JP4721826B2 - バッテリ状態管理装置 - Google Patents

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Description

本発明は、バッテリ(本明細書では、鉛バッテリのことを指す)の状態を管理するバッテリ状態管理装置及び管理方法に関する。
バッテリの状態評価を行うための従来技術としては、バッテリの出力電圧に対して、エンジンの始動が可能な最低限の電圧レベルを示す所定の基準電圧レベルを設定し、その閾値レベルとバッテリの出力電圧との関係に基づいて、バッテリの状態評価を行いものがある。
ところで、ユーザーの価値観の多様化等により、車両(自動車)には様々な車種・車格が存在する。そして、これらの車種・車格に応じて、搭載されるエンジンやスタータの種類が異なる。このように、エンジンやスタータの種類が異なると、始動時における適正なスタータのトルク、ひいては適正なスタータの必要電圧が異なるはずである。
しかしながら、従来においては、エンジンやスタータの種類を考慮せずに、一律に上記基準電圧レベルを設定していたため、正確なバッテリの状態評価を行うことが困難であった。
仮に正確なバッテリの状態評価を行おうとすると、車両にエンジンやスタータを実際に搭載した後に、バッテリの状態を変化させたり、状態の異なるバッテリを交換したりしながら、スタータが正常に起動してエンジンを点火できるバッテリの最低限の状態を試験的に求めなければならず、多大な労力とコストを要するなど不利が多い。
そこで、本発明の課題は、様々な車種・車格の車両に容易に対応し得るバッテリ状態管理装置を提供することにある。
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、車両に搭載されるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、始動に必要なエンジンの最低限の回転数である最低始動回転数を記憶した第1の記憶手段と、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、クランキングに伴って前記電圧検出手段を介して検出される前記バッテリの前記出力電圧の振る舞いと、前記第1の記憶手段に記憶されている前記最低始動回転数と、前記回転数検出手段を介して検出されるクランキング時の前記エンジンのクランキング回転数とに基づいて、基準レベル設定のための基準電圧値aを導出する基準電圧導出手段と、前記電圧検出手段を介して前記バッテリの開放電圧値bと検出し、前記バッテリの開放電圧に変数xを割り当て、スタータ始動時の突入電流により前記バッテリの前記出力電圧が低下したときの前記出力電圧の値である下限電圧に変数yを割り当て、直線設定用関係式
y=(a/b)・x
で与えられる評価基準ラインを設定する評価基準設定手段と、前記電圧検出手段を介して検出した開放電圧及び下限電圧の各値と、前記評価基準ラインとの関係に少なくとも基づいて、前記バッテリの状態を評価する状態評価手段とを備える。
また、請求項2の発明では、請求項1の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記基準電圧値aは、前記クランキング回転数が前記最低始動回転数により定められる値で前記エンジンが始動したときに前記下限電圧が取るであろう予測値に対応している。
また、請求項3の発明では、請求項1又は2の発明に係るバッテリ状態管理装置において、略新品のバッテリの開放電圧と下限電圧との関係を表す電圧関係情報と、前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値とが記憶された第2の記憶手段をさらに備え、前記状態評価手段は、使用中の前記バッテリの前記開放電圧である使用後開放電圧値と前記下限電圧値である使用後放電時電圧時とを前記電圧検出手段を介して計測し、前記第2の記憶手段に記憶された前記電圧関係情報によって与えられる前記開放電圧と前記下限電圧の関係において、前記下限電圧が前記使用後下限電圧値と等しい値であるときの前記開放電圧の値を対応基準開放電圧値として導出し、前記直線設定用関係式によって与えられるグラフ情報と前記電圧関係情報によって与えられるグラフ情報との交点に対応する開放電圧の値を最低基準開放電圧値として導出し、使用中の前記バッテリの開放電圧の下限基準なとなる最低使用後開放電圧値を、前記初期基準開放電圧値から前記最低基準開放電圧値を引いた値に対する前記初期基準開放電圧値から前記最低使用後開放電圧値を引いた値の比が前記初期基準開放電圧値から前記対応基準開放電圧値を引いた値に対する前記初期基準開放電圧値から前記使用後開放電圧値を引いた値の比と等しくなるようにして導出し、前記初期基準開放電圧値と前記最低使用後開放電圧値との差である基準差分値と、前記使用後開放電圧値と前記最低使用後開放電圧値との差である使用後差分値とを比較することにより、使用中の前記バッテリの充電残量を検出する。
また、請求項4の発明では、請求項2の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記基準電圧導出手段は、前記クランキング回転数と前記スタータにて生じる逆起電力電圧の大きさとが略比例関係にあるという特性を利用し、前記電圧検出手段を介して検出した前記バッテリの開放電圧及び前記下限電圧と、クランキング時に前記電圧検出手段を介して検出した前記出力電圧である始動時出力電圧と、前記クランキング時に前記回転数検出手段により検出された前記クランキング回転数と、前記記憶手段に記憶されている前記最低始動回転数とに基づいて、前記基準電圧値aを導出する。
また、請求項5の発明では、請求項2又は4の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記基準電圧導出手段は、前記開放電圧(VO)、前記下限電圧(VL)、前記始動時出力電圧(VC)、前記クランキング回転数(rc)及び前記最低始動回転数(re)を、基準電圧導出用関係式
Figure 0004721826
に代入して演算することにより、前記基準電圧値aを導出する。
また、請求項6の発明では、請求項3の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記略新品のバッテリの開放電圧がそのバッテリの充電残量に応じて変化した際に、前記開放電圧の変化に対する前記略新品のバッテリの内部抵抗の変化態様を表す抵抗変化情報を記憶する第3の記憶手段と、電圧関係導出手段とをさらに備え、前記電圧関係導出手段は、前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値と、スタータに接続して突入電流が流れたときの前記略新品のバッテリの出力電圧である初期基準下限電圧値とを前記電圧検出手段を介して計測し、前記初期基準開放電圧値を前記第2の記憶手段に記憶させ、横軸及び縦軸に前記開放電圧及び前記下限電圧を採用した2次元座標上における前記初期基準開放電圧値及び前記初期基準下限電圧値により決まる座標点と原点とを結ぶ直線を基準とし、その直線上の各点を、前記初期基準開放電圧値と前記初期基準下限電圧値との差分値と、前記第3の記憶手段に記憶された前記抵抗変化情報が表す前記内部抵抗の変化態様とに応じて変化させて得られた座標情報である前記電圧関係情報を導出して前記第2の記憶手段に記憶させる。
また、請求項7の発明では、請求項3の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記略新品のバッテリの各充電残量における内部抵抗値RBの所定の基準内部抵抗値RBIに対する変化率(RB/RBI)を、前記略新品のバッテリの前記各充電残量に対応する開放電圧値VOIの関数f(VOI)として表す関数情報である抵抗変化情報を記憶する第3の記憶手段と、電圧関係導出手段とをさらに備え、前記電圧関係導出手段は、前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値VOIFと、スタータに接続して突入電流が流れたときの前記略新品のバッテリの出力電圧である初期基準下限電圧値VLIFとを前記電圧検出手段を介して計測し、前記初期基準開放電圧値VOIFを前記第2の記憶手段に記憶させ、前記第1の記憶手段に記憶された前記関数情報によって与えられる前記関数f(VOI)と、前記初期基準開放電圧値VOIF及び前記初期基準放電時電圧値VLIFと、電圧関係導出用関係式
Figure 0004721826
とを用いて、前記略新品のバッテリの前記開放電圧値VOIと前記下限電圧値VLIとの関係を表す前記電圧関係情報を導出して前記前記第2の記憶手段に記憶させる。
請求項1に記載の発明によれば、エンジンに固有のパラメータである最低始動回転数に関する情報等を予め記憶手段に登録しておけば、それ以外の必要な情報については、各車両固有の特性(特に、スタータ及びバッテリの特性)が反映された形で、バッテリ状態管理装置によって自動的に取得され、バッテリの状態評価の基準となる評価基準ラインが自動的に設定され、電圧検出手段を介して検出した開放電圧及び下限電圧の各値と、評価基準ラインとの関係に少なくとも基づいてバッテリの状態が評価されるようになっているため、様々な車種・車格の車両に容易に対応して、バッテリの状態評価を的確に行うことができる。
請求項2に記載の発明によれば、基準電圧値aが、クランキング回転数が最低始動回転数により定められる下限値一杯でエンジンが始動したときに下限電圧が取るであろうと予測される値に対応しているため、この基準電圧値aを用いて設定した評価基準ラインに基づいてバッテリの状態評価を行うことにより、バッテリのエンジン始動性能について的確に評価することができる。
請求項3に記載の発明によれば、バッテリが略新品状態にあるときに取得しておいた開放電圧の変化に対する下限電圧の変化態様を表す電圧関係情報と、使用開始後のバッテリの開放電圧である使用後開放電圧値とスタータへ突入電流が流れた際の下限電圧である使用後下限電圧値とに基づき、電圧関係情報によって与えられる開放電圧と下限電圧の関係において、下限電圧が使用後下限電圧値と等しい値であるときの開放電圧の値が対応基準開放電圧値として導出され、電圧関係情報によって表される下限電圧の変化態様において、請求項1の直線設定用関係式によって与えられるグラフ情報と電圧関係情報によって与えられるグラフ情報との交点に対応する開放電圧の値が最低基準開放電圧値として導出され、使用中のバッテリの開放電圧の下限基準なとなる最低使用後開放電圧値が、初期基準開放電圧値から最低基準開放電圧値を引いた値に対する初期基準開放電圧値から最低使用後開放電圧値を引いた値の比が初期基準開放電圧値から対応基準開放電圧値を引いた値に対する初期基準開放電圧値から使用後開放電圧値を引いた値の比と等しくなるようにして導出され、初期基準開放電圧値と最低使用後開放電圧値との差である基準差分値と、使用後開放電圧値と最低使用後開放電圧値との差である使用後差分値とが比較されることにより、使用中のバッテリの充電残量が検出されるため、車両固有の評価パラメータを設定することなく、エンジン始動性能を基準したバッテリの充電残量を検出することができる。
請求項4に記載の発明によれば、クランキング回転数とスタータにて生じる逆起電力電圧の大きさとが略比例関係にあるという特性を利用し、開放電圧、下限電圧、始動時出力電圧、クランキング回転数及び最低始動回転数に基づいて基準電圧値aを導出するため、基準電圧値aを容易かつ的確に取得することができる。
請求項5に記載の発明によれば、基準電圧レベルaを簡単な演算により的確に取得することができる。
請求項6及び7に記載の発明によれば、略新品のバッテリの充電残量の変化に応じた開放電圧の変化に対するバッテリの内部抵抗の変化態様は、バッテリのグレード等が異なってもほぼ共通しているため、その開放電圧の変化に対する内部抵抗の変化態様を表す抵抗変化情報と、略新品状態にあるときのバッテリの初期基準下限電圧値と、所定負荷(これは各車両固有のものであってよい)に対する初期基準下限電圧値とに基づいて、バッテリの状態評価の基準となる略新品状態にあるときのバッテリの開放電圧の変化に対する下限電圧の変化態様を表す電圧関係情報を、車種ごとの固有のパラメータ設定を行うことなく、自動的に取得することができ、バラメータ設定のための人的及び装置的コストを軽減できるとともに、同一車種内の車両個体差によるバラツキにも容易に対応できる。
<原理説明>
本発明の一実施形態に係るバッテリ状態管理装置についての具体的な説明を行う前に、本実施形態に係るバッテリ状態の評価原理について説明する。最初に、新品(実質的に新品であればよい(以下同様))のバッテリの開放電圧とエンジン始動時の下限電圧との関係を示す電圧関係情報の取得原理について説明する。続いて、バッテリの状態評価の基準となる評価基準ラインの導出原理について説明する。続いて、その電圧関係情報及び評価基準ラインを用いたバッテリの評価原理について説明する。
なお、開放電圧とは、バッテリが実質的に放電を行っていないときの出力電圧のことをいい、下限電圧とは、エンジン始動時におけるスタータへ突入電流が流れたときのバッテリの出力電圧の下限値のことをいう。
<電圧関係情報の取得原理など>
図1は、劣化状況及び充電残量の異なるバッテリについて開放電圧とエンジン始動時の下限電圧とを試験により計測した計測結果を示すグラフである。その横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリの開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリの下限電圧値に対応している。また、図1中の曲線G1は新品のバッテリについての計測結果に基づいて描いたものであり、曲線G2〜G5は使用されてある程度劣化したバッテリについての計測結果に基づいて描いたものであり、曲線G2,G3,G4の順にバッテリの使用期間が長くなり劣化が進んでいる。なお、充電終了時(エンジン停止時)から一定時間経過時の開放電圧値を用いることにより、バッテリ1の放電特性取得や状態評価等の精度がより向上する。
図1のグラフより、バッテリの劣化が進むにつれて対応する曲線G1〜G5がグラフの概ね右方向(又は右下方向)にシフトしていることが分かる。特に、下限電圧値が所定の基準レベル(例えば、9V)以下の領域では、曲線G1を基準とした曲線G2〜G5の右方向へのシフト量が対応するバッテリの劣化の進みに応じて増加する傾向にあることが分かる。これより、曲線G1に対応した新品のバッテリのエンジン始動時放電特性(各充電残量に応じた各放電電圧値に対するエンジン始動時放電中の下限電圧値)を導出しておけば、これを基準としてバッテリの状態評価を行うことができる。
しかし、エンジン始動時にバッテリに接続される負荷の状況は、車種ごとに大きく相違する。このため、従来の手法を適用して、曲線G1に対応するバッテリのエンジン始動時放電特性を取得しようとすると、例えば、ある一定の基準条件の下で曲線G1に対応するバッテリのエンジン始動時放電特性を試験により検出し、その放電特性に対し、車種ごとに設定した調節パラメータを用いて微調整を行うこととなる。
そこで、本願発明者らは、その従来手法の課題に着目し、車体固有の調節パラメータ等を使用することなく、車体固有のエンジン始動時の負荷状況を反映したバッテリのエンジン始動時放電特性等を自動的に取得できるようにすべく本発明を行った。その原理は以下の通りである。
図2は、バッテリのエンジン始動時の放電特性について説明するためのグラフであり、図2のグラフ中の曲線G1は図1の曲線G1に対応している。図3に示すように、エンジン始動時にバッテリ1に接続されるエンジン始動時負荷LS(バッテリの内部抵抗以外の負荷であって、スタータ、その他の抵抗要素等を含む)の抵抗値をRSとし、バッテリ1の内部抵抗値をRBとし、バッテリ1の開放電圧値をVOとし、バッテリ1にエンジン始動時負荷LSを接続して放電を行わせた際の出力電圧の最低値である下限電圧値をVLとすると、これらのパラメータRS,RB,VO ,VLの間には、次の関係が成り立つ。
Figure 0004721826
この式(A−1)をVLについて解くと次のようになる。
Figure 0004721826
この式(A−2)において、内部抵抗値RBが開放電圧値VO(すなわち、バッテリ1の充電残量)により変化しないと仮定すると、エンジン始動時負荷LSの抵抗値RSは開放電圧値VOの値に依らず一定であるため、図2のグラフの座標系の原点を通る直線G5に対応した式(値VO,VLの比例関係を表す式)が得られる。
実際には、式(A−2)における内部抵抗値RBは開放電圧値VO(バッテリ1の充電残量)の減少に伴って増加するため、下限電圧値VLの低下割合は、曲線G1のように開放電圧値VOの減少に伴って増大するようになっている。すなわち、図2のグラフの曲線G1の直線G1からの縦軸マイナス方向への乖離量が開放電圧値VOの減少に伴って徐々に大きくなるのは、開放電圧値VOの減少に伴う部抵抗値RBの増加によるものであるということができる。
そこで、本願発明者らは、開放電圧値VO(バッテリ1の充電残量)の減少に伴うバッテリ1の内部抵抗値RBの増加割合は、新品のバッテリ1であればどのバッテリ1についてもほぼ共通した特性であることに着目し、その特性を有効に利用することにより、新品のバッテリ1のエンジン始動時負荷LSに対する車両固有の放電特性を容易に検出することが可能であることに思い至った。
すなわち、新品のバッテリ1における開放電圧値VOの減少に伴う内部抵抗値RBの増加割合に関する情報を予め取得してシステムに記憶させておき、工場での車両組立完成時、出荷時、車両がエンドユーザに引き渡されたとき、又はエンドユーザ引き渡し後一定期間内などのバッテリ1が新品の状態にあるときに、バッテリ1に対するエンジン始動時負荷LSを用いた放電特性(基準となる充電残量における新品のバッテリ1の開放電圧値VOとエンジン始動時負荷LSを接続した際の下限電圧値VL)の計測により、図2のグラフ上における車両固有の1つの計測点を取得し、その計測点と予め記憶された内部抵抗値RBの増加割合に関する情報とに基づいて、新品のバッテリ1のエンジン始動時負荷LSに対する車両固有の放電特性を取得できることが分かった。なお、前記車両固有の計測点については、複数回の計測を行って得られた計測結果について平均化(加重平均を含む)等の数値処理を施したものを利用してもよく、その場合、計測時のバッテリ1の開放電圧(充電残量)の値に応じて開放電圧が最大の計測点について優先的に利用したり、加重平均の寄与度を大きくする等の方法が考えられる。
より具体的には、まず、新品のバッテリ1の充電残量が満充電状態(実質的に満充電状態であればよい(以下同様))であるときの開放電圧値VOIF及び内部抵抗値RBIFと、充電残量が低下したときの各開放電圧値VOIにおける内部抵抗値RBIのRBIFに対する変化率(RBI/RBIF)とを試験により計測する。そして、新品のバッテリ1の開放電圧値VOIの変化に対する内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)を、開放電圧値VOIを変数とした関数(例えば、式(A−3)のような関数)を近似的に求め、その関数に関する情報を予めシステムに記憶させておく。あるいは、その変形例として、各開放電圧値VOIの値とそれに対応する内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)の各値とをデータテーブルにして予めシステムに記憶させるようにしてもよい。なお、各開放電圧値VOIにおける内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)の具体的な計測方法については後述する。
Figure 0004721826
次に、工場での車両組立完成時等のバッテリ1が新品状態にあり、かつ、バッテリ1が満充電状態であるときに、開放電圧値(初期基準放電電圧値)VOIFと、そのバッテリ1のエンジン始動時負荷LSを接続した際のバッテリ1の下限電圧値(初期基準下限電圧値)VLIFとを計測する。バッテリ1が満充電状態であるか否かの判定は、例えばバッテリ1の開放電圧値を計測し、その値が満充電状態に対応した所定の基準レベル以上になっているか否かを判定することにより行われる。なお、上述の如く、初期基準放電電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFの計測を複数回行ってそれらを平均等したものを利用してもよい。
この初期基準放電電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFについての計測結果と、上式(A−3)の関数(又はそれと同等なデータテーブル)を用いることにより、車両に搭載された新品のバッテリ1のエンジン始動時負荷LSに対する開放電圧値VOIの変化に伴う下限電圧値VLIの変化を示す関係式は、次式で与えられる。
Figure 0004721826
ここで、上式(A−4)中のパラメータVLKは、図2のグラフの直線G5上における開放電圧値がVOIであるときの下限電圧値であり、下記の式(A−5)により与えられる。
Figure 0004721826
式(A−4)の関係式の導出は、例えば次のようにして行われる。すなわち、上式(A−1)の関係を図2のグラフにおける座標点PFについて当てはめてることを考えた場合、開放電圧値がVOIFのとき(満充電時)の内部抵抗値RBをRBIFとすると、次の関係式(A−6)が得られる。
Figure 0004721826
また、上式(A−1)の関係を図2のグラフにおける座標点PIについて当てはめてることを考えた場合、開放電圧値がVOIのときの内部抵抗値RBが上式(A−3)よりRB=f(VOI)・RBIFとして得られるため、次の関係式(A−7)が得られる。
Figure 0004721826
よって、関係式(A−6)の右辺を関係式(A−7)の左辺のパラメータ(RS/RBIF)に代入したものをパラメータVLIについて解くと、上記関係式(A−4)が得られる。
上式(A−6)の関係式は、別の観点から見ると、図2のグラフの直線G5を基準として、直線G5上の点を、上式(A−3)の関係により与えられるその点における開放電圧値VOIに応じたバッテリ1の内部抵抗値の変化率の変化態様に応じたシフト量で縦軸マイナス方向にシフトさせることにより、各充電残量(各開放電圧値VOI)における下限電圧値VLIを導出している。
このように導出した開放電圧値VOIと下限電圧値VLIと関係に関する情報は、車両固有のエンジン始動時負荷LSの抵抗値RSが反映されているため、この情報を用いることにより、車両固有の負荷環境等を反映したバッテリ1の状態評価を行うことができる。
ここで、図2のグラフ中の値VOIE,VLIEは、新品のバッテリ1が充電残量ゼロ(実質的に充電残量がゼロであればよい(以下同様))のときの開放電圧値及び下限電圧値にそれぞれ対応している。また、値VOIF,VOIEの具体例は、例えば12.8V,10.5Vである。
次に、新品のバッテリ1における開放電圧値VOの減少に伴う内部抵抗値RBの増加割合に関する情報の取得方法について説明する。まず、本実施形態では、バッテリ容量試験に関するJIS規格に従い、新品のバッテリ1に対する容量試験を行う。ここで、JIS規格の容量試験とは、満充電状態のバッテリ1に一定電流値(例えば、0.2A)の放電を行わせ、その放電開始時からバッテリ1の出力電圧が充電残量ゼロに対応した電圧値(例えば、10.5V)に到達するまでの所要時間を計測し、その所要時間と放電電流値(例えば、0.2A)との乗算値をバッテリ容量とする試験である。なお、変形例として、JIS準拠放電試験の条件(電流値、温度等)以外での放電特性を代わりに用いてもよい。
すなわち、本実施形態では、満充電状態の新品のバッテリ1に、JIS規格に準拠した一定電流値(例えば、0.2A)を放電させつつ、そのときのバッテリ1の出力電圧の推移を計測する。図4のグラフ中の曲線G7は、そのときのバッテリ1の出力電圧の推移を計測した結果を示すものであり、グラフ中の値VAFは放電開始前の満充電状態のバッテリ1の出力電圧値(開放電圧値)であり、前述の値VOIFに対応している。値VAEはバッテリ1の充電残量ゼロに対応する放電終了時の開放電圧値であり、前述の前述の値VOIEに対応している。また、値VBFは放電開始直後のバッテリ1の出力電圧値であり、値VBEはバッテリ1の充電残量ゼロに対応する放電終了時の出力電圧値であり、値TEは充電残量ゼロに対応する放電終了時の時間を示している。また、直線G8は、放電による充電残量の減少に伴って変化するバッテリ1の開放電圧の計測値の推移を直線で近似したものである。また、このグラフ中のハッチング付した領域が、充電残量の減少に伴うバッテリ1の内部抵抗値RBの増加の影響を反映している部分であり、図2及び後述する図5のグラフのハッチングを付した領域に対応している。
続いて、図4のグラフにおける曲線G7上における点と直線G8上における点とのグラフの縦軸方向に沿った差の大きさは、その時点におけるバッテリ1の内部抵抗値RBに比例するため、放電開始時(満充電時)における値VAFと値VBFとの差D2と、放電の過程の直線G8上の各点と曲線G7上の各点との差D3との比率(D3/D2)により、各開放電圧値VOにおける内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を導出することができる。図5のグラフ中の曲線G9は、そのように導出した開放電圧値VOの変化に対する内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を示しており、この曲線G9に基づいて前述の式(A−3)が決定される。
このようにして取得した開放電圧値VOの変化に対する内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)は、バッテリ1のグレード等の相違にあまり依存しないものであるが、種々のバッテリ1に対する適用性を向上させるため、種々のバッテリ1に対する試験により取得した内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を平均化したものを使用するのが望ましい。
<評価基準ラインの導出原理>
図6は、車両の始動時のクランキング期間における電圧と電流の推移を示す図であって、横軸は時間、縦軸はバッテリからスタータに出力される電圧及び電流を示している。
この図6において、時刻T1でイグニションスイッチがオンになると、バッテリからの突入電流がスタータに流れ、バッテリの出力電圧が瞬間的に低下する。そして、スタータの逆起電力が発生し、バッテリの出力電圧が徐々に上昇すると、スタータの回転数が上昇するとともに、電流が徐々に安定化する。そして、バッテリ電圧が一定のレベルに達した時点T2で、スタータの回転数が一定値に上昇し、エンジンの点火が行われる。この時点T2で、スタータに対する電流供給が停止され、バッテリの出力電圧が定常状態に復帰する。
図7は、バッテリ1とスタータ3とが接続された状態を示す概略的な等価回路図である。図7のように、バッテリ1は、配線5,7及びイグニションスイッチ9を通じてスタータ3に接続される。尚、符号11はスタータ3のアーマチャコイル、符号13はフィールドコイル、符号15はプルインコイル、符号17はホールディングコイルである。ただし図7では、回路内における電流と電圧との関係に注目することとし、上記の各コイル11,13,15,17をそれぞれ抵抗体として捉えて図示している。
ここで、配線5,7の抵抗値をそれぞれR1A,R1Bとする。また、イグニションスイッチ9とスタータ3のスイッチ端子Te1との間の配線抵抗値をR2、バッテリ側端子Te2とモータ端子Te3との間の接点接触抵抗値をR3、ホールディングコイル17、フィールドコイル13及びアーマチャコイル11の各抵抗値をR4,R5,R6とする。
この場合、スタータ3の内部抵抗RSは、次の(B−1)式で表される。
S=R3+R5+R6 (B−1)
また、配線5,7の配線抵抗RHは、次の(B−2)式で表される。
H=R1A+R1B (B−2)
さらに、バッテリ1の内部においては、集電極や電解液等の内部抵抗に加えて、格子腐食やサルフェーション等の劣化、及び放電(特に過放電)に伴う電極表面の硫酸鉛の析出により内部抵抗RBが発生する。
したがって、図7の回路における回路抵抗Ra11は、次の(B−3)式のようになる。
a11=RS+RH+RB (B−3)
図8に、図7の回路における電圧降下とバッテリ1の電流及び電圧の変化を示す。この図8において、横軸及び縦軸は、バッテリ1からスタータ3に出力される電流及び電圧をそれぞれ意味しており、線L1は、スタータ3の内部抵抗RSと配線5,7の配線抵抗RH等とによる電圧降下線、線L2a〜L2eはバッテリ1の電流−電圧特性線(以下「I−V特性線」と称す)、線Lthはエンジンを始動されることが可能な最低限の基準電圧値(基準電圧値a)VLthを示す閾値線をそれぞれ示している。この基準電圧値VLthは、スタータ3の始動時の突入電流によりバッテリ1の出力電圧が一時的に低下する際の最低電圧値に対応して設定されるものである。
上述のように、スタータ3をオンしたときには、図6の時点T1のように突入電流が流れると同時に、バッテリ1の出力電圧が急峻に低下する。したがって、バッテリ1の電流と出力電圧は、図8において、バッテリ1のI−V特性線L2a〜L2eと、スタータ3の内部抵抗RSと配線5,7の配線抵抗RH等とによる電圧降下線L1との交点Pa〜Peから開始される。そして、その後、バッテリ1の出力電圧は、I−V特性線L2a〜L2eに沿って電流が低下するとともに近似的にリニアに上昇するようになっている。
ここで、バッテリ1の電流−電圧特性は、その個々のバッテリ1の劣化状態、充電残量等によって変化する。特に、バッテリ1の劣化が進むと、そのバッテリ1の内部抵抗RBが上昇するため、右下がりの傾斜が急峻になる。図8においては、線L2aが最も良好なバッテリ状態、線L2eが最も劣悪なバッテリ状態における電流−電圧特性を示している。なお、バッテリ1の充電状態が低下した場合にも、線L2が右下がりに傾斜が大きくなる傾向にあることが分かっている。
そして、図8においては、バッテリ1のI−V特性線L2a〜L2eと、スタータ3の内部抵抗RSと配線5,7の配線抵抗RH等とによる電圧降下線L1との交点において、バッテリ1からスタータ3に印加される電圧値が、基準電圧値VLth以上である場合に限り、スタータ3のトルクが必要なレベルに確保されてエンジンの点火が可能となる。
したがって、図8の例では、I−V特性線L2a〜L2dと電圧降下線L1との交点Pa〜Pdの各電圧値が、基準電圧値VLthよりも大きくなっているため、これらI−V特性線L2a〜L2dを示すバッテリ1を使用している場合は、自動車のエンジンの点火が支障無くなされる。
これに対して、図8中のI−V特性線L2eと電圧降下線L1との交点Peの電圧値は、基準電圧値VLthよりも小さいため、このI−V特性線L2eを示すバッテリ1では、自動車のエンジンを点火することができないことになる。
このように、基準電圧値VLthを設定しておくことにより、スタータ始動時の突入電流によるバッテリ1の出力電圧の下限値(下限電圧値)と、基準電圧値VLthとの関係に基づいて、バッテリ1の状態、特に劣化度合いについて評価できるようになっている。
そこで、本願発明者らは、その基準電圧値VLthを、各車両の固有の特性を反映した形で的確に、かつほぼ自動的に設定することができるようにすべく本発明を行った。以下に、その発明の原理について説明する。
図9は、エンジン始動時におけるバッテリ1の出力電圧、放電電流、スタータ等での電圧降下の様子を示す図であり、グラフの横軸はバッテリ1の放電電流に対応し、縦軸はバッテリ1の出力電圧に対応している。また、図9中の点Pn及び線L2nは、満充電状態にある新品のバッテリ1の下限電圧ポイント(スタータ始動時の突入電流によりバッテリ1の出力電圧が最も低下したポイント)及びI−V特性線を示しており、線L2nの始点(点Pn)及び終点の電圧値(下限電圧値及び開放電圧値)を、VLn及びVOnと表すこととする。また、図9中の点Pはある程度使用された通常の状態にあるバッテリ1の下限電圧ポイントを示し、線L2nは同様な状態にあるバッテリ1のI−V特性線を示している。そして、線L2nの始点Pnの電圧値(下限電圧値)をVLと表し、線L2nの終点Qの電圧値(開放電圧値)をVOと表すこととする。また、図9中の線L1は、上述のスタータ3の内部抵抗等による電圧降下特性を示すものである。
本願発明者らは、図9に示す計測グラフや、エンジン回転数とスタータ3での逆起電力との関係等に対する検討を行った結果、エンジンのクランキング回転数reとスタータ3にて生じる逆起電力電圧の大きさとが略比例関係にあるという特性に着目するに至った。
また、本願発明者らは、エンジン始動時におけるバッテリ1の出力電圧の振る舞いについて、出力電圧は、エンジンが始動される際はスタータ始動時に下限電圧値VLまで低下した後、バッテリ1の放電電流の減少に伴って下限電圧値VLから開放電圧値VOまでリニアに上昇するという近似的な取り扱いを行うことにより、エンジンの始動時の出力電圧の取り扱いが容易となることを見い出した。
そして、本願発明者らは、上記の特性及び近似的な取り扱いを利用することにより、バッテリ1の開放電圧値VO、下限電圧値VL、エンジンのクランキング時におけるバッテリ1の出力電圧値である始動時出力電圧値VC、エンジンのクランキング回転数rc、及びエンジンの始動に最低限必要な最低始動回転数reを取得すれば、これらの数値に基づいて、バッテリ1の下限電圧値VLに対する評価基準となる基準電圧値VLthが導出できることを見出した。
ここで、始動時出力電圧値VCとしては、例えば、エンジンのクランキングが行われているクランキング期間内のいずれかの時点(例えば、エンジンの着火時又はその直前)におけるバッテリ1の出力電圧が用いられる。あるいは変形例として、クランキング期間中のバッテリ1の出力電圧の平均値を始動時出力電圧値VCとして用いてもよい。
また、クランキング回転数rcとしては、例えば、クランキング期間内のいずれかの時点(例えば、エンジンの着火時又はその直前)におけるエンジンの回転数を計測し、その計測値が用いられる。あるいは変形例として、クランキング期間中のエンジンの回転数の平均値を計測し、その平均値をクランキング回転数rcとして用いてもよい。
また、最低始動回転数reについては、エンジンの固有の特性情報として予めメモリ等に記録しておいた情報を用いるようになっている。
なお、バッテリ1は、放電が行われると、拡散分極の影響により放電時間の経過に伴って出力電圧が低下するが、本実施形態ではエンジン始動時の放電の拡散分極の影響による出力電圧の低下を無視することとしている。
また、本実施形態では、エンジンに対するクランキングが行われるときにバッテリ1から放出される電流値は、エンジンが始動される限り、バッテリ1の劣化度、充電残量等の状態によらずに一定であるとして取り扱うこととしている。
より詳細には、図9中の三角形SPQと三角形UPTとの相似関係と、三角形OPQと三角形WPTとの相似関係により、数値VO,VL,VC,VSの間には、次のような関係式(B−4)が成り立つ。
O−VL:VC−VL=VO:VS (B−4)
この式(B−4)を変数VSについて解くと、次のようになる。
S=((VC−VL)/(VO−VL))・VO (B−5)
また、上記のエンジンのクランキング回転数rcとスタータ3の逆起電力との関係より、エンジンが最低始動回転数reで回転しているときにスタータ3により発生する逆起電力電圧値をVSmとすると、数値VS,VSm,rc,reの間には、次のような関係式(B−6)が成り立つ。
S/VSm=rc/re (B−6)
この式(B−6)を変数VSmについて解くと、次のようになる。
Sm=(re/rc)・VS (B−7)
次に、バッテリ1の状態が悪化して、エンジンのクランキング回転数rcがちょうど最低始動回転数reで始動した場合のことについて検討する。このときのバッテリ1のクランキング時のI−V特性線は線L2mによって表される。上述のように、エンジンのクランキングが行われるときのバッテリ1の放電電流値はバッテリ1の状態によらずに一定であると取り扱うこととしているため、このときの始動時出力電圧VCmは、数値VC,VS,VSmと次のような関係を有する。
Cm=VC−VS+VSm (B−8)
また、図9中の三角形SmPmQと三角形UmPmTmとの相似関係と、三角形OPmQと三角形WPmTmとの相似関係により、数値VO,VLth,VCm,VSmの間には、次のような関係式(B−9)が成り立つ。
O−VLth:VCm−VLth=VO:VSm (B−9)
上記関係式(B−6)〜(B−9)に基づき、変数VS,VSm,VCmを消去し、変数VLthについて解くと、次のような関係式(B−10)が得られる。
Figure 0004721826
すなわち、この関係式(B−10)を用いることにより、予め登録されている最低始動回転数reと、エンジン始動時に計測した開放電圧値VO、下限電圧値VL、始動時出力電圧値VC及びクランキング回転数rcとに基づいて、バッテリ1の下限電圧値VLに対する評価基準となる基準電圧値VLthが導出できることが分かる。
さらに、試験の結果、劣化により内部抵抗値が増大したバッテリ1や、充電残量が低下したバッテリ1では、開放電圧の値に対する下限電圧の値が小さくなる傾向にあることが分かった。特に、劣化により内部抵抗値が増大したバッテリでは、充電残量が高い状態(例えば、満充電時)における開放電圧の値に対する下限電圧値の低下が顕著になることが分かった。
そこで、本願発明者らは、この点に着目し、下限電圧値VLのエンジン始動限界の下限値に対応する基準電圧値VLthを開放電圧値VOで割り算した割算値Mを傾きとする直線
y=M・x (B−11)
を用いて、バッテリ1の状態評価のための下限基準を与える評価基準ラインLr(図10参照)を設定することとした。ここで、上式(B−11)における変数x(x座標軸)はバッテリ1の開放電圧が割り当てられ、変数y(y座標軸)にはバッテリ1のスタータ始動時の突入電流による下限電圧が割り当てられている。
<バッテリの評価原理>
次に、図11を参照して、上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)、及び上式(B−11)で与えられる評価基準ラインLrを用いたバッテリ1の状態(劣化度合い及び充電残量)の評価原理について説明する。
まず劣化度合いの評価原理について説明する。図11のグラフ中の曲線G1は、上述のように、予めシステムに記憶させた上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)と、上述の初期基準開放電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFとを用いて導出したものである。この図11の曲線G1及び値VOIF,VLIFに関する情報は、システムに記憶されてバッテリ1の状態評価に用いられる。
そして、バッテリ1の使用が開始されている状態において、バッテリ1の劣化度合いを評価する際には、エンジン始動時におけるエンジン始動時負荷LSがバッテリ1に接続される前の開放電圧である使用後開放電圧値VORと、エンジン始動時負荷LSがバッテリ1に接続されたときの下限電圧である使用後下限電圧値VLRとが計測される。このとき、バッテリ1の充電残量は満充電状態である必要はない。
続いて、図11のグラフの曲線G1上における下限電圧値が使用後下限電圧値VLRと等しい値であるときの開放電圧値を対応基準開放電圧値VOSとして導出し、予め記憶された初期基準開放電圧値VOIFとその対応基準開放電圧値VOSとの差である第1の差分値D11と、初期基準開放電圧値VOIFと使用後開放電圧値VORとの差である第2の差分値D12とを比較することにより、その時点におけるバッテリ1の劣化度合いが検出される。
この検出原理は、前述の図1を用いて説明したバッテリ1の劣化度合いが小さいほどグラフ上の計測点(VO,VL)は曲線G1に近づくように略左方向にシフトするという特性を利用したものである。すなわち、バッテリ1の劣化度合いが小さいほど図11のグラフ上の計測点P11(VOR,VLR)は、対応する曲線G1上の座標点P12に近づいてゆくようになっており、その計測点P11の座標点P12に対する近づき度合いに基づいてバッテリ1の劣化度合いを評価するようになっている。
次に、充電残量の評価原理について説明する。充電残量の評価は、図11のグラフの曲線G1で表されるバッテリ1が新品のときの放電電圧と下限電圧との関係を用いて行われる。このため、充電残量の評価の際に、使用後開放電圧値VORと使用後下限電圧値VLRとが計測される。
また、充電残量評価の際には、その使用後開放電圧値VOR及び使用後下限電圧値VLRが計測されるとともに、始動時出力電圧値VC及びクランキング回転数rcが計測され、これらの計測値と予めシステムに登録された最低始動回転数reが上記関係式(B−10)に代入され、基準電圧値VLthが導出され、これを用いて上記関係式(B−11)により、評価基準ラインLrが設定される。なお、上記電圧値VOR,VLRはVO,VLとして式(B−10)に代入される。
そして、予めシステムに記憶させた上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)によって与えられるグラフ情報(曲線G1)と、関係式(B−10)によって与えられるグラフ情報(評価基準ラインLr)との交点に対応する開放電圧の値が、最低基準開放電圧値VOIEとして導出される。この最低基準開放電圧値VOIEは、新品のバッテリ1の充電残量がエンジンを始動可能な下限レベルにあるときのバッテリ1の開放電圧に対応するものである。
また、劣化度合いの評価のときの同様にして図11のグラフの曲線G1上における下限電圧値が使用後下限電圧値VLRと等しい値であるときの開放電圧値が対応基準開放電圧値VOSとして導出される。
続いて、使用が開始されているその時点におけるバッテリ1の充電残量がエンジンの始動が可能な下限レベルにあるときを想定したときの開放電圧である最低使用後開放電圧値VOREが、次のようにして導出される。すなわち、予め取得された初期基準開放電圧値VOIFから最低基準開放電圧値VOIEを引いた値D13に対する初期基準開放電圧値VOIFから最低使用後開放電圧値VOREを引いた値D14の比が、初期基準開放電圧値VOIFから対応基準開放電圧値VOSを引いた値D11に対する初期基準開放電圧値VOIFから使用後開放電圧値VORを引いた値D12の比と等しくなるようにして導出して、最低使用後開放電圧値VOREが導出される。
そして、初期基準開放電圧値VOIFと最低使用後開放電圧値VOREとの差である第3の差分値(基準差分値)D21と、使用後開放電圧値VORと最低使用後開放電圧値VOSとの差である第4の差分値(使用後差分値)D22とを比較することにより、その時点におけるバッテリ1の充電残量が検出されるようになっている。
この検出原理は、バッテリ1の充電残量が満充電状態から減少するのに従って、図11のグラフの横軸に平行な仮想線L21上における計測点P11に対応した座標点P21が、満充電残量に対応する座標点P22側から充電残量の始動可能限界に対応する座標点P23側に値が付く特性を利用したものである。
<装置構成>
図12は、本発明の一実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図12に示すように、電流センサ31、電圧センサ(電圧検出手段)33、処理部35、記憶部37及び出力部39を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ1の状態を管理する。処理部35は、本発明に係る電圧関係導出手段、回転数検出手段、基準電圧導出手段、評価基準設定手段及び状態評価手段に相当している。記憶部37は、本発明に係る第1ないし3の記憶手段に相当している。
電流センサ31は、バッテリ1に対する電流の入出力量を検出する。電圧センサ33は、バッテリ1の出力電圧を検出する。処理部35は、CPU等を備えて構成され、バッテリ1の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行う。記憶部37は、メモリ等により構成され、処理部15が行う各種の情報処理動作に必要な情報等が記憶されている。出力部39は、バッテリ1の状態の判定結果等を出力するためのものである。
<全体の所定動作>
まず、このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図13を参照して説明する。処理部35は、ステップS1でイグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)41がオンされるのに伴って、ステップS2で初期充電残量の検出動作を行う。この検出動作では、バッテリ1の開放電圧が電圧センサ33を介して計測され、その開放電圧の計測値に基づいてバッテリ1のエンジン始動前の充電残量(初期充電残量)が検出される。このとき、バッテリ1が満充電状態であるか否かの判定も行われる。なお、ここで計測されたバッテリ1の開放電圧は後述のステップS5のエンジン始動時状態判定又はステップS6の基準放電特性導出処理に用いられる。
処理部35は、続くステップS3でスタータ3が駆動されて図示しないエンジンが始動されるのに伴って、ステップS4でバッテリ1の基準放電特性の導出処理の要否が判断される。すなわち、車両の組立完成後、基準放電特性の導出処理がまだ行われていない場合には、ステップS6に進み基準放電特性導出処理が行われ、導出処理が既に行われている場合には、ステップS5に進みエンジン始動時状態判定処理が行われる。この基準放電特性の導出が既に行われているか否かの判断は、例えば上式(A−4),(A−5)に関する関係式(又はそれと等価なデータテーブル)が記憶部37に記憶されているか否かを判断することにより行われる。また、この基準放電特性の導出は、車両組立完成時等に実質的に1回行えば、バッテリ1を交換するまでは行う必要がない。ステップS6での基準放電特性導出処理又はステップS5での始動時状態判定処理が行われると、ステップS7に進み始動後劣化判定処理が行われる。なお、基準放電特性導出処理及び始動時状態判定処理の具体的内容については後述する。
そして、処理部35は、続くステップS7でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(又はそれに近い状態)になったバッテリ1への電流流入状況を電流センサ11を介して検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ1の劣化度が判定される。
また、処理部35は、続くステップS8でバッテリ1に対する充電制御(バッテリ1の充電残量管理)を行う。この充電制御では、電流センサ11の計測電流値を積算することにより、エンジン始動時等の所定の基準時からバッテリ1から放電された全電流量が逐次検出され、その検出結果に基づいてバッテリ1に対して行うべき充電量を決定するようになっている。これによって、走行中におけるバッテリ1の充電残量が所定範囲内に維持されるようになっている。充電量の制御は、例えば、図示しないオルタネータの発電量(出力電圧等)を制御することにより行われる。
このステップS7,S8のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
<基準放電特性導出処理>
ここでは、上述の図13のステップS6で行われる基準放電特性処理について説明する。この基準放電特性導出処理の前提として、記憶部37には、新品のバッテリ1の開放電圧値VOIの変化に対する内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)を近似的に表す開放電圧値VOIを変数とした上式(A−3)のような関数に関する情報(又はそれと等価な開放電圧値VOIと各開放電圧値VOIにおける内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)とを対応付けたデータテーブルに関する情報)を記憶させておく必要がある。
処理部35は、ステップS2での検出によりバッテリ1が満充電状態にある場合にのみ、この基準放電特性導出処理を行うようになっており、仮にバッテリ1が満充電状態でない場合には、その導出処理を行うことなく、例えばステップS7の処理に進むようになっている。そして、次回のエンジン始動時にバッテリ1が満充電状態となっていれば、そのときにステップS6にて基準放電特性導出処理が行われるようになっている。
この導出処理では、上述の如く、エンジン始動時負荷LSがバッテリ1に接続された際の下限電圧値が初期基準下限電圧値VLIFとして電圧センサ13を介して計測され、この初期基準下限電圧値VLIFと直前のステップS2で計測された開放電圧である初期基準開放電圧値VOIFと、上式(A−3)(又は上式(A−3)と等価なデータテーブル)とを用いて、車両固有のエンジン始動時負荷LSに対する新品のバッテリ1の基準放電特性が導出される。すなわち、新品のバッテリ1の基準放電特性は、開放電圧値VOIの変化に伴う下限電圧値VLIの変化を示す上式(A−4)の関係式として導出される。但し、式(A−4)中のパラメータRLKは上式(A−5)で与えられる。
本実施形態では、このようにして導出した新品のバッテリ1における開放電圧値VOIの変化と下限電圧値VLIの変化との関係を関係式(A−4),(A−5)の形で記憶部37に保存するようになっているが、関係式(A−4),(A−5)と実質的に等価なデータテーブル(縦軸及び横軸に開放電圧及び下限電圧をとった2次元座標上の曲線G1を表す座標情報)の形で記憶部37に保存するようにしてもよい。
この基準放電特性導出処理では、その導出処理に用いた初期基準開放電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFが記憶部37に保存されるようになっている。
<始動時状態判定処理>
次に、上述の図13のステップS5で行われる始動時状態判定処理について説明する。なお、この始動時状態判定処理は、バッテリ1の充電残量によらずに実行されるが、ステップS6の基準放電特性導出処理が完了していることが前提条件となっている。
この始動時状態判定処理では、まずバッテリ1のエンジン始動限界に対応する評価基準ラインLrの導出が行われ、続いてその基準ラインLr及び上記の関係式(A−4),(A−5)を用いた状態評価が行われる。
<評価基準ラインの導出>
まず、処理部35により、エンジン始動時に電圧センサ31が検出したバッテリ1の出力電圧の振動状況に基づき、エンジンのクランキング回転数rcが検出される。より詳細には、エンジン始動時のバッテリ1の出力電圧の振る舞いとして、図14に示すように、時刻Taでイグニッションスイッチ9がオンされると(このとき、バッテリ1からスタータ3に突入電流が流れる)、エンジンのクランキング動作に伴い、バッテリ1の出力電圧が振動するようになっている(図14の符号Aで示す部分の波形を参照)。その出力電圧の振動は、スタータがエンジンをクランキングする際の負荷が、エンジンのサイクル中の状態(吸気、圧縮、膨張、排気)により変動するため、エンジン及びスタータ3の回転数が振動することにより生じるものである。このため、この出力電圧の振動の周期等を処理部35で検出することにより、エンジンのクランキング回転数rcを検出することができるようになっている。
より具体的には、例えば、クランキング期間内のいずれかの時点(例えば、エンジンの着火時又はその直前)におけるエンジンの回転数を計測し、その計測値をクランキング回転数rcとして用いる構成、及び、クランキング期間中のエンジンの回転数の平均値を計測し、その平均値をクランキング回転数rcとして用いる構成などが考えられる。
また、処理部35は、予め記憶部37に記憶されている最低始動回転数reと、エンジン始動に伴って取得した開放電圧値VO、下限電圧値VL、始動時出力電圧値VC及びクランキング回転数rcとを、予め記憶部37に記憶されている上記関係式(B−10)に代入して演算することにより、基準電圧値VLthを導出する。
なお、この導出に用いられる開放電圧値VO及び下限電圧値VLは、直前のステップS2で計測された使用後開放電圧値VOR及び使用後下限電圧値VLRが用いられる。また、始動時出力電圧VCは、例えば、エンジンのクランキングが行われているクランキング期間内のいずれかの時点(例えば、エンジンの着火時又はその直前)におけるバッテリ1の出力電圧、又は、クランキング期間中のバッテリ1の出力電圧の平均値などが用いられる。
そして、処理部35により、その基準電圧値VLthを開放電圧値VOで割り算した割算値Mを用いて上式(B−11)により評価基準ラインLrが設定され、この評価基準ラインLrに関する情報が記憶部37に記憶される。
<状態評価>
そして、処理部35により、上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)、及び上式(B−11)で与えられる評価基準ラインLrを用いたバッテリ1の状態(劣化度合い及び充電残量)の評価が行われる。
まず劣化度合いの判例処理について説明する。まず、記憶部37に記憶されている関係式(A−4),(A−5)によって表される図11のグラフの曲線G1上における下限電圧値が使用後下限電圧値VLRと等しい値であるときの開放電圧値が対応基準開放電圧値VOSとして導出される。あるいは、式(A−4),(A−5)における変数VLIに使用後下限電圧値VLRを代入したときの変数VOIの値を対応基準開放電圧値VOSとして導出する。
続いて、記憶部37に記憶された初期基準開放電圧値VOIFとその対応基準開放電圧値VOSとの差である第1の差分値D11と、初期基準開放電圧値VOIFと使用後開放電圧値VORとの差である第2の差分値D12とを比較することにより、その時点におけるバッテリ1の劣化度合いが検出される。例えば、第1の差分値D11に対する第2の差分値D12の比率(図11のハッチングを付した部分C1が対応)に基づいてバッテリ1の劣化度合いが検出される。
次に充電残量の判定処理について説明する。この判定処理では、劣化度合いの判定処理により取得された使用後下限電圧値VLR及び対応基準開放電圧値VOS等を利用して処理が行われる。
まず、予めシステムに記憶させた上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)によって与えられるグラフ情報(曲線G1)と、関係式(B−10)によって与えられるグラフ情報(評価基準ラインLr)との交点に対応する開放電圧の値が、最低基準開放電圧値VOIEとして導出される。
続いて、その時点におけるバッテリ1の充電残量がエンジンの始動が可能な下限レベルにあるときを想定したときの開放電圧である最低使用後開放電圧値VOREが、次のようにして導出される。すなわち、予め取得された初期基準開放電圧値VOIFから初期設定により記憶部17に記憶された最低基準開放電圧値VOIEを引いた値D13に対する、初期基準開放電圧値VOIFから最低使用後開放電圧値VOREを引いた値D14の比が、初期基準開放電圧値VOIFから対応基準開放電圧値VOSを引いた値D11に対する初期基準開放電圧値VOIFから使用後開放電圧値VORを引いた値D12の比と等しくなるようにして、最低使用後開放電圧値VOREが導出される。
そして、初期基準開放電圧値VOIFと最低使用後開放電圧値VOREとの差である第3の差分値D21と、使用後開放電圧値VORと最低使用後開放電圧値VOSとの差である第4の差分値D22とが比較されることにより、その時点におけるバッテリ1の充電残量が検出するようになっている。例えば、第3の差分値D21に対する第2の差分値D22の比率(図11のハッチングを付した部分C2が対応)に基づいてバッテリ1の充電残量が検出される。例えば、変形例として、ここで検出されたバッテリ1の充電残量値と、電流センサ31の検出結果に基づいて算出したバッテリ1に対する電流の入出力収支とに基づいて、その時点におけるバッテリ1の放出可能な電力量を検出するようにしてもよい。そして、その電力量に関する情報を出力部39を介して出力するようにしてもよい。
<まとめ>
以上のように、本実施形態によれば、エンジンに固有のパラメータである最低始動回転数に関する情報及びバッテリ1の標準的な内部抵抗変化特性を示す情報等を予め記憶部37に登録しておけば、それ以外の必要な情報については、各車両固有の特性(特に、スタータ及びバッテリの特性)が反映された形で、バッテリ状態管理装置によって自動的に取得され、バッテリ1の状態評価の基準となる評価基準ラインが自動的に設定され、上式(A−4),(A−5)の関係式(又はその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)、及び上式(B−11)で与えられる評価基準ラインLrを用いたバッテリ1の状態(劣化度合い及び充電残量)の評価が行われるようになっているため、様々な車種・車格の車両に容易に対応して、バッテリ1の状態評価を的確に行うことができる。
また、スタータ始動時のバッテリ1の出力電圧である下限電圧VLには、バッテリ1の状態が顕著に反映されるため、この下限電圧VLとの関係で評価基準となる基準電圧値VLthを設定を設定し、その基準電圧値VLthと開放電圧値VOとに基づいてバッテリ1のエンジン始動限界に対応する評価基準ラインLrを設定するため、バッテリ1のエンジン始動性能について的確に評価することができる。
また、新品のバッテリ1の充電残量の変化に応じた開放電圧の変化に対するバッテリ1の内部抵抗の変化率は、バッテリ1のグレード等が異なってもほぼ共通しているため、その内部抵抗変化率と、車両組立完成時等における車両固有のエンジン始動時負荷LSに対するバッテリ1の満充電時の電圧降下特性とにより、バッテリ1の状態評価の基準となる新品状態のバッテリ1の車両固有の放電特性を、各車種固有のパラメータ設定を行うことなく、自動的に取得することができ、バラメータ設定のための人的及び装置的コストを軽減できるとともに、同一車種内の車両個体差によるバラツキにも容易に対応できる。
また、上述の如く、バッテリ1の基準放電特性と、各評価時点におけるエンジン始動時の放電によるバッテリ1の放電特性とに基づいて劣化度合い及び充電残量を評価することにより、車種の違いや車両個体差に対するパラメータ設定等の特別な対策を行うことなく、簡単な演算処理により的確にバッテリ1の劣化度合い及び充電残量を検出することができる。特に、エンジンの始動限界に対応して設定された評価基準ラインLrを用いてバッテリ1の充電残量の評価を行うため、エンジン始動性能を基準したバッテリ1の充電残量を検出することができる。
また、バッテリ1の充電残量に依存することなく、各時点におけるバッテリ1の劣化度合いを検出することができるとともに、バッテリ1の劣化度合いに依存することなく、各時点におけるバッテリ1の充電残量を検出することができる。
また、クランキング回転数rcとスタータ3にて生じる逆起電力電圧の大きさとが略比例関係にあるという特性を利用し、開放電圧値VO、下限電圧値VL、始動時出力電圧値VC、クランキング回転数rc及び最低始動回転数reを上記関係式(B−10)に代入し、演算処理により基準電圧値VLthを導出し、その基準電圧値VLthを用いて上記関係式(B−11)により評価基準ラインLrを導出するため、評価基準ラインLrを簡単な演算により容易かつ的確に取得することができる。
また、電圧センサ33が検出したバッテリ1の出力電圧の振動状況に基づいてエンジンのクランキング回転数rcを検出するため、エンジンの機構部の動作状況を検出するための特別なセンサ手段を設ける必要がなく、構成の簡略化が図れる。
<変形例>
なお、上述の実施形態では、バッテリ1の出力電圧の振動状況に基づいてエンジンのクランキング回転数rcを検出するようにしたが、図15に示すように、エンジンの機構部の動作状況を検出する回転角センサ(センサ部)51を設け、この回転角センサ51の検出信号に基づいて処理部35がエンジンのクランキング回転数rcを検出するようにしてもよい。回転角センサ51としては、クランク角センサ及びカム角センサ等が用いられる。この場合、エンジンの機構部の動作状況を検出するセンサ部の検出結果に基づいてクランキング回転数rcを検出するため、クランキング回転数rcを確実かつ正確に検出することができる。
また、上述の実施形態によるバッテリ1の状態評価の手法は、各評価時におけるバッテリ1の下限電圧値VLRが高くなるほど信頼性が低下する傾向にあるため、評価結果の信頼性確保のため、下限電圧値VLRが所定の基準レベル以下である場合にのみバッテリ1の劣化度合い及び充電残量の判定を行うようにしてもよい。
また、上述の実施形態に係る図12の装置構成にバッテリ1の温度を計測する温度センサを追加し、バッテリ1の温度を考慮した状態評価を行うようにしてもよい。より具体的には、例えば、各温度における新品のバッテリ1の開放電圧と下限電圧との関係を表す2次元座標情報(この場合、温度を含めて考慮すると3次元座標情報ということもできる)を導出し、それに基づいてその時点の温度における状態評価を行う方法や、温度に依存するパラメータ(開放電圧、下限電圧等)の値を温度補正(例えば、標準温度の値に補正)して状態評価を行うようにしてもよい。
劣化状況及び充電残量の異なるバッテリについて開放電圧とエンジン始動時の下限電圧とを試験により計測した計測結果を示すグラフである。 バッテリのエンジン始動時の放電特性について説明するためのグラフである。 エンジン始動時にバッテリに接続される負荷とバッテリの内部抵抗との関係を模式的に示す回路図である。 JIS容量試験を利用して新品のバッテリの放電時の出力電圧の推移を計測したときのグラフである。 放電に伴う開放電圧の変化に対する内部抵抗変化率の推移を示すグラフである。 車両のエンジン始動時におけるバッテリの出力電圧と放電電流の推移を示す図である。 バッテリとスタータとが接続された状態を示す等価回路図である。 図7の回路における電圧降下とバッテリの放電電流及び出力電圧の変化を示す図である。 エンジン始動時におけるバッテリの出力電圧、放電電流、スタータ等での電圧降下の様子を示す図である。 評価基準ラインを示すグラフである。 導出したバッテリのエンジン始動時の放電特性及び評価基準ラインに基づいてバッテリの状態評価を行う原理を説明するためのグラフである。 本発明の一実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。 図12のバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。 エンジン始動時におけるバッテリの出力電圧の振る舞いを示す図である。 図12に示す構成の変形例を示す図である。
符号の説明
1 バッテリ
3 スタータ
31 電流センサ
33 電圧センサ
55 処理部
37 記憶部
39 出力部
41 IGスイッチ
51 回転角センサ

Claims (7)

  1. 車両に搭載されるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
    前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
    始動に必要なエンジンの最低限の回転数である最低始動回転数を記憶した第1の記憶手段と、
    前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
    クランキングに伴って前記電圧検出手段を介して検出される前記バッテリの前記出力電圧の振る舞いと、前記第1の記憶手段に記憶されている前記最低始動回転数と、前記回転数検出手段を介して検出されるクランキング時の前記エンジンのクランキング回転数とに基づいて、基準レベル設定のための基準電圧値aを導出する基準電圧導出手段と、
    前記電圧検出手段を介して前記バッテリの開放電圧値bと検出し、前記バッテリの開放電圧に変数xを割り当て、スタータ始動時の突入電流により前記バッテリの前記出力電圧が低下したときの前記出力電圧の値である下限電圧に変数yを割り当て、直線設定用関係式
    y=(a/b)・x
    で与えられる評価基準ラインを設定する評価基準設定手段と、
    前記電圧検出手段を介して検出した開放電圧及び下限電圧の各値と、前記評価基準ラインとの関係に少なくとも基づいて、前記バッテリの状態を評価する状態評価手段と、
    を備えることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  2. 請求項1に記載のバッテリ状態管理装置において、
    前記基準電圧値aは、前記クランキング回転数が前記最低始動回転数により定められる値で前記エンジンが始動したときに前記下限電圧が取るであろう予測値に対応していることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  3. 請求項1又は2に記載のバッテリ状態管理装置において、
    略新品のバッテリの開放電圧と下限電圧との関係を表す電圧関係情報と、前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値とが記憶された第2の記憶手段をさらに備え、
    前記状態評価手段は、
    使用中の前記バッテリの前記開放電圧である使用後開放電圧値と前記下限電圧値である使用後放電時電圧時とを前記電圧検出手段を介して計測し、
    前記第2の記憶手段に記憶された前記電圧関係情報によって与えられる前記開放電圧と前記下限電圧の関係において、前記下限電圧が前記使用後下限電圧値と等しい値であるときの前記開放電圧の値を対応基準開放電圧値として導出し、
    前記直線設定用関係式によって与えられるグラフ情報と前記電圧関係情報によって与えられるグラフ情報との交点に対応する開放電圧の値を最低基準開放電圧値として導出し、
    使用中の前記バッテリの開放電圧の下限基準なとなる最低使用後開放電圧値を、前記初期基準開放電圧値から前記最低基準開放電圧値を引いた値に対する前記初期基準開放電圧値から前記最低使用後開放電圧値を引いた値の比が前記初期基準開放電圧値から前記対応基準開放電圧値を引いた値に対する前記初期基準開放電圧値から前記使用後開放電圧値を引いた値の比と等しくなるようにして導出し、
    前記初期基準開放電圧値と前記最低使用後開放電圧値との差である基準差分値と、前記使用後開放電圧値と前記最低使用後開放電圧値との差である使用後差分値とを比較することにより、使用中の前記バッテリの充電残量を検出することを特徴とすることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  4. 請求項2に記載のバッテリ状態管理装置において、
    前記基準電圧導出手段は、
    前記クランキング回転数と前記スタータにて生じる逆起電力電圧の大きさとが略比例関係にあるという特性を利用し、
    前記電圧検出手段を介して検出した前記バッテリの開放電圧及び前記下限電圧と、クランキング時に前記電圧検出手段を介して検出した前記出力電圧である始動時出力電圧と、前記クランキング時に前記回転数検出手段により検出された前記クランキング回転数と、前記記憶手段に記憶されている前記最低始動回転数とに基づいて、前記基準電圧値aを導出することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  5. 請求項2又は4に記載のバッテリ状態管理装置において、
    前記基準電圧導出手段は、前記開放電圧(VO)、前記下限電圧(VL)、前記始動時出力電圧(VC)、前記クランキング回転数(rc)及び前記最低始動回転数(re)を、基準電圧導出用関係式
    Figure 0004721826
    に代入して演算することにより、前記基準電圧値aを導出することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  6. 請求項3に記載のバッテリ状態管理装置において、
    前記略新品のバッテリの開放電圧がそのバッテリの充電残量に応じて変化した際に、前記開放電圧の変化に対する前記略新品のバッテリの内部抵抗の変化態様を表す抵抗変化情報を記憶する第3の記憶手段と、
    電圧関係導出手段と、
    をさらに備え、
    前記電圧関係導出手段は、
    前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値と、スタータに接続して突入電流が流れたときの前記略新品のバッテリの出力電圧である初期基準下限電圧値とを前記電圧検出手段を介して計測し、前記初期基準開放電圧値を前記第2の記憶手段に記憶させ、
    横軸及び縦軸に前記開放電圧及び前記下限電圧を採用した2次元座標上における前記初期基準開放電圧値及び前記初期基準下限電圧値により決まる座標点と原点とを結ぶ直線を基準とし、その直線上の各点を、前記初期基準開放電圧値と前記初期基準下限電圧値との差分値と、前記第3の記憶手段に記憶された前記抵抗変化情報が表す前記内部抵抗の変化態様とに応じて変化させて得られた座標情報である前記電圧関係情報を導出して前記第2の記憶手段に記憶させることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
  7. 請求項3に記載のバッテリ状態管理装置において、
    前記略新品のバッテリの各充電残量における内部抵抗値RBの所定の基準内部抵抗値RBIに対する変化率(RB/RBI)を、前記略新品のバッテリの前記各充電残量に対応する開放電圧値VOIの関数f(VOI)として表す関数情報である抵抗変化情報を記憶する第3の記憶手段と、
    電圧関係導出手段と、
    をさらに備え、
    前記電圧関係導出手段は、
    前記略新品のバッテリの開放電圧値である初期基準開放電圧値VOIFと、スタータに接続して突入電流が流れたときの前記略新品のバッテリの出力電圧である初期基準下限電圧値
    LIFとを前記電圧検出手段を介して計測し、前記初期基準開放電圧値VOIFを前記第2の記憶手段に記憶させ、
    前記第1の記憶手段に記憶された前記関数情報によって与えられる前記関数f(VOI)と、前記初期基準開放電圧値VOIF及び前記初期基準放電時電圧値VLIFと、電圧関係導出用関係式
    Figure 0004721826
    とを用いて、前記略新品のバッテリの前記開放電圧値VOIと前記下限電圧値VLIとの関係を表す前記電圧関係情報を導出して前記前記第2の記憶手段に記憶させることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
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