JP4688714B2 - 有機酸生成方法 - Google Patents

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Description

本発明は汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法に関する。
従来、河川や海、湖沼などの富栄養化による藻類やアオコの異常発生を防止すべく、生物処理法による下水の脱窒あるいは脱リン処理が行われており、この生物処理法で用いられる有機物を得るために、下水汚泥を嫌気的に発酵させる方法が知られている。このような下水汚泥を原料とした有機酸発酵処理で有機酸を生成させ、生成された有機酸を生物処理法の有機源として有効利用することができる。
このような汚泥の有機酸発酵処理において、生物処理法で用いられる有機酸の生成率を高めるためには、発酵中における汚泥の温度を適正化することが必要であり、下記非特許文献1には、予め定めた一定温度下において下水汚泥の発酵を効率よく行う旨が記載されている。
前凝集と担体を用いた下水高度処理システムの実用化に関する調査研究,「2001年度 下水道新技術研究所年報」,財団法人 下水道新技術推進機構,2002年10月,2/2巻,P131−136
しかしながら、有機酸の原料である下水汚泥の温度は、夏期には高くなり冬期には低くなるといったように、季節や天候の影響を受けて変化する。よって、非特許文献1の方法においては、発酵中の下水汚泥を一定温度に維持するために、導入される下水汚泥の温度に応じて発酵槽内を加温したり冷却したりする必要があるので、加温や冷却に係るエネルギーを大量に要する。
そこで、本発明は、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法を提供することを目的とする。
本発明の有機酸生成方法は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法において、発酵中の汚泥のpH及びORPを測定し、得られたpHの測定値とORPの測定値とに基づいて、発酵中の汚泥のpHを上下させる操作と発酵中の汚泥を曝気処理する操作とを行うことにより、発酵中の汚泥のpHを予め設定された所定のpH目標範囲内に維持し、且つ、発酵中の汚泥のORPを予め設定された所定のORP目標範囲内に維持するように、発酵中の汚泥のpH及びORPを制御し、pH目標範囲の下限値はpH4.0以上、上限値はpH6.5以下の値に設定され、ORP目標範囲の下限値は、−300mV以上の値に設定され、ORPの測定値がORP目標範囲の下限値未満であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値以上である場合は、発酵中の汚泥に酸性剤を添加し、ORPの測定値がORP目標範囲の下限値未満であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の汚泥に曝気処理を行い、ORPの測定値がORP目標範囲内であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の汚泥にアルカリ剤を添加し、ORPの測定値がORP目標範囲内であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の上限値よりも大きい場合は、発酵中の汚泥に酸性剤を添加することを特徴とする。
この有機酸生成方法によれば、発酵中の汚泥のpH及びORP(酸化還元電位)の測定値に基づいて、発酵中の汚泥のpH及びORPが、pHを上下させる操作と曝気処理する操作とによって、それぞれ所定の目標範囲内に維持される。従って、発酵中の汚泥における酸生成活性とメタン生成活性との好ましいバランスを維持することができる。これにより、有機酸発酵反応により生成する有機酸の量とメタン発酵反応によってメタンガスに変化してしまう有機酸の量との収支が最適化され、最終的な有機酸の生成率が向上する。このように、有機酸の生成率を向上するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しないので、エネルギーを節約することができる。
また、pH目標範囲の下限値はpH4.0以上、上限値はpH6.5以下の値に設定され、ORP目標範囲の下限値は、−300mV以上の値に設定される。このようなpH目標範囲及びORP目標範囲が設定されれば、発酵中の汚泥において、酸生成活性とメタン生成活性との好ましいバランス維持することができる。
また、ORPの測定値がORP目標範囲の下限値未満であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値以上である場合は、発酵中の汚泥に酸性剤を添加し、ORPの測定値がORP目標範囲の下限値未満であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の汚泥に曝気処理を行い、ORPの測定値がORP目標範囲内であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の汚泥にアルカリ剤を添加し、ORPの測定値がORP目標範囲内であり、且つpHの測定値がpH目標範囲の上限値よりも大きい場合は、発酵中の汚泥に酸性剤を添加する。
このような有機酸生成方法においては、発酵中の汚泥にアルカリ剤が添加されるとpHが上がり、酸性剤が添加されるとpHが下がる。また、発酵中の汚泥の曝気処理を行うと、汚泥のORPが上がる。したがって、pHの測定値やORPの測定値が、目標範囲を外れた場合に上記のような操作を適宜選択して行うようにすることで、目標範囲内に維持させるようなフィードバック制御が可能である。
また、本発明の有機酸生成方法に用いられる有機酸生成装置は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成装置において、発酵中の汚泥のpHを測定するpH測定手段と、発酵中の汚泥のORPを測定するORP測定手段と、発酵中の汚泥のpHを上下させるpH調整手段と、発酵中の汚泥を曝気処理する曝気手段と、発酵中の汚泥のpH及びORPを、それぞれ予め設定された所定の目標範囲内に維持するように制御する制御手段と、を備え、制御手段は、pH測定手段で得られたpHの測定値とORP測定手段で得られたORPの測定値とに基づいて、pH調整手段と曝気手段とを操作することとしてもよい。
この有機酸生成装置によれば、発酵中の汚泥のpH及びORPの測定値に基づいて、発酵中の汚泥のpH及びORPが、pHを上下させる操作と曝気処理する操作とによって、それぞれの所定の目標範囲内に維持される。従って、発酵中の汚泥における酸生成活性とメタン生成活性との好ましいバランスを維持することができる。これにより、有機酸発酵反応により生成する有機酸の量とメタン発酵反応によってメタンガスに変化してしまう有機酸の量との収支が最適化され、最終的な有機酸の生成率が向上する。このように、有機酸の生成率を向上するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しないので、エネルギーを節約することができる。
また、本発明の有機酸生成方法に用いられる排水処理設備は、上記の有機酸生成装置と、排水を導入し、有機酸生成装置で得られる有機酸を用いて排水を生物処理する生物処理槽と、を備えたこととしてもよい。この排水処理設備では、大量のエネルギーを要することなく上記有機酸生成装置から、排水の脱窒及び脱リン処理に必要な有機酸が効率よく得られるので、排水の処理が効率よく行われる。
本発明の有機酸生成方法によれば、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る有機酸生成方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1に示す排水処理設備100は、下水処理場に採用されているもので、下水に対して、生物的窒素除去及び生物的リン除去を含む高度処理を行う設備である。図に示すように、排水処理設備100は、最初沈殿池3、生物処理槽5、最終沈殿池7と共に有機酸生成装置1を備えている。
排水処理設備100には、下水処理場の図示しない沈砂池で比較的粒径が大きい固形物が沈降分離され、布、空き缶、ビニール類等の篩渣がスクリーンにて除去され、ポンプ井よりポンプアップされた流入下水が、ラインL1を通じて導入される。ラインL1からの流入下水は、最初沈殿池3に導入され、重力沈降により最初沈殿池3の底部に沈降する生汚泥とそれ以外の上澄み液とに分離される。ここで分離された生汚泥は図示しない汚泥掻寄機で汚泥溜まり部3aに掻き寄せられて、一部はラインL11を通じて有機酸生成装置1に送られ、残りは、余剰汚泥とともに図示しない汚泥処理槽に送られて処理される。上澄み液は被処理水としてラインL2を通じて生物処理槽5に送られる。詳細は後述するが、有機酸生成装置1は、この生汚泥を発酵処理し、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸を含んだ発酵液をラインL20から排出する。
生物処理槽5は、嫌気―無酸素―好気法による生物処理を行う処理槽であり、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cをこの順に備えている。ラインL2から嫌気槽5aに導入された上澄み液である被処理水は、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cの順に送られながら、それぞれの槽で嫌気性処理、無酸素処理、好気性処理が行われた後、ラインL3を通じて最終沈殿池7に送られる。このとき、ラインL20を通じて、有機酸生成装置1から有機酸を含む発酵液が嫌気槽5aに供給されることで、生物処理槽5における被処理水の脱窒反応及び脱リン反応が促進されることになる。また、好気槽5cには、散気装置5dが設けられており、送風機5eから送り込まれた空気により好気槽5c内の被処理水を曝気する。また、好気槽5cの滞留液は、循環ポンプ5fによりラインL4を通じて無酸素槽5bに送られ、循環導入されている。ここで、ラインL20から発酵液が無酸素槽5bに供給されてもよい。
最終沈殿池7に送られた生物処理水は、浮遊する活性汚泥を沈降分離させた後、ラインL5を通じて排出される。排出されたこの処理水は、図示しない設備において三次処理や滅菌処理が行われた後、河川等に放流される。最終沈殿池7で沈降した活性汚泥は、活性汚泥溜まり部7aからラインL6を通じて排出される。排出された活性汚泥の一部は、ラインL7を通じて生物処理槽5の嫌気槽5aに返送され、残りは、図示しない設備における汚泥処理工程を経て処理される。
上記の有機酸生成装置1について、更に詳細に説明する。有機酸生成装置1は、上述の通り、流入下水から分離された生汚泥を原料とし、生汚泥中の有機物を酸生成菌によって嫌気的に発酵させて、有機酸を得る装置である。図1に示すように、有機酸生成装置1は、汚泥貯留槽23、酸発酵槽27、濃縮槽43、及び発酵液貯留槽49を備えている。原料となる生汚泥は、ラインL11を通じて装置1に導入され、まず汚泥貯留槽23に一旦貯留され、汚泥貯留槽23に設けられた汚泥撹拌機25によって撹拌される。撹拌されて均一な汚泥濃度となった生汚泥は、ラインL12を通じて酸発酵槽27に導入される。
なお、この汚泥貯留槽23は無くてもよく、ラインL11からの生汚泥が直接酸発酵槽27に導入されてもよい。また、汚泥貯留槽23に導入される生汚泥の汚泥濃度が低すぎる場合には、別途汚泥濃縮槽で前濃縮した後に汚泥貯留槽23又は酸発酵槽27に導入することが好ましい。
酸発酵槽27は、導入された生汚泥を発酵処理し有機酸を生成させる槽である。この酸発酵槽27は、槽内に滞留する発酵汚泥Sを撹拌する酸発酵攪拌機29、発酵汚泥SのpHを測定するpHセンサ(pH測定手段)31、及び発酵汚泥SのORP(酸化還元電位)を測定するORPセンサ(ORP測定手段)33を備えている。更に、酸発酵槽27は、槽内に酸性剤(例えば、塩酸)又はアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム)を投入して発酵汚泥SのpHを調整するpH調整装置(pH調整手段)35、及び発酵汚泥Sを曝気処理してORPを調整するための曝気装置(曝気手段)36を備えている。曝気装置36は、酸発酵槽27内の底部に設けられて空気を吐き出す散気装置36aと、この散気装置36aへの空気供給装置として機能する送風機36bとを有している。なお、この曝気装置36に代えて、オゾン等の酸化性のガスを発酵汚泥Sに吹き込む装置を用いてもよい。
pHセンサ31、ORPセンサ33は、制御部39に接続されており、pH測定値、ORP測定値をそれぞれ電気信号に変換して制御部39に送信する。また、pH調整装置35、及び曝気装置36は、制御部39に接続され、この制御部39によって制御されている。詳細は後述するが、制御部39は、pHセンサ31及びORPセンサ33から得られたpH測定値及びORP測定値の情報に基づいて、pH調整装置35、及び曝気装置36を操作することで、発酵汚泥SのpH及びORPといった発酵条件を適切に制御している。そして、酸発酵槽27内では、制御された発酵条件下において、酸生成菌が発酵汚泥S中の有機物を分解し有機酸を生成する有機酸発酵反応が進行する。そして、この発酵反応によって生成した有機酸を含む発酵汚泥が、ラインL14を通じて濃縮槽43に送られる。
濃縮槽43は円形断面をなしており、槽の下部で回転する掻き寄せブレード47aを有する掻寄機47を備えている。ラインL14を通じて濃縮槽43に導入された発酵汚泥は重力沈降によって固液分離される。この固液分離によって重力沈降した固体成分の一部は、濃縮汚泥としてラインL16を通じてポンプP2によって酸発酵槽27に返送されて再び発酵処理される。上記重力沈降した固体成分の残りは、余剰汚泥としてラインL17を通じて設備100外に排出され、酸発酵槽27で発生する発酵残渣等と一緒に、図示しない設備によって焼却処理あるいは消化処理される。なお、ここでは、重力沈降による固液分離を行う濃縮槽43に代えて、分離膜で固液分離を行う膜分離槽を採用してもよい。
一方、濃縮槽43で上澄みとして分離された発酵液はラインL15を通じて発酵液貯留槽49へ送られ、この発酵液貯留槽49内で一旦貯留された後、ラインL20を通じて、有機酸を含む発酵液として排出される。そして、前述のとおり、ラインL20を通じて排出されたこの発酵液は、嫌気−無酸素−好気法の有機源として生物処理槽5に供給される。なお、この発酵液貯留槽49を省略して、濃縮槽43からの発酵液を生物処理槽5に直接供給してもよい。
このような排水処理設備100においては、生物処理槽5での被処理水の脱リン処理、脱窒処理を効率よく行わせるために、有機酸生成装置1における有機酸の生成率を向上することが必要である。この装置1において、発酵汚泥Sには、酸生成菌ばかりでなくメタン生成菌も含まれているので、酸発酵槽27の発酵汚泥S中では、酸生成菌が汚泥を有機酸に変化させる有機酸発酵反応と、生成した有機酸をメタン生成菌がメタンガスに変化させてしまうメタン発酵反応とが同時に進行する。このため、有機酸の生成率を向上するためには、有機酸発酵反応の活性(酸生成活性)とメタン発酵反応の活性(メタン生成活性)とのバランスを調整し、有機酸発酵反応で生成される有機酸の量と、メタン発酵反応で消費される有機酸の量との収支において、出来るだけ前者の有機酸の量を多く、後者の有機酸の量を少なくすることが好ましい。
ここで、酸生成活性及びメタン生成活性は、発酵汚泥Sの温度ばかりではなく、pH及びORPといった条件にも依存する。従って、上記のような好ましい活性のバランスを達成するためには、発酵汚泥SのpHを所定のpH目標範囲内に維持すると共に、発酵汚泥SのORPを所定のORP目標範囲内に維持する必要がある。
具体的には、発酵汚泥SのORPが−300mV以下と嫌気度が高い場合や、発酵汚泥SのpHが6.5以上の場合はメタン生成活性が高すぎる。また、発酵汚泥SのpHが4.0以下の場合は酸生成活性が低すぎる。従って、発酵汚泥SのpH目標範囲は、下限値がpH4.0以上で、上限値がpH6.5以下となるように設定し、ORP目標範囲は下限値が−300mV以上になるように設定することが好ましい。そして、pHとORPとの双方が、それぞれ上記目標範囲内に維持されるように制御すればよい。なお、発酵汚泥Sの嫌気度が低くなりすぎることで有機酸発酵反応が阻害される不具合を避けるため、ORP目標範囲の下限値は、−200mV以下になるように設定することが好ましい。
以上のような考察に基づいて、有機酸生成装置1においては、発酵汚泥SのpHとORPとの双方を所定の目標範囲内に維持するため、制御部39による制御が行われる。以下、有機酸生成装置1の制御部39によって実行される具体的な処理について、図1及び図2を参照しながら説明する。
まず、酸発酵槽27において高い有機酸の生成率を得るための、発酵汚泥SのpHの範囲、及びORPの範囲が、それぞれ、pH目標範囲、ORP目標範囲として設定される(S202)。上述の通り、pH目標範囲の下限値をP1、上限値をP2とすれば、4.0≦P1<P2≦6.5を満たすようなP1,P2を採用することが好ましい。従って、ここでは、P1=4.5,P2=5.5を採用し、pH4.5以上かつ5.5以下の範囲をpH目標範囲として設定する。また、上述の通り、ORP目標範囲の下限値をORP1とすれば、−300mV≦ORP1≦−200mVとなるようなORP1を採用することが好ましい。従って、ここでは、ORP1=−250mVを採用し、−250mV以上の範囲を、ORP目標範囲として設定する。なお、ここでのORP目標範囲には、下限値のみが存在し、上限値は設けないこととする。
次に、制御部39は、ORPセンサ33で測定された発酵汚泥SのORP測定値と、pHセンサ31で測定された発酵汚泥SのpH測定値とを、電気信号として取得する(S204,S206)。次に、制御部39は、取得したORP測定値と、ORP目標範囲の下限値ORP1との大小比較によって、このORP測定値が、ORP目標範囲内であるか否かを判断する(S208)。ここで、ORP測定値がORP1以上の場合、即ち、ORP測定値がORP目標範囲内である場合には、後述するS220に処理を進める。逆に、ORP測定値がORP1未満の場合、即ち、ORP測定値がORP目標範囲外である場合には、取得したpH測定値と、pH目標範囲の下限値P1との大小比較が行われる(S210)。ここで、pH測定値がP1以上であれば、制御部39は、pH調整装置35に対して駆動信号を送信し、酸発酵槽27内に酸性剤を添加させる(S212)。また、このS210においてpH測定値がP1未満であれば、制御部39は、曝気装置36に対して駆動信号を送信し、酸発酵槽27内に空気を送り込ませて発酵汚泥Sの曝気処理を行わせる(S214)。
上記S208において、ORP測定値がORP目標範囲内である場合は、pH測定値と、pH目標範囲の上限値P1,下限値P2との大小比較によって、pH測定値がpH目標範囲内であるか否かを判断する(S220)。ここで、P1≦pH測定値≦P2が満たされる場合、即ち、pH測定値がpH目標範囲内である場合には、制御を継続しない場合を除き(S230)、再び処理をS204へ戻す。逆に、P1≦pH測定値≦P2が満たされない場合、即ち、pH測定値がpH目標範囲外である場合には、pH測定値と、pH目標範囲の下限値P1との大小比較が行われる(S222)。そして、pH測定値がP1未満であれば、制御部39は、pH調整装置35に対して駆動信号を送信し、酸発酵槽27内にアルカリ剤を添加させる(S224)。逆に、pH測定値がP1以上であれば、制御部39は、処理を上記S212に進め、酸発酵槽27内にアルカリ剤を添加させる(S212)。その後は、制御を継続しない場合を除き(S230)、再び処理をS204へ戻し、上述の処理を繰り返しながら、発酵汚泥SのpH及びORPの制御を継続する。
以上のような制御部39の処理に基づく、酸発酵槽27内のpH及びORPの変化について、図3を参照しながら説明する。図3は、発酵汚泥SのpH及びORPを表すグラフであり、横軸が発酵汚泥SのpH、縦軸が発酵汚泥SのORPを示している。そして、図3には、発酵汚泥SのpHとORPとが双方とも目標範囲内の場合(pHが4.5以上5.5以下、且つ、ORPが−250mV以上の範囲)が、領域A1として示されている。
また、図中に示される直線Bは、発酵汚泥SのpHとORPとの相関関係を表すpH/ORP相関直線である。すなわち、発酵汚泥SのpHとORPとの間にも相関関係があり、発酵汚泥Sにアルカリ剤又は酸性剤が添加された場合には、発酵汚泥SのpHの変化に伴って、ORPもこの相関直線Bに沿って変化することになる。
有機酸生成装置1の酸発酵槽27内において、発酵汚泥SのORP測定値がORP目標範囲の下限値−250mV未満であり、pH測定値がpH目標範囲の下限値4.5以上(図3の領域A2,A3で表される状態)である場合、上述した制御部39の処理によれば、発酵汚泥Sに酸性剤が添加される(図2のS212)。この酸性剤の添加によって、発酵汚泥SのpHが低下すると共に、ORPが上昇することになる。すなわち、この変化を図3のグラフ上で表すと、発酵汚泥Sの状態は、領域A2又は領域A3から相関直線Bに沿って左上に移動し、領域A1に近づくことになる。また、この変化によって、発酵汚泥Sが、後述する領域A4又は領域5で表される状態になる場合もあるが、この場合には後述するような処理を経由して、最終的に領域A1に近づくことになる。
また、発酵汚泥SのORP測定値がORP目標範囲の下限値−250mV未満であり、pH測定値がpH目標範囲の下限値4.5未満(図3の領域A4で表される状態)である場合には、発酵汚泥Sに対して曝気処理が行われる(図2のS214)。この曝気処理によって、嫌気度が下がり発酵汚泥SのORPが上昇することになる。すなわち、この変化を図3上のグラフ上に表すと、発酵汚泥Sの状態は、領域A4から後述する領域A5へと移動する。そして、発酵汚泥Sが領域A5にある状態からは、後述するようにアルカリ剤が添加され(図2のS224)、その結果、領域A1に近づくことになる。
また、発酵汚泥SのORP測定値がORP目標範囲内であり、pH測定値がpH目標範囲の下限値4.5未満(図3の領域A5で表される状態)である場合には、発酵汚泥Sにアルカリ剤が添加される(図2のS224)。このアルカリ剤の添加によって、発酵汚泥SのpHが上昇すると共に、ORPが低下することになる。すなわち、この変化を図3のグラフ上に表すと、発酵汚泥Sの状態は、領域A5から相関直線Bに沿って右下に移動し、領域A1に近づくことになる。また、この変化によって、発酵汚泥Sが領域A4或いはA2で表される状態になる場合もあるが、それらの場合には前述した処理を経由して、最終的に領域A1に近づくことになる。
また、発酵汚泥SのORP測定値がORP目標範囲内であり、pH測定値がpH目標範囲の上限値5.5よりも大きい状態(図3の領域A6で表される状態)である場合には、発酵汚泥Sに酸性剤が添加される(図2のS212)。この酸性剤の添加によって、発酵汚泥SのpHが低下すると共に、ORPが上昇することになる。すなわち、この変化を図3のグラフ上で表すと、発酵汚泥Sの状態は、領域A6から相関直線Bに沿って左上に移動し、領域A1に近づくことになる。
以上のように、制御部39による処理によれば、pH測定値及びORP測定値が目標範囲を外れた場合にも、発酵汚泥SのpH及びORPが目標範囲(図3の領域A1で表される状態)に近づくように、酸性剤の添加、アルカリ剤の添加、及び曝気処理が行われる。制御部39によるこのようなpH及びORPのフィードバック制御によって、発酵汚泥SのpH及びORPが目標範囲内に維持される。その結果、発酵汚泥Sにおける酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適に維持されるので、有機酸生成装置1における有機酸の生成率を向上することができる。このように、有機酸の生成率を向上するための制御において、発酵汚泥Sの加温や冷却が不要であり、加温/冷却のためのエネルギーを要しないので、エネルギーを節約することができる。また、排水処理設備100では、大量のエネルギーを要することなく、有機酸生成装置1から、排水の脱窒及び脱リン処理に必要な有機酸が効率よく生物処理槽5に供給されるので、排水の処理が効率よく行われる。
また、この有機酸生成装置1では、ORPがORP目標範囲よりも低い場合であっても、pHがある程度高い状態(図3の領域A2,A3で表される状態)にあっては、曝気処理を用いずに、酸性剤の添加によってORPを目標範囲に調整している。従って、このような制御によれば、発酵汚泥Sの曝気処理の頻度を少なくすることができる。曝気処理では、発酵汚泥S中の酸生成菌の一部が液面に浮上し機能しなくなってしまうといった問題が発生するが、有機酸生成装置1によれば、そのような問題を抑制することができる。また、曝気処理の頻度が少なくなることから、有機酸生成装置1によれば、曝気による酸生成菌の活性低下も抑制することができる。その結果、発酵汚泥Sにおける酸生成活性の低下を頻繁に招くことなく、発酵汚泥SのpH及びORPを調整することができる。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、有機酸生成装置1に導入される有機酸の原料としての汚泥は、最初沈殿池3で発生する汚泥に限られず、最終沈殿池7で発生する汚泥であってもよいし、最初沈殿池3の汚泥と最終沈殿池7の汚泥とを併用してもよい。
本発明に係る排水処理設備の一実施形態を示す図である。 有機酸生成装置における発酵汚泥のpH及びORPの制御のフロー図である。 発酵汚泥のpH及びORPを表すグラフである。
符号の説明
1…有機酸生成装置、5…生物処理槽、31…pHセンサ(pH測定手段)、33…ORPセンサ(ORP測定手段)、36…曝気装置(曝気手段)、39…制御部(制御手段)、100…排水処理設備。

Claims (1)

  1. 汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法において、
    発酵中の前記汚泥のpH及びORPを測定し、
    得られた前記pHの測定値と前記ORPの測定値とに基づいて、発酵中の前記汚泥のpHを上下させる操作と発酵中の前記汚泥を曝気処理する操作とを行うことにより、
    前記発酵中の前記汚泥のpHを予め設定された所定のpH目標範囲内に維持し、且つ、前記発酵中の前記汚泥のORPを予め設定された所定のORP目標範囲内に維持するように、前記発酵中の汚泥の前記pH及び前記ORPを制御し
    前記pH目標範囲の下限値はpH4.0以上、上限値はpH6.5以下の値に設定され、
    前記ORP目標範囲の下限値は、−300mV以上の値に設定され、
    前記ORPの測定値が前記ORP目標範囲の下限値未満であり、且つ前記pHの測定値が前記pH目標範囲の下限値以上である場合は、発酵中の前記汚泥に酸性剤を添加し、
    前記ORPの測定値が前記ORP目標範囲の下限値未満であり、且つ前記pHの測定値が前記pH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の前記汚泥に曝気処理を行い、
    前記ORPの測定値が前記ORP目標範囲内であり、且つ前記pHの測定値が前記pH目標範囲の下限値未満である場合は、発酵中の前記汚泥にアルカリ剤を添加し、
    前記ORPの測定値が前記ORP目標範囲内であり、且つ前記pHの測定値が前記pH目標範囲の上限値よりも大きい場合は、発酵中の前記汚泥に酸性剤を添加することを特徴とする有機酸生成方法。
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