以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るヒートポンプ装置の構成図である。図1に示すように、ヒートポンプ装置200は、圧縮機201、放熱器202、膨張機203および蒸発器204がこの順に冷媒配管で接続されてなる冷媒回路212を備えている。この冷媒回路212には、高圧側(圧縮機201から放熱器202を経て膨張機203に至る区間)において超臨界状態となる冷媒(作動流体)が充填されている。本実施形態では、そのような冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されており、定格運転時には、高圧側は約10MPa超、低圧側は約3〜5MPaの圧力となる。ただし、冷媒の種類は特に限定されるものではなく、運転時に超臨界状態とならない冷媒であってもよい。
圧縮機201および膨張機203は、同一容器内に配置されるとともに、互いのシャフト213が結合された、いわゆる膨張機一体型圧縮機211を構成している。膨張機203において冷媒の膨張力によって得られるトルクは、シャフト213を介して圧縮機201の圧縮力を補助する。これにより、ヒートポンプ装置200のエネルギー効率を向上させることができる。膨張機203は、容積可変機構207を備え、その吸入容積を任意に変更可能な構成となっている。すなわち、ヒートポンプ装置200は、膨張機203の吸入容積を変更する制御を行う制御器208をさらに備えている。吸入容積を変更する制御は、圧縮機201および膨張機203の回転数に応じて実施する。そうすれば、圧縮機201および膨張機203の回転数が変更された場合であっても、迅速に高効率な運転状態が形成される。
また、膨張機一体型圧縮機211は、圧縮機201および膨張機203とシャフト213で接続された電動機205を備えている。電動機205には、直流を所定の周波数の交流に変換するとともに電動機205の回転数を所定の値に制御するインバータ装置206が接続されている。インバータ装置206により、当該ヒートポンプ装置200の能力に応じて、膨張機一体型圧縮機211の回転数が変化する。
図2に示すのは、図1に示す膨張機一体型圧縮機の縦断面図である。
膨張機一体型圧縮機211は、密閉容器601と、その内部の上側に配置されたスクロール式の圧縮機201と、その下側に配置された2段ロータリー式の膨張機203と、圧縮機201と膨張機203との間に配置された電動機205と、それら圧縮機201、膨張機203および電動機205に共用のシャフト213とを備えている。電動機205がシャフト213を回転駆動することにより、圧縮機201が作動する。この膨張機一体型圧縮機211においては、冷媒が膨張機203で膨張する際にシャフト213に与えるトルクを、圧縮機201の補助動力として利用するようになっている。冷媒の膨張エネルギーをいったん電気エネルギーに変換することなく、圧縮機201に直接伝達するので、高いエネルギー回収効率を見込める。
スクロール式の圧縮機201は、固定スクロール607、旋回スクロール608、オルダムリング609、軸受部材610、マフラー611、吸入管612および吐出管613を備えている。シャフト213の偏心軸606aに嵌合され、かつ、オルダムリング609により自転運動を拘束された旋回スクロール608は、渦巻き形状のラップ608aが、固定スクロール607のラップ607aと噛み合いながら、シャフト213の回転に伴って旋回運動を行い、ラップ607a,608aの間に形成される三日月形状の作動室614が外側から内側に移動しながら容積を縮小することにより、吸入管612から吸入された冷媒を圧縮する。圧縮された冷媒は、固定スクロール607の中央部に設けた吐出孔616、マフラー611の内側空間611a、ならびに固定スクロール607および軸受部材610を貫通する流路615をこの順に経由して、密閉容器601の内部空間601aへと吐出される。内側空間601aに吐出された冷媒は、内部空間601aに滞留する間に、混入した潤滑用のオイルを重力や遠心力などにより分離された後、吐出管613から冷凍サイクルへと吐出される。
ロータリ式の膨張機203は、冷媒を上下2段のシリンダ構成にて膨張させるものである。すなわち、膨張機203は、第1シリンダ410と、第1シリンダ410の下方に配置された第2シリンダ411とを備えている。これら第1シリンダ410および第2シリンダ411は同心状の配置となっており、共通のシャフト213が各シリンダ410,411の内外を貫通している。第1シリンダ410の上端は、ポート部材412bおよび第1閉塞部材413によって覆われている。ポート部材412bは、図1に示す容積可変機構207の一部を構成する部品である。第1シリンダ410の下端と第2シリンダ411の上端は、第2閉塞部材414によって覆われている。言い換えると、第1シリンダ410と第2シリンダ411との間には、第2閉塞部材414が挟み込まれている。第2シリンダ411の下端は、下側端板415によって覆われている。
発電機205は、密閉容器601の側壁に固定された固定子402bと、固定子402bの内側に配置された回転子402aとを備えている。回転子402aの中心部には、シャフト213が固定されている。シャフト213は、回転子402aから下方に向かって延び、膨張機203に共用されている。密閉容器601の底部には、潤滑油を貯留する油溜まり405が形成されている。シャフト213の下端部は、この油溜まり405内に配置されている。シャフト213の下端部には図示しない油ポンプが形成され、シャフト213の内部または外周部には、図示しない給油通路が形成されている。シャフト213が回転すると、油溜まり405の潤滑油は上記油ポンプによって汲み上げられ、上記給油通路を通じて膨張機203の各摺動部に供給される。
シャフト213には、第1シリンダ410を貫通する位置に第1偏心部404aが形成されており、第2シリンダ411を貫通する位置に第2偏心部404bが形成されている。第1偏心部404aおよび第2偏心部404bは、中心軸線Oから半径方向外向きに膨出して、主軸部404cよりも径大になっている部分であり、主軸部404cとその中心軸線Oに対して偏心している。第1偏心部404aには、第1シリンダ410との間に第1作動室418を形成するとともに、第1偏心部404aから回転力を受けることにより、第1作動室418の容積を変化させながら第1シリンダ410の内部を回転するリング状の第1ピストン416が嵌め合わされている。同様に、第2偏心部404bには、第2シリンダ411との間に第2作動室419を形成するとともに、第2偏心部404bから回転力を受けることにより、第2作動室419の容積を変化させながら第2シリンダ411の内部を回転するリング状の第2ピストン417が嵌め合わされている。中心軸線Oは第1シリンダ410および第2シリンダ411の中心軸線でもある。ピストン416,417は、偏心部404a,404bとシリンダ410,411とのいずれに対しても摺動可能であるとともに、中心軸線Oに対して偏心した状態を保ちながらシリンダ410,411内を回転(偏心回転)する。このような構成によれば、ピストン416,417とシリンダ410,411との摩擦を小さくすることができる。
また、膨張機203の第1シリンダ410には、第1ピストン416の外周面に当接して第1作動室418を高圧側空間(吸入側空間)と低圧側空間(吐出側空間)とに仕切る第1ベーン420と、当該第1ベーン420を第1ピストン416に向かって付勢する第1ばね422とが設けられている。同様に、第2シリンダ411には、第2ピストン417の外周面に当接して第2作動室419を高圧側空間(吸入側空間)と低圧側空間(吐出側空間)とに仕切る第2ベーン421と、当該第2ベーン421を第2ピストン417に向かって付勢する第2ばね423とが設けられている。
また、第1シリンダ410には、第1作動室418の吸入側空間に冷媒を吸入させる第1吸入孔438が形成されている。第1シリンダ410の下端を閉塞する第2閉塞部材414には、第1作動室418の吐出側空間から冷媒を吐出させる吐出孔414aが形成されている。第1吸入孔438と吐出孔414aとは、周方向に所定角度離れている。吐出孔414aは、第2シリンダ411が形成する作動室419の吸入側空間に連通する連通孔414aでもある。第1シリンダ410の吐出孔414aから吐出された冷媒は、そのまま第2シリンダ411に吸入される。つまり、第1シリンダ410の作動室418の吐出側空間と、第2シリンダ411の作動室419の吸入側空間は、第2閉塞部材414に形成された連通孔414aにより連通しており、一つの作動室として機能する。
膨張機203には、さらに、シャフト213を支える軸受を備えた上側端板424および下側端板415と、マフラー425とが設けられている。シリンダ432,410,411および閉塞部材413,414には、膨張後の冷媒を吐出する吐出通路427が形成されている。高圧の冷媒は、吸入管428から吸入通路437を通り、第1シリンダ410に設けた第1吸入孔438から作動室418に流入した後、第1シリンダ410の作動室418と、第2シリンダ411の作動室419との体積変化を伴う形で膨張してシャフト213を回転させる。膨張して低圧になった冷媒は、第2シリンダ411の作動室419からマフラー425内に一旦吐出され、吐出通路427を経て吐出管426から冷凍サイクルに吐出される。
また、本実施形態の膨張機203は、さらに、ポート部材412b(可動部材)およびアクチュエータ406を含む容積可変機構207を備えている。アクチュエータ406は、ポート部材412bに中心軸線O周りの回転力を与える。中心軸線Oの周りにおけるポート部材412bの回転角度を切り替えると、冷媒の吸入過程から膨張過程に移行するタイミングが変化し、吸入過程が行われる時間の長さに対する膨張過程が行われる時間の長さの比が変化する。つまり、ポート部材412bの回転角度に応じて膨張機203の吸入容積が変化する。
本実施形態においては、シャフト213の中心軸線Oと平行な方向において、アクチュエータ406、ポート部材412bおよび膨張機203が、この順番かつ同心状に並んで配置されている。このような配置とすれば、アクチュエータ406およびポート部材412bを新たに設けることによる寸法拡大を極力抑制することが可能であるため、小型の膨張機203に好都合である。
ポート部材412bは、中心部にシャフト213を貫通させる孔が形成された略円板状をなし、円筒状の第1閉塞部材413の内部に配置されている。第1閉塞部材413の内径と、ポート部材412bの外径とは略等しいが、ポート部材412bは第1閉塞部材413の内部をスムーズに回転できるようになっている。また、ポート部材412bの下側は、膨張機203の第1ピストン416および第1偏心部404aにより閉塞されている。また、ポート部材412bには、第2吸入孔412cが形成されている。ポート部材412bが回転することにより、第2吸入孔412cの位置がシャフト213に対する回転方向に移動する。
図3Aは、図2に示す容積可変機構207に含まれるアクチュエータ406部分のA−A断面図である。図3Aに示すように、アクチュエータ406は、ポート部材駆動用偏心部412a、ポート部材駆動用ピストン430、ポート部材駆動用シリンダ432、ポート部材駆動用ベーン433、ポート部材駆動用ばね434、吸入管428および制御圧管435を備えている。ポート部材駆動用シリンダ432の中心部にシャフト404が位置している。
ポート部材駆動用偏心部412aは、シャフト404に対して偏心した構造となっており、ポート部材駆動用シリンダ432の内部に配置されている。ポート部材駆動用偏心部412aの上面側は上側端板424(図2参照)により閉塞されている。ポート部材駆動用ピストン430は、ポート部材駆動用シリンダ432との間に圧力室431(431a,431b)を形成するように、ポート部材駆動用偏心部412aに嵌め合わされている。ポート部材駆動用偏心部412aおよびポート部材駆動用ピストン430は、中心軸線Oに対して偏心した状態を保ちながら、ポート部材駆動用シリンダ432内を回転(偏心回転)する。ポート部材駆動用偏心部412aにはシャフト404が貫通する貫通孔が形成されている。ポート部材駆動用偏心部412aとシャフト404とは接合されておらず、相対的に回転できるようになっている。
ポート部材駆動用ベーン433は、先端がポート部材駆動用ピストン430に接するように、ポート部材駆動用シリンダ432に設けられたベーン溝に往復動自在に保持されている。ポート部材駆動用ばね434は、ポート部材駆動用ベーン433をポート部材駆動用ピストン430に向けて付勢している。
ポート部材駆動用シリンダ432の内部に形成された圧力室431は、ポート部材駆動用ベーン433によって、第1圧力室431aと第2圧力室431bとの二つの空間に分離されている。また、ポート部材駆動用シリンダ432には、高圧側流入孔450と低圧側流入孔451とが形成されている。これら高圧側流入孔450と低圧側流入孔451とは、周方向に所定角度離れており、それぞれポート部材駆動用シリンダ432の内外を連通している。第1圧力室431aには、高圧側流入孔450を介して吸入管428が接続されている。吸入管428は、膨張前の高圧の冷媒を第1圧力室431aに供給する。第2圧力室431bには、低圧側流入孔451を介して制御圧管435が接続されている。制御圧管435は、第1圧力室431a側に供給される冷媒よりも低い圧力の冷媒を第2圧力室431bに供給する。第1圧力室431aと第2圧力室431bとの差圧は、ポート部材駆動用ピストン430に回転力を与える。冷媒の差圧から回転力を受けたポート部材駆動用ピストン430は、ポート部材駆動用偏心部412aおよびポート部材412bを回転させる。
また、ポート部材駆動用シリンダ432には、吸入管428から上側端板424を通り、ポート部材駆動用シリンダ432、第1閉塞部材413、第1シリンダ410を経由して通り第1シリンダ410の作動室418へと冷媒を吸入させるための吸入通路437が形成されている。また、膨張後の冷媒を吐出する吐出通路427が形成されている。
つまり、第1シリンダ410に形成された第1吸入孔438に接続してその第1シリンダ410に冷媒を送るための吸入経路が分岐し、その分岐経路(高圧側流入孔450)を通じて供給される膨張前の高圧の冷媒を、アクチュエータ406の動力源である高圧流体として利用するようになっている。高圧流体としてアクチュエータ406に送り込まれた冷媒は、ポート部材412bに形成された第2吸入孔412cを通じて第1シリンダ410に流れるようになっている。このようにすれば、アクチュエータ406を動作させるための流体を別途準備する必要がなくなる。異種の流体同士の混合を防ぐ厳重なシール構造が不要であるとともに、異種の流体同士が混ざることによって冷凍サイクルの特性が変化するといった不具合も生じない。また、冷媒自体をアクチュエータ406の動力源とすることにより、外部から電力等のエネルギーを供給せずに済むため、冷媒の膨張エネルギーの回収効率向上に有利である。第2圧力室431bに供給される冷媒は、例えば、絞り弁のような圧力調整器にて圧力が調整された後、制御圧管435に案内される。なお、ポート部材412bをサーボモータのような電動アクチュエータで駆動するようにしてもよいし、冷媒以外の流体を制御圧管435から供給してポート部材412bを駆動するようにしてもよい。
また、ポート部材駆動用シリンダ432の内周面上には、シャフト404の中心軸線Oに向かって凸形状を有する第1ストッパ436aと第2ストッパ436bとが、周方向に所定角度離れて配置されている。これらストッパ436a,436bは、ポート部材駆動用ピストン430が、冷媒の圧力差(定格運転時には、高圧側は約10MPa超、低圧側は約3〜5MPaの圧力となる)により回転するときの可動範囲(中心軸線O周りの回転角度)を制限する。これにより、ポート部材412bは、所定角度(例えば約180°)の範囲内での回転運動だけが許容されるようになる。
図3Bは、図2に示す容積可変機構207に含まれるポート部材412b部分のB−B断面図である。図3Bに示すように、ポート部材412bには、回転ばね439(付勢手段)が取り付けられている。回転ばね439は、ポート部材412bとポート部材駆動用シリンダ432とに介在しており、ポート部材412b、ポート部材駆動用偏心部412aおよびポート部材駆動用ピストン430を常時所定の回転方向に付勢する。図3Aで説明したように、本実施形態では、第1圧力室431aを高圧側、第2圧力室431bを低圧側とするため、回転ばね439の付勢方向を、第1圧力室431aが小さくなる方向に設定している。このような回転ばね439の働きにより、ストッパ436a,436bによって定められる可動範囲内において、ポート部材412bの位置を連続的に変更することができるようになる。また、第1圧力室431aに供給する流体(冷媒)が高圧、第2圧力室431bに供給する流体(冷媒)が低圧という関係を維持しつつ、ポート部材412bを正逆両方向に回転させることが可能となる。
もちろん、回転ばね439を設けない場合であっても、第1圧力室431aに供給する流体の圧力と、第2圧力室431bに供給する流体の圧力との大小関係を逆転させれば、ポート部材412bを正逆両方向に回転させることができる。ストッパ436a,436bを設けることにより、ポート部材412bの回転範囲を制限することもできる。ただし、そのような構成においては、膨張機203で使用する冷媒をアクチュエータ406の動力源に利用することが難しくなるし、構造の複雑化を招く。したがって、本実施形態のようにするのが好ましい。
さらに、上記のような回転ばね439によれば、ポート部材駆動用シリンダ432内でポート部材駆動用ピストン430が占有する位置に応じて、そのポート部材駆動用ピストンに与える回転力の大きさが変化する。第1圧力室431aに供給する高圧の冷媒と、第2圧力室431bに供給する低圧の冷媒との差圧がポート部材駆動用偏心部412aおよびポート部材駆動用ピストン430に与える正方向(または逆方向)の回転力と、回転ばね439による反発力、すなわち、ポート部材412bに与えられる逆方向(または正方向)の回転力とが釣り合う回転角上に、ポート部材412bは位置決めされる。このようにすれば、アクチュエータ406の第1圧力室431aに供給する冷媒と、第2圧力室431bに供給する冷媒との差圧を調整することにより、ポート部材412bを自在に変位させる制御が可能になる。つまり、膨張機203の運転状況に応じて最適な位置に第2吸入孔412cをもってくることが可能になる。
上述したように、高圧の冷媒は吸入管428から吸入通路437を通り、第1シリンダ410に形成された第1吸入孔438から作動室418に流入する。その経路とは別に、吸入管428から分岐した高圧の作業流体は、高圧側流入孔450を経由してポート部材駆動用シリンダ432内部の第1圧力室431aに流入し、ポート部材412に形成された第2吸入孔412cを経由して作動室418に流入する。ポート部材412bが回転することにより、第2吸入孔412cの位置が変化するため、冷媒の吸入容積が変化する。
図4A,4B,4Cは、それぞれ、第1吸入孔と第2吸入孔の位置関係を示す、第1シリンダの構成図である。高圧の冷媒は第1シリンダ410に形成された第1吸入孔438から作動室418に流入する。さらに、冷媒は、第1吸入孔438からの経路とは別に、ポート部材412bに形成された第2吸入孔412cからも作動室418に流入する。第2吸入孔412cの位置を変更することにより、冷媒の吸入量が変化する。
第1吸入孔438の位置は、シャフト213を中心にベーン420の位置を基準として20degに固定されているのに対し、第2吸入孔412cの位置は、第1吸入孔438に略一致する20degから180degまでの角度範囲内で変化する。図4Aは、シャフト213を中心にベーン420の位置を基準とした第2吸入孔412cの回転角φが20degの場合、図4Bは90degの場合、図4Cは180degの場合を示している。
図5Aに、第2吸入孔412cの回転角φが90degである場合の第1シリンダ410側の動作原理図を示す。図5Bに、同じく第2シリンダ411側の動作原理図を示す。なお、シャフト213の回転角θは、第1シリンダ410と第1ピストン416の接点が、第1ベーン420に位置するいわゆる上死点を基準とし、シャフト213の回転方向である時計回りを正としており、シャフト213の回転角θは、90degごとに示している。
θ=0degで第1シリンダ410において吸入過程が始まり、θ=0deg以降に生成する作動室418aに第1吸入孔438から冷媒が流入する。また、θ=90degから270degにシャフト213が回転することに伴い、第1吸入孔438および第2吸入孔412cの両方から作動室418aに冷媒が流入する。θ=360degを過ぎると、作動室418bは連通孔414aを介して第2シリンダ411の作動室419aと連通し、一つの作動室、つまり作動室418bおよび作動室419aからなる膨張室を形成する。さらにシャフト213が回転すると、θ=380deg(図示せず)において、第1シリンダ410と第1ピストン416の接点が第1吸入孔438を通過し、膨張室(作動室418b+作動室419a)と第1吸入孔438との連通が遮断される。従来のロータリ式膨張機ならば、この時点で吸入過程が終了し、膨張過程が始まる。
ところが、本実施形態では、その後も回転角φ=90degに位置する第2吸入孔412cから冷媒の流入が継続する。そして、θ=450degになると、第1シリンダ410と第1ピストン416の接点が第2吸入孔412cを通過し、膨張室と第2吸入孔412cとの連通が遮断され、この時点で吸入過程が終了し、膨張過程が始まる。さらに、シャフト213が回転すると、第1シリンダ410の作動室418bの容積は減少するが、第1シリンダ410よりも第2シリンダ411の高さが大であるため、膨張室の容積はそれ以上の割合で増加する。θ=211deg(図示せず)になると、第2シリンダ411と第2ピストン417の接点が吐出孔415aを通過し、第2シリンダ411の作動室419bが吐出通路と連通する。この時点で、膨張過程が終了し、吐出過程が始まる。θ=720degを超えると、シャフト213が回転することに伴い、第2シリンダ411の作動室419bの容積が減少し、冷媒は吐出孔415aから吐出通路を通り、吐き出される。
図6Aは、シャフト213の回転角θと吸入/吐出の各過程との関係を示すチャート図である。第2吸入孔412cの回転角φがφ=20deg、90deg、180degの場合について示す。図6A,6Bの説明から明らかなように、吸入過程が終了するシャフト213の回転角θは、第1シリンダ410と第1ピストン416の接点が2回目に第2吸入孔412cを通過する瞬間となるため、一般的に、θ=(360+φ)degと表すことができる。これに対し、吐出孔415aの位置は固定されているので、第2吸入孔412cの回転角φが大きくなるにつれて吸入過程が長くなり、結果的に膨張過程が短くなる。
図6Bは、シャフト213の回転角θと作動室の容積との関係を示す特性図である。冷媒は、作動室418a、作動室418b、作動室419aおよび作動室419bの順に移動するが、その過程で作動室の容積は正弦波曲線状に増加ないし減少する。図6B中に、第2吸入孔412cの回転角φが20deg、90deg、180degの場合の吸入過程終了時の作動室の容積である吸入容積Vesφと(φは第2吸入孔412cの回転角)、吐出過程開始時の作動室の容積である吐出容積Vedを示す。φの増加とともに吸入容積Vesφが増加することが分かる。
膨張機203の吸入容積を変更する制御は、膨張機容積制御手段として機能する制御器208(図1参照)が担う。制御器208は、放熱器202の出口に配置された温度センサ209および圧力センサ210の検出値、ならびに膨張機一体型圧縮機211の回転数に応じて容積可変機構207を制御する、すなわち膨張機203の吸入容積を変更する制御を行う。膨張機一体型圧縮機211の回転数は、例えば、当該膨張機一体型圧縮機211の電動機205の駆動を制御するインバータ装置206から取得することができる。
次に、制御器208の動作について説明する。
図7は、膨張機の吸入容積を決定する手順を示すフローチャートである。制御器208は、このフローチャートに示す手順で容積可変機構207を制御する。まず、ステップS201において、ヒートポンプ装置200の起動時からの経過時間が予め定めた所定時間T1(例えば、20秒)を超えているかどうかを判断する。すなわち、制御器208は、ヒートポンプ装置200の電源スイッチをオンにした時点、言い換えれば、インバータ装置206が電動機205に通電を開始した時点からの経過時間を計測するタイマを含む。インバータ装置206は、例えば、電動機206の通電開始とともに制御器208に対して起動トリガを送る。制御器208は、起動トリガの入力を契機にタイマをスタートし、タイマがタイムアップした場合に、ヒートポンプ装置200の起動時からの経過時間が所定時間T1を超えたと判断する。なお、ヒートポンプ装置200の起動時とは、一時的な停止状態からの再起動を含む概念である。
ステップS201において、所定時間T1が経過していないと判断した場合には、ステップS202において、膨張機203の吸入容積を最小の値に設定する制御を行う。すなわち、吸入容積が最小となる位置(図6Aの例ではφ=20deg)に第2吸入孔412cが移動するように、その第2吸入孔412cが形成されたポート部材412bを回転させる。これにより、圧縮機201から膨張機203に至る高圧側の冷媒圧力が迅速に上昇し、放熱器202の温度が迅速に上昇し、蒸発器204の温度が迅速に低下する。冷凍サイクルの高圧側と低圧側との圧力差が急速に増大するため、圧縮機201の吸入側と吐出側の圧力差が急速に拡大し、圧縮機201の動作が短時間で安定する。
他方、所定時間T1が経過した場合、制御器208は、ステップS203において、膨張機一体型圧縮機211の回転数が変更中であるか判断する。この判断は、以下の手順で行うことができる。
まず、インバータ装置206は、電動機205の回転数に関するデータを常時持っており、回転数が運転状況に応じた目標値に一致する、または近づくように当該電動機205の加減速を制御する。インバータ装置206による電動機205の加減速制御は、電動機205の回転数および加減速に関するデータである回転数/加減速データを準備し、制御器208に送るためのデータ送信プロセスを含む。この回転数/加減速データは、当該電動機205の回転数を特定する回転数データと、回転数を変更中であるかどうかを識別可能とする加減速データとを含む。制御器208は、インバータ装置206から取得した回転数/加減速データをメモリに格納し、メモリに格納したその回転数/加減速データを参照することに基づき、膨張機一体型圧縮機211の回転数が変更中であるかどうかを判断する。もちろん、エンコーダ等の回転検出器で膨張機一体型圧縮機211の回転数を直接検出して制御器208に入力し、入力されたその検出結果(回転数)の履歴に基づいて膨張機一体型圧縮機211の回転数が変更中であるかどうか判断するようにしてもよい。
図7のフローチャートに戻って説明を続ける。ステップS203において、膨張機一体型圧縮機211の回転数が変更中であると判断した場合には、ステップS204において、回転数と吸入容積の積、つまり体積流量が一定となるように、膨張機203の吸入容積を変更する制御を行う。回転数は、圧力や温度に比べて、きわめて迅速かつ正確に検出することが可能である、したがって、回転数に応じて吸入容積を変更するようにすれば、ヒートポンプ装置200の運転状態を迅速に理想状態に持って行くことができ、ひいてはエネルギーロスの低減を図ることができる。
膨張機ではなく、膨張弁により圧力差を得る従来のヒートポンプ装置においては、膨張弁を流れる流量G、膨張弁入口圧力Pin、膨張弁出口圧力Pout、弁通路面積A、比例定数Kの間には下記(式3)の関係が成り立つ。
(式3)
流量G=(Pin−Pout)×A×K
したがって、膨張弁の開度が一定、つまり、弁通路面積Aが一定であることを前提とすれば、圧縮機の回転数が上昇して流量Gが増加した場合、膨張弁の前後の差圧(Pin−Pout)が増加する。逆に、圧縮機の回転数が低下して流量Gが減少した場合、膨張弁の前後の差圧(Pin−Pout)が減少する。そのため、冷凍サイクルの能力を変える、もしくは冷媒の圧力や温度を変えるなどの目的で圧縮機の回転数を変更した場合でも、迅速にサイクルの状態を変化させることが可能である。
これに対し、従来の膨張機一体型圧縮機の場合、圧縮機の回転数と膨張機の回転数が同一であるため、圧縮機の回転数が上昇して流量が増加した場合でも、そのままでは膨張機前後の差圧は変化しない。逆に、圧縮機の回転数が低下して流量が減少した場合でも、そのままでは膨張機の前後の差圧は変化しない。そのため、サイクルの状態を迅速に変化させることが困難である。
ところが、本発明のヒートポンプ装置200によれば、以下のようにして、膨張弁と同様にサイクルの状態を迅速かつ自由に変化させることが可能である。
図10は、膨張機一体型圧縮機の回転数と膨張機の吸入容積との関係を示す特性図である。制御器208は、膨張機一体型圧縮機211の回転数に応じて、つまり、図中に示す推移線に沿って、膨張機203の吸入容積を変更する制御を行う。例えば、回転数をR1からR2まで増加する場合、膨張機203の吸入容積をV1からV2に変更する。つまり、回転数が増加するにしたがって膨張機203の吸入容積を減少させる。あるいは、回転数が減少するにしたがって膨張機203の吸入容積を増大させる。さらに、最大吸入容積を下回る吸入容積から最小吸入容積を超える吸入容積までの範囲内で、この推移線は、回転数と吸入容積との積が一定になるように設定されている。制御器208は、回転数と吸入容積の積が一定であるというルールに基づいて、その時々の回転数に応じた吸入容積を導出する。これにより、体積流量が一定に保たれるため、膨張弁と同様に迅速にサイクルの状態を変化させることができる。なお、回転数と吸入容積との積を一定に保ちつつ、膨張機203の吸入容積を変更すること、つまり、図10中に示す推移線に沿って吸入容積を変更することが望ましいが、このことが必須というわけではない。例えば、インバータ装置206等から回転数の目標値が制御器208に与えられる場合、制御器208は、与えられたその目標値に対応する吸入容積を直ちに設定するようにしてもよい。
図7のフローチャートに戻って説明を続ける。膨張機一体型圧縮機211の回転数が変更中でない場合、ステップS205において、膨張機203の吸入容積は、通常のヒートポンプ装置のサイクル制御、つまり、サイクル効率を最大にする制御に基づいて設定される。つまり、圧力センサ210の検出圧力値がヒートポンプ装置200の効率を最大にする圧力値に追従するように(一致するまたは近づくように)、膨張機203の吸入容積を変更する制御を行う。
図8は、放熱器出口圧力、放熱器出口温度およびサイクル効率の関係を示す特性図である。図8に示すように、各放熱器出口温度に対してサイクル効率が最大となる放熱器出口圧力は異なっている。つまり、放熱器出口温度に対してサイクル効率が最大となる所定の圧力になるように制御を行えばよい。このような原理に基づき、放熱器202の出口に設けられた温度センサ209の検出温度値と、圧力センサ210の検出値とからヒートポンプ装置のサイクル効率が最大になるように制御する。この効率最大化制御に関してフローチャートに基づいて説明する。
図9は、サイクル効率を最大にする制御の手順を示すフローチャートである。まず、ステップS301において、制御器208は、圧力センサ210が検出する放熱器出口圧力と、温度センサ209が検出する放熱器出口温度を取得する。次に、ステップS302において、図8に示した最適効率圧力線にしたがって、サイクル効率を最大にする最適圧力値を導出する。サイクル効率を最大にする放熱器出口圧力を導出する方法としては、サイクル効率を最大にする放熱器出口圧力と放熱器出口温度とを対応付けたデータベースから見出す方法や、近似関数から逐次演算して求める方法を例示できる。
次に、ステップS303において、検出された現在の放熱器出口圧力が、最適圧力値より大が小かを判断する。放熱器出口圧力が最適圧力よりも大の場合には、ステップS304において、放熱器出口圧力を低下させるべく、膨張機203の吸入容積を現在よりも拡大する制御を行う。これにより、膨張機203の入口と出口の圧力差が縮小し、結果として冷凍サイクルにおける高圧側の圧力が低下していく。他方、放熱器出口圧力が最適圧力よりも小の場合には、ステップS305において、放熱器出口圧力を上昇させるべく、膨張機203の吸入容積を縮小する制御を行う。これにより、膨張機203の入口と出口の圧力差が拡大し、結果として冷凍サイクルにおける高圧側の圧力が上昇していく。これらの制御により、放熱器出口の圧力は、サイクル効率を最大にするような圧力に制御される。
図7のフローチャートに戻って説明を続ける。ステップS206において、ヒートポンプ装置200の停止指示があったかどうか判断する。停止指示は、例えば、ヒートポンプ装置200の運転スイッチがオフされることに応じて制御器208に入力される。また、電動機205を一時的に停止する場合にも制御器208は停止指示を取得する。このような停止指示は、インバータ装置206によって与えられるものであってもよい。停止指示ありと判断した場合には、ステップS207において、膨張機203の吸入容積を設定可能な最大の吸入容積に設定する制御を行う。すなわち、吸入容積が最大となる位置(図6Aの例ではφ=180deg)に第2吸入孔412cが移動するように、その第2吸入孔412cが形成されたポート部材412bを回転させる。このように、停止直前の所定時間において最大の吸入容積に設定することにより、ヒートポンプ装置200の圧縮機201から膨張機203に至る高圧側の冷媒圧力を迅速に減少させるとともに、高圧側と低圧側の圧力差を急速に減少させることができ、ひいてはヒートポンプ装置200の再起動が容易になる。さらに、オイルが冷媒回路内に偏在することがなくなるため、圧縮機201の再起動をスムーズに行うことができるようになる。なお、停止直前の所定時間とは、制御器208に停止指示が入力されてから電動機205が停止するまでの経過時間であり、例えば、数秒間である。
図11は、圧縮機および膨張機の回転数、ならびに膨張機の吸入容積の時間推移の一例を示すタイムチャートである。まず、時刻T1においてヒートポンプ装置200の運転が開始され、膨張機一体型圧縮機211が回転を開始する。回転開始後、時刻T2に回転数R1に至るまで、膨張機203の吸入容積は、最小吸入容積V1に設定されている。これにより、冷凍サイクルの高圧側と低圧側の圧力差が急速に拡大するので、サイクルの立ち上げを迅速に行なうことができる。
次に、時刻T2から時刻T3まで回転数はR1で一定である。この期間において、膨張機203の吸入容積は、図9のフローチャートで説明したように、圧力センサ210から得られる放熱器出口圧力および温度センサ209から得られる放熱器出口温度に基づいて、サイクル効率を最大にする吸入容積に随時設定される。
次に、時刻T3において外部より冷凍サイクルの能力変更指示(例えば、暖房温度や冷房温度の変更)があったとする。時刻T3から時刻T4までの期間において、インバータ装置206は、圧縮機201および膨張機203の回転数をR1からR2に変更する制御を行う。この期間において、膨張機203の吸入容積は、図10で説明したように、回転数が増大するにつれてV2からV3まで徐々に縮小する。これにより、体積流量が一定に保たれるため、膨張弁と同様に迅速にサイクルの状態を変化させることができる。もちろん、先に述べたように、回転数の増加速度を考慮せず、または回転数が目標回転数R2に到達するよりも早く、吸入容積をV2からV3まで直ちに縮小するようにしてもよい。
次に、時刻T4から時刻T5まで回転数はR2で一定である。この期間において、膨張機203の吸入容積は、サイクル効率を最大にする吸入容積に随時設定される。
次に、時刻T5において外部より冷凍サイクルの能力変更指示があったとする。時刻T5から時刻T6までの期間において、インバータ装置206は、圧縮機201および膨張機203の回転数をR2からR3に変更する制御を行う。この期間において、膨張機203の吸入容積は、図10で説明したように、回転数が減少するにつれてV4からV5まで徐々に拡大する。もちろん、回転数の増加速度を考慮せず、または回転数が目標回転数R3に到達するよりも早く、吸入容積をV4からV5まで直ちに拡大するようにしてもよい。
次に、時刻T6から時刻T7まで回転数はR3で一定である。この期間において、膨張機203の吸入容積は、サイクル効率を最大にする吸入容積に随時設定される。
その後、時刻T7にヒートポンプ装置200の停止指示が外部より与えられると、圧縮機201および膨張機203の回転数がR3から所定の減速率にて減少させられるとともに、膨張機203の吸入容積は、設定可能な最大の吸入容積に設定される。これにより、冷凍サイクルの高圧側の冷媒圧力が急速に低下し、高圧側と低圧側の圧力差が急速に縮小するので、ヒートポンプ装置200の再起動が容易となる。その後、時刻T8に圧縮機201および膨張機203は停止する。
以上のように、本発明によれば、圧縮機および膨張機の回転数変更時においても迅速に運転状態を所望の状態にすることが可能なヒートポンプ装置、すなわち、応答性が高く、ロスの少ないヒートポンプ装置を提供することができる。さらに、安定したシステムの立ち上げ、速やかなシステムの停止、および安定した再起動が実現可能となる。