JP4719527B2 - ベクターマダニのガレクチン、それをコードする核酸分子及びそれらの利用 - Google Patents

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Description

本発明は、ベクターマダニのガレクチン、それをコードする核酸分子及びそれらの利用に関する。
より詳細には、本発明は、マダニが媒介する動物・ヒトの病原体がマダニ体内への侵入に不可欠な接着に関わるタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、及びそれらの使用に関する。ここで、動物・ヒトの病原体とは、世界的に甚大な被害をもたらすピロプラズマ症の病原体であるバベシア原虫をはじめとする人獣共通細菌・ウイルスを指す。具体的には、本発明は、これらの病原体がマダニ個体への最初の侵入器官である中腸上皮や体内移行経路にあたる器官・組織の細胞上皮で発現するガレクチンをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、組換えペプチドタンパク質、及び合成ペプチドに関する。本発明により、バベシア症をはじめとする人及び動物の感染症予防及び治療を目的とした化合物の合成、あるいはそれら病原体による感染症の治療薬の開発に応用することができる。
地球上に棲息する500属15,000種を越える吸血性節足動物の中で、マダニはわずか19属750種(5%)の弱小グループであるが、ヒト以外の動物では第1位、ヒトでは蚊に次いで第2位に重要な感染症媒介節足動物である。経済的被害からもマダニとマダニ媒介性疾病による損害額はウシだけでも毎年70億米ドル以上[FAO(Food and Agriculture Organization)1995]にのぼり、その対策は世界各国で畜産振興上の最重要課題となっている。マダニ防除の中心は化学療法剤などの薬剤利用に深く依存している。DTTが開発された1950年以降、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系などの化合物が殺ダニ剤としてマダニ防除に使用されてきた。しかしながら、薬剤の連続使用によるいわゆる薬剤耐性がいずれの薬剤に対しても確立され、殺虫効果の消失するものも少なくない。さらに、薬剤の使用には常に人あるいは動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。そのうえ、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつある。
感染症媒介者(ベクター)としてのマダニは、マラリアベクターの蚊と比べて、ウイルス、リケッチア、細菌、原虫、寄生虫などほぼすべての種類の病原体の伝播に関与する他に比肩しうるもののない優れた疾病媒介能を有する。ヒトではマラリアが世界的に猛威を振るっていることはよく知られているが、動物(家畜・愛玩動物)ではマラリアに類似した感染症としてマダニが媒介するバベシア症がある。本症は畜産・獣医学領域で最も被害の大きい寄生虫感染症であり、近年ではヒトでのバベシア症が世界各国で報告され、新興人獣共通感染症のひとつにあげられている。
感染症予防の最大の武器はワクチンであるが、寄生虫ワクチン(多大な資金と精力的なワクチン開発にかかわらずマラリアであっても)の開発は困難を極めている。進化した生活環を有する寄生虫では、動物・ヒトの獲得防御免疫に関する主要な寄生虫由来の抗原や免疫誘導機構など、不明な点が多くあるためであるが、とりわけ重大なのは、寄生虫は高度に発達した免疫回避機構により宿主の免疫監視から逃れるシステムを発達させており、防御免疫の獲得が困難なことにある。このようなことからバベシア原虫についても例外ではなく、バベシア症の発症をもたらす宿主体内ステージに焦点をあてた研究開発からはワクチンを生まれていない。
一方、マダニの頻回寄生に対して宿主が抵抗性を獲得する現象を応用した獲得免疫によるマダニ防除法が以前から試みられている(非特許文献1)。また、宿主への接触が全くないマダニタンパク質がマダニ感染に対する防御抗原となることも明らかにされ、実際にワクチン抗原(Tick GARD)(非特許文献2)として一部のマダニ媒介性病原体[例えば、1宿主性のマダニ(Boophilus microplus)]に対して野外応用されているものの、多くのマダニ媒介性病原体媒介者に対してのワクチンは依然として開発途上にあり、病原体側のマダニ媒介性病原体の防除対策もマダニと同様に薬剤に深く依存しているのが実情である。このように21世紀におけるマダニ媒介性病原体による人及び家畜生産の被害を既存の薬剤使用によって防ぐことは非常に難しい状況にある。
マダニ媒介性病原体は宿主とマダニで複雑な生活環を形成している。牛バベシア症の中で最も重篤な症状をもたらすバベシア ビゲミナ(Babesia bigemina)の生活環は、宿主赤血球に寄生したバベシア原虫(メロゾイト)が宿主体内で分裂増殖し、他の赤血球への侵入を繰り返す。牛におけるピロプラズマ症の発症はメロゾイトによるものである。マダニが媒介する動物間のバベシア原虫感染は、吸血によってバベシア感染赤血球がマダニ中腸内に取り込まれ、ガメトゴニー及びシゾゴニーの増殖をする。唾液腺に移行したバベシア原虫はスポロゴニーによって増殖し、生じたスポロゾイト期の原虫はマダニの吸血によって宿主体内に侵入する。以上のように、バベシア原虫の生活環を考慮すれば、誰しもマダニステージの重要性は理解することができるが、マダニコロニーの系統維持の難しさから、世界的にもマダニステージの虫体に特化した研究を展開することができるグループは限られている。
一方、ガレクチンは、糖鎖構造(ガラクトースに対する結合特異性)を認識する動物レクチンである。分布は、脊椎動物から線虫、昆虫、海綿動物などの無脊椎動物にも広く存在が知られている。ダニガレクチンとしては、例えば、ヒメダニの1つであるオルニソドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)由来のガレクチン(特許文献1)、あるいは、牛の東海岸熱病のベクターであるコイタマダニの一種(Rhipicephalus appendiculatus)由来のガレクチン[NCBI (National Center for Biotechnology Information) BLASTP (Protein-protein Basic Local Alignment Search Tool) サーチ, Accession No. AA060051)等の塩基配列及びアミノ酸配列が決定されている。しかしながら、ベクターマダニのガレクチンが媒介病原体の伝搬に必須であることはいずれのマダニにおいても実証されるに至っていない。
「ナショナルインスティチュート・オブ・アニマルヘルス・クオータリー(トウキョウ)(National Institute of Animal Health Quarterly、Tokyo) ,1978年,18巻,27-38頁 「プラシトロジー・トゥデー(Parasitology Today)」,(オランダ国),1999年,15巻,258-262頁 国際公開第03/072781号パンフレット
我々は約20年来にわたって継代してきた日本の最優占種であるフタトゲチマダニを用いて、バベシア原虫媒介に関与するプロジェクト研究を推進してきている。我々はマダニ個体における病原体伝搬機構に着目し、解析の結果からバベシア原虫がマダニ体内に侵入する際の中腸上皮表面の接着分子と想定されるガレクチンの単離に成功した。
ガレクチンは、糖鎖構造(ガラクトースに対する結合特異性)を認識する動物レクチンである。分布は、脊椎動物から線虫、昆虫、海綿動物などの無脊椎動物にも広く存在が知られている。機能的には不明な点が多いが、細胞周期やアポとーシスといった生命現象の基本部分を担うとされ、更に様々な病態に対しての治療効果をもたらすことが分かってきている[Yang RY and Liu FT. Cell Mol Life Sci. 60:267-276(2003);笠井ほかタンパク質核酸酵素48:1085-1091(2003)]。特にガレクチンが認識する糖タンパク質は、細胞の種類や状態によって、更に作用も異なるとされている。このようなことからレセプター−リガンドに介入した創薬に基づいて場合、マダニガレクチンは、病原体伝搬において重要な役割を果たしているものと推察することができる。
本発明は、マダニ駆除及びマダニ媒介感染症から人及び動物を守るための化合物を提供し、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などの様々なマダニ媒介性病原体に感染症の防除法を提供するものである。具体的には、ベクターマダニのガレクチン、前記感染防御抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、ベクターマダニのガレクチンに対する抗体、並びにマダニ媒介性病原体の感染及び増殖を防ぐ化合物の提供を目的とする。
本発明者は、抗原変異が宿主体内ステージに比べて少ないベクターステージに着目し、更に、虫体そのものの解析ではなくベクター伝搬に欠かかせない吸血後最初に侵入しなければならない中腸上皮に何らかの接着分子があることを想定した。発明者は、マダニのバベシア原虫媒介能は偶然に成立したものではなく、長い年月をかけて成立した両者の分子間相互作用を基盤にしているものと想定し、今回、フタトゲチマダニ中腸上皮への原虫接着分子としてガレクチンの関与を突き止めた。今回単離したマダニガレクチンは、バベシア原虫に限らず、マダニが媒介する野兎病、Q熱、ウイルス性脳炎などの伝搬防除にも応用することができる。これまで、マダニが媒介する病原体の発育・生存においてガレクチンが重要であるとの報告はなく、ベクターマダニのガレクチンをコードする遺伝子及びその組換えタンパク質は、マダニ媒介性感染症の予防・防除を目的とした化合物の作出に有効である。本発明は、マダニ媒介性病原体におけるマダニ媒介性病原体のベクターマダニのガレクチンをコードする遺伝子、前記感染防御抗原タンパク質及び前記感染防御抗原タンパク質コード領域をタンパク質発現ベクターに挿入し、精製した組換えベクターマダニのガレクチンの作製に関する。また、本発明は、ベクターマダニのガレクチンに対する抗体、及び抗体の作製方法に関する。更に、本発明は、前記タンパク質の一部を利用して作製した合成ペプチド及び化合物に関する。
すなわち、本発明は、
[1]以下のポリペプチド(a)〜(d)からなる群から選んだポリペプチド:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を示すポリペプチド;並びに
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド、
[2][1]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[3]以下のポリヌクレオチド(A)及び(B)からなる群から選んだポリヌクレオチドである、[2]に記載のポリヌクレオチド:
(A)配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチド;及び
(B)配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[4][2]又は[3]に記載のポリヌクレオチドを含む組換え体分子、
[5][2]又は[3]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、
[6][2]又は[3]に記載のポリヌクレオチドを含む組換え体細胞、
[7][6]に記載の組換え体細胞を培養し、その培養物から[1]に記載のポリペプチドを採取することを特徴とする、前記ポリペプチドの製造方法、
[8][1]に記載のポリペプチドを認識する抗体又はその断片、
[9]モノクローナル抗体である、[8]に記載の抗体又はその断片、
[10][1]に記載のポリペプチド若しくはその断片、[2]又は[3]に記載のポリヌクレオチド、[4]に記載の組換え体分子、又は[5]に記載のベクターを有効成分として含む、医薬、
[11]マダニに対するワクチンである、[10]に記載の医薬、
[12][1]に記載のポリペプチド若しくはその断片、[2]又は[3]に記載のポリヌクレオチド、[4]に記載の組換え体分子、又は[5]に記載のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物、
[13][1]に記載のポリペプチド若しくはその断片、[2]又は[3]に記載のポリヌクレオチド、[4]に記載の組換え体分子、又は[5]に記載のベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法、
[14][1]に記載のポリペプチド若しくはその断片、[2]又は[3]に記載のポリヌクレオチド、[4]に記載の組換え体分子、又は[5]に記載のベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法、
[15][1]に記載のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び
前記ポリペプチドのガレクチン活性を分析する工程
を含む、前記ポリペプチドのガレクチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法、並びに
[16]マダニガレクチン阻害剤を有効成分として含む、寄生虫駆除剤
に関する。
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、組換え体分子、ベクター、形質転換体、及び抗体によれば、本発明の医薬、特にはマダニワクチンを提供することができる。また、本発明の医薬、特にはマダニワクチンによれば、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防が可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるcDNAライブラリーの作製、遺伝子のクローニング、スクリーニング、及び塩基配列の決定等の分子生物学、寄生虫学、免疫学、並びに生化学的な技術は、J.Sambrook, E.F.Fritsch & T.Maniatis (1989): Molecular Cloning, a laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ed Harlow and David Lanc(1988):Antibodies, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press;獣医住血微生物学 近代出版(1986);獣医寄生虫学、獣医臨床寄生虫学編集委員会編、文英堂(1998);標準医動物学 第2版,医学書院(1998)等の当業者に良く知られた文献に記載された方法に従って実施することができる。また、DNA解析は、MacVector(登録商標)(コダック社)及びGENETYX(ソフトウェアー開発社)等のソフトウェアを用いて行うことができる。
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)
が含まれる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列(アミノ酸残基数=323)は、フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)のガレクチンタンパク質のアミノ酸配列である。
本明細書において「ガレクチン活性」とは、ベクターマダニのガレクチンタンパク質の生物学的活性を意味し、例えば、血球凝集活性、βガラクトシドに対する結合活性、あるいは、マダニ媒介性病原体(例えば、バベシア原虫など)に対する結合活性[好ましくは、バベシア原虫の表面タンパク質(特にはEMA2抗原[Huang X et al., J Clin Microbiol. 41:1147-1151(2003)])との結合活性]を挙げることができる。
或るポリペプチドがガレクチン活性を有するか否かは、公知の方法に従って、判定することができる。例えば、或るポリペプチドが血球凝集活性を有するか否かは、例えば、実施例8に示すように、Nowak et al., Biochem Biophys Res Commun 68:650-657(1976)に従って判定することができる。或るポリペプチドがβガラクトシドに対する結合活性を有するか否かは、例えば、ラクトースに対する結合能を分析することにより判定することができ、より具体的には、実施例8に示すように、ラクトースをリガンドとするアフィニティ精製(好ましくはラクトースアガロース)により判定することができる。或るポリペプチドがマダニ媒介性病原体に対する結合活性を有するか否かは、例えば、マダニ媒介性病原体、あるいは、それから分離した化合物(例えば、タンパク質)との結合能を分析することにより判定することができ、より具体的には、実施例9に示す方法により判定することができる。
本発明のポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド」としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、ガレクチン活性を有する融合ポリペプチド;あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと、融合用パートナーとの融合ポリペプチドであって、しかも、ガレクチン活性を有する融合ポリペプチドを挙げることができる。
前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを用いることができる。
また、前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用ポリペプチド[例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)の全部又は一部]、検出用ポリペプチド[例えば、ヘムアグルチニン又はβ−ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ α)の全部又は一部]、又は発現用ポリペプチド(例えば、シグナル配列)などを用いることができる。
更に、前記融合ポリペプチドにおいては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと前記マーカー配列又は融合用パートナーとの間に、限定分解するタンパク質分解酵素(例えば、トロンビン又はファクターXa)で切断することができるアミノ酸配列を適宜導入することもできる。
本発明の機能的等価改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体として1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜7個、更に好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もフタトゲチマダニに限定されない。
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体が含まれるだけでなく、フタトゲチマダニ以外の生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、フタトゲチマダニ由来の変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを元にして、遺伝子工学的に、コードするアミノ酸配列を人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体は、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における第129番〜第1097番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harber Laboratory Press,1989)に従って実施することが可能である。
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の試料(例えば、全RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki,R.K.ら,Science,239,487-491,1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例8又は9に記載の方法により、ガレクチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site-specific mutagenesis; Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662-5666,1984)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例8又は9に記載の方法により、ガレクチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
本発明の相同ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではない。本発明の相同ポリペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができる。なお、本明細書における前記「相同性」とは、公開されているデータベースNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLASTPサーチ(Protein-protein Basic Local Alignment Search Tool)を用いた結果である。
これらの本発明の新規ポリペプチドは、種々の公知の方法によって製造することができ、例えば、本発明の前記ポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドを用いて公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。より具体的には、後述する本発明の形質転換体(すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体)を、本発明による新規ポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、ポリペプチドの分離及び精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から目的ポリペプチドを分離及び精製することにより調製することができる。前記の分離及び精製方法としては、例えば、硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、又は凍結乾燥等を挙げることができる。
また、本発明には、本発明によるポリペプチドの断片も含まれる。本発明による前記断片は、本発明による医薬の有効成分として、あるいは、本発明の抗体を調製するための抗原として有用である。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチド[例えば、配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド(すなわち、ベクターマダニのガレクチンをコードする遺伝子(Hlgal遺伝子))、配列番号1で表される塩基配列における129番〜1100番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド、あるいは、配列番号1で表される塩基配列(すなわち、全長)からなるポリヌクレオチド]、あるいは、配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、マダニ媒介性病原体のベクターマダニのガレクチンをコードするDNA配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。通常、完全ハイブリッドの融解温度より約5℃〜約30℃、好ましくは約10℃〜約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されており、ここに記載の条件を使用することができる。例えば、ストリンジェントな条件としてハイブリダイゼーションを65℃で一晩実施し、非特異反応を除去するための洗浄を2×SSCを用いて室温で5分間行った後、0.1%SDSを含む0.2×SSCを用いて65℃で30分間の洗浄を2回繰り返すことなどが挙げられる。なお、2XSSCの組成は、0.3mol/L NaCl及び30mmol/Lクエン酸ナトリウム(pH7.0)である。
本発明のベクターマダニのガレクチンをコードするcDNAは、例えば、以下のような方法で得ることができる。本実施例で使用したマダニである岡山株のフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)は、国立大学法人帯広畜産大学・原虫病研究センターより得ることができる。Fujisaki[Fujisaki et al., Natl Inst Anim Health Q (Tokyo) 16, 122-128, (1976)]らの方法によって成ダニを生産し、アシッドグアニジニウム−フェノール−クロロホルム(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform)法[Chomczynski et al., Anal Biochem 162: 156-159 (1987)]にて全RNAを抽出することができる。全RNA よりmRNA単離キット (Oligotex-dT30;Takara社) を用い、メーカーの推奨する方法に従ってポリARNAを精製することができる。例えば、成ダニを、グアニジン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得た後、オリゴdT−セルロースやセファロース2B等を担体とするポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、又はバッチ法によりポリAmRNAを得ることができる。
このようにして選られたmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖DNAを合成し、適当なベクターに組み込んで、前記ベクターを用いて大腸菌等を形質転換してcDNAライブラリーを作製することができる。cDNAは、適当な制限酵素とリガーゼを用いる通常の方法でベクターに組込むことができる。例えば、得られたcDNAを、適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法などがある。この際、後述のベクター、宿主細胞を用いてcDNAライブラリーを得ることが出来る。
このようにして得られたクローン化DNAライブラリーから、目的のDNAを選択することができる。選択方法として、イムノスクリーニング法、プラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等の方法を用いることができる。例えば、得られたクローン群を、イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)等の誘導物質によりタンパク質を発現させ、これをナイロン膜若しくはセルロース膜に転写し、目的タンパク質に対する抗体又は前記抗体を含む血清を用いて免疫学的に対応するクローンを選択することができる。
このようにして調製したクローンから目的cDNAの塩基配列を決定することができる。塩基配列の決定は、例えば、マキサム・ギルバート法(Maxam,A.M. andGilbert, W.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,74,560,1977)又はジデオキシ法(Messing, J et al.,Nucl.Acids Res.,9,309,1981)等により行うことができる。これらの原理を応用した塩基配列自動解析装置を用いて配列を決定することもできる。
得られた目的DNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の遺伝子増幅法により増幅することができる。PCRは、例えば、蛋白質核酸酵素「PCR法最前線―基礎技術から応用まで―」第4巻、第5号、1996年4月号増刊、共立出版に記載されている技術により行うことができる。目的のDNAをクローン化又は増幅した後、目的DNAを回収し、これを入手可能な適当な発現ベクターに組み込んで、さらに適当な宿主細胞に形質転換し、適当な培地中で培養、発現させ、目的タンパク質を回収、精製することができる。
この際のベクターとして、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG−1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
ベクターは、商業的に入手可能なものを使用することができ、例えば細菌性のものではpQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)、pBluescriptII KS、ptrc99a、pKK223−3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia)、pET−11a(Novagen)、真核性のものではpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、SV40(Pharmacia)等がある。
複製開始点として、大腸菌ベクターに対して、例えばColiE1、R因子、F因子由来のものが、酵母ベクターに対して、例えば2μmDNA、ARS1由来のものが、哺乳類細胞用ベクターに対して、例えばSV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス由来のものを用いることができる。また、プロモーターとしてアデノウイルス又はSV40プロモーター、大腸菌lac又はtrpプロモーター、ファージラムダPL プロモーター、酵母用としてのADH、PHO5、GPD、PGK、AOX1プロモーター、蚕細胞用としての角多角体病ウイルス由来プロモーター等を用いることができる。
選択マーカーとして、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等を、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等を、哺乳類細胞には、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を挙げることができる。
DNAのベクターへの導入は、任意の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、又は単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位にDNAを挿入することができる。本発明のDNAおよび調節配列を含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞に本発明のベクターマダニのガレクチンを発現、産生させることができる。
宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、アスペルギルス属菌株等の真菌細胞、パン酵母、メタノール資化性酵母等の酵母細胞、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞、CHO、COS、BHK、3T3、C127等の哺乳類細胞等が挙げられる。
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポーレーション等の公知の方法で行うことができる。
得られたリコンビナントタンパク質は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合タンパク質として発現される場合は、目的タンパク質と融合しているタンパク質又はペプチドの性質を利用して精製することもできる。例えばヒスチジンが6個以上並んだアミノ酸配列、いわゆるヒスチジン・タグとの融合タンパク質として発現させた場合、ヒスチジン・タグを有するタンパク質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる、またGSTとの融合タンパク質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。
ベクターマダニのガレクチンに対する抗体は、以下のようにして調製することができる。
前記ベクターマダニのガレクチンをもとに作製した合成ペプチドを、適当なキャリアタンパク質[例えば、牛血清アルブミン(BSA)又はキーホールリンペットヘモグロビン(KLH)]と結合させた複合体を抗原として、当業者に良く知られた方法に従い、例えば、マウス、モルモット、ウサギ、ヤギ等の動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈に複数回接種し、充分に免疫した後、動物から採血し、血清分離し、抗ベクターマダニガレクチン抗体を作製することができる。この際、適当なアジュバントを使用することもできる。
モノクローナル抗体も公知の方法により作製することができる。例えば、ベクターマダニのガレクチンで免疫したマウスの脾細胞とマウスのミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作製し、前記ハイブリドーマの培養上清又は前記ハイブリドーマを腹腔内に投与したマウスの腹水から調製することができる。
免疫抗原として用いるマダニ媒介性病原体感染幼虫のベクターマダニのガレクチンは、マダニ媒介性病原体から抽出した天然タンパク質、あるいは、組換えタンパク質でもよいし、化学合成したものでもよい。また、全アミノ酸配列を有するタンパク質でも良いし、前記タンパク質の部分構造を有するペプチドフラグメントや他のタンパク質との融合タンパク質でも良い。ペプチドフラグメントは、前記タンパク質を適当なタンパク質分解酵素で分解した断片も用い得るし、配列番号1で表される塩基配列の一部を発現ベクターに組み込んで発現させた産物でも良い。融合タンパク質は、配列番号1で表される塩基配列の一部を他のタンパク質をコードする遺伝子と連結させて、発現ベクターに組み込んで発現させて製造することもできるし、ポリペプチドフラグメントを適当なキャリアタンパク質と化学結合により結合させた上で使用することもできる。得られた抗体の反応性は、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ウエスタンブロッティング等の当業者によく知られた方法により測定することができる。
本発明の医薬(好ましくは、マダニに対するワクチン、より好ましくは、マダニ媒介性感染症のための病原体伝搬阻止ワクチン)は、有効成分として、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換え体分子、又は本発明のベクターを含む。すなわち、本発明においては、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換え体分子、又は本発明のベクターを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、マダニ駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
本発明の医薬における前記有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換え体分子、又は本発明のベクターをマダニワクチンとして投与すると、抗体産生を誘導することができ、宿主の再感染防御能を介してダニを駆除することができる。また、その結果として、マダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療又は予防が可能である。
すなわち、本発明の医薬組成物(好ましくは、マダニ駆除用医薬組成物、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬組成物)は、有効成分としての本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換え体分子、又は本発明のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む。本発明における有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターは、前記医薬(好ましくは、マダニ駆除用医薬、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬)を製造するために使用することができる。
本発明の医薬をマダニワクチンとして使用する場合、本発明のポリペプチドの断片としては、投与対象に投与した場合に、前記断片に対して免疫を誘導するのに充分な断片である限り、特に限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択することができる。
本発明のポリペプチドを用いると、試験物質が、本発明のポリペプチドのガレクチン活性を修飾(例えば、抑制又は促進)するか否かをスクリーニングすることができる。本発明には、本発明のポリペプチドを含むスクリーニングキットが含まれる。
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett, N. K. ら, Tetrahedron, 51, 8135-8137, 1995)又は通常の合成技術によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici, F. ら, J. Mol. Biol., 222, 301-310, 1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
本発明のスクリーニング方法においては、本発明のポリペプチドと試験物質とを接触させ、前記試験物質の存在下における、本発明のポリペプチドのガレクチン活性を分析することにより、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのガレクチン活性を修飾するか否かを判断する。試験物質の不在下における本発明のポリペプチドのガレクチン活性と比較して、試験物質の存在下における前記ガレクチン活性が減少する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのガレクチン活性を抑制又は阻害すると判断することができる。一方、ガレクチン活性が上昇する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのガレクチン活性を促進すると判断することができる。
ガレクチン活性を抑制する物質(すなわち、ガレクチン阻害剤)は、寄生虫駆除剤の有用な候補物質であり、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防に用いることができる。ガレクチン阻害剤としては、例えば、ガレクチン中和抗体、構造活性相関に基づく親和物を公知のものとして挙げることができる。
本発明における有効成分、すなわち、本発明のポリペプチド(好ましくはベクターマダニのガレクチン)、ポリヌクレオチド、組換え体分子、及び/又はベクター、あるいは、ガレクチン阻害剤は、所望により、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは、注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。本発明の医薬は、公知の方法によって製造することができ、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、前記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用可能であり、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。その投与量は、症状、年齢、体重、及び/又は投与経路に応じて適宜決定することができ、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定することができる。有効用量は、例えば、インビトロにおける試験又はインビボの動物モデル試験系から導くことができる。
また、本発明は、前記タンパク質、核酸、抗体、動物の治療を目的とした治療的化合物、並びにその応用も含まれる。本発明のベクターマダニのガレクチンタンパク質及び核酸は、マダニ媒介性病原体が属するウイルス、細菌、原虫、寄生虫を含むマダニ媒介性病原体による人又は動物の寄生虫病予防及び/又は治療を目的とした化合物の合成及び治療薬の開発に応用することができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:ベクターマダニのガレクチン塩基配列の分離及び決定》
フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis) の成ダニは、国立大学法人帯広畜産大学・原虫病研究センターより得ることができる。Fujisaki[Fujisaki et al., Natl Inst Anim Health Q (Tokyo) 16, 122-128, (1976)]らの方法によって成ダニを生産し、以下の操作に供した。ベクターマダニのガレクチンをコードする遺伝子は、国際公開WO 03/072781号に記載のヒメダニのガレクチンをコードする塩基配列情報を利用して、フタトゲチマダニcDNAライブラリーを用いるPCR法に基づいて取得した。
すなわち、成ダニより市販キット(Total RNA Isolation Kit;プロメガ社)を用い、メーカーの推奨する方法に則り、RNAを抽出した。抽出したRNAから市販キット(mRNA Isolation Kit;プロメガ社)を用い、メーカーの推奨する方法に従い、ポリA−RNAを精製した。市販キット(Time Saver cDNA 合成キット;ファルマシア社)を用い、メーカーの推奨する方法に従い、二本鎖cDNAを合成した。フタトゲチマダニcDNAライブラリーは、λZapII ベクター(ストラータジーン社)を用いてメーカーの推奨する方法により作製した。
ヒメダニガレクチンcDNA塩基配列から縮合プライマー(センスプライマー:5’-GAYGTNGCNYTNCAYATHAAYCCNCG-3’;配列番号7)を設計後、上記マダニcDNAライブラリーを鋳型にPCRを実施した。PCR反応は、反応液[1ng 成ダニcDNA、1μmol/Lセンス及び1μmol/Lアンチセンスプライマー(M13-20 primer)、10mmol/L Tris-HCl (pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2 、2.5U AmpliTaq DNA polymerase(プロメガ社)](50μL)を調製し、市販機器(DNA Thermal Cycler;パーキンエルマー社)を用いて、95℃にて30秒間、55℃にて30秒間、72℃にて2分間の反応を35サイクルで実施した。増幅したPCR産物は、ゲル電気泳動を行い、増幅したDNA断片をDNA精製キット(キアゲン社)を用いて蒸留水中に回収し、回収液を直ちにTAクローニングベクター(インビトローゲン社)にメーカーの推奨する方法に従ってDNA断片を挿入し、得られたプラスミドで大腸菌INVαF’(インビトローゲン社)の形質転換を行い、X−Gal(ナカライ社)を含むアンピシリン含有Lブロス(L-amp)プレートに蒔き、白色のコロニーを選択することにより、アンピシリン耐性で、βガラクトシダーゼ欠損のコロニーを選択した。
選択したコロニーをL−amp培地で培養し、アルカリ溶菌法により調製した組換え体プラスミドDNAをM13リバース及びフォワードプライマー(アプライドバイオシステム社)を用い、ダイターミネーターシークエンシング(Dye-terminater Sequencing)法(アプライドバイオシステム社テクニカルマニュアル)によりメーカーの推奨する方法に従い反応させ、反応産物をDNAシークエンサー(DNA sequencer Model 370A, version 1.30;アプライドバイオシステム社)を用いて分析し、塩基配列を決定した。塩基配列解析の結果から、遺伝子増幅断片は約600bpであった。
そこでベクターマダニのガレクチンをコードする完全長のcDNAを得るために、更に上記cDNAライブラリーを鋳型に5’の欠損部位をPCRで増幅した。上記に記載した600bpの塩基配列情報を基に作製したPCRプライマー(5’−GCGCGGGTTTATATGAAAGGCCACGTC−3’;配列番号8)とM13リバースプライマーを用いてPCR反応を実施した。得られた増幅断片をTAクローニングベクターに挿入し、定法に従って塩基配列を決定した。
ベクターマダニのガレクチンをコードする完全長のcDNA(配列番号1)は、1,231塩基で構成され、5’には非翻訳領域に続きATGの開始コドンが、また、3’には真核生物に存在するポリアデニレーション及びポリAテイルが確認された。塩基配列から推定されるタンパク質(配列番号2)は、323残基のアミノ酸から構成され、推定分子量は35,866Daであった。コーディング領域は、129位〜1097位であった。アミノ酸データベースとの相同性検索(BlastP)から、前記推定アミノ酸構造は、動物由来のガレクチンと類似性を示した。最も高い類似性を示したタンパク質は、ライム病のベクターであるコイタマダニ(Rhipicephalus appendiculatus)であり、55%の相同性を示した。推定アミノ酸配列から、シグナルペプチドを保持しないことや、2つの糖結合部位配列を保持するタンデムリピート型のガレクチンであることが示された。なお、公知のヒメダニのガレクチンは、アミノ酸レベルにおいてベクターマダニのガレクチンとの間に類似性はなく、マダニガレクチンとヒメダニガレクチンとは、異なる型のガレクチンであることが判明した。
《実施例2:組換え体タンパク質を発現させるベクター構築のためのベクターマダニのガレクチンcDNAの増幅並びに組換え体分子及び組換え体細胞の作出》
実施例1で得られたマダニガレクチンをコードする完全長cDNAを、センスプライマー(5’- ACGGATCCATGTCAGCAAAGGTCTCAGCCC-3’;BamHIサイト GGATCC;配列番号3)及びアンチセンスプライマー(5’- ACGAATTCTAGGACTGCTGGTGCAGCTTGC -3’; EcoRIサイトGAATTC;配列番号4)を用いたPCR反応にて増幅した。PCR反応は、反応液[1ng 成ダニcDNA、1μmol/Lセンス及び1μmol/Lアンチセンスプライマー、10mmol/L Tris-HCl (pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2 、2.5U AmpliTaq DNA polymerase(プロメガ社)](50μL)を調製し、市販機器(DNA Thermal Cycler;パーキンエルマー社)を用いて、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の反応を35サイクルで実施した。増幅したPCR産物は、ゲル電気泳動を行い、増幅したDNA断片をDNA精製キット(キアゲン社)を用いて蒸留水中に回収し、回収液を制限酵素BamHI及びEcoRIで3時間酵素処理した。プラスミド発現ベクターであるpTrcHis発現ベクター(インビトローゲン社)も、挿入断片と同様に制限酵素BamHI及びEcoRIで3時間酵素処理した。なお、前記プラスミドpTrcHisは、発現対象ポリペプチドを、そのN末端に(His)(ヘキサ−ヒスチジン・タグ)を付加した融合ポリペプチドとして発現させることができる発現ベクターである。制限酵素処理した挿入断片及びベクターをDNAライゲーションキット(宝酒造社)を用いて、メーカーの推奨する方法に従って、DNA断片を挿入し、大腸菌Top10(インビトローゲン社)の形質転換を行い、L−ampプレートに蒔き、白色のコロニーからベクターマダニのガレクチンコード領域の挿入されたクローンを選択した。
《実施例3:大腸菌におけるベクターマダニのガレクチンの作出と作出したタンパク質の性状》
形質転換した大腸菌を37℃にて、アンピシリンを含んだSOB液(バイオ101;フナコシ)で培養し、SOB液のOD600が0.5に到達した時点で1mmol/Lイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を添加し、更に3時間培養を続けた。経時的に産生されるタンパク質産生の変化は、15%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動[Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970)]を実施した後、クマーシー染色で確認した。その結果、約36kDa付近に組換えタンパク質の産生が認められ。また、同様に実施した電気泳動のゲルを、ニトロセルロース膜(アマシャム社)に電気的に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、トリス緩衝液(TBS)で10,000倍に希釈されたアルカリホスファターゼ標識されたT7モノクローナル抗体(ノバーゲン社)と1時間反応させた。なお、前記T7モノクローナル抗体は、(His)と反応するモノクローナル抗体である。ツィーン加TBS(TBST)で洗浄した後、結合したタンパク質を基質(NBT/BCIP;ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、このウエスタンブロット解析によって、約36kDa付近に確認された組換えタンパク質と反応することが認められ、組換えベクターマダニのガレクチンに(His)が付加されていることが確認された。
《実施例4:大腸菌からの組換えベクターマダニのガレクチンの精製、及び精製した組換えベクターマダニのガレクチンに対する抗体作製》
組換えベクターマダニのガレクチンはメタルキレートクロマトグラフィー(インビトローゲン社)を用いてメーカーの推奨するイミダゾール溶出法によって精製した[Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79(1998)]。溶出されたタンパク質は、遠心濃縮カラム(Centrisart I;ザルトリウス社, cut off 10,000 MW) を用いて濃縮し、透析カセット(Slide-A-LyzerTM Dialysis Cassette;ピアス社)を用いてリン酸緩衝食塩液中にて透析を行った。
組換えベクターマダニのガレクチンに対するポリクローナル抗体は、マウスを用いて以下のように作製した[Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79, (1998)]。透析した組換えベクターマダニのガレクチン50μgをアジュバント(TiterMax GoldTM;シンテックス社)とともに皮下接種し、4週間後再度同量を接種した。再投与2週後に採血を行い、血清を−20℃に保存した。作製された抗血清はウエスタンブロット解析によって、人獣共通マダニの組換えベクターマダニのガレクチン36kDaと強く反応することが確認された。
《実施例5:イムノブロット法による内在性のベクターマダニのガレクチンの性状》
実施例4で作製したマウスのベクターマダニのガレクチン組換え体タンパク質免疫血清を用いて、ベクターマダニのガレクチンタンパク質抽出液のSDS−PAGE/イムノブロット法を行った。SDS−PAGE[Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970)]で分離した後、定法に従いニトロセルロース膜(アマシャム社)に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで1,000倍に希釈されたマウスのベクターマダニのガレクチン組換え体タンパク質免疫血清と1時間反応させた。TBSTで洗浄したのち、免疫血清と結合したタンパク質を検出するために、アルカリホスファターゼ標識された抗マウス−IgG抗体(カッペル社)と1時間反応させ、結合したタンパク質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、マウス血清と反応する約36Daの単一バンドが確認され、マダニ抽出タンパク質中の内在性ベクターマダニのガレクチンを同定することができた。
《実施例6:免疫組織化学法による内在性ベクターマダニのガレクチンの局在》
フタトゲチマダニの成ダニを、リン酸緩衝液(PBS)にパラホルムアルデヒドを4%になるように調製した溶液で、虫体を固定し、定法に従ってパラフィン切片を作製した。キシレン・アルコール系列を通した組織切片を、10%正常ヤギ血清で30分間ブロッキングした。組織切片にPBSで100倍に希釈されたマウスのベクターマダニのガレクチン組換え体タンパク質免疫血清と一晩反応させた。PBST(PBS-Tween20)で洗浄した後、免疫血清と結合したタンパク質を検出するために、ビオチン標識された抗マウス−IgG抗体(カッペル社)と20分間反応させた。PBSTで洗浄した後、ペルオキダーゼ標識されたアビジンを20分間反応させ、PBSTで洗浄した後、基質ジアミノベンチジンテトラハイドロクロライド(シグマ社)を用いて可視化した。その結果、内在性ベクターマダニのガレクチンの局在を示す陽性反応は、全身性に確認され、特に中腸上皮での最も強い反応が確認された。
《実施例7:酵母を用いた組換えベクターマダニのガレクチンの作製》
ベクターマダニのガレクチンの機能を明らかにするために、酵母発現系(EasySelect Pichia 発現キット;インビトローゲン社)を用いて、組換えベクターマダニのガレクチンを作製した。メーカーの推奨するプロトコールに従ってセンスプライマー(5’- ACGGATCCATGTCAGCAAAGGTCTCAGCCC -3’;配列番号5)とアンチセンスプライマー(5’- ACGAATTCTAGGACTGCTGGTGCAGCTTGC -3’;配列番号6)とを用いてベクターマダニのガレクチンのコード領域をPCR反応にて増幅した。PCR反応物をpPIC ZBベクター(インビトローゲン社)に挿入し、酵母(Pichia pastorisGS115(インビトローゲン社)を用いて形質転換体を作製した。選抜されてゼオシン耐性形質転換体から予備的発現スクリーニングによって高発現クローンを選択し、組換えベクターマダニのガレクチンの大量精製を実施した。精製は組換えベクターマダニのガレクチンに付加されているヘキサ−ヒスチジン・タグ(His-tag)を利用して、実施例4に示した大腸菌発現の組換えベクターマダニのガレクチンの精製と同様に行った。酵母発現の組換えベクターマダニのガレクチンは分子量36.5kDaで、発現ベクターに挿入した遺伝子から推定される分子量と一致した。
《実施例8:組換えベクターマダニのガレクチンの糖結合活性》
ベクターマダニのガレクチンが属するガレクチンファミリーの特徴である、βガラクトシドに対する糖結合活性を調べた。はじめに組換えベクターマダニのガレクチンの血球凝集作用を、Nowak et al., Biochem Biophys Res Commun 68:650-657(1976)に従って検討した。その結果、組換えベクターマダニのガレクチンは、ウサギ赤血球を濃度依存的に凝集させ、その反応はβ-gal1.4(生化学工業)で阻害されることが確認された。次に、ラクトースをリガンドとしたアファニティ精製(生化学工業)によって、組換えベクターマダニのガレクチンはラクトースアガロースに吸着することが確認されたことから、βガラクトシド結合能の保持が確認された(図1)。図1において、レーン1は、組換えガレクチンであり、レーン2は、フコースアガロースに対する非結合画分であり、レーン3は、フコースアガロースに対する結合画分であり、レーン4は、ラクトースアガロースに対する非結合画分であり、レーン5は、ラクトースアガロースに対する結合画分である。以上より、ベクターマダニのガレクチンは糖結合能を有していることが明らかとなった。
《実施例9:組換えベクターマダニのガレクチンと馬バベシア原虫表面タンパク質との結合活性》
組換えベクターマダニのガレクチンと馬バベシア原虫表面タンパク質との結合活性は、インビトロ(In vitro)で培養した馬バベシア原虫[バベシア エクイ(Babesia equi)]の宿主赤血球内ステージのメロゾイト期虫体を用いて調べた[Avarzed et al., J. Clin. Microbiol 36:1835-1839(1998)]。すなわち、4%トリトンX−100で処理したバベシア原虫の可溶性抗原(及び、コントロールとして、赤血球膜のタンパク質)をSDS−PAGEで分離後、ポリビニリデンフルオリド膜(PVD;ミリポア社)に転写した。膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、組換えベクターマダニのガレクチン(His−tagを含む)と反応させた。結合能を示す陽性反応は、西洋ワサビ標識His−tag抗体(ナカライ)及びDAB(3’-diaminobenzidine tetrahydrochloride;シグマ社)を用いて可視化した。また、前記ガレクチンを反応させることなく、バベシア原虫の主要表面抗原であるEMA2抗原[Huang X et al., J Clin Microbiol. 41:1147-1151(2003)]を認識する一次抗体と、西洋ワサビ標識抗マウスIgG抗体とを順次反応させ、陽性部位を可視化した。更に、対照として、溶血させたウマ赤血球から得られた赤血球膜を用いた。
結果を図2に示す。図2において、レーン1は、アミドブラック染色の結果であり、レーン2は、組換えベクターマダニのガレクチン(His−tagを含む)を反応させた後、西洋ワサビ標識His−tag抗体で可視化した結果であり、レーン3は、抗EMA2抗原一次抗体を反応させた後、西洋ワサビ標識マウスIgG抗体で可視化した結果であり、レーン4は、対照である。その結果、バベシア原虫表面抗原と結合する分子が検出され、その中には、バベシア原虫の主要表面抗原であるEMA2抗原が含まれていることが確認された。
本発明は、マダニが媒介する動物・ヒトの病原体に起因する感染症の防除を目的とした化合物の合成及び治療薬の開発の用途に適用することができる。
配列表の配列番号3〜8の配列で表される各塩基配列は、プライマー配列である。配列番号7の配列で表される塩基配列において、第6、9、12、及び24番目の塩基「n」は、任意の塩基を意味する。
電気泳動により、組換えベクターマダニのガレクチンのラクトース結合反応の結果を示す、図面に代わる写真である。 電気泳動により、組換えベクターマダニのガレクチンとバベシア原虫表面タンパク質との結合反応の結果を示す、図面に代わる写真である。

Claims (10)

  1. 以下のポリペプチド(a)〜(d)からなる群から選んだポリペプチド:
    (a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
    (b)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド;
    (c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を示すポリペプチド;並びに
    (d)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチド。
  2. 請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
  3. 以下のポリヌクレオチド(A)及び(B)からなる群から選んだポリヌクレオチドである、請求項2に記載のポリヌクレオチド:
    (A)配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチド;及び
    (B)配列番号1で表される塩基配列における129番〜1097番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
  4. 請求項2又は3に記載のポリヌクレオチドを含む組換え体分子。
  5. 請求項2又は3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
  6. 請求項2又は3に記載のポリヌクレオチドを含む組換え体細胞。
  7. 請求項6に記載の組換え体細胞を培養し、その培養物から請求項1に記載のポリペプチドを採取することを特徴とする、前記ポリペプチドの製造方法。
  8. 請求項1に記載のポリペプチドを認識する抗体又はその抗原結合断片。
  9. モノクローナル抗体である、請求項8に記載の抗体又はその抗原結合断片。
  10. 請求項1に記載のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び
    前記ポリペプチドのガレクチン活性を分析する工程
    を含む、前記ポリペプチドのガレクチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法。
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