JP4756282B2 - 硫化セリウム焼結体及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、特に、熱電変換材料として有用な、大きな熱起電力を有する硫化セリウム焼結
体及びその製造方法に関する。
熱電変換材料の応用は、多岐に亘っている。熱エネルギーを電気エネルギーに変換するク
リーンエネルギー源としての利用が最も期待されるところであるが、ペルチェ効果を利用
するものとして小型冷凍器、放熱板、高温槽、電熱用等が考えられ、また実現されている
熱起電力は、2種の電気伝導体を接合したとき2接点間の温度差ΔTにより発生する電圧
Vで、それらの間にはV=αΔTの関係がある。このαのことをゼーベック係数という。
この熱起電力を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する際に、熱電材料の有
効性を示す指標として、電気伝導度σ、熱伝導度κを使って、式、Z=α2 σ/κ、で示
される性能指数Zが用いられている。このZの値の大きい材料ほど優れた熱電材料となる
既に報告され、又は利用されている熱電材料は多く、現在最も大きい性能指数が得られて
いるのはBi−Te系の物質で、約3×10-3(/K)の値を示しているが、それらの物
質のゼーベック係数の値は、約200(μV/K)程度である(非特許文献1)。
希土類元素の硫化物は、大きなゼーベック係数を持ち、ランタノイド三二硫化物の中でも
LaからNdまでの硫化物は、低温安定相である斜方晶のα相から正方晶のβ相、さらに
、高温安定相である立方晶Th3 4 型のγ相へと不可逆変態し、特に、La2 3 は、
373Kで+354μv・deg-1、Ce2 3 は、373Kで+574μv・deg-1
のゼーベック係数を有する熱電材料であることが報告されている(非特許文献2)。
また、硫化ランタンLa3-x 4 及びLa−A−S系(AはCa又はBa)において、最
大2.9×10-4(/K)の性能指数が得られたことが報告されている(非特許文献3)
。しかし、そこで報告されているゼーベック係数は最大値で約100(μV/K)である
。なお、本発明者らは、Ce2 3 粉末の結晶構造、化学分析値、粒度分布等に関して先
に発表した(非特許文献4)。
「実用新素材技術便覧」通産資料調査会、1996、904 ゲ・ヴェ・サムソノフ他:「硫化物便覧」、日・ソ通信社、1974、p108 勝山 茂 他 「熱電変換シンポジウム´99論文集」、1999、56 S.Hirai et al.,J.Am.Ceram.Soc.,81,1998,145
熱電変換材料の上述の性能指数Zを求める式において、3種の物理的性質がその値を決定
しているが、ゼーベック係数αの値は2乗でZの値を大きくすることから、このα値の大
きな物質がより優れた熱電材料となり得る。そこで、本発明は、大きなゼーベック係数α
を持ち、高い性能指数Zを持つ新規な材料の開発を目的とする。
本発明者らは、La2 3 粉末を用いたCS2 ガス硫化法によりLa2 3 粉末を合成、
1023K以上の硫化温度ではβ−La2 3 (=La1014O)単相が得られること確
認し、このβ相中の酸素濃度は、硫化時間を28.8ks一定とした場合、1023Kで
は0.91質量%(炭素不純物濃度は0.02質量%)、1273Kでは0.18質量%
となり、高温の硫化ほど酸素濃度が低下することを報告してきた(平井ら;「第124回
日本金属学会春期大会講演概要」、1999、149)。
同様の方法によりセリウム硫化物粉末も合成できた。得られたセリウム硫化物粉末は、X
RD法により構造解析を、また化学分析によりその組成を決定した。セリウム硫化物粉末
は、αの結晶構造を持つCe2 3 であることを確認した。また、Ce2 3 の酸素濃度
及び炭素不純物濃度は、例えば、硫化時間28.8ks、973Kでは酸素濃度1.30
質量%、炭素不純物濃度0.10質量%であった。
本発明者らは、上記のCS2 ガス硫化法により合成した炭素不純物濃度が小さく、酸素濃
度が一定範囲の高純度のα相のCe2 3 粉末、又はα相のCe2 3 粉末をβ単相化し
た粉末を原料として、それらを適当な圧力、温度条件において真空中で焼結することによ
り、α相のCe2 3 粉末を用いた場合、焼結により生成したβ相とγ相との混合相の焼
結体、α相のCe2 3 粉末をβ単相化した粉末を用いた場合、焼結により生成したγ相
に焼結により消滅しなかったβ相が混合した相の焼結体となり、この混合相の焼結体は、
同一粉末を用いて焼結して生成したγ相単相の焼結体より大きなゼーベック係数を持ち、
原料粉末の酸素濃度と焼結温度の条件を選択することにより非常に大きなゼーベック係数
を持つ硫化セリウム 焼結体を作製できることを見出した。
すなわち、本発明は、α相のCe2 3 粉末原料の焼結体であって、結晶構造が焼結によ
り生成したβ相とγ相との混合相からなり、ゼーベック係数が60℃で1000(μV/
K)以上の値を有することを特徴とする硫化セリウム焼結体である。
また、本発明は、α相のCe2 3 粉末をβ単相化した粉末原料の焼結体であって、結晶
構造が焼結により消滅しなかったβ相と焼結により生成したγ相との混合相からなり、ゼ
ーベック係数が60℃で1000(μV/K)以上の値を有することを特徴とする硫化セ
リウム焼結体である。
また、本発明は、上記の硫化セリウム焼結体からなることを特徴とする熱電変換材料であ
る。
また、本発明は、酸素濃度が0.9〜1.7質量%、炭素不純物濃度が0.1質量%以下
のα相のCe2 3 粉末原料を、内面に六方晶層状型窒化ホウ素(h−BN)を被覆した
炭素製型に入れ、真空中で1600〜2000Kで、β相とγ相とが生成し、かつβ相が
消滅しない処理時間内で加圧焼結することを特徴とする上記の硫化セリウム焼結体の製造
方法である。
また、本発明は、酸素濃度が0.9〜1.7質量%、炭素不純物濃度が0.1質量%以下
のα相のCe2 3 粉末原料を真空加熱によりβ単相化した粉末原料を、内面に六方晶層
状型窒化ホウ素(h−BN)を被覆した炭素製型に入れ、真空中で1600〜2000K
で、γ相が生成し、かつβ相が消滅しない処理時間内で加圧焼結することを特徴とする上
記の硫化セリウム焼結体の製造方法である。
本発明の製造方法において、α相のCe2 3粉末原料中の酸素濃度は0.9〜1.7質
量%とする。このように酸素濃度範囲を規定するのは、粉末原料中の酸素濃度は、焼結体
の単相化やゼーベック係数に影響を及ぼすからである。例えば、焼結温度を1973K一
定とした場合、酸素濃度が0.18質量%のβ単相粉末を出発原料に用いるとγ単相の焼
結体が得られ、一方、酸素濃度が0.91質量%のβ単相粉末ではγとβの混合相の焼結
体が得られる。
このような、γ相が安定な高温においてβ相のCe2 3が消滅せず、α相のCe2 3
らβ相が生成することは、Nd2 3 やPr2 3 の場合と同様に酸素に影響され、β相
が正方晶の単位格子の中心にO2-を配位しているためと推定される。上記の酸素濃度範囲
以外では、大きなゼーベック係数を得るのは困難である。
粉末原料中の不純物炭素濃度も焼結体の単相化やゼーベック係数に影響を及ぼす。炭素不
純物濃度が大きいと、炭素は焼結中に酸素と反応して気化し、酸素濃度が不足となる。粉
末原料中の炭素不純物濃度は、LECO社製の同時分析装置により測定して検出されない
ことが望ましく、許容濃度は0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下であ
る。
本発明によれば、硫化セリウム焼結体のゼーベック係数の最も大きい値は、9700(μ
V/K)が得られる。ゼーベック係数が60℃で1000(μV/K)以上であれば、熱
電材料として有用性が大きい。
本発明の製造方法において、出発原料のCe2 3 粉末は、CS2 ガス硫化法によって製
造したものを用いる。Ce2 3 粉末の粒径は70μm以下が好ましい。粒径が70μm
を超える粒子が存在すると焼結性が劣化する。粒子の小さい方は、焼結性に影響しないの
で粒径の下限は特に限定されない。
粉末原料中の酸素濃度は、硫化時間を一定とした場合、高温の硫化ほど酸素濃度が低下す
る傾向があることが知られている(前記の平井ら;「第124回日本金属学会春期大会講
演概要」、1999、149)ので、硫化温度の調整により酸素濃度を調整できる。粉末
原料中の酸素濃度が多い場合には焼結温度は高めとする。
加圧焼結によりβ相及びγ相の混合相の焼結体を作製するためには、内面にh−BNを塗
布して被覆した炭素製型を用いる。炭素製型の内面に塗布したh−BNは、炭素製型から
炭素が不純物として焼結体に侵入するのを防ぐとともに、炭素製型から焼結体を取り外す
際の離型剤としての働きがある。
真空中、好ましくは3×10-4Pa以下の真空雰囲気中にて黒鉛製型中で1600〜20
00Kまで一定の昇温速度で粉末原料を加熱し、続いて、0〜2.7ks保持して、所定
の圧力、例えば、20MPa、又はそれ以下の圧力を加えながら焼結(ホットプレス)す
ることにより緻密な焼結体を作製する。加圧焼結の際の温度条件、保持時間は、β相とγ
相の混合相が形成される範囲で選択する。β相が無くならないでγ相が生成する温度領域
は1600〜2000K、より好ましくは1800〜2000Kの範囲であるが、高温で
長時間となるとβ相が消滅する。
純度99.99%、平均粒径2.25μmの酸化セリウムCe23粉末を石英ボートに乗
せて電気炉内に挿入し、Ar雰囲気中で温度973Kに加熱し、CS2溶液中から気化さ
せたCS2ガスをAr搬送ガスを用いて導入し、8時間の硫化を行った。反応後の粉末は
X線回折法によりα相単相のCe 2 3 であることを確認した。また、組成については、希
土類金属をキレート滴定法、硫黄、炭素、酸素をLECO社製の同時分析装置により決定
した。その結果、Ce1.653.000.180.027(酸素0.9質量%、炭素0.1質量%)
の組成を得た。
このα相のCe2 3粉末をh−BNで内面を被覆した黒鉛製型に入れ、20MPaの圧力
を加えながら1673Kまで加熱し、11時間保持した後加熱を終了させ、焼結体を作成
した。得られた焼結体はX線回折法による構造解析からβ相とγ相の混合相であることを
確認した。得られた焼結体を3×3×5(mm3 )に切り出して試料とし、ゼーベック係
数を測定し、60℃で9700(μV/K)の値を得た。
実施例1のα相のCe2 3粉末をさらに1472K、7.2ksの真空加熱を行うことに
よりβ単相化した後、このβ相のCe2 3粉末をBNで内面を被覆した黒鉛製型に入れ、
20MPaの圧力を加えながら1673Kまで加熱し、11時間保持した後加熱を終了さ
せ、焼結体を作成した。得られた焼結体はX線回折法による構造解析からβ相とγ相の混
合相であることを確認した。得られた焼結体を3×3×5(mm3 )に切り出して試料と
し、ゼーベック係数を測定し、60℃で1456(μV/K)の値を得た。
実施例1と同様のCe1.653.000.180.027(酸素0.9質量%、炭素0.1質量%)
の組成のα相のCe2 3粉末を出発原料とした。h−BNで内面を被覆した黒鉛製型に入
れ、20MPaの圧力を加えながら1973Kまで加熱し、11時間保持した後加熱を終
了させ、焼結体を作成した。得られた焼結体はγ相単相であることを確認した。β相は高
温での長時間保持により消滅したものと推定される。この試料を3×3×5(mm3 )に
切り出してゼーベック係数を測定した結果、60℃で234(μV/K)の値であった。
本発明の硫化セリウム焼結体は、高温半導体特性と大きなゼーベック係数を持ち、特に、
熱電変換材料として優れた材料である。

Claims (5)

  1. α相のCe粉末原料の焼結体であって、結晶構造が焼結により生成したβ相とγ相
    との混合相からなり、ゼーベック係数が60℃で1000(μV/K)以上の値を有する
    ことを特徴とする硫化セリウム焼結体。
  2. α相のCe粉末をβ単相化した粉末原料の焼結体であって、結晶構造が焼結により
    消滅しなかったβ相と焼結により生成したγ相との混合相からなり、ゼーベック係数が6
    0℃で1000(μV/K)以上の値を有することを特徴とする硫化セリウム焼結体。
  3. 請求項1乃至2のいずれかに記載の硫化セリウム焼結体からなることを特徴とする熱電変
    換材料。
  4. 酸素濃度が0.9〜1.7質量%、炭素不純物濃度が0.1質量%以下のα相のCe
    粉末原料を、内面に六方晶層状型窒化ホウ素(h−BN)を被覆した炭素製型に入れ、
    真空中で1600〜2000Kで、β相とγ相とが生成し、かつβ相が消滅しない処理時
    間内で加圧焼結することを特徴とする請求項1に記載の硫化セリウム焼結体の製造方法。
  5. 酸素濃度が0.9〜1.7質量%、炭素不純物濃度が0.1質量%以下のα相のCe
    粉末原料を真空加熱によりβ単相化した粉末原料を、内面に六方晶層状型窒化ホウ素(
    h−BN)を被覆した炭素製型に入れ、真空中で1600〜2000Kで、γ相が生成し
    、かつβ相が消滅しない処理時間内で加圧焼結することを特徴とする請求項2に記載の硫
    化セリウム焼結体の製造方法。
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