本発明の実施の形態について、図1〜図10を参照して説明する。図1は本発明の電動機の制御装置の全体構成図、図2は図1に示した2重ロータを備えたDCブラシレスモータの構成図、図3及び図4は外側ロータと内側ロータの位相差を変更することによる効果の説明図、図5はdq座標系における電圧ベクトル図、図6は誘起電圧定数とq軸電機子のインダクタンスからロータ位相差を決定するマップの説明図、図7,図8は電動機の各相の電機子の端子間電圧の合成ベクトルを目標電圧円に近づける処理のフローチャート、図9は界磁弱め及び電源電圧の上昇による効果の説明図、図10は界磁強め及び電源電圧の低下による効果の説明図である。
図1を参照して、本実施の形態の電動機の制御装置(以下、電動機制御装置という)は、電動機1を界磁方向をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とした2相直流の回転座標系による等価回路に変換して扱い、外部から与えられるトルク指令Tr_cに応じたトルクが出力されるように、電動機1の通電制御を行うものである。
電動機1は、永久磁石型の複数の界磁を有する内側ロータ11と外側ロータ12を有し、アクチュエータ25により、内側ロータ11と外側ロータ12間の位相差を変更することで、電動機1の誘起電圧定数を変更することができる。ここで、図2〜図4を参照して、電動機1の構成について説明する。
図2に示したように、電動機1は、永久磁石11a,11bの界磁が周方向に沿って等間隔に配置された内側ロータ11と、永久磁石12a,12bの界磁が周方向に沿って等間隔に配置された外側ロータ12と、内側ロータ11及び外側ロータ13に対する回転磁界を発生させるための電機子10aを有するステータ10とを備えたDCブラシレスモータである。なお、内側ロータ11と外側ロータ12のうちの一方が本発明の第1ロータに相当し、他方が本発明の第2ロータに相当する。
内側ロータ11と外側ロータ12は、共に回転軸が電動機1の回転軸2と同軸となるように同心円状に配置されている。そして、内側ロータ11においては、N極を回転軸2側とする永久磁石11aとS極を回転軸2側とする永久磁石11bが交互に配置されている。同様に、外側ロータ12においても、N極を回転軸2側とする永久磁石12aとS極を回転軸2側とする永久磁石12bが交互に配置されている。
そして、電動機1は、外側ロータ12と内側ロータ11の位相差であるロータ位相差を変更するために、遊星歯車機構等の相対回転機構(図示しない)を備えており、該相対回転機構をアクチュエータ25(図1参照)により作動させることによって、ロータ位相差を変更することができる。なお、アクチュエータ25としては、例えば電動機や油圧によるものを用いることができる。
また、外側ロータ12と内側ロータ11の位相差は、少なくとも電気角で180度の範囲で進角側又は遅角側に変更可能に構成され、電動機1の状態は、外側ロータ12の永久磁石12a,12bと内側ロータ11の永久磁石11a,11bが同極同士を対向して配置された界磁弱め状態と、外側ロータ12の永久磁石12a,12bと内側ロータ11の永久磁石11a,11bが異極同士を対向して配置された界磁強め状態との間で、適宜設定可能となっている。
図3(a)は界磁強め状態を示しており、外側ロータ12の永久磁石12a,12bの磁束Q2と内側ロータ11の永久磁石11a,11bの磁束Q1の向きが同一であるため、合成された磁束Q3が大きくなる。一方、図3(b)は界磁弱め状態を示しており、外側ロータ12の永久磁石12a,12bの磁束Q2と内側ロータ11の永久磁石11a,11bの磁束Q1の向きが逆であるため、合成された磁束Q3が小さくなる。
図4は、図3(a)の状態と図3(b)の状態において、電動機1を所定回転数で作動させた場合にステータ10の電機子に生じる誘起電圧を比較したグラフであり、縦軸が誘起電圧(V)に設定され、横軸が電気角(度)に設定されている。図中aが図3(a)の状態(界磁強め状態)であり、bが図3(b)の状態(界磁弱め状態)である。図4から、外側ロータ12と内側ロータ11の位相差を変更することで、生じる誘起電圧のレベルが大幅に変化していることがわかる。
そして、このように、外側ロータ12と内側ロータ11の位相差を変更して、界磁の磁束を増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keを変化させることができる。これにより、誘起電圧定数Keが一定である場合に比べて、電動機1の出力及び回転数に対する運転可能領域を拡大することができる。また、dq座標変換により、d軸(界磁軸)側の電機子に通電して界磁弱め制御を行う場合に比べて、通電による電動機1の損失が減少するため、電動機1の効率を高めることができる。
次に、図1を参照して、電動機制御装置は、バッテリ150(本発明の直流電源に相当する)、バッテリ150の出力電圧を昇圧/降圧するDC/DCコンバータ151(本発明の出力電圧変更手段に相当する)、DC/DCコンバータ151から直流電力が供給され、3相(U,V,W)の交流駆動電圧を生成して電動機1に出力するインバータ62(本発明のインバータ回路に相当する)、及び電動機1の電機子に流れる電流を検出する電流センサ70,71を供えている。
また、電動機制御装置は、トルク指令Tr_cと電動機1の外側ロータ12と内側ロータ11の位相差(以下、ロータ位相差という)の推定値θd_eとに基づいて、電動機1のd軸側の電機子(以下、d軸電機子という)に流れる電流(以下、d軸電流という)の指令値Id_cと、q軸側の電機子(以下、q軸電機子という)に流れる電流(以下、q軸電流という)の指令値Iq_cとを決定する電流指令値決定部60、電流センサ70,71により検出されてバンドパスフィルタ72により不要成分が除去された電流検出信号と、レゾルバ73により検出された外側ロータ12のロータ角度θrとに基づいて、3相/dq変換によりd軸電流の検出値Id_sとq軸電流の検出値Iq_sとを算出する3相/dq変換部75、d軸電流の指令値Id_cと検出値Id_sの偏差ΔId及びq軸電流の指令値Iq_cと検出値Iq_sの偏差ΔIqを減少させるように、d軸電機子の端子間電圧(以下、d軸電圧という)の指令値Vd_cとq軸電機子の端子間電圧(以下、q軸電圧という)の指令値Vq_cとを決定する通電制御部50(本発明の通電制御手段に相当する)、及びd軸電圧の指令値Vd_cとq軸電圧の指令値Vq_cを大きさV1と角度θ1の成分に変換してインバータ62aに出力するrθ変換部61を備えている。
通電制御部50は、d軸電流の指令値Id_cに補正値ΔId_volを加算する加算器51、該補正値ΔId_volが加算されたd軸電流の指令値Id_caとd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔIdを算出する減算器52、該偏差ΔIdを解消するための電圧Vd_c1を算出するd軸電流制御部53、Id_caとIq_cとに基づいて、d軸とq軸間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための成分(非干渉成分)を算出する非干渉制御部56、Vd_c1から非干渉制御部56により算出された非干渉成分を減じてd軸電圧の指令値Vd_cを算出する減算器54、q軸電流の指令値Iq_cと検出値Iq_sとの偏差ΔIqを算出する減算器55、該偏差ΔIqを解消するための電圧Vq_c1を算出するq軸電流制御部57、及びVq_c1に非干渉成分を加えてq軸電圧の指令値Vq_cを算出する加算器58を備えている。
また、電動機制御装置は、d軸電圧の指令値Vd_c及びq軸電圧の指令値Vq_cとd軸電流の検出値Id_s及びq軸電流の検出値Iq_sと電動機1の角速度の検出値ω_s(図示しない角速度検出手段により検出される)とに基づいて、電動機1の誘起電圧定数Keとq軸電機子のインダクタンスLqとを算出する定数算出部63、誘起電圧定数Keに基づいてロータ位相差の推定値θd_eを求めるロータ位相差推定部64、電圧検出器152によるDC/DCコンバータ151の出力電圧Vdcの検出値Vdc_sから後述する目標電圧円の半径Vp_target(本発明の目標電圧に相当する)を算出する目標電圧円算出部90、d軸電圧の指令値Vd_cとq軸電圧の指令値Vq_cから後述する実電圧円の半径Vp(本発明の相電圧に相当する)を算出する実電圧円算出部92(本発明の相電圧把握手段に相当する)、目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの差ΔVpを算出する減算器91、ΔVpに基づいて誘起電圧定数の指令値Ke_cを決定する誘起電圧定数指令値決定部93、誘起電圧定数の指令値Ke_cに対応したロータ位相差θd_c1を取得するロータ位相差取得部95、該θd_c1とロータ位相差の推定値θd_eとの差Δθdを算出する減算器96、該Δθdに基づいてロータ位相差の指令値θd_cを決定するロータ位相差指令値決定部97を備えている。
なお、誘起電圧定数指令値決定部93、ロータ位相差取得部95、減算器96、及びロータ位相差指令値決定部97により、本発明のロータ位相差制御手段が構成される。また、誘起電圧定数指令値決定部93、ロータ位相差取得部95、減算器96、及びロータ位相差指令値決定部97により、目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの差ΔVpを減少させるようにロータ位相差の指令値θd_cを決定する処理が、本発明のロータ位相差変更処理に相当する。
さらに、電動機制御装置は、Vp_targetとVpとの差ΔVp及び誘起電圧定数の指令値Ke_cに基づくPI(比例、積分)制御により、該差ΔVpを減少させるようにDC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cを決定する直流電圧指令値決定部120(本発明の直流電圧制御手段に相当する)、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cと検出値Vdc_sとの偏差ΔVdcを算出する減算器122、及びVdc_cと該偏差ΔVdcに基づくPI(比例、積分)制御により該偏差ΔVdcを減少させるための界磁弱め電流の補正値ΔId_volを決定する界磁弱め電流補正値決定部121(本発明の界磁弱め電流制御手段に相当する)を備えている。
なお、直流電圧指令値決定部120により、目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの差ΔVpを減少させるように、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cを決定する処理が、本発明の直流電圧変更処理に相当する。また、界磁弱め電流補正値決定部121により、目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの差ΔVpを減少させるための界磁弱め電流の補正値ΔId_volを決定する処理が、本発明の界磁弱め電流変更処理に相当する。
また、電動機制御装置は、トルク指令Tr_cの変化率、及びVp_targetとVpとの偏差ΔVpの大きさに応じて、誘起電圧定数指令値算出部93による「ロータ位相差変更処理」の許可と禁止を指示するためのフラグF1、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」の許可と禁止を指示するためのフラグF2、及び界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」の許可と禁止を指示するためのフラグF3をON/OFFするフラグ設定判定部110(本発明のトルク指令判定手段と電圧判定手段の機能を含む)を備えている。
次に、図5はdq座標系における電流と電圧の関係を示したものであり、縦軸がq軸(トルク軸)に設定され、横軸がd軸(界磁軸)に設定されている。図中Cは目標電圧円算出部90によってその半径Vp_targetが算出される目標電圧円である。Vp_targetは例えばVdc×0.5に設定され、或いは正弦波変調に対応したVdc/61/2に設定される。
図中Eは電動機1の回転によりq軸電機子に生じる逆起電力、ωは電動機1の角速度、Rはd軸電機子及びq軸電機子の抵抗、Lqはq軸電機子のインダクタンス、Ldはd軸電機子のインダクタンス、Vdはd軸電圧、Vqはq軸電圧、Idはd軸電流、Iqはq軸電流である。
ここで、図5のq軸側の成分について、以下の式(1)の関係が成立するため、以下の式(2)から電動機1の誘起電圧定数Keを算出することができる。
但し、Ke:誘起電圧定数、ω:電動機の角速度、R:q軸電機子及びd軸電機子の抵抗、Iq:q軸電流、Vq:q軸電機子の端子間電圧、Ld:d軸電機子のインダクタンス、Id:d軸電流。
また、図7のd軸側の成分について、以下の式(3)の関係が成立するため、以下の式(4)からq軸電機子のインダクタンスLqを算出することができる。
但し、Vd:d軸電機子の端子間電圧、Lq:q軸電機子のインダクタンス。
そこで、定数算出部63は、q軸電圧の指令値Vq_c、電動機1の角速度の検出値ω_s、d軸電流の検出値Id_s、及びq軸電流の検出値Iq_sを、上記式(2)のVq、ω、Id、及びIqにそれぞれ代入して、誘起電圧定数Keを算出する。また、定数検出部63は、d軸電圧の指令値Vd_c、電動機1の角速度の検出値ω_s、q軸電流の検出値Iq_s、及びd軸電流の検出値Id_sを、上記式(4)のVd、ω、Iq、及びIdにそれぞれ代入して、q軸電機子のインダクタンスLqを算出する。なお、d軸電機子のインダクタンスLdとd軸電機子及びq軸電機子の抵抗Rは、予め設定されてメモリ(図示しない)に記憶された固定値が用いられる。
また、メモリには、図6(a)に示したLq,Ke/θdの対応マップのデータも記憶され、ロータ位相差推定部64は、該Lq,Ke/θdの対応マップに、定数算出部63により算出されたq軸電機子のインダクタンスLqと誘起電圧定数Keを適用して、ロータ位相差θdの推定値θd_eを取得する。
なお、図6(b)に示したKe/θdの対応マップのデータをメモリに記憶し、該Ke/θdの対応マップに、定数算出部63により算出された誘起電圧定数Keを適用して、ロータ位相差θdの推定値θd_eを取得するようにしてもよい。この場合はq軸電機子のインダクタンスLqは不要である。
そして、電流指令値決定部60は、予めメモリに記憶されたTr,θd/Id,Iqの対応マップに、トルク指令Tr_cとロータ位相差の推定値θd_eを適用して、対応するId,Iqを取得し、該取得したId,Iqをそれぞれd軸電流の指令値Id_c及びq軸電流の指令値Iq_cとして決定する。
次に、電動機制御装置は、目標電圧円算出部90により算出される目標電圧円の半径Vp_target(本発明の目標電圧に相当する)と、実電圧円算出部92により算出される実電圧円の半径Vp(=√(Vd_c2+Vq_c2)、本発明の相電圧に相当する)との差を減少させて、Vpが目標電圧円Cの周上をトレースするように、(a)ロータ位相差θdを変更してVpを変更する「ロータ位相差変更処理」と、(b)DC/DCコンバータ151の出力電圧Vdcを変更する「直流電圧変更処理」と、(c)d軸電流Idを変更してVpを変更する「界磁弱め電流変更処理」とを実行する。
以下、図7及び図8に示したフローチャートに従って、電動機制御装置により、目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの差を減少させる制御について説明する。図7のSTEP1はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、トルク指令Tr_cの変化率(単位時間あたりのTr_cの変化量)ΔTr_cが、予め設定された上限値ΔTr_clmt以上(ΔTr_clmt≦ΔTr_c)であるか否か、及び目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの偏差ΔVpが予め設定された上限電圧ΔVp_lmt以上(ΔVp_lmt≦ΔVp)であるか否かを判断する。
そして、トルク指令Tr_cの変化率ΔTr_cが上限変化率ΔTr_clmt以上であるとき、又は目標電圧Vp_targetと相電圧Vpとの偏差ΔVpが上限電圧ΔVp_lmt以上であるときは、STEP2に進み、それ以外の場合(ΔTr_c<Tr_lmt 且つ ΔVp<ΔVp_lmtの場合)は図8のSTEP20に進む。
STEP2で、フラグ設定判定部110は、フラグF1をOFFし、フラグF2をONすると共にフラグF3をOFFする。これにより、誘起電圧定数指令値決定部93による「ロータ位相差変更処理」と界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」が禁止され、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」の実行が許可される。
この場合、アクチュエータ25により機械的に行われて処理時間が長くなるために応答性が低い「ロータ位相差変更処理」よりも、電気的に行われて処理時間が短いために応答性が高い「直流電圧変更処理」が優先して実行される。そのため、トルク指令Tr_cが急激に変化したとき(ΔTr_clmt≦ΔTr_c)、及び相電圧Vpと目標電圧半径Vp_targetとの偏差ΔVpが拡大したとき(ΔVp_lmt≦ΔVp)に、応答性を優先させて該偏差ΔVpを速やかに減少させることができる。
STEP3〜STEP4及びSTEP10は、直流電圧指令値決定部120による処理であり、直流電圧指定値決定部120は、STEP3で相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも低いか否かを判断する。そして、相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも低いときはSTEP4に進み、相電圧VpがVp_target以上であるときにはSTEP10に分岐する。
STEP4は、目標電圧Vp_targetを減少させて相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpを減少させる「直流電圧変更処理」であり、直流電圧指令値決定部120は、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cを減少させる。これにより、DC/DCコンバータ151の出力電圧が低下して、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpが減少する。
一方、STEP10は、目標電圧Vp_targetを増加させて相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpを減少させる「直流電圧変更処理」であり、直流電圧指令値決定部120は、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cを増加させる。これにより、DC/DCコンバータ151の出力電圧が上昇して、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpが減少する。
続くSTEP11〜STEP12はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、STEP11でDC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cが、DC/DCコンバータ151の出力電圧範囲の上限Vdc_max以上であるか否かを判断する。
そして、Vdc_cがVdc_maxよりも低いときは、「直流電圧変更処理」により相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに一致させることができているため、STEP5に分岐して電動機制御手段は処理を終了する。一方、Vdc_cがVdc_max以上であるときは、DC/DCコンバータ151の出力電圧を上限Vdc_maxまで上昇させても、相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに一致させることができない状況となっている。
そのため、この場合はSTEP12に進み、フラグ設定判定部110は、フラグF2をOFFすると共にフラグF3をONする。これにより、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」が禁止されて、界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」の実行が許可される。
そして、STEP13で、界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」が実行されて界磁弱め電流の補正値ΔId_volが増加し、これにより、d軸電流Idが増加してq軸電機子の端子間電圧が減少し、相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに近づけることができる。
次に、図8のSTEP20はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、フラグF1をONすると共に、フラグF2及びフラグF3をOFFする。これにより、誘起電圧定数指令値決定部93による「ロータ位相差変更処理」が許可され、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」及び界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」が禁止される。
このように、図7のSTEP1で、トルク指令の変化率ΔTr_cが上限変化率ΔTr_clmtよりも小さく、且つ、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpが上限電圧ΔVp_lmtよりも低いときには、応答性はさほど要求されないため、「ロータ位相差変更処理」を優先的に実行することで、効率を優先して電動機1を作動させることができる。
続くSTEP21〜STEP22及びSTEP30は、誘起電圧定数指令値決定部93による処理であり、誘起電圧定数指令値決定部93は、STEP21で相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも低いか否かを判断する。そして、相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも低いときはSTEP22に進み、相電圧Vpが目標電圧Vp_target以上であるときにはSTEP30に分岐する。
STEP22は、相電圧Vpを増加させて相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpを減少させる「ロータ位相差変更処理」であり、誘起電圧定数指令値決定部93は、ロータ位相差の指令値θd_cを減少させる。ここで、上述したように、電動機1の誘起電圧定数Keはロータ位相差θdが0度のときに最大となり、ロータ位相差θdが大きくなるに従って減少する。そのため、ロータ位相差の指令値θd_cを減少させることで、誘起電圧定数Keを増大させてq軸電機子に生じる逆起電圧を低下させることができる。これにより、相電圧Vpを増加させて相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpを減少させることができる。
次のSTEP12はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、ロータ位相差の指令値θd_cがロータ位相差θdの可変範囲の下限θd_min以下であるか否かを判断する。そして、θd_cがθd_min以下であるときは、「ロータ位相差変更処理」により相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに一致させることができない状況にある。
そこで、この場合はSTEP24に進み、フラグ設定判定部110は、フラグF1をOFFすると共にフラグF2をONする。これにより、誘起電圧定数指令値決定部93による「ロータ位相差変更処理」が禁止され、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」が許可される。
続くSTEP25は直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」であり、直流電圧指令値決定部120は、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指定値Vdc_cを減少させる。これにより、DC/DCコンバータ151の出力電圧が低下して、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpが減少する。そして、STEP26に進んで、電動機制御装置は処理を終了する。
一方、STEP23で、ロータ位相差の指令値θd_cがロータ位相差θdの可変範囲の下限θd_minよりも大きいときには、「ロータ位相差変更処理」により相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに一致させることができているため、STEP26に分岐して、電動機制御装置は処理を終了する。
また、STEP30は、相電圧Vpを減少させて相電圧VpとVp_targetとの差を減少させる「ロータ位相差変更処理」であり、誘起電圧定数指令値決定部93は、ロータ位相差の指令値θd_cを増加させる。ロータ位相差の指令値θd_cを増加させることで、誘起電圧定数Keを減少させてq軸電機子に生じる逆起電力を低下させることができる。これにより、相電圧Vpを減少させて相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差を減少させることができる。
続くSTEP31〜STEP32はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、STEP31でロータ位相差の指令値θd_cがロータ位相差の可変範囲の上限であるθd_max以上であるか否かを判断する。そして、θd_cがθd_maxよりも小さいときは、「ロータ位相差変更処理」により相電圧VpをVp_targetに一致させることができているため、STEP25に進んで電動機制御手段は処理を終了する。
一方、STEP31でθd_cがθd_max以上であるときには、「ロータ位相差変更処理」によりロータ位相差θdをθd_maxとしても、相電圧VpをVp_targetに一致させることができない状況にある。そこで、この場合は、STEP32で、フラグ設定判定部110はフラグF1をOFFすると共にフラグF2をONする。これにより、誘起電圧定数指令値決定部93による「ロータ位相差変更処理」が禁止されて、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」が許可される。
続くSTEP33は直流電圧指令値決定部120による処理であり、直流電圧指令値決定部120は、「直流電圧変更処理」を実行して、DC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cを増加させる。これにより、目標電圧Vp_targetが増加して相電圧VpとVp_targetの差ΔVpが減少する。
次のSTEP34〜STEP35はフラグ設定判定部110による処理であり、フラグ設定判定部110は、STEP34でDC/DCコンバータ151の出力電圧の指令値Vdc_cが、DC/DCコンバータ151の出力可変範囲の上限であるVdc_max以上となっているか否かを判断する。
そして、Vdc_cがVdc_maxよりも低いときは、「直流電圧変更処理」により相電圧Vpを目標電圧Vp_targetに一致させることができているため、STEP25に分岐して電動機制御手段は処理を終了する。一方、Vdc_cがVdc_max以上であるときには、DC/DCコンバータ151の出力電圧をVdc_maxまで上昇させても、相電圧VpをVp_targetに一致させることができない状況にある。そこで、この場合は、STEP35で、フラグ設定判定部110は、フラグF2をOFFすると共にフラグF3をONする。
これにより、直流電圧指令値決定部120による「直流電圧変更処理」が中止され、界磁弱め電流補正値決定部121による「界磁弱め電流変更処理」が許可される。続くSTEP35は界磁弱め電流補正値決定部121による処理であり、界磁弱め電流補正値決定部121は、界磁弱め電流の補正値ΔId_volを増加させる「界磁弱め電流変更処理」を実行する。ΔId_volの増加により、q軸電圧が低下して相電圧Vpが減少するため、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの差ΔVpを減少させることができる。
次に、図9及び図10を参照して、図7〜図8に示したフローチャートによる「ロータ位相差変更処理」、「直流電圧変更処理」、及び「界磁弱め電流変更処理」の効果について説明する。
図9(a)は相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも大きい(Vpが目標電圧円Cの外側にある)場合であり、この場合は、インバータ回路62から電動機1への通電量が制限されて、電動機1の通電制御が妨げられる。そこで、電動機制御装置は、「ロータ位相差変更処理」によりロータ位相差θdを界磁の磁束を減少させる方向(ロータ位相差を大きくして界磁を弱める方向)に変更する。これにより、電動機1の誘起電圧定数Keが減少し、誘起電圧定数Keが減少した分、q軸電機子で発生する逆起電力Eが小さくなる。その結果、図9(b)に示したように、相電圧Vpが目標電圧円Cの円周に近づく。
また、電動機制御装置は、「直流電圧変更処理」によりDC/DCコンバータ151の出力電圧Vdcを上昇させる。これにより、目標電圧円算出部90で算出されるVp_targetが大きくなり、その結果、図9(c)に示したように、目標電圧円Cが拡大して相電圧Vpが目標電圧円Cにさらに近づく。
さらに、電動機制御装置は、「界磁弱め電流変更処理」によりd軸電流を増加させる。これにより、図9(d)に示したように、相電圧Vpが目標電圧円Cの円周上に至っている。このようにして、相電圧Vpを目標電圧円Cに近づけることにより、インバータ62aから電動機1への通電量を増加させることができるため、電動機1に対する通電量の制限を回避することができる。
次に、図10(a)は相電圧Vpが目標電圧Vp_targetよりも小さい(Vpが目標電圧円Cの内側にある)場合であり、この場合は、インバータ回路62におけるスイッチング処理に伴う電力損失が大きくなる。そこで、電動機制御装置は、「ロータ位相差変更処理」によりロータ位相差θdを界磁の磁束を増大させる方向(ロータ位相差を小さくして界磁を強める方向)に変更する。これにより、電動機1の誘起電圧定数Keが増大し、誘起電圧定数Keが増大した分、q軸電機子で発生する逆起電力Eが大きくなる。その結果、図10(b)に示したように、相電圧Vpが目標電圧円Cの円周に近づく。
また、電動機制御装置は、「直流電圧変更処理」によりDC/DCコンバータ151の出力電圧Vdcを低下させる。これにより、目標電圧円算出部90で算出されるVp_targetが小さくなり、その結果、図10(c)に示したように、目標電圧円Cが縮小して相電圧Vpが目標電圧円Cにさらに近づき、目標電圧円Cの円周上に至っている。
このように、相電圧Vpを目標電圧円Cに近づけることにより、インバータ回路62におけるスイッチング処理に伴う電力損失を減少させることができる。また、電動機1に供給される電流に重畳するリップル電流が低減して電動機1で生じる銅損が減少し、さらに、高次周波数の電流の重畳が低減するため、電動機1で生じる鉄損も減少するという効果を得ることができる。
そして、図7〜図8のフローチャートにおいては、図7のSTEP1で、トルク指令Tr_cの変化率ΔTr_cが上限変化率ΔTr_clmt以上であるとき、又は相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの偏差ΔVpが上限電圧ΔVp_lmt以上であるときは、STEP2〜STEP4及びSTEP10〜STEP13により、「ロータ位相差変更処理」を禁止して、「直流電圧変更処理」→「界磁弱め電流変更処理」の順に実行する。
この場合、機械的な処理によるため指令値の変更に対する応答速度が遅い「ロータ位相差変更処理」を禁止して、電気的な処理によるため指令値に対する応答速度が速い「直流電圧変更処理」及び「界磁弱め電流変更処理」を実行することで、相電圧Vpを速やかにVp_targetに近づけることができる。また、「直流電圧変更処理」を「界磁弱め電流変更処理」よりも優先して実行することで、d軸電流の増加による電動機1の損失の増加を抑えることができる。
一方、図7のSTEP1で、トルク指令Tr_cの変化率ΔTr_cが上限変化率ΔTr_clmtよりも小さく、且つ、相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの偏差ΔVpが上限電圧ΔVp_lmtよりも小さいときには、電動機制御装置は、図8のSTEP20〜STEP25及びSTEP30〜STEP36により、「ロータ位相差変更処理」→「直流電圧変更処理」→「界磁弱め電流変更処理」の順に実行する。
この場合、「ロータ位相差変更処理」を、d軸電流の増加による銅損の増加を伴う「界磁弱め電流変更処理」及びDC/DCコンバータ151における電力損失の増加が生じ得る「直流電圧変更処理」よりも優先的に実行することで、電動機1及びDC/DCコンバータ151の損失低減を優先して、電動機1の通電制御を行うことができる。
なお、本実施の形態では、図7のSTEP1で、(1)トルク指令Tr_cの変化率ΔTr_cが上限変化率ΔTr_clmt以上であるとき、又は(2)相電圧Vpと目標電圧Vp_targetとの偏差ΔVpが上限電圧ΔVp_lmt以上であるときに、STEP2以下で「ロータ位相差変更処理」を禁止して、「直流電圧変更処理」及び「界磁弱め電流変更処理」を実行したが、該(1)と(2)のいずれかの条件が成立したときにのみ、「ロータ位相差変更処理」を禁止するようにしてもよい。
また、本実施の形態では、「直流電圧変更処理」及び「界磁弱め電流変更処理」を実行したが、「直流電圧変更処理」と「界磁弱め電流変更処理」のうちのいずれか一方のみを実行するようにしてもよい。
また、本実施の形態では、「直流電圧変更処理」を「界磁弱め電流変更処理」よりも優先的に実行したが、かかる優先順位を設けない場合にも本発明の効果を得ることができる。
また、本実施の形態では、本発明の電動機の制御装置として、電動機1を2相直流の回転座標であるdq座標系による等価回路に変換して扱うものを示したが、2相交流の固定座標系であるαβ座標系による等価回路に変換して扱う場合や、3相交流のまま扱う場合においても、本発明の適用が可能である。
1…電動機、10…ステータ、11…内側ロータ、11a,11b…永久磁石、12…外側ロータ、12a,12b…永久磁石、25…アクチュエータ、50…通電制御部、60…電流指令値決定部、62…インバータ、93…誘起電圧定数指令値決定部、110…フラグ設定判定部、120…直流電圧指令値決定部、121…界磁弱め電流補正値決定部、150…バッテリ、151…DC/DCコンバータ