JP4675669B2 - 高温性クロストリジウム(Clostridium)属細菌の検出用培地、検出期間短縮方法、及び細菌検出方法 - Google Patents

高温性クロストリジウム(Clostridium)属細菌の検出用培地、検出期間短縮方法、及び細菌検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、レトルト缶飲料製品に対する変敗指標菌である高温性クロストリジウム属細菌を簡易かつ迅速に検出する培地、高感度検出期間短縮化方法に関する。
コーヒーやしるこ等のレトルト缶飲料は、通常、出荷前に120℃から125℃で20分から40分程度の加熱殺菌が行われるが、このような殺菌によっても死滅しない細菌がある。かかる細菌は一般に高温菌と呼ばれているが、この細菌は40℃以下の温度下においては増殖することもなく、何ら問題とはならない。
しかし、ホットベンダーで加温販売される可能性のあるレトルト缶入り飲料にこのような菌が混入していた場合には、ホットベンダー内の温度がそのような細菌の最適増殖温度(55℃から60℃付近)にあたるために、細菌が増殖し、飲料に変敗を起こしてしまう可能性があり、そのような事態が生じないように事前に対策を講じておく必要がある。
ここで、このような高温における変敗を防止する際の指標となる菌(変敗指標菌)として、嫌気性の高温性クロストリジウム属細菌がある。この菌は発育に不適当な環境下では芽胞を形成して活動を停止しているが、発育条件が整うと通常の菌体に戻って増殖を始めるため、その存否につき出荷前に綿密な検査を行うことは製品管理上極めて重要である。
このようなことから、事前に変法TGC培地を使った混釈法や試験管による検査法、特許文献1に記載される検出用培地を使った検出法を用いて、高温性クロストリジウム属細菌を検出し、当該菌が検出されたものを出荷工程から排除するようにしている。
しかしながら、高温性クロストリジウム属細菌については増殖速度が遅いことに加え、乳入り飲料において検出を行おうとした場合には、乳成分の拡散等によって菌体の確認をすることが極めて困難となるため、上記従来の変法TGC培地を使った混酌法や試験管による検出法によっては迅速に検出することができなかった。より具体的に言えば、その検出期間が一般の細菌では2日間程度であるのに対し、高温性クロストリジウム属細菌の場合には5日から7日間の検出期間がかかっていた。また、特許文献1に記載される検出用培地を用いたとしても、3日間の検出時間を要してしまい、充分な迅速性を保っていたとはいえなかった。
また、従来、嫌気性細菌の検出を目的とした半流動培地への検体の接種は、検体の嫌気性状態を保つために、検体接種の位置を検出培地の底部に固定して、検体が培地底部から舞い上がらないように接種していた。
しかしながら、このような接種方法では、培地量に対して相対的に多量の検体を接種しなければ培地の色変化を視認することができない、即ち検出感度が低いという欠点、また、多量の検体を接種する必要があること自体の不経済性も付随的欠点として存在した。
特開2002−58474号公報
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、レトルト缶の飲料製品に対する変敗指標菌である高温性クロストリジウム属細菌を、簡易かつより迅速に検出できるような培地を提供することにある。
本発明の他の目的は、高温性クロストリジウム属細菌等の嫌気性細菌の検出感度を高め、かつ、より短く一般的細菌の検出期間と同等の期間内に細菌を検出できるような検出期間短縮化方法を提供することにある。
以上のような目的を達成するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、ニュートラルレッドを含む高温性クロストリジウム属細菌検出用培地に、細菌培養前にデンプンを添加することによって高温性クロストリジウム属細菌の検出を簡易かつより迅速に行うことができるようにし、本発明を完成するに至った。
また、高温性クロストリジウム属細菌等の嫌気性細菌検出培地に検体を接種する際に、検体が培地表面部に舞い上がらない程度に、検体を培地中に混合することによって、培地量に対する検体の相対的量を増やすことなく、高温性クロストリジウム属細菌等の嫌気性細菌の検出感度を高め、短期間内に検出できるようにし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、高温性クロストリジウム属によってニュートラルレッドが代謝され、それが「変色」という結果となって表れるため、視認が容易であり、乳入り飲料のような視認が困難なものについても的確かつ簡易に検出を行うことができるのみならず、細菌培養前に予めデンプンを検出用培地に添加することにより、一般の菌の検出と同等の短期間で高温性クロストリジウム属細菌を検出できるようになる。(ちなみにデンプンは、乳入り飲料中に乳化目的で添加されている乳化剤の一部が有すると推測されている抗菌作用を妨げることにより、高温性クロストリジウム属細菌の増殖を間接的に促進し、その検出速度を高めている可能性が考えられている。)
また、本発明によれば、検体と培地との混合域内における、検体に含まれていた乳化剤量に対する相対的な培地量が増加して、乳化剤の抗菌作用が弱められるためか、培地量に対してより少量の検体でも、培地の「変色」が視認できるようになる。
より具体的に本発明の内容を示すと、それは以下のようなものである。
(1)高温性クロストリジウム属細菌を検出するための培地であって、ニュートラルレッドと、0〜25g/Lのデンプン(ただし、0の場合を除く)と、が細菌培養前に予め添加されていることを特徴とする高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
本発明による変色工程等を阻害しない限り、ニュートラルレッドやデンプン以外のものが培地中に含まれていても良い。このような本発明は、対象菌が増殖すると、菌体の代謝により色素が分解され、これにより培地が変色することによって菌体の存否を判別するものであるところ、菌を培養した後に色素を添加したのでは、かかる変色反応が確認できなくなってしまう。
なお、添加した色素の変化により菌の存否を確認する方法は、特開昭59−2699号公報や特開昭57−68796号公報においても明らかにされているが、これらはいずれも細菌検出用培地のpH変化に伴う色の変化により菌の存否を確認するものである。従って、菌体による代謝によって生じる色の変化から細菌の存否を判別する本発明とは異なるものである。
「ニュートラルレッド」はpH指示薬として広く知られているが、本明細書においては菌体の代謝によって変色する色素として用いている。即ち、「ニュートラルレッド」がpH変化に伴って変色するからではなく、培地中で高温性クロストリジウム属細菌が増殖すると、菌体の代謝によって「ニュートラルレッド」が分解され、これに伴って培地が黄色に変色することから本発明に有効であるということになる。
「デンプン」を培地に加えるのは、結果的に、高温性クロストリジウム属細菌の増殖が早まるからである。即ち、他の一般の菌の増殖に比べて、芽胞形成菌である高温性クロストリジウム属細菌の増殖は遅いにもかかわらず、飲料製造の現場においては、できる限り新鮮な飲料を出荷するために、一刻も早い菌体の存否の判別が求められるところ、結果的に、菌の増殖を早めることによって、検査速度を加速させる必要があることによる。後述する実施例に示される通り、予め添加されるデンプンの濃度は、0〜25g/L(ただし、0の場合を除く)であれば検査速度の加速が実現される。ここで、添加されるデンプンの濃度は好ましくは0.1〜25g/L、より好ましくは0.1g/L〜20g/L、さらに好ましくは0.5g/L〜20g/Lである。なお、この濃度については絶対的なものではなく、適用される対象(スープとか飲料とか)により適宜変化する相対的なものである。また、後述するように、使用するデンプンの種類によっても変動する。
(2)高温性クロストリジウム属細菌を検出するための培地であって、ニュートラルレッドと、0〜25g/Lのデンプン(ただし、0の場合を除く)と、1〜30nmol/Lのピルビン酸又はピルビン酸塩と、が細菌培養前に予め添加されていることを特徴とする高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
更に「ピルビン酸又はピルビン酸塩」を培地に加えるのは、他の一般の菌の増殖に比べて、芽胞形成菌である高温性クロストリジウム属細菌の増殖が遅いことによる。前述の通り、飲料製造の現場においては、一刻も早い菌体の存否の判別が求められるところ、細菌増殖促進物質を添加して菌の増殖を早めることによって、検査速度を更に加速させる必要があることによる。
ピルビン酸はエネルギー代謝の中間生産物であるが、本発明における細菌増殖促進物質として有効である。なお、クロストリジウム属細菌はグルコース、フルクトース、キシロースの3種の糖の資化性を有するが、ピルビン酸が好適である。
しかし、ピルビン酸は冷蔵保存が必要とされる粘性の高い液体であり、また、培地調整時にリン酸水素二カリウムの添加によってpHの調整が必要となる。このような手順を簡素化するために、ピルビン酸塩で代用することもできる。
後述する実施例に示される通り、添加されるデンプンの濃度は、0〜25g/L(ただし、0の場合を除く)であれば検査速度の加速が実現されるところ、好ましくは0.1〜25g/L、より好ましくは0.1g/L〜20g/L、さらに好ましくは0.5g/L〜20g/Lである。
(3)前記ニュートラルレッドは、1〜40mg/Lの濃度で含まれていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
(4)前記デンプンは、不溶性デンプンである(1)から(3)いずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
「不溶性デンプン」を培地に加えるのは、可溶性デンプンを加えた場合に比べて少量の添加量でも、色素の変色が短期間内に明瞭に視認できるからである。
(5)前記デンプンは、トウモロコシ由来のデンプンである(1)から(4)いずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
「トウモロコシ由来のデンプン」を加えるのは、それ以外のデンプンを加えた場合に比べて少量の添加量でも、色素の変色が短期間内に明瞭に視認できるからである。
(6)前記培地は、変法TGC培地である(1)から(5)いずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
レトルト缶飲料はホットベンダーで加温販売されることがあるため、芽胞形成菌である高温性クロストリジウム属細菌の検出が必要とされる飲料製品である。また、缶飲料は外から缶の中身の状態を透視できないことからも、ペットボトル飲料に比べて、出荷前段階における缶飲料中の細菌検出の重要性は更に高い。
pH4.6以下の酸性飲料においては、高温性クロストリジウム属細菌の耐熱性は低下し、また発育も抑制されるためにあまり問題とならないが、pHが4.6を超える「低酸性飲料」においては当該菌の増殖が可能であることから、低酸性飲料におけるかかる菌の検出は極めて重要である。なお、「低酸性飲料」には、紅茶、烏龍茶等の茶系飲料、その他、コーヒー、ココア、缶入りしるこやスープなど様々な飲料が含まれる。
乳成分が含まれているとその拡散のため、従来法による高温性クロストリジウム属細菌の検出は困難となってしまうが、本発明によれば、乳成分の有無にかかわらず簡易迅速に菌の検出が可能となる。本明細書において「乳入り飲料」と言うときには、乳成分を含有するあらゆる飲料が含まれる。「乳成分」としては例えば、脱脂粉乳、バター、クリーム等が挙げられる。
(7)乳化剤入り飲料製品中の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地であることを特徴とする(1)から(6)いずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
乳化剤が含まれているとその抗菌作用により菌の増殖が抑えられるため、従来法による高温性クロストリジウム属細菌では、菌の検出時間が長くなってしまうが、本発明によれば、乳化剤の有無にかかわらず簡易迅速に菌の検出が可能となる。
高温性クロストリジウム属細菌検出用培地としては、高温性クロストリジウム属細菌が嫌気性細菌であるという性質上、半流動培地を好適に用いることができる。
後述する実施例に示す通り、当該培地を用いると、クロストリジウム属細菌の中でも、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクム(Clostridium thermohydrosulfuricumについての簡易迅速な菌の検出が可能となる。
(8)ニュートラルレッドが細菌培養前に添加されている培地を用いて検体中の高温性クロストリジウム属細菌を検出する際に、デンプンを使用する方法。
(9)飲料中の高温性クロストリジウム属細菌の検出用培地へ細菌培養前に予めデンプンを添加することにより、検体中の高温性クロストリジウム属細菌の検出期間を短縮する検出期間短縮化方法。
(10)デンプンを主成分とする高温性クロストリジウム属細菌の検出期間短縮化剤。
「主成分とする」というのは、飲料中の乳化剤を包摂するデンプンの作用を妨害しない限り、デンプン以外の物質が含まれていてもよいことを表明するためのものである。
(11)ある程度の深さを備える容器中に半流動培地もしくは流動培地を所定の深さを有するまで加えることにより構成された嫌気性細菌検出体であって、前記培地は、検出対象となる嫌気性細菌の代謝活動により色変化を生ずるものであり、前記培地の外気と接する所定深さは、当該所定深さより下の培地を外気から遮蔽するシールド層として設定されており、前記培地の前記所定の深さと、前記シールド層の所定深さと、は検出対象となる菌の代謝活動により生じる色変化の速度に応じて設定されており、前記シールド層よりも下の培地に対して、検出対象菌の接種が行われるとともに攪拌動作が行われるものである嫌気性細菌検出体。
「培地の所定の深さ」とは、好気性細菌ではなく嫌気性細菌が検出できるよう、菌の検出時において「シールド層」よりも下の培地が残存するように設定される深さである。培地には半流動培地又は流動培地のいずれも用いることができるが、流動培地では外気が溶解した培地層がより活発に下層へと流動してしまうため、流動培地においては半流動培地よりも「シールド層の所定深さ」が大きくなり、結果として「培地の所定の深さ」も大きく設定する必要がある。
「シールド層」とはシールド層よりも下の培地を外気から遮蔽する層であり、その存在のおかげで、シールド層よりも下の培地では嫌気性細菌が好適に増殖できる嫌気状態が保たれ、嫌気性細菌の代謝活動によるシールド層の下の培地の色の変化の有無により嫌気性細菌の存在を判断できる。「シールド層の所定深さ」とは、培地の変色によって菌の検出ができる時まで、シールド層よりも下の培地の嫌気状態を保つことができるように設定されるシールド層の深さである。
シールド層よりも下の培地に検出対象菌を接種する際、接種とともに培地との攪拌動作を行うことにより、嫌気性細菌に培地が効果的に供給され、デンプンが検体に多く行き渡り、結果的に、菌の増殖速度が高まる。従って、菌の検出期間が短縮される。
(12)半流動培地もしくは流動培地中に検体の接種をする検体接種工程と、前記接種された検体を前記培地中に均一化する混合工程と、を含む嫌気性細菌の検出工程において、前記検体接種工程においては、前記を有効に抑制できる低溶存酸素濃度領域のみに前記検体の接種をし、前記混合工程では、前記低溶存酸素濃度領域を主として混合する、嫌気性細菌検出期間短縮化方法。
この明細書において「低溶存酸素濃度領域」と言うときは、高温性クロストリジウム属細菌等の増殖に適している嫌気状態を有している範囲をいう。また、「低酸素溶存濃度領域を主として混合する」とは、低酸素溶存濃度領域のみを混合することが好ましいが、検体の一部が低酸素溶存濃度領域でない領域に混入してしまったとしても、結果的に嫌気性細菌が検出できる培地領域があればよいことを表明するためのものである。
また、この明細書における「均一化」とは、検体中の高温性クロストリジウム属細菌等の嫌気性細菌に培地を効果的に供給するための作業であり、デンプンが検体に多く行き渡り、結果的に、菌の増殖速度を高めるための作業でもある。検体を接種しながら均一化してもよいし、接種後に検体と培地を均一化してもよい。ピペット等により培地中への検体の排出及び吸入を連続的に繰り返すことにより均一化してもよいし、ピペット等の混合手段と培地との相対的位置を連続的に変えることにより均一化してもよい。接種に用いた器具を用いて均一化してもよいし、滅菌化されていれば別の器具を用いて均一化してもよい。いずれにしても、「低溶存酸素濃度領域」内の嫌気状態を保てるよう、空気が培地中へ取り込まれないことを注意する必要がある。
ニュートラルレッドと、デンプンと、ピルビン酸又はピルビン酸塩と、が細菌培養前に予め添加されている高温性クロストリジウム属細菌検出用培地を用いると、前述の通り、高温性クロストリジウム属細菌の検出期間が短縮される。従って、培地への酸素溶解の進行も表層部のよりわずかな領域に抑えられるため、「低溶存酸素濃度領域」を多くとることが可能となり、より多くのデンプンが検体に行き渡り、高温性クロストリジウム属細菌の増殖速度がより更に高まる。
(13)ある程度の深さを備える容器中に半流動培地もしくは流動培地を所定の深さを有するまで加えることにより構成する嫌気性細菌検出体作成工程と、前記培地中に検出対象菌の接種を行うとともに攪拌動作を行う接種攪拌工程と、を含む嫌気性細菌検出方法であって、前記嫌気性細菌検出体作成工程における、前記培地は、検出対象となる嫌気性細菌の代謝活動により色変化を生ずるものとし、前記培地の外気と接する所定深さは、当該所定深さより下の培地を外気から遮蔽するシールド層として設定し、前記培地の前記所定の深さと、前記シールド層の所定深さと、は検出対象となる菌の代謝活動により生じる色変化の速度に応じて設定し、前記接種攪拌工程は、前記シールド層よりも下の培地に対して、検出対象菌の接種を行うとともに攪拌動作を行う工程である嫌気性細菌検出方法。
シールド層よりも下の培地に検出対象菌を接種する際、接種とともに培地との攪拌動作を行うことにより、嫌気性細菌に培地が効果的に供給され、デンプンが検体に多く行き渡り、結果的に、菌の増殖速度が高まる。従って、シールド層よりも下の層では、より早い速度で嫌気性細菌のみが好適に増殖するため、嫌気性細菌の検出期間が短縮される。
(14)高温性クロストリジウム属細菌を検出するための培地であって、ニュートラルレッドと、菌体の増殖促進に有効な量の検体内抗菌物質を包摂する包摂物質と、1〜30nmol/Lのピルビン酸又はピルビン酸塩と、が細菌培養前に予め添加されていることを特徴とする高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
デンプン以外であっても、検体内に存在する抗菌物質を包摂する包摂能を有している物質であれば、それが検出用培地へ細菌培養前に予め添加されると、結果的に菌の増殖速度が高まり、菌の代謝活動によってニュートラルレッドの変色が迅速に視認できるようになり、高温性クロストリジウム属細菌の検出期間が短縮される。
本発明によれば、例えば、レトルト缶の飲料製品に対する変敗指標菌である高温性クロストリジウム属細菌を、簡易かつより迅速に検出できるような培地を提供できる。また、本発明によれば、例えば、高検出感度で高温性クロストリジウム属細菌を検出できるような検出方法を提供できる。
基礎となる培地の調整は定法による。例えば変法TGC培地や亜硫酸鉄培地等を用いることができる。また菌の測定は、高温性クロストリジウム属細菌が嫌気性であることを考慮する必要がある。そのため、平板培養法ではなく半流動培地で行う方法がある。
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明の本質が菌体の代謝によって変色する色素と、デンプンと、を培地中に含ませることであることは明らかであるから、その本質部分が変更されない限りにおいて種々の変更を行うことが可能である。また、培地の所定の深さやシールド層の所定深さのとり方も、嫌気性細菌の検出ができる限りにおいて種々の変更を行うことが可能である。従って、本発明は以下の実施例だけに限定されるものではない。
(実施例1)
30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/L、ピルビン酸ナトリウムを0.8g/Lの濃度となるように添加した培地(以後α培地とする)に対して、トウモロコシ由来のデンプンを下記の組成で添加した。
A)α培地
B)α培地+トウモロコシ由来のデンプン10g/L
クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子を102〜0cfu/mlとなるよう乳入りコーヒーに懸濁した検体液1mlを上記培地に接種し、60℃で培養し、MPN法による検出感度及び判定期間の検討を行ったところ、以下の表1に示す結果が得られた。
ここで、MPN法とは、まず、菌液を希釈していき希釈段階ごとに5本の試験管に接種する。そして、細菌の培養後に何本の試験管に菌が増殖したかを見ることにより、統計的に菌の濃度を算出する方法である。検出感度等を比較するのに有効な手法である。以下の表1に各種色素を細菌培養前に添加した場合におけるMPN法による比較結果を示す。なお、この表において、例えば2/3とあるのは、接種した3本のうち2本に菌が生えていることを意味する。
Figure 0004675669
この結果、30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/L、ピルビン酸ナトリウムを0.8g/Lの濃度となるように添加した培地に対して、トウモロコシ由来のデンプンを添加することにより、検出速度、感度が向上することが明らかとなった。
(実施例2)
30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/Lの濃度となるように添加し、可溶性デンプン及びトウモロコシ由来のデンプンを下記の組成で調整した。
A)変法TGC
B)変法TGC+可溶性デンプン5g/L
C)変法TGC+可溶性デンプン10g/L
D)変法TGC+可溶性デンプン20g/L
E)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン0.1g/L
F)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン1g/L
G)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン3g/L
H)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン5g/L
I)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン10g/L
J)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン20g/L
K)変法TGC+トウモロコシ由来のデンプン40g/L
これらの培地を各3本ずつの試験管内に用意し、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlとなるよう乳入りコーヒーに懸濁した検体液を接種し、60℃で培養し、MPN法による検出感度及び判定期間の検討を行ったところ、以下の表2に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
この結果、30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/Lの濃度となるよう添加した場合には、トウモロコシ由来のデンプンを0.1〜20g/Lの濃度となるように添加することが適しており、1〜20g/Lの濃度が好ましく、3〜20g/Lの濃度がさらに好ましいことが分かった。また、可溶性デンプンの場合は、10〜20g/Lの濃度となるように添加することが適していることが分かった。
(実施例3)
上記実施例2と同じ組成の培地を各3本ずつの試験管内に用意し、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlとなるようコーンスープに懸濁した検体液を接種し、60℃で培養し、MPN法による検出感度及び判定期間の検討を行ったところ、以下の表3に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
この結果、コーンスープに懸濁させた検体を用いるときは、30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/Lの濃度となるよう添加した場合に、トウモロコシ由来のデンプンを1〜20g/Lの濃度となるように添加することが適しており、3〜20g/Lの濃度が好ましく、5〜20g/Lの濃度がさらに好ましいことが分かった。また、可溶性デンプンの場合は、10〜20g/Lの濃度となるように添加することが適していることが分かった。
(実施例4)
細胞増殖促進物質であるピルビン酸ナトリウムを0.8g/Lの濃度となるように添加した前記α培地を用いて、実施例2と同様の実験を行った。即ち、各培地のデンプンの組成は下記の通りである。
A)変法TGC
B)α培地+可溶性デンプン5g/L
C)α培地+可溶性デンプン10g/L
D)α培地+可溶性デンプン20g/L
E)α培地+トウモロコシ由来のデンプン0.1g/L
F)α培地+トウモロコシ由来のデンプン1g/L
G)α培地+トウモロコシ由来のデンプン3g/L
H)α培地+トウモロコシ由来のデンプン5g/L
I)α培地+トウモロコシ由来のデンプン10g/L
J)α培地+トウモロコシ由来のデンプン20g/L
K)α培地+トウモロコシ由来のデンプン40g/L
これらの培地を各3本ずつの試験管内に用意し、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlとなるよう乳入りコーヒーに懸濁した検体液を接種し、60℃で培養したところ、以下の表4に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
この結果、30g/Lの変法TGC培地に、1%(W/V)のニュートラルレッドを1ml/L、細胞増殖促進物質であるピルビン酸ナトリウムを0.8g/Lの濃度となるように添加した場合には、トウモロコシ由来のデンプンを0.1〜20g/Lの濃度となるように添加することが適しており、1〜20g/Lの濃度が好ましく、3〜20g/Lの濃度がさらに好ましいことが分かった。また、可溶性デンプンの場合は、10〜20g/Lの濃度となるように添加することが適していることが分かった。
(実施例5)
菌の増殖を早めるべく、培地へ添加するピルビン酸又はピルビン酸塩の適切な濃度を調査したところ、その濃度が1nmol未満の濃度になると増殖効果がほとんど現れず、30nmolを超える濃度となると菌の生育阻害が見られた。従って、菌の増殖を早め、迅速な検査を行うためには、培地へ加えるピルビン酸又はピルビン酸塩の濃度は1〜30nmolが適していることが分かった。
(実施例6)
前記α培地にトウモロコシ由来のデンプンを10g/Lとなるように添加した培地を各々の試験管内に10cmの高さになるよう用意した。その培地にクロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子を102〜0cfu/mlとなるよう乳入りコーヒーに懸濁した検体液を上記培地に1ml接種し、60℃で培養した。その接種方法は下記の通りに行った。
A)(実施例1〜5と同様に)検体が底部から舞い上がらないように、試験管底部にパスツールピペットで接種した。
B)底部から約5cmの範囲の培地にパスツールピペットを用いて放出し、数回の放出及び吸入を繰り返して、同範囲内の培地に均一化した。
上記の通り、接種を行ったところ、以下の表5に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
試験管中培地の高さのおよそ底部側半分に接種し、底部側半分の培地に混和させた方が、MPN値が高く、より少ない菌体量であっても接種菌の菌体の存在を視認することができることが明らかとなった。
(実施例7)
デンプン添加の最適条件の検討を行った。各培地のデンプンの組成は下記の通りである。
A)α培地+トウモロコシ由来のデンプン10g/L(実施例6のB)と同様)
B)α培地+可溶性デンプン10g/L
C)α培地+可溶性デンプン20g/L
D)α培地+トウモロコシ由来のデンプン0.1g/L
E)α培地+トウモロコシ由来のデンプン1g/L
F)α培地+トウモロコシ由来のデンプン3g/L
クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子を102〜0cfu/mlとなるよう乳入りコーヒーに懸濁した検体液を上記培地A)〜F)に接種し、60℃で培養した。また接種方法は底部から約5cmの範囲の培地にパスツールピペットを用いて放出し、数回の放出及び吸入を繰り返して、同範囲内の培地に均一化する方法で実施した。以下の表6に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
この結果、底部側半分の培地に混和させた場合においても、デンプンの添加量は、可溶性デンプンでは10〜20g/L、不溶性デンプンであるトウモロコシ由来デンプンでは0.1g/L以上の濃度で好適であることが明らかとなった。
(実施例8)
前記α培地にトウモロコシ由来のデンプンを10g/Lとなるように添加した。これらの培地を各々の試験管内に10cmの高さになるよう用意し、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlを接種したが、その接種方法は下記の通りに行った。
A)検体が底部から舞い上がらないように、試験管底部にパスツールピペットで接種した。
B)底部から5cmの範囲の培地にパスツールピペットを用いて放出し、数回の放出及び吸入を繰り返して、同範囲内の培地に均一化した。
上記の通り、接種を行ったところ、以下の表7に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
試験管中培地の高さのおよそ底部側半分に接種し、底部側半分の培地に混和させた方が、MPN値が高く、より少ない菌体量であってもクロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの菌体の存在を視認することができることが明らかとなった。
(実施例9)
前記α培地にトウモロコシ由来のデンプンを以下の濃度となるように添加した。これらの培地を各3本ずつの一般的形状の試験管内に10cmの高さになるよう用意し、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlを以下のような方法で接種した。缶入りコーヒー(乳入り)以外の飲料について行ったところ、以下の結果が得られた。
A)トウモロコシ由来のデンプンは培地に添加せず、底部からの舞い上がりが視認できないよう静かにパスツールピペットを用いて試験管底部に接種した。
B)トウモロコシ由来のデンプンを10g/Lの濃度となるように培地に添加し、底部から5cmの範囲の培地にパスツールピペットを用いて放出し、数回の放出及び吸入を繰り返して、同範囲内の培地に均一化した。
クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子を102〜0cfu/mlとなるよう各種飲料に懸濁した検体液を上記培地に1ml接種し、60℃で培養した。以下の表8から表12に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
Figure 0004675669
Figure 0004675669
Figure 0004675669
Figure 0004675669
この結果から、他のレトルト缶飲料においても48時間の培養での細菌の検出ができることが明らかになった。
(実施例10)
前記α培地にトウモロコシ由来のデンプンを以下の濃度となるように添加した。これらの培地を各3本ずつの一般的形状の試験管内に10cmの高さになるよう用意した。実際に製品を作る場合にはレトルト殺菌をしているため、菌体は損傷しているものと考えられることから、121℃20分間の熱処理を行った後、クロストリジウム サーモヒドロスルフリクムの胞子液10cfu/mlを以下のような方法で接種した。
A)トウモロコシ由来のデンプンは培地に添加せず、底部からの舞い上がりが視認できないよう静かにパスツールピペットを用いて試験管底部に接種した。
B)トウモロコシ由来のデンプンを10g/Lの濃度となるように培地に添加し、底部から5cmの範囲の培地にパスツールピペットを用いて放出し、数回の放出及び吸入を繰り返して、同範囲内の培地に均一化した。
以上の方法で実験を行ったところ、以下の表13に示す結果が得られた。
Figure 0004675669
この結果、レトルト殺菌の有無にかかわらず、48時間で菌を検出することが明らかになった。
本発明は、レトルト缶飲料等に含まれる嫌気性細菌の存在を、短期間内に高感度で検出するための培地及びそのために効果的な接種方法として好適に使用することができる。

Claims (8)

  1. 高温性クロストリジウム(Clostridium属細菌を検出するための培地であって、ニュートラルレッドと、10〜20g/Lの可溶性デンプン又は0.1〜20g/Lの不溶性デンプンと、が細菌培養前に予め添加されていることを特徴とする高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  2. 高温性クロストリジウム(Clostridium属細菌を検出するための培地であって、ニュートラルレッドと、10〜20g/Lの可溶性デンプン又は0.1〜20g/Lの不溶性デンプンと、1〜30nmol/Lのピルビン酸又はピルビン酸塩と、が細菌培養前に予め添加されていることを特徴とする高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  3. 前記ニュートラルレッドは、1〜40mg/Lの濃度で含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  4. 前記デンプンは、トウモロコシ由来のデンプンである請求項1からいずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  5. 前記培地は、変法TGC培地である請求項1からいずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  6. 乳化剤入り飲料製品中の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地であることを特徴とする請求項1からいずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地。
  7. 飲料中の高温性クロストリジウム(Clostridium属細菌の検出用培地へ細菌培養前に予めニュートラルレッド及び10〜20g/Lの可溶性デンプン又は0.1〜20g/Lの不溶性デンプン含ませることにより、検体中の高温性クロストリジウム属細菌の検出期間を短縮する検出期間短縮化方法。
  8. 半流動培地もしくは流動培地中に検体の接種をする検体接種工程と、前記接種された検体を前記培地中に均一化する混合工程と、を含む高温性クロストリジウム属細菌の検出工程において、
    前記検体接種工程においては、前記培地としての請求項1から6いずれかに記載の高温性クロストリジウム属細菌検出用培地のうち、外気面から所定距離以上離れた領域であって、検出時まで好気性細菌の増殖を有効に抑制できる低溶存酸素濃度領域のみに前記検体の接種をし、
    前記混合工程では、前記放出の直後に前記低溶存酸素濃度領域を主として混合する高温性クロストリジウム属細菌検出方法。
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