JP4730995B2 - ガラスセラミックス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、情報記憶装置に用いられる情報記憶媒体用基板、特に基板表面の改善された超平滑性と、高速回転対応の高ヤング率、低比重特性およびドライブ構成部品に合致する熱膨張特性を有するガラスセラミックスからなる磁気ディスク基板等の情報記憶媒体用基板およびその製造方法ならびにこれを用いた情報記憶媒体に関する。本明細書において「情報記憶媒体」とは、パーソナルコンピューターのハードディスクやネットワーク用情報記録として使用される、固定型ハードディスク・リムーバル型ハードディスク・カード型ハードディスクやデジタルビデオカメラ・デジタルカメラにおいて使用可能な情報磁気記憶媒体等のディスク状情報記憶媒体を意味する。
【0002】
【従来の技術】
パーソナルコンピュータのマルチメディア化や、デジタルビデオカメラ・デジタルカメラ等のように動画や音声等の大きなデータが扱われるようになり、大容量の情報磁気記憶装置が必要となっている。その結果、情報磁気記憶媒体は面記録密度を大きくするために、ビットおよびトラック密度を増加させ、ビットセルのサイズを縮小化する傾向にある。これに対応すべく、磁気ヘッドはビットセルの縮小化に伴って、ディスク表面に、より近接して作動するようになる。このように、磁気ヘッドが情報磁気記憶媒体基板に対し、低浮上状態または接触状態(コンタクト)にて作動する場合、磁気ヘッドの起動・停止技術として、情報磁気記憶媒体基板の特定部分(ディスク内径側もしくは外径側の未記憶部)において吸着防止処理(テクスチャ加工等)を行い、そこで磁気ヘッドの起動・停止を行うランディングゾーン方式等の技術開発が重要となってくる。
【0003】
現在の情報磁気記憶装置において、磁気ヘッドは、装置始動前は情報磁気記憶媒体基板に接触しており、装置始動時には情報磁気記憶媒体基板より浮上するといった動作を繰り返すCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式を行っている。この時両者の接触面が必要以上に鏡面であると吸着が発生し摩擦係数の増大に伴う回転始動の不円滑、情報磁気記憶媒体表面の損傷等の問題が発生する。この様に情報磁気記憶媒体基板は、記憶容量の増大に伴う磁気ヘッドの低浮上化と、情報磁気記憶媒体基板上での磁気ヘッド吸着防止という、相反する要求が要望される。これらの相反する要望に対しては、情報磁気記憶媒体基板の特定領域に磁気ヘッドの始動・停止部を制作するランディングゾーン技術の開発が進められている。更にこれらランディングゾーン技術に対抗して、磁気ヘッドを完全に接触させ、ヘッドの始動停止を情報磁気記憶媒体基板上から外す、ランプロード技術も開発されており、情報磁気記憶媒体基板表面への要求は、よりスムーズへという方向となっている。
【0004】
また、今日磁気記憶装置の情報磁気記憶媒体基板を高速回転化する事で情報の高速化を計る技術開発が進んでいるが、基板の回転数が高速化する事で、たわみや変形が発生するために、基板材には高ヤング率化が要求されている。加えて、現在の固定型情報磁気記憶装置に対し、リムーバブル方式やカード方式等の情報磁気記憶装置が検討・実用化段階にあり、デジタルビデオカメラ,デジタルカメラ等への用途展開も始まりつつある。
【0005】
ところで、従来磁気ディスク基板材として、アルミニウム合金が広く用いられているが、アルミニウム合金基板では、種々の材料欠陥の影響により、研磨工程における基板表面の突起またはスポット状の凹凸を生じ平坦性、平滑性の点で前記の高密度記憶媒体用基板として十分でなく、またアルミニウム合金は軟かい材料で、ヤング率,表面硬度が低いため、ドライブの高速回転において振動が激しく変形が生じやすいということや、薄形化に対応することが難しいという欠点を有している。更にヘッドの接触による変形傷を生じ易く、メディアの損傷等という問題点も有しており、今日の高密度記録化に十分対応できない。
【0006】
一方、アルミニウム合金基板の問題点を解消する材料として、化学強化ガラスであるソーダライムガラス(SiO2−CaO−Na2O)やアルミノシリケートガラス(SiO2−Al2O3−Na2O)が知られているが、この場合、(1)研磨は化学強化後に行なわれるため、ディスクの薄板化における強化層の不安定要素が高い。(2)ガラス中にNa2O成分を必須成分として含有するため、成膜特性が悪化し、Na2O溶出防止のための全面バリアコート処理が必要となり、製品の低コスト安定生産性が難しい欠点がある。
【0007】
更に、アルミニウム合金基板や化学強化ガラス基板に対して、いくつかの結晶化ガラスが知られている。例えば、USP5,626,935号公報記載のSiO2−Li2O−MgO−P2O5系結晶化ガラスは、主結晶相として二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα−クォーツ(α−SiO2)を有し、α−クォーツ(α−SiO2)の球状粒子サイズをコントロールする事で、従来のメカニカルテクスチャー、ケミカルテクスチャーを不用とし、研磨して成る表面粗度(Ra)を15〜50Åの範囲で制御を可能とした、基板表面全面テクスチャー材として非常に優れた材料であるが、本願が目標とする表面粗度(Ra)が9Å以下、さらに好ましくは6Å未満という様に、急速に進む記録容量向上に合せたヘッドの低浮上化に対応するための表面粗度を得ることができない。また、熱膨張係数に対する議論や示唆がまったくなされていない。
【0008】
特開平9−35234号公報には、SiO2−Al2O3−Li2O系ガラスにおいて、主結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)とβ−スポジュウメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)からなる磁気ディスク用基板が開示されているが、この結晶化ガラスは、比較的Al2O3成分の含有量が多い組成系であるのと同時に、α−石英(α−SiO2)やα−クリストバライト(α−SiO2)結晶等のSiO2系結晶の析出を著しく規制したものである。この結晶化ガラスは、磁気ディスクとしての研磨して成る中心線平均表面粗さは、20Å以下であるが、実施例で開示される中心線平均表面粗さは、12〜17Åと粗く、前記目標に至るものではないため、記憶容量向上に伴う、磁気ヘッドの低浮上化に十分対応することができない。また、結晶化熱処理温度についても820℃〜920℃と高温を必要とするため、低コスト化および量産性を妨げるものである。
【0009】
国際公開番号WO97/01164は、上記特開平9−35234号公報を含んだもので、Al2O3成分の範囲の下限を下げて、結晶化熱処理を低温化(680℃〜770℃)した磁気ディスク用結晶化ガラスであるが、下限値を下げただけでは、その改善効果は十分と言えず、更に実施例中で開示されるすべての結晶化ガラスの結晶相は、β−ユークリプタイト(Li2O・Al2O3・2SiO2)を析出させるものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術に見られる諸欠点を解消しつつ、高密度記録のためのランプロード方式(磁気ヘッドのコンタクトレコーディング)にも十分対応し得る良好な表面特性を兼ね備え、高速回転化に耐え得る高ヤング率と比重の関係を改善し、各ドライブ部材に合致する熱膨張特性をも兼ね備えた、情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板およびその製造方法ならびにこの基板を用いた情報記憶媒体を提供することにある。
【0011】
【課題を解消するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、主結晶相は二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα−クォーツ(α−SiO2)結晶であり、結晶粒子はいずれも微細な球状粒子形状であるために加工性に優れ、研磨して成る表面はより平滑性に優れ、ドライブ構成部品に合致する熱膨張特性を有し、更に情報記憶装置の高速回転にも対応し得る高ヤング率と低比重を兼ね備えている点で、従来の情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板に比べて、一段と有利な情報記憶媒体用ガラスセラミックスが得られることを見い出し、本発明に至った。特に、本発明の目的を達成する情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板は、その表面平滑性からランプロード方式に用いるのに好適である。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ヤング率(GPa)/比重が37〜48、ヤング率=95〜120GPaであり,Al2O3含有量(酸化物基準の重量百分率)が5.3〜10%未満、ZrO2含有量(酸化物基準の重量百分率)が2.0〜5%であり、主結晶相は、(a)ニ珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)および(b)α−クォーツであることを特徴とするガラスセラミックスであり、請求項2に記載の発明は、比重=2.4〜2.6の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載のガラスセラミックスであり、請求項3に記載の発明は、熱膨張係数が−50〜+70℃の範囲において65×10-7〜130×10-7/℃の範囲であることを特徴とする、請求項1,2のいずれか一つに記載のガラスセラミックスであり、請求項4に記載の発明は、Na2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1,2,3のいずれか一つに記載のガラスセラミックスであり、請求項5に記載の発明は、MgO含有量(酸化物基準の重量百分率)が0.3%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガラスセラミックスであり、請求項6に記載の発明は、酸化物基準の重量百分率で、SiO2 71 〜81%Li2O 8 〜11%K2O 0 〜 3%MgO 0.3〜 2%ZnO 0 〜 1%P2O5 1 〜 3%ZrO2 2.0〜 5%TiO2 0 〜 3%Al2O3 5.3 〜 8%Sb2O3 0.1〜 0.5%SnO2 0 〜 5%MoO3 0 〜 3%NiO 0 〜 2%CoO 0 〜 3%Cr2O3 0 〜 3%の範囲の各成分を含有し、主結晶相は、(a)ニ珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)に加えて(b)α−クォーツ(α−SiO2)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のガラスセラミックスであり、請求項7に記載の発明は、結晶相の結晶粒子はいずれも微細な球状粒子形状であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のガラスセラミックスであり、請求項8に記載の発明は、結晶相の結晶粒子径(平均)が0.30μm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のガラスセラミックスであり、請求項9に記載の発明は、ガラス原料を溶融・成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として、核形成温度=550℃〜650℃,核形成処理時間=1〜12時間、結晶成長温度=680℃〜800℃,核成長処理時間=1〜12時間の範囲で熱処理を行うことにより得られることを特徴とする、請求項1,2,3,4,5,6,7,8,のいずれか一つに記載のガラスセラミックスの製造方法である。
【0013】
本発明のガラスセラミックス基板の物理的特性,表面特性,主結晶相と結晶粒径,組成を上記の範囲に限定した理由を以下に述べる。尚、組成は原ガラスと同様酸化物基準で表示する。
【0014】
まずは、ヤング率および比重について述べる。前記のように、記録密度およびデータ転送速度を向上するために、情報記憶媒体基板の高速回転化傾向が進行しているが、この傾向に対応するには、基板材は高速回転時のたわみによるディスク振動を防止すべく、高剛性,低比重でなければならない。また、ヘッドの接触やリムーバブル記憶装置のような携帯型の記憶装置に用いた場合においては、それ十分耐え得る機械的強度,高ヤング率,表面硬度を有する事が必要になる。
【0015】
ところが、単に高剛性であっても比重が大きければ、高速回転時にその重量が大きいことによってたわみが生じ、振動を発生する。逆に低比重でも剛性が小さければ、同様に振動が発生する。したがって、高剛性でありながら低比重という一見相反する特性のバランスを取らなければならず、その好ましい範囲はヤング率(GPa)/比重で37以上である。より好ましい範囲は39以上であり、更に好ましい範囲は41以上であり、最も好ましい範囲は43以上である。尚、剛性についても好ましい範囲があり、例え低比重で上記範囲を満足しても、前記振動発生問題の点からすると、少なくとも95GPa以上は必要であるが、基板の加工性や比重の増加から勘案して上限は120GPa以下である必要がある。比重についても同様で、前記振動発生問題の点からすると、例え高剛性であっても2.6以下である必要があるが、2.4を下回ると、この系のガラスセラミックスでは所望の剛性を有する基板は実質上得難い。すなわち、ヤング率(GPa)/比重は50以下が好ましい。
【0016】
次に熱膨張係数についてであるが、記録密度の向上に伴って、磁気ヘッドと媒体のポジショニングに高精度を要するため、媒体基板やディスクの各構成部品には高い寸法精度が要求される。このためこれら構成部品との熱膨脹係数の差の影響も無視できなくなるので、これらの熱膨張係数差を極力少なくしなければならない。特に小型の磁気情報記憶媒体に使用される構成部品の熱膨脹係数は、+90〜+100×10-7/℃程度のものが良く用いられており、基板もこの程度の熱膨脹係数が必要とされるが、ドライブメーカーによってはこの範囲からはずれた熱膨脹係数(+70前後〜+125前後×10-7/℃)を有する材料を構成部品に用いる場合がある。以上のような理由により、本発明の結晶系で強度との兼ね合いを図りながら、用いる構成部品の材質に広く対応しうるよう、熱膨張係数範囲を決めなければならず、その範囲は−50〜+70℃の範囲において、+65〜+130×10-7/℃であることが好ましい。さらには、熱膨張係数は+95×10-7/℃以上がより好ましく、+110×10-7/℃以下がより好ましい。
【0017】
次に主結晶相の結晶粒径と基板の表面特性についてであるが、先に述べたように、情報記憶媒体の面記録密度向上に伴い、ヘッドの浮上高さが0.025μm以下と著しく低下しており、ニアコンタクトレコーディング方式あるいは完全に接触するコンタクトレコーディング方式の方向に進みつつあり、これに対応するには、ディスク表面の平滑性は従来品よりも良好でなければならない。従来レベルの平滑性で磁気記録媒体への高密度な入出力を行おうとしても、ヘッドと媒体間の距離が大きいため、磁気信号の入出力を行うことができない。またこの距離を小さくしようとすると、媒体の突起とヘッドが衝突し、ヘッド破損や媒体破損を引き起こしてしまう。この著しく低い浮上高さもしくは接触状態でもヘッド破損や媒体破損を引き起こさない様にするためは、表面粗度(Ra)は9Å以下であることが好ましく、6Å未満であることがより好ましい。同じ理由で最大表面粗さ(Rmax)は100Å以下であることが好ましく、72Å未満あることがより好ましい。
【0018】
上記のような平滑性を有するガラスセラミックス基板を得るためには、その析出結晶粒子の形状と粒径が重要な因子となる。すなわち、析出結晶粒子は加工性・表面粗度の面から微細な球状粒子であることが好ましい。具体的には、所望の表面粗度を得る為に結晶粒子径(平均)は0.30μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。また、所望のヤング率を得る為には結晶粒子径(平均)は0.05μm以上であることが好ましい。
【0019】
次に主結晶相についてであるが、上記の物理的特性,熱膨張係数,表面粗度を実現するために各種検討したところ、二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα−クォーツ(α−SiO2)結晶相の組み合わせが最適であった。
【0020】
次にNa2O,PbO成分についてであるが、磁性膜の高精度化,微細化において、材料中のNa2O成分を含有していると、これらのイオンが成膜工程中に磁性膜中に拡散し、磁性膜粒子の粗大化や配向性の低下を招くため、これらの成分を実質的に含有しないことが重要である。また環境上好ましくないPbO成分も含有すべきではない。
【0021】
他にも、情報記憶媒体基板には、結晶異方性、異物、不純物等の欠陥がなく組織が緻密で均質、微細である事が要求されるが、上記のような結晶粒径,結晶形状を有する主結晶相(二珪酸リチウムおよびα−クォーツ)とすることによって、これらの要件を十分に満足することができる。
【0022】
次に原ガラスの組成範囲を上記の様に限定した理由について以下に述べる。SiO2成分は、原ガラスの熱処理により、主結晶相として析出する二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα−クォーツ(α−SiO2)結晶を生成するきわめて重要な成分であるが、その量が71%未満では、得られたガラスセラミックスの析出結晶が不安定で組織が粗大化しやすく、また81%を超えると原ガラスの溶融・成形性が困難になる。
【0023】
Li2O成分は、原ガラスの熱処理により主結晶相として析出する二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)を生成するきわめて重要な成分であるが、その量が8%未満では、上記結晶の析出が困難となると共に、原ガラスの溶融が困難となり、また11%を超えると得られる結晶が不安定で組織が粗大化しやすい上、化学的耐久性も低下する。
【0024】
K2O成分は、ガラスの溶融性を向上させると共に、析出結晶の粗大化を防止する成分であるが、その量は3%以内で十分である。
【0025】
MgO、ZnO成分は、ガラスの溶融性を向上させると同時に析出結晶の粗大化を防止する成分であると同時に、主結晶相として二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)、α−クォーツ(α−SiO2)、α−クォーツ固溶体(α−SiO2固溶体)の各結晶粒子を球状に析出させることに効果的である。そのためMgO成分は0.3%以上であることが好ましい。同じくZnO成分は0.1%以上であることがより好ましい。また、MgO、ZnO成分が過剰に含まれると、得られる結晶が不安定で組織が粗大化しやすく、そのためにMgO成分は2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。同じくZnO成分は2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。MgOとZnOの成分の和は、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0026】
P2O5成分は本発明において、ガラスの結晶核形成剤として不可欠であるが、その量が1%未満では結晶核形成が不十分で析出結晶相を異常成長させてしまい、3%を超えると原ガラスの乳白失透を生じる。
【0027】
ZrO2,TiO2成分はP2O5成分と同様にガラスの結晶核形成剤として機能する上に、析出結晶の微細化と材料の機械的強度の向上および化学的耐久性の向上に顕著な効果を有する極めて重要な成分であるが、ZrO2成分が0.5%未満では上記効果が得られず、またZrO2成分が5%あるいはTiO2成分が3%を超えると原ガラスの溶融が困難となり、更にZrSiO4等の溶け残りが発生してしまう。
【0028】
Al2O3成分は、ガラスセラミックスの化学的耐久性および機械的硬度を向上させるのに好適である。熱処理条件によって析出結晶の種類は異なってくるが、各種熱処理条件を考慮にいれても、Li2O・2SiO2+α−クォーツを析出させるためには、Al2O3が10%未満でなければならない。好ましくは4〜8%の範囲である。
【0029】
Sb2O3成分はガラス溶融の際の清澄剤として添加するが、その量は0.1%未満では上記効果が得られないが、0.5%以下で充分である。
【0030】
SnO2,MoO3成分はガラスセラミックスの着色剤として有効であり、特に、製品の表面欠陥の検出に大きな効果があるのと同時に、ランディングゾーンテクスチャ等で用いられるLD励起レーザー(Nd:YAG他)を吸収し易くするために添加する事が可能である。またガラス状態での透光性に優れ、結晶化前の材料検査が容易となる他、結晶化において着色化をもたらす事を見いだした重要な成分であるが、それぞれSnO2成分は5%以内、MoO3成分は3%以内で十分である。
【0031】
NiO,CoO,Cr2O3成分は、SnO2,MoO3成分と同様にランディングゾーンテクスチャ等で用いられるLD励起レーザー(Nd:YAG他)の吸収を高めるのに効果的であるが、SnO2,MoO3成分のようにガラス状態での透光性はなく、それぞれNiO成分は2%以内,CoO成分は3%以内,Cr2O3成分は3%以内で十分である。
【0032】
次に本発明にかかる情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板を製造するには、上記の組成を有するガラスを溶解し、熱間成形および/または冷間加工を行った後、550℃〜650℃の範囲の温度で1〜12時間熱処理して結晶核を形成し、続いて680℃〜800℃の範囲の温度で約1〜12時間熱処理して結晶化を行う。
【0033】
こうして熱処理により結晶化されたガラスセラミックスの主結晶相は、二珪酸リチウム(α−Li2O・2SiO2)およびα−クォーツ(α−SiO2)結晶であって、いずれの結晶相もその結晶粒子径(平均)が0.05μm以上、0.30μm以下であり、その結晶形状はほぼ球状粒子であった
【0034】
次にこの熱処理結晶化したガラスセラミックスを常法によりラッピングした後ポリシングすることにより、表面粗度(Ra)が3Å以上、9Å以下、(Rmax)が100Å以内の情報記憶媒体用ディスク基板材が得られた。
【0035】
【発明の実施の形態】
次に本発明の好適な実施例について説明する。表1〜表6は本発明の磁気ディスク用ガラスセラミックス基板の実施組成例(No.1〜30)であり、表7は比較組成例として、従来のSiO2−Li2O−MgO−P2O5系ガラスセラミックス(比較1:USP5,626,935号公報記載のもの),SiO2−Al2O3−Li2O系ガラスセラミックス(比較例2:特開平9−35234号公報記載のもの)(比較例3:国際特許公開番号WO97/01164号公報記載のもの)の実施例で、これらのガラスセラミックスの組成,核形成温度,結晶化温度,主結晶相,結晶粒子径(平均),結晶粒子形状,研磨して成る表面粗度(Ra),(Rmax),ヤング率,比重,ヤング率(GPa)/比重,熱膨張係数を示したものである。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
本発明の上記実施例のガラスは、いずれも酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1350〜1450℃の温度で溶解し撹拌均質化した後、ディスク状に成形・冷却を経て、ガラス成形体を得た。そしてこれを550〜650℃で約1〜12時間熱処理して結晶核形成後、680〜800℃で約1〜12時間熱処理して結晶化し、所望のガラスセラミックスを得た。ついで上記ガラスセラミックスを平均粒径5〜30μmの砥粒にて約10分〜60分ラッピングし、その後平均粒径0.5μm〜2μmの酸化セリュームにて約30分〜60分間研磨し仕上げた。
【0044】
表1〜7に示される通り、本発明と従来のLi2O−SiO2系ガラスセラミックスの比較例とでは、主結晶相または結晶粒子径(平均)が異なっており、本発明のガラスセラミックスは、二珪酸リチウム(Li2Si2O5)およびα−クォーツ(α−SiO2)の結晶粒子がほぼ球状で微細であるのに対し、比較例1,2,3のガラスセラミックスは結晶粒子径(平均)が0.5μm以上と大きなものであった。この粒子径(平均)では、より平滑性を求められる基板の現在の動向において、研磨後の表面粗度や結晶粒子の脱落から発生する欠陥に影響を及ぼすものである。更にヤング率,比重,ヤング率(GPa)/比重に対しても、本発明はヤング率(GPa)/比重が39以上と良好であるのに対し、比較例1,2,3のガラスセラミックスはヤング率(GPa)/比重が37未満と高速回転ドライブ使用に充分対応しうるものではない。更に熱膨張係数に対しても本発明のガラスセラミックスは95×10-7/℃以上であるのに対し比較例1,2,3のガラスセラミックスは64×10-7/℃以下と低く、特に比較例2,3のガラスセラミックは負の熱膨張特性を示す結晶相(β−スポジュウメン,β−クリストバライト結晶)を含んでいるので低膨張特性となり、ドライブ構成部品との熱膨張係数の差が大きくなってしまい、情報記憶媒体用基板材として情報記憶媒体用装置に不適合である。
【0045】
また上記の実施例よって得られたガラスセラミックス基板に、DCスパッタ法によりCr中間層(80nm),Co−Cr磁性層(50nm),SiC保護膜(10nm)を成膜した。次いでパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(5nm)を塗布して情報記憶媒体を得た。これによって得られた情報記憶媒体はその良好な平滑度により、従来よりもヘッド浮上高を低減することができ、またランプロード方式によって、ヘッドと媒体が接触状態での入出力を行っても、ヘッド破損・媒体破損を生じることなく、磁気信号の入出力を行うことができた。
【0046】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、上記従来技術に見られる諸欠点を解消しつつ、高記録密度化に対応した表面平滑特性と高速回転化に対応した高ヤング率−比重の良好なバランス、情報記憶媒体装置に合致した熱膨張特性を兼ね備えた、情報記憶媒体用ガラスセラミックス基板として好適なガラスセラミックス基板およびその製造方法ならびにこれを用いた情報記憶媒体を提供することができる。
Claims (9)
- ヤング率(GPa)/比重が37〜48、ヤング率=95〜120GPaであり,Al2O3含有量(酸化物基準の重量百分率)が5.3〜10%未満、ZrO2含有量(酸化物基準の重量百分率)が2.0〜5%であり、主結晶相は、(a)ニ珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)および(b)α−クォーツであることを特徴とするガラスセラミックス。
- 比重=2.4〜2.6の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載のガラスセラミックス。
- 熱膨張係数が−50〜+70℃の範囲において65×10-7〜130×10-7/℃の範囲であることを特徴とする、請求項1,2のいずれか一つに記載のガラスセラミックス。
- Na2O,PbOを実質上含有しないことを特徴とする、請求項1,2,3のいずれか一つに記載のガラスセラミックス。
- MgO含有量(酸化物基準の重量百分率)が0.3%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガラスセラミックス。
- 酸化物基準の重量百分率で、
SiO2 71 〜81%
Li2O 8 〜11%
K2O 0 〜 3%
MgO 0.3〜 2%
ZnO 0 〜 1%
P2O5 1 〜 3%
ZrO2 2.0〜 5%
TiO2 0 〜 3%
Al2O3 5.3〜8%
Sb2O3 0.1〜 0.5%
SnO2 0 〜 5%
MoO3 0 〜 3%
NiO 0 〜 2%
CoO 0 〜 3%
Cr2O3 0 〜 3%
の範囲の各成分を含有し、主結晶相は、(a)ニ珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)に加えて(b)α−クォーツであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のガラスセラミックス。 - 結晶相の結晶粒子はいずれも微細な球状粒子形状であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のガラスセラミックス。
- 結晶相の結晶粒子径(平均)が0.30μm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
- ガラス原料を溶融・成型および徐冷後、結晶化熱処理条件として、核形成温度=550℃〜650℃,核形成処理時間=1〜12時間、結晶成長温度=680℃〜800℃,核成長処理時間=1〜12時間の範囲で熱処理を行うことにより得られることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれか一つに記載のガラスセラミックスの製造方法。
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