JP4729743B2 - 電気化学的水素化ナトリウム製造方法および製造装置 - Google Patents

電気化学的水素化ナトリウム製造方法および製造装置 Download PDF

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本発明は、水素の吸蔵・発生材料として有用な水素化ナトリウム(NaH)を電気化学的に効率よく製造することができる方法、およびこの方法を実施するための装置に関するものである。
近い将来に実現する水素利用社会においては、水素の貯蔵・輸送用の水素吸蔵材料および水素発生材料として、水素化ナトリウムの利用が期待されている。
水素化ナトリウムは結晶性の固体であり、不活性雰囲気中等に安定に長期間貯蔵することが可能であり、また、輸送も高圧水素ガスや液化水素ガスの場合に比べて格段に容易となる。
水素化ナトリウムから水素を発生させるには、水素化ナトリウムを熱分解する方法が従来から行われている。しかしながら、水素化ナトリウム中の水素はわずか4質量%であるため、水素化ナトリウムの熱分解により発生した水素を利用するだけでは、水素の貯蔵・輸送効率が低く、さらには熱分解に際して熱エネルギーを別に供給する必要がある。
一方、水素化ナトリウムと水とを下記反応式(1)により反応させることによっても水素を発生させることができる。
NaH+H2O→NaOH+H2 …(1)
上記(1)式の反応により水素を発生させる際には、水由来の水素も利用可能となるため、熱分解の場合の2倍(8質量%相当)の水素を利用できるとともに、(1)式が発熱反応であることから、水素発生のために外部から熱エネルギーを供給する必要がないため、全体の水素利用効率が向上する。
水素化ナトリウムと水との上記(1)式の反応においては、水素とともに水酸化ナトリウムも生成するため、この水酸化ナトリウムからさらに水素化ナトリウムを再生できれば、水素利用効率をさらに向上させることが可能となる。
従来から、水素化ナトリウムは金属ナトリウムと水素との反応により製造されている。原料となる金属ナトリウムは、水酸化ナトリウムから下記反応式(2)によりカストナー法やβ−アルミナ電解法により製造し、得られた金属ナトリウムを水素と反応させることにより水素化ナトリウムを製造する方法が一般的に採用されている。
NaOH→Na+1/2H2O+1/4O2 …(2) (理論電解電圧:2.2V)
したがって、上記(1)式で生成した水酸化ナトリウムから水素化ナトリウムを再生しようとする場合、先ず水酸化ナトリウムから上記(2)式により金属ナトリウムを製造し、得られた金属ナトリウムと水素とを反応させて水素化ナトリウムを生成させる方法も可能であるが、この方法は2段階の反応が必要となるため、高効率化は困難である。
水酸化ナトリウムから水素化ナトリウムを製造する別な方法は、例えば特許文献1で提案されている。この方法は、水酸化ナトリウムの溶融物中に、酸素および水分の不存在下で、炭素化合物(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、廃油、廃ゴムなどの炭素質産業廃棄物材料)を混合し、420℃の水素化ナトリウム分解温度より高い温度、好ましくは650〜900℃に加熱し、次いで、反応媒体外で420℃以下の温度で反応生成物を分離することにより、水素化ナトリウムを製造するものである。
しかしながらこの方法においては、水素化ナトリウムとともに、炭素化合物由来の炭酸ナトリウムが反応生成物として生成するため、反応生成物中から炭酸ナトリウムを除去する必要がある。さらには、反応温度も水素化ナトリウムの分解温度以上の高温が必要となる。
特表2005−500237号公報
そこで本発明は、高温の熱源を必要とせず、水酸化ナトリウム以外の反応物も必要なく、水酸化ナトリウムから1段階の反応のみで直接水素化ナトリウムを高効率で製造できる方法、およびこの方法を実施するための装置を提供することを目的としてなされたものである。
本発明者らのこれまでの経験によれば、不活性雰囲気下で溶融状態のナトリウムと水酸化ナトリウムが混在する場合には、温度条件により水素ガスの発生または水素化ナトリウムの生成が起こることがわかっている。このことから、所定の温度条件で水酸化ナトリウムから酸素のみを分離し、ナトリウムと水素が過剰な状態を作れば下記反応式(3)により1段階の反応で水素化ナトリウムが生成する可能性が高いことを見出し、本発明を完成させたものである。
NaOH→NaH+1/2O2 …(3)
すなわち本発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる電解るつぼ内で水酸化ナトリウムを溶融保持し、不活性雰囲気中で水酸化ナトリウムを電気分解し、生成する酸素のみを電解るつぼ外へ分離することによって電解るつぼ内に水素化ナトリウムを生成させることを特徴とする電気化学的水素化ナトリウム製造方法である。
前記電解るつぼ内での水酸化ナトリウムの溶融保持温度は、水酸化ナトリウムの融点以上かつ水素化ナトリウムの熱分解温度以下の温度範囲とすることが望ましい。
また、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる前記電解るつぼとしては、ジルコニア系セラミックス製電解るつぼが好ましく使用できる。
さらに、上記の方法を実施するための本発明の電気化学的水素化ナトリウム製造装置は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなり内部に水酸化ナトリウムを収容する電解るつぼと、前記電解るつぼの内外面に取り付けた電解電極と、前記電解電極に直流電圧を印加する直流電源と、前記電解るつぼ内に収容した水酸化ナトリウムを加熱して溶融保持するためのヒーターと、前記電解るつぼ内に収容された水酸化ナトリウム上面を不活性雰囲気とするために不活性ガスからなるカバーガスを供給および排気する手段を備えたカバーとからなり、電解るつぼ内で水酸化ナトリウムを電気分解し、生成する酸素のみを電解るつぼ外へ分離し、電解るつぼ内で水素化ナトリウムを生成させるようにしたことを特徴とするものである。
上記の装置におけるヒーターとしては、電解るつぼ内の水酸化ナトリウムを水酸化ナトリウムの融点以上かつ水素化ナトリウムの熱分解温度以下の温度範囲に加熱できるものであることが望ましい。
また、前記電解るつぼは、ジルコニア系セラミックスからなることが望ましい。
本発明の方法によれば、従来方法の、水酸化ナトリウムを先ず金属ナトリウムとし、これを水素と反応させて水素化ナトリウムとする2段階の反応製法とは異なり、1段階の反応により水酸化ナトリウムから直接水素化ナトリウムを製造することができるため、高効率化が可能となる。
さらには、製造過程で水素ガスを使用あるいは発生させないため、水素ガス取り扱いが不要となり、水素ガス保管・供給設備、高圧水素ガス設備等が不要となるとともに安全性が飛躍的に向上する。
また、本発明の方法は電気化学的反応であるため、特許文献1による水酸化ナトリウムからの水素化ナトリウム製造方法が化学反応であるのに対して、比較的低温の熱源と電力を供給するだけでよい。
また、水素化ナトリウム以外の反応生成物は酸素ガスのみであるため、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる電解るつぼを使用することにより、製造過程で発生する酸素ガスの除去も極めて容易かつ効果的に行うことができる。
さらに、本発明の装置は、実質的に電解装置とヒーターから構成できるため、構造が簡単な装置を実現でき、安価な装置とすることができる。
図1は、本発明による電気化学的水素化ナトリウム製造装置の一実施例を示す断面概念図である。この装置の構成を説明するとともに本発明の方法を以下に説明する。
この装置は、電解るつぼ1とヒーター2とから構成されている。電解るつぼ1頂部は開放されており、この開放頂部はカバーガス空間を構成するカバー3により覆われており、カバー3にはカバーガスの供給口3aおよび排出口3bが設けられている。ヒーター2は、電解るつぼ2の側壁と底壁を間隙4を持たせて覆うように配設されている。これら電解るつぼ1、ヒーター2およびカバー3の全体は、外容器5内に封入されており、外容器5にはパージガスの供給口5aおよび排出口5bが設けられている。
電解るつぼ1は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなっており、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア等のジルコニア系セラミックスが好ましく使用できる。かような固体電解質は、約400℃以上の温度域で三酸化硫黄ガスや二酸化窒素ガスからの酸素の分離にも従来から使用されており、溶融状態の水酸化ナトリウムに対する耐腐食性を備えている。
固体電解質の内外面には、電圧印加のための白金メッキ等の電解電極1a、1bが形成されており、これらの電解電極1a、1bは外容器5外部に設置した直流電源6と電気的に接続されている。
この装置を用いて電気化学的に水素化ナトリウムを製造するに際しては、電解るつぼ1内に水酸化ナトリウムを仕込み、ヒーター2により水酸化ナトリウムの融点(約320℃)以上かつ水素化ナトリウムの熱分解温度(約450℃)以下の温度範囲で加熱することによって、電解るつぼ1内の水酸化ナトリウムを溶融保持する。かような温度範囲で上記反応式(3)により水素化ナトリウムが生成されることは、既存の熱力学データベース(MALT2等)を用いて確認することができる。この際、電解るつぼ1開放頂部のカバーガス空間は、ナトリウムおよび水素との反応を避けるために、アルゴン等の不活性ガスからなるカバーガスをカバーガス供給口3aおよび排出口3bから給排することにより不活性雰囲気とする。
この状態で、電解るつぼ1内外面の電極1a、1bを介して、直流電源6から水酸化ナトリウム電解電圧(約2.2V)以上の直流電圧を印加することにより、下記の電解反応が電解るつぼ1内で生じる。
NaOH+2e-→NaH+O2+
生成する酸素は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる電解るつぼ1を通して電解るつぼ1とヒーター2との間の間隙4へ透過し、パージガス供給口5aから外容器5内に導入されたアルゴン等の不活性ガスからなるパージガスによりパージされて、排出口5bからパージガスとともに外容器5外部へ排出される。かくして、水酸化ナトリウムの電解反応で生成する酸素のみを電解るつぼ1外へ分離することにより、電解るつぼ1内に水素化ナトリウムが生成する。
以上の説明からわかるように本発明によれば、水酸化ナトリウムから電気化学的に1段階の反応により直接水素化ナトリウムを高効率で製造することができる。得られた固体の水素化ナトリウムは、不活性雰囲気中等で安定に長期間貯蔵することが可能であり、輸送も高圧水素ガスや液体水素ガスの場合に比べて格段に容易となる。その結果、水素をエネルギー源として利用する消費地への輸送や貯蔵に極めて有用である。
本発明の装置の一実施例を示す断面概念図である。
符号の説明
1:電解るつぼ
1a,1b:電解電極
2:ヒーター
3:カバー
3a:カバーガス供給口
3b:カバーガス排出口
4:間隙
5:外容器
5a:パージガス供給口
5b:パージガス排出口
6:直流電源

Claims (6)

  1. 酸素イオン伝導性の固体電解質からなる電解るつぼ内で水酸化ナトリウムを溶融保持し、不活性雰囲気中で水酸化ナトリウムを電気分解し、生成する酸素のみを電解るつぼ外へ分離することによって電解るつぼ内に水素化ナトリウムを生成させることを特徴とする電気化学的水素化ナトリウム製造方法。
  2. 前記電解るつぼ内での水酸化ナトリウムの溶融保持温度を、水酸化ナトリウムの融点以上かつ水素化ナトリウムの熱分解温度以下の温度範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的水素化ナトリウム製造方法。
  3. 酸素イオン伝導性の固体電解質からなる前記電解るつぼとして、ジルコニア系セラミックス製電解るつぼを使用することを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学的水素化ナトリウム製造方法。
  4. 酸素イオン伝導性の固体電解質からなり内部に水酸化ナトリウムを収容する電解るつぼと、前記電解るつぼの内外面に取り付けた電解電極と、前記電解電極に直流電圧を印加する直流電源と、前記電解るつぼ内に収容した水酸化ナトリウムを加熱して溶融保持するためのヒーターと、前記電解るつぼ内に収容された水酸化ナトリウム上面を不活性雰囲気とするために不活性ガスからなるカバーガスを供給および排気する手段を備えたカバーとからなり、電解るつぼ内に溶融保持された水酸化ナトリウムを電気分解し、生成する酸素のみを電解るつぼ外へ分離し、電解るつぼ内に水素化ナトリウムを生成させるようにしたことを特徴とする電気化学的水素化ナトリウム製造装置。
  5. 前記ヒーターは、電解るつぼ内の水酸化ナトリウムを水酸化ナトリウムの融点以上かつ水素化ナトリウムの熱分解温度以下の温度範囲に加熱できるものであることを特徴とする請求項4に記載の電気化学的水素化ナトリウム製造装置。
  6. 前記電解るつぼがジルコニア系セラミックスからなることを特徴とする請求項4または5に記載の電気化学的水素化ナトリウム製造装置。
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