JP4755754B2 - 窒化珪素基板およびそれを用いた窒化珪素回路基板並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化珪素基板基板およびそれを用いた窒化珪素回路基板並びにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、窒化珪素焼結体は、熱伝導率が向上し電子用セラミックス材料として用いられている。窒化珪素焼結体は、アルミナ、窒化アルミニウムあるいは酸化ベリリウム等の従来から使用されているセラミックス焼結体に比べて、高強度かつ高靱性であるため、基板の信頼性が向上すると共に、基板を薄くできるために熱抵抗を改善できる等のメリットがある。
【0003】
しかしながら、焼結体の原料となる窒化珪素のコストが高いことや、難焼結性であるため焼結温度が高くなるなどの理由で従来から使われているエレクトロニクス材料に比べて焼結体を得るためのコストが高くなっている。
【0004】
コスト抑制のための一つの方法としては、大きな窒化珪素焼結体を得、それを複数個に分割する方法(所謂「多数個取り」と称される方法)がある。しかし、窒化珪素焼結体は強度が高いことから多数個取りすることは容易でないので、個々に成形体を作製しなかればならず、そして基板サイズに応じて成形体サイズも変えなければならないのでコストアップの要因となっていた。
【0005】
窒化珪素が従来の電子用セラミックス材料の代替材料として広く使用されるためには基板作製のコスト低減は必要不可欠である。コスト低減の一つとして、多数個取りは非常に有効な手段である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
多数個取りを行なうためにはセラミックス窒化珪素基板の表面に分割を容易に行なうためのスクライブ(刻み込み)を入れる必要がある。従来、スクライブはレーザ加工等により直線状の溝をセラミックス焼結体に複層本設け、焼結後にその直線にそって分割していた。そのため分割時に基板の表面および側面に不規則なマイクロクラックが多数形成され、それが破壊起点となって基板の強度低下を引き起こす可能性がある。また、このような問題点を解決するために従来は分割後に基板側面をあらためて研磨加工しなければならず、このこともコストアップの要因となっていた。
【0007】
一方、成形体にスクライブ設けた後これを焼結することも考えられるが、焼結前にレーザ加工を施すとレーザの熱によってバインダーが飛散したり、成形体成分が反応したりすることが考えられ、優れたセラミックス焼結体が得られないことが考えられる。そして、焼結による熱収縮によってスクライブの線目がずれてしまう可能性がある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために好ましいスクライブの入れ方を見出した。このような知見に基づく本発明によれば、窒化珪素焼結体の多数個取りが容易かつ低コストで出来ると共に、多数個取りに伴う分割の際にマイクロクラックが発生するのが抑制されて強度低下が防止された窒化珪素基板および窒化珪素回路基板が得られる。
【0009】
従って、本発明による窒化珪素基板は、窒化珪素基板の少なくとも1つの側面に複数の凹部が設けられていること、を特徴とするものである。
【0010】
そして、本発明による窒化珪素回路基板は、上記の窒化珪素基板と金属回路板と金属放熱板とを具備すること、を特徴とするものである。
【0011】
そして、本発明による窒化珪素基板の製造方法は、窒化珪素焼結体に複数の凹部を連続して設け、次いでこの窒化珪素焼結体に応力を印加することによって、前記の連続して設けられた複数の凹部を結ぶ線に沿って前記窒化珪素焼結体を破断して分離すること、を特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明による窒化珪素基板は、窒化珪素焼結体に複数の凹部を連続して設け、この連続して設けられた複数の凹部を結ぶ線に沿って前記窒化珪素焼結体を破断して分離することによって得られたもの、即ち、窒化珪素焼結体を複数個に分割する多数個取りによって得られたもの、である。このような本発明による窒化珪素基板の複数の凹部が設けられている側面は、多数個取りの際の分割によって形成されたものである。よって、窒化珪素基板の1つの側面のみが分割によって形成された場合にはその1つの側面のみに、窒化珪素基板の2側面が分割によって形成された場合にはその2側面に、窒化珪素基板の3側面あるいは4側面が分割によって形成された場合にはその3側面あるいは4側面に、複数の凹部を有する窒化珪素基板が得られることになる。
よって、本発明による窒化珪素基板は、窒化珪素基板の少なくとも1つの側面に複数の凹部が設けられているものである。
【0013】
以下、本発明を必要に応じて図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図3は、本発明による窒化珪素基板の好ましい一具体例を模式的に示すものである。図1は窒化珪素基板の凹部が設けられている側面を、図2は4側面に凹部が設けられている本発明による窒化珪素基板を、凹部が形成されている面から見た図であり、図3は4側面に凹部が設けられている本発明による窒化珪素基板を、凹部が形成されていない面から見た図である。
【0014】
図1の窒化珪素基板1の側面には、複数の凹部2が所定の間隔dで設けられている。この図1には、窒化珪素基板の表面に開口したV字型ないしU字型である凹部が示されおり、そして、この凹部2は所定の最大幅bおよび所定の深さ(即ち、基板断面方向への長さ)aを有しいる。基板の厚さはcで表されている。
【0015】
この窒化珪基板1の凹部2の基板断面方向への長さaは、基板の厚さcの30〜70%に相当することが好ましく、特に40〜60%に相当することが好ましい。基板断面方向への長さaが基板の厚さcの30%未満である場合には、多数個取りの際に複数の凹部を結ぶ線に沿って窒化珪素焼結体を破断して分離することが困難になる。70%を超えることは加工性およびコスト的に不利である。
【0016】
凹部2の最大幅bは、100μm以下、好ましくは10〜80μm、である。bを100μmを越える場合、加工性およびコスト的に好ましくない。
【0017】
基板の厚さcは、窒化珪素基板の具体的用途および強度に応じて適宜決定することができる。しかし前記の通りに凹部2の基板断面方向への長さaは基板の厚さcの30〜70%に相当することが好ましいとされている。従って、この基板の厚さcは、凹部2の基板断面方向への長さaとの関係で定められる上記関係〔即ち、(a/c)×100=30〜70%〕が成立するようにすることが好ましい。基板の厚さcは、0.2〜1mmが好ましく、特に好ましくは0.2〜0.5mm、である。
【0018】
隣接する凹部の間隔dは、0.07〜0.20mm、好ましくは0.10〜0.1mm、である。隣接する凹部の間隔dが0.20mm超過である場合には、多数個取りの際に、複数の凹部を結ぶ線に沿って窒化珪素焼結体を破断して分離することが困難になる。凹部の形成数を増加して凹部の間隔dを0.07mm未満とすることはコスト的に不利である。
【0019】
窒化珪素基板の短辺の長さは、好ましくは50mm以下である。言い換えれば、窒化珪素基板の短辺の長さが50mm以下の小型の基板に適しているといえる。
【0020】
このような本発明による窒化珪素基板は、窒化珪素焼結体に複数の凹部を連続して設け、次いでこの窒化珪素焼結体に応力を印加することによって、前記の連続して設けられた複数の凹部を結ぶ線に沿って前記窒化珪素焼結体を破断して分離することによって製造することができる。
【0021】
本発明による窒化珪素基板の製造方法においては、凹部をレーザ加工によって設けることが好ましい。レーザ加工によれば、例えばレーザの照射強度、加工すべき窒化珪素焼結体とレーザ照射点との相対速度ならびにレーザの点滅速度などを調整することによって、窒化珪素焼結体に基板断面方向への長さaおよび最大幅bを有する凹部を所定の間隔dで設けることが容易である。
【0022】
このような本発明によれば、多数個取りに伴う分割の際に、窒化珪素基板にマイクロクラックが必要以上に発生しない。具体的には、1つの凹部に対し1個以下(0個を含む)のマイクロクラックしか発生しないで済む。特に、凹部の長さaを本発明の好ましい範囲である基板厚さcの40〜70%の範囲にすることにより、凹部2が開口していない面側にマイクロクラックを発生させないで済む。このため、分割後に窒化珪素基板を改めて研磨加工する必要がない。なお、このマイクロクラックは金属顕微鏡により確認可能である。
【0023】
このような本発明によって得られた窒化珪素基板は、回路基板として特に有用なものである。本発明は、また前記の窒化珪素基板基板を用いた窒化珪素回路基板に関するものである。即ち、本発明による窒化珪素回路基板は、上記の窒化珪素基板と金属回路板とを具備すること、を特徴とするものである。
【0024】
本発明による窒化珪素回路基板では、図4に示されるように、窒化珪素基板1の凹部2が開口していない面側(即ち、図3に示される面側)に金属回路板3が設けられ、窒化珪素基板の凹部2が開口している面側(即ち、図2に示される面側)に金属放熱板4が設けられてなるものが好ましい。本発明の好ましい範囲の窒化珪素基板は、前述のように多数個取りに伴う分割を行ったとしても凹部2が開口していない面側にマイクロクラックが発生しないことから、側面に凹部が存在した状態であっても何等問題は生じない。
【0025】
また、このような構成であると、曲げ強度の向上に効果がある。なお、放熱金属板4はヒートシンク等の放熱のための放熱金属板のみならず、反り防止のための金属板を含むものとする。一般に、セラミックス回路基板の放熱金属板は放熱金属板を機械ケーシング等の実装面に接触させ固定されている。そのため固定時には金属回路板のある面方向から応力を受けるため、窒化珪素回路基板は金属回路板側に反ってしまうことがある。しかし、上記のように、金属回路板3が窒化珪素基板1の凹部2が開口していない面側が設けられ、金属放熱板4が、窒化珪素基板の凹部2が開口している面側に設けられてなる本発明による窒化珪素回路基板では、応力の発生が緩和されており、その結果として回路基板の反りが防止されたものである。
【0026】
金属板は、銅板、アルミニウム板、銅合金およびアルミニウム合金が好ましく、活性金属法や直接接合法により接合することができる。また、金属板を接合させる形態以外にも、ペーストを用いた厚膜法やスパッタ等を用いた薄膜法によって回路を形成することも可能である。
【0027】
なお、本発明では窒化珪素基板1の材質については、窒化珪素を主成分をするものであれば特に限定されるものではないが、例えば熱伝導率60W/m・k以上、3点曲げ強度650MPa以上のものが好ましい。このような窒化珪素としては、例えば次のような高熱伝導性窒化珪素焼結体を挙げることができる。
【0028】
本発明において好ましい第一の高熱伝導性窒化珪素焼結体は、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、Mgを酸化物に換算して0.3〜3重量%、不純物陽イオン元素としてのAl、Li、Na、K、Fe、Ba、Mn、Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化珪素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であるものである。
【0029】
また、第二の高熱伝導性窒化珪素焼結体は、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、Mgを酸化物に換算して0.3〜3重量%含有し、窒化珪素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が70W/m・K以上であるものである。
【0030】
また、カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)の少なくとも一方を、酸化物に換算して1.5重量%以下含有して構成していてもよい。これはCaまたはSrのどちらか一方を1.5重量%以下含んでいてもよいし、その両方をそれぞれ1.5重量%以下含有してよいことを意味している。
【0031】
さらに、この第一の発明に係る高熱伝導性窒化珪素焼結体の製造方法は、酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl、Li、Na、K、Fe、Ba、Mn、Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化珪素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化珪素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、Mgを酸化物に換算して0.3〜3重量%と、必要に応じてCaおよびSrの少なくとも一方を酸化物に換算して1.5重量%以下添加した原料混合物を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700〜1900℃で常温焼結または雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度にまでに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することからなる。
【0032】
また、第三の高熱伝導性窒化珪素焼結体は、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、Hfを酸化物に換算して0.3〜3重量%含有し、Mgを酸化物に換算して0.3〜3重量%含有し、不純物陽イオン元素としてのAl、Li、Na、K、Fe、Ba、Mn、Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化珪素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が70W/m・K以上であるものである。
【0033】
さらに、高熱伝導性窒化珪素焼結体はCaおよびSrの少なくとも一方を酸化物に換算して1.5重量%以下含有して構成していてもよい。また、高熱伝導性窒化珪素焼結体は、Ti、Zr、Ta、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して1.5重量%以下含有していてもよい。
【0034】
上記の各高熱伝導性窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶組織中に希土類元素等を含む粒界相が形成されており、気孔率が2.5%以下、熱伝導率が70W/m・K以上、3点曲げ強度が室温で700MPa以上の機械的特性および熱伝導特性が共に優れたものである。
【0035】
本発明において使用され、焼結体の主成分となる窒化珪素粉末としては、焼結性、強度および熱伝導率を考慮して、酸素含有量が1.7重量%以下、好ましくは0.5〜1.5重量%、Al、Li、Na、K、Fe、Ba、Mn、Bなどの不純物陽イオン元素含有量が0.3重量%以下、好ましくは0.2重量%以下に抑制されたα相型窒化珪素を90重量%以上、好ましくは93重量%以上含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化珪素粉末を使用することができる。
【0036】
平均粒径が1.0μm以下の微細な原料粉末を使用することにより、少量の焼結助剤であっても気孔率が2.5%以下の緻密な焼結体を形成することが可能であり、また焼結助剤が熱伝導特性を阻害するおそれも減少する。
【0037】
また、Al、Li、Na、K、Fe、Ba、Mn、Bなどの不純物陽イオン元素も熱伝導性を阻害する物質となるため、70W/m・K以上で熱伝導率を確保するためには、上記不純物陽イオン元素含有量は合計で0.3重量%以下とすることにより達成可能である。特に同様の理由により、上記不純物陽イオン元素の含有量は合計で0.2重量%以下とすることがさらに好ましい。ここで、通常の窒化珪素焼結体を得るためには窒化珪素粉末には、特にFe、Alが比較的に多く含有されているため、Fe、Alの合計量が上記不純物陽イオン元素の合計含有量が目安となる。
【0038】
さらに、β相型と比較して焼結性に優れたα相型窒化珪素を90重量%以上含有する窒化珪素原料を使用することにより、高密度の焼結体とすることができる。
【0039】
また、窒化珪素原料粉末に焼結助剤として添加する希土類元素としては、Y、Ho、Er、Yb、La、Sc、Pr、Ce、Nd、Dy、Sm、Gdなどの酸化物もしくは焼結操作により、これらの酸化物となる物質が単独で、または2種以上の酸化物を組み合わせたものを含んでもよい。これらに焼結助剤は、窒化珪素原料粉末と反応にて液相を生成し、焼結促進剤として機能する。
【0040】
上記焼結助剤の添加量は、酸化物換算で原料粉末に対して2.0〜17.5重量%の範囲とする。この添加量が2.0重量%以下の場合は、焼結体の緻密化あるいは高熱伝導率が不十分であり、特に希土類元素がランタノイド系元素のように原子量が大きい元素の場合には、比較的低強度で比較的に低熱伝導率の焼結体が形成される。一方、添加量が17.5重量%を超える過量となると、過量の粒界相が生成し、熱伝導率の低下や強度が低下し始めるので上記範囲とする。特に同様の理由により3〜15重量%とすることが望ましい。
【0041】
また、本発明において添加成分として使用するマグネシウム(Mg)の酸化物(MgO)は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進し低温での緻密化を可能にすると共に、結晶組織において粒成長を制御する機能を果し、Si3N4焼結体の機械的強度を向上させるものである。また、焼結時にα−Si3N4 原料からβ−Si3N4へ変化する転移温度を低下させ、焼結上がり面の表面粗さを小さくし、さらに焼結体表面に存在する気孔サイズも低減させ、また焼結上がり面の強度も増加させる効果を発揮するものである。このMgの添加量が酸化物換算で0.3重量%未満の場合においては添加効果が不十分である一方、3.0重量%を超える過量となる場合には熱伝導率の低下が起こるため、添加量は0.3〜3重量%の範囲とする。特に0.5〜2重量%とすることが望ましい。
【0042】
また、第二の高熱伝導性窒化珪素焼結体において添加成分として使用するHfは酸化物、炭化物、窒化物、珪化物、硼化物として添加され、これらの化合物は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進すると共に、粒界相の結晶化も促進する機能を果し、Si3N4 焼結体の熱伝導率と機械的強度とを向上させるものである。このHfの添加量が酸化物換算で0.3重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、3.0重量%を超える過量となる場合には熱伝導率および機械的強度や電気絶縁破壊強度の低下が起こるため、添加量は0.3〜3重量%の範囲とする。
【0043】
さらに本発明においては、他の添加成分としてのCa、Srの酸化物(CaO、SrO)は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を助長する役目を果たすものであり、特に常圧焼結を行う場合に著しい効果を発揮するものである。このCaO、SrOの合計添加量が0.1重量%未満の場合においては、より高温度での焼結が必要になる一方、1.5重量%を超える過量となる場合には過量の粒界相を生成し熱伝導率の低下が起こるため、添加量は1.5重量%以下、好ましくは0.1〜1.0重量%以下の範囲とする。特に強度、熱伝導率共に良好な性能を確保するためには添加量を0.1〜0.75重量%の範囲とすることが望ましい。
【0044】
また、第二の高熱伝導性窒化珪素焼結体において他の添加成分として使用するTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wは、酸化物、炭化物窒化物、珪化物、硼化物として添加され、これらの化合物は、上記希土類元素の焼結助剤としての機能を促進すると共に、結晶組織において分散強化の機能を果し、Si3N4焼結体の機械的強度を向上させるものであり、特にTi、Moの化合物が好ましい。これらの化合物の添加量が酸化物換算で0.1重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、1.5重量%を超える過量となる場合には熱伝導率および機械的強度や電気絶縁破壊強度の低下が起こるため、添加量は0.1〜1.5重量%の範囲とする。特に0.2〜1.0重量%とすることが望ましい。
【0045】
また、上記Ti、Mo等の化合物は窒化珪素焼結体を黒色系に着色し不透明性を付与する遮光剤として機能する。そのため、特に光によって誤操作を生じ易い集積回路等を搭載する回路基板を上記焼結体から製造する場合には、上記Ti等の化合物を適正に添加し、遮光性に優れた窒化珪素基板とすることが望ましい。
【0046】
また、焼結体の気孔率は熱伝導率および強度に大きく影響するため2.5%以下となるように製造する。気孔率が2.5%を超えると熱伝導率の妨げとなり、焼結体の熱伝導率が低下すると共に、焼結体の強度低下が起こる。
【0047】
また、窒化珪素焼結体は組織的に窒化珪素結晶と粒界相とから構成されるが、粒界相中の結晶化合物相の割合は焼結体の熱伝導率に大きく影響し、本発明での高熱伝導性窒化珪素焼結体においては粒界相の20%以上とすることが必要であり、より好ましくは50%以上が結晶相で占めることが望ましい。結晶相が20重量%未満では熱伝導率が70W/m・K以上となるような放熱特性に優れ、かつ機械的強度に優れた焼結体が得られないからである。
【0048】
さらに、上記のような窒化珪素焼結体の気孔率を2.5%以下にし、また窒化珪素結晶組織に形成される粒界相の20%以上が結晶相で占めるようにするためには、窒化珪素成形体を温度1700〜1900℃(第二の高熱伝導性窒化珪素焼結体では1600〜1900℃)で2〜10時間程度、常圧焼結または加圧焼結し、かつ焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することが重要である。
【0049】
上記焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度は粒界相を結晶化させるために重要な制御因子であり、冷却速度が毎時100℃を超えるような急速冷却を実施した場合には、焼結体組織の粒界相が非結晶質(ガラス相)となり、焼結体に生成した液相が結晶相として粒界相に占める割合が20%未満となり、強度および熱伝導性が共に低下してしまう。
【0050】
本発明での窒化珪素質焼結体は、例えば以下のようなプロセスを経て製造される。すなわち前記所定の微細粒径を有し、また不純物含有量が少ない微細な窒化珪素粉末に対して所定量の焼結助剤、有機バインダ等の必要な添加剤および必要に応じてCaOやSrOおよびTi等の化合物を加えて原料混合体を調製し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、ドクターブレード法のようなシート成形法などが適用できる。
【0051】
上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中で温度600〜800℃、または空気中で温度400〜500℃で1〜2時間加熱して、予め添加していた有機バインダ成分を充分に除去し、脱脂する。次に脱脂処理された成形体を窒素ガス、水素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で1700〜1900℃(第二の高熱伝導性窒化珪素焼結体では1600〜1900℃)の温度で所定時間、常圧焼結または雰囲気加熱焼結を行う。
【0052】
上記製法によって製造された窒化珪素焼結体は、気孔率が2.5%以下、70W/m・K(25℃)以上、さらには80W/m・K以上の熱伝導率を有し、また三点曲げ強度が常温で700MPa以上と機械的特性にも優れている。
【0053】
【実施例】
(実施例1〜5、比較例1〜2)
熱伝導率60W/m・K、3点曲げ強度730MPaの厚さ0.6mmのシート状窒化珪素基板(焼結体)を用意した。このシートにレーザ加工により表1のような凹部を形成し、分割し多数個取りを行った。なお、1つのシートから9個(シートを9分割)の窒化珪素基板を多数個取りしたものとする。また、最終的な窒化珪素基板は縦30mm×横30mmのものとする。
【0054】
各窒化珪素基板の側面を金属顕微鏡により分析し、マイクロクラックの有無を観察した。また、基板分割時の不良発生率についても測定した。なお、不良発生率とは、基板分割時の割れ、欠けにより基板として使用できない不良品の発生率である。
【0055】
また、比較のために、窒化アルミニウム基板(熱伝導率170W/m・K、3点曲げ強度330MPa、厚さ0.6mm)、アルミナ基板(熱伝導率25W/m・K、3点曲げ強度370MPa、厚さ0.6mm焼結体)を同様の製造方法により作製し、実施例と同様の測定を行った。
各実施例および比較例共に100シート分、多数個取りを行った。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
表1から分かる通り、本実施例の基板は、凹部1つあたり1個以下しか確認されなかった。また、形成されていたマイクロクラックはいずれも凹部が開口されていない面にまでは到達していなかった。そのため基板側面の研磨加工を施す必要がない。
【0057】
これに対し、基板強度の弱い比較例1、比較例2についてはマイクロクラックが発生すると共に、基板自体の割れ、欠け等の不良が多数発生した。一方、参考例1のように非貫通式の凹部であればマイクロクラックの発生はないが、レーザ加工により貫通させる工程に時間がかかり製造性が良いとは言えない。また、参考例2のように凹部の設け方が本発明に好ましい範囲外であるものはマイクロクラックおよび不良発生率が悪いことが確認された。
【0058】
このように本発明によれば3点曲げ強度が650MPa以上の窒化珪素基板であっても効率よく多数個取りを行うことができるのである。
【0059】
(実施例6〜11、参考例3)
次に、基板厚さおよび基板の短辺の長さを変えた場合について、マイクロクラックの有無および分割時に不良率を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
表2から分かる通り、基板厚さおよび基板の短辺の長さを変えても本発明は有効であることが確認された。
【0061】
(実施例12、参考例4)
実施例2の窒化珪素を用い、凹部のない面に金属回路板、凹部のある面に金属放熱番を設けたものを実施例12とした。一方、凹部のある面に金属回路板を設け凹部のない面に金属回路板を設けたものを参考例4とした。各窒化珪素回路基板に対し、3点曲げ強度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0062】
なお。金属回路板は、縦5mm×横10mm×厚さ3mmの銅板を3枚、および金属放熱板は縦25mm×横25mm×0.3mmの銅板を1枚用意し、Tiを0.5〜5重量%含むAg‐Cu‐Tiろう材を用いた活性金属法により接合した。
【0063】
【表3】
表3から分かる通り、金属回路板および金属放熱板を接合する面を変えるだけで、回路基板として強度が向上することが確認された。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、多数個取りに伴う分割の際に、窒化珪素基板のマイクロクラックが必要以上に発生しない。このため分割後に窒化珪素基板を改めて研磨加工する必要がない。そして、多数個取りのためのスクライブ加工も、窒化珪素焼結体に所定の凹部を複数形成するだけでよいので、非常に容易かつ低コストで行うことができる。
【0065】
従って、本発明では、上記のな窒化珪素基板を使用することによって非常に容易かつ低コストで窒化珪素回路基板を得ることができる。
【0066】
特に窒化珪素基板の凹部が開口していない面側に金属回路板が設けられ、窒化珪素基板の凹部が開口している面側に金属放熱板が設けられてなる窒化珪素回路基板は、曲げ強度が優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明による窒化珪素基板の凹部が設けられている側面を示すものである。
【図2】図2は、本発明による窒化珪素基板の凹部が形成されている面を示すものである。
【図3】図3は、本発明による窒化珪素基板の凹部が形成されていない面を示すものである。
【図4】図4は、本発明による窒化珪素回路基板の側面図である。
【符号の説明】
1 窒化珪素基板
2 凹部
a 凹部の基板断面方向への長さ
b 凹部の最大幅
c 窒化珪素基板の厚さ
d 凹部の間隔
3 金属回路板
4 金属放熱板
Claims (7)
- 基板の厚さが0.2〜1mmであり、3点曲げ強度が650MPa以上である窒化珪素基板の少なくとも1つの側面に複数の凹部が設けられてなる窒化珪素基板であって、
(イ)前記の凹部の最大幅が100μm以下であり、(ロ)隣接する凹部の間隔が0.07〜0.20mmであり、(ハ)凹部の基板断面方向への長さが基板の厚さの30〜70%に相当するものであることを特徴とする、窒化珪素基板。 - 凹部の形状がV字型、U字型のいずれかである、請求項1に記載の窒化珪素基板。
- 基板の短辺の長さが50mm以下である、請求項1または2に記載の窒化珪素基板。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板と金属回路板とを具備することを特徴とする、窒化珪素回路基板。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板と金属回路板と金属放熱板とを具備する窒化珪素回路基板であって、前記金属回路板が前記窒化珪素基板の凹部が開口していない面側に設けられ、前記金属放熱板が前記窒化珪素基板の凹部が開口している面側に設けられてなることを特徴とする、窒化珪素回路基板。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の製造方法であって、窒化珪素焼結体に複数の凹部を連続して設け、次いでこの窒化珪素焼結体に応力を印加することによって、前記の連続して設けられた複数の凹部を結ぶ線に沿って前記窒化珪素焼結体を破断して分離することを特徴とする、窒化珪素基板の製造方法。
- 凹部をレーザ加工によって設ける、請求項6に記載の窒化珪素基板の製造方法。
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