しない程度に近接して埋設させることが好ましい。より具体的には、発泡樹脂盤下面から地熱交換器の上面までの距離は、10cm以上2m未満程度であることが望ましい。また、発泡樹脂盤の下面にさらに排水層を設ける場合には、同様に、排水層に近接する位置に地熱交換器が埋設されていてよい。具体的な距離は、上述する発泡樹脂盤との距離と同様である。
上記パイプの内系は、特に限定されず、公知の水平型地熱交換器に用いられているパイプに倣って適宜決定することができる。一般的には、上記パイプの内径は、1cm以上20cm未満程度である。
一方、上記パイプの長さは、所望の地熱交換量、およびベタ基礎の面積などから決定される。もし、建造物の基礎構造の面積内に、所望のパイプの長さが収まらないなどの場合には、2以上の水平型の地熱交換器を地盤面に対して平行方向に重ねて埋設してもよい。あるいは、図4に例示されるように、基礎構造に連続する地盤被覆用コンクリートを設け、基礎構造からはみ出して、上記地盤被覆用コンクリートの下に水平型の地熱交換器、あるいはその一部を埋設することによって、必要なパイプの長さを確保してもよい。
上記地熱交換器に流通させて地熱と熱交換をさせるための熱媒体としては、空気などの気体、あるいは水、不凍液、オイルなどの液体のいずれであってもよい。屋外から外気を熱媒体として取り入れ、地熱と熱交換した後、当該外気を直接、あるいは除湿器やフィルターを通して室内に排出することによれば、夏季は、屋外外気より温度の低い空気を室内に取り入れることができ、また冬季には、屋外外気より温度の高い空気を室内に取り入れることができる。この結果、直接、換気口や窓などから外気を取り入れることによって換気をする場合には比べて、室温変化を小さくすることができ、暖房効率及び冷房効率を落とさず換気することができる。また、従来は、寒冷地における液状の熱媒体としては、冬季の凍結も問題から、不凍液を用いることが一般的であったが、本発明の地熱交換器埋設構造では、地盤温度が通年を通じて一定に維持され、寒冷地であっても、最低気温を念頭に発泡樹脂盤の厚みを決定することによって、地盤温度が0℃を下回ることがないよう設計可能であるため、熱媒体として不凍液を用いず、水を使用することができる。
上記熱媒体は、ポンプなどの圧送装置によってパイプ内に流通させることが一般的である。このときの流通速度は、地熱交換器中において熱媒体が充分に地熱と、熱交換できる速度において、設置される環境や、パイプの径などを勘案して適宜決定することができる。一般的には、熱媒体が空気である場合には、パイプの径が10〜100mmにおいて1〜20m/秒、熱媒体が水である場合には、パイプの径が7〜50mmにおいて0.1〜2.0m/秒程度の流速に設定することができる。
本発明の地中熱交換器埋設構造における地熱交換器において、内部を流通する熱媒体と地盤とにおいて熱交換がなされた後、回収された地熱は、空調や給湯などに利用される。地熱利用のシステムは、地熱交換システムとして従来公知のシステムを適宜利用してよい。たとえば、図1に示す本発明の地中熱交換器埋設構造1のように外気を熱媒体として、地熱と熱交換した後、当該外気を室内に直接または間接に排出し、望ましい温度になった外気をそのまま利用することができる。あるいは、図1に示す本発明の地中熱交換器埋設構造1’のように、水などの液体を熱媒体として地熱と熱交換し回収した熱を、床下や地下ピットに設置された空調機においてさらに熱交換し、暖気や冷気を室内に送風させることもできる。同様に、空調機の代わりに、ヒートポンプを利用してもよい。あるいは、図示しないが、熱媒体の流通するパイプをさらに延長して、建造物内に配管することもできる。配管する箇所は、任意であるが、例えば天井、床下、ベタ基礎のコンクリートスラブ内、あるいは壁などが挙げられる。
上記地熱の利用は、水平型の地熱交換器を構成する1本のパイプの排出口側の端部に分岐ヘッダーを設けて、分岐先をそれぞれ建造物内の配管、空調機、ヒートポンプ、除湿器、クーラーなど、任意に組み合わされた装置にそれぞれ接続することもできる。かかる態様によれば、室内温度や湿度、外気温度や湿度などの条件によって運転の切り替えを行い、熱交換済みの熱媒体を所望の箇所に送り込み、熱交換率を高くすることができる。また、ベタ基礎の下に埋設される水平型の地熱交換器は、1つであってもよいし、2以上であってもよく、複数の地熱交換器を埋設する場合には、同じ装置を複数埋設してもよいし、システムの異なる装置を組み合わせて埋設してもよい。
[その他の構成]
また、本発明におけるベタ基礎、発泡樹脂盤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらにその他の構成を設けることができる。たとえば、ベタ基礎の周囲の水はけを良くするために、ベタ基礎の外周側面の少なくとも一部を覆う位置に透水盤21を設置してもよい。透水盤21は、内部に透水可能な空隙が形成されている発泡樹脂盤、あるいは外側側面に透水可能な溝が設けられている発泡樹脂盤からなり、地盤中の水の排水を促すための部材である。特に、上記空隙や溝が、土によって塞がることを防止するために、不織布などによって覆われていることが望ましい。
また、図示しないが、ベタ基礎と発泡樹脂盤との間に、例えば特許第2980604号に開示される地震などの振動を減衰させるための空気層を備える連接体を設置してもよい。
ベタ基礎の底面に接して発泡樹脂盤を敷設した場合(図4に示す本発明の地熱交換器埋設構造、以下、「本発明埋設構造」ともいう)と、敷設しない場合(発泡樹脂盤3がないこと以外は、図4における地熱交換器埋設構造と同じく構築された地熱交換器埋設構造、以下、「比較埋設構造」ともいう)とにおいて、1月と8月における地盤の温度変化、地熱交換器中における熱媒体の入口温度と出口温度の変化、および採熱量がどのような値を示すかについて、八王子市の2007年の平均気温(気象庁データ)を使用し、シミュレーションした結果を以下に示す。尚、八王子市における2007年の1月の平均気温は、4.8℃、8月の平均気温は27.8℃であった。また年平均気温は15.1℃であった。上記8月の平均気温と1月の平均気温との差(23.0℃)を、気温年較差とする。また、1月の室内温度は20℃、8月の室内温度は25℃と設定した。
また本発明埋設構造は、地表からベタ基礎2の底面までの距離を500mm、ベタ基礎2のスラブの厚みを150mm、発泡樹脂盤3の厚みを200mmと設定し、且つ、地下ピットは外部よりの通気がないものとした。一方、比較埋設構造は、地表からベタ基礎の底面までの距離を500mm、ベタ基礎のスラブの厚みを150mmと設定し、且つ、地下ピットは、外部との通気可能なものとした。本発明埋設構造及び比較埋設構造における水平型の地熱交換器は、空気を熱媒体とする場合には、呼び径30mm、並列して隣り合うパイプの断面中心間距離が300mm、長さが50mの架橋ポリエチレンより形成されたパイプであると設定し、水を熱媒体とする場合には、呼び径16mm、並列して隣り合うパイプの断面中心関距離が150mm、長さが100mの樹脂性のパイプであると設定した。
まず、八王子市における1月および8月の地中温度を、地盤表面から1m乃至10mまで1mごとに、下記数1を用いて算出した。この算出の結果を表1に示す。尚、数1は、「パソコンによる 空気調和計算法 宇田川光弘著」(オーム社)より引用した。
Figure 0004785098
但し、上記数1における各係数は、以下のとおりである。
t :地中温度(℃)
tg:年平均気温(年間変動しない9m以下の地中温度(℃))
te:気温の年較差(℃)
n :元日より数えた通日
h :地表面よりの深さ(m)
e :自然体数の底(2.71828)
次に、上述する本発明埋設構造における発泡樹脂盤直下の温度を、下記数2を用い、算出した。尚、本発明埋設構造において地下ピットは外部からの通気がないよう構成されているので、当該地下ピットの温度は、室温と同じものとして扱う。そして、地下ピットの温度と、八王子市における地中10mの地中温度を用いて、下記数2から発泡樹脂盤直下の温度を算出した。
Figure 0004785098
但し、上記数2における各係数は、以下のとおりである。
q:熱量(kcal/m・hr)
t:表面温度(℃)
δ:層の厚み(m)
λ:熱伝導率(kcal/m・hr・℃)
尚、具体的には、δとして、基礎コンクリートの厚みは0.15m、発泡樹脂盤の厚みは0.2m、発泡樹脂盤下面(埋設比較構造においてはコンクリート面下面)から地中10mmまでの距離9.3mとし、また熱伝導率は、コンクリートは1.4(kcal/m・hr・℃)、発泡樹脂盤は0.03(kcal/m・hr・℃)、土は1.29(kcal/m・hr・℃)とした。また数2は、「伝熱工学」(森北出版)第14頁、第15頁より引用した。
そして、定常状態の発泡樹脂盤直下の熱量を、本発明埋設構造における床下空間の温度、及び先に求めた地中10mの推定温度を用いて、数2よりもとめ、得られた熱量を、数2より導いたtn+1の数式に代入して温度として求め、発泡樹脂盤直下の温度を得た。具体的な数式は、1月のシミュレーションについて下記数3に、8月のシミュレーションについて下記数4に示す。
Figure 0004785098
Figure 0004785098
上記数3及び数4に示すとおり、本発明埋設構造における発泡樹脂盤直下の温度は、1月において17.6℃、8月において20.2℃であった。したがって、8月の温度と1月の温度との差を年較差の温度とし、また平均気温を15.1℃とし、これらの数値を用いて、数1より、本発明埋設構造が実施された地盤における地中温度を1月及び8月について、地盤表面から1m乃至10mまで1mごとに算出した。算出結果を表2に示す。また算出結果について縦軸を温度(℃)、横軸を地中深さ(m)としてプロットして作成したグラフを図5に示す。
次いで、比較埋設構造下方における地中温度をシミュレーションした。まず、比較埋設構造の地下ピットの温度について設定した。比較埋設構造の地下ピットは、外部との通気可能に構成されているので、当該地下ピットの温度は、外気温度及び室内温度の平均温度とした。即ち、比較埋設構図における地下ピットの1月の温度を12.4℃、8月の温度を26.4℃と設定した。そして、比較埋設構造のベタ基礎であるスラブの直下の温度を、上記地下ピットの温度と、八王子市の地中10mの地中温度を用い、上記数2より算出した結果、1月は12.4℃、8月は26.2℃と算出された。尚、上記1月と8月の温度の具体的な計算を、下記数5及び数6に示す。
Figure 0004785098
Figure 0004785098
そして、8月の温度と1月の温度との差を年較差の温度とし、また平均気温を15.1℃とし、これらの数値を用いて、数1より、比較埋設構造が実施された地盤における地中温度を地盤表面から1m乃至10mまで1mごとに、1月及び8月について算出した。算出結果を表3に示す。また算出結果について縦軸を温度(℃)、横軸を地中深さ(m)としてプロットして作成したグラフを図6に示す。
次に、以上の結果から、本発明埋設構造および比較埋設構造における地中熱採熱のシミュレーションを示す。具体的には、地熱交換器の入口とパイプ内における熱媒体の温度変化について、以下の数7を用いて算出する。尚、下記数7は、積水化学工業株式会社「エスロンHTパイプ 設計・施工マニュアル」(2000.7改定9版第13頁)より引用した。
Figure 0004785098
ただし、数7における各係数は以下のとおりである。
θ :任意の地点の熱媒体温度(出口温度)(℃)
θ :初期の熱媒体温度(入口温度)(℃)
θ : 地中温度(℃)
L :任意の地点までの距離(パイプの長さ)(m)
R :パイプの伝熱抵抗値(m・hr・℃/kcal)
Cp:流体(熱媒体)の比熱(kcal/kg・℃)
W :流体(熱媒体)の流量(kg/hr)
e :自然対数の底(2.71828)
次に、以上の数7を用いて、熱媒体が空気である場合について、地熱交換器に空気を流入させた際の、地熱交換器における出口温度θを試算した。尚、地熱交換器は、呼び径30mmの架橋ポリエチレン管を、隣り合うパイプ断面中心間距離30cm間隔で水平方向に並列して配設したものであって、布設面積約15m、外径42mm、内径36.4mm、パイプの長さL=50mとした。
また地熱交換器に流入される空気の入口温度θは、夏季(8月)の試算では8月の月平均気温27.8℃、冬季(1月)の試算では1月の月平均気温4.8℃とし、地中温度θrは、本発明埋設構造における試算では、表2に示す本発明埋設構造における地中温度(地中深度1m、2m、5m、10m)とし、比較埋設構造における試算では、表3に示す比較埋設構造における地中温度(地中深度1m、2m、5m、10m)とした。
また地熱交換器を構成するパイプの伝熱抵抗値(R)は、地中1mの試算では0.648、地中2mでは0.727、地中5mでは0.835、地中10mでは0.919(いずれもRの単位は(m・hr・℃/kcal))とした。
また空気の比熱(Cp)を0.240(kcal/kg・℃)とし、地熱交換器中に流れる空気の流量(W)を27.98kg/hr(400L/min)、流速6.41m/sとしてθを算出した。結果を表4に示す。尚、上記空気の流量(W)は、パイプ中において単位時間当たりに流れる空気の流量(400L/min=24m/hr)と、空気の比重量(w=1.166kg/m)との積により求めた。
続いて、表4に示す入口温度と出口温度との差Δt(℃)と、上述する空気の比熱Cp(kcal/kg・℃)と、流量W(kg/hr)との積Q(kcal/hr)を算出し、これを地熱交換器によって採熱された熱量として、表5に示した。
同様に、上記数7を用いて、熱媒体が水である場合について、地熱交換器に空気を流入させて、地熱交換器における出口温度θを試算した。尚、地熱交換器は、呼び径16mmの架橋ポリエチレン管を、隣り合うパイプの断面中心間距離15cm間隔で水平方向に並列したものであって、布設面積約15m、外径21.5mm、内径17.5mm、パイプの長さL=100mとした。
また地熱交換器に流入される水の入口温度(θ)は、夏季(8月)の試算では25℃、冬季(1月)の試算では10℃とし、地中温度(θr)は、本発明埋設構造における試算では、表2に示す比較埋設構造における地中温度(地中深度1m、2m、5m、10m)とし、比較埋設構造における試算では、表3に示す本発明埋設構造における地中温度(地中深度1m、2m、5m、10m)とした。
また地熱交換器を構成するパイプの伝熱抵抗値(R)は、地中1mの試算では0.762、地中2mでは0.840、地中5mでは0.949、地中10mでは1.033(いずれもRの単位は(m・hr・℃/kcal))とした。
また、水の比熱(Cp)を1.001(kcal/kg・℃)とし、地熱交換器中に流れる水の流量(W)を539.5kg/hr(9.0L/min)、流速0.62m/sとして、θを算出した。結果を表6に示す。尚、上記水の流量(W)は、パイプ中において単位時間当たりに流れる水の流量(9.0L/min=0.54m/hr)と、空気の比重量(w=999.0kg/m)との積により求めた。
続いて、表6に示す入口温度と出口温度との差Δt(℃)と、上述する水の比熱Cp(kcal/kg・℃)と、流量W(kg/hr)との積Q(kcal/hr)を算出し、これを地熱交換器によって採熱された熱量として、表7に示した。
以上の結果から、本発明埋設構造下における地盤温度は、一般的に年較差が最大となる1月と8月とを比較しても、その差が大きく開かず、一年を通して地盤温度が安定しているという結果が示された。一方、比較埋設構造では、地盤表面から4m付近まで、1月と8月とにおける地盤温度に顕著な開きがあることが示された。
そして、この地盤温度を受けて、地熱交換器中における熱媒体の入口温度と出口温度における温度変化も、本発明埋設構造では、年較差が小さく、一方、比較埋設構造では、年較差が大きい結果となった。換言すると、本発明埋設構造では、地熱交換器において採集される熱量が、表5あるいは表7に示すように、比較埋設構造に比べて、顕著に大きいことが示された。尚、水を熱媒体に用いた際には、本発明埋設構造と比較埋設構造とでは、空気を熱媒体にした場合よりも温度差は小さいが、水は空気よりも比熱が大きいため、熱量に換算した場合には、本発明埋設構造の方が、明らかに採熱される熱量が大きいことが理解される。
Figure 0004785098
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1、1’ 地熱交換器埋設構造
1’’ 地熱交換器埋設補助構造
2 ベタ基礎
3 発泡樹脂盤
4A、4B 水平型地熱交換器
5 鉄筋コンクリート面
6 地中梁
7 排水層
11 外気流入口
12 外気排出口
13 パイプ
14 空調機
15 パイプ
16 エア吹き出し口
21 透水盤
22 コンクリート層
23 発泡樹脂盤
25 ベタ基礎補助構造
31 地盤被覆用コンクリート
41 地熱交換器埋設構造
42 支持杭体
43 コンクリートスラブ
101 建造物
102 排気ファン
103 地盤
104 グラウト材
105 床
106 地下ピット

Claims (9)

  1. 建造物の基礎構造として設けられるベタ基礎と、
    上記ベタ基礎の底面に接して敷設される発泡樹脂盤と、
    上記発泡樹脂盤の下方に埋設される水平型の地中熱交換器と、
    から構成され、
    上記水平型の地中熱交換器が、上記発泡樹脂盤の下方における地盤と熱交換して採熱する地中熱交換器であり、
    上記ベタ基礎と、上記発泡樹脂盤とを設けることにより、上記発泡樹脂盤の下方に位置する地盤温度を安定させることを特徴とする地中熱交換器埋設構造。
  2. 上記水平型の地中熱交換器は、両端に熱媒体の流入口及び排出口を備え、内部に該熱媒体を流通させることが可能であり、地盤面に対し略水平方向に伸長するパイプであることを特徴とする請求項1に記載の地中熱交換器埋設構造。
  3. 上記水平型の地中熱交換器は、地盤面に対し略水平方向に伸長し、内部において熱媒体を循環させることが可能なパイプであることを特徴とする請求項1または2に記載の地中熱交換器埋設構造。
  4. 上記水平型の地中熱交換器と地盤との間にグラウト材が充填されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造。
  5. 上記ベタ基礎あるいは上記ベタ基礎上に建造される建造物の外側側面から連続して設けられる地盤被覆用コンクリートが、該ベタ基礎あるいは該建造物の周囲の少なくとも一部において設けられ、且つ、
    発泡樹脂盤が、上記地盤被覆用コンクリートの底面の少なくとも一部に接してさらに敷設されており、
    上記水平型の地中熱交換器が、上記地盤被覆用コンクリートの下方においても埋設されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造。
  6. 建造物の基礎構造として設けられる、基礎スラブと杭体とを備える杭基礎と、
    上記杭体部分を除いた領域であって上記基礎スラブの底面に接して敷設される発泡樹脂盤と、
    上記杭体部分を除いた領域であって上記発泡樹脂盤の下方に埋設される水平型の地中熱交換器と、
    から構成され、
    上記水平型の地中熱交換器が、上記発泡樹脂盤の下方における地盤と熱交換して採熱する地中熱交換器であり、
    上記基礎スラブと、上記発泡樹脂盤とを設けることにより、上記発泡樹脂盤の下方に位置する地盤温度を安定させることを特徴とする地中熱交換器埋設構造。
  7. 上記水平型の地中熱交換器は、両端に熱媒体の流入口及び排出口を備え、内部に該熱媒体を流通させることが可能であり、地盤面に対し略水平方向に伸長するパイプであることを特徴とする請求項に記載の地中熱交換器埋設構造。
  8. 上記水平型の地中熱交換器は、地盤面に対し略水平方向に伸長し、内部において熱媒体を循環させることが可能なパイプであることを特徴とする請求項6または7に記載の地中熱交換器埋設構造。
  9. 上記水平型の地中熱交換器と地盤との間にグラウト材が充填されていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の地中熱交換器埋設構造。
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