JP4659236B2 - 細胞傷害活性の測定法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、融合ポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞に対する細胞傷害活性を測定する方法および該細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法に関し、より詳しくはアルツハイマー病の誘因の一つとして知られているアミロイドβ合成ポリペプチドを用いた神経細胞傷害活性の測定方法または該活性に影響を与える化合物のスクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルツハイマー型痴呆症は、老人斑の形成、神経原線維変化及び神経の脱落を病理学的な特徴とする。アミロイドβ 蛋白質(Aβ)は、約40アミノ酸残基からなる蛋白質で、老人斑の主要な構成成分である。Aβ の脳内への蓄積は、最も早期に出現する病理変化であること、Aβ は神経細胞に対して毒性を示すこと、および家族性アルツハイマー病の原因遺伝子(amyloid precursor protein : APP)のトランスジェニック・マウスで、脳内に大量のAβ 蓄積がみられることなどから、Aβ 蛋白質はアルツハイマー型痴呆症の発症原因の一つであると考えられている。
【0003】
一方、APPトランスジェニック・マウスでは、老人斑と同様の大量のAβ 蓄積が細胞外に認められるものの、Aβ 蓄積に伴う明らかな神経細胞死についての解釈は一致していない( Irrizarry, M.C., Soriano, F., McNamara, M., et al., J. Neurosci., 17, 7053-7059( 1997): Irizarry, M.C., McNamara, M., Fedorchak, K., et al. ,J. Neuropathol. Exp. Neurol., 56, 965-973(1997): Calhoun, M.E., Wiederhold, K.H., Abramowski, D. et al. , Nature, 395, 755-756( 1998))。
【0004】
これに対し、家族性アルツハイマー病の関連遺伝子(PS1)トランスジェニック・マウスでは、APPトランスジェニック・マウス脳にみられるような大量の細胞外Aβ の蓄積は認められないが、細胞内におけるAβ蓄積とそれに伴う神経細胞死が観察されている(Chui, D.H., Tanahashi, H., Ozawa, K. et al.,Nature Med., 5, 560-564(1999))。Aβ は前駆蛋白質より細胞内で生成されるが、アルツハイマー患者脳においても、老人斑形成や神経原線維変化に先立って神経細胞内にAβ配列1−42が蓄積していることが報告されている(Gouras, G.K., Tsai, J., Naslund, J., et al.,American J. Pathol., 156, 15-20(2000))。これらの結果は、老人斑の形成とは無関係に、細胞内におけるAβ 特にAβ配列1−42の蓄積が神経細胞死を促進する可能性を示唆している。
【0005】
APPあるいはAβ を含むAPPのC末端断片を過剰発現させた細胞で、細胞死が引きおこされるという報告(国際公開番号:APP695:WO2000/14204号)やアミロイド生成の細胞毒性に適されるペプチドにおいて、GAIL配列を含む10のアミノ酸配列からなるペプチドがあるが(特開平11-71393号)、Aβ そのものが細胞内に蓄積して細胞傷害を促進するという報告は、未だない。
【0006】
従って、Aβ を細胞内に蓄積させ、細胞傷害を促進させる実験系は、細胞内Aβ による新たな細胞傷害のメカニズムの解析および細胞傷害に影響を与える候補化合物のスクリーニングに有用であると考えられる。
【0007】
一方、HIV−1ウイルスのTAT蛋白質は、細胞に添加すると、細胞膜を通過して細胞内および核内に侵入することが知られている。全長及び断片化TAT蛋白質に、他の蛋白質及びオリゴペプチドを結合させると、これらの蛋白質やオリゴペプチドは、本来の生物学的機能を保持したまま、TAT蛋白質とともに細胞内に輸送されることが報告されている(Fawell, S., Seery, J., Daikh, Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 664-668 (1994): Nagahara, H., Vocero-Akbani, A.M., Snyder, E.L. et al., Nature Med., 4, 1449-1452 (1998))。
【0008】
【発明が解決しようとしている課題】
本発明は、アルツハイマー病に関連しているAβポリペプチドを神経細胞内に蓄積せしめ、該ポリペプチドによる神経細胞傷害活性を測定する方法および、その細胞傷害活性に変化を与える化合物のスクリーニング方法の提供にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記のようにAβタンパク質を細胞内に蓄積させることによる細胞傷害活性の変化を測定する方法の提供のため、本発明者らは鋭意研究の結果、TATペプチド配列の特定の一部(即ち、アミノ酸配列47−57)とAβのタンパク質のアミノ酸配列1−42からなるポリペプチドとの合成配列からなるポリペプチドが、細胞との接触により細胞内に蓄積され、極めて高い細胞傷害を促進させることに成功し、ここに発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明者らは、TAT蛋白質の蛋白輸送ドメインの一部である11アミノ酸長のペプチドのC末端側に、Aβタンパク質の1−42 アミノ酸配列からなるポリペプチドを連結した53個のアミノ酸残基から成るポリペプチドが、神経細胞との接触により神経細胞内に取り込まれ、且つ蓄積することにより高度な神経細胞傷害が生じることを示したことから、該ポリペプチドによる細胞傷害活性を測定する方法および、その細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法を提供できることを確認した。
【0011】
さらに本発明によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞に対する細胞傷害活性の測定法、該方法において、神経細胞が、脳の皮質神経の初代培養細胞であるか、および/または細胞傷害活性を形態学的な変化および/または生存乃至死亡細胞数によって測定する細胞傷害活性の測定法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することにより、アルツハイマー治療・予防剤をスクリーニングする方法、及び、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの神経細胞内への導入による神経細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法であって、 (a)該神経細胞に対して、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド単独、又は該ポリペプチドと被検試料を共に接触させる工程、(b)前記(a)の両者の該神経細胞の細胞傷害を検出する工程、および (c)該神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物を選択する工程を含む方法が提供される。さらに前記スクリーニング方法において、細胞傷害活性を形態学的な変化および/または生存乃至死亡細胞数によって測定するか、神経細胞が、脳の皮質神経の初代培養細胞であるか、のいずれかからなる前記神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、ポリペプチドの神経細胞内への導入による神経細胞傷害活性を抑制する化合物がポリペプチドに結合する抗体またはその抗体断片であるスクリーニング方法が提供される。 また前記抗体において、ポリペプチドのAβ配列1−42 アミノ酸配列に対して結合能力を有する前記抗体を提供することができる。
【0014】
さらに本発明によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる合成ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸分子、該核酸分子がコードする配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む組換え体ポリペプチド、前記合成ポリペプチドまたは組換え体合成ポリペプチドに結合する抗体またはその抗体断片、該抗体において、ポリペプチドのAβ配列1−42 アミノ酸配列に対して結合能力を有する前記抗体を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、前記配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞に対する細胞傷害活性測定方法および、その細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法に用いられるポリペプチドが、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸分子によって発現されたものであるポリペプチドを提供することができる。
【0016】
また、本発明によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる神経細胞に対する細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法によって得られた神経細胞傷害を抑制する化合物、または該化合物を有効成分とするアルツハイマー病治療・予防剤が提供される。
【0017】
さらに本発明によれば、前記配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと神経細胞とを適当な培地で培養することによって該神経細胞内で遺伝子の発現変動を示す遺伝子の検出方法および、該遺伝子の検出方法によって検出された遺伝子または遺伝子発現産物、前記遺伝子または遺伝子発現産物を含む神経細胞に対して、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド単独、又は該ポリペプチドと被検試料を共に接触させる工程、該両者の神経細胞の細胞傷害を検出する工程、および 該神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法によって、遺伝子または遺伝子発現産物の神経細胞傷害活性を測定し、該遺伝子または遺伝子発現産物の活性に対するアゴニスト/アンタゴニストを検出する方法が提供される。
【0018】
以下、本明細書におけるアミノ酸、(ポリ)ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0019】
かかる本発明の測定方法または神経細胞内において、細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法に用いられるポリペプチドの一具体例としては、後述する実施例1に示される配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0020】
【発明の実施の形態】
上記本発明のポリペプチドによる神経細胞傷害活性の測定方法およびその細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法につき詳述すれば次の通りである。
【0021】
即ち、上述の如く、本発明のポリペプチドによる神経細胞傷害活性の測定方法およびその細胞傷害活性に変化を与える候補化合物のスクリーニング方法に使用されるポリペプチドの取得・合成方法、該ポリペプチドをコードする核酸分子を用いる遺伝子組換え体の発現・取得方法について、細述し、得られた合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチドを用いる細胞傷害活性の測定法について例示する。
【0022】
本発明のポリペプチド
まず、本発明の測定方法に用いられる配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、HIV−1ウイルスのTAT蛋白質のC端側に位置する(アミノ酸86残基のうち47−57残基目に相当)蛋白輸送ドメインの一部とそのC末端側に42アミノ酸長のAβ蛋白質を接続させた融合ポリペプチド(53アミノ酸長)である。
【0023】
また、本発明のポリペプチド中の42アミノ酸長のAβ蛋白質は、以下に示すような細胞傷害活性を示す限り、1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されていてもよい。例えば、HIV−1ウイルスのTATタンパク質由来の11アミノ酸長のペプチドとAβタンパク質由来のポリペプチドとの間にスペーサー配列を含んでいてもよい。例えば、両ポリペプチドとの間に3〜5残基のグリシン残基等のスペーサー配列を含んでいてもよい。好ましくは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0024】
本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することが出来、該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法はより詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含し、本発明合成ポリペプチドの合成は、そのいずれによってもよい。
【0025】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、各種方法に従うことが出来る。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することが出来る。その例としては、例えば ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及び之等の混合溶媒等を挙げることが出来る。尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、P−メトキシベンジルエステル、P−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することが出来る。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチシレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することが出来る。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明の測定方法に用いられる配列番号1で示される合成ポリペプチドにおける之等保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することが出来る。
【0026】
かくして得られる本発明のポリペプチドは、通常の方法にしたがって、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行なうことができる。
【0027】
本発明のポリペプチドは、例えば、ポリペプチドまた配列番号1に記載のポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNA核酸分子を合成し、次いで適当な発現ベクターへ導入した後、宿主細胞内において発現させて得る遺伝子工学的手法によっても得ることができる。
【0028】
より具体的には、まず、例えば配列番号:1で示されるアミノ酸配列をコードする配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを合成する。該方法としてはリン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段〔J. Am. Chem. Soc., 89, 4801 (1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett., 22, 1859 (1981);同 24, 245 (1983)〕及びそれらの組合せ方法などが例示できる。より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用い相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
【0029】
上述のごとく、本発明DNA分子の具体的態様としては、配列番号:2に示されるDNA配列を有するDNA分子を例示できる。このDNA分子配列は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の各アミノ酸残基を示すコドンの一つの組合せ例を示している。しかしてDNA分子は、かかる特定のDNA配列を有するDNA分子に限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合せ、選択した塩基配列を有し、配列番号:1に示されるアミノ酸配列をコードする限り、いずれの組み合わせも可能である。
【0030】
また、配列番号:1に示されるアミノ酸配列において、以下に示すような細胞傷害活性を示す限り、1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されているアミノ酸配列をコードするDNAであってもよい。好ましくは、配列番号2で示される塩基配列からなるDNA分子である。
【0031】
コドンの選択は、常法に従うことができ、例えば利用する宿主のコドン使用頻度などを考慮することができる〔Ncleic Acids Res., 9, 43 (1981)〕。
【0032】
またDNA分子の取得に際しては、上記で得られたDNAの量が少ない場合には、PCR法〔Science, 230, 1350 (1985)〕によるDNA増幅法により増幅することができる。
【0033】
かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、上記核酸分子のDNAの配列情報に基づいて適宜設定でき、これは常法に従って合成できる。尚、増幅させたDNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法などによればよい。
【0034】
また、上記で得られる本発明核酸分子或いはDNA断片は、常法、例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 74, 5463 (1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Methods in Enzymology, 65, 499 (1980)〕などに従って、また簡便には市販のシークエンスキットなどを用いて、その塩基配列を決定することができる。
【0035】
次に、上記で得られた本発明のDNA分子を、通常の遺伝子工学的手法を用いることにより、該組換え体産物(合成ポリペプチドと同一のアミノ酸配列からなる発現蛋白)またはこれを含む蛋白質を容易に大量に、安定して製造することができる。
【0036】
従って、本発明は、上記で得られた配列番号1で示される融合Aβ合成ポリペプチドおよびそのアミノ酸配列をコードするDNA分子、該DNA分子によって発現される組換え体ポリペプチドをも包含するものである。
【0037】
また、本発明によれば前記組換え体産物である融合Aβポリペプチドなどのポリペプチドを始め、該ポリペプチドを製造するための、例えば本発明DNA分子を含有するベクター、該ベクターによって形質転換された宿主細胞、該宿主細胞を培養して上記本発明のポリペプチドを製造する方法などをも提供するものである。
【0038】
上記ポリペプチドの製造及び発現方法は、大野らの「タンパク実験プロトコール1機能解析編、細胞工学別冊、実験プロトコールシリーズ、1997年、秀潤社」を参考に製造することができる。
【0039】
本発明のポリペプチドは、上記DNA分子により提供されるDNA分子の配列情報に基づいて、常法の遺伝子組換え技術〔例えば、Science, 224, 1431 (1984) ; Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985);Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990 (1983)など参照〕に従って調製することができる。
【0040】
該ポリペプチドの製造は、より詳細には、該所望のポリペプチドをコードするDNA分子が宿主細胞中で発現できる組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から回収することにより行なわれる。
【0041】
上記宿主細胞としては、原核生物及び真核生物のいずれも用いることができ、例えば原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌といった一般的に用いられるものが広く挙げられ、好適には大腸菌、とりわけエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株に含まれるものを例示できる。また、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、酵母等の細胞が含まれ、前者としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell, 23: 175 (1981)〕やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 77: 4216 (1980)〕などが、後者としては、サッカロミセス属酵母細胞などが好適に用いられる。勿論、これらに限定される訳ではない。
【0042】
原核生物細胞を宿主とする場合は、該宿主細胞中で複製可能なベクターを用いて、このベクター中にDNA分子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シャイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを好適に利用できる。上記ベクターとしては、一般に大腸菌由来のプラスミド、例えばpBR322、pBR325、pUC12、pUC13などがよく用いられるが、これらに限定されず既知の各種のベクターを利用することができる。大腸菌を利用した発現系に利用される上記ベクターの市販品としては、例えばpGEX−4T(Amersham Pharmacia Biotech社)、pMAL−C2,pMAl−P2(New England Biolabs社)、pET21,pET21/lacq(Invitrogen社)、pBAD/His(Invitrogen社)等を例示できる。
【0043】
脊椎動物細胞を宿主とする場合の発現ベクターとしては、通常、発現しようとするDNA分子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列を保有するものが挙げられ、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、例えばSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr〔Mol. Cell. Biol., 1: 854 (1981)〕等が例示できる。上記以外にも既知の各種の市販ベクターを用いることができる。動物細胞を利用した発現系に利用されるかかるベクターの市販品としては、例えばpIND(Invitrogen社)、pcDNA3.1/His(Invitrogen社)などの動物細胞用ベクターや、pFastBac HT(GibciBRL社)、pAcGHLT(PharMingen社)、pAc5/V5−His,pMT/V5−His,pMT/Bip/V5−his(以上Invitrogen社)などの昆虫細胞用ベクターなどが挙げられる。
【0044】
また、酵母細胞を宿主とする場合の発現ベクターの具体例としては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80: 1 (1983)〕などが例示できる。市販の酵母細胞用発現ベクターには、例えばpPICZ(Invitrogen社)、pPICZα(Invitrogen社)なとが包含される。
【0045】
プロモーターとしても特に限定なく、エッシェリヒア属菌を宿主とする場合は、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、PL/PRプロモーターなどを好ましく利用できる。宿主がバチルス属菌である場合は、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。酵母を宿主とする場合のプロモーターとしては、例えばpH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどを好適に利用できる。また、動物細胞を宿主とする場合の好ましいプロモーターとしては、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどを例示できる。
【0046】
また、成熟ポリペプチドのコード配列が宿主細胞からのポリペプチドの発現、分泌を助けるポリヌクレオチド配列としては、分泌配列、リーダ配列が例示でき、細菌宿主に対して融合成熟ポリペプチドの精製に使用されるマーカー配列(ヘキサヒスチジン・タグ、ヒスチジン・タグ)、哺乳動物細胞の場合はヘマグルチニン(HA)・タグを例示できる。
【0047】
所望の組換えDNA(発現ベクター)の宿主細胞への導入法及びこれによる形質転換法としては、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。
【0048】
また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計したDNA分子によりコードされる目的ポリペプチドが、形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
【0049】
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0050】
かくして得られる本発明の組換え体ポリペプチドは、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987)など参照〕により分離、精製できる。
【0051】
該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示でき、特に好ましい方法としては、本発明ポリペプチドに対する特異的な抗体を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィーなどを例示することができる。
【0052】
また、本発明において、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに結合する抗体は、上記で得られた合成ポリペプチド、または組換え体ポリペプチドを免疫抗原として利用して製造することができる。KLH等のキャリアー蛋白を併用することが好ましい。より具体的には、例えば上記免疫抗原で免疫した哺乳動物の形質細胞(免疫細胞)と哺乳動物の形質細胞腫細胞との融合細胞(hybridoma )を作成し、これより配列番号1で示されるアミノ酸配列を認識する所望抗体を産生するクローンを選択し、該クローンの培養により製造できる。
【0053】
上記方法において免疫抗原で免疫される哺乳動物としては、特に制限はないが、細胞融合に使用する形質細胞腫細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般にはマウス、ラツト、兎等が有利に用いられる。
【0054】
免疫は一般的方法により、例えば上記免疫抗原を哺乳動物に静脈内、皮内、皮下、腹腔内注射等により投与することにより実施できる。より具体的には、免疫抗原を、所望により通常のアジュバントと併用して、供試動物に2〜14日毎に数回投与し、総投与量が約100〜500μg/マウス程度になるようにするのが好ましい。免疫抗原としては、上記最終投与の約3日後に摘出した脾臓細胞を使用するのが好ましい。
【0055】
更に、上記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物の形質細胞腫細胞としては、既に公知の種々のもの、例えばp3(p3/×63−Ag8)〔Nature ,256, 495-497(1975)〕、p3−U1〔Current Topics inMicrobiology and Immunology ,81, 1-7(1978)〕、NS−1〔Eur. J.Immunol.,6, 511-519(1976)〕、MPC−11〔Cell, 8, 405-415(1976)〕、SP2/0〔Nature, 276, 269-270(1978)〕、FO〔J.Immunol. Meth.,35, 1-21(1980)〕、×63.6.5.3.〔J.Immunol.,123, 1548-1550(1979)〕S194〔J.Exp. Med.,148, 313-323(1978)〕等や、ラツトにおけるR210〔Nature, 277, 131-133(1979)〕等の骨髄腫細胞等を使用できる。
【0056】
上記免疫細胞と形質細胞腫細胞との融合反応は、公知の方法、例えばMilstein らの方法〔Method in Enzymology,Vol. 73, pp3(1981)〕等に準じて行なうことができる。より具体的には、上記融合反応は、通常の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等の存在下に、通常の培地中で実施され、培地には更に融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を必要に応じて添加することもできる。免疫細胞と形質細胞腫細胞との使用比は、通常の方法と変りはなく、例えば形質細胞腫細胞に対して免疫細胞を約1〜10倍程度用いるのが普通である。融合反応時の培地としては、形質細胞腫細胞の増殖に通常使用される各種のもの、例えばRPMI−1640培地、MEM培地、その他のこの種細胞培養に一般に利用されるものを例示でき、通常之等培地は牛胎児血清(FCS)等の血清補液を抜いておくのがよい。融合は上記免疫細胞と形質細胞腫細胞との所定量を、上記培地内でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液、例えば平均分子量1000〜6000程度のものを、通常培地に約30〜60w/v%の濃度で加えて混ぜ合せることにより行なわれる。以後、適当な培地を逐次添加して遠心し、上清を除去する操作を繰返すことにより所望のハイブリドーマが形成される。
【0057】
得られる所望のハイブリドーマの分離は、通常の選別用培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地)で培養することにより行なわれる。該HAT培地での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(未融合細胞等)が死滅するのに充分な時間、通常数日〜数週間行なえばよい。かくして得られるハイブリドーマは、通常の限界希釈法により目的とする抗体の検索及び単一クローン化に供される。
【0058】
目的抗体産生株の検索は、例えばELISA法〔Engvall, E.,Meth.Enzymol.,70,419−439(1980)〕、プラーク法、スポツト法、凝集反応法、オクテロニー(Ouchterlony)法、ラジオイムノアツセイ(RIA)法等の一般に抗体の検出に用いられている種々の方法〔「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30−53頁、昭和57年3月5日〕に従い実施することができ、この検索には前記免疫抗原が利用できる。
【0059】
かくして得られる配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを認識する所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で長期間保存することができる。
【0060】
上記ハイブリドーマからの所望抗体の採取は、該ハイブリドーマを、常法に従って培養してその培養上清として得る方法やハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法等が採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0061】
また上記のごとくして得られる抗体は、更に塩析、ゲル濾過法、アフィニティクロマトグラフィー等の通常の手段により精製することができる。
【0062】
かくして得られる本発明のモノクローナル抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異反応性を有するものである。
【0063】
また本発明抗体によれば、神経細胞に導入された配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの細胞傷害活性に対して、或いは前記ポリペプチドに結合することによって、該ポリペプチドの神経細胞に対する細胞傷害活性、特に神経細胞の形態学的な変化や死細胞の増加などの神経細胞死に対して、中和、または拮抗する活性を有するタイプの抗体が包含される。かかる抗体は前記ポリペプチドを特異的に測定するのに好適である。またかかる中和または拮抗活性を有するタイプの抗体、殊に配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド分子上のAβ配列1−42との結合に関与する部位を認識するタイプの抗体は、前記した細胞傷害活性、特に神経細胞死の増加を伴う各種疾患、特にアルツハイマー病の治療薬として適用に好適である。
【0064】
さらに本発明の抗体中には、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド分子の異なる部位を認識し、抗体相互の立体傷害がなく、同時に前記ポリペプチド分子に結合することができるタイプの抗体も包含されており、かかる抗体は、例えばサンドイッチ法等による免疫検定に利用するのに極めて有用である。
【0065】
また加えて、本発明抗体中には、液相系又は固相系での反応性が特に優れたタイプの抗体が包含されている。それらは液相系及び固相系免疫検定法に適用するのに極めて好ましい。
【0066】
本発明の測定法及びスクリーニング方法
本発明の細胞傷害活性の測定法は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞傷害活性を測定する方法である。
【0067】
該方法に使用される神経細胞としては、例えば、哺乳動物から採取した脳神経細胞、例えばマウス神経上皮細胞、ラット海馬初代培養細胞、マウス胎児培養プルキニエ細胞、マウス後根神経節などの他、脳神経細胞の樹立細胞株、例えば、ヒト神経膠細胞株、ヒトHeLa細胞、HUVEc細胞、原始ヒト線維芽細胞またはリンパ芽球細胞、ヒト原始混合脳細胞(ニューロン、星状細胞および神経膠を含む)に対し、NGF(神経成長・栄養因子)、IGF(インシュリン様成長因子)等の成長因子で処理して神経突起を伸展させたものが挙げられる。より具体的には、上記脳神経細胞としては、哺乳動物、例えばラットの海馬の組織を摘出し、完全培地中で培養した培養液が用いられる。上記樹立細胞株を成長因子で処理して神経突起を伸展させたものとしては、NGF、FGF(繊維芽細胞因子)、EGF(上皮細胞成長因子)、インターロイキン 6等で処理したPC12細胞、IGFで処理したSH−SY5Y細胞、NGFで処理したMJB細胞、NMB細胞、NGP細胞、SK−N−SH細胞、LAN−1細胞、KA−9細胞、IMR−32細胞、5−ブロモデオキシウリジンで処理したIMR−32細胞、NMB細胞、NGP細胞等が挙げられる。
【0068】
(1)測定法
本発明の細胞傷害活性の測定法の一例としては、ラット海馬細胞を用い海馬細胞の培養液中に、これに所定量の本発明の合成または組換え体ポリペプチド(TAT蛋白質のアミノ酸配列47−57とアミロイドβ蛋白質のアミノ酸配列1−42の融合ポリペプチド)を所定の温度条件下で添加し、接触させた場合における時間の経過に伴う神経細胞の挙動および/または生存細胞数を測定し、ポリペプチド非投与と比較することによって、所望の神経細胞傷害活性の測定を行なうことができる。
【0069】
以下に、例えば、ラットの海馬細胞を使用した場合の測定方法を開示する。
【0070】
ラット全脳より海馬細胞を常法により調製する(例えば、実施例2(1))。
得られた初代培養細胞(0.1〜1×105細胞/cm2)に対し、本発明のポリペプチドを含む培地、緩衝液、水等の水溶液を適当な濃度(例えば、最終濃度として1〜50μMとなるよう)で添加する。また、対照として本発明のポリペプチドを含まない上記水溶液を添加する。その後、30〜40℃程度で、5%CO2存在下で1〜72時間、好ましくは16〜48時間培養して接触させる。
【0071】
この際、時間の経過に伴う海馬細胞の挙動の測定および/または生存細胞数を測定は、以下に記載の方法が例示できる。
【0072】
(2)スクリーニング方法
本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞に対する細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することにより、アルツハイマー治療・予防剤をスクリーニングする方法及び配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの神経細胞内への導入による神経細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)該神経細胞に対して、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド単独、又は該ポリペプチドと被検試料を共に接触させる工程、
(b)前記(a)の両者の該神経細胞の細胞傷害を検出する工程、および
(c)該神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法を提供するものである。該スクリーニング方法は、例えば、以下の方法に従って行うことができる。
【0073】
上記細胞傷害活性の測定を行なう方法において、基本的には、上記(1)の記載の方法に準じて行うことができる。例えば上記(1)に記載の方法によって得られた神経細胞の培養液に、所定量の本発明の合成または組換え体ポリペプチドを所定の温度条件下で添加した場合のみと、候補化合物と合成または組換え体ポリペプチドとを同時に、又は候補化合物を添加後該ポリペプチドを、又は該ポリペプチドを添加後候補化合物を、所定の温度条件下で添加し、接触した場合における時間の経過に伴う、例えば、神経細胞の挙動および/または生存乃至死亡細胞数を測定することにより細胞傷害を検出し、ポリペプチド単独投与の場合と比較することによって、候補化合物が、神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物であるかどうかを判定することができ、かくして本発明の所望の神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングすることができる。
【0074】
上記(1)又は(2)の方法において、例えば海馬細胞の挙動のような神経細胞の形態的な変化の観察は、本発明の合成または組換え体ポリペプチド、或いは合成または組換え体ポリペプチドと候補化合物の投与前後における試料中の神経細胞の形態的な変化を、例えば、位相差顕微鏡(例として、倍率:200−600倍による観察や抗体を用いる免疫組織化学的方法により観察できる。
【0075】
又は、本発明のポリペプチド処理後の生存細胞を指標として測定することができる。例えば正常な細胞は、形態学的に平滑な輪郭および多数の神経細胞突起を有するものとし、一方変性した細胞は不規則な形状、神経突起の変性等のアポトーシス様の形態を示すことにより細胞が細胞死したとして判定することができる。また、ポリペプチドまたはポリペプチドと候補化合物の処理前後の生存細胞数と死細胞数を色素により染めて、同様に位相差顕微鏡または螢光測定装置により細胞傷害活性を測定することが可能である。前記生存細胞数と死細胞数を判別する色素としては、例えば、生存細胞数の染色は、カルセインAM(CalceinAM)に染色された細胞数を、死細胞数の染色は、プロピジウム・ヨード(Propidium Iodide)に染色された細胞数をそれぞれカウントすることによって、細胞傷害活性を測定することが可能である。また、トリパンブルー色素排除試験により青染された死細胞を測定することが可能である。また、ヘキスト33258色素により核を染色することにより、断片化した核を有する死細胞を測定することが可能である。さらに、細胞死に伴って培養液中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ量を測定することによって死細胞量を測定することも可能である。一方、生細胞によって生じるテトラゾリウム塩(MTT、MTS、WST-1、WST-8等)のホルマザンを測定することにより、残存する生細胞数を測定することが可能である。
【0076】
上記において、本発明の神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法に用いられる候補化合物としては、抗体または抗体断片、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0077】
本発明の測定方法またはスクリーニング方法を実施するには、本発明のポリペプチド(合成ポリペプチドまたは遺伝子発現産物である組み換え体ポリペプチド)をスクリーニングに適した水溶液(例えば、緩衝液、水又は培地)に溶解または懸濁することにより、本発明ポリペプチドの標品を調製する。緩衝液には、本発明ポリペプチドと神経細胞・組織との接触を阻害しない緩衝液(例えばpH約4〜10、望ましくはpH約6〜8)のリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液など)がいずれも利用できる。接触時間は、通常1時間から7日、好ましくは約8時間から3日である。接触温度は通常約30〜40℃である。また、通常、5%二酸化炭素雰囲気条件下にて実施される。
【0078】
かくして神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法の実施において、例えば、神経細胞の細胞傷害を抑制する化合物であると判定された化合物は、神経細胞傷害と関連する神経疾患、例えばアルツハイマー病の予防または治療薬として適応でき得る。前記アルツハイマー病の予防または治療薬としては、例えば、本発明の合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチドに結合する抗体または抗体断片を例示でき、より好ましくは、本発明のポリペプチド配列の12−53番目のアミノ酸配列を認識する抗体または抗体断片を例示できる。また、本発明の神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法において、神経細胞の細胞傷害活性を抑制する化合物であると判定され、アルツハイマー病の予防または治療薬として使用される合成化合物としては、後記実施例に示されるように塩化リチウム(Litium chloride)、コンゴーレッド(Congo Red)、B−27サプリメント(B-27 Supplement)、抗酸化剤等を例示できる。
【0079】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる作用としては、神経細胞傷害活性、またそれによる神経原線維変化、神経細胞の死細胞数の増加、細胞内LDHなどの酵素活性の上昇変化や神経細胞のアポトーシス様の形態変化により具体的に神経細胞傷害が観察される。
【0080】
上記における神経細胞傷害活性を候補化合物非投与の場合に比べて約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約70%以上、促進または抑制する該化合物が、本発明ポリペプチドによる神経細胞傷害活性の機能促進剤または機能抑制剤として選択できる。
【0081】
上記のアッセイは、候補化合物に直接または間接的に結合した標識を用いて、あるいは標識競争物質との競争を用いるアッセイにおいて、本発明ポリペプチドによる神経細胞傷害活性を検出することにより実施してもよい。かくして、候補化合物の結合を簡単に試験することができる。さらに、候補化合物が本発明ポリペプチドによる神経細胞傷害活性を促進又は抑制するかどうかを、ポリペプチドが蓄積する細胞に適した検出系を用いて、これらのアッセイにより試験してもよい。活性化の阻害剤は、一般に、既知アゴニストの存在下でアッセイされ、候補化合物の存在がアゴニストによる活性化に及ぼす作用を観察する。さらに、アッセイは、簡単に、候補化合物とポリペプチドを含む溶液を混合して混合物を形成させ、混合物中の神経細胞傷害活性を測定し、混合物のポリペプチド活性を標準と比較する工程を含んでいてもよい。
【0082】
ポリペプチドに結合する低分子化合物(アゴニストやアンタゴニスト)は、BIACORE2000などを用いるスクリーニングによって得ることができる(Markgren,P.O., et al., Analytical Biochemistry, 265,340-350(1998))。
【0083】
また、本発明のポリペプチドまたは組み換え体ポリペプチドは、例えば神経細胞、無細胞調製物、化学ライブラリーおよび天然物の混合物から該ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定するのに用いることもできる。これらのアゴニストまたはアンタゴニストは、本発明ポリペプチドの天然または修飾基質、リガンド、酵素、レセプターなどであってもよく、あるいは本発明のポリペプチドの構造的または機能的を模倣物であってもよい(Coliganら、Current Protocols in Immunology 1 (2) Chapter 5 (1991)を参照)。
【0084】
また、本発明のポリペプチドの神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法の他の一例としては、本発明の合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチドをマウス、ラット等の脊椎動物に投与した場合(対照試験)と、本発明の合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチドおよび候補化合物とを脊椎動物に投与した場合との比較を行ない、脊椎動物に対する神経作用の変化、例えば神経(細胞)生存維持作用、神経伸長作用、神経再生作用、グリア細胞活性化作用などの生理活性を、上記対照試験の場合に比べて約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは70%以上、促進または抑制する試験化合物を選択でき、例えば抑制する化合物は本発明のポリペプチドの機能抑制剤として選択でき、アルツハイマー病治療剤としての候補化合物となり得る。
【0085】
上記スクリーニング方法を実施するには、本発明合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチド、またはこれと試験化合物とを、静脈注射、皮下注射、筋肉注射、経口投与などにより供試動物に投与する。本発明ポリペプチドの投与量は、経口投与の場合、一般に哺乳動物(体重50kgとして)一匹、一日当たり約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的投与の場合、その1回投与量は、投与対象、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤形態では、通常哺乳動物(体重50kgとして)一匹、一日当たり約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。
【0086】
供試動物としては、例えばヒト、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどの哺乳動物のほか、魚類(例えばコイ、サケ、ニシン、ニジマス、金魚など)などが用いられる。本発明合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチドの脳における記憶形成に対する抑制作用は公知の方法、例えばモーリスの水迷路実験〔Morris, R.G.M., J. Neurosci. Meth,. 11, 47-60(1984)〕などに従って測定することができる。例えば上記インビボのスクリーニング方法の場合における本発明合成ポリペプチドまたは組換え体ポリペプチド単独投与群による記憶形成抑制作用が、試験化合物投与により、約20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上抑制される試験化合物は、本発明ペプチドの機能抑制剤として選択でき、アルツハイマー病治療剤としての候補化合物として有効である。
【0087】
また、本発明の別の態様であるスクリーニング用キットは、本発明ポリペプチド(組み換え体ポリペプチドを含む)を必須の試薬成分として含有する。本発明スクリーニング用キットの例としては、次の構成1〜3または1〜4からなるものが挙げられる。
構成1:測定用緩衝液
構成2:ポリペプチド標品(本発明ポリペプチド)
構成3:神経細胞または神経組織(前記した神経細胞または神経組織を例えば、105細胞/cm2でイーグルMEM液などを用いてマルチウェルプレート等の培養容器で5%炭酸ガス下、37℃で培養したもの)、
構成4:検出用試薬、標識剤
上記スクリーニング用キットを利用したスクリーニングは以下の如くして実施できる。
【0088】
〔測定法〕
試験化合物を加えたウェルの単位視野あたりの神経軸索を伸ばしている細胞数をカウントし、試験化合物を加えていないコントロールウェルの単位視野あたりの神経軸索を伸ばしている細胞数との有意差検定を行う。
【0089】
さらに本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物、例えばペプチド、蛋白、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などから選ばれた化合物であり、本発明ポリペプチドの作用を促進又は抑制する化合物である。本発明ポリペプチドの機能を抑制する化合物は、それ自体が中枢神経系などにおける神経(細胞)生存維持作用、神経伸長作用や神経再生作用などの生理活性を示すことによって、本発明のポリペプチドなどの作用を相加的にまたは相乗的に抑制することもあるし、あるいは、それ自体は該生理活性を示さないが、本発明ポリペプチドの作用を抑制する作用を奏することもある。
【0090】
該化合物の塩としては、生理学的に許容される塩基(例、アルカリ金属)や酸(例、有機酸、無機酸)との塩が挙げられる。とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば無機酸(例えば塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩あるいは有機酸(例えば酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩が挙げられる。
【0091】
本発明ポリペプチドの作用を抑制する化合物またはその塩は、例えばアルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの各種神経変性疾患に対する安全で低毒性な治療および予防剤として有用である。
【0092】
上記スクリーニング方法で得られた神経細胞傷害を抑制する化合物は、アルツハイマー病、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血、パーキンソン病などの各種神経変性疾患等に用いられる医薬として有用である。該医薬は通常、有効成分としての化合物と適当な担体からなる医薬組成物として、患者の治療または予防のために用いられる。
【0093】
該医薬組成物において有効成分とする化合物には、その医薬的に許容される塩もまた包含される。かかる塩には、当業界で周知の方法により調製される、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウムなどの無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが包含される。更に上記塩には、本発明ポリペプチドと適当な有機酸ないし無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びナプシレートなどが例示される。
【0094】
上記医薬組成物は、本発明化合物を活性成分として、その薬学的有効量を、適当な無毒性医薬担体ないし希釈剤と共に含有するものが含まれる。
【0095】
上記医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体乃至希釈剤としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤など或いは賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。
【0096】
本発明のスクリーニング方法によって得られた医薬製剤がタンパク製剤の場合には、通常の蛋白製剤などに使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製される。
【0097】
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示でき、これらは単独で又は界面活性剤などと組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0098】
上記L−アミノ酸としては、特に限定はなく例えばグリシン、システィン、グルタミン酸などのいずれでもよい。
【0099】
上記糖としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類など及びそれらの誘導体などを使用できる。
【0100】
セルロース誘導体としても特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを使用できる。
【0101】
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用でき、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などを使用できる。
【0102】
上記糖類の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.01〜10mg程度の範囲とするのが適当である。界面活性剤の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.0001〜0.01mg程度の範囲とするのが適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mg程度とするのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。
【0103】
本発明医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0104】
また本発明医薬製剤中には、各種添加剤、例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤などをも添加することができる。ここで緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)などを例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。
【0105】
本発明医薬製剤は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時水、生埋的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
【0106】
本発明の医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれ、これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
【0107】
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、上記製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウムなどの賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの崩壊剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドなどの界面活性剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などを使用できる。
【0108】
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができ、また二重錠ないしは多層錠とすることもできる。
【0109】
丸剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤、ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などを使用できる。
【0110】
カプセル剤は、常法に従い通常本発明の有効成分を上記で例示した各種の製剤担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセルなどに充填して調整される。
【0111】
経口投与用液体投与形態は、慣用される不活性希釈剤、例えば水を含む医薬的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシルなどを包含し、更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤などの助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
【0112】
非経口投与用の液体投与投与形態、例えば滅菌水性乃至非水性溶液、エマルジョン、懸濁液などへの調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油などの植物油などを使用でき、また注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルなどを配合できる。これらには更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤などを添加することもできる。 滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理などにより実施できる。また、これらは使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製することもできる。
【0113】
坐剤や膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライドなどを使用できる。
【0114】
ペースト、クリーム、ゲルなどの軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフイン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト及びオリーブ油などの植物油などを使用できる。
【0115】
経鼻又は舌下投与用組成物は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
【0116】
尚、本発明薬剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品などを含有させることもできる。
【0117】
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
【0118】
上記医薬製剤中に含有されるべき有効成分の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。一般的には、該投与量は、通常、1日当り体重1kg当り、約0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することができる。
【0119】
また本発明によれば、候補化合物がポリペプチドである場合、より活性または安定した形態のポリペプチド誘導体または例えばイン・ビボ(in vivo)で本発明のポリペプチドの機能を抑制する薬剤を開発するために、それらが相互作用する目的の生物学的に活性なポリペプチドまたはその構造的アナログ、例えばペプチドアゴニスト、ペプチドアンタゴニスト、ペプチドインヒビターなどを作製することが可能である。前記構造的アナログは、例えばペプチドポリペプチドと他の蛋白質の複合体の三次元構造をX線結晶学、コンピューター・モデリングまたはこれらを組合わせた方法によって決定することができる。また、構造的アナログの構造に関する情報は、相同性蛋白質の構造に基づくペプチドのモデリングによっても得ることが可能である。
【0120】
上記により、活性なまたは安定した形態のペプチド誘導体を得る方法としては、例えばアラニン・スキャンによって分析することが可能である。該方法はアミノ酸残基をAlaで置換し、ペプチドの活性に対するその影響を測定する方法でペプチドの各アミノ酸残基をこのように分析し、当該ペプチドの活性や安定性に重要な領域を決定する方法である。該方法によって、より活性なまたは安定なペプチド誘導体を設計することができる。
【0121】
かくして、本発明のポリペプチドの神経細胞傷害活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニストなどとしての作用を有する薬剤を設計・開発することができる。
【0122】
かかる薬剤は、海馬ニューロンの初代培養細胞を用い、その生存維持に対する影響を調べることにより(Japan. J.Pharmacol. 53, 221-227(1990))、また変異ベータアミロイド前駆蛋白質遺伝子あるいは変異プレセニリン1遺伝子のトランスジェニックマウス(Nature, 373, 523-527 (1995):Nature Med., 5, 560-564 (1999))などのアルツハイマー病モデル動物の神経病変に及ぼす影響を調べることにより評価できる。
【0123】
このようにして得られた化合物はアルツハイマー病のみならず、脳梗塞その他の神経変性疾患治療薬としても利用可能である。
【0124】
また本発明によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸配列含有トランスジェニック・マウス、ノックアウト・マウス(変異マウス)を作成することによって上記アミノ酸配列のどの部位が生体内で上記したような多様な神経細胞傷害活性に影響を与えるのか、即ち配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸分子の発現産物のどのアミノ酸が生体内でどのような機能を有するのかを確認することができる。
【0125】
該方法は、遺伝子の相同組換え体を利用して、生物の遺伝情報を意図的に修飾する技術であり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)を用いた方法を例示できる(Capeccchi,M.R., Science, 244, 1288-1292 (1989))。
【0126】
尚、上記変異マウスの作製方法はこの分野の当業者にとって既に通常の技術であり、この改変技術(野田哲生編、実験医学,増刊, 14 (20) (1996)、羊土社)に、ペプチドを適応して容易に変異マウスを作製し得る。従って前記技術の適応により、神経細胞傷害活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニストなどとしての作用を有する薬剤を設計・開発することができる。
また、本発明の別の発明としては、本発明のポリペプチドまたは組み換え体ポリペプチドと神経細胞とを例えば適当な培地で培養することにより接触させることにより神経細胞内に特異的に発現している遺伝子または該神経細胞内で遺伝子の発現変動を示す遺伝子の検出方法をも提供することができる。また、本発明によれば、前記方法によって遺伝子の発現が変動し、検出された新規な、または公知の遺伝子または遺伝子発現産物を提供することができる。前記検出方法は、例えば、蛍光ディファレンシャルディスプレイ法[Liang, P.,et al., Science, 257, 967-971 (1992)]やサブトラクション法[特表平9-511149号]、或いはDNAマイクロアレイを用いるDNAチップ法[Nature Genetics Suppliment, 21, 3-60 (1999)]によって、本発明のポリペプチドまたは核酸分子の発現産物の添加によって、培養神経細胞内におけるその遺伝子または遺伝子発現産物の変化を検出することができる。
【0127】
これらの遺伝子発現検出方法は、例えば蛍光ディファレンシャルディスプレイ法を用いる場合は、先ず、本発明のポリペプチドまたは組み換え体ポリペプチドと神経細胞とを適当な培地で培養したのち、該神経細胞より取り出したmRNA、および脳、肺、肝臓、胃、腎臓、などの複数のヒト組織の各々から単離したポリA RNAまたは全RNAから、それぞれcDNAを作成する。即ち、上記のmRNAをジエチルピロカーボネート処理された水中で、3'−アンカード・オリゴdTプライマーG(15MA(MはG、A、およびCの混合液)からなる任意のプライマーと混合し、65℃で5分間加熱後、DTT、dNTPs、リボヌクレアーゼ・インヒビターおよび逆転写酵素を加えてcDNAを得る。前記で得られたcDNAを例えば[α−33P]ATPで標識した3'アンカード・プライマーの存在下でPCR増幅を行なう。PCR反応産物を電気泳動で分離後、再度増幅し、他の組織に比較し、神経細胞において発現変動のあるPCR産物を確認することができる。前記で得られた神経細胞において発現変動のあるクローニング産物の配列決定は、ABI377自動シーケンサー(アプライド・バイオ・システムズ社製)を用いる通常の方法を用いて配列決定できる。
【0128】
また、遺伝子発現検出方法の別法としてのサブトラクション法を用いる場合は、先ず、本発明のポリペプチドまたは組み換え体ポリペプチドと神経細胞とを適当な培地で培養したのち、該神経細胞より取り出したmRNA、および脳、肺、肝臓、胃、腎臓、などの複数のヒト組織のから単離したポリA RNAまたは全RNAから、逆転写酵素を用いてそれぞれcDNAを作成する。神経細胞由来を含む2種類のcDNAの一方をテスターcDNA、もう一方をドライバーcDNAとして、こられの双方を例えば制限酵素RsaIなどの任意の制限酵素を用いて短く切断する。テスター側を2つに分けて、2種類の別々のアダプターをライゲーションする(ここでドライバー側cDNAには、アダプターをつけない)。得られた2種類のテスターを熱変性し、過剰量のドライバーとハイブリダイズさせる。この時テスター側だけにある(ディファレンシャルに発現している)cDNAが効率よく1本鎖のまま残る。さらにそれぞれのハイブリダイゼーション後の反応物を混合し、1本鎖のまま残っているcDNA同士をハイブリダイズさせた後、サプレッションPCR法により末端に異なるアダプター配列を有するcDNAだけを指数的に増幅させる。かくして発現に差のある遺伝子が濃縮され、所望の本発明のポリペプチドまたは核酸分子の発現産物の添加により神経細胞内において特異的に遺伝子の発現の変動している遺伝子を検出することができる。上記方法は例えばPCR-SelectTM cDNA Subtraction Kit(クローンテック社製)を用いて簡便に実施できる。
【0129】
さらに遺伝子発現検出方法の別法としてのDNAマイクロアレイ法またはDNAチップ法を用いる場合は、例えば、DNAマイクロアレイ法の場合は、まず本発明のポリペプチドと神経細胞とを適当な培地で培養したのち、該神経細胞より取り出したmRNAおよび脳、肺、肝臓、胃、腎臓、などの別のヒト組織のから単離したポリA RNAまたは全RNAを得る。次いで予め調製された一本鎖オリゴDNAをスライドガラスに直に貼り付けていき、二蛍光標識法を用いて遺伝子の発現変化を検出する。前記で得られた2つの異なるmRNAサンプルをそれぞれ異なる蛍光で標識し、同一マイクロアレイ上で競合的ハイブリダイゼーションを行なって、両方の蛍光を測定・比較することによって、所望の遺伝子発現の差を検出することができる。該方法は、インサイト/シンテェニィ社製のDNAマイクロアレイを用いて簡便に実施できる。
【0130】
また、DNAチップ法を用いる場合は、例えば、まず本発明のポリペプチドまたは核酸分子の発現産物と神経細胞とを適当な培地で培養したのち、該神経細胞より取り出したmRNAを逆転写酵素によりcDNAを合成する。担体上に張り付け固定した15〜25merの何100万通りものオリゴヌクレオチド・プローブを前記で得られたcDNAをVIT(in vitro transcription)にてcRNAにして断片化時に標識する、このチップ上にある特異的なオリゴマーと前記標識されたRNAとハイブリッド形成が起こる。一方、特異的なオリゴマーを一塩基または二塩基変換したミスマッチのプローブをコントロールとしてチップ上に合成し、同時にハイブリダイゼーションさせ、ミスハイブリダイゼーションの量をコンピューターにて自動解析し発現量判定を行なうことができる。 該方法は、アフィメトリックス社製のDNAチップを用いて簡便に実施できる。
【0131】
かくして上記各遺伝子発現検出方法にて、本発明のポリペプチドまたは核酸分子の発現産物と神経細胞とを適当な培地で培養し接触させることにより、神経細胞内において遺伝子発現の変動がみられる遺伝子または遺伝子産物の取得は、通常の遺伝子工学的技術を用いて取得することができる。
【0132】
このように、上記本発明のポリペプチドと神経細胞とを適当な培地で培養し接触させることにより、神経細胞内において変動する遺伝子を解析することにより、神経細胞毒性に関与する遺伝子を探索することが可能である。また、同定された遺伝子を大腸菌、動物細胞等に発現させた組換え蛋白質を用いることにより、同蛋白質に結合し、かつ生物活性を阻害あるいは促進する物質の探索が可能である。また、前記方法で同定された遺伝子を動物細胞等に発現させることにより、発現蛋白質を介した神経変性を阻害する物質の探索が可能である。また、前記方法で同定された遺伝子を組み込んだ遺伝子改変動物を作製することにより、神経変性や行動薬理学的異常を解析することが可能である。また、同遺伝子改変動物を用いて、神経変性及び行動薬理異常を阻止する物質の探索が可能である。
【0133】
例えば、該遺伝子または遺伝子発現産物の神経細胞傷害活性を測定し、該遺伝子または遺伝子発現産物の活性に対するアゴニスト/アンタゴニストを検出する方法において、
(a)前記遺伝子または遺伝子発現産物を含む神経細胞に対して、被検試料を接触させる工程、
(b)該神経細胞の細胞傷害を検出する工程、および
(c)該神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法も提供される。 該方法も、上記方法と同様にできる。
【0134】
【発明の効果】
本発明によれば、神経細胞内に取り込まれた物質の蓄積による新規な細胞傷害活性の測定法および該測定法を用いる神経細胞に対する細胞傷害活性に影響を及ぼす化合物のスクリーニング方法が提供され、該測定法またはスクリーニング方法の利用によれば、細胞内アミロイドβによる神経毒性メカニズムの解析に基づく治療薬の開発、特に、アルツハイマー病の治療薬としての候補化合物を見出すことを可能にし、治療薬の開発は、アルツハイマー病の病態の進行を早期に阻止できる点においても有用である。
【0135】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこの範囲に限定されるものではない。
【0136】
実施例1:ポリペプチドの固相合成
本発明者らは、全自動ペプチド合成機(ACT357:アドバンストケムテック社製)を使用し、同社のプログラムに従い、Fmoc/NMP、HOBt法[Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル、NMP:N-メチルピロリドン、HOBt:1-ヒドロキシペンゾトリアゾール]による各ペプチドの固相合成を以下のとおり実施した。
【0137】
即ち、まずC末端フリー(OH)のペプチドを製造した。これは配列番号1で示されるアミノ酸配列にしたがって、C末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸−Alko樹脂0.25mmolに、C末端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を準じ、合成プログラムに従い、伸長反応させた。
【0138】
また、C末端アミドの各ペプチドは、Fmoc−NH−SAL樹脂0.25mmolにC末端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を合成プログラムに従い縮合反応させ、その後C末端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を順次縮合反応させて鎖伸長を行なった。
【0139】
各反応終了後、プログラムにしたがって、N末端Fmoc基の脱保護反応を行なった。かくして得られた各ペプチド樹脂をポリプロピレン製のミニカラム(アシスト社製)に回収し、メタノール洗浄後、真空で乾燥し、以下の操作に付してペプチドを樹脂から切り出し、側鎖の脱保護反応を行なった。即ち、各樹脂にリエージェントK(Regent K、 82.5%TFA、 5%フェノール、 5%H2O、 5%チオアニソール (Thioanisole)、 2.5% エタンジチオール)2mlを加え、ミニカラム中で60分間反応させた。
【0140】
次いで、反応液を冷ジエチルエーテル8ml中に滴下して反応を呈しさせ、同時にペプチドを沈殿させた。更に、ミニカラムをトリフルオロ酢酸(TFA)2mlにて洗浄し、冷ジエチルエーテル5mlを追加し、遠心し、沈殿をジエチルエーテル10mlで3回洗浄後、約5mlの50%アセトニトリルでペプチドを可溶化し、凍結乾燥した。更に可溶化と凍結乾燥操作を2回繰り返して、所望の粗凍結乾燥品を得た。
【0141】
上記で得られた粗凍結乾燥品をオクタデシルカラム(直径20x 250mm,YMC社製)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、所望のポリペプチドを単離した。尚、上記において用いた樹脂およびアミノ酸誘導体は、いずれも渡辺化学工業社製のものを使用した。
【0142】
かくして単離されたポリペプチドの同定をアミノ酸配列分析は、気相プロテインシークエンサー(モデル477A)にPTHアナライザー(モデル120A、いずれもアプライドバイオシステムズ社製)を接続した装置を使用して実施した。また更にポリペプチドの同定を Voyager‐DE Pro(パーキンエルマーバイオシステムズ社製)を用いるマススペクトロメトリーによる分子量測定により行なった。 かくして所望の配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアミノ酸53残基から成るポリペプチド(TAT-Aβ42)を化学合成した。
【0143】
また上記と同様の方法でポリペプチド配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するアミノ酸11残基からなるペプチド(TAT)を同様に合成した。
【0144】
実施例2:合成ポリペプチドによる神経細胞傷害活性
(1) 海馬神経細胞の単離と培養
SD系ラット18日齢胎仔より無菌的に全脳を取り出し、海馬を切り分けた後、メスで細切後、0.25% トリプシン、0.002% DNase Iを含むリン酸緩衝生理食塩水中で37℃、20分間インキュベートして酵素処理する。牛胎児血清を添加し酵素反応を停止させた後、プラスチック製チップを付けたピペットで細胞液を吸い上げて吐き出す操作を3回繰返して細胞を分散させた。レンズペーパーを2枚重ねたフィルターに細胞液をろ過して消化されなかった組織片を除き、1000rpmで5分間遠心した。次いで細胞を、イーグル最小必須培地(EMEM、ギブコBRL社製)で数回細胞を洗い、10%牛胎児血清を含むEMEM培地を入れたポリLリジン(Sigma社)でコーティングした48ウエルプレート(イワキグラス社製)に1×105/ウエルの細胞を播き込み、37℃、5%CO2条件下で一晩培養した。培地全量を2%B27添加ニューロベーサル(Neurobasal)培地(ギブコBRL社製)に交換し、37℃、5%CO2条件下で培養した。培地は、3ないし4日後に交換し、培養7〜8日後の培養細胞を実験に供した。最終的にニューロベーサル(Neurobasal)培地に交換し、1×105 細胞/cm2になるように播いた。
【0145】
(2)本発明ポリペプチドによる処理
培養7〜8日後、細胞をニューロベーサル培地でリンスした後、上記実施例1で得られた本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )を含むニューロベーサル培地を1、5、10μMおよび20μMとなるように各ウエルに添加した(本発明群)。
【0146】
また、比較のため、同じく実施例1で得られたペプチド(TAT)およびアメリカンペプチド社より購入したペプチド(Aβ42)(Aβタンパク質の1−42部分)を同様に溶媒(培地)に溶解し、それぞれ を上記と同様に1、5、10μMおよび20μM、溶媒(solvent)のみの群とともにそれぞれ添加した。尚、各ペプチドは、蒸留水に200μMの濃度で溶解した後、ニューロベーサル培地で希釈し、細胞に加えた。
【0147】
ペプチドを添加後、細胞は37℃、5%CO2条件下で24時間培養し、ペプチド添加による細胞障害活性を調べた。
【0148】
本発明ポリペプチドを含むポリペプチドの各添加量におけるN数はそれぞれ3(トリプレット)であった。
【0149】
(3)神経細胞に対するポリペプチドの細胞傷害活性評価
上記(2)で調製した各群の細胞(培養液)を24時間培養後、細胞の蛍光色素取り込み試験の為、緑色のカルセインAM (CalceinAM: 同仁社製) および、赤色のヨウ化プロピジウム (Propidium Iodide: シグマ社製 )をそれぞれ 1、20μMずつ添加し、それぞれ生細胞、死細胞数を測定した。すなわち、カルセインAMまたはヨウ化プロピジウム取り込み細胞数を螢光顕微鏡下で測定し、生細胞数及び死細胞数の割合を測定した。各ウエルにつき3視野の各細胞数をカウントして各細胞数の割合を算出した。各値は平均値±標準偏差を表わす。
【0150】
その結果を図1〜図3に示す。図1中の縦軸は、上記の処理に伴う生存細胞数(右図)および死細胞数(左図)を示し、測定した全細胞数に占める百分率(%)で表わされている。図1に示されるように、神経細胞に本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42)を作用させた場合、ポリペプチド(Aβ42)およびペプチド(TAT)の生存細胞数に比較して著しく減少し、その細胞傷害活性が極めて強力であることが分かる。同様に死細胞数は、本発明ポリペプチド投与群において、著しい増加が認められ、本発明ポリペプチド10及び20μM投与群において、ほぼ100%近くの細胞が死細胞に至っていた。
【0151】
図2中の縦軸は、各ポリペプチドの10μM添加量の処理に伴う死細胞の割合(%)を示す。尚、添加前の細胞数を100%とした。
【0152】
図2に示されるように、神経細胞に本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )を作用させた場合、ポリペプチド(Aβ42)およびペプチド(TAT)の生存細胞数に比較して、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )10μM添加の場合、著しく死細胞数が増加し、その細胞傷害活性が極めて強力であることが分かる。 また、ポリペプチド(Aβ42)とペプチド(TAT)を同時に添加した場合、ポリペプチド(Aβ42)の作用を増強することはなく、融合ペプチドである本発明ポリペプチドに強力な細胞傷害活性があることがわかる。
【0153】
図3は、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )10μMおよび20μM、ポリペプチド(Aβ42)10μMおよび20μM、ペプチド(TAT)20μMおよび溶媒(Solvent)投与群における神経細胞の螢光顕微鏡像を示す。図中、緑色に染まっている細胞は生存細胞を示し、平滑な輪郭及び多数の神経細胞突起をもつ細胞が観察される。一方、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )10μMおよび20μM投与群は、死細胞であることを示す赤色の細胞が他の群に比較し、多く観察され、特に20μM投与群においては殆どの細胞が赤色に染まり、このことから本発明ポリペプチドによる神経細胞傷害活性が他のポリペプチド投与群に比し、著しく高いことが分かる。
【0154】
このように本発明ポリペプチドのラット胎児脳海馬の初代培養細胞に対する細胞毒性を調べた結果、ポリペプチド(Aβ42)と比較して、極めて高い細胞傷害性を示すことを発見した。ペプチド(TAT)単独では神経毒性は全く観察されなかった。これらの結果は、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42) をペプチド(TAT)の介在により細胞内に蓄積させることによって、より高度な神経細胞傷害が生じることを示しており、細胞内に取り込まれたポリペプチド(Aβ42) が該ポリペプチド(Aβ42) による神経細胞変性に重要であることも合わせて示唆している。
【0155】
かくして、本発明の配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞に対する細胞傷害活性の変化を測定する方法が提供された。
【0156】
したがって、少なくとも配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42)を用いた細胞内Aβ1-42 による神経細胞毒性のメカニズムの解析及び、神経細胞毒性の阻害は、アミロイド仮設に基づくアルツハイマー病治療薬の開発に有用であると考えられる。神経細胞内へのAβ1-42 の蓄積は、老人斑蓄積や神経原線維変化に先立って、病態の早い段階に生じるとされているので、細胞内Aβ1-42 による神経毒性メカニズムの解析に基づく治療薬の開発は、病態の進行を早期に阻止する点でも有用である。
【0157】
実施例3:候補化合物のスクリーニング方法
また、上記実施例2の結果の利用により、本発明の配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる神経(細胞)傷害を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法を実施した。
【0158】
即ち、既に神経細胞傷害を抑制することからAβ1-42ポリペプチドによる神経細胞傷害を抑制する効果が認められている公知の化合物が前記実施例2において、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42)による神経細胞傷害活性を抑制し得るならば、本発明ポリペプチドの神経細胞傷害活性化作用を利用した神経細胞傷害を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法を提供可能となると考えた。
【0159】
B27サプリメント(B27)はインビトロ試験の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の遊離およびMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-yl)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム・ブロマイト)アッセイによってAβ25-35による神経細胞死を予防する効果があることが知られている(Huang,H.M.,et al., Life Sciences, 66(19)1879-1892(2000))。 B27サプリメントはビタミンE、ビタミンC、カタラーゼ、グルタチオン、スーパーオキサイド・デイスムスターゼ (SOD)などの抗酸化剤が含まれている。また、色素の一種であるコンゴー・レッドもPC12神経細胞において、Aβによって誘導された毒性を抑制することとアミロイドペプチドの凝集を抑制することが同様に報告されている(Lorenzo, A.,and Yankner, B.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,91,12243-12247(1994))。
【0160】
ラット胎児脳海馬初代培養細胞を培養7〜8日後、細胞をニューロベーサル培地でリンスした。Aβ1-42ポリペプチドによる神経細胞傷害を抑制することが報告されている濃度の塩化リチウム(LiCl)10mM、コンゴーレッド(Congo Red, CHROMA-GESELLSHAFT, Schmid GmbH Co.社製)(C.R.)5μMまたはB27(B-27 Supplement, GIBCO BRL社製)2%及び本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )10μMを含むニューロベーサル培地200μlを各ウェルに添加した。本発明ポリペプチドを添加後、細胞は37℃、5%CO2条件下で24時間培養し、生細胞数と死細胞数をカウントした。解析は、本発明ポリペプチド添加群を対照として、一元配置分散分析後、ダァネットのテストによって解析した結果を示す。その結果を図4に示す。 縦軸は死細胞数の割合を示す。
【0161】
図4に示すように、本発明ポリペプチド添加による初代培養海馬神経細胞の死細胞数の割合は、塩化リチウム10mM、コンゴーレッド5μM、B27 2%の添加により有意に阻害された(*:P<0.05、**:P<0.01)。
【0162】
上記の結果から、本発明ポリペプチドの神経細胞傷害活性化作用を利用して、神経細胞傷害を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法に利用することができることが分かる。
【0163】
図5は、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )20μM、塩化リチウム10mM、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )20μM+塩化リチウム10mM、および溶媒(Solvent)投与群における神経細胞の螢光顕微鏡像を示す。図中、緑色に染まっている細胞は生存細胞を示し、平滑な輪郭及び多数の神経細胞突起をもつ細胞が観察された。一方、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )20μM投与群は、死細胞であることを示す赤色の細胞が殆どの神経細胞に観察された。しかしながら、神経細胞傷害阻害活性が知られている塩化リチウムと併用添加群では、ポリペプチド(TAT-Aβ42)20μM投与群と比較して赤色の死細胞数が減少し、緑色の生存細胞の残存が多く観察された。このことから本発明ポリペプチド添加による神経細胞傷害活性が塩化リチウムと併用添加することにより有意に阻害されたことが分かる。
【0164】
実施例4:抗体の製造
(1)ポリクローナル抗体の作成:
上記実施例1で得られた配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する精製ポリペプチド(TAT-Aβ42)800μgをPBSに溶解させ、これにフロインドの完全アジュバンド液を等量加えて懸濁液を作成する。この懸濁液を家兎(ニュージーランド・白色ウサギ(体重2.5−3.0Kg、チャールズ・リバー社より購入する)8匹に、完全フロインドアジュバントと共に本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )を免疫抗原として1回量100μg/ウサギとなる量で皮下または皮内投与し、これらウサギに対して3週間後に2回目の免疫を行う。この時、フロイントの完全アジュバントのかわりに不完全アジュバントを用いる。抗体価があがるまで、10日〜2週間ごとに追加免疫を行う。安定した抗体価の上昇がみられたら、大量採血を行う。採血後、これを遠心分離(3000rpm、20分)に付し、抗血清を得る。さらに該抗血清を56℃で30分間の処理に付し非働化する。
【0165】
上記で得られる抗血清を石川らの方法(J. Immunoassay, 4, 209 (1983))に従って、硫安分画及びジエチルアミノエチル−セルロースカラム分画を行なってIgGを採取し、これを前記実施例1で得られた精製品本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにて精製して、所望のウサギ抗ポリペプチド(TAT-Aβ42)ポリクローナル抗体を得えることができる。
【0166】
(2)モノクローナル抗体の作成:
上記記実施例1で得られた精製ポリペプチド(TAT-Aβ42 )の50μgを免疫抗原として用いて、BALB/Cマウス(雄、7週齢、体重20〜25g、SLCより購入)に、等量の完全フロインドアジュバントと共に腹腔内投与した。2〜3週間おきに同量を不完全アジュバントと共に3回追加投与して免疫し、その後1〜2週間後に最終免疫と して50μgの精製ポリペプチド(TAT-Aβ42 )の生食溶液を静脈内投与する。最終免疫の3〜4日後に、マウスから脾臓を摘出し、摘出脾臓より脾細胞を取り出し、10mlのRPMI−1640培地(日水製薬社製)の中ですり潰し、次に遠心分離(1500rpm、5分間)して細胞ペレットをかきとり、該ペレットに細胞中に存在する赤血球を0.83%塩化アンモニウム緩衝液で1−2分間処理して融解除去する。上記で得られる細胞を感作リンパ球細胞として集め、これを37℃に加温したRPMI−1640培地で3回洗浄する。
【0167】
次に、マウス骨髄腫細胞〔P3U1、Current Topics in Microbiology and Immunology, 73,3(1981)〕を15%FCS(牛胎児血清)を含有するRPMI−1640培地に8−アザグアニン100μMを加えた培地中で継代培養し、これをミエローマ細胞として用い、上記リンパ球細胞と同様にして洗浄する。
【0168】
上記脾細胞とミエローマ細胞とを、細胞数比が10:1の割合になるように50mlのチューブ内混和し、得られた細胞混合物を500×gで5分間遠心分離後、上清をパスツールピペットで除去し、ペレットをよくほぐす。これらの操作は37℃に保温した水槽内で行なう。次に、45%ポリエチレングリコール(PEG-4000、ベーリング・マンハイム・山之内社製)2mlをゆっくりと30秒間かき混ぜながら滴下した後、30秒間放置し、次いでFCSを含まないRPMI−1640培地5mlをゆっくりと2分間位かけて加えて1分間放置し、更に同液5mlを加えて3分間放置した後、遠心分離(1500rpm、5分間)し、上清をパスツールピペットで除去し、得られるペレットを50mlの10%FCS含有RPMI−1640培地に細胞懸濁液1×105個/mlとなるように懸濁させる。
【0169】
次いで、上記懸濁液を24穴のプレート(コースター社製)4枚に1ml/ウェルずつ分注し、37℃、5%CO2、100%湿度のインキュベーター内で培養し、24時間後、1ml/ウェルずつ10%FCS添加ヒポキサンチン1×10-4M、アミノプテリン4×10-7M及びチミジン1.6×10-5Mを含むRPMI−1640培地(以下これを「HAT培地」という)を各ウェルに添加する。以後、上清を2日目、3日目に培地の半分ずつ吸引し、同量の新しいHAT培地を加えて液替えを行う。その後、液替えは2−3日おきに行なった後、6日目に同様に上清を吸引し、1×10-4Mヒポキサンチン及び1.6x10-5Mチミジンを含むRPMI−1640培地( 以下これを「HT培地」という)に替えた。以後、RPMI−1640培地で増殖維持する。融合後、7−10日間でコロニーが肉眼で観察されるようになるので、細胞が24穴プレートの底面積の1/4を占めた時より、上清を実施例1で得た精製ポリペプチド(TAT-Aβ42 )を抗原とする酵素免疫測定法(ELISA法)で試験してスクリーニングし、陽性となったウェルのハイブリドーマを直ちに限界希釈法(Method in Enzymology, 73, 3 (1981))によりクローニングする。
【0170】
即ち、ELISA用96穴ウェルマイクロプレート(ヌンク社製)に、免疫感作に用いた免疫抗原精製ポリペプチド(TAT-Aβ42)中に10μg/mlになるように希釈した抗原溶液を上記プレートの各ウェルに100μlずつ分注し、4℃で2時間静置してコーティングを行ない、次に抗原溶液を除去した後、0.1%牛血清アルブミン(BSA)及びPBSをそれぞれ400μl/ウェルずつ加え、室温で1時間静置後、0.1%BSA及びPBSを除去し、上清を100μl/ウェルずつ加える。室温で一晩インキュベーション後、0.05%ツィーン-20(Tween-20)及びPBSでウェルを3回洗浄し、次に100μl/ウェルのHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識抗ウサギIgG抗体(バイオ・ラド社製)を加え、室温にて2時間インキュベート後、0.05%ツィーン-20及びPBSでウェルを5回洗浄する。最後に100μl/ウェルのオルトフェニレンジアミン(OPD)基質液[4mgOPD(シグマ社製、製造No. P-8287)、4μl30%過酸化水素水及び10mlクエン酸緩衝液(pH5.0)またはOPD緩衝液(シグマ社製、製造No. P-4922)]を加え、充分発色させた後、1N硫酸溶液50μlを各ウェルに加えて反応を停止させる。基質液の発色をエライザーアナライザー(タイターテック社製)を用いて490nmの吸光度により測定する。
【0171】
上記ELISAにて陽性を示したウェルのハイブリドーマを直ちに限界希釈法により、クローニングする。即ち、Balb/c系マウス脾細胞をフィーダ細胞として、10%FCS添加RPMI−1640培地に希釈し、96ウェルプレートに2x106個/100μl/ウェルとなるように調製して分注する。上記ELISAで発色したウェルの細胞を3個/mlとなるように10%FCS添加RPMI−1640培地で希釈し、96ウェルプレートに100μl/ウェルずつ分注する。
【0172】
クローンがある程度増殖してきたら、再び上記と同様の方法にてスクリーニングを行ない、シングルクローンのものは腹水化もしくは凍結保存し、その他は再度同一クローニングを行なう。
【0173】
上記1コロニーのウェルがすべて陽性になるまでクローニングを繰り返すことにより、所望の反応特異性を有する本発明モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0174】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のポリペプチドを含む各ペプチドの細胞傷害活性を示す図である。図1中の縦軸は、上記の処理に伴う生存細胞数(右図)および死細胞数(左図)を示し、測定した全細胞数に占める百分率(%)で表わした。
【図2】 本発明のポリペプチドを含む各ペプチドの細胞傷害活性を示す図である。図2中の縦軸は、各ポリペプチドの10μM添加量の処理に伴う死細胞の割合(%)を示す。尚、添加前の細胞数を100%とした。ポリペプチド非添加群を対照として、各ポリペプチド投与群の群間比較を一元配置分散分析後、ダァネットのテスト(Dunnett's test)によって解析した結果を示す。
【図3】 図3は、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )10μMおよび20μM、ポリペプチド(Aβ42)10μMおよび20μM、ペプチド(TAT)20μMおよび溶媒(Solvent)投与群における神経細胞の螢光顕微鏡像を示す。図中、緑色に染まっている細胞は生存細胞を示し、赤色の細胞は死細胞であることを示す。
【図4】 図4は、本発明のポリペプチドによる細胞傷害活性の抑制効果を示す図である。解析は、本発明ポリペプチド添加群を対照として、一元配置分散分析後、ダァネットのテストによって解析した結果を示す。
【図5】 図5は、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )20μM、塩化リチウム10mM、本発明ポリペプチド(TAT-Aβ42 )20μM+塩化リチウム10mM、および溶媒(Solvent)投与群における神経細胞の螢光顕微鏡像を示す。図中、緑色に染まっている細胞は生存細胞を示し、赤色の細胞は死細胞であることを示す。
Claims (15)
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞傷害活性の測定法。
- 細胞傷害活性を形態学的な変化および/または生存乃至死亡細胞数によって測定する請求項1に記載の細胞傷害活性の測定法。
- 神経細胞が、脳の皮質神経の初代培養細胞である請求項1または2に記載の細胞傷害活性の測定法。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することによる神経細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを神経細胞内に導入することにより、アルツハイマー治療・予防剤をスクリーニングする方法。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの神経細胞内への導入による神経細胞傷害活性を、促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)該神経細胞に対して、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド単独、又は該ポリペプチドと被検試料を共に接触させる工程、
(b)前記(a)の両者の該神経細胞の細胞傷害を検出する工程、および
(c)該神経細胞の細胞傷害を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法。 - 細胞傷害活性を形態学的な変化および/または生存乃至死亡細胞数によって測定することを特徴とする請求項6に記載の神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法。
- 神経細胞が、脳の皮質神経の初代培養細胞である請求項6又は7に記載の神経細胞傷害活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングする方法。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの神経細胞内への導入による神経細胞傷害活性を抑制する化合物が該ポリペプチドに結合する抗体またはその抗体断片である請求項6〜8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる合成ポリペプチド。
- 請求項10のポリペプチドをコードする核酸分子。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む組換え体ポリペプチド。
- 配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む神経細胞傷害剤。
- 請求項10または請求項12のポリペプチドに結合する抗体またはその抗体断片。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の方法に用いられるポリペプチドが、請求項11のポリペプチドをコードする核酸分子によって発現されたものである組換え体ポリペプチド。
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