JP4753370B2 - 塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法 - Google Patents

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Description

本発明は、建築物屋根材として使用されている塩ビ鋼板からなる屋根の塗り替え工法に関する。
塩ビ鋼板というのは、亜鉛メッキ鋼板に、ウレタン樹脂系、メタアクリレート系樹脂接着剤を塗布し、塩化ビニルプラスチゾル、塩化ビニルオルガノゾル等を膜厚500μm程度に塗布、圧着したプレコートメタルの一種であり、屋根材として広く使用されているものである。
しかし屋根材としての耐久性が高いとは言い難く、使用後10年程度が経過すると塩化ビニル樹脂による被膜にチョーキングが発生する、あるいは前記の接着剤の接着力の低下により、亜鉛メッキ鋼板表面から塩化ビニル樹脂被膜が剥離してしまう、等の不具合が発生するため、この様な状況になった塩ビ鋼板屋根材は塗り替えの必要が生じる。塩化ビニルプラスチゾルは可塑剤を使用しているため、経時により可塑剤が塩ビ樹脂層から表面に移行し、この可塑剤が変色、硬化不良を起こす原因となることから、特開昭62−262778号公報には、塩ビ樹脂被膜の上に可塑剤の移行を阻止するためのバリヤコートを塗布し、このバリヤコート上にアスファルト系アルミニウムペイントを塗布する工程からなる、塩ビ鋼板の塗替え方法が記載開示されている。
特開昭62−262778号公報
従来の技術は、背景技術で述べたような構成であるので次の課題が存在した。
すなわち、従来技術でも指摘されているように、塩化ビニル樹脂被膜に何らかの形で傷が生じると、この傷が原因となってチョーキングが発生する。チョーキングをそのままの状態にしておいて、この上から塗り替えの塗料を塗装したとしても、チョーキングの部分から直ぐに剥離してしまうため、塗り替え時にはチョーキングしている塗膜部分を完全に剥離させてから、塗り替え塗料を塗装する必要があった。また、チョーキング発生の原因となる塩ビ樹脂被膜上の傷も、放置しておけばいずれチョーキングが発生してしまうため、従来技術においてはバリヤコート塗布前に、傷口にアスファルト系テープ、又はアルミテープを貼付することにより、傷口を補修する工程が必要であると書かれている。
チョーキング部分の塗膜の完全剥離、かつ、塩化ビニル樹脂被膜のテープ補修は、非常な手間と時間がかかることであり、なおかつチョーキング部分を目視的に完全に剥離したと判断しても、微細なチョーキングが残留している場合があり、更に傷の補修を実施せずにチョーキングの剥離のみで処理を完了させた場合には、いずれ新たなチョーキングの発生により、塗り替え塗膜が剥離する可能性が高いため、従来方法においては、作業工数と時間がかかる割には信頼性に劣るという問題が残っていた。
本発明が解決しようとする課題は、背景技術で述べた問題点を解決することにある。
本発明に係る塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法は、従来必要とされていた、劣化した塩ビ樹脂被膜の補修作業、及びチョーキングが発生した塗膜の完全剥離という、手間と時間を要する前処理作業を行なうことなしに、信頼性が高く、従来より短時間にて塗り替えを可能とする工法を提供することを目的としたものであって、その要旨は以下に存する。
すなわち、(1)湿気硬化型ウレタン樹脂10〜55質量%、ケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤35〜50質量%、芳香族系溶剤10〜20質量%を配合してなる下塗塗料をローラー塗装により少なくとも2回以上下地である塩ビ樹脂被膜にこすりつけるように塗装し、
(2)乾燥した下塗塗料塗膜に、弱溶剤系のアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂から選ばれる樹脂による上塗塗料を塗装してなることを特徴とする、塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法。
以下に詳細に説明する。
まず、下地処理作業として、塗り替えを必要とする塩ビ鋼板屋根の表面にあるゴミ、土埃、汚れなどを除去する。これは従来公知の方法により行なうことができ、一般には高圧水の噴射(高圧水洗)などにより実施される。この時に、旧塗膜が剥離して鋼板の表面が剥き出しになってしまった場合には、その個所への防錆処理が必要となることは当然である。
次に、下地処理作業の完了した塩ビ鋼板に、湿気硬化型ウレタン樹脂10〜55質量%、ケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤35〜50質量%、芳香族系溶剤10〜20質量%を配合してなる下塗塗料をローラー塗装により少なくとも2回以上下地である塩ビ樹脂被膜にこすりつけるように塗装する。
ウレタン樹脂塗料は、その硬化方式により、一液型と二液型に分けることができ、それぞれに長所、短所があるため用途に応じて使い分けられている。本発明においては、取扱や作業性が容易であり、かつ塗膜性能が優れている一液型の湿気硬化型ウレタン樹脂を使用する。
湿気硬化型ウレタン樹脂は、遊離イソシアネート成分に空気中の湿気、すなわち水分が反応して硬化をおこし、塗膜を形成する樹脂である。イソシアネート成分としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等があり、この中でもジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートを使用した湿気硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
旧塗膜である塩ビ樹脂塗膜に含まれる可塑剤が移行することを防止するためには、上記の湿気硬化型ウレタン樹脂は10〜55質量%含有することが必要である。10質量%未満であると必要な塗膜性能を得ることができず、55質量%を超えた場合、配合量に比例した可塑剤移行防止効果は得られず、コスト的にはむしろ不利となるので、好ましくない。
ケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤は、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンを挙げることができる。エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチルを挙げることができる。上記の中でも、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸n-ブチルが特に好ましい。ケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤は、35〜50質量%含有することが必要である。35質量%未満であると、塩ビ鋼板表面に残留している塩ビ樹脂被膜と下塗塗料であるウレタン樹脂との親和性に劣り、ウレタン樹脂塗膜の密着性向上が期待できない虞れがあり、50質量%を超えて配合すると、塗装時の乾燥が速くなりすぎて塗装作業性が低下する虞れがある。
芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、あるいはトルエン、キシレンを主成分とする芳香族系溶剤としての中沸点溶剤、高沸点溶剤を挙げることができる。芳香族系溶剤は、10〜20質量%を配合することが必要である。10質量%未満の配合であると、該下塗塗料にはケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤が配合されるため、下塗塗料の乾燥が速すぎて塗装作業に困難をきたすおそれがある。20質量%を超えて配合した場合、下地である塩ビ樹脂被膜の溶解が不十分になり、また乾燥性が低下して塗膜形成に時間がかかる等の不具合が発生する。
下塗塗料は、従来公知の方法で混合分散され、製造することができる。これは顔料が含まれないクリア塗料であるが、塗装作業を容易にするために適当な顔料、染料により着色することも可能である。
下塗塗料は、ローラー塗装により、少なくとも2回以上下地である塩ビ樹脂被膜にこすりつけるように塗装することが必要である。塩ビ鋼板表面の塩ビ樹脂被膜がチョーキングしている場合には、ローラー塗装を特に強い圧力で塗装し、チョーキングしている塩ビ樹脂被膜と、その下層の塩ビ樹脂被膜とを、下塗塗料に含有した溶剤により一旦溶解させ、下塗塗料との親和性を向上させて、下塗塗料を強力に密着させる必要がある。
下塗塗料塗膜が完全に乾燥した後、上塗塗料を塗装する。上塗塗料はNAD(非水ディスパージョン)系樹脂を用いることが望ましい。強溶剤系樹脂を使用した場合、下塗塗料の塗膜を侵してしまうおそれがあり、水系・エマルション樹脂等の場合には下塗塗料塗膜との密着性が不良となるおそれがある。NAD系樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等を例示することができる。上塗塗料は、ローラー塗装の他、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装、刷毛塗り等、塗装場所と塗装面積に応じて、適宜塗装方法を選択の上、塗装することができる。
本発明に係る塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法は、次の効果を奏する。
すなわち、従来はチョーキングが発生した塩ビ鋼板の被膜は、チョーキングを完全に除去した上でないと塗り替えを行なうことが出来なかったが、本発明による工法であれば、チョーキングした被膜を完全に除去する必要はなく、従来に比較すると工数、時間が大幅に短縮された塩ビ鋼板の塗り替えを実現したものである。
以下、本発明に係る塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法に於ける実施の形態について説明する。
施工後、15年を経過した塩ビ鋼板による屋根材を塗り替え工事の対象とした。
塩ビ鋼板の表面にはチョーキングがほぼ全面に発生し、各所にゴミ、土埃が付着、堆積していた。高圧水洗により、屋根材表面を洗浄し、ゴミ、土埃は完全に除去したが、チョーキングはほとんど残留していた。
ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とする湿気硬化型ウレタン樹脂25質量%、メチルエチルケトン45質量%、酢酸エチル5質量%、キシレン20質量%からなる下塗塗料1を、上記のチョーキング残留塩ビ鋼板に、ローラーを使用して強く2回こすりつけるように塗装し、クリアの下塗塗料塗膜1を形成した。
下塗塗料塗膜1が乾燥した後、上塗塗料として、NAD系ウレタン樹脂塗料をエアレススプレー塗装機により塗装し、上塗塗料塗膜1を形成した。
トリレンジイソシアネートを主成分とする湿気硬化型ウレタン樹脂25質量%、メチルイソブチルケトン45質量%、酢酸n-ブチル5質量%、トルエン20質量%からなる下塗塗料2を、上記のチョーキング残留塩ビ鋼板に、ローラーを使用して強く3回こすりつけるように塗装し、クリアの下塗塗料塗膜2を形成した。
下塗塗料塗膜2が乾燥した後、上塗塗料として、NAD系アクリル樹脂塗料をエアレススプレー塗装機により塗装し、上塗塗料塗膜2を形成した。
(比較例1)
二液型エポキシプライマーを下塗塗料として上記のチョーキング残留塩ビ鋼板に、ローラーを使用して強く2回こすりつけるように塗装し、クリアの下塗塗料塗膜3を形成した。
下塗塗料塗膜3が乾燥した後、上塗塗料として、溶剤型ウレタン樹脂塗料をエアレススプレー塗装機により塗装し、上塗塗料塗膜3を形成した。
(比較例2)
上記の実施例1において使用した下塗塗料1を、上記のチョーキング残留塩ビ鋼板に、エアスプレー塗装機を使用して塗装し、クリアの下塗塗料塗膜4を形成した。下塗塗料塗膜4が乾燥した後、上塗塗料として、NAD系シリコン樹脂塗料をエアレススプレー塗装機により塗装し、上塗塗料塗膜4を形成した。
結果
実施例1〜比較例2の塗り替えを実施した塩ビ鋼板屋根材を2年間屋外暴露し、上塗塗料の塗膜表面を観察した。
実施例1、および実施例2は、塗膜表面に剥がれ、膨れ、傷などの異常は認められなかった。
比較例1は、チョーキングしていた層からエポキシプライマーによる下塗塗膜が剥離し、数箇所で剥がれていた。
比較例2は下塗塗料の密着不良が数箇所で発生し、膨れおよび剥がれが見られた。

Claims (1)

  1. (1)湿気硬化型ウレタン樹脂10〜55質量%、ケトン系溶剤あるいはエステル系溶剤から選ばれる1種類以上の溶剤35〜50質量%、芳香族系溶剤10〜20質量%を配合してなる下塗塗料をローラー塗装により少なくとも2回以上下地である塩ビ樹脂被膜にこすりつけるように塗装し、
    (2)乾燥した下塗塗料塗膜に、弱溶剤系のアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂から選ばれる樹脂による上塗塗料を塗装してなることを特徴とする、塩ビ鋼板屋根の塗り替え工法。
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