JP4780867B2 - 車両用駆動力源のトルク制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、駆動力源のトルクが流体伝動装置を経由して車輪に伝達されるように、車両用の駆動力源が構成される場合に、駆動力源のトルクを制御する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エンジンと変速機との間の動力伝達経路に、流体伝動装置を設けた車両が知られている。流体伝動装置は、駆動側回転部材と従動側回転部材との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達をおこなうものである。この流体伝動装置においては、エンジンのトルク変動が生じた場合でも、駆動側回転部材と従動側回転部材との滑りにより、エンジンのトルク変動が変速機に伝達されることを抑制することができる。また、流体伝動装置を有する車両においては、車両が停止し、かつ、エンジンがアイドリング状態である場合にも、駆動力源のトルクを車輪に伝達して、所定の駆動力を発生させることができる。
【0003】
このように、流体伝動装置を備えた車両において、エンジンのアイドリング中におけるトルクを制御する制御装置の一例が、特開平10−166897号公報に記載されている。この公報に記載されている制御装置は、トルクコンバータを備えた自動変速機のクリープ制御装置であり、エンジンがアイドリング状態であること、自動変速機のセレクトレンジが走行レンジであること、ブレーキが不作動であること、の全てが検出された場合は、セレクトレンジと同方向に、所定の目標車速でクリープするように、エンジンの吸入空気量を制御するクリープ制御手段を備えている。この公報に記載されたクリープ制御装置によれば、登坂路発進などにおいても、坂道の勾配角度にかかわらず、常に一定車速のクリープトルクが発生することとなり、ブレーキを解除した状態でも、車両の後退移動が抑制される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報においては、常に一定車速となるように、エンジンのクリープトルクが制御されるため、クリープトルクが不要な場合でも、クリープトルクが発生する。その結果、車両と挙動要求とクリープトルクとが適合しなくなるとともに、駆動力源の駆動に必要なエネルギが無駄に消費される問題があった。
【0005】
この発明は、上記事情を背景としてなされたもので、駆動力源のトルクを挙動制御要求に適合させることができる車両用駆動力源のトルク制御装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、流体伝動装置に入力される駆動力源のトルクを制御する車両用駆動力源のトルク制御装置において、前記駆動力源および前記流体伝動装置が搭載されている車両の移動速度が、予め定められた所定車速未満であるか否かを判断する車速判断手段と、前記車両に対する乗員の加速要求が発生しているか否かを検知する加速要求判断手段と、前記駆動力源のトルクを前記流体伝動装置を経由させて車輪に伝達して前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションを前記車両の乗員が選択している際に、前記車両が登坂しているか降坂しているかを判断する移動方向判断手段と、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が降坂していると判断された場合は、前記車両が登坂路を登坂して前記加速要求に対応した加速度が得られるように、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなう一方、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が登坂していると判断された場合は、前記車両が登坂路を登坂して前記加速要求に対応した加速度が得られるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなわないトルク制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項1の発明によれば、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していると判断され、かつ、登坂路に位置している車両を登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が降坂している場合は、車両が登坂路を登坂して加速要求に対応する加速度が得られるように、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクが高められる。一方、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が登坂している場合は、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクを高める制御はおこなわない。つまり、駆動力源の駆動に必要なエネルギの消費量が、車両の移動方向に応じて制御される。また、車両の移動速度が所定車速未満の場合は、駆動力源から流体伝動装置に入力されるトルクが変化しても、走行性能に及ぼす影響が少ない。
【0010】
請求項2の発明は、流体伝動装置に入力される駆動力源のトルクを制御する車両用駆動力源のトルク制御装置において、前記駆動力源および前記流体伝動装置が搭載されている車両の移動速度が、予め定められた所定車速未満であるか否かを判断する車速判断手段と、前記車両に対する乗員の加速要求が発生しているか否かを検知する加速要求判断手段と、前記車両に対する乗員の制動要求が発生しているか否かを判断する制動要求判断手段と、前記駆動力源のトルクを前記流体伝動装置を経由させて車輪に伝達して前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションを前記車両の乗員が選択している際に、前記車両が登坂しているか降坂しているかを判断する移動方向判断手段と、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していないと判断され、かつ、前記制動要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が降坂していると判断された場合は、前記車両を停止させるように、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなう一方、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していないと判断され、かつ、前記制動要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が登坂していると判断された場合は、前記車両を停止されるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなわないトルク制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明によれば、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していないと判断され、かつ、制動要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が降坂している場合は、車両を停止させるように、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクが高められる。一方、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が登坂している場合は、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクを高める制御はおこなわない。したがって、車両が停止している状態もしくは低車速にある状態から、車両が加速して発進する場合のドライバビリティが向上する。さらに、車両に対する制動要求が発生し、かつ、車両に対する加速要求が発生していないから、車両を停止させるように、駆動力源から流体伝動装置に入力されるトルクが高められる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記トルク制御手段により、前記車両を停止させるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御がおこなわれているときに、発生している制動要求が解消して前記車両に制動力が作用しなくなってから、前記車両に対する乗員の加速要求が発生するまでの所要時間をカウントするとともに、その所要時間が予め定められた所定時間を越えたか否かを判断する時間判断手段と、前記所要時間が所定時間を越えた場合は、前記車両で制動力を発生させ、かつ、前記車両を停止させるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されていたトルクを零に制御する制動力制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の作用が生じる他に、発生している制動要求が解消されてから加速要求が発生するまでの制御時間が、所定時間を越えた場合に、車両で制動力が発生するとともに、車両を停止させるように駆動力源から流体伝動装置に入力されていたトルクを零に制御する。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2または3の構成に加えて、前記トルク制御手段は、前記車両が位置する場所の勾配が所定値以下であるときに、前記駆動力源の回転数が低下することなく補機装置を駆動するための基準トルクを設定し、その基準トルクに、前記車両が降坂することを抑制するためのトルクを加算することにより、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める手段を含むことを特徴とするものである。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項2または3の発明と同様の作用が生じる他に、駆動力源のトルクが必要以上に高められることを抑制できる。
【0023】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の基本的な原理を、図8に基づいて説明する。図8において、車両100は、駆動力源101のトルクが流体伝動装置102を経由して車輪103に伝達されるように、パワートレーンが構成されている。駆動力源101は、燃料の燃焼により動力(言い換えればトルク)を出力するエンジン、または電力(電気エネルギ)の供給により動力(言い換えればトルク)を出力する電動機のうち、少なくとも一方を用いることができる。すなわち、エンジンは燃料の燃焼により発生する熱エネルギを、回転運動、即ち、動力に変換して出力する装置である。
【0024】
エンジンとしては、例えば、内燃機関、より具体的には、ガソリンエンジン、LPGエンジン、ディーゼルエンジンなどを用いることができる。ガソリンエンジン、LPGエンジンは、吸入空気量制御装置、吸気時期制御装置、排気時期制御装置、燃料噴射量制御装置、燃料噴射時期制御装置、点火時期制御装置などを有する公知のものである。ディーゼルエンジンは、燃料噴射量制御装置、燃料噴射時期制御装置などを有する公知のものである。駆動力源として交流電動機を用いる場合は、バッテリまたはキャパシタなどの蓄電装置の電力、または燃料電池システムにより発電された電力が、インバータを介して電動機に供給されて、電動機が駆動される。
【0025】
流体伝動装置102は、駆動側回転部材(この発明の入力側に相当)104と従動側回転部材105との間で、流体の運動エネルギにより動力が伝達されるものであり、駆動側回転部材104が駆動力源101側に連結され、従動側回転部材105が車輪103側に連結される。具体的には、駆動力源101のトルクが駆動側回転部材104に伝達され、駆動側回転部材104のトルクが流体の運動エネルギにより、従動側回転部材105に伝達される。この流体伝動装置102は、トルクコンバータまたはフルードカップリングのいずれでもよい。トルクコンバータは、駆動側回転部材104と従動側回転部材105との間で伝達されるトルクを増幅する機能を備えており、フルードカップリングは、駆動側回転部材104と従動側回転部材105との間で伝達されるトルクを増幅する機能が無い。
【0026】
また、流体伝動装置102と車輪103との間の動力伝達経路には、変速機106が設けられている。この変速機106としては、マニュアル変速機能または自動変速機能の少なくとも一方を備えた変速機を用いることができる。マニュアル変速機能を備えた変速機とは、入力回転部材107の回転速度と、出力回転部材108の回転速度との比率、すなわち変速比を、車両の乗員による変速比選択装置109のマニュアル操作に基づいて、変更することのできる変速機を意味している。これに対して、自動変速機能を備えた変速機とは、入力回転部材107の回転速度と、出力回転部材108の回転速度との比率、すなわち変速比を、変速比選択装置109の操作状態、および変速比選択装置109の操作状態以外の条件に基づいて、自動的に制御することのできる変速機を意味している。
【0027】
また、変速機としては、無段変速機または有段変速機のいずれを用いてもよい。無段変速機とは、前記変速比を連続的もしくは無段階に制御することのできる変速機を意味している。この無段変速機としては、ベルト式無段変速機とトロイダル式無段変速機とが挙げられる。一方、有段変速機とは、前記変速比を、不連続もしくは段階的に制御することのできる変速機を意味している。有段変速機としては、選択歯車式変速機、遊星歯車式変速機などが挙げられる。
【0028】
有段変速機がマニュアル変速機能を備えている場合は、車両の乗員が変速比選択装置109を操作することにより、変速比、つまり、変速段を切り換えることができる。この場合、変速比選択装置109の操作により選択されるポジションを、「シフトポジション」と呼ぶ。これに対して、無段変速機または有段変速機が自動変速機能を備えている場合は、運転者が変速比選択装置109を操作することにより、変速比の制御範囲を切り換えることができる。この場合、変速比選択装置109により選択される変速比の制御範囲を、「シフトレンジ」または「シフトポジション」と呼ぶ。
【0029】
また、車両100に対する挙動制御要求を判断する挙動制御要求判断装置110と、車両100の実際の挙動を判断する実挙動検知装置111とが設けられており、挙動制御要求判断装置110の判断結果および実挙動検知装置111の判断結果のうち、少なくとも挙動制御要求判断装置110の判断結果に基づいて、駆動力源101のトルクを制御する駆動力源制御用コンピュータ112が設けられている。駆動力源制御用コンピュータ112は、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体として構成されている。
【0030】
前記挙動制御要求には、車両100の乗員の意図による要求、例えば、車両の移動方向要求、具体的には、前進要求、後退(後進)要求、停止要求が含まれている。また、車両100の実際の挙動には、車両100の運動性能、具体的には、動力性能、制動性能が含まれている。
【0031】
さらに、駆動力源101のトルクにより駆動される補機装置113が設けられている。補機装置113としては、エアコン用のコンプレッサ、各種の電気装置に供給する電力を発生する発電機、パワーステアリング用の油圧を制御するベーンポンプなどが挙げられる。さらにまた、車輪103の回転を規制する制動装置114が設けられており、この制動装置114の制動力をも、駆動力源制御用コンピュータ112により制御することができる。
【0032】
図8において、駆動力源101として、ガソリンエンジンまたはLPGエンジンを用いる場合は、吸入空気量、吸気時期、排気時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期などの事項のうち、少なくとも1つの事項を、駆動力源制御用コンピュータ112で制御することにより、エンジンの出力トルクを制御することができる。駆動力源101としてディーゼルエンジンを用いる場合は、燃料噴射量、燃料噴射時期などを、駆動力源制御用コンピュータ112で制御することにより、エンジンの出力トルクを制御することができる。
【0033】
したがって、エンジントルクを制御するということは、熱エネルギを発生させるために燃焼される燃料の消費量を調整することになる。これに対して、駆動力源101として電動機を用いる場合は、電動機に供給する電力の電流値を、駆動力源制御用コンピュータ112で制御することにより、電動機の出力トルクを制御することができる。したがって、電動機のトルクを制御するということは、電気エネルギの消費量を調整することになる。
【0034】
さらに、各請求項の発明に記載されている機能的手段(言い換えれば制御ステップ)は、各種のセンサやスイッチ、吸入空気量制御装置、吸気時期制御装置、排気時期制御装置、燃料噴射量制御装置、燃料噴射時期制御装置、点火時期制御装置、蓄電装置、燃料電池システム、インバータ、実挙動検知装置111、挙動制御要求判断装置110、駆動力源制御用コンピュータ(言い換えれば、電子制御装置、コントローラ)112などにより実行される。この発明の駆動力源における車両用駆動力源のトルク制御装置には、エンジン101、流体伝動装置102、実挙動検知装置111、挙動制御要求判断装置110、駆動力源制御用コンピュータ112を有する車両(第1の手段)と、車両に搭載されていない駆動力源制御用コンピュータ112を有する第2の手段とが含まれる。
【0035】
つまり、第1の手段は、前記各種の要素が車体に搭載されて組立が完了した車両を意味している。したがって、第1の手段に相当する車両においては、駆動力源のトルクを車輪に伝達すれば駆動力が発生する。これに対して、第2の手段は、駆動力源制御用コンピュータ112は、未だ車体に搭載されていないが、第1の手段のように、前記駆動力源制御用コンピュータ112を車体に搭載して車両の組立を完了させれば、駆動力源のトルクが車輪に伝達されて駆動力が発生することを意味している。
【0036】
なお動力伝達装置の技術分野においては、流体伝動装置の入力部材と出力部材との間で、流体を介して動力伝達がおこなわれる場合に、流体すべりおよび転がりが共存する摩擦により動力伝達がおこなわれる状態がクリープ摩擦、もしくはクリープ力と呼ばれているが、この明細書においては、流体伝動装置の入力部材および出力部材を経由して車輪に伝達されるトルク、具体的には、駆動力源から流体伝動装置に入力されるトルクを、クリープトルクもしくはクリープ力と呼ぶ。
【0037】
【実施例】
図8に示す基本的な原理を適用した車両の実施例を、図2に基づいて説明する。なお、図2の説明においては、適宜、図8で説明した構成の符号を援用する。図2に示す車両1は、駆動力源としてガソリンエンジン2を有している。なお、図2に示す車両1においても、ガソリンエンジン2の出力トルクが、図7に示す流体伝動装置102および変速機106を経由して車輪103に伝達されるように構成されている。
【0038】
また、ガソリンエンジン2は、吸入空気量制御装置、吸気時期制御装置、排気時期制御装置、燃料噴射量制御装置、燃料噴射時期制御装置、点火時期制御装置などを有する公知のものであり、ガソリンエンジン2の回転数およびトルクを制御するエンジンコンピュータ3が設けられている。前記吸入空気量制御装置は、例えば、アクチュエータと、アクチュエータによりその開度が調整されるスロットルバルブとを有しており、このスロットルバルブの動作状態を“スロットル開度”と呼ぶ。
【0039】
エンジンコンピュータ3は、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体として構成されており、エンジンコンピュータ3には、車速検知装置4の信号、道路勾配検知装置5の信号、シフトポジション検知装置6の信号、ブレーキ操作検知装置7の信号、アクセル開度検知装置8の信号、車両1の実際の挙動を検知する実挙動検知装置9、エコモード設定スイッチ11の信号などが入力される。
【0040】
車速検知装置4としては、変速機106の出力軸108の回転速度および回転方向を検知するセンサ、車輪103の回転速度および回転方向を検知するセンサなどを用いることができる。道路勾配検知装置5としては、車両1に設けられている車載システムと、車両1以外の場所に設けられている外部設備(いわゆるインフラストラクチュア)とが挙げられる。車載システムとしては、車両1の実際の挙動に基づいて、道路勾配を検知する道路勾配検知センサと、ナビゲーションシステムの一部を構成するために車両1に搭載され、かつ、車両1の走行経路の道路勾配を、地図情報のリンクデータとして予め記憶しているハードメモリとが挙げられる。
【0041】
ナビゲーションシステムは、道路状況を2次元で把握できるもの、または3次元で把握できるもののいずれでもよいが、道路情報を3次元で把握できるものの方が有効である。外部設備としては、ナビゲーションシステムの一部を構成するために、地上などに設置されており、かつ、車両1との交信が可能なビーコン、サインポスト、管理センタなどが挙げられる。上記の道路勾配検知装置5により、車両1が平坦路、登坂路、降坂路のいずれに位置しているか、車両1が位置している場所の勾配角度などを検知することができる。
【0042】
シフトポジション検知装置6は、図8に示す変速比選択装置109の操作状態を検知するものである。変速機106として有段変速機、より具体的には、前進5段・後進1段の変速段を設定することのできる自動変速機が用いられている場合について説明する。この場合は、シフトポジション検知装置6により、変速比選択装置109の操作状態、例えば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、4ポジション、3ポジション、2ポジション、L(ロー)ポジションの各ポジションを検知可能である。
【0043】
ここで、Dポジション、4ポジション、3ポジション、2ポジション、Lポジション、Rポジションが駆動ポジション(言い換えれば走行ポジション)であり、Nポジション、Pポジションが非駆動ポジション(言い換えれば非走行ポジション)である。また、駆動ポジションのうち、Dポジション、4ポジション、3ポジション、2ポジション、Lポジションが前進ポジションであり、Rポジションが後進ポジション(後退ポジション)である。
【0044】
Dポジションが選択されている場合は、変速機106において、第1速ないし第5速のいずれかを設定可能であり、4ポジションが選択されている場合は、変速機106において、第1速ないし第4速のいずれかを設定可能であり、3ポジションが選択されている場合は、変速機106において、第1速ないし第3速のいずれかを設定可能であり、2ポジションが選択されている場合は、変速機106において、第1速または第2速のいずれかを設定可能であり、Lポジションが選択されている場合は、変速機106において、第1速に固定される。Rポジションが選択された場合も、変速機106の変速比が固定される。
【0045】
前進ポジションが選択された場合に、ガソリンエンジン2のトルクが流体伝動装置102を経由して変速機106に伝達されると、入力軸107のトルクが出力軸108を経由して車輪103に伝達されて、車両1を前進させる向きの駆動力が発生する。後進ポジションが選択された場合は、変速機106の入力軸107のトルクが出力軸108を経由して車輪103に伝達されて、車両1を後退させる向きの駆動力が発生する。なお、前進ポジションと後進ポジションとでは、出力軸108の回転方向および車輪103の回転方向が逆になることは勿論である。
【0046】
これに対して、NポジションまたはPポジションなどの非駆動ポジションが選択された場合は、ガソリンエンジン2のトルクが変速機106に伝達されても、そのトルクは変速機106の出力軸108に伝達されない。このように、選択されるシフトポジションに応じて、車両1を所定の向きに移動させようとする駆動力が働く。つまり、シフトポジション検知装置6で検知されるシフトポジションに基づいて、車両1の移動予定方向を判断することができる。
【0047】
一方、前記ブレーキ操作検知装置7は、乗員により操作される制動要求発生装置の操作状態を検知するものである。制動要求発生装置としては、足により操作されるブレーキペダル、手により操作されるレバー、ボタンなどが挙げられる。また、制動要求発生装置には、車両1に対して一時的に制動力を作用させるサービスブレーキと、車両1を駐車させるために用いるパーキングブレーキとが含まれる。ブレーキ操作検知装置7により、車両1に対する制動要求が検知される。アクセル開度検知装置8は、車両1に対する乗員の加速要求を検知するものであり、乗員により操作される加速要求発生装置としては、足により操作されるアクセルペダル、手により操作されるレバー、ボタンなどが挙げられる。アクセル開度検知装置8により、車両1に対する加速要求が判断される。
【0048】
実挙動検知装置9は、車両1が移動しているか停止しているかを検知し、かつ、車両1の移動の向き、車両1の移動距離などを検知するものである。この実挙動検知装置9としては、車輪103の回転方向および回転速度を検知するセンサ、出力軸106の回転方向および回転速度を検知するセンサ、加速度センサなどが挙げられる。
【0049】
図2に示す車両1においては、エンジンコンピュータ3に入力される信号に基づいて、ガソリンエンジン2の出力が制御される。例えば、吸入空気量、吸気タイミング、排気タイミング、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期などの事項のうち、少なくとも1つの事項を制御することにより、ガソリンエンジン2の出力が制御される。
【0050】
ガソリンエンジン2のトルクの制御を具体的に説明すると、例えば、車両1が、所定の勾配角度以下の場所、例えば平坦路に位置していること、加速要求が所定値以下の状態であることが検知されている場合は、エンジンストールが発生せず、かつ、補機装置113の駆動に必要なトルク、すなわち“基準トルク”が設定される。また、加速要求が所定値以下の状態であること、車両1が位置する場所の勾配角度が所定角度を越えていることが検知された場合は、“基準トルク”にクリープトルクが加えられる。“クリープトルク”とは、“車両1に登坂方向の駆動力が発生し、かつ、車両1が位置する場所の勾配角度が所定角度を越えている場合に、車両1が降坂すること”を抑制するために加算されるトルクである。なお、加速要求が所定値以下の場合としては、ガソリンエンジン2のアイドリング状態、言い換えればスロットル開度が“零”の状態が挙げられる。
【0051】
さらに、車両1は制動装置10を有している。制動装置10は、前述した減速要求発生装置と、減速要求発生装置の操作に基づいて流体圧を制御する流体圧制御装置(図示せず)と、車輪103側に設けられ、かつ、流体圧制御装置の制御圧が作用する流体圧室(図示せず)とを有している。また、流体圧制御装置は、電子制御装置、および電子制御装置により制御されるアクチュエータを備えている。前記流体圧は、油圧または空気圧のいずれでもよい。さらに、制動装置10の一部を構成する車輪103側のシステムは、ディスクブレーキまたはドラムブレーキのいずれでもよい。なお、この制動装置10には、前述したフットブレーキおよびパーキングブレーキが含まれている。
【0052】
また、前記エコモード設定スイッチ11は、「燃料消費量の増加を可及的に抑制する制御」、すなわちエコモードの実行の可否を、車両1の乗員が任意に選択するためのものであり、エコモード選択スイッチ11がオンされている場合は、エコモードが実行され、エコモード選択スイッチ11がオフされている場合は、エコモードが実行されない。
【0053】
ここで、図2の実施例の構成とこの発明の構成との対応関係を説明すれば、ガソリンエンジン2がこの発明の駆動力源に相当する。また、エンジンコンピュータ3、およびガソリンエンジン2のトルクを制御する各種の要素(すなわち、吸入空気量制御装置、吸気時期制御装置、排気時期制御装置、燃料噴射量制御装置、燃料噴射時期制御装置、点火時期制御装置など)が、トルク制御器であると言える。また、図7の構成と図2の構成との対応関係を説明すれば、図2の車両1が図7の車両100に対応し、図2のガソリンエンジン2が図7の駆動力源101に対応し、図2の制動装置10が図7の制動装置114に対応し、図2のシフトポジション判断装置6、ブレーキ操作検知装置7、アクセル開度検知装置8が図7の挙動制御要求判断装置110に対応し、図2の車速検知装置4、実挙動検知装置9が図7の挙動判断装置111に対応し、図2のエンジンコンピュータ3が図7の駆動力源用コンピュータ112に対応する。
【0054】
つぎに、図2のシステムに用いられる制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。図1の制御例は、請求項2の発明に対応する。まず、制動要求が発生しているか否かが判断される(ステップS1)。フットブレーキまたはパーキングブレーキの少なくとも一方が作動して、車両1に制動力が作用している場合は、ステップS1で肯定的に判断される。ステップS1についで、車速情報、具体的には“実際の車速”が判断される(ステップS2)。このステップS2についで、“実際の車速”が“判定車速もしくは基準車速”よりも低速であるか否かが判断される(ステップS3)。この判定車速もしくは基準車速は、予めエンジンコンピュータ3に記憶されている。このステップS3で否定的に判断された場合はステップS1に戻る。
【0055】
これに対して、ステップS3で肯定的に判断された場合は、加速要求が無いか否かが判断される(ステップS4)。例えば、アクセルペダルが踏まれている(アクセルON)場合は、ステップS4で否定的に判断されて、ステップS2に戻る。一方、アクセルペダルが踏まれていない(アクセルOFF)の場合は、ステップS4で肯定的に判断されて、シフトポジションに基づいて、車両1の移動予定方向が判断される(ステップS5)。このステップS5についで、車両1の実際の移動方向が判断される(ステップS6)。車両1の実際の移動方向は、変速機106の回転方向、または車輪103の回転方向に基づいて判断される。そして、ステップS6の判断結果に基づいて、エンジン制御の要否が判断される(ステップS7)。
【0056】
まず、ステップS5で“前進ポジションが選択されていること”が検知され、かつ、ステップS6で“車両1が前進していること”が検知される第1の場合と、ステップS5で“Rポジションが選択されていること”が検知され、ステップS6で“車両1が後退していること”が検知される第2の場合とについて説明する。第1の場合としては、前進ポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(前進)させようとしている際に、車両1が登坂(前進)する状況が挙げられる。
【0057】
第2の場合としては、Rポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(後退)させようとしている際に、車両1が登坂(後退)する状況が挙げられる。つまり、第1の場合および第2の場合は、共に、シフトポジションに対応する車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが一致していることを意味する。したがって、上記2つのいずれの場合も、ステップS7で否定的に判断されて、ステップS1に戻る。すなわち、車両1が移動しなくなる(停止できる)クリープ力まで、クリープ力を減少させる。つまり、ガソリンエンジン2のクリープトルクと、選択されているシフトポジションとは逆向きに車両1を移動させようとする力とが、釣り合う値で保持される。ここで、第1の場合に対応する“逆向き”とは“後退”であり、第2の場合に対応する“逆向き”とは“前進”である。
【0058】
これに対して、ステップS5で“前進ポジションが選択されていること”が検知され、かつ、ステップS6で“車両1が後退していること”が検知される第3の場合と、ステップS5で“Rポジションが選択されていること”が検知され、ステップS6で“車両1が前進していること”が検知される第4の場合について説明する。第3の場合としては、前進ポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(前進)させようとしている際に、車両1が降坂(後退)する状況が挙げられる。第4の場合としては、Rポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(後退)させようとしている際に、車両1が降坂(前進)する状況が挙げられる。
【0059】
この第3の場合および第4の場合は、共に、シフトポジションに対応する車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが異なることを意味している。したがって、第3の場合または第4の場合は、ステップS7で肯定的に判断されて、ステップS8を経由してリターンされる。ステップS8では、ガソリンエンジン2のクリープトルクが、ステップS7の判断前における値よりも高い値に制御される。つまり、車両1が停止できるクリープトルクの値に保持される。
【0060】
このように、図1のフローチャートにおいては、シフトポジションから判断される車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向との対応関係に基づいて、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。特に、ステップS7で否定的に判断されるとステップS11に戻り、ステップS8の制御はおこなわれない。したがって、ガソリンエンジン2から必要値以上のクリープトルクが出力されることを抑制でき、ドライバビリティが向上する。特に、燃料噴射量を制御してガソリンエンジン2のクリープトルクを制御する場合は、燃料が無駄に消費されることを回避できる。
【0061】
また、シフトポジションから判断される車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが一致するように、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。このため、車両1が発進する際に、“車両1の乗員が駆動力不足を感じて、車両1がシフトポジションに対応する向きとは逆向きに移動することを回避するために、アクセルペダルの踏み込み量を急激に増加させて、燃料が無駄に消費されること”を抑制できる。
【0062】
さらに図1の制御例では、車速が判定値未満である場合に、ガソリンエンジン2のトルクが制御される。このように、車速が判定値未満の場合には、ステップS7の判断結果に対応してガソリンエンジン2のトルクが制御されても、車両2の走行性能に及ぼす影響が少ない。したがって、乗員が違和感を違和感を持つことを回避できる。
【0063】
さらに図1の制御例では、車両1に対する乗員の制動要求が発生し、かつ、乗員が前進ポジションを選択して車両1を登坂させる向きの駆動力が発生している際に、車両1が降坂する場合は、車両1が停止できるように、ガソリンエンジン2から流体伝動装置102に入力されるトルクが高められる。したがって、車両1が停止している状態もしくは低車速にある状態から、車両1が加速して発進する場合のドライバビリティが向上する。
【0064】
さらに図1の制御例では、車両1に対する制動要求が発生し、かつ、車両1に対して乗員の加速要求が発生しておらず、かつ、乗員が前進ポジションを選択して車両1を登坂させる向きの駆動力が発生している際に車両1が降坂すると、車両1が停止できるように、ガソリンエンジン2のトルクが制御される。したがって、車両2の発進に際して、乗員が駆動力不足を感じて急激にアクセルペダルを踏み込む事態を未然に回避できる。
【0065】
ここで、図1の制御例に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1が、この発明の制動要求判断手段に相当し、ステップS3が、この発明の車速判断手段に相当し、ステップS4が、この発明の加速要求判断手段に相当し、ステップS5,S6,S7が、この発明の移動判断手段に相当し、ステップS8が、この発明のトルク制御手段に相当する。
【0066】
図3は、図2の車両1に適用される詳細な制御例を示すフローチャートである。図3の制御例は、請求項2の発明に対応する。図3のステップS11の内容は、図1のステップS1の内容と同じである。このステップS11で肯定的に判断された場合は、実際の車速が基準車速α[km/h]未満であるか否かが判断される(ステップS12)。なお、基準車速αはエンジンコンピュータ3に予め記憶されている。このステップS12で否定的に判断された場合はステップS11に戻る。
【0067】
これに対して、ステップS12で肯定的に判断された場合はステップS13に進む。このステップS13の内容は、図1のステップS4の内容と同じであり、ステップS13で否定的に判断された場合はステップS12に戻る。一方、ステップS13で肯定的に判断された場合は、前進ポジションが選択されているか否かが判断される(ステップS14)。
【0068】
このステップS14で肯定的に判断された場合は、車両1が登坂する向きにあり、かつ、後退(降坂)しているか否かが判断される(ステップS15)。このステップS15で否定的に判断された場合は、ステップS11に戻る。すなわち、ガソリンエンジン2のクリープトルクが、ステップS15の判断前の値に保持される。これに対して、ステップS15で肯定的に判断された場合は、ガソリンエンジン2のクリープトルクを、ステップS15の判断前の値よりも高める制御をおこない(ステップS16)、ステップS11に戻る。
【0069】
前記ステップS14で否定的に判断された場合は、Rポジションが選択されているか否かが判断される(ステップS17)。ステップS17で肯定的に判断された場合は、車両1が降坂する向きにあり、かつ、車両1が前進(降坂)しているか否かが判断される(ステップS18)。ステップS18で肯定的に判断された場合はステップS16に進み、ステップS18で否定的に判断された場合はステップS11に戻る。なお、ステップS17で否定的に判断された場合は、非走行ポジションが選択されていることになるため、ガソリンエンジン2のクリープトルクを“零”に制御し(ステップS19)、リターンする。
【0070】
図3の制御例においても、図1の制御例と同様に、乗員が前進ポジションを選択している際に車両1が降坂すると、車両1が停止するように、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。これに対して、ステップS15で否定的に判断された場合、またはステップS18で否定的に判断された場合はステップS11に戻り、ステップS16の制御はおこなわれない。したがって、図1の制御例と同様の効果を得られる。
【0071】
さらに、図3の制御例では、ステップS17で否定的に判断された場合、つまり、ガソリンエンジン2のクリープトルクが不要な場合は、クリープトルクを“零”に制御するため、燃料が無駄に消費されることを、確実に防止できる。さらに、この他に、図3の制御例において、図1の制御例と同じ制御については、図1の制御と同じ作用効果を得られる。
【0072】
ここで、図3に示す機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS11が、この発明の制動要求判断手段に相当し、ステップS12が、この発明の車速判断手段に相当し、ステップS13が、この発明の加速要求判断手段に相当し、ステップS14,S15が、この発明の移動方向判断手段に相当し、ステップS16が、この発明のトルク制御手段に相当する。
【0073】
図4の制御例は、図2のシステムに適用される他の制御例を示すフローチャートである。図4の制御例は、請求項2、3、4の発明に対応する。まず、エコモード設定スイッチ11がオンされているか否かが判断される(ステップS21)。ステップS21で否定的に判断された場合は、そのままリターンされる。ステップS21で肯定的に判断された場合はステップS22に進む。ステップS22の内容は、図1のステップS1の内容と同じである。つまり、このステップS22では、制動要求が発生しているか否かが判断され、ステップS22で否定的に判断された場合はリターンされる。これに対して、ステップS22の判断時点で、前記ステップS1の判断と同様に、フットブレーキまたはパーキングブレーキの少なくとも一方が作動して車両1に制動力が作用していると、このステップS22で肯定的に判断されてステップS23に進む。ステップS23の内容は、図1のステップS2の内容と同じである。
【0074】
ステップS23についで、ステップS24に進む。ステップS24の内容は、図3のステップS12の内容と同じである。ステップS24で否定的に判断された場合はステップS22に戻り、ステップS24で肯定的に判断された場合は、制動要求が解消されて車両1に制動力が作用しなくなり、かつ、アクセル開度が“零”を越えたか否かが判断される(ステップS25)。このステップS25で肯定に判断された場合はステップS23に戻る。ステップS25で否定的に判断された場合は、道路勾配情報を判断する(ステップS26)。道路勾配情報は、勾配センサ、3次元ナビゲーションシステム、外部インフラストラクチュアなどから得ることができる。
【0075】
ステップS26についで、シフトポジションが判断される(ステップS27)。ステップS27についで、必要トルクが演算される(ステップS28)。必要トルクは、道路勾配に基づいて演算されるものであり、この必要トルクは、基準トルクとクリープトルクとの和に相当する。ステップS28についで、演算された必要トルクが発生するように、スロットルバルブの開度が調整されて、吸入空気量が制御される(ステップS29)。
【0076】
ステップS29についで、“制御時間”がカウンタされる(ステップS30)。制御時間とは、“制動要求が解消されてから、加速要求が発生するまでの時間”を意味している。ステップS30についで、カウントされた制御時間が、所定時間βsを越えているか否かが判断される(ステップS31)。このステップS31で否定的に判断された場合はステップS22に戻り、ステップS31で肯定的に判断された場合は、制動装置10により制動力を発生させる(ステップS32)とともに、ステップS28の制御がおこなわれて車両を停止させるために高められていたガソリンエンジン2のクリープトルクが“零”に制御される(ステップS33)。
【0077】
このステップS33についで、再度、アクセル開度が“零”を越えているか否かが判断される(ステップS34)。ステップS34で否定的に判断された場合はステップS32に戻り、ステップS34で肯定的に判断された場合は、ステップS30でカウンタされた制御時間をクリアし(ステップS35)、ステップS22に戻る。
【0078】
このように、図4の制御例においても、図1の制御例と同様に車両に対する乗員の制動要求が発生し、かつ、車両に対する乗員の加速要求が発生していない場合に、ステップS25ないしステップS31で判断される挙動制御要求に基づいて、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。したがって、図1の制御例と同様の効果を得られる。また、図4の制御例によれば、制動要求が解消されてから加速要求が発生するまでの制御時間が、所定時間βsを越えているか否かに基づいて、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。また、図4の制御例においては、制御時間が所定時間βsを越えた場合に、車両1で制動力が発生する一方、ステップS31で否定的に判断された場合は、ステップS22に戻り、ステップS32の制御はおこなわない。このように、制動要求が解消してから加速要求が発生するまでの間は、車両1の移動が制動力により規制される。さらに図4の制御例において、図1の制御例と同じ制御については、図1の制御例と同様の作用効果を得られる。
【0079】
図4のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS22が、この発明の制動要求判断手段に相当し、ステップS24が、この発明の車速判断手段に相当し、ステップS25が、この発明の加速要求判断手段に相当し、ステップS26,S27,S28,S29が、この発明のトルク制御手段に相当し、ステップS30,S31が、この発明の時間判断手段に相当し、ステップS32,S33が、この発明の制動力制御手段に相当し、ステップS30でカウンタされる制御時間が、この発明の所要時間に相当する。
【0080】
つぎに、他の制御例を図5のフローチャートに基づいて説明する。図5のフローチャートは、請求項1、2の発明に対応するものであり、まず、ステップS36で車速情報が判断される。このステップS36の内容は、図1のステップS1と同じである。このステップS36についで、ステップS37に進む。このステップS37の内容は、図1のステップS3と同じである。ステップS37で否定的に判断された場合は、ステップS36に戻り、ステップS37で肯定的に判断された場合は、アクセル開度情報が判断される(ステップS38)。
【0081】
このステップS38についで、“実際のアクセル開度”が“判定開度もしくは判定値を越えているか否か”が判断される(ステップS39)。この判定開度もしくは判定値は、予めエンジンコンピュータ3に記憶されている。このステップS39で否定的に判断された場合はリターンされる。
【0082】
これに対して、ステップS39で肯定的に判断された場合は、シフトポジションに基づいて、車両1の移動予定方向が判断される(ステップS40)。このステップS5についで、車両1の実際の移動方向が判断される(ステップS41)。車両1の実際の移動方向は、変速機106の回転方向、または車輪103の回転方向に基づいて判断される。そして、ステップS41の判断結果に基づいて、エンジン制御の要否が判断される(ステップS42)。
【0083】
まず、ステップS40で“前進ポジションが選択されていること”が検知され、かつ、ステップS41で“車両1が前進していること”が検知される第1の場合と、ステップS40“Rポジションが選択されていること”が検知され、ステップS41で“車両1が後退していること”が検知される第2の場合とについて説明する。第1の場合としては、前進ポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(前進)させようとしている際に、車両1が登坂(前進)する状況が挙げられる。
【0084】
第2の場合としては、Rポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(後退)させようとしている際に、車両1が登坂(後退)する状況が挙げられる。つまり、第1の場合および第2の場合は、共に、シフトポジションに対応する車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが一致していることを意味する。したがって、上記2つのいずれの場合も、ステップS42で否定的に判断されてリターンされる。つまり、車両1の走行予定方向と実際の移動方向が一致した状態を確保でき、かつ、アクセル開度に対応する加速度が得られるように、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。
【0085】
これに対して、ステップS40で“前進ポジションが選択されていること”が検知され、かつ、ステップS41で“車両1が後退していること”が検知される第3の場合と、ステップS40で“Rポジションが選択されていること”が検知され、ステップS41で“車両1が前進していること”が検知される第4の場合について説明する。第3の場合としては、前進ポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(前進)させようとしている際に、車両1が降坂(後退)する状況が挙げられる。第4の場合としては、Rポジションにより発生する駆動力で、車両1を登坂(後退)させようとしている際に、車両1が降坂(前進)する状況が挙げられる。
【0086】
この第3の場合および第4の場合は、共に、シフトポジションに対応する車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが異なることを意味している。したがって、第3の場合または第4の場合は、ステップS42で肯定的に判断されて、ステップS43を経由してリターンされる。ステップS43では、車両1の走行予定方向と実際の移動方向が一致した状態を確保でき、かつ、アクセル開度に対応する加速度が得られるように、ガソリンエンジン2のクリープトルクが高められる。
【0087】
このように、図5のフローチャートにおいても、図1の制御例と同様に、乗員が前進ポジションを選択している場合に車両1が降坂すると、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。これに対して、ステップS42で否定的に判断されるとリターンされ、ステップS43の制御はおこなわれない。したがって、ガソリンエンジン2から必要値以上のクリープトルクが出力されることを抑制でき、ドライバビリティが向上する。特に、燃料噴射量を制御してガソリンエンジン2のクリープトルクを制御する場合は、燃料が無駄に消費されることを回避できる。
【0088】
また、シフトポジションから判断される車両1の移動予定方向と、車両1の実際の移動方向とが一致するように、ガソリンエンジン2のクリープトルクが制御される。このため、車両1が発進する際に、“車両1の乗員が駆動力不足を感じて、車両1がシフトポジションに対応する向きとは逆向きに移動することを回避するために、アクセルペダルの踏み込み量を急激に増加させて、燃料が無駄に消費されること”を抑制できる。
【0089】
さらに図5の制御例では、車速が判定値未満である場合に、ガソリンエンジン2のトルクが制御される。このように、車速が判定値未満の場合には、ステップS42の判断結果に対応してガソリンエンジン2のトルクが制御されても、車両2の走行性能に及ぼす影響が少ない。したがって、乗員が違和感を違和感を持つことを回避できる。
【0090】
さらに図5の制御例では、車両1に対する乗員の加速要求が発生した場合に、ガソリンエンジン2のトルクが制御される。したがって、車両1が停止している状態もしくは低車速にある状態から、車両1が加速して発進する場合のドライバビリティが向上する。
【0091】
ここで、図5の制御例に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS37が、この発明の車速判断手段に相当し、ステップS39が、この発明の加速要求判断手段に相当し、ステップS40,S41,S42が、この発明の移動方向判断手段に相当し、ステップS43が、この発明のトルク制御手段に相当する。
【0092】
つぎに、実施例の各制御の少なくとも一つをおこなった場合における消費燃料積算量と、比較例の制御をおこなった場合における消費燃料積算量とを、図6および図7の線図により比較する。比較例の制御とは、挙動制御要求および実際の車両の挙動に関わりなく、クリープトルクを一定に設定する制御である。図6および図7において、実施例に対応する消費燃料積算量が実線で示され、比較例に対応する消費燃料積算量が一点鎖線で示されている。なお、図6と図7とでは、車両が位置する道路の勾配角度が異なる。図6および図7に示すように、実施例に相当する消費燃料積算量の方が、比較例に相当する消費燃料積算量よりも少ないことが確認されている。
【0093】
なお、図1、図3、図4、図5の各制御例は、図8のシステムに対しても適用できる。ここで、駆動力源101が電動機を有している場合は、図1、図3、図4、図5の各制御例において、エンジントルクではなく電動機のトルクが制御される。
【0094】
【発明の効果】
以上のように請求項1の発明によれば、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が降坂した場合は、車両が登坂路を登坂して加速要求に対応した加速度が得られるように、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクが高められる。したがって、車両が登坂路を登坂してドライバビリティが向上する。また、車両の移動速度が所定車速未満であるため、駆動力源のトルクが変化しても、車両の走行性能に及ぼす影響が相対的に少なく、車両の乗員が違和感を持つことを回避できる。一方、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に車両が登坂していると判断された場合は、車両が登坂路で登坂して加速要求に対応した加速度が得られるように駆動力源から流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御はおこなわない。したがって、駆動力源の駆動に必要なエネルギが無駄に消費されることを抑制できる。
【0095】
また、請求項1の発明によれば、車両の移動速度が所定車速未満である場合に、駆動力源のトルクが制御される。このように、車両の移動速度が所定車速未満の場合は、駆動力源のトルクが変化しても、車両の走行性能に及ぼす影響が相対的に少ない。したがって、車両の乗員が違和感を持つことを回避できる。
【0098】
請求項2の発明によれば、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していないと判断され、かつ、制動要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に、車両が降坂した場合は、駆動力源から流体伝動装置に伝達されるトルクが高められる。したがって、車両が停止しドライバビリティが向上する。一方、車両の移動速度が所定車速未満であると判断され、かつ、加速要求が発生していないと判断され、かつ、制動要求が発生していると判断され、かつ、車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に車両が登坂していると判断された場合は、駆動力源から流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなわない。したがって、駆動力源の駆動に必要なエネルギが無駄に消費されることを抑制できる。
【0101】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、車両に対する乗員の制動要求が解消されてから、車両に対する乗員の加速要求が発生するまでの所要時間が、所定時間を越えている場合に、車両で制動力が発生するとともに、車両を停止させるように駆動力源から流体伝動装置に入力されていたトルクを零に制御する。このため、制動要求が解消されてから加速要求が発生するまでの間は、制動力により車両の移動が規制される。したがって、駆動力源のトルクが必要以上に高まることを一層抑制でき、かつ、駆動力源の駆動に必要なエネルギの浪費を、一層確実に抑制できる。
【0102】
請求項4の発明によれば、請求項2または3の発明と同様の効果を得られる他に、駆動力源のトルクが必要以上に高められることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一制御例を示すフローチャートである。
【図2】 この発明の制御を適用可能な車両の構成を示すブロック図である。
【図3】 この発明の他の制御例を示すフローチャートである。
【図4】 この発明の他の制御例を示すフローチャートである。
【図5】 この発明の他の制御例を示すフローチャートである。
【図6】 この発明の実施例に対応する消費燃料積算量と、比較例に対応する消費燃料積算量とを比較する線図である。
【図7】 この発明の実施例に対応する消費燃料積算量と、比較例に対応する消費燃料積算量とを比較する線図である。
【図8】 この発明の基本的な原理を示すブロック図である。
【符号の説明】
1,100…車両、 2…ガソリンエンジン、 3…エンジンコンピュータ、10,114…制動装置、 101…駆動力源、 102…流体伝動装置、 112…駆動力源制御用コンピュータ。
Claims (4)
- 流体伝動装置に入力される駆動力源のトルクを制御する車両用駆動力源のトルク制御装置において、
前記駆動力源および前記流体伝動装置が搭載されている車両の移動速度が、予め定められた所定車速未満であるか否かを判断する車速判断手段と、
前記車両に対する乗員の加速要求が発生しているか否かを検知する加速要求判断手段と、
前記駆動力源のトルクを前記流体伝動装置を経由させて車輪に伝達して前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションを前記車両の乗員が選択している際に、前記車両が登坂しているか降坂しているかを判断する移動方向判断手段と、
前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が降坂していると判断された場合は、前記車両が登坂路を登坂して前記加速要求に対応した加速度が得られるように、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなう一方、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が登坂していると判断された場合は、前記車両が登坂路を登坂して前記加速要求に対応する加速度が得られるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなわないトルク制御手段と
を備えていることを特徴とする車両用駆動力源のトルク制御装置。 - 流体伝動装置に入力される駆動力源のトルクを制御する車両用駆動力源のトルク制御装置において、
前記駆動力源および前記流体伝動装置が搭載されている車両の移動速度が、予め定められた所定車速未満であるか否かを判断する車速判断手段と、
前記車両に対する乗員の加速要求が発生しているか否かを検知する加速要求判断手段と、
前記車両に対する乗員の制動要求が発生しているか否かを判断する制動要求判断手段と、
前記駆動力源のトルクを前記流体伝動装置を経由させて車輪に伝達して前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションを前記車両の乗員が選択している際に、前記車両が登坂しているか降坂しているかを判断する移動方向判断手段と、
前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していないと判断され、かつ、前記制動要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が降坂していると判断された場合は、前記車両を停止させるように、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなう一方、前記車両の移動速度が前記所定車速未満であると判断され、かつ、前記加速要求が発生していないと判断され、かつ、前記制動要求が発生していると判断され、かつ、前記車両を登坂路で登坂させる向きの駆動力を発生させるシフトポジションが選択されている際に前記車両が登坂していると判断された場合は、前記車両を停止させるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御をおこなわないトルク制御手段と
を備えていることを特徴とする車両用駆動力源のトルク制御装置。 - 前記トルク制御手段により、前記車両を停止させるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める制御がおこなわれているときに、発生している制動要求が解消して前記車両に制動力が作用しなくなってから、前記車両に対する乗員の加速要求が発生するまでの所要時間をカウントするとともに、その所要時間が予め定められた所定時間を越えたか否かを判断する時間判断手段と、
前記所要時間が所定時間を越えた場合は、前記車両で制動力を発生させ、かつ、前記車両を停止させるように前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されていたトルクを零に制御する制動力制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動力源のトルク制御装置。 - 前記トルク制御手段は、前記車両が位置する場所の勾配が所定値以下であるときに、前記駆動力源の回転数が低下することなく補機装置を駆動するための基準トルクを設定し、前記車両が降坂することを抑制するためのトルクを加算することにより、前記駆動力源から前記流体伝動装置に入力されるトルクを高める手段を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の車両用駆動力源のトルク制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001223634A JP4780867B2 (ja) | 2001-07-24 | 2001-07-24 | 車両用駆動力源のトルク制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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