JP4696404B2 - 発酵法によるヌクレオチドの製造法 - Google Patents

発酵法によるヌクレオチドの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発酵法によるヌクレオチドの製造法に関する。ヌクレオシド−5’−リン酸エステル等のヌクレオチドは、調味料、医薬並びにそれらの原料等として有用である。
【0002】
【従来の技術】
ヌクレオシド−5’−リン酸エステルの工業的な製造法としては、ヌクレオシドを発酵法により製造し、得られたヌクレオシドを酵素的にリン酸化してヌクレオシド−5’−リン酸エステルを得る方法が知られている。
【0003】
一方、ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを発酵法により直接製造する方法が提案されている。例えば、特公昭56−12438号公報には、アデニン要求性を有しさらにデコイニンまたはメチオニンスルフォキシドに耐性を有し、かつ5’−グアニル酸(グアノシン−5’−モノリン酸、以下「GMP」ともいう)生産能を有するバチルス属の変異株を培養し、培地中に生成蓄積したGMPを採取することを特徴とする5’−グアニル酸の製造法が開示されている。また、バチルス・サブチリスのイノシン生産菌からの5’−イノシン酸(イノシン−5’−リン酸、以下「IMP」ともいう)生産菌の誘導について、いくつか報告されている(Magasanik, B. et al., J. Biol. Chem., 226, 339 (1957); Fujimoto, M., et al., Agr. Biol. Chem., 30, 605 (1966))。しかし、一般的にヌクレオシド−5’−リン酸エステルの直接発酵は収率が十分ではなく、前記酵素法に比較して実用的でない。
【0004】
IMPの直接発酵が困難である理由として、IMPは細胞透過性がわるいこと、及び、IMPを分解する酵素がかなり普遍的に分布していることが挙げられている(核酸発酵、アミノ酸・核酸集談会編、講談社サイエンティフィク)。このような障害を克服するために、ヌクレオチド分解活性を欠失させる試みがなされてきた。IMPをイノシンに分解する酵素としては、5’−ヌクレオチダーゼ、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼなどが考えられている(前記「核酸発酵」)。また、前記特公昭56−12438号公報には、ヌクレオチダーゼ活性が低下した変異株から、GMPの収率が高い菌株を取得しうることが示唆されている。
【0005】
工業レベルでヌクレオシド−5’−リン酸エステルを製造する技術としては、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスの変異株を用いてIMPを製造する方法が開発されている(Furuya et al., Appl. Microbiol., 16, 981 (1968))。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、直接発酵によるヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造について種々の研究が行われており、成功例もいくつか知られている。しかし、ヌクレオチド分解酵素については不明な点が多く、収率向上に関する研究は十分とはいえない。特にエシェリヒア属細菌では実用レベルでヌクレオシド−5’−リン酸エステルを製造した例は知られていない。
【0007】
本発明は、上記観点からなされたものであり、エシェリヒア属細菌を用いてIMP等のヌクレオシド−5’−リン酸エステルを製造する方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、エシェリヒア・コリが既知の遺伝子の他に5’−ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子が存在することを知見し、同遺伝子を同定することに成功した。そして、公知の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子に加えて新規遺伝子を破壊することによって、イノシン生産能又はグアノシン生産能を有するエシェリヒア・コリがIMP又はGMPを生産することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである
(1)ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能せず、かつ、ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能を有するエシェリヒア属細菌を培地に培養し、培地中にヌクレオシド−5’−リン酸エステルを生成蓄積せしめ、同培地からヌクレオシド−5’−リン酸エステルを採取することを特徴とするヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造法。
(2)ushA遺伝子及びaphA遺伝子が変異が導入又は破壊されたことにより正常に機能しない(1)のヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造法。
(3)前記ヌクレオシド−5’−リン酸エステルが5’−イノシン酸又は5’−グアニル酸である(1)又は(2)に記載のヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造法。
(4)ushA遺伝子及びaphA遺伝子が破壊され、かつ、ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能を有するエシェリヒア属細菌。
(5)前記ヌクレオシド−5’−リン酸エステルが5’−イノシン酸である(4)のエシェリヒア属細菌。
(6)微生物の親株及び既知の5’−ヌクレオチダーゼを欠失した誘導株を、第一のヌクレオシド−5’−リン酸エステルを唯一の炭素源とする最少培地、及び第二のヌクレオシド−5’−リン酸エステルを唯一の炭素源とする最少培地で培養して、親株及び誘導株の遺伝子発現プロファイルを調べ、
第一の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを炭素源とする培地で培養したときの遺伝子の誘導株における発現量と親株における発現量との比と、第二の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを炭素源とする培地で培養したときの前記遺伝子の誘導株における発現量と親株における発現量との比の積をとり、その値の大きい遺伝子を選択することを特徴とする、ヌクレオシド−5’−リン酸エステルの蓄積に影響する5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索方法。
(7)前記第一及び第二のヌクレオシド−5’−リン酸エステルが、5’−イノシン酸及び5’−グアニル酸である(6)の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索方法。
(8)前記の選択された遺伝子から、タンパク質のペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をコードし得る遺伝子をさらに選択することを特徴とする(6)又は(7)の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>未知の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索
エシェリヒア・コリの既知の5’−ヌクレオチダーゼとしては、ushA遺伝子(GenBank accession X03895)産物(UshA)であるUDP糖加水分解酵素(UDP-sugar hydrolase)が知られている。同酵素は、AMP、GMP、IMP、XMPなどのヌクレオシド−5’−リン酸を脱リン酸し、対応するヌクレオシドを生成する5’−ヌクレオチダーゼ活性を持つことが知られていた(H. C. Neu, (1967) Journal of Biological Chemistry, 242, 3896-3904; A. Cowman, I. R. Beacham, (1980) Gene, 12, 281-286)。
【0012】
本発明者は、エシェリヒア・コリW3110株のushA遺伝子を破壊し、そのヌクレオチド分解能への影響を検討した。W3110株のushA遺伝子破壊株(WΔushA)は、ペリプラズムの5’−ヌクレオチダーゼ活性は、W3110株に比べて大きく低下していた。しかし、WΔushA株をヌクレオシド−5’−リン酸を単独の炭素源とする最少培地で生育を調べたところ、同株は生育が可能であったころから、ushAのみの破壊によってヌクレオチド分解能が完全に失われていないと考えた。さらに、ヌクレオシド−5’−リン酸を単独の炭素源とした場合には、生育の立ち上がりが遅いことから、UshAが機能しないときに誘導される他の5’−ヌクレオチダーゼが存在すると予想した。
【0013】
本発明者は、上記知見から未知の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索を試み、酸性ホスファターゼ遺伝子(aphA)(M. C. Thaller, S. Schippa, A. Bonci, S. Cresti, G. M. Rossolini, (1997) FEMS Microbilogy Letters, 146, 191-198、GenBank accession X86971)あるいはyjbP(GenBank accession AAC77025)として報告されている遺伝子産物が、5’−ヌクレオチダーゼ活性を有していることを見出した。
【0014】
上記のような、ヌクレオシド−5’−リン酸の蓄積に影響を与える5’−ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子は、以下のようにして探索することができる。
まず、微生物の親株及び既知の5’−ヌクレオチダーゼを欠失した誘導株を、第一の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステル及び第二の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステル、例えばIMPまたはGMPを唯一の炭素源とする最少培地で培養する。微生物がエシェリヒア・コリの場合は、既知の5’−ヌクレオチダーゼとしては前記UshAが挙げられる。
【0015】
続いて、これらの株の遺伝子発現プロファイルを調べる。具体的には、遺伝子毎に野生株及び誘導株における発現量の比を調べる。
次に、第一の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを炭素源とする培地で培養したときの遺伝子の誘導株における発現量と親株における発現量との比と、第二の5’−ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを炭素源とする培地で培養したときの前記遺伝子の誘導株における発現量と親株における発現量との比の積をとり、その値の大きい遺伝子を選択する。
【0016】
遺伝子発現プロファイルの方法は特に制限されないが、例えば、DNAアレイ法(H. Tao, C. Bausch, C. Richmond, F. R. Blattner, T. Conway, (1999) Journal of Bacteriology, 181, 6425-6440)が挙げられる。
【0017】
前記の選択された遺伝子から、タンパク質のペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をコードし得る遺伝子をさらに選択することにより、目的遺伝子をさらに絞り込むことができる。すなわち、目的とする5’−ヌクレオチダーゼはペリプラズムに移行して機能していることが推定される。
【0018】
エシェリヒア・コリにおいては、実施例に示すように、上記のようにしてb0220(別名o157)及びyjbPの二種の遺伝子が選択された。これらの遺伝子のうち、yjbPは酸性ホスファターゼ遺伝子(aphA)であった。一方、b0220はykfEという名前が付けられた機能未同定の遺伝子であった。エシェリヒア・コリにおいてこれらの遺伝子の増幅を行ったところ、ykfE遺伝子増幅株では5’−ヌクレオチダーゼ活性の顕著な増加は認められなかったが、aphA遺伝子増幅株では5’−ヌクレオチダーゼ活性の顕著な増加が認められ、aphA遺伝子産物(AphA)が5’−ヌクレオチダーゼ活性を有することが確認された。こうして、ヌクレオシド−5’−リン酸の蓄積に影響を与える5’−ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子として、aphAが見出された。
【0019】
<2>本発明のエシェリヒア属細菌
本発明のエシェリヒア属細菌は、ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能せず、かつ、ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能を有するエシェリヒア属細菌である。エシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ等、エシェリヒア属に属する微生物であれば特に制限されないが、具体的にはナイトハルトらの著書(Neidhardt,F.C. et.al.,Escherichia coli and Salmonella Typhimurium,American Society for Microbiology,Washington D.C.,1208, table 1)に挙げられるものが利用できる。
【0020】
本発明のエシェリヒア属細菌は、例えば、プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア属細菌を親株として、ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能しない変異株又は遺伝子組換え株を育種することによって得ることができる。また、本発明のエシェリヒア属細菌は、ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能しない株を親株として、プリンヌクレオシド生産株の育種と同様の育種を施すことによっても、取得することができる。
【0021】
プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア属細菌としては、イノシン、グアノシン、アデノシン、キサントシン、プリンリボシド、6−メトキシプリンリボシド、2,6−ジアミノプリンリボシド、6−フルオロプリンリボシド、6−チオプリンリボシド、2−アミノ−6−チオプリンリボシド、メルカプトグアノシン等を生産する能力を有するエシェリヒア属細菌が挙げられる。これらのプリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア属細菌を親株として、ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能しない変異株又は遺伝子組換え株を育種することによって、各々のプリンヌクレシドに対応するヌクレオシド−5’−燐酸エステルを生産する能力を有するエシェリヒア属細菌が得られる。
【0022】
本発明にいうプリンヌクレオシド生産能とは、プリンヌクレオシドを培地中に生成蓄積する能力を意味する。さらに、プリンヌクレオシド生産能を有するとは、そのエシェリヒア属に属する微生物が、E. coliの野生株例えばW3110株よりも多量にプリンヌクレオシドを培地中に生産蓄積することを意味する。
【0023】
また、ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能とは、ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを培地中に生成蓄積する能力をいう。さらに、プリンヌクレオシド生産能を有するとは、そのエシェリヒア属に属する微生物が、E. coliの野生株例えばW3110株よりも多量にプリンヌクレオシドを培地中に生産蓄積することを意味し、好ましくは、後記実施例6に記載した条件で培養して100mg/L以上、さらに好ましくは500mg/L以上、もっとも好ましくは1000mg/L以上のヌクレオシド−5’−リン酸エステルを培地中に生産蓄積することを意味する。
【0024】
プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア属細菌については、例えば、WO99/03988号国際公開パンフレットに詳しい。より具体的には、同パンフレット記載のエシェリヒア・コリFADRaddG-8-3::KQ株(purFKQ,purA-,deoD-,purR-,add-,gsk-)が挙げられる。同株は、326位のリジン残基がグルタミン残基に置換され、AMP及びGMPによるフィードバック阻害が解除されたPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする変異型purFを保持し、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子(deoD)、プリン・リプレッサー遺伝子(purR)、アデノシン・デアミナーゼ遺伝子(add)、イノシン−グアノシン・キナーゼ遺伝子(gsk)が破壊されている。同株には、プライベート・ナンバーAJ13334が付与され、1997年6月24日付けで通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305-0046 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、ブタペスト条約に基づいて国際寄託され、受託番号として、FERM BP-5993が付与されている。同株は、イノシン及びグアノシンを生産する能力を有している。また、後記実施例で用いたFADRaddeddyicPpgixapA株に変異型purF遺伝子を保持するプラスミドを導入した株も、イノシン生産菌として好適に用いることができる。また、イノシン生産菌に、IMPデヒドロゲナーゼ及びGMP合成酵素をコードするguaA及びguaB遺伝子を導入することによって、グアノシン生産能を高めることができる。本発明においては、上記菌株に限られず、プリンヌクレオシド生産能を有するものであれば制限なく用いることができる。
【0025】
ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能しない変異株又は遺伝子組換え株は、これらの遺伝子が、それらの遺伝子産物である5’−ヌクレオチダーゼの活性が低下又は消失するか、又はこれらの遺伝子の転写が低下または消失するように、改変することによって得られる。このような微生物は、例えば、遺伝子組換え法を用いた相同組換え法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory press (1972); Matsuyama, S. and Mizushima, S., J. Bacteriol., 162, 1196(1985))により、染色体上のushA遺伝子及びaphA遺伝子を、正常に機能しないushA遺伝子及びaphA遺伝子(以下、「破壊型ushA遺伝子」及び「破壊型aphA遺伝子」ということがある)で置換することによって行うことができる。
【0026】
相同組換えは、染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミド等が菌体内に導入されると、ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし、導入されたプラスミド全体が染色体上に組み込まれる。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと、再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが、この時組換えを起こす位置により破壊された遺伝子の方が染色体上に固定され、元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体上から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより、破壊型ushA遺伝子又は破壊型aphA遺伝子が、が染色体上の正常なushA遺伝子又はaphA遺伝子と置換された菌株を取得することができる。
【0027】
このような相同組換えによる遺伝子破壊技術は既に確立しており、直鎖DNAを用いる方法、温度感受性プラスミドを用いる方法等が利用できる。また、薬剤耐性等のマーカー遺伝子が内部に挿入されたushA遺伝子又はaphA遺伝子を含み、かつ、目的とする微生物細胞内で複製できないプラスミドを用いることによっても、ushA遺伝子及びaphA遺伝子の破壊を行うことができる。すなわち、前記プラスミドで形質転換され、薬剤耐性を獲得した形質転換体は、染色体DNA中にマーカー遺伝子が組み込まれている。このマーカー遺伝子は、その両端のushA遺伝子又はaphA遺伝子配列と染色体上のこれらの遺伝子との相同組換えによって組み込まれる可能性が高いため、効率よく遺伝子破壊株を選択することができる。
【0028】
遺伝子破壊に用いる破壊型ushA遺伝子及び破壊型aphA遺伝子は、具体的には、制限酵素消化及び再結合によるこれらの遺伝子の一定領域の欠失、これらの遺伝子への他のDNA断片(マーカー遺伝子等)の挿入、または部位特異的変異法(Kramer, W. and Frits, H. J., Methods in Enzymology, 154, 350 (1987))や次亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン等の化学薬剤による処理(Shortle, D. and Nathans, D., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 75, 270(1978))によって、ushA遺伝子又はaphA遺伝子のコーディング領域またはプロモーター領域等の塩基配列の中に1つまたは複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を起こさせることにより、コードされるリプレッサーの活性を低下又は消失させるか、又はushA遺伝子又はaphA遺伝子の転写を低下または消失させることにより、取得することができる。これらの態様の中では、制限酵素消化及び再結合によりushA遺伝子又はaphA遺伝子の一定領域を欠失させる方法、又はこれらの遺伝子へ他のDNA断片を挿入する方法が、確実性及び安定性の点から好ましい。ushA遺伝子及びaphA遺伝子の遺伝子破壊の順序は問わず、いずれを先に行ってもよい。
【0029】
ushA遺伝子及びaphA遺伝子は、いずれも配列自体は公知であり、それらの配列に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション法等によって容易に取得することができる。ushA遺伝子は、例えば、エシェリヒア・コリの染色体DNAから、配列番号1及び2に示すプライマーを用いたPCRによって取得することができる。また、aphA遺伝子のN末端領域は配列番号3及び7に示すプライマーを用いて、C末端領域は配列番号4及び8に示すプライマーを用いて、PCRによって取得することができる。
【0030】
目的とする遺伝子が破壊されたことは、サザンブロッティングやPCR法により、染色体上の遺伝子を解析することによって、確認することができる。
【0031】
<3>ヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造法
ushA遺伝子及びaphA遺伝子が正常に機能せず、かつ、ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能を有するエシェリヒア属細菌を培地に培養し、培地中にヌクレオシド−5’−リン酸エステルを生成蓄積せしめ、同培地からヌクレオシド−5’−リン酸エステルを採取することにより、ヌクレオシド−5’−リン酸エステルを製造することができる。
【0032】
培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地でよい。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、ビタミンB1等のビタミン類、アデニンやRNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0033】
培養は好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。なお、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0034】
発酵液からのヌクレオシド−5’−リン酸エステルの採取は通常、イオン交換樹脂法、沈殿法その他の公知の方法を組合せることにより実施できる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0036】
【実施例1】
エシェリヒア・コリのヌクレオチド産生に対するushA破壊の効果
<1> ushA破壊株の構築
エシェリヒア・コリW3110株のゲノムDNAから、ushA遺伝子断片をPCRにより増幅した。ゲノムDNAの抽出は、RNA/DNA maxi Kit(キアゲン社製)を用いて抽出した。PCRは、Pyrobest DNA Polymerase(宝酒造社製)を用い、添付説明書にしたがって、配列番号1及び2に示すプライマーを用いて行った。PCR後の増幅DNA断片は、Wizard PCR Preps(プロメガ社製)を使用して精製した。精製したDNA断片を、制限酵素SphI及びSalI(宝酒造社製)にて切断した後、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿を行った。同様にSphI及びSalIで切断したpHSG397(宝酒造社製)とを、DNA ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)を用いて連結した。この結合反応液にて、JM109コンピテント細胞(宝酒造社製)を形質転換し、クロラムフェニコール(シグマ社製)を30μg/mL含むLB寒天プレート(LB+クロラムフェニコールプレート)に塗布した。37℃で一晩培養後、生育したコロニーを30μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地で37℃にて試験管培養し、自動プラスミド抽出機PI-50(クラボウ社製)を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをpHSGushAとした。
【0037】
次に、pHSGushAに含まれるushA遺伝子から、以下のようにしてHpaI断片を除去した。pHSGushAを制限酵素HpaI(宝酒造社製)にて切断し、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿を行った後、DNA Ligation Kit Ver.2を用いて連結した。この連結反応液にてJM109を形質転換し、出現したコロニーよりプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをSphI及びSalIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行って、ushA遺伝子領域よりHpaI切断断片が欠失した目的断片が挿入されているプラスミドを選択した。
【0038】
得られたプラスミド断片と、WO 99/03988号国際公開パンフレットに記載の温度感受性プラスミドpMAN997をSphI及びSalIで切断した断片とを連結し、連結反応液にてJM109を形質転換し、アンピシリン(明治製菓社製)を50 μg/mL含むLB寒天プレート(LB+アンピシリンプレート)にて、30℃でコロニーを選択した。コロニーを、50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて、30℃で試験管培養し、プラスミドを抽出した。SphI及びSalIで切断して目的長断片が得られるプラスミドを、ushA破壊用プラスミドpMANΔushAとした。尚、前記pMAN997は、pMAN031(J. Bacteriol., 162, 1196 (1985))とpUC19(宝酒造社製)のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである。
【0039】
pMANΔushAでW3110株を形質転換し、LB+アンピシリンプレートで30℃でコロニーを選択した。選択したクローンを30℃で一晩液体培養した後、培養液を10-3希釈してLB+アンピシリンプレートにまき、42℃でコロニーを選択した。選択したクローンをLB+アンピシリンプレートに塗り広げて30℃で培養した後、プレートの1/8の菌体をLB培地 2mLに懸濁し、42℃で4〜5時間振とう培養した。10-5希釈した菌体をLBプレートにまき、得られたコロニーのうち数百コロニーをLBプレートとLB+アンピシリンプレートに植菌し、生育を確認することで、アンピシリン感受性を選択した。アンピシリン感受性株の数株についてコロニーPCRを行い、ushA遺伝子の欠失を確認した。こうしてE. coli W3110由来のushA破壊株WΔushAを得た。
【0040】
<2>5’−ヌクレオチダーゼの測定及びヌクレオチド資化培養
W3110及びWΔushAをLB培地で37℃で培養し、増殖期の菌体より、Edwardsらの方法(C. J. Edwards, D. J. Innes, D. M. Burns, I. R. Beacham, (1993) FEMS Microbiology Letters, 114, 293-298)に従い、ペリプラズムを抽出した。同文献記載の手法を用い、ペリプラズムタンパク質のIMP、GMP、AMPに対する5’−ヌクレオチダーゼ活性を測定した。1分間に1マイクロモルのリン酸を生じる活性を1ユニットとした。その結果、表1に示すように、WΔushAのペリプラズムの5’−ヌクレオチダーゼ活性は、W3110に比べて大きく低下していた。
【0041】
【表1】
Figure 0004696404
【0042】
WΔushAがヌクレオチド分解能を完全に失っているかを確認するため、ヌクレオチドを単独の炭素源とする最少培地での生育を調べた。W3110及びWΔushAをLB培地で37℃一晩培養した後、生理食塩水にて洗浄し、IMPあるいはGMPをそれぞれ5.8 g/L、6.7 g/L含むM9最少培地(J. H. Miller, "A SHORT COURSE IN BACTERIAL GENETICS" Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1992)50 mLに添加し、37℃で培養を行った。適当時間後に培養液を回収し、分光光度計DU640(ベックマン社製)で600nmにおける吸光度を測定した。WΔushAはIMP、GMPを炭素源としたM9培地で生育が悪化するものの、生育は可能であった。このことから、ushAのみの破壊によってヌクレオチド分解能が完全に失われていないことが示唆された。また、生育の立ち上がりが遅くなることより、UshAが機能しないときに誘導される他の5’−ヌクレオチダーゼが存在することが予想された。
【0043】
【実施例2】
新規5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子の探索
実施例1で予想された5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子は、IMPまたはGMPを炭素源とするM9培地で培養した場合、W3110と比較してWΔushAで強く発現していると考えられた。WΔushAにおいて機能していると考えられる5’−ヌクレオチダーゼを同定するため、IMPまたはGMPを炭素源とするM9培地で培養したW3110及びWΔushAの遺伝子発現プロファイルを比較した。
【0044】
遺伝子発現プロファイルの比較には、DNAアレイ法(H. Tao, C. Bausch, C. Richmond, F. R. Blattner, T. Conway, (1999) Journal of Bacteriology, 181, 6425-6440)を用いた。Panorama E. coli Gene Arrays(シグマジェノシス社製)は、E. coliの4290遺伝子のDNA増幅断片がスポットされたナイロンメンブレン製のDNAアレイであり、これを利用することにより、E. coli全遺伝子のmRNA発現量を一度に網羅的に解析することが可能である。
【0045】
IMPまたはGMPを単独の炭素源とするM9培地でW3110及びWΔushAを培養し、増殖期の菌体より、RNeasy mini Kit(キアゲン社製)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNA溶液に、終濃度10 mMのMgCl2及び0.25 U/mlのDNaseI(ベーリンガーマンハイム)を添加し、混入ゲノムDNAを分解した後、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿により、全RNAを精製した。AMV逆転写酵素(プロメガ社製)、dATP、dGTP、dTTP、[α-33P]-dCTP(以上アマシャムファルマシア社製)、及びランダムプライマーpd(N)6(アマシャムファルマシア社製)を使用し、Panorama E. coli Gene Arraysの添付説明書にしたがって逆転写反応を行い、cDNAプローブを調製した。得られたcDNAプローブは、ProbeQuant(アマシャムファルマシア社製)を用いて精製した。
上記で得られたcDNAプローブを用いて、Panorama E. coli Gene Arraysの添付説明書にしたがってハイブリダイゼーション、洗浄を行い、メンブレンをハイブリダイゼーションバッグに封入した後、イメージングプレート(富士フィルム社製)に48時間接触させ、FLA3000G(富士フィルム社製)にて画像の取り込みを行った。画像解析ソフトAIS(イメージングリサーチ社製)を用いて各スポット濃度を定量し、同一メンブレン上に存在する全スポット濃度の合計に占める各スポット濃度の割合を、メンブレンごとに示した。この値を個々の遺伝子について比較することにより、遺伝子発現の増減を調べた。
【0046】
こうして、IMPを炭素源とするM9培地での培養時にW3110と比較してWΔushAでの発現量が多い遺伝子、GMPを炭素源とするM9培地での培養時にW3110と比較してWΔushAでの発現量が多い遺伝子を、それぞれ選択した。しかしながら、培養時の炭素源の変化は多くの遺伝子の発現変動を引き起こすため、選択される遺伝子の数は多く、個々の機能を確かめることは困難であった。そこで、候補遺伝子の絞り込みの手段として、以下のようなスクリーニング方法を採用した。
【0047】
目的とする5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子は、IMP、GMPのいずれを炭素源とした培養でも発現量が増加していると考えられることから、IMPを炭素源とする培養時のWΔushAにおける発現量とW3110における発現量の比(WΔushA/W3110)と、GMPを炭素源とする培養時の発現比(WΔushA/W3110)の積をとり、その値の大きい遺伝子を検索した。前記値の上位50個を表2(1〜25位)及び表3(26〜50位)に示した。その中で、5’−ヌクレオチダーゼ活性を持つ可能性のある候補として、機能未知遺伝子に注目した。WΔushAは、細胞外のヌクレオチドを分解して生育可能であることから、目的の5’−ヌクレオチダーゼはペリプラズムに移行して機能していることが推定される。そこで、これらの機能未知遺伝子の中から、タンパク質がペリプラズムに移行する際に必要であるシグナル配列を有するもののみを選択した。これらのスクリーニングにより、候補遺伝子をb0220(別名o157)及びyjbPの二種に絞り込むことが可能であった。
【0048】
これらの遺伝子について調査したところ、b0220はykfEという名前が付けられた機能未同定の遺伝子として、yjbPは酸性ホスファターゼ遺伝子(aphA)として、報告されているものであった(M. C. Thaller, S. Schippa, A. Bonci, S. Cresti, G. M. Rossolini, (1997) FEMS Microbilogy Letters, 146, 191-198)。
【0049】
【表2】
Figure 0004696404
【0050】
【表3】
Figure 0004696404
【0051】
【実施例3】
遺伝子増幅による候補遺伝子の評価
実施例2にて得られた候補遺伝子ykfE及びaphAの遺伝子増幅株を作製し、5’−ヌクレオチダーゼ活性への影響を調べた。配列番号3及び4に示すプライマーを用いてykfEの遺伝子断片を、配列番号5及び6に示すプライマーを用いてaphAの遺伝子断片を、それぞれ増幅した。ykfE断片は、ベクターpSTV28(宝酒造社製)の制限酵素SalI及びPstI(宝酒造社製)切断部位にクローニングし、pSTVykfEを得た。また、aphA断片は、pSTV28のSalI及びSphI切断部位にクローニングし、pSTVaphAを得た。このようにして作製した各プラスミドでWΔushAを形質転換し、クロラムフェニコールを30μg/mL含むLB培地で37℃で培養した増殖期の菌体のペリプラズムにおけるIMP、GMP、AMPを基質とする5’−ヌクレオチダーゼ活性を測定した。その結果、表4に示すように、aphA遺伝子増幅により、ベクターのみを保持株と比較して、5’−ヌクレオチダーゼ活性の顕著な増加が認められ、AphAタンパク質が同活性を有することが確認された。一方、ykfE増幅株は同活性の大きな増加は認められず、5’−ヌクレオチダーゼ活性を保持しないと判断した。
【0052】
【表4】
Figure 0004696404
【0053】
【実施例4】
WΔushAへのaphA破壊付与
WΔushA株について、5’−ヌクレオチダーゼ活性を有する遺伝子であると予想されたaphAの遺伝子破壊を行った。配列番号3及び7に示すプライマーを用いてaphAのN末端領域の断片を、配列番号4及び8に示すプライマーを用いてC末端領域の断片を、それぞれPCRにより増幅し、Wizard PCR Prepsを用いて精製した。それぞれの増幅反応液1μLを混合して、PCR反応液に加え、配列番号3及び4をプライマーとしてクロスオーバーPCR(A. J. Link, D. Phillips, G. M. Church (1997) Journal of Bacteriology, 179, 6228-6237)を行い、aphAの中央部分約300塩基を欠失したaphA遺伝子断片を取得した。これを温度感受性プラスミドpMAN997のSalI、SphI切断部位に挿入し、遺伝子破壊用プラスミドpMANΔaphAを得た。この遺伝子破壊用プラスミドを用いて、W3110、WΔushAのそれぞれのaphAを破壊し、aphA欠損株(WΔaphA)、ushA, aphA二重欠損株(WΔushAΔaphA)を得た。
【0054】
【実施例5】
WΔushAΔaphAの5’−ヌクレオチダーゼ活性測定及びヌクレオチド資化培養
W3110、WΔushA、WΔaphA及びWΔushAΔaphAを、LB培地にて37℃で培養し、増殖期の菌体ペリプラズムにおける5’−ヌクレオチダーゼ活性を測定した。結果を表5に示す。WΔaphAの活性は、W3110と比較して半分程度に低下したものの、依然として強く残存し、ushAが寄与していると考えられた。一方、二重欠損株であるWΔushAΔaphAのペリプラズムの5’−ヌクレオチダーゼ活性は、WΔushAよりもさらに低下し、ほぼ消失していた。
【0055】
【表5】
Figure 0004696404
【0056】
さらに、各菌株のヌクレオチド分解能を検討するため、これらの株をIMP又はGMPを炭素とするM9培地でフラスコ培養した。いずれの炭素源においても、W3110、WΔaphA、WΔushAの順に生育が認められたものの、WΔushAΔaphAは培養300時間を経過しても生育が認められず、IMPあるいはGMPを単独の炭素源とするM9培地で生育できないことが明らかとなった。こうして、E. coli W3110において、ushAとaphAの二重欠損により、菌体外ヌクレオチドを分解する能力を欠失させることに成功した。
【0057】
【実施例6】
イノシン生産菌におけるushA及びaphAの遺伝子破壊
IMPの直接発酵の可能性を検討するため、エシェリヒア・コリのイノシン生産菌のushA及びaphAの遺伝子破壊を行った。イノシン生産菌として、WO99/03988号国際公開パンフレット記載のFADRaddeddyicPpgixapA(以下「I」と表記する)を利用した。同パンフレットに記載のプラスミドpKFpurFKQが有する変異型purF遺伝子断片をBamHI及びHindIIIで切断した後、精製し、同じ酵素で切断したpMW218(日本ジーン社製)に連結した。得られたプラスミドpMWpurFKQをI株に導入した。得られた菌株I/pMWpurFKQは、培養液中にイノシンを約2〜3g/L蓄積する能力を持つ菌株となった。
【0058】
前記菌株FADRaddeddyicPpgixapAは、PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子(deoD)、プリン・リプレッサー遺伝子(purR)、アデノシン・デアミナーゼ遺伝子(add)、6−フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ遺伝子(edd)、アデニン・デアミナーゼ遺伝子(yicP)、フォスフォグルコース・イソメラーゼ遺伝子(pgi)、キサントシン・フォスフォリラーゼ遺伝子(xapA)が破壊された株である。また、pKFpurFKQは、326位のリジン残基がグルタミン残基に置換され、AMP及びGMPによるフィードバック阻害が解除されたPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする変異型purFを保持している(WO99/03988号国際公開パンフレット参照)。
【0059】
前記ushA遺伝子破壊用プラスミドpMANΔushA、及びaphA遺伝子破壊用プラスミドpMANΔaphAを用いて、ushAの単独欠損株(IΔushA/pMWpurFKQ)、aphAの単独欠損株(IΔaphA/pMWpurFKQ)、及びushA、aphA二重欠損株(IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ)を取得した。
【0060】
上記各菌株について、IMP生産能の評価を行った。以下に、IMP生産能の評価のための培地および培養方法ならびに分析方法を示す。
【0061】
〔基本培地:MS培地〕
最終濃度
グルコース 40 g/L(別殺菌)
(NH4)2SO4 16 g/L
KH2PO4 1 g/L
MgSO4・7H2O 1 g/L
FeSO4・7H2O 0.01 g/L
MnSO4・4H2O 0.01 g/L
イーストエキストラクト 8 g/L
CaCO3 30 g/L(別殺菌)
【0062】
Figure 0004696404
【0063】
〔分析方法〕
培養液500μlを経時的にサンプリングし、15,000rpmで、5分間遠心し、その上清液をH2Oにて4倍希釈後、HPLC分析する。
【0064】
Figure 0004696404
【0065】
結果を表6に示す。表6には、二連で行った結果を示した。IΔushAΔaphAが最大約1.0 g/LのIMPを培養液中に蓄積することが示された。
【0066】
【表6】
Figure 0004696404
【0067】
【実施例7】
ushA、aphA二重欠損株によるGMPの生産
本発明によるGMP生産の可能性を検討するため、実施例6で取得したushA、aphA二重欠損株であるIΔushAΔaphA/pMWpurFKQに、グアノシン生産能を付与することとした。グアノシン生産能の付与又は増強は、IMPからGMPへの反応を触媒する酵素遺伝子を増強することにより行った。IMPからXMPへの反応はguaAにコードされるIMPデヒドロゲナーゼ、XMPからGMPはguaBにコードされるGMP合成酵素によって行われるが、両遺伝子はエシェリシア・コリにおいてはオペロン(guaBA)を構成していることが知られている。そこで、配列番号9及び配列番号10に示したプライマーを用いてPCRを行い、エシェリヒア・コリのguaBAオペロンを増幅した。増幅断片を精製した後、両端に形成された制限酵素部位をSacI及びKpnIで切断した。切断断片を、同じくSacI及びKpnIで切断したpSTV28と連結し、guaBA遺伝子が組み込まれたプラスミドpSTVguaBAを選択した。このプラスミドは、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQが保持するプラスミドpMWpurFKQと共存できる。
前記pSTVguaBAを、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ株に導入し、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTVguaBA株を得た。また、対照として、ベクターpSTV28を導入したIΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTV28株を作製した。
【0068】
IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTVguaBA株、及び、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTV28株について、実施例6と同様の培養方法及び分析方法によって、培養液中に蓄積するイノシン、IMP、グアノシン、GMPを定量した。その結果を表7に示した。対照としたIΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTV28株はpSTV28を導入した影響で培養時間が遅延し、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTVguaBA株とは異なる結果となった。グアノシンについては、他のピークと重なったため、定量できなかった。一方、IΔushAΔaphA/pMWpurFKQ/pSTVguaBA株においては、guaBAの導入によって約0.1g/LのGMPを培養液中に蓄積することが示された。
【表7】
Figure 0004696404
【0069】
【発明の効果】
本発明により、エシェリヒア属細菌を用いて、IMP及びGMP等のヌクレオシド−5’−リン酸エステルを直接発酵により製造することができる。
【0070】
【配列表】
Figure 0004696404
【0071】
Figure 0004696404
【0072】
Figure 0004696404
【0073】
Figure 0004696404
【0074】
Figure 0004696404
【0075】
Figure 0004696404
【0076】
Figure 0004696404
【0077】
Figure 0004696404
【0078】
Figure 0004696404
【0079】
Figure 0004696404
【0080】
Figure 0004696404

Claims (1)

  1. ヌクレオシド−5’−リン酸エステル生産能を有するエシェリヒア属細菌を培地に培養し、培地中にヌクレオシド−5’−リン酸エステルを生成蓄積せしめ、同培地からヌクレオシド−5’−リン酸エステルを採取することを特徴とするヌクレオシド−5’−リン酸エステルの製造法であって、
    前記エシェリヒア属細菌が、ushA遺伝子及びaphA遺伝子に変異が導入されたことにより、又は該遺伝子が破壊されたことにより、該遺伝子にコードされる5’ヌクレオチダーゼの活性が消失するか、又は該遺伝子の転写が消失するように改変された細菌であり、且つ
    前記ヌクレオシド−5’−リン酸エステルが、5’−イノシン酸又は5’−グアニル酸である、方法。
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