JP4700165B2 - ベルト式無段変速装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はベルトが掛け渡されるプーリの溝幅を変化させてプライマリ軸の回転をセカンダリ軸に対して無段階に変化させて伝達するベルト式無段変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用のベルト式無段変速機(CVT)には、駆動側のプライマリ軸に設けられたプーリ溝幅可変のプライマリプーリと、被駆動側のセカンダリ軸に設けられたプーリ溝幅可変のセカンダリプーリとの間に、金属製のベルトを掛け渡し、プーリ溝幅を変化させてプライマリプーリとセカンダリプーリに対するベルトの巻き掛け部の径を変化させることによりセカンダリ軸の回転数を無段階に変化させるものがある。
【0003】
プライマリプーリとセカンダリプーリは、コーン面を有しそれぞれプーリ軸としてのプライマリ軸とセカンダリ軸とに固定された固定プーリと、この固定プーリのコーン面に対向するコーン面を有しプーリ軸に軸方向に摺動自在に設けられた可動プーリとを有しており、固定プーリは固定シーブとも言われ、可動プーリは可動シーブとも言われている。
【0004】
ベルトやチェーンを用いた巻き掛け動力伝達機構において、巻き掛け部の圧縮応力は一様ではなく、巻き掛け部における高張力側に向かって増加していくことが知られている。多数のスチールブロックからなるエレメントとこれを帯状に連結させるリングセットとを有するプッシュタイプのスチールベルトを用いた無段変速機においても、分布形態は異なるもののやはり巻き掛け部におけるエレメントに加わる圧縮力に一様でない分布が発生する。このため、プーリのコーン面にはベルトを挟みつけているためにベルトから一様でない反作用が加わることになる。
【0005】
固定プーリのコーン面はベルトを挟み込むことにより撓みを生じるが、反作用の大きい部位ほど大きく撓みコーン面間のなす溝幅は広くなる。これに加えて、ベルトの幅自体も圧縮力により減少することになる。このため、ベルトは高張力側でプーリのV溝に食い込んで、巻き掛け半径が巻き掛け部において変化することになる。巻き掛け半径が変化すると、一体回転するプーリと一定線速度で進むベルトとの間に速度差が発生することになり、この速度差はベルトとプーリ間に微少な滑りを発生させて動力損失を生じることになる。
【0006】
プッシュタイプのベルトにあっても、各エレメントはリングセットの張力とエレメントの圧縮力との力でプーリに食い込もうとするため巻き掛け半径の変化が生じ、動力損失を発生させることになる。したがって、ベルト式無段変速機の効率を向上させるには、動力伝達部材の変形による巻き掛け半径の変化を小さくすることが望ましいことが分かる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
スチールベルトを用いた無段変速機にあっては、溝幅方向の変位量はプーリの撓みに起因することがほとんどであり、動力伝達効率の改善は、専らプーリの撓み量を少なくすることにより実現される。
【0008】
特に、固定プーリはベルトクランプにより発生する荷重をプーリ軸で支持する構造のために撓みが発生しやすい。プーリの剛性を高めるために、プーリ軸の部分を太くするか、あるいはコーン面を形成する円盤部分の厚さを厚くすることが行われているが、前者はベルトの可動幅を狭めるだけでなく、プーリ全体の重量増加を惹起させる。一方、プーリの厚みを厚くすることは、回転体の慣性を著しく増大させるために動力性能を低下させ、走行性能および燃費性能を低下させるという問題点がある。さらに、プーリの厚みを厚くすると、トランスミッション幅を増大させることになり、車両搭載の自由度を損なう。
【0009】
トランスミッション幅を抑えるために、たとえば、特公平3-72858 号公報に開示されるように、プーリ軸を支持するベアリングを前後進切換機構の後退用ブレーキの環状のピストン室の中心部に位置させるようにしているが、撓みをなくすためには固定プーリの重量を軽減することはできない。また、特開平7-198010号公報は固定プーリのコーン面を形成する部分にベアリングを収容するようにしたプーリを開示しているが、この場合にもトランスミッションの幅を抑制することはできても、プーリの重量を軽減することができない。
【0010】
本発明の目的は、プーリの変形に起因するベルトの動力伝達損失を低減することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、プーリの軽量化を図りつつ剛性を高め、トランスミッションの大型化を防止することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明のベルト式無段変速装置は、コーン面を有するとともにプーリ軸に固定される固定プーリと、前記固定プーリのコーン面と対向するコーン面を有するとともに前記プーリ軸に対して軸方向に移動自在に装着された可動プーリとを有し、前記固定プーリと前記可動プーリとの間にベルトを配置するようにしたベルト式無段変速装置において、前記固定プーリの背面側に前記コーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部を形成し、当該軸受嵌合部にスラスト力を支持する第1ベアリングを装着し、前記プーリ軸の前記可動プーリ側の端部に、スラスト力を支持する第2ベアリングを装着し、前記第1および第2ベアリングによって前記固定プーリおよび前記プーリ軸を軸方向に固定することを特徴とする。
【0013】
本発明のベルト式無段変速装置は、コーン面を有するとともにプーリ軸に固定される固定プーリと、前記固定プーリのコーン面と対向するコーン面を有するとともに前記プーリ軸に対して軸方向に移動自在に装着された可動プーリとを有し、前記固定プーリと前記可動プーリとの間にベルトを配置するようにしたベルト式無段変速装置において、前記コーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部を有する円筒形状のフランジ部を前記固定プーリの背面側に突設し、前記フランジ部の前記軸受嵌合部とケースとの間に、前記軸受嵌合部に嵌合するインナーレースを有するとともにスラスト力を支持する第1ベアリングを装着し、前記プーリ軸の前記可動プーリ側の端部と前記ケースとの間に、スラスト力を支持する第2ベアリングを装着し、前記第1および第2ベアリングによって前記固定プーリおよび前記プーリ軸を軸方向に固定することを特徴とする。また、本発明のベルト式無段変速装置は、前記第1および第2ベアリングは、テーパベアリングもしくは複列アンギュラベアリングであることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、固定プーリのコーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部にベアリングを装着するようにしたので、固定プーリの厚みを大きくすることなく、固定プーリの軽量化を達成しつつ撓み発生を防止することができ、トランスミッションの小型化を達成することができる。
【0015】
本発明のベルト式無段変速装置は、前記プーリ軸の端部に形成された連結部を前記フランジ部の径方向内方に設け、前記フランジ部と前記連結部との間に形成された凹空間で前後進切換機構の出力軸と前記連結部とを連結したことを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、ベアリングの径方向内方の空間を利用して、前後進切換機構の出力軸をプーリ軸に連結することができるので、トランスミッションの小型化を達成することができる。
【0017】
本発明のベルト式無段変速装置は、前記プーリ軸と前記固定プーリとを別部材とし、前記プーリ軸に前記固定プーリのコーン面側部が嵌合するプーリ結合部と、前記軸受嵌合部を介して前記第1ベアリングを支持するとともに前記プーリ結合部よりも大径となり前記固定プーリの背面側部が嵌合するベアリング支持部とを形成し、前記固定プーリを前記プーリ結合部と前記ベアリング支持部とで前記プーリ軸に結合したことを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、固定プーリに作用する曲げモーメントを低減することができ、プーリ軸と固定プーリとを別部品としても固定プーリとプーリ軸との結合部の信頼性を向上させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施の形態であるベルト式無段変速装置を示す概略図であり、図示省略したエンジンにより駆動されるクランク軸1の回転は、発進装置としてのトルクコンバータ2と前後進切換機構3とを介して無段変速機構4に伝達される。
【0021】
トルクコンバータ2はロックアップクラッチ5を有しており、ロックアップクラッチ5はタービン軸6に連結されている。ロックアップクラッチ5の一方側はアプライ室7aであり、他方側はリリース室7bであり、リリース室7b内に供給した油圧をアプライ室7aを介して循環させることによりトルクコンバータ2は作動状態となる。一方、アプライ室7aに油圧を供給し、リリース室7b内の油圧を下げることによりロックアップクラッチ5はフロントカバー8と係合してロックアップ状態となる。このリリース室7b内の圧力を調整することによりロックアップクラッチ5を滑らせるようにしたスリップ圧制御が行われる。
【0022】
前後進切換機構3はトルクコンバータ2の出力軸であるタービン軸6の回転を無段変速機構4に正方向に伝達するための前進用クラッチ11と、逆方向に伝達するための後退用ブレーキ12とを有しており、クラッチ油室11aに油圧を供給して前進用クラッチ11を接続状態とすると、タービン軸6の回転は無段変速機構4に正方向に伝達され、ブレーキ油室12aに油圧を供給して後退用ブレーキ12を接続状態とすると逆方向に減速して伝達される。
【0023】
無段変速機構4は前後進切換機構3に連結される入力側のプーリ軸つまりプライマリ軸13と、これと平行となった出力側のプーリ軸つまりセカンダリ軸14とを有している。プライマリ軸13にはプライマリプーリ15が設けられており、プライマリプーリ15はプライマリ軸13に固定された固定プーリ15aと、これに対向してプライマリ軸13にボールスプラインなどにより軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ15bとを有し、プーリのコーン面間隔つまりプーリ溝幅が可変となっている。セカンダリ軸14にはセカンダリプーリ16が設けられており、セカンダリプーリ16はセカンダリ軸14に固定された固定プーリ16aと、これに対向してセカンダリ軸14に可動プーリ15bと同様に軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ16bとを有し、プーリの溝幅が可変となっている。
【0024】
プライマリプーリ15とセカンダリプーリ16との間にはベルト17が掛け渡されており、両方のプーリ15,16の溝幅を変化させて、それぞれのプーリ15,16に対する巻付け径の比率を変化させることにより、プライマリ軸13の回転がセカンダリ軸14に無段階に変速されて伝達されることになる。
【0025】
セカンダリ軸14の回転は減速歯車およびディファレンシャル装置18を有する歯車列を介して車輪19a,19bに伝達されるようになっており、前輪駆動車の場合には、車輪19a,19bは前輪となる。
【0026】
プライマリプーリ15の溝幅を変化させるために、プライマリ軸13には円筒部とディスク部とを有するプランジャ21が固定され、このプランジャ21の外周面に摺動自在に接触するプライマリシリンダ22が可動プーリ15bに固定されており、プランジャ21と可動プーリ15bとの間にはプライマリ油室23が形成されている。
【0027】
セカンダリプーリ16の溝幅を変化させるために、セカンダリ軸14にはテーパー状の円筒部を有するプランジャ26が固定され、このプランジャ26の外周面に摺動自在に接触するセカンダリシリンダ27が可動プーリ16bに固定されており、プランジャ26と可動プーリ16bとの間にはセカンダリ油室28が形成されている。
【0028】
図2は図1に示された無段変速機構4と前後進切換機構3の一部を示す拡大断面図であり、これらはケース30の中に組み込まれている。プーリ軸であるプライマリ軸13には円錐面つまりコーン面31を有する固定プーリ15aがプライマリ軸13に一体となって固定されており、このプライマリ軸13にはコーン面31に対向するコーン面32を有する可動プーリ15bがプライマリ軸13に軸方向に移動自在に装着され、固定プーリ15aとともに一体に回転する。
【0029】
プライマリ軸13の固定プーリ側の端部には前後進切換機構3の出力軸が連結される連結部33が設けられており、この外周面にはスプラインが形成されている。固定プーリ15aの背面側には円筒形状のフランジ部34が突設され前後進切換機構3に向けて突き出ており、外周面はコーン面31,32の根元径RAよりも大径RBとなった軸受嵌合部となっている。この軸受嵌合部を有するフランジ部34とケース30との間には第1ベアリング35が装着されており、このベアリング35はフランジ部34に嵌合するインナーレース35aと、ケース30に嵌合するアウターレース35bとを有し、これらの間には複数のローラ35cが組み込まれている。プライマリ軸13の可動プーリ側の端部36とケース30との間にはベアリング35の径よりも小径の第2ベアリング37が装着されている。
【0030】
それぞれのベアリング35,37としては、ローラが傾斜したテーパベアリングが使用されているが、テーパベアリングやダブルアンギュラベアリングを使用すると、モーメント荷重に対する剛性が高く、コーン面の変形を小さくすることができる。ただし、ボールベアリングなど他のタイプのベアリングを用いるようにしても良い。
【0031】
スプラインが設けられた連結部33とフランジ部34との間には、環状の凹空間38が形成され、この凹空間38の中に前後進切換機構3の出力軸が入り込むようになっている。
【0032】
従来のベルト式無段変速装置にあっては、固定プーリ側の端部は可動プーリ側の端部36と同様に、コーン面の根元径よりも内径が小さいベアリングによって支持するようにしていたのに対して、プライマリ軸13の固定プーリ側の端部はコーン面の根元よりも大径のフランジ部34に嵌合するベアリング35によって支持するようにしたので、ベルトクランプの反作用により固定プーリ15aに発生する曲げモーメントが減少し、コーン面の倒れを少なくすることができる。これにより、ベルトの巻き掛け半径が変化することにより発生する動力伝達損失を低減することができるとともに、コーン面の根元に発生する曲げ応力を緩和することができるので、無段変速装置の信頼性を向上させることができる。
【0033】
図3は図2に示すプライマリプーリのコーン面の剛性を従来と比較して示す特性図であり、横軸は固定プーリの重量比を示し、縦軸は有限要素法により求めたベルト巻き掛け部の変位比を示している。
【0034】
図3において実線は、従来の無段変速装置の基本的なサイズの固定プーリに対して、プーリの厚みを大きくした場合のベルト巻き掛け部の変位比を示しており、点P1 で示す基準値となるサイズのものに対して固定プーリの厚み寸法を大きくして重量比を大きくすると、実線で示すように、ベルト巻き掛け部の変位比は小さくなる。
【0035】
図2に示す本発明の固定プーリ15aの厚みを従来と同一とした場合には、ベルト巻き掛け部の変位つまりコーン面の変位は、図3におい点Iで示す値となり、点P1 の値よりもコーン面の変位を約15%低減することができる。このときには、フランジ部34が設けられることから、固定プーリ15aの重量は約1%増加することになるが、本発明における変位比と同一の変位比となるように従来の固定プーリの厚みを設定すると、点P2 で示す値となる。この点P2 の重量増加は約8%であり、本発明のプーリにあっては、重量を増加させることなく、固定プーリの剛性を高めることができる。
【0036】
図4は図2に示すプライマリプーリのコーン根元部の応力値を従来と比較して示す特性図であり、横軸は固定プーリの重量比を示し、縦軸は有限要素法により求めたコーン根元部の応力比を示している。コーンの根元部にはプーリクランプ力により曲げ応力が作用し、かつプーリ軸との交差部に応力が集中することになる。
【0037】
図4に示すように、本発明の固定プーリ15aの厚みを従来と同一とした場合には、コーン根元部の応力比は、図4において点Iで示す値となり、従来の場合の点Pと比較すると、本発明のプーリは従来のプーリに比して重量を増加させることなく、応力を緩和させることができる。
【0038】
セカンダリ軸14の固定プーリ16a側は、図1に示すように、ベアリング39により支持され、可動プーリ16b側はベアリング40により支持されており、ベアリング39はプライマリプーリ15の固定プーリ15aと同様にセカンダリプーリ16の固定プーリ16aの背面側に突設されたフランジ部34の外側に嵌合されている。ただし、セカンダリプーリ16の固定プーリ16aについては、セカンダリ軸14の固定プーリ側の端部には軸などが連結されないので、凹空間を設けないようにしても良い。
【0039】
図1に示す場合には、プライマリプーリ15とセカンダリプーリ16の両方についてそれぞれの固定プーリ15a,16aをそれぞれに設けられたフランジ部34を介してケース30に支持するようにしているが、プライマリプーリとセカンダリプーリの一方についてのみフランジ部34を設けるようにしても良い。
【0040】
前後進切換機構3は、図2に示すように、ダブルピニオン形の遊星歯車機構となっており、前後進切換機構3の入力軸としてのタービン軸6に固定されたサンギヤ41を有し、このサンギヤ41にはクラッチドラム42が固定されている。サンギヤ41の外側にはリングギヤ43が設けられ、プラネタリキャリア44にはリングギヤ43に噛み合うピニオンギヤ45aが設けられるとともに、このピニオンギヤ45aとサンギヤ41とに噛み合うピニオンギヤ45bが図1に示すようにプラネタリキャリア44に設けられている。
【0041】
プラネタリキャリア44の外周部のハブ44aとクラッチドラム42との間には多板式のフォワードクラッチつまり前進用クラッチ11が設けられ、プラネタリキャリア44の中心部のボス部44bは、前後進切換機構3の出力軸となっており、プライマリ軸13の連結部33にスプライン結合されている。したがって、クラッチドラム42内の油室11aに油圧を供給すると、ピストン46により前進用クラッチ11が接続状態となって、タービン軸6の回転は前進方向となってプライマリ軸13に伝達される。
【0042】
リングギヤ43とケース30との間には多板式のリバースブレーキつまり後退用ブレーキ12が設けられている。したがって、油室12aに油圧を供給すると、ピストン47により後退用ブレーキ12が接続状態となって、タービン軸6の回転は2つのピニオンギヤ45a,45bを介して後退方向となってプライマリ軸13に伝達される。
【0043】
このように、前後進切換機構3の出力軸はプラネタリキャリア44のボス部44bとなっており、このボス部44bをフランジ部34の径方向内方の凹空間38の位置でプライマリ軸13の連結部33に連結されている。
【0044】
従来では、前後進切換機構3の出力軸とプライマリ軸13との結合は、たとえば、特公平3-72858 号公報に記載されるように、プライマリ軸にサンギヤを設けてサンギヤ出力とするようにしたり、特開平6-221386号公報に記載されるように、キャリアを出力としてキャリアとプライマリ軸との係合スペースをプライマリ軸に設けるようにしている。
【0045】
CVTの前後進切換機構3は切り替えが簡単でリバース減速比が1付近を取れるダブルピニオン式が良く使用されるが、これをサンギヤ出力とすると、減速比はNS /(NR −NS )となる。ここで、NS はサンギヤ歯数であり、NR はリングギヤ歯数であり、通常では、スペースの関係からサンギヤを大きくすることができず、減速比1を得るのは困難である。そのため、後退時の車両駆動力が不足して登坂の車庫入れなどでは不都合を生じる。
【0046】
一方、本発明の無段変速装置ではキャリア44とプライマリ軸13との連結部をベアリング35の径方向内方に位置させて連結部33をベアリング35とオーバーラップさせるようにしたキャリア出力の構造となり、前後進切換機構3と無段変速機構4との軸方向の寸法を短くすることができ、トランスミッション全体の寸法を短くコンパクトにすることができる。キャリア出力の場合には減速比は前記した式の逆数となるので、遊星歯車機構を大型化することなく、必要な減速比を確保することができる。
【0047】
図5は本発明の他の実施の形態であるベルト式無段変速装置における図2と同様の部分を示す断面図であり、前述した場合には固定プーリ15aとプライマリ軸13とが一体となった1つの部品により形成されているのに対して、図5に示す場合にはプライマリ軸13と固定プーリ15aとが別部品となっており、固定プーリ15aは焼きばめや圧入によりプライマリ軸13に固定されている。
【0048】
プライマリ軸13はコーン面の根元径に対応した外径のプーリ結合部51と、このプーリ結合部51よりもプライマリ軸13の端部側に設けられてプーリ結合部51よりも大径となったベアリング支持部52とを有している。このプライマリ軸13に固定プーリ15aを固定すると、固定プーリ15aのコーン面31側の部分がプーリ結合部51に嵌合され、背面側の部分がベアリング支持部52に嵌合されることになり、固定プーリ15aの軸方向の位置はプーリ結合部51とベアリング支持部52との段差部53に突き当たって規制される。
【0049】
このように、固定プーリ15aとプライマリ軸13とを別部品とすることにより、素材の成形と加工が容易となり、生産性を向上させることができる。
【0050】
従来の固定プーリはプーリ軸と一体となっており、固定プーリに作用する外力は全てプーリ軸と固定プーリとが連なった部分で支持されるようになってるが、図5に示す場合には固定プーリ15aに作用する曲げモーメントを低減することができるので、固定プーリ15aのうちプーリ結合部51に嵌合する嵌合孔において発生するフープ応力を低減することができ、別部品としても固定プーリ15aのプーリ軸に対する結合部の信頼性を向上させることができる。
【0051】
図5はプーリ軸としてのプライマリ軸13と固定プーリ15aとの結合部を示すが、セカンダリ軸14と固定プーリ16aとの結合部につても図5に示す場合と同様に別部品としても良い。
【0052】
本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、固定プーリの背面側を支持するベアリングをコーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部で支持するので、固定プーリの厚み寸法を大きくすることなく、固定プーリの軽量化を図りつつ剛性を高めることができる。
【0054】
固定プーリの厚み寸法を大きくする必要がないので、トランスミッションの大型化を防止することができる。
【0055】
固定プーリの変形を防止することができるので、ベルトの動力伝達損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態であるベルト式無段変速装置の駆動系を示す概略図である。
【図2】図1に示された無段変速機機構と前後進切換機構の一部を示す拡大断面図である。
【図3】プライマリプーリのコーン面の剛性を従来と比較して示す特性図である。
【図4】プライマリプーリのコーン根元部の応力値を従来と比較して示す特性図である。
【図5】本発明の他の実施の形態であるベルト式無段変速装置における要部を示す断面図である。
【符号の説明】
13 プライマリ軸
14 セカンダリ軸
15 プライマリプーリ
15a 固定プーリ
15b 可動プーリ
16 セカンダリプーリ
16a 固定プーリ
16b 可動プーリ
17 ベルト
30 ケース
31,32 コーン面
33 連結部
34 フランジ部
35 ベアリング
38 凹空間
44 プラネタリキャリア
44b ボス部

Claims (5)

  1. コーン面を有するとともにプーリ軸に固定される固定プーリと、前記固定プーリのコーン面と対向するコーン面を有するとともに前記プーリ軸に対して軸方向に移動自在に装着された可動プーリとを有し、前記固定プーリと前記可動プーリとの間にベルトを配置するようにしたベルト式無段変速装置において、
    前記固定プーリの背面側に前記コーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部を形成し、当該軸受嵌合部にスラスト力を支持する第1ベアリングを装着し、
    前記プーリ軸の前記可動プーリ側の端部に、スラスト力を支持する第2ベアリングを装着し、
    前記第1および第2ベアリングによって前記固定プーリおよび前記プーリ軸を軸方向に固定することを特徴とするベルト式無段変速装置。
  2. コーン面を有するとともにプーリ軸に固定される固定プーリと、前記固定プーリのコーン面と対向するコーン面を有するとともに前記プーリ軸に対して軸方向に移動自在に装着された可動プーリとを有し、前記固定プーリと前記可動プーリとの間にベルトを配置するようにしたベルト式無段変速装置において、
    前記コーン面の根元の直径よりも大径の軸受嵌合部を有する円筒形状のフランジ部を前記固定プーリの背面側に突設し、前記フランジ部の前記軸受嵌合部とケースとの間に、前記軸受嵌合部に嵌合するインナーレースを有するとともにスラスト力を支持する第1ベアリングを装着し、
    前記プーリ軸の前記可動プーリ側の端部と前記ケースとの間に、スラスト力を支持する第2ベアリングを装着し、
    前記第1および第2ベアリングによって前記固定プーリおよび前記プーリ軸を軸方向に固定することを特徴とするベルト式無段変速装置。
  3. 請求項1または2記載のベルト式無段変速装置において、前記第1および第2ベアリングは、テーパベアリングもしくは複列アンギュラベアリングであることを特徴とするベルト式無段変速装置。
  4. 請求項2記載のベルト式無段変速装置において、前記プーリ軸の端部に形成された連結部を前記フランジ部の径方向内方に設け、前記フランジ部と前記連結部との間に形成された凹空間で前後進切換機構の出力軸と前記連結部とを連結したことを特徴とするベルト式無段変速装置。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載のベルト式無段変速装置において、前記プーリ軸と前記固定プーリとを別部材とし、前記プーリ軸に前記固定プーリのコーン面側部が嵌合するプーリ結合部と、前記軸受嵌合部を介して前記第1ベアリングを支持するとともに前記プーリ結合部よりも大径となり前記固定プーリの背面側部が嵌合するベアリング支持部とを形成し、前記固定プーリを前記プーリ結合部と前記ベアリング支持部とで前記プーリ軸に結合したことを特徴とするベルト式無段変速装置。
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