JP4695221B1 - 平鋼の制御冷却方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 平鋼の高強度化のため、熱間圧延後に制御冷却を適用する。
【解決手段】 必要且つ安定した冷却能を得るため膜沸騰冷却を適用する。平鋼固有の問題である両側部と中央部の冷却速度の差異に伴う金属組織の不均一性を解決するため、1次冷却として圧延直後中央部のみスプレイにより冷却し両側部と温度差を発生させる。2次冷却の沸騰冷却において該温度差を縮小し、所望変態温度においてほぼ均等に誘導する。3次冷却として温水より引き上げ空冷し、所望のパーライト又はベイナイトを誘導する。2次冷却における異常や不均等な冷却を防止するため長辺面を垂直にして並進・斜行させる。
【選択図】 図4

Description

本発明は平鋼の熱間圧延における制御冷却方法に関している。
平鋼は断面形状が長方形で、通常低炭素鋼片を素材として熱間において厚さ4〜50mm、幅40〜500mmに圧延された条鋼の一種であり、機械的性質は降伏強度が300〜400MPaの典型的な普通鋼である。機械構造用、土木・建築用、造船用等多様な用途に供されている。特殊鋼では板ばね用としても製造される。
近年、厚板においては制御圧延技術の新たな進歩(例:TRIP鋼)により高強度・高靱性の製品が製造されるようになり、橋梁・造船等への応用が普及しつつある。それに伴い厚板の補助部材として使用される平鋼にも高強度・高靱性化が要望されている。
厚板の制御圧延は、1)所望熱処理に適した鋼種の選定、2)結晶粒微細化と望ましい析出物の誘導に適した圧延条件及び、3)強度・延靭性に直結する金属組織を最適状態に誘導する圧延後の熱処理(制御冷却と称され冷却・保持・再加熱等を含む)の3要素から成る。特に熱処理工程がプロセス上、設備上最も重要であり、大仕掛けな装備により精密な温度制御がなされている。制御冷却だけで所望品質が得られるなら尚都合が良い。
他方平鋼の圧延では、異形平鋼を含めて寸法の多様性と寸法精度のみが重視され、金属組織については圧延後自然に得られる焼準組織以外は何ら積極的な調整はなされて来なかった。具体的には圧延後所定長さに切断された平鋼は、一本ずつ圧延方向と直角方向に冷却台上に移送して長辺面を水平ないし多少傾斜させて並列・並進させ、該台上で空冷する。
冷却台の構造はウォーキング・ビーム式やフラットコンベア式が多用されている。冷却により発生する反りを防止するため冷却台上で平鋼を表裏反転させることもある。
厚板の制御冷却では生産能率が大きくても板断面積が充分に大きいので走行速度はそれほど大きくならない。圧延と直列・直結していると走行軌跡も安定している。従って走行中に正確に冷却することは必ずしも困難ではない。事実、一定速度で直進する厚板に対してスプレイ冷却を適用し、長さ方向、上下面及び幅方向とも均等冷却となるよう種々工夫されている。板エッジ部の不均質部は切除されるか冷却緩和処置や焼戻し処理等がなされ不均質を軽減し、全体への影響は少なくなっている。
例えば特許文献1には、幅両端部を遮断したジェット水冷により全幅ほぼ同一温度に誘導する方法が開示されている。
平鋼では断面積が小さいので圧延速度が大きくなり、直列・直結して走行中に冷却しようとすると、冷却帯は異常に長くなる。急冷ではスペース上の問題は無いが、ベイナイトを誘導するような中間冷却速度に対してはライン長が過大になり実施不能となる。従って平鋼を制御冷却する場合、従来通り冷却台上において並列・並進する途上で処理することを前提としなければならない。
平鋼を均等に冷却する際に注意すべき点は、長方形断面において、側部冷却面は上下面と側面の3面から成り、中央部のそれは2面である。従って側部の冷却速度は中央部の約1.5倍になることである。並列・並進する平鋼に均等な冷却を与え、しかも上記側部と中央部の差異を解決することは構造上至難である。
平鋼と同様に並列・並進させる棒鋼では、2,3の制御冷却方法が提示されている。
特許文献2には、圧延直後の並進する棒列の強制冷却に際して、金属組織の均一化と曲がり防止のため棒鋼を棒軸回りに螺旋自転させつつミスト・スプレイ冷却を施す方法が開示されている。平鋼の制御冷却を開発するに当たり大いに参考になるが、平鋼の側部と中央部の差異の解消にはヒントが掴めない。
特許文献3には、前記方法において適用する冷却方法をスプレイから特殊な構造を持つ流動床に替えて冷却能を数倍に強化し、多様な熱処理を可能とし、且つ合金の節減を図ることが開示されている。やはり棒鋼の軸方向、接線方向(円周方向)ともに均一冷却を施すためには棒の螺旋自転は欠かせない。上記同様に平鋼断面内差異の問題の解決策は掴めない。
特許文献4には、コイルに形成される線材に対して制御冷却する方法が開示されている。
圧延後の線材は巻取機によりリングに形成されて走行するコンベア上に落下し、水平平行リング列となって冷媒中を浸漬走行する。冷媒は沸騰水であり熱伝達率αの値は230〜300kcal/m2h℃で、空冷の数倍の冷却能を持ち、各種の高強度材が生産されている。
特許文献5には前記方法・設備を使用して高強度せん断補強筋を製造する方法が開示されている。平鋼の高強度化を指向する場合、本制御冷却方法は大いに参考になる。しかし長方形断面に起因する不均等冷却に対してその問題解決の指針は得られない。
異形断面の鋼材の制御冷却の例として軌条の高強度化がある。金属組織的な問題は研究され、解決され、開示されているが、断面内の均等冷却を得る具体的方法については全く開示されていない。
特許文献6には、平鋼の熱延後の冷却に際して、支持部材との接触による局所冷却を防止するため、製品を絶えず変位させることが開示されている。これは平鋼の加速冷却を検討する際参考になる。
特許文献7には、スラブの冷却床を縮小する目的で、冷却を早めるようスラブを垂直状態(短辺面を水平)にして水槽中に浸漬する方法が開示されている。これも平鋼の加速冷却を検討する際参考になる。
特許文献8には、厚板の冷却において局所接触冷却によるムラを防止するため板を垂直状態で空冷する方法が開示されている。これも平鋼の加速冷却を検討する際参考になる。
公開特許公報平6−184623 公開特許公報平1−234527 特許第4106412号 公開特許公報平3−62771 公開特許公報2004−27286 公開特許公報昭62−263926 公開特許公報昭52−124663 公開特許公報昭42−20608
以上述べたように、熱間圧延された平鋼に制御冷却を適用する際、厚板の制御冷却と同様に直進走行中に必要な冷却を施すと圧延速度が大きいため必要冷却帯の長さが過大になって実施は無理となる。従って並列・並進する平鋼を対象としなければならない。その際側部と中央部の冷却速度が異なると言う平鋼固有の問題が障壁となる。棒線では種々の制御冷却が実用され参考にはなるが、上記形状起因の不均等冷却に対しての指針は得られない。平鋼では未だ制御冷却の成功例が無いのはこのような困難性が一理由である。
本願発明は、熱間圧延後冷却台上で並列・並進する平鋼の列に対して全長に渡り且つ断面内で均一性の大きい強制冷却方法を提供することを課題とし、該冷却方法を適用して所望の熱処理を容易に行うことを目的とする。
上記課題の解決に当たり、まず第1要素として、線材の制御冷却において高強度化に実績のある沸騰冷却を適用する。第2要素として平鋼の表裏の冷却差異を無くするため温水中において長辺面を垂直状態に維持して冷却する。第3要素として、変態時には断面内の温度分布を概ね均等に誘導するため仕上圧延直後の1次冷却では長辺面の中央部を優先的に冷却して両側部との間に温度差を生じさせ、後続する沸騰冷却において両部位間の温度差の平準化を図る。
第1の発明は、熱間仕上圧延後の平鋼を制御冷却する方法において、1次冷却として圧延直後の直進する平鋼にスプレイ冷却を施すに当たり長辺面中央部の冷却を両側部よりも強くして両者に温度差を発生させ、次いで所定長さに切断したのち圧延直進パスから横方向に順次移送し、2次冷却として1次冷却された平鋼の長辺面を垂直にして温水中に浸漬して並列・並進させつつ所定時間だけ膜沸騰冷却を施して前記温度差を平準化し、その後3次冷却として該平鋼を温水中より引き上げて空冷処理することを特徴とする平鋼の制御冷却方法である。
ここで側部とは平鋼の幅端面から板厚と同程度の長さのほぼ正方形部分(図3−31)と定義し、中央部(図3−32)とは両側部の間の部分と定義する。
第2の発明は、平準化したときの温度が600℃〜400℃の間の所望温度になるよう1次冷却の強さと2次冷却の時間を設定することを特徴とする第1発明に記載した平鋼の制御冷却方法である。
第3の発明は、温水中で並進させる方法が、浸漬された平鋼を1本毎に仕切り且つ該平鋼のタオレを防止する仕切り爪を多数持つクロス・コンベアにより該平鋼を並列させつつ平鋼軸と直交方向に移動させると共に該平鋼を積載するローラーコンベアにより該平鋼を軸方向に移動させることより並進・斜行させることを特徴とする第1発明又は第2発明に記載した平鋼の制御冷却方法である。
平鋼の制御冷却は一部を除いて従来必要性が求められなかったこと及び均質熱処理が困難であったことからほとんどなされていない。本発明の方法によると、熱間圧延後温水中に浸漬された平鋼は空冷の約4倍、衝風冷却の約2倍の冷却能(=熱伝達率×鋼材・冷媒間温度差)で冷却することが可能になり、鋼種と鋼材厚さと冷却条件の適切な組合せにより種々の熱処理を適用することが容易になる。
長方形断面の鋼材の特徴的問題として長辺面中央部は両側部よりも常に冷却が遅れ均質な金属組織が得られにくい。本願発明では1次冷却として平鋼中央部を両側部よりも強く冷却して両者に温度差を発生させ、2次冷却として前記両者をほぼ同等の冷却能で冷却するので変態時には該温度差は平準化され金属組織の均一性が改善される。
冷却の不均一は平鋼の曲がりや反りを発生させて、正常な処理から逸脱するのでさらに温度と組織の不均一を増幅する。本発明では長辺面を垂直状態で沸騰水中で冷却されるので表裏の冷却差異がほとんど無く反りが発生しにくい。また鋼材と支持構造物との固定的接触は局所過冷を誘発する。本発明ではコンベア上で常に移動するので局所過冷は発生しにくい。
本願発明を実施する設備の例の全体配置図(平面図)を示す。 本願発明の2次冷却を実施する設備の構造の要部を示し、Aは条軸方向に見 た側面図、Bは平面図、Cは移送方向に見た側面図である。 本願発明の冷却方法の特徴を説明する図であり、Aは2次冷却の膜沸騰の状 態を示し、Bは1次冷却におけるスプレイ分布を示す概略図である。 実施例に示した高強度ベイナイト鋼を製造する冷却線と当該鋼種のTTT線 図を重ねて示す。
以下本発明を図面に従い説明する。図1において、仕上圧延機0を通過した赤熱の平鋼1は、直ちに1次冷却装置2を通過しつつ全長均一に所定の冷却を受ける。1次冷却では長さ方向には一様であるが幅方向に関しては、中央部をスプレイにより強力に冷却し両側部は適当に弱くし、中央部と両側部に所定の温度差を発生させる。
次いで該平鋼1は切断機3によって切断され、搬入ローラーテーブル4上を走行し、該テーブル4と平行に隣接した浸漬冷却槽5の横で停止し、直角方向に押し出され、該浸漬冷却槽5に内設された並列複数の斜行コンベア(図示せず)の上に落下させて移載され、後続の平鋼とともに平鋼列6を形成しつつ、並進・斜行する。
該冷却槽5には温水が満たされており該平鋼1は移載と同時に膜沸騰冷却により2次の冷却を受ける。2次冷却では全長同時に浸漬され同時進行するが幅方向に関しては、中央部の冷却速度に対して両側部は速く冷却する。その結果1次冷却による両者の温度差は縮小し、平準化し、逆転する。所定の冷却後、該平鋼1は並列複数のロボットアーム7に把持されて引き上げられ、空冷冷却台8上のコンベア9の上に移載され、以後3次冷却となる空冷が施され、制御冷却平鋼10となる。その後搬出ローラーテーブル11上を走行して集束・結束工程に送られる。
図2に従い2次冷却を行う設備例の構造を説明する。該設備は、浸漬冷却槽5と、平鋼1を仕切るとともに長辺面を垂直に支える仕切り爪23を持つクロス・コンベア21と該平鋼1を上置して軸方向に水平走行させるローラーコンベア22とから構成される斜行コンベア20と、所定温度に維持された温水24とから成る。クロスコンベア21は平鋼軸と直交して水平に走行し、ローラーコンベア22と同時に駆動すると、平鋼列6は並進・斜行する。
平鋼を膜沸騰冷却させる際の注意点として、平鋼1を浸漬槽5内の斜行コンベア20に移載するとき、該平鋼1の長辺面を垂直状態に保持することが必要である。理由は水平だと沸騰冷却において下側長辺面では気泡の分離が遅れ、表裏の冷却差異が生じ反りが起こり易くなるためである。傾斜でもその傾向は避けられず走行上のトラブルが生ずる。対流伝熱では上面と下面との差異はよく知られた現象である。
第2の注意点として、赤熱の平鋼は支持構造物と固定的に接触させない。常に移動させる。固定的接触では局所過冷が発生し、当該部分で膜沸騰から核沸騰への移行が早く起こり易くなる。並進と軸方向移動を組み合わせたものが並進・斜行となる。ローラーコンベア22の駆動は平鋼1とローラー22や仕切り爪23との固定的接触を防ぎ、局所過冷を抑止し、金属組織の均一性を助ける。
クロス・コンベア21の速度は当然搬入してくる平鋼1のピッチに同期させる。仕切り爪23の構造は、チェインで構成されるコンベア20に直立した二つの爪の間隙をもって1本の平鋼を挟み、爪の前面は直立させ、先行する爪の背面に設けられた可とう性の押さえピン25により平鋼長辺面を軽く抑えて該平鋼1の直立を支える。このようにして異なる厚さにも対応可能となる。
次ぎに冷却条件と熱処理の関係について説明する。
温水は95℃以上に維持する。その理由は膜沸騰が安定するからである。温水中に浸漬された平鋼は膜沸騰冷却を受ける。該冷却は500℃以上においては極めて安定した伝熱を示し、且つ適度の冷却能(平均熱伝達率α≒240kcal/m2h℃)を持つ。中央部の冷却速度Rcは厚さt(m)に対応して次式より算出される。
Rc=2×α×(平鋼温度−温水温度)/比熱/密度/厚さ
≒0.067/t (℃/s) −−−(1)
両側部の冷却速度Rsは、垂直面と水平面の伝熱の差が絡み(2)式となる。
Rs≒1.4Rc −−−−−−−−−(2)
沸騰冷却の進行により平鋼幅方向中央部と両側部の温度差が縮まり平準化され、原則として平準化状態で引き上げて3次冷却として空冷処理される。
鋼種に依存するS曲線上に冷却線を描くことにより得られる金属組織を予測することができる。例えば厚さ10mmに対して0.2%(質量%であり、以下同様)C−1.0%Mn−1.0%Crの鋼種の場合、平準化温度を約500℃に誘導し以後空冷すると、フェライト変態、パーライト変態を概ね抑制し、ベイナイトを得ることが容易になる。
鋼種を適切に選定し、平準化温度を約600℃とすればパーライトに変態させることができる。平準化温度約500℃に達して直ちに引き上げ空冷するとマルテンサイトの発生を抑制しつつ主組織をベイナイトに誘導することができる。平準化温度をさらに低下させるとマルテンサイト混入の高強度ベイナイトが得られる。
当該プロセスにおける空冷は通常の圧延後の放冷と作業は類似するが意味は異なる。
2次冷却に続いて変態の一部を構成する。伝熱性は小さい(α=50〜80)ので精密な制御はあえて必要としないが、ベイナイトに誘導する場合は変態時間が長いので3次冷却としての必要充分な保持時間は設定しておく。
平鋼の冷却における固有の問題について説明する。既述したように、断面両側部の冷却速度はそれらの中間部の約1.5倍になる。これは制御冷却の実施にとっては極めて都合が悪い。
平鋼の沸騰冷却を観察すると、図3Aに示すように約1mm厚の沸騰膜34が揺れ動きながら膜の外面から気泡35が穏やかに形成され上昇する。長辺面は垂直であるから上昇流の影響を受けるが短辺面では気泡35の離脱が多少緩やかである。水平状態の短辺面は垂直の長辺面よりも伝熱は小さくなり、両側部の冷却は少し緩和され都合良い。温水33中で平鋼1を垂直に立てる理由の一つとなっている。しかし1.5倍の差を解消することはとてもできない。
均一な熱処理のためには温度履歴、温度分布を一様にする必要があり、そのためには中央部の冷却強さは両側部の約1.5倍にする必要が生ずる。本願発明では1次冷却と2次冷却の組合せにより擬似的な均一性を誘導する。
図3Bに示すように、1次冷却においてスプレイ30を適用する。両側部は原則的に冷却しないが強冷即ち水量が大きい場合にはそれは困難であり、従って両部位で大きな差が付けられる装置構造であればよく、2次冷却の直前では両部位で温度差を生じさせる。
2次冷却は沸騰冷却であるから全面概ね同一の熱伝達率の冷却を受ける。その結果、既述の表面積比の関係で両側部は中央部よりも約1.5倍の速度で冷却される。より正確には、垂直面(長辺面)の熱伝達率は水平面(短辺面)のそれよりも少し大きいので、側部の冷却速度は実測で中央部の約1.4倍となった。両部位間の温度差は徐々に減少し、ある段階で断面内ほぼ均等に、その後は逆転する。
断面内温度は変態開始時前後でほぼ均等になっていることが望ましい。従って目標変態温度に対応して1次冷却における温度差を設定する。
ここで平準化温度を検討する。単純冷却なら冷却速度の異なる両部位は温水中で一瞬だけ同一温度になるが、実際には変態発熱が絡み多少複雑になる。また平準化温度の許容幅を考慮すると平準化はある時間幅を持つ。どの段階で3次冷却に移行させるかは微妙な影響を持つ。
制御冷却に際して強靭なパーライトに変態させるなら、まず仕上げ圧延温度と1次冷却の強さを適切に設定して平準化温度を550〜600℃に誘導する。次いで該平準化時期の後半で3次冷却に誘導する。注意して観察すると変態による昇温が確認できる。その時期では変態量は過半となっており、そこで2次冷却を打ち切り、以後3次冷却として温水槽から引き上げ、空冷台上で空冷して残部も変態させる。断面内の均質性とパーライト・ラメラの微細化による強度の上昇が得られる。浸漬時間が過剰になると、特に両側部の冷却が進み、焼入性が大きい鋼種ではパーライト変態が完了するまでに膜沸騰が核沸騰に移行して冷却速度が急増し、異常組織の混入を誘発する。
ベイナイト変態を誘導するなら平準化温度を400〜550℃とする。当然、該温度に冷却されるまでにフェライト変態やパーライト変態が概ね発生しない焼入性(鋼種選定)が前提条件となる。目標温度に到達したら直ちに温水槽から引き上げ、空冷する。空冷中に変態が開始、進行、終了する。空冷では緩慢な冷却故に中央部と両側部の金属組織の差異は大きくならない。
1次冷却の強さはスプレイ水量密度(kg/m2h)に依存し、熱伝達率の値は300〜2000(kcal/m2h℃)とすることができる。
1次冷却において側部と中央部の温度差は100℃前後が無難である。例として10mm厚の平鋼において圧延直後の温度を900℃とし、スプレイ冷却により中央部を690℃、側部は790℃とし、沸騰冷却における側部と中央部の速度差を1.4倍とすると、35秒で平準化され約460℃になる。
1次冷却において、スプレイ冷却を受ける平鋼の姿勢は水平でも垂直でも良い。作業上それぞれ一長一短がある。
2次冷却において膜沸騰冷却と特定した理由は、核沸騰に移行する際、該沸騰の起点は不均等に分布し、その上移行後の伝熱性は数倍に増幅するので局部過冷を誘発する。移行段階を半端に適用すると均質な熱処理は困難になるからである。
2段の冷却によっても中央部32と両側部31は冷却条件は同一にはならないが、かなり接近させることができ金属組織の均一性は改善される。なお異常冷却を避けるため平鋼の角部は丸みをつけるか又はカットすることが望ましい。
本発明の方法を実験室で試作により検討した。
供試材の鋼種は、0.2%C−0.8%Si−1.5%Mn−1.0%Crである。圧延中間材から厚さ10mm×幅50mm×長さ400mmの試験片を切り出した。角部はCカットした。上記試験片を920℃に加熱し、端部を把持して900℃において98℃の温水中に浸漬冷却した。その際試験片軸を水平、長辺面を垂直に深さ200mmに保持した。初めに変態に関わる約500℃までの冷却速度を把握するため浸漬時間を30〜60秒とし、浸漬前後の温度差から算出した。長辺面中央部で6.7℃/s、側部で約9℃/s、その比は約1.4となった。80秒を越えると底辺面の角から核沸騰が起こり、それが伝搬して急却された。核沸騰では熱伝達率は数倍に増加する。
次いで浸漬時間を種々変え、その後空冷処理した試験片を製作し、金属組織組織を調査した。
浸漬時間 中央部温度 中央部金属組織
40秒 610℃ フェライト+パーライト
50 540 ベイナイト+フェライト(少)+パーライト(少)
60 500 ベイナイト+フェライト(少)
90 120 マルテンサイト+ベイナイト+フェライト(少)
引き上げ温度が600℃以上ではフェライト+パーライトが主体、550℃以下ではベイナイトが主体、長時間浸漬して水温まで冷却するとマルテンサイトが主体となる。60秒浸漬においてあまり温度が下がっていないのはベイナイト変態の発熱による。
長時間の浸漬でマルテンサイトが増加する理由は、ベイナイト変態途上で膜沸騰から核沸騰への遷移により急冷され未変態部がマルテンサイト変態に移行するからである。従って主体組織をパーライトやベイナイトとする場合、膜沸騰冷却の途中で引き上げて3次冷却として空冷することが不可欠となる。
以上の実験で側部は速く冷却することが観察され中央部と均一組織にならないことが確認できたので、次ぎに加熱後浸漬前に中央部にスプレイ冷却を適用した。帯状のスプレイパターン(衝突面の有効形状が幅約20〜25mm×長さ約400mm)により、長辺面の中央部のみ強く冷却した。
中央部を約730〜760℃に冷却、その時側部は約830〜860℃になった。測温では表面の復熱を観察して冷却停止約4秒後とし、その後浸漬冷却した。引き上げ時の測温において位置によりバラツキを示したが概ね20℃以下で均等に近くなっていた。その後空冷した。
浸漬時間 中央部温度 主組織 抗張力 降伏力 伸び
30秒 540℃ ベイナイト 860MPa 760 16%
35 510 ベイナイト 920 820 14%
40 490 ベイナイト 990 910 11%
上記実験で500℃近辺で冷却速度が低下しているのは変態発熱による。
上記の試作から適切な1次冷却と適切な2次冷却時間の組合せにより降伏力785MPa級の高強度材が得られることが解ったが、高強度せん断補強筋においても上記実験と同一鋼種で13〜16mm径の線材に沸騰冷却を適用し、且つ適切なタイミングで温水中から引き上げ降伏力785MPaを確保している。上記実験は平鋼においても前記補強筋と同一組織、同一機械的性質を目指したものである。
図4は、本発明の概念を上記実験例について定量化したものである。金属組織を強靭性のあるベイナイト鋼に誘導するには、1次冷却ではジェットスプレイにより幅中央部を強く、両側部を弱く冷却して両部間に約100℃の温度差をつけ、次いで2次冷却として温水中に浸漬し全面ほぼ均等な膜沸騰冷却を施す。両側部は相対的に速く冷却し、約510℃で両部間の温度差は平準化する。その後引き上げて3次冷却として空冷する。空冷中にベイナイト変態が進行し終了する。金属組織、硬度は断面内で概ね均等である。
平鋼の厚さ(冷却速度に関わる)が変わる場合は、成分を微調整するとともに1次冷却条件(スプレイ強さ、処理時間)と2次冷却時間を調節する。
0:仕上圧延機 1:平鋼 2:1次冷却装置 3:切断機 4:搬入ローラーテーブル 5:浸漬冷却槽 6: 平鋼列 7:ロボットアーム 8:空冷冷却台 9:コンベア 10:制御冷却平鋼 11:搬出ローラーテーブル 20:斜行コンベア 21:クロスコンベア 22:ローラーコンベア 23:仕切り爪 24:温水 25:押さえピン 30:スプレイ 31:側部 32:中央部 33:温水 34:沸騰膜 35:気泡

Claims (3)

  1. 熱間仕上圧延後の平鋼を制御冷却する方法において、1次冷却として圧延直後の直進する平鋼にスプレイ冷却を施すに当たり長辺面中央部の冷却を両側部よりも強くして両者に温度差を発生させ、次いで所定長さに切断したのち圧延直進パスから横方向に順次移送し、2次冷却として1次冷却された平鋼の長辺面を垂直にして温水中に浸漬して並列・並進させつつ所定時間だけ膜沸騰冷却を施して前記温度差を平準化し、その後3次冷却として該平鋼を温水中より引き上げて空冷処理することを特徴とする平鋼の制御冷却方法。
  2. 平準化したときの温度が600℃〜400℃の間の所望温度になるよう1次冷却の強さと2次冷却の時間を設定することを特徴とする請求項1に記載した平鋼の制御冷却方法。
  3. 温水中で並進させる方法が、浸漬された平鋼を1本毎に仕切り且つ該平鋼のタオレを防止する仕切り爪を保有したクロス・コンベアにより該平鋼を並列させつつ平鋼軸と直交方向に移動させると共に、該平鋼を積載するローラーコンベアにより該平鋼を軸方向に移動させることより並進・斜行させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した平鋼の制御冷却方法。
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