JP4778940B2 - 光情報再生方法及び光情報再生装置 - Google Patents

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Description

本発明は大容量光ディスク技術に係り、当該大容量光ディスクに記録された情報を再生するために最適な光パワーを決定するための再生方法、最適な光パワーを決定して情報を再生する再生装置、さらに最適な光パワーが記録された情報記録媒体に関する。
これまで、大容量情報記録技術として、単位面積内により多くの情報を格納することのできる高密度光記録技術の研究開発が進められてきた。現在製品化されている光ディスク技術では、レーザ光をディスク上にレンズで集光し、ディスク上に記録されたデータの再生及び/又は記録が行われている。データを高密度化するために、これまでは、集光したレーザスポットのサイズを小さくする技術が開発されてきた。スポットサイズは、光源の波長をλ、対物レンズの開口数をNAとすると、λ/NAに比例することが知られている。即ち、光源の波長を小さく、レンズのNAを大きくすることによって、ディスク1枚に格納される情報量の大容量化が進められてきた。ここで光源の波長、対物レンズのNA、直径12cmのディスクに格納されるデータの容量の組を、(波長, NA, 容量)と書くとすると、CDでは(780nm, 0.5, 650MB)、DVDでは(650nm, 0.6, 4.7GB)である。また、青色レーザ光源を用いた技術では2通りの組が提案されており、それらは(405nm, 0.85, 25GB)、(405nm, 0.65, 20GB)である。この記録容量で、高精細TV画像のデータを約2時間記録することができる。
しかしながら、例えば放送局などの業務用システムやセキュリティシステムへの用途としては、上述の記録容量では不足であり、例えばディスク1枚で100GB以上の容量が要求されている。また、数10年から100年程度の長期保存が望まれる画像データなどは、その大量のデータを格納する媒体の保管場所の関係上、なるべく多くのデータを1枚のディスクに記録することが望まれる。その要求される容量は数100GBから1TB以上である。
それに対して、上述の方法によって更なる大容量化を達成することは困難であると言われている。まず、光源の短波長化は、光源である半導体レーザの開発が非常に困難であり、また半導体レーザが開発されたとしても、その光源は紫外光であるため、ディスク基板や保護膜が光を吸収するようになってしまい、良好な記録再生品質を確保することが困難であると予想される。対物レンズのNAを大きくする研究は現在進められており、例えば、非特許文献1において、NAを1.8とした場合の技術が報告されている。しかしこのシステムでは、記録再生に用いる光が通常の伝播光ではなく、近接場光と呼ばれる、レンズに局在する光であるため、レンズをディスク表面に非常に接近させ、かつその両者の距離を保ったまま、レンズがディスク上を移動する機構を有する必要がある。このようなシステムは磁気記録のハードディスク技術に類似しており、光ディスクの利点であるディスクの交換が困難となる。
上述の背景から、ディスクに何らかの機構を設けることによって、実効的に光学分解能を向上させる方法が提案されている。これをここでは、超解像技術と呼ぶことにする。
非特許文献2には、相変化記録膜を用いた超解像技術が報告されている。通常、相変化記録膜はCD-RW、DVD-RAM、DVD±RW、Blu-ray Discなどの書換え型ディスクの記録膜に用いられるが、ここではこの記録材料を記録膜として用いるのではなく、上記の光磁気ディスクにおける再生層と同様、光学分解能を実効的に向上させる層として用いる。このような層(膜)をここでは超解像層(膜)と呼ぶ。この際、ディスクに記録されたデータは、ここで言う超解像層ではなく、他の場所に記録されている。例えば再生専用(ROM)ディスクであれば、基板上に凹凸形状として記録されており、記録型ディスクであれば、ここで言う超解像層以外に記録膜が設けられており、その記録膜にデータを記録することになる。典型的な例として、データが記録されている層と超解像層とは、照射されるビームの焦点深度内に同様に設けられているが、その層間距離は数10〜数100nmである。この手法では、再生専用(ROM)ディスクに相変化記録膜をスパッタによって製膜し、再生時に相変化記録膜の一部を融解する。ディスクの反射率が、融解した部分の方が十分に高ければ、再生信号のうち、融解した部分から得られる信号が支配的になる。即ち、相変化膜が融解した部分が実効的な再生光スポットとなる。融解部分の面積は光スポットよりも小さいので、再生光スポットが縮小したことになり、光学分解能が向上する。
この手法の考え方を更に進めて、相変化材料のピットを作製し、再生時に単一ピットを融解することによって超解像効果を得る方法が、特許文献1に提案されている。この提案では、相変化エッチング法を用いて相変化材料のピットを作製している。相変化エッチング法とは、相変化膜の結晶部分とアモルファス部分とのアルカリ溶液に対する溶解度が異なることを利用して、相変化マークのパターンを凹凸に変えることによって加工を行う技術である。この方法では、マーク部のみに超解像効果を示す物質が存在し、スペース部は光を吸収する必要がないため、1層の光学透過率を高めることができ、多層技術と超解像技術との組合せが可能となる。この方法で2層超解像ディスクを実現した例が、非特許文献3に報告されている。この方法をピット型超解像方式と呼び、前述のように超解像薄膜が2次元で連続的に製膜されている場合を薄膜型超解像方式と呼ぶことにする。
更に、上述したピット型超解像方式を用いて、超解像技術に共通な課題であった常解像クロストークを抑制する方法が考えられる。常解像クロストークについて以下に説明する。通常、超解像方式では、上述したように光スポットの中心付近に形成される高温領域を実効スポットとして光学分解能の向上を図っている。この場合、実際には低温領域にも光は照射されているため、媒体から反射して光検出器に入射する光信号は、低温領域内に存在する記録マークの影響も含んでいる。超解像方式において、望ましい信号は高温領域のみにおいて得られる光信号であり、これを超解像信号と呼ぶ。低温領域からの信号は超解像信号とは異なった周波数特性を有し、かつ、ランダムデータ列を再生する際には、この超解像信号にランダムな影響を及ぼすため、再生信号を撹乱する要素となる。ここではこの低温領域から発生する信号を常解像クロストークと呼ぶ。
この常解像クロストークは、例えば以下に示す方法で抑制することができる。ここではROMディスクを例に挙げて説明する。ディスクの最終形態は非特許文献1に記載されているように、ディスク基板の凹部分である記録マークにのみ超解像膜が埋め込まれた形態である。この形態は、製膜後にディスクを化学機械研磨することによって可能となる。ここで、ディスクの膜構成を設計する際に、記録マーク部分とスペース部分との複素反射率が等しくなるようにしている。このようにすると、入射したレーザ光に対して、マークとスペースとはまったく同じ光学特性を有するので、例えマークが存在してもドライブ(情報再生装置)では信号が得られないが、超解像現象によってマーク部分の光学特性が変化すると、再生信号が得られることになる。すなわち、超解像現象が生じた場合にのみ再生信号が得られるため、結果として常解像クロストークが抑制されることになる。このことによって、トラック内、トラック間の両方で常解像クロストークが抑制されるので、トラック密度を向上することも可能となる。
この時に課題となるのは、トラッキングを行うためのトラッキングエラー信号を得る方法であると考えられる。例えば、現在広く用いられているトラッキング方法であるプッシュプル方式では、トラック溝やピットのエッジにおいて、スポット進行方向の左右に発生する回折光強度の強度差(プッシュプル信号)を検出し、その差が有限であった場合にはトラック中心とスポット中心とがずれていると判断して、スポット位置を補正する。この方法では、トラック密度を向上させた場合、回折効率が低下することにより、上記のプッシュプル信号量が低下し、プッシュプル信号の信号−雑音比(SNR)が低下し、トラッキングエラーを引き起こす原因となる。
この課題は、上述した常解像クロストークを抑制した媒体を用い、超解像状態によって発生したプッシュプル信号を用いてトラッキングを行うことによって解決される。上述の常解像クロストークを抑制した媒体では、非超解像状態ではプッシュプル信号が得られないが、超解像状態でマーク部分とスペース部分との光学位相差があれば、プッシュプル信号を得ることができる。更にこの場合、唯一のマークからのプッシュプル信号が得られるから、トラックピッチが小さい場合でも、回折効率の低下の問題は発生しない。
超解像で高品質な再生信号を得るためには、超解像領域を最短マーク長と第2最短マーク長との間の大きさにすることが望ましい。ここで第2最短マーク長とは、媒体上に記録するデジタル化されたマークにおいて、2番目に短いマークのことを示す。超解像領域の大きさは、再生レーザパワーを調節することによって制御が可能である。なぜならば、例えば再生レーザパワーを高上すると、高温である超解像領域が大きくなり、パワーを低減すると超解像領域は小さくなるからである。再生レーザパワーの調整方法が、例えば特許文献1に記載されている。その方法では、媒体上に予め決められたパターンのマークを記録しておき、そのマークを超解像で再生し、その再生信号のビットエラー率が最小になる再生パワーを決定する。
特開2006-107588号公報 Japanese Journal of Applied Physics第42巻1101頁〜1104頁 Japanese Journal of Applied Physics第32巻5210頁〜5213頁 Japanese Journal of Applied Physics第45巻2593頁〜2597頁 Japanese Journal of Applied Physics第46巻3917頁〜3921頁
上述したように、常解像クロストークを抑制した媒体では、超解像領域から得られるプッシュプル信号を用いてトラッキングサーボを行う。この場合、得られるプッシュプル信号の振幅は、超解像領域の媒体半径方向のサイズに強く依存する。ここでは、トラックは従来の光ディスクと同様に、円形媒体の中心から螺旋状に形成されていると仮定しており、媒体半径方向とはトラックに略垂直な方向を意味する。しかし本発明は螺旋状トラックに限らず、同心円トラックなどにも適用可能である。
例えば超解像領域が媒体半径方向に長くなり、隣接トラック上においても超解像現象を起こした場合は、その隣接トラック上のマークからも回折が起こる。この場合に得られるプッシュプル信号は、通常の光ディスクにおいて、小さなトラックピッチの基板から得られるプッシュプル信号と同等の振幅を持つので、その振幅は安定なトラッキングサーボを行うためには不十分である。
超解像領域の媒体半径方向の大きさは、トラック方向の大きさと同様に、再生レーザパワーで決まるが、その大きさはトラック方向の大きさとは同一ではなく、媒体の熱的特性、媒体回転速度などに依存する。特許文献1の再生レーザパワー調整方法は、トラック方向の超解像領域の大きさを調整することには有効である。媒体半径方向の超解像領域の大きさが極端に大きくなると、再生信号に隣接トラックの信号が重畳され、ビットエラー率は高上するが、トラックエラー信号の品質と再生信号の品質とのどちらが超解像領域の媒体半径方向の大きさにより大きく依存するかは、媒体設計などに依存し、自明ではない。
このため、トラック方向と媒体半径方向との両方の超解像領域の大きさを同時に制御し、再生信号とトラックエラー信号との両方の品質を高めるための、再生レーザパワーの調整方法が必要であった。
本発明では、媒体上にレーザビームの焦点を結び、フォーカシングサーボを行った後、トラッキングサーボを行う前に、光検出器において検出される信号を観察しながら、再生レーザパワーを決定することによって、上記課題を解決することができる。
トラッキングサーボを行わない状態では、光スポットはトラックを横切り、ある瞬間にはトラック中心、ある瞬間にはトラック間中心に存在する。光スポットがトラック中心やトラック間中心に存在する場合の、マークの配置と超解像領域の大きさとの関係を、図2に模式的に示す。更に、レーザパワーの大きさとクロストラック信号のエンベロップの上レベルと下レベルを再生レーザパワーで除算した値との関係を図1(a)に示す。ここでクロストラック信号とは、トラッキングサーボを行わない状態でレーザビームがトラックを横切った際に、光検出器において得られる総信号量の変化分を示す。また、クロストラック信号振幅を再生パワーで除算した値と再生レーザパワーとの関係を図1(b)に示す。図1の横軸は、超解像が起こる最小レーザパワーで規格化した値を示している。また縦軸は、超解像が起こっていない状態での再生信号レベルで規格化した値を示している。ここで用いたディスクでは、超解像が起こると信号レベルが下がる特性を有している。
ここで用いたドライブのレーザ波長と対物レンズの開口数とはそれぞれ405nm、0.85である。また、ここで用いたディスクは前述の常解像クロストークを抑制するように設計され製造されたROMディスクである。記録ピットの時間窓幅Twは25nmであり、用いた変調符号は1-7PPである。即ち、最短マーク長が50nmである。
図1の特徴から、レーザパワーに対して3つの領域に分けることができる。その領域の境界のレーザパワーをP1、P2、P3とした。P1は超解像が起こる最小レーザパワーであり、P1を下回るレーザパワーでは信号は得られない。
レーザパワーをPとしたとき、P1≦P≦P2、P2<P<P3、P3≦Pのレーザパワーの範囲におけるマークと超解像領域との関係の概念図を図2に示す。図2では、光スポットの中心がトラック中心にある場合、またはトラック間中心にある場合を示している。図中に示される超解像領域のサイズは、レーザパワーPの増大と共に大きくなっている。図2では、それぞれのレーザパワーの範囲にある特定のレーザパワー値における超解像領域のサイズを、模式的に示している。
なお、レーザパワーPがP<P1のとき、超解像現象は起こっておらず、さらにここで用いたディスクは常解像クロストークが抑制されているため、得られる信号にはほとんど変化がない。すなわち、エンベロップの上レベルも下レベルも同じである。
P1≦P≦P2のレーザパワー範囲では、超解像領域のサイズが最短マークのサイズよりも小さい状態である。スポット中心がトラック間中心にある場合は、超解像領域がマークと重ならないため、クロストラック信号の上レベルは超解像が起こらない状態の信号レベル、即ち1である。再生パワー(再生のためのレーザパワー)が大きくなると、超解像領域のサイズが大きくなり、それに伴って超解像信号が大きくなるため、クロストラック信号の下レベルは下がる。その結果、クロストラック信号の振幅は再生パワーと共に増大する。
P2<P<P3のレーザパワー範囲では、超解像領域のサイズが、最短マークのサイズ、トラックピッチの半分のサイズ、のいずれか一方または両方よりも大きく、スポット中心がトラック間中心にある場合には、その両側のトラック上のマークで超解像が起こり、スポット中心がトラック中心にある場合には、符号間干渉が起こる。このことにより、クロストラック信号の上レベルは下がる。クロストラック信号の下レベルは、P1≦P≦P2の時と同じ理由で下がる。この結果、クロストラック信号の振幅は、再生パワーに大きく依存しない。
P3≦Pのレーザパワー範囲では、光スポット中心がトラック中心にある場合、超解像領域は隣接トラックにまで到達し、超解像領域内に存在するマーク面積が増大するため、クロストラック信号の下レベルの再生パワーに対する変化は、レーザパワー範囲がP2<P<P3の場合よりも急激になる。クロストラック信号の上レベルは、P2<P<P3の時と同様に変化する。このため、クロストラック信号の振幅は、再生パワーに対して増大する。
超解像再生において重要なことは、高品質な再生信号と十分なトラックエラー信号とを得ることである。この2つを同時に満たすためには、レーザパワーの範囲がP2<P<P3の領域であることが望ましい。なぜならば、単一のトラックで超解像現象が起こっており、かつ超解像領域のサイズが大きいため、大きな信号振幅を得ることができるからである。ただし、符号間干渉が発生するために、P2<P<P3のレーザパワー範囲の中で、ドライブの再生系が許容できる範囲の再生パワーに設定することが望ましい。また、トラッキングサーボをプッシュプル方式で行う場合にも、P2<P<P3のレーザパワー範囲内では、隣接トラックからの回折光が発生しないため、単一マークからの回折によるプッシュプル信号を用いたトラッキングサーボを実現することができる。
上述のように、クロストラック信号を観測することによって、高品質な再生信号とトラックエラー信号とを得ることのできる適切な再生パワーを設定することができる。
ここで、レーザパワーの範囲の区切りをP2≦P≦P3としないでP2<P<P3とした理由について説明する。P=P2、P=P3の状態では、レーザパワーの範囲を区切る境界になるため、レーザパワーPは理論的には隣り合うどちらの範囲に属してもよいことになるが、ドライブ(光情報再生装置)にはレーザパワーのノイズやディスクの感度ムラが存在するため、P2≦P≦P3と設定すると、ある領域ではP=P2、P=P3であるにもかかわらず、P2≦P≦P3以外の範囲を示す信号が得られることがある。このことによる不具合は、レーザパワーの範囲の区切りをP2<P<P3と設定することで解決できる。
実際のドライブにおいては、クロストラック信号からP2とP3のパワー値を同定する方法は複数ある。例えば、クロストラック信号の上レベルと下レベルの再生パワーに対する微分係数を同時に観測する方法である。ドライブにおいて、初期再生パワーの値をP2以下に設定し、再生パワーをその値から上昇させる。そこから上レベルの微分係数が負になる点を同定する。この値がパワーP2である。更に再生パワーの値を上昇させ、下レベルの微分係数が変化する点を同定する。この値がパワーP3である。
また、クロストラック信号の振幅の再生パワーに対する微分係数を観測して、その微分係数が小さくなる領域を同定することによって、P2、P3の各パワー値を決めることもできる。上記微分係数は、それに該当するものであってもよい。例えば、2つの異なるパワーで得られた信号量の差を、2つのパワーの差で割ったものなどが相当する。
上記方法では、クロストラック信号のみに着目したが、これと同時にトラックエラー信号も観測し、その振幅から、更に再生パワーの範囲を狭めることも可能である。
上記方法でレーザ、ドライブ、ディスクのノイズによって発生するクロストラック信号の揺らぎの影響を低減するために、上記微分係数を算出するために用いる信号レベルを、各再生パワーでの信号レベルの平均値とすることも可能である。そのために、各再生パワーで信号を取得する時間を、ディスク回転速度、ノイズの周波数などに依存して決定することも可能である。
超解像方式では、再生光をディスクに照射することによってディスク内に発生する熱を利用するが、再生パワーが大きいと、ディスク内の温度が高くなり、ディスク上に形成されている薄膜を劣化させる可能性がある。これを回避するためには、上記の手段において、再生パワーの上限を予め決めておくことも可能である。そのためには、例えばディスク上の所定の領域に再生パワーについての情報を予め記載しておくことも可能である。その情報は、許容される最大再生パワー値として、P2、P3などが可能である。
光学分解能を超えた微小マークの再生を可能とすることによって記録データの高密度化・大容量化を実現する超解像再生技術に対して、高品質な再生信号とトラッキング信号とを得るための再生レーザパワーを決定することができる。
実施例の第1形態として、クロストラック信号のエンベロップの上下レベルを観測する場合について説明する。
まずディスクの作製方法を以下に述べる。ここではROMディスクの場合について説明する。ROMディスクを作製するために、電子線描画装置を用いてデータを記録した。シリコン基板上に電子線レジストを100nmの厚さで塗布した。その基板を回転させながら、記録データに対応するパターンを電子線によって描画した。ここで用いた変調符号は、時間窓幅25nmの1-7PPであり、最短マーク長は50nmである。マーク幅は100nmとし、トラックピッチは200nmとした。記録データは、図1中に示したP2とP3の値を含む。このデータを、ディスクの中心から半径24mmと58mmの領域に記録した。更に、ディスク半径25mm〜25.5mm、57.5mm〜58mmにおいて、予め決められたデータ列を記録した。
描画後の基板を現像し、電子線を照射した箇所のレジストを除去した。その後、反応性イオンエッチングを用いてシリコンをエッチングした。このことにより、レジストが除去された箇所、即ち電子線を照射した箇所のみにピットが形成された。反応性イオンエッチングの時間を制御し、そのピットの深さを50nmとした。その後、基板上に残ったレジストを溶解した。
この基板のレプリカをNiメッキによって作製した。これをスタンパとし、溶解したポリカーボネートを流し込み、ポリカーボネートを冷却して固めることにより、記録データに対応するピットが形成されたポリカーボネート基板を作製した。
このポリカーボネート基板上にAl2O3、GeSbTe、GeNをスパッタによって製膜した。そのディスクのスペース部分のGeSbTeとCr2O3を研磨することにより、ピット内にはAl2O3、GeSbTe、GeN、スペース部分にはAl2O3のみを残した。研磨した領域は、ディスク半径25mmから57mmである。その後GeNをスパッタによって製膜した。その表面に厚さ0.1mmのポリカーボネートシートを貼り付けた。
上記ディスクでは、超解像が起こらない状態において、波長405nmの光に対する反射率と光学位相とが、スペースとピットとで同じになるようにした。このことは、予め光学干渉を考慮した反射率と光学位相の計算を行い、薄膜の膜厚を決定することによって実現した。
このディスクを図3に示す構成のドライブで再生した。半導体レーザ301からが出射されたレーザ光が、レンズ302で平行光になる。この平行光は偏光ビームスプリッタ303を通過する。この時、半導体レーザ301から出射されたレーザ光は直線偏光であるが、偏光ビームスプリッタ303を完全に通過する偏光方向になるように、偏光ビームスプリッタ303の方向を調整しておく。レーザ光はλ/4板304で円偏光に変換され、ミラー305、対物レンズ306を介して、スピンドル314によって回転しているディスク307上に焦点を結ぶ。ディスクからの反射光は対物レンズ306、ミラー305を介して、λ/4板304で直線偏光になるが、それはレーザ301から出射した時の偏光方向とは90°異なる方向である。よってこの光が偏光ビームスプリッタ303に入射すると、光路は90°曲げられる。この光はハーフミラー308で2つに分けられ、一方はフォーカスサーボ信号検出器310へ、他方はミラー309で光路を曲げられて再生信号・トラッキング信号検出器311に入射する。両者の検出器からの出力信号は信号処理・制御システム312に入力される。この信号処理・制御システム312は、検出器310、311から送られるオートフォーカスサーボ信号とトラッキングサーボ信号を処理し、レンズの位置を補正するための信号をアクチュエータ313に送る。このドライブにおいては、信号処理・制御システム312以外の部分は、従来のドライブの構成と同様であってかまわない。信号処理・制御システム312に、再生パワーの決定機構を搭載した。このドライブにおけるレーザの波長は405nm、対物レンズの開口数は0.85とした。
ディスクをドライブにマウントし、ディスクを線速度5m/sで回転し、パワー0.5mWのレーザをディスクに照射し、フォーカシングサーボをかけ、光スポットをディスクの中心から半径24mmの位置へ移動し、その領域に記録されているP2とP3の値を読み取った。P2とP3の値はそれぞれ2.4mW、2.8mWであった。
次にデータを再生する位置に光スポットを移動した。その後、トラッキングサーボをかけない状態で再生パワーを2.2mWから3.0mWに0.05mW刻みで変化させた。それぞれの再生パワーにおいて100μsの間、検出器上で総信号量を取得した。これはクロストラック信号に相当する。ここで、信号は2.5ns毎に一度取得した。即ち、1つの再生パワーで40000ポイントの信号を取得した。この40000ポイントのデータから信号のエンベロップを算出した。これが上レベルと下レベルとに相当する。上レベルと下レベルのそれぞれの平均値を算出した。これをその再生パワーの上レベルと下レベルとした。次に、再生パワーPnと、その次に高い再生パワーPn+0.05mWの上レベルをそれぞれVu(n)、Vu(n+1)として、{Vu(n+1)−Vu(n)}/0.05を求めた。下レベルに対しても同様の計算を行った。これをここでは各信号の微分係数と定義する。
上記再生パワーの範囲で上レベルと下レベルの微分係数の再生パワー依存性を観測したところ、上レベルの微分係数は2.3mW以下では略0であったが、それ以上で負の値を示し、その値は再生パワーに対して殆ど変化しなかった。また、下レベルの微分係数は全て負の値であったが、2.35mW以上でほぼ一定の値を示し、2.75mW以上で再び変化した。
以上のことから、P2は2.3mW付近、P3は2.75mW付近と判断した。再生パワーを2.3mWに設定し、光スポットをディスク中心から半径25.3mmの位置へ移動し、トラッキングサーボをかけた。次に、再生パワーを2.3mWから2.75mWの間で、0.05mWの刻みで上昇させながら予め決められたデータ列を再生し、その再生エラー率(ビットエラー率)を測定し、ビットエラー率が最小になる再生パワーをこのディスクの最適再生パワーと決定した。
次に、実施例の第2形態について説明する。ここでは、クロストラック信号の振幅を観測する手段について述べる。
ディスクは第1形態と同じ方法で作製した。また、ドライブの構成も、図3の信号処理・制御システム312以外は第1形態と同じである。
第1形態と同じようにドライブ内でディスクを回転し、ディスク上に記録されているP2とP3の値に関するデータを読み取った後、予め規定のデータ列で記録した箇所に光スポットを移動した。
クロストラック信号を第1形態と同様に取得し、信号処理・制御システム312においてその振幅を算出した。第1形態と同様に、再生パワーを2.0mWから3mWまで、0.05mW間隔で刻んで上昇させた場合のクロストラック信号振幅の微分係数を算出した。ここで微分係数は、第1形態と同様に、再生パワーPnと、その次の再生パワーPn+0.05mWの振幅をそれぞれdV(n)、dV(n+1)とすると、{dV(n+1)−dV(n)}/0.05を計算することによって求められた。上記微分係数の全ての値を、再生パワー2.2mW時におけるクロストラック信号の上レベルの信号レベルVu(2.2mW)で規格化した。
上記規格化された微分係数と再生パワーとの関係のデータ列において、予め所望の値以下になる再生パワー領域を同定した。この所望の値dVthを0.04とした。この理由は、図1(b)において、P1<P<P2、P3≦Pの領域における規格化された微分係数がそれぞれ0.09、0.055であり、その値から小さくなった領域を同定することを目的としたからである。ノイズや測定誤差を考慮して、dVthを0.04とした。この領域の最小及び最大再生パワーはそれぞれ、2.4mW、2.8mWであった。
その後は第1形態と同様、トラッキングサーボをかけ、再生パワーを2.4mWから2.8mWの間隔で0.05mWずつ刻みながら上昇させ、予め規定したデータ列のビットエラー率と再生パワーとの関係を測定し、ビットエラー率が最小になる再生パワーを最適再生パワーとした。
続いて、第3形態について説明する。第2形態において得られたクロストラック信号の振幅の微分係数から2次微分係数を算出する方法について述べる。
第2形態において、クロストラック信号の振幅の微分係数を求める箇所までは同じ動作とした。その微分係数を更に微分した。即ち、n個目の微分係数をdV(n)とし、それよりも1ステップ大きな差異性パワーに対する微分係数をdV(n+1)とすると、{dV(n+1)−dV(n)}/0.05を求めた。このことにより、算出された2次微分係数は、微分係数が変化する点、即ち、図1(b)におけるP2付近、P3付近においてゼロから大きく異なる値を示し、P1、P2、P3を同定することができた。正確には、このゼロから大きく異なる再生パワーは広がりを持つので、最もゼロから遠い値を示した再生パワーをP2、P3とした。このことにより、P2、P3を2.35mW、2.75mWと決定した。
そして、第4形態について説明する。ここでは、第3形態に加えて、プッシュプル信号を検出することを併用した場合について述べる。
第3形態においてP2、P3を同定するために再生パワーを上昇させながらクロストラック信号を検出する過程において、それと同時にプッシュプル信号を検出した。ここで述べるプッシュプル信号とは、総信号量で規格化した値である。ここで用いたドライブでは、プッシュプル信号の振幅が1.5V以上であればトラッキングサーボが十分に安定することがわかっているが、プッシュプル信号振幅が1.5V以上になる再生パワーは2.45mW以上2.7mW以下であった。
2.45mWでトラッキングサーボをかけ、再生パワーを0.05mW刻みで2.7mWまで上昇させ、予め決定されたパターンのマーク列のビットエラー率を測定したところ、ビットエラー率は2.65mWで最小となった。このことにより、最適再生パワーを2.65mWと決定した。
さらに、第5形態について説明する。ここでは、別の構造のディスクを、第4形態記載の方法で最適再生パワーを決定した。
このディスクの作製方法は第1形態記載の方法と同じである。薄膜材料も同じであるが、その膜厚を変えた。その結果、常解像クロストークキャンセルが媒体上で実現されていることを確認した。
第4形態の方法で、プッシュプル信号振幅が1.5V以上になる再生パワーは、2.35mW以上2.5mW以下であり、2.65mWでの振幅は0.63Vであった。再生パワー2.35mWでトラッキングサーボをかけ、2.7mWまで上昇させながらビットエラー率を測定したところ、ビットエラー率が最小となる再生パワーは2.65mWであり、その値は1.2×10-6であった。
2.65mWでトラッキングサーボはかかるが、実用上必要なマージンが不足している。再生パワー2.5mWでのビットエラー率とプッシュプル信号振幅は5×10-5、0.72Vであり、2.55mWでは1×10-5、0.69Vであった。実用上必要とされるビットエラー率は1×10-5であるため、ここでは再生パワーを2.55mWに設定した。プッシュプル信号振幅が1.5V以下になっているが、1.5Vに近いため、特に問題ないと思われるが、ユーザがディスクの状態を知ることができるようにするために、ドライブには警告を表示する機構を設けた。
また、第6形態について以下に説明する。ここでは、非特許文献2に記載されている構造のディスクに、第4形態で述べた方法を適用した場合を記す。
非特許文献2に記載されているのは、ROMディスク基板に超解像薄膜、保護膜、反射膜をスパッタしたのみの構造であり、常解像クロストークキャンセルは考慮されていない。
ディスク基板は第1形態に記載した方法で作製したが、時間窓幅を50nmとした1-7PP変調符号を用いた。ここでは最短マーク長は100nmである。また、トラックピッチは320nmとした。
この基板にAg合金、Al2O3、GeSbTe、Al2O3をスパッタにより製膜した。この試料に0.1mm厚のポリカーボネートシートを貼り付けた。
ドライブは第4形態で用いたものと同じものを用いた。
この結果、クロストラック信号の2次微分係数から、P2、P3は2.8mW、3.15mWと同定された。また、プッシュプル信号が1.5V以上となる再生パワーは2.6mW以上3.4mW以下であった。2.8mW以上3.15mW以下の再生パワーでビットエラー率を測定したところ、3.05mWにてビットエラー率が最小となった。よって、本発明の方法は、常解像クロストークキャンセルを考慮せずに作製されたディスクに対しても有効であることがわかった。
再生レーザパワーとクロストラック信号との関係を示し、(a)クロストラック信号のエンベロップの上レベルと下レベルとの関係を示し、(b)クロストラック信号の振幅を示す図である。 図1の各再生パワー領域における、マーク、光スポット、超解像領域の大きさの関係の概念図である。 本発明の効果の検証に用いた光ディスクドライブの構造を示す図である。
符号の説明
301:半導体レーザ、302:レンズ、303:偏光ビームスプリッタ、304:λ/4板、305:ミラー、306:対物レンズ、307:ディスク、308:ハーフミラー、309:ミラー、310:フォーカスサーボ信号検出器、311:再生信号・トラッキング信号検出器、312:信号処理・制御システム、313:アクチュエータ、314:スピンドル。

Claims (3)

  1. 照射光によって光学特性が変化し、かつ照射光パワーが低減した際には光照射前の光学特性に戻る材料を有する光情報記録媒体に光を照射して前記光情報記録媒体から情報を再生する光情報再生方法であって、
    フォーカシングサーボ機能を実行して、前記光情報記録媒体の記録面に、光スポットを追従させる工程と、
    前記照射光パワーの大きさと、クロストラック信号のエンベロップの上レベルと下レベルを再生レーザパワーで除した値との関係において、前記上レベルの微分係数が0から負に変化する値をP2,前記下レベルの微分係数の変曲点をP3としたとき、前記P2の再生パワーでトラッキングサーボを行い、続いて、前記P2から前記P3の間で再生パワーを変化させて、最適再生パワーを決定することを特徴とする光情報再生方法。
  2. 前記上レベルの微分係数及び前記下レベルの微分係数は、2次微分係数であることを特徴とする請求項1記載の光情報再生方法。
  3. 照射光によって光学特性が変化し、かつ照射光パワーが低減した際には光照射前の光学特性に戻る材料を含む光情報記録媒体に光を照射して、前記照射光の反射光を処理する光学系と、前記光学系を介して前記反射光からフォーカスサーボ信号を検出するフォーカスサーボ信号検出器と、前記光学系を介して前記反射光からトラッキングサーボ信号を検出するトラッキングサーボ信号検出器と、前記フォーカスサーボ信号検出器と前記トラッキングサーボ信号検出器のそれぞれからの検出信号を処理する信号処理・制御システムと、を有し、前記光情報記録媒体から情報を再生する光情報再生装置であって、
    前記信号処理・制御システムが、
    前記フォーカスサーボ信号検出器の出力信号に基づいて、前記光情報記録媒体の記録面に、光スポットを追従させる追従手段と、
    前記照射光パワーの大きさと、クロストラック信号のエンベロップの上レベルと下レベルを再生レーザパワーで除した値との関係において、前記上レベルの微分係数が0から負に変化する値をP2,前記下レベルの微分係数の変曲点をP3としたとき、前記P2の再生パワーでトラッキングサーボを行い、続いて、前記P2から前記P3の間で再生パワーを変化させる光パワー調整手段と、
    前記P2から前記P3の間の最適な光パワーの範囲を決定する決定手段と
    を有することすることを特徴とする光情報再生装置。
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