JP4675494B2 - 自動溶射方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アークにより溶融させた金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに取り付けて、該マニピュレータを制御することにより被溶射面上への溶射皮膜の形成を自動的に行わせる自動溶射方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
港湾施設、橋梁、鉄塔等、屋外に設置される設備の構成部材においては、その表面に耐蝕性を有する皮膜を形成することが多い。
【0003】
素材または製品の表面に耐蝕性の皮膜を形成する方法の一つとして、アーク溶射方法が知られている。アーク溶射方法においては、アーク熱により溶融させた金属をガス流により霧化して噴射する溶射ガンを用い、該溶射ガンから噴射する溶融金属の微粒子(溶射金属)を素材または製品の被溶射面に吹き付けて溶射皮膜を形成する。
【0004】
図2はアーク溶射方法に用いる溶射ガン1の要部の構成の一例を示したもので、同図において101,101は、所定の送り速度で送給される溶射用ワイヤ102,102を溶射方向(溶融金属微粒子を吹き付ける方向)に沿う軸線上の一点に向けてガイドするワイヤガイド管である。ガイド管101,101の先端部はノズル101a,101aとなっていて、これらのノズルは、溶射用ワイヤ102,102のそれぞれの先端を溶射軸線[溶融金属の噴射方向(溶射方向)に沿う軸線]O−O上の一点(アーク発生点)Aに指向させるように設けられている。ワイヤガイド管101,101は導電材料からなっていて、図示の例では、これらのワイヤガイド管が、溶射用ワイヤ102,102の先端間でアークを発生させるために該複数の溶射用ワイヤ間に電圧を印加する給電手段を兼ねている。また103は溶射軸線O−Oに沿ってアーク発生部に吹き付ける一次ガス流G1 を生じさせる一次ガス供給管、104はオリフィス104aを有して、該オリフィスからアーク発生点よりも前方の溶射軸線O−O上の一点Bで集束する円錐状の二次ガス流G2 を噴出するノズルである。
【0005】
この溶射ガン1においては、溶射用ワイヤ102,102の先端部間でアークを発生させて、このアークの熱によりワイヤ102,102の先端部を溶融させ、溶融した金属を一次ガス流G1 により霧化させる。霧化した溶融金属の微粒子は二次ガス流G2 とともに溶射軸線O−Oに沿って、図示しない被溶射物に向けて噴射させられる。
【0006】
図2に示した例では、2本の溶射用ワイヤが用いられているが、2本以上(例えば3本)の溶射用ワイヤが用いられる場合もある。
【0007】
アーク溶射方法では、複数の溶射用ワイヤとして異種の金属からなるものを用いると、異種の金属の合金の皮膜を形成することができる。耐蝕性を持たせるための皮膜を形成する場合、上記溶射用ワイヤとして、例えば亜鉛線とアルミニュウム線とが用いられる。
【0008】
上記のアーク溶射方法を自動的に行う場合には、溶射ガン1をマニピュレータに取り付けて、所定のプログラムに従って該マニピュレータを制御することにより、溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させ、その間に溶射ガンから溶融金属を噴射して被溶射面に溶射皮膜を形成する。溶射を行うに際しては、溶射角(溶射軸線が被溶射面に対して成す角)、溶射距離(溶射ガンと被溶射面との間の距離)、溶射ガンの移動速度、溶射ガンの移動ピッチ、アーク電流、アーク電圧、各ワイヤの送給速度、ガス流を生じさせるために供給するガスの圧力等の溶射条件を被溶射物に適合するように設定し、常にこれらの溶射条件が満たされるように溶射ガン及びマニピュレータを制御する。
【0009】
図3は、従来の自動溶射方法における溶射ガンの動きの一例を示したものである。図3において1は図示しないマニピュレータに取り付けられた溶射ガン、2は被溶射物である。
【0010】
なお溶射ガン1には、溶射用ワイヤを溶射ガンに供給するワイヤ供給パイプ、一次ガス流及び二次ガス流を生じさせるための圧縮ガス(通常は空気)を供給するガスパイプ、給電手段に印加する電圧を供給する電気コード等が接続されるが、図3においてはこれらの図示が省略されている。
【0011】
図3において点P1 〜P5 は、被溶射物2の被溶射面2Aに溶射皮膜を形成する過程で溶射ガン1がとる位置を示したもので、点P1 〜P5 は、溶射ガン1の先端1aから一定の溶射距離dを隔てた位置にある溶射軸線上の点を示している。即ち図示の例では、溶射ガン1の溶射軸線上の先端1aから一定の溶射距離dを隔てた位置にある点の位置を、溶射ガンの位置としている。またこの例では、説明を簡単にするため、被溶射面2Aが単純な長方形の輪郭形状を有する平面であるとしている。
【0012】
図3に示した例における溶射ガンの動きは下記の通りである。
【0013】
溶射を開始する際には、溶射ガン1が溶射施工開始時の待機点である施工開始点P1 に配置される。この状態で溶射開始指令が与えられると、図示しない制御装置により各瞬時における位置が目標位置に一致するように制御されるマニピュレータにより、溶射ガン1が被溶射面2Aの最端部位置に設定された溶射開始点P2 に向けて移動させられる。溶射開始点P2 でアークが起動させられ、霧化した溶融金属が溶射ガン1から被溶射面2Aに向けて噴射させられる。溶射開始点P2 でアークが起動した後、溶射ガン1は、溶融金属を噴射しながら被溶射面2Aの一辺(図示の例では短辺)に沿って一方向に移動させられる。
【0014】
溶射ガン1は、被溶射面2Aの端部位置に到達したときに90度向きを変えられて被溶射面2Aの長辺方向に所定の移動ピッチdxだけ移動させられ、次いで再び90度向きを変えられて被溶射面Aの一辺に沿って他方向に(元来た方向に)移動させられる。移動ピッチdxは、皮膜が形成されない部分を生じさせないように、溶射金属のスポット径に応じて適宜の値に設定される。
【0015】
溶射ガン1は、上記の動作を繰り返すことにより、溶射金属を噴射しながら、つづら折り状の移動経路3に沿って移動し、溶射終了点P4 に達した時にアークの発生を停止して溶射金属の噴射を停止する。次いで溶射ガン1は、予め設定された施工終了点P5 に移動させられ、これにより1回の溶射作業が終了する。その後溶射ガン1は、次の溶射作業に備えて、適宜の経路に沿って施工開始点P1 に移動させられる。
【0016】
なお溶射ガン1の移動経路(軌跡)は、図示の例に限られるものではなく、被溶射面全体に溶射皮膜を均一に形成するように、被溶射面の形状に応じて適宜に設定される。
【0017】
この種の自動溶射方法において、溶射施工中に溶射用ワイヤの送給速度が変動したり、ガスの供給圧力が変動したりすると、溶射金属の量が変動したり、途切れたりして溶射欠陥が生じる。溶射欠陥としては、膜厚不足、皮膜表面の粗面化、溶射ワイヤの小片の付着等がある。
【0018】
特に、溶射ガンの内部では、溶射金属の飛沫がワイヤガイド管の先端部付近に付着し易いが、ワイヤガイド管の先端部付近に付着した溶射金属の量が多くなると、溶射用ワイヤの送給が円滑に行われなくなるため、溶射異常が生じ易くなる。欠陥部分を有しない均質な溶射皮膜を得るためには、溶射異常が生じたときに直ちに溶射ガンの動作を停止させて、溶射が正常に行われるようにするための修復処理を行う必要がある。
【0019】
従来の自動溶射方法では、溶射異常が検出されたときにアークを停止させるとともに溶射ガンを停止させて、その停止位置で溶射ガン内のワイヤガイド管のクリーニングや、ガスの供給圧力の調整、溶射用ワイヤのワイヤガイド管からの突出長の調整、あるいは溶射用ワイヤの先端部の形状の調整等、溶射金属の噴射を正常な状態に復帰させるために必要な修復処理を行うようにしていた。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、溶射異常が検出されたときに溶射ガンをその移動経路上に停止させて、その停止位置で修復処理を行うようにした場合には、修復処理を狭いスペースで行うことになるため、その作業に手間がかかって、溶射を中断する時間が長くなり、溶射皮膜の形成を能率よく行うことができないことがあった。特に、高品質の溶射皮膜を得るために、溶射異常の判定基準を厳しくした場合には、溶射異常の検出が頻繁に行われることがあるため、溶射被膜の形成を能率よく行うことが難しかった。
【0021】
また被溶射物の形状によっては、溶射異常発生時に停止した溶射ガンに作業者の手がとどかないために、修復処理を行うことができないことがあり、溶射皮膜の形成を最後まで行うことができないことがあった。
【0022】
また溶射金属の噴射を正常な状態に修復させるための作業を行った後、最初にアークを発生させた際には、アークが不安定になりがちであるため、溶射ガンに対して修復処理を行った場合には、溶射を再開する前に一度アークを発生させて溶射金属の試射を行い、アークが安定に維持される定常状態になったことを確認してから溶射を再開させることが好ましい。
【0023】
ところが、従来の方法では、被溶射面に対向した状態で停止している溶射ガンに対して修復処理を行っていたため、修復処理の終了後、溶射金属の試射を行うことができなかった。そのため、溶射を再開した直後にアークが不安定な状態で溶射が行われて、溶射皮膜に欠陥が生じることがあった。
【0024】
本発明の目的は、被溶射物がいかなる形状を有している場合でも、溶射異常が生じた際の修復処理を迅速に行って、溶射を中断する時間を短くし、溶射皮膜の形成を能率よく行うことができるようにした自動溶射方法を提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、溶射異常が生じる確率を少くするとともに、溶射異常が生じた際の修復処理に要する時間を短縮して、溶射皮膜の形成を能率よく行うことができるようにした自動溶射方法を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数のノズルの先端からそれぞれ突出させた複数のワイヤの先端部間でアークを発生させることにより生じさせた溶融金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに保持させ、マニピュレータを制御することにより、溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させる間に被溶射面に溶射皮膜を形成する自動溶射方法に係わるものである。
【0027】
溶射異常の発生が検出されたときにアークを停止させると、溶射ガンでは、アーク発生点で本来溶融すべきワイヤーが溶融せずにアーク発生点より更に前方に突き出した状態になっていたり、ワイヤーの先端同士が接触した状態になっていたり、ワイヤの先端同士が溶融して結合した状態になっていたりすることが多い。溶射ガンから突出したワイヤの先端がこのような状態になっていると、アークを再起動することができないだけでなく、溶射ガンを正常な状態に回復するための修復作業に手間取ることになる。
【0028】
そこで、本発明では、被溶射面から離れた個所に溶射ガンの退避場所を設けて、溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤを切断する切断機を退避場所に配設しておく。そして、溶射皮膜を形成する過程で、溶射被膜の異常が生じる状態または異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常として、該溶射異常の発生の有無を常時検出し、溶射異常の発生が検出されたときには、アークを消滅させることにより溶射を中断した後、マニピュレータを制御することにより溶射ガンを退避場所の切断機の所まで溶射ガンを移動させて溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を切断機に切断させるワイヤ切断工程を含む溶射ガン修復工程と、溶射ガンから溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程とを行い、しかる後に溶射異常の発生が検出された際の溶射ガンの位置情報または溶射を中断した時の溶射ガンの位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に溶射ガンを移動させるようにマニピュレータを制御して、溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させる。
【0029】
溶射ガン修復工程では、溶射ガンの先端から突出しているワイヤの先端を切断した後、必要な修復作業を行うが、この修復作業には、溶射ガンのノズルの清掃や、溶射ガンに供給するガス圧の点検、調整等が含まれる。
【0030】
溶射を中断した際には、一旦溶射ガンを停止させてもよく、アークを消滅させて溶射を中断した後、溶射ガンを止めることなくそのまま退避点に向けて移動させるようにしてもよい。
【0031】
溶射再開位置は、溶射異常の発生が検出された位置よりも施工開始点側(溶射を行う際の溶射ガンの移動方向の後方側)に寄った位置に設定するのが好ましい。
【0032】
上記のように、アークの異常が検出された時に、溶射ガンを一旦被溶射面に影響を与えない退避場所に退避させて、その退避場所で、正常な溶射が行われるようにするための修復処理を行うようにすると、被溶射物がいかなる形状を有している場合でも、また被溶射物のいかなる部分で溶射異常が生じた場合でも、溶射ガンの修復処理を容易に行うことができる。
【0033】
また上記のように、溶射ガンを退避場所まで移動させた後、そのノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断機で切断するようにすると、溶射ガンの先端から突出しているワイヤの先端がどのような状態にあっても、正常な状態に回復させることができるため、溶射ガンを正常な状態にするための修復作業を迅速に行わせることができる。
【0034】
更に上記のように、被溶射面に影響を与えない退避場所で溶射ガンの修復処理を行った後、溶射ガンから溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程を行うようにすると、溶射が正常に行われることを確認してから、溶射ガンを溶射再開位置に移動させて溶射を再開させることができるため、溶射を再開した直後にアークが不安定なままで溶射が行われて、溶射皮膜に欠陥が生じるのを防ぐことができる。
【0035】
また、上記のように、溶射ガンに対して修復処理を行った後、溶射ガンを溶射の再開に向けて復帰させる際に、溶射異常状態が検出された際の溶射ガンの位置情報または溶射を中断した際の溶射ガンの位置情報に基づいて溶射再開位置を定めて、溶射ガンを該溶射再開位置に移動させるように制御装置によりマニピュレータを制御するようにすると、溶射異常により欠陥が生じた個所、または欠陥が生じているおそれがある個所に対する再溶射を確実に行わせて、溶射皮膜の欠陥部分が修復されないままの状態で残されるのを防ぐことができ、常に均質な溶射皮膜を形成することができる。
【0036】
本発明を実施する際には、各瞬時における溶射ガンの位置を検出する位置検出手段を設ける必要があるが、溶射ガンの位置を検出する位置検出手段は、例えば、溶射ガンが予め定められた基準点から各瞬時の位置まで移動するのに要した時間から溶射ガンの各瞬時の位置を検出するように構成することができる。
【0037】
一般に溶射ガンは、所定の送り速度で送給される複数の溶射用ワイヤを溶射方向に沿う軸線上の一点に向けてガイドする複数のノズルと、該ノズルから送り出された複数のワイヤの先端間でアークを発生させるために該複数のワイヤに電圧を印加する給電手段と、複数のワイヤの先端部付近にガスを供給するガス流供給手段とを備えていて、ワイヤの先端部間で発生させたアークの熱によりワイヤを溶融させることにより生じさせた溶融金属をガス流により霧化して噴射するように構成されている。
【0038】
このような溶射ガンが用いられる場合、上記溶射異常を検出する溶射異常検出手段は、溶射用ワイヤを通して流れるアーク電流、アーク電圧、及びワイヤの送給速度の少なくとも一つを溶射パラメータとして監視して、該溶射パラメータの少なくとも一つが許容範囲から外れたときに溶射異常状態が生じたことを検出するように構成することができる。
【0039】
溶射ガンの先端部には、アークの発生により生じた溶融金属が付着する。ノズルの先端部に溶融金属が付着すると、ワイヤの送給がスムーズに行われなくなるため、溶射異常が発生しやすくなる。したがって、退避場所で溶射ガンの修復作業を行う際には、溶射ガンの先端の清掃を行うことが望ましい。
【0040】
そのため、本発明の好ましい態様では、退避場所に切断機とブラシを配設しておいて、溶射異常の発生時に溶射を中断した後、マニピュレータを制御することにより溶射ガンを退避場所の切断機の所まで移動させて溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を切断機に切断させるワイヤ切断工程と、溶射ガンの先端部をブラシに当てて溶射ガンとブラシとの間に相対的な運動を生じさせるようにマニピュレータを制御して溶射ガンの先端部を清掃する溶射ガン清掃工程とを含む溶射ガン修復工程を行うようにする。
【0041】
上記のように溶射ガン清掃工程を行うと、ノズルの先端などに付着している溶融金属を自動的に除去することができるため、溶射ガンの修復作業を迅速に行うことができる。
【0042】
上記の構成では、溶射異常の発生が検出されたときにのみ溶射ガンを退避場所に移動させるようにしたが、退避場所に切断機が配設されている場合には、溶射が完了して溶射ガンが施工終了点に到達した時に、溶射ガンを退避場所に移動させて、該退避場所で溶射ガンのノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断する工程を行ってから溶射ガンを施工開始点に移動させて、次の溶射に備えるようにしてもよい。
【0043】
また退避場所に切断機とブラシとの双方が配設される場合には、溶射が完了して溶射ガンが施工終了点に到達した時に、溶射ガンを退避場所に移動させて、該退避場所で溶射ガンのノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断機に切断させる工程及びブラシにより溶射ガンの先端部を清掃する工程の少くとも一方を行ってから溶射ガンを施工開始点に移動させて、次の溶射に備えるようにしてもよい。
【0044】
上記のように、溶射が終了した後次の溶射を行うまでの間に溶射ガンを退避場所に移動させて、ワイヤの先端の切断、及び(または)溶射ガンの先端部の清掃を行わせるようにすると、溶射異常が生じる確率を少くすることができるため、溶射異常の判定基準を厳しくする場合に溶射が頻繁に中断して作業能率が低下するのを防ぐことができる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下図1ないし図4を参照して、本発明の実施の一形態を説明する。
【0046】
図1は、本発明の方法による場合の溶射ガンの動きの一例を示したもので、同図において1は溶射ガン、2は被溶射物、3は溶射ガンの移動経路(軌跡)である。溶射ガン1は、図示しない制御装置により各瞬時の位置がセットされた目標位置に一致するように制御されるマニピュレータに取り付けられている。この例でも、説明を簡単にするために、被溶射面2Aが長方形状の輪郭形状を有する平面であるとしている。
【0047】
図3に示した例と同様に、移動経路3上の点P1 〜P5 は、被溶射物2の被溶射面2Aに溶射皮膜を形成する過程で溶射ガン1がとる位置を示したもので、点P1 〜P5 は、溶射ガン1の噴射口1aから一定の溶射距離dを隔てた位置にある溶射軸線上の点を示している。
【0048】
本発明の方法では、被溶射面2Aから離れた位置にあって、被溶射面に影響を与えない場所に溶射ガンの退避場所10を設けて、この退避場所で溶射ガンの修復作業を行う。退避場所10は、溶射ガン1でアークを発生させたときに、溶射ガンから噴出する溶融金属が被溶射面2Aに到達しない場所で、かつ溶射ガンの周囲に修復処理を行うために十分なスペースを確保し得る場所に設定する。
【0049】
図示の例では、退避場所10に切断作業施行点P6 と、清掃作業施行点P7 と、試射施行点P8 とが設定されている。切断作業施行点P6 には溶射ガンの先端から突出したワイヤを切断する切断機11が配設され、清掃作業施行点P7 には溶射ガンの先端を清掃するためのブラシ12が配設されている。また試射施行点P8 には、修復作業が終了した溶射ガンの試射を行う際に溶射金属を吹き付ける板が配設される。
【0050】
切断機11としては、対の切断刃11a,11aと、これらの切断刃を駆動する駆動装置11bとを備えて、駆動装置11bを駆動することにより、切断刃11a,11aを自動的に動作させるものを用いる。
【0051】
またブラシ12としては、溶射ガンの先端部のノズル等を傷付けないようにするために、樹脂製の毛を有するものを用いるのが好ましい。このブラシは、上向きの姿勢を保つように、清掃作業施行点に設置したフレームに固定しておく。
【0052】
なおブラシ12により溶射ガンの先端を清掃した際に生じるごみの除去を容易にするため、ブラシ12に真空掃除機の吸引パイプを接続しておくのが好ましい。
【0053】
被溶射物2に対して溶射を行う際には、図示しない制御装置により溶射ガンを取り付けたマニピュレータを制御することにより、溶射ガンを下記のように動かす。
【0054】
最初溶射ガンは溶射施工開始点P1 に待機させておく。溶射開始指令が与えられると、制御装置は、溶射ガン1を施工開始点P1 から溶射開始点P2 に向けて移動させ、溶射開始点P2 でアークを起動させる。これにより、溶射ガン1からの溶融金属の噴射を開始させる。溶射ガンから被溶射面2Aに向けて霧化した溶融金属を噴射させつつ、溶射ガン1を被溶射面2Aの一辺(図示の例では短辺)に沿って一方向に移動させ、被溶射面2Aの端部位置に到達したときに90度向きを変えて被溶射面2Aの長辺方向に所定の移動ピッチdxだけ移動させる。溶射ガン1をピッチdxだけ移動させたところで再びその向きを90度変えて被溶射面Aの一辺に沿って他方向に(元来た方向に)移動させる。溶射ガン1は、上記の動作を繰り返すことにより、溶射金属を噴射しながら、つづら折り状の移動経路3に沿って移動し、溶射終了点P4 に達した時にアークの発生を停止して溶射金属の噴射を停止する。
【0055】
次いで溶射ガン1を予め設定した施工終了点P5 に移動させ、これにより1回の溶射作業を終了する。その後溶射ガン1を、次の溶射作業に備えて適宜の経路に沿って施工開始点P1 に移動させて待機させる。
【0056】
図示しない制御装置には、各瞬時における溶射ガン1の位置を検出する位置検出手段と、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常状態として検出する溶射異常検出手段とを設けておく。
【0057】
各瞬時における溶射ガンの位置を検出する位置検出手段は、例えば、溶射ガンが予め定められた基準点から各瞬時の位置まで移動するのに要した時間から溶射ガンの各瞬時の位置を検出するように構成する。
【0058】
上記基準点は溶射開始点P2 以前の任意の位置、好ましくは、施工開始点P1 から溶射開始点P2 までの間の任意の位置に設定する。ここでは、溶射開始点P2 を基準点とし、この基準点でタイマーを起動して、溶射開始位置を通過した時の時刻からの経過時間を計測することにより、溶射ガン1の各瞬時の位置を検出するものとする。溶射ガンは予め定められたプログラムに従って、予め定められた速度で移動するので、基準点を通過した時の時刻からの経過時間を計測することにより、溶射ガンの各瞬時における位置を検出することができる。
【0059】
溶射異常検出手段は、溶射用ワイヤ102,102(図3参照)を通して流れるアーク電流、ワイヤガイド管101,101間で計測したアーク電圧、及び溶射用ワイヤ102,102の送給速度のうちの少なくとも一つを溶射パラメータとして監視して、該溶射パラメータが許容範囲から外れたときに溶射異常状態が生じたことを検出するように構成することができる。また上記の溶射パラメータに加えて、ガス流供給手段を通して供給されるガス圧(図2に示した溶射ガンを用いる場合には、一次ガス流G1 及び二次ガス流G2 を生じさせるために供給されるガスの圧力)を他の溶射パラメータとして、該溶射パラメータが許容範囲から外れたときにも溶射異常状態が生じたことを検出するようにするのが好ましい。
【0060】
最も生じやすい溶射異常は、ワイヤガイド管101,101の先端部付近に付着して硬化した溶射金属により溶射用ワイヤ102,102の送給が円滑に行われなくなったり、送給が妨げられたりすることにより生じるアークの変動や、消滅である。アークが変動してそのエネルギーが減少したり途切れたりすると、溶融する金属の量が減少するため、噴射する金属の量が減少し、溶射皮膜の膜厚が薄くなったり、欠落したりする。
【0061】
従って、上記のように、アーク電流、アーク電圧及び溶射用ワイヤの送給速度の少なくとも一つを溶射パラメータとして監視すると、この溶射パラメータが許容範囲から外れたときに、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常状態として検出することができる。
【0062】
また、アークにより溶融した金属に供給されるガスの圧力が変動すると、霧化する溶融金属の量が変動するため、均一な厚さの皮膜を形成することができなくなる。従って、前記の溶射パラメータの他に、ガス流供給手段を通して供給されるガス圧を溶射パラメータに加えて、ガス圧が許容範囲から外れた場合にも溶射異常状態が生じたことを検出するようにするのが好ましい。
【0063】
本発明においては、溶射異常状態が検出された時に溶射を中断して、溶射異常状態が検出された時の溶射ガンの位置、または溶射を中断した時の溶射ガンの位置の情報を溶射異常位置情報として記憶しておき、溶射を中断した後、被溶射面に影響を与えることなく溶射異常状態を生じさせた原因を除去するための修復処理を行い得る位置に設定された退避場所10まで溶射ガンを移動させる。退避場所では、先ず溶射ガンを切断作業施行点P6 に移動させて、溶射ガン1のノズルの先端から突出しているワイヤの先端部が切断機11の対の切断刃の間に挿入された状態になるように溶射ガンを切断作業施行点に位置決めする。このように溶射ガンを位置決めする作業は、マニピュレータを制御することにより自動的に行わせる。溶射ガンが切断作業施行点に位置決めされたことが確認された後、切断機11を動作させて、溶射ガン1のノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断し、ワイヤの先端の状態を正常にする。
【0064】
次いで、図示しない制御装置によりマニピュレータを制御して溶射ガンを清掃作業施行点P7 に移動させて、溶射ガン1の先端をブラシ12の毛の部分に上方から接触させ、溶射ガンとブラシとの間に相対的な揺動運動を生じさせるように、マニピュレータを制御することにより、溶射ガンの先端のノズル等に付着している溶融金属等のごみを除去する。
【0065】
溶射ガンの清掃作業が完了した後、制御装置によりマニピュレータを制御して溶射ガンを試射施行点P8 に移動させる。この試射施行点では、実際に溶射ガンでアークを発生させて溶融金属の試射を行い、アークが安定に維持されるか否かを確認する。
【0066】
アークが安定に維持されることが確認されたときには、マニピュレータを制御することにより溶射ガンを溶射施工開始点P1 に移動させる。その後、記憶されている溶射異常位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に溶射ガンを移動させるように制御装置によりマニピュレータを制御し、溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させる。
【0067】
これに対し、アークが安定に維持されなかったときには、ガス圧の点検、調整、溶射ガンのノズルへの給電状態の点検、調整処理を必要に応じて手作業で行った後、再びワイヤの切断、溶射ガンの清掃、試射を自動的に行わせる。
【0068】
図1に示したように溶射ガンを動かして溶射を自動的に行う場合を例にとって、実際に溶射異常が発生したときの動作の一例を示すと次の通りである。
【0069】
今図1において、P3 点で溶射異常が検出されたとする。このとき直ちにアークを消滅させて溶射を中断させるとともに、タイマの計測値(基準位置から溶射中断位置まで溶射ガンが移動するのに要した時間)T1 を溶射異常が生じた点P3 の情報(溶射異常位置情報)として記憶する。点P3 でアークを消滅させた後も、溶射ガン1を移動経路3に沿って移動させるためのマニピュレータの制御はそのまま継続させ、溶射ガン1を施工終了点P5 まで到達させる。溶射ガン1が施工終了点P5 に到達した後、予め定めた経路で溶射ガンを更に退避場所10の切断作業施行点P6 まで移動させ、この切断作業施行点で前述のように切断機11を動作させて溶射ガンのノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断する。
【0070】
次いで、溶射ガンを清掃作業施行点P7 に移動させて溶射ガンの先端部の清掃作業を行った後、溶射ガンを試射施行点P8 に移動させて実際にアークを発生させて溶射ガン1から試射を行う。この試射により、アークが安定に維持される定常状態になり、溶射異常を生じさせる原因が除去されたことを確認する。その後アークを消滅させた状態で溶射ガン1を施工開始点P1 まで移動させるように制御装置によりマニピュレータを制御し、溶射ガン1を施工開始点P1 点から溶射開始点P2 点を経て、所定の移動経路3に沿って移動させる。溶射ガン1が基準点(この例ではP2 点)を通過した時にタイマを起動させ、このタイマの計測値Tが、溶射を中断した際に記憶されたタイマの計測値T1 に基づいて決定した溶射再開点を与える値に等しくなった時にアークを発生させて溶射を再開させる。その後溶射ガン1を移動経路3に沿って移動させて残りの溶射皮膜の形成を行わせる。溶射ガンが溶射終了点P4 に達した時にアークを消滅させ、施工終了点P5 に達したときに溶射作業を終了する。
【0071】
溶射再開点は、溶射を中断させた位置P3 に等しくしてもよいが、溶射異常が発生してから実際に溶射異常が検出されるまでには時間遅れがあり、またアークを消滅させて溶射を中断するまでの間にも時間遅れがあるため、溶射を中断した位置P3 よりも手前の位置で欠陥が生じているおそれがある。また溶射を再開させる際に、アークを発生させる指令を与えてから実際にアークが発生するまでの間にも遅れ時間が存在する。従って、アークを消滅させて溶射を中断した位置P3 よりも若干手前の位置に溶射再開位置を設定するのが好ましい。この場合には、タイマの計測値TがT1 −ΔTに等しくなった時にアークを発生させて溶射を再開させる。
【0072】
溶射を再開した後に、再度溶射異常が検出されたときには、その時のタイマの計測値を新たな溶射異常位置情報として記憶して前回の溶射異常検出時と同じ動作を行わせる。
【0073】
上記の説明では、退避点場所10を施工終了点P5 から離れた位置としたが、施工終了点P5 の近傍で溶射ガンに対して溶射異常修復処理を行い、その後溶射ガンからの試射を行わせることができる場合には、溶射終了点P5 の設定箇所に退避点場所を設けるようにしてもよい。
【0074】
本発明に係わる自動溶射方法を実施する場合に、マニピュレータを制御する制御装置に実行させるプログラムのアルゴリズムの一例を図4ないし図6に示した。
【0075】
このアルゴリズムに従う場合には、図4のステップ1において溶射施工を開始させた後、ステップ2で溶射ガンが溶射開始点(P2 点)に到達するのを待ち、溶射開始点P2 に達した時にステップ3に進んでタイマを起動させるとともにアークを発生させて溶射を開始する。
【0076】
次いで溶射パラメータが所定の許容範囲内にあるか否かを判定することにより溶射異常が発生しているか否かを判定する図5のステップ4を常時行いながら溶射を進行させ、溶射異常が発生しない状態で溶射が進行してステップ5で溶射ガンが溶射終了点P4 に達したことが検出された時にステップ6に進んでアークを停止させる。次いでステップ7で溶射ガンが施工終了点P5 に達するのを待ち、施工終了点P5 に達した時に溶射ガンを停止させて溶射施工を終了する。
【0077】
溶射施工の途中でステップ4において溶射異常が検出された時には、ステップ8に進んで直ちにアークを停止させるとともに、現在のタイマ経過値TをT1 (溶射異常位置情報)として記憶し、ステップ9で溶射ガンが施工終了点P5 に達するのを待つ。ステップ9で溶射ガンが施工終了点P5 に達したことが検出された時に溶射ガンを退避場所10の切断作業施行点P6 に移動させる。
【0078】
次いでステップ11に進んで溶射ガンのノズルの先端から突出しているワイヤの先端部を切断機に切断させるワイヤ切断工程と、溶射ガンの先端部をブラシに当てて溶射ガンとブラシとの間で相対的な運動を生じさせることにより溶射ガンの先端部の清掃を行う溶射ガン清掃工程と、溶射ガンの試射を行う試射工程とを含む溶射異常修復処理を行い、処理が終了したときにステップ12に進んで溶射ガンを施工開始点P1 に移動させ、更に溶射開始点P2 へと移動させる。ステップ13で溶射ガンが溶射開始点P2 に達するのを待ち、溶射開始点P2 に達した時にステップ14に進んでタイマを起動する。次いで図6のステップ15でタイマの経過値Tが記憶されている値T1 (またはT1 −ΔT)に等しくなるのを待ち、T=T1 (またはT1 −ΔT)となった時(溶射ガンが溶射再開点に達した時)にステップ16に進んでアークの発生を開始して溶射を再開する。
【0079】
溶射を再開した後、溶射異常を検出するステップ17を行いながら溶射を進行させ、溶射異常が検出されないまま溶射が進行してステップ18で溶射ガンが溶射終了点P4 に達したことが検出された時にステップ19に進んでアークを停止させる。次いでステップ20で溶射ガンが施工終了点P5 に達するのを待ち、施工終了点P5 に達した時に溶射ガンを停止させて溶射施工を終了する。
【0080】
溶射を再開した後、ステップ17で再び溶射異常が検出された時には、ステップ21に進んでアークを停止させ、ステップ22でタイマの経過値Tが記憶されている値T1 よりも大きくなっているか否か(溶射ガンが前回溶射異常が検出された点を過ぎているか否か)を確認する。その結果、タイマの経過値TがT1 よりも大きくなっている時(溶射ガンが前回の異常検出点を通り過ぎた位置にある時)には、ステップ23に進んで記憶されている経過時間T1 に現在のタイマの経過値Tを上書きしてタイマ経過値の記憶値T1 を更新する。次いでステップ24に進んで溶射ガンが施工終了点P5 に達するのを待ち、施工終了点P5 に達した時に図5のステップ10に戻って、溶射ガンを退避場所10に移動させる。以後溶射異常修復処理を行った後溶射を再開させて溶射異常を検出しながら溶射を進行させるステップ11ないしステップ20と、溶射異常が検出された場合にアークを停止させて溶射ガンが溶射終了点に到達するのを待つステップ21ないし24とを繰り返す。
【0081】
図6のステップ22でタイマの経過値TがT1 以下であると判定された時、即ちステップ15でT=T1 −ΔTとした場合であってアークが停止した位置が前回溶射異常が検出されてアークが停止した位置(T=T1 の位置)の手前であると判定された時には、タイマの経過値の記憶値T1 を更新するステップ23を行うことなく、ステップ24に進む。
【0082】
上記の例では、溶射ガンが移動する間の経過時間を計測するタイマにより各瞬時における溶射ガンの位置を検出する位置検出手段が構成される。
【0083】
また溶射パラメータが許容範囲にあるか否かを判定して溶射異常の検出を行う図5のステップ4及び図6のステップ17により溶射異常検出手段が構成される。
【0084】
上記の例では、溶射異常が検出された後、溶射ガン1を本来の移動経路に沿って施工終了点P5 まで移動させてから退避場所10の切断施行点P6 に移動させるようにしているが、溶射異常が検出された後、退避場所に向けての溶射ガンの移動を開始する位置として適した退避開始点を、溶射ガンの移動経路3上に少くとも1つ設定しておき、溶射を中断した後、施工終了点P5 よりも近い位置に退避開始点が存在する場合には、溶射中断位置に最も近い退避開始点まで溶射ガンを移動経路に沿って移動させて、該退避開始点から退避場所10まで直接移動させるようにするのが好ましい。
【0085】
「退避点に向けての溶射ガンの移動を開始する位置」とは、障害物に妨げられることなく、溶射ガンの退避点への移動を開始することができる位置を意味する。この場合、退避開始点から退避場所まで溶射ガンを直線移動させることができるように、退避開始点を設定しておくと、溶射ガンを最短距離を通って退避場所に移動させることができる。
【0086】
上記のように、移動経路3の途中に退避開始点を設定しておいて、溶射が中断した後、溶射ガン1を先ずその中断位置に最も近い退避開始点まで移動させ、その退避開始位置から退避場所10に向けて溶射ガンを移動させるようにすると、溶射ガンを施工終了点P5 まで移動させることなく、退避場所10に移動させることができるため、溶射を中断した後、溶射ガンを退避場所に退避させるために要する時間を短縮することができる。
【0087】
また本発明を実施するに際しては、溶射ガン1を退避場所から溶射再開位置まで移動させる過程で最初に到達させる移動経路上の位置として適した復帰点を溶射ガン1の移動経路上に少くとも1つ設定しておき、溶射ガンを退避場所の試射施工点P8 から溶射再開位置まで移動させる過程で、先ず溶射ガンを溶射中断位置に最も近い復帰点まで移動させ、次いで、溶射ガンを移動経路に沿って溶射再開位置まで移動させるようにするのが好ましい。
【0088】
この場合各復帰点は、移動経路3上の各位置の内、退避点P6 にある溶射ガン1を直接移動させることができる位置に設定しておく。
【0089】
このように構成すると、溶射ガン1に対して修復処理を行った後、溶射ガンを施工開始点P1 まで移動させることなく、移動経路3の途中の復帰点に移動させることができるため、修復処理を行った後、溶射を再開するまでに要する時間を短縮することができる。
【0090】
なお退避場所10と溶射ガンの移動経路3の各部との間に障害物が存在しない場合には、溶射ガンを退避場所10から直接溶射開始点に移動させるようにすることもできる。
【0091】
上記の例では、溶射ガン1が移動経路3に沿って移動している過程での経過時間から溶射ガンの位置を特定するようにして、溶射異常状態が検出された時または溶射が中断した時の経過時間T1 を、溶射異常が生じた時の溶射ガンの位置、または溶射を中断した時の溶射ガンの位置を示す溶射異常位置情報として用いるようにしたが、溶射異常が検出された時に溶射ガンを保持したマニピュレータを制御する制御装置が実行しているプログラムの実行ステップL1 と、該制御装置が検出しいるマニピュレータの現在位置S1 とを記憶して、これらから溶射異常発生時の溶射ガンの位置を特定するように構成することができる。
【0092】
この場合は、例えば、溶射を再施工する過程(退避場所10の試射施行点P8 から溶射再開位置に向けて溶射ガンを移動する過程)で、制御装置が実行するプログラムの実行ステップLと、該制御装置が検出しているマニピュレータの現在位置Sとをそれぞれ記憶されている溶射異常発生時のステップL1 及びマニピュレータ位置S2 と比較して、L=L1 及びS=S2 になることの条件と、溶射ガンの位置を定めるためのマニピュレータの位置パラメータとから溶射ガンが溶射再開位置に達したことを検出するようにすることもできる。
【0093】
但し、この場合、現在位置Sを、記憶されている溶射異常発生位置S1 に厳密に一致させようとすると、マニピュレータの精度が要求されるため、現在位置Sを溶射異常発生位置S1 にほぼ一致させればよいようにするのがよい。
【0094】
上記の例では、退避場所の清掃作業施行点P7 にブラシを固定しておいて、マニピュレータを制御することにより、溶射ガン側を動かすことにより、溶射ガンとブラシとの間に相対的な揺動運動を生じさせるようにしたが、清掃作業施行点P7 で溶射ガンを停止させて、ブラシ側を動かすことにより溶射ガンの清掃作業を行うようにしてもよい。
【0095】
上記の例では、退避場所に切断機とブラシとの双方を配設して、溶射ガンのノズルから突出しているワイヤの先端部の切断作業と、溶射ガンの先端部の清掃作業との双方を自動的に行わせるようにしているが、切断機によるワイヤの先端部の切断作業のみを自動的に行わせ、溶射ガンの先端部の清掃は作業者が手作業により行うようにしてもよい。
【0096】
上記の例では、被溶射面への溶射皮膜の形成が終了して溶射ガンが施工終了点P5 に移動した後、該溶射ガンを施工開始点P1 に移動させて次の溶射に備えるようにしたが、溶射が終了して溶射ガンが施工終了点に達したときに、次いで溶射ガンを一旦退避場所に移動させて、溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を切断機に切断させる工程を行ってから、溶射ガンを施行開始点に移動させて次の溶射に備えるようにしてもよい。また退避場所に切断機とブラシとの双方が配設されている場合には、溶射ガンが施工終了点まで移動したときに、次いで溶射ガンを退避場所に移動させて、溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を切断機に切断させる工程及びブラシにより溶射ガンの先端部の清掃を行う工程の少くとも一方を行わせてから溶射ガンを施工開始点に移動させて次の溶射に備えるようにしてもよい。
【0097】
このように、1回の溶射が完了する毎に溶射ガンのノズルの先端から突出しているワイヤの切断及び(または)溶射ガンの先端部の清掃を行うようにすると、溶射異常の有無の判定基準を厳しくした場合でも溶射異常が生じる確率を少くすることができるため、溶射被膜の形成作業の能率を向上させることができる。
【0098】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、溶射異常が検出された時に、溶射ガンを一旦被溶射面に影響を与えない退避場所に退避させて、その退避場所で正常な溶射が行われるようにするための修復処理を行うようにしたので、被溶射物がいかなる形状を有している場合でも、また被溶射物のいかなる部分で溶射異常が生じた場合でも、溶射ガンの修復処理を容易に行うことができる利点がある。
【0099】
特に本発明においては、溶射異常が生じた時に溶射ガンを退避場所に移動させて溶射ガンの先端から突出しているワイヤの先端部を自動的に切断するようにしたので、ワイヤの先端部がいかなる状態にある場合でも、ワイヤの先端を直ちに正常な状態に回復させることができる。したがって、溶射ガンの修復作業を迅速に行うことができ、溶射を中断する時間を短縮して溶射作業の能率を向上させることができる。
【0100】
また本発明において、退避場所でマニピュレータを制御して溶射ガンとブラシとの間で相対的な運動を生じさせるようにした場合には、溶射ガンの先端のクリーニングを自動的に行わせることがでるきめ、溶射ガンの修復処理を迅速に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の自動溶射方法による場合の溶射ガンの動きの一例を示した斜視図である。
【図2】溶射ガンの要部の構造の一例を示した断面図である。
【図3】従来の自動溶射方法による場合の溶射ガンの動きの一例を示した斜視図である。
【図4】本発明の自動溶射方法を実施する溶射装置において、溶射ガンを保持するマニピュレータを制御する制御装置が実行するプログラムの一部を示したフローチャートである。
【図5】同プログラムの他の部分を示したフローチャートである。
【図6】同プログラムの更に他の部分を示したフローチャートである。
【符号の説明】
1…溶射ガン、2…被溶射物、2A…被溶射面、3…溶射ガンの移動経路、10…退避場所、P1 …施工開始点、P2 …溶射開始点、P4 …溶射終了点、P5 …施工終了点、P6 …切断作業施行点、P7 …清掃作業施行点、P8 …試射施行点。
Claims (4)
- 複数のノズルの先端からそれぞれ突出させた複数のワイヤの先端部間でアークを発生させることにより生じさせた溶融金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに保持させ、前記マニピュレータを制御することにより、前記溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させる間に被溶射面に溶射皮膜を形成する自動溶射方法において、
前記被溶射面から離れた個所に前記溶射ガンの退避場所を設けて、前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤを切断する切断機を前記退避場所に配設しておき、
前記溶射皮膜を形成する過程で、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常として、該溶射異常の発生の有無を検出し、
前記溶射異常の発生が検出された時にアークを消滅させることにより溶射を中断した後、前記マニピュレータを制御して前記溶射ガンを前記退避場所にある切断機の所まで移動させて前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を前記切断機に切断させるワイヤ切断工程を含む溶射ガン修復工程と、前記溶射ガンから溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程とを行い、
前記試射工程で溶融金属の噴射が正常に行われることを確認した後に、前記溶射異常の発生が検出された際の溶射ガンの位置情報または前記溶射を中断した時の溶射ガンの位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に前記溶射ガンを移動させるように前記マニピュレータを制御し、
前記溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させること、
を特徴とする自動溶射方法。 - 複数のノズルの先端からそれぞれ突出させた複数のワイヤの先端部間でアークを発生させることにより生じさせた溶融金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに保持させ、前記マニピュレータを制御することにより、前記溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させる間に被溶射面に溶射皮膜を形成する自動溶射方法において、
前記被溶射面から離れた個所に前記溶射ガンの退避場所を設けて、前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤを切断する切断機を前記退避場所に配設しておき、
前記溶射皮膜を形成する過程で、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常として、該溶射異常の発生の有無を検出し、
前記溶射異常の発生が検出されたときには、アークを消滅させて溶射を中断した後、前記マニピュレータを制御して前記溶射ガンを前記退避場所にある切断機の所まで移動させて前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を前記切断機に切断させるワイヤ切断工程を含む溶射ガン修復工程と、前記溶射ガンから溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程とを行い、
前記試射工程で溶融金属の噴射が正常に行われることを確認した後に、前記溶射異常の発生が検出された際の溶射ガンの位置情報または前記溶射を中断した時の溶射ガンの位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に前記溶射ガンを移動させるように前記マニピュレータを制御して、前記溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させ、
前記被溶射面への溶射皮膜の形成が終了して前記溶射ガンが前記施工終了点まで移動したときには、次いで前記溶射ガンを前記退避場所に移動させて前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を前記切断機に切断させ、
しかる後に、前記溶射ガンを前記施行開始点に移動させて次の溶射に備えること、
を特徴とする自動溶射方法。 - 複数のノズルの先端からそれぞれ突出させた複数のワイヤの先端部間でアークを発生させることにより生じさせた溶融金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに保持させ、前記マニピュレータを制御することにより、前記溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させる間に被溶射面に溶射皮膜を形成する自動溶射方法において、
前記被溶射面から離れた個所に前記溶射ガンの退避場所を設けて、前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤを切断する切断機と前記溶射ガンの先端部を清掃するためのブラシとを前記退避場所に配設しておき、
前記溶射皮膜を形成する過程で、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常として、該溶射異常の発生の有無を検出し、
前記溶射異常の発生が検出された時にアークを消滅させることにより溶射を中断した後、前記マニピュレータを制御することにより前記溶射ガンを前記退避場所の切断機の所まで移動させて前記溶射ガンの先端から突出したワイヤを前記切断機に切断させるワイヤ切断工程と、前記溶射ガンの先端部を前記ブラシに当てて前記溶射ガンとブラシとの間に相対的な運動を生じさせるように前記マニピュレータを制御して溶射ガンの先端部を清掃する溶射ガン清掃工程とを含む溶射ガン修復工程と、前記溶射ガンからの溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程とを行い、
しかる後に前記溶射異常の発生が検出された際の溶射ガンの位置情報または前記溶射を中断した時の溶射ガンの位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に前記溶射ガンを移動させるように前記マニピュレータを制御し、
前記溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させること、
を特徴とする自動溶射方法。 - 複数のノズルの先端からそれぞれ突出させた複数のワイヤの先端部間でアークを発生させることにより生じさせた溶融金属を霧化して噴射する溶射ガンをマニピュレータに保持させ、前記マニピュレータを制御することにより、前記溶射ガンを予め定められた施工開始点から施工終了点まで設定された移動経路に沿って移動させる間に被溶射面に溶射皮膜を形成する自動溶射方法において、
前記被溶射面から離れた個所に前記溶射ガンの退避場所を設けて、前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤを切断する切断機と前記溶射ガンの先端部を清掃するためのブラシとを前記退避場所に配設しておき、
前記溶射皮膜を形成する過程で、溶射皮膜に異常が生じる状態及び異常が生じる蓋然性が高い状態を溶射異常として、該溶射異常の発生の有無を検出し、
前記溶射異常の発生が検出されたときには、アークを消滅させることにより溶射を中断した後、前記マニピュレータを制御することにより前記溶射ガンを前記退避場所の切断機の所まで移動させて前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を前記切断機に切断させるワイヤ切断工程と、前記溶射ガンの先端部を前記ブラシに当てて前記溶射ガンとブラシとの間に相対的な運動を生じさせることにより前記溶射ガンの先端部を清掃する溶射ガン清掃工程とを含む溶射ガン修復工程と、前記溶射ガンからの溶融金属の噴射が正常に行われるか否かを確認する試射工程とを行い、
しかる後に前記溶射異常の発生が検出された際の溶射ガンの位置情報または前記溶射を中断した時の溶射ガンの位置情報に基づいて定めた溶射再開位置に前記溶射ガンを移動させるように前記マニピュレータを制御して、前記溶射ガンが溶射再開位置に到達した時に溶射を再開させ、
前記被溶射面への溶射皮膜の形成が終了して前記溶射ガンが前記施工終了点まで移動したときには、次いで前記溶射ガンを前記退避場所に移動させて前記溶射ガンのノズルの先端から突出したワイヤの先端部を前記切断機に切断させる工程及び前記ブラシにより溶射ガンの先端部の清掃を行う工程の少くとも一方を行わせ、
しかる後に、前記溶射ガンを前記施行開始点に移動させて次の溶射に備えること、
を特徴とする自動溶射方法。
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