以下、本発明による超音波診断装置の一実施例を図面を用いて説明をする。
図1は、本発明による超音波診断装置の全体構成の一実施例を示すブロック図である。
本発明による超音波診断装置は、大別すると、被検体5に当接させて用いられる超音波探触子1と、この超音波探触子1からの反射エコー信号によってたとえば断層画像等の情報を構成する装置本体2と、この装置本体2によって得られる前記断層画像等の情報を表示する画像表示器3と、から構成されている。なお、前記装置本体2には、前記断層画像等の情報を得るための制御等に必要となる情報等を入力させるキーボード(操作卓)4が備えられている。
そして、この超音波診断装置は、上述のようにして画像表示器3上に得られるたとえば断層画像等にその部位に応じた歪み情報を重ねて表示できる機能を備えたものとなっている。
すなわち、まず、前記超音波探触子1は、図2にその詳細を示すように、その本体の被検体5と当接する面において一方向に並設される多数の超音波振動子からなる超音波振動子群110を備えている。そして、たとえば該超音波振動子群110のほぼ中央部に低周波振動体120を備え、また、この低周波振動体120にはこの低周波振動体120からの低周波の反射エコー信号を検知する低周波振動子120aが備えられている。しかし、以下の説明にあっては、この低周波振動子120aを備えた低周波振動体120を便宜上単に低周波振動体120と称する。
ここで、前記超音波探触子1は、必要な時に被検体5に圧迫を加えて用いられ、この場合、少なくとも2フレームの断層像を得るようにして操作されるようになっている。これにより、前記超音波振動子群110からは、断層像とこの断層像の各部位における生体歪みに関する情報が得られるようになっている。
超音波探触子1の前記超音波振動子群110は、図1に示すように、第1超音波送受信部201によって超音波を被検体5内に発し、その反射エコー信号をとらえ、該第1超音波送受信部201に送出するようになっている。なお、この第1超音波送受信部201には前記反射エコー信号を整相加算してRF信号データを時系列的に生成する回路を備えたものとなっている。該第1超音波送受信部201からのRF信号データはB/Wデジタルスキャンコンバータ部202に入力され、このB/Wデジタルスキャンコンバータ部202によって、白黒からなる濃淡を表す断層像情報が形成されるようになっている。この断層像情報は各フレームごとに合成部203に送出され、後に詳述する他の画像と合成されるようになっている。
一方、前記第1超音波送受信部201からのRF信号データは、第1変位演算部204に入力されるようになっており、この第1変位演算部204によって、隣接する2フレームの断層像を用いた画像相関により各部位の変位を演算するようになっている。また、さらに第1歪み演算部205に入力され、この第1歪み演算部205によって、前記変位に基づいて各部位の歪みを演算するようになっている。そして、カラーデジタルスキャンコンバータ部206に入力され、このカラーデジタルスキャンコンバータ部206によって、前記歪みの値に応じた色相変調を施し、この色相変調された情報は前記合成部203に送出され、前記断層像に重ねて表示されるようになっている。この表示は前記画像表示器3によってなされるようになっている。
なお、前記超音波振動子群110から得られる前記画像は、超音波探触子1との位置関係で示す図3(a)に示すように、断層像301のうち比較的歪みの小さい部位(硬化の程度が大きな部位)において、すなわち腫瘍TMに該当する部分において、たとえば色が付された像として表示されるようになる。この断層像301は、組織歪みの差異を明瞭に描出でき、いわゆるリアルタイム表示に優れたものとして表示される。なお、図3(a)にあって超音波探触子1には前記低周波振動体120の図示を省略して描画している。低周波振動体120の駆動によって得られる情報については次に説明する。
超音波探触子1に備えられている前記低周波振動体120は、図3(b)に示すように、画像表示器3に表示された断層像301を観察しながら、該断層像301内の腫瘍TMに低周波信号が照射されるように、駆動されるようになっている。なお、図3(b)に示す断層像301は、該低周波振動体120との位置関係で示しており、超音波探触子1の本体と前記超音波振動子群110はその図示を省略して描画している。
前記低周波振動体120は、図4(a)に示すように、たとえば100Hz以下の低周波振動波401が照射され、それによって生体内の組織に歪みを与えることができるようになっている。また、図4(a)では、該低周波振動波401を腫瘍TMの方向に1ライン分照射していることを示している。そして、この低周波振動波401は、図4(b)に示すように、通常の生体内でたとえば約1m/sの速度で、硬化した組織内ではたとえば約20m/sの速度で伝搬し、それらの速度差は大きなものとなる。このことは、組織の硬度具合を低周波振動波の速度によって精度よく検出できることを意味する。
そして、この低周波振動体120は、図1に示すように、第2超音波送受信部207によって該低周波振動波を被検体内に発し、その反射エコー信号を該第2超音波受信部207がとらえるようになっている。
第2超音波送受信部207に入力された反射エコー信号は、第2変位演算部208に入力されるようになっており、この第2変位演算部208によって、隣接するRF信号から少なくとも前記部位の変位を演算するようになっている。図4(c)は、連続して入力される前記RF信号を示しており、その周波数はたとえば5MHzであり、また、PRFはたとえば5kとなっている。このうちたとえばRF信号S1、S2の相関演算によって変位が算出されるようになっている。また、さらに第2歪み演算部209に入力され、この第2歪み演算部209によって、前記変位に基づいて前記部位の変位の歪みを演算するようになっている。そして、伝播速度検出部210に入力されるようになっており、この伝播速度検出部210によって、前記低周波振動波の伝搬速度Vsを算出するようになっている。さらに、弾性率演算部211に入力されるようになっており、この弾性率演算部211によって、前記部位(前記腫瘍TMに該当する部位)の弾性率を算出するようになっている。この弾性率演算部211において、入力される伝搬速度Vsに対して弾性率Eは次式(1)に示す演算によって算出できるようになっている。
E=3ρVs2 ・・・(1)
ここで、ρは当該部位における粘性密度である。
図5は、本発明による超音波診断装置において、その画像表示器3に映像される画像の一態様を示した説明図である。
該画像表示器3の画面には、図5(a)に示す画像、図5(b)に示す画像、図5(c)に示す画像が並設されて表示されるようになっている。
図5(a)に示す画像は、いわゆる圧迫歪み2次元表示画像を示すもので、たとえば体表から50mm以内の部分の断面像が表示され、この断面像のほぼ中央部には組織が硬い部分(腫瘍TM)も映像されている。図1に示したB/Wデジタルスキャンコンバータ(DSC)202およびカラーDSC206からの各情報が合成部203によって合成された画像として表示されるものである。また、この実施例では、該圧迫歪み2次元表示画像内において深さ方向に前記腫瘍TMを横切って歪みMモードライン501が設定されている。この歪みMモードライン501(破線部)は、歪みMモード表示に対応する位置を示す。
図5(b)に示す画像は、前記歪みMモード表示を示すもので、前記歪みMモードライン501に沿った低周波信号の速度勾配を示している。図1に示した伝搬速度検出部210によって検出された速度値と、グラフィック部220によって作成されたグラフィック画像とが合成部203によって合成された画像として表示されるものである。
図5(c)に示す画像は、弾性率表示を示すもので、前記歪みMモード表示上の伝搬速度に対応して弾性率の値が横軸に反映して表示されるようになっている。図1に示した弾性率演算部211によって検出された弾性率値と、グラフィック部220によって作成されたグラフィック画像とが合成部によって合成された画像として表示されるものである。
また、図5(c)の弾性率情報を図5(a)に示す画像にフィードバックして表示させることができる。制御演算部222は、図5(c)の弾性率が大きいm(kpa)の部位をたとえば青色、弾性率が小さいn(kpa)の部位をたとえば赤色として設定する。そして、画像表示部3に表示される図5(a)ライン501上に色付けをする。
このように弾性率情報を2次元表示画像にフィードバックさせ、歪み、弾性率の両者の情報を得ることにより、各部位に対する弾性率分布及びその特性が判る。よって、診断の定量性を向上させることができる。
図6は、本発明による超音波診断装置において、その画像表示器3に映像される画像の他の態様を示した説明図である。
該画像表示器3の画面には、図6(a)に示す画像、図6(b)に示す画像が並設されて表示されるようになっている。
図6(a)は、前述の図5(a)に示した表示と同様に圧迫歪み2次元表示画像を示しているが、該図5(a)の場合と異なり、その腫瘍TMの部分に施されている色は該腫瘍TMの部分において検出された弾性率の値に対応する色として表示されるようになっている。
また、図6(b)は、一端から他端にかけて色の変化を示す色調ベルト601が表示され、その色は前記色調ベルト601の一端から他端にかけて弾性率が小さい側から大きい側へと変化していることを示している。すなわち、弾性率の大小が色に対応して示されているもので、たとえば、前記色調ベルト601上の各色のうち図中矢印αで示す色が、図6(a)の腫瘍の部分に施されている色と同じ場合、該腫瘍TMの弾性率が前記色調ベルト601上に表された弾性率の範囲内においてどのへんに位置づけられるかが感覚的に容易に判明できるようになる。
なお、図1において、超音波診断装置の装置本体2には、キーボード4によって情報が入力される制御演算部222を備え、この制御演算部222は前記キーボード4からの情報に基づいて第1超音波送受信部201、第2超音波送受信部207、B/Wデジタルスキャンコンバータ(DSC)202、グラフィック部220、カラースケール発生部221等を制御するように構成されている。
図7は、本発明による超音波診断装置の他の実施例を示す構成図である。上述した超音波診断装置と異なる構成は、まず、図7(a)に示すように、超音波探触子1にある。すなわち、該超音波探触子1は、いわゆる電子スキャン式3Dプローブを備えた構成からなり、その被検体5に当接する面に形成される超音波振動子群110は、図7(b)に示すように、一方向(図中y方向)に並設される多数の振動子からなる振動子群110aが、該一方向に交叉する方向(図中x方向)へ順次並列された構成からなっている。
図7(a)に示すように、一の振動子群110aからは一の断層像701に相当する情報が得られ、これら各断層像701は、それらの面と垂直方向に多数並設された位置関係で得られるようになる。
このため、各振動子群110aによって得られる反射エコー信号から3次元画像情報702を得ることができ、この3次元画像情報702を、被検体5に対する超音波探触子1の圧迫前の断層像群701(b)と圧迫後の断層像群701(a)からそれぞれ作成し、これらの各3次元画像情報702の相関から各部位の歪みを演算し、被検体内の硬化部を強調する3次元画像情報702を構成することができる。この3次元画像情報702において、前記硬化部以外の部分を透明あるいは透明に近い情報とするとにより、該硬化部のみが浮き上がって映像でき、該硬化部(腫瘍TM)の位置を明確化させることができる。
被検体5内の硬化部を強調する前記3次元画像情報702の構成後は、視点を変えて目視できる2次元画像として前記画像表示器3に表示されるようになっている。
なお、上述した前記3次元画像情報702の構成は、図1に示すB/Wデジタルスキャンコンバータ(DSC)202によってなされ、該3次元画像情報702の視点を変えて目視できる2次元画像の画像表示器3への表示は、キーボード4からの入力に基づく制御演算部222を介した前記B/Wデジタルスキャンコンバータ(DSC)202への制御によってなされるようになっている。
一方、前記超音波探触子1には、図7(a)に示すように、その周辺の一部において低周波振動体120が取り付けられ、その低周波振動体120の低周波照射方向は、図8(a)に示すように、前記3次元画像情報702が得られる領域のほぼ中央を指向するようになっており、かつ、該方向は若干の範囲で変更できるように構成されている。低周波振動体120の低周波照射方向の可変は被検体5の前記硬化部(腫瘍TM)の所定の個所への照射がなされるためである。このため、前記電子スキャン式3Dプローブによって得られる3次元画像情報702において、前記低周波振動体120の位置と該低周波振動体120からの低周波照射方向とを算出することにより、該3次元画像情報702を視点を変えて表示させる前記画像表示器3の画像面に前記低周波振動体120の低周波照射方向をグラフィック的に表示させることで、該低周波振動体120の被検体5内の前記硬化部(腫瘍TM)への低周波照射を正確に行うことができるようになる。
このようにして、被検体5内の硬化部の所定の部位に低周波を照射するようにできることから、その反射エコー信号の受信によって、前記所定の部位において、該低周波の照射方向に沿った該低周波の速度はいうまでもなく、弾性率をも算出することができるようになる。図8(b)は、低周波振動体120の深さ方向に対する低周波の速度特性81を示す図で、その腫瘍TMの個所に相当する中途部において速度が大きく変化していることが認められる。
図9は、上述した超音波診断装置に用いられる超音波探触子1の一実施例を示す構成図である。
この超音波探触子1は、図9(a)に示すように、超音波振動子110と低周波振動体120を備える本体(プローブ)901に、いわゆる圧迫補助板902が着脱自在に取り付けられて構成されている。
図9(b)は、前記圧迫補助板902を本体901から取り外した状態を示した斜視図である。該圧迫補助板902はそれによって被検体5に均一な圧迫を施せるようにたとえばほぼ楕円形の板板として構成されている。この圧迫補助板902の材料としては生体適合性を有する素材であるたとえばノリル等が用いられている。
そして、該圧迫補助板902には、その表面の長軸方向(楕円形の長軸方向)にほぼ一致づけられて長孔110aが形成され、また、該長孔110aのほぼ中央部において該長孔110aに隣接して小孔120aが形成されている。
この圧迫補助板902に前記本体901を装着させた場合、該本体901に設けられている超音波振動子110および低周波振動体120が、それぞれ、前記圧迫補助板902の長孔110aおよび小孔120aに位置づけられて配置されるようになる。
このように構成された超音波探触子1によれば、弾性像の取得のためのプローブと弾性率の算出のためのプローブを備えたものが得られるようになる。
図10は、上述した超音波診断装置に用いられる超音波探触子1の他の実施例を示す構成図である。図10に示す超音波探触子1は圧迫(手動もしくは機械的)を用いた弾性画像の取得と加振による弾性率の算出を同一のプローブで実現するようにしたものである。
図10(a)、(b)に示すように超音波探触子1の被検体5と当接する面には複数の超音波振動子(図示せず)が並設されて構成されている。なお、図10(a)、(b)はいずれも被検体5の同一個所に配置され、それぞれ時間を異ならしめて駆動される超音波探触子1を示している。
圧迫を用いた弾性画像の取得においては各超音波振動子1からの送波は、図10(a)に示すように複数ラインを形成するようにしてなされる。この場合、各超音波振動子1の反射エコー信号の受信から弾性画像の形成までにあって、スキャン時間、演算時間がかかり、フレームレートが低下する。
そして、加振による弾性率の算出においては前記ラインは一つあるいは数本に限定して行い、また、超音波パルスの繰り返し周波数PRF(Pulse Repetition Frequency)もたとえば5k程度としている。加振による弾性率の計測には高フレームレートを必要とするからである。
そして、圧迫を用いた弾性画像の取得における各超音波振動子のスキャンと、加振による弾性率の算出における超音波振動子のスキャンとは分離されてなされ、図10(a)に示すようにスキャンを行って弾性画像を取得した後に、図10(b)に示すようにスキャンを行い、加振を付加させることにより伝搬速度、弾性率を取得するようにする。
なお、この場合の加振としては、たとえば図11(a)に示すように圧迫補助用のカプラ111に結合された振動体112によって行うか、あるいは図11(b)に示すように探触子保持部に付属させた振動体113によって行う手法が採られる。
図12(a)、(b)は、前記図10(a)、(b)にそれぞれ対応した図であり、図10(a)、(b)に示した超音波探触子1を用いて圧迫を用いた弾性画像の取得、および加振による弾性率の算出を行う場合において、まず、加振における歪みMモードの画像のガイドライン121をユーザが任意に切り換える(選択する)ことができるように構成されている。そして、上述のように指定されたラインを中心としたチャネルの振動子にて送波を行い一ライン(伝播速度検出用のライン)のビームを形成できるように構成され、弾性率を計測できるようになっている。このように構成することにより、プローブ(超音波探触子1)を被検体5上でわざわざ移動させる必要がなくなるという効果を奏する。
また、この手法で得られる弾性率情報を画像表示部3に示される画像にフィードバックして表示させることができる。制御演算部222は、弾性率が大きい部位をたとえば青色、弾性率が小さい部位をたとえば赤色として設定する。そしてガイドライン121に対応する部位をカラーで画像表示部3に表示する。
このガイドライン121は任意に選択することができるため、歪み2次元表示画像より被検体5の硬化部(腫瘍TM)と認識した個所にガイドライン121を操作者が設定し、そして、そのガイドライン121上に対応する弾性率をカラー表示する。
また、ガイドライン121を硬化部(腫瘍TM)の上に自動設定し、弾性率を表示してもよい。たとえば、歪み2次元表示画像において硬化部(腫瘍TM)は緑色〜青色で示されている。そこで、歪み2次元表示画像において硬化部(腫瘍TM)(緑色〜青色)が表示されている個所を制御演算部222が認識し、その個所にガイドラインぬ121を複数設定する。その複数ガイドライン121に対応する弾性率を2次元表示画像にカラー表示する。また、全てのスキャンライン上にガイドライン121を設定し、全てのスキャンライン上において、2次元表示画像に弾性率をカラー表示してもよい。
このようにガイドライン121の弾性率情報を2次元表示画像にフィードバックさせ、歪み、弾性率の両者の情報を得ることにより、各部位に対する弾性率分布及びその特性が判る。よって、診断の定量性を向上させることができる。
なお、上述した実施例では、図1に示すように、超音波振動子群110が得た反射エコー信号からは、第1変位演算部204によって変位を、第1歪み演算部205によって歪みを演算し、この歪みに関する情報を画像表示器3に表示するようにしたものである。したがって、該歪みから導かれる弾性率を演算しない構成としたものである。しかし、第1歪み演算部205の後段に弾性率演算部を設け、この弾性率演算部によって得られた弾性率に関する情報を画像表示器3に表示するようにしてもよいことはいうまでもない。
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。