JPH07136694A - 有機性廃棄物の加圧水素発酵法 - Google Patents

有機性廃棄物の加圧水素発酵法

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JPH07136694A
JPH07136694A JP30859893A JP30859893A JPH07136694A JP H07136694 A JPH07136694 A JP H07136694A JP 30859893 A JP30859893 A JP 30859893A JP 30859893 A JP30859893 A JP 30859893A JP H07136694 A JPH07136694 A JP H07136694A
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fermentation
hydrogen
pressurized
carbon
fermenter
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JP30859893A
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Taisuke Toya
泰典 遠矢
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Ebara Corp
Ebara Research Co Ltd
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Ebara Corp
Ebara Research Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 クリーンエネルギーである水素を高速、高効
率で生産すると同時に炭酸ガスも生物還元により遊離の
炭素とする加圧水素発酵法を提供する。 【構成】 有機性廃棄物1を水素発酵させるにあたり、
前記水素発酵は、発酵槽を常圧発酵2と加圧発酵7の2
段に分割し、加圧条件下にある加圧発酵槽1に常圧発酵
槽2の発酵液を連続的に循環8、10することにより水
素発酵が遅退なく進行する加圧条件に調整17、18し
ながら発酵させる有機性廃棄物の加圧水素発酵法とした
ものであり、前記発酵液はpHを4.0〜6.0、酸化
還元電位を−100〜−200mVに制御しながら発酵
させるのがよい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、有機性廃棄物の生物学
的処理法に係り、特に、し尿、下水汚泥及び濃厚有機性
廃水等の有機物を濃厚に含む各種汚泥の加圧水素発酵法
に関する。
【0002】
【従来の技術】し尿、下水汚泥及び/又は有機物を濃厚
に含む各種汚泥の処理に、処理コストが安いこと、運転
管理が容易なこと、及び有機物の分解安定化と同時にこ
れらの有機物をエネルギー物質であるメタンに生物変換
できることなどの利点が評価され、メタン発酵法が採用
されてきた。
【0003】従来のメタン発酵法には、高温メタン発酵
法、中温メタン発酵法及び比較的最近の技術として上向
流式スラッジブランケット型メタン発酵法(UASB
法)等があり、此等の処理技術は、共通して固形物の液
化、酸発酵(低級カルボン酸の生成)及びメタン生成に
よる3段階の生物学的な継起反応により汚濁性有機物を
分解・低分子化し、最終的にエネルギー物質であるメタ
ンと炭酸ガスに変換し、メタン発酵消化液は通常の好気
性処理により残存する有機物を微生物学的に酸化・安定
化して公共用水域に放流する技術である。
【0004】この処理技術の中核は、各種の汚泥中に野
性的に生息している、例えば、メタノコッカス(Methan
ococcus)、メタノスリックス(Methanothrix) 、メタノ
ザルシナ(Methanosarcina) 、メタノブレビバクター
(Methanobrevibacter) などの脂肪酸資化性メタン細
菌、水素資化性メタン細菌などの所謂メタン生成細菌に
よるメタン生成生物反応であり、次の反応式によりメタ
ンが生成される。 酢酸 CH3 COO- +H2 O=CH4 +HCO3
- 蟻酸 4HCOO- +4H+ +H2 O=3HCO3
- +3H+ +CH4 酪酸 2CH3 (CH2 2 COO- +HCO3 -
+H2 O =4CH3 COO- +H2 +CH4 水素 4H2 +H+ +HCO3 - =CH4 +3H2
【0005】前記したように、メタン発酵法は省エネル
ギー的な処理技術であるだけでなく、メタンというエネ
ルギー物質を生産できるために、濃厚有機性廃棄物、例
えばし尿、下水汚泥処理に広く採用されている。しかし
ながら、メタン発酵法は、発生するメタンガスが未利用
のまま大気中に放出されることにより地球の温暖化を助
長し、さらに厄介なことにはメタンをエネルギー源とし
て燃焼しても地球温暖化の元凶である炭酸ガスに変換
し、温暖化をさらに助長することになる。
【0006】また、地球環境保全に関連して、厳密な意
味での炭酸ガス問題を解決する技術は未だ得られていな
い。このように従来のメタン発酵法は必ずしも、地球に
優しい処理技術であるとは言えない。以上の事実より、
ここ数年来、地球環境保全或いは改善に貢献できる新し
い有機性廃棄物の処理技術、特に従来技術としてのメタ
ン発酵法に取って変わるべき新しい処理技術の研究、開
発が急務となっており、その確立が社会的に強く要望さ
れている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術、
特にメタン発酵法の前記の宿命的な欠陥を改善し、クリ
ーンエネルギーである水素を高速、高効率で生産する事
ができるだけでなく、生物的に変換、生成された炭酸ガ
スをも生物還元により遊離の炭素とすることができる加
圧水素発酵法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、本発明では、有機性廃棄物を水素発酵させるにあた
り、前記水素発酵における発酵液を、液の静圧が加圧条
件となるように制御しながら発酵させることとした有機
性廃棄物の加圧水素発酵法としたものである。前記加圧
条件とは、圧力を1kg/cm2 以上とすることをい
う。
【0009】また、本発明では、有機性廃棄物を水素発
酵させるにあたり、前記水素発酵は、発酵槽を常圧発酵
と加圧発酵の2段に分割し、加圧条件下にある加圧発酵
槽に常圧発酵槽の発酵液を連続的に循環することにより
水素発酵が遅退なく進行する加圧条件に調整しながら発
酵させることによる有機性廃棄物の加圧水素発酵法とし
たものである。
【0010】上記のように、本発明では、大容量の水素
発酵槽を加圧条件とすることは実質的に困難であるため
に、発酵槽を 常圧発酵と加圧発酵 加圧発酵と常圧発酵 の2段の分割した発酵形式を採用し、加圧条件下にある
加圧発酵槽に常圧発酵槽の発酵液を連続的及び/又は必
要に応じて循環することにより水素発酵が遅退なく進行
する加圧条件に調整しながら発酵させると、処理の対象
となる有機性廃棄物の全量が一定の加圧条件に曝される
事になり、水素生産が順調に行なわれる。
【0011】さらに、上記のし尿や下水汚泥中には水素
生産菌だけでなく、例外なくメタン生成菌が生息してい
る。しかし、水素生産菌とメタン生成菌は増殖する好適
なpH範囲に可成りの差があり、クロストリジウム属
(Clostridium)その他の水素生産菌はpH4.0〜6.
0の領域の比較的酸性側において順調に増殖するが、こ
れに対してメタン生成菌は弱アルカリ側の領域を好んで
生息しており、通常pH7.0〜8.0の範囲で正常な
機能を発揮する。
【0012】本発明においては、この両種の細菌の至適
pH範囲が中性域を挿んで酸性、アルカリ性にそれぞれ
偏差していることを利用し、本発明において主役を演ず
る水素生産菌が発酵過程において常に優占種となるよう
に常圧・加圧槽とも水素発酵槽内の発酵液のpHを連続
的に4.0〜6.0に制御しながら発酵させ、確実に水
素発酵が進行するように配慮することが良い。また、水
素生産菌とメタン生成菌にはそれぞれ増殖するに適した
酸化還元電位があり、両者には可成りの格差があるの
で、この格差を微生物選択の手段として有効に利用し、
前記したように水素発酵槽に意識的に大気を導入して水
素生産菌が生息するに適した酸化還元電位に人為的に制
御することにより、有機性廃棄物の水素発酵がメタン発
酵に優先して進行するように調整すると良い。
【0013】即ち、濃厚な有機性廃棄物を嫌気的条件下
で発酵させると、通常絶対嫌気的な環境となり、発酵液
の酸化還元電位はメタン細菌にとって好適な−300〜
−450mVとなる傾向が強く、本発明には負の要因と
なるメタン細菌が水素生産菌に優先して系内で増殖し、
本発明の目的を達成するのに致命的な障害となる。前記
の水素生産菌類は絶対嫌気性の環境条件よりも寧ろ通性
嫌気性の、所謂、微嫌気の環境条件を好むので、本発明
では水素発酵槽に若干量の空気を送入し、発酵液の酸化
還元電位が−100〜−200mVの微嫌気条件となる
ように制御しながら発酵させれば、より安定した水素発
酵を進行させることができる。
【0014】上記の本発明の加圧水素発酵の条件であ
る、加圧発酵槽の圧力設定の他、常圧発酵槽、加圧発酵
槽のpHの設定、発酵液の酸化還元電位の設定、は全て
センサーにより、それぞれ圧力、pH及び酸化還元電位
を感知し、感知結果を動力源に伝達することにより自動
的に制御されるように配慮すれば良い。上記のように、
本発明は、主要な処理対象であるし尿や下水汚泥に野性
的に生息している水素生産菌群に加圧という特殊なスト
レスを与えることにより、水素生産の代謝経路を制御
し、地球温暖化の原因物質である炭酸ガスを生物還元に
よって非結晶性の炭素と酸素(原子状の活性酸素で別の
物質に取り込まれる)に分離し、これを生物反応系外に
取り去ることにより炭酸ガス問題を根本的に解決する革
新的、画期的な水素発酵法である。
【0015】次に本発明を詳細に説明する。本発明によ
る加圧水素発酵法では、メタン発酵に優先して水素発酵
が進行する結果として、発酵槽の液相において水素の平
衡濃度が上昇し、当然、閉鎖系の発酵槽気相部の水素分
圧が上昇する。水素生産菌による有機性廃棄物の水素発
酵は、その生物反応の標準自由エネルギーが正の値とな
る吸エルゴン反応であり、本来的に水素生成の生物反応
は正の方向には進みにくい。
【0016】この反応を正の方向に順調に進行させるた
めには、水素発酵の生産物である水素を、混合培養系に
おいて、他の生物反応を継起的に進行せしめることによ
り、全体の生物反応系として標準自由エネルギーが負の
値となる発エルゴン反応に変換するか或いは液相、気相
中の水素を強制的に反応系外に取り出し、実質的に発エ
ルゴン反応と同等の効果が得られるように操作しなけれ
ばならない。然しながら、本発明において主役を演ず
る、例えばクロストリジウム(Clostridium)などの水素
生産菌は人為的な加圧条件下であっても、また自然に作
り出される陽圧条件下であっても、適当な馴致期間を与
えれば水素生成反応は吸エルゴン反応ながら正の方向に
進行することが酪酸やアセトン生産の分野で知られてい
る。
【0017】また、白蟻腸管系に寄生している水素生産
菌は腸内が各種のガスの発生により可成りの陽圧条件に
ありながら、木質成分を食して大量の水素を円滑に生産
し、同時に他の細菌類のエネルギー源となる低級脂肪酸
類を生産することが知られている。白蟻腸管系にはメタ
ン生成菌も寄生しているが、白蟻の腸管から外部に排出
されるガスの中では水素ガスの発生量が最も多く、メタ
ンガスの発生量がこれに次いでいる。
【0018】本発明においても、発生した水素を減圧発
酵或いはガス分離膜により生物反応系外に取り出し発エ
ルゴン反応に変換するという操作を加えなくても、加圧
条件下で若干の馴致期間を与えることにより大量の水素
を生産できるだけでなく、好ましい酸化還元電位条件及
び発酵液のpH条件を設定し、水素生産菌により炭酸ガ
スを生物還元し、地球温暖化の元凶である炭酸ガスを非
結晶性の炭素にまで分解する作用効果を誘起せしめるこ
とを可能としている。
【0019】加圧水素発酵を行なうには水素発酵槽全体
を加圧する方法をとっても良いが、通常、発酵槽の容積
が過大であるために莫大なエネルギーを必要とする。従
って、本発明では、常圧発酵槽と加圧発酵槽の2槽を設
け、常圧発酵槽の発酵液を比較的小容量の加圧発酵槽に
連続的或いは間歇的に流入させ、あるいは循環すること
により発酵液の全量を加圧条件としたと同等の効果に限
りなく近似させている。このような方法を選択すること
により1槽式の加圧水素発酵法に比べて加圧の為のブロ
ワー動力を著しく節減して、同等の効果をあげることが
できる。
【0020】なお、加圧発酵方式には、前記したように
前段常圧発酵と後段加圧発酵の配列方式及び前段加圧発
酵と後段常圧発酵の配列方式の2種類の方式が考えられ
るが、前者の方式は難分解性物質を可成り濃厚に含む有
機性廃棄物の水素発酵に適しており、後者の方式は易分
解性の有機性廃棄物の水素発酵に適している。また、本
発明の重要な条件の一つである発酵液の酸化還元電位の
調整は、反応系内に大気を圧入することによって達成さ
れる。
【0021】空気を圧入する箇所は常圧発酵槽、加圧発
酵槽或いは発酵液循環経路の何れを選択しても良いが、
全体の反応系、特に気相部分の圧変動を最小限に抑える
ために常圧発酵槽の液相部分にブロワーで送気すること
が好ましい。また、その他の箇所に圧入して酸化還元電
位を制御しても良い。本発明では、前記したように水素
発酵槽に酸化還元電位の検知センサーを設置し、これを
空気圧入用のブロワーと連動させることにより送入空気
量を調整し、これにより生物反応系の酸化還元電位を水
素発酵が確実に進行する範囲−100〜−200mVと
なるように制御する機構を設けている。
【0022】本発明の目的を確実に遂行するもう一つの
条件としての、発酵液のpHを水素生産菌の増殖に適し
た4.0〜6.0の範囲に連続的に制御する手段及び方
法であるが、これらは特定の方法に限定する必要はな
く、常用されるpH調整の何れを採用しても本発明を妨
げるものではない。ただし、pH調整の精度を上げるた
めに水素発酵槽にpH検知センサーを設置し、これを酸
注入ポンプと連動させる機構を設けることが好ましい。
本発明の加圧水素発酵法の最終処理液は常圧発酵槽から
発酵液として槽外に取り出される。
【0023】この発酵液には、加圧発酵、酸化還元電位
の制御及びpH制御の条件を設定することにより水素生
産菌の通常の代謝経路を変換せしめ、その結果として炭
酸ガスから生物学的な還元反応により分離された非結晶
性の炭素粒が多量に含まれている。従って、本発明で
は、発酵液から炭素粒を回収するために、通常、発酵液
を遠心分離器にかけ、発酵液中に残留する未消化物とと
もに発酵液から分離する方法がとられるが、炭素分離器
としては遠心分離器に限定されるものではなく、例えば
液体サイクロンなどを適用してもよい。
【0024】ただし、液体サイクロンを適用した場合に
は、回収すべき炭素粒は脱離液側に移行するので、その
後の炭素分離工程は遠心分離器を採用した場合とは自ず
から異なった工程となる。本発明において、分離された
炭素粒は発酵液だけでなく、常圧発酵槽から系外に取り
出される消化汚泥中にも含まれる。従って、トータルプ
ロセスとしての炭素粒の回収は、脱水された消化汚泥と
遠心分離器により分離された炭素粒を含む固形物を混合
し、還元燃焼することにより固形物から回収される炭素
粒を含めて回収することが好ましい。
【0025】
【作用】本発明の対象となるし尿、下水汚泥等の有機性
廃棄物が嫌気性の条件下に放置されると自然発生的に野
性菌としてのメタン生成菌、水素生産菌(当然、その他
の微生物類も)が増殖してくる。此等の細菌類が通常嫌
気的条件下に置かれると有機物を起源として水素生産菌
は水素を生産し、メタン生成菌は低級脂肪酸及び水素を
資化してメタンを生成する。
【0026】然し、此等の混合培養系を加圧し、酸化還
元電位、pHを適当に設定すると多くのメタン生成菌は
選択されて増殖阻害を受けて死滅するか或いは反応系外
に洗流され、この混合培養系においては水素生産菌が優
占種となり、発生ガスとしてメタンはほとんど検出され
ず、水素とごく微量の炭酸ガスが発生する。通常、この
条件の水素発酵では水素発生量と炭酸ガス発生量はほぼ
等量か水素が若干多いのが正常であるが、前記の条件を
与えて発酵させると炭酸ガスの発生は極端に減少し、化
学量論的にバランスが合わなくなる。
【0027】この実験的事実を各種の研究手法を用いて
追求したところ、本来ならば炭酸ガス中の結合炭素とし
て反応系外に持ち出される炭素が、発酵液中に非結晶性
の炭素として存在していることが確認された。これまで
に、多くの先達によって研究され、通説となっている水
素生産菌による水素生産の代謝経路及びメタン生成菌に
よるメタン生産の代謝経路では炭酸ガスが生物学的に還
元されて炭素が遊離する反応は現時点において未解明で
あり、その前身である一酸化炭素の存在すら知られてい
ない。
【0028】然しながら、嫌気性発酵の条件を前記のよ
うに設定すると、実験的には確実に発酵液中に炭酸ガス
還元によると考えられる炭素粒が存在している。この事
実の説明をもとに、一応の理論ずけをすると次の通りと
なり、不完全ながら整合性が認められる。水素生産菌或
いはメタン生成菌により最終的には水素或いはメタンが
生成される過程において、有機物の還元分解により生成
される炭酸ガスが生物の機能により炭素として遊離され
るものとすれば、炭素は炭酸ガスの還元経路において次
の位置になければならない。
【0029】メタン発酵に関する研究分野では、多くの
先人によって炭酸ガス資化の代謝経路がほぼ解明されて
おり、この分野では定説となっているが、炭酸ガスを起
源としてメタンが生成される中間過程において遊離の炭
素或いは一酸化炭素の存在は確認されていない。ところ
が、1988〜1990年に、地球化学の研究者である
小山忠四郎(湖沼ガス代謝(水と環境対策への基礎と応
用)、pp.199〜222、水資源・環境学会叢書
2、成分堂(1991))は湖沼堆積物中における微生
物活動とそのガス代謝を集中的に研究している過程で、
炭酸ガスの生物還元によりメタンが生成する中間過程で
確実に一酸化炭素が生成されることを確認している。
【0030】また、1982年に Zimmerman and Green
berg ( Science Vol. 218,pp.563〜565,
November 5(1982)は、生物学の研究分野におい
て白蟻腸管系に共生している微生物のガス生産量につい
て詳細な実験・調査を行ない次のような結論を得てい
る。 (1)白蟻腸管系微生物は木質系物質を摂取し、代謝産
物として炭酸ガス、一酸化炭素、メタン及び水素を生産
する。 (2)白蟻が生産する水素量は、通常メタンガス量より
も多く、また、一酸化炭素量も物質代謝に関連して無視
できないほど多量であり、メタン量、水素量の10〜2
0%の多きに達する。
【0031】(3)これら代謝ガスの量的関係から推論
すると、メタン発酵に関する研究分野では全くその存在
すら知られていなかった一酸化炭素は、単にメタン生成
菌によるメタン生成の中間代謝物だけでなく、水素生産
菌が水素を生成する過程において同時的に一酸化炭素を
生産するものと考えられる。 これらの文献には、共に酸化炭素の存在は認めている
が、遊離炭素の存在如何については全く記載されていな
い。
【0032】然しながら、嫌気的環境下の自然界におい
て、また、生態系或いは生体系において、メタン発酵に
よりメタンが生成される以前に水素生産菌などの微生物
類によって大量の水素が生産されること、大量の一酸化
炭素の存在が確認されていること、この一酸化炭素は水
素生産菌の代謝に依存するものと、水素生産菌が優占種
として存在する混合培養系においてなお部分的に共生し
ている比較的低pH域の環境を好み、さらに増殖速度も
かなり速いメタン生成菌の代謝の両方に依存しているも
のと考えられる。
【0033】このような研究成果及び実験結果から判断
すると水素生成系及び/又はメタン生成系において部分
的に炭酸ガス中の炭素が分離され、大過剰の水素が大気
中に大量に放出されることも当然あり得ると解釈するこ
とができ、このような解釈は整合性があり、妥当である
ものと結論ずける事ができる。本発明者の実験によれ
ば、加圧水素発酵法において発酵液中に遊離の炭素が認
められるだけでなく、発生ガスとして炭酸ガスとメタン
の生成量が格段に少ない。以上、前記の2文献と実験的
事実から加圧水素発酵法における炭素の遊離経路を推定
すると次の通りである。 炭素遊離の推定経路 (1)炭酸ガスを起点とした炭素遊離の推定経路
【0034】
【化1】
【0035】 (2)有機物を起点とした炭素遊離反応の推定経路 〇 酪酸 CH3 (CH2 2 COO- +2H2 O=2CH3 COO- +H+ +2H 2CH3 COO- 4C+H2 +4H2 〇 有機物(グルコースで代表させる) 4C6 126 2CH3 COOH3CH3 (CH2 2 COOH +8H2 +8CO2 2CH3 COOH4C+H2 +4H2 (1) 3CH3 (CH2 2 COOH12C+6H2 +6H2 (2) (1)+(2) 16C+15H2 +8CO2 +10H2
【0036】加圧水素発酵の条件下において、水素生産
菌とメタン生成菌は系に加えられたストレスにより代謝
制御を受け、水素を大過剰に生産すると共に一酸化炭素
を生成するが、この一酸化炭素は水素により還元されて
炭素を遊離するものと考えられる。炭素の遊離反応はメ
タン生成菌の機能によるものではなく水素生成菌による
炭酸ガスの水素還元によるものと考えられ、本発明にお
けるメタン生成菌の役割は一酸化炭素を生成するところ
までであり、現実にC+2H2 =CH4 のメタン生成反
応は起こり得ないと考えられる。
【0037】以上のように、加圧水素発酵(炭素発酵)
に具体的に関与する細菌のうち主役を演じているのは水
素生産菌であると考えられ、これに補助的にメタン生成
菌が関与しているものと考えられる。このように、マク
ロ的には水素生産菌と炭酸ガス資化性メタン生成菌の共
同作用により有機物の分解が起こると共に水素と遊離の
炭素が生成されるが、2種の細菌による代謝経路を構築
することは、不明な点も多い事もあって容易ではなく、
単に複合代謝経路を推定するに過ぎない。
【0038】通常のメタン発酵では、メタン化への最終
段階を司る補酵素−M(Co−M)が存在し、この還元
によりメタンが生成されるが、加圧発酵でも同様の補酵
素が最終的な代謝に関与し、非結晶性で化学的活性のあ
る炭素がこれに結合し、最終的に水素を離脱するものと
考えられる。 メタン発酵 CH3 ・S・CoM+2H2 → CH4 +HS・Co
M 加圧発酵(炭素発酵) CH2 ・H・S・CoM+2H2 → 3H2 +CH・
S・CoM 水素生産菌とメタン生成菌の共同作用による有機物の分
解にはCoM以外の未知の補酵素が介在するものと考え
られるが未確認の部分が多い。
【0039】次に、本発明の他の2つの条件について解
説する。周知のように、メタン生成菌は偏性嫌気性細菌
の範疇に属し、酸素の存在により決定的な打撃を受ける
だけでなく、通常、このような環境条件では生存するこ
とができない。従って、これらの細菌が生存し、かつ生
活、活動できる酸化還元電位(以下、ORPと略記す
る)には自ずから限界があり、通常、可成り厳密に−3
00〜−350mVの範囲に制限される。
【0040】し尿、下水汚泥などを嫌気的条件下に放置
すると、自然発生的に野性の各種のメタン生成菌が増殖
してくるが、その代表的なメタン生成菌には次のような
種属のものが認められる。 メタノコッカス(Methanococcus) メタノザルシナ(Methanosarcina) メタノスリックス(Methanothrix) メタノブレビバクター(Methanobrevibacter) メタノミクロビウム(Methanomicrobium) メタノスピリルム(Methanospirillum) メタノバクテリウム(Methanobacterium) メタノゲニウム(Methanogenium)
【0041】これらのメタン生成菌は前記のように、
2、3の例外を除けば偏性嫌気性細菌に属し、上記した
ORPの条件下でないと生息できないか或いは機能が劣
化し、かつ増殖速度も低減する。メタン生成菌類は一般
的に下記に示すように最適pH条件、最適温度条件にお
いても増殖速度が極めて遅い。 至適pH ・・・・・7.8 至適温度 ・・・・・28〜33℃ 比増殖速度・・・・・0.3〜0.5day-1 このメタン生成菌の増殖特性は、後述するように本発明
方法の課題、目的を安定して達成するには極めて好都合
である。
【0042】これに対して、水素生産菌類は通性嫌気性
菌の範疇に属し、酸素の存在が必ずしも生存の決定的な
障害にならず、酸素があっても、無くても生活し、増殖
することができる。従って、当然、生存できるORPの
範囲はメタン生成菌よりも正の側に偏差しており、通常
−100〜−200mVが好適ORPの範囲である。し
尿、下水汚泥などの有機性廃棄物に野性的に生息してい
る水素生産菌類は現時点で可成り明確にされ、同定され
ているが、その主なものを列記すると次の通りである。
また、水素生産菌の特質として強力なセルラーゼを生産
する菌が多く、この種の細菌は繊維質を分解して水素を
生産する。
【0043】 クロストリヂウム ブチリクム(Clos
tridium butyricum) クロストリヂウム サーモセラム(Clostridium th
ermocellum) クロストリヂウム ビフェルメンタンス(Clostrid
ium bifermentans) クロストリヂウム スポロゲネス(Clostridium sp
orogenes) クロストリヂウム エアロトレランス(Clostridiu
m aerotolerans) ルミノコッカス アルバ(Ruminococcus alba) ザルシナ マキシマ(Sarcina maxima) など。
【0044】これらの水素生産菌類は、メタン生成菌と
比較すると、対象となる基質により可成りの範囲で変動
するが、次に示すような最適条件下における比増殖速度
はメタン生成菌よりも通常1桁大きく、連続系における
ケモシュタットにおいても菌の滞留時間が0.5〜3.
0日でも系外の洗流される事はない。 至適pH範囲・・・・・5.5〜5.8 至適温度 ・・・・・25〜30℃ 比増殖速度 ・・・・・5〜15day-1
【0045】このように、メタン生成菌と水素生産菌と
の間には最適のORPの範囲に大きい格差があるだけで
なく、最適pH範囲及び増殖速度の間にも大きい格差が
あるので、本発明の加圧水素発酵をメタン発酵に優先し
て、かつ安定して進行させるには有利な条件が具備され
ているのである。メタン生成細菌の中には、例えばメタ
ノブレビバクター(Methanobrevibacter) 、メタノマイ
クロビウム(Methanomicrobium) などは比較的低pH範
囲でも正常に増殖し、機能を発揮するものもあり、また
メタノバクテリウム(Methanobacterium) 、メタノザル
シナ(Methanosarcina) 、メタノスピリラム(Methanos
pirillum) に属するある種のメタン生成菌は増殖速度が
大きく、水素生産菌の増殖速度にほぼ近似している菌種
も存在する。
【0046】以上の事から、加圧水素発酵には水素生産
菌だけでなく、特定のメタン生成菌も水素生産と炭素の
分離にある程度関与していることが理解される。以上よ
り、本発明は地球温暖化の原因物質である炭酸ガスを炭
素に変換し、かつ大量の水素を生産することから、地球
環境保全及び改善に著しく貢献できる画期的な有機性廃
棄物からの水素生産法であると評価される。
【0047】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
るが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではな
い。 実施例1 図1に本発明の方法を実施するための工程図の一例を示
す。この実施例では有機性廃棄物として下水処理場から
発生する混合汚泥(最初沈殿池汚泥+余剰活性汚泥)を
用いて説明する。
【0048】まず、図1において、処理対象として下水
混合汚泥1を流入管を経由して常圧発酵槽2に導入す
る。常圧発酵槽2は特殊な発酵槽ではなく、通常、有機
性廃棄物のメタン発酵に常用される発酵槽と同種のもの
である。常圧発酵槽2の容積は特に限定しないが、汚泥
の滞留時間として3〜5日の容積を有する。これは常圧
発酵槽内2の発酵液に水素生産菌がメタン生成菌よりも
優占種となるように配慮し、メタン生成菌のうちでも増
殖速度の比較的大きい菌種のものだけを残留せしめ、他
の菌種は発酵槽から意識的に洗流せしめることを目的と
しているためである。
【0049】嫌気的条件に放置された下水混合汚泥1の
ORPは、通常メタン発酵が進行するに適した−350
〜−450mVの範囲にあり、絶対嫌気性細菌であるメ
タン生成菌は、発酵槽に投入する以前に既に微弱ながら
活動を開始している。従って、常圧発酵槽2で発酵状態
にある下水混合汚泥1のORPを通性嫌気性細菌である
水素生産菌が活動するのに好適なORPまで上昇させる
ために、特に図1には記載していないが常圧発酵槽2に
大気を圧入し、−100〜−200mV、好ましくは−
150mV程度に調整する。
【0050】常圧発酵槽2におけるORP値を水素生産
菌の至適ORPの範囲に厳密に設定するために、常圧発
酵槽2にORP検知センサーを設置し、空気を圧入する
ためのブロワーと電気的に連動させることにより、発酵
液のORPが常に至適範囲となるように自動制御するこ
とが望ましい。また、空気の圧入は、常圧発酵槽2、加
圧発酵槽7或いは発酵液循環径路10の何れを選択して
もよいが、生物反応系の圧変動幅を可及的小範囲に止め
るために常圧発酵槽に行なう事が好ましい。
【0051】常圧発酵槽2において連続発酵されつつあ
る発酵液は、次いで発酵液引抜きポンプ8により加圧発
酵槽7に連続的に移送される(全体の生物反応系を回分
式に運転することも本発明の目的を阻害するものではな
い)。加圧発酵槽7の容積は特に限定しないが、加圧に
要するブロワー17の動力費を節減するために、0.5
〜1.0日、最大でも1.0日を超えないことが好まし
い。加圧発酵槽7は加圧ブロワー17によって加圧発酵
槽内7の発酵液全体が少なくとも1.0kg/cm2
上の加圧条件となるように制御されている。加圧ブロワ
ー17を介在して常圧発酵槽2と加圧発酵槽7の気相部
は連通しており、加圧発酵槽7の加圧操作が順調に行な
われるように配慮されている。
【0052】また、加圧発酵槽7における圧設定を正確
に行なうために、加圧発酵液循環ポンプ9の吐出側に調
圧弁18を設け、加圧ブロワー17と電気的に連動させ
ることにより至適圧条件を制御するように配慮されてい
る。加圧発酵槽7で連続発酵中の加圧発酵液は循環ポン
プ9により循環パイプ10を経由して常圧発酵槽7に連
続的に循環される。加圧発酵液の常圧発酵槽7への循環
回数は、無限大に循環すれば、理論的には常圧発酵槽2
と加圧発酵槽7を含めた全生物反応系を加圧条件とした
事と等しくなるが、それでは発酵液循環ポンプ9の動力
費が著大となり、本発明の地球環境保全に貢献するとい
う目的を喪失することになる。
【0053】本発明の実証試験の結果から、加圧発酵液
の循環回数は1日当たり10〜20回程度が適当であ
り、それ以上の循環回数を与えても加圧発酵の効果に顕
著な有意差は認められない。常圧発酵槽2と加圧発酵槽
7を含めての全生物反応系に存在する発酵液は、発酵液
中で活動する細菌類の所謂マイクロフローラを水素生産
菌が優占種となり、メタン生成菌の存在を可及的に抑え
るために4.0〜6.0、好ましくはpH6.0に漸近
した値とすることが望ましい。
【0054】図1中には特に記載していないが、常圧発
酵槽2、加圧発酵槽7或いは加圧発酵液循環径路10、
好ましくは常圧発酵槽2にpH検知センサーを設置し、
これに電気的に連動せしめた酸注入ポンプにより酸を注
入し、水素生産菌が健全に増殖、活動するpH6.0近
傍に制御するように配慮されている。次に、全生物反応
系で発生した水素富化ガスは常圧発酵槽2から発生する
引抜き管12を通じて水素ガス13として系外に引抜
き、一時的にガスタンク14に貯蔵し、必要に応じてユ
ースポイント15に送られ、エネルギー源として使用さ
れる。
【0055】一方、加圧発酵され、発酵液中に炭酸ガス
からの生物還元により分離された非結晶性の炭素粒を含
む最終発酵液4は発酵液引抜き管3によって常圧発酵槽
2から槽外に取り出され、炭素分離器5に移送される。
有機性廃棄物を起源として、加圧発酵により炭酸ガスが
炭素と活性酸素(他の有機物に取り込まれる)とに分解
される機構とその理論的根拠(推定理論)及び生物還元
反応式は前記した通りであるが、加圧発酵により分離さ
れた炭素粒は粒径が小さいために、通常の重力に依存す
る分離方式、分離器では分離することは困難である。従
って、本発明では炭素粒を分離するために遠心分離器5
を選択したが、その他の分離器を採用しても本発明の目
的を妨げるものではない。
【0056】ここで、最終発酵液4を炭素分離器5とし
て採用した遠心分離器に導入し、遠心力によって発酵液
4に含まれている未分解の固形物と共に炭素粒6を分離
する。一方、加圧水素発酵法からの消化汚泥は常圧発酵
槽2の消化汚泥引抜き管11によって外部に取り出さ
れ、通常の汚泥脱水機により脱水されるが、この脱水汚
泥に前記の炭素・固形物6を混合し、還元燃焼すること
により炭酸ガスの分解により生成された炭素粒と、発酵
液4に含まれる固形物中の炭素を炭素粒として回収する
ことができ、理想的な方法であるが、この方法によらな
くても本発明の目的を妨げるものではない。炭素分離器
5により分離された液側の脱離液16中にはまだ未分解
の、例えば低級脂肪酸等のBOD源が残留しているの
で、通常の排水処理の手段で公共用水域に害を与えない
程度に処理され、放流される。
【0057】実施例2 図2に本発明の方法を実施するための工程図の他の例を
示す。図1においては、加圧水素発酵法の工程の構成は
前段に常圧発酵槽、後段に加圧発酵槽を設置ちするプロ
セスとなっている。これに対して、図2の工程は前段加
圧発酵槽、後段常圧発酵槽を設置する構成となってい
る。図1の後段加圧水素発酵法は下水混合汚泥のように
多量の有機性固形物が含まれる有機性廃棄物の処理に適
している。
【0058】即ち、前段に発酵日数が3〜5日の容積を
もつ常圧発酵槽を置き、下水混合汚泥中に野性的に生息
している繊維素分解菌或いは高分子の有機性固形物を可
溶化する液化細菌を充分に増殖せしめて固形物をアルコ
ール、アミノ酸或いは低級脂肪酸などに高速、高効率に
分解、液化し、次の加圧発酵の工程で所謂炭素発酵を円
滑に進行せしめて多量の水素ガスと炭素粒を回収するこ
とに主眼をおいた加圧水素発酵法である。
【0059】これに対して、実施例2に示した所謂前段
加圧水素発酵法は有機性固形物の含有量が少ないか、或
いはこれをほとんど含まない有機性廃棄物の処理に適用
するプロセスである。このプロセスの処理対象となる廃
水は、例えば発酵生産物、医薬品などの製造工程から排
出される発酵廃水及び/又はパルプ製造工程から排出さ
れるパルプ蒸解廃水がその代表的なものであるが、この
種の廃水は実施例1で示したような有機性固形物の液化
段階を必要としない。
【0060】従って、処理対象となる有機性廃棄物、濃
厚有機性廃水をいきなり加圧発酵条件下にある発酵槽に
投入し、充分に加圧発酵を行なう事により水素生産菌に
クリーンエネルギーである水素を大量に生産せしめるほ
うが有利でなるだけでなく、地球温暖化の元凶である炭
酸ガスを生物還元して炭素粒として回収・固定化するの
がより合理的である。図2のプロセスは、図1のプロセ
スとは常圧発酵槽と加圧発酵槽の設置順序が逆になって
いるが、このプロセスでの加圧発酵条件、条件設定のた
めの手段、方法、操作は実施例1のプロセスのそれと実
質的に全く同じであるので、実施例2の工程図に沿って
の説明は省略する。
【0061】実施例3 この実験例は、有機性廃棄物として都市下水処理場から
発生する下水混合汚泥を加圧水素発酵した処理例であ
る。実験に供した下水汚泥は、某下水処理場の重力沈殿
濃縮した最初沈殿池と機械脱水した余剰活性汚泥とを、
固形物重量比が自然発生比に近似した2:1となるよう
に混合し、混合汚泥の全固形物濃度がほぼ30g/リッ
トルとなるように水道水を加えて調整し、実験期間中は
変質しないように3〜5℃の冷暗所に保存した。表1に
実験に供した下水混合汚泥の一般的性状、組成を示す。
【0062】
【表1】
【0063】下水混合汚泥は、余剰活性汚泥、その他の
有機性固形物が多量に含まれるため、加圧水素発酵は常
圧水素発酵+加圧水素発酵の方式を採用した。検証実験
では、対照実験と加圧水素発酵の2系列について行な
い、プロセスの構成は対照実験、加圧発酵実験とも常圧
発酵槽と加圧発酵槽の2槽を設け、それぞれの実験に対
応した実験条件を定めた。常圧発酵槽の容積は、実際の
水張り容積(有効容積)が4リットル、加圧水素発酵槽
の水張り容積(有効容積)が1リットルの円筒型発酵槽
をそれぞれ2基ずつ製作して対照実験と加圧水素発酵実
験の実験装置を組上げ、これらを28〜30℃に水温調
整した恒温水槽にセットし、発酵日数が5日の中温発酵
実験を行なった。
【0064】下水混合汚泥の発酵槽への注入は、両実験
ともタイムシーケンサーと連動させたペリスタポンプに
より2.4時間注入、2.4時間休止のサイクルで行な
い、1日当たりの混合汚泥の注入量は5リットルとし
た。常圧発酵槽から加圧発酵槽への発酵液の循環は2基
のペリスタポンプにより連続的に行ない、循環量は20
リットル/日となるように調整した。また、加圧発酵槽
の加圧は循環径路に取り付けた電動式調圧弁と連動して
いるブロワーにより正確に行なった。
【0065】発酵槽からの発生ガスは、一旦ガスタンク
に貯留して1日当たりの発生量を計量し、その後でアル
カリ液に炭酸ガスを吸収せしめて炭酸ガス量を求めた。
液状サンプルの有機性炭素はTOC計及び燃焼法により
液状サンプルをガス化してアルカリ液に炭酸ガスを吸収
させ、炭酸ガス量から計算上求めて有機性炭素量をクロ
スッチェックした。
【0066】対照(実質的にメタン発酵)の実験条件 *pH 6.6〜6.8(人為的に調整せず) *ORP −370mV *圧条件 全槽とも常圧(発酵槽の水深による圧
力のみ) 加圧水素発酵法の実験条件 *pH 6.0近傍(人為的に調整) *ORP −150mV(人為的に調整) *圧条件 常圧発酵槽・・・常圧(水深による圧
力のみ) 加圧発酵槽・・・1.5kg/cm2 (人為的に調整) 以上の実験装置、実験条件における検証実験は、運転が
定常状態に達してから6カ月間継続し、その中間過程で
の1カ月間の処理成績(平均値)を表2に示した。
【0067】
【表2】 *1:それぞれのガス成分の分析は通常のガス分析法に従
った。炭酸ガスに関してはアルカリ液吸収法を併用し、
クロスッチェックした。*2 :発生ガス量は、30℃、1気圧のときの発生量であ
る。*3 :発生ガス中の炭素量は炭酸ガス、メタンの発生量か
ら計算上求めた。
【0068】検証実験によって得られた結果を要約する
と次の通りである。 (1)表2の実験結果からも容易に理解できるように、
下水の混合汚泥をpH及びORPを人為的に調整せず、
単にほぼ常圧の条件で嫌気性発酵すると水素発酵は全く
進行せず、発酵日数5日程度ではメタン発酵が確実に水
素発酵に優先する。
【0069】(2)さらに、この程度の発酵日数では発
酵槽にかかる有機物負荷が大きいために高分子有機物の
可溶化は進すむが有機物の分解率は低く、発酵液中に主
として低級脂肪酸として蓄積される。また、メタン発酵
は水素発酵に優先するが酸発酵優先型のメタン発酵であ
り、発生ガスの絶対値が少ないだけでなく、前記したよ
うに発酵液中には高濃度に酢酸、プロピオン酸、酪酸な
どの低級脂肪酸が含まれる。
【0070】(3)図3に示してあるように、下水混合
汚泥の有機性炭素は発生ガス(CO2+CH4 )によっ
て反応系外に持ち出される量は僅かに20%程度に過ぎ
ず、その約60%は低級脂肪酸中の有機性炭素として発
酵液に残留し、この有機性炭素は次の工程で生物酸化及
び/又は生物還元により炭酸ガスとして大気中に放出さ
れ、地球温暖化防止に対して負の影響を与える。
【0071】(4)これに対して、下水混合汚泥を常圧
発酵槽、加圧発酵槽をともに−150mVの微嫌気条
件、発酵液のpHを6.0の条件に調整すると共に加圧
発酵槽を1.5kg/cm2 の加圧条件下で発酵させる
と、メタン発酵は明らかに抑制され、水素発酵が確実に
優先して進行する。
【0072】(5)図4に加圧水素発酵法にける有機性
炭素の収支を示したが、この図からも明らかなように発
酵槽に投入された有機性炭素のうち発生ガス(主として
CO2による持ち出し量、CH4 による持ち出し量は無
視できる)による反応系外への持ち出し量は僅かに3%
程度であり、有機性炭素のほとんどは発酵液中に炭酸ガ
スから分離した炭素として移行する。
【0073】表2中の加圧水素発酵の有機性炭素9.3
7gは炭酸ガスから分離された炭素と発酵液中に含まれ
る有機性炭素の合計量であり、このことは対照実験の有
機性炭素6.52gの値からも容易に推定できる。分析
上、炭酸ガス由来の炭素と発酵液由来の有機性炭素の計
り分けは実際上困難であるため、加圧水素発酵の残留有
機物(VS値)をCODcr値から類推したが、残留有
機物の有機性炭素量は約3.4g(36%)、炭酸ガス
由来の炭素量は5.97g(64%)であろうと考えら
れる。
【0074】
【発明の効果】本発明は、詳述したように、従来技術と
は全く異なる視点、思想からの発想による革新的な発明
であり、次のような作用効果を有する。 (1)有機性廃棄物を嫌気的条件下で処理するに当た
り、有機性廃棄物例えば下水混合汚泥を発酵槽内におい
て1.5kg/cm2 の加圧条件、ORP−150m
V、pH6.0の条件に人為的に調整し、水素生産菌の
増殖、活動を助長することにより、地球温暖化を加速す
るメタンガスと炭酸ガスを大量に発生するメタン発酵を
確実に抑制し、クリーンエネルギーを大量に生産する水
素発酵を進行させることができる。
【0075】(2)また、有機性廃棄物を前記の3条件
に調整し、水素発酵を優先させることにより、従来のメ
タン発酵において有機物の還元分解によって生成される
炭酸ガスを遊離の炭素として反応系外に取り出すことが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の加圧水素発酵法の一例を示す工程図。
【図2】本発明の加圧水素発酵法の他の例を示す工程
図。
【図3】対照実験における炭素収支を示す系統図。
【図4】加圧水素発酵法における炭素収支を示す系統
図。
【符号の説明】
1:有機性廃棄物、2:常圧発酵槽、3:発酵液引抜き
管、4:最終発酵液、5:炭素分離器、6:炭素固形
物、7:加圧発酵槽、8:引抜きポンプ、9:循環ポン
プ、10:循環パイプ、11:消化汚泥引抜き管、1
2:発生ガス引抜き管、13:水素ガス、14:ガスタ
ンク、15:ユースポイント、16:脱離液、17:加
圧ブロワー、18:調圧弁

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 有機性廃棄物を水素発酵させるにあた
    り、前記水素発酵における発酵液を、液の静圧が加圧条
    件となるように制御しながら発酵させることを特徴とす
    る有機性廃棄物の加圧水素発酵法。
  2. 【請求項2】 有機性廃棄物を水素発酵させるにあた
    り、前記水素発酵は、発酵槽を常圧発酵と加圧発酵の2
    段に分割し、加圧条件下にある加圧発酵槽に常圧発酵槽
    の発酵液を連続的に循環することにより水素発酵が遅退
    なく進行する加圧条件に調整しながら発酵させることを
    特徴とする有機性廃棄物の加圧水素発酵法。
JP30859893A 1993-11-16 1993-11-16 有機性廃棄物の加圧水素発酵法 Pending JPH07136694A (ja)

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