JP4756755B2 - 透過型光散乱シートおよび液晶表示装置 - Google Patents

透過型光散乱シートおよび液晶表示装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置(特に反射型液晶表示装置)において、高輝度の画面を表示するために有用な透過型光散乱シート(又はフィルム)及びその製造方法並びに前記光散乱シートを用いた反射型液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置(LCD)は、パーソナルコンピューター(パソコン)、ワードプロセッサ、液晶テレビ、時計、電卓などの電気製品の表示部に幅広く利用されている。液晶はそれ自体発光しないため、時計、電卓などの低輝度用途を除き、裏面から液晶部を照明するためのバックライトが使用されている。
【0003】
最近、インターネットなどの情報通信のインフラストラクチャーの整備、コンピュータと通信機器の融合による情報のネットワーク化が進んでいる。ネットワーク化により情報のアクセスは時間と場所の制約を受けなくなる。このようなネットワークを効率的に利用するため、現在、PDA(Personal Digital Assistance )などの携帯情報端末が精力的に開発されている。また、ノート型パーソナルコンピューター(パソコン)に代えて、さらに薄型で軽量のモバイル型パソコンの開発がすすめられている。
【0004】
これらの携帯型情報通信機器は可搬性が求められるため、バッテリ駆動時間の長時間化と、通信機器の薄型化・小型化とを両立する必要がある。従って、これら携帯型情報通信機器に用いるディスプレイには、薄型・軽量であり、かつ低消費電力性であることが求められている。そこで、低消費電力性を達成するため、従来のバックライトを用いる液晶表示装置に代えて、自然光を利用して表示部を明るくするディスプレイとして反射型液晶表示装置が有望視されている。さらには、今後のマルチメディアの進歩に伴う情報の多様化に対応するため、大画面でカラー及び高画質表示(高精細表示)が可能であるとともに、安価な反射型液晶表示装置が求められている。
【0005】
反射型液晶表示装置を構成する反射型液晶表示素子としては、TN型(Twisted Nematic型)やSTN型(Super Twisted Nematic型)などの種々の素子が知られているが、カラー表示と高精細表示には、偏光板を利用するタイプ(1枚偏光板タイプ)が有利である。例えば、液晶層をHAN(Hybrid Aligned Nematic)配向させたR−OCBモードは低電圧、広視野角、高速応答、中間色調表示、高コントラストなどの点で優れた特性を有している。
【0006】
携帯機器の大画面化に伴って画面を均一にしかも明るく表示させるためには、散乱機能は重要な要素である。すなわち、反射型液晶表示装置では、画面に明るさを付与するため、液晶層に入射する光(自然光、外部光)を効率的に取り込み、反射板で光を反射し、視認性を妨げない程度に反射光を散乱させ、全反射を防止する必要がある。また、偏光板と光散乱シートとを組み合わせると、さらに反射効率を向上できる。なお、前記反射板としては、電極を反射板として機能させた光反射性背面電極や、電極の支持基板の外側に配設した反射板などが使用可能である。例えば、反射型液晶表示装置に関し、特開昭63−228887号公報、日本印刷学会主催のフォトファブリケーションシンポジウム’92において、液晶表示素子の基本技術や、表面凹凸の金属薄膜を背面電極(下部電極)として用いることにより全反射を防止し、表示面の視野角を拡大させた液晶表示装置が紹介されている。
【0007】
しかし、反射型液晶表示装置をカラー化する場合、偏光板に加えて、カラーフィルターを用いるため、カラー表示装置では、反射光のロスの割合が大きく、前記拡散反射板(散乱板)方式では、表示画面に十分な明るさを付与できない。特に、カラー表示装置では、散乱光を一定の方向に指向させる指向型散乱により、高い輝度を付与することが重要である。しかし、散乱反射板方式で指向性を高めるためには、反射板の凹凸部の形状及び分布を精密に制御する必要があり、コスト高となる。
【0008】
また、反射光を散乱して高輝度性を付与するため、拡散反射板に代えて、透過型光散乱シートを用いるた液晶表示装置も知られている。例えば、特公昭61−8430号公報にも、液晶セルのフロント側に形成された偏光層の表面に、光散乱層を積層した液晶表示装置が開示されている。また、透過型光散乱シートに指向性を付与するため、ホログラムを利用して重合した樹脂シートが知られている(1998年日本液晶学会講演会要旨集)。しかし、上記ホログラムを利用した重合により透過型光散乱シートに指向性を付与するためには、複雑な製造方法を必要とし、コスト高となる。
【0009】
一方、低コストの光散乱シートとして、プラスチックビーズと透明樹脂とで構成され、海島構造を有する粒子分散型シートなどが知られている。例えば、特開平7−261171号公報には、液晶セル外に光散乱層を形成した表示装置として、電極板の外側表面に偏光フィルムを形成し、その偏光フィルムの表面に屈折率が異なる二種以上の樹脂が相分離状態で分散した光散乱層を形成した表示装置が開示されている。特開平7−27904号公報、特開平9−113902号公報には、プラスチックビーズと透明樹脂とで構成された海島構造を有する粒子散乱型シートを、バックライトと液晶セルとの間に形成した透過型液晶表示装置が提案されている。特開平7−98452号公報には、液晶セル内に光散乱層を形成した表示装置として、電極板の電極と基板(電極支持基板)との間に分散微粒子を含有する透明樹脂層(光散乱層)を形成した表示装置が開示されている。
【0010】
しかし、これらの海島構造のシートでは、透明樹脂マトリックス中に樹脂ビーズがランダムに分散しているため、原理的にはガウス分布に従って散乱光強度が分布する。従って、散乱光に指向性を付与できず、表示面の明るさを向上させることが困難である。特に、粒子分散型シートでは、表示画面の大きな反射型液晶表示装置において、反射板からの反射光の明るさを向上させると、表示画面の周縁部を十分な明るさで表示できず、逆に、画面全体にある程度の明るさを付与すると、全体的に表示画面が暗くなり視認性が低下する。そのため、比較的表示面積の大きな反射型液晶表示装置、例えば、1.5インチ型以上の表示面積を有する反射型液晶表示装置では、表示画面全体を明るく表示することが困難である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、透過散乱光に高い指向性および拡散性を付与できる光散乱シート(又はフィルム)、およびこの光散乱シートを用いた液晶表示装置(特に反射型液晶表示装置)を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、画面全体を明るく表示できる光散乱シート(又はフィルム)、およびこの光散乱シートを用いた液晶表示装置(特に反射型液晶表示装置)を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、表示面積が大きくても、表示画面を明るくできる光散乱シート、およびこの光散乱シートを用いた液晶表示装置(特に反射型液晶表示装置)を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、カラー表示であっても、高画質で鮮明かつ明るく表示可能な光散乱シート、および液晶表示装置を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、高輝度で高精細の表示が可能な光散乱シート、および液晶表示装置を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記光散乱シートを簡便かつ低コストで製造できる方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、互いに屈折率が異なる複数のポリマーを含む均一溶液から溶媒を蒸発させ、適当な条件でスピノーダル分解させると、液滴相の平均相間距離に一様又は二様の規則性を有する等方性の液滴相構造(相分離構造)を簡便に形成でき、このような規則性の相分離構造を有するシートを用いると、透過散乱光に拡散性と1方向又は2方向への指向性を付与できることを見いだし、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の透過型光散乱シートは、互いに屈折率の異なる複数のポリマーで構成され、かつ少なくとも液滴相構造を有する光散乱層で構成されている。この光散乱層は、入射光を等方的に透過散乱(又は拡散)する。前記光散乱層は、1又は2つの特定の散乱角で散乱光強度の極大値を示すという特有の光散乱特性を有する。すなわち、前記光散乱層には、(1)散乱角3〜40°に散乱光強度が極大値を有する光散乱層、(2)2つの散乱角で散乱光強度の極大値を示す光散乱層が含まれる。後者の光散乱層は、散乱角度域(すなわち、散乱中心の両側の散乱角度域)において、2つの散乱角で、透過した散乱光強度の極大値(ピーク)を示すという光散乱特性を有する。散乱光強度において極大値を示す低角側の角度θaは、例えば、2〜20°程度であってもよく、極大値を示す低角側の角度θaと極大値を示す広角側の角度θbとの比θb/θaは、例えば、1.5〜10程度である。後者の光散乱層は、通常、少なくとも液滴状又は海島状の相分離構造を有しており、この相分離構造の粒径分布において、分散相は平均粒径の異なる2つのピークを有している。すなわち、相分離構造は平均粒径の異なる分散相を有しており、分散相の粒度分布において二様の規則性を備えている。
【0019】
前記液滴相構造の液滴の平均直径は、0.1〜20μm程度であってもよい。液滴相構造の液滴中心間の平均距離は、0.5〜15μm程度であってもよく、液滴中心間の平均距離の標準偏差は、液滴中心の平均距離の40%以下であってもよい。さらに、液滴相構造の液滴の体積は、光散乱層全体の体積の30〜70%程度であってもよい。前記光散乱シートの全光線透過率は、70〜100%程度である。
【0020】
前記光散乱層を構成する複数のポリマーの屈折率の差は、例えば、0.01〜0.2程度である。また、複数のポリマーは、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース誘導体、ゴム又はエラストマーなどから選択できる。複数のポリマーの少なくとも一成分は、例えば、セルロースエステル類(例えば、酢酸セルロース)であってもよい。複数のポリマーは、第1のポリマーと第2のポリマーとで構成でき、第1のポリマーと第2のポリマーとの割合は、前者/後者=10/90〜90/10(重量比)程度であってもよい。
【0021】
このような相分離構造を有する光散乱層は、スピノーダル分解、例えば、複数のポリマーを含む液相からの湿式スピノーダル分解により形成してもよい。湿式スピノーダル分解においては、非結晶性であるとともに共通溶媒に可溶な複数のポリマーを使用できる。
【0022】
本発明の光散乱シートは、光散乱層単独で構成されたシートであってもよく、透明支持体と、この透明支持体の少なくとも一方の面に積層された光散乱層とで構成された積層シートであってもよい。積層シートにおいて、透明支持体は、通常、実質的に光学的に等方性である。
【0023】
本発明の方法では、互いに屈折率が異なる複数のポリマーを含む混合液から溶媒を蒸発させ、スピノーダル分解により、少なくとも液滴相構造を有する前記光散乱層(又は前記相分離構造)を形成することにより、光散乱シートを製造する。この方法では、前記混合液を透明支持体に塗布し、混合液の溶媒を蒸発させ、前記光散乱層又は相分離構造を形成してもよい。
【0024】
本発明には、液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの後方に配設され、かつ入射光を反射するための反射手段と、この反射手段よりも前方に配設された前記光散乱シートとを備えている反射型液晶表示装置も含まれる。この装置において、液晶セルの前方に偏光板を配設し、前記液晶セルと偏光板との間に前記光散乱シートを配設してもよい。
【0025】
なお、本明細書において「シート」とは、厚さの如何を問わず二次元的構造物を意味し、フィルムを含む意味に用いる。
【0026】
【発明の実施の形態】
[透過型光散乱シート]
透過型光散乱シートを構成する光散乱層は、互いに屈折率の異なる複数のポリマーで構成され通常の使用雰囲気(特に、約10〜30℃程度の室温下)において、少なくとも液滴相構造を有する相分離構造を形成している。前記光散乱層は、入射光を実質的に等方的に散乱して透過させ、かつ透過した散乱光に高い指向性と拡散性とを付与できる。特に、光散乱層は、透過した散乱光強度と散乱角との関係において特有の光散乱特性を示す相分離構造を形成している。すなわち、光散乱層の相分離構造は、入射光を等方的に散乱させて透過し、1又は2つの特定の散乱角に、散乱光強度の極大値(ピーク)を示す。
【0027】
光散乱性を高めるため、複数のポリマーは、屈折率の差が、例えば、0.01〜0.2程度、好ましくは0.1〜0.15程度となるように組み合わせて使用できる。屈折率の差が0.01未満では透過散乱光の強度が低下し、屈折率の差が0.2より大きいと透過散乱光に指向性を付与できない。
【0028】
複数のポリマーは、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂(脂環式オレフィン系樹脂を含む)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴム又はエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などから適当に組み合わせて選択できる。
【0029】
スチレン系樹脂には、スチレン系単量体の単独又は共重合体(ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体など)、スチレン系単量体と他の重合性単量体((メタ)アクリル系単量体、無水マレイン酸、マレイミド系単量体、ジエン類など)との共重合体などが含まれる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体[スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体など]、スチレン−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。好ましいスチレン系樹脂には、ポリスチレン、スチレンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体[スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレンとメタクリル酸メチルを主成分とする共重合体]、AS樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体などが含まれる。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、(メタ)アクリル系単量体と共重合性単量体との共重合体が使用できる。(メタ)アクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;トリシクロデカンなどの脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが例示できる。共重合性単量体には、前記スチレン系単量体、ビニルエステル系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが例示できる。これらの単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。好ましい(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1-6アルキル、特にメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%程度)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0032】
ビニルエステル系樹脂としては、ビニルエステル系単量体の単独又は共重合体(ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニルなど)、ビニルエステル系単量体と共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)又はそれらの誘導体が挙げられる。ビニルエステル系樹脂の誘導体には、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール樹脂などが含まれる。
【0033】
ビニルエーテル系樹脂としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルt−ブチルエーテルなどのビニルC1-10アルキルエーテルの単独又は共重合体、ビニルC1-10アルキルエーテルと共重合性単量体との共重合体(ビニルアルキルエーテル−無水マレイン酸共重合体など)が挙げられる。
【0034】
ハロゲン含有樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0035】
オレフィン系樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィンの単独重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの共重合体が挙げられる。脂環式オレフィン系樹脂としては、環状オレフィン(ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなど)の単独又は共重合体(例えば、立体的に剛直なトリシクロデカンなどの脂環式炭化水素基を有する重合体など)、前記環状オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−ノルボルネン共重合体、プロピレン−ノルボルネン共重合体など)などが例示できる。脂環式オレフィン系樹脂は、例えば、商品名「アートン(ARTON)」、商品名「ゼオネックス(ZEONEX)」などとして入手できる。
【0036】
ポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)をベースとする芳香族ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートなどが含まれる。
【0037】
ポリエステル系樹脂には、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を用いた芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC2-4アルキレンテレフタレートやポリC2-4アルキレンナフタレートなどのホモポリエステル、C2-4アルキレンアリレート単位(C2-4アルキレンテレフタレート及び/又はC2-4アルキレンナフタレート単位)を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステルなど)が例示できる。コポリエステルとしては、ポリC2-4アルキレンアリレートの構成単位のうち、C2-4アルキレングリコールの一部を、ポリオキシC2-4アルキレングリコール、C6-10アルキレングリコール、脂環式ジオール(シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなど)、芳香環を有するジオール(フルオレノン側鎖を有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、ビスフェノールA、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体など)などで置換したコポリエステル、芳香族ジカルボン酸の一部を、フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸、アジピン酸などの脂肪族C6-12ジカルボン酸などで置換したコポリエステルが含まれる。ポリエステル系樹脂には、ポリアリレート系樹脂、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリエステル、ε−カプロラクトンなどのラクトンの単独又は共重合体も含まれる。好ましいポリエステル系樹脂は、通常、非結晶性コポリエステル(例えば、C2-4アルキレンアリレート系コポリエステルなど)などのように非結晶性である。
【0038】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸など)とジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミドなどが挙げられる。ポリアミド系樹脂には、ε−カプロラクタムなどのラクタムの単独又は共重合体であってもよく、ホモポリアミドに限らずコポリアミドであってもよい。
【0039】
セルロース誘導体のうちセルロースエステル類としては、例えば、脂肪族有機酸エステル(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのC1-6有機酸エステルなど)、芳香族有機酸エステル(セルロースフタレート、セルロースベンゾエートなどのC7-12芳香族カルボン酸エステル)、無機酸エステル類(例えば、リン酸セルロース、硫酸セルロースなど)が例示でき、酢酸・硝酸セルロースエステルなどの混合酸エステルであってもよい。セルロース誘導体には、セルロースカーバメート類(例えば、セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテル類(例えば、シアノエチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1-6アルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース又はその塩、ベンジルセルロース、アセチルアルキルセルロースなど)も含まれる。
【0040】
好ましいポリマーには、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂、及びゴム又はエラストマーなどが含まれる。複数のポリマーとしては、通常、非結晶性であり、かつ有機溶媒(特に複数のポリマーを溶解可能な共通溶媒)に可溶な樹脂が使用される。特に、成形性又は製膜性、透明性や耐候性の高い樹脂、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(酢酸セルロースなどのセルロースエステル類など)などが好ましい。
【0041】
これらの複数のポリマーは適当に組み合わせて使用できる。例えば、複数のポリマーの組合せにおいて、少なくとも1つのポリマーを、セルロース誘導体、特にセルロースエステル類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2-4アルキルカルボン酸エステル類)とし、他のポリマーと組み合わせてもよい。
【0042】
ポリマーのガラス転移温度は、例えば、−100℃〜250℃、好ましくは−50℃〜230℃、さらに好ましくは0〜200℃程度(例えば、50〜180℃程度)の範囲から選択できる。なお、シートの強度や剛性、耐候性の点から、構成ポリマーのうち少なくとも1つのポリマーのガラス転移温度は、50℃以上(例えば、70〜200℃程度)、好ましくは100℃以上(例えば、100〜170℃程度)であるのが有利である。また、シートの成形性の点から、構成ポリマーのガラス転移温度は250℃以下(例えば、70〜200℃)、より好ましくは200℃以下(例えば、80〜180℃)である。ポリマーの重量平均分子量は、例えば、1,000,000以下(10,000〜1,000,000程度)、好ましくは10,000〜700,000程度の範囲から選択できる。
【0043】
複数のポリマーは適当に組み合わせることができる。例えば、複数のポリマーを含む固相を加熱してスピノーダル分解する乾式相分離方法では、互いに部分相溶性のポリマーを組み合わせることができるが、複数のポリマーを含む液相から溶媒を蒸発させてスピノーダル分解する湿式法では、原理的には複数のポリマーの相溶性の如何にかかわらず、実質的に等方性であり、かつ規則的な相構造を有する光散乱層を形成できる。そのため、湿式スピノーダル分解法において、複数のポリマーの組み合わせは、ポリマーが互いに相溶性を示す組み合わせであってもよく、非相溶性(相分離性)を示す組み合わせであってもよい。通常、スピノーダル分解により相分離構造を容易に制御し、効率よく規則的な相構造を形成するため、非相溶性(相分離性)の複数のポリマーを組み合わせる場合が多い。
【0044】
複数のポリマーは、第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わにより構成でき、第1のポリマー及び第2のポリマーは、それぞれ単一の樹脂で構成してもよく複数の樹脂で構成してもよい。第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わせは特に制限されない。例えば、2種のポリマーを使用する場合を例にとって説明すると、第1のポリマーがセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル類)である場合、第2のポリマーは、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、ビニルエステル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂(ノルボルネンを単量体とする重合体など)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(前記ポリC2-4アルキレンアリレート系コポリエステルなど)などであってもよい。
【0045】
第1のポリマーと第2のポリマーとの割合は、例えば、前者/後者=10/90〜90/10(重量比)、好ましくは20/80〜80/20(重量比)、さらに好ましくは30/70〜70/30(重量比)程度の範囲から選択でき、特に40/60〜60/40(重量比)程度が好ましい。なお、2つの散乱角で散乱高強度の極大値を示す相分離構造を形成するためには、第1のポリマーと第2のポリマーとの割合をコントロールするのが有利であり、両者の割合は、略等量程度、例えば、第1のポリマー/第2のポリマー=60/40〜40/60(重量比)、好ましくは55/45〜45/55(重量比)程度である。一方のポリマーの割合が多すぎると、相分離した相間の体積比が偏るため、散乱光の強度が低下する。なお、3以上の複数のポリマーでシートを形成する場合、各ポリマーの含有量は、通常、1〜90重量%(例えば、1〜70重量%、好ましくは5〜70重量%、さらに好ましくは10〜70重量%)程度の範囲から選択できる。
【0046】
本発明の透過型光散乱シートにおいて光散乱層は、少なくとも液滴相構造を有している。液滴相構造とは、球状、楕円回転体状などの独立相を有する海島構造(独立又は孤立した相構造)である。本発明の光散乱層は、少なくとも液滴相構造(液滴状又は海島状の相分離構造)を有していればよく、液滴相構造のみでも、例えば、液滴相構造と共連続相構造とが混在した構造を有していてもよい。共連続相構造の形状は特に制限されず、ネットワーク状であってもよい。スピノーダル分解において、相分離の進行に伴って共連続相構造が形成し、さらに相分離が進行すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造に変化する。このような相形成過程で、相分離の進行を液滴同士が会合しない程度に制御すれば、散乱光に指向性が付与できる。
【0047】
前記相分離構造(液滴相構造)は、通常、層又はシート面内において異方性が低減されており、実質的に等方性である。なお、等方性とは、シート面内のどの方向に対しても相分離構造のドメイン間距離(液滴中心の平均距離)が実質的に等しいことを意味する。
【0048】
光散乱層の液滴相構造は、液滴中心間の平均距離(平均相間距離)に規則性を有する。そのため、シートに入射した光はブラッグ反射により特定方向に散乱光が指向する。従って、反射型液晶表示装置に装着しても、散乱光を一定の方向に指向させることができ(指向型拡散)、表示画面を高度に明るくできるので、従来の粒子分散型の透過型光散乱シートでは解決できなかったパネルへの光源の映りの問題を回避できる。
【0049】
液滴相構造において、液滴(ドメイン)の平均粒径は、例えば、0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは1〜15μm(特に1〜10μm)程度である。また、液滴中心間の平均距離(平均相間距離)は、0.5〜20μm(例えば、1〜20μm)、好ましくは0.5〜15μm(例えば、1〜15μm)、さらに好ましくは1〜10μm程度である。液滴の平均相間距離が小さいと、散乱光が広角度になり、十分な散乱光強度が得られず、平均相間距離が大きすぎると、散乱光の指向方向が直進光の方向とほぼ一致するため、光の拡散性が低下する。
【0050】
なお、液滴相構造において、液滴相の割合は、光散乱層全体に対して、20〜80体積%程度の範囲から選択でき、通常、30〜70体積%(好ましくは40〜60体積%)程度である。
【0051】
光散乱層の相分離構造は、1の態様において、(1)特定の散乱角に単一の極大値を有し、他の態様において、(2)散乱角度域(すなわち、散乱中心の両側の散乱角度域)において、2つの散乱角(低角側及び広角側)で、散乱光強度の極大値(ピーク)を示す。
【0052】
前者の光散乱層(1)は、散乱光強度分布において、散乱角3〜40°(好ましくは5〜30゜、さらに好ましくは10〜20゜)に強い極大分布を示す。このような光散乱特性を有する光散乱層は、液滴中心間の平均距離(平均相間距離)の標準偏差が、液滴中心間の距離の40%以下(例えば、5〜40%、好ましくは10〜30%)であり、通常、15〜30%程度である。上記標準偏差が大きすぎると、液滴相間距離の分布が広くなり、散乱光の特定方向への指向性が低下する。
【0053】
後者の光散乱層(2)は、透過に伴って入射光を実質的に等方的に散乱し、かつ2つの散乱角で散乱光強度の極大値を示すという特色を有している。すなわち、散乱光強度と散乱角との関係において、散乱光強度の極大値が2つの散乱角で現れるという特色を有する。このような光学特性は、シートの片面からレーザー光等の光を照射して透過散乱光をスクリーンに投影したとき、透過散乱光が二重のリングとして視認されることにより確認できる。
【0054】
2つの散乱角で、散乱光強度の極大値を示す光散乱層(2)において、広角側の極大値は、低角側の極大値に対してピーク状に分離していてもよく、散乱光強度分布においてショルダー域又は平坦域を形成している場合にも極大値を有するとみなすことができる。このような光散乱特性は、相分離構造が、分散相のドメイン間の平均距離が規則性を有するだけでなく、ドメイン間の平均距離が二様の規則性を有するためであると思われる。本発明では、このような特有の光散乱特性又は相分離構造により、入射光を実質的に等方的に散乱して透過させ、かつ透過した散乱光に高い指向性と拡散性とを付与できる。
【0055】
さらに、後者の光散乱層では、散乱光強度の第1のピークが散乱角度θ(低角側の角度θa)=2〜20°、特に2〜15°程度に認められ、散乱光強度の第2のピークがさらに広角側で認められる。第2のピークは、前記のように、散乱光強度分布において、ショルダー状や平坦状であってもよい。さらに、散乱光強度において、極大値を示す低角側の角度θaと広角側の角度θbとの比θb/θaは、例えば、1.5〜10、好ましくは2〜8程度である。
【0056】
なお、低角側の角度θaで現れる散乱光強度と広角側の角度θbで現れる散乱光強度との割合は、前者/後者=100/1〜1/1、好ましくは10/1〜2/1程度である。
【0057】
さらに、前記光散乱層(2)は、複数のポリマーを含む液相(常温で液相、例えば、混合液又は溶液)からの溶媒の蒸発を経たスピノーダル分解により形成されており、この溶媒蒸発過程において、基板物質との親和性が構成ポリマー成分間で異なることに起因してドメイン間の平均距離に二様の規則性を有する相分離構造が形成されるものと思われる。このような透過型光散乱シートを用いると、入射光が実質的に等方的に散乱し、かつ透過散乱光に高い指向性と拡散性を同時に付与できる。
【0058】
前記相分離構造の光散乱層(2)は、分散相(ドメイン)の粒径分布において、平均粒径の異なる2つのピークを有している。すなわち、粒度分布において、大きさの異なる2種類の分布を有する液滴構造を有している。また、前記相分離構造は、相間距離(同一相間の距離)に規則性を有するようである。すなわち、相分離構造において複数のポリマーは、2つの異なる平均相間距離で規則的に相分離しているようである。なお、平均粒径の大きな液滴相間の平均距離が低角側の散乱ピークを与え、平均粒径の小さな液滴相間の平均距離が広角側の散乱ピークを与えているようである。
【0059】
サイズが大きな分散相(ドメイン)の平均粒径は、例えば、3〜20μm、好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは7〜15μm程度であってもよく、サイズの小さな分散相(ドメイン)の平均粒径は、例えば、0.1〜5μm、好ましくは0.5〜4μm、さらに好ましくは1〜3μm程度であってもよい。なお、分散相(ドメイン)の平均粒径は、全体として、例えば、0.1〜20μm、好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは1〜10μm程度である。
【0060】
また、サイズが大きな分散相(ドメイン)の平均粒径と、サイズの小さな分散相(ドメイン)の平均粒径との割合は、前者/後者=100/1〜1.5/1、好ましくは50/1〜2/1、さらに好ましくは25/〜3/1(例えば、10/1〜3/1)程度である。
【0061】
また、平均粒径の大きな分散相(ドメイン)の平均相間距離は、例えば、5〜20μm、好ましくは7〜15μm(例えば、7〜12μm)程度であり、平均粒径の小さな分散相(ドメイン)の平均相間距離は、例えば、0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm(例えば、2〜8μm)程度である。なお、分散相(液滴相又はドメイン)の平均相間距離は、全体として、例えば、0.5〜20μm(例えば、1〜20μm)、好ましくは1〜15μm(例えば、1〜10μm)程度である。
【0062】
なお、液滴(ドメイン)の中心位置は液滴を均一な物体と見なして計算することができる。本発明でいう液滴中心間の距離(相間距離)とは、隣接する液滴(ドメイン)のお互いの中心位置間の距離である。なお、液滴中心間の平均距離(平均相間距離)およびその標準偏差は、光散乱層又は透過型光散乱シートの顕微鏡写真(透過型顕微鏡、位相差顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡など)の画像処理(例えば、東洋紡績株式会社製、「Image Analyzer V10」)により測定し、算出することができる。また、後述する散乱光の指向性の評価法と同様の方法により、散乱光強度が極大になる散乱角度θを測定し、下記のブラッグ反射条件の式より液滴の平均相間距離dを算出してもよい。
【0063】
2d・sin(θ/2)=λ
(式中、dは液滴の平均相間距離を、θは散乱角度を、λは光の波長を示す)
前記相分離構造(2)の生成機構は明確ではないが、例えば、湿式スピノーダル分解を利用して、複数のポリマーを含む溶液を基材に塗布し、溶媒を蒸発させて相分離する場合、基材との親和性が複数の構成ポリマー成分間で異なるためか、相分離構造のドメイン間の平均距離に、2つの規則性(二様の規則性)が発現するものと推測される。そのため、シートへの入射光は、ブラッグ反射により、異なる平均相間距離に対応して2つ(複数)の特定の角度に散乱光極大を示す。従って、反射型液晶表示装置に装着しても、低角度側の散乱ピークにより散乱光を一定の方向に指向させ(指向型拡散)、表示画面を高度に明るくできる。そのため、従来の粒子分散型の透過型光散乱シートでは解決できなかった問題点、すなわち、パネルへの光源(例えば、蛍光灯など)の映りを回避できる。しかも、高角度側の散乱ピークにより広範囲にわたり光散乱できるため、表示画面を均一に明るく表示できる。特に、大画面の反射型液晶表示装置であっても、画面を均一に明るく表示できる。
【0064】
本発明の透過型光散乱シートは、散乱光を高度に指向化でき、かつ広い角度範囲に散乱光を拡散できる。散乱光の指向性は、例えば、図2に示すように、酢酸ビニル系粘着剤9により偏光板11と光散乱シート12とカラーフィルター18とが順次積層された積層シート、ガラス板(厚さ1mm)13、及びアルミニウム反射板15を積層した反射型LCDモデル装置を用いて測定できる。このモデル装置において、偏光板11はフロント側に位置し、アルミニウム反射板15は背面側に位置する。すなわち、レーザー光照射装置(NIHON KAGAKU ENG NEO-20MS)20により、この反射型LCDモデル装置のフロント面に対して垂直方向にレーザー光を照射することにより、散乱角度θ1での反射光の強度(散乱光強度)を検出器21で検出し、反射光の強度分布(散乱光の分布)を測定できる。
【0065】
θ1=0゜を中心としてガウス分布を示す光散乱シートに比べ、光散乱層(1)を備えた透過型光散乱シートを用いると、散乱光は、指向方向(散乱角度θ1=3〜40゜、好ましくは5〜30゜、さらに好ましくは10〜20°)に強い極大分布を示すとともに、広い角度域まで散乱光を拡散できる。また、光散乱層(2)を備えた透過型光散乱シートを用いると、散乱光は、指向方向(散乱角度θ1=2〜40゜、好ましくは2〜25゜、さらに好ましくは2〜20°)に強い極大分布を示すとともに、広い角度域まで散乱光を拡散できる。
【0066】
前記モデル装置を利用して、斜め方向からの入射光による表示面の明るさは、例えば、図3に示す装置を利用して評価できる。すなわち、レーザー光照射装置(NIHON KAGAKU ENG NEO-20MS)20により、反射型LCDモデル装置のフロント面に対して、角度θ2の斜め方向からレーザー光を照射し、フロント面から垂直方向に出射する反射光の強度を検出器21で検出することにより、斜め入射による反射光の強度を測定できる。
【0067】
さらに、光散乱シートにおいて、光散乱強度と散乱角度との関係は、図4(散乱光の強度の測定方法を説明するための概略図)に示す装置を用いて測定できる。すなわち、光散乱シート12の背面に配設されたレーザー光照射器(NIHON KAGAKU ENG NEO-20MS)20から、光散乱シート12に向けてレーザー光を照射する。レーザー光は、光散乱シート12で拡散されながら透過し、光散乱シート12の正面から出射する。散乱角θ3での透過散乱光の強度を検出器21で検出することにより、散乱光の強度を測定できる。このような測定装置としては、例えば、レーザー光散乱自動測定装置(日本科学エンジニアリング(株)製)を利用できる。
【0068】
光散乱シートの全光線透過率(透明度)は、例えば、70〜100%程度、好ましくは80〜100%程度、さらに好ましくは90〜100%程度である。なお、全光線透過率は、日本電色工業(株)製のヘイズメーター(NDH-300A)により測定できる。
【0069】
なお、光散乱シートは、光散乱層単独で形成してもよく、透明支持体(基材シート又はフィルム)と、この透明支持体の少なくとも一方の面に積層された光散乱層とで構成された積層シートであってもよい。支持体との積層により、シート強度を高くすることができる。
【0070】
透明支持体(基材シート)を構成する樹脂としては、前記光散乱層と同様の樹脂が使用できる。好ましい透明支持体を構成する樹脂としては、例えば、セルロース誘導体(セルローストリアセテート(TAC)、セルロースジアセテートなどのセルロースアセテートなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアリレート系樹脂など)、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)など)、ポリエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など)、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、環状ポリオレフィン系樹脂(アートン(ARTON)、ゼオネックス(ZEONEX)など)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど)、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、ビニルエステル又はビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコールなど)などが挙げられる。透明支持体は1軸又は2軸延伸されていてもよいが、光学的に等方性であるのが好ましい。好ましい透明支持体は、低複屈折率の支持シート又はフィルムである。光学的に等方性の透明支持体には、未延伸シート又はフィルムが例示でき、例えば、ポリエステル(PET,PBTなど)、セルロースエステル類、特にセルロースアセテート類(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートC3-4アルキルカルボン酸エステル)などで形成されたシート又はフィルムが例示できる。低複屈折率であり、LCD用偏光板保護フィルムとして実績のあるセルローストリアセテートシート又はフィルムが好ましい。
【0071】
光散乱層又は光散乱シートの厚さは、例えば、0.5〜300μm、好ましくは1〜100μm(例えば、10〜100μm)、さらに好ましくは1〜50μm(例えば、5〜50μm、特に10〜50μm)程度、特に1〜30μm(例えば、10〜30μm)程度であってもよい。シート厚みが薄すぎると、散乱光の強度が低下し、シート厚みが大きすぎると、散乱性が強くなりすぎ、指向性が低下する。また、反射型液晶表示装置に適用した場合に、装置の厚みや重量が増加するとともに、表示ボケが生じ、表示画面の精細性が低下する。なお、ポリマーの屈折率の差が小さい場合、シート厚みが大きい方が好ましく、反対に屈折率の差が大きい場合、シート厚みが小さい方が好ましい。なお、光散乱シートを透明支持体と光散乱層とで構成する場合、光散乱層の厚みは、例えば、1〜100μm程度、好ましくは1〜50μm(例えば、5〜50μm)程度、さらに好ましくは1〜30μm(例えば、10〜30μm)程度であってもよく、通常、1〜5μm程度であっても高い光散乱性が得られる。
【0072】
なお、本発明の光散乱層又は光散乱シートは、必要により、液晶表示装置を構成する部材(特に光学的部材)、例えば、液晶画像をカラー化、高精細化するための偏光板や位相差板などの部材に積層してもよい。
【0073】
なお、光散乱シートは、種々の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、可塑剤、着色剤(染料や顔料)、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤などを含有していてもよい。また、光散乱シートの表面には、必要により、種々のコーティング層、例えば、帯電防止層、防曇層、離型層などを形成してもよい。
【0074】
[透過型光散乱シートの製造方法]
本発明の透過型光散乱シートは、種々のスピノーダル分解法、例えば、互いに屈折率が異なる複数のポリマーで構成された樹脂組成物をシート成形し、スピノーダル分解により誘起された相分離構造を固定化し、等方性の液滴相構造を形成することにより製造できる。シート成形法は、例えば、樹脂組成物の溶液(又はスラリー)を流延又はコーティングするキャスティング法やコーティング法が使用できる。この方法において、シート成形しながら同時にスピノーダル分解させて等方性の液滴相構造を形成してもよい。
【0075】
スピノーダル分解により光散乱シートを製造する方法としては、湿式スピノーダル分解法、すなわち、互いに屈折率が異なる複数のポリマーを含む混合液から溶媒を蒸発させ、スピノーダル分解により実質的に等方性の相分離構造を形成する方法が挙げられる。前記複数のポリマーを含む混合液は、通常、共通溶媒に溶解させた溶液(特に均一溶液)として使用される。
【0076】
なお、湿式スピノーダル分解法では、原理的には構成ポリマーの相溶性の如何にかかわらず、前記相分離構造を有する光散乱層を形成できる。従って、乾式スピノーダル分解法を適用できないポリマー系、例えば、構成ポリマーの分解温度以下の温度での混練により相溶性を示さない構成ポリマーに特に有効に適用できる。前記共通溶媒は、ポリマーの種類及び溶解性に応じて、各ポリマーを溶解可能な溶媒から選択でき、例えば、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示でき、溶媒は混合溶媒であってもよい。
【0077】
混合液中の溶質(ポリマー)の濃度は、相分離が生じるポリマー濃度及び流延性やコーティング性などを損なわない範囲で選択でき、例えば、1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%(例えば、2〜20重量%)、さらに好ましくは3〜15重量%(例えば、5〜15重量%)程度であり、通常、5〜25重量%程度である。ポリマー濃度が高すぎると、相分離のコントロールが困難となり、ポリマー濃度が低すぎると流延又はコーティング性が低下しやすい。
【0078】
前記混合液を流延又は塗布した後、溶媒の沸点よりも低い温度(例えば、溶媒の沸点よりも1〜120℃、好ましくは5〜50℃、特に10〜50℃程度低い温度)で溶媒を蒸発させることにより、複数のポリマーの相分離を誘起させてスピノーダル分解することができる。溶媒の蒸発は、通常、乾燥、例えば、溶媒の沸点に応じて、30〜100℃、好ましくは40〜80℃程度の温度で乾燥させることにより行うことができる。
【0079】
スピノーダル分解により形成された相分離構造は、固化又は構成ポリマーのガラス転移温度以下(例えば、主たるポリマーのガラス転移温度以下)に冷却することにより固定化できる。
【0080】
このような方法では、溶媒の蒸発によるスピノーダル分解を利用するため、高温での熱処理が不要であり、溶媒の除去・乾燥という簡単な操作で相分離構造を形成できる。
【0081】
この方法において、前記相分離構造の形成には、例えば、複数のポリマーの組成比、溶媒の種類、支持体との親和性などの多くの因子が関与するようである。例えば、第1のポリマー(セルロースエステル類など)と第2のポリマー(コポリエステルなど)との割合を調整すると、前記混合物が適用される支持体に対する親和性が、複数の構成ポリマー成分において異なるとともに多くの要因が関与するためか、前記特定の相分離構造(例えば、前記2つの散乱角に散乱光強度の極大値を示す光散乱層)が形成される。より具体的には、光散乱層単独で形成された光散乱シートは、剥離性支持体に前記混合液を流延し、混合液中の溶媒を蒸発させることにより、スピノーダル分解させて相分離を誘起させ、前記相分離構造を有する光散乱層を形成して固定化し、剥離性支持体から光散乱層を剥離することにより得ることができる。また、前記透明支持体(透明基材シート)と光散乱層とで構成された光散乱シートは、透明支持体に前記混合液を塗布し、混合液中の溶媒を蒸発させることにより、スピノーダル分解させて相分離を誘起させ、前記相分離構造を形成して固定化する方法、接着などのラミネート法を利用して、透明支持体(透明基材シート)に前記光散乱層を積層する方法などにより得ることができる。
【0082】
なお、透明支持体に前記混合液を塗布すると、溶媒の種類によっては透明支持体が溶解又は膨潤する場合がある。例えば、トリアセチルセルロースフィルムに、複数の樹脂を含有する塗布液(均一溶液)を塗布すると、溶媒の種類によって、トリアセチルセルロースフィルムの塗布面が溶出・侵食若しくは膨潤する場合がある。このような場合、透明支持体(トリアセチルセルロースフィルムなど)の塗布面に予め耐溶剤性コーティング剤を塗布し、光学的に等方性の耐溶剤性コーティング層を形成するのが有用である。このようなコーティング層は、例えば、耐溶剤性に優れた等方性高分子樹脂[AS樹脂などのポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、シリコーン系樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂、架橋シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂など]、熱又は紫外線硬化型樹脂などの硬化性樹脂、ハードコート剤、蒸着、スパッタリングなどの真空製膜法や無機質材料を塗布して焼成する方法などで形成できる無機コート膜などを用いて形成できる。なお、ハードコート剤としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの高分子樹脂や金属酸化物、ガラス、セラミックスなどの無機物が挙げられる。好ましい耐溶剤性コーティング層には、コーターで容易にコートできるポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)によるコーティング層が挙げられる。
【0083】
なお、複数のポリマーを含む混合液又は塗布液を透明支持体に塗布する場合、透明支持体の種類に応じて、透明支持体を溶解・侵食若しくは膨潤しない溶媒を選択してもよい。例えば、透明支持体としてトリアセチルセルロースフィルムを用いる場合、混合液又は塗布液の溶媒として、例えば、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどを用いると、フィルムの性質を損なうことなく、光散乱層を形成できる。
【0084】
[反射型液晶表示(LCD)装置]
本発明の透過型光散乱シートは、反射手段を備えた反射型液晶表示装置、特に反射手段と偏向手段とを備えた反射型液晶表示装置に適用できる。例えば、液晶表示装置は、1つの偏光板を用いた偏光板1枚方式の反射型LCD装置に限らず、異なる偏光性を有する2つの偏光板を用いた偏光板2枚方式の反射型LCD装置であってもよい。偏光板1枚方式の反射型LCD装置は、例えば、1枚の偏光板と、種々のモード(ツイストネマチック液晶を用いたモード、R−OCB(Optically Compensated Bend) モード、平行配向モードなど)とを組み合わせた反射型LCD装置であってもよい。
【0085】
さらに、本発明の光散乱シートは、カイラルネマチック液晶の波長選択反射特性を利用した反射型LCD装置にも適用できる。
【0086】
図1は反射型LCD装置の一例を示す概略断面図である。このLCD装置は、一対の透明基板(ガラス板、プラスチックなど)3a,3bの間に封入された液晶(液晶層など)4を備えた液晶セル6と、この液晶セルを構成する透明基板3のうち一方の透明基板(背面基板)3aに積層された反射手段(例えば、鏡面反射板などの反射層)5と、カラー表示のためのカラー化手段(カラーフィルターなど)8を介して、液晶セル6の他方の透明基板(フロント基板)3bに積層された光散乱シート2と、この光散乱シートに積層され、かつ前記反射手段5により反射された反射光を偏向するための偏光手段(偏光板などの偏向層)1とで構成されている。前記一対の透明基板3a,3bの対向面には、透明電極(図示せず)が形成されている。
【0087】
このような反射型LCD装置において、観察者側のフロント面7から入射した光(入射光)は光散乱シートを透過して拡散され、反射手段5により反射され、反射光は光散乱シート2を透過して再度散乱される。特に、透過した散乱光は指向性を有している。そのため、前記光散乱シート2を有する反射型LCD装置では、高い光散乱性で反射光を散乱できるとともに、反射光の強度を所定の方向に指向させることができる。従って、表示画面を明るくできるとともに、カラー表示であっても十分な明るさを確保でき、カラー表示タイプの反射型LCD装置において鮮明なカラー画像を表示できる。
【0088】
なお、液晶表示装置において、液晶セルの後方に入射光を反射するための反射手段が配設され、この反射手段よりも前方に光散乱シートが配設されている限り、光散乱シートの配設位置は特には限定されない。また、前記偏光板は光の光路(入射路及び反射路)に配設されていればよく、偏光手段と光散乱シートとの配設位置も特に制限されず、偏光手段の前方に光散乱シートを配設してもよい。好ましい態様では、偏光手段により表示面を明るくするため、液晶セルの前方に偏光板が配設され、前記液晶セルと偏光板との間に光散乱シートが配設されている。
【0089】
反射手段は、アルミニウム蒸着膜などの薄膜で形成することができ、透明基板、カラーフィルター、光散乱シート、偏光板は、粘着剤層などを利用して積層してもよい。すなわち、本発明の光散乱シートは、他の機能層(偏光板、位相差板、光反射板、透明導電層など)と積層して使用してもよい。なお、反射型LCD装置でモノクロ表示する場合、前記カラーフィルターは必ずしも必要ではない。
【0090】
また、TFT型の液晶表示素子の場合には必ずしも必要ではないものの、STN(Super Twisted Nematic)液晶表示装置では、位相差板を配設してもよい。位相差板は、適当な部位、例えば、フロント透明基板と偏光板との間に配設してもよい。このような装置において、光散乱シートは偏光板と位相差板との間に配設してもよく、フロント透明基板と位相差板との間に配設してもよい。
【0091】
本発明の光散乱シートを用いると、反射光に高い散乱性と指向性を付与できるため、液晶表示画面の視認性を向上できる。特に、面積の大きな液晶表示面であっても、全体に亘り明るく表示できる。そのため、反射型LCD装置は、例えば、パーソナルコンピューター(パソコン)、ワードプロセッサー、液晶テレビ、携帯電話、時計、電卓などの電気製品の表示部に幅広く利用できる。特に、携帯型情報機器の液晶表示装置に好適に利用できる。
【0092】
【発明の効果】
本発明では、光散乱層が特定の相分離構造を有するため、透過散乱光に高い指向性を付与できるだけでなく、光拡散性をも付与でき、画面全体を明るく表示できる。そのため、表示面積が大きく、しかもカラー表示装置であっても、表示画面を高度に明るくできる。従って、反射型液晶表示装置、特に携帯型情報機器のカラー型液晶表示装置に好適に利用できる。さらには、カラー表示の反射型液晶表示装置であっても、高画質で鮮明かつ明るく表示可能であり、高輝度で高精細の表示が可能である。さらに、本発明の方法では、液相からのスピノーダル分解などを利用して、低コストで実質的に等方性の相分離構造を有する透過型光散乱シートを製造できる。
【0093】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
実施例1
酢酸セルロース(酢化度55.0%、重合度300;ダイセル化学工業(株)製、HDP)3重量部とポリメタクリル酸メチル(PMMA;三菱レイヨン製、BR80)3重量部とをアセトン94重量部に溶解した。この溶液をワイヤーバー#40を用いてガラス板上に流延した後、30℃のオーブン内で3分間放置し、アセトンを蒸発させてガラス板上に厚さ5μmのシート層を形成させた。このシートをガラス板から剥離し、透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは規則正しい液滴相構造を有していた。
【0095】
この透過型光学顕微鏡写真を、東洋紡績(株)製「Image Analyzer V10」を用いて画像解析して、液滴の平均直径、液滴中心間の平均距離(平均相間距離)を求めたところ、液滴相の平均相間距離は3.9μmであり、その標準偏差は平均相間距離の20%であり、液滴の平均直径は2.8μmであった。また、液滴部分のシートに占める割合は50体積%であった。さらに、JIS K7105に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−300A)を用いてシートの全光線透過率を測定したところ、90%であった。
【0096】
実施例2
酢酸セルロース(酢化度55.0%、重合度300;ダイセル化学工業(株)製、HDP)3重量部とポリメタクリル酸メチル(PMMA;三菱レイヨン製BR80)3重量部とをアセトン94重量部に溶解した。透明支持体として、トリアセチルセルロースフィルム(厚み50μm)の表面にポリビニルアルコール(クラレ(株)製、アルキル変性PVA MP203、けん化度88%)をコーティングしたコートフィルムを用いた。溶液を上記トリアセチルセルロースフィルムのコート面上に流延した後、20℃のオーブン内で3分間放置し、アセトンを蒸発させて厚さ3μmのコーティング層(光散乱層)を形成させた。この光散乱層を透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは規則正しい液滴相構造を有し、液滴相の平均相間距離は4.3μmで、その標準偏差は平均相間距離の24%であり、液滴の平均直径は3.4μmであった。また、光散乱層に液滴部分がに占める割合は50体積%であった。さらに、シートの全光線透過率は91%であった。
【0097】
実施例3
酢酸セルロース(酢化度54.6%、重合度180;ダイセル化学工業(株)製、VFY)3重量部とポリメタクリル酸メチル(PMMA;三菱レイヨン製、BR83)4重量部とをアセトン93重量部に溶解した。透明支持体として、トリアセチルセルロースフィルム(厚み50μm)に表面をポリビニルアルコール(クラレ(株)製、アルキル変性PVA MP203、けん化度88%)でコーティングしたコートフィルムを用いた。溶液を上記トリアセチルセルロースフィルムのコート面上に流延した後、20℃のオーブン内で3分間放置し、アセトンを蒸発させて厚さ2μmのコート層(光散乱層)を形成させた。 この光散乱層を透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは規則正しい液滴相構造を有し、液滴相の平均相間距離は4.1μmであり、その標準偏差は平均相間距離の19%であった。また、液滴の平均直径は3.3μmであり、光散乱層に液滴の占める割合は45%であった。また、シートの全光線透過率は92%であった。
【0098】
比較例1
セルローストリアセテート(ダイセル化学工業(株)製、LT−105)70重量部を塩化メチレン/メタノール混合溶媒(9/1;重量比)90重量部に溶解した。溶液に架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系微粒子(積水化学工業(株)製、MBX−2)30重量部を混合し、流延、キャストし、100μmのシートを得た。得られたシート透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートはランダムな液滴相構造を有していた。液滴直径の平均値は3.0μmであった。また、シートの全光線透過率は92%であった。
【0099】
[散乱特性の評価]
(1)光散乱シートの透過散乱特性:
実施例1〜3及び比較例1で得られた光散乱シートに対して、図4に示すように、垂直方向から光を入射させ、光散乱強度と散乱角度との関係を、レーザー光散乱自動測定装置(日本科学エンジニアリング(株)製)を用いて測定した。測定結果を図5に示す。図5から明らかなように、ランダムに液滴相構造が分布する比較例1のシートではガウス分布型の散乱光強度を示すのに対して、実施例のシートは、特定角度(実施例1では7°、実施例2では6°、実施例3では8°)に散乱光が指向している。
(2)表示明るさ:
実施例1〜3及び比較例1で得られた光散乱シートを用い、図3に示す反射型LCDモデル装置を作製し、図3に示すように、フロント面に対して斜め上方から入射角度(散乱角度θ2)でスポットライト白色光を照射し、フロント面から垂直方向に出射する反射光の強度を測定した。入射角度(散乱角度又は拡散角度θ2)での垂直方向の反射光の強度を以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0100】
◎:非常に明るい
○:明るい
△:普通〜暗い
【0101】
【表1】
Figure 0004756755
【0102】
表1から明らかなように、実施例1〜3の透過型光散乱シートは特定の散乱角度に対する反射光の強度が強く、高い指向性を有していることがわかる。
【0103】
実施例4
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製,CAP-482-20)2.5重量部と、コポリエステル(フルオレン変性ポリエステル,OPET;鐘紡(株)製,OP7-40)2.5重量部とをテトラヒドロフラン(THF)95重量部に溶解した。この溶液を、ワイヤーバー#34を用いてトリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、60℃のオーブン内で2分間放置し、THFを蒸発させて厚さ約2μmのコート層を形成させた。透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは、大きさの異なる2種類の分散相が規則的な相間距離で分散した液滴状相分離構造を有しており、大きな分散相(ドメイン)の平均粒径は約10μm、サイズの小さな分散相(ドメイン)の平均粒径は約1.5μm、平均粒径の大きな分散相(ドメイン)の平均相間距離は約8〜10μm、平均粒径の小さな分散相(ドメイン)の平均相間距離は約2〜6μmであった。図6に上記シートの光学顕微鏡写真を示す。JIS K7105に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−300A)を用いてシートの全光線透過率を測定したところ、93%であった。
【0104】
実施例5
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピル化度=45%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製,CAP-482-20)2.9重量部と、コポリエステル(フルオレン変性ポリエステル,OPET;鐘紡(株)製、OP7-40)2.1重量部とをTHF95重量部に溶解した。この溶液を、ワイヤーバー#34を用いてトリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、60℃のオーブン内で2分間放置し、THFを蒸発させて厚さ約2μmのコート層を形成させた。透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは、実施例1と同様に、大きさの異なる2種類の分散相が規則的な相間距離で分散した液滴状相分離構造を有していた。また、全光線透過率を測定したところ、92%であった。
【0105】
実施例6
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピル化度=45%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製,CAP-482-20)3重量部と、コポリエステル(フルオレン変性ポリエステル,OPET;鐘紡(株)製、OP7-40)3重量部とをTHF94重量部に溶解した。この溶液を、ワイヤーバー#20を用いてトリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、60℃のオーブン内で2分間放置し、THFを蒸発させて厚さ約2μmのコート層を形成させた。透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートは、実施例1と同様に、大きさの異なる2種類の分散相が規則的な相間距離で分散した液滴状相分離構造を有していた。また、全光線透過率を測定したところ、93%であった。
【0106】
比較例2
セルロースアセテート(ダイセル化学工業(株)製、LT−105)75重量部を塩化メチレン/メタノール混合溶媒(9/1;重量比)90重量部に溶解した。溶液に架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系微粒子(積水化学工業(株)製、MBX−2)25重量部を混合し、流延、キャストし、厚み50μmのシートを得た。得られたシート透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートはランダムな液滴相構造を有していた。液滴直径の平均値は3.0μmであった。また、シートの全光線透過率は92%であった。
【0107】
比較例3
セルロースアセテート(ダイセル化学工業(株)製、LT−105)70重量部を塩化メチレン/メタノール混合溶媒(9/1;重量比)90重量部に溶解した。この溶液に架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系微粒子(積水化学工業(株)製、MBP−5)30重量部を混合し、流延、キャストし、厚み50μmのシートを得た。得られたシート透過型光学顕微鏡により観察したところ、シートはランダムな液滴相構造を有していた。液滴直径の平均値は5μmであった。また、シートの全光線透過率は92%であった。
【0108】
[散乱特性の評価]
(1)光散乱シートの透過散乱特性:
実施例4〜6及び比較例2〜3で得られた光散乱シートに対して、図4に示すように、垂直方向から光を入射させ、光散乱強度と散乱角度との関係を、レーザー光散乱自動測定装置(日本科学エンジニアリング(株)製)を用いて測定した。
【0109】
測定結果を図7に示す。図7から明らかなように、ランダムに液滴相構造が分布する比較例2のシートではガウス分布型の散乱光強度を示すのに対して、実施例のシートは、特定の散乱角度(実施例1では3°、実施例2では5°、実施例3では12°)に第1の散乱光極大が認められ、かつより広角度側にショルダー状の第2の散乱光極大がみられる。
【0110】
図8に示すように、実施例5で得られた光散乱シートに対して、垂直方向から光を入射し、透過した光散乱像をレンズ22で集光し、二次元検出器としてCCDカメラ24を装備したレーザー光散乱測定装置(大塚電子(株)、DYNA−3000)を用いて観察した。なお、透過直進光は、ダイレクトビームストッパー23によって遮断されている。
【0111】
測定結果を図9に示す。図9から明らかなように、低角度域に強いリング状の散乱光が現れていることに加えて、広角度域にもリング状散乱光が出現しており、散乱光強度分布において、2つの極大を有していることがわかる。
【0112】
(2)表示明るさ:
実施例4〜6及び比較例2〜3で得られた光散乱シートを用い、図3に示す反射型LCDモデル装置を作製し、図3に示すように、フロント面に対して斜め上方から入射角度(散乱角度θ2)でスポットライト白色光を照射し、フロント面から垂直方向に出射する反射光の強度を測定した。入射角度(散乱角度θ2)での垂直方向の反射光の強度を以下の基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0113】
◎:非常に明るい
○:明るい
△:普通〜暗い
【0114】
【表2】
Figure 0004756755
【0115】
表2から明らかなように、実施例4〜6の透過型光散乱シートは、特定の散乱角度における反射光の強度が強く、高い指向性を有し、しかも広い角度に亘り表示面を明るくできることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の液晶表示装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は光散乱シートの指向性の評価方法を説明するための概略図である。
【図3】図3は斜め入射による反射光強度の測定方法を説明するための概略図である。
【図4】図4は光散乱シートでの透過散乱光の強度の測定方法を説明するための概略図である。
【図5】図5は実施例1〜3及び比較例1における光拡散強度と散乱角度(2〜20°)との関係を示すグラフである。
【図6】図6は実施例4で得られたシートの光学顕微鏡写真である。
【図7】図7は実施例4〜6及び比較例2〜3における光拡散強度と散乱角度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は実施例5で得られた光散乱シートの光散乱特性の測定方法を説明するための概略図である。
【図9】図9は実施例5で得られた光散乱シートの光散乱像を示す映像写真である。
【符号の説明】
1…偏光板
2…光散乱シート
5…反射板
6…液晶セル

Claims (23)

  1. 互いに屈折率の異なる複数のポリマーで構成され、かつ少なくとも液滴相構造を有する光散乱層で構成されている透過型光散乱シートであって、前記液滴相構造が、球状又は楕円体状の独立相を有する液滴相構造であり、この液滴相構造において、液滴中心間の平均距離が0.5〜15μmであり、前記光散乱層が、複数のポリマーを含む液相からのスピノーダル分解により形成されている透過型光散乱シート。
  2. 入射光が等方的に拡散し、かつ散乱角3〜40°に散乱光強度が極大値を有する請求項1記載の透過型光散乱シート。
  3. 液滴相構造の液滴の平均直径が0.1〜20μmである請求項1記載の透過型光散乱シート。
  4. 液滴相構造において、液滴中心間の平均距離の標準偏差が、液滴中心間の平均距離の40%以下である請求項1記載の透過型光散乱シート。
  5. 液滴相構造の液滴の割合が、光散乱層全体に対して、30体積%を超え70体積%以下である請求項1記載の透過型光散乱シート。
  6. 入射光を等方的に散乱する光散乱層で構成された光散乱シートであって、前記光散乱層が、2つの散乱角で散乱光強度の極大値を示す請求項1記載の透過型光散乱シート。
  7. 散乱光強度において極大値を示す低角側の角度θaが2〜20°である請求項6記載の光散乱シート。
  8. 散乱光強度において、極大値を示す低角側の角度θaと極大値を示す広角側の角度θbとの比θb/θaが、1.5〜10である請求項6記載の光散乱シート。
  9. 光散乱層が、少なくとも液滴状又は海島状の相分離構造を有しており、この相分離構造の分散相の粒径分布において、平均粒径の異なる2つのピークを有する請求項6記載の光散乱シート。
  10. 全光線透過率が70〜100%である請求項1記載の光散乱シート。
  11. 複数のポリマーの屈折率の差が0.01〜0.2である請求項1記載の透過型光散乱シート。
  12. 複数のポリマーが、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース誘導体、ゴム又はエラストマーから選択された第1のポリマーと第2のポリマーとで構成されており、第1のポリマーと第2のポリマーとの割合が、前者/後者=10/90〜90/10(重量比)である請求項1記載の光散乱シート。
  13. 複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーがセルロースエステル類である請求項1記載の光散乱シート。
  14. 複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが酢酸セルロースである請求項1記載の透過型光散乱シート。
  15. 透明支持体と、この透明支持体の少なくとも一方の面に積層された光散乱層とで構成されている請求項1記載の光散乱シート。
  16. 透明支持体が光学的に等方性である請求項15記載の光散乱シート。
  17. 透明支持体が、セルロースアセテートフィルムである請求項15記載の光散乱シート。
  18. 互いに屈折率が異なる複数のポリマーを含む混合液から溶媒を蒸発させ、スピノーダル分解により、少なくとも液滴相構造を有する光散乱層を形成する請求項1記載の光散乱シートの製造方法。
  19. 混合液を透明支持体に塗布し、混合液の溶媒を蒸発させ、相分離構造を形成する請求項18記載の光散乱シートの製造方法。
  20. 互いに屈折率の異なる複数のポリマーを均一に溶解した溶液を、耐溶剤性コーティング層でコートしたセルロースアセテートフィルム上に塗布し、該ポリマー溶液の溶媒蒸発過程において、スピノーダル分解により液滴相構造を形成する請求項18記載の透過型光散乱シートの製造方法。
  21. 液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの後方に配設され、かつ入射光を反射するための反射手段と、この反射手段よりも前方に配設された請求項1記載の光散乱シートとを備えている反射型液晶表示装置。
  22. 液晶セルの前方に偏光板が配設され、前記液晶セルと偏光板との間に請求項1記載の光散乱シートが配設されている請求項21記載の反射型液晶表示装置。
  23. 液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの一方の面に配設され、かつ入射光を反射するための反射手段と、液晶セルの他方の面に配設され、かつ反射光を偏光するための偏光手段と、この偏光手段と液晶セルとの間に配設された請求項1記載の透過型光散乱シートとを備えている請求項21記載の反射型液晶表示装置。
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