以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<A.装置概要>
<全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る駆動装置(振動アクチュエータ)1Aの構成を示す図であり、図2は、当該振動アクチュエータ1Aに用いられる振動体10を示す正面図である。
図1に示すように、振動アクチュエータ1Aは、駆動源である複数の振動体10(詳細には、ここでは2つの振動体10a,10b)と、複数の振動体10により駆動される1つの被駆動体(移動体)30Aと、台板60(60a,60b)とを備えている。また、振動体10a,10bと台板60a,60bとの間には、各振動体10a,10bを加圧方向(図のZ方向)において被駆動体30Aに向けて押し付けるための加圧部材40(40a,40b)がそれぞれ設けられている。また、規制部材15は、加圧部材40による振動体10の移動方向を規制するとともに、駆動反力による振動体10のX方向への移動を規制する。
<振動体>
図2に示すように、各振動体10は、それぞれ、2つの圧電素子11,12を用いたトラス型の振動発生体として構成される。具体的には、振動体10は、2つの圧電素子(変位素子)11,12と、チップ部材13と、ベース部材14とを備えている。振動体10は、高周波電圧(高周波信号)の印加に応じて振動する。
2本の圧電素子11,12は直角に交差して配置され、圧電素子11,12の交差側端部はチップ部材13に接合されている。これら圧電素子11,12の他端は、ベース部材14に接合されている。チップ部材13は、安定して高い摩擦係数を得ることができるとともに高い耐摩耗性を得ることができる材料(例えば超硬合金などの金属材料)で形成されることが好ましい。ベース部材14は、製造しやすく高い強度を有する材料(例えばステンレスなどの金属材料)で形成されることが好ましい。また、圧電素子11,12と各部材13,14とは、接着剤を用いて接合されている。接着剤としては、接着強度に優れたエポキシ系樹脂の接着剤を用いることが好ましい。
圧電素子11は、積層型圧電素子であり、圧電特性を有する複数のセラミック薄板と電極とを交互に積層した構造を有している。圧電素子11は、印加電圧の変更に応じて積層方向に伸縮する変位素子である。圧電素子12も圧電素子11と同様の構成を備えており、印加電圧の変更に応じて積層方向に伸縮する。具体的には、所定の符号の電圧を圧電素子11に印加すると圧電素子11は伸び、逆符号の電圧を圧電素子11に印加すると圧電素子11は縮む。そして、交流電圧を印加すれば、圧電素子11は当該交流電圧の周期に応じて伸縮を繰り返すことになる。圧電素子12についても同様である。このような交流電圧を印加することによって、圧電素子11および/または圧電素子12を振動させることができる。
ただし、本実施形態では、後述するように、2つの圧電素子11,12のいずれか一方、例えば圧電素子11のみを駆動し、その振動をベース部材14およびチップ部材13を介して他方の圧電素子12に伝達し、両圧電素子11,12を所定の位相差を持って共振させる。そうすると、圧電素子11,12の交点に設けられたチップ部材13は楕円(円を含む)を描くように駆動される。すなわち、振動体10のチップ部材13に楕円軌道が励起される。
このチップ部材13を例えば棒状の被駆動部材30A(図1)に押しつけることにより、チップ部材13の楕円運動を被駆動部材30Aの直線運動に変換することが可能となる。すなわち、楕円運動により発生する駆動力を用いて、被駆動体30Aが駆動される。
<被駆動体>
図1に示されるように、被駆動体30Aは、振動体10に接触する部材であり、振動体10からの駆動力が直接的に伝達される部材である。具体的には、被駆動体30Aは、振動体10の振動動作に応じて振動体10との接触(衝突)および振動体10からの離反を繰り返しつつ振動体10との間に生じる摩擦力によって駆動される。換言すれば、振動体10は、被駆動体30Aの表面において摩擦接触を伴う微小移動動作を繰り返すことによって、被駆動体30Aを駆動することになる。
被駆動体30Aは、たとえば、金属(ステンレスあるいはアルミニウム等)で形成される。また、チップ部材13との接触による摩耗を防ぐため、被駆動体30Aの表面には表面硬化処理が施されることが好ましい。たとえば、被駆動体30Aとしては、ステンレスなどの鉄系材料に対して焼き入れ処理ないし窒化処理等を施したものが用いられる。あるいは、アルミニウムにアルマイト処理を施したもの、ないし、金属表面にセラミックなどによる耐摩耗性のコーティング処理を施したものを被駆動体30Aとして用いるようにしてもよい。また、被駆動体30Aは、金属以外の材料、たとえばセラミック(アルミナセラミックあるいはジルコニアセラミック等)で形成されてもよい。セラミックを用いれば、軽量化を図ることができるとともに、高い剛性および高い耐摩耗性を得ることができる。
被駆動体30Aは、リニアガイド(不図示)によって支持されており、図の左右方向においてスムーズに直線運動することができる。
<加圧部材>
また、振動体10aに対して被駆動体30Aとは反対側(−Z側)に加圧部材40(40a)が設けられており、振動体10bに対して被駆動体30Aとは反対側(+Z側)に加圧部材40(40b)が設けられている。各加圧部材40(40a,40b)は、例えばコイルバネなどの弾性部材で構成されており、その一端は、振動体10のベース部材14に固定され、他端は台板60(60a,60b)に固定される。加圧部材40による付勢力によって、振動体10は被駆動体30Aに所定の力で押しつけられている。なお、振動体10の振動周期は加圧部材40の伸縮動作が追従できない程に短い(すなわち非常に高い周波数である)ため、振動体10のチップ部材13は、加圧部材40の付勢力に抗して、被駆動体30Aに対して接触と離反とを繰り返すことができる。したがって、次述するような駆動動作を行うことが可能である。
<B.駆動原理>
<簡易モデルによる楕円振動>
つぎに、1つの振動体10における駆動原理について説明する。
図3は、振動体10による駆動動作のモデルを示す図である。図3に示すように、振動体10の圧電素子11,12のうちの一方(ここでは圧電素子11)に、駆動信号(交流電圧)を付与する。このような駆動信号が付与されると、その向きおよび大きさが変化する駆動力Fが振動体10に作用する。このような駆動力Fが振動体10に作用すると、共振現象によって振幅が数倍から数十倍に増幅され、振動体10は比較的大きく振動する。なお、一般的には2つの圧電素子11,12の両方に駆動信号を付与することも考えられるが、この実施形態では、2つの圧電素子11,12のうちの一方にのみ駆動信号を供給する場合、換言すれば単一の圧電素子(変位素子)のみを駆動する「単相駆動」の場合を例示する。
ここで、この駆動信号付与による駆動力Fが、図3の方向N(上述の加圧方向に相当)と当該方向Nに直交する方向Tとに分離されて作用するものと考え、方向Nにおける振動系(第1振動系とも称する)と方向Tにおける振動系(第2振動系とも称する)との両振動系における振動状態を考察する。第1振動系および第2振動系は、それぞれ、バネ、マス(重り)、ダンパで構成される1自由度の振動モデルで表現される。なお、ここでは、簡単化のため、ベース部材14は固定されており変形しないものとする。
また、第1振動系のみによる振動状態は、2つの圧電素子11,12が同位相で伸縮する同相モード(図6参照)に対応付けて表現される。また、第2振動系のみによる振動状態は、2つの圧電素子11,12が逆位相で伸縮する逆相モード(図7参照)に対応付けて表現される。同相モードは、チップ部材13は方向Nにおいて単振動する振動モードであり、逆相モードは方向Tにおいて単振動する振動モードである。
図4および図5は、一方の圧電素子に付与される駆動信号の周波数(駆動周波数)と、各振動系(第1振動系および第2振動系)における振動状態との関係を示す図である。図4は振幅の周波数特性を示す図であり、図5は位相遅れの周波数特性を示す図である。図4においては、駆動周波数fと第1振動系の振幅との関係を示す曲線LA1と、駆動周波数fと第2振動系の振幅との関係を示す曲線LA2とが示されている。図5においては、駆動周波数fと第1振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP1と、駆動周波数fと第2振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP2と、駆動周波数fと両振動系の位相遅れの差との関係を示す曲線LP3(端的に言えば、曲線LP1,LP2の差を示す曲線)とが示されている。
図4および図5に示すように、第1振動系および第2振動系の振動は、それぞれ、駆動周波数fに応じて変化する。具体的には、各振動系の振幅は、駆動周波数fが増大していくにつれて、増大していき、特定の周波数(「共振周波数」とも称する)のときに最大となり、その後減少していく。また、各振動系の位相遅れは、駆動周波数fが増大していくにつれて増大していく。
ここで、振動体10においては、第1振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)と第2振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)とは若干相違するように構成されている。
このため、図4に示すように、第1振動系における共振周波数f1と第2振動系における共振周波数f2とは互いに異なっている。具体的には、駆動周波数fが値f1のときに第1振動系の振幅が最大となり、駆動周波数fが値f2(>f1)のときに第2振動系の振幅が最大となる。また、図5に示すように、両振動系における位相遅れの度合いも異なっている。具体的には、各周波数において、第1振動系における位相遅れは第2振動系における位相遅れよりも大きくなっている。なお、ここでは、値f1が値f2よりも小さい場合を例示しているが、逆に値f1が値f2よりも大きくなることもある。
振動体10における振動状態は、上記の第1振動系における振動と第2振動系における振動との合成振動として表現され(図8〜図10参照)、チップ部材13は、楕円運動する。このような楕円状の振動を楕円振動とも称するものとする。また、この楕円振動の軌跡形状は、駆動周波数に応じて変化する。
例えば、周波数f3の駆動信号が付与されたときには、図9のような振動状態が発生する。より詳細には、図4に示すように第1振動系の振幅と第2振動系の振幅とが同じ大きさを有しているため、方向Tと方向Nとの振幅が同じになるような楕円軌跡(すなわち円軌跡)を描くように振動する。また、図5の曲線LP1,LP2に示すように第1振動系よりも第2振動系の方が位相遅れが小さく、図5の曲線LP3に示すように、両振動系の位相遅れの差は90度である。そのため、まず方向T(+T)の変位が励起され、それに引き続いて位相が90度遅れて方向N(+N)の変位が励起されるため、反時計回りの振動が励起される。
また、周波数f3よりも小さな周波数を有する駆動信号が付与されたときには、例えば図8のような楕円軌道に沿った振動が発生する。このときには、図4に示すように第1振動系の振幅が第2振動系の振幅よりも大きいため、方向Nの振幅が方向Tの振幅よりも大きくなるような楕円軌跡を描くように振動する。
一方、周波数f3よりも大きな周波数を有する駆動信号が付与されたときには、例えば図10のような楕円軌道に沿った振動が発生する。このときには、図4に示すように第2振動系の振幅が第1振動系の振幅よりも大きいため、方向Tの振幅が方向Nの振幅よりも大きくなるような楕円軌跡を描くように振動する。
なお、図8〜図10のいずれの場合も、第1振動系よりも第2振動系の方が位相遅れが小さいため、楕円振動における回転方向は反時計回りである。
<モデル修正後の楕円運動>
さて、上記においては、簡単化のため、ベース部材14が変形しない場合を想定していた。しかしながら、実際には、振動時にベース部材14も変形する。例えば、図11に示すように、同相モードにおいては、チップ部材13の方向Nにおける変形に伴ってベース部材14も比較的大きく弓形(ゆみなり)に変形する。また、図12に示すように、逆相モードにおいても、同相モードに比べるとその変形量は小さいが、チップ部材13の方向Tにおける変形に伴ってベース部材14が変形する。そのため、ベース部材14の変形をも含めてモデル化することが好ましい。
図13および図14は、それぞれ、このようなベース部材14の変形をも含めて各振動系をモデル化した場合における振幅および位相遅れの各周波数特性を示す図である。図13は、図4に対応しており、振幅の周波数特性を示す図である。また、図14は、図5に対応しており、位相遅れの周波数特性を示す図である。図13においては、駆動周波数fと第1振動系の振幅との関係を示す曲線LA11と、駆動周波数fと第2振動系の振幅との関係を示す曲線LA12とが示されている。図14においては、駆動周波数fと第1振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP11と、駆動周波数fと第2振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP12と、駆動周波数fと両振動系の位相遅れの差との関係を示す曲線LP13(端的に言えば、曲線LP11,PS12の差を示す曲線)とが示されている。
図13および図14に示すように、第1振動系および第2振動系の振動は、それぞれ、駆動周波数fに応じて変化する。具体的には、駆動周波数が値f11(=85.4kHz)のときに第1振動系の振幅が最大となり、駆動周波数が値f12(=89.4kHz>f11)のときに第2振動系の振幅が最大となる。また、第1振動系の位相遅れは駆動周波数の増大に応じて大きくなり、第2振動系の位相遅れも駆動周波数の増大に応じて大きくなる。
ここで、第1振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)と第2振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)とは若干相違している。このため、図13に示すように、第1振動系における共振周波数f11と第2振動系における共振周波数f12とは互いに異なっている。ここでは両共振周波数f11,f12の差(f12−f11)は4kHzである。また、図14に示すように、両振動系における位相遅れの度合いも異なっている。具体的には、各周波数において、第1振動系における位相遅れは第2振動系における位相遅れよりも大きくなっている。
振動体10における振動状態は、上記の第1振動系における振動と第2振動系における振動との合成振動として表現される(図15〜図19参照)。すなわち、チップ部材13は、楕円運動する。
図15は、周波数f14(=83.4kHz、図13参照)の駆動信号が付与されたときの振動状態STaを表し、図16は、周波数f11の駆動信号が付与されたときの振動状態STbを表し、図17は、周波数f13(=87.4kHz)の駆動信号が付与されたときの振動状態STcを表し、図18は、周波数f12の駆動信号が付与されたときの振動状態STdを表し、図19は、周波数f15(=91.4kHz)の駆動信号が付与されたときの振動状態STeを表している。すなわち、各振動状態STa〜STeに対応する駆動周波数は、この順序で大きくなっていく。
そして、図13に示すように第1振動系の振幅は駆動周波数が共振周波数f11のときに最大になるため、方向Nにおける振幅は共振周波数f11(振動状態STb(図16))のときに最大になる。また、駆動周波数fが値f15よりも小さな値(例えばf11〜f14)を有するときの振幅は、駆動周波数fが値f15である(f=f15)ときの振幅よりも大きくなっている。特に、共振周波数f11以上の領域では、駆動周波数fの減少に伴って、方向Nにおける振幅は徐々に大きくなる。
また、図13に示すように第2振動系の振幅は駆動周波数が周波数f12のときに最大になるため、方向Tにおける振幅は周波数f12(振動状態STd(図18))のときに最大になる。
<C.振動状態(特に径Rn)と被駆動体の速度との関係>
ここで、振動状態と被駆動体の速度(移動速度)との関係について、図20〜図23を参照して考察する。
図20は、振動体10による被駆動体30Aの駆動状態を示す概念図である。
図20に示すように、理想状態においては、まず、チップ部材13が楕円軌道PBの上側に存在する場合には、振動体10のチップ部材13が被駆動体30Aに摩擦接触した状態で接触開始位置から接触終了位置まで(図の右側から左側へと)移動することによって、所定方向DX(図において左向き)の駆動力が伝達される(図20(a))。そして、チップ部材13が楕円軌道PBの下側に存在する場合には(図20(b))、チップ部材13が被駆動体30Aから離れた状態で図の左側から右側へと移動した後、接触開始位置側へと復帰して再び被駆動体30Aへの接触状態に復帰する(図20(c))。以降同様の動作を繰り返すことによって、被駆動体30Aがチップ部材13と被駆動体30Aとの間に生じる摩擦力によって所定方向DX(X方向)に駆動される。すなわち、被駆動体30Aは、振動体10の振動動作に応じて振動体10との接触および振動体10からの離反を繰り返しつつ、振動体10との間に生じる摩擦力によって駆動される。
このような駆動状態においては、被駆動体30Aの速度は、楕円軌道における方向Tの速度に依拠して決定される。したがって、楕円軌道(楕円軌跡)の方向Tの径Rtが大きいほど、被駆動体30Aの速度が大きくなる。また、被駆動体30Aの駆動力は、基本的には、方向Nにおいてチップ部材13に加わる垂直抗力と、チップ部材13の被駆動体30Aに対する接触点における摩擦係数との積に依拠して決定される。
ただし、被駆動体30Aの駆動状態は、楕円軌道(楕円軌跡)の方向Nの径Rnにも依拠する。径Rnが小さすぎる場合には、被駆動体30Aおよび/またはチップ部材13等の弾性変形によって、チップ部材13と被駆動体30Aとが常時接触した不安定な駆動状態になるからである。
図21は、不安定な駆動状態の一例を示す図である。図21に示すように、チップ部材13が楕円軌道PBの下側に存在する場合(図21(b))にも、被駆動体30Aの弾性変形に起因してチップ部材13が被駆動体30Aから離れることができない状態になっている。そのため、被駆動体30Aの目標駆動方向とは逆向きの力がチップ部材13から被駆動体30Aに伝達されることになる。この力が制動力として作用し、ブレーキがかかった状態になるため、被駆動体30Aは十分な駆動力を得ることができず、速度が低下することになる。
上記のような不都合が生じないようにして駆動状態を安定させるためには、楕円軌道の方向Nにおける径Rnは所定値以上の値であることが好ましい。すなわち、径Rnは大きいことが好ましい。
図22は、上記のような振動体10による駆動状態を示す図であり、駆動周波数fと被駆動体30Aの速度vとの関係を示す図である。
振動状態STa,STb,STc,STd(図15〜図18)では、この順序で、楕円軌道(楕円軌跡)の方向Tにおける径Rtが徐々に増大しており、径Rtの増大につれて被駆動体30Aの速度vも増大している。
しかしながら、振動状態STeにおいては、急速に速度vが低下している。これは、図13の曲線LA11および図19に示すように楕円軌道の方向Nにおける径Rnが非常に小さくなっており、上記のような不安定な駆動状態が発生していることに起因する。
したがって、状態STeに対応する周波数よりも小さな周波数(例えば周波数f13(あるいは周波数f12等))の駆動信号を圧電素子11に付与することによって、安定的な駆動状態にすることが可能である。
また、このような振動状態は、2つの圧電素子11,12に流れる電流の位相差を検出することによって検知することが可能である。上述したように、2つの圧電素子11,12のうち一方の圧電素子11にのみ駆動電圧を付与している。この場合、当該駆動対象の圧電素子11に電流が流れるとともに、駆動対象でない圧電素子12にもその伸縮動作に伴う変位に応じて電流が流れる。このような性質を利用して、両圧電素子11,12に流れる電流の位相差φを検出することによって、振動状態を推定することができる。
図23は、電流位相差φと駆動周波数fとの関係を示す図である。図23に示すように、振動状態が同相モードに近づくにつれて電流位相差φはゼロに近づき、振動状態が逆相モードに近づくにつれて電流位相差φは180度(deg)に近づく。したがって、図22および図23に示すように、振動状態STa〜STeのうち、同相モードに最も近い振動状態STaにおいて電流位相差φは最も小さくなり、その後、振動状態STb,STc,STd,STeの順にその電流位相差φは徐々に大きくなっていく。
したがって、各振動状態に対応する電流位相差φを検出することによって、その振動状態を判定することができる。例えば、電流位相差φが値φcのときには振動状態STcであることが判る。また、電流位相差φが値φbのときには、より同相モードに近い振動状態STbであることが判り、電流位相差φが値φdのときには、より逆相モードに近い振動状態STdであることが判る。
<D.複数の振動体における制御>
<原理>
さて、上述したようにこの実施形態においては、複数の振動体10を用いて被駆動体30Aを駆動する。より詳細には、複数の振動体10に対して同一の(共通の)駆動信号(詳細には、同一周波数および同一位相の交流信号)を供給することによって、被駆動体30Aを駆動する。仮に複数の振動体に別個の周波数の駆動信号を付与すると、その差に相当する異音が発生するが、このように同一の駆動信号を付与することによれば、このような異音の発生を防止することができるとともに、複数の振動体10に別個の駆動周波数による駆動信号を付与する場合に比べて、回路構成を簡略化することができる。
ところで、複数の振動体10の製造時において、複数の振動体10のそれぞれに部品加工誤差あるいは組立誤差等が生じる。このような各種の誤差等に起因して、複数の振動体10の各振動特性に差が生じることがある。
図24は、振動体10a,10bのそれぞれによって被駆動体30Aを単独駆動した場合の駆動状態を示す図であり、駆動周波数fと被駆動体30Aの速度vとの関係を示す図である。すなわち、図24は、振動体10a,10bのそれぞれについて図22と同様の関係を示す図である。
特に、図24においては、複数の振動体10a,10bの製造時における各種誤差等に起因して、複数の振動体10a,10bの振動特性の間に差異が存在する場合が示されている。曲線Caは、振動体10aによる単独駆動時の被駆動体30Aの速度vと駆動周波数fとの関係を示しており、曲線Cbは、振動体10bによる単独駆動時の被駆動体30Aの速度vと駆動周波数fとの関係を示している。
理想的には、複数の振動体10a,10bの振動特性は互いに一致していることが好ましいが、図24に示すように、複数の振動体10a,10bの振動特性は互いに異なることがある。そして、この場合、上述したように、全ての振動体10a,10bを安定的にに駆動することは容易ではない。
そこで、この実施形態においては、複数の振動体10a,10bのうち、或る周波数の駆動信号が付与されたときの楕円軌道の加圧方向Nの径Rnが最小となる振動体を「基準振動体」として定め、当該基準振動体の振動状態を所定の目標状態に近づけるように、駆動信号の周波数を制御する。なお、「基準振動体」は、複数の振動体のうち、その径Rnが最小のものであることから、最も「不安定側」の振動体であるとも表現できる。
また、この実施形態においては、各振動体の振動状態を表す指標値として、電流位相差φを用いる。
図25は、2つの振動体10a,10bのそれぞれにおける電流位相差φと駆動周波数fとの関係を示す図である。曲線Daは、駆動周波数fと振動体10aにおける電流位相差φとの関係を示しており、曲線Dbは、駆動周波数fと振動体10bにおける電流位相差φとの関係を示している。2つの振動体10a,10bには、図24のような振動特性の相違に応じて、図25に示すような電流位相差φの相違が生じる。
具体的には、この実施形態においては、2つの振動体10についてそれぞれ電流位相差φを検出し、両振動体10のうち、その電流位相差φが最も大きい振動体を基準振動体として決定する。なお、基準振動体以外の振動体(以下、「非基準振動体」とも称する)の電流位相差φは、基準振動体の電流位相差φよりも小さくなる。ここでは、振動体10aが基準振動体であり、振動体10bが非基準振動体であるものとして説明する。
そして、当該基準振動体10aの電流位相差φが所定の目標値φp(例えば値φc)になるように、駆動信号の周波数をフィードバック制御する。換言すれば、基準振動体10aの電流位相差φを制御量としてフィードバック制御を行う。
この結果、基準振動体10aの電流位相差φが目標値φpになれば、図25から判るように、非基準振動体10bの電流位相差φは目標値φpよりもΔφ小さな値φq(<φp)になる。目標値φp近傍では電流位相差φが小さくなるにつれて径Rnが大きくなるので、非基準振動体10bの径Rnは基準振動体10aの径Rn(目標状態の径Rn)よりも大きくなる。したがって、非基準振動体10bは基準振動体10aよりも、比較的安定側の振動状態を有していることになる。
これによれば、基準振動体10aの振動状態を目標状態にするとともに、非基準振動体10bの振動状態が著しく不安定になることを防止することができる。すなわち、2つの振動体10a,10bをいずれも目標状態もしくは目標状態に近い状態で安定的に駆動することが可能である。
なお、電流位相差φの目標値φpとしては、安定した駆動状態を維持しつつ比較的大きな速度を得ることができる所定の値(例えば90度)を用いればよい。また、速度をさらに向上させたいときには比較的大きな値(例えば120度)を用いても良く、逆に速度をさらに低下させたいときには比較的小さな値(例えば70度)を用いても良い。
<具体的回路構成>
図26は、振動アクチュエータ1Aの制御回路80Aを示す図である。この実施形態においては、制御回路80Aを用いて上記のような制御を具体的に実現する。
この制御回路80Aは、MPU(Micro Processing Unit)81と発振器82と増幅器83a,83bと振動状態検出部85a,85bと比較部86とを有している。
MPU81は、発振器82の発振周波数を制御する。MPU81は、比較部86から出力される位相差検出信号等に基づいて発振器9の発振周波数を制御する。
発振器82は、正弦波状若しくはパルス状の駆動信号を生成するものであり、MPU81からの制御入力に応じて、駆動信号の周波数を任意に設定することができるようになっている。発振器82からの出力信号は、増幅器83a,83bに入力される。
増幅器83a,83bは、発振器82で生成された駆動信号のレベルを圧電素子11あるいは圧電素子12を駆動し得るレベルに増幅するものであり、増幅された駆動信号は圧電素子11あるいは圧電素子12に選択的に入力される。なお、2つの圧電素子11,12のうちのいずれの圧電素子に駆動信号を入力するかはMPU81からの制御信号に応じて切り替えられる。ここでは圧電素子11に駆動信号を入力する場合について説明するが、他方の圧電素子12に駆動信号を入力することによれば逆転駆動が可能になる。
このように、発振器82、増幅器83a,83bによって、同一の(共通の)駆動信号が、2つの振動体10a,10bの双方に入力される。また、各振動体10a,10bにおいては、2つの圧電素子11,12のうち一方の圧電素子のみに駆動信号が供給される。このような駆動信号の供給によって、各振動体10a,10bが振動する。
各振動体10a,10bの振動状態は、振動状態検出部85a,85bによって検出される。
各振動状態検出部85a,85bは、それぞれ、電流検出部71,72と位相差検出部73とを有している。
電流検出部71は、圧電素子11(ここでは駆動側素子)に流れる電流を検出する。圧電素子11に直列に接続されている抵抗R1は、圧電素子11に流れる電流を電圧に変換するものであり、電流検出部71は、抵抗R1の電圧降下を検出することによって圧電素子11に流れる電流を検出することができる。
電流検出部72は、圧電素子12(ここでは従動側素子)に流れる電流を検出する。すなわち、電流検出部72は、圧電素子12が機械的に変位した際に当該圧電素子12に流れる電流を検出する。圧電素子12に直列に接続されている抵抗R2は、圧電素子12に流れる電流を電圧に変換するものであり、電流検出部72は、抵抗R2の電圧降下を検出することによって圧電素子12に流れる電流を検出することができる。
位相差検出部73は、電流検出部71から入力される信号と電流検出部72から入力される信号との位相を比較し、両信号の位相差(すなわち、圧電素子11の変位と圧電素子12の変位との位相差)を検出するものである。位相差検出部73による検出結果は、比較部86に入力される。
振動状態検出部85aは、振動体10aの2つの圧電素子11,12からの出力電流の位相差を検出し、その検出信号を比較部86へ出力する。同様に、振動状態検出部85bは、振動体10bの2つの圧電素子11,12からの出力電流の位相差を検出し、その検出信号を比較部86へ出力する。
比較部86は、振動状態検出部85aからの検出信号(電流位相差φ)と振動状態検出部85bからの検出信号(電流位相差φ)とを比較し、振動状態検出部85a,85bのうち、その電流位相差φが大きい方の振動状態検出部に対応する振動体を基準振動体として決定する。例えば、図25に示す場合には、或る駆動周波数f13が付与されたとき、振動状態検出部85aから出力された電流位相差φは、振動状態検出部85bから出力された電流位相差φよりも大きくなる。そこで、振動状態検出部85aに対応する振動体10aを基準振動体として決定する。比較部86は、振動体10aを基準振動体として選択したことを示す選択信号と、当該基準振動体10aに関する電流位相差φとを、MPU81に伝送する。
MPU81は、基準振動体10aの電流位相差φが所定の目標値φp(例えば値φc)になるように、駆動信号の周波数をフィードバック制御する。なお、非基準振動体10bに関しては独自のフィードバック制御は行われず、振動体10aに対する駆動信号と同一の駆動信号が非基準振動体10bに対して付与される。
この結果、上述したように、基準振動体10aの電流位相差φが目標値φpになれば、非基準振動体10bの電流位相差φは目標値φpよりも小さくなる。すなわち、複数の振動体10a,10bのうち最も径Rnが小さい振動体(基準振動体)10aを基準に制御が行われ、振動体10aの径Rnは目標値に追従し、且つ、他の振動体(非基準振動体)10bの径Rnは基準振動体10aの径Rn(目標状態の径Rn)よりも常に大きくなる。したがって、2つの振動体10a,10bの双方を安定的に駆動することが可能である。
以上のように、上記駆動装置1Aにおいては、基準振動体10aの振動状態を所定の目標状態に近づけるように、駆動信号の周波数が制御される。これによれば、複数の振動体のうち最も不安定側の振動体である振動体10aを安定化するように制御されるため、振動体10aだけでなく他の振動体10bを含む全ての振動体10a,10bによる駆動状態を安定させるように制御することが可能になる。
なお、上記の特許文献2のように、2つの振動体の振動状態の検出結果の平均値を目標値に近づける場合には、図32に示すように、一方の振動体10aは安定した駆動状態になったとしても他方の振動体10bが不安定な状態になることがある。
図32は、図24と同様の図である。図32においては、高域側の周波数領域において、被駆動体30Aの速度vが急速に低下する様子が示されている。また、図32においては、図24よりも2つの振動体10a,10bの振動特性の差異が大きい場合が示されている。この場合において、振動状態の検出結果の平均値を目標値に近づけるために、駆動周波数を値f21から値f22に増大させることを想定すると、振動体10aについては安定的な駆動状態となるが、振動体10bについては駆動状態が不安定になっており被駆動体30Aの速度vが急速に低下する。
このように、特許文献2のように平均値を用いて制御を行った場合には、必ずしも全ての振動体において安定的な駆動状態が保証されるわけではなく、或る振動体は不安定な駆動状態になる可能性が存在する。
これに対して、上記の実施形態によれば、このような事態を招来せずに済む。
<E.変形例>
上記実施形態においては、比較部86を用いて両振動体10a,10bに関する電流位相差φを常に比較する場合を例示したが、これに限定されない。例えば電源投入後の所定期間のみにおいて、電流位相差φの比較動作を行うようにしてもよい。また、当該所定期間以外においては、当該所定期間に基準振動体であると決定された振動体の振動体の検出結果を所定の目標状態に近づけるように、駆動信号の周波数を制御すればよい。
また、上記実施形態においては、2つの振動状態検出部85a,85bを設け、2つの振動状態検出部85a,85bによる検出結果に基づいて複数の振動体10a、10bのうち何れの振動体が基準振動体であるかを決定し、当該基準振動体の振動状態の検出結果を所定の目標状態に近づけるように、駆動信号の周波数を制御する場合を例示したが、これに限定されない。
例えば、複数の振動体10a,10bのうち何れの振動体が基準振動体であるかを予め特定しておき、当該基準振動体として予め特定された1つの振動体のみの振動状態を検出する振動状態検出部を設けるようにしてもよい。具体的には、制御回路80Aに代えて、制御回路80B(図27参照)を設けるようにしてもよい。
図27は、このような変形例に係る制御回路80Bを示す図である。制御回路80Bにおいては、基準振動体として予め特定された1つの振動体(ここでは10b)のみの振動状態を検出する振動状態検出部85cが設けられている。換言すれば、一方の振動体10bの振動状態を検出する振動状態検出部は設けられているが、他方の振動体10aの振動状態を検出する振動状態検出部は設けられていない。
2つの振動体10a,10bのいずれを基準振動体とするかは、工場出荷前等において実測によって予め定めておけばよい。たとえば、図26に示すような振動状態検出部85a,85bに相当する測定器具を用いて、所定の駆動信号が付与されたときの両振動体10a,10bについての電流位相差φをそれぞれ求め、より大きな電流位相差φを有する振動体を基準振動体として特定すればよい。あるいは、振動体10a,10bのそれぞれの振動特性を測定し、その測定結果に応じて基準振動体を決定するようにしてもよい。
この制御回路80Bにおいては、複数の振動体のうち1つの振動体のみの振動状態を検出すればよいので、構成を簡易化することができる。
或いは、図28に示すような制御回路80Cを上記の制御回路80A(または80B)に代えて設けるようにしてもよい。
制御回路80Cは、1つの振動体10aのみの振動状態を検出する振動状態検出部85dを設けるとともに、或る周波数の駆動信号が付与されたときの基準振動体の振動状態を示す指標値と他の振動体の振動状態を示す指標値とのオフセット量を記憶する記憶部88をも設けている。
具体的には、常に1つの振動体10aのみの振動状態を検出する振動状態検出部85dを有するハードウエア回路を構成しておき、工場出荷前の調整時等において、上記変形例と同様に、実測等によって基準振動体を定める場合を想定する。この場合において、振動体10aとは異なる振動体(例えば10b)が基準振動体であることが判明したときには、振動状態検出部85dは、基準振動体ではない振動体10aの振動状態を検出することになる。そのため、このままでは上記の思想を実現することができない。
そこで、記憶部88において、或る周波数の駆動信号が付与されたときの基準振動体の振動状態を示す指標値(電流位相差φ)と他の振動体の振動状態を示す指標値(電流位相差φ)とのオフセット量Δφ(図25参照)を記憶させておく。
そして、実際に制御を行う際には、非基準振動体10aの振動状態を表す電流位相差φを、目標値(φp−Δφ)に近づけることによって、複数の振動体のうち基準振動体10bの振動状態を所定の目標状態に近づけるように駆動信号の周波数を制御する。この目標値(φp−Δφ)は、基準振動体10bの所定の目標状態を示す電流位相差φpとオフセット量Δφとを用いて補償した目標値である。
これによれば、1つの振動体(この場合は10a)のみの振動状態を検出すればよいので、構成を簡易化することができる。また、複数の駆動装置を製造する場合において、複数の振動体のうちの常に1つの振動体10aに対する振動状態検出部85dを固定的に設けるときに、基準振動体以外の非基準振動体の振動状態を検出することになるとしても、オフセット量を用いた補償動作を伴って振動体10aの振動状態を所定の目標状態に近づけることによって結果的に基準振動体10bの振動状態を目標状態に近づけることができる。そのため、複数の駆動装置において常に振動体10aのみの振動状態を検出すればよく、振動検出対象となる振動体を各駆動装置ごとに変更せずに済むので、複数の駆動装置について同様の構成を有するハードウエア回路を用いることができる。
また、上記実施形態では、各振動体10において、第1振動系の共振周波数(f11)が第2振動系の共振周波数(f12)よりも小さい場合を例示したが、これに限定されない。逆に、第1振動系の共振周波数(f11)が第2振動系の共振周波数(f12)よりも大きい場合にも上記の思想を適用することができる。
また、上記実施形態においては、被駆動体30Aがリニアガイドによって支持されている場合を例示したが、これに限定されない。たとえば、リニアガイドを設けず、2つの振動体10によって被駆動体30Aをその上下両側から挟み込み、一方の振動体10によって他方の振動体10からの付勢力(加圧力)を支持するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、2つの振動体10a,10bを被駆動体30Aをその上下両側に設ける場合を例示したが、これに限定されず、被駆動体30Aの一方側の面にのみ振動体を設けるようにしてもよい。例えば、図29に示すように、被駆動体30Aの下面側にのみ振動体10a,10bを設けるようにしてもよい。また、図29の駆動装置1Bにおいては、ローラ42が被駆動体30Aの上面側に設けられている。これらのローラ42は、振動体10a,10bの各加圧部材40からの付勢力を支持する役割を有している。
また、上記実施形態においては、2つの振動体10によって被駆動体30Aを駆動する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、図30に示すように、さらに多くの振動体を用い被駆動体30Aを駆動するようにしてもよい。図30の駆動装置1Cにおいては、4つの振動体10a〜10dを有する駆動装置が例示されている。
また、上記実施形態においては、被駆動体30Aが直線運動する場合を例示しているが、これに限定されず、被駆動体が回転運動するようにしてもよい。
図31は、このような変形例に係る駆動装置1Dを示す図である。図31においては、所定軸AXまわりに回転可能な円筒形状の被駆動体30Bを、当該被駆動体30Bの外周面に配置された3つの振動体10a〜10cによって駆動する駆動装置が例示されている。このような駆動装置によれば、各振動体10a〜10cの被駆動体30Bとの接触点における楕円運動が、被駆動体30Bの外周面に沿う方向の速度を発生させて、被駆動体を回転駆動することができる。