本発明は、耐電圧特性及び大電流遮断特性に優れた真空遮断器用接点材料の製造方法に関する。
真空中でのア−ク拡散性を利用して、高真空中で電流遮断を行わせる真空バルブの接点は、対向する固定接点及び可動接点の2つの接点から構成されている。
真空遮断器には、大電流断性能、耐電圧性能及び耐溶着性能の基本的な3要件の他に、触抵抗性能、耐消耗性能、電流裁断性能等も重要な要件となっている。
しかしながら、これらの要件の中には相反するものがある関係上、単一の金属種によって総ての要件を満足させることは不可能である。このため、実用されている多くの接点材料においては、不足する性能を相互に補うような2種以上の元素を組み合わせることによって、例えば大電流用、高耐圧用などのように特定の用途に合った接点材料の採用、またその接点特性を十分に発揮させるための製造方法の採用が行われ、それなりに優れた特性を持つ真空バルブが開発されているが、さらに強まる要求を充分満足する真空バルブ、真空遮断器は未だ得られていないのが実情である。
真空バルブ用接点材料に関し、大電流遮断性を目的とした合金としてBiを0.5質量%程度含有させたCu−Bi接点がある(特許文献1)。また、Teを5質量%程度添加したCu−Te接点が知られている(特許文献2)。この特許文献1及び特許文献2には、これらの接点を溶解法で製造する方法も記載されている。
大電流遮断性を目的とした他の接点として、Crを70〜90容積%含有したCuCr接点が知られている。すなわちCrマトリックス中にCuを浸潤メタルとしたCuCr合金が開示されている(特許文献3)。
25〜60%のCrを含有するCuCr溶融合金を製造する目的で、原材料をア−ク、電子線、レ−ザ、高周波プラズマを加熱手段として、少なくとも2273Kに過熱し、Crの析出又は分離が表れないような冷却速度で冷却するCuCr溶融合金の製造方法がある(特許文献4)。この製造方法によって、欠陥部及び空孔がなく均一なミクロ組織を持つ接点合金が得られるとされている。
脱ガスした型にCr粉を注ぐ工程、Crの上にCuを置く工程、前記の型を多孔質の蓋で閉じる工程、脱ガスする工程、融点以下でできるだけ高い温度で加熱する工程、炉内圧力を10-4mbより低い炉内圧力を得るまで保持する工程、炉温度をCuの融点より100〜200K高い温度とし、Cr中にCuを溶浸する工程の各工程からなるCuCr接触子の製造方法がある(特許文献5)。
Crと少量のCuとを混合する工程、多孔率をCr含有量が40〜60%となるようにする工程、プレスした圧粉成型体をダイ型から取り出す工程、多孔質Crを形成するように焼結する工程、CuでCr生地を溶浸し最終焼結する工程とからなるCuCr接触子の製造方法がある(特許文献6)。この製造方法によって、ほとんど又は全く機械加工を要しないとされている。
導電材料の総て及び耐弧材料の少なくとも一部分を溶融後急冷凝固させ、耐弧材料成分を過飽和に含む導電材料、導電材料成分を過飽和に含む耐弧材料を形成する第1工程、前記過飽和成分を熱処理によって排除させる第2工程とを備えた接点材料の製造方法がある(特許文献7)。この製造方法によって、導電率を改善し遮断特性を向上させた製造方法が提供できるとされている。
Al粉末を60〜80%冷間成型した後に押出比5〜20%で押し出す製造方法がある(特許文献8)。
粉末合金の押出しにおいて、ビレットとダイスの間に変形抵抗が近似のAl合金板を介して成型する製造方法がある(特許文献9)。
変形能が極端に低く、かつ変形抵抗の高い混合粉末複合材からなるマトリックスを半溶融状態で押出加工する方法がある(特許文献10)。このとき被覆材には、当該温度で変形能が高く溶融しない金属を選択する。これによって、従来の押出し加工プロセスより健全な製品の製造が期待でき経済効果も期待できるとされている。
しかしながら、高信頼度化と小形化を志向する真空遮断器としては、耐電圧特性と大電流遮断特性とを一層改善することが必要となり、上掲した従来の接点には以下に述べるような問題点があり改良が望まれている。
(1)特許文献1、特許文献2に記載されている接点では、CuとBi、又はCuとTeを両者の融解温度以上に加熱し冷却固化し接点素材としたもので、結晶粒界粒内に析出したBiやCu2Teが合金自体を脆化させる結果、耐溶着性を改善し、大電流遮断性を実現している。しかし、更に強まる耐電圧特性の安定化の要求に対しては十分な製造方法とは認められない。
(2)特許文献3に記載されている接点では、Cr自体がCuと略同等の蒸気圧特性を保持し、かつ強力なガスのゲッタ作用を示す等の効果で高電圧大電流断性を実現している。しかし、Cuを浸潤メタルとして使用するのみでは、浸潤メタルのCuが組織中に偏析として残存することとなり、得られたCuCr合金中のCr粒子の分布状態は良好ではなく、耐電圧特性にバラツキが見られ好ましい製造方法とは認められない。
(3)特許文献4に記載された製造方法では、欠陥部及び空孔がなく均一なマクロ組織を持つ接点合金を得ることができる。しかし、この製造方法では経済性に欠ける。
(4)特許文献5の製造方法によって、低い酸素ガス量を持つ接触子を得ることができる。しかし、酸素ガス量を低減させるために複雑な製造プロセスとなっている上に、Cr粒子の形態を微細化、均一化する製造方法としては十分ではない。
(5)特許文献6の製造方法によって、ほとんど又は全く機械加工を要しない製造方法が提案されている。しかし、Cr粒子の平均粒子直径を十分に微細化する配慮はされず、また十分な分散度も得られず好ましい製造方法とはならない。
(6)特許文献7の製造方法によって、第2工程の熱処理の効果によって導電率を改善し遮断特性を向上させた製造方法が提供できる。しかし、Cr粒子の分布及び大きさの点で劣り好ましい製造方法とは認められない。
(7)特許文献8によって、従来のCIP−HIPプロセスより経済効果が期待できる。しかし、冷間成型の後、さらに押出し加工を与えているため、工程が繁雑となり好ましい製造方法とはならない。
(8)特許文献9の製造方法によって、粉末合金とダイスとの直接接触がなくなり健全な製品の製造が期待できる。しかし、Al合金板を介した成型のため接点表面へのAlの付着が起こり取り除きの手間を要するため好ましい製造方法とはならない。
(9)特許文献10の製造方法によって、従来の押出し加工プロセスより健全な製品の製造が期待でき、経済効果も期待できる。しかし、半溶融状態とするため、安全面で問題となり好ましい製造方法とはならない。
特公昭41−12131号公報
特公昭44−23751公報
特公昭45−35101号公報
特開昭59−143031号公報
特公昭59−25903号公報
特開昭51−005211号公報
特開平1−258330公報
特開昭62−056542公報
特開昭62−222005公報に
特開平06−170436公報
Cu相中にCr粒子が分散している組織を有するCuCr接点合金は、真空バルブ用接点材料としてある程度優れた特性を持つ。このようなCuCr接点合金の特性を向上させるために、この合金中に分布するCr粒子の形態を、ある程度に微細化、均一化することが行われている。公知の手段として、例えば、(1)ア−ク溶解法によって、Cu、Crの両者を溶融温度以上で合金化した後、急速冷却し凝固させて、Cu相中にCr粒子を微細かつ均一に分散させCuCr合金を製造する方法や、(2)初めから微細状態となっているCr粒子を原料として使用してCuCr合金を固相焼結法や溶浸法によって製造する方法が行われている。
しかし、(1)の方法である、ア−ク溶解法を採用する場合には、Cr粒子を微細化した効果によって、一般的な固相焼結法や溶浸法で製造した接点よりも耐電圧特性に改善(向上)が見られるものの、欠点として大掛かりな設備を必要とし工業的には経済性の点に問題が残るとされている。
また、(2)の方法である、(a)固相焼結法や(b)溶浸法は、一般的なCuCr接点の経済性に優れた製造方法である。しかし、これらの方法において、事前に微粒状態となっている微粒Cr粒子を原料として採用する場合には、この微粒Cr粒子の表面に、吸着されたガス(酸素など)が多量に存在しているため、焼結又は溶浸後に、このガスを十分には除去できない場合が起こる。その結果、接点表面に残存するガスの量によっては、焼結性や溶浸性を阻害し、接点合金中に空孔を生じたり、接点合金の機械的強さを低下させるのみでなく、真空遮断器としての電気的特性、特にア−ク消耗性の低下、耐電圧値の低下が著しくなるという欠点も持つ。更に、原料として使用するCr粒子の直径が10μm程度以下では、ガス吸着量の少ない粉末を工業的に入手するのは経済性の点で欠点となる。
また、上記(a)の固相焼結法によって製造したCuCr合金では、原料となるCu粉とCr粉を混合したものを、金型中で成型しこれをCuの溶融温度以下で焼結して接点素材としているため、混合工程で過度の酸素を吸着してしまう問題以外に、接点内部には致命的な空隙が残存し易く高密度化に難点がある。その上、焼結後の接点中のCr粒子の形態(大きさ、形状)は、原料として使用したCr粉の大きさ(粒子直径)とほぼ同程度であるため、微細なCrの分布とはなっていない。
また、上記(b)の溶浸法によって製造したCuCr合金では、Crスケルトンの空隙中にCuを溶浸して接点素材としているため、前記の固相焼結法よりは残存する空孔量は少なく改善されるものの、十分に高密度化した接点は得難い。
このように(a)、(b)のいずれも、Crの平均粒子直径とその粒度分布は、ほとんど原料粉の大きさに依存して製造されてしまうこと、不揃いの粒子形状及び大きさを呈し、組織の均一性に乏しいこと、その結果、耐電圧特性及び大電流遮断特性のバラツキ幅に影響を与える。
従来のCuCr接点の製造方法(a)、(b)では、高耐圧特性と遮断特性にある程度配慮しているものの、材料組織の不均一化(1個の接点内でのミクロ的な場所場所によるCr粒子の形状及び大きさが不揃いと、接点固体間でのバラツキ)が目立ち、耐電圧特性にバラツキが多く高耐圧特性と遮断特性の一層の高性能化に対して十分ではなく、CuCr接点の製造方法の改良が望まれている。
以上をまとめると、上記した従来の(1)及び(2)の手段では、Cr粒子の大きさや分散状況などの存在形態が十分でなく、バラツキの少ない耐電圧特性を持つ接点の製造方法としては課題となっている。
そして、上記した従来の各製造方法によって製造したCuCr合金では、過酷な高電圧領域及び突入電流を伴う回路では、やはり再点弧現象の発生が観察されている。そこで上記基本三要件を一定レベルに維持した上で、特に耐電圧特性、大電流遮断特性とを両立させた接点材料の開発が望まれている。
本発明は、このような従来の接点が有していた問題点を解決しようとするものであり、耐電圧的に有利なようにCr粒子の分布状態を改良した接点材料の製造方法を提供する。すなわちCr粒子の微細化を達成する技術を開発し、従来のように混合粉を成型して固相焼結法や溶浸法、溶解法のみによって製造した接点と比べ、耐電圧特性及び大電流遮断特性の特にバラツキ幅を縮小した優れた接点材料を得るための真空遮断器用接点材料の製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、従来の製造方法で製造したCuCr接点が持つ材料組織の不均一性(Cr粒子の大きさが不揃い)を改良し完成するに至った。
上記目的を達成するための本発明の真空遮断器用接点材料の製造方法は、インゴットの挿入口及び排出口を有し、前記挿入口の直径がX、排出口の直径がYであるとき、前記Yは、Y=0.4〜0.95Xの関係を満たし、かつ、インゴットが収容される内面の表面粗度Raが3〜25μmである容器を準備し、Crを15〜60wt%含有するCuCr合金溶液を10℃/s以上の冷却速度で冷却凝固させて、平均粒子直径d1がd1=15〜80μmの範囲にあるCr粒子と、Cuマトリックスとからなる出発CuCrインゴットを作成し、前記出発CuCrインゴットを前記容器の挿入口から挿入し、前記容器の挿入口に挿入した前記出発CuCrインゴットに、当該出発CuCrインゴットの中心軸と平行の方向に少なくとも5kg/cm2 の外力P1を印加し、前記容器の排出口から前記出発CuCrインゴットを排出させることにより、Cr粒子の平均粒子直径d2をd2=3〜30μm(ただしd1>d2)に縮小させ、d2のd1に対する比(d2/d1)が0.2〜0.95である最終CuCrインゴットを得ることを特徴とする。
本発明の真空遮断器用接点の製造方法によれば、耐電圧値のバラツキ幅の縮小と遮断特性を両立させ改善した真空バルブを提供できる。
以下、本発明の真空遮断器用接点材料の製造方法を、より具体的に説明する。
本発明の真空遮断器用接点材料の製造方法は、前記所定条件の出発CuCrインゴットと前記所定条件の容器を使用して、所定の最終CuCrインゴットを製造することを骨子とする。これによって、従来の製造方法で通常見られる焼結時や溶浸時の条件の管理不足によって生ずるCrの分散性の問題や、大きさの不揃い問題を改善すると共に、特にCr粒子とCuマトリックスとの界面の接触強さを改善させる。その結果、耐電圧値自体の向上と耐電圧値のバラツキ幅の縮小とを改善すると共に、遮断特性とを両立させ最終CuCrインゴットを得る。
発明者らは、真空遮断器用接点材料から接点を作製し、真空バルブに組み込んで使用したときに、以下の(イ)及び(ロ)の知見を得た。
(イ):一対のCuCr接点を一定の間隙を保って静止させた接点間に、電圧を徐々に印加してゆくと、ある電圧値に達すると絶縁破壊する。この時の電圧値を耐電圧値とし、これを複数回測定すると、耐電圧特性(耐電圧値自体及びそのバラツキ幅の程度)はCr粒子の大きさやCr粒子の分布に関連することが見られた。発明者らの知見によれば、このような場合、耐電圧特性に対しては、概してCr量の多い接点の方が、Cr量が少ないCuCrよりも優れた傾向にある。
(ロ):一方、CuCr接点が開離過程にある時には、対向する接点が十分に離れ終わっていないため、接点間間隙が極めて短い状態で電圧が印加されることになり、接点に対して、一層厳しい耐電圧特性が要求される。例えば複数の接点片個々間のバラツキに加えて、1個の接点面内の場所場所によるバラツキも重要となる。
発明者らの知見によれば、前者の複数の接点片間のバラツキの場合は、前記したCuCr中のCr量、ガス量が支配的であり、ガス量の低減化が好ましい傾向となる。しかし、後者の1個の接点面内のミクロ的な場所場所によるバラツキの場合は、接点の組織状態が支配的となり、一層微細化、均一化したCr粒子を備えた接点材料を用いることが好ましい傾向となる。そこで、本発明は従来開発されていない後者に対応するためのCuCr接点材料の製造方法を提供する。具体的には、このCuCr接点材料として、新規な所定の最終CuCrインゴットを製造する方法である。
本発明の製造方法では、接点として使用する状態に改質したCuCrを最終CuCrインゴットと言い、この最終CuCrインゴットを製造するための前段階となる従来のCuCrを出発CuCrインゴットとして区別する。
本発明の出発CuCrインゴットと同じ従来のインゴットでは、焼結条件、溶浸条件、溶融条件の制御が十分でないと組織状態に不揃いを来す場合が多く、耐電圧特性などに対して優れた電気的特性を備えた接点の製造方法とはなっていない。これに対して、本発明の最終CuCrインゴットは、上記したような組織状態の不揃いをなくし、組織を一層の微細化、均一化している。
本発明で達成された組織の一層の微細化、均一化は、最終CuCrインゴット中のCr粒子の状態によって表すことができる。
具体的には、本発明でのCr粒子の平均粒子直径d2の微細化、均一化とは、最終CuCrインゴット中の各Cr粒子の分散状態に偏析や凝集が少なく、平均粒子直径d2が、d2=3〜30μmの範囲にある状態であって、各Cr粒子間の間隔がCr粒子直径d2と同程度(1/10〜数倍以内)にある状態であることを指す。
本発明の製造方法を実施するには、以下に示す要件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)を備えた出発CuCrインゴットを使用することが必須となる。
(イ):本発明技術を実施する場合に使用する出発CuCrインゴットが具備していなくてはならない要件(イ)は、CuとCrとを1600℃以上好ましくは1800℃以上の
高い温度で溶融合金化した出発CuCrインゴットを採用することである。
その理由は、1600℃を下回る温度で溶解した出発CuCrインゴットを、最終CuCrインゴット接点の製造のために採用すると、Crの一部がCuの溶湯中に固体状のCrが存在してしまい、冷却後Crの偏析の一因となるため、微細均一の組織を持つ最終CuCrインゴットを製造するために用いるCuCr素材(出発CuCrインゴット)としては適切ではないためである。よって、少なくとも1600℃以上を要する。より好ましくは1800℃以上の高い温度で溶融合金化したものは、平均粒子直径d2がd2=3〜30μmの範囲にある最終CuCrインゴットを容易に得る。
(ロ):本発明技術を実施する場合に使用する出発CuCrインゴットが具備していなくてはならない要件(ロ)は、出発CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d1が、d1=15〜80μmの範囲となるように、CuCr合金溶液から凝固までの冷却速度を、10℃/秒以上として製造した出発CuCrインゴットを採用することである。
その理由は、Cr粒子の平均粒子直径d1が、d1=15〜80μmの範囲外の出発CuCrインゴットを採用すると、後工程において、後述する所定範囲のP1を与えても目標とするCr粒子の平均粒子直の径d2がd2=3〜30μmの範囲にある最終CuCrインゴットを製造するのが困難であり、その補正には過大な手間を要し好ましくない。
すなわち、凝固完了まで10℃/秒を下回る速度で冷却して製造した出発CuCrインゴットを使用すると、一部分には溶解しない原料のままのCr粒子が存在していたり、CrとCuとの重量偏析が見られ、その結果、P1(又はP1とP2)を与えながら最終CuCrインゴットを製造した後の組織には、不均一な組織を呈し、その影響で安定した耐電圧特性と遮断特性が得られない理由によって、出発CuCrインゴットとしては好ましくない。
もっとも、CuCr合金溶液が固体状態になるまでの冷却速度が10000℃/秒を超えて製造した出発CuCrインゴットの場合では、例えば直径100mmのような大きな径の出発CuCrインゴットを得るには、高度の冷却技術と極めて大掛かりな冷却装置とを要し、経済性を欠き好ましくない。
(ハ):本発明技術を実施する場合に使用する出発CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d1が具備していなくてはならない要件(ハ)は、d1=15〜80μmの範囲としたものを採用することである。
その理由は、Cr粒子の平均粒子直径d1が80μmを超えた出発CuCrインゴットを、最終CuCrインゴットの製造のために使用すると、後工程においてCr粒子の平均粒子直径d1をd2の範囲にまで縮小(d1>d2)するに際しては、過大なP1(若しくはP1とP2)を必要とし、均一な組織を持つ最終CuCrインゴットを得るのに、生産性や経済性、作業性、容器の寿命に劣るためである。
一方、Cr粒子の平均粒子直径d1が15μm未満の出発CuCrインゴットを、最終CuCrインゴットの製造のために使用すると、製造後の最終CuCrインゴット中のCr粒子は凝集状態を呈すると共に、吸着ガス量が相対的に大きくなり、耐電圧値の改善の効果が見られない。また、品質の面で安定性を欠くため、微細均一の組織を持つ最終CuCrインゴットを製造するために用いるCuCr素材としては好ましくない。更に、素材として使用する出発CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d1が、d1=15μm未満のものを得るためには、より高速の冷却速度での冷却を要し、製造方法として経済性に欠けるため好ましくない。したがって、d1は、15μm≦d1≦80μmの範囲であることが好ましい。
(ニ):本発明技術の製造方法を実施する場合に使用する出発CuCrインゴットが具備していなくてはならない要件(ニ)は、Cr量を15%〜60%含有するCuCrを採用することである。
その理由は、Cr量が60%を超える最終CuCrインゴットの製造に本発明を適用しても、そのような組成を有する最終CuCrインゴットを搭載した真空遮断器は、温度上昇特性の低下、接触抵抗特性の低下、遮断特性の低下が見られるので適切ではない。またCr量が15%Cr未満の最終CuCrインゴットに本発明を適用しても、温度上昇特性、接触抵抗特性は問題ないものの、耐電圧特性の低下が見られる。したがって、Cr量を15%〜60%含有する最終CuCrインゴットの製造に適応するのが好ましい。なお、Cr量が15%〜60%含有する出発CuCrインゴットを使用すれば、製造後の最終CuCrインゴット中のCr量も、同じくほぼ15%〜60%含有する最終CuCrインゴットを得る。
本発明の製造方法は、上述の要件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の総て具備した出発CuCrインゴットを準備し、それとは別にインゴットの挿入口及び排出口を有し、前記挿入口の直径がX、排出口の直径がYであるとき、前記Yは、Y=0.4〜0.95Xの関係を満たし、かつ、インゴットが収容される内面の表面粗度Raが3〜25μmである容器を準備する。出発CuCrインゴットの準備と、容器の準備の順序は問わない。
この容器の一例を、模式的な断面図で図1〜図3に示す。図1〜図3に示される容器10は、上部に直径Xの挿入口11を有し、底部に直径Yなる排出口12を有している。また、この挿入口11と排出口12との間は、挿入口11寄りに形成された内面13と、この内面13に接続する内面14と、この内面14に接続し排出口12寄りに形成された内面15とを有している。
この容器10を用いて、まず、図1に、出発CuCrインゴット1を容器10に挿入する直前の状態を示すように、このような挿入口の直径Xと、排出口の直径Yとが所定条件を満たす容器10の挿入口11から、前記出発CuCrインゴット1を挿入する。そして、図2に示すように、出発CuCrインゴットを容器10の内部空間へと移動させ、挿入した出発CuCrインゴット1の後端面である加圧面1aに対して、出発CuCrインゴット1の中心軸Aに平行の方向に、少なくとも5kg/cm2 の外力P1を印加し、この出発CuCrインゴット1を塑性流動させて前記容器10の排出口12から排出させる。図3は、出発CuCrインゴット1を容器10の排出口12から排出させた後の、最終CuCrインゴット2を製造した状態を示している。
このようにして、容器10の排出口12から排出させて得られた最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2を、d2=2〜30μmに縮小させることにより、(d2/d1)比が0.2〜0.95倍である最終CuCrインゴットが製造される。
容器の別の例を、模式的な断面図で図4及び図5に示す。図4及び図5に示される容器20は、上部に直径Xの挿入口21を有し、底部に直径Yなる排出口22を有している。また、この挿入口21と排出口22との間は、挿入口21寄りに形成された内面23と、この内面23に接続する内面24と、この内面24に接続し排出口22寄りに形成された内面25とを有している。
この容器20は、図1〜3に示された容器10とは、この内面25が、排出口22に向けて次第に内径が縮小されるような面となっている点で相違している。
この容器20を用いて、まず図4に、出発CuCrインゴット1を容器20に挿入する直前の状態を示すように、このような挿入口の直径Xと、排出口の直径Yとが所定条件を満たす容器20の挿入口21から、前記出発CuCrインゴット1を挿入する。そして、出発CuCrインゴットを容器20の内部空間へと移動させ、挿入した出発CuCrインゴット1の後端面である加圧面1aに対して、出発CuCrインゴット1の中心軸Aに平行の方向に、少なくとも5kg/cm2 の外力P1を印加し、この出発CuCrインゴット1を塑性流動させて前記容器20の排出口22から排出させる。図5は、出発CuCrインゴット1を容器20の排出口22から排出させた後の、最終CuCrインゴット2を製造した状態を示している。
容器の更に別の例を、模式的な断面図で図6及び図7に示す。図6及び図7に示される容器30は、上部に直径Xの挿入口31を有し、底部に直径Yなる排出口32を有している。また、この挿入口31と排出口32との間は、挿入口31寄りに形成された内面33と、この内面33に接続する内面34と、この内面34に接続し排出口32寄りに形成された内面35とを有している。
この容器30は、図1〜3に示された容器10とは、この内面35が、排出口32に向けて次第に内径が拡大されるような面となっている点で相違している。
この容器30を用いて、まず図6に、出発CuCrインゴット1を容器30に挿入する直前の状態を示すように、このような挿入口の直径Xと、排出口の直径Yとが所定条件を満たす容器30の挿入口31から、前記出発CuCrインゴット1を挿入する。そして、出発CuCrインゴットを容器30の内部空間へと移動させ、挿入した出発CuCrインゴット1の後端面である加圧面1aに対して、出発CuCrインゴット1の中心軸Aに平行の方向に、少なくとも5kg/cm2 の外力P1を印加し、この出発CuCrインゴット1を塑性流動させて前記容器30の排出口32から排出させる。図5は、出発CuCrインゴット1を容器30の排出口32から排出させた後の、最終CuCrインゴット2を製造した状態を示している。
容器10、容器20及び容器30のいずれを用いるかは、出発CuCrインゴット1の加工性の差異に応じて選択すればよい。また、本発明の製造方法に適用される容器は、図1〜図7に示された容器10、容器20及び容器30に限定されるものではない。
本発明の製造技術は、前記所定条件の出発CuCrインゴット1と所定容器を使用して、所定の最終CuCrインゴットを製造することを主旨とする。
これによって、通常的に見られる焼結時や溶浸時の製造技術不足や、条件の管理不備によって生ずるCrの分散性の問題や大きさの不揃い問題を改善すると共に、Cr粒子とCuマトリックスとの界面の接触強さを改善させる。その結果、特に界面の接触強さを改善は、耐電圧値自体の向上と耐電圧値のバラツキ幅の縮小とを改善すると共に、遮断特性とを両立させ最終CuCrインゴットを得る製造方法の提供に有益とする。
本発明の製造方法を実施するにおいて重要なことは、出発CuCrインゴットを収容する、所定条件を具備する容器を最終CuCrインゴットの製造に使用することである。
容器の所定条件の一つは、一方の面、例えば上面に挿入口を、他方の面例えば底面に排出口が設けられ、出発インゴットを挿入口から収容可能な容器において、上部の挿入口の直径をXとし、底部の排出口の直径をYとしたとき、排出口の直径Yが、Y=0.4〜0.95Xの関係を持つことである。
排出口の直径Yが挿入口直径Xの0.95倍を超えるときには、製造後の最終CuCrインゴットのCr粒子の平均粒子直径d2は、十分には微細で均一な状態とならないのみならず、安定した耐電圧特性と遮断特性が得られない。そのため、補正のために多数回数の挿入・排出作業の繰返しや、印加する外力として過度に大きいP1、P2を与えても、補正の効果に限度があり、また、生産効率の著しい低下を招き好ましくない。
一方、排出口の直径Yの下限は、容器材質の強度、耐摩耗性で選択する。なお、容器材質として本発明では、主として熱間ダイス鋼(5Cr−W−V合金、JIS、SKD6)を使用することができるが、このSKD6に限定されるものではない。
容器の所定条件の別の一つは、容器内面の表面粗度Raを3〜25μmとすることである。
表面粗度Raが3μm未満では、出発CuCrインゴットに与える外力P1の大きさを過度に大きくする必要があり、容器寿命や作業性で問題となる。逆に、表面粗度Raが25μmを超えると、製造後の排出させる最終CuCrインゴットが容器表面に食い込む現象が見られ、最終CuCrインゴットを排出口からの排出作業ができない。また容器が損傷を受け生産効率の低下を招く。
これに対して、容器内面の表面粗度Raを3〜25μmとした時には、最終CuCrインゴットが容器表面に食い込む現象が避けられると共に、容器の損傷もない。
上述した容器に、出発CuCrインゴットをその容器の挿入口から挿入し、容器内に収容された出発CuCrインゴットに、当該出発CuCrインゴットの中心軸と平行の方向に少なくとも5kg/cm2 のP1を与える。
出発CuCrインゴットに与える外力P1が、P1=5kg/cm2 未満の場合では、得られる最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2が、d=30μmを超えてしまい、Cr粒子の微細でかつ均一な分散性を維持できず、その結果耐電圧特性のバラツキ幅が増大し好ましくない。なお、外力P1の上限は経済性と特に作業性によって設定される。
P1の印加は常温で行うが、900℃以下、好ましくは800℃以下、より好ましくは400〜600℃で加熱した雰囲気でP1を与えて最終CuCrインゴットを製造することもできる。
上述したような前記容器を用いた最終CuCrインゴットを製造の際には、排出口径が異なる複数の容器を準備して、最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2が3〜30μmであり、かつ、(d2/d1)の比が0.2〜0.95となるまで、一つの容器から排出されたCuCrインゴットを、排出口径が、より小さい別の容器の挿入口に挿入して、排出口から排出させるように、前記容器を用いてCuCrインゴットを塑性流動させる工程を繰り返し行ってもよい。
また、後で詳細に述べるようにP1に重畳して、出発CuCrインゴットの中心軸に直角の方向に外力P2を印加することもできる。
本発明の製造方法において重要なことは、上記外力を印加することにより容器の排出口から排出された最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2を3〜30μmに制御することである。
d2がd2=3μm未満(d2<3μm)の最終CuCrインゴットを接点として搭載した真空遮断器では、d2を3〜30μmにした場合に比べて、接触抵抗特性(約20〜45%増加)、耐電圧特性(約1.1倍〜3.2倍にバラツキ)の低下が見られるため、d2をd2≧3μmに制御する。また、d2がd2=30μmを超える(d2<30μm)接点では、Cr粒子の均一分散性が維持できず、耐電圧特性のバラツキ幅が更に増大してしまうので、d2をd2≧30μmに制御し、d2を3μm≦d2≦30μmの範囲とする。
また、上記外力を印加することにより容器の排出口から排出された最終CuCrインゴットは、その最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2の、出発CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d1に対する比d2/d1を0.2〜0.95に制御することが必要である。d2/d1の比が0.2倍未満の最終CuCrインゴットを製造しようとすると、過大なP1、又はP1及びP2を要することになり、その結果、最終CuCrインゴットには亀裂を生ずると共に、作業性にも懸念を生じ好ましい最終CuCrインゴットの製造方法とはならない。
また、(d2/d1)の比が0.95倍を超える場合は、Cr粒子の平均粒子直径d2が十分に微細化されず、好ましい最終CuCrインゴットの製造方法とはならない。したがって0.2倍≦(d2/d1)比≦0.95倍の範囲とする。
本発明の真空遮断器用接点材料の製造方法においては、前記出発CuCrインゴットの中心軸に平行の方向に与える外力P1と共に、前記出発CuCrインゴットの中心軸に直角の方向に少なくとも5kg/cm2 の外力P2を重畳することができる。
すなわち本発明において、外力P2を重畳して加えることにより、最終CuCrインゴットは、材料組織について1個の接点内の場所場所によるCr粒子の形状及び大きさが不揃い問題や、複数の接点間でのバラツキの問題を軽減させる効果を得る。
また、P1と同時にP2を与えることによって、Cr粒子とCuとの界面の接触強さをP1のみの時よりも改善させる効果を得る。その結果、耐電圧値自体の向上と耐電圧値のバラツキ幅の縮小とを両立させ、耐電圧特性を改善した最終CuCrインゴットの製造方法を提供し、高耐圧特性と遮断特性の一層の高性能化に対して寄与する。
この外力P2は、容器に収容された出発CuCrインゴットが容器内で変形するときに、この容器の内壁から反力として受けるCuCrインゴットの中心軸に直角の方向の力を用いることができる。外力P2が5kg/cm2 に満たない場合は、この外力P2を重畳して印加することによる効果が乏しくなるので、5kg/cm2以上で印加することが好ましい。
P2の印加は常温で行うが、前記出発CuCrインゴットの温度を、900℃以下、好ましくは800℃以下(室温含む)、より好ましくは400〜600℃の温度に保持しながら前記P1及びP2を印加することもできる。例えば600℃で加熱雰囲気でP1(P1とP2)を与えることによって、より小さな外力P1で最終CuCrインゴットを製造することができる。
本発明では、前記出発CuCrインゴットは、副成分としてAl、Si、Feの少なくとも1つを10〜5000wtppm含有し、かつ、Cr量を15〜60wt%とした出発CuCrインゴットを採用することができ、これは、良質の出発CuCrインゴットを製造するのに有益である。
すなわち本発明は、あらかじめ準備した15〜60%CuCr合金に、5000wtppm以下のAl、Si、Feのいずれか1つからなる副成分を含有させた出発CuCrインゴットに対して、本発明技術を適応することができ、これによって製造された最終CuCrインゴットは遮断特性、遮断特性を改善することができる。
しかし、副成分の量が、5000wtppmを超えた出発CuCrインゴットを利用すると、製造された最終CuCrインゴット中のd2値を所定値内に調整するのには、過度に大きなP1を要することになり経済性が劣ると共に、耐電圧特性の低下が著しく好ましくない。また遮断特性も約10%程低下する。なお、副成分の量として10wtppmを下限としているのは製造技術上の制約によるものである。10ppm以下としても耐電圧特性、遮断特性への影響は少ない。
また、本発明では、前記出発CuCrインゴットには、Cr粒子と、最大0.35wt%のCrをCu中に含むCuマトリックスとで構成された組織とすることは有益である。
0.35wt%以上のCrを含有するCuCrマトリックスで構成される最終CuCrインゴットでは、製造後の最終CuCrインゴットの導電率の低下が大となることから、本発明の製造方法を適応しての最終CuCrインゴットを製造するには好ましくない。
以下に本発明に係る製造方法の実施例を示し、さらに具体的に説明する。
出発CuCrインゴット条件、外圧条件及び最終CuCrインゴット条件を異ならせて、表1に示す最終CuCrインゴットを製造した。製造された最終CuCrインゴットにより製造された接点を真空遮断器に組み込んで特性を評価した。その評価結果を表2に示す。
これらの実施例のうち、溶融温度2200℃、冷却速度500℃/秒でd1値が30μmなる条件を持つ出発CuCrインゴットは、比較的容易に製造できることから、この条件を標準の接点(実施例4)とした。
これらの実施例及び比較例の評価は、以下のようにして行った。
(1)遮断特性:
前記した各条件で製造した直径43mmの接点を装着した遮断テスト用実験バルブを開閉装置に取り付けると共に、接点表面をベ−キング、電圧エ−ジングを行った後、24kv、50Hzの回路に接続し1kAずつ電流を増加しながら遮断限界値とばらつき幅(最大値と最低値)を調べた。
なお、表2において、実施例4のみは、真空バルブ3本の平均値であり、他の実施例と比較例は、実施例4の値を1.0とした相対評価である。測定値の最大値と最低値をバラツキ幅として示した。
この相対評価では、実施例4の値(遮断特性)に対して、
1.15倍以上の遮断特性の場合を(評価A)と、
0.95〜1.15倍の場合を(評価B)と、
0.9〜0.95倍の場合を(評価C)と、
0.7〜0.9倍の場合を(評価X)と、
0.5〜0.7倍の場合を(評価Y)と、
0.5倍未満の遮断特性の場合を(評価Z)とした。これらの評価結果のうち、評価A〜Cが合格であり、評価X〜Zが不合格である。
また、遮断テスト終了後の一部の実験バルブを破壊して、必要によりア−クの拡がりの程度も観察し遮断性能の判断の一助とした。
(2)ア−ク拡がりの状況:
必要に応じてア−ク拡がりの状況を観察した。各接点を着脱式の真空遮断装置に装着し、接点表面のベ−キング、電流、電圧エ−ジング、開極速度条件を一定同一とした後、別途求めた遮断限界電流値より低目の8kAを選択一定とし、7.2kV、50Hzで4回遮断させた時の接点表面の被ア−ク部分の面積を測定し、各接点材料のア−クの拡がり状況を観察し参考デ−タとした。例えばd2値が大きな比較例5〜8では、ア−クの拡がりの状況が劣る傾向にあることが観察され、耐電圧値のバラツキ幅も大きい傾向にあった。それに対してd2が比較的微細で均一な実施例1〜2では良好な拡がり性が観察され、耐電圧値のバラツキも小さい傾向にあった。
(3)耐電圧特性:
羽布研磨により表面を鏡面研磨したNi針を陽極とし、前記した各条件で製造した最終CuCrインゴットから切出した直径43mmの円板状接点表面を、同様に羽布研磨により鏡面研磨し陰極とし、着脱式の真空遮断装置に両者が対向するように装着し、接点表面のベ−キング、電流、電圧エ−ジングを行い、電極間距離を一定に調整した後、10-4Paの真空中で徐々に電圧を上昇させ、スパ−クを発生した時の電圧値を静耐電圧値として測定し相対値によって判定すると共に、そのバラツキ幅も調査した。
なお、表2において実施例4の結果のみは、真空バルブ3本の平均値であり、他の数値は実施例4の値を100とし相対比較したものである。比較した値が90以上の場合が合格、90未満は不合格である。
(4)d1、d2の大きさの確認:
前記した各条件で製造した出発CuCrインゴット、最終CuCrインゴット中のCr粒子の大きさは、これらの表面を0.5μmのアルミナ粒で研磨した後、金属顕微鏡を用いて200倍の倍率で観察した。
(5)外力P2値の決定:
外力P2値の決定は、容器にP1を与えた時の容器が受けた歪み量とP1との関係をあらかじめ求めて換算によって推定した。
(6)冷却速度の推定と制御:
冷却速度の制御は、冷却速度が大の水冷Cuルツボ、冷却速度が中程度の鋳鉄製ルツボ、冷却速度が小のアルミナ製ルツボなど冷却性能の異なる各種の冷却用ルツボを用意し、これにCuCr合金溶湯を注ぎ、凝固までの冷却速度を調整した。さらにルツボの厚さ、冷却水の水量、合金溶湯の量、溶湯の保持温度、注湯開始温度などを調整しながら冷却速度を微調整した。実際には、このように調整した冷却速度によって製造した複数の合金から、所定の条件の速度の合金を選出し供試した。
冷却速度の測定は、非接触式の赤外線温度計によって溶湯から室温までの温度変化を記録し、ルツボ表面の温度降下の測定曲線から推定した。
(実施例1〜9、比較例4)
Crが30%で残部がCuのCuCrを2000℃〜2200℃で溶解させた。このCuCr溶液を10℃/秒〜1000℃/秒の冷却速度で冷却固化した。金属顕微鏡によってこの時のCr粒子の平均粒子直径d1を調査し、d1=15〜80μmの範囲にある出発CuCrインゴットを選出した。その後、所定の外径を持つ円柱状に加工した。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
例えば実施例4では、外径を50mmとした出発CuCrインゴットを準備した。また、挿入口の直径Xが50mm、排出口の直径Yが45mmである容器aと、挿入口の直径Xが45mm、排出口の直径Yが43mmである容器bとの2つの容器を準備した。容器a及び容器bは、それぞれ図1に示した容器10の形状を有している。
まず、第1回目の工程として前者の容器aの挿入口11に前記円柱状出発CuCrインゴット1を挿入し、出発CuCrインゴット1の上面1aに直角の方向に200kg/cm2 の外力P1を与えると共に、同時に出発CuCrインゴットの側面1bに、30kg/cm2 の外力P2を垂直の方向に与え、容器aの排出口12から排出させ直径45mmを備えたCuCrインゴットを製造した。
次いで、第2回目の工程として、第1回目の工程で得た直径45mmのCuCrインゴットを、後者の容器bの挿入口11に挿入し、200kg/cm2 の外力P1を与えると共に、同時に30kg/cm2 の外力P2を与え、容器bの排出口12から排出させ直径43mmを備えた最終CuCrインゴット2を製造した。d2を調査した結果、10μmであった(実施例1〜9)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
なお、第1回目の工程、第2回目の工程の一方又は両者において、CuCrインゴットを800℃以下の温度に加熱しながらP1を与え直径43mmを備えた最終CuCrインゴットを製造することは、P1の値を低く設定するのに有益となる。なおこの場合、800℃を超える温度を選択しながらP2を与えると、d2の粗大化を招き、耐電圧特性が不安定化する。
このように、円柱状に加工した出発CuCrインゴット1の外径の値、挿入口11の直径Xの値、排出口の直径Yの値を、適宜組み合わせて製造してある複数個の容器を用意する。
その中から目的とするd2に応じて適宜選択した容器の挿入口11に前記円柱状出発CuCrインゴット1を挿入し、出発CuCrインゴット1の上面1aに直角の方向(中心軸Aと平行の方向)に50〜1000kg/cm2 の外力P1を与えると共に、同時に出発CuCrインゴットの側面1bに、10〜500kg/cm2 の外力P2を垂直の方向(中心軸Aと直角の方向)に与え、容器の排出口12から排出させ最終CuCrインゴット3を製造した。
容器の排出口12から排出させた後の最終CuCrインゴットの平均粒子直径d2としてd2=3〜30μmを得ると共に、(d2/d1)比として0.20〜0.40を得た(実施例1〜9)。
その結果、標準とした実施例4と比較して同等以上の耐電圧特性と、更に耐電圧値の(最大〜最小)値も、実施例4の値を上回る特性を示し良好であった。更に遮断特性も実施例4の値を上回る特性を示し良好であった。
このように本発明の製造方法によって、良好な耐電圧特性、遮断特性の両特性を両立させた真空遮断器用最終CuCrインゴット接点の製造方法を得た。
(比較例1〜2)
溶解温度2200℃を目標として内径93mmの坩堝を使用して溶解したCuCr合金溶液を3000℃/秒、2000℃/秒の冷却速度を目標として冷却させて出発CuCrインゴットを得た。表面を切削除去させ外径90mmの円柱状に加工した。しかし、外径90mmという大型の径のインゴットの製造では、目標としたこのような高速度での冷却速度が実質上維持できず、外周部と中心部ではCr粒子の著しい大きさの相違、分布の相違を示し、良質な出発CuCrインゴットが得難く、実用的でないため評価を除外した(比較例1〜2)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
(比較例3)
溶解温度2200℃を目標として内径93mmの坩堝を使用して溶解したCuCr合金溶液を1000℃/秒の冷却速度を目標として冷却させて出発CuCrインゴットを得た。この出発CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d1の値は、d1=100〜150μmを示し、d1には大きなバラツキが見られ、均一な組織を持つ良質な出発CuCrインゴットが得難い。P1として30kg/cm2 、P2として10kg/cm2 を与えて得られた最終CuCrインゴットのd2は、前記d1のバラツキが原因となって、d2=30〜120μmを示し良質な最終CuCrインゴットとはならず実用的でない。その結果耐電圧特性は、標準とする実施例4の特性と比較した相対値は(35〜80)を示し好ましくない上に、遮断特性も(評価X〜C)となり大きなバラツキを示した(比較例3)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
(比較例4)
比較例4は、2200℃で溶融し冷却速度を1℃/秒未満として出発CuCrインゴットを得た。この出発インゴットを用いて製造された最終CuCrインゴットは、好ましい範囲の外力P1としてP1=300kg/cm2 、P2=5kg/cm2 を選択したにもかかわらず、冷却速度が過度に小さいため、最終CuCrインゴット中のCr粒子の平均粒子直径d2は、d2=5〜250μmとなり、大きなバラツキを示した。
次に、実施例4と同じ条件(内容)の出発CuCrインゴットを使用して、容器内面の表面粗度Raを0.5〜150μmの範囲で変化させた容器を準備し、P1、P2を同じ条件として、最終CuCrインゴットの生産を行った結果を表3に示す。
表面粗度Raが50μmを超えると(参考例1)、出発CuCrインゴットに与える外力P1の大きさを過度に大きくする必要があり、作業性で問題となる。製造後の排出させる最終CuCrインゴットが容器表面に食い込む現象が見られ、最終CuCrインゴットを排出口からの排出作業ができない。また、容器が損傷を受け生産効率の低下を招くなどの問題点が指摘される。
表面粗度Raが1μm未満では(参考例2)、上記の問題点は避けられ品質上では合格となるものの、Raを1μm未満に仕上げるための仕上げに要する相対経費は、30〜100倍以上の生産経費を要し、経費とのバランスにおいて、過度となり経済性の観点から不必要となる。以上より表面粗度Raは1〜50μmの範囲が好ましい(実施例4A〜4E)。より好ましくは3〜25μmの範囲である(実施例4B〜4D)。
(実施例10〜12)
前記実施例1〜9では、P2値として10〜500kg/cm2 を与えたが、本発明の製造方法におけるP2は、P2=ほぼゼロ(略0〜0.1kg/cm2 )とした実施例10〜12でも同等の効果を発揮する。実施例10〜12の製造条件を、既に示した表1に併記し、実施例10〜12の特性の評価結果を、既に示した表2に併記した。
なお、実施例10〜12では、出発CuCrインゴットにP1を与える際に、容器10の内面13、内面14及び内面15と、出発CuCrインゴット1の側面1bとの間に多量の炭素粉や低温度ガラス粉を挿入した状態で、P1を与えP2をP2=ほぼゼロとした。すなわち、1800〜1900℃で溶解させたCuCr溶液を10℃/秒〜100℃/秒の冷却速度で冷却固化して得た出発CuCrインゴットに対して、200kg/cm2 のP1を与えd1を、d1=31〜40μmとした。これにほぼゼロのP2(略0〜0.1kg/cm2 )を与え、d2として25〜30μmで、(d2/d1)値=0.63〜0.95の最終CuCrインゴットを得た。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
その結果、表2に示されるように、標準とした実施例4の値と比較して、安定した耐電圧特性及び耐電圧値のバラツキ幅が(95〜105)を示している。遮断特性も実施例4の値と比較して、評価B〜Cを示し好ましい範囲にある。両者とも標準とした実施例4と同程度の好ましい特性を発揮した。更に遮断特性も安定性が見られた。
(比較例5)
2000℃で溶融し、100℃/秒の冷却速度で冷却した出発CuCrインゴットについて、金属顕微鏡によってこの時のCr粒子の平均粒子直径d1を調査し、d1=90μmにある出発CuCrインゴットを選出し、直径50mmの円柱状に加工した。室温にある出発CuCrインゴットを室温にある容器に挿入後、ほぼゼロのP2(P2=3〜5kg/cm2 )を与えて製造した最終CuCrインゴットから、d2が86μmを選出した(比較例5)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
P1値が20kg/cm2 である比較例5では、出発CuCrインゴットのCr粒子の平均粒子直径d1が過大な値であるd1=90μmとなり生産性が劣ることが判った。その結果、d2はd2=86μmが示した如く微細で均一なd2を持つ良質な最終CuCrインゴットが得られないため、評価を中止した。なお(d2/d1)値は0.96の最終CuCrインゴットであった。
(比較例6)
1800℃で溶融し、100℃/秒の冷却速度で冷却した出発CuCrインゴットについて、金属顕微鏡によってこの時のCr粒子の平均粒子直径d1を調査し、d1=120μmにある出発CuCrインゴットを選出し、直径50mmの円柱状に加工した。室温にある出発CuCrインゴットを室温にある容器に挿入後、ほぼゼロのP2を与えて製造した最終CuCrインゴットから、d2が55μmを選出した(比較例6)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
P1値が5kg/cm2 未満である比較例6では、出発CuCrインゴットのCr粒子の平均粒子直径d1が極めて過大な値であるd1(d1=250μm)を示し生産性が劣ることが判った。その結果、d2=55μmが示す如く微細で安定したd2を持つ良質な最終CuCrインゴットが得られないため、評価を中止した(比較例6)。なお(d2/d1)値は0.46の最終CuCrインゴットであった。
(比較例7)
1800℃で溶融し、5℃/秒の冷却速度で冷却した各出発CuCrインゴットについて、金属顕微鏡によってこの時のCr粒子の平均粒子直径d1を調査し、d1=250μmにある出発CuCrインゴットを選出し、直径50mmの円柱状に加工した。室温にある出発CuCrインゴットを室温にある容器に挿入後、1kg/cm2 のP1と、ほぼゼロ〜0.1kg/cm2 のP2を与えて製造した最終CuCrインゴットでは、d2=37μmが示す如く微細で安定したd2を持つ良質な最終CuCrインゴットが得られないため、評価を中止した(比較例7)。なお(d2/d1)値は0.12であった。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
以上のように、比較例5〜7では、d1=90〜250(比較例5〜7)の範囲にある出発CuCrインゴットを選択したのでは、d1が過大でCr粒子の分散性などの点で良質の出発CuCrインゴットは得られず、d2を前記した好ましい範囲であるd2=3〜30μmに縮小することができず、組織の微細化、均一化した最終CuCrインゴットが得られず、生産性が著しく低下する。
(比較例8)
比較例8は、出発CuCrインゴットの製造時の溶解温度が1500℃の例である。出発CuCrインゴットの製造時の溶解温度が1500℃の場合、前記実施例1〜3で問題のなかった1000℃/秒の冷却速度を選択したにもかかわらず、顕微鏡組織調査によれば、得られた出発CuCrインゴットには、Crの偏析や一部には未溶解のCr粒子が存在し、Cr粒子の良好な分布状態は得られなかった。これにP1、P2を与えても、良質の最終CuCrインゴットは得られないため、耐電圧特性、遮断特性の期待はできず評価は中止とした(比較例8)。容器内面の表面粗度Raを3〜25μmの範囲とした。
出発CuCrインゴット中のd1値が、90μm(比較例5)〜250μm(比較例8)の如く過度に大きくなると、P1、P2を制御しても好ましい範囲のd2が得られない(比較例5〜8)
最終CuCrインゴット中のd2値についてみると、d2=3〜30の場合には、耐電圧特性、遮断特性共に、標準とする実施例と同程度の好ましい特性を示している(実施例1〜9)。しかし、d2値が、d2=3未満の場合について、比較例9として他の条件は実施例4と同様にして接点を製造したところ、耐電圧値自体では、平均値では110を示し、遮断特性も95〜100を示し、両者共に標準とする実施例4と同等程度の優れた値を示したが、しかし耐電圧値に大きなバラツキ幅を示し(相対値:65〜125)好ましくない(比較例9)。
以上から、d2が3〜30μm、特に5〜30μmにある場合に、耐電圧値自体の向上と耐電圧値のバラツキ幅の縮小とを両立させると共に、実施例4と同程度の遮断特性も発揮する(実施例1〜9)。
(d2/d1)比が、0.20倍未満の場合(比較例8)では、生産性の観点から好ましくない。また、(d2/d1)比が、0.95を超える場合(比較例5)には、耐電圧特性の改善とバラツキ幅の縮小が規定できず好ましくない。
例えば50%CuCrにおいて、導電率が28〜30%IACSの出発CuCrインゴットを素材として製造した最終CuCrインゴットの導電率は、26〜29%IACSであるが、これに600〜800℃で30分程度の再加熱処理を与えると、36〜38%IACSに改善されて有益である。
以上に示した実施例、比較例は、室温状態ある容器、室温状態ある出発CuCrインゴットにP1、P2を与えて最終CuCrインゴットを製造したが、更に本発明では、容器と出発CuCrインゴットの一方又は両者を、900℃以下、好ましくは800℃以下の温度に加熱してP1、P2を与え最終CuCrインゴットを製造することもできる。この場合900℃を超えた加熱温度を与えると、容器の過度の軟化による寿命の低下やCr粒子の凝集を来す。このように、900℃以下に加熱した出発CuCrインゴットにP1、P2を与えることは、出発CuCrインゴットの変形抵抗を低減する結果、同程度のCr分散度を得るのに、より低いP1、P2での製造が可能となり、相対的に容器寿命の向上に有益となる。また、容器内面の表面粗度Raを25μm以下、好ましくは3〜25μmとすることも出発CuCrインゴットの変形抵抗を低減させる効果を示し、容器寿命の向上に有益となる。
容器と出発CuCrインゴットの両者を室温状態としP1を与えるか、両者を加熱状態としP1を与えるかの選択は、設備コスト、製造コストの観点から適宜選択する。また出発CuCrインゴットは事前に軟化のための熱処理を与えこれを室温状態として利用することも有益である。
上述したように、本発明の真空遮断器用接点材料の製造方法は、Cr粒子の平均粒子直径d1値が、d1=15〜80μmにある出発CuCrインゴットを選択した上で、最終CuCrインゴットのd2を、d2=3〜30μmとし、(d2/d1)比を0.20〜0.95倍の範囲とすることによって、真空遮断器の耐電圧値自体の向上と耐電圧値のバラツキ幅の縮小と、遮断特性とを両立させる最終CuCrインゴットの製造方法を提供できる。
容器の例を示す断面図である。
容器の例を示す断面図である。
容器の例を示す断面図である。
容器の別の例を示す断面図である。
容器の別の例を示す断面図である。
容器の更に別の例を示す断面図である。
容器の更に別の例を示す断面図である。
符号の説明
1 出発CuCrインゴット
2 最終CuCrインゴット
10、20、30 容器