JP4761202B2 - 切断可能な対応付け分子およびそれを用いるスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
生体分子等の標的物質と相互作用するタンパク質の試験管内での選択は、固相に固定化した標的物質にタンパク質を結合させた後、結合したタンパク質を回収することによって行われている。この選択方法においては、固相または標的物質に非特異的に結合したタンパク質の存在が選択効率に大きく影響するため、非特異的な結合による夾雑分子を減少させる方法が提案されている。例えば、標的物質がタンパク質の場合、標的タンパク質のC末端側に、カルモジュリン結合タンパク質、配列特異的なプロテアーゼの切断部位、および、プロテインAのIgG結合ドメイン(ZZドメイン)を融合させた融合タンパク質を用い、1段目のスクリーニングでは、融合タンパク質のZZドメインをIgG結合ビーズに吸着結合させることにより固相化し、配列特異的なプロテアーゼの切断により標的タンパク質とそれに結合するタンパク質とを含む複合体を溶出し、2段目のスクリーニングでは、融合タンパク質のカルモジュリン結合タンパク質をカルモジュリン固定化ビーズに結合させることにより固相化し、EDTA等のカルシウムキレート剤により標的タンパク質とそれに結合するタンパク質とを含む複合体を溶出するタンデムアフィニティー精製法が知られている(非特許文献3)。
FEBS Lett.,457,227(1999)
従って、本発明の課題は、固相や標的物質に対して非特異的に結合した対応付け分子の夾雑を減少させ、標的物質に特異的に結合した対応付け分子を高効率でスクリーニングできる、対応付け分子のスクリーニング方法を提供することである。
本発明者らは、対応付け分子が進化分子工学やゲノム機能解析においてスクリーニングされる場合、核酸の部分が次の工程に使用されることに着目し、研究を行った結果、タンパク質とそれをコードする核酸とを特定のリンカーを介して連結させ、そのリンカーの切断により核酸のみを遊離させることで、対応付け分子のスクリーニングに伴う上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下のものを提供する。
(1)タンパク質とそのタンパク質をコードする核酸とが、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断可能なリンカーを介して連結されている対応付け分子。
(2)前記リンカーが、長波長紫外線により切断可能なリンカーである(1)の対応付け分子。
(3)(1)または(2)の対応付け分子からなるライブラリー。
(4)タンパク質をコードする核酸を転写および/または翻訳したときに翻訳されたタンパク質と前記核酸とが連結されるように構築された前記核酸を準備し、準備した核酸を無細胞タンパク質合成系または生細胞を用いて転写および/または翻訳することにより、前記タンパク質と前記核酸とを連結する対応付け分子の製造方法において、
前記核酸を転写および/または翻訳したときに、前記タンパク質と前記核酸とが、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断可能なリンカーを介して連結されるように前記核酸が構築されている、(1)の対応付け分子の製造方法。
(5)核酸ライブラリーを構成する各核酸から(4)の製造方法により対応付け分子を製造することを含む、対応付け分子のライブラリーの製造方法。
(6)核酸ライブラリーから、標的物質と相互作用するタンパク質をコードする核酸をスクリーニングする方法であって、
前記核酸ライブラリーから、(5)の製造方法により対応付け分子のライブラリーを製造する工程、
前記対応付け分子のライブラリーと標的物質とを混合する工程、
標的物質に結合した対応付け分子を分離する工程、
分離した対応付け分子のリンカーを、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断して前記核酸を遊離させる工程、および、
遊離した核酸を回収する工程
を含む前記方法。
図2は、長波長紫外線(励起ピーク:365nm)の照射による対応付け分子からの遺伝子型分子の遊離方法の説明図である。
図3は、長波長紫外線の照射による対応付け分子からの遺伝子型分子の遊離実験の結果を示す図(電気泳動写真)である。レーン1〜6はフルオレセインおよびPCBラベル化したDNAを用いた場合である。レーン7〜12はフルオレセインおよびビオチンラベル化したDNAを用いた場合である。
図4は、無細胞転写・翻訳系におけるPCBラベル化したDNAの対応付け分子の形成を電気泳動により確認した結果を示す図(電気泳動写真)である。レーン1は対応付け分子を形成させた場合である。レーン2はタンパク質合成を阻害し、対応付け分子を形成させなかった場合である。
図5は、hAT1R/CHO−K1細胞とSTA−AT II対応付け分子を結合させ、長波長紫外線の照射により遺伝子型分子であるsta−atii DNAを溶出した実験結果を示す図(電気泳動写真)である。レーン1、3はhAT1R/CHO−K1細胞を用いた場合、レーン2、4はMock/Cho−K1細胞を用いた場合である。また、レーン5は結合操作前のサンプルAである。
<1>本発明の対応付け分子
本発明の対応付け分子は、タンパク質とそのタンパク質をコードする核酸とが、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断可能なリンカー(本明細書では「開裂型リンカー」ともいう)を介して連結されていることを特徴とする。本発明の対応付け分子は、開裂型リンカーを介してタンパク質とそのタンパク質をコードする核酸とが連結されている他は、通常の対応付け分子の構成と同様でよい。
対応付け分子のライブラリーも同様である。すなわち、対応付け分子として本発明の対応付け分子を用いることの他は、通常の対応付け分子からなるライブラリーの作成方法に従って作成することができる。例えば、進化分子工学では、Error−prone PCR(Leung,D.W.,et al.(1989)J.Methods Cell Mol.Biol.1,11−15)、Sexual PCR(Stemmer,W.P.C.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,10747−10751)、DNAシャッフリング、変異ライブラリー(柳川弘志、辻 融,「変異DNAライブラリーの構築方法」、WO 02/26964)などの方法を使って構築したライブラリーなどを、ゲノム機能解析では、ランダムプライミングやdTプライミングにより構築したcDNAライブラリーなどを鋳型として用いることにより対応付け分子のライブラリーを作成することができる。
<1−1>対応付け分子における開裂型リンカーの他の構成
核酸は、対応付け分子の態様に応じてDNAおよびRNAのいずれでもよい。また、タンパク質は、対応付け分子の態様に応じて融合タンパク質とされていてもよい。
タンパク質と核酸とが連結されているとは、タンパク質と核酸とが、その他の分子を介して連結されていることも包含し、また、それらの相互間の結合は、共有結合、生体分子が持つ親和力による結合等の非共有結合のいずれでもよい。生体分子が持つ親和力による結合の例としては、抗原と抗体との結合、ホルモンと受容体との結合、DNAとDNA結合蛋白質との結合等が挙げられる。
対応付け分子の例としては、STABLE法(特許文献1、非特許文献1)によるもの、試験管内(in vitro)ウイルス法(特許文献2、非特許文献2、WO 03/062417、WO 98/31700)によるものが挙げられる。以下、具体例を説明する。
(a)STABLE法による対応付け分子
STABLE法による対応付け分子は、機能解析、機能改変等の対象となるタンパク質(被標的タンパク質)とアダプタータンパク質との融合タンパク質と、該融合タンパク質をコードし、かつリガンドが結合したDNAとが、該アダプタータンパク質と該リガンドとの結合を介して連結されることによって構成されている。
被標的タンパク質は、天然タンパク質またはその変異体、及び人工タンパク質またはその変異体の何れでもよい。天然タンパク質としては、種々の生物の器官、組織または細胞に由来するcDNAライブラリーから転写翻訳される多様性を有するタンパク質のライブラリーを含むものである。人工タンパク質としては、天然タンパク質の全てもしくは部分配列を組み合わせた配列、またはランダムなアミノ酸配列を含むものである。
アダプタータンパク質とは、ある分子(リガンド)と特異的に結合する能力を有するタンパク質を意味し、これらの中には、結合タンパク質、受容体を構成する受容体タンパク質、抗体等も含まれる。リガンドとは、アダプタータンパク質に特異的に結合する分子を意味する。アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジン及びストレプトアビジン等のビオチン結合蛋白質/ビオチン、マルトース結合蛋白質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルまたはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、またはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオール等の各種受容体タンパク質/そのリガンド等が挙げられる。
これらの中で、アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、アビジン及びストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルまたはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、抗体/抗原分子(エピトープ)等が好ましく、特に、ストレプトアビジン/ビオチンが最も好ましい。
この態様で用いる融合タンパク質をコードするDNAにおいては、通常、その一方の末端にリガンドが結合している。該DNAの末端に結合したリガンドと該DNAにより発現される融合タンパク質中のアダプタータンパク質部分との結合を介して、融合タンパク質とDNAとが物理的に連結される。
この態様の対応付け分子は、少なくとも転写翻訳開始領域、被標的タンパク質とアダプタータンパク質との融合タンパク質をコードする領域を有し、かつリガンドが結合したDNAを、無細胞転写翻訳系で発現させてタンパク質を合成することにより製造できる。好ましくは、少なくとも転写翻訳開始領域、被標的タンパク質とアダプタータンパク質との融合タンパク質をコードする領域を有し、かつリガンドが結合したDNAのライブラリーを、該DNAのライブラリー内のDNAが、一種類もしくは1分子ずつ含まれるように隔離した無細胞転写翻訳系で発現させてタンパク質を合成することにより製造される。
(b)試験管内ウイルス法による対応付け分子
試験管内ウイルス法による対応付け分子は、機能解析、機能改変等の対象となるタンパク質を含む表現型分子と、該タンパク質をコードする核酸を含む遺伝子型分子とが結合してなる。遺伝子型分子は、タンパク質をコードする領域を、その領域の塩基配列が翻訳され得るような形態で有するコード分子と、スペーサー分子とが結合してなる。
この態様におけるスペーサー分子は、核酸の3’末端に結合できるドナー領域と、ドナー領域に結合した、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域と、PEG領域に結合した、ペプチド転移反応によってペプチドと結合し得る基を含むペプチドアクセプター領域とを含む。PEG領域はなくてもよい。
核酸の3’末端に結合できるドナー領域は、通常、1以上のヌクレオチドからなる。ヌクレオチドの数は、通常には1〜15、好ましくは1〜2である。ヌクレオチドはリボヌクレオチドでもデオキシリボヌクレオチドでもよい。
ドナー領域の5’末端の配列は、ライゲーション効率を左右する。コード分子とスペーサー分子をライゲーションさせるためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)または2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>(UまたはT)>G>Aの順で好ましい。
PEG領域はポリエチレングリコールを主成分とするものである。ここで、主成分とするとは、PEG領域に含まれるヌクレオチドの数の合計が20塩基以下、または、ポリエチレングリコールの平均分子量が400以上であることを意味する。好ましくは、ヌクレオチドの合計の数が10塩基以下、または、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000以上であることを意味する。
PEG領域のポリエチレングリコールの平均分子量は、通常には、400〜30,000、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜8,000である。ここで、ポリエチレングリコールの分子量が約400より低いと、このスペーサー分子に由来するスペーサー部を含む遺伝子型分子を対応付け翻訳したときに、対応付け翻訳の後処理が必要となることがあるが(Liu,R.,Barrick,E.,Szostak,J.W.,Roberts,R.W.(2000)Methods in Enzymology,vol.318,268−293)、分子量1000以上、より好ましくは2000以上のPEGを用いると、対応付け翻訳のみで高効率の対応付けができるため、翻訳の後処理が必要なくなる。また、ポリエチレングリコールの分子量が増えると、遺伝子型分子の安定性が増す傾向があり、特に分子量1000以上で良好であり、分子量400以下ではDNAスペーサーと性質がそれほどかわらず不安定となることがある。
ペプチドアクセプター領域は、ペプチドのC末端に結合できるものであれば特に限定されないが、例えば、ピューロマイシン、3’−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3’−N−Aminoacylpuromycin aminonucleoside,PANS−アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS−Gly、バリンのPANS−Val、アラニンのPANS−Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS−全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3’−アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3’−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3’−Aminoacyladenosine aminonucleoside,AANS−アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS−Gly、バリンのAANS−Val、アラニンのAANS−Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS−全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシドまたはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシドまたはヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸またはアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。
ペプチドアクセプター領域は、好ましくは、ピューロマイシンもしくはその誘導体、または、ピューロマイシンもしくはその誘導体と1残基もしくは2残基のデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドからなることが好ましい。ここで、誘導体とはタンパク質翻訳系においてペプチドのC末端に結合できる誘導体を意味する。ピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシン構造を完全に有しているものに限られず、ピューロマイシン構造の一部が欠落しているものも包含する。ピューロマイシン誘導体の具体例としては、PANS−アミノ酸、AANS−アミノ酸などが挙げられる。
ペプチドアクセプター領域は、ピューロマイシンのみの構成でもかまわないが、5’側に1残基以上のDNAおよび/またはRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。配列としては、dC−ピューロマイシン,rC−ピューロマイシンなど、より好ましくはdCdC−ピューロマイシン,rCrC−ピューロマイシン,rCdC−ピューロマイシン,dCrC−ピューロマイシンなどの配列で、アミノアシル−tRNAの3’末端を模倣したCCA配列(Philipps,G.R.(1969)Nature 223,374−377)が適当である。塩基の種類としては、C>(UまたはT)>G>Aの順で好ましい。
スペーサー分子は、ドナー領域とPEG領域との間に、少なくとも1つの機能付与ユニットを含むことが好ましい。機能付与ユニットは、好ましくは、少なくとも1残基のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの塩基に機能修飾を施したものである。例えば、機能修飾物質として、蛍光物質、ビオチン、またはHis−tagなど各種分離タグなどを導入したものが可能である。
この態様におけるコード分子は、転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5’非翻訳領域と、5’非翻訳領域の3’側に結合した、タンパタ質をコードするORF領域と、ORF領域の3’側に結合した、ポリA配列及びその5’側に制限酵素XhoIが認識する配列を含む3’末端領域を含む核酸である。
コード分子は、DNAでもRNAでもよく、RNAの場合、5’末端にCap構造があってもなくても良い。また、コード分子は任意のベクターやプラスミドに組み込まれたものとしてもよい。
3’末端領域は、XhoI配列とその下流にポリA配列を含む。スペーサー分子とコード分子とのライゲーション効率に影響を与える要素としては3’末端領域のポリA配列が重要であり、ポリA配列は、少なくとも2残基以上のdAおよび/またはrAの混合または単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8残基以上のポリA連続鎖である。
コード分子の翻訳効率に影響する要素としては、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなる5’非翻訳領域、および、ポリA配列を含む3’末端領域の組み合わせがある。3’末端領域のポリA配列の効果は通常には10残基以下で発揮される。5’非翻訳領域の転写プロモーターはT7/T3またはSP6などが利用でき、特に制限はない。好ましくはSP6であり、特に、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用する場合はSP6を用いることが特に好ましい。翻訳エンハンサーは好ましくはオメガ配列の一部であり、オメガ配列の一部としては、TMVのオメガ配列の一部(O29;Gallie D.R.,Walbot V.(1992)Nucleic Acids Res.,vol.20,4631−4638、および、WO 02/48347の図3参照)を含んだものが好ましい。
また、翻訳効率に関し、3’末端領域においては、XhoI配列とポリA配列の組み合わせが重要となる。また、ORF領域の下流部分、すなわちXhoI配列の上流に親和性タグがついたものとポリA配列の組み合わせも重要となる。親和性タグ配列としては、抗原抗体反応など、タンパク質を検出できるいかなる手段を用いるための配列であればよく、制限はない。好ましくは、抗原抗体反応によるアフィニティー分離分析用タグであるFlag−tag配列である。ポリA配列効果としては、Flag−tag等の親和性タグにXhoI配列がついたものとそこへさらにポリA配列がついたものの翻訳効率が上昇する。この翻訳効率に関し効果のある構成は、対応付け効率にも有効である。
ORF領域については、DNAおよび/またはRNAからなるいかなる配列でもよい。遺伝子配列、エキソン配列、イントロン配列、ランダム配列、または、いかなる自然界の配列、人為的配列が可能であり、配列の制限はない。また、コード分子の5’非翻訳領域をSP6+O29とし、3’末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5’非翻訳領域で約60bp、3’末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として組み込める長さである。このため、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5’非翻訳領域と3’末端領域をもったコード分子を簡単に作成できる。コード分子において、翻訳はORF領域を超えてされてもよい。すなわち、ORF領域の末端に終止コドンがなくてもよい。
この態様におけるコード分子は、転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5’非翻訳領域と、5’非翻訳領域の3’側に結合した、タンパク質をコードするORF領域と、ORF領域の3’側に結合した、ポリA配列を含む3’末端領域を含む核酸である。
遺伝子型分子を構成するコード分子は、XhoI配列を有することが好ましい。
遺伝子型分子は、上記コード分子を、必要により、タンパク質をコードする領域の塩基配列が翻訳され得るような形態に変換した後(例えば、転写した後)、コード分子の3’末端と、スペーサー分子のドナー領域を、通常のリガーゼ反応により結合させることにより製造できる。反応条件としては、通常、4〜25℃で4〜48時間の条件が挙げられ、PEG領域を含むスペーサー分子のPEG領域内のポリエチレングリコールと同じ分子量のポリエチレングリコールを反応系に添加する場合には、15℃で0.5〜4時間に短縮することも可能である。
スペーサー分子とコード分子の組み合わせはライゲーション効率に重要な効果をもたらす。アクセプターにあたるコード分子の3’末端領域において、少なくとも2残基以上、好ましくは3残基以上、さらに好ましくは6〜8残基以上のDNAおよび/またはRNAのポリA配列があること、さらに、5’非翻訳領域の翻訳エンハンサーとしては、オメガ配列の部分配列(O29)が好ましく、スペーサー分子のドナー領域としては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)または2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。このことによって、RNAリガーゼを用いることでDNAリガーゼのもつ問題点を回避し、かつ効率を60〜80%に保つことができる。
(a)転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5’非翻訳領域と、5’非翻訳領域の3’側に結合した、タンパク質をコードするORF領域と、ORF領域の3’側に結合した、ポリA配列を含む3’末端領域を含むRNAであるコード分子の3’末端と、(b)上記スペーサー分子のドナー領域であってRNAからなるものとを、スペーサー分子内のPEG領域を構成するポリエチレングリコールと同じ分子量をもつ遊離のポリエチレングリコールの存在下で、RNAリガーゼにより結合させることが好ましい。
ライゲーション反応時に、PEG領域を含むスペーサー分子のPEG領域と同じ分子量のポリエチレングリコールを添加することによって、スペーサー分子のポリエチレングリコールの分子量によらずライゲーション効率が80〜90%以上に向上し、反応後の分離工程も省略することができる。
この態様の対応付け分子は、上記の遺伝子型分子を無細胞翻訳系で翻訳することにより、ペプチド転移反応で、遺伝子型分子内のORF領域によりコードされたタンパク質である表現型分子と連結することができる。無細胞翻訳系は、好ましくは、小麦胚芽またはウサギ網状赤血球のものである。翻訳の条件は通常に採用される条件でよい。例えば、25〜37℃で15〜240分の条件が挙げられる。
<1−2>開裂型リンカー
本発明の対応付け分子に用いられる開裂型リンカーは、前記コード分子中の核酸の塩基配列が変化しない条件で切断可能なリンカーである。核酸の塩基配列が変化しないとは、核酸が切断されたり、その塩基が改変されたりすることがなく、遊離したコード分子中の核酸の塩基配列が、その対応付け分子の表現型分子であるタンパク質をコードする塩基配列を保持することを意味する。
このような開裂型リンカーの例を表1に示す。なお、表中の括弧内にその切断方法を示す。
このようなリンカー自体およびその切断方法は、当業者に知られているので、対応付け分子に使用したときに、コード分子中の核酸の塩基配列を変化させない切断条件を設定し、その条件で切断できるものを選択することは当業者であれば容易である。例えば、光開裂型リンカーの場合には、核酸は短波長の紫外線の照射により損傷を受けるため、核酸に損傷を与えない長波長紫外線の照射により切断できるものが選択される。また、DNA型リンカー、RNA型リンカーおよびDNA/RNAハイブリッド型リンカーの場合には、タンパク質をコードする核酸が分解されないようにヌクレアーゼの種類および反応条件を選択する。
本発明において、開裂型リンカーは、好ましくは、光開裂型リンカーである。上述のように、光開裂型リンカーは、長波長紫外線の照射により切断することができるものであればよい。ここで長波長紫外線とは、照射したときに、コード分子中の核酸の塩基配列を変化させない波長の紫外線を意味し、通常には300〜400nm、好ましくは310〜360nmの波長の紫外線である。光開裂リンカーは、タンパク質と標的物質との特異的結合および標的物質や固相と核酸との非特異的結合を含めて、結合に影響を与える可能性が低いので、特異的に結合した対応付け分子の、コード分子中の核酸だけを遊離させる可能性が高いため、特に好ましい。
長波長紫外線で切断できる光開裂型リンカーとして、具体的には、例えば、α−置換−2−ニトロベンジル基の構造を持つもの等が挙げられる。α置換基として、(i)水酸基と反応するホスホアミダイト、(ii)アミノ基と反応するN−ヒドロキシスクシンイミドカルボネート、(iii)チオール基と反応するハロゲン等が挙げられる。上記(i)に記載の光開裂型リンカーとしては、PCビオチンホスホアミダイト、PCアミノ修飾ホスホアミダイト、PCスペーサーホスホアミダイト(いずれも商品名、グレンリサーチ社製)等が挙げられる。
対応付け分子における開裂型リンカーの位置は、タンパク質とコード分子中の核酸との間であって、切断が可能な限り、特に制限されず、対応付け分子の態様および開裂型リンカーの種類に応じて適宜選択される。例えば、STABLE法による対応付け分子の場合には、融合タンパク質をコードするDNAとリガンドとの間に開裂型リンカーを位置させることができる。また、試験管内ウイルス法による対応付け分子の場合には、開裂型リンカーをスペーサー分子の構成要素として含ませたり、スペーサー分子とコード分子との間に位置させたりすることができる。
開裂型リンカーが核酸からなる場合には、タンパク質をコードする核酸と一体とされていてもよく、また、開裂型リンカーがペプチドからなる場合には表現型分子としてのタンパク質のC末端に融合させていてもよい。
<2>本発明の製造方法
本発明の対応付け分子は、タンパク質をコードする核酸からタンパク質を合成したとき、すなわち、コード分子である核酸を転写および/または翻訳したときに、表現型分子としてのタンパク質と遺伝子型分子としての核酸とが開裂型リンカーを介して連結されるように構築された遺伝子型分子である核酸を準備し、準備した核酸を無細胞タンパク質合成系または生細胞を用いて転写および/または翻訳することにより、表現型分子としてのタンパク質と遺伝子型分子としての核酸とを連結して製造される。
無細胞タンパク質合成系は、無細胞翻訳系であっても、無細胞転写翻訳系であってもよく、対応付け分子を構成する核酸の種類に応じて適宜選択される。
例えば、STABLE法の場合には、上記の少なくとも転写翻訳開始領域、被標的タンパク質とアダプタータンパク質との融合タンパク質をコードする領域を有するDNAに、開裂型リンカーを介してリガンドが結合したDNAを準備し、そのDNAから無細胞転写翻訳系でタンパク質を合成することにより製造される。あるいは、少なくとも転写翻訳開始領域、被標的タンパク質とアダプタータンパク質との融合タンパク質をコードする領域を有するDNAに、開裂型リンカーを介してリガンドが結合したDNAのライブラリーを準備し、該DNAのライブラリー内のDNAから、一種類もしくは1分子ずつ含まれるように隔離した無細胞転写翻訳系でタンパク質を合成する。
また、試験管内ウイルス法による対応付け分子の場合には、開裂型リンカーを含むスペーサー分子を用いたり、スペーサー分子とコード分子を開裂型リンカーを介して結合させたり、ORFの3’末端に開裂型リンカーをコードする配列をコーディング枠が合うように連結させたりすることにより遺伝子型分子を準備すればよい。
遺伝子型分子の製造方法としては、例えば、コード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに開裂型リンカーを含むように化学合成した後に、<1−1>(b)に記載の方法を行うことが挙げられる。化学合成方法は、それ自体既知の方法を適宜選択して用いることができる。
開裂型リンカーを含むコード分子およびスペーサ分子の合成法として、具体的には、例えば、開裂型リンカーとしてα−置換−2−ニトロベンジル基の構造を持つものであって、α置換基として、水酸基と反応するホスホアミダイトを用いる場合には、該リンカーをホスホアミダイトDNA合成法によりコード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに導入する方法等が挙げられる。また、α−置換−2−ニトロベンジル基の構造を持つものであって、α置換基として、アミノ基と反応するN−ヒドロキシスクシンイミドカルボネートを開裂型リンカーとして用いる場合には、該リンカーをホスホアミダイトDNA合成法によりコード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに導入した後、活性エステルで修飾する方法等が用いられる。さらに、α−置換−2−ニトロベンジル基の構造を持つものであって、α置換基として、チオール基と反応するハロゲンを開裂型リンカーとして用いる場合には、該リンカーをホスホアミダイトDNA合成法によりコード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに導入する方法等が挙げられる。
また、DNA型リンカーを用いる場合には、ヌクレアーゼまたは制限酵素により認識される塩基配列を有する核酸であるDNA型リンカーを、コード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに挿入して合成することにより製造することができる。ここで、制限酵素により切断されるDNAは、2本鎖である必要があるため、該DNAリンカーの塩基配列を有する核酸は、1本鎖ずつ合成してアニーリングさせることにより製造することができる。
また、プロテアーゼで切断されるペプチド型リンカーを用いる場合には、例えば、チオエステル法を用いることで、簡単に、目的のペプチドをコード分子のORFの3’末端側またはスペーサー分子のいずれかに導入して合成することによりコード分子、スペーサー分子を作製することができる。
生細胞としては、原核または真核生物例えば大腸菌の細胞などが使用できる。
タンパク質をコードする核酸を転写および/または翻訳したときに、タンパク質と核酸とが開裂型リンカーを介して連結されるように構築された核酸は、無細胞タンパク質合成系で核酸を転写および/または翻訳したとき、タンパク質と核酸とが開裂型リンカーを介して連結されるように構築されたものであることが好ましい。無細胞タンパク質合成系でタンパク質をコードする核酸を転写および/または翻訳したときに、タンパク質と核酸とが開裂型リンカーを介して連結されるように構築された核酸は、生細胞を用いた場合でも無細胞タンパク質合成系を用いた場合と同様に転写および/または翻訳されると考えられる。
無細胞タンパク質合成系または生細胞を用いて転写および/または翻訳することにより得られた対応付け分子は、必要により精製してもよい。
本発明の対応付け分子のライブラリーは、核酸ライブラリーの核酸の集合体に対し、すなわち、核酸ライブラリーの各核酸に対し、上記の本発明の製造方法を適用することにより製造することができる。
<3>本発明のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、核酸ライブラリーから、標的物質と相互作用するタンパク質をコードする核酸をスクリーニングする方法であって、前記核酸ライブラリーから、本発明の製造方法により対応付け分子のライブラリーを製造する工程、前記対応付け分子のライブラリーと標的物質とを混合する工程、標的物質に結合した対応付け分子を分離する工程、分離した対応付け分子のリンカーを、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断して前記核酸を遊離させる工程、および、遊離した核酸を回収する工程を含む。
標的物質としては、タンパク質(ペプチド、抗体などを含む)、ヌクレオチドなどが挙げられる。相互作用の測定は、標的物質の種類に適合した方法により行うことができる(例えば、Rigaut,G.et al.(1999)Nature Biotech.17,1030−1032)。
対応付け分子のライブラリーと標的物質との混合は、対応付け分子の被標的タンパク質が標的物質と相互作用する条件で混合すればよい。この条件は、検出しようとする相互作用および標的物質の種類に応じて適宜選択される。
標的物質に結合した対応付け分子の分離は、標的物質に結合した対応付け分子と、標的物質に結合しない対応付け分子を分離する工程であり、通常には、標的物質を固相に固定化しておくことによって、対応付け分子と混合後の標的分子を固定化した固相を洗浄することにより分離を行うことができる。洗浄の条件は、検出しようとする相互作用および標的物質の種類に応じて適宜選択される。ここで固相に固定化するとは、対応付け分子と標的物質との結合体が非結合の分子から分離可能になっていることを意味し、例えば、標的物質が膜タンパク質の場合、細胞の細胞膜等に発現した膜タンパク質や人工膜中に埋め込まれたタンパク質も、固相に固定化された標的物質に包含される。
分離した対応付け分子のリンカーを、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断して前記核酸を遊離させることは、上記に例示したような開裂型リンカーを用い、それに応じた条件で行うことができる。標的物質が固相に固定化されている場合、核酸を遊離させることは、溶出とも呼ばれる。本発明において「遊離」とは「溶出」も包含する意味で用いる。また、遊離される核酸は、核酸の塩基配列が解析可能な限り、改変されたものであってよい。
遊離した核酸の回収は、通常の方法によって行うことができる。例えば、電気泳動により回収する方法、遊離した核酸以外の成分を沈殿させて上清を回収する方法などが挙げられる。
回収された核酸は、機能解析、進化工学などの目的に応じて増幅や配列の解析が行われる。
以下、スクリーニングの例を図1を参照して説明する。この例では、標的分子としてGタンパク質共役受容体(GPCR)、対応付け分子としてSTABLE法によるもの(リガンドがビオチン、アダプタータンパク質がストレプトアビジン)が用いられている。
まず、ランダムライブラリーやcDNAライブラリーなどのDNAライブラリーを構成するDNAに対し、ストレプトアビジン遺伝子を、ストレプトアビジンと前記DNAにコードされるタンパク質とが融合タンパク質として発現されるように連結し、さらに開裂型リンカーを介してビオチンを連結して、前記DNAから無細胞転写翻訳系で前記タンパク質を合成したときに前記タンパク質と前記DNAとが開裂型リンカーを介して連結されるように改変されたDNAを準備する。
改変されたDNAを、一ミセルにほぼ一分子のDNAが含まれるように調製した水/油型エマルジョンとした無細胞転写翻訳系で転写翻訳し、融合タンパク質を合成する。そうすると、融合タンパク質の構成要素のストレプトアビジンと、改変DNAを構成要素のビオチンが結合し、対応付け分子が生成する。
エマルジョンから、対応付け分子を回収し、対応付け分子のライブラリーを得る。対応付け分子を、GPCRを細胞膜に発現した細胞と混合する。リンカーを切断することにより、DNAを遊離させ回収する。
目的に応じて、回収されたDNAの配列解析を行ったり、PCRにより増幅して再度ビオチンを開裂型リンカーを介して連結し、上記の工程を繰り返したりすることができる。
次に、図2を参照して開裂型リンカーの切断の例を説明する。この例では、図1に示した例において、開裂型リンカーとして長波長紫外線で切断可能な光開裂型リンカーが使用されている。
図2の上図は、対応付け分子が標的物質であるGPCRに結合した状態を示す。GPCRに結合した対応付け分子に、光開裂型リンカーを切断する長波長紫外線を照射すると、図2の下図に示すようにDNAが遊離する。
実施例1 光開裂型リンカーを含む対応付け分子の紫外線による切断
光開裂型リンカーを介してDNAとタンパク質が連結した分子を形成させた後、長波長紫外線の照射によりDNAとタンパク質が切断・分離されることを確認した。本実施例で用いたDNAとタンパク質とが連結した分子には、DNAのコードするタンパク質が含まれていないが、紫外線による切断については対応付け分子と同じ挙動を示すと考えられるので、本実施例では、説明の便宜のため、対応付け分子と呼ぶ。
(1)光開裂型リンカーを介してビオチンラベル化したDNAの調製
光開裂型リンカーが結合したビオチン(Photocleavable Biotin:以下、PCBと略す)はGlen Research社から購入した。ストレプトアビジン遺伝子の下流にアンジオテンシンII遺伝子が融合したsta−atii DNA(配列番号1)を鋳型DNAとして調製した。0.5nMの鋳型DNA(配列番号1)、5’末端がPCBラベル化された1μMのプライマーT7F(配列番号2)、5’末端がフルオレセイン・ラベル化された1μMのプライマーT7R(配列番号3)、1×Ex Taqバッファー、0.2mM dNTP、および1.25UのEx Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造)を含む反応液50μlを用いてPCR(95℃:1分間→(98℃:20秒間、62℃:30秒間、72℃:30秒間)×25サイクル→72℃:1分間→4℃)を行なった。これによりフルオレセインおよびPCBラベル化されたDNA(以下、PCBラベル化DNAと略す)を得た。同様に、ネガティブコントロールとして、5’末端がビオチンラベル化されたプライマーT7Fを用いて、光開裂型リンカーを含まないフルオレセインおよびビオチンラベル化されたDNA(以下、ビオチンラベル化DNAと略す)も調製した。
(2)対応付け分子の形成および長波長紫外線の照射による切断
上記PCBまたはビオチンラベル化DNA(30nM)とストレプトアビジン(1μg/μl;プロメガ社)を等量ずつ混合し、室温で60分間インキュベートして結合させ、タンパク質とDNAとが連結した対応付け分子を形成させた。紫外線灯(ハンディーランプXX−15BLB;Ultra−Violet Products社)を用いて15cmの距離から長波長紫外線を2.5分間、5分間、10分間、および15分間照射したサンプルを3%シーケムゴールドアガロースゲルにより泳動分離し、イメージアナライザーを用いてフルオレセインの蛍光を検出した。結果を図3に示す。PCBラベル化されたDNAを用いた場合、高分子量の対応付け分子として検出されていたバンド(図中の「対応付け分子→」で示されている位置)が、長波長紫外線の照射時間に依存して低分子量のバンド(図中の「DNA→」で示されている位置)に移行した(レーン1〜5)。一方、光開裂型リンカーを含まないビオチンラベル化DNAを用いた場合では、高分子量から低分子量への移行は全くみられなかった(レーン7〜11)。このことから、対応付け分子の中の光開裂型リンカーが長波長紫外線により切断され、対応付け分子から遺伝子型分子であるDNAが遊離されることが確認できた。
実施例2 GPCRリガンドペプチドを用いた対応付け分子の無細胞転写・翻訳系における合成
GPCRのリガンドとして知られているアンジオテンシンIIを用いて、対応付け分子の形成を行なった。9nMの、フルオレセインおよびPCBでラベル化されたsta−atii DNA(実施例1で調製したもの)をウサギ網状赤血球由来の無細胞転写・翻訳系(プロメガ社)に加え30℃で90分間反応させることによりストレプトアビジン・アンジオテンシンII融合タンパク質(以下、STA−AT IIと略す)を合成し、このタンパク質とsta−atii DNAがストレプトアビジンとビオチンの結合を介して連結した対応付け分子を形成させた。このサンプルを3%シーケムゴールドアガロースゲルにより泳動分離し、イメージアナライザーを用いてフルオレセインの蛍光を検出した。また、タンパク質合成阻害剤である0.2%ヘパリンを加えたコントロール実験を行なった。
図4に、無細胞転写・翻訳系により合成されたSTA−AT II対応付け分子の検出結果を示す。タンパク質合成阻害剤であるヘパリンを加えた場合、ストレプトアビジン・アンジオテンシンII融合タンパク質は合成されないため、フルオレセインおよびPCBラベル化されたsta−atii DNAのバンド(図中の「DNA→」で示されている位置)のみが検出される(レーン2)。一方、ヘパリンを加えていない場合、合成されたストレプトアビジン・アンジオテンシンII融合タンパク質がPCBラベル化されたsta−atii DNAに結合するため、高分子量側にシフトしているバンド(図中の「対応付け分子→」で示されている位置)が検出された(レーン1)。この結果から、PCBラベル化されたDNAを鋳型DNAとして無細胞転写・翻訳系でタンパク質を合成することにより、対応付け分子の形成が確認できた。対応付け効率(無細胞転写・翻訳系に加えた全DNAに対する対応付け分子を形成したDNAの割合)は約80%であった。
実施例3 GPCR発現細胞を用いたリガンド濃縮実験
ヒト・アンジオテンシンIIタイプ1受容体(以下、hAT1Rと略す)を発現しているCHO−K1細胞(以下、hAT1R/CHO−K1細胞と略す)を用いて、STA−AT II対応付け分子の濃縮実験を行なった。
(1)光開裂型リンカーを介してビオチンラベル化したDNAの調製
実施例1と同様の方法で、PCBラベル化されたsta−atii DNA(全長670bp)を得た。また、ネガティブコントロールとして、アンジオテンシンIIの代わりに、hAT1Rとは結合しないバソプレッシンをコードする鋳型DNA(配列番号4)を用いて同様にPCRを行ない、PCBラベル化されたsta−avp DNA(全長604bp)を得た。
(2)対応付け分子の形成
10nMの、PCBラベル化されたsta−atii DNAをウサギ網状赤血球由来の無細胞転写・翻訳系に加え30℃で90分間反応させることによりストレプトアビジン・アンジオテンシンII融合タンパク質を合成し、STA−AT II対応付け分子を形成させた。同様にして、10nMの、PCBラベル化されたsta−avp DNAを鋳型としてストレプトアビジン・バソプレッシン融合タンパク質(以下、STA−AVPと略す)を合成し、このタンパク質とsta−avp DNAからなる対応付け分子を形成させた。これらの対応付け分子が含まれる無細胞転写・翻訳系に20μMビオチンを等量加えて15分間反応させ、余分なビオチン結合部位をブロッキングした後、STA−AT II:STA−AVP=2.4×108個:1.2×109個=1:5となるように混合して、下記(4)の濃縮実験に用いた。
(3)hAT1Rを安定に発現する細胞株の樹立
hAT1R遺伝子をクローニングするため、ヒト胎児肝臓cDNAライブラリー(慶應大・井上純一郎教授より供与)0.05μlを、10×Ex Taqバッファー5μl、2.5mM dNTP 4μl、10μMのATFプライマー(配列番号5)2.5μl、10μMのATRプライマー(配列番号6)2.5μl、5U/μl Ex Taq DNAポリメラーゼ0.25μlと混合し、滅菌水により総容量50μlに調整後、PCR(95℃:1分間→(98℃:20秒間、55℃:1分間、72℃:4分間)×35サイクル→4℃)を行ない、hAT1R遺伝子断片を得た。このhAT1R遺伝子断片をEcoRIおよびXbaIにより制限酵素処理し、同様に処理したpEF1/Myc−His A(Invitrogen社)にライゲーションし、pEF1−hAT1R−MycHis(ネオマイシン耐性)を得た。このpEF1−hAT1R−MycHisをCHO−K1細胞へトランスフェクションし、400μg/μl G418を加えた培地により選択を行ない、Mycエピトープ抗体を用いたウェスタンブロッティングによりhAT1Rを発現しているCHO−K1細胞を得た。
(4)細胞を用いた結合・濃縮実験
まず、細胞表面に非特異的に吸着する対応付け分子を除去するために、以下の前処理を行なった。受容体を発現していないCHO−K1細胞(以下、Mock/CHO−K1細胞と略す)をコンフルエントまで培養した6cmディッシュ内の完全培地を吸引除去し、Hankの平衡塩溶液(Hank’s Balanced Salt Solution)(以下、HBSSと略す)2mlを加えてディッシュ内を洗浄した。結合バッファー(100μM GRGDS(配列番号7)、1mg/ml超音波処理サケ精子(Sonicated Salmon Sperm)DNA、1% BSA/基本バッファー)1mlを加えて、室温で15分間シェーカーにより振とう(50rpm)してブロッキングを行なった。基本バッファーの組成は1%プロテアーゼインヒビターカクテル、0.5Mスクロース、20mM HEPES、pH7.3、HBSSである。結合バッファーを吸引除去後、上記(2)で調製した対応付け分子STA−AT II:STA−AVP=2.4×108個:1.2×109個およびウサギ網状赤血球由来の転写・翻訳系40μlを結合バッファーに加えたサンプルA 1mlをMock/CHO−K1細胞に加えて、室温で60分間シェーカーにより振とう(50rpm)して前処理を行なった。
前処理後のサンプルAを1.5mlチューブに移し、2,000rpmで1分間遠心した上清1mlを、同様にブロッキングを行なったhAT1R/CHO−K1細胞に加えた。結合のため、室温で60分間シェーカーにより振とう(50rpm)後、サンプルAを吸引除去した。洗浄のため、洗浄バッファー(450mM NaCl、10μM GRGDS(配列番号7)、100μg/ml超音波処理サケ精子DNA/基本バッファー)3mlを加えて洗浄、吸引除去後、この洗浄操作を6回行った。溶出のため、溶出バッファー(100μM GRGDS(配列番号7)、0.5μg/ml超音波処理サケ精子DNA/基本バッファー)1mlを加えて、ディッシュのふたをはずして氷上に置き、長波長紫外線を実施例1と同じ条件で5分間照射した。上清を1.5mlチューブに回収し、この溶出操作を2回行った。溶出後の溶液についてエタノール沈澱を行い、乾燥させたペレットを純水(ミリQ水)25μlに溶解した。この溶出サンプル1μl、100μMのプライマーT7FおよびT7Rを0.25μlずつ、10×Ex Taqバッファー2.5μl、2.5mM dNTP 2μl、および5U/μl Ex Taq DNAポリメラーゼ0.125μlを混合し、滅菌水により総容量25μlに調整後、PCR(95℃:1分間→(98℃:20秒間、62℃:30秒間、72℃:30秒間)×30サイクル→72℃:1分間→4℃)を行なった。PCR終了後、2%アガロースゲルにより電気泳動し、DNAを検出した。ポジティブコントロールとしてサンプルAの10,000倍希釈液を鋳型としてPCRを行ない、同様にDNAを検出した。また、ネガティブコントロールとしてhAT1R/CHO−K1細胞と同様の操作をMock/CHO−K1細胞でも行ない、DNAを検出した。
図5に結果を示す。hAT1RとSTA−AT II対応付け分子とが結合している場合、長波長紫外線を照射すると光開裂によりsta−atii DNAが遊離するので670bpのバンド(図中の「sta−atii DNA→」で示されている位置)が検出される。hAT1Rと結合しないSTA−AVP対応付け分子が非特異的に吸着し溶出した場合、sta−avp DNAのバンド(全長604bp。図中の「sta−avp DNA→」で示されている位置)が検出される。サンプルAには対応付け分子がSTA−AT II:STA−AVP=1:5の比率で含まれており、これを鋳型としてPCRを行なった場合、sta−atii DNAとsta−avp DNAが1:5の比率で検出された(レーン5)。hAT1R/CHO−K1細胞を用いて実験操作を行ない、紫外線照射・光開裂による1回目の溶出および2回目の溶出を行なった場合、sta−atii DNAとsta−avp DNAは10:1および4:1の比率で検出された(レーン1および3)。検出された各バンドの強度を測定し、算出した濃縮効率は約50倍であった。一方、Mock/CHO−K1細胞を用いて実験操作を行い、紫外線を照射・光開裂による1回目の溶出および2回目の溶出を行なっても、sta−atii DNAとsta−avp DNAは予想通り検出されなかった(レーン2および4)。以上の結果から、hAT1R/CHO−K1細胞を用いて、長波長紫外線を照射した光開裂による溶出方法によりSTA−AT II対応付け分子からのsta−atii DNAが特異的に高効率で回収できることが示された。
Claims (6)
- タンパク質とそのタンパク質をコードする核酸とが、長波長紫外線により切断可能なリンカーであるリンカーを介して連結されている対応付け分子。
- 請求項1記載の対応付け分子からなるライブラリー。
- タンパク質をコードするDNAである核酸を転写および翻訳したとき、または、タンパク質をコードするRNAである核酸を翻訳したときに前記タンパク質と前記核酸とが連結されるように構築された前記核酸を準備し、準備した核酸を無細胞タンパク質合成系を用いて転写および翻訳、または、翻訳することにより、前記タンパク質と前記核酸とを連結する対応付け分子の製造方法において、
前記核酸を転写および翻訳、または、翻訳したときに、前記タンパク質と前記核酸とが、前記長波長紫外線により切断可能なリンカーであるリンカーを介して連結されるように前記核酸が構築されている、請求項1記載の対応付け分子の製造方法。 - 核酸ライブラリーを構成する各核酸から請求項3記載の製造方法により対応付け分子を製造することを含む、対応付け分子のライブラリーの製造方法。
- 核酸ライブラリーから、標的物質と相互作用するタンパク質をコードする核酸をスクリーニングする方法であって、
前記核酸ライブラリーを構成する各核酸から下記製造方法により対応付け分子を製造することを含む、前記核酸ライブラリーから、対応付け分子のライブラリーを製造する工程、
前記対応付け分子のライブラリーと標的物質とを混合する工程、
標的物質に結合した対応付け分子を分離する工程、
分離した対応付け分子のリンカーを、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断して前記核酸を遊離させる工程、および、
遊離した核酸を回収する工程
を含む前記方法。
製造方法:タンパク質をコードするDNAである核酸を転写および翻訳したとき、または、タンパク質をコードするRNAである核酸を翻訳したときに前記タンパク質と前記核酸とが連結されるように構築された前記核酸を準備し、準備した核酸を無細胞タンパク質合成系を用いて転写および翻訳、または、翻訳することにより、前記タンパク質と前記核酸とを連結する対応付け分子の製造方法において、
前記核酸を転写および翻訳、または、翻訳したときに、前記タンパク質と前記核酸とが、前記核酸の塩基配列が変化しない条件で切断可能なリンカーを介して連結されるように前記核酸が構築されている、製造方法。 - 前記リンカーが、長波長紫外線により切断可能なリンカーである請求項5記載の方法。
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