以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。尚、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例に過ぎない。したがって、この発明は、以下の実施の形態に何ら限定されない。また、以下の説明においては、各光は、近軸光線として取り扱う。
(実施の形態1)
図1〜図6を参照して、実施の形態1の波長選択素子の構造および動作につき説明する。図1は、実施の形態1の波長選択素子の概略構造を示す斜視図であって、反射膜の一部を切欠して示している図である。図2は、図1において、光結合部付近を拡大した要部拡大平面図である。図3は、波長選択素子の構造上の条件および動作の説明に供する模式図である。図4は、光結合部を介して平面導波路へと結合された未波長選択光が、ガウスビームとなることの説明に供するグラフである。図5は、図1のI−I線に沿った要部拡大断面図である。図6は、波長選択素子の変形例を示す要部拡大断面図である。
主に、図1を参照して、波長選択素子10の構造につき説明する。波長選択素子10は、平面形状が矩形の平行平面板状の基板12に集積されたチャネル型導波路14、平面導波路16および反射型回折格子18を備えている。つまり、この波長選択素子10は、全ての構成部品が共通の基板12に集積されたモノリシックな光学素子である。
基板12は、平面形状が直角四辺形の板状体であり、主面12aと、この主面12aに対向して裏面側に存在する主面12dとを備えている。主面12a上に、チャネル型導波路14および平面導波路16(反射型回折格子18)が積層されている。
平面導波路16は、チャネル型導波路14から結合された光、および、反射型回折格子18で波長選択された波長選択光が伝搬するプレーナ型導波路である。平面導波路16は、基板12の主面12aに積層されている。
以下、平面視で、基板12における平面導波路16の配置を説明する。平面導波路16は、おおまかに言って、基板12の対角線に沿って、基板12の対角同士を結ぶ第1斜辺16aと、第1斜辺16aの一端部(基板12の一方の対角付近)から、基板12の長辺12bに沿って、この長辺12bの途中まで延びる底辺16bと、底辺16bの端部から、第1斜辺16aの他端部(基板12の他方の対角付近)とを結ぶ第2斜辺16cとで囲まれている。
チャネル型導波路14は、平面導波路16と光結合可能に設けられている。チャネル型導波路14は、後述する端面14bから入力された光I0(以下、チャネル伝搬光I0とも称する。)を伝搬するとともに、平面導波路16に波長選択されるべき光(以下、未波長選択光とも称する。)を出射し、さらに、平面導波路16から所定の波長に選択された波長選択光が入射される機能を有している。
チャネル型導波路14は、長尺な矩形板状の部品すなわち構成要素として形成されていて、平面導波路16の側面16e(図2)と間隙22を隔てて、基板12の主面12a上に配置されている。すなわち、チャネル型導波路14は、基板12の一方の対角付近の短辺12cから、基板12の長辺12bに平行に、基板12の中央付近まで延在している。チャネル型導波路14の、基板12の短辺12c側の端面14bは、光の入出射端面とされており、基板12の側面12eと段差なく接続されている。以降、端面14bを入出射端面14bとも称する。
チャネル型導波路14と平面導波路16とは、密着しておらず、チャネル型導波路14の側面14aと16の側面16eとの間には間隙22が形成されている。この間隙22に対応する領域には、チャネル型導波路14および平面導波路16のどちらよりも屈折率が低い物質が介在されている。
ここで、図2を参照して、この間隙22につき説明する。チャネル型導波路14の側面14aおよび平面導波路16の側面16eは、それぞれ平面状に形成されている。また、側面14aと側面16eとは、平行ではない。つまり、側面14aと側面16eとの間の間隙22は、チャネル型導波路14の端面14bから端面14dに向かって徐々に幅Hが狭くなるように形成されている。換言すれば、間隙22は、チャネル型導波路14を伝搬するチャネル伝搬光I0の伝搬方向(以下、チャネル伝搬方向とも称する。)に沿って、幅Hが狭くなるように配置されている。
ここで、側面14a、側面16eおよび間隙22からなる構造体を光結合部24と称する。
再び図1を参照すると、チャネル型導波路14と、平面導波路16とは、互いに等しい厚みとされている。
また、チャネル型導波路14の上面のほぼ全面を覆って、チャネル型導波路14の屈折率を変更するために用いる電極26が形成されている。なお、基板12の主面12d(裏面)の全面には、電極26に対する接地電極29が設けられている。電極26と接地電極29との間には、逆バイアス電圧が印加される。これにより、後述のように、電気光学効果に基づき、チャネル型導波路14の屈折率が変更される。
反射型回折格子18は、格子面28に入射する光を単色化して、チャネル型導波路14に向けて回折する機能を有する。反射型回折格子18は、第2斜辺16cに対応する平面導波路16の側面16f(格子面28)に作りこまれている。反射型回折格子18は、各格子溝34の断面が鋸歯状とされたブレーズド格子であり、各格子溝34は、基板12の主面12aに垂直に延在して、格子面28に形成されている。格子面28には、反射膜36が成膜されている。この反射膜36は、たとえば、屈折率が異なるSiO2膜とSiN膜とを交互に積層した、いわゆる誘電体多層膜とする。
次に、図3を参照して、波長選択素子10の詳細な配置につき、適宜、波長選択素子10における光の伝搬に触れながら、説明する。
光結合部24は、平面導波路16の側面16eと、チャネル型導波路14の側面14aとが、間隙22を隔てて対向した構造を有している。入出射端面14bから入力され、チャネル型導波路14を伝搬して光結合部24に至ったチャネル伝搬光I0は、側面14aから、エバネッセント波として間隙22に染み出し、側面16eを介して平面導波路16へと出射角Θの未波長選択光Iとして出射される。間隙22の幅Hおよび、間隙22の長さを適当に選択することにより、チャネル伝搬光I0は、実質的に100%の結合効率で平面導波路16へと結合される。
なお、ここで「結合効率」とは、光結合部24を介して、チャネル型導波路14(平面導波路16)から平面導波路16(チャネル型導波路14)に移行した光の強度割合のことをいう。
これと同様に、反射型回折格子18で回折されることで、所定の波長に選択された波長選択光I’も、平面型導波路16を伝搬して光結合部24に至り、間隙22を介してチャネル型導波路14に結合され、チャネル型導波路14中を入出射端面14bに向かって伝搬される。
ここで、図4を参照して、光結合部24を介して平面導波路16へと結合された未波長選択光Iが、ガウスビームとなることにつき説明する。なお、ガウスビームとは、平面導波路16内における強度分布がガウス分布に従う光のことをいう。
図4は、横軸が、チャネル型導波路14の長手方向(チャネル伝搬方向)に沿った距離であり、縦軸(左)が、光結合部24における結合効率(任意単位)であり、および、縦軸(右)が、チャネル型導波路14内におけるチャネル伝搬光I0の強度(任意単位)である。
図4中の曲線iは、光結合部24における結合効率の変化を模式的に表している。結合効率は、間隙22の幅Hに依存することが知られている。つまり、幅Hが広いほど結合効率が小さく、幅Hが狭いほど結合効率が大きくなる。この結果、光結合部24の結合効率は、チャネル型導波路14の入出射端面14bから端面14dにかけて、徐々に増加する。
図4中の曲線iiは、チャネル伝搬光I0のチャネル型導波路14内における強度の変化を模式的に表している。チャネル伝搬光I0は、チャネル型導波路14を伝搬するにしたがって、平面導波路16へと結合されることで、チャネル型導波路14から除かれる。この結果、チャネル伝搬光I0のチャネル型導波路14内における強度は、端面14bから端面14dにかけて徐々に減少する。
図4中の曲線iiiは、チャネル型導波路14から平面導波路16に結合された未波長選択光Iの側面16eにおける強度分布を模式的に表している。
曲線iiiの形状は、チャネル伝搬方向に沿った結合効率の増加(曲線i)と、チャネルで伝搬光I0の強度減少(曲線ii)との兼ね合いで決定される。すなわち、曲線iに示すように、チャネル伝搬方向に沿って結合効率が徐々に増加していくことから、曲線iiiは徐々に増加する。ところで、曲線iiに示すようにチャネル伝搬光I0の強度は徐々に減少するので、やがて曲線iiiはピークをとり、その後は、徐々に減少していく。結果として、チャネル型導波路14から平面導波路16に結合された未波長選択光Iの強度分布(曲線iii)は、実質的にガウス分布となる。
つまり、間隙22の幅をチャネル伝搬方向に沿って狭くしていくことにより、平面導波路16に結合された未波長選択光Iは、ガウスビームとなる。
つぎに、再び図3を参照して、チャネル型導波路14から平面導波路16へと出射される未波長選択光Iの出射角Θにつき説明する。
出射角Θは、チャネル型導波路14と平面導波路16の屈折率に依存して変化することが知られている。ここで、チャネル型導波路14の等価屈折率をnwとし、平面導波路16の等価屈折率をnpとする。このとき、出射角Θと、等価屈折率nw,npとの間には、下記(1)式の関係が成り立つことが知られている。
cosΘ=np/nw・・・(1)
このことより、チャネル型導波路14の等価屈折率nwを変化させると、(1)式に基づき、出射角Θが変化する。この結果、光結合部24を介して、チャネル型導波路14から平面導波路16へと結合された未波長選択光Iは、出射角がΘに揃った状態、つまり、コリメートされた状態で、平面導波路16内を伝搬し、点Pにおいて、入射角αで反射型回折格子18の格子面28に入射する。
反射型回折格子18の格子面28は、上述の入射角αが大きくなるにつれて、未波長選択光Iの光路長Lが長くなるような傾斜角度Θgで配置されている。より詳細には、チャネル型導波路14の中心線を、格子面28を含む面38まで延長した線分42と面38とが、平面導波路16が延在する面内でなす角度θ1とθ2(=Θg)の内、未波長選択光Iの格子面28への入射点Pを含む側の角度θ1が鈍角であるように、格子面28が配置されている。なお、ここで、θ1とθ2(=Θg)とは互いに補角の関係にある(θ1+θ2=180°)。
なお、ここでチャネル型導波路14は、その光伝搬方向に沿った長さがLwである。そして、チャネル型導波路14の端面14dと、反射型回折格子18の格子面28との距離はLgである。
つぎに、主に、図1を参照して、波長可変素子10の各部の寸法につき、一好適例を挙げて説明する。
基板12は、たとえば、厚みを約300μmとし、長辺12bの長さを約600μmとし、および短辺12cの長さを約50μmとする。
チャネル型導波路14は、たとえば、厚みを約0.5μmとし、端面14bと14dとの間の長さ(Lw)を約300μmとし、および幅を約2μmとする。また、チャネル型導波路14の等価屈折率nwを、たとえば、3.4とする。
平面導波路16は、たとえば、厚みを約0.5μmとし、底辺16bのおおよその長さを約400μmとし、第1斜辺16aのおおよその長さを約600μmとし、および、第2斜辺16cのおおよその長さを約50μmとする。また、平面導波路16の等価屈折率npを、たとえば、3.4とする。また、チャネル型導波路14の端面14dと格子面28との距離Lgは、例えば、10μmとする。
間隙22の幅Hは、たとえば、端面14b付近において、約1.5μmとし、端面14d付近において、約0.5μmとする。
反射型回折格子18は、たとえば、格子定数を0.4μmとし、およびΘgを約30°とする。
つぎに、図5を参照して、波長選択素子10の断面構造につき説明する。図5は、図1におけるI−I線に沿った要部拡大断面図である。
基板12は、たとえば、n型InP基板を用いる。この基板12の主面12a上に、InGaAsPからなる平面導波路16が積層されている。同様に、主面12a上にはp型InGaAsPからなるチャネル型導波路14が積層されている。
平面導波路16の側面16eとチャネル型導波路14の側面14aとの間の間隙22に対応する領域には、平面導波路16およびチャネル型導波路14よりも等価屈折率が低いInPが充填されている。
そして、チャネル型導波路14の上面には、Ti膜、Pt膜およびAu膜を、この順序で積層した後にアニールを行うことで形成された、たとえば、厚みが0.5μmの電極26が設けられている。また、基板12の主面12dの全面には、電極26と同様の積層構造を持つ接地電極29が形成されている。
つぎに、主に、図3を参照して、波長選択素子10の動作につき説明する。
電極26に印加する電圧が制御されたチャネル型導波路14の端面14bから、チャネル伝搬光I0が入力されると、チャネル伝搬光I0は、チャネル型導波路14内を端面14d方向に伝搬して、光結合部24に至る。光結合部24に至ったチャネル伝搬光I0は、上述した(1)式で与えられる出射角Θで、ガウスビームである未波長選択光Iとして、間隙22を介して平面導波路16へと出射される。
このようにして、平面導波路16に結合された未波長選択光Iは、平面導波路16を経路Aに沿って伝搬して、反射型回折格子18の点Pに入射角αで入射する。反射型回折格子18に入射した未波長選択光Iは、下記(2)式で与えられるリトロー配置における回折条件にしたがって、波長の長短によって、異なる回折角βで回折される。つまり、回折格子18で回折されることで、未波長選択光Iは、波長により分離される。
mλ/np=2dsinβ ・・・(2)
ただし、mは正の整数である。また、dは、反射型回折格子18の格子定数である。
回折角βは種々の値を取ることができるが、回折角βが入射角αと等しい場合にのみ、反射型回折格子18で回折された光が、チャネル型導波路14へと再び帰還することができる。つまり、反射型回折格子18に入射した未波長選択光Iのうち、回折角α(=入射角α)で回折されることで、(2)式で与えられる特定波長λに選択された波長選択光I’のみが、未波長選択光Iの伝搬経路(経路A)を逆に辿り、チャネル型導波路14へと帰還する。このようにしてチャネル型導波路14に帰還した波長選択光I’は、入出射端面14bから出力される。
なお、本明細書中で、回折角および入射角とは、格子面28の法線と、光の伝搬方向とのなす角度のことを示す。
このとき、電極26と接地電極29との間に印加する電圧を変更すると、電気光学効果により、チャネル型導波路14の等価屈折率nwが変化する。この結果、(1)式にしたがって出射角Θが変更される。すると、未波長選択光Iの反射型回折格子18への入射角α(回折角α)が変化する。よって、反射型回折格子18で回折されてチャネル型導波路14へと帰還する波長選択光I’の波長λが変更される。
このように、この実施の形態の波長選択素子10は、(背景技術)の欄で説明した波長選択素子とは異なり、レンズを用いていない。よって、レンズの分だけ、従来の波長選択素子よりも構成部品数を削減することができる。
また、この実施の形態の波長選択素子10は、レンズを用いていないので、波長選択素子10を構成する部品(チャネル型導波路14、平面導波路16および反射型回折格子18)の光軸合わせの必要がない。
また、この実施の形態の波長選択素子10は、全ての構成部品(チャネル型導波路14、平面導波路16および反射型回折格子18)が、基板12にモノリシックに集積されているので、(背景技術)の欄で説明した波長選択素子に比べて、小型である。
また、この実施の形態の波長選択素子10は、平面導波路16内における未波長選択光Iの強度分布を、レンズを用いることなく、ガウス分布とすることができる。ところで、単色化された波長選択光I’における強度分布の波長分散は、未波長選択光Iの強度分布(横軸:位置、および縦軸:強度)のフーリエ変換で与えられることが知られている。よって、未波長選択光Iの強度分布をガウス分布とすることで、波長選択光I’の強度分布の波長分散をガウス分布とすることができる。
なお、この実施の形態においては、平面視での平面導波路16の形状をほぼ三角形状としているが、平面導波路16は、光結合部24から反射型回折格子18への光の伝搬を妨げることがなければ、その形状に特に制限はない。
また、この実施の形態においては、反射型回折格子18としてブレーズド格子を用いたが、反射型回折格子18としては、ブレーズド格子に限らず、格子溝34の断面形状が鋸歯状以外の形状を有するレリーフ型回折格子や、屈折率変調型回折格子を用いてもよい。
また、この実施の形態においては、電極26と接地電極29との間に逆バイアス電圧を印加し、この電圧の大きさを変更することにより、電気光学効果を用いて、チャネル型導波路14の屈折率を変更している。しかし、チャネル型導波路14の屈折率制御は、電気光学効果に限らず、たとえば、自由キャリアプラズマ効果、音響光学効果、磁気光学効果、熱光学効果および非線形光学効果のいずれかの効果を利用して変更してもよい。特に、自由キャリアプラズマ効果を用いた場合には、電極26と接地電極29との間に順バイアス電圧を印加することにより、チャネル型導波路14の屈折率の変更幅を、電気光学効果を利用する場合よりも大きくすることができるので、より広い範囲で、波長選択を行うことができる。
また、この実施の形態においては、チャネル型導波路14から平面導波路16へと結合された未波長選択光Iをガウスビームとするために、光結合部24の間隙22の幅Hをチャネル伝搬方向に沿って徐々に狭くしていた。しかし、未波長選択光Iが、ガウスビームでなくても良い場合には、間隙22の幅Hを場所によらず一定としても、つまり、チャネル型導波路14の側面14aと平面導波路16の側面16eとを平行に配置してもよい。このようにすることによっても、チャネル型導波路14から、実質的に100%の結合効率で、チャネル伝搬光I0を平面導波路16へと結合することができる。
また、この実施の形態においては、チャネル型導波路14の中心線を、格子面28を含む面38まで延長した線分42と面38(図3参照)とが、平面導波路16が延在する面内でなす角度θ1とθ2(=Θg)の内、未波長選択光Iの格子面28への入射点Pを含む側の角度θ1が鈍角であるように、格子面28が配置されているが、この角度θ1は、直角(90°)を含んでいてもよい。θ1=90°の場合も、上述の議論はそのまま成立する。
また、この実施の形態においては、基板12の主面12a上に、チャネル型導波路14と平面導波路16とが間隙22を隔てて対向配置されていた。しかし、チャネル型導波路14と平面導波路16との配置は、この態様に限らず、たとえば、図6に示すように、平面導波路16上に、間隙22’を隔てて、リッジ状にチャネル型導波路14’が配置されていても良い。このような構成によっても、チャネル型導波路14’と平面導波路16との間で光を結合することができる。
また、この実施の形態においては、反射型回折格子18は、平面導波路16の側面16fに作りこまれていたが、反射型回折格子を、平面導波路16と別体としてもよい。つまり、基板12の主面12a上に、反射型回折格子を備える構造体を配置し、この反射型回折格子を、平面導波路16の側面16fに対向するように配置しても、この実施の形態で説明したと同様の効果が得られる。
(実施の形態2)
次に、図7および図8を参照して、実施の形態2の光共振器の構造および動作につき説明する。図7は、実施の形態2の光共振器の概略構造を示す斜視図である。図7において、図1の場合と同様に、反射膜の一部を切欠して示してある。図8(A)〜図8(D)は、光共振器の変形例の概略構造をそれぞれ示す平面図である。
なお、実施の形態2の光共振器20は、反射ミラー21を備えている点以外は、実施の形態1の波長選択素子10と同様の構造である。したがって、図7において、図1と同様の構成要素には同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
光共振器20は、波長選択素子10と反射ミラー21とを備えている。反射ミラー21は、チャネル型導波路14の入出射端面14bに設けられており、100%未満の反射率を有する。この反射ミラー21は、たとえば、屈折率が異なるSiO2膜とSiN膜とを交互に積層した、いわゆる誘電体多層膜からなる。
また、図示はしないが、光共振器20の外部には、反射ミラー21に対向する光出射口を備えたレーザ光源が配置されている。
次に、主に、図7および図3を参照して、この光共振器20の動作につき説明する。
レーザ光源から出射された光は、反射ミラー21を介して、入出射端面14bからチャネル伝搬光I0としてチャネル型導波路14へと導入される。チャネル伝搬光I0は、チャネル型導波路14中を端面14d方向に伝搬していく過程で、光結合部24により、平面導波路16へと結合され、出射角Θのガウスビームとしての未波長選択光Iとして、平面導波路16中を反射型回折格子18に向けて伝搬する。
平面導波路16中を伝搬する未波長選択光Iは、経路Aに沿って、反射型回折格子18の格子面28上の点Pに入射角αで入射する。回折格子18に入射した光は、上述の(2)式に従い、波長の長短により異なる回折角βで回折される。つまり、回折格子18で回折されることで、光は、波長により分離される。
反射型回折格子18に入射した光のうち、回折角α(=入射角α)で回折されることで、特定波長λに選択された波長選択光I’のみが、再び経路Aに沿って、チャネル型導波路14へと帰還して反射ミラー21方向に伝搬する。反射ミラー21に至った光は、反射ミラー21により反射され、上述で説明したと同様の経路(平面導波路16の経路Aとチャネル型導波路14)を往復する。往復のたびに、波長選択光I’の強度は増加していき、やがて反射ミラー21から波長λの光として、出射される。
ここで、図3および(2)式より、入射角α(回折角α)が大きくなる、つまり、未波長選択光Iの出射角Θが大きくなれば、波長選択光I’の波長λが長くなることがわかる。
ところで、未波長選択光Iの出射角Θが変更されると、未波長選択光Iの入射角α(回折角α)のみでなく、チャネル型導波路14から反射型回折格子18に至るまでの未波長選択光Iの平面導波路16内の伝搬距離(光路長L)も変化する。すなわち、出射角Θの変更に伴い、反射型回折格子18で回折されてチャネル型導波路14に帰還する波長選択光I’の平面導波路16内の伝搬距離(光路長L)も変化する。
以上をまとめると、光共振器20においては、出射角Θを大きくすると、波長選択光I’の波長λが長くなり、かつ、その光路長Lも長くなる。逆に、出射角Θを小さくすると、波長選択光I’の波長λが短くなり、かつ、その光路長Lも短くなる。
よって、光共振器20においては、波長選択光I’の波長λの変化に応じて光路長Lが変化するので、縦モードの次数を一定に保ったまま、つまり、モードホッピングを生じることなく、選択波長λを変化させることができる。
つぎに、図3を参照して、光共振器20の構成要素の配置条件につき説明する。
(2)式より、微小なλの変化Δλによる、回折角αの変化Δαは、下記(3)式で与えられる。
mΔλ/np=Δα2dcosα ・・・(3)
(3)式を(2)式の両辺で割ると、下記(4)式が得られる。
Δλ/λ=Δα/tanα ・・・(4)
ところで、幾何学的に、出射角Θと回折角αとの間には、下記(5)式が成り立つ。
α=π/2−Θg+Θ ・・・(5)
(5)式より、微小なαの変化Δαと、出射角Θの変化ΔΘとの関係は、下記(6)式で与えられる。
Δα=ΔΘ ・・・(6)
また、(5)式より、下記(7)式および(8)式が成り立つ。
sinα=cos(Θ−Θg) ・・・(7)
cosα=−sin(Θ−Θg) ・・・(8)
(6)式〜(8)式を(4)式に代入して、下記(9)式が得られる。
Δλ/λ=−tan(Θ−Θg)ΔΘ
=tan(Θg−Θ)ΔΘ ・・・(9)
一方、光路長Lは、幾何学的に、下記(10)式で表される。
L=Lg/(cosΘ−sinΘ/tanΘg) ・・・(10)
(10)式において、長さLの微小な変化ΔLによる出射角Θの変化ΔΘは、下記(11)式で与えられる。
ΔL=Lg(sinΘ+cosΘ/tanΘg)/(cosΘ−sinΘ/tanΘg)2×ΔΘ
=L(sinΘ+cosΘ/tanΘg)/(cosΘ−sinΘ/tanΘg)×ΔΘ
=Lcos(−Θg+Θ)/sin(Θg−Θ)×ΔΘ
=L/tan(Θg−Θ)×ΔΘ ・・・(11)
ところで、反射ミラー21と反射型回折格子18の点Pとの間で構成される光共振器20における共振条件は、光共振器20の共振器長Tを用いて、下記(12)式で与えられる。
kT=qπ ・・・(12)
ただし、kは、波長λの光の波数(=2π/λ)を示し、qは、正の整数(縦モード次数+1)を示す。
ここで、共振器長Tは、T=npL+nwLwで与えられるので、(12)式より、下記(13)式が得られる。
k(npL+nwLw)=qπ ・・・(13)
ここで、出射角Θを変化させると、回折角αが変化することにより(13)式において、波数kが、微小変化量Δkだけ、変化する。この微小変化Δkに対して、共振条件である(13)式は、下記(14)式のように変形できる。
Δk(npL+nwLw)+k(npΔL+ΔnwLw)=Δqπ ・・・(14)
ただし、ΔLは、Lの微小変化を、Δnwは、nwの微小変化を、Δqは、qの変化を、それぞれ表す。
ここで、波数k(波長λ)が変化してもモードホッピングが生じないためには、(14)式で、Δq=0でなければならない。これより、下記(15)式が得られる。
Δk(npL+nwLw)+k(npΔL+ΔnwLw)=0 ・・・(15)
ところで、(15)式の左辺を展開して、(13)式を用いて整理すると、下記(16)式が得られる。
Δkqπ/k2+npΔL+ΔnwLw=0 ・・・(16)
さらに、(16)式に、k=2π/λの両辺を微分して得られる関係であるΔk=−k2/2π×Δλを代入すると、下記(17)式が得られる。
−Δλq/2+npΔL+ΔnwLw=0 ・・・(17)
(17)式に、(9)式および(11)式を代入してまとめると、下記(18)式が得られる。
ΔΘ(−qλtan(Θg−Θ)/2+npL/tan(Θg−Θ))+ΔnwLw=0 ・・・(18)
(18)式を変形することで、下記(19)式が得られる。
(npL+nwLw)tan(Θg−Θ)−npL/tan(Θg−Θ)=ΔnwLw/ΔΘ ・・・(19)
ところで、発明者が行ったシミュレーションによれば、(19)式において、Θが小さい場合(約10°以下)に、等価屈折率変化Δnwと出射角度変化ΔΘとが、近似的に比例関係にあるとみなせることが明らかとなった。このことより、右辺はある定数となる。上述のシミュレーションによれば、この定数は、波長λの50倍程度の値である。
よって、(19)式を満たすように、L、Lw、Θg、Θおよびnwを決定することにより、モードホッピングが生じないようにしつつ、選択波長λを連続的に変化させることができる。
さらに、(19)式が、経路Aの長さL、つまり平面導波路16の長さに依存しないようにするためには、(19)式から、Lを含む項が消去できればよい。つまり、下記(20)式が成り立てばよい。
Ltan(Θg−Θ)=L/tan(Θg−Θ) ・・・(20)
(20)式の条件は、Θg−Θ=π/4で成り立つ。Θが充分に小さい場合(約5°以下)には、近似的にΘg≒π/4(45°)と置くことができる。よって、反射型回折格子18の格子面28の延びる方向と、チャネル型導波路14の光伝搬方向とのなす外角がπ/4となるように、すなわち、θ1が135°となるように反射型回折格子18を配置すれば、出射角Θが充分に小さい場合には、平面導波路16における光路長(経路Aの長さL)によらず、モードホッピングが生じないようにしつつ、選択波長λを連続的に変化させることができる。
このように、この実施の形態の光共振器20によれば、レーザ光源で発生した光が、反射ミラー21と反射型回折格子18との間の光路(平面導波路16の経路Aおよびチャネル型導波路14)として構成される光共振器で共振されることで、所定の選択波長λの光として反射ミラー21から取り出される。この光共振器20においては、光結合部24が、チャネル型導波路14から反射型回折格子18に向けた光の出射角Θを変えることにより、反射型回折格子18へ入射する光の入射角α、および光路(平面導波路16の経路Aおよびチャネル型導波路14)の光路長(共振器長T)を同時に変更する。このように、反射型回折格子18への入射角αの変更に伴い生じる波長選択と、共振器長Tの変化とを同時に行うことにより、レンズを設けることなく、モードホッピングを解消して幅広い範囲で選択波長λを変更することができる。
また、この実施の形態の光共振器20は、実施の形態1の波長選択素子10を用いているので、実施の形態1と同様の効果を奏する。
なお、この実施の形態においては、反射ミラー21をチャネル型導波路14の端面14bに設けていたが、反射ミラー21の配置は、これに限定されない。たとえば、図8(A)に示すように、反射ミラー21’を、波長選択素子10と別体として、端面14bとの間に間隔を空けて対向して配置してもよい。この際、図8(B)に示すように、反射ミラー21’をレーザ光源23のチャネル型導波路14の端面14bに対向する端面23aに設けても良い。
また、図8(C)に示すように、端面14bと反射ミラー21’とを間隔を空けて対向配置し、この間隔に、レーザ光源23を設けても良い。この際、図8(D)に示すように、反射ミラー21’をレーザ光源23のチャネル型導波路14の端面14bから離間した端面23bに設けても良い。
また、この実施の形態の光共振器20は、実施の形態1の波長選択素子10と同様の変形が可能である。
(実施の形態3)
次に、図9〜図11を参照して、実施の形態3の波長選択素子の構造および動作につき説明する。図9は、実施の形態3の波長選択素子の概略構造を示す斜視図である。図10は、波長選択素子の構造上の条件および動作の説明に供する模式図である。図11は、実施の形態3の波長選択素子が、実施の形態1の波長選択素子よりも良好な波長選択作用を示すことの説明に供する模式図である。
なお、実施の形態3の波長選択素子30は、反射型回折格子44の配置角度以外は、実施の形態1の波長選択素子10と同様の構造である。したがって、図9において、図1と同様の構成要素には同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図9に示したように、波長選択素子30は、実施の形態1の波長選択素子10同様に、基板12に集積されたチャネル型導波路14、平面導波路16および反射型回折格子44を備えている。
ただし、波長選択素子30においては、反射型回折格子44は、チャネル型導波路14に対して庇状にオーバーハングして設けられている。
以下、図10を参照して、この反射型回折格子44の配置につき詳細に説明する。
実施の形態1の波長選択素子10と同様に、光結合部24を介してチャネル型導波路14から平面導波路16へと出射角Θで結合された未波長選択光Iは、点Pにおいて、入射角αで反射型回折格子44の格子面46に入射する。
ここで、反射型回折格子44の格子面46は、入射角αが大きくなるにつれて、光Iの光路長Lが長くなるような配置角度Θg’で配置されている。
より詳細には、反射型回折格子44の配置角度Θg’は、チャネル型導波路14の中心線を、格子面46を含む面48まで延長した線分52と面48とが、平面導波路16が延在する面内でなす角度θ1(=Θg’)とθ2の内、光Iの格子面46への入射点Pを含む側の角度θ1が鋭角であるように、格子面46が配置されている。なお、ここで、θ1(=Θg’)とθ2とは互いに補角の関係にある(θ1+θ2=180°)。
なお、この実施の形態では、格子面46と線分52とのなす内角を反射型回折格子44の配置角度Θg’としており、格子面28と線分42とのなす外角を配置角度Θgとしている実施の形態1の波長選択素子10(図3参照)とは反射型回折格子の配置角度の測り方が異なっている。
ここで、波長選択素子30における光結合部24の構造は、波長選択素子10と同様である(図2参照)。
また、波長選択素子30の断面構造は、波長選択素子10の断面構造と同様である(図5参照)。
次に、図9および図10を参照して、波長選択素子30の動作につき説明する。
電極26に印加する電圧が制御されたチャネル型導波路14の端面14bから、チャネル伝搬光I0が入力されると、チャネル伝搬光I0は、チャネル型導波路14内を端面14d方向に伝搬して、光結合部24に至る。光結合部24に至ったチャネル伝搬光I0は、上述した(1)式で与えられる出射角Θで、ガウスビームである未波長選択光Iとして、間隙22を介して平面導波路16へと出射される。
このようにして、平面導波路16に結合された未波長選択光Iは、平面導波路16を伝搬して、反射型回折格子44に入射角αで入射する。反射型回折格子44に入射した未波長選択光Iは、上述の(2)式にしたがって、波長の長短によって、異なる回折角βで回折される。つまり、反射型回折格子44で回折されることで、未波長選択光Iは、波長により分離される。
回折角βは種々の値を取ることができるが、回折角βが入射角αと等しい場合にのみ、反射型回折格子44で回折された光が、チャネル型導波路14へと再び帰還することができる。つまり、反射型回折格子44に入射した未波長選択光Iのうち、回折角α(=入射角α)で回折されることで、(2)式で与えられる特定波長λに選択された波長選択光I’のみが、未波長選択光Iの伝搬経路を逆に辿り、チャネル型導波路14へと帰還する。このようにしてチャネル型導波路14に帰還した波長選択光I’は、入出射端面14bから波長選択された光として出力される。
このとき、電極26と接地電極29との間に印加する電圧を変更すると、電気光学効果により、チャネル型導波路14の等価屈折率nwが変化する。この結果、(1)式にしたがって出射角Θが変更される。すると、未波長選択光Iの反射型回折格子44への入射角α(回折角α)が変化する。よって、反射型回折格子44で回折されてチャネル型導波路14へと帰還する波長選択光I’の波長が変更される。
このように、この実施の形態の波長選択素子30は、実施の形態1で説明した波長選択素子10と同様の作用を奏する。
また、この実施の形態3の波長選択素子30は、実施の形態1の波長選択素子10よりも良好な波長選択作用を有する。以下、この点につき詳述する。
本発明者らがビーム伝搬法(beam propagation method)で確認したところ、チャネル型導波路14から平面導波路16へと結合される未波長選択光Iの出射角Θには、波長依存性があることが明らかとなった。
この波長依存性は、上述の(1)式から導き出すことができる。すなわち、(1)式を変形することにより、下記(21)式が得られる。
nw=npcosΘ ・・・(21)
(21)式の両辺の変分をとると、下記(22)式が得られる。
(dnw/dλ)Δλ=(dnp/dλ)cosΘΔλ+np(−sinΘ)ΔΘ ・・・(22)
(22)式を整理すると、下記(23)式が得られる。
npsinΘΔΘ=(−(dnw/dλ)+(dnp/dλ)cosΘ)Δλ ・・・(23)
(23)式において、右辺の値は常に正の値をとる。したがって、(23)式より、ΔΘが正のとき、Δλも正の値を取ることがわかる。
これは、出射角Θが波長依存性を有していることを示している。つまり、未波長選択光Iは、波長λにより異なる出射角Θで平面導波路16へと結合されることを示している。具体的には、未波長選択光Iのうち波長λが短い成分は、小さい出射角Θで、および、未波長選択光Iのうち波長λが長い成分は、大きい出射角Θで、平面導波路16へと結合される。
ところで、この実施の形態の波長選択素子30は、反射型回折格子44の格子面46が、チャネル型導波路14に庇状に覆い被さるように配置されている。つまり、角度θ1(図10)が鋭角とされている。この結果、波長選択素子30は、出射角Θを大きくすると、波長選択光I’の波長λが短くなり、および出射角Θを小さくすると、波長選択光I’の波長λが長くなるような波長選択作用を有する。
つまり、波長選択素子30では、未波長選択光Iにおける出射角Θの波長依存性と、反射型回折格子44による波長選択作用とが、逆の傾向を示す。
ここで、図11(A)および(B)を参照して、波長選択素子30が、波長選択素子10よりも良好な波長選択作用を有することにつき、さらに詳細に説明する。
図11(A)は、波長選択素子10の要部を拡大した模式図である。図11(B)は、波長選択素子30の要部を拡大した模式図である。図11(A)中、チャネル型導波路14の中心線の延長線と反射型回折格子18とがなす、平面導波路16が延在する面内での角度をθ1とし、θ1と補角関係にある角度をΘgとする。また、図11(B)中、チャネル型導波路14の中心線の延長線と反射型回折格子44とがなす、平面導波路16が延在する面内での角度をθ1とし、θ1と同じ角度をΘg’とする。
いま、波長選択素子10および30のどちらもが、未波長選択光Iのうち、出射角ΘSで平面導波路16へと結合された、波長λSの光ISを、反射型回折格子18,44の点Pに入射させて、反射型回折格子18,44により選択して、波長選択光I’(波長:λS)としてチャネル型導波路14へと帰還させるように設定されているものとする。
このとき、波長選択素子10,30のそれぞれについて、出射角がΘS+ΔΘS(>ΘS)で出射されている未波長選択光IΔにつき考える。この未波長選択光IΔは、反射型回折格子18,44の点P’’およびP’にそれぞれ入射するものとする。上述した出射角Θの波長依存性を考慮すると、未波長選択光IΔの波長は、波長選択素子10および30のどちらもで、λS+ΔλS(>λS)となる。
ところで、図11(A)に示した、波長選択素子10は、反射型回折格子18の格子面28の配置角度θ1(図3)が鈍角とされている。この結果、波長選択素子10は、出射角Θを大きくすると、波長選択光I’の波長λが長くなり、および出射角Θを小さくすると、波長選択光I’の波長λが短くなるような波長選択作用を有する。
このため、反射型回折格子18の点P’’は、波長λS+ΔλS’’(>λS)の光を選択して、チャネル型導波路14へと帰還させることとなる。よって、ΔλS≒ΔλS’’の場合には、波長選択素子10は、未波長選択光IΔをも選択して、チャネル型導波路14へと帰還させてしまう虞がある。つまり、波長選択素子10は、未波長選択光IおよびIΔの両者を選択してしまう可能性がある。したがって、波長選択素子10は、反射型回折格子18の配置角度等の条件により、ΔλS≒ΔλS’’が成り立つ場合には、波長選択作用が悪化する可能性がある。
一方、図11(B)に示した、波長選択素子30は、上述したような波長選択作用を有しているため、反射型回折格子44の点P’においては、波長λS−ΔλS’(<λS)の光を選択して、チャネル型導波路14へと帰還させるように設定されている。よって、点P’に入射するλS+ΔλS(≠λS−ΔλS’)の未波長選択光IΔは、チャネル型導波路14に帰還しない方向に回折される。つまり、未波長選択光IΔは、反射型回折格子44で選択される虞がない。したがって、波長選択素子30は、未波長選択光Iのみを選択する。
このように、この実施の形態の波長選択素子30は、波長選択素子10よりも良好な波長選択作用を有する。
なお、この実施の形態の波長選択素子30は、実施の形態1で説明した波長選択素子10と同様の変形が可能である。
(実施の形態4)
次に、主に、図12を参照して、実施の形態4の光共振器の構造および動作につき説明する。図12は、実施の形態4の光共振器の概略構造を示す斜視図である。
なお、実施の形態4の光共振器40は、反射ミラー21を備えている点以外は、実施の形態3の波長選択素子30と同様の構造である。したがって、図12において、図9と同様の構成要素には同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
また、実施の形態4の光共振器40は、反射型回折格子44の配置角度以外は、実施の形態2の光共振器20と同様の構造である。したがって、図12において、図7と同様の構成要素には同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
光共振器40は、波長選択素子30と反射ミラー21とを備えている。反射ミラー21は、チャネル型導波路14の入出射端面14bに設けられており、100%未満の反射率を有する。この反射ミラー21は、たとえば、屈折率が異なるSiO2膜とSiN膜とを交互に積層した、いわゆる誘電体多層膜からなる。
また、図示はしないが、光共振器40の外部には、反射ミラー21に対向して、レーザ光源が配置されている。
次に、主に、図12および図10を参照して、この光共振器40の動作につき説明する。
レーザ光源から出射された光は、反射ミラー21を介してチャネル型導波路14へと導入され、チャネル伝搬光I0となる。チャネル伝搬光I0光は、チャネル型導波路14中を端面14d方向に伝搬していく過程で、光結合部24により、平面導波路16へと結合され、出射角Θのガウスビームとしての未波長選択光Iとして、平面導波路16中を反射型回折格子44に向けて伝搬する。
平面導波路16中を伝搬する未波長選択光Iは、経路Aに沿って、反射型回折格子44の格子面46上の点Pに入射角αで入射する。反射型回折格子44に入射した光は、上述の(2)式に従い、波長の長短により異なる回折角βで反射される。つまり、反射型回折格子44で反射されることで、光は、波長により分離される。
反射型回折格子44に入射した光のうち、回折角α(=入射角α)で反射されることで、特定波長λに選択された波長選択光I’のみが、再び経路Aに沿って、チャネル型導波路14へと帰還して反射ミラー21方向に伝搬する。反射ミラー21に至った光は、反射ミラー21により反射され、上述で説明したと同様の経路(平面導波路16の経路Aとチャネル型導波路14)を往復する。往復のたびに、波長選択光I’の強度は増加していき、やがて反射ミラー21から波長λの光として、出射される。
ここで、図10および(2)式より、入射角α(回折角α)が大きくなる、つまり、未波長選択光Iの出射角Θが小さくなれば、波長選択光I’の波長λが長くなることがわかる。これは、実施の形態2の光共振器20とは逆の傾向である。この理由は、光共振器20では、反射型回折格子18の配置角度θ1を鈍角としていたのに対し、光共振器40では、反射型回折格子44の配置角度θ1を鋭角としているためである。
ところで、未波長選択光Iの出射角Θが変更されると、未波長選択光Iの入射角α(回折角α)のみでなく、チャネル型導波路14から反射型回折格子44に至るまでの未波長選択光Iの平面導波路16内の伝搬距離(光路長L)も変化する。すなわち、出射角Θの変更に伴い、反射型回折格子44で回折されてチャネル型導波路14に帰還する波長選択光I’の平面導波路16内の伝搬距離(光路長L)も変化する。
以上をまとめると、光共振器40においては、出射角Θを小さくすると、波長選択光I’の波長λが長くなり、かつ、その光路長Lも長くなる。逆に、出射角Θを大きくすると、波長選択光I’の波長λが短くなり、かつ、その光路長Lも短くなる。
よって、光共振器40においては、波長選択光I’の波長λの波長変化に応じて光路長Lを変化させているので、縦モードの次数を一定に保ったまま、つまり、モードホッピングを生じることなく、選択波長λを変化させることができる。
つぎに、図10を参照して、光共振器40の構成要素の配置条件につき説明する。
なお、以下に説明する配置条件の導出過程は、基本的に実施の形態2で説明したものと同様である。よって、重複した説明を避けるために、適宜、実施の形態2で用いた式を参照しながら説明を行う。
幾何学的に、出射角Θと回折角αとの間には、下記(24)式が成り立つ。
α=π/2−Θg’−Θ ・・・(24)
(24)式より、微小なαの変化Δαと、出射角Θの変化ΔΘとの関係は、下記(25)式で与えられる。
Δα=−ΔΘ ・・・(25)
また、(24)式より、下記(26)式および(27)式が成り立つ。
sinα=cos(Θ+Θg’) ・・・(26)
cosα=−sin(Θ+Θg’) ・・・(27)
(25)式〜(27)式を、実施の形態2で説明した(4)式に代入して、下記(28)式が得られる。
Δλ/λ=−tan(Θ+Θg’)ΔΘ・・・(28)
一方、光路長Lは、幾何学的に、下記(29)式で表される。
L=LgsinΘg’/cosα
=Lg/(cosΘ+sinΘ/tanΘg’) ・・・(29)
(29)式において、長さLの微小な変化ΔLによる出射角Θの変化ΔΘは、下記(30)式で与えられる。
ΔL=−Lg(−sinΘ+cosΘ/tanΘg’)/(cosΘ+sinΘ/tanΘg’)2×ΔΘ
=−L(−sinΘ+cosΘ/tanΘg’)/(cosΘ+sinΘ/tanΘg’)×ΔΘ
=−Lcos(Θg’+Θ)/sin(Θg’+Θ)×ΔΘ
=−L/tan(Θg’+Θ)×ΔΘ ・・・(30)
ところで、反射ミラー21と反射型回折格子44の点Pとの間で構成される光共振器40における共振条件は、光共振器40の共振器長Tを用いて、上述の(12)式で与えられる。さらに、実施の形態2で説明したと同様の変形を行い、上述の(17)式を得る。
(17)式に、(28)式および(30)式を代入してまとめると、下記(31)式が得られる。
ΔΘ(qλtan(Θg’+Θ)/2−npL/tan(Θg’+Θ))+ΔnwLw=0 ・・・(31)
(31)式を変形することで、下記(32)式が得られる。
(npL+nwLw)tan(Θg’+Θ)−npL/tan(Θg’+Θ)=−ΔnwLw/ΔΘ ・・・(32)
ところで、実施の形態2で説明したと同様の理由により、右辺は、波長λの50倍程度の大きさの定数となる。
よって、(32)式を満たすように、L、Lw、Θg’、Θおよびnwを決定することにより、モードホッピングが生じないようにしつつ、選択波長λを連続的に変化させることができる。
さらに、(32)式が、経路Aの長さL、つまり平面導波路16の長さに依存しないようにするためには、(32)式から、Lを含む項が消去できればよい。つまり、下記(33)式が成り立てばよい。
Ltan(Θg’+Θ)=L/tan(Θg’+Θ) ・・・(33)
(33)式の条件は、Θg’+Θ=π/4で成り立つ。Θが充分に小さい場合(約5°以下)には、近似的にΘg’≒π/4(45°)と置くことができる。よって、反射型回折格子44の格子面46の延びる方向と、チャネル型導波路14の光伝搬方向とのなす内角がπ/4となるように、すなわち、θ1が45°となるように、反射型回折格子44を配置すれば、出射角Θが充分に小さい場合には、平面導波路16の光路長(経路Aの長さL)によらず、モードホッピングが生じないようにしつつ、選択波長λを連続的に変化させることができる。
このように、この実施の形態の光共振器40によれば、レーザ光源で発生した光が、反射ミラー21と反射型回折格子44との間の光路(平面導波路16の経路Aおよびチャネル型導波路14)として構成される光共振器40で共振されることで、所定の選択波長λの光として反射ミラー21から取り出される。この光共振器40においては、光結合部24が、チャネル型導波路14から反射型回折格子44に向けた光の出射角Θを変えることにより、反射型回折格子44へ入射する光の入射角α、および光路(平面導波路16の経路Aおよびチャネル型導波路14)の光路長(共振器長T)を同時に変更する。このように、反射型回折格子44への入射角αの変更に伴い生じる波長選択と、共振器長Tの変化とを同時に行うことにより、レンズを設けることなく、モードホッピングを解消して幅広い範囲で選択波長λを変更することができる。
また、この実施の形態の光共振器40は、実施の形態3の波長選択素子30を用いているので、実施の形態3と同様の効果を奏する。
なお、この実施の形態における反射ミラー21の配置は、実施の形態2で説明したと同様の変形が可能である。
また、この実施の形態の光共振器40は、実施の形態1の波長選択素子10と同様の変形が可能である。
(実施の形態5)
次に、図13〜図18を参照して、実施の形態5の光共振器の構造および動作につき説明する。図13は、実施の形態5の光共振器の概略構造を示す斜視図である。図14は、導波路グレーティングの構造の説明に供する要部拡大側面図である。図15は、導波路グレーティングにおけるチャネル伝搬方向に沿ったデューティー比の変化の様子の説明に供するグラフである。図16は、図13のII−II線に沿った要部拡大断面図である。図17は、導波路グレーティングの設計条件の説明に供する模式図である。図18は、光共振器の変形例を示す模式的な断面図である。
なお、実施の形態5の光共振器50は、(1)チャネル型導波路54に回折格子56が備えられている点、(2)チャネル型導波路54が、リッジ型導波路である点以外は、実施の形態4の光共振器40と同様の構造である。したがって、図13において、図12と同様の構成要素には同符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図13を参照すると、光共振器50は、波長選択素子60と反射ミラー58とを備えている。また、図示はしないが、光共振器50の外部には、反射ミラー58に対向する光出射口を備えたレーザ光源が配置されている。
ここで、波長選択素子60は、基板13に集積されたチャネル型導波路54、平面導波路62および反射型回折格子44を備えている。また、反射ミラー58は、チャネル型導波路54の光の入出射端面54aに設けられている。
基板13は、直角四辺形の平行平板であり、主面13aとこの主面13aに対向する主面13dとを有している。主面13dの全面には、後述する電極64に対する接地電極66が設けられている。
平面導波路62は、基板13よりも小サイズのほぼ三角形板状の部品であり、基板13の主面13aに積層されている。
平面導波路62は、上面62aと、この上面62aを囲む、第1側面62b、第2側面62cおよび第3側面62dとを備えている。
第1側面62bは、基板13の長手方向の側面13bと等しい長さであり、側面13bと段差なく接続されている。第2側面62cは、第1側面62bのチャネル型導波路54が設けられた側の一端部から、基板13の側面13cに至るまで延在している。また、第3側面62dは、第1側面62bの他端部と第2側面62cの端部とを接続して延在している。この第3側面62dには、反射型回折格子44が作りこまれている。
チャネル型導波路54は、平面導波路62の上面62a上に積層されている。つまり、チャネル型導波路54は、平面導波路62から凸型に突出したリッジ型導波路である。ここで、チャネル型導波路54の底面54e(図14)と、平面導波路62の上面62aとは隙間なく、一体に接続されている。
チャネル型導波路54は長手方向に対向する一端面54aと他端面54dとを備えている。ここで、一端面54aは、光の入出射端面54aである。この入出射端面54aは、平面導波路62の第1および第2側面62b,62cの交差部付近において、平面導波路62の側面と段差なく接続されている。そして、チャネル型導波路54は、この入出射端面54aから、基板13の長手方向に平行に、平面導波路62の第1側面62bの中央部付近まで延在している。
このチャネル型導波路54の側面54bには、長手方向に沿って、回折格子56が作りこまれている。反射型回折格子44との区別を明確にするために、以下、チャネル型導波路54に作りこまれた回折格子56を導波路グレーティング56と称する。チャネル型導波路54の上面54cには、チャネル型導波路54に所定の電圧を印加するための電極64が設けられている。
ここで、チャネル型導波路54の底面54eおよび、この底面54eに対面する平面導波路62の上面62aの領域とからなる構造体を光結合部68と称する(図14参照)。
反射型回折格子44の配置および構造は、実施の形態4と同様であるため、その説明を省略する。
以下、図14を参照して、導波路グレーティング56の構造につき、詳細に説明する。図14は、チャネル型導波路54の側面54bの拡大側面図である。
導波路グレーティング56は、チャネル型導波路54の側面54bに凹凸を周期的に設けたレリーフ型回折格子である。より詳細には、導波路グレーティング56は、互いに隣接する凹部56aと凸部56bとからなる構造単位Uが、チャネル型導波路54の側面54bに、複数個直列に連続して配列された構造を有している。なお、図14においては、理解を容易にするために、凹部56aに対応する領域に斜線を施してある。
この導波路グレーティング56は、チャネル型導波路54の入出射端面54aから、チャネル型導波路54の長手方向、つまり、チャネル伝搬方向に沿って、デューティー比Rが変化する。
ここで、ディーティー比Rとは、導波路グレーティング56の格子定数Λ、つまり、上述の構造単位Uのチャネル伝搬方向に沿った長さΛと、凹部56aのチャネル伝搬方向に沿った長さDaの百分比(R=Da/Λ×100)のことを示すものとする。
ここで、図15を参照して、導波路グレーティング56におけるチャネル伝搬方向に沿ったデューティー比Rの変化の様子につき説明する。図15は、横軸が、チャネル型導波路54のチャネル伝搬方向に沿った距離(任意単位)であり、縦軸(左)が、デューティー比R(%)であり、および縦軸(右)が、導波路グレーティング56から光結合部68を介して平面導波路62に結合された光の強度(任意単位)である。
図15中の曲線ivは、デューティー比Rを示し、曲線vは、光結合部68を介して平面導波路62に結合された光の強度を示す。
図15の曲線ivに示すように、デューティー比Rは、チャネル型導波路54の入出射端面54aから、チャネル伝搬方向に沿って、チャネル型導波路54の途中の点54fまで、ガウス分布に基づいた曲線にしたがって、0%から50%まで増加する。なお、「ガウス分布に基づいた曲線」については、後述する。
点54fからチャネル型導波路54の他端面54dまでの間においては、デューティー比Rは50%で一定である。
ここで、デューティー比Rが増加する領域、すなわち、チャネル型導波路54の入出射端面54aと点54fとの間の領域を、領域K1と称する。同様に、デューティー比Rが一定を保つ領域、すなわち、チャネル型導波路54の点54fと他端面54dとの間の領域を、領域K2と称する。
つまり、チャネル型導波路54の入出射端面54a付近においては、構造単位Uの凹部56aの幅(チャネル伝搬方向に沿った長さ)Daは、ほぼ0である。そして、チャネル伝搬方向に沿って、凹部56aの幅Daは、ガウス分布に基づいた曲線にしたがって増加していく。そして、チャネル型導波路54の途中の点54fで、凹部56aの幅Daと凸部56bの幅Dbとが等しくなり、デューティー比Rが50%となる。デューティー比Rが50%となった点54fから、チャネル型導波路54の他端面54dまでの間(領域K2)は、デューティー比Rは、50%で一定に保たれる。
なお、ここでは、凹部56aのチャネル伝搬方向に沿った長さDaを用いて、デューティー比RをDa/Λ×100として定義しているが、デューティー比R’を凸部56bのチャネル伝搬方向に沿った長さDbを用いてDb/Λ×100と定義してもよい。この場合、2種類のデューティー比RとR’との間には、R+R’=100(%)という関係が成り立つ。
次に、図16を参照して、光共振器50の断面構造につき説明する。図16は、図13におけるII−II線に沿った要部拡大断面図である。
基板13は、たとえば、n型InP基板を用いる。この基板13の主面13a上に、InGaAsPからなる平面導波路62が積層されている。また、基板13の主面13dには、Ti膜、Pt膜およびAu膜を、この順序で主面13d上に積層した後にアニールを行うことで形成された接地電極66が積層されている。
そして、平面導波路62の上面62a上に、p型InPからなるチャネル型導波路54が積層されている。チャネル型導波路54の底面54eと平面導波路62の上面62aとは隙間なく結合されている。
そして、チャネル型導波路54の上面54cには、Ti膜、Pt膜およびAu膜を、この順序でチャネル型導波路54上に積層した後にアニールを行うことで形成された電極64が積層されている。
次に、図10,図13および図15を参照して、光共振器50の動作につき説明する。
まず、図15を参照して、光結合部68から平面導波路62へと出射される光がガウスビームとなることにつき説明する。
図15に示すように、導波路グレーティング56は、領域K1でデューティー比Rが、ガウス分布に基づいた曲線にしたがって、50%まで増加する。そして、領域K2では、デューティー比Rは、50%で一定となる。
デューティー比Rは、導波路グレーティング56の、チャネル型導波路54中の光を、平面導波路62を伝搬する光に変換する効率(以下、変換効率とも称する。)に関係している。詳細には、ディーティー比Rが0%の場合には、変換効率は0であり、デューティー比Rの増加とともに変換効率は増加し、デューティー比Rが50%で変換効率が最大となる。
ところで、導波路グレーティング56により平面導波路62の伝搬光へと変換された光は、光結合部68を介して、そのまま平面導波路62へと結合される。このことから、上述の変換効率は、チャネル型導波路54から平面導波路62へと結合される光の結合効率と考えることができる。つまり、デューティー比Rの大小に応じて、上述の結合効率が増減する。
ところで、図15の曲線ivに示すように、デューティー比Rは、領域K1において、ガウス分布に基づいた曲線にしたがって、50%まで増加する。この結果、曲線vに示すように、デューティー比Rの増加とともに、チャネル型導波路54から平面導波路62へと結合される光の強度は、ガウス分布にしたがって増加していく。そして、チャネル伝搬光I0の強度減少との兼ね合いにより、やがてピークをとり、その後、ガウス分布にしたがって減少していく。つまり、領域K1からK2にかけて、チャネル型導波路54から平面導波路62へと結合される光の強度は、デューティー比Rの増加に応じて、ガウス分布を形成する。
結果として、チャネル型導波路54から平面導波路62へと結合された光は、ガウスビームとなる。
なお、デューティー比Rが従う「ガウス分布に基づいた曲線」とは、領域K1からK2にかけて平面導波路62に結合された光の強度がガウス分布となるような、曲線を示す。
以上の説明を踏まえて、主に、図10および図13を参照して、光共振器50の全体的な動作につき説明する。
レーザ光源から出射された光は、反射ミラー58を介して、入出射端面54aからチャネル型導波路54へと導入され、チャネル伝搬光となる。チャネル伝搬光は、チャネル型導波路54中を他端面54d方向に伝搬していく。その過程で、チャネル伝搬光は、導波路グレーティング56により波長分離される。これと同時に、チャネル伝搬光は、光結合部68を介して、波長に対応する出射角Θで、ガウスビームとして平面導波路62へと結合される。平面導波路62へと出射される光は、波長が短いほど、小さい出射角Θで出射され、波長が長いほど、大きい出射角Θで出射される。
なお、この出射角Θは、チャネル型導波路54の等価屈折率nwを変更することで変更される。具体的には、電極64と接地電極66との間に逆バイアス電圧を印加することにより、電気光学効果に基づき、等価屈折率nwが変更される。
平面導波路62へと出射された光は、波長に応じた入射角αで反射型回折格子44の格子面46へ入射する。格子面46に入射した光のうち、入射角αと等しい回折角αで回折された光のみが、波長λの波長選択光I’として反射型回折格子44で選択される。つまり、波長選択光I’は、入射角αと等しい回折角αで回折され、格子面46への入射経路を逆に辿って、チャネル型導波路54方向へと伝搬する。
そして、波長選択光I’は、光結合部68を介してチャネル型導波路54に結合され、反射ミラー58方向に伝搬する。反射ミラー58に至った光は、反射ミラー58により反射され、上述で説明したと同様の経路を往復する。往復のたびに、波長選択光I’の強度は増加していき、やがて反射ミラー58から波長λの光として、出射される。
次に、図10および図17を参照して、導波路グレーティング56の設計条件につき説明する。なお、反射型回折格子44の設計条件は、実施の形態4と同様であるので、その説明を省略する。
図17を参照して、導波路グレーティング56の設計条件につき説明する。
平面導波路62から凸型に突出したリッジ導波路であるチャネル型導波路54においては、凸型部分の等価屈折率が平面導波路62よりも常に高い。したがって、チャネル型導波路54を伝搬する光Lnwの波数ベクトルKnwは、平面導波路62を伝搬する光Lnpの波数ベクトルKnpよりも常に大きい。
よって、チャネル型導波路54を伝搬する光Lnwを、平面導波路62に結合させ、光Lnpとするためには、導波路グレーティング56の格子ベクトルKGによる位相整合が必要である。
このとき、位相整合条件は、下記(34)式で与えられる。
Knw=Knp+KG ・・・(34)
ところで、Knw,KnpおよびKGは、周知の通り、下記(35)〜(37)式で与えられる。
Knw=2π/λ×nw ・・・(35)
Knp=2π/λ×npcosΘ ・・・(36)
KG=2π/Λ ・・・(37)
よって、(35)式〜(37)式を(34)式に代入すると、下記(38)式が得られる。
nw−npcosΘ=λ/Λ ・・・(38)
(38)式より、チャネル型導波路54に設けられた導波路グレーティング56は、波長選択作用を有していることがわかる。つまり、導波路グレーティング56により、相対的に波長の短い光は、相対的に小さい出射角Θで平面導波路62へと出射され、相対的に波長の長い光は、相対的に大きい出射角Θで平面導波路62へと出射されることがわかる。
次に、格子定数Λの、具体的数値の導出方法につき説明する。
Λを求めるに当たって、まず、チャネル型導波路54の等価屈折率nwを下記(39)式のようにおく。
nw=np+bΔn ・・・(39)
ここで、Δnは、等価屈折率nwとnpとの差である。また、bは、規格化伝搬定数であり、チャネル型導波路54を伝搬する光の等価屈折率に関する補正係数である。
ところで、(38)式は、(39)式を用いて、下記(40)式のように変形できる。
λ/Λ=np(1−cosΘ)+bΔn ・・・(40)
よって、(40)式より、下記(41)式が得られる。
(λ/np)/Λ=1−cosΘ+bΔn/np ・・・(41)
ここで、各係数に具体的な値を代入する。いま、Θ=5°、b=0.6、およびΔn/np=6.5×10−3とすると、(41)式より、下記(42)式が得られる。
(λ/np)/Λ≒8×10−3 ・・・(42)
ここで、λを、光通信に一般的に用いられる1.55μmとし、およびnpを、チャネル型導波路56を構成するInPの屈折率である3.4程度とする。これらの値を(42)式に代入すると、導波路グレーティング56の構造単位Uの長さ、すなわち格子定数としてΛ≒57μmが得られる。
ところで、導波路グレーティング56により、波長が混合した光を、10波長程度に波長分離するためには、導波路グレーティング56に構造単位Uが10周期程度必要である。このことから、導波路グレーティング56(チャネル型導波路54)のチャネル伝搬方向に沿った長さは、約600μmとなる。
次に、チャネル型導波路54の上面54cに設けた電極64と、接地電極66との間に逆バイアス電圧を印加することで、チャネル型導波路54の等価屈折率nwを変更した場合につき説明する。
チャネル型導波路54の等価屈折率nwの微小変化量Δnw、出射角Θの微小変化量ΔΘ、および波長λの微小変化量Δλの間には、上述の(38)式より、下記(43)式で与えられる関係が成り立つ。
Δnw+npΔΘsinΘ=Δλ/Λ ・・・(43)
(43)式において、Δλ=0の場合、つまり、一つの波長に注目した場合、チャネル型導波路54の等価屈折率nwを変化させることで、出射角Θが変化することがわかる。より詳細には、チャネル型導波路54の等価屈折率nwの変化Δnwに対する出射角Θの変化ΔΘの割合は、下記(44)式で与えられる。
|ΔΘ/Δλ|=1/(npsinΘ) ・・・(44)
よって、出射角Θが小さいほうが、チャネル型導波路54の等価屈折率nwの変化量あたりの出射角Θの変化量が大きくなる。つまり、出射角Θが小さい場合には、等価屈折率nwを僅かに変化させただけでも、出射角Θは大きく変化する。
また、波長を変化させた場合(Δλ≠0)も、出射角Θが変化することがわかる。
次に、反射型回折格子44の波長依存性、および導波路グレーティング56の波長依存性を考慮した、光共振器50の波長選択作用につき説明する。
反射型回折格子44において、波長λが微小変化Δλを受けた場合の回折角の微小変化をΔΘLとする。このとき、ΔλとΔΘLとの間には、リトロー配置における回折条件より、下記(45)式の関係が成り立つことが知られている。
ΔΘL=(Δλ/λ)×2tanα ・・・(45)
また、導波路グレーティング56において、波長λが微小変化Δλを受けた場合の出射角Θの微小変化をΔΘDとする。このとき、上述の(38)式と(43)式とから、ΔλとΔΘDとの間には、下記(46)式の関係が成り立つ。
ΔΘD=(Δλ/λ)×(λ/np)/(ΛsinΘ)
=(Δλ/λ)(nw/np−cosΘ)/sinΘ ・・・(46)
よって、波長λが、Δλだけ微小変化することにより、光は、チャネル型導波路54から平面導波路62に結合される際に、ΔΘDの角度変化を受け、反射型回折格子44からチャネル型導波路54に帰還する際に、ΔΘLの角度変化を受ける。
よって、波長がΔλだけ変化するときに、チャネル型導波路54→反射型回折格子44→チャネル型導波路54という経路を辿り、チャネル型導波路54に帰還する光(以下、戻り光とも称する。)が受ける合計の角度変化をΔΘとすると、ΔΘは、下記(47)式で与えられる。
ΔΘ=ΔΘL+ΔΘD ・・・(47)
戻り光の強度ηは、互いにΔΘの角度差を有する、チャネル型導波路54から出射された光(ガウスビーム)と、反射型回折格子44で回折された光(ガウスビーム)との重なり積分で与えられる。得られた結果を、下記(48)式に示す。
η=exp(−(ΔΘL/w)2)exp(−(πwΔΘnp/λ)2) ・・・(48)
ここで、wはガウスビームの幅、つまり、平面導波路62が延在する面内において、光の伝搬方向に直交する方向に関する光の幅を示す。また、Lは、チャネル型導波路54と反射型回折格子44との距離である。
(48)式において、exp(−(ΔΘL/w)2)は、ガウスビームの波長による光軸変化の効果を表している。また、exp(−(πwΔΘnp/λ)2)は、ガウスビームの等位相面の傾き変化の効果を表している。
(48)式が、反射型回折格子44の波長依存性、および導波路グレーティング56の波長依存性を考慮した場合の光共振器50の波長選択作用を表す、最も一般的な表現である。
次に、(48)式に、光共振器50の具体的態様(構造および数値)を適用することで、光共振器50の波長選択作用につき、より具体的に説明する。
まず、Lをチャネル型導波路54の長さの1/2程度とすれば、L=w/tanΘとなる。この関係を(48)式に代入して変形すると、下記(49)式が得られる。
η=exp((−ΔΘ/tanΘ)2)exp(−(πLtanΘΔΘnp/λ)2) ・・・(49)
ここで、光の波長λを1.55μmとし、30nmの範囲に渡って波長変化させたと考える(つまり、Δλ=30nm)。このとき、Δλ/λの値は、約0.02となる。また、この場合、(45)式よりΔΘL≒0.05(rad)、および(46)式よりΔΘD≒0.002(rad)と求まる。
これらの値を(49)式に代入して具体的な計算を行ったところ、exp((−ΔΘ/tanΘ)2)の項は、30%程度しか値が変化せず、exp(−(πLtanΘΔΘnp/λ)2)の項が波長依存性を支配することが明らかとなった。
ここで、波長依存性を支配するexp(−(πLtanΘΔΘnp/λ)2)の項中から、πLtanΘΔΘnp/λを抜き出して、これに、(45)式〜(47)式を代入してまとめると、下記(50)式が得られる。
πLtanΘΔΘnp/λ=(Δλ/λ)(πL/cosΘ)(2tanα(npsinΘ/λ)+1/Λ) ・・・(50)
ここで、Θ=5°、Λ=57μm、λ=1.55μm、およびnp=3.4を(50)式に代入すると、ΔΘLに関する項は、ΔΘDに関する項より、20倍以上大きいことが明らかとなった。
このことより、チャネル型導波路54と平面導波路62として同種材料を用いた場合、つまり、nwとnpとの差が小さい場合には、導波路グレーティング56の波長分散よりも反射型回折格子44の波長分散の方が大きいことが導き出される。
したがって、この場合には、光共振器50の波長分解能(波長選択作用の程度)を主に左右するのは、反射型回折格子44であり、導波路グレーティング56は、光共振器50の波長分解能に補助的に影響を与えているということができる。
波長分解能の具体的な目安として、戻り光の強度が、ピーク強度の1/eに減少するときの波長幅を考える。これは、(50)式の値が1となるΔλを求めることに相当する。(50)式に、先ほどと同様に、Θ=5°、Λ=57μm、λ=1.55μm、およびnp=3.4を代入すると、Δλ≒5nmとなる。
なお、Δλ≒5nmを導出するに当たっては、(49)式の1項目(exp(−ΔΘ/tanΘ)2))は、波長選択作用に大きな影響を与えないので、無視している。
つまり、上述のような具体的態様(構造および数値)を適用した場合、光共振器50の波長選択作用は、主に、反射型回折格子44により左右され、波長分解能の目安は、Δλ≒5nmであることが明らかとなった。
なお、以上の説明では、導波路グレーティング56は、光共振器50の波長選択作用に補助的に影響を与えているのみであった。しかし、(46)式より、格子定数Λを小さくすれば、導波路グレーティング56の波長分散が大きくなり、したがって、導波路グレーティング56の波長選択作用に対する寄与を大きくすることができ、結果として、光共振器50全体としての波長選択作用を良好にすることができる。
以下、この点につき詳細に説明する。
(38)式を変形した下記(51)式より、チャネル型導波路54の等価屈折率nwと平面導波路62の等価屈折率npとの差が大きいほど、格子定数Λを小さくできることがわかる。
Λ=λ/(nw−npcosΘ) ・・・(51)
より具体的には、(50)式より得られる下記(52)式が成立すれば、反射型回折格子44と導波路グレーティング56の波長分散が同程度となる。なお、(52)式は、ΔΘL=ΔΘDより(45)式および(46)式を用いることで得られる。
nw=np(2tanαsinΘ+cosΘ) ・・・(52)
仮に、α=45°およびΘ=5°とするならば、(52)式より、nw/np=1.17が得られる。
この結果(nw/np=1.17)より、反射型回折格子44と導波路グレーティング56の波長分散を同程度とするためには、チャネル型導波路54と平面導波路62の屈折率差を非常に大きくする必要があることがわかる。たとえば、平面導波路62として石英系(np≒1.5)を用いた場合には、チャネル型導波路54として、SiN(nw≒1.9)を用いることが好ましい。なお、この場合、チャネル型導波路54の等価屈折率nwの制御には、熱光学効果を利用することが好ましい。
このように、この実施の形態の光共振器50によれば、レーザ光源で発生した光が、反射ミラー58と反射型回折格子44との間の光路(平面導波路62の経路Aおよびチャネル型導波路54)として構成される光共振器50で共振されることで、所定の選択波長λの光として反射ミラー58から取り出される。この選択波長λは、電気光学効果に基づき、チャネル型導波路54の等価屈折率nwを変更することで、変更することが可能である。
光共振器50では、選択される波長λが長くなるほど、共振器長Tが長くなるように、反射型回折格子44が配置されている。つまり、選択波長λの変化と共振器長の変化とが同時に行われる。これにより、レンズを設けることなく、モードホッピングを解消して幅広い範囲で選択波長λを変更することができる。
また、この光共振器50では、チャネル型導波路54に導波路グレーティング56が設けられており、チャネル型導波路54自体が波長選択作用を有している。よって、反射型回折格子44の波長選択作用と、導波路グレーティング56の波長選択作用とが相俟って、光共振器50は、実施の形態2および4の光共振器20および40よりも、より良好な波長選択作用を示す。発明者らの評価によれば、設計条件にもよるが、光共振器50は、光共振器20および40よりも、最大で2倍程度良好な波長分解能を示す。
また、この光共振器50は、導波路グレーティング56のデューティー比Rを、光の伝搬方向に沿って、ガウス分布に基づいた曲線Ga’にしたがって、50%まで増加させるので、チャネル型導波路54から平面導波路62へと結合される光の強度分布を、レンズを用いることなく、ガウス分布とすることができる。
また、この実施の形態の光共振器50は、(背景技術)の欄で説明した光共振器とは異なり、レンズを用いていない。よって、レンズの分だけ、従来の光共振器よりも構成部品数を削減することができる。
また、この実施の形態の光共振器50は、レンズを用いていないので、波長選択素子60を構成する部品(チャネル型導波路54、平面導波路62および反射型回折格子44)の光軸合わせの必要がない。
また、この実施の形態の光共振器50は、全ての構成部品(チャネル型導波路54、平面導波路62反射型回折格子44および反射ミラー58)が、基板13にモノリシックに集積されているので、(背景技術)の欄で説明した光共振器に比べて、小型である。
なお、この実施の形態においては、平面視での平面導波路62の形状をほぼ三角形状としているが、平面導波路62は、光結合部68から反射型回折格子44への光の伝搬を妨げることがなければ、その形状に特に制限はない。
また、この実施の形態においては、反射型回折格子44としてブレーズド格子を用いたが、反射型回折格子44としては、ブレーズド格子に限らず、レリーフ型回折格子や、屈折率変調型回折格子を用いてもよい。
また、この実施の形態においては、電極64と接地電極66との間に逆バイアス電圧を印加し、この電圧の大きさを変更することにより、電気光学効果を用いて、チャネル型導波路54の屈折率を変更している。しかし、チャネル型導波路54の屈折率制御は、電気光学効果に限らず、たとえば、自由キャリアプラズマ効果、音響光学効果、磁気光学効果、熱光学効果および非線形光学効果のいずれかの効果を利用して変更してもよい。
また、この実施の形態では、導波路グレーティング56の配置の一態様として、(1)チャネル型導波路54の両側面54bおよび54bに設けられている場合を例示した。しかし導波路グレーティング56の配置はこれに限定されず、(2)一方の側面54bにのみ設ける、(3)上面54cに設ける、(4)(1)および(3)の組み合わせ、(5)(2)および(3)の組み合わせ、等種々の配置が可能である。
また、導波路グレーティング56として、チャネル型導波路54の側面54bに凹凸を周期的に設けたレリーフ型回折格子を用いたが、導波路グレーティング56は、屈折率変調型であってもかまわない。
また、この実施の形態においては、チャネル型導波路54は、リッジ型導波路とされ、チャネル型導波路54の底面54eと平面導波路62の上面62aとは隙間なく、一体に接続されていた。しかし、チャネル型導波路54の配置は、これに限定されず、図18に示すような種々の変形が可能である。図18(A)〜(C)は、光共振器50の断面切り口の構造を示す模式図である。
図18(A)は、平面導波路62’の上面62a’上にチャネル型導波路54’を配置する点は、この実施の形態と同様であるが、チャネル型導波路54’の底面54e’と、平面導波路62’の上面62a’との間に、間隙63が設けられている点が異なっている。この間隙63には、チャネル型導波路54’および平面導波路62’の両者よりも屈折率の低い材料が充填されている。
図18(B)は、いわば、チャネル型導波路54’と平面導波路62’とを、実施の形態1〜4と同様に配置したものである。つまり、チャネル型導波路54’および平面導波路62’を、共通の基板13’上に配置して、チャネル型導波路54’の側面54b’と平面導波路62’の側面62e’とを間隙65を隔てて対向配置している。
図18(C)は、チャネル型導波路54’と平面型導波路62’とを一体に、共通の基板13’上に形成し、チャネル型導波路54’に対応する領域の屈折率nw’を平面導波路62’に対応する領域の屈折率np’よりも大きくすることにより、チャネル型導波路54’に光の閉じ込めを行うものである。
図18(A)〜(C)に示したような構造を有するチャネル型導波路54’であっても、上述したような効果を奏する。
また、反射ミラー58およびレーザ光源は、実施の形態2で述べたような変形が可能である。