しかしながら、従来では、圧縮機内部に生じる現象を直接検出するものではなく、時間遅れや検出誤差等を含むことになっていた。そのため、空気調和装置を設計する場合、安全性を考慮して、圧縮機等に対して過剰な保護を行うことになっていたので、冷凍サイクルの性能を十分発揮することができなかった。
この発明は、上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、圧縮機の内部状態を高精度に推定することができて、圧縮機の異常運転による事故を防止すると共に、圧縮機等に対する過剰な保護を抑制して、高効率での運転状態を維持することを可能とした圧縮機内部状態推定装置及び空気調和装置を提供することにある。
請求項1の圧縮機内部状態推定装置は、冷凍装置において使用される圧縮機1において、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定する圧縮機内部状態推定装置であって、検出した電流の高調波成分の分析にて、軸受異常や液圧縮のような衝撃荷重の作用の推定を行うことを特徴としている。
上記請求項1の圧縮機内部状態推定装置では、モータコイル10に加わる電流はモータ駆動回路(例えば、インバータ回路)で検出することができ、この電気的な情報に基づいて圧縮機1の内部状態を推定することになる。これにより、時間遅れすることなく実時間処理にて電流を検出することになって、圧縮機1の内部状態を短時間内に、精度良く推定することができる。しかも、軸受異常や液圧縮のような衝撃荷重が加わったことを推定することができる。これにより、例えば、圧縮機1の運転周波数を低下させる等、運転条件を緩和した運転状態に移行して、厳しい損傷を回避することができる。また、検出した電流の高調波成分を分析することができ、この高調波成分(電流波形の基本波成分)に異常が発生していれば、軸受異常や液圧縮などの衝撃荷重が加わったと推定することができる。
請求項2の圧縮機内部状態推定装置は、検出した電流の高調波成分の分析による正弦波に対するひずみ量に基づいて、上記衝撃荷重の作用を推定することを特徴としている。
上記請求項2の圧縮機内部状態推定装置では、圧縮機1の内部状態の推定は、検出した電流の高調波成分の分析による正弦波に対するひずみ量に基づくものであり、圧縮機1の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を安定して推定することができる。
請求項3の圧縮機内部状態推定装置は、所定基準値と、検出した電流の高調波成分とを比較して上記衝撃荷重の作用を推定することを特徴としている。
上記請求項3の圧縮機内部状態推定装置では、圧縮機1の内部状態は、所定基準値と、検出した電流の高調波成分とを比較することによって推定するものであり、圧縮機1の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を簡単に推定することができる。
請求項4の圧縮機内部状態推定装置は、上記所定基準値が、上記圧縮機が使用される冷媒システムの温度情報及び/又は圧力情報に応じて設定されることを特徴としている。
上記請求項4の圧縮機内部状態推定装置では、所定基準値が、上記圧縮機1が使用される冷媒システムの温度情報及び/又は圧力情報に応じて設定されるので、推定する内部状態の信頼性の向上を図ることができる。
請求項5の圧縮機内部状態推定装置は、モータコイル10に加わる電流を検出する検出器16を備えたことを特徴としている。
上記請求項5の圧縮機内部状態推定装置では、電流を直接検出器16にて検出するので、高精度に電流を安定して検出することができる。
請求項6の圧縮機内部状態推定装置は、上記モータがブラシレスDCモータであることを特徴としている。
上記請求項6の圧縮機内部状態推定装置のように、ブラシレスDCモータを使用することもできる。
請求項7の圧縮機駆動装置は、上記請求項1〜請求項6のいずれかの圧縮機内部状態推定装置を備え、推定されたモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する機能を持つことを特徴としている。
上記請求項7の圧縮機駆動装置では、推定されたモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力することができるので、圧縮機1の内部状態をユーザ等が確実に把握することができる。
請求項8の空気調和装置は、上記請求項1〜請求項6のいずれかの圧縮機内部状態推定装置を備え、推定された内部状態に基づいて、圧縮機1を駆動するためのインバータ制御手段26のインバータ信号を変化させる圧縮機保護運転を行うことを特徴としている。ここで、圧縮機保護運転とは、推定(検出)された情報に基づいて、異常運転とならないような運転を行うことをいう。
上記請求項8の空気調和装置では、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定することができ、さらに、この内部状態に基づいて、圧縮機1を駆動するためのインバータ制御手段26のインバータ信号を変化させることによって、圧縮機保護運転を行うことができる。
請求項9の空気調和装置は、上記インバータ制御手段26が、冷媒システムの運転制御の指令に優先して上記圧縮機保護運転を行うことを特徴としている。
上記請求項9の空気調和装置では、冷媒システムの運転制御の指令に優先して上記圧縮機保護運転を行うものであり、圧縮機1を安定して保護することができる。
請求項10の空気調和装置は、上記圧縮機保護運転から定常運転に回復させる切換手段を備えたことを特徴としている。
上記請求項10の空気調和装置では、圧縮機保護運転から定常運転に回復させる切換手段を備えているので、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定して、定常運転に戻しても異常運転とならない場合に、定常運転に戻すことができる。
請求項11の空気調和装置は、上記請求項1〜請求項6のいずれかの圧縮機内部状態推定装置を備え、推定された内部状態に基づいて、装置故障診断を行うことを特徴としている。ここで、装置故障診断とは、検出した電流の乱れから潤滑不良であると診断したり、検出した電流の変化から液圧縮であると診断したり、さらには、高低圧を推定して、高圧異常、低圧異常であると診断したりすることである。
上記請求項11の空気調和装置では、装置故障診断を行うことができ、しかも、この装置故障診断は、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定し、この推定した内部状態に基づいて行うものである。このため、装置故障診断の信頼性が高く、この装置故障診断から、故障箇所を特定したり、故障原因を推定したりすることができる。
請求項12の空気調和装置は、上記装置故障診断の結果を記憶する記憶手段21を備えたことを特徴としている。
上記請求項12の空気調和装置では、装置故障診断の結果を記憶手段21にて記憶することができるので、運転停止後等において、この装置故障診断の結果を利用して故障箇所の修正等を行うことができる。
請求項13の空気調和装置は、上記請求項1〜請求項6のいずれかの圧縮機内部状態推定装置を備え、推定された内部状態に基づいて、装置故障予知を行うことを特徴としている。ここで、装置故障予知とは、検出した電流の乱れから潤滑不良であろうと予知したり、検出した電流の変化から液圧縮であろうと予知したり、さらには、高低圧を推定して高圧異常又は低圧異常であろうと予知したりすることである。
上記請求項13の空気調和装置では、装置故障予知を行うことができ、しかも、この装置故障予知は、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定し、この推定した内部状態に基づいて行うものである。このため、装置故障予知の信頼性が高く、この装置故障予知に基づいて、故障となる異常運転を回避したりすることができる。
請求項14の空気調和装置は、上記装置故障予知の情報の外部への連絡を行う通信手段31を備えたことを特徴としている。
上記請求項14の空気調和装置では、装置故障予知の情報を通信手段31にて外部へ連絡することができるので、ユーザ等は、装置故障予知の情報を知ることができ、その後に装置故障となる運転を回避することができる。
請求項15の空気調和装置は、上記推定された内部状態に基づいて、冷媒システムの運転制御方法又はパラメータを変更することを特徴としている。
上記請求項15の空気調和装置では、推定された内部状態に基づいて、冷媒システムの運転制御方法やパラメータを変更することができるので、高効率での運転を行うことができる。
請求項16の空気調和装置は、予め設定された冷媒システムモデルを用いて、上記推定された内部状態に基づいて、運転中の冷媒システム状態の推定を行うことを特徴としている。
上記請求項16の空気調和装置では、予め設定された冷媒システムモデルを用いて、上記推定された内部状態に基づいて、運転中の冷媒システム状態を推定するものであるので、応答性の高い内部状態の推定を行うことができる。
請求項1の圧縮機内部状態推定装置によれば、時間遅れすることなく実時間処理にて圧縮機の内部状態を精度良く推定することができる。これにより、この圧縮機の内部状態から、内部的な特性の経時的な変化を検出し、故障発生を事前に予告したり、初期特性からの変化に着目して故障箇所を特定したり、故障原因を推定したりすることができる。すなわち、圧縮機の内部状態を推定することによって、故障の予知、診断などを実時間に精度良く行うことができ、圧縮機の異常運転による破壊を予防し、圧縮機の信頼性の向上を達成できる。また、適切で高効率での運転を維持することができる。さらに、精度の良い推定が可能であるので、過剰な設計を回避して、この圧縮機内部状態推定装置が使用される冷凍サイクルの性能を十分発揮させることができる。しかも、軸受異常や液圧縮のような衝撃荷重が加わったとの推定により、例えば、圧縮機の運転周波数を低下させる等、運転条件を緩和した運転状態に移行して、厳しい損傷を回避することができる。また、軸受異常や液圧縮などの衝撃荷重が加わったと安定して推定することができる。これにより、衝撃荷重が加わる状態での運転を回避して、圧縮機の故障等を防止することができる。
請求項2の圧縮機内部状態推定装置によれば、圧縮機の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を安定して推定することができる。これにより、異常状態での運転を確実に回避することができ、圧縮機の故障等を確実に防止することができる。
請求項3の圧縮機内部状態推定装置によれば、圧縮機の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を簡単にかつ精度良く推定することができる。これにより、異常状態での運転を確実に回避することができ、圧縮機の故障等を確実に防止することができる。
請求項4の圧縮機内部状態推定装置によれば、推定する内部状態の信頼性の向上を図ることができる。これにより、圧縮機の故障等を確実に防止することができる。
請求項5の圧縮機内部状態推定装置によれば、安定して高精度に電流を検出することができる。これにより、この検出した瞬時電流に基づく圧縮機の内部状態推定の信頼性が向上する。なお、請求項6のように、ブラシレスDCモータを使用することもできる。
請求項7のように、請求項1〜請求項6の圧縮機内部状態推定装置を備えた圧縮機駆動装置として構成することもでき、しかも、この圧縮機駆動装置によれば、圧縮機の内部状態をユーザ等が確実に把握することができる。
請求項8の空気調和装置によれば、内部状態に基づいて、圧縮機を駆動するためのインバータ制御手段のインバータ信号を変化させることによって、圧縮機保護運転を行うことができる。これにより、圧縮機の故障等を防止でき、耐久性に優れた空気調和装置となる。
請求項9の空気調和装置によれば、圧縮機を安定して保護することができる。これにより、耐久性に優れ、長期にわたって安定した運転が可能となる。
請求項10の空気調和装置によれば、定常運転に戻しても異常運転とならない場合に、定常運転に戻すことができる。これにより、推定した内部状態が正常であれば、通常(定常)運転を行うことができ、空気調和装置として高効率の運転が可能となる。
請求項11の空気調和装置によれば、装置故障診断の信頼性が高く、この装置故障診断から、故障箇所を特定したり、故障原因を推定したりすることができる。これにより、その後、故障箇所を修理したり、故障原因を除去したりすることができ、故障した状態での運転を回避することができる。
請求項12の空気調和装置によれば、装置故障診断の結果を記憶手段にて記憶することができるので、運転停止後等において、装置故障診断の結果を利用して故障箇所の修正等を行うことができる。
請求項13の空気調和装置によれば、装置故障予知の信頼性が高く、この装置故障予知に基づいて、故障となる異常運転を回避することができる。
請求項14の空気調和装置によれば、ユーザ等は、装置故障予知の情報を知ることができ、その後に装置故障となる運転を回避することができる。
請求項15の空気調和装置によれば、高効率での運転を行うことができ、ランニングコストの低減を図ることができる。
請求項16の空気調和装置によれば、応答性の高い内部状態の推定を行うことができる。これにより、推定される内部状態の信頼性の向上を達成でき、異常運転を確実に回避することができて、圧縮機の故障等を確実に防止することができる。
次に、この発明の圧縮機内部状態推定装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1はこの圧縮機内部状態推定装置(圧縮機内部状態推定手段)28を備えた圧縮機駆動装置40の簡略図を示す。この圧縮機内部状態推定装置28を備えた圧縮機駆動装置40は、図2に示すように空気調和装置に使用される。この空気調和装置は、圧縮機1に、室外熱交換器2、膨張弁(電動膨張弁)3、室内熱交換器4等を順次接続して、冷媒循環回路(冷媒システム)を形成している。そして、四路切換弁5を切換えることによって、冷房運転と暖房運転とが可能とされる。また、室外熱交換器2及び室内熱交換器4にはそれぞれ温度検出手段22、23が設けられ、各熱交換器2、4の温度を検出することができる。なお、各温度検出手段22、23は温度サーミスタ等の温度センサから構成することができる。
そして、圧縮機1は、図1に示すように、U相7とV相8とW相9の3相のコイル10と、インバータ11を有するブラシレスDCモータ6を備える。この場合のインバータ11は正弦波PWM制御方式である。すなわち、インバータ11は、交流入力電源をAC−DC変換回路部12にて直流に変換し、平滑回路部13にて平滑にし、DC−AC変換回路部(インバータ部)14にて任意の周波数の交流電源に変換するものである。インバータ11はインバータ制御手段(図示省略)からのインバータ信号にて、インバータ部14のトランジスタのON・OFFのパターンを変えることによって、周波数と電圧を制御することができる。
また、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流は電流検出器(電流センサ)16にて検出することができ、モータ3相コイル10に加わる瞬時電圧は電圧検出器(電圧センサ)17にて検出される。この場合、電流検出器16と電圧検出器17は、AC−DC変換回路部12と平滑回路部13の間に介設される。電圧は、トランジスタのON/OFF比とDC電圧からの演算で求められ、電流は、トランジスタのスイッチパターンとDC電流から求めることができる。
ところで、上記空気調和装置において、冷房運転を行う場合には、四路切換弁5を図2の実線で示す状態に切換えて圧縮機1のモータ6を駆動させる。これにより、この圧縮機1からの吐出冷媒が、室外熱交換器2を通過した後、膨張弁3で減圧膨張して、室内熱交換器4を通過し、圧縮機1に返流される。この際、室外熱交換器2が凝縮器として機能すると共に、室内熱交換器4が蒸発器として機能して、冷房運転を行うことができる。
また、暖房運転を行う場合には、四路切換弁5を図2の破線で示す状態に切換えて圧縮機1のモータ6を駆動させる。これにより、この圧縮機1からの吐出冷媒が、室内熱交換器4を通過した後、膨張弁3で減圧膨張して、室外熱交換器2を通過し、圧縮機1に返流される。この際、室内熱交換器4が凝縮器として機能すると共に、室外熱交換器2が蒸発器として機能して、暖房運転を行うことができる。
そして、各運転中には、圧縮機1の加減速や負荷の急激な変動や、圧縮機1以外の他の機器の動作不良による不適切な条件での運転により、圧縮機1内部の損傷による故障を生じることがある。そこで、圧縮機内部状態推定装置28にて、圧縮機1の内部状態を推定することによって、故障発生を事前に予知したり、故障箇所を特定したり、故障原因を推定したりしている。
すなわち、図1に示す圧縮機内部状態推定装置28は、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出して、この検出値から圧縮機の内部状態(具体的にはモータ駆動トルク等)を推定するものであって、上記検出器16、17と、演算装置(演算手段)20と、記憶装置(記憶手段)21等を備える。なお、演算手段20及び記憶手段21等はマイクロコンピュータ等にて構成することができる。
ブラシレスDCモータにおけるモータ駆動トルクの演算は、インダクタンスと電流値とからなる演算式を用いる場合と、磁束と電流値とからなる演算式を用いる場合等がある。インダクタンスと電流値とからなる演算式は、次の数1から数4を用いて数5のように表すことができる。すなわち、瞬時電圧Vは数1で表すことができ、また、磁束φは数2で表すことができ、磁束のベクトルの向きは、数3、数4で表すことができる。
そして、この数1〜数4からθ、つまり検出した瞬時電流I、瞬時電圧Vに基づいてモータ位置(ロータ位置)θを推定することができるが、このときに使用した検出値や定数をそのまま用いて、さらには、圧縮機1の入力電流iu、iv、iwを座標変換した電流値id、iqを求め、これらによって、数5のように、モータ駆動トルクTmが求まる。
また、磁束と電流値とからなる演算式は、一次磁束と電流の外積で固定子に働くトルクを求めるものであり、モータ6の回転子トルクは固定子トルクの反力となる。このため、次の数6のように表すことができる。
なお、この数6において、なお、α、βは、固定座標系であり、u、v、wの3相を2相に変換しているものである。また、λαは次の数7で算出され、λβは次の数8で算出される。
そして、この装置では、冷媒システムの温度情報(検出手段22、23等から検出される蒸発温度や凝縮温度等)が上記記憶手段21に入力される。また図3に示すよう、予め、複数の圧縮機回転数毎に、複数の蒸発温度Teに対応するトルク−高圧線図が作成され、この線図が記憶手段21に入力されている。このため、この圧縮機内部状態推定装置28では、このグラフに基づいて、算出したモータ駆動トルクTmと、蒸発温度Teとから凝縮温度Tcを推定し、この凝縮温度Tcから冷媒特性に基づいて凝縮圧力(高圧圧力)Pcを推定することができる。例えば、圧縮機回転数が60rpsであって、蒸発温度Teが10℃である場合に、モータ駆動トルクTmが10Nmであれば、凝縮温度Tcを約50℃と推定することができる。また、複数の圧縮機回転数毎に、複数の凝縮温度Tcに対応するトルク−低圧線図を作成し、このグラフに基づいて、モータ駆動トルクTmと、凝縮温度Tcとから蒸発温度Teを推定し、この蒸発温度Teから蒸発圧力(低圧圧力)Peを推定することもできる。このように凝縮温度Tcや蒸発温度Teを推定することが可能であるが、このような制御を行えば次のような利点が生じる。すなわち、従来のように凝縮温度Tcや蒸発温度Teを測定する場合には、測定部の温度が定常温度に至るまでには、相当な時間遅れが生じて、正確な温度が得られなかったのに対し、モータトルクから高低圧を推定する場合には、このような時間遅れがなく、そのため高低圧異常の保護制御においても遅れることなく保護することができる。この結果、厳しいダメージを回避することができる。なお、この制御によって得られる凝縮温度Tcや蒸発温度Teを、凝縮温度Tcや蒸発温度Teを測定するセンサの異常の有無を判定するために利用してもよい。
また、冷媒システムの所定の温度条件及び/又は圧力条件毎にモータ駆動トルクと吸込過熱度との関係を把握しておき、検出したモータ駆動トルクとそのときの温度情報及び/又は圧力情報に基づいて、運転中の圧縮機1の吸入過熱度を推定することができる。すなわち、例えば所定の凝縮圧力Pc及び蒸発圧力Pe毎に、モータ駆動トルクTmと吸込過熱度の関係を把握して、トルク−SH線図を予め作成しおく。そして、検出した凝縮圧力Pc及び蒸発圧力Peから図4に示すような特定の関係線図を選択し、把握(算出)したモータ駆動トルクTmからそのときの吸入過熱度を推定する。
従って、この図4のトルク−SH線図は、横軸を吸入過熱度とし、縦軸をモータ駆動トルクとしているので、例えばトルクが図4のTmotであれば、このTmotの吸入過熱度を表す軸(横軸)の値から吸入過熱度を推定することができる。これにより、推定した吸入過熱度が不適切であれば、適切な吸入過熱度に調整して過度の過熱運転や湿り運転を回避することができる。
ここで参考までに、この圧縮機内部状態推定装置28において潤滑不良や液圧縮等の内部状態を推定する参考例について説明する。それは、この圧縮機内部状態推定装置28において、モータ駆動トルク又はモータ駆動電流と冷媒システムの温度情報及び/又は圧力情報から定常状態(定常状態瞬時トルク又は定常状態瞬時電流)を予め検出し、この定常状態のデータを記憶手段21に入力しておき、このデータのテーブルと、検出した瞬時トルク又は瞬時電流を比較することによって、潤滑不良や液圧縮等の内部状態を推定するのである。
すなわち、すべり面の摩擦特性は、潤滑不良時に摺動面が荒れて、摩擦抵抗が大きくなる。この場合、この図5の範囲H2に対応する部分は、破線で示す通常電流に対して増加する。また、図7の油希釈度とトルクとの関係を示すグラフにおいては、通常トルクに対して範囲H3で増加していることを示している。
また、液圧縮等では、図6に示すように、トルクまたは電流に大きな上昇が発生する。ここで、大きな上昇とは、予め設定された所定量を越える上昇である。そのため、圧縮機1の軸受異常時における負荷トルクが通常時よりも大きく増加することによって、潤滑不良や液圧縮等が発生していることを検出することができ、圧縮機1の運転周波数を低下させる等して、異常運転を回避することができる。なお、上記のようにトルクや電流の増加量の大小によって異常運転を推定する代わりに、トルクまたは電流が急激に増加すること、つまり単位時間当りの増加量が基準量を越えることによって、異常運転であることを推定することも可能である。
次に、この発明の実施形態について図9を参考にして説明する。この本発明の実施形態に係る圧縮機内部状態推定装置28においては、瞬時電流を正弦波で表し、この電流波形が図9に示すように、異常波形となれば、軸受異常もしくは液圧縮など衝撃荷重が加わったと推定する。すなわち、軸受異常もしくは液圧縮など衝撃荷重が加われば、電流波形には、図9のように、ひずみが生じ、いわゆる「ひげが立つ」ことになる。これにより、波形を検出して、この波形にひげが立っていれば、衝撃荷重が加わったと推定することができる。すなわち、検出した瞬時電流の高調波成分の分析による正弦波に対するひずみ量に基づいて圧縮機1の内部状態を推定することにより、瞬時電流の乱れに基づいて潤滑不良等であることを推定することができる。また、このようにひずみ量に基づいて潤滑不良等であることを推定する他、機械回転周波数毎の繰返し量をもって判断することもできる。すなわち、一定量以上のひずみが繰返される繰返し数、あるいは繰返し発生するひずみ量の総和量によって判断可能である。
従って、本発明の実施形態に係る圧縮機内部状態推定装置28としては、図8に示すように、記憶手段21が冷媒システムからの温度情報及び/又は圧力情報に応じた閾値(所定基準値)を記憶していると共に、演算手段20にて瞬時電流高調波成分を分析することができるものであればよい。これによって、この閾値と、検出した瞬時電流高調波成分波形とを比較して、潤滑不良や液圧縮等を推定する。そして、そのような場合に圧縮機1の運転周波数を低下させること等によって、異常運転を回避することができる。しかも、この場合、上記閾値(所定基準値)は、冷媒システムからの温度情報と圧力情報に応じるものであり、推定する内部状態の信頼性の向上を図ることができる。これにより、圧縮機の故障を確実に防止することができる。
次に、図10は本発明の実施形態に係る空気調和装置を示している。この場合、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態が推定され、この推定された内部状態に基づいて、圧縮機1を駆動するためのインバータ制御手段26のインバータ信号を変化させる圧縮機保護運転を行うことができる。ここで、圧縮機保護運転とは、故障回避運転であり、潤滑不良や液圧縮等が生じないような運転をいう。
具体的には、圧縮機1として、モータ6と、インバータ11と、モータ6に加わる瞬時電流及び/又は瞬時電圧を検出する検出手段としてのセンシング25と、インバータ制御手段26とを備える。また、装置の制御部27としては、圧縮機内部推定手段28と、この圧縮機内部推定手段28からの指令を受ける故障回避制御手段29等を備える。圧縮機内部推定手段28は、上記図1及び図8の演算手段20(この場合、図示を省略している)と記憶手段21等からなる。なお、他の構成は、図1及び図8に示す圧縮機駆動装置と同様であるので、同一部分を同一符合にて示してその説明を省略する。
このように、図10に示す空気調和装置においても、モータ3相コイル10に加わる瞬時電流を検出して、この検出値から圧縮機の内部状態(潤滑不良や液圧縮等)を推定することができ、この圧縮機の内部状態の情報を故障回避制御手段29に入力される。また、この故障回避制御手段29には、予め設定された冷媒システムモデルからのデータが記憶されており、この冷媒システム運転制御を行う冷媒システム制御手段30からの指令信号が入力される。
従って、この図10の空気調和装置では、圧縮機1の内部状態が推定され、この推定が例えば潤滑不良であれば、潤滑不良とならないように、故障回避制御手段29から圧縮機1の制御手段26に制御信号を発信することになる。このため、例えば、モータ6の回転数を変更する制御や、冷媒システム制御手段30のシステム制御指令値(運転制御パラメータ)を変更する制御を行って、異常運転を回避することになる。
ところで、この装置を運転する場合、冷媒システム制御手段30にて各種機器の制御を行うものであるが、圧縮機1の内部状態が推定されて、潤滑不良等の異常運転が行われていると推定された際には、この冷媒システム制御手段30の運転制御よりも優先して、インバータ制御手段26の制御(圧縮機保護運転)が優先する。これにより、圧縮機1の故障回避の信頼性を向上させることができる。
そして、推定した内部状態が正常状態に戻っていれば、上記圧縮機保護運転から定常運転に回復させる。すなわち、故障回復制御手段29は切換手段(図示省略)を備え、この切換手段にて、潤滑不良等の異常運転が行われると推定された際には、圧縮機保護運転とし、正常状態に戻っていると推定された際には、定常運転とする。これにより、空気調和装置として高効率の運転が可能となる。
また、上記故障回避制御手段29は、推定した圧縮機1の内部状態に基づいて、装置故障診断を行うことができる。ここで、装置故障診断とは、検出した瞬時電流の乱れから潤滑不良であると診断したり、検出した瞬時電流の変化から液圧縮であると診断したり、さらには、高低圧を推定して吸入過熱度異常であると診断したりすることである。そして、この診断結果は記憶手段21に記憶される。これにより、運転停止後等において、この装置故障診断の結果を利用して故障箇所の修正等を行うことができる。
このように、図10に示す空気調和装置では、装置故障診断を行うことができ、しかも、装置故障診断の信頼性が高く、この装置故障診断から、故障箇所を特定したり、故障原因を推定したりすることができる。これにより、その後、故障箇所を修理したり、故障原因を除去したりすることができ、故障した状態での運転を回避することができる。
さらに、故障回避制御手段29は、故障であると診断できないが、このままの状態での運転を継続すれば、故障するであろうと予想できる場合においては、装置故障予知を行うことになる。ここで、装置故障予知とは、例えば、検出した瞬時電流の乱れから潤滑不良であろうと予知することである。そして、この故障予知情報は通信手段31を介して外部(つまり、ユーザ等)に連絡される。通信手段31としては、例えば、ユーザ等にこの故障予知情報を知らせるための表示手段(表示ライトの点滅、音発生)等にて構成することができる。
このため、この図10に示す空気調和装置では、装置故障予知を行うことができ、しかも、この装置故障予知の信頼性が高く、この装置故障予知に基づいて、故障となる異常運転を回避することができる。さらに、装置故障予知の情報を通信手段31にて外部へ連絡することができるので、ユーザ等は、装置故障予知の情報を知ることができ、その後の対策を立てることができる。
以上にこの発明の具体的な実施の形態及び参考例について説明したが、この発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、図10に示す空気調和装置では、圧縮機保護運転、装置故障診断、装置故障予知が可能であるが、圧縮機保護運転を行って、装置故障診断や装置故障予知を行わないもの、装置故障診断を行って、圧縮機保護運転や装置故障予知を行わないもの、装置故障予知を行って、圧縮機保護運転や装置故障診断を行わないもの、さらには、これらから任意に組み合わせて行うもの等であってもよい。また、内部状態を推定するための瞬時電流の急激な上昇の基準となる所定量、内部状態を推定するためのモータ駆動トルクの急激な上昇の基準となる所定量等の変更は、装置として異常運転とならない範囲で任意に変更することができる。さらに、圧縮機駆動装置として、推定されたモータ駆動トルク、温度、高圧圧力、低圧圧力、軸潤滑状態等の情報を出力する機能を持つものであっても、さらには冷媒システムの情報を入力することで、精度向上やシステム最適運転のための情報を算出するものであってもよい。このように、推定されたモータ駆動トルク等の情報を出力することができれば、圧縮機1の内部状態をユーザ等が確実に把握することができ、精度向上やシステム最適運転のための情報を算出することで、精度向上を達成できると共に、システム最適運転を行うことができる。なお、モータ6として、ブラシレスDCモータに限るものではない。
上記実施形態の圧縮機内部状態推定装置は、冷凍装置において使用される圧縮機1において、モータコイル10に加わる電流を検出して、この検出値から圧縮機1の内部状態を推定する。従って、この圧縮機内部状態推定装置では、モータコイル10に加わる電流はモータ駆動回路(例えば、インバータ回路)で検出することができ、この電気的な情報に基づいて圧縮機1の内部状態を推定することになる。これにより、時間遅れすることなく実時間処理にて電流を検出することになって、圧縮機1の内部状態を短時間内に、精度良く推定することができる。
また、この圧縮機内部状態推定装置は、上記内部状態の推定がモータ駆動トルクである。そのためこの圧縮機内部状態推定装置では、モータ駆動トルクを推定することができ、このモータ駆動トルクから、この圧縮機1が使用される冷媒システムの冷凍サイクルの高低圧等を推定することができる。
さらに上記圧縮機内部状態推定装置は、モータ駆動トルクの推定に、インダクタンスと電流値とからなる演算式を用いるため、モータ駆動トルクを簡単かつ精度良く算出することができる。
上記圧縮機内部状態推定装置は、モータ駆動トルクの推定に、磁束と電流値とからなる演算式を用いるため、モータ駆動トルクを簡単かつ精度良く算出することができる。例えば、インダクタンスのような機器定数を使用する場合には、その変化に応じて誤差が生じることになるが、この場合、演算式において、検出値だけを使用するので、モータ駆動トルクを一段と精度良く算出することができる。
また、上記圧縮機内部状態推定装置は、上記圧縮機1が使用される冷媒システムの高圧圧力又は低圧圧力の推定を可能とした。このように、冷媒システムの高圧圧力又は低圧圧力を推定することができ、これにより、高圧圧力又は低圧圧力から冷媒システムの運転状態を把握して、高低圧異常状態での運転を回避することができる。
上記圧縮機内部状態推定装置は、モータ駆動トルクと上記冷媒システムの温度情報とに基づいて高圧圧力又は低圧圧力を推定する。このように、冷媒システムの高圧圧力又は低圧圧力を、モータ駆動トルクと冷媒システムの温度情報とに基づいて推定するものであり、この推定した高低圧は信頼性が高く、異常状態での運転を確実に回避することができる。
また、上記圧縮機内部状態推定装置は、冷媒システムの所定の温度条件及び/又は圧力条件毎にモータ駆動トルクと吸込過熱度との関係を把握しておき、検出したモータ駆動トルクとそのときの温度情報及び/又は圧力情報に基づいて、運転中の圧縮機1の吸入過熱度を推定する。これにより、吸入過熱度が不適切であれば、適切な吸入過熱度に調整して過度の過熱運転や湿り運転を回避することができる。