JP4747030B2 - アスベスト採取装置及び採取方法 - Google Patents

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Description

本発明は、空中を浮遊するアスベストの実態を確実、安価かつ迅速に把握するためのアスベスト採取装置及び空中浮遊アスベストの計測方法に関する。
詳しくは、空中および気流中を浮遊するアスベストを確実に捕集し、サンプリングから分析までの一連の操作を省力化する採取装置の構造および捕集効率を向上させる方法・構造を提供する。また、この採取装置を用いて建築物内外でアスベストの多点サンプリングを行う方法を提供する。具体的には、空調設備を活用し、空調機の内部(外気取り入れ、給気、還気、排気)や室内吹出口、吸込口などにサンプリング基板を設置し、建築物内やその周囲の空気中を浮遊するアスベストをサンプリングする。
アスベスト(石綿)は耐熱性、耐磨耗性など、工業的に優れた性質を持つため、建築関係では、吹き付け材や断熱材、ガスケット、パッキンなど幅広く採用されてきた。しかし、1980年にWHOが発ガン物質と認定して以来、世界的にアスベスト使用禁止の方向にあり、日本でも製造・使用を削減・禁止する方向にある。環境省は、建築物の解体によるアスベストの排出量は2020年から2040年頃をピークと予測している。アスベストの濃度基準値は、空気1L(リットル)あたりのアスベスト本数(本/L)を単位とし、大気汚染防止法ではアスベスト敷地境界基準10本/L、産業衛生学会では作業環境管理許容濃度150本/Lとしている。アスベスト撤去の判断では、この基準値と計測されたアスベスト濃度を比較することになる。建築物内のアスベスト浮遊状況や建築物周囲の状況など、アスベスト浮遊状況の実態はほとんど不明であり、実態を早急に把握するサンプリング方法が必要である。
アスベストのサンプリング方法としてフィルタ吸着法が知られている(非特許文献1参照)。図16はその処理手順を示すフロー図である。すなわち、検査領域の空気をフィルタを介して吸引し、フィルタをアセトン蒸気で透明化し、さらに低温灰化装置でフィルタを灰化させた後、これにアスベストの種類に応じた浸液を滴下し、フィルタに付着したアスベスト繊維を位相差顕微鏡で染色観察している。
(社)日本空気清浄協会「空気清浄」第43巻第5号、p22-26, 3章, 分散染色法による環境空気中石綿濃度の測定方法
しかし、この方法では、位相差顕微鏡による染色観察に先立って、アセトン蒸気でフィルターを透明化し、低温灰化装置でフィルタを灰化させておく必要があるため、試料の前処理に手間を要し、大幅なコストアップは避けられない。つまり、アスベスト捕集済みフィルタの前処理および分析ができる機材を備えた専門業者への分析依頼が必要となるからである。また、単一の測定ポイントにおけるアスベスト分析結果から、建物の健全性を判断し、アスベストの撤去を実施するか放置するかを判断することは難しい。このため、発生原因の絞り込みのために何点かの測定ポイントで計測を繰り返す必要が生じ、分析費用は非常に高価なものとなる。
本発明は、このような事情に鑑み、アスベストの採取から位相差顕微鏡による染色観察までの一連の作業が一つの基板上で行なえるとともに、試料を前処理する手間が省け、大幅なコストダウンが可能なアスベスト採取装置及び採取方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明のアスベスト採取装置は、採取すべきアスベストと分散曲線が交差する屈折率を有し、かつ透明で粘着性を有する捕集材を透明な基板に塗布したことを特徴とする。
上記捕集材は、粘着性を有する透明なオイルと、このオイルよりも屈折率の高い透明な液体とを混合してなるものであるのが好ましい。
上記基板に形成した凹部に上記捕集材を充填し、アスベストの採取後、この基板に透明なカバー基板を張り合わせて上記凹部を閉塞するのが好ましい。
上記基板の捕集材塗布面の上流側に整流リブを配置して下流側に渦や乱れた流れを生じさせて、周囲より捕集面近傍の気圧を低くするのが好ましい。
気流によって回転する第1のプロペラと、このプロペラと同軸結合されて通過気流の向きを横方向に変換する第2のプロペラとを備え、第2のプロペラの周囲に上記基板を配置するのが好ましい。
駆動源によって回転するプロペラの下流側に上記基板を配置するのが好ましい。
また、本発明のアスベスト採取方法は、採取すべきアスベストと分散曲線が交差する屈折率を有し、かつ透明で粘着性を有する捕集材を透明な基板に塗布し、この基板を気流中に配置してアスベストを上記捕集材に付着させ、付着したアスベスト繊維の数を位相差顕微鏡による染色観察法で計測することを特徴とする。
空調システムの外気導入部又は排気部、換気部、室内吹出部のうち、少なくても一箇所に上記基板を配置するのが好ましい。
上記捕集材に付着したアスベスト繊維の数と、上記基板の捕集材塗布面に当る風量とから単位体積当りの空中を浮遊するアスベスト繊維の数を算出するのが好ましい。
本発明によれば、アスベストの採取から位相差顕微鏡による染色観察までの一連の作業が一つの基板上で行えるとともに、フィルタを透明化したり灰化しておく前処理の手間が省け、大幅なコストダウンが可能になる。
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明のアスベスト採取装置を示している。
この採取装置は、ガラス製の透明な基板1の片面に、採取すべきアスベストと分散曲線が交差する屈折率を有し、かつ透明で粘着性を有する捕集材2を塗布したものである。詳しくは、基板1の片面に凹部1aを形成し、この凹部1aに捕集材2を充填してある。
捕集材2は、粘着性を有する透明なオイル(例えば、水溶性シリコーンオイル)と、このオイルよりも屈折率の高い透明な液体(例えば、トリアセチン)とを混合してなるもので、両者の配合比を調整によって屈折率が変化する(図14参照)。つまり、捕集材2の屈折率が採取すべきアスベストの屈折率と一致するように両者の配合比の調整してある。図15は捕集材2とアスベストの分散曲線を示している。捕集材2の曲線Lとアスベストの曲線Sが特定の波長λ0で交差するようにしてある。
アスベストの採取に際しては、捕集材2の塗布面を上流側に向けて基板1を気流中に配置する。捕集材2は軟らかくて粘着性があるため、図2(a)に示すように、アスベストAは捕集材2に突き刺さって粘着保持される。なお、捕集材2は高粘度であるため、基板1を垂直や逆さに設置しても、捕集材2が液だれすることはない。
アスベストの採取後は、基板1に透明なカバー基板3を張り合わせて凹部1aを閉塞する。このカバー基板3は基板1に対してヒンジ等を介して開閉できるようであってもよいし、別体で構成してもよい。カバー基板3で採取面を外気から遮断することで、搬送時の埃の付着や振動によるアスベストの脱落が防止できる。
そして、基板1を位相差顕微鏡にセットし、捕集材2に付着しているアスベスト繊維の数を染色観察法で計測する。位相差顕微鏡では、図15の分散曲線でアスベストAと捕集材2の屈折率が一致する波長λ0の光が遮蔽される一方、それ以外の波長の光は結像される。つまり、特定の種類のアスベストAの像のみが染色されて観察されることになる。
本実施形態の採取装置を用いると、アスベストの採取から位相差顕微鏡による染色観察までの一連の作業が一つの基板上で行えるとともに、フィルタを透明化したり灰化しておく前処理の手間が省ける。つまり、アスベストを採取した試料の分析業者への送付・分析までに必要な作業が省け、大幅なコストダウンが可能になる。
また、アスベストの採取後の基板1にカバー基板3を張り合わせて凹部1aを閉塞しているので、アスベストの飛散機会もなく、安全な分析作業が可能になる。
図3はアスベストの捕集効率を上げるための変形例を示している。
すなわち、捕集材2の塗布面の上流側に断面三角形の整流リブ4を配置して、下流側に気流の乱れ(カルマン渦)を生じさせる。この整流リブ4は、その下流側に渦や乱れた流れを生じさせて低圧部Pをつくる(図4参照)。これにより、整流リブ4の下流側すなわち捕集材2の塗布面近傍が周囲に比べて低圧になり、周囲から捕集材2の塗布面捕集面に向かう気流速度を増大させて捕集効率を向上させる。
図5と図6は、気流方向と遠心力を利用してアスベストの捕集効率を上げるための別の変形例を示している。
すなわち、気流に沿って筒状のハウジング5を配置するとともに、このハウジング5の内部には、気流によって回転する第1のプロペラ6と、このプロペラ6と同軸結合されて通過気流の向きを横方向に変換する第2のプロペラ7とを収容してある。さらに、ハウジング5の内面には、4個の基板1が第2のプロペラ7を取り囲むように取り付けてある。
この場合、第1のプロペラ6が気流から回転力を得て回転し、第2のプロペラ7を回転駆動させるため、外部からの動力は不要である。第1のプロペラ6を通過した気流は、第2のプロペラ7によって周方向に向きが変わり、比重の大きなアスベストに対して遠心力が与えられるため、基板1に向かうアスベストAの速度が増大し、アスベストAの捕集効率の向上が期待できる。
図8は、気流のない場所で使用する別の変形例を示している。
すなわち、電池8によって回転するモータ9にプロペラ10を取り付け、このプロペラ10で生じる気流の下流側に基板1を配置してある。この場合、気流がないか、あっても非常に弱い場所でのアスベスト採取が可能になる。電池駆動による補助動力源を用いるため商用電源との接続が不要である。
なお、基板1を既設の空調設備に取り付ける場合、図9に示すように基板1の端面をマグネット11やマジックテープなどで固定すればよい。
ところで、本実施形態の採取装置では、従来、フィルタ吸着法で使用していた吸気手段が必要なくなるため、既設の空調設備を利用したアスベスト採取が容易になる。図10はその一例を示している。
すなわち、基板1を空調システムの外気導入部20、排気部21、還気部22及び室内吹出部23に設置してアスベストを採取している。このようにすると、調査建物の周囲を含む広範囲にわたるアスベストの浮遊状況を迅速に把握することができ、アスベスト発生源の特定に役立つのである。なお、図示しないが、外気導入部22と換気部20には粗塵フィルタや場合により中性能フィルタが取り付けられ、毛髪や粉塵粒子が捕集される。
また、基板1の設置に併せて、空調設備の運転に影響を与えないように表面計測センサ(クランプ電流センサ、温度計、風速計)を配置して、空調機の運転状況(空調機の運転時間・外気導入ON/OFFなど)を計測する。これにより、基板1に対する通過風量を求める。基板1の捕集材2に付着したアスベストの数を単位空気量あたりに換算することで、アスベストの濃度を知ることができる。
図11は、図10に示した空調機24に対する基板1、クランプ電流センサ25及び温度センサ26の設置例を示している。同図において、27は外気導入ダクト、28は還気ダクト、29は給気ダクト、30はコイル、31はフィルタ、32は給気ファンである。
アスベスト捕集部はエアフィルタの下流に設置され、空調機のファンにより空気が循環する。したがって、格別の動力なく測定の妨げとなる塵埃を除去できる。なお、排気部に設けた基板1も除塵された空気が循環した後の排気なので同様である。フィルタや空調機のファンは空調設備に必要とされるものなので、既設の設備を改変せずに簡易なアスベスト診断が可能である。
なお、図12は室内設置型の空調機33に対する基板1の設置例を示す図で、34はコイル、35は給気ファン、36はクランプ電流センサである。
サンプリングするアスベスト量の計測値は瞬時のアスベスト量の積分値となるため、サンプリング期間中の風量を測定する必要がある。風量の測定については、風速計や風量計を設置することでも良いし、短期間の風速や風量計測と空調機ファン電流を同時に計測し、その相関を元に長期間の電流計測値から風量値を得ることができる。図13はその場合の空調機ファンの電流と風量の相関を示している。また、温度を計測することで、温度の変動から外気導入のON/OFFがわかる。
さらに、基板1を設置した代表計測点において、従来のフィルタ吸着法による計測も併用し、規格に準拠した精密なサンプリング値を得て、その点の濃度計測値と基板1で採取されたアスベストの本数とを相似換算し、より精密な多点の濃度計測が可能となる。なお、定期的に基板1を交換すれば、アスベスト濃度の変動を把握できる。
基板1で採取されたアスベストの本数から単位空気量あたりのアスベストの本数を算出するには、次のようにすればよい。
いま、サンプリングされた基板1上のアスベスト本数をN(本)、風量(一定と仮定する)をQ(m/h)、空気流通時間をT(h)、ダクト断面積をS(m)、捕集材2の塗布面積をS(m)、捕集効率をη(%)とすると
、単位時間及び単位空気量当りのアスベスト本数An(本/L)は、以下の式で算出される。
An=N×S/(S×T×Q×1000)/(η/100)
なお、捕集効率ηは、別途の特性試験により求めておく。
上述のフィルタ吸着法での計測値An’と比較補正することで、補正係数Kを以下の式で求めればよい。
K=An’/An
以上のような計測の実施方法及び実施時期として以下のものが挙げられる。
1.稼働中の建物の健全性を確認するための調査(図面情報や建築年数から危険性が指摘された場合に行う実態調査や周囲建築の建て替えによるアスベストの飛散・浸入状況の調査など)
2.アスベスト除去作業中やアスベスト除去作業後のアスベスト浮遊状況調査
3.アスベスト除去作業後に継続的に行う建物の健全性を確認する定期調査
4.建築設備のリニューアル計画に先立ってのアスベスト発生源特定の調査
〔実施例〕
捕集材2の製造には、水溶性シリコーンオイルとトリアセチンを使用した。シリコーンオイルとしては、例えば、信越化学工業(株)信越シリコーンによる
非反応性の変性シリコーンオイルがある。その動粘度(25℃)は20〜1600[mm/S]の範囲で各種あるが、なるべく値の大きなものを使用するのが好ましい。また、その屈折率(25℃)は1.418〜1.463である。
捕集材2の屈折率は、図14に示すようにシリコーンオイルとトリアセチンの配合比によって変化することが分かっている。よって、屈折率が1.54〜1.56のクリソタイルについてはトリアセチンの濃度を約45〜55wt%(図14の領域A)、屈折率が1.67〜1.69のアモサイトと同1.68〜1.70のクロシドライトについてはトリアセチンの濃度を90wt%以上(図14の領域B)にすればよい。
なお、シリコーンオイルと混合する液体としてはトリアセンに限られるものではなく、市販されている標準屈折液(例えば、MORITEX社製のカーギル標準屈折液)から適当なものを選べばよい。
〔応用例〕
捕集材2の種類を選定することで、花粉や大気汚染物質などの採取に応用することが可能である。
本発明のアスベスト採取装置を示す図で、同図(a)は断面図、同図(b)は平面図である。 同図(a)は図1(a)でアスベストを採取した状態を示す図、同図(b)は同図(a)に別の基板を張り合わせた状態を示す図である。 図1の変形例を示す図で、同図(a)は断面図、同図(b)は平面図、同図(c)は側面図である。 図3の作用を説明する図である。 図1に示したアスベスト採取装置の応用例を示す図である。 図5の平面図である。 図5の第2プロペラの斜視図である。 図1に示したアスベスト採取装置の別の応用例を示す図である。 図1のアスベスト採取装置の取付方法を説明する図である。 本発明のアスベスト採取装置を空調システムに適用した状態を示す図である。 図10に示した空調機の部分を拡大して示す図である。 本発明のアスベスト採取装置を室内設置型の空調機に適用した状態を示す図である。 空調ファンにおける電流と風量の関係を示すグラフ図である。 捕集材における屈折率とトリアセチン濃度の関係を示すグラフ図である。 アスベストと捕集材の分散曲線を示すグラフ図である。 従来のフィルタ吸着法における処理手順を示すフロー図である。
符号の説明
1 基板
2 捕集材
3 カバー基板
4 整流リブ
5 ハウジング
6 第1のプロペラ
7 第2のプロペラ
8 電池
9 モータ
10 プロペラ
20 外気導入部
21 排気部
22 還気部
23 室内吹出部
24 空調機

Claims (9)

  1. 採取すべきアスベストと分散曲線が交差する屈折率を有し、かつ透明で粘着性を有する捕集材を透明な基板に塗布したことを特徴とするアスベスト採取装置。
  2. 上記捕集材は、粘着性を有する透明なオイルと、このオイルよりも屈折率の高い透明な液体とを混合してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト採取装置。
  3. 上記基板に形成した凹部に上記捕集材を充填し、アスベストの採取後、この基板に透明なカバー基板を張り合わせて上記凹部を閉塞することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアスベスト採取装置。
  4. 上記基板の捕集材塗布面の上流側に整流リブを配置して下流側に渦や乱れた流れを生じさせて、周囲より捕集面近傍の気圧を低くすることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のアスベスト採取装置。
  5. 気流によって回転する第1のプロペラと、このプロペラと同軸結合されて通過気流の向きを横方向に変換する第2のプロペラとを備え、第2のプロペラの周囲に上記基板を配置したことを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のアスベスト採取装置。
  6. 駆動源によって回転するプロペラの下流側に上記基板を配置したことを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のアスベスト採取装置。
  7. 採取すべきアスベストと分散曲線が交差する屈折率を有し、かつ透明で粘着性を有する捕集材を透明な基板に塗布し、この基板を気流中に配置してアスベストを上記捕集材に付着させ、付着したアスベスト繊維の数を位相差顕微鏡による染色観察法で計測することを特徴とするアスベスト採取方法。
  8. 空調システムの外気導入部又は排気部、換気部、室内吹出部のうち、少なくても一箇所に上記基板を配置することを特徴とする請求項7に記載のアスベスト採取方法。
  9. 上記捕集材に付着したアスベスト繊維の数と、上記基板の捕集材塗布面に当る風量とから単位体積当りの空中を浮遊するアスベスト繊維の数を算出することを特徴とする請求項8に記載のアスベスト採取方法。

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