以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
図1は、シリアルスキャン方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。このインクジェット記録装置1において、記録媒体Pは、搬送機構3の搬送ローラ対32に挟持され、更に、搬送モータ33によって回転駆動される搬送ローラ31により図示Y方向に搬送されるようになっている。
搬送ローラ31と搬送ローラ対32の間には、記録媒体Pの記録面PSと対向するように記録ヘッド2が設けられている。この記録ヘッド2は、記録媒体Pの幅方向に亘って掛け渡されたガイドレール4に沿って、不図示の駆動手段によって、上記記録媒体Pの搬送方向(副走査方向)と略直交する図示X−X’方向(主走査方向)に沿って往復移動可能に設けられたキャリッジ5に、ノズル面側が記録媒体Pの記録面PSと対向するように配置されて搭載されており、フレキシケーブル6を介して後述する駆動パルスや微振動パルスを発生するための回路を持つ不図示の制御手段に電気的に接続されている。
かかる記録ヘッド2は、キャリッジ5の移動に伴って記録媒体Pの記録面PSを図示X−X’方向に移動し、この移動過程でインク滴を吐出することによって、所望のインクジェット画像を記録するようになっている。
なお、図中、7はインク受け器であり、記録ヘッド2が非印刷時の待機位置である不図示のホームポジションの脇に設けられた印刷待機ポジションに位置している。記録ヘッド2がこの印刷待機ポジションにある時、ノズル開口で増粘したインクを微振動させて減粘した後、このインク受け器7に向けてインクを少量(例えば、50〜100滴)はき捨てることが好ましい。顔料やポリマーの濃度が高い、特に増粘し易いインクや、低湿、低温環境で印刷する時は、1ライン印刷する度に、微少量のインクを吐出して、増粘したインクを吐き捨てることが好ましい。
記録ヘッド2が不図示のホームポジションにおいて長期間作動を停止している時は、記録ヘッド2のノズル面に不図示のキャップを被せることにより保護するようになっている。また、8は記録媒体Pを挟んで上記インク受け器7の反対位置に設けたインク受け器であり、キャリッジの往復動の両方向で記録するとき、往動から復動に切り替える前に、上記同様に、はき捨てたインク滴を受け入れる。
図2、図3は、記録ヘッド2の一例を示す図であり、図2(a)は概観斜視図、(b)は断面図、図3はインク吐出時の作動を示す図である。同図において、21はインクチューブ、22はノズル板部材、23はノズル、24はカバープレート、25はインク供給口、26は基板、27は隔壁である。そして、図3に示すように、インク流路28が隔壁27、カバープレート24及び基板26によって形成されている。
記録ヘッド2には、図3に示すように、カバープレート24と基板26の間に複数の隔壁27A、27B、27Cで隔てられたインク流路28が多数構成されている。図3では多数のインク流路28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されている。インク流路28の一端(以下これをノズル端という場合がある)はノズル板部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)はインク供給口25を経て、インクチューブ21によって不図示のインクタンクに接続されている。そして、各インク流路28内の隔壁27の表面には両隔壁27の上方から基板26の底面に亘って繋がる電極29A、29B、29Cが密着して形成され、各電極29A、29B、29Cは、隔壁27の変形を制御する制御手段である変形制御パルス発生手段(図示せず)に接続している。
これら電極29A、29B、29Cに、変形制御パルス発生手段の制御により駆動パルスが印加されると、以下に述べる動作によってインク滴をノズル23から吐出する。なお、図3ではノズルは省略してある。また、各隔壁27は、ここでは図3の矢印で示すように、分極方向が異なる2個の圧電物質27a、27bによって構成されているが、圧電物質は例えば符号27aの部分のみであってもよく、隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
インク吐出動作の一例を説明する。非駆動時、図3(a)に示すように、各インク流路28A、28B、28Cの電極に2AL幅の同じパルスを印加する。この時、壁を通して電位差が生じないので、隔壁27A、27B、27Cはいずれも変形しない。次に、図3(b)に示すように、電極29Aと29Cを接地して、電極29Bに1AL幅のパルスを印加すると、隔壁27B、27Cを構成する圧電物質の分極方向に直角な方向に電界が掛かり、各隔壁27B、27C共に、それぞれ圧電物質27a、27bの接合面にズリ変形を生じ、隔壁27B、27Cは互いに外側に向けて変形し、インク流路28Bの容積を拡大してこのインク流路28B内に負の圧力が生じ、インクが流れ込む。同時にマニホールド端とノズル端から圧力が上がり始め、音響波がインク流路28Bの中央に向かって伝わり、1AL経過すると、その音響波が反対端に達し、インク流路28B内が正圧となる。
なお、AL(Acoustic Length)とは、インク流路の有効長さをL(図2(b)参照)、インク中の音速をCとした時、L/Cで表される時間(単位:μs)で、音響波がインク室の入り口から出口まで伝わる時間であり、インク流路の音響的共振周期の1/2である。このAL値は流路形状等により上記の計算通りにはならないので、実際のシェヤーモードヘッドの圧電隔壁27に、パルス幅の異なる矩形波を印加して、出射されるインク滴の速度を測定し、インク滴の飛翔速度が最大となるパルス幅として求められる。
ノズル端とマニホールド端に達した音響波は、それぞれ反射して、位相が180°反転した負の圧力波となってインク流路28Bの中央に向かって伝搬する。更に、1AL経過すると、負の圧力波がそれぞれ他端に達して、インク流路28B内部が負圧となる。このように、隔壁27B、27Cを駆動して発生した圧力波は、1AL毎に圧力反転を繰り返す。ノズル端は音響インピーダンスの小さい空気と接しているのでほぼ100%反射されるが、マニホールド端はインク流路28Bの断面積とマニホールドの断面積の比率により、部分的に反射されるので、次第に圧力が減衰してゆく。
最初の駆動パルスを印加してから1AL経過後、電極29Bに掛かる電位を0にすると、電極29A、29B、29Cが全て接地され、隔壁27B、27Cには、電圧差が生じないので、隔壁が図3(b)に示す膨張位置から、図3(a)に示す中立位置に戻り、インク流路28B内のインクが圧縮されて高い圧力が掛かる。次いで、図3(c)に示すように、電極29Bに2AL幅の負パルスを掛けると、隔壁27B、27Cが互いに逆方向に変形して、インク流路28Bの容積が縮小して、インク流路28B内に正の圧力が生じる。これによりインク流路28Bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから吐出する程に大きくなると、インク滴がノズルから吐出される。この状態を2AL保持した後、電極29Bの電位を0に戻すと、隔壁27B、27Cが、図3(c)に示す収縮位置から、図3(a)に示す中立位置に戻るので、残留する圧力波がキャンセルされ、次のインク滴の吐出が可能になる。また、他の各インク流路も駆動パルスの印加によって上記と同様に動作する。
このように、少なくとも一部が圧電物質で構成された隔壁27により隔てられた複数のインク流路28を有する記録ヘッド2である所謂シェヤーモードヘッドは、インク流路28の隔壁27を、隣のインク流路28と共有しているため、あるインク流路からインクを吐出する時は、その両隣のインク流路の電極を接地しておき、吐出したいインク流路の電極に1AL幅の正電圧、次いで、2AL幅の負電圧を掛ければよい。
この吐出法は、インク流路を膨らませる動作(Draw)、インク流路を元に戻してインク圧を高める動作(Release)、インク流路を凹ませてインク圧を更に高める動作(Reinforce)、インク流路の残留圧力をキャンセルする動作(Cancel)を含むので、Draw-Release-Reinforce-Cancel(DRRC)吐出法と呼ばれる(図4(a)参照)。
インクメニスカスを微振動させる方法は、ノズルからインクが吐出しない程度にインク室の隔壁を変形させればよい。また、微振動させると、吐出する迄に微振動を静止させる必要がある。このため、Draw-Release波が好ましい。これはReinforceしないので、インクが吐出されることはない。Drawでインク室を膨らませ、インクメニスカスを引き込み、この状態を2AL時間保持すると、インク室内の圧力が負圧→正圧→負圧の順に変化するので、このタイミングでインク室の膨張を元に戻せば、正圧が生じ、インク室内の負圧をキャンセルし、吐出が可能になる。
この波形を図4(b)に示す。Draw-Release波の長さは、ここでは2ALとしているが、この波形の立ち上がりで発生した圧力が、立下りでキャンセルされるようにALの偶数倍に取るとよい。微振動パルスが終わると微振動が収束しているので、直ちに吐出できるが、1ALタイミングをずらして吐出する方が安定に吐出できるので好ましい。
以上説明したように、DRRC吐出法は、あるインク流路から吐出する時、その両隣のインク流路の電極を接地して、吐出したいインク流路の電極に正電圧と負電圧を掛けるが、隔壁の変形は、隔壁に掛かる電圧差に応じて生じるので、吐出するインク流路に負電圧を掛ける代わりに、吐出するインク流路を接地して、その両隣のインク流路に正電圧を掛けてもよい。この方が正電圧だけで駆動できるので好ましい。これを図4(c)に示す。
このように少なくとも一部が圧電物質で構成された隔壁27によって隔てられた複数のインク流路28を有する記録ヘッド2を駆動する場合、一つのインク流路の隔壁が吐出動作をすると、隣のインク流路が影響を受けるため、通常、複数のインク流路28のうち、互いに1本以上のインク流路28を挟んで離れているインク流路28をまとめて1つの組となすようにして、2つ以上の組に分割し、各組毎にインク吐出動作を時分割で順次行うように制御する。例えば、互いに2本のインク流路を挟んで離れているインク流路をまとめて1つの組として、全インク流路を3つの組に分割し、これらを3回に分けて、時分割して、順次吐出を行う。以下、本明細書では、このような時分割のことを「周期」、n分割したインク流路の時分割のことを「n周期」とそれぞれ表現する場合がある。
かかる記録ヘッド2の時分割吐出動作について、図5を用いて更に説明する。図5に示す例では、記録ヘッドの全インク流路を、互いに2本のインク流路を挟んで離れているインク流路をまとめて1つの組としてA群、B群、C群の3つの組に分割して吐出する場合である。ここでは、インク流路が、A1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのインク流路28で構成されているとして説明する。また、駆動パルスのタイムチャートを図6に示す。図6(a)は、吐出するインク流路に正→負の電圧を掛け、非吐出のインク流路を接地して吐出する場合である。図6(b)は、全て正電圧を掛けて吐出する場合である。どちらも隔壁の動作は同じである。
図6(a)を用いて駆動を説明すると、時間T1aで、A1、A2、A3のインク流路に正→負の電圧からなる駆動パルスPaを掛け、その両隣のインク流路を接地して、A1、A2、A3のインク流路から吐出し、時間T1bで、B1、B2、B3のインク流路に正→負の電圧からなる駆動パルスPbを掛け、その両隣のインク流路を接地して、B1、B2、B3のインク流路から吐出し、時間T1cで、C1、C2、C3のインク流路に正→負の電圧からなる駆動パルスPcを掛け、その両隣のインク流路を接地して、C1、C2、C3のインク流路から吐出する場合を示している。
駆動パルスとして図4(a)に示すDRRCパルスを、初めの第1周期T1aではA組、即ちA1、A2、A3の3つのインク流路に対して同時に印加すると、これらA1、A2、A3の各インク流路の隔壁が同時に変化し、各ノズルからインク滴を吐出する。以下、同様に第2周期T1bでB組、即ちB1、B2、B3の3つのインク流路に同時にDRRCパルスを印加し、第3周期T1cでC組、即ちC1、C2、C3の3つのインク流路に同時にDRRCパルスを印加すると、各隔壁が逐次変形し、T1a、T1b、T1cの3周期で一巡して、9流路全てが駆動されることになる。
図5及び図6から明らかなように、9本のインク流路は配列順に、A組、B組、C組のそれぞれのインク流路を1本ずつ含む3本を単位とする単位U1、U2、U3に分けられ、T1a、T1b、T1cの3周期を1駆動サイクルとする駆動サイクルで駆動される。
勿論、前記駆動方法において、実際に画像を記録する場合は、上記のように全てのインク流路に駆動パルスが印加されるとは限らず、記録信号に応じて駆動されないインク流路もあり得る。なお、本明細書において、記録信号に応じた吐出動作というときは、この記録信号に応じたインク流路の動作のことをいい、この動作には、記録信号に応じて駆動されないインク流路の動作(不吐出の動作)も含まれるものとする。
次に、本発明に係るインクジェット記録装置1において、記録ヘッド2におけるノズル23内のインクメニスカスを微振動させる構成について説明する。
本発明では、インクメニスカスを微振動させる場合、変形制御パルス発生手段は、ノズル23から吐出が休止している期間に、記録ヘッド2における複数のインク流路28のうち互いにN本(N=1又は2)のインク流路を挟んで離れているインク流路28をまとめて1つの組とし、この1つの組のインク流路28についてインクが吐出しない条件でノズル23内のインクメニスカスを微振動させるように隔壁27を駆動する。
ここで、インクの吐出を休止する期間としては、記録ヘッド2が記録媒体の記録領域の外にある場合と、記録ヘッド2が記録媒体の記録領域の中にあるが、駆動パルスが印加されていない場合が挙げられる。
この後者の場合の例として、記録ヘッド2の全てのインク流路28を見た場合、どれかのインク流路28に駆動パルスを印加した後、次の駆動パルスを、どれかのインク流路28に印加するまでの間に、どのインク流路28にも駆動パルスが印加されていない期間があり、この間に微振動させるのが、本発明における好ましい態様である。
これは例えば、図6に示すように駆動パルスPa、Pb、Pcが、A組、B組、C組に順次印加される場合において、第1周期T1aでA1、A2、A3の各インク流路に駆動パルスPaを印加した後、第2周期T1bでB1、B2、B3の各インク流路に駆動パルスPbを印加するまでの間の、どのインク流路に対しても、駆動パルスの印加が休止している期間に相当する。
このように、どれかのインク流路28に駆動パルスを印加した後、次の駆動パルスを、どれかのインク流路28に印加するまでの間、どのインク流路28にも駆動パルスが印加されない期間があり、この期間に微振動パルスを印加すれば、記録信号の有無に係わらず微振動パルスを挿入できる。このため駆動サイクルが低下することがない。
また、画像データを解析する必要がないという利点がある。すなわち、インクメニスカスを微振動させるパルスをインクを吐出する駆動パルスの前に挿入すると、駆動サイクルが低下して記録速度が低下するので、記録信号がある時、記録速度を低下させないでインクメニスカスを微振動させるには、通常、駆動パルスが印加されないインク流路を検索して、そのインク流路にだけ微振動パルスを印加する必要があり、このため予め画像データを解析する必要がある。しかし、最近では、インク流路の数が、数百から数千と増えているので、このデータ解析処理には時間がかかるため、結果として記録時間の増大化を招くことになる。どれかのインク流路28に駆動パルスを印加した後、次の駆動パルスをどれかのインク流路28に印加するまでの間、どのインク流路28にも駆動パルスが印加されていない期間に微振動パルスを印加することで、かかる問題を解消することができる。
この後者の場合、すなわち記録ヘッド2が記録媒体の記録領域の中にあるが、駆動パルスが印加されていない場合に、インクが吐出しない条件でノズル内のインクメニスカスを微振動させるように隔壁27を駆動する際のパルス印加のタイムチャートの例を図7に示す。
ここでは、説明し易いように、図6(a)のように、吐出するインク流路に正→負の電圧からなる駆動パルスを掛け、その両隣のインク流路を接地して吐出する駆動法で説明するが、図6(b)の駆動法を使用しても同じであることは容易に理解されるであろう。
また、ここでは上記N=2として、複数のインク流路のうち互いに2個の流路を挟んで離れているインク流路をまとめて1つの組とし、この1つの組のインク流路について駆動する例を示している。更に、ここでは、図6と同じタイミングで、互いに2本のインク流路を挟んで離れているインク流路をまとめたA組、B組、C組の各インク流路にインクを吐出するための駆動パルスPa、Pb、Pcを印加する場合を示している。
まず、第1周期T1aにおいてA組、即ちA1、A2、A3の3流路に同時に駆動パルスPaを印加する直前で、駆動パルスが休止している期間に、このA組のインク流路についてインクが吐出しない条件でノズル内のインクメニスカスを微振動させるように隔壁を駆動させる微振動パルスMP1を印加し、この微振動パルスMP1を印加した後、駆動パルスPaの印加を開始する。
次いで、第2周期T1bではB組、即ちB1、B2、B3の3流路に同時に駆動パルスPbを印加し、更に、第3周期T1cではC組、即ちC1、C2、C3の3流路に同時に駆動パルスPcを印加し、1サイクル分の吐出を終了する。
第2周期では、第1周期で微振動して吐出しているので、その影響でインクメニスカスが微振動するため、特に微振動を掛ける必要はない。第3周期も、第1周期で微振動が掛かっているので、微振動を掛ける必要がない。
その後、T1c、T2c・・・の各周期においても、上記と同様にA組の3流路に微振動パルスMP2、MP3・・・を印加する。図7では、第4周期T2aにおいては、A組のインク流路に駆動パルスが印加されない場合を示している。すなわち、第4周期T2aには記録信号が存在しないが、この場合でも第3周期T1cにおいて微振動パルスMP2は印加される。
なお、この例では、A組のインク流路のみに微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加しているが、この記録ヘッド2によれば、隔壁は隣接するインク流路と共有であるため、1つのインク流路の隔壁を駆動すると両隣のインク流路にもその1/2の強さの圧力がかかる。このため、A組のインク流路に掛けた微振動の影響が、両隣のインク流路にも及ぶ。すなわち、A1の影響がB1に、A2の影響がC1とB2に、A3の影響がC2とB3に、という具合に、結果として全てのインク流路に及ぶため、A組のインク流路にだけ微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加すれば、全てのインク流路のインクメニスカスを微振動させることが可能である。
従って、1つのインク流路の隔壁を駆動させて、一組のインクメニスカスを微振動させることにより、全インク流路のインクメニスカスにおけるインクの増粘を防止しながらも、全てのインク流路に微振動パルスを印加していないため、記録ヘッドの発熱を抑制することができ、且つ、記録速度を向上させることが可能となる。
特に、本実施形態に示す記録ヘッド2のように、インク流路28を区画している隔壁27の一部又は全部が圧電素子により構成されるものは、圧電素子の発熱がインクに伝わり易く、インクの温度上昇に起因する問題が発生し易いため、効果的にインクメニスカスを微振動させることができる上に記録ヘッドの発熱を抑制できる効果は大きいものとなる。
微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加するインク流路は、A組だけに限られるものではなく、B組又はC組であってもよいことは勿論である。図8はB組のインク流路に微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を上記と同様に印加する例を、図9はC組のインク流路に微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を上記と同様に印加する例をそれぞれ示している。
図7〜図9に示す駆動法によれば、例えばT1a〜T1cの周期によってA組〜C組の全てのインク流路に駆動パルスPa、Pb、Pcが印加されて吐出することで、1画素が形成される。この場合、微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加するタイミングは、吐出が休止している期間であれば、この1画素を形成する間、すなわち、全ての組のインク流路の記録信号に応じた吐出動作が行われる毎に少なくとも1つあれば良い。最近のインクは、ポリマー、ラテックス、高分子分散剤、耐水化剤、防黴剤、耐光性向上剤等の添加剤が多量に添加されているので、吐出中断の影響を受け易い。特に、低温、低湿環境では、1画素分の吐出を停止しただけでも、再開した時に画像が劣化することがあるので、1画素を記録する毎に微振動を掛けてから吐出することが好ましい。微振動パルスを、常に全ての組のインク流路の記録信号に応じた吐出動作が行われる毎の同じ場所に入れておけば、常に同一の所定の間隔でインクメニスカスに微振動を与えることができるので、有効に目詰まりを防止することができる。
また、時分割で吐出動作する全てのインク流路のインクメニスカスを微振動させる場合、例えば図7に示すようにA組〜C組の3つの組のインク流路からなるものでは、A組〜C組の3つの駆動パルスの前に3つの微振動パルスが挿入されるようにすると、Ta、Tb、Tcの各々の周期が長くなり、記録速度が低下する問題があるが、本実施形態では、微振動パルスを印加するのは、全てのインク流路でなく、2つ以上に分割されたインク流路の組のうちのいずれか1つの組のインク流路のみであるため、例えば図7では、Ta、Tbの周期には微振動パルスが印加されないので、その分の周期を短くすることもでき、記録速度の低下を抑えることも可能である。
微振動パルスを印加するタイミングは、図7〜図9に示すように各画素を吐出する直前に限定されるものではないが、このように各画素の直前、すなわち、2つ以上に分割された全てのインク流路の組の記録信号に応じた吐出動作が終了した後で、且つ、2つ以上に分割されたインク流路の組のうちの1つの組の記録信号に応じた吐出動作が開始する直前に、微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加すれば、微振動によりインク粘度が低下してから直ぐに吐出することとなるので、最も好ましい。
更に、このタイミングでの微振動パルスの印加は、ノズル内のインクメニスカスを整える作用もある。すなわち、各画素の直前に微振動パルスを印加すれば、その直前に吐出したか否かにかかわらず、ノズル内のインクメニスカスをほぼ同じ位置にできるので、インク吐出を安定化させることができる。これは高品質の画像形成を行う上で有効である。
図10のタイムチャートは、微振動パルスを印加する更に他の例を示している。この例では、微振動パルスMP1を印加した後、次の画素の吐出直前に、B組のインク流路に対して微振動パルスMP2を印加するように切り替え、更にその次の画素の吐出直前にC組のインク流路に対して微振動パルスMP3を印加するように切り替えるという具合に、微振動パルスを印加するインク流路を、各画素毎、すなわち、ここではA組〜C組に分割された全てのインク流路の組の吐出動作が終了する毎に異ならせている。
前述したように、互いに2本のインク流路を挟んで離れているインク流路をまとめて1つの組とし、そのうちの1つの組のインク流路に微振動パルスを印加しても、それに隣接するインク流路のインクメニスカスも微振動させることができ、結果として全てのインク流路のインクメニスカスを微振動させることができるが、直接的に微振動パルスを印加しているインク流路に比べて、それに隣接しているインク流路のインクメニスカスの微振動は少し弱くなる。しかし、このように、微振動パルスを印加するインク流路の組を各画素毎に異ならせることで、全てのインク流路のインクメニスカスに対して均等に微振動を与えることができる。
なお、図10に示す例でも、各画素を吐出する直前に微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加しているが、微振動パルスは、1画素を形成する間に少なくとも1つあればよく、また、各画素の直前に限られるものでないことは、図7〜図9の場合と同様である。
以上は、上記N=2の場合を示しているが、N=1としてもよい。以下にN=1の例を示すが、N=1よりもN=2とした方が、記録ヘッドの発熱抑制効果が大きく好ましい。
図11は、図7〜図10と同様に駆動パルスを印加する場合において、上記N=1として、記録ヘッド2における複数のインク流路28のうち互いに1本のインク流路を挟んで離れているインク流路28をまとめて1つの組とし、この1つの組のインク流路28についてインクが吐出しない条件で隔壁27を駆動するようにしたパルス印加のタイムチャートの一例を示している。
すなわち、まず、第1周期T1aにおいてA組、即ちA1、A2、A3の3流路に同時に駆動パルスPaを印加する前で、駆動パルスの印加が休止している期間において、A1、C1、B2、A3、C3の1本おきの各インク流路についてインクが吐出しない条件でインクメニスカスを微振動させるように隔壁を駆動させる微振動パルスMP1を印加し、この微振動パルスMP1の印加の後に駆動パルスPaの印加を開始する。
次いで、第2周期T1bではB組、即ちB1、B2、B3の3流路に同時に駆動パルスPbを印加し、更に第3周期T1cではC組、即ちC1、C2、C3の3流路に同時に駆動パルスPcを印加し、3サイクルの吐出を終了する。その後、T1c、T2c、T3c・・・の各周期においても、上記と同様にA1、C1、B2、A3、C3の1本おきの各インク流路に微振動パルスMP2、MP3・・・を印加する。この場合も上記同様の効果が期待できる。
また、この例においても、微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加するタイミングは1画素を形成する間に少なくとも1つあればよく、また、各画素の吐出直前に限られるものではない。更に、微振動パルスMP1、MP2、MP3・・・を印加するタイミングを、例えば、微振動パルスMP2はB1、A2、C2、B3の各インク流路に印加するように切り替えて、各画素毎に異ならせるようにしてもよいことは勿論である。
本発明において、インクメニスカスを微振動させるために印加する微振動パルスは、インクが吐出しない条件でインクメニスカスを微振動させることができるものであればどのようなものでもよく、以上において示したように矩形波に限定されるものではないが、矩形波は簡単なデジタル回路を用いることで容易に生成可能であるため、回路構成が簡略化できる。
微振動パルスの他の例を以下に示す。図12(a)は、記録ヘッド2が記録媒体の記録領域外にある場合に印加する微振動パルスの例を、図12(b)は、記録ヘッド2が記録媒体の記録領域内にある場合に印加する微振動パルスの例をそれぞれ示している。
図12(a)に示すように、微振動パルスは、インク流路の音響的共振周期の1/2をAL(単位:μs)とした時、隔壁に対して、インク流路の容積を拡大させるための(N1)ALのパルス幅である矩形波の電圧パルスと、(N2)ALの幅の休止期間と、インク流路の容積を縮小させるための(N3)ALのパルス幅である矩形波の電圧パルスとを有している。なお、N1、N2、N3は2以上の整数である。
これらの微振動パルスを印加した場合のインク流路の動作について、図3を用いて説明する。まず、図12(a)に示す微振動パルスの例では、図3(a)に示す状態から図3(b)に示すようにインク流路28Bの容積を拡大するため、該インク流路28B内に負の圧力を発生させる正電圧+VDのパルスを電極29Bに印加する。ここでは正電圧+VDをN1=4として4ALのパルス幅で印加している。次いで、この4ALの後、上記電極29Bに印加するパルスを0Vとすることにより図3(a)の状態に戻し、休止期間とする。ここではN2=4として4ALの幅の休止期間を設けている。更に、この休止期間の後、上記電極29Bに、図3(c)に示すようにインク流路28B内に正の圧力を発生させる負電圧のパルスを印加する。ここでは、この負電圧は絶対値が上記正電圧+VDの1/2である−VD/2のパルスとしている。また、ここで、この負電圧−VD/2はN3=4として4ALのパルス幅で印加している。
このように(N1)AL、(N2)AL、(N3)ALからなる矩形波のパルスを微振動パルスとして印加することで、インクメニスカスを効率的に微振動させることができる。なお、ここでは、N1=N2=N3=4としたが、N1、N2、N3は2以上の整数であれば任意であり、また、N1、N2、N3は全て同一である必要はなく、それぞれ異なる値としてもよい。
正電圧(+VD)と負電圧(−VD)との比は、2:1に限らず1:1でもよい。前者の場合は、インク吐出時の小液滴化及び出射安定化の効果があり、吐出最適電圧に設定した場合、後者の方がインクメニスカス押し出し量が大きくなる効果がある。
記録ヘッド2が記録媒体の記録領域内にある場合は、記録速度の低下を抑えるために、周期が短い微振動パルスとすることが望ましい。図12(b)に示す微振動パルスの例では、図3(a)に示す状態から図3(b)に示すようにインク流路28Bの容積を拡大するため、該インク流路28B内に負の圧力を発生させる正電圧+VDのパルスを電極29Bに印加する。ここでは2ALのパルス幅で印加している。次いで、この2ALの後、上記電極29Bに印加するパルスを0Vとして図3(a)の状態に戻すことにより、インクメニスカスに微振動を与えている。
以上のように、微振動パルスに矩形波を使用すれば、傾斜波を使用する方法に比べてインクメニスカスを微振動させる効率が良く、低い駆動電圧で振動させることができる。更に、パルス幅を2AL以上の長さにとるので、この微振動によりノズルからインクが吐出されることがない。
なお、正負の2電源を使用するのは、駆動回路コストを上げるので、既に述べたように、正電源だけ使用し、負電圧が必要な時は、微振動を与えるインク流路の隣のインク流路に正電圧を掛けて、同じ効果を得るようにしてもよい。
以上の実施形態では、記録ヘッドが記録媒体Pの幅方向に亘って主走査されるシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置について説明したが、記録ヘッドは、記録媒体Pの幅方向に亘って該記録媒体とほぼ同幅に設けられるライン状の記録ヘッド(ラインヘッド)を備えたインクジェット記録装置とすることもできる。このようなラインヘッドは、ノズル数(=インク流路の数)が多くなるため、駆動時の発熱の問題が多くなるが、本発明によれば、インクメニスカスを微振動させながらも発熱を抑制できるため、大きな効果が期待できる。