JP4674332B2 - Txk複合体およびその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、Txkチロシンキナーゼ(以下、単にTxkとも称する)、伸長因子-1α(以下、単にEF-1αとも称する)およびポリ-ADP-リボースポリメラーゼ-1 (以下、単にPARP-1とも称する)からなる群より選ばれる少なくとも2種、好ましくは3種のタンパク質を含有する複合体およびその利用、とりわけ、スクリーニング、診断および治療におけるその利用に関する。
ヘルパーT細胞(Th)は、産生するサイトカインのパターンによってTh1型およびTh2型に分類される。Th1細胞はインターロイキン(IL)-2やインターフェロン(IFN)-γを産生し、主として細胞性免疫に関わっている。これに対して、Th2細胞はIL-4やIL-5などを産生し、抗体産生を誘導する液性免疫に関与している。Th1細胞とTh2細胞は、それぞれが産生するサイトカインによりお互いの活性を制御しあいながら生体防御機構として働いている(非特許文献1)。Th1細胞とTh2細胞のバランスの崩れは、さまざまな自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症や病態形成に関与している(非特許文献2および3)。本明細書において、Th1免疫反応が優位に働くことによって起こると考えられている疾患をTh1疾患、反対にTh2免疫反応が優位に働くと考えられる疾患をTh2疾患として整理して表記する。
Txkチロシンキナーゼは、T細胞がT細胞受容体(TCR)を介して抗原の提示を受けたときに、TCR下流のチロシンリン酸化カスケードに関わるシグナル伝達分子である。Txkは、Th0細胞またはTh1細胞に特異的に発現し、Th2細胞では発現しない。Txkは、IFN-γ遺伝子の転写を制御する転写因子であることが知られている(非特許文献4)。Txkは核移行シグナル配列を有し、T細胞の活性化に伴って細胞質から核内に移行する。核移行シグナル配列を欠損したTxkを発現するT細胞では、その活性化に伴うIFN-γ産生が低下する。さらに、ヒトTリンパ腫細胞株であるJurkat細胞に外因性のTxkを発現させてフィトヘマグルチニン(PHA)で刺激した場合、IFN-γの転写の活性化が増強されるのに対して、IL-2やIL-4の転写の活性化は増強されないということが知られている(非特許文献5)。これらのことから、TxkはIFN-γ特異的な転写活性化因子であると考えられる。前記PHA刺激後のTxk遺伝子導入Jurkat細胞由来の核タンパク質を用いて、IFN-γ遺伝子翻訳開始点の上流-53〜-39塩基のTxk応答領域(Txk responsive element:Txk RE)がすでに同定されている(非特許文献4)。
ポリ-ADP-リボースポリメラーゼ-1(PARP-1)は、116kdのタンパク質で、DNA損傷センサーとして機能し、損傷を受けたDNA鎖と結合して、DNA修復を行う酵素であることが知られている。PARP-1は、N末端側にDNA 結合ドメイン(DBD)を有し、その後に自己修飾ドメイン、C末端側に触媒ドメインをもつ。DBDには2箇所にZnフィンガードメインがあり、PARP-1はこのドメインを介してDNAに結合して活性化し、DNA修復に働くと考えられている(非特許文献6)。PARP-1は、細胞がDNAの損傷を受けたとき、ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を基質としてポリADPリボースを合成し、標的タンパク質をポリADPリボシル化する。主要なADPリボシル化タンパク質は、PARP-1自身やヒストンであり、これらのポリADPリボシル化がクロマチンのリモデリングやDNA修復、転写調節に関わっているものと考えられている。
伸長因子-1(EF-1)は、ペプチドの伸長反応を触媒するタンパク質で、哺乳動物のEF-1はα、β、γ、δの4つのサブユニットからなる。EF-1αはユビキタスに発現し、細胞質に豊富にあるタンパク質で、正常な細胞でアクチンに次いで発現量が多い。EF-1αはI、II、IIIの3つのドメインを持ち、IドメインはGTPの結合に対応するドメインと考えられている(非特許文献7)。EF-1αは、GTPおよびアミノアシルtRNAと結合して三重複合体を形成し、タンパク合成中のリボゾームにアミノアシルtRNAを運ぶことにより、ペプチド伸長反応を行う。EF-1αは、プロテインキナーゼ C(PKC) やマルチポテンシャル S6 キナーゼによってリン酸化されることにより活性化されて、ペプチド伸長反応が進行する。EF-1αの細胞内シグナル伝達系における役割についてはあまり知られていなかったが、近年になってEF-1αとホスホリパーゼC(PLC)γ1との相互作用が酵母ツーハイブリッドシステムにより証明されている(非特許文献8)。EF-1αとPLCγ1との間の相互作用は、上皮成長因子(EGF)の処理により増加することから、EF-1αがPLCγ介在のシグナル伝達系に関与していると考えられる。インビトロの解析から、PLCγのSH2およびSH3ドメインとEF-1αのC末端領域が相互作用に必要であることが示されている(非特許文献8)。
また、組換えTxkタンパク質を用いたインビトロの検討から、TxkがTxk自身のあるチロシン残基をリン酸化することが報告されている(非特許文献9)。さらに、その自己リン酸化部位のチロシン残基をアラニン置換したTxkをトランスフェクトしたJurkat細胞株においては、活性化に伴うIFN-γの産生が特異的に抑制されることも報告されている(非特許文献9)。このことは、Txkの自己リン酸化がIFN-γ転写活性化に特異的なシグナル伝達系に重要であること、さらにはTxkのキナーゼ活性がそのシグナル伝達系に重要な役割をしていることを示唆している。しかし、前記シグナル伝達活性に関与するTxk以外の分子については知られていない。
Annu Rev Immunol 1989; 7:145-173 Arthritis Rheum 1996; 39(12):1961-1969 Int Arch Allergy Immunol 1999; 118(2-4): 133-135 J Immunol 2002; 168: 2365-2370 J Exp Med 1999; 190(8): 1147-1154 J Biol Chem 1990; 265(35): 21907-21913 Biosci Biotechnol Biochem 2002; 66(1): 1-21 Mol Cells 1999; 9(6): 631-637 Biol Pharm Bull. 2002; 25(6): 718-721
本発明の目的は、Th1細胞に特異的なTxkの作用または活性を介したTh1/Th2免疫反応の調節が可能な医薬品の開発または免疫疾患の診断もしくは治療に有用なツールおよびその利用を提供することにある。
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、Txkと挙動を共にするとともに免疫反応の調節に深く関与する因子を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 Txkチロシンキナーゼ、伸長因子-1α(EF-1α) およびポリ-ADP-リボースポリメラーゼ-1 (PARP-1)からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質を含有してなるタンパク質複合体。
〔2〕 TxkチロシンキナーゼおよびEF-1αを含有してなるタンパク質複合体。
〔3〕 TxkチロシンキナーゼおよびPARP-1を含有してなるタンパク質複合体。
〔4〕 Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1を含有してなるタンパク質複合体。
〔5〕 免疫反応調節の指標剤として用いられる前記〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
〔6〕 表示的または検出可能な標識を保持する、前記〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
〔7〕 固相に固定されている、前記〔1〕〜〔6〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
〔8〕 Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質を含有してなる免疫反応調節の指標剤。
〔9〕 TxkチロシンキナーゼとEF-1αとを含有してなる免疫反応調節の指標剤。
〔10〕 TxkチロシンキナーゼとPARP-1とを含有してなる免疫反応調節の指標剤。
〔11〕 Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1を含有してなる免疫反応調節の指標剤。
〔12〕 表示的または検出可能な標識を保持する、前記〔8〕〜〔11〕いずれか1項に記載の指標剤。
〔13〕 Th1/Th2免疫反応を調節する物質を同定するためのスクリーニング方法であって、
(a)前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤と被検物質とを準備する工程、
(b)被検物質の非存在下で、Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質がタンパク質複合体を形成する条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体の程度を測定する工程、
(c)被検物質の存在下で、前記複合体の程度を測定し、被検物質の存否による複合体形成の変動を比較する工程、ならびに
(d)前記(c)の比較結果に基づいて、前記複合体の形成に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む方法。
〔14〕 Th1/Th2免疫反応を調節する物質を同定するためのスクリーニング方法であって、
(a)前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤と被検物質とを準備する工程、
(b)被検物質の非存在下で、TxkチロシンキナーゼとEF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質がリン酸化され得る条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体のリン酸化の程度を測定する工程、
(c)被検物質の存在下で、前記複合体のリン酸化の程度を測定し、被検物質の存否によるリン酸化の変動を比較する工程、ならびに
(d)前記(c)の比較結果に基づいて、前記複合体のリン酸化に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む方法。
〔15〕 Th1/Th2免疫反応を調節する物質を同定するためのスクリーニング方法であって、
(a)前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤と被検物質とを準備する工程、
(b)被検物質の非存在下で、TxkチロシンキナーゼとEF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質とがタンパク質複合体を形成する条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体のTxk RE DNAに結合する能力を測定する工程、
(c)被検物質の存在下で、前記複合体のTxk RE DNAに結合する能力を測定し、被検物質の存否による複合体のTxk RE DNA結合能の変動を比較する工程、ならびに
(d)前記(c)の比較結果に基づいて、前記複合体のTxk RE DNA結合能に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む方法。
〔16〕 酵母細胞、昆虫細胞または哺乳類細胞中で行う、前記〔13〕〜〔15〕いずれか1項に記載の方法。
〔17〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体、前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤、または前記タンパク質複合体もしくは指標剤に含まれるタンパク質を認識する抗体を含有してなる診断薬。
〔18〕 下記有効成分:
(a) 前記〔1〕〜〔7〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体もしくは前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤、
(b) 前記〔1〕〜〔7〕いずれか1項に記載のタンパク質複合体もしくは前記〔8〕〜〔12〕いずれか1項に記載の指標剤に含まれるタンパク質を認識する抗体、
(c) Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1の遺伝子からなる免疫反応調節遺伝子群より選ばれる少なくとも1つのDNA配列を含むポリヌクレオチド、または
(d) Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1の遺伝子からなる免疫反応調節遺伝子群より選ばれる少なくとも1つの配列に基づくsiRNAもしくは当該siRNAを発現するベクター、
と、医薬上許容される担体とを含んでなる医薬組成物。
〔19〕 Th1/Th2免疫反応の調節を介した疾患の治療のための医薬の製造における、前記〔18〕の(a)〜(d)に記載の有効成分の使用。
〔20〕 自己免疫疾患、リウマチ性疾患、アレルギー性疾患または腫瘍の治療のための医薬の製造における、前記〔18〕の(a)〜(d)に記載の有効成分の使用。
本発明のタンパク質複合体によると、Th1特異的な免疫反応を調節する新規のシグナル伝達経路に関与する物質を提供することが可能となり、Th1特異的な免疫反応の解明のみならず、新規な作用機序に基づく医薬品の開発に寄与することができる。本発明の免疫反応調節の指標剤によると、Th1特異的な免疫反応の調節の程度を示すことが可能なツールを提供するばかりでなく、新規な作用機序に基づく医薬品の開発に有用なスクリーニングに用いることもできる。本発明のスクリーニング方法によると、前記の医薬品の開発を可能にするため有用である。本発明の診断薬によると、Th1特異的な免疫反応の調節の程度を診断することが可能となるため有用である。本発明の医薬組成物によると、Th1/Th2免疫反応の調節が可能な医薬品を提供することが可能となり、Th1/Th2免疫反応のバランスの不均衡による疾患の治療に有用である。本発明の使用によると、前記医薬品の製造を可能にするため有用である。
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1、3および5)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体および誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、ストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1、3および5で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
本明細書において「Txk 遺伝子」または「Txk のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトTxk 遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体および誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトTxk 遺伝子(GenBank Accession No. NM_003328)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
本明細書において「EF-1α 遺伝子」または「EF-1α のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号3)で示されるヒトEF-1α遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体および誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:3に記載のヒトEF-1α 遺伝子(GenBank Accession No. NM_001402)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
本明細書において「PARP-1 遺伝子」または「PARP-1 のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号5)で示されるヒトPARP-1 遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体および誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:5に記載のヒトPARP-1 遺伝子(GenBank Accession No. NM_001618)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2、4、または6)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
したがって、本明細書において「Txkチロシンキナーゼ」または単に「Txkキナーゼ」もしくは「Txk」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトTxk やその同族体、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NM_003328)に記載のアミノ酸配列を有するヒトTxk や後述する実施例に記載のプロリンリッチ領域欠損ヒトTxk(Txk-ΔPRR)、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
また本明細書において「EF-1αタンパク質」または単に「EF-1α」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号4)で示されるヒトEF-1αやその同族体、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:4(GenBank Accession No. NM_001402)に記載のアミノ酸配列を有するヒトEF-1αや、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
また本明細書において「PARP-1タンパク質」または単に「PARP-1」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号6)で示されるヒトPARP-1やその同族体、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:6(GenBank Accession No. NM_001618)に記載のアミノ酸配列を有するヒトPARP-1や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する前記抗体の一部が包含される。
本明細書でいう「siRNA」または「siRNA発現ベクター」は、本発明の遺伝子発現抑制に使用するため、本発明の遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を引き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖RNA、または当該二本鎖RNAを生体内で供給することのできるベクターをいう。本発明のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターを使用することにより、本発明の遺伝子の発現を低下させ、免疫調節作用を奏することができる。siRNAまたはsiRNA発現ベクターの構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500)。
本明細書において「タンパク質複合体」とは、少なくとも2種のタンパク質が会合している状態をいい、液体中で存在していてもよく、または結晶体として存在していてもよい。このような複合体は、当該複合体を構成するタンパク質のうちの少なくとも1種を認識する抗体を用いて少なくとも2種のタンパク質が共に免疫沈降することにより、確認することができる。「タンパク質複合体」は、以下、「複合体」または中に含まれる成分を明示して「Txk複合体」と省略する場合があるが、いずれも溶液状または結晶体を含む概念である。
本発明のタンパク質複合体は、Txk、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質を含有するものであり、TxkおよびEF-1αを含有するもの、TxkおよびPARP-1を含有するもの、EF-1αおよびPARP-1を含有するもの、またはTxk、EF-1αおよびPARP-1を含有するものがあげられる。後述するTxk-REに結合する能力という観点から、好ましくは、Txk、EF-1αおよびPARP-1を含有するものである。
本発明のタンパク質複合体は、複合体の形成を阻害しない程度において、Txk、EF-1αおよびPARP-1以外のタンパク質成分または非タンパク質成分を含有してもよい。非タンパク質成分としては、ジチオスレイトール(DTT)などのSH基保護剤、界面活性剤、金属などがあげられる。
本発明のタンパク質複合体は、下記に示すスクリーニング方法または診断用途に用いる場合、取り扱いやすさや検出しやすさの観点から、固相に固定されていることが好ましい。前記固相としては特に限定されないが、マイクロキャリア、磁気ビース、マルチウエルプレート、Ni−NTA、グルタチオンビーズまたはプロテインチップの基盤に用いられるガラスもしくは樹脂などがあげられる。
本発明のタンパク質複合体は、Th1細胞に特異的に見出されたことから、好ましくは免疫反応調節の指標剤として用いられる。 したがって、本発明は、新規な免疫反応調節の指標剤を提供する。
本発明の別の態様においては、免疫反応調節の指標剤は、指標剤を構成する各タンパク質が複合体を形成していてもよいが、ひとつの反応系で解離した状態であってもよい。すなわち、前記免疫反応調節の指標剤は、解離した状態から複合体を形成した場合または複合体形成の状態が維持された場合、IFN-γの転写活性の上昇を介した免疫反応調節の指標となる。一方、複合体を形成した状態から解離した状態になった場合または解離した状態が維持された場合、IFN-γの転写活性の抑制を介した免疫反応調節の指標となる。かかる複合体形成と解離状態との変換は、可逆的であってもよく、不可逆的であってもよい。
本発明の免疫反応調節の指標剤は、複合体の形成、維持または解離を阻害しない程度において、任意の成分を含有してもよい。任意成分としては、特に限定されるものではないが、溶媒、緩衝剤、防腐剤、ジチオスレイトール(DTT)などのSH基保護剤、界面活性剤などがあげられる。
本発明の複合体または免疫反応調節の指標剤は、その用途に応じて表示的または検出可能な標識を保持することが好ましい。
前記標識としては、複合体の形成、存在または解離の検出を可能にするものであれば特に限定されるものではないが、種々の放射性同位元素、ポリヒスチジン(His)、Myc、FLAGなどのリンカー、ビオチン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)などの(補)酵素、またはGreen Fluorescence Protein(GFP)、Yellow Fluorescence Protein(YFP)、Cyan Fluorescence Protein(CFP)などの蛍光タンパク質などがあげられる。複合体形成または解離の検出を可能にするものとして、各種抗体を別途用いてもよい。
本発明の複合体または指標剤の構成成分であるTxk、EF-1αおよびPARP-1は、公知の精製方法により天然物を単離、精製したタンパク質であってもよく、公知の遺伝子組換え技術により製造した組換えタンパク質であってもよく、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造したものであってもよい。
前記組換えTxk、EF-1αおよびPARP-1は、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1、3、5)に基づいて、DNAクローニング、各発現ベクターの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、または文献記載の方法(Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。また、組換えタンパク質を作製する際に、標識となりうる別のタンパク質との融合タンパク質を発現するベクターを構築することにより、標識と融合した組換え体を製造することもできる。
このようにして製造した各タンパク質は、複合体を形成する条件下で適当な溶媒中で複合体とするか、適当な溶媒中で解離した状態にすることにより本発明の複合体または指標剤となる。複合体化したものは、溶媒を除去することにより結晶体の状態にすることができる。あるいは、各タンパク質を1つの細胞中で発現して複合体化したものを解離しない条件下で単離、精製することによっても得られる。
本発明の複合体または指標剤は、複合体を形成する場合にTxk、EF-1αおよびPARP-1はいずれもチロシン残基がリン酸化されていることが好ましい。好ましいリン酸化部位としては、Txkではチロシン91位、チロシン420位が例示される。したがって、本発明の複合体または指標剤は、前記Txk、EF-1αおよびPARP-1の特定のチロシン残基がリン酸化または脱リン酸化されていることも標識となりうる。
本発明の複合体または指標剤は、複合体を形成した場合にTxk RE DNAに結合することが好ましい。ここで、Txk REとは、IFN-γ遺伝子翻訳開始点の上流-53〜-39塩基のTxk応答領域(Txk responsive element)をいい、その塩基配列は、配列番号:7に記載のとおりである。したがって、Txk RE DNAは、配列番号:7に記載の塩基配列を含有するものであればよい。前記複合体がTxk RE DNAに結合することによって、IFN-γ遺伝子の転写を活性化し、Th1細胞におけるIFN-γの産生量を上昇させることができる。
本発明の標識された複合体または指標剤は、イムノアッセイなどの診断方法や複合体形成を調節する分子のスクリーニングなどに好適に使用することができる。
本発明のTh1特異的免疫反応を増強または抑制する物質を同定するためのスクリーニング方法は、測定方法により3つの態様:
1)複合体の形成の程度を指標にするスクリーニング方法
2)複合体のリン酸化の程度を指標にするスクリーニング方法
3)複合体のTxk RE DNAに結合する能力を指標にするスクリーニング方法
に分類することができる。それぞれの態様を以下に詳述する。
1)複合体の形成の程度を指標にするスクリーニング方法
1-a)前記指標剤と被検物質を準備する工程、
1-b) 被検物質の非存在下で、Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質がタンパク質複合体を形成する条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体の程度を測定する工程、
1-c) 被検物質の存在下で、前記複合体の程度を測定し、被検物質の存否による複合体形成の変動を比較する工程、ならびに
1-d)前記1-c)の比較結果に基づいて、前記複合体の形成に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む。
工程1-a)において、被検物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。
工程1-b)において、複合体を形成させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、25〜37℃の生理条件下で少なくとも2種のタンパク質を所定の濃度で混合する方法、Txkを固相に固定し、EF-1αおよび/またはPARP-1と結合させる方法、PARP-1を固相に固定し、Txkおよび/またはEF-1αと結合させる方法、あるいは培養細胞内で発現した少なくとも2種のタンパク質を当該細胞内に維持した状態で会合させる方法などがあげられる。
工程1-b)および1-c)において、前記複合体の形成は、以下の例にあげるような方法で測定できる。
1-b-1)抗Txk、PARP-1、またはEF-1α抗体を用いて免疫沈降し、抗Txk、PARP-1、またはEF-1α抗体のうち、免疫沈降で使用しなかった抗体でイムノブロッティングを行う方法。
1-b-2)Txk-RE DNAとの結合を利用して複合体を回収し、1-b-1)と同様のイムノブロッティングで測定する方法。あるいはTxk-RE DNAとの結合を、ゲルシフトアッセイ等で検出する方法。
1-b-3)Txk、PARP-1またはEF-1αのいずれか一つ以上を、ポリヒスチジンもしくはGSTなどの標識との融合タンパク質として発現させ、またはビオチン化させ、ポリヒスチジンはニッケルに、GSTはグルタチオンに、ビオチンはアビジンに結合することから、それらを利用して複合体を回収し、1-b-1)と同様のイムノブロッティングで測定する方法。
1-b-4)1つのタンパク質(例えばTxk)を、センサーチップに固相化して、他のタンパク質(例えばPARP-1、EF-1α)の結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)のシステムを用いて測定する方法。
工程1-c)において、被検物質の存否による複合体形成の変動を比較するには、前記測定方法により得られる結果を測定方法に応じて定性的または定量的に比較することによって行う。
工程1-d)において、被検物質の存在下で、前記工程1-b)で形成された複合体が少なくとも維持されているか(好ましくは被検物質の非存在下のときに比べて、より強固に形成されているか)または解離しているかについて、複合体の有無(好ましくはその程度)を比較することによって評価する。前者の場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の活性化を介した、Th2疾患の治療剤の候補として選択することができる。後者の場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の抑制化を介した、Th1疾患の治療剤の候補として選択することができる。このように選択された被検物質は、複合体の形成に影響を与える性質を有し、複合体を構成するTxkチロシンキナーゼ、EF-1αまたはPARP-1のいわゆるアゴニスト、アンタゴニストのみならず、本スクリーニング方法の性質上、これらタンパク質の発現量を変動させ得る物質をも含む。被検物質は、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。
2)複合体のリン酸化の程度を指標にするスクリーニング方法
2-a)前記指標剤と被検物質とを準備する工程、
2-b)被検物質の非存在下で、Txkチロシンキナーゼと、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質がリン酸化され得る条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体のリン酸化の程度を測定する工程、
2-c)被検物質の存在下で、前記複合体のリン酸化の程度を測定し、被検物質の存否によるリン酸化の変動を比較する工程、ならびに
2-d)前記2-c)の比較結果に基づいて、前記複合体のリン酸化に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む。
工程2-a)において、被検物質は工程1-a)と同様のものを用いることができる。
工程2-b)において、リン酸化を誘導する方法は特に限定されるものではないが、例えば、TxkとEF-1αおよび/またはPARP-1を所定の濃度で混合し、ATPおよび金属イオンの存在下で25℃〜37℃の生理条件下で反応させる方法があげられる。この場合の反応には、それぞれ遊離した状態のTxkとEF-1αおよび/またはPARP-1を用いてもよいが、固相化Txkを遊離EF-1αおよび/または遊離PARP-1と反応させてもよい。反対にEF-1αまたはPARP-1を固相化して用いてもよい。あるいは、培養細胞内にTxkとEF-1αおよび/またはPARP-1を発現させ、その細胞に種々刺激を加えることによってリン酸化を誘導する方法などもある。この場合の刺激方法は、発現させる細胞により種々の刺激方法が考えられ、特に限定されるものではない。例えば、発現させる細胞がT細胞系の場合、抗CD3抗体などを用いたT細胞受容体を介した刺激、PHAなどのマイトジェン、PMA/カルシウムイオノフォアなどによる刺激、あるいは過酸化水素など活性酸素による刺激があげられる。
工程2-b)および2-c)において、リン酸化の測定方法は公知の方法を用いることができ、例えば、抗リン酸化チロシン抗体を用いる方法、32Pで標識されたATPの存在下で複合体を形成して放射線を測定する方法などがあげられる。
工程2-c)において、リン酸化の変動を比較するには、被検物質の非存在下または存在下でのリン酸化チロシンの量を定性的または定量的に比較すればよい。
工程2-d)において、リン酸化が促進されている場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の活性化を介した、Th2疾患の治療剤の候補として選択することができる。リン酸化が抑制されている場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の抑制化を介した、Th1疾患の治療剤の候補として選択することができる。このように選択された被検物質は、リン酸化に影響を与える性質を有し、複合体を構成するTxkチロシンキナーゼ、EF-1αまたはPARP-1のいわゆるアゴニスト、アンタゴニストのみならず、本スクリーニング方法の性質上、これらタンパク質の発現量を変動させ得る物質をも含む。被検物質は、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。また、T細胞の活性化は通常一過性と考えられ、T細胞の活性化に伴う本発明の複合体のリン酸化を終息させる内因性のホスファターゼの存在が予想される。本発明は、Txk複合体の脱リン酸化に関わるホスファターゼの探索、さらにはそれら推定のホスファターゼの作用に影響する物質のスクリーニングにも使用することができる。
3)複合体のTxk RE DNAに結合する能力を指標にするスクリーニング方法
3-a)前記指標剤と被検物質を準備する工程、
3-b) 被検物質の非存在下で、TxkチロシンキナーゼとEF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質とがタンパク質複合体を形成する条件下に前記指標剤を供し、形成された複合体のTxk RE DNAに結合する能力を測定する工程、
3-c) 被検物質の存在下で、前記複合体のTxk RE DNAに結合する能力を測定し、被検物質の存否による複合体のDNA結合能の変動を比較する工程、ならびに
3-d)前記3-c)の比較結果に基づいて、前記複合体のTxk RE DNA結合能に影響を与える被検物質を選択する工程、
を含む。
工程3-a)において、被検物質は工程1-a)と同様のものを用いることができる。指標剤は、Txk RE DNAに結合する能力を測定するという観点から、Txk、EF-1αおよびPARP-1を含有するものが好ましい。
工程3-b)において、前記指標剤が複合体を形成する条件は特に限定されるものではないが、例えば、25〜37℃の生理条件下でTxkとEF-1αおよび/またはPARP-1を所定の濃度で混合する条件などがあげられる。
工程3-b)および3-c)において、複合体のTxk RE DNA結合能の測定方法は公知の方法を用いることができ、例えば、レポーターアッセイ、Txk RE 2本鎖DNA結合アッセイ、ゲルシフトアッセイがあげられる。
前記Txk RE 2本鎖DNA結合アッセイは、例えば、以下の方法により行うことができる。被検物質の存在下または非存在下で形成させたタンパク質複合体を、標識したTxk-RE DNAに結合させ、標識タグを利用して磁気ビーズなどでDNA-タンパク質複合体を沈降させる。沈降したDNA結合タンパク質をSDS-PAGEにかけた後、Txk-RE DNAに結合した複合体タンパク質を検出する。検出方法としては、CBB染色もしくは銀染色、またはTxk、EF-1αもしくはPARP-1に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング等があげられる。かかる検出方法により、被検物質の存在下または非存在下で、Txk-RE DNAに結合する複合体タンパク質の量を定性的、定量的に比較する。複合体タンパク質の量はTxk、EF-1α、またはPARP-1のいずれか一つを指標にすればよい。
工程3-c)において、複合体のTxk RE DNA結合能の変動を比較するには、レポーターアッセイの場合、被検物質の非存在下または存在下で前記DNAの下流に位置するレポーター遺伝子またはIFN-γ遺伝子の転写・翻訳産物の量を定性的または定量的に比較すればよい。ゲルシフトアッセイの場合、Txk複合体が結合した標識Txk RE DNAのバンドは、移動度の違いによって遊離の標識Txk RE DNAのバンドから分離することができる。この原理を利用してTxk複合体の結合した標識Txk RE DNAを選択的に定量化できる。すなわち、被検物質の存在下、あるいは非存在下で、Txk複合体が結合した標識Txk RE DNAの状態や量の変化を、定性的、定量的に比較すればよい。
工程3-d)において、DNA結合能が促進されている場合または結合が安定に維持されている場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の活性化を介した、Th2疾患の治療剤の候補として選択することができる。DNA結合能が抑制されている場合または結合が不安定化されている場合、被検物質は、Th1特異的免疫反応の抑制化を介した、Th1疾患の治療剤の候補として選択することができる。このように選択された被検物質は、複合体のTxk RE DNA結合能に影響を与える性質を有し、複合体を構成するTxkチロシンキナーゼ、EF-1αまたはPARP-1のいわゆるアゴニスト、アンタゴニストのみならず、本スクリーニング方法の性質上、これらタンパク質の発現量を変動させ得る物質をも含む。被検物質は、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。
本発明のスクリーニング方法は、インビトロで行ってもよく、インビボで行ってもよい。インビトロで行う方法としては、試験管内で再構築した系で行う方法、インビトロで培養した細胞内で行う方法、適当な固相を用いたマイクロアレイ法などがあげられる。インビボで行う方法としては、各種細胞または実験動物を用いる方法があげられる。生体内の反応に近いスクリーニング系を構築するためには、いずれの方法においても細胞内で行うことが好ましい。前記細胞としては、酵母細胞、昆虫細胞または哺乳類細胞が好ましい。酵母細胞としては、Y153、AH109等があげられる。昆虫細胞としては、Sf9、Sf21等があげられる。哺乳類細胞としては、Jurkat、COS、293、CHO等があげられる。
また、一次スクリーニングとしてインビトロで行う方法を選択し、二次スクリーニングとしてインビボで行う方法を選択することもできる。以下に、一次スクリーニングおよび二次スクリーニングに好適なスクリーニング方法をそれぞれ記載する。
複合体形成に影響する物質のインビトロ評価系(一次スクリーニング)
GST標識PARP-1(部分タンパク質または全長)をマルチウェルプレートに固相化する。被検物質の存在下または非存在下で、溶液状態のHis標識TxkとHis標識EF-1α(His標識Txkのみでもよい)を混合し、Txkキナーゼ活性化条件(ATP、MgCl2、MnCl2の存在下)において25〜37℃でインキュベートする。そして、TxkまたはEF-1αの特異的な結合量をそれぞれに特異的な抗体を用いたELISA法により測定し、被検物質存在下におけるそれぞれのタンパク質の結合量を、非存在下の場合と比較する。
この評価方法では、His標識Txkをマルチウェルプレートに固相化して、PARP-1およびEF-1αの結合を検出してもよい。この場合の固相化方法は、Txkの立体構造の維持を考えて、Ni-NTAなどHisとアフィニティーのある分子をあらかじめ固相化したマルチウェルプレートにHis標識Txkを反応させる方法が望ましい。分子の標識タグにビオチンやMycなど他の標識を用いてもよい。また、非標識タンパクの場合でも特異抗体などを用いて固相化することは可能である。
IFNγ遺伝子転写活性化評価系(二次スクリーニング)
Txk-REを、ルシフェラーゼ遺伝子を持つレポータープラスミド(例えばベクトン・ディッキンソン製pTAL-lucなど)のプロモーター領域上流に組み込んだコンストラクトを作製する。このコンストラクトをTxk発現ベクター(pME18S-Txk)とともにJurkat細胞にトランスフェクトして、それらの細胞を被検物質の存在下または非存在下で培養し、それぞれPHAで刺激する。刺激によって起こるルシフェラーゼの量を化学発光強度として測定し、被検物質存在下における発光強度を非存在下の場合と比較する。この評価系は、PARP-1とEF-1αがユビキタスに発現することから293細胞やCOS細胞など、他の細胞株を使用することもできる。
本発明のスクリーニング方法により選択される被検物質は、Th1/Th2免疫反応の調節を介した疾患の治療、すなわち、患者におけるTh1/Th2免疫反応の抑制または活性化を介した治療に用いられる候補治療剤となりうる。前記疾患としては、以下のような疾患が含まれる。
1)Th1免疫反応の異常な活性化が関与する疾患、例えば全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患およびリウマチ性疾患。
2)Th2免疫反応の異常な活性化が関与する疾患、例えば気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患。
3)Th1機能の低下により発生した種々の癌。
本発明のスクリーニング方法により選択される被検物質は、様々な作用機序に基づく有用な物質でもある。前記作用機序としては、大きく4つに分類することができる。
作用機序1: TxkとPARP-1および/またはEF-1αの相互作用に影響を及ぼす
このような物質は、複合体の形成を妨害してTxkのTxk-REへの結合を抑制したり、あるいは、複合体に結合して複合体の安定化に影響する効果を奏することが考えられる。その場合、複合体を不安定化させれば、Txk-REへの結合および転写活性化が抑制され、反対に、安定化させるならTxk-REへの結合および転写活性化が促進(持続)する。また、それらの物質が複合体を形成するタンパク質の一つ以上と置き換わることにより、複合体形成を模倣することも考えられる。そのような物質による類似の複合体が天然の複合体より不安定である場合、Txk-REへの結合および転写活性化が抑制される。反対に、安定である場合、Txk-REへの結合および転写活性化が促進(持続)される。
作用機序2:複合体のTxk-REへの結合に影響を及ぼす
このような物質は、複合体のTxk-RE DNA上への結合を抑制する効果を奏することが考えられる。この場合、複合体の形成が正常に起こったとしても、それによる遺伝子転写は抑制される。また、複合体の形成が阻害される場合、当然複合体はTxk-RE DNA上に結合せず、遺伝子転写は阻害される。反対に、複合体のTxk-REへの結合を促進(あるいは安定化)する物質の同定も可能であり、この場合、遺伝子転写は促進される。
作用機序3:Txkの自己リン酸化、またはTxkによるPARP-1および/またはEF-1αのリン酸化に影響を及ぼす
このような物質は、TxkによるTxk自身、PARP-1、EF-1αのいずれかのリン酸化を抑制する効果を奏することが考えられる。反対に、これらのリン酸化を促進(あるいは安定化)する効果を奏することも考えられる。リン酸化に影響を及ぼすことによって、これらの物質は、複合体の形成またはTxk-REへの結合にも影響を及ぼす。
作用機序4:複合体を構成するTxk、PARP-1またはEF-1αの発現を調節する
これらの物質は、複合体を形成するタンパク質成分の割合を変化させることによって、複合体形成に影響を与えることが考えられる。
本発明のスクリーニング方法により選択される被検物質は、Txk、PARP-1またはEF-1αの公知の阻害剤であってもよい。例えば、PARP-1の阻害剤としては、実施例に記載のベンザミドまたは3-アミノベンザミドなどがあげられる。
本発明の診断薬は、本発明の複合体もしくは指標剤、または前記複合体もしくは指標剤に含まれるタンパク質を認識する抗体を含有するものである。
前記抗体は、常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、前記抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したTxk、EF-1αまたはPARP-1を用いて、あるいは常法に従ってこれら本発明タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したTxk、EF-1αまたはPARP-1、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞を培養して得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
本発明の診断薬は、診断薬に一般に含まれる担体を含有してもよい。かかる担体としては、後述する医薬組成物に含まれる担体から診断薬に適するものを適宜選択することができる。
本発明の診断薬は、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患を含むTh1優位の疾患、あるいはアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患を含むTh2優位の疾患の診断に有用である。
本発明の医薬組成物は、下記有効成分:
(a) 本発明の複合体もしくは指標剤、
(b) 前記(a)に含まれるタンパク質を認識する抗体、
(c) Txk、EF-1αおよびPARP-1の遺伝子からなる免疫反応調節遺伝子群より選ばれる少なくとも1つのDNA配列を含むポリヌクレオチド、または
(d) Txk、EF-1αおよびPARP-1の遺伝子からなる免疫反応調節遺伝子群より選ばれる少なくとも1つの配列に基づくsiRNAもしくは当該siRNAを発現するベクター、
と、医薬上許容される担体を含むものである。
前記有効成分(a)〜(d)は、前述したとおりであり、Th1/Th2免疫反応の調節を介した、疾患の治療のための医薬の製造に使用することができるものである。
前記担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
本発明の医薬組成物は、Th1/Th2免疫反応のバランスの調節に有用であると考えられる。したがって、意図される用途としては、Th1/Th2免疫反応の調節を介した治療、すなわち、患者におけるTh1/Th2免疫反応の抑制または活性化であり、この場合の最終的な用途には、以下のような疾患の治療が含まれる。
1)Th1免疫反応の異常な活性化が関与する疾患、例えば全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患やリウマチ性疾患、に対するTh1免疫反応の抑制による治療。
2)Th2免疫反応の異常な活性化が関与する疾患、例えば気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、に対するTh1免疫反応の活性化による治療。
3)Th1機能の活性化による、細胞性免疫の賦活化を介した抗腫瘍活性の増強による癌治療。
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。
実施例1
IFN-γプロモーター中のTxk REに結合するTxk複合体を構成するタンパクの同定
1)Txk発現プラスミドのトランスフェクションとJurkat細胞のPHA刺激
Txk発現プラスミドpME18S-Txkは、Journal of the Experimental Medicine;1999: 190(8), 1147-1154頁 に記載の方法に従って、プラスミドベクターpME18Sのクローニング部位に全長のTxkをコードするcDNAを挿入することにより作製した。
Jurkat細胞(ATCC No.TIB-152)を10%ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI1640培地で培養し、細胞を集めてKPBS(30mM NaCl、120mM KCl、8mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、10mM MgCl2)に懸濁した。前記細胞をキュベットに移し、ジーンパルサー(Bio-Rad製)を用いたエレクトロポレーション法(300mV、960μFD)にて前記プラスミドpME18S-Txk をトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を43、45または46.5時間培養した後、PHAを1μg/mlになるように加えて、それぞれさらに5、3または1.5時間培養、すなわち、トランスフェクト48時間後まで培養した。
2)核タンパク質抽出液の作製
前記1)で培養した細胞を回収し、Phosphate Buffered Saline(PBS:pH7.4)で2回洗浄した後、ペレットをTris Buffered Saline(TBS:pH7.4)で再浮遊した。遠心分離により上清を除去後、氷冷したBuffer1(10mM Hepes(pH7.9)、10mM KCl、0.1mM EDTA、0.1mM EGTA、1mM DTT、0.5mM PMSF)を細胞5×106個あたり100μL加えてゆっくりとピペッティングした。氷上で15分間静置後、10%NP-40水溶液を細胞5×106個あたり6.25μL加えて攪拌した。遠心分離後、上清を取り除き、ペレットに氷冷したBuffer3(20mM Hepes(pH7.9)、0.4M NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DTT、1mM PMSF)を細胞5×106個あたり50μL加えて再溶解した。遠心分離により上清を回収し、これを核タンパク質抽出液とした。
3)Txk RE二本鎖DNA結合
本発明者らは、PHA刺激後のTxk遺伝子導入Tリンパ腫由来Jurkat細胞の核タンパク質を用いて、IFN-γ遺伝子翻訳開始点の上流-53〜-39塩基のTxk応答領域(Txk responsive element:Txk RE)(配列番号7)をすでに同定している(J Immunol 2002; 168: 2365-2370頁)。ビオチン標識IFN-γプロモーター領域(-56/-36)オリゴヌクレオチド(配列番号8)(Txk RE(-53/-39)を含む)は熱変性させた後、ゆっくりと室温まで冷却してアニーリングさせた。核タンパク質48μLあたりに、5×結合バッファー(100mM Hepes pH7.6, 5mM EDTA, 50mM (NH42SO4, 5mM DTT, 1% Tween20, 150mM KCl)を16μL、100μg/mL poly-L-lysineを2μL、1mg/mL poly(dI-dC) 2を2μL、DDWを4μL、ビオチン標識Txk-RE二本鎖DNA(30fM)を8μL加えて、室温で15〜30分間インキュベートした。1×結合バッファーで洗浄したマグネチックビーズ結合ストレプトアビジン(Dynabeads-streptavidin:DYNAL製)を、混合液80μLあたり20μL加えて、室温でさらに15〜30分インキュベートした。ビーズを1×結合バッファーで3回洗浄して回収した。回収したTxk RE DNA(-53/-39)結合タンパク質に、1×サンプルバッファー(25mM Tris-HCl、5% グリセロール、1% SDS、0.05% BPB、1% 2-メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルした後、遠心上清をSDS-PAGEに供した。結果を図1に示す。
4)Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質の同定
SDS-PAGE後のポリアクリルアミドゲルから、約100kdおよび45kdのタンパク質バンドを回収し、エドマン分解法を用いてアミノ酸解析を行った。
得られた部分アミノ酸配列は、前記約100kdのタンパク質に由来する配列として、
NREELGFRPEYS(配列番号9)および
IFPPETSASVAA(配列番号10)であり、
前記約45kdのタンパク質に由来する配列として
YYVTIIDAPGHR(配列番号11)および
HINIVVIGHVD(配列番号12)であった。
前記部分アミノ酸配列データをもとにホモロジーサーチを行い、約100kdのタンパク質がPARP-1、約45kdのタンパク質がEF-1αであることを同定した。
5)Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質におけるPARP-1およびEF-1αの確認
Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質をSDS-PAGEに供し、ニトロセルロース膜(アマシャム)に転写した後、標準的な方法を用いて抗PARP-1抗体(シグマ製)、または抗EF-Tu抗体(EF-1αに対しても交差性を示す)(サンタクルズ製)でイムノブロッティングを行った(図2、3)。
図1〜3より、Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質中に、PARP-1、EF-1αおよびTxkの3分子を確認した。TxkトランスフェクトJurkat細胞において、Txkは、PHA刺激1.5時間後から少なくとも5時間まで、PARP-1と結合していた。EF-1αは、PHA刺激1.5時間後の時点では結合せず、3時間後から少なくとも5時間後まで結合が認められた。PHA刺激1.5時間後の核タンパク質においては、EF-1αの会合が認められなかったことから、PHA刺激TxkトランスフェクトJurkat細胞において、EF-1αの会合はPARP-1の会合の後に起こること考えられた。
実施例2
Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質のチロシンリン酸化
Txk-RE DNA(-53/-39)結合タンパク質をSDS-PAGEに供し、ニトロセルロース膜(アマシャム)に転写した後、標準的な方法を用いて、抗チロシンリン酸化抗体(PY20:サンタクルズ製)を用いたイムノブロッティングを行った。結果を図4に示す。
図4より、PARP-1、EF-1αおよびTxkと分子量が一致するチロシンリン酸化バンドを確認した。このことから、本発明で示した複合体を構成する3つのタンパク質、PARP-1、EF-1αおよびTxkは、PHA刺激したTxk遺伝子導入Jurkat細胞の核タンパク質中で、チロシンリン酸化されていることが明らかになった。
実施例3
組換えタンパク質の作製
1)His標識完全長ヒトTxk
プラスミドpQE31-Txkは、His標識完全ヒトTxkタンパク質をコードするcDNAを組み込んだ発現ベクターであり、その構築方法は、公知である(Biol Pharm Bull.2002; 25(6):718-721)。前記プラスミドで大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換した細菌細胞を1500mlの培地で培養し、2mM IPTGでタンパク質の発現を誘導した。
前記細菌培養のペレットからHis標識ヒトTxkを精製した。当該細菌ペレットを15mlの溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、20mM イミダゾール、10mM MgCl2、3mM MnCl2、20% グリセロール、10mM 2-メルカプトエタノール pH8.0)に懸濁し、氷温下で超音波破砕した後、4℃で遠心分離を繰り返すことにより、細胞デブリを除いた。当該上清に120μLのニッケルアガロース(QIAGEN製)を加え、4℃で30分間回転させた。当該樹脂を洗浄用緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、50mM イミダゾール、10mM MgCl2、3mM MnCl2、20% グリセロール、10mM 2-メルカプトエタノール pH8.0)で2回洗浄後、ストック用緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、10mM MgCl2、3mM MnCl2、20% グリセロール、10mM 2-メルカプトエタノール pH8.0)で3回洗浄し、同液800μLに再懸濁した。
2)His標識キナーゼドメイン欠損ヒトTxk(Txk-kd)
pQE31-Txk-kdプラスミドは、星薬科大学、Dr.Kashiwakuraから供与された。pQE31-Txk-kdは、Txk DNA(配列番号1)の87から1247番目をコード(1247番目の塩基の後に終止コドンを挿入)するcDNAを組み込んだ発現ベクターである。Txk-kdタンパク質の作製は、His標識完全ヒトTxkタンパク質と同様にして行った。このプラスミドを基に作製したタンパク質は、Txkの1から387番目のアミノ酸をコードし、キナーゼドメインの活性部位を含む388から527番目のアミノ酸を欠損している。
3) His標識プロリンリッチ領域欠損ヒトTxk(Txk-ΔPRR)
標準的な手法により作製したプライマーを用いて、pQE31-Txkをテンプレートに、Txk DNA(配列番号1)の330から1670番目をPCRにて増幅、pQE30プラスミドにサブクローニングした。欠損変異体タンパク質の作製は、His標識完全ヒトTxkタンパク質と同様にして行った。このプラスミドを基に作製したタンパク質は、Txkの82から527番目のアミノ酸をコードし、プロリンリッチ領域を含む1から81番目のアミノ酸を欠損している。
4)His標識完全長ヒトEF-1α
ヒトEF-1αクローンは、ATCCより入手した(MGC16449)。標準的な手法により作製したプライマーを用いて全長のEF-1α遺伝子を増幅し、pQE30プラスミドにサブクローニングした。pQE30-EF-1αはHis標識完全ヒトEF-1αタンパク質をコードする。His標識ヒトEF-1αは、培養液を500ml とすること以外は前記1)と同様にして、IPTGで誘導された細菌培養の500mlのペレットから精製した。当該細菌ペレットを6mlの溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、pH8.0)に懸濁し、氷温下で超音波破砕した後、4℃で遠心分離を繰り返すことにより、細胞デブリを除いた。当該上清に150μLのニッケルNTAアガロース(QIAGEN製)を加え、4℃で30分間回転させた。当該樹脂を洗浄用緩衝液(40mM HEPES、50mM イミダゾール、100mM NaCl、pH8.0)で2回洗浄後、溶出緩衝液(40mM HEPES、250mM イミダゾール、100mM NaCl、pH8.0)を200μL加えてHis標識完全ヒトEF-1αタンパク質を溶出した。溶出の操作は4回行い、合計800μLに溶出液を得た。得られた溶出液から、イミダゾールを除去するために、ろ過フィルター型スピンカラム(マイクロコンYM-10、MWCO:10,000、amicon製)を用いて、バッファーをDTT(-)キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)に置換した。
5)完全長ヒトPARP-1
pTPプラスミドは、国立がんセンター研究所、Dr. Masutaniから供与された。pTPプラスミドは、完全ヒトPARP-1タンパク質をコードする(Biochem Biophys Res Commun. 1989; 163(2): 739-745頁)。前記プラスミドで大腸菌HB101株を形質転換した。形質転換した細菌細胞を500mlの培地で培養し、インドリルアクリル酸(IAA)(20μg/ml培地)でタンパク質の発現を誘導した。当該細菌ペレットを4mlのDTT(-)キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)に懸濁し、氷温下で超音波破砕した後、4℃で遠心分離を繰り返すことにより、細胞デブリを除いた。当該上清をPARP-1タンパク質含有ホールセルライゼートとして使用した。
6)グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)標識ヒトPARP-1部分タンパク質
標準的な手法により作製したプライマーを用いて、PARP-1遺伝子(配列番号5)の160から1176番目(以後PARP-Fと表記する)、および1171から3204番目 (以後PARP-Rと表記する)までのPARP-1遺伝子を増幅し、pGEX-5X-1(以後pGEXと表略して表記する)プラスミド(Amersham製)にサブクローニングした。pGEX-PARP-Fは、GSTのC末端側にPARP-1(配列番号6)の1から339番目までのアミノ酸をコードし、pGEX-PARP-Rは、GSTのC末端側にPARP-1の338から1014番目までのアミノ酸をコードする。
Lacプロモーターから発現する GST標識ヒトPARP-FおよびPARP-Rは、前記実施例3の1)と同様にして、IPTGで誘導された細菌培養の250〜500mlのペレットから精製した。当該細菌ペレットを3〜6mlの溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、1mM DTT、pH7.4)に懸濁し、氷温下で超音波破砕した後、4℃で遠心分離を繰り返すことにより、細胞デブリを除いた。当該上清に溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、1mM DTT、pH7.4)で平衡化したGlutathione-sepharose HP(Amersham製)を60〜80μL加え、4℃で30分間回転させた。当該樹脂を溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、1mM DTT、pH7.4)で3回洗浄後、溶出緩衝液(40mM HEPES、1mM DTT、10mM還元型グルタチオン、pH8.0)を100μL加えてGST標識タンパク質を溶出した。溶出の操作は合計3回行い、合計300μLの溶出液を得た。得られた溶出液から、グルタチオンを除去するために溶解緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、1mM DTT、pH7.4)にて透析を行った(三光純薬製、透析膜8/32)。
実施例4
インビトロにおけるTxk-wtによるEF-1αのリン酸化(in vitro キナーゼアッセイ)
His標識完全長ヒトTxk(以後Txk-wtと表記する)のキナーゼ活性は、自己リン酸化反応の程度により確認した。
1)Txk-wt、Txk-kdおよびTxkΔPRRの自己リン酸化
Ni-NTAレジン結合His-Txk‐wt(以後Txk-wtレジンと表記する)、Ni-NTAレジン結合His-Txk-kd(以後Txk-kdレジンと表記する)およびNi-NTAレジン結合His-Txk-ΔPRR(以後Txk-ΔPRRレジンと表記する)は、キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)で3回洗浄し、同液に再懸濁した。Txk-wtレジン、Txk-kdレジンおよびTxk-ΔPRRレジンに、最終濃度が1mMになるようにDTTを添加した後、最終濃度が250μMになるようにATPを加えて、25℃、30分間インキュベートした。インキュベーション後、5×サンプルバッファー(125mM Tris-HCl、25% グリセロール、5% SDS、0.25% BPB、5% 2-メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルし、SDS-PAGEした。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜(Hybond ECL、アマシャム)に転写後、抗リン酸化チロシン抗体(PY20、サンタクルズ製)でイムノブロッティングした。
その結果、Txk-wtは、ATP存在下でインキュベートすることにより、リン酸化を受けることが示され、Txk-wtの自己リン酸化反応を確認した。Txkのキナーゼ活性を欠損したTxk-kdはリン酸化を受けなかったことから、このTxk-wtのリン酸化がTxk自身のキナーゼ活性によるものであることを示した。一方、プロリンリッチ領域を含む1番目から81番目までのアミノ酸を欠失したTxk-ΔPRRは、Txk-wtと同等以上の自己リン酸化活性を示した。また、Txk-wtの自己リン酸化は、非特異的キナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンの1〜10μMの添加により阻害されたが、チロシンキナーゼ阻害剤であるGenisteinでは100μMまで阻害されなかった。
2)EF-1αのリン酸化
Txk-wtレジンは、キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)で3回洗浄し、同液に再懸濁した。Txk-wtレジンと溶出したHis-EF-1α(以後EF-1αと表記する)に、最終濃度が1mMになるようにDTTを添加した。調製したTxk-wtレジンとEF-1αを混合し、最終濃度が250μMになるようにATPを加えて、25℃、60分間インキュベートした。インキュベーション後、前記混合物に5×サンプルバッファー(125mM Tris-HCl、25% グリセロール、5% SDS、0.25% BPB、5% 2-メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルし、SDS-PAGEに供した。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜(Hybond ECL、アマシャム製)に転写後、抗リン酸化チロシン抗体(PY20、サンタクルズ製)でイムノブロッティングした。
その結果、Txk-wtとATP存在下でインキュベートした場合、EF-1αはチロシンリン酸化を受けることが示された。
実施例5
PARP-1部分タンパク質のリン酸化
Txk-wtレジン、Txk-ΔPRRレジンおよびTxk-kdレジンを、キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)で3回洗浄して、同液に再懸濁し、最終濃度が1mMになるようにDTTを加えた。また、GST-PARP-FおよびGST-PARP-R溶液には、最終濃度で10mMのMgCl2、3mMのMnCl2、および1mMのDTTを添加した。Txk-wtレジン、Txk-ΔPRRレジン、またはTxk-kdレジンとGST-PARP-F、またはGST-PARP-Rを混合し、最終濃度が250μMになるようにATPを加えて、25℃、60分間、または0分間(陰性対照)インキュベートした。インキュベート後、遠心分離によりレジンと上清をわけて回収し、それぞれにSDS-PAGEサンプルバッファーを加えて、95℃、5分間ボイルし、遠心上清をSDS-PAGEした。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写後、抗リン酸化チロシンモノクローナル抗体(PY20:サンタクルズ製)でイムノブロッティングした。リン酸化チロシンのバンドを解析後、ニトロセルロース膜にリプロービングバッファー(62.5mM Tris-HCl、2% SDS、100mM 2-メルカプトエタノール、pH6.7)を加えて50℃で30分間振とうしてリプローブした後、抗PARP-1ポリクローナル抗体(MP BIOMEDICAL製)で再度イムノブロッティングした。
その結果、GST-PARP-Rを、Txk-ΔPRRレジンとインキュベートした場合、抗チロシンリン酸化抗体(PY20)と反応するバンドを観察した。また、同様にGST-PARP-Rを、Txk-wtレジンとインキュベートした場合も、PY20と反応するバンドを観察した。リプローブ後、抗PARP-1抗体でイムノブロッティングを行ったところ、これらのPY20陽性のバンドは抗PARP-1抗体に対しても反応が認められた。これらのことから、Txk-wtおよびTxk-ΔPRRと結合するGST-PARP-Rはリン酸化を受けていることが示された。一方、GST-PARP-RをTxk‐kdレジンとインキュベートした場合、リン酸化されたGST-PARP-Rのバンドは認められなかった。また、Txk-ΔPRRレジンと結合するGST-PARP-Fも、GST-PARP-Rと同様にリン酸化を受けていることが示された。
これらのことから、本実験系においてPARP-1はTxk-wtのみならず、PRRを含む1〜81番目のアミノ酸を欠損するTxkによっても、リン酸化を受けることが示唆された。また、Txkによってリン酸化を受けるチロシン残基が、PARP-1の1〜339アミノ酸残基の間にも、338〜1014アミノ酸残基の間にも存在することが示唆された。
実施例6
インビトロにおけるTxk-wtとPARP-1の結合
Txk-wtレジンおよびTxk-kdレジンを、キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)で3回洗浄し、同液に再懸濁した。それぞれのレジン懸濁液および完全長PARP-1溶液に、最終濃度が1mMになるようにDTTを加えた。Txk-wtレジン、またはTxk-kdレジンと完全長PARP-1を混合し、最終濃度が250μMになるようにATPを加えて、25℃、120分間インキュベートした。インキュベート後、遠心分離によりレジンを回収し、洗浄バッファー(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、0.1mM DTT、1mM Na3VO4、1mM PMSF、50mM NaF、100mM NaCl、pH7.4)で洗浄した。再度レジンを回収し、2×SDS-PAGEサンプルバッファー(50mM Tris-HCl、10% グリセロール、2% SDS、0.1% BPB、2% 2-メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルして、SDS-PAGEに供した。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写後、抗PARP-1ポリクローナル抗体(サンタクルズ製)でイムノブロッティングした。
PARP-1をTxk-wtレジンと反応させたとき、PARP-1がTxk-wtレジンと共沈した。このことは、Txk-wtがPARP-1と2分子間で相互作用することを示している。また、PARP-1をTxk-kdレジンと反応させたときは、共沈するPARP-1の量がTxk-wtレジンを用いた場合に比べて減少した。このことは、PARP-1とTxk-wtとの相互作用にキナーゼドメインが重要であることを示している。
実施例7
インビトロにおけるTxk-ΔPRRとPARP-1の結合
Txk-ΔPRRレジン、およびTxk-kdレジンを、キナーゼ緩衝液(40mM HEPES、10mM MgCl2、3mM MnCl2、pH7.4)で3回洗浄し、同液に再懸濁した。それぞれのレジン懸濁液および完全長PARP-1溶液に、最終濃度が1mMになるようにDTTを加えた。Txk-ΔPRRレジン、またはTxk-kdレジンと完全長PARP-1を混合し、最終濃度が250μMになるようにATPを加えて、25℃、60分間、または0分間(陰性対照)インキュベートした。インキュベート後、遠心分離によりレジンを回収し、2×SDS-PAGEサンプルバッファー(50mM Tris-HCl、10% グリセロール、2% SDS、0.1% BPB、2% 2-メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルして、SDS-PAGEに供した。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写後、抗PARP-1ポリクローナル抗体(サンタクルズ製)でイムノブロッティングした。
PARP-1をTxk-ΔPRRレジンと反応させたとき、PARP-1はTxk-ΔPRRレジンと共沈した。また、PARP-1をTxk-kdレジンと反応させたとき、実施例6の結果と同様に、共沈するPARP-1の量がTxk-ΔPRRレジンを用いた場合に比べて減少した。このことは、Txkの1〜81番目のアミノ酸を欠損するTxk-ΔPRRもPARP-1と2分子間で相互作用することを示している。
実施例8
His-Txk-wt、His-EF-1αおよびGST-PARP-Fを用いた複合体の形成
実施例3−1)の方法で作製したHis-Txk-wtレジンを、HEPES緩衝液(40mM HEPES、 100mM NaCl pH7.4)で2回洗浄後、溶出緩衝液(40mM HEPES、250mM イミダゾール、100mM NaCl、pH7.4)を75μL加えて、His-Txk-wtタンパク質を溶出した。溶出の操作は4回行い、合計300μLの溶出液を得た。得られた溶出液から、イミダゾールを除去するために、HEPES緩衝液(pH7.4)に対して透析を行った。
溶出His-EF-1αは、実施例3−4)の方法で作製し、得られた溶出液から、イミダゾールを除去するために、HEPES緩衝液(pH7.4)に対して透析を行った。
GST-PARP-Fレジンは、実施例3−6)の方法で作製し、Glutathione-sepharose HP に結合した状態で HEPES緩衝液で3回洗浄し、同液600μLに再浮遊させた。
溶出したHis-Txk-wt、His-EF-1αに、10mM MgCl2、3mM MnCl2、1mM DTT、および1% NP-40を添加した。GST-PARP-Fレジンは、洗浄緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、10mM MgCl2、3mM MnCl2、1mM DTT、1% NP-40、pH7.4)で平衡化し、同液で元のレジン濃度になるように再浮遊させた。
GST-PARP-Fレジンをチューブにとり、His-Txk-wtおよび/またはHis-EF-1αを加え、250μMのATPを添加して25℃で60分間インキュベートした。遠心分離によりレジンを回収し、洗浄緩衝液(40mM HEPES、100mM NaCl、10mM MgCl2、3mM MnCl2、1mM DTT、1% NP-40、pH7.4)で2回洗浄後、レジンに2×SDS-PAGEサンプルバッファー(50mM Tris-HCl、10% Glycerol、2% SDS、0.1% BPB、2% 2-Mercaptoethanol、pH6.8)を加えて、95℃、5分間ボイルして、上清をSDS-PAGEに付した。SDS-PAGEにより展開したタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写後、Ni-NTA-HRPでウェスタンブロッティングした(図5)。
His-Txk-wtおよびHis-EF-1αはいずれもGST-PARP-Fと2分子からなる複合体を形成し、GST-PARP-Fとともに沈降した(図5、レーン4,5)。また、GST-PARP-FとHis-Txk-wtとHis-EF-1αの3分子を混合した群においては、GST-PARP-F とともにHis-Txk-wtとHis-EF-1αが沈降した(図5、レーン6)。一方、GST-PARP-FのかわりにGSTを用いた場合は、2分子、3分子いずれの条件においても相互作用は認められなかった(図5、レーン1〜3)。これらのことから、インビトロのキナーゼ活性化条件において、GST-PARP-FとHis-Txk-wtとHis-EF-1αは、3分子からなる複合体を形成することが示された。
実施例9
PARP-1阻害剤によるInterferon gamma(以後IFN-γと表記する)産生抑制
Jurkat細胞を10%ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI1640培地で培養し、細胞を集めてKPBS(30mM NaCl、120mM KCl、8mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、10mM MgCl2)に懸濁した。細胞をキュベットに移し、ジーンパルサー(Bio-Rad)を用いたエレクトロポレーション法(300mV、960μFD)にてTxk発現プラスミドpME18S-Txk をトランスフェクトした。48時間培養後、PHAを1μg/mlになるように加えて、0.01〜1mMのPARP-1阻害剤ベンザミド(benzamide:シグマ製)、または3-アミノベンザミド(3-aminobenzamide:シグマ製)存在下、または非存在下でさらに24時間培養し、培養上清中のIFN-γ濃度をELISA法(Biosource製)にて測定した(図6)。図6より、ベンザミドおよび3-アミノベンザミドは、Txk遺伝子導入Jurkat細胞からのIFN-γ産生を濃度依存的に抑制することが示された。
考察
1)Txk/PARP-1/EF-1α複合体の形成は、T細胞の活性化によって誘導される
TxkがT細胞の活性化に伴って核内に移行すること、ならびにTxkがT細胞の活性化に伴って核内に移行し、IFN-γ遺伝子上流プロモーター領域に結合して、IFN-γの転写活性化を調節していることはすでに報告されている。本発明における、TxkとPARP-1および/またはEF-1αとの複合体の形成は、Txkの核内への移行、Txk-REへの結合、またはIFN-γ転写活性化等に関わると考えられる。また、Txkを介したサイトカイン遺伝子の転写活性化は、IFN-γ特異的であることがすでに報告されていることから(J Exp Med 1999; 190(8): 1147-1154)、本発明におけるTxkとPARP-1および/またはEF-1αとの複合体の形成は、Th1特異的な免疫反応を調節する新規のシグナル伝達経路を示唆している。実施例9においてPARP-1の阻害剤である3-アミノベンザミドの添加が、Txk遺伝子導入Jurkat細胞からのIFN-γ産生を抑制することを示した。
2)PARP-1の機能と複合体形成
PARP-1は、NADを基質として、標的タンパク質をポリADPリボシル化する酵素活性を有している。顕著なポリADPリボース結合タンパク質としては、ヒストンがあげられる。すなわち、Txk-RE DNAにTxk、EF-1αとともにリクルートされるPARP‐1は、ヒストンなど標的核タンパク質のポリADPリボシル化を介してヌクレオソーム構造の再構成を誘導し、その結果として転写が調節されると推察できる。実施例9の結果から、PARP-1がTxkによる転写調節機構に対してコアクチベーターとして働いているということ、またその機能がPARP-1のポリADPリボシル化活性を介していることを示唆している。
3)EF-1αの機能と複合体形成
EF-1αの細胞内シグナル伝達系への関与としては、これまでにPLCγとの関わりが報告されている。EF-1αとPLCγ1との間の相互作用は、上皮成長因子(EGF)の処理により増加することから、EF-1αがPLCγ介在のシグナル伝達系に関与していると考えられる。インビトロの解析から、PLCγのSH2およびSH3ドメインとEF-1αのC末端領域が相互作用に必要であることが示されている。これと同様に、EF-1αがTxkのSH2ドメインまたはSH3ドメインと相互作用し、何らかの形でTxkの機能を修飾して、核移行シグナル配列のあるTxkとともに核内に移行している可能性も考えられる。実施例では、Jurkat細胞の活性化によって、EF-1αがチロシンリン酸化され、核内に存在することを示し、さらに、in vitroにおいてTxk-wtとインキュベートすることにより、EF-1αがリン酸化されることも示した。
4)Txkの機能と複合体形成
実施例において、Txk-RE DNA(-53/-39)に結合する複合体形成タンパク質は、いずれもチロシンリン酸化を受けていることを示した。さらに、TxkとPARP-1(部分タンパク質)、TxkとEF-1αの2分子間の相互作用をインビトロキナーゼアッセイで検討した結果、TxkがPARP-1(部分タンパク質)およびEF-1αをリン酸化することを示した。これらのことは、Txk/PARP-1/EF-1α複合体の形成が、Txkのチロシンリン酸化活性に制御されている可能性を示唆している。本発明で示すTxk/PARP-1/EF-1α複合体は、直接的にIFN-γプロモーター領域のTxk-REに結合することから、IFN-γ遺伝子のようにプロモーター領域にTxk-REのモチーフを持つ遺伝子の転写活性化を特異的に調節にしているものと考えられる。このモチーフに結合するTxk、PARP-1およびEF-1αは、いずれもチロシンリン酸化されていること、さらにin vitroにおいて、TxkがTxk自身、PARP-1、およびEF-1αをリン酸化することなどから、Txkのキナーゼ活性が複合体の形成、複合体のTxk-REモチーフへの結合、およびIFN-γ遺伝子の転写活性化に重要な役割をしている可能性が強く示唆される。
Txk-REのモチーフは、Th1型免疫反応に関連するタンパク質であるTNFαやCCR5のプロモーター領域にも類似の配列が存在することがすでに報告されている(J Immunol 2002; 168: 2365-2370)。このことから、これらの配列は、Txk複合体が結合するためのコンセンサスDNA配列と推定され、IFNγやTNFα、CCR5など、Th1関連遺伝子上流へのTxk複合体の結合が、それら遺伝子群の転写活性化を介してTh1細胞の分化、および活性化に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。また、Txkの自己リン酸化が、広域に作用するチロシンキナーゼ阻害剤であるGenisteinでほとんど抑制されなかったことを考えると、Th1免疫反応を特異的に抑制するTxkキナーゼ活性阻害剤の創薬の可能性も期待できる。
配列表フリーテキスト
〔配列番号:7〕
オリゴヌクレオチド
〔配列番号:8〕
ビオチン化されたオリゴヌクレオチド
実施例1において、Txkを発現させ、PHAで刺激したJurkat細胞の核タンパク質中に含まれる本発明の複合体がTxk RE DNAに結合して回収されたことを示す電気泳動の図。 PHAで刺激したJurkat細胞の核タンパク質中に含まれる本発明の複合体を構成するタンパク質がPARP-1抗体により認識されたことを示す電気泳動の図。 PHAで刺激したJurkat細胞の核タンパク質中に含まれる本発明の複合体を構成するタンパク質がEF-Tu抗体(EF-T1に交差反応する抗体)により認識されたことを示す電気泳動の図。 PHAで刺激したJurkat細胞の核タンパク質中に含まれる本発明の複合体を構成するタンパク質が抗リン酸化チロシン抗体により認識されたことを示す電気泳動の図。 His-Txkおよび/またはHis-EF-1αをGST-PARP-FレジンまたはGSTレジンとともに複合体を形成する条件で反応させたとき、His-TxkおよびHis-EF-1αがGST-PARP-Fレジンと結合し、共沈することを、Ni-NTA-HRP染色により示した電気泳動の図。レーン1:GSTとEF-1αの相互作用レーン2:GSTとTxk-wtの相互作用レーン3:GSTとTxk-wt とEF-1αの相互作用レーン4:GST-PARP-FとEF-1αの相互作用レーン5:GST-PARP-FとTxk-wtの相互作用レーン6:GST-PARP-FとTxk-wt とEF-1αの相互作用レーン7:添加したTxk-wtレーン8:添加したEF-1α 実施例9において、Txkを発現させてPHAで刺激したJurkat細胞を培養してPARP-1の阻害剤を添加したときの阻害剤の濃度と当該細胞から産生されるIFN-γの濃度との相関を示す図。

Claims (12)

  1. Txkチロシンキナーゼ、伸長因子-1α(EF-1α) およびポリ-ADP-リボースポリメラーゼ-1 (PARP-1)からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質を含有してなるタンパク質複合体。
  2. TxkチロシンキナーゼおよびEF-1αを含有してなるタンパク質複合体。
  3. TxkチロシンキナーゼおよびPARP-1を含有してなるタンパク質複合体。
  4. Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1を含有してなるタンパク質複合体。
  5. 免疫反応調節の指標剤として用いられる請求項1〜4いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
  6. 表示的または検出可能な標識を保持する、請求項1〜5いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
  7. 固相に固定されている、請求項1〜6いずれか1項に記載のタンパク質複合体。
  8. Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1からなる群より選ばれる少なくとも2種のタンパク質を含有してなる免疫反応調節の指標剤。
  9. TxkチロシンキナーゼとEF-1αとを含有してなる免疫反応調節の指標剤。
  10. TxkチロシンキナーゼとPARP-1とを含有してなる免疫反応調節の指標剤。
  11. Txkチロシンキナーゼ、EF-1αおよびPARP-1を含有してなる免疫反応調節の指標剤。
  12. 表示的または検出可能な標識を保持する、請求項8〜11いずれか1項に記載の指標剤
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